(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123874
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】分離膜複合体の洗浄方法および洗浄装置
(51)【国際特許分類】
B01D 65/02 20060101AFI20240905BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240905BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240905BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240905BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20240905BHJP
B01D 71/06 20060101ALI20240905BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20240905BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B01D65/02
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02
B01D71/06
B08B3/04 Z
B08B3/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031654
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
【テーマコード(参考)】
3B201
4D006
【Fターム(参考)】
3B201AA46
3B201AB03
3B201BB02
3B201BB92
3B201CD11
3B201CD22
3B201CD43
4D006GA02
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4D006MA02
4D006MA03
4D006MA04
4D006MA09
4D006MA10
4D006MA21
4D006MA22
4D006MC01
4D006MC03
4D006MC04
4D006PA01
(57)【要約】
【課題】分離膜複合体において、多孔質支持体の細孔内を適切に、かつ、効率よく洗浄する。
【解決手段】分離膜複合体1では、平均細孔径が1nm未満の分離膜12が多孔質支持体11上に設けられており、透過流体の多孔質支持体11への流入面、および、透過流体の多孔質支持体11からの流出面の一方が、分離膜12に覆われる被覆面112であり、他方が、分離膜12に覆われない非被覆面113である。分離膜複合体1の洗浄方法は、多孔質支持体11の細孔内に除去対象の液体を含む分離膜複合体1を準備する工程と、少なくとも多孔質支持体11の非被覆面113側の空間を大気圧未満に減圧することにより、多孔質支持体11の細孔内の液体を非被覆面113から細孔外に排出する工程と、多孔質支持体11の細孔内に液体が残存する状態で、非被覆面113から多孔質支持体11の細孔内に洗浄液を侵入させる工程とを備える。
【選択図】
図5B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜複合体の洗浄方法であって、
分離膜複合体において、平均細孔径が1nm未満の分離膜が多孔質支持体上に設けられており、透過流体の前記多孔質支持体への流入面、および、前記透過流体の前記多孔質支持体からの流出面の一方が、前記分離膜に覆われる被覆面であり、他方が、前記分離膜に覆われない非被覆面であり、
前記分離膜複合体の洗浄方法が、
a)前記多孔質支持体の細孔内に除去対象の液体を含む前記分離膜複合体を準備する工程と、
b)少なくとも前記多孔質支持体の前記非被覆面側の空間を大気圧未満に減圧することにより、前記多孔質支持体の前記細孔内の液体を前記非被覆面から前記細孔外に排出する工程と、
c)前記多孔質支持体の前記細孔内に液体が残存する状態で、前記非被覆面から前記多孔質支持体の前記細孔内に洗浄液を侵入させる工程と、
を備えることを特徴とする分離膜複合体の洗浄方法。
【請求項2】
請求項1に記載の分離膜複合体の洗浄方法であって、
前記c)工程において、大気圧よりも低い圧力の前記洗浄液が前記非被覆面に接触し、その後、前記洗浄液の圧力が上げられることを特徴とする分離膜複合体の洗浄方法。
【請求項3】
請求項1に記載の分離膜複合体の洗浄方法であって、
前記c)工程において、大気圧よりも高い圧力の前記洗浄液が前記非被覆面に接触することを特徴とする分離膜複合体の洗浄方法。
【請求項4】
請求項1に記載の分離膜複合体の洗浄方法であって、
前記c)工程の後、前記b)工程が再度行われることを特徴とする分離膜複合体の洗浄方法。
【請求項5】
請求項1に記載の分離膜複合体の洗浄方法であって、
前記c)工程の後、前記b)およびc)工程が、1回以上繰り返されることを特徴とする分離膜複合体の洗浄方法。
【請求項6】
請求項1に記載の分離膜複合体の洗浄方法であって、
前記b)およびc)工程において、前記多孔質支持体の前記非被覆面側の空間の圧力と、前記被覆面側の空間の圧力とが略同じであることを特徴とする分離膜複合体の洗浄方法。
【請求項7】
請求項1に記載の分離膜複合体の洗浄方法であって、
前記多孔質支持体の前記被覆面における平均細孔径が、1nm以上かつ10μm以下であることを特徴とする分離膜複合体の洗浄方法。
【請求項8】
請求項1に記載の分離膜複合体の洗浄方法であって、
