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特開2024-123838非水電解液二次電池および、非水電解液二次電池用の負極の検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123838
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池および、非水電解液二次電池用の負極の検査方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240905BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240905BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20240905BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240905BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0567
H01M10/0587
H01M50/489
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031577
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】小倉 武弘
(72)【発明者】
【氏名】塚本 健太郎
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H021CC02
5H021EE02
5H021HH00
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ13
5H029BJ14
5H029CJ16
5H029DJ04
5H029HJ00
5H029HJ04
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050DA03
5H050DA19
5H050FA04
5H050FA05
5H050GA18
5H050GA28
5H050HA00
5H050HA04
(57)【要約】
【課題】熱安定性の向上した非水電解液二次電池を提供する。
【解決手段】ここで開示される非水電解液二次電池は、正極と負極とがセパレータを介して積層された電極体と、非水電解液と、上記電極体と上記非水電解液とを収容する電池ケースと、を備える。上記負極は、負極集電体と、上記負極集電体上に固着された負極活物質層と、を有し、上記負極活物質層は、ホウ素元素を含む被膜を備え、分光測色計を用いて、上記電極体の中心領域に位置する上記負極活物質層を測定したときに、日本工業規格JIS Z8781-4:2013に基づくL表色系におけるb値が、3以下である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とがセパレータを介して積層された電極体と、非水電解液と、前記電極体と前記非水電解液とを収容する電池ケースと、を備え、
前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に固着された負極活物質層と、を有し、
前記負極活物質層は、ホウ素元素を含む被膜を備え、
分光測色計を用いて、前記電極体の中心領域に位置する前記負極活物質層を測定したときに、日本工業規格JIS Z8781-4:2013に基づくL表色系におけるb値が、3以下である、
非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記電極体は、帯状の前記正極と帯状の前記負極とが、帯状の前記セパレータを介して積層され、捲回されてなる捲回電極体であり、
前記捲回電極体の捲回軸方向における前記負極活物質層の幅が、15cm以上である、
請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
分光測色計を用いて、前記電極体の前記中心領域に位置する前記セパレータを測定したときに、前記b値が、2以下である、
請求項1または2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記非水電解液が、ホウ素元素を含む化合物を含む、
請求項1または2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
正極活物質層を有する正極と負極活物質層を有する負極とがセパレータを介して積層された電極体と、溶媒と電解質塩とホウ素元素を含む化合物とを含む非水電解液とを、電池ケースに収容して、電池組立体を構築する構築工程と、
前記電池組立体を、少なくとも前記ホウ素元素を含む化合物が分解されるまで充電する充電工程と、
前記充電工程の後、前記電池組立体を解体する解体工程と、
前記解体工程の後、分光測色計を用いて、前記電極体の中心領域に位置していた前記負極活物質層について、日本工業規格JIS Z8781-4:2013に基づくL表色系におけるb値を測定する測色工程と、
を含む、
非水電解液二次電池用の負極の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池および、非水電解液二次電池用の負極の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正極と負極とを含む電極体と、非水電解液と、を備えた非水電解液二次電池が知られている。非水電解液二次電池では、初期充電の際に非水電解液の一部が分解され、負極の表面にその分解生成物を含む被膜(Solid Electrolyte Interface膜:SEI膜)が堆積される。この被膜によって負極と非水電解液との界面が安定化されることで、電池性能が向上しうる。これに関連する先行技術文献として、特許文献1が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、非水電解液に、添加剤(所謂、被膜形成剤)として、ホウ素元素を含むオキサラト錯体化合物や、リン元素を含むオキサラト錯体化合物を添加することで、非水電解液二次電池の耐久性を向上しうることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-165125号公報
【特許文献2】特開2008-010320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らの検討によれば、上記技術を近年の高容量化された非水電解液二次電池に適用する場合、依然として改善の余地があった。すなわち、高容量化された非水電解液二次電池では、例えば電極体の幅が大きくなったり活物質層の密度が高くなったりして、電極体の中心領域まで添加剤が浸み込みにくくなっている。それゆえ、初期充電の際、電極体の中心領域に位置する部分では、負極の表面に添加剤の分解生成物を含んだ被膜が形成されにくくなる。すなわち、電極体の中心領域とその他の部分とで、負極に形成される被膜の量や質にムラが生じやすくなる。その結果、当該中心領域で負極の熱安定性が局所的に低下しやすくなり、例えば過充電時等に温度上昇を生じやすくなることが新たに判明した。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、熱安定性の向上した非水電解液二次電池および非水電解液二次電池用の負極の検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により、正極と負極とがセパレータを介して積層された電極体と、非水電解液と、上記電極体と上記非水電解液とを収容する電池ケースと、を備えた非水電解液二次電池が提供される。上記負極は、負極集電体と、上記負極集電体上に固着された負極活物質層とを有し、上記負極活物質層は、ホウ素元素を含む被膜を備え、分光測色計を用いて、上記電極体の中心領域に位置する上記負極活物質層を測定したときに、日本工業規格JIS Z8781-4:2013に基づくL表色系におけるb値が、3以下である。
【0008】
本発明者らは、被膜の量や質のムラが「色ムラ」となって現れることを見出した。また、電極体の中心領域に位置する負極活物質層のb値と、電池の発熱量との間には、正の相関があることを見出した。そのため、本発明では、上記b値を所定値以下に調整している。これにより、電極体の中心領域の熱安定性を向上でき、ひいては過充電時等に電池の温度上昇を抑制できる。また、分光測色計測定で得られる客観的な数値を指標として用いることで、例えば目視で負極活物質層の色ムラを識別するような場合と比べて、相対的に精度のバラつきが生じにくい。したがって、安定して熱安定性を向上でき、信頼性の高い電池を提供できる。
