IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平洋セメント株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123887
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】二酸化炭素の固定方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20240905BHJP
   A01G 7/02 20060101ALI20240905BHJP
   A01G 33/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C12N1/00 Q
A01G7/02
A01G33/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031675
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】西城(花田) 晶子
(72)【発明者】
【氏名】春日 友明
(72)【発明者】
【氏名】明戸 剛
【テーマコード(参考)】
2B022
2B026
4B065
【Fターム(参考)】
2B022DA12
2B026AA05
4B065AA83X
4B065AC20
4B065BB02
4B065CA56
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素の含有率が小さい(具体的には、体積基準で100~10,000ppm)二酸化炭素含有ガスを用いているにもかかわらず、容易にかつより多くの量の二酸化炭素を海水又は淡水に固定化することができる方法を提供する。
【解決手段】海水または淡水の中に二酸化炭素を固定するための方法であって、収容手段の中に、ケイ酸カルシウム含有材料からなる粉粒体である固体材料、及び、海水または淡水である液体材料を収容して、固体材料及び液体材料を含む二酸化炭素固定用材料を調製する二酸化炭素固定用材料調製工程と、収容手段の中に、二酸化炭素の含有率が体積基準で100~10,000ppmである二酸化炭素含有ガスを供給して、二酸化炭素固定用材料に、二酸化炭素含有ガスに含まれている二酸化炭素を固定する二酸化炭素含有ガス供給工程、を含む二酸化炭素の固定方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水または淡水の中に二酸化炭素を固定するための方法であって、
収容手段の中に、ケイ酸カルシウム含有材料からなる粉粒体である固体材料、及び、海水または淡水である液体材料を収容して、上記固体材料及び上記液体材料を含む二酸化炭素固定用材料を調製する二酸化炭素固定用材料調製工程と、
上記収容手段の中に、二酸化炭素の含有率が体積基準で100~10,000ppmである二酸化炭素含有ガスを供給して、上記二酸化炭素固定用材料に、上記二酸化炭素含有ガスに含まれている二酸化炭素を固定する二酸化炭素含有ガス供給工程、
を含むことを特徴とする二酸化炭素の固定方法。
【請求項2】
上記二酸化炭素含有ガス供給工程において、上記二酸化炭素含有ガスとして、空気または排気ガスを用いる請求項1に記載の二酸化炭素の固定方法。
【請求項3】
上記二酸化炭素固定用材料調製工程において、上記固体材料の量が、上記液体材料の単位体積当たり、5~100g/リットルである請求項1に記載の二酸化炭素の固定方法。
【請求項4】
上記二酸化炭素固定用材料調製工程において、上記固体材料として、軽量気泡コンクリートからなる粉粒体を用いる請求項1に記載の二酸化炭素の固定方法。
【請求項5】
上記二酸化炭素含有ガス供給工程において、上記二酸化炭素含有ガスの供給が、上記液体材料の中に上記二酸化炭素含有ガスを吹き込むことによって行われる請求項1に記載の二酸化炭素の固定方法。
【請求項6】
上記二酸化炭素含有ガス供給工程において、上記二酸化炭素含有ガスの供給が、上記液体材料を撹拌しながら行われる請求項5に記載の二酸化炭素の固定方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の二酸化炭素の固定方法によって、上記二酸化炭素の固定を行った後、上記収容手段の中に、二酸化炭素を吸収する生物を収容し、上記生物に二酸化炭素を固定させることを特徴とする二酸化炭素の固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水または淡水の中に二酸化炭素を固定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球温暖化等の深刻な環境問題を受けて、世界中で脱炭素化に向けた取り組みが活発になっている。中でも、生物学的な二酸化炭素の固定化及び資源化は、環境負荷の小さい技術として現在注目されており、例えば、微細藻類等の独立栄養微生物を用いた二酸化炭素の固定化が知られている。
