(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123916
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】音波検査装置、音波検査方法、及び音波検査装置用接触部材
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20240905BHJP
G01N 29/28 20060101ALI20240905BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/28
H04R17/00 332A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031728
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平尾 明子
(72)【発明者】
【氏名】山本 紀子
(72)【発明者】
【氏名】小野 富男
(72)【発明者】
【氏名】中井 豊
【テーマコード(参考)】
2G047
5D019
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047CA01
2G047GB27
2G047GB28
5D019AA21
5D019FF04
5D019FF05
(57)【要約】
【課題】被検査体上を容易に移動させることができ、かつ検査時に接触媒質を被検査体と密着させたときに音波を効率よく伝播させることを可能にした音波検査装置を提供する。
【解決手段】実施形態の音波検査装置1は、音波の送信及び受信の少なくとも一方を実施する振動子を備える音波探触子2と、音波探触子2の音波機能面に直接又は中間部材を介して接する第1の面と、第1の面とは反対側の第2の面とを有し、エラストマーを含む第1のシート状部材8と、第1のシート状部材の第2の面と接するように設けられ、複数の開口を有する第2のシート状部材9とを備える接触部材10とを具備する。第2のシート状部材9は、少なくとも第2の面と接する部分に設けられ、室温でのヤング率が第1のシート状部材8より大きい、ポリマー、金属部材、及びセラミックス部材から選ばれる少なくとも1つを含む高硬度部材を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波の送信及び受信の少なくとも一方を実施するように構成された振動子を備え、音波の送信面及び受信面の少なくとも一方を構成する音波機能面を有する音波探触子と、
第1のシート状部材と第2のシート状部材とを備える接触部材と、
前記音波探触子に荷重を印加する荷重機構と
を具備する音波検査装置であって、
前記接触部材は、前記音波探触子の前記音波機能面に直接又は中間部材を介して接する第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを有する、エラストマーを含む前記第1のシート状部材と、前記第1のシート状部材の前記第2の面と接するように設けられた、複数の開口を有する前記第2のシート状部材とを備え、
前記第2のシート状部材は、少なくとも前記第2の面と接する部分に設けられ、室温でのヤング率が前記第1のシート状部材より大きい、ポリマー、金属部材、及びセラミックス部材から選ばれる少なくとも1つを含む高硬度部材を備える、音波検査装置。
【請求項2】
前記第1のシート状部材は、室温でのヤング率が0.1GPa未満のエラストマーを含み、
前記第2のシート状部材は、室温でのヤング率が0.1GPa以上の、ポリマー、金属部材、及びセラミックス部材から選ばれる少なくとも1つを含む前記高硬度部材を備える、請求項1に記載の音波検査装置。
【請求項3】
前記第1のシート状部材は、室温でのヤング率が0.1GPa未満のエラストマーを含み、
前記第2のシート状部材は、室温でのヤング率が0.1GPa以上のポリマーを含む基材と、前記基材の前記第2の面と接する部分に設けられ、室温でのヤング率が前記基材より大きい、ポリマー、金属部材、及びセラミックス部材から選ばれる少なくとも1つを含む前記高硬度部材とを備える、請求項1に記載の音波検査装置。
【請求項4】
前記第1のシート状部材は、室温でのヤング率が0.1GPa未満のエラストマーを含み、
前記第2のシート状部材は、室温でのヤング率が0.1GPa以上のポリマーを含むメッシュ基材と、前記メッシュ基材の前記第2の面と接する部分に設けられ、室温でのヤング率が前記メッシュ基材より大きい金属部材を含む前記高硬度部材とを備える、請求項1に記載の音波検査装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の音波検査装置を用いた音波検査方法であって、
前記音波検査装置を被検査体上に配置する工程と、
前記音波探触子に対して荷重を加え、前記複数の開口を有する第2のシート状部材を介して前記第1のシート状部材を被検査体に押し付けて接触させる工程と、
前記第1のシート状部材を前被検査体に押し付けた状態で、前記音波探触子により前記被検査体の音波による非破壊検査を行う工程と、
前記第1のシート状部材に対する荷重を取り除き、前記複数の開口を有する第1のシート状部材を前記被検査体に接触させつつ、前記音波検査装置を前記被検査体上を移動させる工程と
を具備する音波検査方法。
【請求項6】