前記分離膜が、ゼオライト膜または金属有機構造体膜であることを特徴とする分離膜複合体の洗浄方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1つに記載の分離膜複合体の洗浄方法であって、
前記多孔質支持体が、多孔質無機材料からなる支持体であることを特徴とする分離膜複合体の洗浄方法。
【請求項10】
分離膜複合体の洗浄装置であって、
分離膜複合体において、平均細孔径が1nm未満の分離膜が多孔質支持体上に設けられており、透過流体の前記多孔質支持体への流入面、および、前記透過流体の前記多孔質支持体からの流出面の一方が、前記分離膜に覆われる被覆面であり、他方が、前記分離膜に覆われない非被覆面であり、
前記分離膜複合体の洗浄装置は、
前記分離膜複合体を内部に収容する密閉容器と、
前記密閉容器の前記内部において、少なくとも前記多孔質支持体の前記非被覆面側の空間を大気圧未満に減圧するための圧力調整部と、
前記密閉容器内の前記多孔質支持体から排出された液体を回収するための液回収部と、
前記密閉容器内に洗浄液を供給し、前記非被覆面から前記多孔質支持体の前記細孔内に前記洗浄液を侵入させるための洗浄液供給部と、
を備えることを特徴とする分離膜複合体の洗浄装置。
【請求項11】
請求項10に記載の分離膜複合体の洗浄装置であって、
前記圧力調整部および前記洗浄液供給部を制御することにより、少なくとも前記多孔質支持体の前記非被覆面側の空間を大気圧未満に減圧して、前記多孔質支持体の前記細孔内の液体を前記非被覆面から前記細孔外に排出させ、前記多孔質支持体の前記細孔内に液体が残存する状態で、前記非被覆面から前記多孔質支持体の前記細孔内に前記洗浄液を侵入させる制御部をさらに備えることを特徴とする分離膜複合体の洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜複合体を洗浄する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多孔質支持体上に分離膜を設けた分離膜複合体が利用されている。また、当該分離膜を洗浄する方法も知られており、例えば、特許文献1では、成膜後に低分子量物を含有する多孔質膜から、当該低分子量物を除去する手法が開示されている。当該手法では、多孔質膜中の低分子量物が洗浄溶剤にて溶解洗浄され、残存する洗浄溶剤が液化ガスまたは超臨界ガスで溶解置換され、その後、減圧乾燥が行われる。特許文献2では、多孔質支持体上に設けられたDDR型ゼオライト膜を洗浄する手法が開示されている。当該手法では、多孔質支持体およびゼオライト膜により隔てられる2つの空間のうち、ゼオライト膜側の空間に洗浄流体を流通させ、多孔質支持体側の空間が減圧される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-100120号公報
【特許文献2】特開2016-27938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、原料溶液(合成溶液)に多孔質支持体を浸漬し、水熱合成等のソルボサーマル法により分離膜を形成する場合、分離膜の形成後、多孔質支持体の細孔内には原料溶液が残存する。このような分離膜複合体では、使用前に当該細孔から原料溶液を十分に除去する、すなわち、当該細孔を洗浄することが好ましい。分離膜複合体の用途によっては、原料溶液以外の液体が、除去対象となる場合もある。
【0005】
一方、細孔径が1nm未満の分離膜が多孔質支持体上に形成された分離膜複合体では、当該分離膜の存在により、洗浄液を多孔質支持体の細孔内に十分に浸透させることが難しく、当該細孔内を適切に洗浄することは容易ではない。例えば、分離膜複合体を純水等の洗浄液中に長時間静置することで、多孔質支持体の細孔内を洗浄することが可能であるが、当該細孔内の液体を洗浄液で十分に置換するには、長時間を要してしまう。また、分離膜側の空間に加圧した洗浄液を供給し、分離膜を透過させた洗浄液により多孔質支持体の細孔内を洗浄することが考えられるが、分離膜の細孔径は小さいため、洗浄液が分離膜を透過しにくく、十分な量の洗浄液を多孔質支持体の細孔内に供給することができない。したがって、多孔質支持体を適切に洗浄することができない。
【0006】
特許文献1では、多孔質支持体の細孔内に侵入させた後に除去しやすい液化ガスや超臨界ガスが使用されるが、非常に大きな圧力(加圧)が必要となるため、多孔質支持体の洗浄コストが高くなってしまう。特許文献2のように、多孔質支持体側を減圧して、洗浄流体を分離膜側から多孔質支持体側へ透過させる場合、分離膜の細孔は洗浄可能であるが、多孔質支持体の細孔内では洗浄流体が蒸気となるため、多孔質支持体を洗浄することができない。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、分離膜複合体において、多孔質支持体の細孔内を適切に、かつ、効率よく洗浄することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
態様1の発明は、分離膜複合体の洗浄方法であって、分離膜複合体において、平均細孔径が1nm未満の分離膜が多孔質支持体上に設けられており、透過流体の前記多孔質支持体への流入面、および、前記透過流体の前記多孔質支持体からの流出面の一方が、前記分離膜に覆われる被覆面であり、他方が、前記分離膜に覆われない非被覆面であり、前記分離膜複合体の洗浄方法が、a)前記多孔質支持体の細孔内に除去対象の液体を含む前記分離膜複合体を準備する工程と、b)少なくとも前記多孔質支持体の前記非被覆面側の空間を大気圧未満に減圧することにより、前記多孔質支持体の前記細孔内の液体を前記非被覆面から前記細孔外に排出する工程と、c)前記多孔質支持体の前記細孔内に液体が残存する状態で、前記非被覆面から前記多孔質支持体の前記細孔内に洗浄液を侵入させる工程とを備える。