藻類を培養する過程でより多くの二酸化炭素を固定化することができる藻類の培養システムとして、例えば、特許文献1には、コンクリート廃材と、藻類を培養する培養水とを収容する収容装置と、前記収容装置の前記培養水にCOを供給するCO供給装置と、を備える藻類の培養システムが記載されている。
また、液体中の炭酸ガスの量が大きく、藻類の増殖を促進することができる液体として、特許文献2には、炭酸ガス含有水、及び、ケイ酸カルシウム含有材料からなる粒体を含む、藻類の増殖促進用の液体であって、上記炭酸ガス含有水の中の炭酸ガスの量が、500mg/リットル以上であることを特徴とする藻類の増殖促進用の液体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-144299号公報
【特許文献2】特開2021-153452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
微細藻類等の独立栄養微生物を用いた二酸化炭素の固定化において、微細藻類等の独立栄養微生物は、主に水域に生息している。このため、微細藻類等に二酸化炭素の固定化を効率的に行わせる目的で、炭酸ガス(気体状の二酸化炭素)を高濃度で含む二酸化炭素含有ガスを水中に供給し、固定(溶解)することが考えられる。
しかし、炭酸ガスを高濃度で含む二酸化炭素含有ガスを水中に供給した場合、炭酸ガスの多くは、水中に固定(溶解)することなくそのまま大気中に放出されるため、非効率であるとともに、大気中の二酸化炭素濃度を大きくしてしまうという問題がある。
上記問題を解決する方法として、閉鎖系の設備を用いる方法が挙げられるが、該方法は、設備にかかるコストが過大になる。また、炭酸ガスを低濃度で含む二酸化炭素含有ガス用いる方法も挙げられるが、該方法は、炭酸ガスを水中に固定(溶解)させる効率が悪くなる。
本発明の目的は、二酸化炭素の含有率が小さい(具体的には、体積基準で100~10,000ppm)二酸化炭素含有ガスを用いているにもかかわらず、容易にかつより多くの量の二酸化炭素を海水又は淡水に固定化することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ケイ酸カルシウム含有材料からなる粉粒体、及び、海水または淡水を含む二酸化炭素固定用材料を調製する工程と、二酸化炭素の含有率が体積基準で100~10,000ppmである二酸化炭素含有ガスを供給して、二酸化炭素固定用材料に二酸化炭素を固定する工程を含む方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[7]を提供するものである。
[1] 海水または淡水の中に二酸化炭素を固定するための方法であって、収容手段の中に、ケイ酸カルシウム含有材料からなる粉粒体である固体材料、及び、海水または淡水である液体材料を収容して、上記固体材料及び上記液体材料を含む二酸化炭素固定用材料を調製する二酸化炭素固定用材料調製工程と、上記収容手段の中に、二酸化炭素の含有率が体積基準で100~10,000ppmである二酸化炭素含有ガスを供給して、上記二酸化炭素固定用材料に、上記二酸化炭素含有ガスに含まれている二酸化炭素を固定する二酸化炭素含有ガス供給工程、を含む二酸化炭素の固定方法。
【0006】
[2] 上記二酸化炭素含有ガス供給工程において、上記二酸化炭素含有ガスとして、空気または排気ガスを用いる前記[1]に記載の二酸化炭素の固定方法。
[3] 上記二酸化炭素固定用材料調製工程において、上記固体材料の量が、上記液体材料の単位体積当たり、5~100g/リットルである前記[1]又は[2]に記載の二酸化炭素の固定方法。
[4] 上記二酸化炭素固定用材料調製工程において、上記固体材料として、軽量気泡コンクリートからなる粉粒体を用いる前記[1]~[3]のいずれかに記載の二酸化炭素の固定方法。
