IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧

特開2024-12384光透過性導電フィルムおよび調光フィルム
<>
  • 特開-光透過性導電フィルムおよび調光フィルム 図1
  • 特開-光透過性導電フィルムおよび調光フィルム 図2
  • 特開-光透過性導電フィルムおよび調光フィルム 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012384
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】光透過性導電フィルムおよび調光フィルム
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20240123BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20240123BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20240123BHJP
   G02F 1/1343 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
H01B5/14 A
B32B7/025
G02F1/13 505
G02F1/1343
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023183876
(22)【出願日】2023-10-26
(62)【分割の表示】P 2019548353の分割
【原出願日】2019-07-17
(31)【優先権主張番号】P 2018147710
(32)【優先日】2018-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】藤野 望
(72)【発明者】
【氏名】梨木 智剛
(57)【要約】
【課題】熱安定性が良好であり、調光機能のばらつきを低減することができる光透過性導電フィルムおよび調光フィルムを提供する。
【解決手段】本発明の光透過性導電フィルム1は、光透過性基材2と、光透過性導電層3とを備える。光透過性導電層3は、結晶質領域および非晶質領域を有する。光透過性導電層3における結晶粒の最大長は200nm以下であり、光透過性導電層3を大気雰囲気で80℃、240時間の条件で加熱した際における結晶粒の最大長は、200nm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性基材と、光透過性導電層とを備える光透過性導電フィルムであって、
前記光透過性導電層は、結晶質領域および非晶質領域を有し、
前記光透過性導電層における結晶粒の最大長が、200nm以下であり、
前記光透過性導電層を大気雰囲気で80℃、240時間の条件で加熱した際における結晶粒の最大長が、200nm以下であることを特徴とする、光透過性導電フィルム。
【請求項2】
前記光透過性導電層における結晶質領域の面積割合が、25%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の光透過性導電フィルム。
【請求項3】
前記光透過性導電フィルムにおける透過率Tと、前記光透過性導電フィルムを大気雰囲気で80℃、240時間の条件で加熱した際における透過率Tとの変化率が、1.0%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の光透過性導電フィルム。
【請求項4】
調光用光透過性導電フィルムである、請求項1に記載の光透過性導電フィルム。
【請求項5】
第1の光透過性導電フィルムと、調光機能層と、第2の光透過性導電フィルムとを順に備え、
前記第1の光透過性導電フィルムおよび/または前記第2の光透過性導電フィルムは、請求項1に記載の光透過性導電フィルムであることを特徴とする、調光フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性導電フィルム、および、それを備える調光フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、冷暖房負荷の低減や意匠性などから、スマートウインドウなどに代表される調光装置の需要が高まっている。調光装置は、建築物や乗物の窓ガラス、間仕切り、インテリアなどの種々の用途に用いられている。
【0003】
