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特開2024-123858溶接システム、及び溶接システムの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123858
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】溶接システム、及び溶接システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20240905BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20240905BHJP
   B23K 9/10 20060101ALI20240905BHJP
   B23K 9/127 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
B23K9/095 510A
B23K9/12 331A
B23K9/12 331F
B23K9/10 A
B23K9/127 505A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031627
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 晃輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 勇佑
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082EC20
4E082ED10
4E082EF30
(57)【要約】
【課題】移動可能な溶接装置が配置される地面に対して傾いていたり、被工作物が配置される地面に対して傾いていたりしていても、適切に溶接を行う。
【解決手段】溶接システムは、台車と、前記台車上の所定位置に配置される溶接ロボットと、を有する溶接装置と、所定の溶接条件に基づいて前記溶接ロボットを制御して被工作物の所定部位の溶接を前記溶接ロボットに行わせる制御部と、前記被工作物の傾斜角度を検出する傾き角検出部と、を有し、前記制御部は、前記傾き角検出部が検出する検出情報から得られる被工作物の傾き角度に基づいて、前記所定の溶接条件の補正を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車と、前記台車上の所定位置に配置される溶接ロボットと、を有する溶接装置と、所定の溶接条件に基づいて前記溶接ロボットを制御して被工作物の所定部位の溶接を前記溶接ロボットに行わせる制御部と、前記被工作物の傾斜角度を検出する傾き角検出部と、を有する溶接システムであって、
前記制御部は、前記傾き角検出部が検出する検出情報から得られる被工作物の傾き角度に基づいて、前記所定の溶接条件の補正を行う溶接システム。
【請求項2】
台車と、前記台車上の所定位置に配置される溶接ロボットと、を有する溶接装置と、所定の溶接条件に基づいて前記溶接ロボットを制御して被工作物の所定部位の溶接を前記溶接ロボットに行わせる制御部と、前記台車の姿勢角度を検出する姿勢角度検出部と、を有する溶接システムであって、
前記制御部は、前記姿勢角度検出部が検出する検出情報から得られる姿勢角度情報に基づいて前記台車の姿勢の補正を行う
溶接システム。
【請求項3】
台車と、前記台車上の所定位置に配置される溶接ロボットと、を有する溶接装置と、所定の溶接条件に基づいて前記溶接ロボットを制御して被工作物の所定部位の溶接を前記溶接ロボットに行わせる制御部と、前記台車の姿勢角度を検出する姿勢角度検出部と、前記被工作物の傾斜角度を検出する傾き角検出部と、を有する溶接システムであって、
前記制御部は、前記姿勢角度検出部が検出する検出情報から得られる姿勢角度情報に基づいて前記台車の姿勢の補正を行った後、前記傾き角検出部により得られる検出情報から得られる被工作物の傾き角度に基づき前記溶接条件を補正する溶接システム。
【請求項4】
前記台車は、走行面に向かう方向に伸長、又は当該方向と逆方向に収縮可能な複数の脚部を有し、
前記制御部は、前記姿勢角度検出部により得られる姿勢角度情報に基づき、前記台車が水平となるように前記脚部の長さを調整する請求項2又は3に記載の溶接システム。
【請求項5】
前記傾き角検出部は、前記溶接ロボットに設けられて溶接時に前記被工作物に接触するタッチセンサーであり、前記タッチセンサーで前記被工作物の位置座標情報を複数得る事により前記被工作物の傾き角度を得る請求項1又は3に記載の溶接システム。
【請求項6】
前記姿勢角度検出部は、前記溶接装置に設けられた角度センサーである請求項2又は3に記載の溶接システム。
【請求項7】
前記溶接ロボットの被工作物に対する溶接方向を示す溶接方向情報を保持する記憶部を有し、
前記制御部は、前記溶接方向情報が示す前記溶接ロボットの溶接方向が水平方向であって前記傾き角検出部が検出する検出情報から得られる被工作物の傾き角度として被工作物のピッチ角又はロール角のいずれかが所定角度以下の場合、もしくは前記溶接方向情報が示す前記溶接ロボットの溶接方向が鉛直方向であって、前記被工作物の回転角Θの絶対値が所定角度以下の場合、前記溶接条件を補正する請求項1又は3に記載の溶接システム。
【請求項8】
報知手段を有し、前記報知手段は、前記溶接ロボットの溶接方向が水平方向であって被工作物のピッチ角又はロール角が所定角度以上の場合、又は前記溶接ロボットとの溶接方向が鉛直方向であって被工作物の回転角Θの絶対値が所定角度以上の場合、前記溶接条件の変更を要する旨を報知する請求項7に記載の溶接システム。
【請求項9】
前記報知手段は表示手段である請求項8に記載の溶接システム。
【請求項10】
前記報知手段は音声出力手段である請求項8に記載の溶接システム。
【請求項11】
前記制御部は、前記溶接装置に設けられている請求項1に記載の溶接システム。
【請求項12】
前記制御部は、外部に設けられており、有線又は無線により前記溶接装置を制御する請求項1に記載の溶接システム。
【請求項13】
台車と、前記台車上の所定位置に配置される溶接ロボットと、を有する溶接装置と、所定の溶接条件に基づいて前記溶接ロボットを制御して被工作物の所定部位の溶接を前記溶接ロボットに行わせる制御部と、前記台車の姿勢角度を検出する姿勢角度検出部と、前記被工作物の傾斜角度を検出する傾き角検出部と、を有する溶接システムの制御方法であって、
前記制御部は、前記姿勢角度検出部が検出する検出情報から得られる姿勢角度情報に基づいて前記台車の姿勢の補正を行う第1補正制御と、
