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特開2024-123839非水電解液二次電池およびその製造方法、ならびに検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123839
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池およびその製造方法、ならびに検査方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240905BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20240905BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240905BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240905BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20240905BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20240905BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20240905BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20240905BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20240905BHJP
   H01G 11/18 20130101ALI20240905BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0587
H01M10/0567
H01M10/052
H01G11/06
H01G11/64
H01G11/84
H01G11/26
H01G11/30
H01G11/18
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031578
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】塚本 健太郎
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA11
5E078AB02
5E078AB06
5E078AB13
5E078BA06
5E078DA14
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029BJ14
5H029CJ02
5H029CJ13
5H029CJ16
5H029CJ28
5H029HJ00
5H029HJ04
5H029HJ14
5H029HJ19
5H050AA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050FA04
5H050FA05
5H050GA02
5H050GA13
5H050GA18
5H050GA27
5H050HA00
5H050HA04
5H050HA14
5H050HA19
(57)【要約】
【課題】熱安定性の向上した非水電解液二次電池を提供する。
【解決手段】ここで開示される非水電解液二次電池は、正極活物質層を有する正極と負極活物質層を有する負極とを含む電極体と、非水電解液と、を備える。上記負極活物質層は、幅が15cm以上であり、ホウ素元素を含む被膜を備え、かつ、黒ムラ指数が、12以下である。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層を有する正極と負極活物質層を有する負極とを含む電極体と、非水電解液と、前記電極体と前記非水電解液とを収容する電池ケースと、を備え、
前記負極活物質層は、幅が15cm以上であり、ホウ素元素を含む被膜を備え、かつ、以下の(手順1)~(手順7):
(手順1)前記負極活物質層の幅方向の中央部を含むように前記負極の表面をカメラで撮影して、RGBカラーモデルで表現された撮影画像データを取得する;
(手順2)前記撮影画像データからRGB値のBlue成分を抽出し、黒を0、白を255とする256階調のグレースケールの画像データに変換する;
(手順3)前記グレースケールの画像データから、前記負極の前記幅方向に沿って、X軸を前記幅方向の一方の端部からの距離、Y軸を前記256階調の値とする、ラインプロファイルを抽出する;
(手順4)前記ラインプロファイルを線形近似し、得られた傾きで傾き補正することによって、第1補正プロファイルを作成する;
(手順5)前記第1補正プロファイルを二次近似し、得られた二次近似式で湾曲補正することによって、第2補正プロファイルを作成する;
(手順6)前記第2補正プロファイルから、前記Y軸の値が最も小さい極小点を通るピークを含むように、前記X軸の中央部分を抽出した後、抽出した前記中央部分を線形近似し、得られた傾きで傾き補正することによって、第3補正プロファイルを作成する;
(手順7)前記第3補正プロファイルのうち前記極小点を通るピークを除いた部分をベース部としたときに、前記ベース部の前記Y軸の平均値(ベース値)と、前記極小点の前記Y軸の値との差分の絶対値を、黒ムラ指数として算出する;
によって求められる黒ムラ指数が、12以下である、
非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記電極体は、帯状の前記正極と帯状の前記負極とが、帯状のセパレータを介して積層され、捲回されてなる捲回電極体であり、
前記捲回電極体の捲回軸方向における前記負極活物質層の幅が、15cm以上である、
請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記非水電解液が、ホウ素元素を含む添加剤を含む、
請求項1または2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記黒ムラ指数が、5以上である、
請求項1または2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
正極活物質層を有する正極と負極活物質層を有する負極とを含む電極体と、非水電解液と、前記電極体と前記非水電解液とを収容する電池ケースと、を備え、前記負極活物質層の幅が15cm以上である、非水電解液二次電池の製造方法であって、
前記電極体を、溶媒と電解質塩とホウ素元素を含む化合物とを含む非水電解液と共に、前記電池ケースに収容して、電池組立体を構築する構築工程と、
前記電池組立体の充電状態(SOC)を、5~50%に調整する初期充電工程と、
前記初期充電工程の後、前記電池組立体を、前記充電状態が5~50%の状態にて、50℃を超えかつ70℃以下の温度条件下で、24時間以上放置するエージング工程と、
を含む、
非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記エージング工程の前記温度条件を、60℃以上70℃以下とする、
請求項5に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項7】
正極活物質層を有する正極と負極活物質層を有する負極とがセパレータを介して積層された電極体と、溶媒と電解質塩とホウ素元素を含む化合物とを含む非水電解液とを、電池ケースに収容して、電池組立体を構築する構築工程と、
前記電池組立体の充電状態(SOC)を、5~50%に調整する初期充電工程と、
前記初期充電工程の後、前記電池組立体を、前記充電状態が5~50%の状態にて、50℃を超えかつ70℃以下の温度条件下で、24時間以上放置するエージング工程と、
前記エージング工程後の電池組立体を解体する解体工程と、
前記解体工程の後、以下の(手順1)~(手順7):
(手順1)前記負極活物質層の幅方向の中央部を含むように前記負極の表面をカメラで撮影して、RGBカラーモデルで表現された撮影画像データを取得する;
(手順2)前記撮影画像データからRGB値のBlue成分を抽出し、黒を0、白を255とする256階調のグレースケールの画像データに変換する;
(手順3)前記グレースケールの画像データから、前記負極の前記幅方向に沿って、X軸を前記幅方向の一方の端部からの距離、Y軸を前記256階調の値とする、ラインプロファイルを抽出する;
(手順4)前記ラインプロファイルを線形近似し、得られた傾きで傾き補正することによって、第1補正プロファイルを作成する;
(手順5)前記第1補正プロファイルを二次近似し、得られた二次近似式で湾曲補正することによって、第2補正プロファイルを作成する;
(手順6)前記第2補正プロファイルから、前記Y軸の値が最も小さい極小点を通るピークを含むように、前記X軸の中央部分を抽出した後、抽出した前記中央部分を線形近似し、得られた傾きで傾き補正することによって、第3補正プロファイルを作成する;
(手順7)前記第3補正プロファイルのうち前記極小点を通るピークを除いた部分をベース部としたときに、前記ベース部の前記Y軸の平均値(ベース値)と、前記極小点の前記Y軸の値との差分の絶対値を、黒ムラ指数として算出する;
によって、前記負極活物質層の黒ムラ指数を求める算出工程と、
を含む、
