(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123847
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】塗装構造、及び照明器具
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20240905BHJP
F21S 8/08 20060101ALI20240905BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240905BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240905BHJP
C09D 5/03 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C09D201/00
F21S8/08 100
C23C26/00 A
C09D5/00 D
C09D5/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031597
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】723014807
【氏名又は名称】岩崎電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 幸一
(72)【発明者】
【氏名】大室 正
(72)【発明者】
【氏名】井上 誠人
(72)【発明者】
【氏名】番場 広之
(72)【発明者】
【氏名】石井 裕昭
【テーマコード(参考)】
4J038
4K044
【Fターム(参考)】
4J038HA066
4J038MA02
4J038NA03
4J038PA02
4J038PA07
4J038PB09
4J038PC02
4K044AA06
4K044AB02
4K044BA11
4K044BA21
4K044BB03
4K044BB04
4K044BC02
4K044CA16
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】塗装される部材に対する防食性の向上を図ることができる塗装構造、及び照明器具を提供する。
【解決手段】塗装構造20は、アルミニウム、またはアルミニウム合金で形成される基材22の表面に、化成被膜24が形成され、化成被膜24の表面に下塗り塗膜32が形成され、下塗り塗膜32の表面に亜鉛を含む塗膜が形成され、亜鉛を含む塗膜の表面に上塗り塗膜36が形成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、またはアルミニウム合金で形成される基材の表面に、化成被膜が形成され、
前記化成被膜の表面に下塗り塗膜が形成され、
前記下塗り塗膜の表面に亜鉛を含む塗膜が形成され、
前記亜鉛を含む塗膜の表面に上塗り塗膜が形成される
ことを特徴とする塗装構造。
【請求項2】
前記亜鉛を含む塗膜の亜鉛の含有量が60%以上70%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の塗装構造。
【請求項3】
前記下塗り塗膜と、前記上塗り塗膜の少なくともいずれか一方が粉体塗料で形成される
ことを特徴とする請求項2に記載の塗装構造。
【請求項4】
前記化成被膜は、ジルコニウム被膜である
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の塗装構造。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載の塗装構造を備える