前記第1補正制御の後、前記傾き角検出部により得られる検出情報から得られる被工作物の傾き角度に基づき前記溶接条件を補正する第2補正制御を行う、溶接システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接システム、及び溶接システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動溶接装置として、例えば特許文献1に開示された自動溶接装置がある。この自動溶接装置は、被溶接物に沿って配置される走行レールと、走行レール上を走行する走行支持体と、走行支持体上に配置された溶接ロボットとで構成されている。自動溶接装置は、走行支持体がレール上を走行して溶接ロボットを溶接個所に移動させ、被溶接物である仮組状態の柱状体を溶接ロボットが溶接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-120067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような溶接ロボットは、予め配置された走行レール上を走行して溶接を行うものであるため、溶接場所が変わる毎に走行レールを配置しなおす必要があり、手間である。また、特許文献1に開示された溶接ロボットは、溶接箇所に対しレールを配置する空間が確保できない場合や、溶接部位と走行レールの間に十分な水平度を確保できない場合は使用が不可能である。なお、溶接作業区画内を自由走行可能な台車上に配置した溶接ロボットを有する溶接装置を用いる事で、走行レール上を走行するときのように、溶接部位へのアクセスを自由に行えるものも考えられるが、レール上を走行するのと同様に、やはり走行する地面が傾いて溶接装置の水平性を確保できない場合には、使用が困難となる。また仮に溶接する被溶接物が傾斜している場合、本来予定されている溶接部位に適切な溶接を行う事ができない、といった問題がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、移動可能な溶接装置が配置される地面に対して傾いていたり、被工作物が配置される地面に対して傾いていたりしていても、適切に溶接を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る溶接システムは、台車と、前記台車上の所定位置に配置される溶接ロボットと、を有する溶接装置と、所定の溶接条件に基づいて前記溶接ロボットを制御して被工作物の所定部位の溶接を前記溶接ロボットに行わせる制御部と、前記被工作物の傾斜角度を検出する傾き角検出部と、を有する溶接システムであって、前記制御部は、前記傾き角検出部が検出する検出情報から得られる被工作物の傾き角度に基づいて、前記所定の溶接条件の補正を行う。
【0007】
本発明の一側面に係る溶接システムは、台車と、前記台車上の所定位置に配置される溶接ロボットと、を有する溶接装置と、所定の溶接条件に基づいて前記溶接ロボットを制御して被工作物の所定部位の溶接を前記溶接ロボットに行わせる制御部と、前記台車の姿勢角度を検出する姿勢角度検出部と、を有する溶接システムであって、前記制御部は、前記姿勢角度検出部が検出する検出情報から得られる姿勢角度情報に基づいて前記台車の姿勢の補正を行う。
【0008】
本発明の一側面に係る溶接システムは、台車と、前記台車上の所定位置に配置される溶接ロボットと、を有する溶接装置と、所定の溶接条件に基づいて前記溶接ロボットを制御して被工作物の所定部位の溶接を前記溶接ロボットに行わせる制御部と、前記台車の姿勢角度を検出する姿勢角度検出部と、前記被工作物の傾斜角度を検出する傾き角検出部と、を有する溶接システムであって、前記制御部は、前記姿勢角度検出部が検出する検出情報から得られる姿勢角度情報に基づいて前記台車の姿勢の補正を行った後、前記傾き角検出部により得られる検出情報から得られる被工作物の傾き角度に基づき前記溶接条件を補正する。
【0009】
本発明に係る溶接システムにおいては、前記台車は、走行面に向かう方向に伸長、又は当該方向と逆方向に収縮可能な複数の脚部を有し、前記制御部は、前記姿勢角度検出部により得られる姿勢角度情報に基づき、前記台車が水平となるように前記脚部の長さを調整するよう構成されていてもよい。
【0010】
本発明に係る溶接システムにおいては、前記傾き角検出部は、前記溶接ロボットに設けられて溶接時に前記被工作物に接触するタッチセンサーであり、前記タッチセンサーで前記被工作物の位置座標情報を複数得る事により前記被工作物の傾き角度を得るように構成されていてもよい。
【0011】
本発明に係る溶接システムにおいては、前記姿勢角度検出部は、前記溶接装置に設けられた角度センサーであってもよい。
【0012】
本発明に係る溶接システムにおいては、前記溶接ロボットの被工作物に対する溶接方向を示す溶接方向情報を保持する記憶部を有し、前記制御部は、前記溶接方向情報が示す前記溶接ロボットの溶接方向が水平方向であって前記傾き角検出部が検出する検出情報から得られる被工作物の傾き角度として被工作物のピッチ角又はロール角のいずれかが所定角度以下の場合、もしくは前記溶接方向情報が示す前記溶接ロボットの溶接方向が鉛直方向であって、前記被工作物の回転角Θの絶対値が所定角度以下の場合、前記溶接条件を補正するように構成されていてもよい。
【0013】
本発明に係る溶接システムにおいては、報知手段を有し、前記報知手段は、前記溶接ロボットの溶接方向が水平方向であって被工作物のピッチ角又はロール角が所定角度以上の場合、又は前記溶接ロボットとの溶接方向が鉛直方向であって被工作物の回転角Θの絶対値が所定角度以上の場合、前記溶接条件の変更を要する旨を報知するように構成されていてもよい。
【0014】
本発明に係る溶接システムにおいては、前記報知手段は表示手段であるように構成されていてもよい。
【0015】
本発明に係る溶接システムにおいては、前記報知手段は音声出力手段であるように構成されていてもよい。
【0016】
本発明に係る溶接システムにおいては、前記制御部は、前記溶接装置に設けられているように構成されていてもよい。
【0017】
本発明に係る溶接システムにおいては、前記制御部は、外部に設けられており、有線又は無線により前記溶接装置を制御するように構成されていてもよい。
【0018】