【0009】
態様2の発明は、態様1の分離膜複合体の洗浄方法であって、前記c)工程において、大気圧よりも低い圧力の前記洗浄液が前記非被覆面に接触し、その後、前記洗浄液の圧力が上げられる。
【0010】
態様3の発明は、態様1の分離膜複合体の洗浄方法であって、前記c)工程において、大気圧よりも高い圧力の前記洗浄液が前記非被覆面に接触する。
【0011】
態様4の発明は、態様1ないし3のいずれか1つの分離膜複合体の洗浄方法であって、前記c)工程の後、前記b)工程が再度行われる。
【0012】
態様5の発明は、態様1ないし4のいずれか1つの分離膜複合体の洗浄方法であって、前記c)工程の後、前記b)およびc)工程が、1回以上繰り返される。
【0013】
態様6の発明は、態様1ないし5のいずれか1つの分離膜複合体の洗浄方法であって、前記b)およびc)工程において、前記多孔質支持体の前記非被覆面側の空間の圧力と、前記被覆面側の空間の圧力とが略同じである。
【0014】
態様7の発明は、態様1ないし6のいずれか1つの分離膜複合体の洗浄方法であって、前記多孔質支持体の前記被覆面における平均細孔径が、1nm以上かつ10μm以下である。
【0015】
態様8の発明は、態様1ないし7のいずれか1つの分離膜複合体の洗浄方法であって、前記分離膜が、ゼオライト膜または金属有機構造体膜である。
【0016】
態様9の発明は、態様1ないし8のいずれか1つの分離膜複合体の洗浄方法であって、前記多孔質支持体が、多孔質無機材料からなる支持体である。
【0017】
態様10の発明は、分離膜複合体の洗浄装置であって、分離膜複合体において、平均細孔径が1nm未満の分離膜が多孔質支持体上に設けられており、透過流体の前記多孔質支持体への流入面、および、前記透過流体の前記多孔質支持体からの流出面の一方が、前記分離膜に覆われる被覆面であり、他方が、前記分離膜に覆われない非被覆面であり、前記分離膜複合体の洗浄装置は、前記分離膜複合体を内部に収容する密閉容器と、前記密閉容器の前記内部において、少なくとも前記多孔質支持体の前記非被覆面側の空間を大気圧未満に減圧するための圧力調整部と、前記密閉容器内の前記多孔質支持体から排出された液体を回収するための液回収部と、前記密閉容器内に洗浄液を供給し、前記非被覆面から前記多孔質支持体の前記細孔内に前記洗浄液を侵入させるための洗浄液供給部とを備える。
【0018】
態様11の発明は、態様10の分離膜複合体の洗浄装置であって、前記圧力調整部および前記洗浄液供給部を制御することにより、少なくとも前記多孔質支持体の前記非被覆面側の空間を大気圧未満に減圧して、前記多孔質支持体の前記細孔内の液体を前記非被覆面から前記細孔外に排出させ、前記多孔質支持体の前記細孔内に液体が残存する状態で、前記非被覆面から前記多孔質支持体の前記細孔内に前記洗浄液を侵入させる制御部をさらに備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、分離膜複合体において、多孔質支持体の細孔内を適切に、かつ、効率よく洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】分離膜複合体の一部を拡大して示す断面図である。
【
図3】分離膜複合体を洗浄する処理の流れを示す図である。
【
図5A】分離膜複合体の洗浄処理を説明するための図である。
【
図5B】分離膜複合体の洗浄処理を説明するための図である。
【
図5C】分離膜複合体の洗浄処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、分離膜複合体1の断面図である。
図2は、分離膜複合体1の一部を拡大して示す断面図である。分離膜複合体1は、多孔質支持体11と、封止部21と、多孔質支持体11上に設けられた分離膜12とを備える。後述するように、分離膜12は、複数種類の物質が混合した混合物質から、分子篩作用等を利用して特定の物質を分離可能である。
図1では、封止部21を太線にて描き、
図1および
図2では、分離膜12に平行斜線を付す(後述の
図4、
図5A~
図5Cにおいて同様)。また、
図2では、分離膜12の厚さを実際よりも厚く描いている。
【0022】
多孔質支持体11はガスおよび液体を透過可能な多孔質部材である。
図1に示す例では、多孔質支持体11は、一体成形された一繋がりの柱状の本体に、長手方向(すなわち、
図1中の左右方向)にそれぞれ延びる複数の貫通孔111が設けられたモノリス型支持体である。
図1に示す例では、多孔質支持体11は略円柱状である。各貫通孔111(すなわち、セル)の長手方向に垂直な断面は、例えば略円形である。
図1では、貫通孔111の径を実際よりも大きく、貫通孔111の数を実際よりも少なく描いている。分離膜12は、貫通孔111の内周面上に形成され、貫通孔111の内周面を略全面に亘って被覆する。
【0023】
多孔質支持体11の長さ(すなわち、
図1中の左右方向の長さ)は、例えば10cm~200cmである。多孔質支持体11の外径は、例えば0.5cm~30cmである。隣接する貫通孔111の中心軸間の距離は、例えば0.3mm~10mmである。多孔質支持体11の表面粗さ(Ra)は、例えば0.1μm~5.0μmであり、好ましくは0.2μm~2.0μmである。なお、多孔質支持体11の形状は、例えば、ハニカム状、平板状、管状、円筒状、円柱状または多角柱状等であってもよい。多孔質支持体11の形状が管状または円筒状である場合、多孔質支持体11の厚さは、例えば0.1mm~10mmである。
【0024】