【0009】
また本発明により、正極活物質層を有する正極と負極活物質層を有する負極とがセパレータを介して積層された電極体と、溶媒と電解質塩とホウ素元素を含む化合物とを含む非水電解液とを、電池ケースに収容して、電池組立体を構築する構築工程と、上記電池組立体を、少なくとも上記ホウ素元素を含む化合物が分解されるまで充電する充電工程と、上記充電工程の後、上記電池組立体を解体する解体工程と、上記解体工程の後、分光測色計を用いて、上記電極体の中心領域に位置していた上記負極活物質層について、日本工業規格JIS Z8781-4:2013に基づくL表色系におけるb値を測定する測色工程と、を含む、非水電解液二次電池用の負極の検査方法が提供される。
【0010】
測色工程において、分光測色計測定を用い、電極体の中心領域に位置していた負極のb値を測定することで、電池の発熱の程度を精度よく予測ないし確認できる。
【0011】
なお、本発明との関連性はないが、特許文献2には、分光測色計を用いて、銅又は銅合金からなる電極集電体の良否を判定する、電極集電体の検査方法が開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、一実施形態に係る非水電解液二次電池を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿う模式的な縦断面図である。
図3図3は、電極体を模式的に示す斜視図である。
図4図4は、電極体の構成を示す模式図である。
図5図5は、第1エージング工程の第1エージング期間と負極活物質層のb値との関係を示すグラフである。
図6図6は、電池の発熱量と負極活物質層のb値との関係を示すグラフである。
図7図7は、負極活物質層のb値とセパレータのb値との関係を示すグラフである。
図8図8は、電池の発熱量とセパレータのb値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、ここで開示される技術のいくつかの好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない非水電解液二次電池の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握されうる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において、範囲を示す「A~B」の表記は、A以上B以下の意と共に、「Aより大きい」および「Bより小さい」の意を包含するものとする。
【0014】
なお、本明細書において「非水電解液二次電池」とは、非水電解液を介して正極と負極の間で電荷担体が移動することによって繰り返し充放電が可能な蓄電デバイス全般をいう。非水電解液二次電池は、リチウムイオン二次電池等のいわゆる蓄電池と、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等のキャパシタと、を包含する概念である。
【0015】
<電池100>
図1は、非水電解液二次電池(以下、単に電池ともいう。)100の斜視図である。図2は、図1のII-II線に沿う模式的な縦断面図である。以下の説明において、図面中の符号L、R、F、Rr、U、Dは、左、右、前、後、上、下を表し、図面中の符号X、Y、Zは、電池100の短辺方向、短辺方向と直交する長辺方向、短辺方向および長辺方向と直交する上下方向を、それぞれ表すものとする。ただし、これらは説明の便宜上の方向に過ぎず、電池100の設置形態を何ら限定するものではない。
【0016】
図2に示すように、電池100は、電池ケース10と、電極体20と、正極端子30と、負極端子40と、正極集電部50と、負極集電部60と、正極絶縁部材70と、負極絶縁部材80と、非水電解液(図示せず)と、を備えている。電池100は、ここではリチウムイオン二次電池である。電池100は、リチウムイオン二次電池であることが好ましい。
【0017】
電池ケース10は、電極体20および非水電解液を収容する筐体である。図1に示すように、電池ケース10は、ここでは扁平かつ有底の直方体形状(角形)の外形を有する。電池ケース10の材質は、従来から使用されているものと同じでよく、特に制限はない。電池ケース10は、金属製であることが好ましく、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金等からなることがより好ましい。図2に示すように、電池ケース10は、開口12hを有する外装体12と、開口12hを塞ぐ封口板(蓋体)14と、を備えている。電池ケース10は、外装体12と封口板14とを備えることが好ましい。
【0018】
外装体12は、図1に示すように、略矩形状の底壁12aと、底壁12aの長辺から延び相互に対向する一対の長側壁12bと、底壁12aの短辺から延び相互に対向する一対の短側壁12cと、を備えている。底壁12aは、開口12hと対向している。長側壁12bの面積は、短側壁12cの面積よりも大きい。なお、本明細書において「略矩形状」とは、完全な矩形状(長方形状)に加えて、例えば、矩形状の長辺と短辺とを接続する角部がR状になっている形状や、角部に切り欠きを有する形状等をも包含する用語である。
【0019】
封口板14は、図1に示すように、平面視において略矩形状である。図2に示すように、封口板14は、外装体12の開口12hを塞ぐように外装体12に取り付けられている。封口板14は、外装体12の底壁12aと対向している。電池ケース10は、外装体12の開口12hの周縁に封口板14が接合(例えば溶接接合)されることによって、一体化されている。電池ケース10は、気密に封止(密閉)されている。
【0020】
封口板14には、図2に示すように、注液孔15と、ガス排出弁17と、2つの端子引出孔18、19と、が設けられている。注液孔15は、外装体12に封口板14を組み付けた後に非水電解液を注液するためのものである。封口板14には、注液孔15が設けられていることが好ましい。注液孔15は、封止部材16により封止されている。ガス排出弁17は、電池ケース10内の圧力が所定値以上になったときに破断して、電池ケース10内のガスを外部に排出するように構成されている。端子引出孔18、19は、封口板14の長辺方向Yの両端部(図2の左端部および右端部)にそれぞれ形成されている。端子引出孔18、19は、封口板14を厚み方向(上下方向Z)に貫通している。端子引出孔18、19は、それぞれ、封口板14に取り付けられる前の(かしめ加工前の)の正極端子30および負極端子40を挿通可能な大きさの内径を有する。
【0021】
正極端子30および負極端子40は、それぞれ電池ケース10の封口板14に固定されている。正極端子30は、封口板14の長辺方向Yの一方側(図1図2の左側)に配置されている。負極端子40は、封口板14の長辺方向Yの他方側(図1図2の右側)に配置されている。図2に示すように、正極端子30は、端子引出孔18を挿通して封口板14の内部から外部へと延び、負極端子40は、端子引出孔19を挿通して封口板14の内部から外部へと延びている。正極端子30および負極端子40は、封口板14に取り付けられていることが好ましい。正極端子30および負極端子40は、ここでは、かしめ加工により、封口板14の端子引出孔18、19を囲む周縁部分に、かしめられている。正極端子30および負極端子40の外装体12の側の端部(図2の下端部)には、かしめ部30c、40cが形成されている。
【0022】
図2に示すように、正極端子30は、電池ケース10の内部で、正極集電部50を介して電極体20の正極22(図4参照、詳しくは、正極タブ群23)と電気的に接続されている。正極端子30は、正極絶縁部材70およびガスケット90によって封口板14と絶縁されている。正極端子30は、金属製であることが好ましく、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることがより好ましい。
【0023】
一方、負極端子40は、電池ケース10の内部で、負極集電部60を介して電極体20の負極24(図4参照、詳しくは、負極タブ群25)と電気的に接続されている。負極端子40は、負極絶縁部材80およびガスケット90によって封口板14と絶縁されている。負極端子40は、金属製であることが好ましく、例えば銅または銅合金からなることがより好ましい。負極端子40は、2つの導電部材が接合され一体化されて構成されていてもよい。負極端子40は、例えば、負極集電部60と接続される部分が銅または銅合金からなり、封口板14の外側の表面に露出する部分がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなっていてもよい。