本発明の一側面に係る溶接システムの制御方法は、台車と、前記台車上の所定位置に配置される溶接ロボットと、を有する溶接装置と、所定の溶接条件に基づいて前記溶接ロボットを制御して被工作物の所定部位の溶接を前記溶接ロボットに行わせる制御部と、前記台車の姿勢角度を検出する姿勢角度検出部と、前記被工作物の傾斜角度を検出する傾き角検出部と、を有する溶接システムの制御方法であって、前記制御部は、前記姿勢角度検出部が検出する検出情報から得られる姿勢角度情報に基づいて前記台車の姿勢の補正を行う第1補正制御と、記第1補正制御の後、前記傾き角検出部により得られる検出情報から得られる被工作物の傾き角度に基づき前記溶接条件を補正する第2補正制御を行う。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、移動可能な溶接装置が、配置される地面に対して傾いていたり、被工作物が配置される地面に対して傾いていたりしていても、欠陥の発生を抑えて適切に溶接を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態に係る溶接システムの構成を示す図である。
図2図2は、制御部において実現する機能の構成を示す機能ブロック図である。
図3図3は、制御部が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
図4図4は、被工作物の傾きを検出する方法を説明するための図である。
図5図5は、突合せ溶接前の母材を示した図である。
図6図6は、突合せ溶接前の母材を示した図である。
図7図7は、隅肉溶接前の母材を示した図である。
図8図8は、隅肉溶接前の母材を示した図である。
図9図9は、制御部が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
図10図10は、鉛直方向の溶接線の一例を示す図である。
図11図11は、被工作物の傾き状態を表す図である。
図12図12は、溶接装置に対する溶接位置の一例を示す図である。
図13図13は、補正情報の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、図中で適宜X軸、Y軸、及びZ軸の直交座標系(右手系)を示し、これにより方向を説明する。直交座標系で示される空間においてX成分が増加する方向を+X方向といい、X成分が減少する方向を-X方向という。同様に、Y、Z成分についても、+Y方向、-Y方向、+Z方向、-Z方向と定義する。
【0022】
[実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る溶接システムの構成を示す図である。溶接装置1は、被工作物を溶接する装置であり、溶接ロボット2、コントロール部3、台車10、車輪11、及び脚部12を備えている。
【0023】
台車10は、+Z方向から見て矩形であり、図示省略したバッテリ、車輪11を駆動する図示省略したモータ、及び溶接装置1の進行方向を変えるための図示省略した操舵機構等を有している。溶接装置1は、リモートコントローラ4の操作に応じてモータが車輪11を駆動して走行し、被工作物を溶接可能な位置まで移動する。脚部12は、+Z方向から見て台車10の四隅に設けられている。脚部12は、図示省略したアクチュエータを備えており、地面に対して各々が独立して伸縮して地面に接する。脚部12の各々の長さを制御することにより、溶接装置1を水平に保つことができる。
【0024】
溶接ロボット2は、多関節の溶接ロボットであり、ベース部20、第1アーム21、第2アーム22、第3アーム23、ツール部24、及び溶接トーチ25を備えている。ベース部20は、第1アーム21が垂直に接続されている。ベース部20は、第1アーム21を中心軸回りに回転させるモータと駆動機構を備えている。第1アーム21は、一端がベース部20に接続され、他端に第2アーム22が接続されており、他端を中心に第2アーム22を回転させるモータを備えている。第1アーム21は、ベース部20が備える駆動機構によって中心軸回りに回転する。第2アーム22は、一端が第1アーム21に接続され、他端に第3アーム23が接続されており、他端を中心に第3アーム23を回転させるモータを備えている。第3アーム23は、一端が第2アーム22に接続され、他端側にツール部24を備えており、ツール部24を中心軸回りに回転させるモータを備えている。ツール部24は、溶接トーチ25と、溶接トーチ25を回転させるモータを備えている。溶接トーチ25は、例えばアーク溶接を行う器具であり、図示省略した送給装置によって溶接ワイヤが自動的に送給される。溶接トーチ25は、図示省略した溶接用の電源からの電流で被工作物と溶接ワイヤとの間にアークを発生させ、発生したアークの温度で被工作物と溶接ワイヤを溶融させて被工作物を溶接する。また、溶接トーチ25は、被工作物に接触して被工作物上の位置の三次元座標を検知するワイヤタッチセンサの機能を有している。このワイヤタッチセンサは、本発明に係る傾き角検出部を構成する。
【0025】
コントロール部3は、制御部30、記憶部31、角度センサー32、及び表示部33を備えている。角度センサー32は、ロール、ピッチ、ヨーの三次元の角度を検出するセンサーである。角度センサー32は台車10上に設置されており、台車10のZ軸回りの回転角度をヨー角、台車10のX軸回りの回転角度をピッチ角β、台車10のY軸回りの回転角度をロール角αとして、溶接動作時において台車10が停止している際のそれぞれの傾斜角度成分を検出する。角度センサー32は、ロール角αについては、+Y方向に見て水平状態から右回りの回転角度を正の回転角度とし、+Y方向に見て水平状態から左回りの回転角度を負の回転角度とする。また、角度センサー32は、ピッチ角βについては、+X方向に見て水平状態から右回りの回転角度を正の回転角度とし、+X方向に見て水平状態から左回りの回転角度を負の回転角度とする。角度センサー32は、本発明に係る姿勢角度検出部を構成する。
【0026】
記憶部31は、不揮発性の半導体メモリによって構成されている。記憶部31は、溶接ロボット2で被工作物を溶接する際の溶接手順や溶接条件を定めたプログラムを記憶する。また、記憶部31は、溶接装置1の傾きに応じて溶接条件を補正するための補正情報31aを記憶する。表示部33は、例えば液晶ディスプレイ装置を備えており、溶接装置1を操作するための画面やオペレーターへ通知するメッセージなどを表示する。なお、表示部33は、コントロール部3ではなく、溶接装置1を操作するリモートコントローラ4に設けられていてもよい。
【0027】