ことを特徴とする照明器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装構造、及び照明器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海上、海岸等の塩分が付着しやすい環境、その他、例えば塩酸蒸気などが空気中に含まれる雰囲気である腐食性雰囲気において、アルミニウムやアルミニウム合金で形成される部材に塗料を塗装することで、当該部材の防食性を向上させる塗装構造が知られている(例えば、特許文献1)。
このような塗装構造には、亜鉛を含む塗料を塗装することで、アルミニウムやアルミニウム合金で形成される部材の防食性を向上させるものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-230219号公報
【特許文献2】特開2021-98331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の塗装構造では、アルミニウムやアルミニウム合金で形成される部材に対して、十分な防食性が得られない虞があった。
本発明は、塗装される部材に対する防食性の向上を図ることができる塗装構造、及び照明器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、アルミニウム、またはアルミニウム合金で形成される基材の表面に、化成被膜が形成され、前記化成被膜の表面に下塗り塗膜が形成され、前記下塗り塗膜の表面に亜鉛を含む塗膜が形成され、前記亜鉛を含む塗膜の表面に上塗り塗膜が形成されることを特徴とする塗装構造である。
【0006】
他の一態様は、前記亜鉛を含む塗膜の亜鉛の含有量が60%以上70%以下であることを特徴とする。
【0007】
他の一態様は、上記塗装構造において、前記下塗り塗膜と、前記上塗り塗膜の少なくともいずれか一方が粉体塗料で形成されることを特徴とする。
【0008】
他の一態様は、上記塗装構造において、前記化成被膜は、ジルコニウム被膜であることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様は、上記塗装構造を備えることを特徴とする照明器具である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塗装される部材に対する防食性との向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る照明器具を示す図である。
【
図3】実験1における、各サンプルを示す図である。
【
図4】実験2における、各サンプルを示す図である。
【
図5】実験3における、各サンプルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る照明器具1を示す図である。
図1に示すように、照明器具1は、器具本体10と、クランプ5と、を備え、この器具本体10が、道路脇、街路脇、駐車場、公園等の屋外の地面に立設された支柱2の先端部2Aにクランプ5に支持させて設置されることで形成される屋外照明器具である。
【0013】
器具本体10は、アルミニウム合金のダイキャスト成型によって、平面視において略矩形状に形成される。器具本体10は、内部空間を備え、この内部空間には、例えばLEDやランプ等の光源が収められている。また器具本体10の下面には、内部空間に連通する開口が設けられる。この開口には、当該開口全体を覆うカバーガラス8が嵌め込まれる。
【0014】
本実施形態の照明器具1は、支柱2に固定される支持部材として、クランプ5を備える。
クランプ5は、器具本体10の外側に設けられる筒形状を備える。当該クランプ5に支柱2の先端が挿通されることで、器具本体10は、支柱2に取り付けられる。
支柱2は、直管状のポール型(ストレート型とも呼ばれる)に形成される。なお、支柱2の高さは、設置箇所や用途に応じて適宜に調整してもよい。また例えば、支柱2は、ストレート型以外でもよい。
【0015】
図2は、器具本体10の塗装構造20を示す断面図である。
図2では、塗装構造20の厚さ方向に沿う平面での縦断面を示す。