調光装置に用いるフィルムとしては、例えば、特許文献1に、2つの透明導電性樹脂基材と、2つの透明導電性樹脂基材に挟持された調光層とを備え、調光層が樹脂マトリックスと光調整用懸濁液と含み、透明導電性樹脂基材の厚さが20~80μmである調光フィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
特許文献1の調光フィルムは、電界の印加によって調光層を通過する光の吸収・散乱を調整することにより、調光を可能にしている。このような調光フィルムの透明導電性樹脂基材には、ポリエステルフィルムなどの支持基材に、インジウムスズ複合酸化物(ITO)からなる透明導電層を積層させたフィルムが採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2008/075773
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ITOなどの透明導電材料は、その形成過程により、結晶構造または非晶質構造(アモルファス)を有する。例えば、スパッタリングなどの乾式方法により透明導電層(光透過性導電層)を支持基材に形成する場合は、非晶質の透明導電層が形成される。そして、非晶質の透明導電層は、熱によって、結晶質の透明導電層へと転化する。
【0007】
一般的に、結晶質の透明導電層は、非晶質の透明導電層と比較して、液体(特に、水性液体)をはじき易い。そのため、結晶質の透明導電層の表面に調光層を配置すると、透明導電層が、調光層に含まれる液体をはじく。その結果、調光層の厚みが不均一になり、調光機能にばらつきが生じる不具合が生じる。
【0008】
また、調光フィルムは、外気または日光に長期間暴露されるため、熱により、局部的にまたは全面的に、結晶質へと自然転化し、光透過率が変化する。そのため、調光フィルム面内において透明度のムラが生じる不具合が生じる。すなわち、熱安定性に劣る。
【0009】
本発明は、熱安定性が良好であり、調光機能のばらつきを低減することができる光透過性導電フィルムおよび調光フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明[1]は、光透過性基材と、光透過性導電層とを備える光透過性導電フィルムであって、前記光透過性導電層は、結晶質領域および非晶質領域を有し、前記光透過性導電層における結晶粒の最大長が、200nm以下であり、前記光透過性導電層を大気雰囲気で80℃、240時間の条件で加熱した際における結晶粒の最大長が、200nm以下である、光透過性導電フィルムを含んでいる。
【0011】
本発明[2]は、前記光透過性導電層における結晶質領域の面積割合が、25%以下である、[1]に記載の光透過性導電フィルムを含んでいる。
【0012】
本発明[3]は、前記光透過性導電フィルムにおける透過率Tと、前記光透過性導電フィルムを大気雰囲気で80℃、240時間の条件で加熱した際における透過率Tとの変化率が、1.0%以下である、[1]または[2]に記載の光透過性導電フィルムを含んでいる。
【0013】
本発明[4]は、調光用光透過性導電フィルムである、[1]~[3]に記載の光透過性導電フィルムを含んでいる。
【0014】
本発明[5]は、第1の光透過性導電フィルムと、調光機能層と、第2の光透過性導電フィルムとを順に備え、前記第1の光透過性導電フィルムおよび/または前記第2の光透過性導電フィルムは、[1]~[4]のいずれか一項に記載の光透過性導電フィルムである、調光フィルムを含んでいる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光透過性導電フィルムおよび調光フィルムによれば、調光機能層を光透過性導電層に均一に配置することができ、調光機能のばらつきを低減することができる。また、長期加熱保存しても、光透過性導電層の光透過率の変化を抑制することができるため、熱安定性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の光透過性導電フィルムの一実施形態の断面図を示す。
図2図2A-Bは、図1に示す光透過性導電フィルムの拡大図を示し、図2Aは、断面図、図2Bは、平面図を示す。
図3図3は、図1に示す光透過性導電フィルムを備える調光フィルムの断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1において、紙面上下方向は、上下方向(厚み方向、第1方向)であって、紙面上側が、上側(厚み方向一方側、第1方向一方側)、紙面下側が、下側(厚み方向他方側、第1方向他方側)である。また、紙面左右方向および奥行き方向は、上下方向に直交する面方向である。具体的には、各図の方向矢印に準拠する。
【0018】
1.光透過性導電フィルム