【0024】
封口板14の外側の面には、板状の正極外部導電部材32および負極外部導電部材42が取り付けられている。正極外部導電部材32および負極外部導電部材42は、複数の電池100を相互に電気的に接続する際に、バスバーが付設される部材である。正極外部導電部材32は、正極端子30と電気的に接続されている。負極外部導電部材42は、負極端子40と電気的に接続されている。正極外部導電部材32および負極外部導電部材42は、外部樹脂部材92によって封口板14と絶縁されている。正極外部導電部材32および負極外部導電部材42は、金属製であることが好ましく、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることがより好ましい。ただし、正極外部導電部材32および負極外部導電部材42は必須ではなく、他の実施形態において省略することもできる。
【0025】
電極体20は、図2に示すように、電池ケース10の内部(詳しくは、外装体12の内部)に収容されている。1つの電池ケース10の内部に配置される電極体20の数は特に限定されず、1つであってもよく、2つ以上(複数)であってもよい。電極体20は、絶縁性の電極体ホルダに覆われた状態で、電池ケース10の内部に配置されていてもよい。言い換えれば、電極体20と電池ケース10(詳しくは、外装体12)との間には、電極体ホルダが介在されていてもよい。電極体ホルダは、例えば箱状で、その内部に電極体20が配置されていてもよい。電極体ホルダは、樹脂製が好ましい。
【0026】
図3は、電極体20を模式的に示す斜視図である。図4は、電極体20の構成を示す模式図である。図4に示すように、電極体20は、正極22と負極24とセパレータ26とを含んでいる。電極体20は、ここでは捲回電極体である。電極体20は、帯状の正極22と帯状の負極24とが帯状のセパレータ26を介して積層され、捲回軸WLを中心として捲回されて構成されている。ただし、他の実施形態において、電極体20は、複数枚の方形状の正極と、複数枚の方形状の負極とが、セパレータを介して絶縁された状態で積層されてなる積層型電極体であってもよい。
【0027】
特に限定されるものではないが、電極体20の捲回数(ターン数)は、好ましくは20ターン以上、より好ましくは30ターン以上、さらに好ましくは50ターン以上であって、例えば150ターン以下、100ターン以下でありうる。捲回数が多いほど、電極体20の中心領域CA(図3参照)、特には短辺方向Xの中央部に非水電解液が浸透しにくく、被膜の量や質にムラが生じやすくなりうる。したがって、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。
【0028】
電極体20は、捲回電極体であることが好ましい。図3に示すように、電極体20が捲回電極体である場合、長辺方向Y(捲回軸WL方向)の両端部からしか非水電解液が供給されない。そのため、電極体20の中心領域CAにとりわけ非水電解液が十分に浸透しにくい。したがって、電極体20の中心領域CAとその他の部分、例えば長辺方向Yの中央部と端部とで、被膜の量や質にムラが生じやすくなる。したがって、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。
【0029】
なお、本明細書において、「電極体20の中心領域CA」とは、図3に示すように、積層方向(厚み方向)と直交する面の中心領域をいう。詳しくは、長辺方向Y(捲回軸WL方向)の中央Mを含む中央部であって上下方向Zの中央Mを含む中央部の部分(例えば図3に二点鎖線で示す枠内)をいう。本実施形態のように、電極体20が捲回電極体である場合は、さらに捲回方向(ターン数)の中間周の部分をいう。
【0030】
図2図3からわかるように、電極体20は、ここでは捲回軸WLが長辺方向Yと略平行になる向きで、電池ケース10の内部に配置されている。捲回軸WL方向は、ここでは長辺方向Yと一致する方向である。電極体20は、捲回軸WLが底壁12aと平行になり、短側壁12cと直交する向きで電池ケース10の内部に配置されている。
【0031】
電池100は、ここでは、電極体20の捲回軸WL方向の両端(図2図3の左右)に正極タブ群23と負極タブ群25とが位置する、所謂、横タブ構造である。ただし、他の実施形態において、電池100は、電極体20の捲回軸WL方向の一端(例えば、図2図3の上端部)に正極タブ群23と負極タブ群25とが位置する、所謂、上タブ構造であってもよい。この場合、捲回軸WL方向は、上下方向Zと一致する方向であってもよい。
【0032】
図3に示すように、電極体20は、外形が扁平形状である。電極体20は、外形が扁平形状であることが好ましい。電極体20は、長辺方向Y(捲回軸WL方向)に沿って広がる一対の平坦部20fと、一対の平坦部20fを連結する一対の湾曲部(R部)20rと、を有している。平坦部20fは、平坦な外面(図3のYZ平面)を有する。湾曲部20rは、湾曲外面を有する。なお、本明細書において「平坦な外面」とは、完全な平坦に限られず、例えば微視的にみると、僅かな段差、湾曲、凹部、凸部等がある場合を包含する用語である。
【0033】
図1図3からわかるように、一対の平坦部20fは、外装体12の一対の長側壁12bに対向している。平坦部20fは、長側壁12bに沿って延びている。一対の湾曲部20rは、外装体12の底壁12aおよび封口板14と対向している。電極体20は、本実施形態のように、平坦部20fにおける正極22(図4参照)と負極24(図4参照)との積層方向(厚み方向)が、短辺方向X(長側壁12bに対して垂直な方向)と一致する向きで電池ケース10の内部に配置されていることが好ましい。
【0034】
正極22は、従来と同様でよく、特に制限はない。正極22は、図4に示すように、正極集電体22cと、正極集電体22cの少なくとも一方の表面上に固着された正極活物質層22aおよび正極保護層22pと、を有する。ただし、正極保護層22pは必須ではなく、他の実施形態において省略することもできる。正極集電体22cは、帯状である。正極集電体22cは、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性金属からなっている。正極集電体22cは、ここでは金属箔、具体的にはアルミニウム箔である。
【0035】
正極集電体22cの長辺方向Yの一方の端部(図4の左端部)には、複数の正極タブ22tが設けられている。複数の正極タブ22tは、長辺方向Yの一方側(図4の左側)に向かって突出している。正極タブ22tは、ここでは正極集電体22cの一部であり、金属箔(アルミニウム箔)からなっている。正極タブ22tの少なくとも一部は、正極活物質層22aおよび正極保護層22pが形成されずに正極集電体22cが露出した集電体露出部である。図3に示すように、複数の正極タブ22tは、長辺方向Yの一方の端部(図3の左端部)で積層されて、正極タブ群23を構成している。正極タブ群23は、正極集電部50を介して正極端子30と電気的に接続されている。正極タブ群23には、正極集電部50の後述する正極第2集電部52が付設(詳しくは接合)されている。
【0036】
正極活物質層22aは、図4に示すように、帯状の正極集電体22cの長手方向に沿って、帯状に設けられている。正極活物質層22aは、電荷担体を可逆的に吸蔵および放出可能な正極活物質(例えば、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物)を含んでいる。正極活物質層22aは、正極活物質以外の任意成分、例えば、導電材、バインダ、各種添加成分等を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等の炭素材料を使用しうる。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を使用しうる。
【0037】
特に限定されるものではないが、図4に示すように、車載用等として用いられるような高容量タイプの電池100において、正極活物質層22aの捲回軸WL方向の幅(平均値、正極タブ22tに形成された部分は除く)、言い換えれば長辺方向Yの長さW1は、15cm以上が好ましく、20cm以上がより好ましく、25cm以上がさらに好ましい。
【0038】