第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを有し、エラストマーを含む第1のシート状部材と、前記第1のシート状部材の前記第2の面と接するように設けられ、複数の開口を有する第2のシート状部材とを備える接触部材であって、
第2のシート状部材は、少なくとも前記第2の面と接する部分に設けられ、室温でのヤング率が前記第1のシート状部材より大きい、ポリマー、金属部材、及びセラミックス部材から選ばれる少なくとも1つを含む高硬度部材を備える、音波検査装置用接触部材。
【請求項7】
前記第1のシート状部材は、室温でのヤング率が0.1GPa未満のエラストマーを含み、
前記第2のシート状部材は、室温でのヤング率が0.1GPa以上の、ポリマー、金属部材、及びセラミックス部材から選ばれる少なくとも1つを含む前記高硬度部材を備える、請求項6に記載の音波検査装置用接触部材。
【請求項8】
前記第1のシート状部材は、室温でのヤング率が0.1GPa未満のエラストマーを含み、
前記第2のシート状部材は、室温でのヤング率が0.1GPa以上のポリマーを含む基材と、前記基材の前記第2の面と接する部分に設けられ、室温でのヤング率が前記基材より大きい、ポリマー、金属部材、及びセラミックス部材から選ばれる少なくとも1つを含む前記高硬度部材とを備える、請求項6に記載の音波検査装置用接触部材。
【請求項9】
前記第1のシート状部材は、室温でのヤング率が0.1GPa未満のエラストマーを含み、
前記第2のシート状部材は、室温でのヤング率が0.1GPa以上のポリマーを含むメッシュ基材と、前記メッシュ基材の前記第2の面と接する部分に設けられ、室温でのヤング率が前記メッシュ基材より大きい金属部材を含む前記高硬度部材とを備える、請求項6に記載の音波検査装置用接触部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、音波検査装置、音波検査方法、及び音波検査装置用接触部材に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波や弾性波等の音波の伝播を用いた音波検査装置は、様々な部材、装置、インフラ等の点検に用いられている。また、超音波検査装置は医療診断等にも利用されている。そのような検査装置に用いられる超音波探触子やAE(Acoustic Emission)センサ等に代表される音波受信機、音波送信機、音波送受信機等を有する音波検査用探触子を被検査体に設置する場合、音波検査用探触子と被検査体との間で音波の伝播を効率よく行うために、探触子の音波の送信面及び受信面の少なくとも一方を構成する音波機能面と被検査体との間に、グリセリン、ワセリン、オイル等の液体状又は粘性体状の接触媒質を介在させている。これは探触子を構成する材料や被検査体を構成する材料との間に、それら材料とは大きく音響インピーダンスが異なる空気が介在すると、音はそこで反射してしまい、伝搬が極めて難しくなるためである。
【0003】
上述した接触媒質は、探触子から被検査体、又は被検査体から探触子に超音波等の音波を効率よく伝達し、検査精度を高める上で重要である。しかし、液体状又は粘性体状の接触媒質を塗布したり、除去したりする工程は煩雑である。このため、検査の時間や工数を増加させる要因となっている。また、検査対象の被検査体によっては、接触媒質で汚染される場合もあり、その場合は検査自体を実施することができない。
【0004】
固体の接触媒質も提案されているが、超音波の伝播は液体状の接触媒質を用いた場合と比較して大きく劣る。音波検査用接触媒質の設置面と被検査体との間に空気が介在するのを避けるために、被検査体に密着しやすいエラストマーシート等を含む固体の接触媒質も提案されている。ただし、エラストマー等を含む接触媒質を用いただけでは、接触媒質を滑らせることができず、設置位置を動かす際に接触媒質と共に探触子を、被検査体から剥がす必要が生じる。そこで、ポリマーメッシュのような複数の開口を有するシート状部材を接触媒質の被検査体との接触面に配置し、加圧時に接触媒質を複数の開口を介して被検査体と接触させると共に、無加圧時にシート状部材を介して探触子を被検査体上を滑らせることが提案されている。ただし、エラストマーシートとポリマーメッシュとを単に積層しただけでは、それらの接触面が音波の伝播を妨げやすく、それにより検査感度や検査精度を十分に高めることが難しいという難点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-053956号公報
【特許文献2】特開2021-067603号公報
【特許文献3】特開2022-141589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、被検査体上を容易に移動させることができ、かつ検査時に接触媒質を被検査体と密着させたときに音波を効率よく伝播させることを可能にした音波検査装置、音波検査方法、及び音波検査装置用接触部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の音波検査装置は、音波の送信及び受信の少なくとも一方を実施するように構成された振動子を備え、音波の送信面及び受信面の少なくとも一方を構成する音波機能面を有する音波探触子と、第1のシート状部材と第2のシート状部材とを備える接触部材と、前記音波探触子に荷重を印加する荷重機構とを具備する。実施形態の音波検査装置において、前記接触部材は、前記音波探触子の前記音波機能面に直接又は中間部材を介して接する第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを有する、エラストマーを含む前記第1のシート状部材と、前記第1のシート状部材の前記第2の面と接するように設けられた、複数の開口を有する前記第2のシート状部材とを備える。前記第2のシート状部材は、少なくとも前記第2の面と接する部分に設けられ、室温でのヤング率が前記第1のシート状部材より大きい、ポリマー、金属部材、及びセラミックス部材から選ばれる少なくとも1つを含む高硬度部材を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態の音波検査装置の第1の例を示す断面図である。