本発明の一実施形態である光透過性導電フィルム1は、例えば調光装置に用いられるフィルムである。光透過性導電フィルム1は、図1に示すように、所定の厚みを有するフィルム形状(シート形状を含む)をなし、上下方向(厚み方向)と直交する面方向に延び、平坦な上面(厚み方向一方面)および平坦な下面(厚み方向他方面)を有する。光透過性導電フィルム1は、例えば、調光フィルム7(後述、図3参照)および調光装置(後述)などの一部品であり、つまり、調光フィルム7および調光装置ではない。すなわち、光透過性導電フィルム1は、調光フィルム7および調光装置を作製するための部品であり、調光機能層8などを含まず、部品単独で流通し、産業上利用可能なデバイスである。
【0019】
具体的には、光透過性導電フィルム1は、光透過性基材2と、光透過性導電層3とを上下方向に備える。つまり、光透過性導電フィルム1は、光透過性基材2と、光透過性基材2の上側に配置される光透過性導電層3とを備える。好ましくは、光透過性導電フィルム1は、光透過性基材2と、光透過性導電層3とのみからなる。以下、各層について詳述する。
【0020】
2.光透過性基材
光透過性基材2は、光透過性導電フィルム1の最下層であって、光透過性導電フィルム1の機械的強度を確保する支持材である。
【0021】
光透過性基材2は、フィルム形状(シート形状を含む)を有している。
【0022】
光透過性基材2は、例えば、有機フィルム、無機板(ガラス板など)からなる。光透過性基材2は、好ましくは、有機フィルム、より好ましくは、高分子フィルムからなる。有機フィルムは、水や有機ガスを含有しているため、光透過性導電層3の加熱による結晶性を抑制し、結晶質領域4の拡大を抑制することができる。
【0023】
高分子フィルムは、光透過性および可撓性を有する。高分子フィルムの材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、例えば、ポリメタクリレートなどの(メタ)アクリル樹脂(アクリル樹脂および/またはメタクリル樹脂)、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマーなどのオレフィン樹脂、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。これら高分子フィルムは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0024】
光透過性基材2は、光透過性、可撓性、機械的強度などの観点から、好ましくは、ポリエステル樹脂から形成されるポリエステル系フィルムが挙げられ、より好ましくは、ポリエチレンテレフタレートフィルムが挙げられる。
【0025】
光透過性基材2の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、80%以上、好ましくは、85%以上である。
【0026】
光透過性基材2の厚みは、例えば、2μm以上、好ましくは、20μm以上、より好ましくは、40μm以上であり、また、例えば、300μm以下、好ましくは、200μm以下である。光透過性基材2の厚みは、例えば、膜厚計を用いて測定することができる。
【0027】
光透過性基材2の下面には、セパレータなどが設けられていてもよい。
【0028】
3.光透過性導電層
光透過性導電層3は、必要により後の工程でエッチングによりパターニングすることができる導電層である。
【0029】
光透過性導電層3は、フィルム形状(シート形状を含む)を有しており、光透過性基材2の上面全面に、光透過性基材2の上面に接触するように、配置されている。
【0030】
光透過性導電層3の材料としては、例えば、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、Wからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む金属酸化物が挙げられる。金属酸化物には、必要に応じて、さらに上記群に示された金属原子をドープしていてもよい。
【0031】
光透過性導電層3としては、好ましくは、導電性金属酸化物が挙げられ、具体的には、例えば、インジウムスズ複合酸化物(ITO)などのインジウム系導電性酸化物、例えば、アンチモンスズ複合酸化物(ATO)などのアンチモン系導電性酸化物などが挙げられる。光透過性導電層3は、表面抵抗を低下させる観点、および、優れた光透過性を確保する観点から、インジウム系導電性酸化物を含有し、より好ましくは、インジウムスズ複合酸化物(ITO)を含有する。すなわち、光透過性導電層3は、好ましくは、インジウム系導電性酸化物層であり、より好ましくは、ITO層である。