多孔質支持体11の材料は、表面に分離膜12を形成する工程において化学的安定性を有するのであれば、様々な物質が採用可能である。好ましい多孔質支持体11は、セラミックまたは金属を含む多孔質無機材料からなる支持体である。本実施の形態では、多孔質支持体11はセラミック焼結体により形成される。多孔質支持体11の材料として選択されるセラミック焼結体としては、例えば、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。本実施の形態では、多孔質支持体11は、アルミナ、シリカおよびムライトのうち、少なくとも1種類を含む。
【0025】
多孔質支持体11は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも1つを用いることができる。
【0026】
多孔質支持体11の平均細孔径は、例えば0.001μm(1nm)~70μmであり、好ましくは0.01μm~70μmであり、より好ましくは0.05μm~25μmである。分離膜12が形成される表面近傍における多孔質支持体11の平均細孔径は、例えば0.001μm~10μmであり、好ましくは0.01μm~1μmであり、より好ましくは0.05μm~0.5μmである。平均細孔径は、例えば、水銀ポロシメーター、パームポロメーターまたはナノパームポロメーターにより測定することができる。多孔質支持体11の表面および内部を含めた全体における細孔径の分布については、D5は例えば0.01μm~50μmであり、D50は例えば0.05μm~70μmであり、D95は例えば0.1μm~2000μmである。分離膜12が形成される表面近傍における多孔質支持体11の気孔率は、例えば20%~60%である。
【0027】
多孔質支持体11は、例えば、平均細孔径が異なる複数の層が厚さ方向に積層された多層構造を有する。分離膜12が形成される表面(後述の被覆面112)を含む表面層における平均細孔径および焼結粒径は、表面層以外の層における平均細孔径および焼結粒径よりも小さい。多孔質支持体11の表面層の平均細孔径は、例えば0.001μm~10μmであり、好ましくは0.01μm~1μmであり、より好ましくは0.05μm~0.5μmである。多孔質支持体11が多層構造を有する場合、各層の材料は上記のものを用いることができる。多層構造を形成する複数の層の材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0028】
多孔質支持体11には、封止部21が設けられていてもよい。
図1に示す例では、封止部21は、多孔質支持体11の長手方向(すなわち、
図1中の左右方向)の両端部に取り付けられ、多孔質支持体11の長手方向両端面、および、当該両端面近傍の外周面を被覆して封止する部材である。封止部21は、多孔質支持体11の当該両端面からのガスまたは液体の流入および流出を防止する。封止部21は、例えば、ガラスまたは樹脂により形成された板状部材である。封止部21の材料および形状は、適宜変更されてよい。なお、封止部21には、支持体11の複数の貫通孔111と重なる複数の開口が設けられているため、支持体11の各貫通孔111の長手方向両端は、封止部21により被覆されていない。したがって、当該両端から貫通孔111へのガスや液体の流入および流出は可能である。
【0029】
分離膜12は、微細孔(マイクロ孔)を有する多孔膜である。分離膜12は、複数種類の物質が混合した混合物質から、分子篩作用等を利用して特定の物質を分離可能である。分離膜12では、当該特定の物質に比べて他の物質が透過しにくい。換言すれば、分離膜12の当該他の物質の透過量は、上記特定の物質の透過量に比べて小さい。好ましい分離膜12は、ゼオライト膜または金属有機構造体(MOF:Metal Organic Framework)膜である。ゼオライト膜とは、少なくとも、多孔質支持体11の表面にゼオライトが膜状に形成されたものであって、有機膜中にゼオライトの粒子を分散させただけのものは含まない。MOF膜についても同様である。分離膜12は、ゼオライトおよびMOF以外の物質により形成されてもよく、例えば、シリカ膜、炭素膜等であってもよい。
【0030】
分離膜12の厚さは、例えば0.05μm~30μmであり、好ましくは0.1μm~20μmであり、さらに好ましくは0.5μm~10μmである。分離膜12を厚くすると分離性能が向上する。分離膜12を薄くすると透過速度が増大する。分離膜12の表面粗さ(Ra)は、例えば5μm以下であり、好ましくは2μm以下であり、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下である。
【0031】
分離膜12の平均細孔径は、1nm未満であり、より好ましくは0.8nm以下であり、さらに好ましくは0.6nm以下である。分離膜12の平均細孔径は、好ましくは0.1nm以上であり、より好ましくは0.2nm以上であり、さらに好ましくは0.3nm以上である。分離膜12の平均細孔径が1nm未満であることにより、分子を効率的に分離することができる。また、分離膜12の平均細孔径が0.1nm以上であることにより、分子の透過量を増大することができる。分離膜12の平均細孔径は、分離膜12が形成される表面近傍における多孔質支持体11の平均細孔径よりも小さい。
【0032】
分離膜12の表面(多孔質支持体11とは反対側の面)から0.1MPaGの圧力で25℃の純水を圧入した際に、分離膜12を透過する水量(水透過量)は、0.5m3/(m2・day)以下であることが好ましく、より好ましくは0.1m3/(m2・day)以下であり、さらに好ましくは0.05m3/(m2・day)以下である。分離膜12の水透過量が0.5m3/(m2・day)以下であることにより、分離膜12に粗大な欠陥がなく、分子を効率的に分離することができる。
【0033】