[5] 上記二酸化炭素含有ガス供給工程において、上記二酸化炭素含有ガスの供給が、上記液体材料の中に上記二酸化炭素含有ガスを吹き込むことによって行われる前記[1]~[4]のいずれかに記載の二酸化炭素の固定方法。
[6] 上記二酸化炭素含有ガス供給工程において、上記二酸化炭素含有ガスの供給が、上記液体材料を撹拌しながら行われる前記[5]に記載の二酸化炭素の固定方法。
[7] 前記[1]~[6]のいずれかに記載の二酸化炭素の固定方法によって、上記二酸化炭素の固定を行った後、上記収容手段の中に、二酸化炭素を吸収する生物を収容し、上記生物に二酸化炭素を固定させることを特徴とする二酸化炭素の固定方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の二酸化炭素の固定化方法によれば、二酸化炭素の含有率が小さい(具体的には、体積基準で100~10,000ppm)二酸化炭素含有ガスを用いているにもかかわらず、容易にかつより多くの量の二酸化炭素を海水又は淡水に固定化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の二酸化炭素の固定化方法は、海水または淡水の中に二酸化炭素を固定するための方法であって、収容手段の中に、ケイ酸カルシウム含有材料からなる粉粒体である固体材料、及び、海水または淡水である液体材料を収容して、固体材料及び液体材料を含む二酸化炭素固定用材料を調製する二酸化炭素固定用材料調製工程と、収容手段の中に、二酸化炭素の含有率が体積基準で100~10,000ppmである二酸化炭素含有ガスを供給して、二酸化炭素固定用材料に、二酸化炭素含有ガスに含まれている二酸化炭素を固定する二酸化炭素含有ガス供給工程を含むものである。
以下、工程ごとに詳しく説明する。
【0009】
[二酸化炭素固定用材料調製工程]
本工程は、収容手段の中に、ケイ酸カルシウム含有材料からなる粉粒体である固体材料、及び、海水または淡水である液体材料を収容して、固体材料及び液体材料を含む二酸化炭素固定用材料を調製する工程である。
収容手段は、上記固体材料及び上記液体材料を収容できるものであれば特に限定されず、密閉されていない開放系の収容手段であってもよく、加圧できる構造を有する密閉容器等の閉鎖系の収容手段であってもよい。
中でも、設備にかかるコストを低減し、より容易に二酸化炭素を水に固定化する観点からは、密閉されていない開放系の収容手段が好ましい。
また、二酸化炭素含有ガス供給工程(後述)において、加圧下において二酸化炭素含有ガスを供給することで、二酸化炭素固定用材料により多くの二酸化炭素を固定することができる観点からは、閉鎖系の収容手段が好ましい。
【0010】
ケイ酸カルシウム含有材料とは、ケイ酸カルシウム水和物等のケイ酸とカルシウムを含む化合物を含有する材料である。
ケイ酸とカルシウムを含む化合物の例としては、トバモライト、ゾノトライト、CSHゲル、フォシャジャイト、ジャイロライト、ヒレブランダイト、及びウォラストナイト等が挙げられる。
トバモライトとは、結晶性のケイ酸カルシウム水和物であり、Ca・(Si18)・4H2O(板状の形態)、Ca・(Si18)(板状の形態)、Ca・(Si18)・8H2O(繊維状の形態)等の化学組成を有するものである。
ゾノトライトとは、結晶性のケイ酸カルシウム水和物であり、Ca・(Si17)・(OH)2(繊維状の形態)等の化学組成を有するものである。
CSHゲルとは、αCaO・βSiO2・γH2O(ただし、α/β=0.7~2.3、γ/β=1.2~2.7である。)の化学組成を有するものである。具体的には、3CaO・2SiO2・3H2Oの化学組成を有するケイ酸カルシウム水和物等が挙げられる。
フォシャジャイトとは、Ca(SiO(OH)等の化学組成を有するものである。
ジャイロライトとは、(NaCa)Ca14(Si23Al)O60(OH)・14HO等の化学組成を有するものである。
ヒレブランダイトとは、CaSiO(OH)等の化学組成を有するものである。
ウォラストナイトとは、CaO・SiO(繊維状又は柱状の形態)等の化学組成を有するものである。
ケイ酸カルシウム含有材料は、上述した化学組成を有するものを単独で含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0011】
また、ケイ酸カルシウム含有材料として、トバモライトを主成分とする軽量気泡コンクリート(ALC)や、ゾノトライトを含む保温材等の、ケイ酸カルシウムを含む建築材料(特に、端材や廃材)を用いてもよい。