制御部30は、溶接装置1を走行させるためのモータや操舵機構、脚部12のアクチュエータ、及び溶接ロボット2などの制御を行うものである。制御部30は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備えている。なお、制御部30は、CPUの代わりに、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等によって構成するようにしてもよい。ROMは、不揮発性の半導体メモリ等によって構成され、CPUが実行するプログラムを格納している。RAMは、半導体メモリ等によって構成され、CPUがプログラムを実行する際に生成される情報や、角度センサー32が検出した角度などを記憶する。
【0028】
CPUは、ROMに格納されているプログラムに基づいて各部を制御する。制御部30の機能は、CPUがROMからプログラムを読み出して実行することで、機能部として実現される。図2は、CPUがプログラムを実行することにより制御部30において実現する機能の構成を示す機能ブロック図である。制御部30においては、取得部301、脚制御部302、補正部303、及びロボット制御部304が実現する。取得部301は、角度センサー32が検出したヨー角、ピッチ角、及びロール角を取得する。また、取得部301は、溶接トーチ25のワイヤタッチセンサによって測定される被工作物上の複数位置に接触する事で複数の位置の座標を取得する。脚制御部302は、取得部301が取得したピッチ角、及びロール角に基づいて、脚部12を伸縮させる。ロボット制御部304は、被工作物を溶接する際の溶接手順や溶接条件(溶接電流、溶接電圧、溶接速度、トーチ角度、トーチウィービング方法など)を定めたプログラムに従って溶接ロボット2を制御する。この制御により、溶接ロボット2は、被工作物を溶接する。補正部303は、取得部301が取得したピッチ角、及びロール角に基づいて、溶接手順や溶接条件を定めたプログラムに含まれる溶接条件を補正する。角度検出部305は、取得部301が取得した角度センサー32から取得したピッチ角とロール角に基づいて、台車10の傾きを検出する。また、角度検出部305は、溶接トーチ25のワイヤタッチセンサによって測定される被工作物上の複数の位置座標情報を取得部301が取得し、当該位置座標情報に基づいて被工作物の傾きを検出する。なお角度検出部305は、本発明に係る傾き角検出部及び姿勢角度検出部をそれぞれ構成するものである。
【0029】
制御部30は、被工作物に応じてあらかじめ手順及び溶接条件を定めたプログラムを記憶部31から読み出し、読み出したプログラムに従って溶接ロボット2を制御して被工作物を溶接する。この際、台車10は予め決められた所定の位置に停止して被工作物へ施工を行うものとする。被工作物及び溶接装置1が傾いている場合、被工作物及び溶接装置1が水平の場合と比較すると溶融池が重力の影響を受けるため、水平の状態を前提とした溶接条件では欠陥が生じるおそれがある。よって、制御部30は、角度センサー32による角度の測定結果から溶接装置1が傾いていることを検知し、角度センサー32の測定結果に応じて、溶接装置1を脚部12によって水平にする制御を行う。また、制御部30は、被工作物の傾きを検知し、プログラムで定められている溶接条件を検知した傾きに応じて補正する処理を行う。以下、角度センサー32によるロール角αとピッチ角βの測定結果に応じて制御部30が実行する処理について説明する。
【0030】
まず、溶接ロボット2が水平方向に溶接を行う前に実行する処理について説明する。図3は、溶接ロボット2で水平下向き溶接を行う前に制御部30が実行する処理の流れを示すフローチャートである。まず制御部30は、角度センサー32で測定されたピッチ角βとロール角αを取得する(ステップS101)。次に制御部30は、取得したピッチ角βとロール角αに基づいて台車10が傾斜しているか判断する(ステップS102)。ここで制御部30は、角度センサー32から取得したピッチ角βとロール角αがいずれも0度である場合、処理の流れをステップS104へ移す。
【0031】
制御部30は、取得したピッチ角βとロール角αの少なくとも一方が0度ではない場合(ステップS102でNO)、溶接装置1が水平となるように、即ち台車10のピッチ角β及びロール角αが0度となるように脚部12を制御する(ステップS103)。ここで制御部30は、例えばロール角αの値が正である場合、ロール角αが0度となるように+X方向側の脚部12を伸長させ、ロール角αの値が負である場合、ロール角αが0度となるように-X方向側の脚部12を伸長させる。また制御部30は、ピッチ角βの値が正である場合、ピッチ角βが0度となるように-Y方向側の脚部12を伸長させ、ピッチ角βの値が負である場合、ピッチ角βが0度となるように+Y方向側の脚部12を伸長させる。
【0032】
制御部30は、ステップS104で被工作物の傾きを検出する。図4は、被工作物の傾きを検出する方法を説明するための図である。ここで制御部30は、溶接ロボット2を制御し、溶接トーチ25のワイヤタッチセンサにより、例えば被工作物100上の三つの点である点P1、点P2、点P3の位置の座標を測定して記録する。点P2は、点P1からY軸方向に沿った位置であり、点P3は、点P1からX軸方向に沿った位置である。制御部30は、点P1の座標と点P2の座標から被工作物100のピッチ角βを検出する。また、制御部30は、点P1の座標と点P3の座標から被工作物100のロール角αを検出する。
【0033】
次に制御部30は、被工作物が傾いているか判断する(ステップS105)。ここで制御部30は、ステップS104で検出した被工作物のロール角αとピッチ角βの両方が0度である場合、被工作物が傾いていないと判断し(ステップS105でNO)、図3の処理を終了する。この後、制御部30は、プログラムの溶接条件を補正することなく被工作物を溶接する。
【0034】
一方、制御部30は、ステップS104で検出した被工作物のロール角αとピッチ角βの少なくとも一方が0度ではない場合、被工作物が傾いていると判断し(ステップS105でYES)、被工作物のピッチ角βとロール角αのいずれかの絶対値が10度を超えているか判断する(ステップS106)。制御部30は、被工作物のピッチ角βとロール角αのいずれかの絶対値が10度を超えている場合(ステップS106でYES)、溶接条件の変更を要することを報知する画面を表示部33に表示させる(ステップS107)。この場合は、あらかじめ記憶したプログラムに対して溶接条件を補正しても適切に溶接を行うことができない状態である。このような場合には、オペレーターは、例えば被工作物のロール角αとピッチ角βに応じてプログラムが定める溶接条件を修正する。なお、コントロール部3又はリモートコントローラ4に音声を出力するスピーカを設け、前述の報知を音声により行うようにしてもよい。