【
図2】第1の実施形態の音波検査装置の第2の例を示す断面図である。
【
図3】
図1及び
図2に示す音波検査装置の第1のシート状部材と第2のシート状部材との積層体を被検査体側から見た平面図である。
【
図4】
図1及び
図2に示す音波検査装置の第2のシート状部材を拡大して示す断面図である。
【
図5】
図1及び
図2に示す音波検査装置における無荷重時の第1のシート状部材及び第2のシート状部材の状態を示す図である
【
図6】
図1及び
図2に示す音波検査装置における荷重時の第1のシート状部材及び第2のシート状部材の状態を示す図である
【
図7】第2の実施形態の音波検査装置における第1のシート状部材及び第2のシート状部材の第1の例を示す断面図である。
【
図8】
図7に示す第1のシート状部材と第2のシート状部材との積層体を被検査体側から見た平面図である。
【
図9】第2の実施形態の音波検査装置における第1のシート状部材及び第2のシート状部材の第2の例を示す断面図である。
【
図10】
図9に示す第1のシート状部材と第2のシート状部材との積層体を被検査体側から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の音波検査装置、音波検査方法、及び音波検査装置用接触部材について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、各部の厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。説明中の上下方向を示す用語は、被検査体の検査面を上とした場合の相対的な方向を示し、重力加速度方向を基準とした現実の方向とは異なる場合がある。
【0010】
ここに記載される音波とは、気体、液体、固体を問わず、弾性体を伝播するあらゆる弾性振動波の総称であり、可聴周波数域の音波に限らず、可聴周波数域より高い周波数を有する超音波、及び可聴周波数域より低い周波数を有する低周波音等も含まれる。音波の周波数は特に限定されるものではなく、高周波から低周波まで含まれるものである。
【0011】
(第1の実施形態)
図1及び
図2は第1の実施形態の音波検査装置1を示す図であって、
図1は斜角型の音波探触子2Aを備える音波検査装置1を示し、
図2は垂直型の音波探触子2Bを備える音波検査装置1を示している。
図1及び
図2に音波検査装置1において、音波探触子2が斜角型か垂直型かの違いがあると共に、第1のシート状部材8と第2のシート状部材9とを備える接触部材10の保持具11の形状が異なることを除いて、基本的には同様な構成を備えている。
図1及び
図2に示す音波検査装置1の詳細について以下に詳述する。
【0012】
上述したように、
図1に示す音波検査装置1は斜角型の音波探触子2Aを備えており、
図2に示す音波検査装置1は垂直型の音波探触子2Bを備えている。音波検査装置1は、例えばパルス反射式の音波探触子2(2A、2B)を有し、被検査体内の傷等の検査対象物から戻ってくる音波(反射波)を計測することで探傷等の非破壊検査、もしくは膜厚測定等を行うものである。あるいは、音波探触子2は検査対象物が発生する応力波のような音波を計測することで探傷等の非破壊検査を行うものであってもよい。音波探触子2は、音波の送信及び受信の少なくとも一方の機能を有するものであり、具体例としては超音波送受信機(超音波トランスデューサ)や音波受信機が挙げられる。また、音波探触子2には、医療用超音波プローブを用いることができ、例えば短冊形の振動子を配列したリニアアレイプローブ等が挙げられる。超音波送受信機の代表例としては、超音波プローブが挙げられる。また、音波受信機の代表例としては、AEセンサが挙げられる。音波探触子2は音波送信機であってもよい。
【0013】
実施形態の音波検査装置1において、音波探触子2は音波の送受信面、受信面、送信面等を有する。ここでは、音波探触子の音波の送信面及び受信面の少なくとも一方を構成する面を音波機能面と称する。このような音波機能面を音波探触子2は、例えば超音波送受信機としての超音波探触子である。超音波探触子2は、超音波探傷用の振動子(圧電体)と、振動子の上下両面に設けられた電極とを有する超音波送受信素子3(3A、3B)を備えている。斜角型の超音波送受信素子3Aは、所定の角度を有するシュー4に配置されており、この状態でケース5に収容されている。垂直型の超音波送受信素子3Bは、遅延材19上に配置されており、この状態でケース5に収容されている。
【0014】