例えば、分離膜12がゼオライト膜であり、ゼオライト膜を構成するゼオライトの最大員環数がnである場合、n員環細孔の短径と長径の算術平均を平均細孔径とする。n員環細孔とは、酸素原子がT原子と結合して環状構造をなす部分の酸素原子の数がn個である細孔である。ゼオライトが、nが等しい複数種類のn員環細孔を有する場合には、全種類のn員環細孔の短径と長径の算術平均をゼオライトの平均細孔径とする。このように、ゼオライト膜の平均細孔径は当該ゼオライトの骨格構造によって一義的に決定され、国際ゼオライト学会の“Database of Zeolite Structures”[online]、インターネット<URL:http://www.iza-structure.org/databases/>に開示されている値から求めることができる。分離膜12がMOF膜である場合も同様に、平均細孔径は、結晶の骨格構造から算出可能である。分離膜12を構成するゼオライトおよびMOFの種類は特に限定されず、ゼオライトおよびMOFを構成する元素も特に限定されない。
【0034】
図1の分離膜複合体1は、分離装置に取り付けられて混合物質の分離に利用される。分離装置では、複数種類の流体(すなわち、ガスまたは液体)を含む混合物質を分離膜複合体1に供給し、混合物質中の透過性が高い物質を、分離膜複合体1を透過させることにより混合物質から分離させる。当該混合物質(すなわち、混合流体)は、複数種類のガスを含む混合ガスであってもよく、複数種類の液体を含む混合液であってもよく、ガスおよび液体の双方を含む気液二相流体であってもよい。
【0035】
図1の分離膜複合体1では、例えば、長手方向(
図1の左右方向)における一端側から多孔質支持体11の各貫通孔111内に混合流体が導入される。混合流体中の透過性が高い流体は、貫通孔111の内周面上に設けられた分離膜12、および、多孔質支持体11を透過し、多孔質支持体11の外周面から導出される。このように、混合流体中の透過性が高い流体が、透過流体として分離膜12および多孔質支持体11を透過することにより、透過性が低い流体から分離される。混合流体のうち透過流体を除く流体は、不透過流体であり、多孔質支持体11の各貫通孔111を通過し、長手方向における分離膜複合体1の他端側から貫通孔111外に排出される。不透過流体には、上述の透過性が低い流体以外に、分離膜12を透過しなかった、透過性が高い流体が含まれていてもよい。
【0036】
図1の例では、各貫通孔111の内周面が、透過流体の多孔質支持体11への流入面であり、当該流入面が、分離膜12に覆われる被覆面112である。また、多孔質支持体11の外周面が、透過流体の多孔質支持体11からの流出面であり、当該流出面が、分離膜12に覆われない非被覆面113である。後述するように、多孔質支持体11の外周面が透過流体の流入面とされ、各貫通孔111の内周面が透過流体の流出面とされてもよい。また、流入面が非被覆面とされ、流出面が被覆面とされてもよい。
【0037】
図3は、分離膜複合体1を洗浄する処理の流れを示す図である。本明細書における分離膜複合体1の洗浄は、多孔質支持体11の細孔内に含まれる不要な液体を除去する処理である。まず、多孔質支持体11の細孔内に除去対象の液体を含む分離膜複合体1が準備される(ステップS11)。例えば、分離膜12がゼオライト膜またはMOF膜である場合、分離膜12の形成では、原料溶液(合成溶液)に多孔質支持体11を浸漬し、水熱合成等が行われる。この場合、分離膜12の形成後に、多孔質支持体11の細孔内には原料溶液が残存するため、当該原料溶液が除去対象の液体となる。除去対象の液体は、原料溶液以外であってもよい。例えば、分離膜複合体1を用いた混合流体の分離において、混合流体に含まれる所定成分の液体が、多孔質支持体11の細孔内に滞留する場合に、当該液体が、除去対象の液体であってもよい。以下の説明では、多孔質支持体11の細孔内に存在する除去対象の液体を「対象液体」という。
【0038】
対象液体を含む分離膜複合体1が準備されると、
図4に示す洗浄装置8の密閉容器(チャンバー)81内に分離膜複合体1が収容される。密閉容器81の内部は、密閉容器81の周囲の空間から隔離された密閉空間である。洗浄装置8は、密閉容器81に加えて、制御部80と、圧力調整部82と、洗浄液供給部83と、液回収部84とを備える。制御部80は、洗浄装置8の全体制御を担う。制御部80は、例えば、CPU、メモリ等を有するコンピュータが所定のプログラムを実行することにより実現される。制御部80の一部または全部が、プログラマブルロジックコントローラ(PLC:Programmable Logic Controller)等により実現されてもよい。圧力調整部82、洗浄液供給部83および液回収部84は、密閉容器81に接続される。圧力調整部82は、ポンプ等を有し、密閉容器81の内部を減圧および加圧可能である。洗浄液供給部83は、洗浄液タンク、ポンプ等を有し、密閉容器81内に洗浄液を供給する。液回収部84は、排液タンク等を有し、密閉容器81の内部の液体を回収する。
【0039】
分離膜複合体1が密閉容器81内に収容されると、圧力調整部82により、密閉容器81の内部が大気圧未満に減圧される(ステップS12)。すなわち、当該内部に充填されるガス(空気)の圧力が、大気圧未満となる。密閉容器81の内部の圧力は、例えば-30kPaG(ゲージ圧)以下であり、好ましくは-60kPaG以下であり、より好ましくは-80kPaG以下である。このように、ステップS12では、多孔質支持体11の外周面に接する空間、すなわち、多孔質支持体11の非被覆面113側の空間が、大気圧未満に減圧される。実際には、各貫通孔111の内周面上の分離膜12に接する空間、すなわち、多孔質支持体11の被覆面112側の空間も減圧され、被覆面112側の空間の圧力と、非被覆面113側の空間の圧力とが略同じとなる。なお、被覆面112側の空間を分離膜12側の空間と捉え、非被覆面113側の空間を多孔質支持体11側の空間と捉えることも可能である。
【0040】
図5Aないし
