(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123940
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ウイルスベクターの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/64 20060101AFI20240905BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C12N15/64 Z
C12N15/867 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031784
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】垣塚 彰
(72)【発明者】
【氏名】小池 雅昭
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、培養細胞を用いるウイルスベクターの製造において、ウイルスベクターの生産量を高めることである。
【解決手段】ウイルスベクターの製造方法であって、ウイルスベクターのウイルス粒子の産生に必要な核酸およびウイルスベクターにより送達しようとする核酸を含む細胞を、プロテインキナーゼC(PKC)を活性化する条件下で培養することを含み、ウイルス粒子の産生に必要な核酸が、SP1、CEBP、AP1、NF-κBおよびYY1から選択される少なくとも1つの転写因子の結合部位を含むプロモーターに作動可能に連結している、方法を提供する。
【選択図】
図33
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスベクターの製造方法であって、ウイルスベクターのウイルス粒子の産生に必要な核酸およびウイルスベクターにより送達しようとする核酸を含む細胞を、プロテインキナーゼC(PKC)を活性化する条件下で培養することを含み、
ウイルス粒子の産生に必要な核酸が、SP1、CEBP、AP1、NF-κBおよびYY1から選択される少なくとも1つの転写因子の結合部位を含むプロモーターに作動可能に連結している、方法。
【請求項2】
ウイルスベクターが、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ウイルスベクターがレトロウイルスベクターである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ウイルスベクターにより送達しようとする核酸が、SP1、CEBP、AP1、NF-κBおよびYY1から選択される少なくとも1つの転写因子の結合部位を含むプロモーターに作動可能に連結している、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
PKC活性化剤の存在下で前記細胞を培養することによりPKCを活性化する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
PKC活性化剤が、式(I):
【化1】
{式中、
R
1は、H、ハロゲン、-OH、C
1-6アルキル、C
2-6アルケニル、C
2-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、C
6-14アリールまたは-OC(O)R
3であり、ここで、C
1-6アルキル、C
2-6アルケニル、C
2-6アルキニル、C
1-6アルコキシまたはアリールは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよく、
R
2は、C
6-12アルキル、C
6-12アルケニル、C
6-12アルキニルまたはC
6-12アルコキシであり、ここで、C
6-12アルキル、C
6-12アルケニル、C
6-12アルキニルまたはC
6-12アルコキシは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよく、
R
3は、C
1-6アルキル、C
2-6アルケニル、C
2-6アルキニル、アミノまたはC
6-14アリールであり、ここでC
1-6アルキル、C
2-6アルケニル、C
2-6アルキニルまたはC
6-14アリールは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよい}、
式(II):
【化2】
{式中、
R
4は、H、ハロゲン、-OH、C
1-18アルキル、C
2-18アルケニル、C
2-18アルキニル、C
1-18アルコキシまたは-OC(O)R
6であり、ここで、C
1-18アルキル、C
2-18アルケニル、C
2-18アルキニルまたはC
1-18アルコキシは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよく、
R
5は、C
1-6アルキル、C
2-6アルケニル、C
2-6アルキニルまたはアミノであり、ここで、C
1-6アルキル、C
2-6アルケニルまたはC
2-6アルキニルは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよく、
R
6は、C
1-18アルキル、C
2-18アルケニル、C
2-18アルキニルまたはアミノであり、ここでC
1-18アルキル、C
2-18アルケニルまたはC
2-18アルキニルは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよい}、
または、
式(III):
【化3】
{式中、
R
7は、H、C
1-18アルキル、C
2-18アルケニル、C
2-18アルキニルまたは-C(O)R
9であり、ここで、C
1-18アルキル、C
2-18アルケニルまたはC
2-18アルキニルは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよく、
R
8は、H、C
1-18アルキル、C
2-18アルケニル、C
2-18アルキニルまたは-C(O)R
9であり、ここで、C
1-18アルキル、C
2-18アルケニルまたはC
2-18アルキニルは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよく、
R
9は、C
1-18アルキル、C
2-18アルケニル、C
2-18アルキニルまたはアミノであり、ここでC
1-18アルキル、C
2-18アルケニルまたはC
2-18アルキニルは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよい}
の化合物またはそのエステル、塩もしくは溶媒和物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
PKC活性化剤が、
【化4】
TPA、プロストラチン、(-)-インドラクタムV、ホルボール12,13-ジブチラート、インゲノール3-アンゲラートおよび(2S,5S)-(E,E)-8-(5-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-2,4-ペンタジエノイルアミノ)ベンゾラクタムから選択される化合物またはそのエステル、塩もしくは溶媒和物である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
PKC活性化剤が、化合物Xおよび化合物#1~#7から選択される化合物またはそのエステル、塩もしくは溶媒和物である、請求項5~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ウイルス粒子の産生に必要な核酸が、Pro領域またはRING領域を含むペプチドをコードする核酸と連結されている、請求項5~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
活性化型PKCを前記細胞に発現させることによりPKCを活性化する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
カルモジュリン阻害剤の存在下で前記細胞を培養する、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤の存在下で前記細胞を培養する、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
細胞がパッケージング細胞である、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
プロテインキナーゼC(PKC)活性化剤または活性化型PKCをコードする核酸と、ウイルスベクターのウイルス粒子の産生に必要な核酸とを含む、ウイルスベクターを製造するためのキットであって、