超音波送受信素子3(3A、3B)は、必要に応じて受波板上に配置されていてもよい。斜角型の超音波送受信素子3Aを用いた音波探触子2Aにおいて、シュー4の裏側には吸音材6が設けられていてもよい。垂直型の超音波送受信素子3Bを用いた音波探触子2Bにおいて、超音波送受信素子3B上にはダンパ20が配置されていてもよい。超音波送受信素子3(3A、3B)は、上記したようにシュー4や遅延材19のような中間部材上に配置されていてもよい。超音波送受信素子3の図示しない電極は、ケース5に設けられたコネクタ7と電気的に接続されている。振動子、超音波送受信素子3、シュー4、吸音材6、遅延材19、ダンパ20、受波板等には、各種公知の超音波探触子に用いられる構成材料や構造等を適用することができ、特に限定されるものではない。
【0015】
また、音波探触子2がAEセンサ等の音波受信機である場合、AE受信用の振動子(圧電体)を有する音波受信素子が用いられる以外は、超音波探触子2と同様な構成が適用される。その場合、AE受信用の振動子、音波受信素子、受波板等には、公知のAEセンサに用いられる構成材料や構造等を適用することができる。
【0016】
実施形態の音波検査装置1において、音波探触子2が音波の送信及び受信の少なくとも一方の機能を有する超音波探触子である場合、高分子材料からなるシュー4や遅延材19と呼ばれる中間部材を有してもよい。
図1に示すように、斜角型の超音波探触子2Aでは振動子がシュー4上に設置されていてもよい。シュー材料としては、アクリル、ポリスチレン、ポリエーテルイミド等が用いられる。
図2に示すように、垂直型の超音波探触子2Bでは、振動子が遅延材19上に設置されていてもよい。高分子材料からなるシューもしくは遅延材と呼ばれる中間部材は、例えば超音波探触子2の音波機能面と接している。さらに、中間部材の音波の送信面及び受信面の少なくとも一方として機能する外周面には、音波伝播部として機能するエラストマーを含む第1のシート状部材8と複数の開口を有する第2のシート状部材9とを備える接触部材10が設けられている。
【0017】
エラストマーを含む第1のシート状部材8は接触媒質であり、後述するように第2のシート状部材9の複数の開口を介して被検査体Xと密着する。第1のシート状部材8はエラストマーを含んでおり、例えばエラストマーシートである。複数の開口を有する第2のシート状部材9は、例えばポリマーメッシュシートにより構成されており、ポリマーメッシュシートは第1のシート状部材8を構成するエラストマーシートより室温でのヤング率が大きい。第1のシート状部材8と複数の開口を有する第2のシート状部材9とを備える接触部材10は、保持具11に保持されており、その状態で音波探触子2に取り付けられている。接触部材10の一部は保持具11に固定されている。保持具11には、複数の開口を有する第2のシート状部材9の一部が接着シート12により接着固定されている。音波検査装置1は、被検査体X上に接触部材10が被検査体Xと接するように配置される。音波検査装置1は、例えばパルス反射方式を有しており、被検査体Xからの音波を計測することによって、被検査体X内の傷等の非破壊検査が実施される。
【0018】
第1のシート状部材8を構成するエラストマーの摩擦力を測定すると、他の材料と比較して圧倒的に大きい。このような大きな摩擦力の起源は、エラストマーが変形して接触面積が極めて大きくなるために観測される現象と推測される。金属のような硬質材料同士を接触させようとしても、接触面の極一部である粗さ、具体的には表面の微小突起の先端のみが接触するに留まる。しかし、エラストマーのように弾性率が低い材料の場合、同じ荷重でも接触面積が多くなるため、接触面積に応じて吸着力が増すことになる。さらに、エラストマーの粘弾性は、接触した吸着界面を引き剥がす力が増す方向に作用するためであり、これも摩擦係数を大きくする要因となる。このように、エラストマーは被検査体Xとの実質的な(微視的な)接触面積が大きいため、超音波を効率よく通すことができる。ただし、超音波を通しやすいものほど、摩擦力が大きく剥がしづらくなってしまう。
【0019】
そこで、
図1及び
図2に示す接触部材10においては、エラストマーシートからなる第1のシート状部材8の表面に、例えばポリマーメッシュシートからなる第2のシート状部材9を設けている。複数の開口を有する第2のシート状部材9は、エラストマーを含む第1のシート状部材8より弾性率が大きい材料により構成されている。
図3の接触部材10を被検査体X側から見た平面図に示すように、接触部材10の最表面(被検査体X側の最表面)には複数の開口を有する第2のシート状部材9が存在しており、エラストマーを含む第1のシート状部材8は第2のシート状部材9の複数の開口内に存在している。
【0020】
このような第1のシート状部材8と第2のシート状部材9とを備える接触部材10を用いることによって、荷重が印加されていない状態では弾性率が大きい第2のシート状部材9の表面の凹凸部における凸部が被検査体Xに接触し、エラストマーを含む第1のシート状部材8は被検査体Xと接触していないため、第2のシート状部材9の凸部を被検査体Xの上を滑らせ、小さい摩擦力で移動させることができる。これは、第2のシート状部材9を構成する材料が第1のシート状部材8より硬い材料からなり、かつ凸部の被検査体Xとの接触面積が小さい形状を有するためである。荷重が印加された状態では、エラストマーを含む第1のシート状部材8が変形し、複数の開口を有する第2のシート状部材9の凸部間に突出するため、第1のシート状部材8が被検査体Xに接触した状態となる。従って、音波を効率的に伝播させることが可能になる。
【0021】
第2のシート状部材9を構成するメッシュシートは、