図5Cは、分離膜複合体1の洗浄処理を説明するための図であり、分離膜複合体1を簡略化して示す。
図5Aないし
図5Cでは、多孔質支持体11における上側の面が、分離膜12に覆われる被覆面112であり、下側の面が、分離膜12に覆われない非被覆面113であり、左右の面が、封止部21である。多孔質支持体11の細孔内には、
図5Aに示すように、対象液体が含まれている。
図5Aでは、対象液体が存在する領域に一定密度のドット模様を描いている(
図5Bにおいて同様)。多孔質支持体11の非被覆面113側の空間が減圧されると、多孔質支持体11の細孔内において対象液体の一部が気化する。すなわち、多孔質支持体11内の対象液体中に気泡が発生する。これにより、
図5Bに示すように、対象液体の一部が非被覆面113から多孔質支持体11の細孔外に押し出される(排出される)。
図4の分離膜複合体1では、非被覆面113である多孔質支持体11の外周面から、対象液体の一部が多孔質支持体11の細孔外に排出される。
【0041】
多孔質支持体11から排出された対象液体は、密閉容器81内の底部から液回収部84に排出される。これにより、後述するように密閉容器81の内部を大気圧に戻した際に、多孔質支持体11から排出された対象液体が、多孔質支持体11の細孔内に再度侵入することが防止される。例えば、分離膜複合体1を下方から支持する支持台が密閉容器81の内部に設けられ、多孔質支持体11から排出された対象液体が支持台の下方に溜まることにより、密閉容器81の内部において当該対象液体が多孔質支持体11から隔離されてもよい。この場合、密閉容器81の下部が、液回収部84に該当する(液回収部84を兼ねている)と見なすことができる。
【0042】
密閉容器81の減圧開始から所定時間が経過すると、密閉容器81の内部が大気圧に戻され(復圧され)、対象液体を多孔質支持体11の細孔外に排出するステップS12の処理が終了する。ステップS12における減圧時間は、例えば0.5~300分であり、好ましくは1~100分である。密閉容器81の減圧は、多孔質支持体11の細孔内の全ての対象液体が排出される前、すなわち、多孔質支持体11の細孔内に対象液体が残存する状態で終了する。対象液体の残存率は、例えば、1%以上でよく、好ましくは5%以上である。これにより、対象液体に含まれる物質が、乾燥により細孔内で固着することが抑制される。また、対象液体の排出を効率的に行うために、対象液体の残存率は、例えば、90%以下であり、好ましくは80%以下であり、より好ましくは70%以下である。なお、対象液体の残存率は、対象液体を含む分離膜複合体1の質量を測定することにより算出可能である。対象液体の質量を特定するために利用される、対象液体を含まない分離膜複合体1の質量は、例えば、加熱処理等により対象液体を除去した分離膜複合体1の質量を測定することにより取得可能である。続いて、多孔質支持体11の細孔内に洗浄液を侵入させる処理が行われる(ステップS13)。洗浄液は、水または有機溶剤(例えば、アルコール)等である。
【0043】
ステップS13における第1の処理例では、まず、洗浄液供給部83により密閉容器81内に洗浄液が供給される。これにより、分離膜複合体1の全体が洗浄液中に浸漬される。その後、圧力調整部82により密閉容器81の内部を加圧することにより、密閉容器81内の洗浄液が間接的に加圧され、当該洗浄液の圧力が大気圧よりも高くなる。密閉容器81の内部の圧力は、例えば100kPaG以上であり、好ましくは500kPaG以上である。内部の圧力の上限は、密閉容器81および分離膜複合体1に損傷が生じない範囲であれば、特に限定されないが、例えば、10MPaGである。加圧時間は、例えば1~600分であり、好ましくは10~300分である。このように、大気圧よりも高い圧力の洗浄液が非被覆面113に接触することにより、
図5Cに示すように、多孔質支持体11の細孔内に洗浄液を強制的に侵入させることが可能となる。
図5Cでは、液体が存在する領域に、
図5Aおよび
図5Bとは異なる密度のドット模様を描いている。第1の処理例では、密閉容器81の内部に洗浄液が充填され、大気圧よりも高い圧力まで洗浄液が洗浄液供給部83により直接的に加圧されてもよい。
【0044】
ステップS13における第2の処理例では、まず、第1の処理例と同様に、密閉容器81内に洗浄液が供給され、分離膜複合体1の全体が洗浄液中に浸漬される。続いて、圧力調整部82により密閉容器81の内部を減圧することにより、密閉容器81内の洗浄液の圧力が大気圧よりも低くなる。密閉容器81の内部の圧力は、例えば-30kPaG以下であり、好ましくは-60kPaG以下であり、より好ましくは-80kPaG以下である。減圧時間は、例えば1~600分であり、好ましくは例えば10~300分である。これにより、多孔質支持体11の細孔内の空気の一部が、気泡となって非被覆面113から多孔質支持体11の細孔外に排出される。その後、密閉容器81の内部を大気圧に戻す(復圧する)ことにより、密閉容器81内の洗浄液の圧力も大気圧となり、洗浄液が非被覆面113から多孔質支持体11の細孔内に侵入する。
【0045】
また、第2の処理例は、ステップS12の終了時に密閉容器81の内部を大気圧に戻すことなく行われてもよい。この場合、密閉容器81の内部を減圧した状態を維持しつつ、洗浄液供給部83により密閉容器81内に洗浄液が供給され、分離膜複合体1の全体が洗浄液中に浸漬される。その後、密閉容器81の内部を復圧することにより、密閉容器81内の洗浄液が非被覆面113から多孔質支持体11の細孔内に侵入する。以上のように、第2の処理例では、大気圧よりも低い圧力の洗浄液が非被覆面113に接触し、その後、洗浄液の圧力が上げられる。これにより、多孔質支持体11の細孔内に洗浄液を侵入させることが可能となる。なお、第2の処理例において、洗浄液を非被覆面113から多孔質支持体11の細孔内に侵入させる際の圧力は、大気圧未満であってもよく、大気圧より高くてもよい。
