(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123837
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ガスバリアフィルム及びガスバリアフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 7/048 20200101AFI20240905BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240905BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20240905BHJP
B05D 3/06 20060101ALI20240905BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20240905BHJP
C09D 183/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C08J7/048 CFD
B05D7/24 302Y
B32B9/00 A
B05D3/06 A
B05D5/00 Z
C09D183/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031575
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永縄 智史
(72)【発明者】
【氏名】進藤 奈菜
【テーマコード(参考)】
4D075
4F006
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4D075BB44Z
4D075BB49Z
4D075BB52Z
4D075CA42
4D075DA04
4D075DB48
4D075DC21
4D075EB43
4D075EB56
4F006AA35
4F006AB39
4F006BA05
4F006DA04
4F006EA01
4F006EA05
4F100AA12A
4F100AA15A
4F100AA20A
4F100AK42
4F100AK52A
4F100BA01
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4F100EJ08A
4F100EJ423
4F100EJ52A
4F100EJ65
4F100GB41
4F100JA07A
4F100JD02A
4F100JD04A
4F100JK17
4F100JN01
4F100YY00A
4J038DL081
4J038DL171
4J038DL172
4J038MA14
4J038NA08
4J038PA19
4J038PA21
(57)【要約】
【課題】高いガスバリア性、高い柔軟性、及び、高い光透過性を有する、ガスバリアフィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ケイ素及び酸素を含むガスバリア層を有し、
前記ガスバリア層の厚さ方向に、ケイ素、酸素、炭素、及び窒素を含む第1の領域を有し、
以下の要件(1)及び(2)を満たす、ガスバリアフィルム。
・要件(1):前記第1の領域の組成がSiO
xC
yN
zで表される。
x:0.20~0.50
y:0.01~0.30
z:0.20~0.70
・要件(2):前記第1の領域の厚さd
Mが10nm以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素及び酸素を含むガスバリア層を有し、
前記ガスバリア層の厚さ方向に、ケイ素、酸素、炭素、及び窒素を含む第1の領域を有し、
以下の要件(1)及び(2)を満たす、ガスバリアフィルム。
・要件(1):前記第1の領域の組成がSiOxCyNzで表される。
x:0.20~0.50
y:0.01~0.30
z:0.20~0.70
・要件(2):前記第1の領域の厚さdMが10nm以上である。
【請求項2】
前記ガスバリア層の厚さ方向における、ケイ素、酸素、炭素、及び窒素中の各元素の元素比率の変化において、深層部よりも、窒素の元素比率が高く、ケイ素の元素比率が高く、かつ、酸素の元素比率が低い領域が存在する、請求項1に記載のガスバリアフィルム。
【請求項3】
40℃、相対湿度90%雰囲気下での水蒸気透過率が、9.0×10-3g/m2/day以下である、請求項1又は2に記載のガスバリアフィルム。
【請求項4】
前記ガスバリア層の厚さdGと、前記第1の領域の厚さdMが、1.00≧dM/dG≧0.01の関係を満たす、請求項1又は2に記載のガスバリアフィルム。
【請求項5】
前記ガスバリアフィルムの全光線透過率が75%以上である、請求項1又は2に記載のガスバリアフィルム。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のガスバリアフィルムの製造方法であって、以下の工程を有する、ガスバリアフィルムの製造方法。
・工程1:ポリシラザン系化合物と、炭素含有ケイ素系高分子化合物との混合物を含む塗布液を用いてガスバリア前駆層を形成する工程。
・工程2:前記ガスバリア前駆層に対して改質処理を施すことにより、前記第1の領域を含むガスバリア層を形成する工程。
【請求項7】
前記工程2において、ヘリウムガスの存在下でプラズマ照射することにより前記改質処理を行う、請求項6に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記ガスバリア前駆層において、前記ポリシラザン系化合物100質量部に対する、前記炭素含有ケイ素系高分子化合物の質量が1~100質量部である、請求項6に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリアフィルム及びガスバリアフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガスバリアフィルムは、基板材料や封止材料として広く用いられている。ガスバリアフィルムには、水蒸気や酸素等の透過を抑制できる高いガスバリア性が求められることに加えて、例えば、ガスバリアフィルムが貼付される電子デバイス等の貼付対象物の視認性を損なわないように光透過性を高くしたり、様々な形状の貼付対象物にガスバリア性を維持したまま貼付できるようにしたりすることが求められる。
上記観点から、支持体上に直接無機膜等からなるガスバリア層を形成したり、硬化性化合物を含む硬化性組成物を支持体上に塗布し、得られた塗布層に含まれる硬化性化合物を硬化して薄い樹脂層を形成し、この樹脂層上に直接又は他の層を介して無機膜等からなるガスバリア層を形成したりすることが知られている。
