(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123865
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】冷凍菓子用ペースト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23G 9/32 20060101AFI20240905BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20240905BHJP
A23D 7/005 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A23G9/32
A23D7/00 504
A23D7/005
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031638
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】緑川 真理
【テーマコード(参考)】
4B014
4B026
【Fターム(参考)】
4B014GG07
4B014GG14
4B014GG17
4B014GK03
4B014GK12
4B014GL10
4B014GL11
4B014GP02
4B014GP12
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG04
4B026DH01
4B026DH03
4B026DL03
4B026DL05
4B026DL07
4B026DL10
4B026DP01
4B026DP03
4B026DX04
(57)【要約】
【課題】冷凍保存後に解凍しても、離水による品質劣化をしない冷凍菓子用ペーストの提供。
【解決手段】水中油型乳化油脂組成物、及び、風味素材を含有する、冷凍菓子用ペースト。前記水中油型乳化油脂組成物は、当該組成物全体中、油脂5~30重量%、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉2~5重量%、キサンタンガム0.03~0.18重量%、糖類20~50重量%、及び、水30~65重量%を含有する。前記風味素材は、粉末状である。前記冷凍菓子用ペースト全体中、前記水中油型乳化油脂組成物の含有量が85~99.9重量%、及び、前記風味素材の含有量が15~0.1重量%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中油型乳化油脂組成物、及び、風味素材を含有する、冷凍菓子用ペーストであって、
前記水中油型乳化油脂組成物は、当該組成物全体中、油脂5~30重量%、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉2~5重量%、キサンタンガム0.03~0.18重量%、糖類20~50重量%、及び、水30~65重量%を含有し、
前記風味素材は、粉末状であり、
前記冷凍菓子用ペースト全体中、前記水中油型乳化油脂組成物の含有量が85~99.9重量%、及び、前記風味素材の含有量が15~0.1重量%である、
冷凍菓子用ペースト。
【請求項2】
前記水中油型乳化油脂組成物は、さらに、ローカストビーンガムを0.01~0.02重量%含有する、請求項1に記載の冷凍菓子用ペースト。
【請求項3】
前記ヒドロキシプロプル化リン酸架橋澱粉の由来原料が、タピオカ、及びコーンから選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の冷凍菓子用ペースト。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の冷凍菓子用ペーストを含み、冷凍された菓子。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の冷凍菓子用ペーストに用いられる水中油型乳化油脂組成物であって、
前記水中油型乳化油脂組成物全体中、油脂5~30重量%、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉2~5重量%、キサンタンガム0.03~0.18重量%、糖類20~50重量%、及び、水30~65重量%を含有する、水中油型乳化油脂組成物。
【請求項6】
粉末状である風味素材を含有する、冷凍菓子用ペーストを製造する方法であって、
水中油型乳化油脂組成物全体中、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉2~5重量%、キサンタンガム0.03~0.18重量%、糖類20~50重量%、及び、水30~65重量%となるように各材料を混合し、40~60℃に加熱して水相を得る工程、