中でも、入手の容易性および経済性の観点から、トバモライトを主成分とする軽量気泡コンクリート(ALC)を用いることが好ましい。また、廃棄物の利用促進の観点から、軽量気泡コンクリートの製造工程や建設現場で発生する軽量気泡コンクリートの端材を用いることが、より好ましい。
【0012】
ここで、軽量気泡コンクリートとは、トバモライト、および、未反応の珪石からなるものであり、かつ、80体積%程度の空隙率を有するものである。ここで、空隙率とは、コンクリートの全体積中の、空隙の体積の合計の割合をいう。
軽量気泡コンクリート中のトバモライトの割合は、軽量気泡コンクリートの内部の空隙部分を除く固相の全体を100体積%として、65~80体積%である。
軽量気泡コンクリートは、例えば、珪石粉末、セメント、生石灰粉末、発泡剤(例えば、アルミニウム粉末)、水等を含む原料(例えば、これらの混合物からなる硬化体)をオートクレーブ養生することによって得ることができる。
【0013】
また、ケイ酸カルシウム含有材料は多孔質であることが好ましい。ケイ酸カルシウム含有材料が多孔質である場合、上記材料を海水または淡水と混合した際に、上記材料の多孔質部分に存在する空気が、水中に連行されることによって、水中の溶存酸素量の低下を防ぐことができる。これにより、二酸化炭素含有ガス供給工程(後述)で得られる二酸化炭素を固定化してなる海水または淡水を、生物の生育により好適なものにすることができる。
多孔質であるケイ酸カルシウム含有材料としては、上述した軽量気泡コンクリートが挙げられる。
【0014】
本明細書中、「粉粒体」とは、粉状の材料(0.1mm未満の粒度を有するもの;粉体)の集合体、粒状の材料(0.1mm以上の粒度を有するもの;粒体)の集合体、または、粉状の材料および粒状の材料を含む集合体の形態を有することを意味する。また、「粒度」とは、ふるいの目開き寸法に対応する大きさを意味する。例えば、0.6mm以下の粒度とは、目開きが0.6mmのふるいを通過することを意味する。
本発明で用いるケイ酸カルシウム含有材料からなる粉粒体の粒度は、より多くの量の二酸化炭素を海水または淡水に固定化させる観点から、好ましくは6mm以下、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは4mm以下、特に好ましくは2mm以下である。該粒度の下限値は、粉砕に要するエネルギー削減の観点や、ケイ酸カルシウム含有材料の水面への浮き上がりを防ぐ観点から、好ましくは0.01mm、より好ましくは0.05mm、特に好ましくは0.1mmである。
【0015】
本発明において、二酸化炭素を固定する(溶解する)対象となる液体材料は、海水または淡水である。
液体材料としては、特に限定されるものではなく、海から採取された海水、人工海水、汽水域から採取された汽水、河川から採取された淡水、水道水、蒸留水等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、より多くの量の二酸化炭素をより効率的に固定化することができる観点からは、海水が好ましい。
なお、本明細書中、「海水」の語には、海水よりも塩(塩類)濃度の小さいもの(例えば、海水を水道水等で希釈したもの)も含まれるものとする。
また、使用する液体材料の種類は、該液体材料を用いて生育する生物(後述)の種類に応じて定めてもよい。
また、二酸化炭素固定用材料は、上記生物の生育に必要な栄養成分(例えば、窒素、リン、カリウム等)を含んでいてもよい。
液体材料の単位体積当たりの固体材料の量は、好ましくは5~100g/リットル、より好ましくは6~50g/リットル、さらに好ましくは7~30g/リットル、特に好ましくは8~20g/リットルである。上記量が5g/リットル以上であれば、海水又は淡水に固定化される二酸化炭素の量をより大きくすることができる。上記量が100g/リットル以下であれば、材料にかかるコストをより小さくすることができる。
【0016】
[二酸化炭素含有ガス供給工程]
本工程は、収容手段の中に、二酸化炭素の含有率が体積基準で100~10,000ppmである二酸化炭素含有ガスを供給して、二酸化炭素固定用材料に、二酸化炭素含有ガスに含まれている二酸化炭素を固定する工程である。