【0032】
光透過性導電層3の材料としてITOを用いる場合、酸化スズ(SnO)含有量は、酸化スズおよび酸化インジウム(In)の合計量に対して、例えば、0.5質量%以上、好ましくは、3質量%以上、より好ましくは、8質量%以上であり、また、例えば、25質量%以下、好ましくは、15質量%以下、より好ましくは、13質量%以下である。酸化スズの含有量が上記下限以上であれば、光透過性導電層3の低抵抗を実現しつつ、結晶質への転化をより確実に抑制できる。また、酸化スズの含有量が上記上限以下であれば、光透過性や抵抗の安定性を向上させることができる。
【0033】
本明細書中における「ITO」とは、少なくともインジウム(In)とスズ(Sn)とを含む複合酸化物であればよく、これら以外の追加成分を含んでもよい。追加成分としては、例えば、In、Sn以外の金属元素が挙げられ、具体的には、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、W、Fe、Pb、Ni、Nb、Cr、Gaなどが挙げられる。
【0034】
光透過性導電層3は、結晶質領域4および非晶質領域5を有する。すなわち、光透過性導電層3は、半結晶質である。
【0035】
結晶質領域4は、光透過性導電層3を形成する材料(例えば、ITO)が、結晶質となっている平面視領域である。すなわち、結晶質領域4は、結晶粒6を含有している。結晶質領域4では、上下方向の一部に結晶粒6が存在していればよく(図2AのA部)、必ずしも、上下方向全体に亘って結晶粒6が存在する状態(図2AのB部)である必要はない。
【0036】
非晶質領域5は、結晶質領域4以外の領域であって、光透過性導電層3を形成する材料(例えば、ITO)が非晶質(アモルファス)状態である平面視領域である。すなわち、非晶質領域5では、結晶粒6が存在していない。
【0037】
光透過性導電層3は、結晶質領域4および非晶質領域5を併有することによって、結晶質領域4を全く有しない完全非晶質状態から、結晶質領域4が発生する際に生じる不具合(大きな光透過性の変動)を抑制することができる。また、光透過性導電層3は、少なくとも一部(本実施形態では大部分)に、柔軟性のある非晶質領域5を有することによって、製造時や搬送時の衝撃によるクラックを抑制することができる。また、光透過のムラの発生や調光機能の不具合の発生を抑制することができる。
【0038】
光透過性導電層3(加熱前)において、結晶質領域4に存在する結晶粒6の最大長は、200nm以下、好ましくは、170nm以下、より好ましくは、150nm以下、さらに好ましくは、120nm以下、とりわけ好ましくは、80nm以下、特に好ましくは、60nm以下、最も好ましくは、45nm以下である。最大長の下限は、例えば、0.1nm以上、好ましくは、1nm以上である。結晶粒の最大長が上記上限以下であれば、光透過性導電層3の結晶粒6の成長を抑制でき、長期加熱保存後の光透過率の変化を低い範囲で抑制することができ、耐久性に優れる。
【0039】
なお、結晶粒6の最大長とは、結晶質領域4内に存在する全ての結晶粒6の中で、結晶粒6の長さ(各結晶粒6がとり得る最大の平面視長さ)が最大のものを示す(図2B参照)。
【0040】
光透過性導電層3において、結晶質領域4の占める面積は、例えば、0.01%以上、好ましくは、0.1%以上、より好ましくは、0.5%以上、さらに好ましくは、1%以上であり、また、例えば、25%以下、好ましくは、20%以下、より好ましくは、15%以下、さらに好ましくは、10%以下、特に好ましくは、5%以下である。結晶質領域の面積が上記範囲あれば、長期加熱保存後の光透過率の変化をより一層抑制することができる。
【0041】
非晶質領域5の占める面積は、例えば、75%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、85%以上、さらに好ましくは、90%以上、特に好ましくは、95%以上であり、また、例えば、99.99%以下、好ましくは、99.9%以下、より好ましくは、99.5%以下、さらに好ましくは、99%以下である。
【0042】
結晶質領域4および非晶質領域5の面積、ならびに、結晶粒6の最大長は、例えば、光透過性導電層3の上面を、透過型電子顕微鏡を用いて、100,000倍の画像に拡大して観察することにより測定することができる。
【0043】
光透過性導電層3を高温処理した際において、すなわち、高温処理済光透過性導電層において、結晶粒6の最大長は、200nm以下、好ましくは、170nm以下、より好ましくは、150nm以下、さらに好ましくは、120nm以下、特に好ましくは、100nm以下、最も好ましくは、80nm以下であり、また、例えば、0.1nm以上、好ましくは、1nm以上である。