【0035】
制御部30は、被工作物のピッチ角βとロール角αの両方の絶対値が10度を超えていない場合(ステップS106でNO)、プログラムに含まれている溶接条件を補正する(ステップS108)。
【0036】
まず、突合せ溶接でX軸に平行に設けられた開先に対して溶接ロボット2で水平下向き溶接を行う場合の溶接条件の補正について説明する。図5は、突合せ溶接前の母材BMを示した図であって、図5(a)は、母材BMの左側面図であり、図5(b)は、母材BMの平面図である。図5に示す例では、突き合わされた二つの母材BMに設けられた開先GがX軸に沿っている。この場合に制御部30は、ステップS104でワイヤタッチセンサによって取得した被工作物のピッチ角βが負の値である場合、取得したピッチ角βに応じて、-Y方向のウィービングの振幅について設定されている振幅に最大で20%の負の補正値を加える。また、この場合に制御部30は、-Y方向のウィービングでの停止時間に最大で0.5秒の補正値を加える。一方、この場合に制御部30は、ステップS104でワイヤタッチセンサによって取得した被工作物のピッチ角βが正の値である場合、取得したピッチ角βに応じて、+Y方向のウィービングの振幅について設定されている振幅に最大で20%の負の補正値を加える。また、この場合に制御部30は、+Y方向のウィービングでの停止時間に最大で0.5秒の補正値を加える。
【0037】
次に突合せ溶接でY軸に平行に設けられた開先に対して溶接ロボット2で水平下向き溶接を行う場合の溶接条件の補正について説明する。図6は、突合せ溶接前の母材BMを示した図であって、図6(a)は、母材BMの平面図であり、図6(b)は、母材BMの正面図である。図6に示す例では、突き合わされた二つの母材BMに設けられた開先GがY軸に沿っている。この場合に制御部30は、ステップS104でワイヤタッチセンサによって取得した被工作物のロール角αが負の値である場合、取得したロール角αに応じて+X方向のウィービングの振幅について設定されている振幅に最大で20%の負の補正値を加える。また、この場合に制御部30は、+X方向のウィービングでの停止時間に最大で0.5秒の補正値を加える。一方、この場合に制御部30は、ステップS104でワイヤタッチセンサによって取得したロール角αが正の値である場合、取得したロール角αに応じて-X方向のウィービングの振幅について設定されている振幅に最大で20%の負の補正値を加える。また、この場合に制御部30は、-X方向のウィービングでの停止時間に最大で0.5秒の補正値を加える。
【0038】
次に直交する母材について、溶接線がX軸に平行となるように溶接ロボット2で隅肉溶接を行う場合の溶接条件の補正について説明する。図7は、隅肉溶接の溶接前の母材を示した図であり、図7(a)は、母材の左側面図、図7(b)は、母材の平面図である。図7に示す例では、XY平面に対して平行な下板である母材BM2に対して、立板である母材BM1がXZ平面に沿っている。制御部30は、溶接線がX軸に平行となるように母材BM1の+Y方向側を隅肉溶接する場合、ステップS104でワイヤタッチセンサによって取得したピッチ角βが負の値であるときには、取得したピッチ角βに応じて母材BM1側でのウィービングの停止時間に最大で0.5秒の補正値を加え、母材BM2側でのウィービングの停止時間から同じ補正値を減じる。制御部30は、溶接線がX軸に平行となるように母材BM1の+Y方向側を隅肉溶接する場合、ステップS104でワイヤタッチセンサによって取得したピッチ角βが正の値であるときには、取得したピッチ角βに応じて母材BM2側でのウィービングの停止時間に最大で0.5秒の補正値を加え、母材BM1側でのウィービングの停止時間から同じ補正値を減じる。
【0039】
制御部30は、溶接線がX軸に平行となるように母材BM1の-Y方向側を隅肉溶接する場合、ステップS104でワイヤタッチセンサによって取得したピッチ角βが負の値であるときには、取得したピッチ角βに応じて母材BM2側でのウィービングの停止時間に最大で0.5秒の補正値を加え、母材BM1側でのウィービングの停止時間から同じ補正値を減じる。制御部30は、溶接線がX軸に平行となるように母材BM1の-Y方向側を隅肉溶接する場合、ステップS104でワイヤタッチセンサによって取得したピッチ角βが正の値であるときには、取得したピッチ角βに応じて母材BM1側でのウィービングの停止時間に最大で0.5秒の補正値を加え、母材BM2側でのウィービングの停止時間から同じ補正値を減じる。
【0040】
次に直交する母材について、溶接線がY軸に平行となるように溶接ロボット2で隅肉溶接を行う場合の溶接条件の補正について説明する。図8は、隅肉溶接前の母材を示した図であり、図8(a)は、母材の平面図、図8(b)は、母材の正面図である。図8に示す例では、XY平面に対して平行な下板である母材BM2に対して、立板である母材BM1がYZ平面に沿っている。制御部30は、溶接線がY軸に平行となるように母材BM1の+X方向側を隅肉溶接する場合、ステップS104でワイヤタッチセンサによって取得したロール角αが負の値であるときには、取得したロール角αに応じて母材BM2側でのウィービングの停止時間に最大で0.5秒の補正値を加え、母材BM1側でのウィービングの停止時間から同じ補正値を減じる。制御部30は、溶接線がY軸に平行となるように母材BM1の+X方向側を隅肉溶接する場合、ステップS104でワイヤタッチセンサによって取得したロール角αが正の値であるときには、取得したロール角αに応じて母材BM1側でのウィービングの停止時間に最大で0.5秒の補正値を加え、母材BM2側でのウィービングの停止時間から同じ補正値を減じる。
【0041】
制御部30は、溶接線がY軸に平行となるように母材BM1の-X方向側を隅肉溶接する場合、ステップS104でワイヤタッチセンサによって取得したロール角αが負の値であるときには、取得したロール角αに応じて母材BM1側でのウィービングの停止時間に最大で0.5秒の補正値を加え、母材BM2側でのウィービングの停止時間から同じ補正値を減じる。制御部30は、溶接線がY軸に平行となるように母材BM1の-X方向側を隅肉溶接する場合、ステップS104でワイヤタッチセンサによって取得したロール角αが正の値であるときには、取得したロール角αに応じて母材BM2側でのウィービングの停止時間に最大で0.5秒の補正値を加え、母材BM1側でのウィービングの停止時間から同じ補正値を減じる。
【0042】
制御部30は、溶接条件を補正した後、補正した溶接条件に従って溶接ロボット2を制御して被工作物を溶接する。
【0043】