非水電解液二次電池の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池およびその製造方法、ならびに検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正極と負極とを含む電極体と、非水電解液と、を備えた非水電解液二次電池が知られている。非水電解液二次電池では、初期充電の際に非水電解液の一部が分解され、負極活物質層の表面にその分解生成物を含む被膜(Solid Electrolyte Interface膜:SEI膜)が堆積される。この被膜によって負極と非水電解液との界面が安定化されることで、電池性能が向上しうる。これに関連する先行技術文献として、特許文献1、2が挙げられる。
【0003】
例えば特許文献1には、非水電解液にオキサラト錯体化合物を添加し、所定のエージング処理を施すことで、非水電解液二次電池の初期の出力特性を向上しうることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-250288号公報
【特許文献2】特開2022-154250号公報
【特許文献3】特開2017-022067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者の検討によれば、上記技術を近年の高容量化された非水電解液二次電池に適用する場合、依然として改善の余地があった。すなわち、高容量化された非水電解液二次電池では、電極体の幅が例えば15cm以上と大きくなっており、電極体の幅方向の中央部まで添加剤が浸み込みにくくなっている。それゆえ、電極体の中央部では、初期充電の際、負極活物質層の表面に添加剤の分解生成物を含んだ被膜が形成されにくくなる。すなわち、電極体の中央部とその他の部分とで、負極に形成される被膜の形成状態(例えば量や質)にムラが生じやすくなる。その結果、当該中央部では負極の反応性が高くなり、局所的に熱安定性が低下して、例えば過充電時等に温度上昇を生じやすくなることが新たに判明した。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、熱安定性の向上した非水電解液二次電池およびその製造方法、ならびに検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により、正極活物質層を有する正極と負極活物質層を有する負極とを含む電極体と、非水電解液と、上記電極体と上記非水電解液とを収容する電池ケースと、を備え、上記負極活物質層は、幅が15cm以上であり、ホウ素元素を含む被膜を備え、かつ、以下の(手順1)~(手順7)によって求められる黒ムラ指数が、12以下である、非水電解液二次電池が提供される。上記黒ムラ指数は、(手順1)上記負極活物質層の幅方向の中央部を含むように上記負極の表面をカメラで撮影して、RGBカラーモデルで表現された撮影画像データを取得する;(手順2)上記撮影画像データからRGB値のBlue成分を抽出し、黒を0、白を255とする256階調のグレースケールの画像データに変換する;(手順3)上記グレースケールの画像データから、上記負極の上記幅方向に沿って、X軸を上記幅方向の一方の端部からの距離、Y軸を上記256階調の値とする、ラインプロファイルを抽出する;(手順4)上記ラインプロファイルを線形近似し、得られた傾きで傾き補正することによって、第1補正プロファイルを作成する;(手順5)上記第1補正プロファイルを二次近似し、得られた二次近似式で湾曲補正することによって、第2補正プロファイルを作成する;(手順6)上記第2補正プロファイルから、上記Y軸の値が最も小さい極小点を通るピークを含むように、上記X軸の中央部分を抽出した後、抽出した上記中央部分を線形近似し、得られた傾きで傾き補正することによって、第3補正プロファイルを作成する;(手順7)上記第3補正プロファイルのうち上記極小点を通るピークを除いた部分をベース部としたときに、上記ベース部の上記Y軸の平均値(ベース値)と、上記極小点の上記Y軸の値との差分の絶対値を、黒ムラ指数として算出する;で求められる。
【0008】
本発明者は、新たに、負極活物質層の幅方向の中央部で、被膜の形成状態のムラが、色ムラ(黒ムラ)となって現れることを見出した。また、この色ムラの程度(濃淡)を、上記手順によって「黒ムラ指数」として規定したときに、黒ムラ指数と電池の発熱量との間に正の相関があることを見出した。すなわち、黒ムラ指数が大きい(言い換えれば、黒色が濃い)ほど、発熱量が大きく熱安定性に乏しいことを見出した。そのため、本発明では、上記黒ムラ指数を所定値以下に調整している。これにより、電池の発熱を抑えて、熱安定性を向上できる。ひいては、過充電時等に温度上昇を抑制できる。また、撮影画像データに基づく客観的な数値(黒ムラ指数)を指標とすることで、例えば目視で負極活物質層の色ムラを識別するような場合と比べて、相対的に精度のバラつきが生じにくい。したがって、安定して熱安定性を向上でき、信頼性の高い電池を提供できる。
【0009】
また本発明により、正極活物質層を有する正極と負極活物質層を有する負極とを含む電極体と、非水電解液と、上記電極体と上記非水電解液とを収容する電池ケースと、を備え、上記負極活物質層の幅が15cm以上である、非水電解液二次電池の製造方法が提供される。この製造方法は、上記電極体を、溶媒と電解質塩とホウ素元素を含む化合物とを含む非水電解液と共に、上記電池ケースに収容して、電池組立体を構築する構築工程と、上記電池組立体の充電状態(SOC)を、5~50%に調整する初期充電工程と、上記初期充電工程の後、上記電池組立体を、上記充電状態が5~50%の状態にて、50℃を超えかつ70℃以下の温度条件下で、24時間以上放置するエージング工程と、を含む。
【0010】
上記エージング工程を含むことで、負極活物質層の黒ムラ指数を調整しやすくなり、黒ムラ指数を所定値以下に好適に抑えられる。したがって、本発明によれば、発熱が抑制され、熱安定性に優れた信頼性の高い非水電解液二次電池を好適に製造できる。
【0011】
なお、本発明との関連性はないが、特許文献3には、初期充電後に電池組立体を、SOC65%以上の充電状態としたうえで、まず電池組立体を15~30℃で6時間以上放置する低温エージングを行い、次いで60℃で20時間以上放置する高温エージングを行う製造方法が開示されている。
【0012】
また本発明により、正極活物質層を有する正極と負極活物質層を有する負極とがセパレータを介して積層された電極体と、溶媒と電解質塩とホウ素元素を含む化合物とを含む非水電解液とを、電池ケースに収容して、電池組立体を構築する構築工程と、上記電池組立体の充電状態(SOC)を、5~50%に調整する初期充電工程と、上記初期充電工程の後、上記電池組立体を、上記充電状態が5~50%の状態にて、50℃を超えかつ70℃以下の温度条件下で、24時間以上放置するエージング工程と、上記エージング工程後の上記電池組立体を解体する解体工程と、上記解体工程の後、上記(手順1)~(手順7)によって、上記負極活物質層の黒ムラ指数を求める算出工程と、を含む、非水電解液二次電池の検査方法が提供される。
【0013】
黒ムラ指数を算出することで、電池の発熱の程度を精度よく予測ないし確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、一実施形態に係る非水電解液二次電池を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿う模式的な縦断面図である。
図3図3は、電極体を模式的に示す斜視図である。
図4図4は、電極体の構成を示す模式図である。
図5図5は、ラインプロファイルの一例である。
図6図6は、図5のラインプロファイルの一次近似式である。
図7図7は、傾き補正後の第1補正プロファイルである。
図8図8は、図7の第1補正プロファイルの二次近似式である。
図9図9は、湾曲補正後の第2補正プロファイルである。
図10図10は、図9の一部を抽出した部分抽出プロファイルの一次近似式である。
図11図11は、傾き補正後の第3補正プロファイルである。
図12図12は、黒ムラ指数と発熱量との関係を示すグラフである。
図13図13は、保持時間(日数)と黒ムラ指数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、ここで開示される技術のいくつかの好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない非水電解液二次電池の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握されうる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において、範囲を示す「A~B」の表記は、A以上B以下の意と共に、「Aより大きい」および「Bより小さい」の意を包含するものとする。
【0016】
なお、本明細書において「非水電解液二次電池」とは、非水電解液を介して正極と負極の間で電荷担体が移動することによって繰り返し充放電が可能な蓄電デバイス全般をいう。非水電解液二次電池は、リチウムイオン二次電池等のいわゆる蓄電池と、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等のキャパシタと、を包含する概念である。
【0017】
<電池100>
図1は、非水電解液二次電池(以下、単に電池ともいう。)100の斜視図である。図2は、図1のII-II線に沿う模式的な縦断面図である。以下の説明において、図面中の符号L、R、F、Rr、U、Dは、左、右、前、後、上、下を表し、図面中の符号X、Y、Zは、電池100の短辺方向、短辺方向と直交する長辺方向、短辺方向および長辺方向と直交する上下方向を、それぞれ表すものとする。ただし、これらは説明の便宜上の方向に過ぎず、電池100の設置形態を何ら限定するものではない。
【0018】