【0044】
また、その際において、結晶質領域4の占める面積は、例えば、0.5%以上、好ましくは、1%以上であり、また、例えば、60%以下、好ましくは、50%以下、より好ましくは、40%以下、さらに好ましくは、30%以下、特に好ましくは、20%以下、とりわけ好ましくは、15%以下、最も好ましくは、5%以下である。
【0045】
高温処理した際における結晶粒6の最大長または結晶質領域4の面積が、上記範囲であれば、長期加熱保存後の光透過率の変化を非常に低い範囲で抑制することができ、熱安定性に優れる。
【0046】
本発明において、高温処理とは、光透過性導電層3(ひいては、光透過性導電フィルム1)を大気環境下、80℃で240時間加熱する処理をいう。加速高温処理として、大気雰囲気下、140℃、30分間の加熱条件を採用することもできる。
【0047】
光透過性導電層3は、好ましくは、不純物元素を含んでいる。不純物元素としては、光透過性導電層3を形成する際に使用するスパッタガス由来の元素(例えば、Ar元素)、光透過性基材2に含有される水や有機ガス由来の元素(例えば、H元素、C元素)が挙げられる。これらを含有することにより、光透過性導電層3の結晶質領域4の面積をより低減することができる。
【0048】
光透過性導電層3の厚みは、例えば、10nm以上、好ましくは、30nm以上、より好ましくは、50nm以上であり、また、例えば、200nm以下、好ましくは、150nm以下、より好ましくは、80nm以下である。
【0049】
光透過性導電層3の厚みは、例えば、透過型電子顕微鏡を用いた断面観察により測定することができる。
【0050】
光透過性導電層3の比抵抗は、例えば、6.5×10-4Ω・cm以下、好ましくは、6.0×10-4Ω・cm以下、より好ましくは、5.5×10-4Ω・cm以下、さらに好ましくは、5.0×10-4Ω・cm以下、特に好ましくは、4.6×10-4Ω・cm以下であり、また、例えば、2.5×10-4Ω・cm以上、好ましくは、3.0×10-4Ω・cm以上である。光透過性導電層3の比抵抗値が上記上限以下であれば、大型の調光装置として用いた場合でも、良好な電気駆動を実現できる。また、比抵抗値が上記下限以上であれば、光透過性導電層3の非晶質性をより確実に維持できる。
【0051】
比抵抗は、光透過性導電層3の表面抵抗値と厚みの積から求めることができ、光透過性導電層3の表面抵抗値は、4端子法により測定することができる。
【0052】
4.光透過性導電フィルムの製造方法
次に、光透過性導電フィルム1を製造する方法について説明する。
【0053】
光透過性導電フィルム1は、光透過性基材2を用意し、光透過性導電層3を光透過性基材2の上面に形成することにより得られる。
【0054】
例えば、光透過性導電層3を光透過性基材2の上面に、乾式により、配置(積層)する。
【0055】
乾式としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などが挙げられる。好ましくは、スパッタリング法が挙げられる。
【0056】
スパッタリング法は、真空装置のチャンバー内にターゲットおよび被着体(光透過性基材2)を対向配置し、ガスを供給するとともに電圧を印加することによりガスイオンを加速しターゲットに照射させて、ターゲット表面からターゲット材料をはじき出して、そのターゲット材料を被着体表面に積層させる。
【0057】
スパッタリング法としては、例えば、2極スパッタリング法、ECR(電子サイクロトロン共鳴)スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などが挙げられる。好ましくは、マグネトロンスパッタリング法が挙げられる。
【0058】
スパッタリング法に用いる電源は、例えば、直流(DC)電源、交流中周波(AC/MF)電源、高周波(RF)電源、直流電源を重畳した高周波電源のいずれであってもよい。
【0059】
ターゲットとしては、光透過性導電層3を構成する上述の金属酸化物が挙げられる。例えば、光透過性導電層3の材料としてITOを用いる場合、ITOからなるターゲットを用いる。ターゲットにおける酸化スズ(SnO)含有量は、酸化スズおよび酸化インジウム(In)の合計量に対して、例えば、0.5質量%以上、好ましくは、5質量%以上、より好ましくは、10質量%を超過し、また、例えば、25質量%以下、好ましくは、15質量%以下である。
【0060】