以下、水蒸気や酸素の透過を抑制する特性を「ガスバリア性」、ガスバリア性を有するフィルムを「ガスバリアフィルム」という。
【0003】
特許文献1には、ガスバリア性、柔軟性、及び透明性を同時に達成することを目的として、ダイアモンドライクカーボン(DLC)中にケイ素(Si)原子を導入することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された方法で形成されたガスバリアフィルムは、一定の柔軟性を付与することができるものの、ガスバリア性能が十分でなく、また十分な光透過性を有するものではなかった。
【0006】
本発明は、上記問題を鑑み、高いガスバリア性、高い柔軟性、及び、高い光透過性を有する、ガスバリアフィルム及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ガスバリア層を、ケイ素、酸素、炭素、及び窒素を含み、これらの元素が所定比率で存在する所定厚さの領域を含むものとすることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]を提供するものである。
【0008】
[1]ケイ素及び酸素を含むガスバリア層を有し、
前記ガスバリア層の厚さ方向に、ケイ素、酸素、炭素、及び窒素を含む第1の領域を有し、
以下の要件(1)及び(2)を満たす、ガスバリアフィルム。
・要件(1):前記第1の領域の組成がSiOxCyNzで表される。
x:0.20~0.50
y:0.01~0.30
z:0.20~0.70
・要件(2):前記第1の領域の厚さdMが10nm以上である。
[2]前記ガスバリア層の厚さ方向における、ケイ素、酸素、炭素、及び窒素中の各元素の元素比率の変化において、深層部よりも、窒素の元素比率が高く、ケイ素の元素比率が高く、かつ、酸素の元素比率が低い領域が存在する、上記[1]に記載のガスバリアフィルム。
[3]40℃、相対湿度90%雰囲気下での水蒸気透過率が、9.0×10-3g/m2/day以下である、上記[1]又は[2]に記載のガスバリアフィルム。
[4]前記ガスバリア層の厚さdGと、前記第1の領域の厚さdMが、1.00≧dM/dG≧0.01の関係を満たす、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載のガスバリアフィルム。
[5]前記ガスバリアフィルムの全光線透過率が75%以上である、上記[1]~[4]のいずれか一つに記載のガスバリアフィルム。
[6]上記[1]~[5]のいずれか一つに記載のガスバリアフィルムの製造方法であって、以下の工程を有する、ガスバリアフィルムの製造方法。
・工程1:ポリシラザン系化合物と、炭素含有ケイ素系高分子化合物との混合物を含む塗布液を用いてガスバリア前駆層を形成する工程。
・工程2:前記ガスバリア前駆層に対して改質処理を施すことにより、前記第1の領域を含むガスバリア層を形成する工程。
[7]前記工程2において、ヘリウムガスの存在下でプラズマ照射することにより前記改質処理を行う、上記[6]に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
[8]前記ガスバリア前駆層において、前記ポリシラザン系化合物100質量部に対する、前記炭素含有ケイ素系高分子化合物の質量が1~100質量部である、上記[6]又は[7]に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高いガスバリア性、高い柔軟性、及び、高い光透過性を有する、ガスバリアフィルム及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ガスバリアフィルムの一例を示す断面模式図である。
【
図2】ガスバリアフィルムの他の例を示す断面模式図である。
【
図3】ガスバリア層の深さ方向における元素比率の一例を示すグラフである。
【
図4】ガスバリアフィルムの製造方法の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することがある)に係るガスバリアフィルムについて説明する。
【0012】
1.ガスバリアフィルム
本発明の実施形態に係るガスバリアフィルムは、ケイ素及び酸素を含むガスバリア層を有し、上記ガスバリア層の厚さ方向に、ケイ素、酸素、炭素、及び窒素を含む第1の領域を有し、以下の要件(1)及び(2)を満たす。
・要件(1):上記第1の領域の組成がSiOxCyNzで表される。
x:0.20~0.50
y:0.01~0.30
z:0.20~0.70
・要件(2):上記第1の領域の厚さdMが10nm以上である。
【0013】
上記ガスバリアフィルムにおいては、ガスバリア層の厚さ方向に、ケイ素、酸素、炭素、及び窒素を含み、かつ、上記要件(1)を満たす第1の領域が存在する。これは、ケイ素と窒素とが結合した硬質な構造を反映したものと考えられ、結果的に高いガスバリア性能や高い光透過性を発現するのに有利である。また、炭素が所定割合で存在することにより、ガスバリア層に適度な柔軟性が付与されるものと考えられる。
また、上記要件(2)で規定するように、上記第1の領域の厚さが10nm以上であることにより、高いガスバリア性の領域が十分確保されるため、ガスバリア性及び光透過性を確保しつつ、ガスバリア層に適度な柔軟性がもたらされるものと考えられる。
上記要件(1)において、光透過性を高めやすくする観点から、x、y、zが以下の範囲であることが好ましい(要件(1-1))。
x:0.25~0.45
y:0.03~0.20
z:0.20~0.65
また、上記要件(1)において、光透過性をより高めやすくする観点から、x、y、zが以下の範囲であることがより好ましい(要件(1-2))。
x:0.25~0.39
y:0.06~0.18
z:0.52~0.65
【0014】
上記厚さdMは、ガスバリア性を高める観点から、好ましくは12nm以上、より好ましくは30nm以上、ガスバリア層の強度をより高いものにする観点を加味すると、更に好ましくは50nm以上、より更に好ましくは53nm以上である。上限に特に制限はないが、製造容易性の観点から、300nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、90nm以下であることが特に好ましい。換言すれば、上記厚さdMは、好ましくは10~300nmである。
なお、上記第1の領域の厚さは、分光エリプソメーターを用いて測定することができ、上記第1の領域の元素分析はXPS測定分析装置を用い行うことができ、具体的には実施例に記載された方法で測定及び分析される。
【0015】
1-1.ガスバリアフィルムの構成例
本発明の実施形態に係るガスバリアフィルムの具体的な構成の一例を
図1に示す。