【0046】
分離膜複合体1の洗浄処理では、必要に応じて、ステップS12,S13の処理が繰り返される(ステップS14)。2回目以降のステップS12では、密閉容器81の内部を大気圧未満に減圧することにより、多孔質支持体11の細孔内の液体、すなわち、対象液体および洗浄液が非被覆面113から細孔外に排出される。また、2回目以降のステップS13では、多孔質支持体の細孔内に上記液体が残存する状態で、非被覆面113から多孔質支持体11の細孔内に洗浄液を侵入させる処理が行われる。ステップS12,S13の処理を1回以上繰り返すことにより、細孔内の対象液体がより確実に除去される。なお、各回における圧力や時間等の条件は、同じであってもよく、異なっていてもよい。以上の処理により、分離膜複合体1の洗浄処理が完了する。
【0047】
分離膜複合体1の洗浄処理では、ステップS12,S13の処理を繰り返す場合における最後のステップS13の終了後に、または、ステップS12,S13の処理を繰り返さない場合におけるステップS13の終了後に、ステップS12の処理が再度行われてもよい。当該ステップS12では、多孔質支持体11の細孔内の液体が非被覆面113から細孔外に排出されるため、細孔内の液体をある程度除去した状態で、分離膜複合体1の洗浄処理を完了することができる。
【0048】
分離膜12では、対象液体および洗浄液がほとんど透過しないため、例えば、各貫通孔111の両端に封孔部材が設けられ、被覆面112側の空間が非被覆面113側の空間から隔離されてもよい。また、分離膜複合体1の長手方向両端部近傍において、多孔質支持体11の外周面上の封止部21と密閉容器81の内周面との間にOリング等のシール部材を配置することで、被覆面112側の空間が非被覆面113側の空間から隔離されてもよい。ステップS12では、少なくとも多孔質支持体11の非被覆面113側の空間を大気圧未満に減圧することにより、多孔質支持体11の細孔内の液体を非被覆面113から細孔外に排出することが可能である。
【0049】
次に、分離膜複合体1の洗浄処理に係る実験例について説明する。
【0050】
端部をガラスで封止した直径30mm、長さ160mmのモノリス形状の多孔質アルミナ支持体上に、水熱合成によってDDR型ゼオライト膜を合成し、分離膜複合体を得た。多孔質支持体の細孔内に充填されている液体の排出効率を正しく評価するため(後述する、細孔内の液体の質量から除去率を正しく評価するため)、分離膜複合体を純水中に長時間浸漬し、多孔質支持体の細孔内に充填されている液体を純水で十分に置換した。なお、この操作(純水への置換操作)は、除去率を評価するために行ったものであり、本発明に係る洗浄処理においては基本的に不要である。
【0051】
多孔質支持体の細孔内に充填されている液体の除去率を求めるために、以下の操作を行った。分離膜複合体を純水から取り出して減圧チャンバー内に入れ、表1に示す圧力で1分間保持した。分離膜複合体を減圧チャンバーから取り出し、多孔質支持体から排出された液体を取り除いた後の分離膜複合体(以下、単に「減圧排液後の分離膜複合体」という。)の質量を測定し、液体の除去率を求めた。ある条件で除去率を求めた後は、後述の操作にて純水で細孔を100%充填する操作を行ってから、次の条件で除去率を求めた。液体の除去率が高いほど、短時間で多孔質支持体からより多くの液体を排出することができるため、効率的に分離膜複合体を洗浄することができる。
【0052】
【0053】
表1から分かるように、分離膜複合体1の周囲を減圧することで、大気圧(0kPaG)よりも、多孔質支持体の細孔内の液体を効率的に排出することができる。特に、分離膜複合体1の周囲を-60kPaG以下に減圧することで、より効率的に細孔内の液体を排出することができる。
【0054】
次に、多孔質支持体の細孔内に洗浄液を侵入させる工程の評価を行うため、以下の操作を行った。まず、ビーカーに入れた純水中に、上記の-101kPaGでの減圧排液後の分離膜複合体を浸漬した後、ビーカーを減圧チャンバー内に入れ、-101kPaGに減圧して10分間保持することで、多孔質支持体内の空気を除去した。その後、減圧チャンバー内を大気圧に戻し、分離膜複合体を純水から取り出して質量を測定し、液体の充填率を求めたところ、充填率は100%であった。
【0055】
また、上記の-101kPaGでの減圧排液後の分離膜複合体を空のビーカーに入れた後、ビーカーを減圧チャンバー内に入れ、-101kPaGに減圧した。圧力を保ったままビーカーに純水を入れて、分離膜複合体を純水に浸漬した。その後、減圧チャンバー内を大気圧に戻し、分離膜複合体を純水から取り出して質量を測定し、液体の充填率を求めたところ、充填率は99%であった。
【0056】
さらに、ビーカーに入れた純水中に、上記の-101kPaGでの減圧排液後の分離膜複合体を浸漬した後、ビーカーを加圧チャンバー内に入れ、900kPaGに加圧して10分間保持することで、多孔質支持体内の空気を圧縮した。加圧によって、多孔質支持体内の空気も圧縮されたとして液体の充填率を求めたところ、充填率は96%であった。
【0057】
以上のように、大気圧よりも低い圧力の液体を多孔質支持体の非被覆面に接触させ、その後、当該液体の圧力を上げる処理、または、大気圧よりも高い圧力の液体を多孔質支持体の非被覆面に接触させる処理により、効率的に液体を多孔質支持体の細孔内に侵入させることができる。
【0058】