ウイルス粒子の産生に必要な核酸が、SP1、CEBP、AP1、NF-κBおよびYY1から選択される少なくとも1つの転写因子の結合部位を含むプロモーターに作動可能に連結しているものである、キット。
【請求項15】
PKC活性化剤を含む、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
プロテインキナーゼC(PKC)活性化剤または活性化型PKCをコードする核酸を含む、ウイルスベクターの産生を増強するための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ウイルスベクターの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療は近年成長が期待されている分野である。遺伝子治療では、目的の遺伝子を細胞に送達するために、各種のベクターが使用される。ウイルスベクターはその1種であり、目的に応じてレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどが選択される。
【0003】
ウイルスベクターは、抗体などの生物製剤(バイオ医薬品)と同様に、培養細胞を用いて製造される。通常、ウイルス粒子の産生に必要な核酸と、目的の遺伝子の核酸を培養細胞に発現させることにより、目的の遺伝子を含むウイルスベクターを産生させ、培養培地に放出されたウイルスベクターを回収する。従って、ウイルスベクターの生産量は、細胞のタンパク質生産能、培養容積および培養時間に依存する。細胞のタンパク質生産能を高めることができれば、製造コストを抑制しながらウイルスベクターの生産量を増加させられると期待される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、ウイルスベクターの生産量を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、PKCを活性化することにより、CMVプロモーターなどのプロモーターの転写活性を高められること、および、PKCを活性化する新たな方法を見出し、それにより培養細胞におけるウイルスベクターの生産量を高められることを明らかにした。
【0006】
従って、ある態様では、本開示は、ウイルスベクターの製造方法であって、ウイルスベクターのウイルス粒子の産生に必要な核酸およびウイルスベクターにより送達しようとする核酸を含む細胞を、PKCを活性化する条件下で培養することを含み、
ウイルス粒子の産生に必要な核酸が、SP1、CEBP、AP1、NF-κBおよびYY1から選択される少なくとも1つの転写因子の結合部位を含むプロモーターに作動可能に連結している、方法を提供する。
【0007】
ある態様では、本開示は、PKC活性化剤または活性化型PKCをコードする核酸と、ウイルスベクターのウイルス粒子の産生に必要な核酸とを含む、ウイルスベクターを製造するためのキットであって、
ウイルス粒子の産生に必要な核酸が、SP1、CEBP、AP1、NF-κBおよびYY1から選択される少なくとも1つの転写因子の結合部位を含むプロモーターに作動可能に連結しているものである、キットを提供する。
【0008】
ある態様では、本開示は、PKC活性化剤または活性化型PKCをコードする核酸を含む、ウイルスベクターの産生を増強するための組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、ウイルスベクターの生産量を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】pRL-CMV(Renilla Luciferase)を恒常的に発現するHEK293A細胞における、化合物Xまたは化合物#1~#7のいずれかの存在下、PKC阻害剤の存在下または非存在下でのルシフェラーゼ活性を示す。
【
図2】pRL-CMV(Renilla Luciferase)を恒常的に発現するHEK293A細胞における、化合物Xの存在下または非存在下でのルシフェラーゼ活性の変化を示す。
【
図3】pRL-CMV(Renilla Luciferase)を恒常的に発現するHEK293A細胞における、化合物XまたはPKC活性化剤#1~#4のいずれかの存在下、PKC阻害剤の存在下または非存在下でのルシフェラーゼ活性を示す。
【
図4】pRL-CMV(Renilla Luciferase)を恒常的に発現するHEK293A細胞における、化合物XまたはPKC活性化剤#5~#6のいずれかの存在下、PKC阻害剤の存在下または非存在下でのルシフェラーゼ活性を示す。
【
図5】pRL-CAGまたはpRL-EF1をトランスフェクションしたHEK293A細胞における、化合物Xまたは化合物#1~#5のいずれかの存在下、PKC阻害剤の存在下または非存在下でのルシフェラーゼ活性を示す。
【0011】
【
図6】pRL-CAGをトランスフェクションしたHEK293A細胞における、化合物X、化合物#6~#7およびPKC活性化剤#1~#6のいずれかの存在下、PKC阻害剤の存在下または非存在下でのルシフェラーゼ活性を示す。
【
図7】pRL-EF1をトランスフェクションしたHEK293A細胞における、化合物X、化合物#6~#7およびPKC活性化剤#1~#6のいずれかの存在下、PKC阻害剤の存在下または非存在下でのルシフェラーゼ活性を示す。
【
図8】HEK293A細胞における、化合物X、化合物#1~#7、PKC活性化剤#1~#6、化合物SCおよび化合物SBのいずれかの存在下、PKC阻害剤の存在下または非存在下でのPKCの基質タンパク質のリン酸化状態を示す。
【
図9】pRL-CMV(Renilla Luciferase)を恒常的に発現するHEK293A細胞における、化合物Xおよび/または化合物SCの存在下、PKC阻害剤の存在下または非存在下でのルシフェラーゼ活性を示す。
【
図10】pRL-CMV(Renilla Luciferase)を恒常的に発現するHEK293A細胞における、化合物X、化合物SCおよび/またはSBの存在下でのルシフェラーゼ活性を示す。
【0012】
【
図11】pRL-CMV(Renilla Luciferase)を恒常的に発現するHEK293A細胞における、化合物Xおよび化合物#1~#7のいずれかの存在下、化合物SBまたは化合物SB+SCの存在下または非存在下でのルシフェラーゼ活性を示す。
【
図12】pRL-CMV(Renilla Luciferase)を恒常的に発現するHEK293A細胞における、化合物XおよびPKC活性化剤#1~#6のいずれかの存在下、化合物SBまたは化合物SB+SCの存在下または非存在下でのルシフェラーゼ活性を示す。
【
図13】pRL-CMV(Renilla Luciferase)を恒常的に発現するHEK293A細胞における、化合物Xまたは化合物X+化合物SCの存在下、各種ヒストンデアセチラーゼ阻害剤の存在下でのルシフェラーゼ活性を示す。
【
図14】CMVプロモーターの制御下にマウスIgG抗体重鎖のcDNAを連結した発現コンストラクトおよびCMVプロモーターの制御下にマウスIgG抗体軽鎖のcDNAを連結した発現コンストラクトをHEK293A細胞にトランスフェクションし、化合物X、化合物#1~#5、PKC活性化剤#1~#6のいずれかを添加した培地中、化合物SB+SCの存在下または非存在下で培養し、培地中のマウスIgG抗体の濃度を測定した結果を示す。
【
図15】CMVプロモーターの制御下にヒトプロインスリンを恒常的に発現するHEK293A細胞を、化合物X、化合物#1~#5、PKC活性化剤#1~#3、#5または#6を添加した培地中、化合物SB+SCの存在下または非存在下で培養し、培地中のヒトプロインスリンの濃度を測定した結果を示す。
【0013】
【
図16】CMVプロモーターの制御下にヒトレプチンのcDNAを連結した発現コンストラクトをHEK293A細胞にトランスフェクションし、化合物X、化合物#1~#5、PKC活性化剤#1~#6のいずれかを添加した培地中、化合物SB+SCの存在下または非存在下で培養し、培地中のヒトレプチンの濃度を測定した結果を示す。
【
図17】
図14~16と同様にマウスIgG抗体重鎖および軽鎖、ヒトプロインスリンまたはヒトレプチンを一過性または恒常的に発現する細胞を、化合物X、化合物#6または化合物#7を添加した培地中、化合物SB+SCの存在下または非存在下で培養し、培地中の各タンパク質の濃度を測定した結果を示す。
【
図18】CMVプロモーターの制御下にマウスIgG抗体重鎖および軽鎖、ヒトプロインスリンまたはヒトレプチンを恒常的に発現するHEK293A細胞を、化合物Xまたは化合物X+SBの存在下または非存在下で培養し、培地中の各タンパク質の濃度を3日間または4日間にわたって測定した結果を示す。