図1(a)の断面模式図に示されるガスバリアフィルム100は、ガスバリア性を有するガスバリア層20からなる。ガスバリア層20は、上記第1の領域と、それ以外の領域である第2の領域とを含む。
後述するように、上記第1の領域は改質処理によって形成され、上記第2の領域に比べて相対的に窒素の存在比率が高くなる。このため、以下の説明においては、上記第1の領域を「改質領域」又は「高窒素含有領域」とも称する場合がある。また、上記第2の領域を「非改質領域」又は「低窒素含有領域」とも称する場合がある。なお、「高窒素含有領域」は、時間経過と共に厚さが減少しない、経時的に安定した状態における領域をいう。
【0016】
図1(b)の断面模式図に示されるガスバリアフィルム101のように、基材フィルム10と、ガスバリア層20とをこの順に有していてもよい。
この場合、基材フィルム10とガスバリア層20は直接接していてもよいし、基材フィルム10とガスバリア層20との間に他の層が介在していてもよい。
基材フィルム10とガスバリア層20が直接接していれば、ガスバリアフィルム100を薄くしやすくなる。
【0017】
上記ガスバリア層20は、高窒素含有領域22を含む。
図1(a)、(b)に示すガスバリアフィルム100、101のガスバリア層20においては、ガスバリア層20の表層側(ガスバリアフィルム101においては、基材フィルム10とは反対側)に、高窒素含有領域22が存在し、それ以外は、低窒素含有領域21となっている。
【0018】
上記高窒素含有領域は、ガスバリア層の最表面に位置していてもよいし、ガスバリア層の内部に位置していてもよい。良好なガスバリア性を発揮させる観点、及び製造容易性の観点からは、ガスバリア層の最表面に位置していることが好ましい。
【0019】
上記ガスバリアフィルムにおいて、高窒素含有領域が、深さ方向に複数存在していてもよい。
図2に、ガスバリアフィルムの他の例を示す。
図2の断面模式図に示されるガスバリアフィルム102においては、複数のガスバリア層20A、20Bをこの順に備えている。そして、ガスバリア層20Aが、高窒素含有領域22Aと、低窒素含有領域21Aとを含み、ガスバリア層20Bが、高窒素含有領域22Bと、低窒素含有領域21Bとを含む。換言すれば、ガスバリア層の深さ方向に複数の高窒素含有領域が存在する。
このように、複数の高窒素含有領域を含む場合、それらの合計厚さが10nm以上であり、
図2に示すガスバリアフィルム102の場合、高窒素含有領域22Aの厚さd
MAと高窒素含有領域22Bの厚さd
MBとの合計が10nm以上である。
端部からの水蒸気透過を防止する観点から、複数の高窒素含有領域のうち一つが、ガスバリアフィルムの最表面に位置していることが好ましい。
なお、ガスバリアフィルム102のように、高窒素含有領域が深さ方向に複数存在するガスバリア層は、例えば、ガスバリア層を形成するためのガスバリア前駆層の形成と後述する改質処理とを繰り返すことにより得ることができる。
【0020】
上記ガスバリアフィルムにおいては、そのガスバリア層の深さ方向において、窒素原子の元素比率は、後述するように、改質処理により高窒素含有領域を形成することによって、最表面から漸次連続的に変化するものとすることができる。
そして、通常、ガスバリア層の厚さ方向における、ケイ素、酸素、炭素、及び窒素中の各元素の元素比率の変化において、深層部よりも、窒素の元素比率が高く、ケイ素の元素比率が高く、かつ、酸素の元素比率が低い領域が存在する。
【0021】
図3は、ガスバリア層の深さ方向における元素比率の一例を示すグラフである。
図3に示す例では、表面からの深さが凡そ5~50nmの領域において、各元素の比率がほぼ一定となる深層部(
図3の例では、凡そ80nm以降の領域)に比べて、窒素及びケイ素の元素比率が高く、かつ、酸素の元素比率が低い領域が存在することが判る。また、炭素については、深層部で若干の上昇はあるが、ほぼ元素比率が深さ方向で一定であることが判る。
後述するようなイオン注入によって改質処理が施された領域は、改質によりポリシラザンのSi-H結合及びN-H結合の水素結合が切断される脱プロトン反応により新たにSi-N結合が形成され、緻密な膜構造に変化するものと推定される。このため、改質処理が施された領域においては、炭素の元素比率が非改質領域から大きく変化せず(但し、非改質領域においては、窒素の大きな低減に伴い、他の元素との配分割合として炭素の元素比率が改質領域よりも若干高めに算出される。)、その一方、窒素の元素比率が高くなり、これに伴って、酸素及びケイ素の元素比率が低下するものと考えられる。
【0022】
上記ガスバリアフィルムの厚さは、目的とする電子デバイスの用途等によって適宜決定することができる。上記ガスバリアフィルムの厚さは、取り扱い性の観点から、好ましくは1~1,000μm、より好ましくは5~200μm、より好ましくは15~100μmである。
【0023】
上記ガスバリアフィルムの、40℃、相対湿度90%雰囲気下での水蒸気透過率は、高いガスバリア性を確保する観点から、好ましくは9.0×10-3g/m2/day以下、より好ましくは8.5×10-3g/m2/day以下、更に好ましくは8.0×10-3g×10-3g/m2/day以下、より更に好ましくは7.8×10-3g×10-3g/m2/day以下である。
上記ガスバリアフィルムの上記水蒸気透過率は、後述するガスバリアフィルムの製造方法に従って、上述した要件(1)及び要件(2)を満たすガスバリアフィルムを得ることにより、上記数値範囲に設定することができる。
上記水蒸気透過率は、公知の方法によって測定され、具体的には実施例に記載された方法で測定される。
【0024】
上記ガスバリアフィルムの全光線透過率は、高い光透過性を得る観点から、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは85%以上である。上限に特に限定はなく、100%である。
上記ガスバリアフィルムの全光線透過率は、後述するガスバリアフィルムの製造方法に従って、上述した要件(1)及び要件(2)を満たすガスバリアフィルムを得ることにより、上記数値範囲に設定することができる。
上記全光線透過率は、公知の方法によって測定され、具体的には実施例に記載された方法で測定される。
【0025】
上記ガスバリアフィルムにおいては、高いガスバリア性及び光透過率と、良好な柔軟性とを確保しやすくする観点、並びに、製造容易性の観点から、ガスバリア層の厚さdGと、上記第1の領域の厚さdMが、1.00≧dM/dG≧0.01の関係を満たすことが好ましく、0.80≧dM/dG≧0.02の関係を満たすことがより好ましく、0.60≧dM/dG≧0.03の関係を満たすことが更に好ましく、0.40≧dM/dG≧0.04の関係を満たすことがより更に好ましく、0.30≧dM/dG≧0.045の関係を満たすことが特に好ましい。