本実施形態の器具本体10は、
図2に示すように、基材22の表面に化成被膜24が形成され、当該化成被膜の表面に、複数の塗膜が層状に形成されるように、塗料が塗装されることで形成される塗装構造20を備える。
【0016】
本実施形態の器具本体10において、基材22には、アルミニウム合金であるADC12が用いられる。なお、基材22には、ADC12に限らず、アルミニウムやアルミニウム合金で形成されるものであればどのような材料が用いられてもよい。
基材22の表面には、化成被膜処理によって、化成被膜24が形成される。本実施形態では、基材22には、ジルコン処理によって、ジルコニウム化合物から成る化成被膜24が形成される。この化成被膜24は、例えば酸化ジルコニウムである。
これによって、基材22では、耐食性の向上を図ることができる。
【0017】
器具本体10において、化成被膜24の表面には、塗膜層30が形成される。
塗膜層30は、複数の塗料が層状に塗装されることで形成される。塗膜層30は、下塗り塗膜32と、亜鉛含有塗膜34と、上塗り塗膜36とを備える。
【0018】
化成被膜24の表面には、下塗り塗膜32が形成される。下塗り塗膜32は、溶剤塗料が化成被膜24に塗装されることで形成される溶剤塗料層である。本実施形態では、下塗り塗膜32を形成する溶剤塗料には、密着性、及び防錆性を備えるエポキシ樹脂系塗料が用いられる。塗装構造20において、下塗り塗膜32は、所謂プライマ層を形成する。
なお、下塗り塗膜32を形成する溶剤塗料には、エポキシ樹脂系塗料に限らず、アクリル樹脂や、ポリエステル樹脂等の任意の樹脂を含む塗料が用いられてもよい。
【0019】
下塗り塗膜32の表面には、亜鉛含有塗膜34が形成される。亜鉛含有塗膜34は、亜鉛、及び亜鉛化合物を含む溶剤塗料が下塗り塗膜32に塗装されることで形成される溶剤塗料層である。本実施形態では、亜鉛含有塗膜34を形成する溶剤塗料には、エポキシ樹脂系塗料が用いられる。
亜鉛含有塗膜34を形成する溶剤塗料には、質量分率において、亜鉛、及び亜鉛化合物の含有量が60~80%程度のものが用いられる。本実施形態において、当該塗料には、質量分率で、亜鉛が60~70%程度含まれ、酸化亜鉛が1~10%程度含まれる。
なお、亜鉛含有塗膜34を形成する溶剤塗料には、エポキシ樹脂系塗料に限らず、アクリル樹脂や、ポリエステル樹脂等の任意の樹脂を含む塗料が用いられてもよい。
亜鉛含有塗膜34は、「亜鉛を含む塗膜」の一例に相当する。
【0020】
亜鉛含有塗膜34の表面には、上塗り塗膜36が形成される。上塗り塗膜36は、粉体塗料が亜鉛含有塗膜34に塗装されることで形成される粉体塗料層である。本実施形態では、上塗り塗膜36を形成する粉体塗料には、密着性、及び防錆性を備えるポリエステル樹脂系塗料が用いられる。
【0021】
このように、塗装構造20では、上塗り塗膜36に粉体塗料が用いられることで、当該塗装構造を形成する場合に、作業性の向上を図ることができる。
また、塗装構造20では、下塗り塗膜32と、亜鉛含有塗膜34とに溶剤塗料が用いられることで、塗装構造20の厚さ寸法の増加を抑制できる。
なお、塗装構造20において、下塗り塗膜32と、亜鉛含有塗膜34と、上塗り塗膜36との各々は、例えばスプレー塗装やハケ塗り、電着塗装や静電塗装等、どのような塗装方法で形成されてもよい。
【0022】
本実施形態の照明器具1は、海に近い位置に配置されると、塩分を含む水分が付着することがある。すなわち、本実施形態の照明器具1は、塩分を含む、所謂腐食性雰囲気下に配置される場合がある。
本実施形態の器具本体10は、塗装構造20を備える。この塗装構造20は、亜鉛、及び亜鉛化合物を含む亜鉛含有塗膜34を備える。
【0023】
ここで、標準酸化還元電位に基づく金属のイオン化傾向において、アルミニウムは、亜鉛に対し、イオン化傾向が大となる。