【
図19】CMVプロモーター、タンパク質のcDNA(XXX)、IRESおよび活性化型PKCのcDNAを連結した発現コンストラクトの模式図である。
【
図20】CMVプロモーター、RlucのcDNA、IRESおよび活性化型PKCのcDNAを連結した発現コンストラクトをHEK293A細胞にトランスフェクションし、ルシフェラーゼ活性を測定した結果を示す。
【0014】
【
図21】CMVプロモーター、RlucのcDNA、IRESまたはP2A、および活性化型PKCのcDNAを連結した発現コンストラクトをHEK293A細胞にトランスフェクションし、ルシフェラーゼ活性を測定した結果を示す。
【
図22】CMVプロモーター、マウスIgG抗体重鎖のcDNA、IRESおよび活性化型PKCのcDNAを連結した発現コンストラクトおよびCMVプロモーター、マウスIgG抗体軽鎖のcDNA、IRESおよび活性化型PKCのcDNAを連結した発現コンストラクトをHEK293A細胞にトランスフェクションし、培地中のIgG抗体の濃度を4日間にわたって測定した結果を示す。
【
図23】CMVプロモーター、ヒトレプチンのcDNA、IRESおよび活性化型PKCのcDNAを連結した発現コンストラクトをHEK293A細胞にトランスフェクションし、培地中のレプチンの濃度を4日間にわたって測定した結果を示す。
【
図24】pRL-CMVをトランスフェクションしたHEK293A細胞における、ナフタレンスルホンアミド誘導体の存在下、化合物Xの存在下または非存在下でのルシフェラーゼ活性を示す。
【
図25】CMVプロモーター、RlucのcDNA、IRESおよびPML(野生型または欠損型)のcDNAを連結した発現コンストラクトの模式図を示す。
【0015】
【
図26】CMVプロモーター、RlucのcDNA、IRESおよびPML(野生型または欠損型)のcDNAを含む発現コンストラクトをトランスフェクションしたHEK293A細胞における、化合物Xの存在下または非存在下でのルシフェラーゼ活性を示す。
【
図27】CMVプロモーター、RlucのcDNA、IRESおよびPMLΔ9またはPML-RingのcDNAを含む発現コンストラクトをトランスフェクションしたHEK293A細胞における、化合物X、SB、化合物SCまたはこれらの組合せの存在下または非存在下でのルシフェラーゼ活性を示す。
【
図28】PMLのRING領域のアミノ酸配列をBLAST解析し、相同性のあるアミノ酸配列を持つ遺伝子間での系統樹を示す。
【
図29】CMVプロモーター、RlucのcDNA、IRESおよびRING領域のcDNAを連結した発現コンストラクトの模式図を示す。
【
図30】CMVプロモーター、RlucのcDNA、IRESおよびRING領域のcDNAを連結した発現コンストラクトをトランスフェクションしたHEK293A細胞における、化合物Xの存在下または非存在下でのルシフェラーゼ活性を示す。
【0016】
【
図31】CMVプロモーター、RlucのcDNA、IRESおよびPML(停止コドン導入)のcDNAを連結した発現コンストラクト、および、CMVプロモーター、RlucのcDNAおよびPML(野生型または欠損型)のcDNAを連結した発現コンストラクトの模式図を示す。
【
図32】CMVプロモーター、RlucのcDNA、IRESおよびPML(停止コドン導入)のcDNAを連結した発現コンストラクト、および、CMVプロモーター、RlucのcDNAおよびPML(野生型または欠損型)のcDNAを連結した発現コンストラクトをトランスフェクションしたHEK293A細胞における、化合物Xの存在下または非存在下でのルシフェラーゼ活性を示す。
【
図33】GFP遺伝子が挿入されたレトロウイルスベクターを、化合物X、化合物SCおよび/またはSBの存在下でPlat-E細胞に産生させ、HEK293A細胞へと感染させ、GFP陽性細胞数を測定した結果を示す。
【
図34】GFP遺伝子が挿入されたレンチウイルスベクターを、化合物X、化合物SCおよび/またはSBの存在下でLenti-X293T細胞に産生させ、HEK293A細胞へと感染させ、GFP陽性細胞数を測定した結果を示す。
【
図35】GFP遺伝子が挿入されたアデノウイルスベクターを、化合物X、化合物SCおよび/またはSBの存在下でLenti-X293T細胞に産生させ、HEK293A細胞へと感染させ、GFP陽性細胞数を測定した結果を示す。
【0017】
【
図36】GFP遺伝子が挿入されたアデノ随伴ウイルスベクターを、化合物X、化合物SCおよび/またはSBの存在下でLenti-X293T細胞に産生させ、HEK293A細胞へと感染させ、GFP陽性細胞数を測定した結果を示す。
【
図37】GFP遺伝子が挿入されたレトロウイルスベクターを、化合物X、化合物#1~#4、#6、#7およびPKC活性化剤#1~#6のいずれかの存在下、PKC阻害剤の存在下または非存在下でPlat-E細胞に産生させ、HEK293A細胞へと感染させ、GFP陽性細胞数を測定した結果を示す。
【
図38】GFP遺伝子が挿入されたレトロウイルスベクターを、化合物X、化合物SC、SBおよび/またはPKC阻害剤の存在下でPlat-E細胞に産生させ、HEK293A細胞へと感染させ、GFP陽性細胞数を測定した結果を示す。
【
図39】GFP遺伝子が挿入されたレンチウイルスベクターを、化合物X、化合物SC、SBおよび/またはPKC阻害剤の存在下でPlat-E細胞に産生させ、HEK293A細胞へと感染させ、GFP陽性細胞数を測定した結果を示す。
【
図40】GFP遺伝子が挿入されたアデノウイルスベクターを、化合物X、化合物SC、SBおよび/またはPKC阻害剤の存在下でPlat-E細胞に産生させ、HEK293A細胞へと感染させ、GFP陽性細胞数を測定した結果を示す。
【0018】
【
図41】GFP遺伝子が挿入されたアデノ随伴ウイルスベクターを、化合物X、化合物SC、SBおよび/またはPKC阻害剤の存在下でPlat-E細胞に産生させ、HEK293A細胞へと感染させ、GFP陽性細胞数を測定した結果を示す。
【
図42】実施例で使用したCMVプロモーター、CAGプロモーターおよびEF1プロモーターにおける転写因子の結合部位を示す。
【
図43】pAd/DEST/CMVベクターに含まれるプロモーターにおける転写因子の結合部位を示す。
【
図44】HEK293細胞内のアデノウイルス遺伝子のプロモーターにおける転写因子の結合部位を示す。HKE293細胞にはアデノウイルス5型の1-4355nt(E1遺伝子:E1A、E1Bを含む)が組み込まれている。
【
図45】pAAV-2/9nベクターに含まれるプロモーターにおける転写因子の結合部位を示す。REP上流領域は、pAAV-2/9nのf1ori配列からREP遺伝子の上流までの258ntの領域である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
特に具体的な定めのない限り、本開示で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本開示で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本開示において、一般的な理解に優先する。
【0020】
本開示のウイルスベクターの製造方法は、ウイルスベクターの産生に必要な核酸を培養細胞に導入し、ウイルスベクターを産生させて回収する、遺伝子工学的手法を利用するものである。かかる遺伝子工学的手法は、当分野で周知であり、文献に記載される方法などに準じて行うことができる(例えば、Molecular Cloning, T. Maniatis et al., CSH Laboratory (1983)、DNA Cloning, DM.Glover, IRL PRESS (1985))。
【0021】
「ウイルスベクター」とは、インビトロ、エクスビボまたはインビボで細胞に送達しようとする核酸を含むように組み換えられたウイルスゲノムがウイルス粒子内にパッケージされているベクターを意味する。
【0022】
野生型ウイルスに基づいて作製された様々なウイルスベクターが知られており、いかなるウイルスベクターも使用し得る。公知のウイルスベクターには、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、マウス白血病ウイルスベクター、ハイブリッドウイルスベクターが含まれる。ある実施態様では、ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクター、好ましくはレトロウイルスベクターである。
【0023】