図4に示すように、ポリマー等からなるメッシュ基材9A1と、メッシュ基材9A1の第1のシート状部材8と接する部分に設けられた高硬度層9B1とを備えている。高硬度層9B1は、メッシュ基材9A1より室温でのヤング率が大きく、例えばそのようなヤング率を有するポリマー部材、金属部材、セラミックス部材、それらの複合部材により構成されている。実施形態の接触部材10について、荷重が印加されていない状態では
図5に示すように、第2のシート状部材9の一部が第1のシート状部材8と接触した状態になっている。
【0022】
これに対して、荷重が印加された状態では
図6に示すように、第2のシート状部材9が荷重により第1のシート状部材8に埋め込まれた状態となり、第1のシート状部材8が第2のシート状部材9の複数の開口(例えばメッシュシートのメッシュ部分)を介して被検査体Xと接触した状態となる。加圧状態においては、第2のシート状部材9の一部、例えば第2のシート状部材9として
図4に示すメッシュシートを用いた場合、メッシュ基材9A1の表面に設けられた高硬度層9B1が、エラストマーシートからなる第1のシート状部材8に押し付けられた状態となる。
【0023】
この際、高硬度層9B1はメッシュ基材9A1より室温でのヤング率が大きいため、加圧状態において音波を第1のシート状部材8と第2のシート状部材9との間で効率よく伝播させることができる。従って、検査感度や検査精度を十分に高めることが可能になる。さらに、高硬度層9B1は第1のシート状部材8の滑り性を高める役割を果たすため、第1のシート状部材8の第2のシート状部材9に対する密着性、具体的には第2のシート状部材9のメッシュ基材9A1に対する密着性を高めることができる。これによっても、音波の第1のシート状部材8と第2のシート状部材9との間における伝播性が向上し、検査感度や検査精度を十分に高めることが可能になる。
【0024】
実施形態の音波検査装置1の接触部材10において、エラストマーを含む第1のシート状部材8の厚さは10μm以上10mm以下が好ましい。第1のシート状部材8を構成する材料の音響インピーダンスやヤング率により適した厚さは異なるが、特に0.2mm以上2mm以下程度の厚さのときに、音波の伝播性能が高く、かつ被検査体X上の潤滑性も高めることができる。第1のシート状部材8の構成材料に含まれるエラストマーとしては、熱硬化性エラストマーと熱可塑性エラストマーとがあるが、実施形態の第1のシート状部材8にはどちらも使用することができる。熱可塑性エラストマーとは、例えば弾性率の温度依存性が異なる2種類以上のポリマーの共重合体である。実施形態で用いられるエラストマーは、所定の粘弾性を有し、対象物に貼り付くことができるため、水や油類等の他の接触媒質と比べて周囲を汚染することがなく、また固体であるため、取り除きも容易であり、再利用も可能である。接触媒質を押し付けることで、空気層を排除するために、用いるエラストマーの弾性定数(室温でのヤング率)は0.1MPa以上0.1GPa未満であることが好ましい。材料の塑性が開始する応力である降伏応力は大きいことが好ましく、2MPa以上が好ましく、さらに20MPa以上であることがより好ましい。引張り強度も大きほうが好ましく、2MPa以上が好ましい。なお、室温でのヤング率は、JIS規格に基づく。
【0025】
第1のシート状部材8を主として構成する熱可塑性エラストマーとしては、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(SBC、TPS)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE、TPC)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。熱硬化性エラストマーとしては、ジエン系ゴムに分類されるスチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、非ジエン系ゴムに分類されるイソブチレン・イソプレンゴム(IIR)のようなブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム、フッ素ゴム(FKM)等が挙げられる。その他のゴムとしては、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、アクリルゴム(ACM)、多硫化ゴム(T)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)等が挙げられる。耐熱性、耐摩耗性、耐油性、耐薬品性等、それぞれの材料により特徴を有することから、検査対象によって適宜選択することが好ましい。用途によっては、複数のエラストマーを混合して用いてもよい。音波の透過を妨げない大きさ、すなわち概ね直径200μm以下の添加物を混合してもよい。
【0026】
第2のシート状部材9は、開口比率が50%以上の開口を有することが好ましい。第2のシート状部材9が50%以上の開口比率を有することによって、接触媒質としての第1のシート状部材8と被検査体Xとの間の音波の伝播効率を高めることができる。開口比率とは、第2のシート状部材9の総面積に対する開口面積(平面に投影したときの開口の総面積)の比率を示す。非開口部の最小幅や開口部の最小幅等は、第1のシート状部材8に用いる材料のヤング率や音響インピーダンスに応じて適宜選択することが好ましい。
【0027】