油脂の含量が水中油型乳化油脂組成物全体中5~30重量%になるように、油脂を前記水相に添加して混合物を得る工程、
該混合物を乳化処理してから加熱して水中油型乳化油脂組成物を得る工程、及び、
冷凍菓子用ペースト全体中、前記水中油型乳化油脂組成物の含量が85~99.9重量%、前記風味素材の含量が15~0.1重量%になるように、5~35℃にて、前記水中油型乳化油脂組成物及び前記風味素材を混合する工程、
を含む、冷凍菓子用ペーストの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状の風味素材を含有する、冷凍菓子用ペースト、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果実や野菜等を原料とするペースト状風味素材を含有した菓子用ペーストは、ケーキに絞り出されたトッピングや、フルーツタルトにおいてトッピングされたフルーツの土台、さらには層状に充填しそのまま喫食するカップデザート等に広く使用されており、代表例としてカスタードクリームが挙げられる。
【0003】
デザート類は見た目が重要であり、特にトッピング作業は手間と時間が掛かるため、トッピングする前に冷凍すれば作業の中断ができて生産性を向上できる。また、トッピングが完了した状態で冷凍すれば、保存性が向上し食品ロスの軽減が期待できる。しかし、カスタードクリームのような澱粉と水を主原料とする乳化食品は、冷解凍により離水が起こり、見た目が悪く、形が崩れやすくなったり、表面がボソボソになったりして、本来の見た目や美味しさが損なわれてしまう。
【0004】
また、消費者の食に対するニーズの多様化によって、様々な風味素材を含有する菓子用ペーストが求められている。しかし、工業的生産において、多種類の菓子用ペーストそれぞれを1つ1つ全ての原料を混ぜながら製造しようとすると、手間もかかり、廃棄を増やすことにも繋がるため、そのニーズに十分に応えきれていなかった。
【0005】
特許文献1には、ワキシ―スターチ由来の澱粉、及びガラクトマンナンを含有し、油脂量が5~45質量%であることを特徴とする、冷蔵耐性及び冷凍耐性が良好であるフラワーペースト類が開示されている。
【0006】
特許文献1に開示された製造方法では、ガラクトマンナンを油相に分散させるため、表面が油膜で覆われてしまい、保水効果が十分に発揮されず、冷解凍後にフラワーペースト表面に離水が発生する場合がある。その上、ローカストビーンガムのみを使用しているため、トッピングとして用いるには保形性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記課題に鑑み、我々は、どのような風味素材とも組み合わせ可能で、冷凍菓子用ペーストを容易に作製する為のベースとなる水中油型乳化油脂組成物を検討してきた。
【0009】
そこで本発明の目的は、冷凍保存後に解凍しても、離水による品質劣化をしない冷凍菓子用ペースト、その製造方法、及び、該冷凍菓子用ペーストの製造に使用される水中油型乳化油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、油脂、特定の加工澱粉、特定の増粘剤、糖類、及び水をそれぞれ特定量含有する水中油型乳化油脂組成物と、粉末状の風味素材を、それぞれ特定量含有する冷凍菓子用ペーストは、冷凍保存後に解凍しても、離水による品質劣化が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の第一は、水中油型乳化油脂組成物、及び、風味素材を含有する、冷凍菓子用ペーストであって、
前記水中油型乳化油脂組成物は、当該組成物全体中、油脂5~30重量%、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉2~5重量%、キサンタンガム0.03~0.18重量%、糖類20~50重量%、及び、水30~65重量%を含有し、
前記風味素材は、粉末状であり、
前記冷凍菓子用ペースト全体中、前記水中油型乳化油脂組成物の含有量が85~99.9重量%、及び、前記風味素材の含有量が15~0.1重量%である、
冷凍菓子用ペーストに関する。好ましくは、前記水中油型乳化油脂組成物は、さらに、ローカストビーンガムを0.01~0.02重量%含有する。好ましくは、前記ヒドロキシプロプル化リン酸架橋澱粉の由来原料が、タピオカ、及びコーンから選ばれる少なくとも1種である。
本発明の第二は、前記冷凍菓子用ペーストを含み、冷凍された菓子に関する。
本発明の第三は、前記冷凍菓子用ペーストに用いられる水中油型乳化油脂組成物であって、
前記水中油型乳化油脂組成物全体中、油脂5~30重量%、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉2~5重量%、キサンタンガム0.03~0.18重量%、糖類20~50重量%、及び、水30~65重量%を含有する、水中油型乳化油脂組成物に関する。