図2に示すように、電池100は、電池ケース10と、電極体20と、正極端子30と、負極端子40と、正極集電部50と、負極集電部60と、正極絶縁部材70と、負極絶縁部材80と、非水電解液(図示せず)と、を備えている。電池100は、ここではリチウムイオン二次電池である。電池100は、リチウムイオン二次電池であることが好ましい。
【0019】
電池ケース10は、電極体20および非水電解液を収容する筐体である。図1に示すように、電池ケース10は、ここでは扁平かつ有底の直方体形状(角形)の外形を有する。電池ケース10の材質は、従来から使用されているものと同じでよく、特に制限はない。電池ケース10は、金属製であることが好ましく、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金等からなることがより好ましい。図2に示すように、電池ケース10は、開口12hを有する外装体12と、開口12hを塞ぐ封口板(蓋体)14と、を備えている。電池ケース10は、外装体12と封口板14とを備えることが好ましい。
【0020】
外装体12は、図1に示すように、略矩形状の底壁12aと、底壁12aの長辺から延び相互に対向する一対の長側壁12bと、底壁12aの短辺から延び相互に対向する一対の短側壁12cと、を備えている。底壁12aは、開口12hと対向している。長側壁12bの面積は、短側壁12cの面積よりも大きい。なお、本明細書において「略矩形状」とは、完全な矩形状(長方形状)に加えて、例えば、矩形状の長辺と短辺とを接続する角部がR状になっている形状や、角部に切り欠きを有する形状等をも包含する用語である。
【0021】
封口板14は、図1に示すように、平面視において略矩形状である。図2に示すように、封口板14は、外装体12の開口12hを塞ぐように外装体12に取り付けられている。封口板14は、外装体12の底壁12aと対向している。電池ケース10は、外装体12の開口12hの周縁に封口板14が接合(例えば溶接接合)されることによって、一体化されている。電池ケース10は、気密に封止(密閉)されている。
【0022】
封口板14には、図2に示すように、注液孔15と、ガス排出弁17と、2つの端子引出孔18、19と、が設けられている。注液孔15は、外装体12に封口板14を組み付けた後に非水電解液を注液するためのものである。封口板14には、注液孔15が設けられていることが好ましい。注液孔15は、封止部材16により封止されている。ガス排出弁17は、電池ケース10内の圧力が所定値以上になったときに破断して、電池ケース10内のガスを外部に排出するように構成されている。端子引出孔18、19は、封口板14の長辺方向Yの両端部(図2の左端部および右端部)にそれぞれ形成されている。端子引出孔18、19は、封口板14を厚み方向(上下方向Z)に貫通している。端子引出孔18、19は、それぞれ、封口板14に取り付けられる前の(かしめ加工前の)の正極端子30および負極端子40を挿通可能な大きさの内径を有する。
【0023】
正極端子30および負極端子40は、それぞれ電池ケース10の封口板14に固定されている。正極端子30は、封口板14の長辺方向Yの一方側(図1図2の左側)に配置されている。負極端子40は、封口板14の長辺方向Yの他方側(図1図2の右側)に配置されている。図2に示すように、正極端子30および負極端子40は、端子引出孔18、19を挿通して封口板14の内部から外部へと延びている。正極端子30および負極端子40は、封口板14に取り付けられていることが好ましい。正極端子30および負極端子40は、ここでは、かしめ加工により、封口板14の端子引出孔18、19を囲む周縁部分に、かしめられている。正極端子30および負極端子40の外装体12の側の端部(図2の下端部)には、かしめ部30c、40cが形成されている。
【0024】
図2に示すように、正極端子30は、電池ケース10の内部で、正極集電部50を介して電極体20の正極22(図4参照、詳しくは、正極タブ群23)と電気的に接続されている。正極端子30は、正極絶縁部材70およびガスケット90によって封口板14と絶縁されている。正極端子30は、金属製であることが好ましく、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることがより好ましい。
【0025】
負極端子40は、電池ケース10の内部で、負極集電部60を介して電極体20の負極24(図4参照、詳しくは、負極タブ群25)と電気的に接続されている。負極端子40は、負極絶縁部材80およびガスケット90によって封口板14と絶縁されている。負極端子40は、金属製であることが好ましく、例えば銅または銅合金からなることがより好ましい。負極端子40は、2つの導電部材が接合され一体化されて構成されていてもよい。負極端子40は、例えば、負極集電部60と接続される部分が銅または銅合金からなり、封口板14の外側の表面に露出する部分がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなっていてもよい。
【0026】
封口板14の外側の面には、板状の正極外部導電部材32および負極外部導電部材42が取り付けられている。正極外部導電部材32および負極外部導電部材42は、複数の電池100を相互に電気的に接続する際に、バスバーが付設される部材である。正極外部導電部材32は、正極端子30と電気的に接続されている。負極外部導電部材42は、負極端子40と電気的に接続されている。正極外部導電部材32および負極外部導電部材42は、外部樹脂部材92によって封口板14と絶縁されている。正極外部導電部材32および負極外部導電部材42は、金属製であることが好ましく、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることがより好ましい。ただし、正極外部導電部材32および負極外部導電部材42は必須ではなく、他の実施形態において省略することもできる。
【0027】
電極体20は、図2に示すように、電池ケース10の内部(詳しくは、外装体12の内部)に収容されている。1つの電池ケース10の内部に配置される電極体20の数は特に限定されず、1つであってもよく、2つ以上(複数)であってもよい。電極体20は、絶縁性の電極体ホルダに覆われた状態で、電池ケース10の内部に配置されていてもよい。言い換えれば、電極体20と電池ケース10(詳しくは、外装体12)との間には、電極体ホルダが介在されていてもよい。電極体ホルダは、例えば箱状で、その内部に電極体20が配置されていてもよい。電極体ホルダは、樹脂製が好ましい。
【0028】
図3は、電極体20を模式的に示す斜視図である。図4は、電極体20の構成を示す模式図である。図4に示すように、電極体20は、正極22と負極24とセパレータ26とを含んでいる。電極体20は、ここでは捲回電極体である。電極体20は、帯状の正極22と帯状の負極24とが帯状のセパレータ26を介して積層され、捲回軸WLを中心として捲回されて構成されている。特に限定されるものではないが、電極体20の捲回数は、好ましくは20ターン以上、より好ましくは30ターン以上、さらに好ましくは50ターン以上であって、例えば150ターン以下、100ターン以下でありうる。
【0029】
電極体20は、捲回電極体であることが好ましい。図3に示すように、電極体20が捲回電極体である場合、長辺方向Y(捲回軸WL方向)の両端部からしか非水電解液が供給されない。そのため、長辺方向Y(捲回軸WL方向)の中央Mを含む中央部には、とりわけ非水電解液が十分に浸透しにくい。したがって、長辺方向Yの中央部とその他の部分とで、被膜の形成状態(例えば量や質)にムラが生じやすくなる。したがって、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。
【0030】
図2図3からわかるように、電極体20は、ここでは捲回軸WLが長辺方向Yと略平行になる向きで、電池ケース10の内部に配置されている。捲回軸WL方向は、正極22、負極24、およびセパレータ26の幅方向であり、かつ、ここでは長辺方向Yと一致する方向である。電極体20は、捲回軸WLが底壁12aと平行になり、短側壁12cと直交する向きで電池ケース10の内部に配置されている。電池100は、ここでは、電極体20の捲回軸WL方向の両端(図2図3の左右端)に正極タブ群23と負極タブ群25とが位置する、所謂、横タブ構造である。
【0031】
図3に示すように、電極体20は、外形が扁平形状である。電極体20は、外形が扁平形状であることが好ましい。電極体20は、長辺方向Y(捲回軸WL方向)に沿って広がる一対の平坦部20fと、一対の平坦部20fを連結する一対の湾曲部(R部)20rと、を有している。平坦部20fは、平坦な外面(図3のYZ平面)を有する。湾曲部20rは、湾曲外面を有する。なお、本明細書において「平坦な外面」とは、完全な平坦に限られず、例えば微視的にみると、僅かな段差、湾曲、凹部、凸部等がある場合を包含する用語である。
【0032】
図1図3からわかるように、一対の平坦部20fは、外装体12の一対の長側壁12bに対向している。平坦部20fは、長側壁12bに沿って延びている。一対の湾曲部20rは、外装体12の底壁12aおよび封口板14と対向している。電極体20は、本実施形態のように、平坦部20fにおける正極22(図4参照)と負極24(図4参照)との積層方向(厚み方向)が、短辺方向X(長側壁12bに対して垂直な方向)と一致する向きで電池ケース10の内部に配置されていることが好ましい。
【0033】