【0026】
ガスバリア層の厚さdGは、ガスバリア性、光透過性、及び柔軟性を確保しやすくする観点、並びに、製造容易性の観点から、好ましくは30~1,500nm、より好ましくは50~1,000nm、更に好ましくは60~600nm、より更に好ましくは100~400nmである。
ガスバリア層の厚さdGがナノオーダーであっても、高窒素含有領域を設けることで、充分なガスバリア性能を有するガスバリアフィルムを得ることができる。
【0027】
上記ガスバリアフィルムにおいては、上記第2の領域の厚さduは、前記厚さdMやdGにより適宜決まるものであって特に制約されないが、0~1,200nm程度である。さらに、良好な柔軟性をより確保しやすくする観点から、上記第2の領域の厚さdUが、好ましくは10~700nm、より好ましくは50~450nm、更に好ましくは70~370nmである。
【0028】
また、上記ガスバリアフィルムにおいては、ガスバリア性、光透過性、及び柔軟性を確保しやすくする観点、並びに、製造容易性の観点から、ガスバリア層の厚さdGと、上記第2の領域の厚さdUが、0.98≧dU/dG≧0の関係を満たすことが好ましく、0.97≧dU/dG≧0.20の関係を満たすことがより好ましく、0.96≧dU/dG≧0.70の関係を満たすことが更に好ましい。
【0029】
なお、複数の低窒素含有領域を含む場合、それらの合計厚さが上記範囲にあればよく、
図2に示すガスバリアフィルム102の場合、低窒素含有領域21Aの厚さd
UAと低窒素含有領域21Bの厚さd
UBとの合計が上記範囲にあればよい。
また、ガスバリア層の厚さd
Gと、低窒素含有領域21Aの厚さd
UAと低窒素含有領域21Bの厚さd
UBとの合計の厚さとが、上記の関係にあればよい。
【0030】
上記の各厚さdG、dM、dUは、後述するガスバリアフィルムの製造方法に従ってガスバリアフィルムを製造し、その際に、塗布液の組成及び改質処理の条件を調整することにより、上記数値範囲に設定することができる。
【0031】
1-2.基材フィルム
上記基材フィルムとしては、各種の樹脂製フィルムを用いることができ、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルムフィルム、ポリ乳酸(PLA)フィルム、ポリカーボネートフィルム、シクロオレフィン系フィルム、セルロース系フィルム等が用いられる。
これらの基材フィルムは、安価で光透過性も良好なものを容易に入手できる。基材フィルムは、表面に、易接着層、プライマー層、オリゴマー析出防止層、易滑層、帯電防止層、ハードコート層など種々の層を有するものであってもよい。コロナ処理、火炎処理等により易接着処理が施されたものであってもよい。
基材フィルムは、アニール処理等の耐熱化処理がされていないものであってもよいし、耐熱化処理が施されたものであってもよい。
【0032】
1-3.ガスバリア層及び第1の領域(高窒素含有領域)
上記ガスバリアフィルムはケイ素及び酸素を含むガスバリア層を有している。
上記ガスバリア層は、好ましくは、後述するように、ポリシラザン系化合物と、炭素含有ケイ素系高分子化合物とを含む組成物の塗膜から形成される。そして、ガスバリア層の厚さ方向に、ケイ素、酸素、炭素、及び窒素を含み、かつ、上記要件(1)及び(2)を満たす第1の領域(高窒素含有領域)が存在する。
【0033】
好ましい態様において、高窒素含有領域は、ガスバリア層の最表面に形成され、ガスバリアフィルムが基材フィルムを有する場合は、ガスバリア層の基材フィルムとは反対側に形成されており、ガスバリアフィルムの最外層でもある。このため、このような態様においては、高窒素含有領域が外方へ露出しており、ロールツーロールでガスバリアフィルムを製造する場合、製造工程中にガイドロール等に接触しやすい状態にある。しかし、本実施形態に係るガスバリアフィルムでは、高窒素含有領域の厚さが10nm以上であり、高いガスバリア性と表面弾性率を有している。このため、製造や搬送時に外部からの負荷を受けても、ダメージを受けにくく、搬送時や保管時の環境変化に対してガスバリア性が変化しにくいものとすることができる。
【0034】
上記ガスバリア層は、ガスバリア前駆層から形成され、好ましくは、上記ガスバリア前駆層としての、ポリシラザン系化合物と、炭素含有ケイ素系高分子化合物との混合物を含む塗布液(以下、「ガスバリア前駆層用塗布液」ともいう)の塗膜を乾燥・硬化して得られた層から形成される層である。そして、上記高窒素含有領域は、後述する改質処理によって形成することができる。
上記ガスバリア前駆層用塗布液の塗膜を乾燥・硬化して得られた層であるガスバリア前駆層に後述する改質処理を施して得られる高窒素含有領域を設けることにより、ガスバリア性に優れるガスバリア層を効率よく形成することができる。
特に、ヘリウムガスの存在下でプラズマ照射することにより上記改質処理を行うと、十分な厚さの高窒素含有領域を形成させやすくなる。
【0035】
ポリシラザン系化合物と、炭素含有ケイ素系高分子化合物との混合物を含む塗布液を用いることで、ポリシラザン系化合物膜に有機化合物イオンを注入したり、ポリシラザン系化合物と炭素含有ケイ素系高分子化合物以外の有機化合物との混合物から形成した膜にイオン注入したりする場合に比べて、炭素をガスバリア前駆層全体に均一に分布させやすくなり、上述したガスバリア性、光透過性、及び柔軟性を確保しやすくなる。
【0036】
上記ポリシラザン系化合物としては、特公昭63-16325号公報、特開昭62-195024号公報、特開昭63-81122号公報、特開平1-138108号公報、特開平2-84437号公報、特開平2-175726号公報、特開平4-63833号公報、特開平5-238827号公報、特開平5-345826号公報、特開2005-36089号公報、特開平6-122852号公報、特開平6-299118号公報、特開平6-306329号公報、特開平9-31333号公報、特開平10-245436号公報、特表2003-514822号公報、国際公開WO2011/107018号等に記載された化合物を用いることができる。
【0037】
ポリシラザン系化合物としては、無機ポリシラザンや有機ポリシラザンが挙げられる。無機ポリシラザンとしてはペルヒドロポリシラザン等が挙げられ、有機ポリシラザンとしてはペルヒドロポリシラザンの水素の一部又は全部がアルキル基等の有機基で置換された化合物等が挙げられる。これらの中でも、入手容易性、及び優れたガスバリア性を有するガスバリア層を形成できる観点から、無機ポリシラザンがより好ましい。
また、ポリシラザン系化合物は、ガラスコーティング材等として市販されている市販品をそのまま使用することもできる。