次に、溶接ロボット2が鉛直方向に溶接を行う前に実行する処理について説明する。図9は、溶接ロボット2で鉛直方向に溶接を行う前に実行する処理の流れを示すフローチャートである。まず制御部30は、角度センサー32で測定されたピッチ角βとロール角αを取得する(ステップS201)。次に制御部30は、角度センサー32によるピッチ角βとロール角αの測定結果に基づいて、台車10が傾斜しているか判断する(ステップS202)。ここで制御部30は、取得したピッチ角βとロール角αがいずれも0度である場合、処理の流れをステップS204へ移す。
【0044】
制御部30は、取得したピッチ角βとロール角αの少なくとも一方が0度ではない場合(ステップS202でNO)、溶接装置1が水平となるように、即ち台車10のピッチ角β及びロール角αが0度となるように、ステップS103と同様にして脚部12を制御する(ステップS203)。
【0045】
制御部30は、ステップS204でステップS104と同様にして被工作物の傾きを検出する。次に制御部30は、被工作物が傾いているか判断する(ステップS205)。ここで制御部30は、ステップS204で検出した被工作物のロール角αとピッチ角βの両方が0度である場合、被工作物が傾いていないと判断し(ステップS205でNO)、図9の処理を終了する。この後、制御部30は、プログラムの溶接条件を補正することなく、被工作物を溶接する。
【0046】
一方、制御部30は、ステップS204で検出した被工作物のロール角αとピッチ角βの少なくとも一方が0度ではない場合、被工作物が傾いていると判断し(ステップS205でYES)、被工作物の鉛直方向からの回転角θの絶対値を算出する(ステップS206)。
【0047】
ここで、回転角θについて説明する。図10は、鉛直方向の溶接線の一例を示す図である。図10(a)は、被工作物101が水平の状態を示した図であり、図10(b)は、被工作物101が傾いた状態を示した図である。図10(a)に示す状態では、母材BM11はXY平面に沿っており、母材BM12は、YZ平面に沿っており、母材BM13は、XZ平面に沿っている。母材BM12と母材BM13に対して隅肉溶接を行う場合、溶接線は、鉛直方向に沿った溶接線Arとなる。一方、地面が傾いていることによって被工作物101がピッチ角βとロール角αで傾いている場合、図10(b)に示すように溶接線Arは、鉛直方向から回転角θで傾くこととなる。
【0048】
被工作物101がロール角αで傾き、且つピッチ角βで傾いているときの被工作物101の回転角θの絶対値は、以下の式(1)で算出される。
【0049】
【数1】
【0050】
図9に戻り、制御部30は、式(1)で算出した|θ|が10度を超えているか判断する(ステップS207)。制御部30は、算出した|θ|が10度を超えている場合(ステップS207でYES)、溶接条件の変更を要することを報知する画面を表示部33に表示させる(ステップS208)。この場合は、あらかじめ記憶したプログラムに対して溶接条件を補正しても適切に溶接を行うことができない状態である。このような場合には、オペレーターは、例えば被工作物のロール角αとピッチ角βに応じてプログラムが定める溶接条件を修正する。なお、コントロール部3又はリモートコントローラ4に音声を出力するスピーカを設け、前述の報知を音声により行うようにしてもよい。
【0051】
制御部30は、算出した|θ|が10度を超えていない場合(ステップS207でNO)、溶接条件を補正する(ステップS209)。制御部30は、溶接条件の補正に際し、被工作物のピッチ角β及びロール角αから定まる被工作物の傾き状態と、溶接装置1と溶接位置との関係に応じて溶接条件を補正する。ここで図11は、被工作物の傾き状態を表す図である。図11では、縦軸を被工作物のピッチ角βとし、横軸を被工作物のロール角αとしている。被工作物が傾いている場合、被工作物は、ロール角αが0度以上、且つピッチ角βが0度を超えるA状態、ロール角αが負、且つピッチ角βが0度以上のB状態、ロール角αが0度以下、且つピッチ角βが負のC状態、又はロール角αが正、且つピッチ角βが0度以下のD状態のいずれかの状態となる。
【0052】
次に図12は、溶接装置1に対する溶接位置の一例を示す図である。図12は、被工作物である第1母材BM21、第2母材BM22、第3母材BM23を+Z方向から見ており、第1母材BM21、第2母材BM22、第3母材BM23について、第1母材BM21の+X方向側の面と第2母材BM22の-Y方向側の面との交点の位置を第1位置W1、第1母材BM21の+X方向側の面と第2母材BM22の+Y方向側の面との交点の位置を第2位置W2、第1母材BM21の-X方向側の面と第3母材BM23の+Y方向側の面との交点の位置を第3位置W3、第1母材BM21の-X方向側の面と第3母材BM23の-Y方向側の面との交点の位置を第4位置W4としている。
【0053】
図13は、溶接位置と被工作物の傾き状態との組に対応した補正情報31aの一例を示す図である。補正情報31aでは、溶接位置と被工作物の傾き状態との組毎に、溶接条件の補正方法が対応付けられている。制御部30は、溶接位置と被工作物の傾き状態との組に応じて、プログラミングされている溶接条件について、図13に示す補正情報31aに基づいて補正する。
【0054】
具体的には、制御部30は、溶接位置が第1位置W1であり、被工作物の傾き状態がA状態である場合、溶接条件について、電流及び電圧を|θ|に応じて最大で-20%補正し、溶接速度を溶着量が一定となるように電流値に応じて減速させる。また、制御部30は、溶接位置が第1位置W1であり、被工作物の傾き状態がA状態である場合、溶接条件について、ウィービング振幅を|θ|に応じて第1母材BM21側と第2母材BM22側に最大20%増加させ、ウィービング端部での停止時間を|θ|に応じて最大0.5秒増加させ、溶接トーチ25のトーチ角度を|θ|に応じて最大で5度上向きに補正する。
【0055】
制御部30は、溶接位置が第1位置W1であり、被工作物の傾き状態がB状態である場合、溶接条件について、電流及び電圧を|θ|に応じて最大で-10%補正し、溶接速度を溶着量が一定となるように電流値に応じて減速させる。また、制御部30は、溶接位置が第1位置W1であり、被工作物の傾き状態がB状態である場合、溶接条件について、ウィービング振幅を|θ|に応じて第1母材BM21側で最大20%減少させ、第2母材BM22側に最大20%増加させ、ウィービング端部での停止時間を|θ|に応じて第1母材BM21側で減少させると共に第2母材BM22側で増加させ、溶接トーチ25のトーチ角度を|θ|に応じて最大で5度上向きに補正して第2母材BM22側に向ける。