正極22は、従来と同様でよく、特に制限はない。正極22は、図4に示すように、正極集電体22cと、正極集電体22cの少なくとも一方の表面上に固着された正極活物質層22aおよび正極保護層22pと、を有する。ただし、正極保護層22pは必須ではなく、他の実施形態において省略することもできる。正極集電体22cは、帯状である。正極集電体22cは、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性金属からなっている。正極集電体22cは、ここでは金属箔、具体的にはアルミニウム箔である。
【0034】
正極集電体22cの長辺方向Yの一方の端部(図4の左端部)には、複数の正極タブ22tが設けられている。複数の正極タブ22tは、長辺方向Yの一方側(図4の左側)に向かって突出している。複数の正極タブ22tは、セパレータ26よりも長辺方向Yに突出している。正極タブ22tは、ここでは正極集電体22cの一部であり、金属箔(アルミニウム箔)からなっている。正極タブ22tの少なくとも一部は、正極活物質層22aおよび正極保護層22pが形成されずに正極集電体22cが露出した集電体露出部である。図3に示すように、複数の正極タブ22tは、長辺方向Yの一方の端部(図3の左端部)で積層されて、正極タブ群23を構成している。正極タブ群23は、正極集電部50を介して正極端子30と電気的に接続されている。正極タブ群23には、正極集電部50の後述する正極第2集電部52が付設(詳しくは接合)されている。
【0035】
正極活物質層22aは、図4に示すように、帯状の正極集電体22cの長手方向に沿って、帯状に設けられている。正極活物質層22aは、電荷担体を可逆的に吸蔵および放出可能な正極活物質(例えば、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物)を含んでいる。正極活物質層22aは、正極活物質以外の任意成分、例えば、導電材、バインダ、各種添加成分等を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等の炭素材料を使用しうる。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を使用しうる。
【0036】
特に限定されるものではないが、図4に示すように、車載用等として用いられるような高容量タイプの電池100において、正極活物質層22aの捲回軸WL方向の幅(平均値、正極タブ22tに形成された部分は除く)、言い換えれば長辺方向Yの長さLcは、15cm以上が好ましく、20cm以上がより好ましく、25cm以上がさらに好ましい。
【0037】
正極保護層22pは、図4に示すように、長辺方向Yにおいて正極集電体22cと正極活物質層22aとの間に設けられている。正極保護層22pは、ここでは正極集電体22cの長辺方向Yの一方の端部(図4の左端部)に設けられている。正極保護層22pは、正極活物質層22aに沿って、帯状に設けられている。正極保護層22pは、無機フィラー(例えば、アルミナ)を含んでいる。正極保護層22pは、無機フィラー以外の任意成分、例えば、導電材、バインダ、各種添加成分等を含んでいてもよい。導電材およびバインダは、正極活物質層22aに含みうるとして例示したものと同じであってもよい。
【0038】
負極24は、図4に示すように、負極集電体24cと、負極集電体24cの少なくとも一方の表面上に固着された負極活物質層24aと、を有する。負極集電体24cは、帯状である。負極集電体24cは、例えば銅、銅合金、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性金属からなっている。負極集電体24cは、ここでは金属箔、具体的には銅箔である。
【0039】
負極集電体24cの長辺方向Yの一方の端部(図4の右端部)には、複数の負極タブ24tが設けられている。複数の負極タブ24tは、それぞれ長辺方向Yの一方側(図4の右側)に向かって突出している。複数の負極タブ24tは、セパレータ26よりも長辺方向Yに突出している。負極タブ24tは、負極集電体24cの一部であり、金属箔(銅箔)からなっている。負極タブ24tの少なくとも一部は、負極活物質層24aが形成されずに負極集電体24cが露出した集電体露出部である。図3に示すように、複数の負極タブ24tは、長辺方向Yの一方の端部(図3の右端部)で積層され、負極タブ群25を構成している。負極タブ群25は、負極集電部60を介して負極端子40と電気的に接続されている。負極タブ群25には、負極集電部60の後述する負極第2集電部62が付設(詳しくは接合)されている。
【0040】
負極活物質層24aは、図4に示すように、帯状の負極集電体24cの長手方向に沿って、帯状に設けられている。負極活物質層24aは、電荷担体を可逆的に吸蔵および放出可能な負極活物質(例えば、黒鉛等の炭素材料)を含んでいる。負極活物質層24aの固形分全体を100質量%としたときに、負極活物質は、概ね80質量%以上、典型的には90質量%以上、例えば95質量%以上を占めていてもよい。負極活物質層24aは、負極活物質以外の任意成分、例えば、バインダ、分散剤、各種添加成分等を含んでいてもよい。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム類を使用しうる。分散剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロール類を使用しうる。
【0041】
本実施形態において、負極活物質層24aは、ホウ素(B)元素を含む被膜(SEI膜)を備えている。このホウ素は、電池100の構築時に非水電解液に添加した被膜形成剤、詳しくは、ホウ素系添加剤に由来する成分である。上記被膜は、初期充電の際に分解されたホウ素系添加剤を含む分解生成物である。これにより、電池特性(例えば、出力特性、サイクル特性、耐久性等)を好適に向上できる。なお、ホウ素元素を含む被膜を備えていることは、例えば、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)発光分光分析や、イオンクロマトグラフィ、X線吸収微細構造解析(XAFS;X-ray Absorption Fine Structure)等の従来公知の手法により、B元素を検出することで確認できる。
【0042】
上述の通り、近年の高容量化された電極体20では、長辺方向Y(捲回軸WL方向、幅方向)の中央部まで添加剤が浸み込みにくくなっている。本発明者の検討によれば、これに起因して、長辺方向Yの中央部では、被膜の形成状態(例えば量や質)が他の部分と異なり、色ムラ(黒ムラ)となって現れる。すなわち、負極活物質層24aは、色ムラ(黒ムラ)を有する。本発明者は、この黒ムラの程度(濃淡)を、所定の手順によって得られる「黒ムラ指数」として規定し、数値化した。すると、詳しくは後述する実施例に記載するが、この黒ムラ指数と、電池100の発熱量との間には、正の相関が認められることがわかった。そのため、本実施形態では、負極活物質層24aの黒ムラ指数を、12以下としている。これにより、長辺方向Yの中央部における発熱を抑えて、電池100の熱安定性を向上できる。ひいては、過充電時等に電池100の温度上昇を抑制できる。
【0043】
なお、本明細書において、「黒ムラ指数」とは、電池100を解体して負極24を取り出した後、以下の(手順1)~(手順7)により求められる値をいう。すなわち、まず、(手順1)では、負極活物質層24aの長辺方向Yの中央部を含むように負極24の表面をカメラで撮影して、RGBカラーモデル(Red-Green-Blue color model)で表現された撮影画像データを取得する。撮影は、例えば市販のデジタルカメラで行いうる。本実施形態のように電極体20が捲回電極体である場合、最も非水電解液が浸透しにくいと考えられる短辺方向X(捲回軸WL方向に直交する厚み方向)の中央部、例えば、捲回始端部から5ターン以内(例えば3ターン目位)に位置する負極24の表面を撮影することが好ましい。
【0044】
次に、(手順2)では、例えば市販の画像解析ソフトを用いて、上記撮影画像データからRGB値のBlue成分のみを抽出し、黒を0、白を255とする256階調のグレースケールの画像データに変換する。次に、(手順3)では、上記グレースケールの画像データから、負極24の長辺方向Yに沿って、ラインプロファイルを抽出する。ラインプロファイルは、X軸を長辺方向Yの一方の端部からの距離、Y軸を上記256階調の値(グレー値)として表せる。本実施形態のように電極体20が扁平な捲回電極体である場合、非水電解液が浸透しにくい平坦部20f(図3のYZ平面)の中心部、すなわち、長辺方向Y(捲回軸WL方向)の中央部かつ上下方向Zの中央部を含むように、ラインプロファイルを抽出することが好ましい。
【0045】
次に、(手順4)では、まず、上記ラインプロファイルを線形近似(一次近似)し、一次近似式を算出する。そして、一次近似式の傾きで上記ラインプロファイルを傾き補正することによって、第1補正プロファイルを作成する。次に、(手順5)では、まず、上記第1補正プロファイルを二次近似し、二次近似式を算出する。そして、得られた二次近似式で上記第1補正プロファイルを湾曲補正することによって、第2補正プロファイルを作成する。そして、(手順6)では、まず、上記第2補正プロファイルから、上記Y軸の値が最も小さい(黒が最も濃い)極小点を通るピークを含むように、長辺方向Yの中央部分を所定の範囲で(例えば50ピクセル分)抽出し、部分抽出プロファイルを作成する。次に、部分抽出プロファイルを線形近似(一次近似)し、一次近似式を算出する。そして、一次近似式の傾きで上記部分抽出プロファイルを傾き補正することによって、第3補正プロファイルを作成する。次に、(手順7)では、第3補正プロファイルのうち上記極小点を通るピークを除いた部分をベース部としたときに、上記ベース部の上記Y軸の平均値(ベース値)と、上記極小点の上記Y軸の値との差分の絶対値を、黒ムラ指数として算出する。