しかしながら、海水中等のような腐食性雰囲気下においては、アルミと亜鉛のイオン化傾向が逆転する。すなわち、亜鉛は、アルミに対してイオン化傾向が大となる。このため、腐食性雰囲気下において、アルミニウムと亜鉛とが接触すると、亜鉛の腐食が促進され、アルミニウムが陰極防食される。
【0024】
また、発明者らは、アルミニウムで形成される基材において、亜鉛を含む塗料を用いて、当該基材の腐食の程度についての実験を実施した。そして、この実験により、発明者らは、亜鉛を含む塗料が塗装される場合に、アルミニウムで形成される基材の腐食が見られない、という結果を得た。この理由は、腐食性雰囲気下においては、亜鉛を含む塗料の腐食が促進され、これにより基材の腐食が抑えられたためである。
【0025】
さらに、発明者らは、上述した実験により、質量分率で亜鉛が60~70%程度含まれる塗料が塗装される場合に、アルミニウムで形成される基材の腐食が見られない、という結果を得た。
加えて、発明者らは、上述した実験により、厚さ方向において、亜鉛を含む塗料が他の塗料に挟み込まれるように基材に塗装されることで、基材に塗装される塗料が基材から剥がれ落ちることが抑制される、という結果を得た。
【0026】
このように、塗装構造20では、例えば塩分が付着する腐食性雰囲気下において、亜鉛含有塗膜34に含まれる亜鉛の腐食が促進される。これによって、塗装構造20では、亜鉛の犠牲防食効果によって、基材22が陰性防食される。このため、塗装構造20、及び照明器具1では、耐食性の向上を図ることができる。
【0027】
本実施形態において、亜鉛含有塗膜34を形成する溶剤塗料には、質量分率で、亜鉛が60~70%程度含まれる。これによって、塗装構造20、及び照明器具1では、耐食性の向上を図ることができる。
【0028】
本実施形態において、塗装構造20は、塗膜層30を備える。この塗膜層30は、基材22側から順に、下塗り塗膜32と、亜鉛含有塗膜34と、上塗り塗膜36とが形成される。すなわち、塗装構造20の厚さ方向において、亜鉛含有塗膜34は、下塗り塗膜32と、上塗り塗膜36とに挟み込まれて形成される。
これによって、塗装構造20、及び照明器具1では、塗膜層30が基材22から剥がれ落ちることが抑制される。すなわち、塗装構造20、及び照明器具1では、基材22に対する塗膜層30の付着性の向上を図ることができる。
【0029】
次いで、発明者らが行った実験について説明する。
発明者らは、アルミニウム合金であるADC12の表面に酸化ジルコニウムの化成被膜を形成し、当該化成被膜に塗装される塗料の種類を変化させることで形成される塗装構造の各々についての比較実験である実験1~3を行った。発明者らは、これらの実験結果に基づいて、塗装構造の各々の耐食性、及び付着性について評価した。
【0030】
[実験1:塩水噴霧試験]
図3は、実験1における、サンプルS1~S7を示す図である。
図3では、実験1の実施後におけるサンプルの各々の状態を撮影した画像を示す。
図3に示すように、実験1において、発明者らは、異なる塗膜層を備えるサンプルS1~S7を用いた。
【0031】
サンプルS1は、化成被膜に第1溶剤塗料を塗装したものである。
サンプルS2は、化成被膜にカチオン電着によって、第1溶剤塗料を塗装したものである。
サンプルS3は、化成被膜に第1溶剤塗料とは異なる溶剤塗料である第2溶剤塗料を塗装したものである。
サンプルS4は、化成被膜に第1溶剤塗料、及び第2溶剤塗料とは異なる溶剤塗料である第3溶剤塗料を塗装して下塗り塗膜を形成したものである。
サンプルS5は、化成被膜に第1溶剤塗料~第3溶剤塗料とは異なる溶剤塗料である第4溶剤塗料を塗装して下塗り塗膜を形成したものである。
【0032】
サンプルS6は、化成被膜に第1溶剤塗料を塗装し、当該第1溶剤塗料で形成された下塗り塗膜に、亜鉛を含有する溶剤塗料である第1亜鉛含有溶剤塗料を塗装して中塗り塗膜を形成したものである。
サンプルS7は、化成被膜に第1溶剤塗料を塗装し、当該第1溶剤塗料で形成された下塗り塗膜に、第1溶剤塗料~第4溶剤塗料とは異なる溶剤塗料である第5溶剤塗料を塗装して中塗り塗膜を形成したものである。