本発明の第四は、粉末状である風味素材を含有する、冷凍菓子用ペーストを製造する方法であって、
水中油型乳化油脂組成物全体中、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉2~5重量%、キサンタンガム0.03~0.18重量%、糖類20~50重量%、及び、水30~65重量%となるように各材料を混合し、40~60℃に加熱して水相を得る工程、
油脂の含量が水中油型乳化油脂組成物全体中5~30重量%になるように、油脂を前記水相に添加して混合物を得る工程、
該混合物を乳化処理してから加熱して水中油型乳化油脂組成物を得る工程、及び、
冷凍菓子用ペースト全体中、前記水中油型乳化油脂組成物の含量が85~99.9重量%、前記風味素材の含量が15~0.1重量%になるように、5~35℃にて、前記水中油型乳化油脂組成物及び前記風味素材を混合する工程、
を含む、冷凍菓子用ペーストの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従えば、冷凍保存後に解凍しても、離水による品質劣化をしない冷凍菓子用ペースト、その製造方法、及び、該冷凍菓子用ペーストの製造に使用される水中油型乳化油脂組成物を提供することができる。
また本発明によれば、前記水中油型乳化油脂組成物に対し、様々な粉末状風味素材を添加することによって、様々な風味を持つ冷凍菓子用ペーストを製造できるので、消費者が求める多種類の冷凍菓子用ペーストを容易に製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態につき、さらに詳細に説明する。
本実施形態に係る冷凍菓子用ペーストは、特定の水中油型乳化油脂組成物及び粉末状風味素材を含有する。前記冷凍菓子用ペーストは、例えば5~35℃程度の温度で、高い粘性がありながら、絞り出し成形やスプレッドなどの成形が可能な程度の流動性を有し、冷凍される菓子に好適に用いることができる。前記冷凍菓子用ペーストは、前記粉末状風味素材に由来する風味を持つものである。
【0014】
(水中油型乳化油脂組成物)
前記水中油型乳化油脂組成物は、特定の加工澱粉、特定の増粘剤、糖類等の水溶性原料及び水を含む水相と、油脂と必要に応じて油脂以外の油溶性原料を含む油相とを含む、水中油型の乳化物である。
【0015】
前記特定の加工澱粉は、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉であり、ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉である。ヒドロキシプロピル化した澱粉とは、澱粉を酸化プロピレンでエーテル化したものを言い、リン酸架橋した澱粉とは、澱粉にトリメタリン酸塩やオキシ塩化リンなどを作用させ、澱粉の分子内または分子間の水酸基が架橋して、澱粉粒の膨潤や糊化が抑制された澱粉を言う。ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉とは、双方の処理を行った澱粉を指す。ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を使用することによって、冷凍保存後に解凍した際のペースト表面の離水を抑制して、外観を良好に保つことができる。
【0016】
前記ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉における澱粉は、滑らかな食感を得る上で、タピオカ澱粉由来、又はコーン澱粉由来であることが好ましく、タピオカ澱粉由来であることがより好ましい。
【0017】
前記ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉の含有量は、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、2~5重量%が好ましく、より好ましくは2.5~4.5重量%であり、更に好ましくは3~4重量%である。ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉の含有量が2重量%より少ないと、冷凍保存後に解凍したペーストの表面に離水が生じやすくなり、外観が悪くなる場合がある。また5重量%より多いと、水中油型乳化油脂組成物又は冷凍菓子用ペーストの粘度が高くなりすぎる、即ち生産時のライン適性が悪くなったり、冷凍保存後に解凍したペーストの表面に離水が生じやすくなり、外観が悪くなる場合がある。
【0018】
前記特定の増粘剤は、キサンタンガムであり、微生物キサントモナス・キャンペストリス(Xanthomonas campestris)がブドウ糖を原料として発酵するときに産生される水溶性多糖類である。キサンタンガムを使用することで、保水性が高まるため、冷凍保存後に解凍した際のペースト表面への離水を抑制して、外観を良好に保つことができる。