【0046】
なお、被膜の色ムラ(黒ムラ)は、例えば目視でも識別しうるが、人間の目には個人差があるため、色ムラの有無の判定結果が人によって異なることが想定される。これに対して、ここに開示される技術のように撮影画像データに基づく客観的な数値(黒ムラ指数)を指標とする場合、相対的に精度のバラつきが生じにくい。また、人間の目では判別できないような色の違いをも識別しうる。したがって、安定して熱安定性を向上でき、信頼性の高い電池100を提供できる。
【0047】
黒ムラ指数は、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮する観点から、10以下が好ましく、9以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。黒ムラ指数は、例えば近年の高容量化された電池100において、典型的には1以上、2以上であり、例えば、4以上、5以上、6以上、7以上であってもよい。黒ムラ指数が所定値以上となるような態様では、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。なお、黒ムラ指数は、電池100の構築時の非水電解液の注液量や、非水電解液中の添加剤(ホウ素元素を含む化合物)の濃度のみならず、例えば後述する製造方法における初期充電後のエージング工程(工程5)の条件、特には保持時間によって、好適に調整できる。
【0048】
図4に示すように、負極活物質層24aの捲回軸WL方向の幅(平均値、負極タブ24tに形成された部分は除く)、言い換えれば長辺方向Yの長さLaは、典型的には、正極活物質層22aの長辺方向Yの長さLcと同じかそれよりも長い。長さLaは、高容量化の観点等から、15cm以上である。長さLaは、20cm以上が好ましく、25cm以上がより好ましい。長さLaが長いほど、長辺方向Yの中央部に非水電解液が浸透しにくく、被膜の状態(例えば量や質)にムラが生じやすくなる。したがって、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。長さLaは、例えば100cm以下、50cm以下であってもよい。これにより、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮できる。
【0049】
セパレータ26は、図4に示すように、正極22の正極活物質層22aと、負極24の負極活物質層24aと、を絶縁する部材である。セパレータ26の捲回軸WL方向の幅、言い換えれば長辺方向Yの長さLsは、典型的には、負極活物質層24aの長辺方向Yの長さLaと同じかそれよりも長い。セパレータ26としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂からなる樹脂製の多孔性シートが好ましい。セパレータ26は、樹脂製の多孔性シートからなる基材部の表面に、耐熱層(Heat Resistance Layer:HRL)や接着層を有していてもよい。耐熱層は、例えば、無機フィラーと、バインダと、を含む層である。接着層は、バインダを含む層である。耐熱層や接着層の構成は、従来と同様であってよい。
【0050】
正極集電部50は、図2に示すように、複数の正極タブ22tからなる正極タブ群23と、正極端子30とを電気的に接続する導通経路を構成している。正極集電部50は、正極集電体22cと同じ金属種、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性金属からなっていてもよい。正極集電部50は、正極第1集電部51と、正極第2集電部52と、を備えている。正極第1集電部51は、封口板14の内側の面に取り付けられている。正極第2集電部52は、外装体12の短側壁12cに沿って延びている。正極第2集電部52は、電極体20の正極タブ群23に付設されている。
【0051】
負極集電部60は、図2に示すように、複数の負極タブ24tからなる負極タブ群25と、負極端子40とを電気的に接続する導通経路を構成している。負極集電部60は、負極集電体24cと同じ金属種、例えば銅、銅合金、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性金属からなっていてもよい。負極集電部60は、負極第1集電部61と、負極第2集電部62と、を備えている。負極第1集電部61および負極第2集電部62の構成や配置は、正極集電部50の正極第1集電部51および正極第2集電部52と同等であってよい。負極第2集電部62は、電極体20の負極タブ群25に付設されている。
【0052】
正極絶縁部材70は、図2に示すように、封口板14と正極第1集電部51とを絶縁する部材である。正極絶縁部材70は、使用する電解液に対する耐性と電気絶縁性とを有し、弾性変形が可能な樹脂材料からなり、例えば、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂、四フッ化エチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)等のフッ素化樹脂や、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等からなることが好ましい。
【0053】
負極絶縁部材80は、図2に示すように、封口板14と負極第1集電部61とを絶縁する部材である。負極絶縁部材80は、電極体20の長辺方向Yの中央CLに対して、正極絶縁部材70と対称になるよう配置されている。負極絶縁部材80の材質や構成等は、正極絶縁部材70と同様であってよい。
【0054】
非水電解液は、典型的には、非水溶媒と、電解質塩(支持塩)と、を含んでいる。非水溶媒としては、従来、非水電解液二次電池に使用しうることが知られているものを、1種または2種以上使用することができる。非水溶媒の一例として、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒が挙げられる。非水溶媒は、カーボネート類を含むことが好ましい。カーボネート類としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状カーボネートや、プロピレンカーボネート(PC)等の環状カーボネートが挙げられる。
【0055】
電解質塩としては、電荷担体(典型的にはリチウムイオン)を含むものであれば特に限定されず、従来、非水電解液二次電池に使用しうることが知られているものを、1種または2種以上使用することができる。電解質塩の一例として、LiPF、LiBF等のフッ素含有リチウム塩が挙げられる。電解質塩は、LiPFを含むことが好ましい。
【0056】
非水電解液は、さらに添加的な成分(添加剤)を含んでもよい。添加剤としては、従来、非水電解液に添加しうることが知られているものを、1種または2種以上使用することができる。一例として、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiODFB)等の、ホウ素元素を含むホウ素系添加剤;ジフルオロリン酸リチウム(リチウムジフルオロホスフェート、LiPO)、リチウムジフルオロオキサレートホスフェート(LiDFOP)、(リチウム(フルオロスルホニル)(ジフルオロホスホニル)イミド)等の、リン素元素を含むリン系添加剤;フルオロスルホン酸リチウム(LiSOF)、リチウム=エチル=スルファート、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、(リチウム(フルオロスルホニル)(ジフルオロホスホニル)イミド)等の、硫黄元素を含む硫黄系添加剤;ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等の、カーボネート基(-O-(C=O)-O-)を含むカーボネート系添加剤、等が挙げられる。これらの添加剤は、初期充電の際、非水溶媒および/または電解質塩よりも先に(低電位で)分解して、負極活物質層24a等の表面に被膜となって堆積する、所謂、被膜形成剤でありうる。
【0057】
非水電解液は、ホウ素系添加剤(ホウ素元素を含む添加剤)を含むことが好ましい。これにより、電池特性、例えば、出力特性やサイクル特性(高出力維持率および/または高容量維持率)等を好適に向上できる。ホウ素系添加剤は、ホウ素元素を含むオキサラト錯体化合物(B元素含有オキサラト化合物)が好ましい。
【0058】
非水電解液は、ホウ素系添加剤に加えて、リン系添加剤、硫黄系添加剤およびカーボネート系添加剤のうちの少なくとも1つをさらに含むことが好ましい。なかでも、ホウ素系添加剤とカーボネート系添加剤とを併用することが好ましい。これにより、電池特性、例えば、出力特性やサイクル特性(高出力維持率および/または高容量維持率)等を一層向上できる。
【0059】
なお、非水電解液中の添加剤(例えば、上記したホウ素系添加剤、リン系添加剤、硫黄系添加剤、およびカーボネート系添加剤)は、典型的には、電池製造時の初期充電等によって電気的に分解されて、負極活物質層24a等に被膜を形成するために消費される。そのため、電池100の状態において、非水電解液には、上記したような添加剤が含まれて(残存して)いてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0060】
<電池100の製造方法>