【0056】
制御部30は、溶接位置が第1位置W1であり、被工作物の傾き状態がC状態である場合、溶接条件について、電流及び電圧を|θ|に応じて最大で+10%補正し、溶接速度を溶着量が一定となるように電流値に応じて増速させる。また、制御部30は、溶接位置が第1位置W1であり、被工作物の傾き状態がC状態である場合、溶接条件について、ウィービング振幅を|θ|に応じて第1母材BM21側と第2母材BM22側に最大20%減少させ、ウィービング端部での停止時間を|θ|に応じて最大0.5秒減少させ、溶接トーチ25のトーチ角度を補正しない。
【0057】
制御部30は、溶接位置が第1位置W1であり、被工作物の傾き状態がD状態である場合、溶接条件について、電流及び電圧を|θ|に応じて最大で-10%補正し、溶接速度を溶着量が一定となるように電流値に応じて減速させる。また、制御部30は、溶接位置が第1位置W1であり、被工作物の傾き状態がB状態である場合、溶接条件について、ウィービング振幅を|θ|に応じて第2母材BM22側で最大20%減少させ、第1母材BM21側に最大20%増加させ、ウィービング端部での停止時間を|θ|に応じて第2母材BM22側で減少させると共に第1母材BM21側で増加させ、溶接トーチ25のトーチ角度を|θ|に応じて最大で5度上向きに補正して第1母材BM21側に向ける。
【0058】
制御部30は、溶接位置が第2位置W2であり、被工作物の傾き状態がA状態である場合、溶接条件について、電流及び電圧を|θ|に応じて最大で-10%補正し、溶接速度を溶着量が一定となるように電流値に応じて減速させる。また、制御部30は、溶接位置が第2位置W2であり、被工作物の傾き状態がA状態である場合、溶接条件について、ウィービング振幅を|θ|に応じて第2母材BM22側で最大20%減少させ、第1母材BM21側に最大20%増加させ、ウィービング端部での停止時間を|θ|に応じて第2母材BM21側で減少させると共に第1母材BM21側で増加させ、溶接トーチ25のトーチ角度を|θ|に応じて最大で5度上向きに補正して第1母材BM21側に向ける。
【0059】
制御部30は、溶接位置が第2位置W2であり、被工作物の傾き状態がB状態である場合、溶接条件について、電流及び電圧を|θ|に応じて最大で+10%補正し、溶接速度を溶着量が一定となるように電流値に応じて増速させる。また、制御部30は、溶接位置が第2位置W2であり、被工作物の傾き状態がB状態である場合、溶接条件について、ウィービング振幅を|θ|に応じて第1母材BM21側と第2母材BM22側に最大20%減少させ、ウィービング端部での停止時間を|θ|に応じて最大0.5秒減少させ、溶接トーチ25のトーチ角度を補正しない。
【0060】
制御部30は、溶接位置が第2位置W2であり、被工作物の傾き状態がC状態である場合、溶接条件について、電流及び電圧を|θ|に応じて最大で-10%補正し、溶接速度を溶着量が一定となるように電流値に応じて減速させる。また、制御部30は、溶接位置が第2位置W2であり、被工作物の傾き状態がC状態である場合、溶接条件について、ウィービング振幅を|θ|に応じて第1母材BM21側で最大20%減少させ、第2母材BM22側に最大20%増加させ、ウィービング端部での停止時間を|θ|に応じて第1母材BM21側で減少させると共に第2母材BM22側で増加させ、溶接トーチ25のトーチ角度を|θ|に応じて最大で5度上向きに補正して第2母材BM22側に向ける。
【0061】
制御部30は、溶接位置が第2位置W2であり、被工作物の傾き状態がD状態である場合、溶接条件について、電流及び電圧を|θ|に応じて最大で-20%補正し、溶接速度を溶着量が一定となるように電流値に応じて減速させる。また、制御部30は、溶接位置が第2位置W2であり、被工作物の傾き状態がD状態である場合、溶接条件について、ウィービング振幅を|θ|に応じて第1母材BM21側と第2母材BM22側に最大20%増加させ、ウィービング端部での停止時間を|θ|に応じて最大0.5秒増加させ、溶接トーチ25のトーチ角度を|θ|に応じて最大で5度上向きに補正する。
【0062】
制御部30は、溶接位置が第3位置W3であり、被工作物の傾き状態がA状態である場合、溶接条件について、電流及び電圧を|θ|に応じて最大で+10%補正し、溶接速度を溶着量が一定となるように電流値に応じて増速させる。また、制御部30は、溶接位置が第3位置W3であり、被工作物の傾き状態がA状態である場合、溶接条件について、ウィービング振幅を|θ|に応じて第1母材BM21側と第3母材BM23側に最大20%減少させ、ウィービング端部での停止時間を|θ|に応じて最大0.5秒減少させ、溶接トーチ25のトーチ角度を補正しない。
【0063】
制御部30は、溶接位置が第3位置W3であり、被工作物の傾き状態がB状態である場合、溶接条件について、電流及び電圧を|θ|に応じて最大で-10%補正し、溶接速度を溶着量が一定となるように電流値に応じて減速させる。また、制御部30は、溶接位置が第3位置W3であり、被工作物の傾き状態がB状態である場合、溶接条件について、ウィービング振幅を|θ|に応じて第3母材BM23側で最大20%減少させ、第1母材BM21側に最大20%増加させ、ウィービング端部での停止時間を|θ|に応じて第3母材BM23側で減少させると共に第1母材BM21側で増加させ、溶接トーチ25のトーチ角度を|θ|に応じて最大で5度上向きに補正して第1母材BM21側に向ける。
【0064】
制御部30は、溶接位置が第3位置W3であり、被工作物の傾き状態がC状態である場合、溶接条件について、電流及び電圧を|θ|に応じて最大で-20%補正し、溶接速度を溶着量が一定となるように電流値に応じて減速させる。また、制御部30は、溶接位置が第3位置W3であり、被工作物の傾き状態がC状態である場合、溶接条件について、ウィービング振幅を|θ|に応じて第1母材BM21側と第3母材BM23側に最大20%増加させ、ウィービング端部での停止時間を|θ|に応じて最大0.5秒増加させ、溶接トーチ25のトーチ角度を|θ|に応じて最大で5度上向きに補正する。
【0065】
制御部30は、溶接位置が第3位置W3であり、被工作物の傾き状態がD状態である場合、溶接条件について、電流及び電圧を|θ|に応じて最大で-10%補正し、溶接速度を溶着量が一定となるように電流値に応じて減速させる。また、制御部30は、溶接位置が第3位置W3であり、被工作物の傾き状態がD状態である場合、溶接条件について、ウィービング振幅を|θ|に応じて第1母材BM21側で最大20%減少させ、第3母材BM23側に最大20%増加させ、ウィービング端部での停止時間を|θ|に応じて第1母材BM21側で減少させると共に第3母材BM21側で増加させ、溶接トーチ25のトーチ角度を|θ|に応じて最大で5度上向きに補正して第3母材BM23側に向ける。