【0019】
前記キサンタンガムの含有量は、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、0.03~0.18重量%が好ましく、より好ましくは0.05~0.14重量%であり、更に好ましくは0.06~0.08重量%である。キサンタンガムの含有量が0.03重量%より少ないと、冷凍菓子用ペーストの保形性が悪くなったり、冷凍保存後に解凍したペーストの表面に離水が生じやすくなり、外観が悪くなる場合がある。また0.18重量%より多いと、水中油型乳化油脂組成物又は冷凍菓子用ペーストの粘度が高くなりすぎる、即ち、生産時のライン適性が悪くなったり、成形性が悪くなる場合がある。
【0020】
前記水中油型乳化油脂組成物は、冷凍保存後に解凍した際のペースト表面への離水を抑制し、外観を良好に保つ観点から、前記キサンタンガムに加えて、ローカストビーンガムを併用することが好ましい。ローカストビーンガムの含有量は、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、0.01~0.02重量%が好ましく、0.015~0.02重量%より好ましい。ローカストビーンガムの含有量が0.01重量%より少ないと、ローカストビーンガムの配合による離水抑制効果が十分に得られない場合がある。また0.02重量%より多いと、水中油型乳化油脂組成物又は冷凍菓子用ペーストの粘度が高くなりすぎる、即ち、生産時のライン適性が悪くなったり、成形性が悪くなる場合がある。
【0021】
前記糖類としては特に限定されず、上白糖、グラニュー糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖、異性化糖、オリゴ糖、水あめ、糖アルコール類等が挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。中でも、味の観点では、上白糖、グラニュー糖が好ましい。
【0022】
前記糖類の含有量は、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、20~50重量%が好ましく、より好ましくは25~43重量%であり、更に好ましくは30~37重量%である。糖類の含有量が20重量%より少ないと、増菌したり、冷凍菓子用ペーストの成形性が悪くなったり、冷凍保存後に解凍したペーストの表面に離水が生じやすくなり、外観が悪くなる場合がある。また50重量%より多いと、ペーストの甘みが強くなりすぎたり、成形性又は保形性が悪くなる場合がある。
【0023】
前記水の含有量は、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、30~65重量%であることが好ましく、より好ましくは45~65重量%であり、更に好ましくは53~65重量%である。水の含有量が30重量%より少ないと、水溶性原料の溶解性が悪くなる場合があり、65重量%より多いと、水中油型乳化油脂組成物において離水が発生する場合がある。
【0024】
前記水中油型乳化油脂組成物は、発明の効果を阻害しない範囲において、水相に前記ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、前記キサンタンガム、前記ローカストビーンガム、前記糖類以外の水溶性原料を含有しても良い。そのような水溶性原料としては、一般的に水中油型乳化油脂組成物に配合される成分を使用できる。例えば、前記ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉以外の加工澱粉又は未加工澱粉や、前記キサンタンガム及び前記ローカストビーンガム以外の増粘剤の他、HLBが7以上の水溶性乳化剤や乾燥卵白などが挙げられる。
【0025】
前記油脂は、前記水中油型乳化油脂組成物に含まれる油脂の全体として、SFC(固体脂含量)が10℃で50~60%、且つ30℃で8.5~21.5%を満足する油脂を使用することが好ましく、より好ましくは、SFCが10℃で50.5~58.5%、且つ、30℃で9.5~20.5%を満足する油脂であり、さらに好ましくは、SFCが10℃で51.5~57.5%、且つ、30℃で10.5~19.5%を満足する油脂である。10℃におけるSFCが50%以上であると、冷凍菓子用ペーストの成形性又は保形性が良好であり、60%以下であると、冷凍菓子用ペーストが適度な硬さで絞り出しやすくなる。また、30℃におけるSFCが8.5%以上であると、冷凍菓子用ペーストの成形性又は保形性が良好であり、21.5%以下であると、冷凍菓子用ペーストが適度な硬さで絞り出しやすくなる。
【0026】