二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素(二酸化炭素の気体:炭酸ガス)の含有率は、体積基準で100~10,000ppm、好ましくは150~5,000ppm、より好ましくは200~2,000ppm、さらに好ましくは250~1,000ppm、さらに好ましくは300~1,000ppm、さらに好ましくは350~800ppm、特に好ましくは380~700ppmである。上記量が、100ppmm以上であれば、より多くの量の二酸化炭素を、海水または淡水の中に固定することができる。上記量が10,000ppm以下であれば、本工程において、海水または淡水の中に固定されることなく大気中に放出される二酸化炭素の量を少なくすることができる。
【0017】
二酸化炭素含有ガスとしては、空気または排気ガスを用いることができる。中でも、入手の容易性、及び、二酸化炭素含有ガス供給工程において、収容手段の中に供給された後、大気中に放出される二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素の含有率を、空気中の二酸化炭素の含有率よりも小さくすることで、大気中に放出される二酸化炭素の量を低減する観点から、空気が好ましい。
排ガスとしては、セメント製造工程において発生した排ガス等が挙げられる。また、排ガスと空気を混合して、二酸化炭素の含有率を小さくしたものを用いてもよい。
【0018】
二酸化炭素含有ガスの供給方法としては、液体材料の中に二酸化炭素含有ガスを吹き込む方法等が挙げられる。
例えば、上記収容手段内に設置された二酸化炭素含有ガス供給手段(例えば、二酸化炭素含有ガスを供給するための散気装置等)を用いて、上記収容手段内に収容された上記液体材料の中に二酸化炭素含有ガスを吹き込む方法等が挙げられる。
二酸化炭素含有ガスの供給は、設備にかかるコストの低減及び操作の容易性の観点から、通常、開放系の収容手段を用いて、常温常圧下(例えば、10~35℃(好ましくは20~30℃)の大気圧下)で行われる。
一方、収容手段が加圧できる構造を有する密閉容器である場合、加圧下において、二酸化炭素含有ガスを供給してもよい。加圧下において、二酸化炭素含有ガスを供給することによって、海水又は淡水に固定化されるに二酸化炭素の量をより多くすることができる。
【0019】
二酸化炭素含有ガスの供給は、液体材料を撹拌しながら行ってもよい。液体材料を撹拌しながら二酸化炭素含有ガスを供給することによって、海水又は淡水に固定化される二酸化炭素の量をより多くすることができる。
また、液体材料1リットルに対する二酸化炭素含有ガスの単位時間当たりの供給量は、好ましくは0.1~3リットル/分、より好ましくは0.3~2リットル/分、特に好ましくは0.4~1リットル/分である。上記供給量が0.1リットル/分以上であれば、より短時間で二酸化炭素の固定を十分に行うことができる。上記供給量が3リットル/分以下であれば、過剰な供給によって、二酸化炭素が固定化されることなく、大気中に排出される二酸化炭素含有ガスの量をより少なくすることができる。
【0020】
本発明の二酸化炭素の固定方法によれば、二酸化炭素の含有率が比較的小さい(体積基準で100~10,000ppm)二酸化炭素含有ガスを用いているにもかかわらず、液体材料(海水または淡水)の中に二酸化炭素をより多く固定化することができる。
また、二酸化炭素の含有率が比較的小さい二酸化炭素含有ガスを用いているため、収容手段の中に供給された後、大気中に放出される二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素の含有率を、より小さく(例えば、空気中の二酸化炭素の含有率よりも小さく)することができる。
また、液体材料(海水または淡水)だけではなく、固体材料(ケイ酸カルシウム含有材料)にも二酸化炭素を固定化することができる。
【0021】
また、本発明の二酸化炭素の固定方法によれば、海水又は淡水の中に二酸化炭素がより多く固定化されても、海水又は淡水の過度の酸性化(例えば、pH6.0以下)を抑制し、海水又は淡水のpHを安定化させることができる。
本発明の二酸化炭素の固定方法によって、二酸化炭素を固定してなる海水又は淡水のpHは、海水又は淡水に二酸化炭素を吸収する生物を収容し、上記生物に二酸化炭素を固定させる(後述)際の、上記生物の種類によっても異なるが、例えば、上記生物が藻類である場合、該藻類の増殖をより促進する観点から、通常、好ましくは6.5~9.5、より好ましくは7.0~9.0、特に好ましくは7.5~8.8である。
【0022】
上述した二酸化炭素の固定方法によって、二酸化炭素の固定を行った後、収容手段の中に、二酸化炭素を吸収する生物を収容し、生物に二酸化炭素を固定させてもよい。