一般的に、ウイルスベクターは、ウイルスベクターの産生に必要な核酸、即ち、ウイルスベクターのウイルス粒子の産生に必要な核酸およびウイルスベクターにより送達しようとする核酸を含む細胞を培養することにより製造される。ウイルスベクターのウイルス粒子の産生に必要な核酸は、ウイルスベクターが由来するウイルスのタンパク質またはRNAをコードするものであり、天然の核酸であってもよく、ウイルスベクターの目的に応じて改変されていてもよい。
【0024】
ウイルスベクターのウイルス粒子の産生に必要な核酸は、ウイルスベクターのウイルス粒子の産生に必要なタンパク質をコードする核酸であり得る。ウイルスベクターのウイルス粒子の産生に必要なタンパク質は、ウイルスベクターが由来するウイルスによって異なり、当分野で周知である。
【0025】
例えば、レトロウイルスベクターのウイルス粒子の産生に必要なタンパク質には、Gag、Polおよびエンベロープタンパク質(VSV-G、MLVなど)が含まれる。レンチウイルスベクターのウイルス粒子の産生に必要なタンパク質には、Gag、Pol、Revおよびエンベロープタンパク質(VSV-G、MLVなど)が含まれる。
【0026】
アデノウイルスベクターは多数のタンパク質からなり、例えば、アデノウイルスベクターのウイルス粒子の産生に必要なタンパク質は、アデノウイルスゲノムのE1A、E1B、E2A、E2B、E3、E4、L1、L2、L3、L4またはL5領域にコードされるタンパク質である。また、アデノウイルスではウイルス関連RNA(VA RNA)などのRNAもウイルス粒子の産生に必要なことが知られている。アデノウイルスには多数の血清型が知られており、例えば、ヒトアデノウイルス2型またはヒトアデノウイルス5型に由来するアデノウイルスベクター、または、E1遺伝子および/またはE3遺伝子が欠失したこれらのアデノウイルスベクター、特に、E1遺伝子およびE3遺伝子が欠失したヒトアデノウイルス5型のアデノウイルスに由来するアデノウイルスベクターを使用し得る。
【0027】
アデノ随伴ウイルスベクターは、ウイルス複製にアデノウイルスなどのヘルパーウイルスを必要とするアデノ随伴ウイルスに基づくベクターであり、ウイルス粒子の産生に必要なタンパク質には、例えば、アデノウイルスゲノムのE1A、E1B、E2AおよびE4領域にコードされるタンパク質、並びに、アデノ随伴ウイルスゲノムのRepおよびCap領域にコードされるタンパク質が含まれる。また、ヘルパーウイルスのウイルス関連RNA(VA RNA)などのRNAもウイルス粒子の産生に必要なことが知られている。アデノ随伴ウイルスには多数の血清型が知られており、例えばAAV2型、AAV5型またはAAV9型のアデノ随伴ウイルスに由来するアデノ随伴ウイルスベクターを使用し得る。
【0028】
少なくとも1つのウイルス粒子の産生に必要な核酸は、SP1、CEBP、AP1、NF-κBおよびYY1から選択される少なくとも1つの転写因子の結合部位を含むプロモーターに作動可能に連結している。少なくとも1つのウイルス粒子の産生に必要な核酸が当該プロモーターに作動可能に連結していれば、他のウイルス粒子の産生に必要な核酸は、当該プロモーターに作動可能に連結していても、していなくてもよい。ウイルス粒子の産生に必要な2以上の、例えば全部の核酸が、当該プロモーターに作動可能に連結していてもよく、この場合、各核酸と連結するプロモーターの種類は同じであっても異なっていてもよい。1つのプロモーターにウイルス粒子の産生に必要な1つの核酸が作動可能に連結していてもよく、1つのプロモーターに2以上の当該核酸が作動可能に連結していてもよい。
【0029】
本開示において、プロモーターは、SP1、CEBP、AP1、NF-κBおよびYY1から選択される少なくとも1つの転写因子の結合部位を含む。即ち、プロモーターは、これらの結合部位のうち1個を含むか、これらの結合部位のうち2個、3個もしくは4個を任意の組合せで含むか、または、これらの結合部位をすべて含む。プロモーターは、さらに他の転写因子、例えばCREBの結合部位を含んでもよい。ある実施態様では、プロモーターは、SP1、CEBP、AP1、NF-κBおよびYY1の結合部位を含む。ある実施態様では、プロモーターは、SP1、CEBP、AP1、NF-κB、YY1およびCREBの結合部位を含む。使用し得るプロモーターの例として、CMVプロモーター、CAGプロモーターおよびEF1プロモーター、好ましくはCMVプロモーターおよびEF1プロモーター、特に好ましくはCMVプロモーターが挙げられる。プロモーターは、ウイルス由来のプロモーターであってもよい。例えば、アデノウイルスのE1Aプロモーター、E1Bプロモーター、E2Aプロモーター、E2Bプロモーター、E4プロモーター、主要後期プロモーターもしくはIXプロモーター、アデノ随伴ウイルスのp5プロモーター、p19プロモーターもしくはp40プロモーターを使用し得る。これらの転写因子、結合部位、プロモーターは当分野で周知であり、文献に記載される方法などに準じて使用できる。
【0030】
本開示において、「作動可能に連結した」とは、プロモーター、内部リボソーム進入部位(IRES)および2A自己切断ペプチド(2Aペプチド)配列などの調節配列エレメントと、ウイルスベクターの産生に必要な核酸が、遺伝子の発現を可能とする様式で連結されていることを意味し、各DNAの3’末端と、その下流のDNAの5’末端とは、直接連結していてもよく、その間に任意のDNA配列が存在してもよい。
【0031】
ウイルスベクターにより送達しようとする核酸は、所望のタンパク質または核酸をコードするヌクレオチド配列を含む核酸であり得る。ウイルスベクターにより送達しようとする核酸は、使用する培養細胞に対して許容し得ない毒性がない限り、限定されない。例えば、当該核酸は、遺伝子治療用の核酸であり得る。当該核酸は、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子等の、遺伝子導入された細胞の選択を可能にするマーカー遺伝子を含んでもよい。当該核酸は、核酸の配列情報に基づき、例えば、通常のDNA合成やRT-PCRによる増幅などによって、製造することができる。ウイルスベクターにより送達しようとする核酸が連結するプロモーターは限定されず、例えば、当該核酸は、SP1、CEBP、AP1、NF-κBおよびYY1から選択される少なくとも1つの転写因子の結合部位を含むプロモーターに作動可能に連結していてもよい。
【0032】
ウイルスベクターの産生に必要な核酸を発現ベクターに組み込むことにより、発現コンストラクトを作製することができる。ここで用いる発現ベクターは、産生しようとするウイルスベクター、用いる培養細胞等に応じて適宜選択することができ、プラスミド、ウイルスベクター等が挙げられる。例えば、pQCXIN、pcDNA、pLVSIN、psPAX2、pAd、pAAV、pAdDeltaF6、pKCR、pCDM8、pGL2、pcDNA3.1、pRc/RSV、pRc/CMVなどのプラスミドベクターや、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、マウス白血病ウイルスベクター、ハイブリッドウイルスベクターなどのウイルスベクターが挙げられる。発現コンストラクトは、選択用マーカー遺伝子、ターミネーターなどの因子を含んでもよい。ウイルスベクターにより送達しようとする核酸を含む発現コンストラクトは、当該核酸のウイルス粒子内へのパッケージを可能にする因子を含んでもよい。ウイルスベクターの産生に必要な核酸をすべて含む発現コンストラクトを用いてもよく、1つまたは複数のウイルスベクターの産生に必要な核酸を含む発現コンストラクトを組み合わせて用いてもよい。例えば、アデノ随伴ウイルスベクターを製造する場合、アデノウイルス由来の遺伝子の一部(E4、E2A、VA RNAなど)を組み込んだヘルパープラスミドを用いてもよい。
【0033】
発現コンストラクトで宿主細胞を形質転換することにより、ウイルスベクターの産生に必要な核酸を含む細胞を作製することができる。宿主細胞にウイルスベクターの産生に必要なすべての核酸を導入してもよい。ウイルスベクターの産生に必要な核酸の一部が予め導入された宿主細胞に、ウイルスベクターの産生に必要な残りの核酸を導入してもよい。ウイルス粒子の産生に必要な核酸の一部または全部が予め導入された宿主細胞(パッケージング細胞)に、ウイルスベクターにより送達しようとする核酸と、場合によりウイルス粒子の産生に必要な残りの核酸を導入してもよい。宿主細胞は典型的には動物細胞であり、例えば、HEK293A細胞、HEK293T細胞、CHO細胞、COS細胞、Vero細胞、HeLa細胞、L929細胞、BALB/c3T3細胞、C127細胞、NIH3T3細胞などが挙げられる。パッケージング細胞としては、例えば、レトロウイルスのGagおよび/またはPolおよび/またはエンベロープタンパク質が導入された細胞、アデノウイルスのE1Aおよび/またはE1B領域が導入された細胞が挙げられる。ウイルスベクターの産生に適する市販の細胞を使用してもよく、例えば、Plat-E細胞(コスモバイオ、#RV-101)、Lenti-X293T細胞(Takara、#Z2180N)が挙げられる。