スパッタリング時の電圧は、例えば、200V以上、好ましくは、300V以上、より好ましくは、400V以上であり、また、例えば、800V以下、好ましくは、600V以下である。電圧を上記範囲に示す高電圧にすれば、光透過性導電層3内部に、不活性ガス、水などの不純物を適量に存在させることができ、その結果、結晶質領域4の面積を低減したり、結晶粒6の粒径(特に、最大長)を小さくすることができる。
【0061】
スパッタリング時の温度(具体的には、光透過性基材2の温度)は、例えば、100℃以下、好ましくは、50℃以下、より好ましくは、0℃未満であり、また、例えば、-20℃以上である。成膜温度が上記上限以下であれば、光透過性導電層3の結晶質領域4の発生をより確実に低減することができる。
【0062】
スパッタリング時の気圧は、例えば、1.0Pa以下、好ましくは、0.5Pa以下であり、また、例えば、0.01Pa以上である。
【0063】
導入されるガスとしては、例えば、Arなどの不活性ガスが挙げられる。また、好ましくは、酸素ガスなどの反応性ガスを併用する。反応性ガスの流量の、不活性ガスの流量に対する比(反応性ガスの流量(sccm)/不活性ガスの流量(sccm))は、例えば、0.025以上、好ましくは、0.03以上であり、また、例えば、0.05以下である。
【0064】
水の分圧比(水/全圧)は、例えば、0.02以上、好ましくは、0.05以上であり、また、例えば、0.10以下である。
【0065】
反応ガスの流量比や水の分圧比が上記下限以上であれば、光透過性導電層3内部の水分などの不純物を適量に存在させることができ、その結果、結晶質領域4の面積を低減したり、結晶粒6の粒径(特に、最大長)を小さくすることができる。
【0066】
これによって、光透過性基材2と、光透過性導電層3とを備える光透過性導電フィルム1を得る。
【0067】
光透過性導電フィルム1の総厚みは、例えば、2μm以上、好ましくは、20μm以上であり、また、例えば、300μm以下、好ましくは、200μm以下である。
【0068】
光透過性導電フィルム1における光透過率Tは、例えば、50%以上、好ましくは、70%以上である。上記光透過率Tは、後述する長期加熱保存前の光透過性導電フィルム1における光透過率である。
【0069】
光透過性導電フィルム1を長期加熱保存した際において、すなわち、長期加熱済光透過性導電フィルムにおいて、その光透過率Tは、50%以上、好ましくは、70%以上である。
【0070】
透過率Tと、透過率Tとの変化率ΔTは、例えば、1.5%以下、好ましくは、1.0%以下、より好ましくは、0.8%以下、さらに好ましくは、0.5%以下である。上記変化率ΔTが上記範囲であれば、光透過性導電フィルム1を長期使用しても、光透過率の変化が低減されるため、光透過率のムラを抑制することができる。
【0071】
変化率ΔTは、「{(T-T)/T}×100%」の式により、算出することができる。
【0072】
本発明において、長期加熱保存とは、光透過性導電フィルム1を大気環境下、80℃で240時間加熱する処理をいう。
【0073】
そして、この光透過性導電フィルム1では、光透過性導電層3が、結晶質領域4および非晶質領域5を有し、光透過性導電層3における結晶粒6の最大長が、200nm以下である。
【0074】
したがって、調光機能層8を光透過性導電層3表面に均一に塗布できたり、調光機能層8内部の透過性導電層表面上の気泡の形成を抑制できる。よって、調光機能層8を均一に配置することができ、調光機能のばらつきを低減することができる。これは、結晶質領域4において、液体をはじき易い結晶粒6が特定以下の大きさになっているため、すなわち、液体をはじく構成単位が細分化されているため、調光機能層8を構成する溶液がはじかれる面積が低減していることによるものと推察される。
【0075】
また、光透過性導電層3を大気雰囲気で80℃、240時間の条件で加熱した際における結晶粒の最大長が、200nm以下である。
【0076】
そのため、長期加熱保存しても、光透過性導電層3の光透過率の変化を抑制することができ、光透過性における熱安定性が良好である。これは、結晶質領域4において、結晶粒6が上記特定以下の大きさとなっているため、結晶粒6の拡大および増加が抑制されており、結晶質領域4(非晶質領域5とは異なる光透過率を備える領域)が大きく拡張されていないことによるものと推察される。
【0077】
また、光透過性導電フィルム1は、結晶質領域4および非晶質領域5を有するため、すなわち、結晶質領域4よりも柔軟性を備える非晶質領域5を一部(本実施形態では大部分)に有するため、耐クラック性などに優れる。
【0078】
この光透過性導電フィルム1は、産業上利用可能なデバイスである。
【0079】