ポリシラザン系化合物は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
上記炭素含有ケイ素系高分子化合物としては、ポリカルボシラン系化合物、ポリシラン系化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0039】
ポリカルボシラン系化合物は、主鎖骨格がケイ素-炭素結合で形成されるケイ素系高分子化合物である。ポリカルボシラン系化合物において、主鎖のケイ素に結合する2つの側鎖としては、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、又は複素環基などが好ましく挙げられる。
上記ポリカルボシラン系化合物としては、Journal of Materials Science,2569-2576,Vol.13,1978、Organometallics,1336-1344,Vol.10,1991、Journal of Organometallic Chemistry,1-10,Vol.521,1996、特開昭51-126300号公報、特開2001-328991号公報、特開2006-117917号公報、特開2009-286891号公報、特開2010-106100号公報、特許第5704611号公報等に記載された化合物を用いることができる。
ポリカルボシラン系化合物は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
ポリシラン系化合物は、その主鎖がSi-Si結合で構成され、ケイ素原子に結合する2つの側鎖として、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アミノ基又はシリル基などを有するケイ素系高分子化合物である。
上記ポリシラン系化合物としては、R.D.Miller、J.Michl;Chemical Review、第89巻、1359頁(1989)、N.Matsumoto;Japanese Journal of Physics、第37巻、5425頁(1998)、特開2008-63586号公報、特開2009-235358号公報、特許第5704610号公報等に記載された化合物を用いることができる。
ポリシラン系化合物は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
上記ガスバリア前駆層において、上記ポリシラザン系化合物100質量部に対する、上記炭素含有ケイ素系高分子化合物の質量は、柔軟性を確保しやすくする観点から、好ましくは1~100質量部、より好ましくは4~80質量部、更に好ましくは8~60質量部、より更に好ましくは13~53質量部である。
【0042】
上記ガスバリア前駆層用塗布液を塗布・乾燥して得られる層は、上述したポリシラザン系化合物、及び炭素含有ケイ素系高分子化合物の他に、本発明の目的を阻害しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、硬化剤、他の高分子、老化防止剤、光安定剤、難燃剤等が挙げられる。
また、上記ガスバリア前駆層用塗布液は、上記ポリシラザン系化合物、上記炭素含有ケイ素系高分子化合物、必要に応じて用いられる上記他の成分に加えて、塗工を容易にする等の目的で、溶媒を更に含んでいてもよい。
【0043】
上記ガスバリア前駆層用塗布液を塗布・乾燥して得られる層中の、ポリシラザン系化合物、炭素含有ケイ素系高分子化合物の合計含有量は、優れたガスバリア性を発現する高窒素含有領域を形成しやすくする観点から、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。上限には特に制限はなく、100質量%でもよいし、99質量%以下でもよいし、98質量%以下でもよい。換言すれば、ガスバリア前駆層用塗布液を塗布・乾燥して得られる層中のポリシラザン系化合物、炭素含有ケイ素系高分子化合物の合計含有量は、50~100質量%である。
【0044】
ガスバリア前駆層用塗布液を塗布・乾燥して得られる層の形成方法としては、例えば、ポリシラザン系化合物、炭素含有ケイ素系高分子化合物、所望により他の成分、及び溶剤等を含有するガスバリア前駆層用塗布液を、公知の方法によって基材フィルム上に塗布し、得られた塗膜を適度に乾燥して形成する方法が挙げられる。
上述したポリシラザン系化合物がガスバリア前駆層用塗布液中に含まれるため、塗工後の加熱によってポリシラザンの転化反応が生じ、ガスバリア性を有する塗膜(ガスバリア前駆層)となる。
【0045】
ガスバリア前駆層の厚さは、好ましくは30~1,500nm、より好ましくは40~1,000nm、更に好ましくは60~600nm、より更に好ましくは100~400nmである。
ガスバリア前駆層の厚さがナノオーダーであっても、後に改質処理を施すことで、充分なガスバリア性能を有するガスバリアフィルムを得ることができる。
【0046】
改質処理の前に、ポリシラザン系化合物の転化反応を進行させるための処理を行ってもよい。このような処理の例としては、(a)紫外線照射処理、(b)ガスバリア前駆層用塗布液の塗膜に、水蒸気を噴霧するスチーム処理、(c)30~60℃程度の環境に180時間以上の長期間保管する方法等が挙げられる。処理の簡便さや短時間で実行できること等の観点から、紫外線照射により転化反応を進行させることが好ましい。
【0047】
上記紫外線照射処理には、真空紫外光とは異なる、波長200nm超の紫外線を用いる。
上記紫外線は、高圧水銀ランプ、無電極ランプ、キセノンランプ等を用いて照射することができる。
紫外線の波長は、200~400nmが好ましい。すなわち、紫外線の強度の最大値が、波長200~400nmの範囲の領域にあることが好ましい。照射量は、通常、照度50~1,000mW/cm2、光量50~5,000mJ/cm2の範囲である。照射時間は、通常、0.1~1,000秒である。光照射工程の熱負荷を考慮して前述の光量を満たすために、複数回照射しても構わない。
【0048】
上記改質処理は、上記紫外線照射とは異なる処理であり、例えば、イオン注入、真空紫外光照射(エキシマレーザー等の照射)等が改質処理として挙げられる。これらの中でも、高いガスバリア性能が得られる点から、イオン注入が好ましい。イオン注入において、高分子層に注入されるイオンの注入量は、形成するガスバリアフィルムの使用目的(必要なガスバリア性、光透過性、柔軟性等)等に合わせて適宜決定すればよい。
【0049】
注入されるイオンとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等の希ガスのイオン;フルオロカーボン、水素、窒素、酸素、二酸化炭素、塩素、フッ素、硫黄等のイオン等が挙げられる。これらのイオンは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