複数の開口を有する第2のシート状部材9としては、メッシュシートを適用することができる。メッシュシートとは、ポリマー等の線材(メッシュ基材)を所望サイズのメッシュ(開口)が形成されるように織り込んだものであり、メッシュ部分(目開き部分)が開口となる。第2のシート状部材9がメッシュシートである場合、いわゆる経糸と緯糸を交互に交差させて作製された平織りに限定されるものではない。経糸と緯糸を2本ずつ抜かす等して交差させて作られた綾織りでもよいし、朱子織りでもよい。また、経糸と緯糸が直交するように編まれていないものでもよく、例えば経糸を20度程度傾けたものでもよい。さらに、メッシュの交点を融着させたものは、複数の開口を有する第2のシート状部材9の強度が増すことが多いために望ましい。第2のシート状部材9は、メッシュシートに限られるものではなく、ポリマーシート、金属シート、セラミックスシート等のシート部材に複数の開口(孔部)を設けたものであってもよい。
【0028】
複数の開口を有する第2のシート状部材9において、第2のシート状部材9がメッシュシートである場合、凸部すなわちメッシュを構成する糸の直径は、10μm以上500μm以下であることが好ましい。第2のシート状部材9がシートに複数の開口を形成した場合、開口と開口との間の距離は10μm以上500μm以下であることが好ましい。これは荷重を印加したときの音の伝搬性能と、荷重未印加時の被検査体Xとの摩擦係数を測定して見出した知見である。この範囲を逸脱した複数の開口を有する第2のシート状部材9を用いると、音波伝搬性能が低くなったり、被検査体X上での滑りが悪くなったりする傾向がある。凸部間の幅、すなわちメッシュシートの目開きや複数の開口を形成したシートの開口の長径は、10μm以上2000μm以下であることが好ましい。凸部間の幅、すなわちシートの目開きや複数の開口を形成したシートの開口の長径は、どちらの場合もその最小幅が2000μmを超えると、荷重が印加されていない状態においては、凸部のみを被検査体Xに接触させることによる摩擦力の低減効果を十分に得ることができないおそれがある。凸部間の幅、すなわちメッシュの目開きの最小幅やシートの開口の長径が10μm未満であると、荷重を印加した状態において第1のシート状部材8を被検査体Xに十分に接触させることができないおそれがある。
【0029】
第2のシート状部材9は、室温でのヤング率が第1のシート状部材より大きい材料、すなわちポリマー部材、金属部材、セラミックス部材、それらの複合部材により構成されている。第2のシート状部材9の室温でのヤング率は、0.1GPa以上であることが好ましい。
図4に示すように、メッシュ基材9A1とその第1のシート状部材8と接する部分に設けられた高硬度層9B1とを有する第2のシート状部材9の場合、メッシュ基材9A1及び高硬度層9B1のいずれにも、室温でのヤング率が第1のシート状部材より大きい材料(例えば室温でのヤング率が0.1GPa以上の材料)を適用し、さらに高硬度層9B1には室温でのヤング率がメッシュ基材9A1より大きい、ポリマー部材、金属部材、セラミックス部材、それらの複合部材を適用する。
【0030】
第2のシート状部材9が
図4に示すようなメッシュシートである場合、メッシュ基材9A1は被検査体Xとの接触性やそれによる被検査体Xの表面傷の発生等を予防するために、ポリマーメッシュであることが好ましい。メッシュ基材9A1としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ナイロン、三フッ化塩化エチレン、四フッ化エチレン、四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体、四フッ化エチレンエチレン共重合、フッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、液晶、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等からなるメッシュシートを用いることが好ましい。ただし、ポリマーメッシュ以外に、銅、アルミニウム、SUS等の金属材料を用いた金属メッシュ等をメッシュ基材9A1に用いてもよい。
【0031】
そのようなメッシュ基材9A1上に設けられる高硬度層9B1としては、室温でのヤング率がメッシュ基材9A1より大きい、ポリマー部材、金属部材、セラミックス部材、それらの複合部材を適用することができる。このような構成材料のうちでも、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、フッ化黒鉛、窒化ホウ素、マイカ、タルク、酸化鉛、フッ化カルシウム、酸化ケイ素、金、銀、スズ、鉛、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系等のステンレス鋼、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フタロシアニン化合物、メラミンシアヌレート、アミノ酸化合物等の低摩擦材を適用することが好ましい。これらのうち、ポリテトラフルオロエチレンやテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等のフッ素系樹脂を適用する場合、高硬度層9B1だけでなく、メッシュ基材9A1及び高硬度層9B1の第2のシート状部材9全体を上記したフッ素系樹脂で構成してもよい。
【0032】