なお、この光透過性導電フィルム1は、必要に応じてエッチングを実施して、光透過性導電層3を、所定形状にパターニングすることができる。これにより、光透過性導電層3を透明電極、透明配線などにすることができる。このような光透過性導電フィルム1は、タッチパネル用の透明導電性フィルムとして使用してもよい。
【0080】
5.調光フィルム
次に、光透過性導電フィルム1を用いて調光フィルム7を製造する方法について図3を参照して説明する。
【0081】
調光フィルム7の製造方法は、例えば、光透過性導電フィルム1を2つ製造する工程と、次いで、調光機能層8を2つの光透過性導電フィルム1によって挟む工程とを備える。
【0082】
まず、上記した光透過性導電フィルム1を2つ製造する。なお、1つの光透過性導電フィルム1を切断加工して、2つの光透過性導電フィルム1を用意することもできる。
【0083】
2つの光透過性導電フィルム1は、第1の光透過性導電フィルム1A、および、第2の光透過性導電フィルム1Bである。
【0084】
次いで、例えば、湿式により、第1の光透過性導電フィルム1Aにおける光透過性導電層3の上面(表面)に調光機能層8を形成する。
【0085】
例えば、液晶組成物またはその溶液を、第1の光透過性導電フィルム1Aにおける光透過性導電層3の上面に塗布して、塗膜を形成する。液晶組成物は、調光用途に使用できるものであれば限定的でなく、公知のものが挙げられ、例えば、特開平8-194209号公報に記載の液晶分散樹脂が挙げられる。
【0086】
続いて、第2の光透過性導電フィルム1Bを塗膜の上面に、第2の光透過性導電フィルム1Bの光透過性導電層3と塗膜とが接触するように、積層する。これによって、2つの光透過性導電フィルム1、つまり、第1の光透過性導電フィルム1Aおよび第2の光透過性導電フィルム1Bによって、塗膜を挟み込む。
【0087】
その後、塗膜に対して、必要に応じて適宜の処理(例えば、熱乾燥処理、光硬化処理)を施して、調光機能層8を形成する。調光機能層8は、第1の光透過性導電フィルム1Aの光透過性導電層3と、第2の光透過性導電フィルム1Bの光透過性導電層3との間に配置される。
【0088】
これによって、第1の光透過性導電フィルム1Aと、調光機能層8と、第2の光透過性導電フィルム1Bとを順に備える調光フィルム7を得る。
【0089】
調光フィルム7は、電源(図示せず)および制御装置(図示せず)を装着することにより、例えば、電界駆動型の調光装置(図示せず)として用いられる。電界駆動型の調光装置では、電源によって、第1の光透過性導電フィルム1Aにおける光透過性導電層3と、第2の光透過性導電フィルム1Bにおける光透過性導電層3とに電圧が印加され、それによって、それらの間において電界が発生する。そして、制御装置に基づいて、上記した電界が制御されることによって、それらの間に位置する調光機能層8が、配向状態または不規則状態となって、光を透過させる、または、遮断する。
【0090】
そして、この調光フィルム7は、光透過性導電フィルム1を備えているため、均一な調光機能層8を備えることができ、調光機能のばらつきを低減することができる。また、長期加熱保存しても、光透過性導電層3の光透過率の変化を抑制することができるため、熱安定性が良好である。
【0091】
6.変形例
図1の実施形態では、光透過性基材2の上面に光透過性導電層3が直接配置されているが、例えば、図示しないが、光透過性基材2の上面および/または下面に、機能層を設けることができる。
【0092】
すなわち、例えば、光透過性導電フィルム1は、光透過性基材2と、光透過性基材2の上面に配置される機能層と、機能層の上面に配置される光透過性導電層3とを備えることができる。また、例えば、光透過性導電フィルム1は、光透過性基材2と、光透過性基材2の上面に配置される光透過性導電層3と、光透過性基材2の下面に配置される機能層とを備えることができる。また、例えば、光透過性基材2の上側および下側に、機能層と光透過性導電層3とをこの順に備えることもできる。
【0093】
機能層としては、易接着層、アンダーコート層、ハードコート層などが挙げられる。易接着層は、光透過性基材2と光透過性導電層3との密着性を向上させるために設けられる層である。アンダーコート層は、光透過性導電フィルム1の反射率や光学色相を調整するために設けられる層である。ハードコート層は、光透過性導電フィルム1の耐擦傷性を向上するために設けられる層である。これらの機能層は、1種単独であってもよく、2種以上併用してもよい。
【実施例0094】
以下、本発明に関し、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【0095】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0096】