より簡便にイオン注入することができ、特に優れたガスバリア性を有するガスバリア層が得られることから、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、及びクリプトンからなる群から選ばれる少なくとも1種のイオンが好ましい。
本発明者らの検討によれば、ヘリウムは、アルゴンに比べてガスバリア層の奥深くまで進入しやすく、アルゴンでは達成できない厚さの高窒素含有領域を形成できることが判明している。したがって、高窒素含有領域を厚く形成させやすいという観点から、ヘリウムガスのイオンが特に好ましい。
なお、本発明の効果が損なわれない範囲で、ヘリウムガスのイオンと他のイオンとを併用して注入するようにしてもよい。
【0051】
イオンを注入する方法としては、特に限定されないが、電界により加速されたイオン(イオンビーム)を照射する方法、プラズマ中のイオンを注入する方法等が挙げられる。中でも、簡便にガスバリア性のフィルムが得られることから、後者のプラズマイオンを注入する方法が好ましい。
【0052】
プラズマイオン注入法としては、(I)外部電界を用いて発生させたプラズマ中に存在するイオンを、ガスバリア前駆層に注入する方法、又は(II)外部電界を用いることなく、上記層に印加する負の高電圧パルスによる電界のみで発生させたプラズマ中に存在するイオンを、ガスバリア前駆層に注入する方法が好ましい。
【0053】
上記(I)の方法においては、イオン注入する際の圧力(プラズマイオン注入時の圧力)を0.01~1Paとすることが好ましい。プラズマイオン注入時の圧力がこのような範囲にあるときに、簡便にかつ効率よく均一にイオンを注入することができ、目的のガスバリア層を効率よく形成することができる。
【0054】
上記(II)の方法は、減圧度を高くする必要がなく、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮することができる。また、上記層全体にわたって均一に処理することができ、負の高電圧パルス印加時にプラズマ中のイオンを高エネルギーでガスバリア前駆層に連続的に注入することができる。更に、radio frequency(高周波、以下、「RF」と略す。)や、マイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、層に負の高電圧パルスを印加するだけで、ガスバリア前駆層に良質のイオンを均一に注入することができる。
【0055】
上記(I)及び(II)のいずれの方法においても、負の高電圧パルスを印加するとき、すなわちイオン注入するときのパルス幅は、1~15μsecであるのが好ましい。パルス幅がこのような範囲にあるときに、より簡便にかつ効率よく、均一にイオンを注入することができる。
【0056】
また、プラズマを発生させるときの印加電圧は、好ましくは-1~-50kV、より好ましくは-1~-30kV、特に好ましくは-5~-20kVである。印加電圧が-1kVより大きい値でイオン注入を行うと、イオン注入量(ドーズ量)が不十分となり、所望の性能が得られない。一方、-50kVより小さい値でイオン注入を行うと、イオン注入時にフィルムが帯電し、またフィルムへの着色等の不具合が生じ、好ましくない。
【0057】
プラズマイオン注入するイオン種としては、上記注入されるイオンとして例示したのと同様のものが挙げられる。
【0058】
ガスバリア前駆層にプラズマ中のイオンを注入する際には、プラズマイオン注入装置を用いる。
プラズマイオン注入装置としては、具体的には、(i)マイクロ波等の高周波電力源等の外部電界を用いてプラズマを発生させ、高電圧パルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させるプラズマイオン注入装置、(ii)外部電界を用いることなく高電圧パルスの印加により発生する電界のみで発生するプラズマ中のイオンを注入するプラズマイオン注入装置等が挙げられる。
上記(i)及び(ii)のプラズマイオン注入装置を用いる方法については、国際公開WO2010/021326号公報に記載のものが挙げられる。
【0059】
上記(i)及び(ii)のプラズマイオン注入装置では、プラズマを発生させるプラズマ発生手段を高電圧パルス電源によって兼用しているため、RFやマイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、負の高電圧パルスを印加するだけで、プラズマを発生させ、ガスバリア前駆層に連続的にプラズマ中のイオンを注入し、表面部にイオン注入により改質された部分を有するガスバリア前駆層、すなわちガスバリア層が形成されたガスバリアフィルムを量産することができる。
【0060】
改質処理の面内均一性、及び改質効率の観点からは、上記ガスバリア前駆層を電極上に設置し、上記電極に直流電力と交流電力とを重畳して印加しながら、上記ガスバリア前駆層にプラズマ照射を行うプラズマイオン注入装置を用いることが好ましい。
【0061】
イオンが注入されたことは、例えば、X線光電子分光分析(XPS)を用いてガスバリア前駆層の表面からの元素分析測定を行うことによって確認することができる。
【0062】
1-4.ガスバリアフィルムの他の構成例
本発明の実施形態に係るガスバリアフィルムは、
図1や
図2に示すものに限定されず、本発明の目的を損ねない範囲で、基材フィルム又は基材フィルムとガスバリア層との間、又はガスバリア層上等に、他の層が1層又は2層以上含まれるものであってもよい。
上記他の層としては、例えば、他のガスバリア層、保護層などが挙げられる。また、他の層の配置位置は上記のものに限定されない。
【0063】
また、ガスバリアフィルムは長尺のものであってもよい。この場合、ガスバリアフィルムは、芯材に巻き取られたロール状のものであってもよい。
【0064】
2.ガスバリアフィルムの製造方法
本発明の実施形態に係るガスバリアフィルムの製造方法は、以下の各工程を有する。
・工程1:ポリシラザン系化合物と、炭素含有ケイ素系高分子化合物との混合物を含む塗布液を用いてガスバリア前駆層を形成する工程。
・工程2:上記ガスバリア前駆層に対して改質処理を施すことにより、上述した第1の領域を含むガスバリア層を形成する工程。
上記ガスバリアフィルムの製造方法においては、工程1において、ポリシラザン系化合物と、炭素含有ケイ素系高分子化合物との混合物を含む塗布液を用いることにより、ガスバリア前駆層に炭素原子が導入される。そして、工程2においてガスバリア前駆層に改質処理を施すことにより、上述した要件(1)及び(2)を満たす第1の領域を含むガスバリア層が形成される。