【0034】
宿主細胞への発現コンストラクトの導入方法としては、宿主細胞と発現ベクターに適合した通常の導入方法を用いれば良い。具体的にはリン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法などが挙げられる。
【0035】
一過性にウイルスベクターを産生するように細胞を形質転換してもよく、継続的にウイルスを産生する能力を有するように形質転換し、細胞株としてもよい。後者の場合、細胞株をマスターセルバンク(MCB)やワーキングセルバンク(WCB)として使用し得る。
【0036】
形質転換した細胞を、PKCを活性化する条件下で培養することにより、ウイルスベクターを効率よく製造することができる。各細胞と各ウイルスベクターの培養に適する培地、培養時間、培養温度等の培養条件は、当業者に周知であり、適宜選択すればよい。例えば、PKCを活性化する条件下で、1時間以上、2時間以上、4時間以上、6時間以上、8時間以上、12時間以上、18時間以上、24時間以上、36時間以上、48時間以上、かつ、72時間以内、60時間以内、48時間以内、36時間以内、30時間以内または24時間以内、例えば24時間~72時間、36時間~60時間、42時間~54時間、45時間~51時間、46時間~50時間、47時間~49時間または約48時間、細胞を培養した後に、ウイルスベクターを含む培養上清を回収する。
【0037】
ウイルスベクターは、前記の上清のまま、または、上清をフィルターろ過して得られたろ液、公知の方法により希釈、濃縮もしくは精製されたウイルスベクターとして使用されてよく、適切な方法により、例えば凍結して、使用するまで保存されてもよい。精製手段としては、超遠心法、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー等が挙げられる。市販の濃縮試薬、例えば、Retro-X Concentrator(TaKaRa #631455)、Lenti-X Concentrator(TaKaRa #631231)などを使用してもよい。
【0038】
ある実施態様では、PKCを活性化する条件は、PKC活性化剤の存在下で細胞を培養することである。PKCは、基質タンパク質のセリン残基およびスレオニン残基のヒドロキシル基をリン酸化するタンパク質キナーゼの一種であり、10種類以上のアイソザイムが知られている。アイソザイムはその構造、活性化の機序、生理活性によって在来型(α、βI、βII、γ)、新型(δ、ε、θ、η)、非典型(ζ、Mζ、ι/λ)の3種類のサブファミリーに分類される。本開示において、PKCは、好ましくは在来型PKCアイソザイムまたは新型PKCアイソザイム、特に好ましくはPKCαまたはPKCδである。
【0039】
本開示において、「PKC活性化剤」は、PKCのキナーゼ活性を増強する物質を意味する。2種以上のPKC活性化剤を併用してもよい。
【0040】
ある実施態様では、PKC活性化剤として、式(I):
【化1】
{式中、
R1は、H、ハロゲン、-OH、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシ、C6-14アリールまたは-OC(O)R3であり、ここで、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシまたはアリールは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよく、
R2は、C6-12アルキル、C6-12アルケニル、C6-12アルキニルまたはC6-12アルコキシであり、ここで、C6-12アルキル、C6-12アルケニル、C6-12アルキニルまたはC6-12アルコキシは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよく、
R3は、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、アミノまたはC6-14アリールであり、ここでC1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニルまたはC6-14アリールは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよい}、
式(II):
【化2】
{式中、
R4は、H、ハロゲン、-OH、C1-18アルキル、C2-18アルケニル、C2-18アルキニル、C1-18アルコキシまたは-OC(O)R6であり、ここで、C1-18アルキル、C2-18アルケニル、C2-18アルキニルまたはC1-18アルコキシは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよく、
R5は、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニルまたはアミノであり、ここで、C1-6アルキル、C2-6アルケニルまたはC2-6アルキニルは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよく、
R6は、C1-18アルキル、C2-18アルケニル、C2-18アルキニルまたはアミノであり、ここでC1-18アルキル、C2-18アルケニルまたはC2-18アルキニルは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよい}、
または、
式(III):
【化3】
{式中、
R7は、H、C1-18アルキル、C2-18アルケニル、C2-18アルキニルまたは-C(O)R9であり、ここで、C1-18アルキル、C2-18アルケニルまたはC2-18アルキニルは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよく、
R8は、H、C1-18アルキル、C2-18アルケニル、C2-18アルキニルまたは-C(O)R9であり、ここで、C1-18アルキル、C2-18アルケニルまたはC2-18アルキニルは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよく、
R9は、C1-18アルキル、C2-18アルケニル、C2-18アルキニルまたはアミノであり、ここでC1-18アルキル、C2-18アルケニルまたはC2-18アルキニルは、同一または異なる、1個~3個のハロゲンにより置換されていてもよい}
の化合物またはそのエステル、塩もしくは溶媒和物を使用し得る。
【0041】
本開示において、用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選ばれる原子を意味する。
本開示において、用語「アルキル」は、飽和した、直鎖または分岐鎖の炭化水素基を示す。
本開示において、用語「アルケニル」は、1つまたはそれ以上の二重結合を含む直鎖または分岐鎖の炭化水素を意味する。
本開示において、用語「アルキニル」は、1つまたはそれ以上の三重結合を含む直鎖または分岐鎖の炭化水素を意味する。
本開示において、用語「アルコキシ」は、-O-アルキル(ここで、アルキルは本開示に定義されている通りである)を意味する。
【0042】
本開示において、用語「アリール」は、1個の環(例えばフェニル)または複数の縮合環(例えばナフチルまたはアントリル)を有する6~14個の炭素原子の1価芳香族性炭素環式基を意味する。アリールは典型的には、フェニルおよびナフチルを含む。
本開示において、用語「アミノ」は-NH2の基を意味する。
【0043】
本開示において、「エステル」は、インビボまたはインビトロで加水分解され得るエステルを意味し、容易に分解されて親化合物またはその塩を放出するものを含む。好適なエステル基は、例えば、脂肪族カルボン酸、特にアルカン酸、アルケン酸、シクロアルカン酸およびアルカン二酸に由来するもの(ここで、各アルキルまたはアルケニル基は、例えば6個以下の炭素原子を有する)を含む。具体的なエステルの例には、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、ブチル酸エステル、アクリル酸エステルおよびエチルコハク酸エステルが含まれる。
【0044】