前記SFCは、社団法人日本油化学会編、「基準油脂分析試験法」の「2.2.9-2003 固体脂含量(NMR法)」の測定方法に従って測定することができる。前記SFCの要件は、前記水中油型乳化油脂組成物に含まれる油脂の全体が満足すればよく、複数種の油脂を使用した場合、個々の油脂が示すSFCは特に限定されない。
【0027】
前記油脂の種類としては、食用油脂であれば特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、ハイエルシン菜種油、コーン油、綿実油、大豆油、ひまわり油、サフラワー油、オリーブ油等の植物性油脂や、乳脂肪、牛脂、豚脂、魚油等の動物性油脂が例示でき、これらを硬化、分別、エステル交換等の加工処理を行ったものも用いることができる。
【0028】
特に、前述したSFCの数値を満足するように、複数種の油脂を適宜組み合わせて使用することが好ましい。好適な油脂の組合せの一例として、パーム油とハイエルシン菜種極度硬化油の組合せを挙げることができる。前記ハイエルシン菜種極度硬化油とは、菜種の中でもエルシン酸(エルカ酸)含量が概ね40%以上の品種から搾油した油脂を極度硬化したものをいう。また、前記油脂の組合せに、パーム油とヤシ油のエステル交換油を併用することも好ましい。
【0029】
前記油脂の含有量は、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、5~30重量%であることが好ましく、より好ましくは5~25重量%であり、更に好ましくは5~19重量%である。油脂の含有量が5重量%より少ないと、冷凍保存後に解凍したペーストの表面に離水が生じやすくなり、外観が悪くなる場合があり、30重量%より多いと、水中油型乳化油脂組成物を作製する時の乳化が不十分となったり、冷凍保存後に解凍したペーストの表面に離水が生じやすくなり、外観が悪くなる場合がある。
【0030】
前記水中油型乳化油脂組成物は、発明の効果を阻害しない範囲において、油相に油脂以外の油溶性原料を含有しても良い。前記油溶性原料としては、一般的に水中油型乳化油脂組成物に配合される成分を使用できる。そのような成分としては、例えば、HLBが7未満の油溶性乳化剤、着色料、香料、乳製品などが挙げられる。
【0031】
前記着色料としては、例えば、カロテノイド色素などが挙げられる。その含有量は、発明の効果を阻害しない範囲において適宜設定することができる。
【0032】
前記香料としては、例えば、ミルク香料、バター香料などが挙げられる。その含有量は、発明の効果を阻害しない範囲において適宜設定することができる。
【0033】
前記乳製品としては、例えば、バター、脱脂粉乳、ホエイタンパク、バターミルクパウダーなどが挙げられる。その含有量は、発明の効果を阻害しない範囲において適宜設定することができる。
【0034】
前記水中油型乳化油脂組成物の含有量は、前記冷凍菓子用ペースト全体中、85~99.9重量%であることが好ましく、より好ましくは92~99.5重量%であり、更に好ましくは90~99.1重量%である。水中油型乳化油脂組成物の含有量が85重量%より少ないと、冷凍菓子用ペーストが硬くなりすぎて、成形性に劣る場合があり、99.9重量%より多いと、冷凍菓子用ペーストが柔らかくなりすぎて、成形性又は保形性に劣る場合がある。
【0035】
(粉末状風味素材)
前記粉末状風味素材は、20℃において粉末状のものであって、食品に風味を付与できるものであれば特に限定されないが、例えば、抹茶粉末、ココア粉、コーヒー豆粉末、きな粉、小豆粉末、全粉乳、脱脂粉乳、粉チーズ、野菜や果実等の乾燥粉末等が挙げられる。
【0036】
前記粉末状風味素材の粒径は特に限定されないが、粒径が大きくなりすぎると、ざらつきを感じ食感が悪くなる場合があるため、前記粉末状風味素材の最大粒径は300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。
【0037】
前記粉末状風味素材の含有量は、前記冷凍菓子用ペースト全体中、15~0.1重量%であることが好ましく、より好ましくは10~0.9重量%であり、更に好ましくは8~0.5重量%である。粉末状風味素材の含有量が15重量%より多いと、冷凍菓子用ペーストが硬くなりすぎて、成形性に劣る場合があり、0.1重量%より少ないと、粉末状風味素材の味が弱くなったり、冷凍菓子用ペーストが柔らかくなりすぎて、成形性又は保形性に劣る場合がある。
【0038】
[冷凍菓子用ペーストの製造方法]
本実施形態に係る冷凍菓子用ペーストの製造方法を以下に例示する。
【0039】
(水中油型乳化油脂組成物の作製)
水に、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、キサンタンガム、糖類などの水溶性原料を混合し、40~60℃に加熱して水相を得る。その際、各成分の含量が、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉2~5重量%、キサンタンガム0.03~0.18重量%、糖類20~50重量%、水30~65重量%となるように調整する。前記加熱に際しては、各成分を混合してから昇温してもいいし、昇温しながら各成分を混合してもよい。