第1溶剤塗料~第5溶剤塗料は、いずれも密着性、防錆性を備えるエポキシ樹脂系塗料である。
【0033】
サンプルS1~S5には、下塗り塗膜に粉体塗料を塗装することで、上塗り塗膜が形成される。
サンプルS6と、サンプルS7とには、中塗り塗膜に粉体塗料を塗装して、上塗り塗膜が形成される。粉体塗料は、ポリエステル樹脂系塗料である。
なお、各サンプルにおいて、サンプルS2における下塗り塗膜以外の塗膜の各々は、スプレー塗装によって形成されたものである。
【0034】
発明者らは、これらのサンプルS1~S7に対して、JIS-Z-2371に準じて、塩水噴霧試験を行った。塩水噴霧試験(SST)においては、サンプルS1~S7の塗膜に対して、人工の傷となるクロスカットを行った。
当該塩水噴霧試験において、発明者らは、800時間、1000時間、1300時間、1500時間の各々が経過するごとに、塗膜に生じた膨れの長さ寸法を計測した。この膨れとは、各サンプルにおいて、塗膜層の少なくとも一部が基材から剥がれることで、外方に膨出した箇所である。
【0035】
塩水噴霧試験の結果を
図3に示す。
図3に示すように、サンプルS3、サンプルS5、サンプルS6では、1500時間が経過した場合であっても、塗膜に生じた膨れの長さ寸法が5mm以下となった。
サンプルS3では、粘着テープを貼って剥がしたところ、塗料の剥がれが生じた。
【0036】
[実験2:複合サイクル試験]
図4は、実験2における、サンプルS1、サンプルS4~S7を示す図である。
図4では、実験2の実施後におけるサンプルの各々の状態を撮影した画像を示す。
図4に示すように、実験2には、実験1で用いた、サンプルS1、サンプルS4~S7を用いた。
発明者らは、これらのサンプルS1~S7に対して、JIS-H-8502に準じて、複合サイクル試験(CCT)を行った。複合サイクル試験においては、サンプルS1、サンプルS4~S7の塗膜に対して、人工の傷となるクロスカットを行った。
当該複合サイクル試験において、発明者らは、試験サイクル回数が100回、120回、160回、180回の各々の時点で、塗膜に生じた膨れの長さ寸法を計測した。
【0037】
複合サイクル試験の結果を
図4に示す。
図4に示すように、サンプルS3、サンプルS5、サンプルS6では、試験サイクル回数が180回行われた場合であっても、塗膜に生じた膨れの長さ寸法が5mm以下となった。
【0038】
実験1、実験2の結果から、アルミニウム合金の表面に酸化ジルコニウムの化成被膜を形成し、溶剤塗料から成る下塗り塗膜、亜鉛含有塗料から成る中塗り塗膜、粉体塗料から成る上塗り塗膜を形成することで、より高い耐食性を備える塗装構造が形成されることが示唆される。
【0039】
[実験3:耐沸騰水性試験]
図5は、実験3における、サンプルS6、サンプルS8~S18を示す図である。
図5では、実験3の実施前と実施後とにおけるサンプルの各々の状態を撮影した画像を示す。
図5に示すように、実験3には、異なる塗膜層を備えるサンプルS6、サンプルS8~S18を用いた。
サンプルS6は、実験1、2で用いたサンプルS6と同一である。
【0040】
サンプルS8は、化成被膜に亜鉛を含有する粉体塗料である第1亜鉛含有粉体塗料を塗装して下塗り塗膜を形成したものである。第1亜鉛含有塗料は、質量分率で亜鉛が60~70%程度含まれる。
サンプルS9は、化成被膜に亜鉛を含有する粉体塗料である第2亜鉛含有塗料を塗装して下塗り塗膜を形成したものである。第2亜鉛含有塗料は、質量分率で亜鉛が40~50%程度含まれる。
サンプルS10は、化成被膜に亜鉛を含有する粉体塗料である第3亜鉛含有塗料を塗装して下塗り塗膜を形成したものである。第3亜鉛含有塗料は、質量分率で亜鉛が20~30%程度含まれる。
サンプルS8~サンプルS10は、下塗り塗膜に粉体塗料を塗装することで、上塗り塗膜が形成される。粉体塗料は、ポリエステル樹脂系塗料である。
【0041】