本開示において、「塩」は、化合物の無機または有機酸との塩であり得る。好ましい塩は、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸または硫酸との塩、または、有機カルボン酸またはスルホン酸、例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、安息香酸またはメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸またはナフタレンジスルホン酸との塩である。
【0045】
また、塩は、常套の塩基との塩、例えばアルカリ金属塩(例えばナトリウムまたはカリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えばカルシウムまたはマグネシウム塩)、または、アンモニアまたは有機アミン(例えば、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-メチルモルホリン、ジヒドロアビエチルアミン、メチルピペリジン、L-アルギニン、クレアチン、コリン、L-リジン、エチレンジアミン、ベンザチン、エタノールアミン、メグルミンまたはトロメタミン)から誘導されるアンモニウム塩、特にナトリウム塩であり得る。
【0046】
本開示において、「溶媒和物」は、固体または液体状態で溶媒分子との配位により錯体を形成している化合物を意味する。好適な溶媒和物は水和物である。
【0047】
ある実施態様では、式(I)中、
R1は、Hまたは-OC(O)R3であり、
R2は、C6-12アルキルまたはC6-12アルケニルであり、
R3は、C1-6アルキルまたはC6-14アリールである。
【0048】
ある実施態様では、式(I)中、
R1は、Hまたは-OC(O)R3であり、
R2は、ノニルまたは1,3-ノナジエニルであり、
R3は、メチルまたはフェニルである。
【0049】
ある実施態様では、式(I)の化合物は、後述する化合物X、化合物#1または化合物#2である。
【0050】
ある実施態様では、式(II)中、
R4は、Hまたは-OC(O)R6であり、
R5は、C1-6アルキルまたはC2-6アルケニルであり、
R6は、C1-18アルキルである。
【0051】
ある実施態様では、式(II)中、
R4は、Hまたは-OC(O)R6であり、
R5は、メチル、プロピル、sec-ブチルまたはブテニルであり、
R6は、プロピル、ノニルまたはトリデシルである。
【0052】
ある実施態様では、式(II)の化合物は、後述する化合物#3、化合物#4、化合物#5、TPA、ホルボール12,13-ジブチラートまたはプロストラチン、特に化合物#3、化合物#4または化合物#5である。
【0053】
ある実施態様では、式(III)中、
R7は、Hまたは-C(O)R9であり、
R8は、Hまたは-C(O)R9であり、
R9は、C1-18アルキルまたはC2-18アルケニルである。
【0054】
ある実施態様では、式(III)中、
R7は、Hまたは-C(O)R9であり、
R8は、Hまたは-C(O)R9であり、
R9は、ペンタデシルまたはブテニルである。
【0055】
ある実施態様では、式(III)の化合物は、後述する化合物#6、化合物#7またはインゲノール3-アンゲラート、特に化合物#6または化合物#7である。
【0056】
式(I)~(III)の化合物またはそのエステル、塩もしくは溶媒和物は、例えば、0.1~10μg/ml、0.1~1μg/ml、0.1~1000ng/ml、2~500ng/mlまたは5~200ng/mlの濃度で培養培地に添加し得る。
【0057】
ある実施態様では、PKC活性化剤は、式(I)の化合物またはそのエステル、塩もしくは溶媒和物である。これらは、例えば、0.1~10μg/ml、0.1~1μg/ml、0.1~1000ng/ml、20~500ng/mlまたは50~200ng/mlの濃度で培養培地に添加し得る。
【0058】
ある実施態様では、PKC活性化剤は、下記の化合物Xおよび化合物#1~#7から選択される化合物またはそのエステル、塩もしくは溶媒和物である。
【化4】
【0059】
化合物Xおよび化合物#1~#7は、化学合成により入手してもよく、これらを含有する植物から抽出してもよい。例えば、化合物Xは黄芫花(Lowdaphne Stringbush)から、化合物#1および#2は芫花(Lilac Daphne)から、化合物#3~#5は巴豆(Croton)から、化合物#6~#7は千金子(Caper Euphorbia)から抽出し得る。これらの化合物を含む植物加工物、例えば、植物エキスまたは抽出物を使用してもよい。
【0060】
ある実施態様では、PKC活性化剤は化合物Xまたはそのエステル、塩もしくは溶媒和物である。
【0061】
公知のPKC活性化剤を使用してもよい。公知のPKC活性化剤として、12-O-テトラデカノイルホルボール13-アセタート(TPA、ホルボール12-ミリスタート13-アセタート(PMA)とも呼ばれる)、プロストラチン、ブリオスタチン1、ブリオスタチン2、FR236924、(-)-インドラクタムV、PEP005、ホルボール12,13-ジブチラート、1-オレオイル-2-アセチル-sn-グリセロール、1-O-ヘキサデシル-2-O-アラキドニル-sn-グリセロール、1,2-ジオクタノイル-sn-グリセロール、PIP2、レシニフェラトキシン、ホルボール12,13-ジヘキサノアート、メゼレイン、インゲノール3-アンゲラート、RHC-80267、DCP-LA、リポキシンA4、(2S,5S)-(E,E)-8-(5-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-2,4-ペンタジエノイルアミノ)ベンゾラクタムなどが例示されるが、これらに限定されない。ある実施態様では、PKC活性化剤は、TPA、プロストラチン、(-)-インドラクタムV、ホルボール12,13-ジブチラート、インゲノール3-アンゲラート、または、(2S,5S)-(E,E)-8-(5-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-2,4-ペンタジエノイルアミノ)ベンゾラクタムである。公知のPKC活性化剤は、当分野で知られている方法、例えば製造業者の推奨する方法により、適宜使用し得る。
【0062】
ある実施態様では、PKC活性化剤は、化合物X、化合物#1~#7、TPA、プロストラチン、(-)-インドラクタムV、ホルボール12,13-ジブチラート、インゲノール3-アンゲラートおよび(2S,5S)-(E,E)-8-(5-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-2,4-ペンタジエノイルアミノ)ベンゾラクタムから選択される化合物またはそのエステル、塩もしくは溶媒和物である。
【0063】
ある実施態様では、細胞は、Pro領域またはRING領域を含むペプチドをコードする核酸をさらに含む。Pro領域またはRING領域を含むペプチドをコードする核酸は、ウイルス粒子の産生に必要な核酸と同じ発現コンストラクトに含まれてもよく、別の発現コンストラクトに含まれてもよい。例えば、作動可能に連結されている、プロモーター、ウイルス粒子の産生に必要な核酸、および、Pro領域またはRING領域を含むペプチドをコードする核酸を含む発現コンストラクトを使用し得る。ある実施態様では、プロモーター、ウイルス粒子の産生に必要な核酸、および、Pro領域またはRING領域を含むペプチドをコードする核酸は、この順序で作動可能に連結されている。
【0064】
Pro領域またはRING領域を含むペプチドをコードする核酸は、ペプチドに翻訳されてもされなくてもよい。翻訳されるようにする場合、ウイルス粒子の産生に必要な核酸とPro領域またはRING領域を含むペプチドをコードする核酸の間に、IRESまたは2Aペプチド配列を挿入し得る。IRESおよび2Aペプチド配列の詳細は、後述する。例えば、作動可能に連結されている、プロモーター、ウイルス粒子の産生に必要な核酸、IRESまたは2Aペプチド配列、および、Pro領域またはRING領域を含むペプチドをコードする核酸を含む発現コンストラクトを使用し得る。ある実施態様では、プロモーター、ウイルス粒子の産生に必要な核酸、IRESまたは2Aペプチド配列、および、Pro領域またはRING領域を含むペプチドをコードする核酸は、この順序で作動可能に連結されている。
【0065】
本開示において、Pro領域またはRING領域はいかなる種のものであってもよく、例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ブタ、ヒツジ、サル、ヒト等、特にヒトに由来するものである。好ましくは、Pro領域またはRING領域は、使用する細胞と同じ種に由来するものである。
【0066】