高硬度層9B1は、メッシュ基材9A1上に蒸着法、スパッタ法、CVD法、スピンコート法、ゾルゲル法等の成膜方法により設けてもよいし、結合剤を用いて固定してもよい。ここで、結合剤としては、リン酸塩やケイ酸塩等を溶媒に可溶化させたものでもよい。また、ポリアミドイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の各種ポリマーを溶剤等に溶かしたものでもよい。高硬度層9B1は、少なくともメッシュ基材9A1の第1のシート状部材8と接する部分に設けられていればよく、場合によっては第2のシート状部材9全体に高硬度層9B1の構成材料を適用してもよい。ただし、高硬度層9B1は、第1のシート状部材8と第2のシート状部材9との間における音波の伝播効率の向上や、第1のシート状部材8に対する滑り性の向上を果たすものであるため、メッシュ基材9A1の第1のシート状部材8と接する部分のみに設けることが好ましい。このような高硬度層9B1を適用することよって、第1のシート状部材8と第2のシート状部材9との間における音波の伝播効率や第1のシート状部材8に対する滑り性を向上させることができるため、実施形態の音波検査装置1の検査感度や検査精度を十分に高めることが可能になる。
【0033】
図1に示す音波検査装置1において、保持具11は接触部材10を囲うように設けられた側壁部(ベース部材)13と、側壁部13の上方を覆うように設けられ、開口部14を有する覆部15と、開口部14の周囲に開口部14と同形状に上方に延伸する押さえ部16とを有している。開口部14は、側壁部13の内部から押さえ部16の内部に設けられている。側壁部13の下部には接着シート12が配置されており、接着シート12により複数の開口を有する第2のシート状部材9の一部が保持具11に接着固定されている。音波探触子2は保持具11に形成された開口部14内に移動可能に挿入されている。
【0034】
音波探触子2は押さえ部16及び開口部12内に挿入しただけの状態で使用してもよいし、保持具11をプランジャのような機構を用いて音波探触子2に固定して一体化するようにして使用してもよい。プランジャは保持具11の側壁部13(もしくは押さえ部16)に設けられた貫通穴内に配置及び固定され、内部のバネ等により先端のボールやピンを音波探触子2に押し付けることにより、音波探触子2の上下動や脱着を可能な状態で固定する。
図1に示す保持具11は、音波探触子2を挿入する開口部14を有する。さらに、保持具11において、底部にエラストマーを含む第1のシート状部材8を格納する空間があり、底部に接着シート12を介して第2のシート状部材9が設置されている。
【0035】
図2に示す保持具11は、音波探触子2を挿入する第1開口21と接触部材10の第1のシート状部材8を挿入する第2開口22とを有する段付き開口部23を備えている。第1開口21と第2開口22は連通するように設けられている。保持具11の下方には、エラストマーを含む第1のシート状部材8を格納する空間として第2開口22が設けられており、その上方には音波探触子2を格納する空間として第1開口21が設けられてている。保持具11の第1開口21及び第2開口22が設けられる側壁部13の底部には、接着シート12を介して複数の開口を有する第2のシート状部材9接着固定されている。
図6では音波探触子2を第1開口21内に挿入しただけの状態で使用している。音波探触子2は、保持具11をプランジャのような機構を用いて音波探触子2に固定して一体化するようにして使用してもよい。
【0036】
音波検査を行うときには、荷重印加装置18により音波探触子2に荷重Pが印加される。すると、音波探触子2の音波機能面に接しているエラストマーを含む第1のシート状部材8に荷重Pが印加される。第1のシート状部材8は、保持具11に一部が固定された複数の開口を有する第2のシート状部材9に押し付けられる。複数の開口を有する第2のシート状部材9は一部が保持具11に固定されているため、エラストマーを含む第1のシート状部材8は複数の開口を有する第2のシート状部材9の網目内に充填されて被検査体Xに向けてはみ出し、接触部材10との間に存在した空気が追い出されて第1のシート状部材8が被検査体Xに対して直に接触する。これによって、超音波等の音波を音波探触子2から被検査体Xに伝搬させることができる。
【0037】
荷重印加装置18としては、機械式、油圧式、空気圧式、電磁式等のアクチュエータが用いられる。荷重印加装置18は音波探触子2上に設置されており、音波探触子2に直接荷重を印加し、これにより音波探触子2を介して接触部材10に荷重を印加するように構成されている。音波探触子2及び接触部材10に対する荷重印加機構18は、接触部材10に対して荷重を印加した状態と、荷重を取り除いた状態との間で切り替えることが可能であればよく、具体的な荷重の印加方式や印加部材の形状等は特に限定されるものではない。荷重印加装置18で印加した荷重を取り除くと、エラストマーを含む第1のシート状部材8は荷重による変形が緩和されるため、主に複数の開口を有する第2のシート状部材9が被検査体Xとの界面に存在するように変化する。従って、接触部材10及び保持具11と一体化された音波探触子2は、被検査体Xの上を再び容易に滑らせることができる。
【0038】