二酸化炭素を吸収する生物の例としては、藻類が挙げられる。藻類は、海域、汽水域、淡水域を問わず広く生息している。中でも、珪酸質の殻を有する単細胞の真核藻類である珪藻は、水圏生態系における基礎生産者であり、水生生物(水圏生物)の栄養源となる最も重要な植物プランクトンであるため、魚などの生長には重要な生物である。また、珪藻は、生物(特に、動物)の成長に必要な酸素を、水中に溶解した炭酸ガス(二酸化炭素)を利用して、光合成により作り出すという重要な役割も担っている。
藻類を収容手段の中で(収容手段の中に収容された海水または淡水で)培養することによって、上記藻類に二酸化炭素を固定させるとともに、上記藻類を、水生生物の栄養源として利用してもよい。
また、収容手段の中に、二酸化炭素を吸収する生物を収容する前に、ケイ酸カルシウム含有材料を回収してもよい。
また、収容手段の中から、二酸化炭素が固定化された海水又は淡水を取り出して、該海水又は淡水の中に、二酸化炭素を吸収する生物を収容し、該生物に二酸化炭素を固定させてもよい。
【実施例0023】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)海水;人工海水(Sigma-Aldrich社製の海塩30gと蒸留水1リットルを混合したもの)
(2)ケイ酸カルシウム含有材料A;軽量気泡コンクリート(ALC)の粉粒物(粒径:1~4mm)
(3)ケイ酸カルシウム含有材料B;軽量気泡コンクリート(ALC)の粉粒物(粒径:1mm以下)
【0024】
[実施例1~6]
1リットルのメディウム瓶に、人工海水1リットルと、表1に示す種類及び量のケイ酸カルシウム含有材料を収容し、排気菅を用いて、表1に示す二酸化炭素濃度(体積基準)の二酸化炭素含有ガスを0.5リットル/分の量で供給した。なお、二酸化炭素濃度が400ppmである二酸化炭素含有ガスは、空気である。
二酸化炭素含有ガスの供給は、常温(25℃)及び大気圧下(メディウム瓶を開口した状態で)で、マグネチックスターラー(AS ONE社製)及び長さ3cmの回転子を用いて表1に示す回転速度で人工海水とケイ酸カルシウム含有材料を撹拌しながら行った。
二酸化炭素含有ガスの供給を開始する前(表2中、「0時間」と示す。)、並びに、供給を開始して3、6、及び24時間経過後に、人工海水とケイ酸カルシウム含有材料の混合物の一部を採取し、口径0.45μmのメンブレンフィルターを用いたろ過を行うことで、ケイ酸カルシウム含有材料を除去した人工海水を得た後、該人工海水のpH及び全炭酸濃度を測定した。
なお、pHの測定は、pHメーター(HORIBA社製)を用いて行った。また、全炭酸濃度は、ポータブル炭酸ガス濃度計(東亜DKK社製)を用いて行った。
[比較例1~2]
ケイ酸カルシウム含有材料を使用しない以外は実施例1と同様にして、人工海水に二酸化炭素含有ガスを供給し、二酸化炭素含有ガスの供給を開始する前、並びに、供給を開始して3、6、及び24時間経過後の人工海水のpH及び全炭酸濃度を測定した。
各々の結果を表2に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
表2から、実施例1~6と、ケイ酸カルシウム含有材料を使用せず、二酸化炭素濃度が60,000ppmである二酸化炭素含有ガスを用いた比較例1を比較すると、二酸化炭素含有ガスの供給を開始して24時間経過後の実施例1~6の人工海水の全炭酸濃度(429~847mg/リットル)は、比較例1の人工海水の全炭酸濃度(214mg/リットル)よりも大きく、実施例1~6では、二酸化炭素濃度が小さい(400~600ppm)二酸化炭素含有ガスを用いているにもかかわらず、より多くの量の二酸化炭素が人工海水に固定されていることがわかる。
また、実施例1~6と、ケイ酸カルシウム含有材料を使用しない比較例2を比較すると、二酸化炭素含有ガスの供給を開始して、3、6及び24時間経過後の実施例1~6の人工海水の全炭酸濃度(3時間経過後:130~193mg/リットル、6時間経過後:187~275mg/リットル、24時間経過後:429~847mg/リットル)は、いずれも、比較例2の人工海水の全炭酸濃度(3時間経過後:121mg/リットル、6時間経過後:143mg/リットル、24時間経過後:166mg/リットル)よりも大きいことがわかる。
また、撹拌を行わずに二酸化炭素含有ガスを供給した実施例1と、撹拌を行いながら二酸化炭素含有ガスを供給した実施例2~3の比較から、撹拌を行うことでより多くの二酸化炭素を固定化できることがわかる。