Pro領域はプロリン残基に富んだアミノ酸配列を有する領域を指し、WWドメインやSH3ドメインなどの機能性ドメインとの特異的相互作用を媒介する。Pro領域としては、反復性の短いプロリン残基に富んだアミノ酸配列、タンデムに繰り返されたプロリン残基に富んだアミノ酸配列、非反復性のプロリン残基に富んだアミノ酸配列、およびヒドロキシプロリン残基に富んだアミノ酸配列を有する領域が挙げられる。Pro領域は、これだけに限定されないが、核内タンパク質、転写因子、輸送体、チャネル、および受容体などの内在性膜タンパク質、球状タンパク質、ホルモン、神経ペプチド、ムチン、免疫グロブリン、ならびに細胞外マトリックスタンパク質を含めた種々のタンパク質に見いだすことができる。
【0067】
Pro領域は、いかなるタンパク質に由来してもよい。Pro領域を含むタンパク質として、例えば、PML、ARHGEF1、アグリカン-1、RALGDS、DGKK、SPATA21、ラブフィリン-3A、TEAD3、SPPL2BおよびFLJ43093が挙げられる。
【0068】
RING領域は、RINGフィンガー領域とも呼ばれ、一対の亜鉛原子に結合し、タンパク質間相互作用を媒介する。RING領域は、一般的に下記の共通配列を有する。
C-X2-C-X9-39-C-X1-3-H-X2-3-C-X2-C-X4-48-C-X2-C
{式中、Cはシステイン残基であり、Hはヒスチジン残基であり、Xは任意のアミノ酸残基である。}
これらのシステイン残基およびヒスチジン残基は、亜鉛原子との結合を介した構造を形成するために必要であり、高度に保存されている。
【0069】
RING領域は、いかなるタンパク質に由来してもよい。RING領域を含むタンパク質として、例えば、TRIM13、LONRF3、TRIM47、RNF135、TRIM10、TRIM72、TRIM60、TRIM39、TRIM4、TRIM43B、TRIM43、TRIM25、TRIM26、TRIM31、HTLF、BRCA1、TRIM50、TRIM21、SSA1、TRIM5d、TRIM22、KIAA0182、TRIM65、RAG1、BFAR、Pex10、RNF8、RING2、COPI、TRIM2、TRIM3、SH3RF2、PMLおよびTRIM56が挙げられる。ある実施態様では、RING領域は、PML、TRIM3、TRIM56、COPI、Pex10、BRCA1またはHTLFのRING領域である。
【0070】
ある実施態様では、Pro領域またはRING領域は、前骨髄球性白血病タンパク質(PML)に由来する。PMLは、PMLボディと呼ばれる核内構造体の組み立てに必要とされる。PMLボディは多様な機能を有し、幅広い細胞内プロセスへの関与が示唆されている。ヒトPMLには複数のアイソフォームが知られており、N末端側はすべてのアイソフォームで同一のアミノ酸配列である。
【0071】
ヒト野生型(WT)PMLアイソフォーム5(Gene ID: 5371, NCBI Reference Sequence: NP_150247.2)のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を配列番号7および8に示す。アミノ酸配列は、560個のアミノ酸からなり、
図25に示す各領域を有する。配列番号7のアミノ酸配列の第1位~第45位(配列番号9)がPro領域であり、第46位~第105位(配列番号10)がRING領域である。配列番号8のヌクレオチド配列の第1位~第135位(配列番号11)がPro領域をコードし、第136位~第315位(配列番号12)がRING領域をコードする。
【0072】
Pro領域は、あるタンパク質のアミノ酸配列と配列番号7のアミノ酸配列を最適な状態(アミノ酸の一致が最大となる状態)にアラインメントしたときに、配列番号7の第1位~第45位の領域と一致する、当該タンパク質の領域であり得る。ある実施態様では、Pro領域は、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる。ある実施態様では、Pro領域は、配列番号9のアミノ酸配列を含む。ある実施態様では、Pro領域は、配列番号9のアミノ酸配列からなる。ある実施態様では、Pro領域は、配列番号11のヌクレオチド配列と少なくとも90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列により、または、それを含むヌクレオチド配列によりコードされる。ある実施態様では、Pro領域は、配列番号11のヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列によりコードされる。ある実施態様では、Pro領域は、配列番号11のヌクレオチド配列によりコードされる。
【0073】
RING領域は、あるタンパク質のアミノ酸配列と配列番号7のアミノ酸配列を最適な状態にアラインメントしたときに、配列番号7の第46位~第105位の領域と一致する、当該タンパク質の領域であり得る。ある実施態様では、RING領域は、配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる。ある実施態様では、RING領域は、配列番号10のアミノ酸配列を含む。ある実施態様では、RING領域は、配列番号10のアミノ酸配列からなる。ある実施態様では、RING領域は、配列番号12のヌクレオチド配列と、少なくとも90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列により、または、それを含むヌクレオチド配列によりコードされる。ある実施態様では、RING領域は、配列番号12のヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列によりコードされる。ある実施態様では、RING領域は、配列番号12のヌクレオチド配列によりコードされる。
【0074】
本開示において、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の同一性とは、核酸またはタンパク質間の配列の類似の程度を意味し、比較対象の配列の領域にわたって最適な状態(ヌクレオチドまたはアミノ酸の一致が最大となる状態)にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。配列同一性の数値(%)は両方の配列に存在する同一のヌクレオチドまたはアミノ酸を決定して、適合部位の数を決定し、次いでこの適合部位の数を比較対象の配列領域内のヌクレオチドまたはアミノ酸の総数で割り、得られた数値に100をかけることにより算出される。最適なアラインメントおよび配列同一性を得るためのアルゴリズムとしては、当業者が通常利用可能な種々のアルゴリズム(例えば、BLASTアルゴリズム、FASTAアルゴリズムなど)が挙げられる。配列同一性は、例えばBLAST、FASTAなどの配列解析ソフトウェアを用いて決定され得る。
【0075】
ある実施態様では、PKCを活性化する条件は、活性化型PKCを細胞に発現させることである。「活性化型PKC」は、恒常的にキナーゼ活性を示すPKC変異体を意味する。活性化型PKCは、N末端の調節領域を欠くPKCであり得る(Molecular and Cellular Biology 19(2):1313-24, 1999)。活性化型PKCは、さらに、キナーゼ活性を増強する変異を有してもよい(PNAS 115(24):E5497-E5505. 2018)。活性化型PKCの例として、PKCδ-CA(配列番号1)およびPKCαCA-M489V(配列番号2)が挙げられる。
【0076】
PKC変異体のキナーゼ活性は、当分野で知られている各種の方法により測定し得る。例えば、培養細胞にPKC変異体を過剰発現させ、リン酸化型基質特異的抗体を用いて基質のリン酸化レベルをウェスタンブロットで検出する方法(例えば、THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY, Vol. 279, No. 27, pp. 27986-27993, 2004)、ELISA法(例えば、Cell Death and Differentiation (2015) 22, 2078-2086)、インビトロで32P-ガンマ-ATPを用いて基質へのリン酸基の取り込みを評価する方法(例えば、THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY, Vol. 262, No. 20, pp. 9569-9573, 1987)などを使用できる。PKC kinase activity kit(Enzo Life Science, #ADI-EKS-420A)などの、キナーゼ活性を測定する各種キットを使用してもよい。
【0077】