エラストマーを含む第1のシート状部材8と複数の開口を有する第2のシート状部材9とを備える接触部材10の一部を保持具11に固定することによって、荷重の印加時に接触部材10と被検査体Xとの間で音波を効率よく伝播させることができ、かつ荷重を取り除いたときに接触部材10及び保持具11と一体化した音波探触子2を、被検査体X上を移動させることができる。これらによって、音波検査装置1による非破壊検査と音波検査装置1の移動性とを両立させることができる。ここで、保持具11は3Dプリンタ等で作製される樹脂部材や金属部材等でもよいし、木材、樹脂、金属、ガラス、又はそれらの複合材を加工した部材等、様々な材料を用いることができる。
【0039】
(第2の実施形態)
図7は第2の実施形態の音波検査装置1における第1のシート状部材及び第2のシート状部材の第1の例を示す断面図である。
図8は
図7に示す第1のシート状部材と第2のシート状部材との積層体を被検査体側から見た平面図である。
図7に示すように、第2のシート状部材は、ポリマーシート、金属シート、セラミックスシート等のシート部材9A2に複数の開口(孔部)Hを設けたものであってもよい。ポリマーシート、金属シート、セラミックスシート等の具体的な材料は、第1の実施形態と同様である。複数の開口Hによる開口比率は、第1の実施形態と同様に50%以上とすることが好ましい。複数の開口Hを有するシート部材9A2上には、その構成材料より室温でのヤング率が大きい高硬度層9B2が設けられている。高硬度層9B2の構成材料は第1の実施形態と同様である。第1のシート状部材8は、第1の実施形態と同様である。
【0040】
図9は第2の実施形態の音波検査装置1における第1のシート状部材及び第2のシート状部材の第2の例を示す断面図である。
図10は
図9に示す第1のシート状部材と第2のシート状部材との積層体を被検査体側から見た平面図である。
図9に示すように、第2のシート状部材9は、縦方向に向けて楕円状に伸ばすように変形させたメッシュ基材9A3を有しており、そのようなメッシュ基材9A3の上方部分に高硬度層9B3が設けられている。そのような第2のシート状部材9上に第1のシート状部材8が配置されている。第2のシート状部材9のメッシュ基材9A3及び高硬度層9B3と第1のシート状部材8の構成材料は、第1の実施形態と同様である。
【0041】
第2の実施形態に示すように、第2のシート状部材9における基材(9A1、9A2、9A3)の形状は、第1の実施形態に示した断面円形の経糸と緯糸を織り込んだメッシュシートに限らず、複数の開口Hを設けたシート部材9A2や変形させた経糸と緯糸を織り込んだメッシュ基材9A3等、各種の形状を適用することができる。そのような形状を有する第2のシート状部材9においても、室温でのヤング率が第1のシート状部材8より大きく、かつ基材9A2、9A3上にその構成材料より室温でのヤング率が大きい高硬度層9B2を設けた高硬度層9B3を設けた第2のシート状部材9を適用することによって、第1のシート状部材8と第2のシート状部材9との間における音波の伝播効率や第1のシート状部材8に対する滑り性を向上させることができるため、実施形態の音波検査装置1の検査感度や検査精度を十分に高めることが可能になる。
【実施例0042】
以下、実施例及びその評価結果について述べる。
【0043】
(実施例1、比較例1)
表1、表2、及び表3に示すように、各種組合せの接触部材を用意した。第1のシート状部材に、各種加工を施した第2のシート状部材を組み合わせて、接触部材を作製した。周波数2.0MHzの超音波探触子の表面(超音波の送受信面)に、上記した第1のシート状部材の第2のシート状部材を張り付けていない表面を張り付けた。超音波探触子に電磁アクチュエータを装着して、複数の超音波検査装置を作製した。
【0044】
上述した超音波検査装置の移動特性を評価した。最初に、せん断引張試験を実施して、自重のみでそれ以上に荷重をかけない状態で超音波検査装置(超音波探触子)を移動できるかを調べた。超音波探触子にロードセルを接続し、表面粗さRzが32μmのステンレス板の上に載せ、ステンレス板を低速移動させて、静摩擦係数を測定した。比較例として、第2のシート状部材を形成していないエラストマーシートのみでも測定を行った。その結果、いずれのエラストマーにおいても、第2のシート状部材を設置していない場合は、静摩擦係数が極めて大きく、探触子を移動させるのが困難であったが、第2のシート状部材を設置した場合は、静摩擦係数が一様に小さくなり、移動させることが可能であることが分かった。
【0045】
次に、超音波探傷試験を実施した。長さ500mmの炭素鋼ブロックを用意した。超音波を入射する面の表面粗さRzは32μmとし、超音波が跳ね返ってくる面の表面粗さRzは1.6μmとした。電磁アクチュエータで、超音波探触子に25kPaの荷重を印加し、炭素鋼ブロックに押し付けた条件で探傷試験を行った。その結果を摩擦係数の結果と共に表1、表2、及び表3に示す。第2のシート状部材におけるB材料(高硬度層)のヤング率が大きいほど、反射波波形の振幅が大きく、良好であった。また、応答速度もシート状部材のヤング率が大きいほど、良好であった。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
1…音波検査装置、2,2A,2B…音波探触子、3…超音波送受信素子(音波受信素子)、4…シュー、5…探触子ケース、6…吸音材、7…コネクタ、8…第1のシート状部材、9…第2のシート状部材、9A1,9A3…メッシュ基材、9A2…シート部材、9B1,9B2,9B3…高硬度層、10…接触部材、11…保持具、12…接着シート又は接着剤、13…保持具、18…荷重印加装置。