正極保護層22pは、図4に示すように、長辺方向Yにおいて正極集電体22cと正極活物質層22aとの間に設けられている。正極保護層22pは、ここでは正極集電体22cの長辺方向Yの一方の端部(図4の左端部)に設けられている。正極保護層22pは、正極活物質層22aに沿って、帯状に設けられている。正極保護層22pは、無機フィラー(例えば、アルミナ)を含んでいる。正極保護層22pは、無機フィラー以外の任意成分、例えば、導電材、バインダ、各種添加成分等を含んでいてもよい。導電材およびバインダは、正極活物質層22aに含みうるとして例示したものと同じであってもよい。
【0039】
負極24は、図4に示すように、負極集電体24cと、負極集電体24cの少なくとも一方の表面上に固着された負極活物質層24aと、を有する。負極集電体24cは、帯状である。負極集電体24cは、例えば銅、銅合金、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性金属からなっている。負極集電体24cは、ここでは金属箔、具体的には銅箔である。
【0040】
負極集電体24cの長辺方向Yの一方の端部(図4の右端部)には、複数の負極タブ24tが設けられている。複数の負極タブ24tは、それぞれ長辺方向Yの一方側(図4の右側)に向かって突出している。負極タブ24tは、負極集電体24cの一部であり、金属箔(銅箔)からなっている。負極タブ24tの少なくとも一部は、負極活物質層24aが形成されずに負極集電体24cが露出した集電体露出部である。図3に示すように、複数の負極タブ24tは、長辺方向Yの一方の端部(図3の右端部)で積層され、負極タブ群25を構成している。負極タブ群25は、負極集電部60を介して負極端子40と電気的に接続されている。負極タブ群25には、負極集電部60の後述する負極第2集電部62が付設(詳しくは接合)されている。
【0041】
負極活物質層24aは、図4に示すように、帯状の負極集電体24cの長手方向に沿って、帯状に設けられている。負極活物質層24aは、電荷担体を可逆的に吸蔵および放出可能な負極活物質(例えば、黒鉛等の炭素材料)を含んでいる。負極活物質層24aの固形分全体を100質量%としたときに、負極活物質は、概ね80質量%以上、典型的には90質量%以上、例えば95質量%以上を占めていてもよい。負極活物質層24aは、負極活物質以外の任意成分、例えば、バインダ、分散剤、各種添加成分等を含んでいてもよい。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム類を使用しうる。分散剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロール類を使用しうる。
【0042】
特に限定されるものではないが、負極活物質層24aの密度は、高容量化の観点等から、例えば0.5g/cm以上が好ましく、1.0g/cm以上がより好ましい。また、負極活物質層24aの密度は、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮する観点から、2.0g/cm以下が好ましく、1.5g/cm以下がより好ましい。
【0043】
本実施形態において、負極活物質層24aは、ホウ素(B)元素を含む被膜(SEI膜)を備えている。このホウ素は、電池100の構築時に非水電解液に添加した被膜形成剤、詳しくは、ホウ素元素を含む化合物(B元素含有化合物)に由来する成分である。上記被膜は、初期充電の際に分解されたB元素含有化合物を含む分解生成物である。ホウ素元素を含む被膜は安定性に優れるため、電池100の耐久性を好適に向上できる。なお、ホウ素元素を含む被膜を備えていることは、例えば、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)発光分光分析や、イオンクロマトグラフィ、X線吸収微細構造解析(XAFS;X-ray Absorption Fine Structure)等の従来公知の手法により、B元素を検出することで確認できる。
【0044】
電極体20の中心領域CAにおいて、負極活物質層24aのホウ素の濃度比(B濃度比)は、0.010%以上が好ましく、例えば0.010~0.020%であり、0.012%以上がより好ましい。なお、B濃度比は、次の手順で測定および算出できる。すなわち、まず、電池100を解体して負極24を取出し、負極24を減圧(例えば-95kPaで10min)することによって、揮発成分(例えば、後述するEMC,DMC,VC)を除去する。次に、負極24を所定のサイズ(例えば10×60mm)で2枚打ち抜き、GBL(γ-ブチロラクトン)に浸漬して、不揮発成分を抽出する。次に、抽出液をHClと純粋で希釈した後、ICP発光分析を用いてホウ素元素の量(mg/cm2)を測定する。そして、リン元素を基準とした理想組成に対する存在比、すなわち、後述する電解質塩としてのLiPF基準(100%)の存在比として算出できる。
【0045】
本実施形態では、分光測色計を用いて、電極体20の中心領域CAに位置する負極活物質層24a(典型的には表面)を測定したときに、日本工業規格(Japan Industrial Standard)JIS Z8781-4:2013に基づくL表色系におけるb値が、3以下である。L表色系では、白黒(明度)と、黄青赤緑(色度)の座標軸と、の切り分けが可能である。詳しくは後述する実施例に記載するが、分光測色計測定で得られる負極活物質層24aのb値と、電池100の発熱量との間には、正の相関がある。そのため、電極体20の中心領域CAに位置する負極活物質層24aのb値を所定値以下に調整することで、中心領域CAの発熱量を抑えて、電池100の熱安定性を向上できる。
【0046】
なお、本発明者らの検討によれば、電極体20の中心領域CAに位置する負極活物質層24aのホウ素の濃度比(B濃度比)は、電池100の発熱量との間に強い相関が認められない。例えば、B濃度比が同じでも、b値が異なる場合がある。よって、ここに開示される技術のように、b値で評価することが重要である。
【0047】
また、被膜の濃淡は、例えば目視でも「色ムラ」として識別しうるが、人間の目には個人差があるため、色ムラの有無の判定結果が人によって異なることがある。これに対して、ここに開示される技術のように分光測色計測定で得られる客観的な数値を指標として用いる場合、相対的に精度のバラつきが生じにくい。また、人間の目では判別できないような色の違いをも識別しうる。したがって、安定して熱安定性を向上でき、信頼性の高い電池100を提供できる。
【0048】
負極活物質層24aのb値は、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮する観点から、2.5以下が好ましく、2以下がより好ましく、1.5以下がさらに好ましい。負極活物質層24aのb値は、典型的には1以上であり得、例えば1.2以上であってもよい。なお、b値は、電池100の構築時の非水電解液の注液量や、非水電解液中の添加剤(ホウ素元素を含む化合物)の濃度のみならず、例えば後述する製造方法における、電解液含浸工程(工程2)の条件や、初期充電後の第1エージング工程(工程5)、あるいは、その後の第2エージング工程(工程6)の条件等によって好適に調整できる。特には、第1エージング工程の第1エージング期間や、第2エージング工程の第2エージング期間によって好適に調整できる。
【0049】
負極活物質層24aの捲回軸WL方向の幅(平均値、負極タブ24tに形成された部分は除く)、言い換えれば長辺方向Yの長さW2は、正極活物質層22aの長辺方向Yの長さW1と同じかそれよりも長い。特に限定されるものではないが、長さW2は、高容量化の観点等から、15cm以上が好ましく、20cm以上がより好ましく、25cm以上がさらに好ましい。長さW2が長いほど、電極体20の中心領域CA、特には長辺方向Yの中央部に非水電解液が浸透しにくく、被膜の量や質にムラが生じやすくなる。したがって、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。長さW2は、例えば100cm以下、50cm以下であってもよい。これにより、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮できる。
【0050】
なお、負極活物質層24aの長辺方向Yの長さW2(捲回軸WL方向の幅)が、例えば15cm以上、さらには20cm以上と長い場合、長辺方向Yの端部は、典型的には、長辺方向Yの中央部に比べて、b値が相対的に小さい。長辺方向Yの端部では、b値が3未満、例えば長辺方向Yの中央部の1/2以下でありうる。
【0051】