【0040】
得られた前記水相を、好ましくは40~60℃に保って、撹拌しながら、油脂の含量が水中油型乳化油脂組成物全体中5~30重量%となるように、油脂を前記水相に添加して混合物を得る。前記水相を添加する時の油脂は、40~60℃に保持されていることが好ましい。また、必要に応じて、前記油脂に前記油溶性原料を溶解してから、前記水相に添加してもよい。
【0041】
得られた前記混合物を予備乳化し、ホモゲナイザーを用いて好適には5~15MPaの圧力で乳化する。得られた乳化液をコンサーム掻き取り式熱交換機で、好適には95~105℃で2~3分間加熱殺菌してから、60℃以下になるまで冷却して、ペーストを得る。得られたペーストをピロー包装などの容器に充填し、2~7℃の冷水にて室温以下に冷却することで、前記水中油型乳化油脂組成物を得ることができる。ここで、ピロー包装とは、包装フィルムを、開口部を有する袋状に加工した後、内容物を充填し、前記開口部を閉じて該内容物を包装するものをいう。
【0042】
(冷凍菓子用ペーストの作製)
冷凍菓子用ペースト全体中、前記水中油型乳化油脂組成物の含量が85~99.9重量%、及び、前記粉末状風味素材の含量が15~0.1重量%となるように両者を均一になるまで混合することで、本実施形態に係る冷凍菓子用ペーストを得ることができる。混合する時の温度は、例えば、5~35℃であることが好ましい。
【0043】
(冷凍菓子用ペーストの用途)
本実施形態に係る冷凍菓子用ペーストは、モンブランやフルーツタルト等のケーキのトッピングや、カップに層状に充填して喫食するカップデザートなどの菓子に好適に使用できる。前記菓子において、本実施形態に係る冷凍菓子用ペーストは、絞り出し成形された形状にて含まれていることが好ましい。また、本実施形態に係る冷凍菓子用ペーストは、前記菓子に対し、フィリングや、サンド、スプレッドなどの形態においても使用することができる。前記冷凍菓子用ペーストを含む菓子は、冷凍された状態で流通や販売される冷凍菓子のことである。該冷凍菓子は、自然解凍してから食される。
【実施例0044】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0045】
実施例及び比較例で使用した原料は以下の通りである。
1)松谷化学工業(株)製「ファリネックスVA70TJ」(タピオカ加工澱粉)
2)日新製糖(株)製「上白糖」
3)キユーピータマゴ(株)製「乾燥卵白Kタイプ」
4)日本新薬(株)製「Wheyco W80」
5)エー・ディー・エム・ジャパン(株)製「ノヴァザン200メッシュ」
6)三栄源エフ・エフ・アイ(株)製「CESAGUM LN-1/200」
7)(株)カネカ製「パーム油(10℃のSFC:50.9%、30℃のSFC:9.8%)」
8)横関油脂工業(株)製「ハイエルシン菜種極度硬化油(10℃のSFC:99.4%、30℃のSFC:98.8%)」
9)パーム油とヤシ油のエステル交換油(10℃のSFC:55.3%、30℃のSFC:11.5%)(製造の情報は後述)
10)上越スターチ(株)「ファインスノウ」
11)辻利兵衛本店製「宇治抹茶」(最大粒径143μm)
【0046】
<冷凍保存後に解凍したペースト表面の離水評価>
作製した冷凍菓子用ペーストを、星形の口金を使用して絞り出し、-20℃で1週間静置した後、5℃で18時間自然解凍し、ペースト表面を目視で観察し、以下の基準で評価した。
5点:冷解凍前後での変化が全くなく、離水がない。
4点:冷凍前のペーストと比較して、解凍後のペースト表面に僅かに離水がみられる。
3点:冷凍前のペーストと比較して、解凍後のペースト表面に離水がみられるが、品質的には問題ない。
2点:冷凍前のペーストと比較して、解凍後のペースト表面に離水がみられ、ペースト表面がややボソボソしている。
1点:冷凍前のペーストと比較して、解凍後のペースト表面に離水がみられ、ペースト表面がボソボソしている。
【0047】
[実施例及び比較例で使用した原料9)の作製]
パーム油((株)カネカ製):76重量部、ヤシ油((株)カネカ製):24重量部の混合物を、500Paの減圧下90℃に加熱し、ナトリウムメチラート(日本曹達株式会社製):0.2重量部を加えて30分攪拌してランダムエステル交換を行った。水洗した後、500Paの減圧下、90℃で白土(水澤化学工業株式会社製):2重量部を加えて脱色し、250℃、200Paの条件で1時間脱臭してパーム油とヤシ油のエステル交換油を得た。パーム油とヤシ油のエステル交換油の10℃のSFCは55.3%で、30℃のSFCは11.5%であった。
【0048】
(製造例1)水中油型乳化油脂組成物の作製