実施例1
厚み188μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを準備し、光透過性基材とした。
【0097】
PETフィルムをロールトゥロール型スパッタリング装置に設置し、真空排気した。その後、ArおよびOを導入した真空雰囲気(気圧0.2Pa)において、DCマグネトロンスパッタリング法により、厚み65nmのITOからなる光透過性導電層を形成した。これにより、光透過性導電フィルムを製造した。
【0098】
スパッタリング条件は、下記の通りとした。ターゲットとして、13質量%の酸化スズと87質量%の酸化インジウムとの焼結体を用いた。スパッタリング電圧は、400Vとした。光透過性基材の温度は、-5℃に冷却した。Ar流量に対するO流量の比(O/Ar)は、0.03とした。真空雰囲気の水分圧比(HO/全圧)は、0.06とした。
【0099】
実施例2
スパッタリング条件を表1に記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、光透過性導電フィルムを製造した。
【0100】
比較例1
スパッタリング条件を表1に記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、光透過性導電フィルムを製造した。ただし、光透過性導電層の厚みは、25nmとした。
【0101】
(評価)
(1)厚み
光透過性基材の厚みは、膜厚計(尾崎製作所社製、装置名「デジタルダイアルゲージ DG-205」)を用いて測定した。光透過性導電層の厚みは、透過型電子顕微鏡(日立製作所製、装置名「HF-2000」)を用いた断面観察により測定した。
【0102】
(2)加熱前における結晶粒
各実施例および各比較例の光透過性導電フィルムにおいて、透過型電子顕微鏡(日立社製、「H-7650」)を用いて、光透過性導電層の上面を観察し、倍率:100,000倍の平面画像を得た。この画像から、光透過性導電層全体に対する結晶質領域の面積割合、および、結晶粒の最大長さを測定した。結果を表1に示す。
【0103】
(3)比抵抗
各光透過性導電フィルムにおいて、光透明導電層の上面の表面抵抗値を4端子法にて測定し、この表面抵抗値と上記厚みとの積により、比抵抗を算出した。結果を表1に示す。
【0104】
(4)高温処理後における結晶粒の観察
各光透過性導電フィルムを、大気環境下で、80℃で240時間加熱した。この高温処理済みの光透過性導電フィルムにおいて、上記(2)の測定と同様にして、結晶質領域の面積割合、および、結晶粒の最大長さを測定した。その結果を表1に示す。
【0105】
(5)熱安定性
ヘーズメーター(スガ試験機社製、装置名「HGM-2DP)を用いて、各光透過性導電フィルムの全光線透過率を測定して、長期加熱保存前の光透過率Tとした。
【0106】
次いで、各光透過性導電フィルムを大気環境下で80℃、240時間の条件で、加熱した。この光透過性導電フィルムの全光線透過率を上記と同様に測定して、長期加熱保存後の光透過率Tとした。
【0107】
加熱前後の変化率ΔTを「{(T-T)/T}×100%」の式により、算出した。ΔTが0.5%以下である場合を◎と評価し、ΔTが0.5%を超過し、1.0%以下である場合を〇と評価し、ΔTが1.0%を超過し、1.5%以下である場合を△と評価し、ΔTが2.0%を超過する場合を×と評価した。結果を表1に示す。
【0108】
(6)調光機能層の均一性
調光機能層用の液晶組成物として、ネマチック液晶と樹脂と水とを混合した水性塗工液を用意し、この水性塗工液を、各実施例および各比較例の光透過性導電フィルムの光透過化性導電層の上面に、厚み20μmとなるように均一に塗布した。
【0109】
このときの液晶組成物が均一に光透過性導電層の上面に配置された場合を〇と評価した。光透過性導電層の上面の一部に液晶組成物が配置されず、ムラが生じていた場合を×と評価した。
【0110】
【表1】
【0111】
なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記の請求の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の光透過性導電フィルムおよび調光フィルムは、各種の工業製品に適用することができる。例えば、建築物や乗物の窓ガラス、間仕切り、インテリアなどの種々の用途に用いられる。
【符号の説明】
【0113】
1 光透過性導電フィルム
2 光透過性基材
3 光透過性導電層
4 結晶質領域
5 非晶質領域
6 結晶粒
7 調光フィルム
8 調光機能層
図1
図2
図3