セパレータ26は、図4に示すように、正極22の正極活物質層22aと、負極24の負極活物質層24aと、を絶縁する部材である。セパレータ26の捲回軸WL方向の幅、言い換えれば長辺方向Yの長さW3は、負極活物質層24aの長辺方向Yの長さW2と同じかそれよりも長い。セパレータ26としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂からなる樹脂製の多孔性シートが好ましい。セパレータ26は、樹脂製の多孔性シートからなる基材部の表面に、耐熱層(Heat Resistance Layer:HRL)や接着層を有していてもよい。耐熱層は、例えば、無機フィラーと、バインダと、を含む層である。接着層は、バインダを含む層である。耐熱層や接着層の構成は、従来と同様であってよい。
【0052】
負極活物質層24aと同様に、分光測色計を用いて、電極体20の中心領域CAに位置するセパレータ26(特には、負極活物質層24aと対向する側の表面)を測定したときに、日本工業規格JIS Z8781-4:2013に基づくL表色系におけるb値が、2以下であることが好ましい。詳しい説明は割愛するが、負極活物質層24aのb値と同様に、セパレータ26のb値についても、発熱量との間に正の相関がある。そのため、負極活物質層24aのb値に加えてセパレータ26のb値をも所定値以下に調整することで、中心領域CAの発熱量をより安定して抑えられる。
【0053】
セパレータ26は、負極活物質層24aに比べて、相対的に被膜が形成されにくい。よって、セパレータ26のb値は、典型的には負極活物質層24aのb値よりも小さい。セパレータ26のb値は、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮する観点から、2以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1以下がさらに好ましく、0.5以下が特に好ましい。セパレータ26のb値は、負極活物質層24aのb値と同様に、例えば後述する製造方法における、電解液含浸工程(工程2)の条件や、初期充電後の第1エージング工程(工程5)、あるいは、その後の第2エージング工程(工程6)の条件等によって好適に調整できる。特には、第1エージング工程の第1エージング期間や、第2エージング工程の第2エージング期間によって好適に調整できる。
【0054】
正極集電部50は、図2に示すように、複数の正極タブ22tからなる正極タブ群23と、正極端子30とを電気的に接続する導通経路を構成している。正極集電部50は、正極集電体22cと同じ金属種、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性金属からなっていてもよい。正極集電部50は、正極第1集電部51と、正極第2集電部52と、を備えている。正極第1集電部51は、封口板14の内側の面に取り付けられている。正極第2集電部52は、外装体12の短側壁12cに沿って延びている。正極第2集電部52は、電極体20の正極タブ群23に付設されている。
【0055】
負極集電部60は、図2に示すように、複数の負極タブ24tからなる負極タブ群25と、負極端子40とを電気的に接続する導通経路を構成している。負極集電部60は、負極集電体24cと同じ金属種、例えば銅、銅合金、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性金属からなっていてもよい。負極集電部60は、負極第1集電部61と、負極第2集電部62と、を備えている。負極第1集電部61および負極第2集電部62の構成や配置は、正極集電部50の正極第1集電部51および正極第2集電部52と同等であってよい。負極第2集電部62は、電極体20の負極タブ群25に付設されている。
【0056】
正極絶縁部材70は、図2に示すように、封口板14と正極第1集電部51とを絶縁する部材である。正極絶縁部材70は、使用する電解液に対する耐性と電気絶縁性とを有し、弾性変形が可能な樹脂材料からなり、例えば、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂、四フッ化エチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)等のフッ素化樹脂や、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等からなることが好ましい。
【0057】
負極絶縁部材80は、図2に示すように、封口板14と負極第1集電部61とを絶縁する部材である。負極絶縁部材80は、電極体20の長辺方向Yの中央CLに対して、正極絶縁部材70と対称になるよう配置されている。負極絶縁部材80の材質や構成等は、正極絶縁部材70と同様であってよい。
【0058】
非水電解液は、非水溶媒と、電解質塩(支持塩)と、を含んでいる。非水溶媒としては、従来、非水電解液二次電池に使用しうることが知られているものを、1種または2種以上使用することができる。非水溶媒の一例として、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒が挙げられる。非水溶媒は、カーボネート類を含むことが好ましい。カーボネート類としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状カーボネートや、プロピレンカーボネート(PC)等の環状カーボネートが挙げられる。
【0059】
電解質塩としては、電荷担体(典型的にはリチウムイオン)を含むものであれば特に限定されず、従来、非水電解液二次電池に使用しうることが知られているものを、1種または2種以上使用することができる。電解質塩の一例として、LiPF、LiBF等のフッ素含有リチウム塩が挙げられる。電解質塩は、LiPFを含むことが好ましい。
【0060】
非水電解液は、さらに添加的な成分(添加剤)を含んでもよい。一例として、ホウ素元素を含むホウ素系添加剤、リン素元素を含むリン系添加剤、硫黄元素を含む硫黄系添加剤、カーボネート系添加剤等が挙げられる。これらの添加剤は、初期充電の際、非水溶媒および/または電解質塩よりも先に(低電位で)分解して、負極活物質層24aの表面に被膜となって堆積する、所謂、被膜形成剤でありうる。
【0061】
非水電解液は、ホウ素系添加剤、すなわちホウ素元素を含む化合物(B元素含有化合物)を含むことが好ましい。B元素含有化合物としては、従来、非水電解液に添加しうることが知られているもの(例えば特許文献1に記載されるような化合物)を、1種または2種以上使用することができる。B元素含有化合物の一例として、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiODFB)等の、ホウ素元素を含むオキサラト錯体化合物(B元素含有オキサラト化合物)が挙げられる。
【0062】
非水電解液は、さらにリン系添加剤、すなわちリン元素を含む化合物(P元素含有化合物)を含むことが好ましい。P元素含有化合物としては、従来、非水電解液に添加しうることが知られているもの(例えば特許文献1に記載されるような化合物)を、1種または2種以上使用することができる。P元素含有化合物の一例として、ジフルオロリン酸リチウム(リチウムジフルオロホスフェート、LiPO)、リチウムジフルオロオキサレートホスフェート(LiDFOP)等の、リン元素を含むオキサラト錯体化合物(P元素含有オキサラト化合物)が挙げられる。
【0063】
非水電解液は、さらに硫黄系添加剤、すなわち硫黄元素を含む化合物(S元素含有化合物)を含むことが好ましい。S元素含有化合物としては、従来、非水電解液に添加しうることが知られているものを、1種または2種以上使用することができる。S元素含有化合物の一例として、フルオロスルホン酸リチウム(LiSOF)、リチウム=エチル=スルファート、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等が挙げられる。
【0064】
非水電解液は、さらにカーボネート系添加剤を含んでもよい。カーボネート系添加剤としては、例えば被膜形成剤として、従来、非水電解液に添加しうることが知られているものを、1種または2種以上使用することができる。カーボネート類の一例として、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等が挙げられる。
【0065】
なお、非水電解液中の添加剤(例えば、上記したホウ素系添加剤、リン系添加剤、硫黄系添加剤、およびカーボネート系添加剤)は、典型的には、電池製造時の初期充電等によって電気的に分解されて、負極活物質層24a等に被膜を形成するために消費される。そのため、電池100の状態において、非水電解液には、上記したような添加剤が含まれて(残存して)いてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0066】