以上に説明したように、分離膜複合体1では、平均細孔径が1nm未満の分離膜12が多孔質支持体11上に設けられる。また、透過流体の多孔質支持体11への流入面が、分離膜12に覆われる被覆面112とされ、透過流体の多孔質支持体11からの流出面が、分離膜12に覆われない非被覆面113とされる。当該分離膜複合体1の洗浄方法は、多孔質支持体11の細孔内に除去対象の液体を含む分離膜複合体1を準備する工程(ステップS11)と、少なくとも多孔質支持体11の非被覆面113側の空間を大気圧未満に減圧することにより、多孔質支持体11の細孔内の液体を非被覆面113から細孔外に排出する工程(ステップS12)と、多孔質支持体11の細孔内に液体が残存する状態で、非被覆面113から多孔質支持体11の細孔内に洗浄液を侵入させる工程(ステップS13)とを備える。
【0059】
上記ステップS12では、多孔質支持体11の細孔内の液体の一部を蒸気化させて体積を増加させることで、細孔内の液体を効率的に排出することができる。また、上記ステップS13では、多孔質支持体11の細孔内の液体が全て除去される前に洗浄液を侵入させることで、乾燥により被洗浄物質が細孔内で固着して洗浄しにくくなることを抑制することができる。その結果、分離膜複合体1の洗浄方法では、多孔質支持体11の細孔内を適切に、かつ、効率よく洗浄することができる。
【0060】
好ましくは、ステップS13において、大気圧よりも低い圧力の洗浄液が非被覆面113に接触し、その後、洗浄液の圧力が上げられる。これにより、多孔質支持体11の細孔内に洗浄液を容易に侵入させることができる。ステップS13において、大気圧よりも高い圧力の洗浄液が非被覆面113に接触してもよい。この場合も、多孔質支持体11の細孔内に洗浄液を容易に侵入させることができる。
【0061】
好ましくは、ステップS13の後、ステップS12が再度行われる。これにより、分離膜複合体1の洗浄を完了する前に、多孔質支持体11の細孔内の液体をある程度除去することが可能となる。
【0062】
好ましくは、ステップS13の後、ステップS12,S13が、1回以上繰り返される。これにより、多孔質支持体11の細孔内の除去対象の液体をしっかりと除去することができる。
【0063】
好ましくは、ステップS12,S13において、多孔質支持体11の非被覆面113側の空間の圧力と、被覆面112側の空間の圧力とが略同じである。このように、被覆面112側の空間と非被覆面113側の空間とを隔離しない場合には、例えば、各貫通孔111の両端に封止部材を設ける等の作業が不要となるため、ステップS12,S13を容易に実行することができる。
【0064】
上記洗浄方法は、多孔質支持体11の被覆面112における平均細孔径が、1nm以上かつ10μm以下である場合に好適である。このように、多孔質支持体11の平均細孔径が小さい場合でも、上記洗浄方法では、多孔質支持体11の細孔内を適切に、かつ、効率よく洗浄することができる。
【0065】
ところで、分離膜12が、ゼオライト膜または金属有機構造体膜である場合、典型的には、分離膜12が水熱合成等により形成されるため、水熱合成等の後に多孔質支持体11の細孔内に原料溶液が残留する。この場合でも、上記洗浄方法では、多孔質支持体11の細孔内から原料溶液を適切に、かつ、効率よく除去することができる。
【0066】
分離膜複合体1の洗浄装置8は、分離膜複合体1を内部に収容する密閉容器81と、密閉容器81の内部において、少なくとも多孔質支持体11の非被覆面113側の空間を大気圧未満に減圧するための圧力調整部82と、密閉容器81内の多孔質支持体11から排出された液体を回収するための液回収部84と、密閉容器81内に洗浄液を供給し、非被覆面113から多孔質支持体11の細孔内に洗浄液を侵入させるための洗浄液供給部83とを備える。これにより、多孔質支持体11の細孔内を適切に、かつ、効率よく洗浄することができる。なお、上記の処理例では、多孔質支持体11の細孔内への洗浄液の侵入は、洗浄液供給部83が密閉容器81内の洗浄液を直接的に加圧することにより、または、洗浄液供給部83と圧力調整部82とが協働することにより実現される。
【0067】
好ましくは、洗浄装置8は、制御部80をさらに備える。制御部80が、圧力調整部82および洗浄液供給部83を制御することにより、少なくとも多孔質支持体11の非被覆面113側の空間を大気圧未満に減圧して、多孔質支持体11の細孔内の液体を非被覆面113から細孔外に排出させ、多孔質支持体11の細孔内に液体が残存する状態で、非被覆面113から多孔質支持体11の細孔内に洗浄液を侵入させる。これにより、乾燥により被洗浄物質が細孔内で固着して洗浄しにくくなることを抑制することができ、多孔質支持体11の細孔内をより適切に洗浄することができる。
【0068】
上記分離膜複合体1の洗浄方法および洗浄装置8では様々な変形が可能である。
【0069】
分離膜複合体1の設計によっては、多孔質支持体11の外周面が、透過流体の多孔質支持体11への流入面とされ、各貫通孔111の内周面が、透過流体の多孔質支持体11からの流出面とされてもよい。また、透過流体の流入面が分離膜12に覆われない非被覆面とされ、透過流体の流出面が分離膜12に覆われる被覆面とされてもよい。分離膜複合体1では、透過流体の多孔質支持体11への流入面、および、透過流体の多孔質支持体11からの流出面の一方が、分離膜12に覆われる被覆面であり、他方が、分離膜12に覆われない非被覆面であればよい。多孔質支持体11が、モノリス型以外の形状である場合も同様である。
【0070】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の分離膜複合体の洗浄方法および洗浄装置は、ゼオライト膜、金属有機構造体膜等、様々な種類の分離膜を含む分離膜複合体に利用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 分離膜複合体
8 洗浄装置
11 多孔質支持体
12 分離膜
80 制御部
81 密閉容器
82 圧力調整部
83 洗浄液供給部
84 液回収部
112 被覆面
113 非被覆面
S11~S14 ステップ