【0065】
上記工程1は、例えば、以下の各工程を含む。
・工程1-1:ガスバリア前駆層用塗布液を、基材フィルム上に塗布して塗膜を形成する塗布工程
・工程1-2:上記塗膜を加熱する加熱工程
上記工程1-2において、塗膜が加熱されることにより、乾燥され更に硬化され、所定のガスバリア性を示すガスバリア前駆層が形成される。
【0066】
上記工程2は、好ましくは、上記工程1-2の後に行われる。そして、上記改質処理として、好ましくは、上記ガスバリア前駆層の表面部に、所定条件でプラズマ照射して、上記ガスバリア前駆層を改質することにより、上記ガスバリア層を形成する。
【0067】
上記ガスバリアフィルムの製造方法においては、上記改質処理によって高窒素含有領域を形成する際に、上記高窒素含有領域形成用の塗膜の加熱開始後、上記工程2に先立って紫外線照射工程を行うようにしてもよい。これにより、ガスバリアフィルムにおけるポリシラザン系化合物の転化反応を適度に進めることができ、硬質で創痕の生じにくいガスバリアフィルムを得やすくなる。
【0068】
図3に、本発明の実施形態に係るガスバリアフィルムの製造工程の一例を示す。
図3(a)~
図3(c)は、基材フィルム上にガスバリア前駆層を形成する工程を示す。
図3(d)が上記工程2に対応する。以下、図面を適宜参照しながら、各工程について説明する。
【0069】
2-1.基材フィルムの準備
基材フィルムを準備する(
図3(a)の符号10)。
【0070】
2-2.ガスバリア層の形成
(塗布工程(工程1-1))
上記基材フィルム上に上述したガスバリア層形成用塗布液を用いて塗膜(
図3(b)の符号21a)を形成する。
ガスバリア層形成用塗布液を塗布する際は、スピンコーター、ナイフコーター、グラビアコーター等の公知の装置を使用することができる。
【0071】
(加熱工程(工程1-2))
次に、この塗布液の塗膜を加熱することによって乾燥するとともに硬化させる。このようにして、ガスバリア前駆層(
図3(c)の符号21b)を形成する。
加熱、乾燥方法としては、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等、従来公知の乾燥方法が採用できる。加熱温度は、通常、80~125℃であり、好ましくは90~120℃である。加熱時間は、通常、数十秒から数十分であり、好ましくは60秒~5分であり、より好ましくは90秒~3分である。
【0072】
(工程2)
本実施形態では、上記工程2において、上記ガスバリア前駆層に対して改質処理を施すことにより、ガスバリア前駆層の表面に高窒素含有領域(
図3(d)の符号22)を形成する。なお、高窒素含有領域以外の領域が低窒素含有領域(
図3(d)の符号21)となる。
改質処理の詳細は上述したとおりである。
【0073】
工程2における上記プラズマ照射時間は、高窒素含有領域を厚くしやすくする観点から、好ましくは150秒以上、より好ましくは180秒以上、更に好ましくは200秒以上である。また、ヘリウムイオン等の、ガスバリア層の奥深くに進入させやすいイオンの存在下でプラズマ照射を行う場合、上記高窒素含有領域をより厚く形成する観点から、上記プラズマ照射時間は、好ましくは300秒より長く、より好ましくは350秒以上、更に好ましくは400秒以上、より更に好ましくは500秒以上である。上記プラズマ照射時間の上限に特に制限はないが、製造時のタクトタイムを短縮する観点から、好ましくは10,000秒以下、より好ましくは5,000秒以下、特に好ましくは1,000秒以下である。換言すれば、工程2における上記プラズマ照射時間は、好ましくは150~10,000秒であり、より好ましくは300秒超10,000以下である。
【実施例0074】
次に、本発明の具体的な実施例を説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
後述する実施例及び比較例で作製したガスバリアフィルムのガスバリア層の第1の領域(改質領域)及び第2の領域(非改質領域)の厚さ、ガスバリア層の深さ方向の元素分析、ガスバリアフィルムの水蒸気透過率、ガスバリアフィルムの柔軟性、及び、ガスバリアフィルムの全光線透過率は、以下の手順で測定・算出、及び評価した。
【0075】
[改質領域及び非改質領域の厚さ]
実施例及び比較例で得られたガスバリアフィルムのガスバリア層の第1の領域(改質領域)及び第2の領域(非改質領域)の厚さを、分光エリプソメーター(J.A.ウーラム・ジャパン株式会社製)を用いて測定した。
【0076】
[元素分析]
XPS測定分析装置(アルバックファイ株式会社製、Quantum2000)を用いて、実施例及び比較例で得られたガスバリアフィルムにおけるガスバリア層の、表面から深さ方向における、ケイ素、窒素、酸素及び炭素の元素分析を行った。得られた結果に基づいて、SiO
xC
yN
zのx、y、zの値を算出した。なお、x、y、zの値を算出するに当たっては、上記「改質領域の厚さ」の測定結果に基づいて、XPS測定におけるスパッタリング時間を深さに換算することにより、測定の深さ位置とした。
なお、実施例1のガスバリアフィルムについて、ガスバリア層の深さ方向における元素比率を示したグラフを
図3に示す。
【0077】
[水蒸気透過率(WVTR)]
実施例及び比較例で得られたガスバリアフィルムを100cm2(10cm×10cm)の試験片に裁断し、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製、AQUATRAN(登録商標))を用いて、40℃、相対湿度90%の雰囲気下にてガス流量20sccmで水蒸気透過率(g/m2/day)を測定した。なお、測定装置の検出下限は0.5mg/m2/dayである。
【0078】
[柔軟性]
実施例及び比較例で得られたガスバリアフィルムについて、JIS K5600-5-1に準じて、ガスバリア層が外側となるよう、φ2~10mmの範囲で順次屈曲径を変更して、マンドレル屈曲試験を行った。そして、試験前後のサンプルについて、上記「水蒸気透過率」に記載した手順に従って水蒸気透過率測定を行い、初期値からの変化率を確認した。当該変化率が200%以下であれば水蒸気透過性が維持されているものと判断し、屈曲径φ4mm以下で上記変化率が200%以下である場合を合格、上記変化率が200%以下となる最小の屈曲径がφ4mmを超える場合を不合格とした。
【0079】
[全光線透過率]
実施例及び比較例で得られたガスバリアフィルムの全光線透過率を、JIS K 7361-1:1997に準拠して、ヘイズメーター(日本電色工業社製,製品名「NDH-5000」)を用いて測定した。全光線透過率が75%以上であれば光透過性に優れているといえる。
【0080】
[実施例1]