サンプルS11は、化成被膜に亜鉛を含有する溶剤塗料である第1亜鉛含有溶剤塗料を塗装して下塗り塗膜を形成したものである。第1亜鉛含有塗料は、質量分率で亜鉛が60~70%程度含まれる。
サンプルS12は、化成被膜に亜鉛を含有する溶剤塗料である第2亜鉛含有溶剤塗料を塗装して下塗り塗膜を形成したものである。第2亜鉛含有塗料は、質量分率で亜鉛が40~50%程度含まれる。
サンプルS13は、化成被膜に亜鉛を含有する溶剤塗料である第3亜鉛含有溶剤塗料を塗装して下塗り塗膜を形成したものである。第3亜鉛含有塗料は、質量分率で亜鉛が20~30%程度含まれる。
サンプルS14は、化成被膜に亜鉛を含有する溶剤塗料である第4亜鉛含有溶剤塗料を塗装して下塗り塗膜を形成したものである。第4亜鉛含有溶剤塗料は、質量分率で亜鉛が60~70%程度含まれる。
サンプルS11~サンプルS14には、下塗り塗膜に粉体塗料を塗装することで、上塗り塗膜が形成される。粉体塗料は、ポリエステル樹脂系塗料である。
【0042】
サンプルS15は、化成被膜に亜鉛を含有する溶剤塗料である第1亜鉛含有溶剤塗料を塗装して下塗り塗膜を形成したものである。第1亜鉛含有塗料は、質量分率で亜鉛が60~70%程度含まれる。
サンプルS16は、化成被膜に亜鉛を含有する溶剤塗料である第2亜鉛含有溶剤塗料を塗装して下塗り塗膜を形成したものである。第2亜鉛含有塗料は、質量分率で亜鉛が40~50%程度含まれる。
サンプルS17は、化成被膜に亜鉛を含有する溶剤塗料である第3亜鉛含有溶剤塗料を塗装して下塗り塗膜を形成したものである。第3亜鉛含有塗料は、質量分率で亜鉛が20~30%程度含まれる。
サンプルS18は、化成被膜に亜鉛を含有する溶剤塗料である第4亜鉛含有溶剤塗料を塗装して下塗り塗膜を形成したものである。第4亜鉛含有溶剤塗料は、質量分率で亜鉛が60~70%程度含まれる。
サンプルS15~サンプルS18には、下塗り塗膜に実験1、2で用いた第5溶剤塗料を塗装することで、中塗り塗膜が形成される。サンプルS15~サンプルS18には、上記第5溶剤塗料を塗装して、上塗り塗膜が形成される。
【0043】
発明者らは、これらのサンプルS6、及びサンプルS8~S18に対して、耐沸騰水性試験を行った。
耐沸騰水性試験において、発明者らは、まず、サンプルの各々に対して、網目状に人工の傷をつけ、当該傷によって区切られる25の矩形の塗装面を形成した。次いで発明者らは、これらのサンプルの各々を95℃以上に水温が保持された純水に、5時間浸漬した。
5時間経過後、発明者らは、サンプルの各々を当該水から取り出し、取り出してから5分以内に、サンプルの各々の表面における外観の評価を行った。
なお、各サンプルにおいて、塗膜の各々は、スプレー塗装によって形成されたものである。
【0044】
耐沸騰水性試験の結果を
図5に示す。
図5に示すように、サンプルS6、サンプルS11、サンプルS12、サンプルS14~サンプルS18では、区切られた塗装面がいずれも脱落しなかった。
しかしながら、サンプルS11、S12、S18では、塗膜が傷に沿ってはがれた箇所が観察された。
また、サンプルS15では、網目状の傷に沿って膨れが生じた。
【0045】
実験3の結果から、アルミニウム合金の表面に酸化ジルコニウムの化成被膜を形成し、亜鉛含有塗料と、粉体塗料を塗装することで、塗装構造の塗膜層の脱落を抑制できることが示唆される。加えて、サンプルS6の結果に示されるように、化成被膜の表面に、溶剤塗料を介して亜鉛含有塗料を塗装することで、塗装構造の塗膜層の脱落を抑制できることが示唆される。
【0046】
また、塗装構造において、亜鉛含有塗料は、粉体塗料よりも溶剤塗料である場合に、塗膜層の脱落が抑制されることが示唆される。