電池100は、例えば、次の工程:電池組立体の構築工程(工程1)と、電解液含浸工程(工程2)と、初期充電工程(工程3)と、注液孔封止工程(工程4)と、エージング工程(工程5)とを、この順で含む製造方法によって製造することができる。ただし、電解液含浸工程(工程2)は任意であり、他の実施形態において省略することもできる。また、他の実施形態において、注液孔封止工程(工程4)とエージング工程(工程5)の順序は逆でもよい。また、任意の段階で、さらに他の工程を含んでもよい。
【0061】
構築工程(工程1)では、グローブボックス内で、電池ケース10に電極体20と非水電解液とを収容して、電池組立体を構築する。なお、本明細書において「電池組立体」とは、電池100の製造工程において、初期充電工程(工程3)を行う前の状態にまで組み立てられた中間物をいう。電極体20と非水電解液とを電池ケース10に収容する順序は、特に制限されない。例えば、電池ケース10に電極体20を収容した後、電池ケース10内に非水電解液を注液してもよい。
【0062】
好適な一実施形態において、本工程は、配置工程(工程1-1)と、溶接接合工程(工程1-2)と、乾燥工程(工程1-3)と、注液工程(工程1-4)とを、典型的にはこの順で含む。ただし、乾燥工程(工程1-3)は任意であり、他の実施形態において省略することもできる。また、他の実施形態において、溶接接合工程(工程1-2)と乾燥工程(工程1-3)の順序は逆でもよいし、溶接接合工程(工程1-2)と注液工程(工程1-4)の順序は逆でもよい。また、他の実施形態において、注液工程(工程1-4)は、多段階的に行ってもよい。また、任意の段階で、さらに他の工程を含んでもよい。
【0063】
配置工程(工程1-1)では、外装体12の内部に電極体20を配置する。詳しくは、開口12hから外装体12の内部に電極体20を収容する。次に、溶接接合工程(工程1-2)では、外装体12の開口12hの周縁に封口板14を溶接して、外装体12と封口板14とを一体化する。次に、乾燥工程(工程1-3)では、注液孔15を開いた状態で、電極体20が収容された外装体12を乾燥させ、外装体12の内部の水分を除去する。特には、電極体20内の水分を除去する。水分の除去は、加熱乾燥装置、真空乾燥装置等を用いて、加熱や減圧等の操作を単独でまたは適宜組み合わせて、従来と同様に行うことができる。加熱温度は、例えば減圧状態で適切に水分を蒸発させることができ、かつ電極体20のセパレータ等が熱劣化しない温度に設定することが好ましい。加熱温度は、例えば50~200℃の範囲内で設定しうる。
【0064】
次に、注液工程(工程1-4)では、まず非水電解液を調製する。非水電解液は、非水溶媒と電解質塩に加えて、ホウ素系添加剤を含む。特に限定されるものではないが、非水電解液全体に占めるホウ素系添加剤の割合は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。一方、電池抵抗の上昇を抑制するという観点から、非水電解液全体に占めるホウ素系添加剤の割合は、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
【0065】
非水電解液は、ホウ素系添加剤に加えて、さらに他の添加剤、例えば、上記したリン系添加剤、硫黄系添加剤、およびカーボネート系添加剤のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。各種添加剤の濃度は、それぞれ、ホウ素系添加剤の割合と同様であってよい。そして、調製した非水電解液を、封口板14の注液孔15から電池ケース10の内部に注液する。注液は、電極体20内への非水電解液の含浸性を向上させるため、電池ケース10内を減圧した状態で行うことが好ましい。
【0066】
電解液含浸工程(工程2)では、電池組立体の構築工程(詳しくは注液工程)の後、電池組立体に電解液を浸透させる。本工程では、浸透を促進するために、電池組立体を圧力調整可能なチャンバ内に収容し、注液孔15を開放した状態(言い換えれば、電池ケース10の内外の圧力差が無い状態)で、加圧および/または減圧を所定の回数、繰り返してもよい。これにより電極体20の内部、特には長辺方向Yの中央部に非水電解液をしっかり含浸させることができ、長辺方向Yにおける被膜のムラを、より一層低減できる。
【0067】
好適な一態様では、加圧と圧抜きとを所定の回数、繰り返す。加圧時の圧力は、例えば負極活物質層24aの長辺方向Yの長さLa等にもよるが、0.5MPa以上が好ましく、0.8MPa以上がより好ましい。加圧状態での保持時間は、例えば負極活物質層24aの長辺方向Yの長さLa等にもよるが、5分以上が好ましく、6分以上がより好ましい。加圧の後、圧抜きして常圧(約0MPa)に戻したら、常圧状態での保持時間は、1分以上が好ましい。加圧と圧抜きとを繰り返す回数は、10回以上が好ましく、15回以上がより好ましく、20回以上がさらに好ましい。本工程は、常温(例えば25℃±10℃、25℃±5℃程度)環境下で行ってもよい。
【0068】
初期充電工程(工程3)では、電解液含浸工程の後、電池組立体の充電状態(SOC;State of Charge)を、5~50%に調整する。電池組立体の充電は、従来と同様に行うことができる。典型的には、電池組立体の正極端子と負極端子との間に外部電源を接続し、所定の充電状態(SOC)となるまで充電を行う。充電状態(SOC)は、5~50%であれば特に限定されないが、添加剤を分解するのに必要な充電量を安定して確保する観点から、10%以上とすることが好ましく、15%以上とすることがより好ましい。また、本工程で(言い換えると、エージング工程(工程5)で被膜形成する前に)充電しすぎると、溶媒分解が促進される虞があることから、充電状態(SOC)は、40%以下とすることが好ましく、30%以下とすることがより好ましい。充電レートは、例えば、0.1C~2C程度としうる。充電は1回でもよく、例えば放電を挟んで、2回以上繰り返し行うこともできる。本工程は、常温(例えば25℃±10℃、25℃±5℃程度)環境下で行ってもよいし、例えば45℃程度の高温環境下で行ってもよい。高温環境下で充電を行うことにより、被膜形成を促進できる。
【0069】
初期充電により、非水電解液中の添加剤(少なくともホウ素系添加剤)が、典型的には非水電解液中の他の成分(非水溶媒や電解質塩)よりも先に電気分解される。これにより、負極活物質層24aの表面に、少なくともホウ素系添加剤の分解生成物を含んだ被膜(SEI膜)が形成される。
【0070】
注液孔封止工程(工程4)では、注液孔15を封止部材16で封止する。好適な一態様では、まず、初期充電工程の後、電池ケース10内の気体、例えば、空気や、初期充電工程で非水電解液が分解することによって発生したガス等を、電池ケース10の外部へと排気する。気体の排気は、例えば電池ケース10内を減圧することで行いうる。次に、電池ケース10内を常圧のまま、あるいは減圧した状態で、電池ケース10を気密に封止(密閉)する。
【0071】
エージング工程(工程5)では、初期充電後の電池組立体を、初期充電工程(工程3)で調整した充電状態(SOC)の状態、すなわちSOC5~50%の状態を維持したまま、50℃を超えかつ70℃以下の温度環境下において、24時間以上保持する。これにより、負極活物質層24aの被膜形成を助長して、長辺方向Yの黒ムラ指数を所定値以下に好適に調整できる。したがって、発熱が抑制され、熱安定性に優れた信頼性の高い電池100を好適に製造できる。なお、本工程は、例えば初期充電工程(工程3)の後、あるいは注液孔封止工程(工程4)の後に、概ね1日以内、例えば1時間以内に開始してもよい。初期充電工程(工程3)の後、あるいは注液孔封止工程(工程4)の後に、50℃以下の温度環境で保持する時間は、1日以内、例えば1時間以内であることが好ましい。
【0072】
電池組立体を上記の温度条件(高温条件)で保持する方法としては、従来公知の加熱手段を適宜用いることができる。例えば、所定の温度に設定した恒温槽(温度制御恒温槽)内に電池組立体を収容する、或いは、赤外線ヒーター等の加熱手段を用いて電池組立体を外部から加熱する、等の手段により行うことができる。電池組立体の保持温度は、50℃を超えかつ70℃以下であれば特に限定されないが、60~70℃とすることが好ましい。
【0073】
詳しくは後述する実施例に記載するが、本発明者の検討によれば、本工程の保持温度と、負極活物質層24aの黒ムラ指数との間には、負の相関がある。すなわち、本工程の保持温度が高くなるについて、黒ムラ指数が小さくなる傾向がある。そのため、保持温度を所定値以上とすることで、効率よく黒ムラ指数を低減できる。また、本工程の所要時間を短縮して、製造効率を高められる。さらに、上記温度範囲とすることで、初期充電工程(工程3)で分解しきれなかった添加剤の分解が促進され、負極活物質層24aの表面に良質な被膜を形成することができる。よって、熱安定性の優れた電池100を実現できる。
【0074】
電池組立体の保持時間は、24時間(1日)以上であれば特に限定されない。本発明者の検討によれば、本工程の保持時間と、負極活物質層24aの黒ムラ指数との間には、負の相関がある。すなわち、保持時間が長くなるについて、黒ムラ指数が小さくなる傾向がある。そのため、保持時間は、例えば、負極活物質層24aの長辺方向Yの長さLaや、電解液含浸工程(工程2)の条件等によっても異なりうるが、48時間(2日)以上がより好ましく、72時間(3日)以上がより好ましい。保持時間を所定の時間以上とすることで、負極活物質層24aの黒ムラ指数を、上記した範囲(例えば12以下)に調整しやすくなる。保持時間は、製造効率の観点から、240時間(10日)以内が好ましく、144時間(6日)以内がより好ましい。
【0075】