ペルヒドロポリシラザン(DNF社製、重量平均分子量10,000)と、ポリカルボシラン(STARFIRE SYSTEMS社製、SMP-10)とを、固形分重量比で100:10となるように混合し、ガスバリア前駆層用塗布液を調製した。そして、当該塗布液を厚さが50μmの、両面易接着処理が施されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡株式会社製、A-4360)に塗工し、これを120℃で2分間加熱硬化させることで、ガスバリア前駆層としてのポリシラザン/ポリカルボシラン層を形成した。ポリシラザン/ポリカルボシラン層の膜厚は350nmとした。なお、上記「固形分」とは、塗布液中の溶媒以外の成分を意味する。以下の各実施例及び各比較例でも同様である。
次いで、プラズマイオン注入装置を用いて、上記のポリシラザン/ポリカルボシラン層に下記条件にてプラズマイオン注入を行い、ポリシラザン/ポリカルボシラン層の表面に改質処理を施し、ガスバリアフィルムを得た。上記改質処理に用いたプラズマイオン注入装置及びプラズマイオン注入条件は以下の通りである。
<プラズマイオン注入装置>
・RF電源:型番号「RF」56000、日本電子株式会社製
・高電圧パルス電源:「PV-3-HSHV-0835」、株式会社栗田製作所製
<プラズマイオン注入条件>
・プラズマ生成ガス:ヘリウム(He)
・ガス流量:100sccm
・Duty比:0.5%
・繰り返し周波数:1,000Hz
・印加電圧:-8kV
・RF電源:周波数13.56MHz、印加電力1,000W
・チャンバー内圧:0.2Pa
・パルス幅:5μsec
・処理時間(イオン注入時間):800秒
【0081】
[実施例2]
ペルヒドロポリシラザンとポリカルボシランとの固形分重量比を100:30とした以外は実施例1と同様にガスバリアフィルムを得た。
【0082】
[実施例3]
ペルヒドロポリシラザンとポリカルボシランとの固形分重量比を100:50とした以外は実施例1と同様にガスバリアフィルムを得た。
【0083】
[実施例4]
ペルヒドロポリシラザンとポリカルボシランとの固形分重量比を100:80とした以外は実施例1と同様にガスバリアフィルムを得た。
【0084】
[実施例5]
ペルヒドロポリシラザンとポリシラン(大阪ガスケミカル株式会社製、OGSOL-SI-20-10)とを、固形分重量比で100:10となるように混合し、ガスバリア前駆層としてのポリシラザン/ポリシラン層を形成した以外は実施例1と同様にガスバリアフィルムを得た。
【0085】
[実施例6]
ペルヒドロポリシラザンとポリシランとの固形分重量比を100:30とした以外は実施例5と同様にガスバリアフィルムを得た。
【0086】
[実施例7]
ペルヒドロポリシラザンとポリシランとの固形分重量比を100:50とした以外は実施例5と同様にガスバリアフィルムを得た。
【0087】
[実施例8]
プラズマイオン注入条件を以下とした以外は実施例2と同様にガスバリアフィルムを得た。
<プラズマイオン注入条件>
・プラズマ生成ガス:アルゴン(Ar)
・ガス流量:100sccm
・Duty比:0.5%
・繰り返し周波数:1,000Hz
・印加電圧:-8kV
・RF電源:周波数13.56MHz、印加電力1,000W
・チャンバー内圧:0.2Pa
・パルス幅:5μsec
・処理時間(イオン注入時間):200秒
【0088】
[比較例1]
ペルヒドロポリシラザン(DNF社製、重量平均分子量10,000)を用いてガスバリア前駆層としてのペルヒドロポリシラザン層を形成したこと以外は実施例1と同様にガスバリアフィルムを得た。
【0089】
[比較例2]
ポリカルボシラン(STARFIRE SYSTEMS社製、SMP-10)を用いてガスバリア前駆層としてのポリカルボシラン層を形成したこと以外は実施例1と同様にガスバリアフィルムを得た。
【0090】
[比較例3]
ポリシラン(大阪ガスケミカル株式会社製、OGSOL-SI-20-10)を用いてガスバリア前駆層としてのポリシラン層を形成したこと以外は実施例5と同様にガスバリアフィルムを得た。
【0091】
各実施例及び比較例のガスバリアフィルムの測定及び評価の結果を、ガスバリア前駆層を形成するために用いた塗布液中の固形分の組成とともに表1に示す。
【0092】
【0093】
表1-1及び表1-2の結果から明らかなように、ペルヒドロポリシラザン(以下、「PHPS」と称する)とポリカルボシラン(以下、「PCS」と称する)又はポリシラン(以下、「PS」と称する)との混合物を含む塗布液の塗膜を乾燥・硬化して得られたガスバリア前駆層に、イオン注入して改質したガスバリア層を有する実施例1~8のガスバリアフィルムは、いずれもケイ素、酸素、炭素、及び窒素を含み、上述した要件(1)及び(2)を満たしている。そして、ガスバリア性が良好であり、高い全光線透過率を有し、柔軟性も良好である。
特に、実施例1~7のガスバリアフィルムは、ヘリウム(He)を用いてイオン注入を行うことにより、改質領域の厚さを55nm以上にすることができ、アルゴン(Ar)を用いてイオン注入を行った実施例8のガスバリアフィルムに比べて、改質領域を厚く形成できることが判る。
また、上述した要件(1-1)及び要件(1-2)を満たす実施例1~3、5~8のガスバリアフィルムは全光線透過率が85%以上であり、優れた光透過性を有していることが判る。
なお、
図3のグラフに示すように、実施例1のガスバリアフィルムにおいては、ガスバリア層の深さ方向において、ケイ素、酸素、炭素、及び窒素中の各元素の元素比率の変化において、凡そ5~50nmの領域で、窒素及びケイ素の元素比率が深層部よりも高く、かつ、酸素の元素比率が深層部よりも低いことが理解できる。また、炭素の元素比率は深さ方向いおいて大きく変化しないことが判る。他の実施例のガスバリアフィルムについても同様の傾向を示すことが確認できた。
【0094】
一方、表1-2の結果から、PHPSの塗膜に改質処理を施して得られた比較例1のガスバリアフィルムは、ガスバリア前駆層を形成するために用いた塗布液がPCS及びPSのいずれも含んでいないため、改質領域が炭素を含んでおらず、上記の要件(1)を満たしていないことが判る。また、ガスバリア性及び全光線透過率は良好であるが、実施例1~8のガスバリアフィルムに比べて柔軟性に劣ることが判る。
また、PCSの塗膜に改質処理を施して得られた比較例2のガスバリアフィルム、及び、PSの塗膜に改質処理を施して得られた比較例3のガスバリアフィルムは、ガスバリア前駆層を形成するために用いた塗布液がPHPSを含んでいないため、改質領域が窒素を含んでおらず、上記の要件(1)を満たさないことが判る。そして、これらのガスバリアフィルムは、ガスバリア性及び柔軟性は良好であるが、全光線透過率が実施例1~8のガスバリアフィルムに比べて低いことが判る。