さらに、塗装構造において、溶剤塗料である亜鉛含有塗料は、質量分率で亜鉛が60~70%程度含まれる場合に、塗膜層の脱落が抑制されることが示唆される。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、塗装構造20では、アルミニウム、またはアルミニウム合金で形成される基材22の表面に、化成被膜24が形成される。塗装構造20では、化成被膜24の表面に下塗り塗膜32が形成され、下塗り塗膜32の表面に亜鉛を含む亜鉛含有塗膜34が形成され、亜鉛含有塗膜34の表面に上塗り塗膜36が形成される。
【0048】
これによれば、塗装構造20では、当該塗装構造20の厚さ方向において、下塗り塗膜32と上塗り塗膜36とに挟まれるように、亜鉛含有塗膜34が形成される。これによって、塗装構造20は、亜鉛含有塗膜34が備える亜鉛の犠牲防食効果によって、基材22の耐食性の向上を図ることができる。加えて、塗装構造20は、下塗り塗膜32を介して、亜鉛含有塗膜34が化成被膜24に塗装されるため、基材22の耐食性の向上を図ることができると共に、塗膜層30の基材22からの脱落を抑制できる。
【0049】
本実施形態によれば、亜鉛を含む塗膜の亜鉛の含有量が60%以上70%以下である。
これによれば、塗装構造20、及び照明器具1では、耐食性の向上を図ることができる。
【0050】
本実施形態によれば、下塗り塗膜32は、溶剤塗料で形成され、上塗り塗膜36は、が粉体塗料で形成される。
これによれば、塗装構造20では、塗膜層30が形成される場合に、作業性の向上を図ることができる。
【0051】
本実施形態によれば、化成被膜24は、ジルコニウム被膜である。
これによれば、塗装構造20では、基材22の耐食性の向上を図ることができる。
【0052】
上述した実施形態は、本発明の一態様を例示したものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に変形、及び応用が可能である。
【0053】
上述した実施形態では、下塗り塗膜32が溶剤塗料によって形成され、上塗り塗膜36が粉体塗料によって形成されるとした。しかしながら、これに限らず、下塗り塗膜32が粉体塗料によって形成され、上塗り塗膜36が溶剤塗料によって形成されてもよい。
また例えば、下塗り塗膜32と、上塗り塗膜36とは、いずれも粉体塗料によって形成されてもよい。さらに、下塗り塗膜32と、上塗り塗膜36とは、いずれも溶剤塗料によって形成されてもよい。
すなわち、塗装構造20は、下塗り塗膜32と、上塗り塗膜36の少なくともいずれか一方が粉体塗料で形成されてもよい。
【0054】
上述した実施形態では、化成被膜24は、ジルコニウム被膜であるとした。しかしながらこれに限らず、化成被膜24は、クロム系の被膜等であってもよい。すなわち、化成被膜24は、アルミニウムやアルミニウム合金の表面に形成可能な被膜であればどのような被膜であってもよい。
【0055】
上述した実施形態では、照明器具1は、屋外照明器具であるとした。しかしながら、これに限らず、照明器具1は、製鉄所やメッキ工場の場内のように、塩酸蒸気等が空気中に含まれる雰囲気下に配置される屋内照明器具であってもよい。
【0056】
上述した実施形態では、照明器具1は、器具本体10が塗装構造20を備えるとした。しかしながらこれに限らず、照明器具1は、アルミニウムやアルミニウム合金で形成されるのであれば、支柱2やクランプ5が塗装構造20を備えてもよい。
【0057】
上述した実施形態では、塗装構造20は、照明器具1に設けられるとした。しかしながらこれに限らず、塗装構造20は、例えば船舶や標識等、アルミニウムまたはアルミニウム合金で形成され、腐食性雰囲気下に配置される各種の装置や部材に設けられてもよい。
【0058】
上述した実施形態における水平、及び垂直等の方向や各種の数値、形状は、特段の断りがない限り、それら方向や数値、形状と同じ作用効果を奏するいわゆる均等の範囲を含む。
【符号の説明】
【0059】
1 照明器具
2 支柱
2A 先端部
5 クランプ
8 カバーガラス
10 器具本体
20 塗装構造
22 基材
24 化成被膜
30 塗膜層
32 下塗り塗膜
34 亜鉛含有塗膜(亜鉛を含む塗膜)
36 上塗り塗膜