<電池100の製造方法>
電池100は、例えば、次の工程:電池組立体の構築工程(工程1)と、電解液含浸工程(工程2)と、初期充電工程(工程3)と、脱泡工程(工程4)と、第1エージング工程(工程5)と第2エージング工程(工程6)を、この順で含む製造方法によって製造することができる。ただし、電解液含浸工程(工程2)と脱泡工程(工程4)とは任意であり、他の実施形態において省略することもできる。また、任意の段階で、さらに他の工程を含んでもよい。
【0067】
構築工程(工程1)では、グローブボックス内で、電池ケース10に電極体20と非水電解液とを収容して、電池組立体を構築する。なお、本明細書において「電池組立体」とは、電池100の製造工程において、初期充電工程(工程3)を行う前の状態にまで組み立てられた中間物をいう。電極体20と非水電解液とを電池ケース10に収容する順序は、特に制限されない。例えば、電池ケース10に電極体20を収容した後、電池ケース10内に非水電解液を注液してもよい。
【0068】
好適な一実施形態において、本工程は、配置工程(工程1-1)と、溶接接合工程(工程1-2)と、乾燥工程(工程1-3)と、注液工程(工程1-4)とを、典型的にはこの順で含む。ただし、乾燥工程(工程1-3)は任意であり、他の実施形態において省略することもできる。また、他の実施形態において、溶接接合工程(工程1-2)と乾燥工程(工程1-3)の順序は逆でもよいし、溶接接合工程(工程1-2)と注液工程(工程1-4)の順序は逆でもよい。また、他の実施形態において、注液工程(工程1-4)は、多段階的に行ってもよい。また、任意の段階で、さらに他の工程を含んでもよい。
【0069】
配置工程(工程1-1)では、外装体12の内部に電極体20を配置する。詳しくは、開口12hから外装体12の内部に電極体20を収容する。次に、溶接接合工程(工程1-2)では、外装体12の開口12hの周縁に封口板14を溶接して、外装体12と封口板14とを一体化する。次に、乾燥工程(工程1-3)では、注液孔15を開いた状態で、電極体20が収容された外装体12を乾燥させ、外装体12の内部の水分を除去する。特には、電極体20内の水分を除去する。水分の除去は、加熱乾燥装置、真空乾燥装置等を用いて、加熱や減圧等の操作を単独でまたは適宜組み合わせて、従来と同様に行うことができる。加熱温度は、例えば減圧状態で適切に水分を蒸発させることができ、かつ電極体20のセパレータ等が熱劣化しない温度に設定することが好ましい。加熱温度は、例えば50~200℃の範囲内で設定しうる。
【0070】
次に、注液工程(工程1-4)では、まず非水電解液を調製する。非水電解液は、非水溶媒と電解質塩に加えて、ホウ素系添加剤(B元素含有化合物)を含む。特に限定されるものではないが、中心領域CAにおいて負極活物質層24aの表面に好適な量ないし質の被膜を形成しやすいことから、非水電解液中のB元素含有化合物の濃度は、0.01mol/L以上が好ましく、0.05mol/L以上がより好ましい。一方、電池抵抗の上昇を抑制するという観点から、非水電解液中のB元素含有化合物の濃度は、1mol/L以下が好ましく、0.5mol/L以下がより好ましく、0.1mol/L以下がさらに好ましい。
【0071】
非水電解液は、ホウ素系添加剤に加えて、さらに他の添加剤、例えば、上記したリン系添加剤、硫黄系添加剤、およびカーボネート系添加剤のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。各種添加剤の濃度は、それぞれ、ホウ素系添加剤の濃度と同様であってよい。そして、調製した非水電解液を、封口板14の注液孔15から電池ケース10の内部に注液する。注液は、電極体20内への非水電解液の含浸性を向上させるため、電池ケース10内を減圧した状態で行うことが好ましい。
【0072】
電解液含浸工程(工程2)では、電池組立体の構築工程(詳しくは注液工程)の後、電極体20内、特には長辺方向Yの中央部への非水電解液の含浸性を高める。本工程は、常温(25℃±10℃程度)環境下で行ってもよい。好適な一実施形態において、本工程は、第1含浸工程(工程2-1)と、減圧含浸工程(工程2-2)と、第2含浸工程(工程2-3)とを、この順で含む。また、任意の段階で、さらに他の工程を含んでもよい。本工程の所要時間(第1含浸工程と減圧含浸工程と第2含浸工程との合計時間)は、45~200時間が好ましく、49~140時間がより好ましい。
【0073】
第1含浸工程(工程2-1)では、電池組立体の構築工程(詳しくは注液工程)における注液の完了から、第1の含浸時間、大気圧の状態で電池組立体を放置(保持)する。第1の含浸時間は、25時間以上が好ましい。これにより、非水電解液の粘度が下がり、電極体20の内部、特には長辺方向Yの中央部への非水電解液の含浸が促進されうる。
【0074】
次に、減圧含浸工程(工程2-2)では、第1含浸工程の後、電池組立体を圧力調整可能なチャンバ内に収容し、注液孔15を開放した状態(言い換えれば、電池ケース10の内外の圧力差が無い状態)で、チャンバ内を少なくとも1回減圧し、減圧状態で所定の時間保持する。減圧状態の圧力は、例えば負極活物質層24aの長辺方向Yの長さW2等にもよるが、-0.05MPa以下が好ましく、例えば-0.09MPa程度としうる。減圧状態での保持時間は、例えば負極活物質層24aの長辺方向Yの長さW2等にもよるが、600sec以上が好ましい。減圧は1回でもよく、例えば圧抜きを挟んで2回以上行うこともできる。例えば、1回目の減圧の後、いったん電池ケース10内を圧抜きして常圧(-0.01MPa以上)に戻し、常圧の状態で所定の時間保持した後、2回目の減圧を行ってもよい。常圧での保持時間は、60sec以上が好ましく、100sec以上がさらに好ましい。減圧回数は、2回以上が好ましく、4回以上がさらに好ましい。
【0075】
次に、第2含浸工程(工程2-3)では、減圧含浸工程の後、第2の含浸時間、大気圧の状態で電池組立体を放置(保持)する。第2の含浸時間は、20時間以上が好ましい。第2の含浸時間は、第1の含浸時間よりも短くてもよい。これにより、電極体20の内部、特には長辺方向Yの中央部への非水電解液の含浸がさらに促進されうる。
【0076】
初期充電工程(工程3)では、電解液含浸工程の後、電池組立体を少なくとも1回充電する。電池組立体の充電は、従来と同様に行うことができる。典型的には、電池組立体の正極端子と負極端子との間に外部電源を接続し、正負極端子間が所定の到達電圧となるまで充電を行う。到達電圧は、少なくとも非水電解液中のB元素含有化合物が電気的に分解されるように設定する。一例として、負極活物質が炭素材料である場合、到達電圧を、概ね2.5V以上、好ましくは3V以上、例えば3.5V以上、4V以上に設定するとよい。充電レートは、例えば、0.1C~2C程度としうる。充電は1回でもよく、例えば放電を挟んで、2回以上繰り返し行うこともできる。
【0077】
初期充電により、非水電解液中の添加剤(少なくともB元素含有化合物)が、典型的には非水電解液中の他の成分(非水溶媒や電解質塩)よりも先に電気分解される。これにより、負極活物質層24aの表面に、少なくともB元素含有化合物の分解生成物を含んだ被膜(SEI膜)が形成される。
【0078】
脱泡工程(工程4)では、初期充電工程の後、電池ケース10内の気体、例えば、空気や、初期充電工程で非水電解液が分解することによって発生したガス等を、電池ケース10の外部へと排気する。気体の排気は、例えば電池ケース10内を減圧することで行いうる。そして、好ましくは電池ケース10内を減圧した状態で、注液孔15を封止部材16で封止する。これにより、電池ケース10を、気密に封止(密閉)する。
【0079】
第1エージング工程(工程5)では、初期充電後の電池組立体を拘束し、所定の温度環境下、短辺方向X(電極体20の厚み方向)から所定の拘束荷重を加えた状態で、所定の第1エージング期間保持する。温度環境は、15~40℃とすることが好ましく、例えば常温(25℃±10℃程度)としてもよい。拘束荷重は、1~6kNとするとよい。好適な一実施形態では、まず、一対の拘束板を備えたセル用プレス機を用意する。次に、初期充電後の電池組立体を、電池ケース10の一対の長側壁12bが拘束板と対向するように、一対の拘束板の間に配置し、この状態でプレス機によって初期充電後の電池組立体に拘束荷重を印加し、所定の第1エージング期間、保持する。なお、本工程では、初期充電工程で調整した電圧を維持していてもよい。本工程では、電池の充電状態(SOC;State of Charge)が、典型的には、後述する第2エージング工程(工程6)よりも低く、例えば20%以下、10%以下であってもよい。