本工程は、電池組立体を拘束した状態で行うことが好ましい。これにより、気体(例えば空気や初期充電工程(工程3)で発生したガス)が電極体20内に噛み込むことを抑制できる。好適な一実施形態では、まず、一対の拘束板を備えたセル用プレス機を用意する。次に、初期充電後の電池組立体を、電池ケース10の一対の長側壁12bが拘束板と対向するように、一対の拘束板の間に配置し、この状態でプレス機によって短辺方向Xから電池組立体に拘束荷重を印加する。拘束荷重は、0.5kN以上が好ましく、1~15kNがより好ましく、3~10kNがさらに好ましい。ただし、本工程は、電池組立体を拘束しない状態(無拘束状態)で行ってもよい。以上のようにして、電池100を好適に製造できる。
【0076】
<電池100の検査方法>
上記製造方法の工程1~工程5を経た電池組立体ないし電池100に対しては、例えば抜き取り検査という形で、熱安定性の品質管理が行われうる。そこで、ここに開示される検査方法では、電池組立体に対して、さらに次の工程:電池組立体を充放電する充放電工程(工程6)と、電池組立体を解体する解体工程(工程7)と、負極活物質層24aの黒ムラ指数を算出する算出工程(工程8)とを、この順に行う。ただし、充放電工程(工程6)は任意であり、他の実施形態において省略することもできる。また、本実施形態では、さらに電池組立体の熱安定性を評価する評価工程(工程9)を行う。また、任意の段階で、さらに他の工程を含んでもよい。
【0077】
充放電工程(工程6)では、エージング工程後の電池組立体を少なくとも一回充放電する。特に限定されるものではないが、一例では、充電状態(SOC)が80%以上、好ましくは90%以上、例えば100%となるまで、電池組立体を充電し、充電状態(SOC)が20%以下、好ましくは10%以下、例えば0%となるまで、電池組立体を放電する。本工程は、電池組立体の容量確認工程としても把握されうる。充放電レートは、例えば、0.1C~2C程度としうる。充放電は1回でもよく、2回以上繰り返し行うこともできる。本工程は、常温(例えば25℃±10℃、25℃±5℃程度)環境下で行ってもよい。
【0078】
解体工程(工程7)では、充放電工程(ないしエージング工程)後の電池組立体を解体する。電池組立体の解体は、負極24の変質を避けるために、ドライエア(例えば、露点が-50℃程度)の雰囲気下、例えばグローブボックス内で行うことが好ましい。電池組立体は、例えばまず、電池ケース10をエンドミル等の工具やレーザ等で切断して、外装体12から封口板14を分離し、さらに外装体12の内部から電極体20を取り出すことで解体しうる。そして、取り出した電極体20の捲回を巻きほぐせば、正極22と負極24とセパレータ26とに分離できる。
【0079】
算出工程(工程8)では、解体工程の後、上述した(手順1)~(手順7)に従って、負極活物質層24aの黒ムラ指数を算出する。上述の通り、負極活物質層24aの黒ムラ指数と、電池100の発熱量との間には、正の相関がある。そのため、負極活物質層24aの黒ムラ指数を算出することで、電池100の熱安定性(発熱挙動)を予測ないし確認できる。また、例えば熱量計を用いて電池の発熱量を直接計測する場合に比べて、相対的に簡便に電池100の熱安定性(発熱挙動)を把握できる。
【0080】
評価工程(工程9)では、電池組立体ないし電池100の熱安定性を評価する。好適な一態様では、予備試験等によって、予め黒ムラ指数と電池100の発熱量との相関関係が、式(例えば、実施例に示す近似曲線)等で表されており、当該式に黒ムラ指数を代入することで、電池100の発熱量を予測する。また好適な他の一態様では、負極活物質層24aの黒ムラ指数に基づいて、良品判定を行う。例えば、負極活物質層24aの黒ムラ指数が、所定の値以下(例えば12以下)である場合に、良品と判定する。この場合、良品と判定された電池組立体は、発熱量が抑えられ、熱安定性のバラつきが少ないものとなりうる。これにより、電池100の発熱量の上限を好適にコントロールでき、信頼性の高い電池100を市場に供給できる。
【0081】
<電池100の用途>
電池100は各種用途に利用可能であるが、例えば、高容量で熱安定性にも優れることから、乗用車、トラック等の車両に搭載されるモータ用の動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、例えば、プラグインハイブリッド自動車(PHEV;Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV;Hybrid Electric Vehicle)、電気自動車(BEV;Battery Electric Vehicle)等が挙げられる。電池100は、複数の電池100を所定の配列方向に複数個並べて、配列方向から拘束機構で荷重を加えてなる組電池としても好適に用いることができる。
【0082】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に限定することを意図したものではない。
【0083】
≪試験例I(黒ムラ指数と電池の発熱量との相関)≫
まず、構築工程(工程1)では、扁平形状の捲回電極体と非水電解液とを電池ケースに収容して、電池組立体(例1~例6)を構築した。なお、負極活物質層の平坦部は、いずれも、捲回軸方向(幅方向)の長さを285mm、上下方向の長さ(高さ)を90mmとした。また、非水電解液としては、いずれも、エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、30:30:40の体積割合で含む混合溶媒に、ホウ素系添加剤としてのリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を0.8質量%と、カーボネート系添加剤としてのビニレンカーボネート(VC)を1.0質量%とを添加し、さらに電解質塩としてのLiPFを1.15mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。
【0084】
次に、電解液含浸工程(工程2)では、電極体全体に電解液が浸透するまで電池組立体を放置した。次に、初期充電工程(工程3)では、電池組立体をSOC12%(電圧:3.4V相当)まで定電流充電した。次に、注液孔封止工程(工程4)では、電池ケース内が常圧の状態で、注液孔を封止部材で封止した。次に、エージング工程(工程5)では、25℃の温度環境において、電池組立体に対して1kNの拘束荷重を加えた状態で、表1に示す保持時間、保持した。次に、充放電工程(工程6)では、電池組立体をSOC90%まで充電した後、SOC0%まで放電した。これにより、エージング工程の保持時間のみを異ならせた非水電解液二次電池(例1~例6)を構築した。
【0085】
次に、解体工程(工程7)では、各例の非水電解液二次電池をAr雰囲気のグローブボックス内で解体して、電池ケースから電極体を取り出した。そして、電池ケースから取り出した電極体の捲回を巻きほぐし、正極と負極とセパレータとを分離した。
【0086】
<黒ムラ指数の評価> 次に、算出工程(工程8)では、まず、デジタルカメラ(Canon製のPowerShot SX620 HS)を用い、負極活物質層の幅方向の略全体を含むように、負極の表面をカメラで撮影して、各例の撮影画像データを取得した(手順1)。なお、撮影位置は、捲回始端部から3ターン目に位置していた平坦部のうち、中心部(幅方向の中央部かつ上下方向の中央部)を含むように設定した。次に、市販の画像解析ソフトを用いて、上記撮影画像データからRGB値のBlue成分を抽出し、黒を0、白を255とする256階調のグレースケールの画像に変換した(手順2)。次に、上記グレースケールの画像データから、幅方向の中央部を含むように、幅方向に沿ってラインプロファイル(X軸:幅方向の一方の端部からの距離(ピクセル)、Y軸:上記256階調の値(グレー値))を抽出した(手順3)。なお、抽出位置は、ここでは上下方向の中央部とした。図5に、ラインプロファイルの一例を示す。
【0087】
次に、上記ラインプロファイルを線形近似し、一次近似式を算出した。図6に、図5のラインプロファイルの近似式を示す。この例では、一次近似式が、y=-0.3104x+153.72であった。そして、得られた傾き(-0.3104)で、上記ラインプロファイルを傾き補正した。具体的には、図5のラインプロファイルの各点のY軸の値から、傾き(-0.3104)とX軸の値との積をそれぞれ差し引いた。これにより、第1補正プロファイルを作成した(手順4)。図7に、第1補正プロファイルを示す。
【0088】
次に、上記第1補正プロファイルを二次近似し、二次近似式を算出した。図8に、図7の第1補正プロファイルの二次近似式を示す。この例では、二次近似式が、y=-0.0019x+0.4507x+135.69であった。そして、得られた二次近似式で、上記第1補正プロファイルを湾曲補正した。具体的には、図7のラインプロファイルの各点のY軸の値から、上記二次近似式に各X軸の値を代入して求めた値をそれぞれ差し引いた。これにより、第2補正プロファイルを作成した(手順5)。図9に、第2補正プロファイルを示す。
【0089】
次に、上記第2補正プロファイルから、Y軸の値が最も小さい極小点Minを通るピークPを含むように、極小点Minを中心として、上記X軸の中央部分(図9の枠内)を50ピクセル分、抽出した。そして、極小点MinのY軸の値をゼロ点合わせし、かつ極小点MinのX軸の値を中心合わせして、部分抽出プロファイルを作成した。図10に、図9の部分抽出プロファイルを示す。次に、上記部分抽出プロファイルを線形近似し、一次近似式を算出した。図9には、近似式をあわせて示している。この例では、一次近似式が、y=0.1878x-10.475であった。そして、得られた傾き(0.1878)で、上記部分抽出プロファイルを傾き補正した。具体的には、図10のラインプロファイルの各点のY軸の値から、傾き(0.1878)とX軸の値との積をそれぞれ差し引いた。これにより、第3補正プロファイルを作成した(手順6)。図11に、第3補正プロファイルを示す。次に、上記第3補正プロファイルのうち上記ピークPを除いた部分をベース部としたときに、上記ベース部の上記Y軸の平均値(ベース値、図11のBL)と、上記極小点の上記Y軸の値との差分の絶対値を、黒ムラ指数として算出した(手順7)。結果を表1に示す。