表1の配合に従って、次のように水中油型乳化油脂組成物を作製した。即ち、ヒドロキシルプロピル化リン酸架橋デンプン3.5重量部、上白糖33.51重量部、乾燥卵白0.1重量部、ホエイタンパク1.9重量部、キサンタンガム0.07重量部、ローカストビーンガム0.02重量部、及び水48.9重量部が均一になるよう攪拌、及び混合しながら当該混合物を50℃まで昇温し、ここに60℃に温調したパーム油10.8重量部及びハイエルシン菜種極度硬化油1.2重量部を添加し、充分に攪拌して原料混合物を予備乳化した。その後、ホモゲナイザー(株式会社イズミフードマシナリ製)を用い10MPaの圧力で原料混合物を乳化した。得られた乳化液をコンサーム掻き取り式熱交換機(ノリタケカンパニーリミテッド社製、ノリタケクッカー・スチームミキサー)で100℃、2分間の条件で殺菌した後、60℃まで冷却し、ピロー袋に充填した。その後、5℃の冷水にて室温以下に冷却し、水中油型乳化油脂組成物を得た。
パーム油とハイエルシン菜種極度硬化油の混合物から構成される油脂は、SFCが10℃で53.4%、30℃で17.6%であった。
【0049】
(製造例2~19)水中油型乳化油脂組成物の作製
表1及び表2の配合に従って各成分の配合量を変更した以外は、製造例1と同様にして水中油型乳化油脂組成物を作製した。
【0050】
【0051】
【0052】
(実施例1)冷凍菓子用ペーストの作製
表3の配合に従って、製造例1で作製した水中油型乳化油脂組成物95重量部に、粉末状風味素材である粉末抹茶5重量部を25℃で、ホバートミキサーを用いて均一になるまで混合し、冷凍菓子用ペーストを得た。得られた冷凍菓子用ペーストについて、冷凍保存後に解凍したペースト表面の離水評価を行い、それらの評価結果を表3にまとめた。
【0053】
(実施例2~13、比較例1~8)冷凍菓子用ペーストの作製
表3~表5の配合に従って、水中油型乳化油脂組成物の種類(製造例番号)又は配合量、及び、粉末状風味素材の配合量を変更した以外は、実施例1と同様にして冷凍菓子用ペーストを得た。得られた各冷凍菓子用ペーストについて、冷凍保存後に解凍したペースト表面の離水評価を行い、それらの評価結果を表3~表5にまとめた。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
表3及び表4より、実施例1~13で得た冷凍菓子用ペーストはいずれも、発明の要件を満足するものであり、冷凍保存後に解凍したペースト表面の離水評価がいずれも良好であったことが分かる。
【0058】
一方、表5より以下のことが分かる。比較例1で得た冷凍菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物中のヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンの含有量が1重量%と少ないものであり、冷凍保存後に解凍したペースト表面の離水評価が低い評価であった。
比較例2で得た冷凍菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物中のヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンの含有量が6重量%と多いものであり、冷凍保存後に解凍したペースト表面の離水評価が低い評価であった。
比較例3で得た冷凍菓子用ペーストは、ヒドロキシルプロピル化リン酸架橋デンプンを使用せず、代わりに米デンプンを使用したものであり、冷凍保存後に解凍したペースト表面の離水評価が低い評価であった。
比較例4で得た冷凍菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物中のキサンタンガムの含有量が0.02重量%と少ないものであり、冷凍保存後に解凍したペースト表面の離水評価が低い評価であった。
比較例5で得た冷凍菓子用ペーストは、キサンタンガムを使用せず、代わりにローカストビーンガムのみを使用したものであり、冷凍保存後に解凍したペースト表面の離水評価が低い評価であった。
比較例6で得た冷凍菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物中の油脂含量が4重量%と少ないものである。この比較例6を冷凍保存後に解凍したペースト表面の離水評価の評価基準とする。
比較例7で得た冷凍菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物中の油脂含量が36重量%と多いものであり、冷凍保存後に解凍したペースト表面の離水評価が低い評価であった。
比較例8で得た冷凍菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物中の糖類含量が18.51重量%と少ないものであり、冷凍保存後に解凍したペースト表面の離水評価が低い評価であった。