【0080】
詳しくは後述する実施例に記載するが、本発明者らの検討によれば、本工程の第1エージング期間と、分光測色計測定で得られる負極活物質層24aのb値との間には、負の相関が認められる。すなわち、本工程の第1エージング期間が長くなるについて、電極体20の中心領域CAに位置する負極活物質層24aのb値は小さくなる傾向がある。同様に、セパレータ26のb値についても、本工程の第1エージング期間が長くなるについて、値が小さくなる傾向がある。そのため、第1エージング期間は、例えば、負極活物質層24aの長辺方向Yの長さW2や、電解液含浸工程(工程2)の条件等によっても異なりうるが、概ね5日以上が好ましく、6日以上がより好ましい。第1エージング期間を所定の期間以上とすることで、負極活物質層24aのb値を、上記した範囲(例えば3以下)に調整しやすくなる。また、セパレータ26のb値を、上記した範囲(例えば2以下)に調整しやすくなる。
【0081】
次に、第2エージング工程(工程6)では、所定のSOC、好ましくはSOC10%~30%になるまで電池組立体を充電した後、上記第1エージング工程(工程5)よりも高い温度環境下で、所定の第2エージング期間保持する。本工程の温度環境は、50~90℃とすること好ましく、例えば、70℃±10℃としてもよい。第2エージング期間は、例えば、負極活物質層24aの長辺方向Yの長さW2や、電解液含浸工程(工程2)の条件、第1エージング工程(工程5)の第1エージング期間等によっても異なりうるが、概ね6~24時間が好ましい。なお、SOC(State of Charge)とは、電池100が通常使用される電圧範囲を基準とする充電状態(充電率)をいう。
以上のようにして、電池100を好適に製造できる。
【0082】
<負極24またはセパレータ26の検査方法>
例えば上記初期充電後の電池組立体や、上記第2エージング工程までを経た電池100に対しては、抜き取り検査という形で、熱安定性の品質管理が行われうる。抜き取り検査では、負極24またはセパレータ26を検査対象とすることができる。そこで、ここに開示される検査方法では、少なくとも上記製造方法の構築工程(工程1)と初期充電工程(工程3)と第1エージング工程(工程5)と第2エージング工程(工程6)とを経た電池組立体(ないし電池100)に対して、さらに次の工程:電池組立体を解体する解体工程(工程7)と、b値を測定する測色工程(工程8)とを、この順に行う。本実施形態では、さらに電池組立体ないし電池100の熱安定性を評価する評価工程(工程9)を行う。また、任意の段階で、さらに他の工程を含んでもよい。
【0083】
解体工程(工程7)では、電池組立体を解体する。電池組立体の解体は、負極24ないしセパレータ26の変質を避けるために、ドライエア(例えば、露点が-50℃程度)の雰囲気下、例えばグローブボックス内で行うことが好ましい。電池組立体は、例えばまず、電池ケース10をエンドミル等の工具やレーザ等で切断して、外装体12から封口板14を分離し、さらに外装体12の内部から電極体20を取り出すことで解体しうる。そして、取り出した電極体20の捲回を巻きほぐせば、正極22と負極24とセパレータ26とに分離できる。
【0084】
測色工程(工程8)では、解体工程の後、分光測色計を用いて、電極体20の中心領域CAに位置していた負極活物質層24aまたはセパレータ26(典型的には表面)について、日本工業規格JIS Z8781-4:2013に基づくL表色系におけるb値を測定する。測定は、ばらつきを考慮して、複数回行ってもよい。その場合、複数回の測定値の算術平均を、b値として採用できる。上述の通り、電極体20の中心領域CAにおける負極活物質層24aのb値と、電池100の発熱量との間には、正の相関がある。同様に、電極体20の中心領域CAにおけるセパレータ26のb値と、電池100の発熱量との間には、正の相関がある。そのため、負極活物質層24aないしセパレータ26のb値を測定することで、電池100の熱安定性(発熱挙動)を予測ないし確認できる。
【0085】
評価工程(工程9)では、電池組立体ないし電池100の熱安定性を評価する。好適な一態様では、予備試験等によって、予めb値と電池100の発熱量との相関関係が、式(例えば、実施例に示す一次関数)等で表されており、当該式にb値を代入することで、電池100の発熱量を予測する。また好適な他の一態様では、負極活物質層24aのb値および/またはセパレータ26のb値に基づいて、良品判定を行う。例えば、負極活物質層24aのb値および/またはセパレータ26のb値が、所定の値以下である場合に、良品と判定する。例えば、負極活物質層24aのb値が3以下である場合に、良品と判定する。例えば、セパレータ26のb値のb値が2以下である場合に、良品と判定する。この場合、良品と判定された電池組立体は、発熱量が抑えられ、熱安定性のバラつきが少ないものとなりうる。これにより、電池100の発熱量の上限を好適にコントロールでき、信頼性の高い電池100を市場に供給できる。
【0086】
<電池100の用途>
電池100は各種用途に利用可能であるが、例えば、高容量で熱安定性にも優れることから、乗用車、トラック等の車両に搭載されるモータ用の動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、例えば、プラグインハイブリッド自動車(PHEV;Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV;Hybrid Electric Vehicle)、電気自動車(BEV;Battery Electric Vehicle)等が挙げられる。電池100は、複数の電池100を所定の配列方向に複数個並べて、配列方向から拘束機構で荷重を加えてなる組電池としても好適に用いることができる。
【0087】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に限定することを意図したものではない。
【0088】
≪試験例I(例1,2、比較例1~5)≫
<色ムラの評価> まず、構築工程(工程1)では、電極体と、表1に示す組成の非水電解液とを、電池ケースに収容して、電池組立体を構築した。なお、負極活物質層の平坦部は、捲回軸方向の(幅方向)の長さを285mm、高さを90mmとした。次に、電解液含浸工程(工程2)では、まず、注液の完了から25時間(第1の含浸時間)、電池組立体を放置した。次に、電池ケース内を-0.09MPaまで減圧し、その状態で600sec保持した後、電池ケース内を復圧して0MPaに戻し、その状態で60sec保持する操作を、合計4回行った。次いで、20時間(第2の含浸時間)、電池組立体を放置した。
【0089】
次に、初期充電工程(工程3)では、1Cの充電レートで3Vまで定電流充電を行った。次に、脱泡工程(工程4)では、電池ケース内を、-0.09MPaまで減圧した。次に、第1エージング工程(工程5)では、25℃の温度環境下において、初期充電後の電池組立体に対して4kNの拘束荷重を加えた状態で、表1に示す第1エージング期間、保持した。次に、第1エージング工程(工程5)の後、電池組立体をSOCが20%になるまで充電し、第2エージング工程(工程6)では、70℃の温度環境下において、所定の第2エージング期間放置した。その後、解体工程(工程7)では、第2エージング工程後の電池組立体をグローブボックス内で解体して、電池ケースから電極体を取り出した。そして、電池ケースから取り出した電極体の捲回を巻きほぐし、正極と負極とセパレータとを分離した。
【0090】
次に、測色工程(工程8)では、人による目視で、電極体の中心領域における負極活物質層の色ムラを観察すると共に、コニカミノルタ製の拡散照明タイプの分光測色計(型式:CM-26dG)を用い、正反射光のトラップで正反射光を取り込むSCI(Specular Component Include)方式にて、電極体の中心領域における負極活物質層の表面を測定し、日本工業規格JIS Z8781-4:2013に基づくL表色系におけるb値を測定した。なお、目視での観察位置および分光測色計での測定位置は、捲回始端部から15ターン目(中間周)に位置していた平坦部とした。また、いくつかの例で、負極活物質層と同様に、セパレータについても観察と測定を行った。結果を表1に示す。
【0091】