【0090】
<発熱量評価> まず、上記電極体の平坦部の中心部(幅方向の中央部かつ上下方向の中央部)から、正極活物質層と負極活物質層とを、それぞれ□30mm×30mmで切り出した。次に、正極活物質層(□30mm×30mm)1枚と、負極物質層(□30mm×30mm)1枚と、電解液250μLとを、試料容器に収容した。なお、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、EC:DMC:EMC=3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、電解質塩としてのLiPFを1.1mol/Lの濃度で溶解させたもの(添加剤は無添加のもの)を用いた。
【0091】
次に、この試料容器を、20MPaでプレス密閉した後、標準物質(Al、2mg)と共に、カルベ式熱量計(SETARAM社製、型式:CALVET HT)にセットした。そして、不活性雰囲気下で、25℃から400℃まで、下記の昇温プログラムで昇温し、75~200℃の間の発熱量(J)を積分によって求めた。結果を表1に示す。
〔昇温プログラム〕合計434分
(1)25℃~30℃ 昇温速度:1.5℃/分(4分)
(2)30℃キープ(60分)
(3)30℃~400℃ 昇温速度:1℃/分(370分)
【0092】
<有機被膜量の評価> 上記電極体の平坦部の中心部(幅方向の中央部かつ上下方向の中央部)から負極活物質層を□30mm×30mmのサイズに切り出し、水に浸漬して成分を抽出した。この抽出液をろ過した後、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance;NMR)装置にて、下記の条件で有機被膜量を測定した。結果を表1に示す。
装置:日本電子株式会社(JEOL)製 600MHz NMR
測定条件:1H-NMR
【0093】
【表1】
【0094】
図12に、負極活物質層の黒ムラ指数と電池の発熱量との関係を示す。図12に示すように、黒ムラ指数と発熱量との間には、正の相関が認められた。そして、黒ムラ指数が小さい(言い換えれば、黒色が薄い)場合、発熱量が少なく、熱安定性が高くなっていた。また、ここでは上記近似曲線に基づき、黒ムラ指数を12以下とすることで、発熱量を概ね20J以下に抑えることができ、電池の熱安定性を向上できることがわかった。
【0095】
図13に、保持時間(日数)と黒ムラ指数との関係を示す。図13に示すように、エージング工程(工程5)の保持時間が長くなるほど、負極活物質層の黒ムラ指数は小さくなっていた。すなわち、保持時間と黒ムラ指数との間には、負の相関が認められた。したがって、エージング工程における保持時間の長短によって、黒ムラ指数を好適に調整できることがわかった。エージング工程の保持温度が25℃である場合、黒ムラ指数を12以下とするためには、保持時間を3.5日以上とすることが必要であると考えられた。
【0096】
また、表1に示すように、黒ムラ指数が大きいと、有機被膜量が多くなっていることがわかった。また、黒ムラ指数と有機被膜量との間には、R=1の非常に強い正の相関が認められた。有機被膜量は、溶媒成分の分解等の副反応に起因するものと考えられる。このことから、エージング工程における保持時間が不足して、熟成が不十分であると、有機被膜量が増えて、被膜の「質」が低下し、その結果、黒ムラ指数が大きく(黒色が濃く)なって、熱安定性が低下していることが推察された。
【0097】
≪試験例II(例7~例9)≫
エージング工程の保持温度が25℃であると、黒ムラ指数を12以下とするためには、保持時間を3.5日以上とすることが必要であったことから、本試験例では、製造効率の向上を目的としてエージング工程の保持温度を60℃とした。そして、表2に示す保持時間、電池組立体を保持したこと以外は試験例Iと同様にして、負極活物質層の黒ムラ指数を算出した。結果を、表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
表2に示すように、エージング工程の保持温度を60℃とすることによって、25℃の場合と比べて、非常に短時間で黒ムラ指数を低減することが可能となった。すなわち、製造効率を劇的に向上できた。また、エージング工程の保持温度が60℃であれば、例7のように保持時間を24時間(1日)以上とすることで、黒ムラ指数を10以下とすることができ、例8のように保持時間を72時間(3日)以上とすることで、黒ムラ指数をさらに低い8以下とすることができた。
【0100】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、他にも種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を他の変形例に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形例を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【0101】
例えば、上記した実施態様では、電極体20が、捲回電極体であった。しかしこれには限定されない。他の実施形態において、電極体20は、複数枚の方形状の正極と、複数枚の方形状の負極とが、セパレータを介して絶縁された状態で積層されてなる積層型電極体であってもよい。この場合、電解液が浸み込みにくい「幅方向の中央部」は、方形の一辺の幅方向(矩形状の場合は、好ましくは長辺方向)の中央部となる。
【0102】
例えば、上記した実施態様では、電極体20が、捲回軸WL方向の両端に正極タブ群23と負極タブ群25とが位置する、所謂、横タブ構造であり、捲回軸WL方向が長辺方向Yと一致するように、電池ケース10に収容されていた。しかしこれには限定されない。他の実施形態において、電池100は、電極体20の捲回軸WL方向の一端(例えば、図2図3の上端)に正極タブ群23と負極タブ群25とが位置する、所謂、上タブ構造であってもよい。この場合、捲回軸WL方向は、上下方向Zと一致する方向であってもよい。またこの場合、電解液が浸み込みにくい「幅方向の中央部」は、上下方向Zの中央部となる。
【0103】
以上の通り、ここで開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
項1:正極活物質層を有する正極と負極活物質層を有する負極とを含む電極体と、非水電解液と、上記電極体と上記非水電解液とを収容する電池ケースと、を備え、上記負極活物質層は、幅が15cm以上であり、ホウ素元素を含む被膜を備え、かつ、上記(手順1)~(手順7)によって求められる黒ムラ指数が、12以下である、非水電解液二次電池。
項2:上記電極体は、帯状の上記正極と帯状の上記負極とが、帯状のセパレータを介して積層され、捲回されてなる捲回電極体であり、上記捲回電極体の捲回軸方向における上記負極活物質層の幅が、15cm以上である、項1に記載の非水電解液二次電池。
項3:上記非水電解液が、ホウ素元素を含む添加剤を含む、項1または項2に記載の非水電解液二次電池。
項4:上記黒ムラ指数が、5以上である、項1~項3のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池。
項5:正極活物質層を有する正極と負極活物質層を有する負極とを含む電極体と、非水電解液と、上記電極体と上記非水電解液とを収容する電池ケースと、を備え、上記負極活物質層の幅が15cm以上である、非水電解液二次電池の製造方法であって、上記電極体を、溶媒と電解質塩とホウ素元素を含む化合物とを含む非水電解液と共に、上記電池ケースに収容して、電池組立体を構築する構築工程と、上記電池組立体の充電状態(SOC)を、5~50%に調整する初期充電工程と、上記初期充電工程の後、上記電池組立体を、上記充電状態が5~50%の状態にて、50℃を超えかつ70℃以下の温度条件下で、24時間以上放置するエージング工程と、を含む、非水電解液二次電池の製造方法。
項6:上記エージング工程の上記温度条件を、60℃以上70℃以下とする、項5に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
項7:正極活物質層を有する正極と負極活物質層を有する負極とがセパレータを介して積層された電極体と、溶媒と電解質塩とホウ素元素を含む化合物とを含む非水電解液とを、電池ケースに収容して、電池組立体を構築する構築工程と、上記電池組立体の充電状態(SOC)を、5~50%に調整する初期充電工程と、上記初期充電工程の後、上記電池組立体を、上記充電状態が5~50%の状態にて、50℃を超えかつ70℃以下の温度条件下で、24時間以上放置するエージング工程と、上記エージング工程後の上記電池組立体を解体する解体工程と、上記解体工程の後、上記(手順1)~(手順7)によって、上記負極活物質層の黒ムラ指数を求める算出工程と、を含む、非水電解液二次電池の検査方法。
【符号の説明】
【0104】
10 電池ケース
20 電極体(捲回電極体)
22 正極
24 負極
24a 負極活物質層
24c 負極集電体
26 セパレータ
100 電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13