【0066】
制御部30は、溶接位置が第4位置W4であり、被工作物の傾き状態がA状態である場合、溶接条件について、電流及び電圧を|θ|に応じて最大で-10%補正し、溶接速度を溶着量が一定となるように電流値に応じて減速させる。また、制御部30は、溶接位置が第4位置W4であり、被工作物の傾き状態がA状態である場合、溶接条件について、ウィービング振幅を|θ|に応じて第1母材BM21側で最大20%減少させ、第3母材BM23側に最大20%増加させ、ウィービング端部での停止時間を|θ|に応じて第1母材BM21側で減少させると共に第3母材BM21側で増加させ、溶接トーチ25のトーチ角度を|θ|に応じて最大で5度上向きに補正して第3母材BM23側に向ける。
【0067】
制御部30は、溶接位置が第4位置W4であり、被工作物の傾き状態がB状態である場合、溶接条件について、電流及び電圧を|θ|に応じて最大で-20%補正し、溶接速度を溶着量が一定となるように電流値に応じて減速させる。また、制御部30は、溶接位置が第4位置W4であり、被工作物の傾き状態がB状態である場合、溶接条件について、ウィービング振幅を|θ|に応じて第1母材BM21側と第3母材BM23側に最大20%増加させ、ウィービング端部での停止時間を|θ|に応じて最大0.5秒増加させ、溶接トーチ25のトーチ角度を|θ|に応じて最大で5度上向きに補正する。
【0068】
制御部30は、溶接位置が第4位置W4であり、被工作物の傾き状態がC状態である場合、溶接条件について、電流及び電圧を|θ|に応じて最大で-10%補正し、溶接速度を溶着量が一定となるように電流値に応じて減速させる。また、制御部30は、溶接位置が第4位置W4であり、被工作物の傾き状態がC状態である場合、溶接条件について、ウィービング振幅を|θ|に応じて第3母材BM23側で最大20%減少させ、第1母材BM21側に最大20%増加させ、ウィービング端部での停止時間を|θ|に応じて第3母材BM23側で減少させると共に第1母材BM21側で増加させ、溶接トーチ25のトーチ角度を|θ|に応じて最大で5度上向きに補正して第1母材BM21側に向ける。
【0069】
制御部30は、溶接位置が第4位置W4であり、被工作物の傾き状態がD状態である場合、溶接条件について、電流及び電圧を|θ|に応じて最大で+10%補正し、溶接速度を溶着量が一定となるように電流値に応じて増速させる。また、制御部30は、溶接位置が第4位置W4であり、被工作物の傾き状態がD状態である場合、溶接条件について、ウィービング振幅を|θ|に応じて第1母材BM21側と第3母材BM23側に最大20%減少させ、ウィービング端部での停止時間を|θ|に応じて最大0.5秒減少させ、溶接トーチ25のトーチ角度を補正しない。
【0070】
以上説明したように本実施形態によれば、溶接装置1や被工作物が、水平に対して傾いていたとしても、溶接装置1の傾きを制御し、溶接条件を補正するため、被工作物に対して適切に溶接を行うことができる。
【0071】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。なお、上述した実施形態及び以下の変形例は、各々を組み合わせてもよい。上述した各実施形態及び各変形例の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態や変形例に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0072】
上述した実施形態においては、溶接装置1は、リモートコントローラ4による操作で移動するが、自動走行を行うものであってもよい。溶接装置1は、自動走行を行う場合、例えば3D-LiDAR(light detection and ranging)の技術で用いられる3次元測域センサーを台車10に備える。この場合、オペレーターは、溶接装置1を被工作物に対して任意の位置に移動させる。オペレーターが自動走行の操作をリモートコントローラ4で行うと、制御部30は、3次元測域センサーの測定結果から、あらかじめ定められた被工作物を検知する。制御部30は、被工作物を検知すると、被工作物までの走行経路を設定して自動走行し、被工作物を溶接可能な位置まで溶接装置1を自動で移動させる。
【0073】
上述した実施形態においては、被工作物の傾きに応じて各種溶接条件を補正しているが、例えば被工作物に対するウィービングの速度、溶接トーチ25の狙い位置も補正するようにしてもよい。
【0074】
本発明においては、地面が傾いている場合、脚部12で溶接装置1を水平に保つ制御を行っているが、脚部の制御を行わずに溶接条件の補正のみで被工作物の傾きに対応するようにしてもよい。
【0075】
本発明においては、溶接装置1は、台車10に対して溶接ロボット2を昇降させるリフタを備える構成であってもよい。
【0076】
制御部30は、台車10のピッチ角βとロール角αの両方が第1の所定角度として例えば2度を超えていない場合、ステップS102でNOと判断してステップS104へ処理の流れを移してもよい。また、制御部30は、被工作物のピッチ角βとロール角αの両方が第2の所定角度として例えば3度を超えていない場合、溶接条件の補正を行わないようにしてもよい。
【0077】
本発明においては、制御部30、記憶部31、及び表示部33は、溶接装置1に設けられているが、溶接装置1ではなく、例えば溶接装置1を操作する外部のリモートコントローラ4に設けられていてもよい。この場合、リモートコントローラ4に設けられた制御部30は、有線又は無線による通信で角度センサー32の検出結果や溶接トーチ25のワイヤタッチセンサの測定結果を取得し、脚部12や溶接ロボット2の制御を有線又は無線による通信で行う。
【符号の説明】
【0078】
1 溶接装置
2 溶接ロボット
3 コントロール部
4 リモートコントローラ
10 台車
11 車輪
12 脚部
30 制御部
31 記憶部
32 角度センサー
33 表示部
100、101 被工作物
301 取得部
302 脚制御部
303 補正部
304 ロボット制御部
305 角度検出部
BM、BM1、BM2、BM11~BM13 母材
BM21 第1母材
BM22 第2母材
BM23 第3母材
図1
図2
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