<発熱量評価> まず、DSC測定用サンプルを作製した。具体的にはまず、ドライエア(露点:-50℃)の雰囲気で、正極活物質層(□20mm×20mm)を有する正極と、負極活物質層(□22mm×22mm)を有する負極とを、セパレータを介して対向させ、表1に示す組成の非水電解液0.4mLと共に収容して、ラミネートセルを構築した。
【0092】
次に、上記作製したラミネートセルを、8mAの電流値で4.25Vまで定電流充電を行った後、5時間の定電圧充電を行って、充電した。次に、グローブボックス内(Ar雰囲気)で、充電後のラミネートセルを解体した。次に、電解液を採取すると共に、正極と負極を取り出し、正極活物質層の中心領域から正極合材を剥がし取り、負極活物質層の中心領域から負極合材を剥がし取った。そして、正極から剥がし取った正極合材1mgと、負極から剥がし取った負極合材2mgと、採取した電解液4mgとを、試料容器に収容した。この試料容器を、20MPaでプレス密閉した後、標準物質(Al、2mg)と共に、示差走査熱量計(DSC;Differential Scanning Calorimetry)にセットした。そして、不活性雰囲気下で25℃から350℃まで2℃/分の昇温速度で昇温し、100~200℃の間の発熱量(J)を、積分によって求めた。結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1に示すように、第1エージング期間を0日(なし)とした比較例1、および1日とした比較例2では、人による目視で、負極活物質層の色ムラが濃く認められた。そのため、分光測色計での測定は省略した。また、第1エージング期間を2日とした比較例3でも、負極活物質層の色ムラが濃く認められた。一方、比較例4,5では、色ムラの有無の判定が、人によって異なる結果となった。
【0095】
図5に、比較例3~5および例1,2について、第1エージング工程(工程5)の第1エージング期間と、電極体の中心領域における負極活物質層のb値と、の関係を示す。図5に示すように、第1エージング期間と負極活物質層のb値との間には、R=0.9以上の強い負の相関が認められた。すなわち、エージング期間が長くなるほど、b値は小さくなっていた。したがって、エージング期間の長短によって、b値を好適に調整できることがわかった。また、ここでは例1のように第1エージング期間を5日とすることで、負極活物質層のb値を3以下とすることができ、例2のように第1エージング期間を6日とすることで、負極活物質層のb値を2以下とすることができた。
【0096】
図6に、比較例3~5および例1,2について、電池の発熱量と、電極体の中心領域における負極活物質層のb値と、の関係を示す。図6に示すように、電池の発熱量と負極活物質層のb値との間には、R=0.93以上の非常に強い正の相関が認められた。すなわち、b値が大きいほど、発熱量が大きくなっていた。したがって、負極活物質層のb値を所定値以下(例えば3以下)とすることで、発熱量を(例えば17J以下に、好ましくは15J以下に)抑えられ、電池の熱安定性を向上できることがわかった。
【0097】
また、詳しい説明は割愛するが、本発明者らが、各例の電極体の中心領域における負極活物質層について、ホウ素の濃度比(B濃度比)を測定したところ、発熱量とB濃度比との間には、上記図6ほど強い相関は認められなかった。この理由は定かではないが、不揮発成分のICP発光分析の測定結果から、例えば電極体の中心領域における負極活物質層では、溶媒の分解由来の被膜が多く含まれ、被膜の質が異なっていることが考えられる。以上のことから、b値は、被膜中のホウ素の濃度のみならず、被膜の形成状態(被膜の質)をも反映したパラメータであることが示唆された。よって、単にB濃度比を測定するだけでは不十分であり、ここに開示される技術のように、b値で評価することが重要であると考えられた。
【0098】
図7に、比較例3、5および例2について、負極活物質層のb値とセパレータのb値との関係を示す。図7に示すように、測定点が3点ではあるが、負極活物質層のb値とセパレータのb値との間には、R=0.99以上の非常に強い相関が認められた。このことから、負極活物質層のb値にかえてセパレータのb値を使用することも可能であるとわかった。また、セパレータのb値は、負極活物質層のb値よりも値が小さくなることがわかった。
【0099】
図8に、比較例3、5および例2について、電池の発熱量とセパレータのb値との関係を示す。図8に示すように、電池の発熱量とセパレータのb値との間には、R=0.97以上の非常に強い正の相関が認められた。すなわち、負極活物質層の場合と同様、b値が大きいほど、発熱量が大きくなっていた。したがって、セパレータのb値を所定値以下(例えば2以下、さらには1.5以下)とすることで、発熱量を(例えば17J以下に、好ましくは15J以下)抑えられ、電池の熱安定性を向上できることがわかった。
【0100】
≪試験例II(例3~5)≫
表2に示す組成の非水電解液を用いたこと以外は試験例Iの例2と同様にして、電極体の中心領域に位置する負極活物質層の色ムラと発熱量を測定した。結果を、表2に示す。なお、表2には、試験例Iの例2の結果をあわせて示している。
【0101】
【表2】
【0102】
表2に示すように、フルオロスルホン酸リチウム(LiSOF)を無添加とした例3、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)を無添加とした例4、ビニレンカーボネート(VC)を無添加とした例5では、発熱量が例2と略同等だった。したがって、非水電解液には、添加剤として、ホウ素元素を含む化合物(ここではリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB))さえ含んでいればよく、その他の添加剤は必須ではないことが示された。また、負極活物質層のb値は、非水電解液の組成(例えば添加剤の種類や量)によっても多少異なりうることがわかった。
【0103】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、他にも種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を他の変形例に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形例を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【0104】
以上の通り、ここで開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
項1:正極と負極とがセパレータを介して積層された電極体と、非水電解液と、上記電極体と上記非水電解液とを収容する電池ケースと、を備え、上記負極は、負極集電体と、上記負極集電体上に固着された負極活物質層と、を有し、上記負極活物質層は、ホウ素元素を含む被膜を備え、分光測色計を用いて、上記電極体の中心領域に位置する上記負極活物質層を測定したときに、日本工業規格JIS Z8781-4:2013に基づくL表色系におけるb値が、3以下である、非水電解液二次電池。
項2:上記電極体は、帯状の上記正極と帯状の上記負極とが、帯状の上記セパレータを介して積層され、捲回されてなる捲回電極体であり、上記捲回電極体の捲回軸方向における上記負極活物質層の幅が、15cm以上である、項1に記載の非水電解液二次電池。
項3:分光測色計を用いて、上記電極体の上記中心領域に位置する上記セパレータを測定したときに、上記b値が、2以下である、項1または項2に記載の非水電解液二次電池。
項4:上記非水電解液が、ホウ素元素を含む化合物を含む、項1~項3のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池。
項5:正極活物質層を有する正極と負極活物質層を有する負極とがセパレータを介して積層された電極体と、溶媒と電解質塩とホウ素元素を含む化合物とを含む非水電解液とを、電池ケースに収容して、電池組立体を構築する構築工程と、上記電池組立体を、少なくとも上記ホウ素元素を含む化合物が分解されるまで充電する充電工程と、上記充電工程の後、上記電池組立体を解体する解体工程と、上記解体工程の後、分光測色計を用いて、上記電極体の中心領域に位置していた上記負極活物質層について、日本工業規格JIS Z8781-4:2013に基づくL表色系におけるb値を測定する測色工程と、を含む、非水電解液二次電池用の負極の検査方法。
【符号の説明】
【0105】
10 電池ケース
20 電極体(捲回電極体)
22 正極
24 負極
24a 負極活物質層
24c 負極集電体
26 セパレータ
100 電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8