ある実施態様では、PKC変異体を発現する細胞をPKC阻害剤の存在下および非存在下で培養し、リン酸化タンパク質を特異的に認識する抗体を用いる免疫学的手法によりリン酸化タンパク質の量を測定し、PKC阻害剤によりリン酸化タンパク質の量が減少する場合に、PKC変異体が活性化型PKCであると決定し得る。免疫学的手法としては、フローサイトメトリー解析、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、酵素免疫固相法(ELISA法)、ウェスタンブロッティング、免疫組織染色などを例示できる。
【0078】
例えば、活性化型PKCをコードする核酸を含む発現コンストラクトを用いてもよく、作動可能に連結されている、プロモーター、ウイルス粒子の産生に必要な核酸、IRESまたは2Aペプチド配列、および活性化型PKCをコードする核酸を含む発現コンストラクトを使用して、ウイルス粒子の産生に必要なタンパク質と活性化型PKCを細胞に発現させてもよい。ある実施態様では、プロモーター、ウイルス粒子の産生に必要な核酸、IRESまたは2Aペプチド配列、および活性化型PKCをコードする核酸は、この順序で作動可能に連結されている。
【0079】
IRESを利用して1つの発現コンストラクトからウイルス粒子の産生に必要なタンパク質と活性化型PKCを発現させることにより、ウイルス粒子の産生に必要なタンパク質を効率よく製造することができる。IRESは、真核生物のリボソームをmRNAへリクルートすることができるRNA領域であり、タンパク質合成のプロセスの一部として、キャップ非依存的な翻訳の開始を可能にする。多くのIRESが、ウイルスゲノムおよび真核ゲノムで同定されており、合成IRESも開発されている。
【0080】
例えば、IRESは、エンテロウイルス(例えばヒトパピローマウイルス1、ヒトコクサッキーウイルスB);ライノウイルス(例えばヒトライノウイルス);へパトウイルス(A型肝炎ウイルス);カーディオウイルス(脳心筋炎ウイルスECMVおよびタイラー脳脊髄炎ウイルス);アフトウイルス(口蹄疫ウイルス、ウマ鼻炎Aウイルス、ウマ鼻炎Bウイルス);ぺスティウイルス(例えばウシウイルス性下痢ウイルスおよびブタコレラウイルス;ヘパシウイルス(例えばC型肝炎ウイルス)およびGBウイルスB)を含む種々のウイルスに由来するものであり得る。あるいは、IRESは、レトロウイルス科のウイルス、例えば、レンチウイルスファミリーのメンバー(例えば、シミアン免疫不全ウイルスおよびヒト免疫不全ウイルス1);BLV-HTLVレトロウイルス(例えば、ヒトT-リンホトロピックウイルス1型);および哺乳動物C型レトロウイルスファミリー(例えば、モロニーマウス白血病ウイルス、フレンドマウス白血病ウイルス、ハーベイマウス肉腫ウイルス、トリ細網内皮症ウイルス、マウス白血病ウイルス(envRNA)、ラウス肉腫ウイルス)に由来するものであり得る。真核生物のmRNAに由来するIRESとしては、例えば、BiP、ショウジョウバエのアンテナペディア(エクソンdおよびe)、c-myc、およびアポトーシスのX連結阻害剤(XIAP)遺伝子のIRESが挙げられる。また、様々な合成IRESが開発されており、例えば、De Gregorio et al. (1999) EMBO J. 75:4865-74; Owens et al. (2001) PNAS 4:1471-6;およびVenkatesan et al. (2001) Molecular and Cellular Biology 21:2826-37を参照し得る。当分野で知られているさらなるIRESについては、例えば rangueil.inserm.fr/IRESdatabase を参照し得る。ある実施態様では、脳心筋炎ウイルスECMV由来のIRESを用いる。
【0081】
2Aペプチド配列は、タンパク質の翻訳中にリボソームスキッピングを誘発する。タンパク質のアミノ酸配列中に2Aペプチド配列が存在すると、当該タンパク質は2Aペプチド配列のC末端で切断された2つのポリペプチドとして翻訳される。2Aペプチドとしては、例えば、Kim, J. H., et al., PLoS One. 6(4), e18556 (2011) に記載されるペプチドが挙げられ、例えば、P2Aペプチド(配列番号3:(GSG)ATNFSLLKQAGDVEENPGP)、T2Aペプチド(配列番号4:(GSG)EGRGSLLTCGDVEENPGP)、E2Aペプチド(配列番号5:(GSG)QCTNYALLKLAGDVESNPGP)およびF2Aぺプチド(配列番号6:(GSG)VKQTLNFDLLKLAGDVESNPGP)などが知られている(各配列中、N末端のGSGは存在してもしなくてもよい)。
【0082】
PKCを活性化する際に、さらにカルモジュリン阻害剤を培地に添加してもよい。カルモジュリンは、カルシウムセンサーとして機能する酸性タンパク質であり、細胞内カルシウムレベルを調節する。カルモジュリン阻害剤として、式(IV)
【化5】
{式中、
nは1~8の整数であり、
Rは、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシ、C6-14アリール、アミノ、ヒドロキシ、COOHまたはCOOR’であり、ここでR’はC1-6アルキルである}
の化合物またはそのエステル、塩もしくは溶媒和物を使用し得る。
【0083】
ある実施態様では、式(IV)中、
nは4~6の整数であり、
Rは、C1-6アルキル、C6-14アリールまたはアミノである。
【0084】
ある実施態様では、式(IV)中、
nは4または6の整数であり、
Rは、メチル、フェニルまたはアミノである。
【0085】
式(IV)の化合物には、例えば、SC-9、SC-10、W-7が含まれる。式(IV)の化合物は、例えば、0.5~100μg/ml、1~50μg/mlまたは2~10μg/mlの濃度で使用し得る。
【0086】
公知のカルモジュリン阻害剤、例えば、W-7、カルミダゾリウム、ビスインドリルマレイミドI、トリフルオペラジン、ルテニウムレッド、オフィオボリンA、CaMキナーゼII(290-309)、E6ベルバミン、マストパラン、コンパウンド48/80、フェノキシベンザミン、W-7アイソマー、ポリステスマストパラン、A-7、フルフェナジン-N-2-クロロエタン、W-13、W-13アイソマー、CGS 9343B、W-5アイソマー、W-12、N-(5-アミノペンチル)-5-クロロ-2-ナフタレンスルホンアミド、W-5を、当分野で知られている方法、例えば製造業者の推奨する方法により、適宜使用してもよい。2種以上のカルモジュリン阻害剤を併用してもよい。
【0087】
PKCを活性化する際に、さらにヒストンデアセチラーゼ阻害剤を培地に添加してもよい。ヒストンデアセチラーゼは、クロマチン構造において主要な構成因子であるヒストンを脱アセチル化する酵素であり、遺伝子の転写制御において重要な役割を果たしている。公知のヒストンデアセチラーゼ阻害剤、例えば、トリコスタチンA、M344、酪酸塩、フェニル酪酸塩、アピシジン、バルプロ酸、BML-210、デプデシン、ロミデプシン(FK-228)、HCトキシン、オキサムフラチン、スクリプタイド、スプリトマイシン、スベロイルビス-ヒドロキサム酸、ボリノスタット、ダシノスタット(LAQ-824)、パノビノスタット(LBH-589)、ベリノスッタト(PXD-101)、酢酸フェニル、IF2357、FK-228、エンチノスタット(MS-275)、モセチノスタット(MGCD0103)またはタセジナリン(CI994)、好ましくは、酪酸ナトリウム、バルプロ酸、トリコスタチンA、ボリノスタット、アピシジン、エンチノスタットまたはタセジナリン、特に好ましくは酪酸ナトリウムを、当分野で周知の方法、例えば、製造業者の推奨する方法に従って、適宜使用し得る。例えば、酪酸ナトリウムは、0.1~10mM、0.5~5mMまたは1~3mMの濃度で使用し得る。2種以上のヒストンデアセチラーゼ阻害剤を併用してもよい。
【0088】
ある態様では、本開示の方法に使用し得るキットも提供される。キットに含まれる各構成要素は、各々別個に、あるいは可能であれば混合した状態で、水または適当な緩衝液中に溶解されるか、または凍結乾燥された状態で、適切な容器中に収容されて提供され得る。好適な容器には、ボトル、バイアル、試験管、チューブ、プレート等が含まれる。容器は、ガラス、プラスチック、金属などの多様な材料から形成されていてよい。容器は、ラベルを有していてもよい。キットは、さらに、使用のための説明を含む文書(例えば、書面または記憶媒体等)等の、商業的見地および使用者の見地から望ましいその他の構成要素を含んでもよい。
【0089】
ある態様では、PKC活性化剤または活性化型PKCをコードする核酸を含む、ウイルスベクターの産生を増強するための組成物も提供される。当該組成物は、PKC活性化剤または活性化型PKCをコードする核酸を適当な賦形剤と共に含み、本開示の方法に準じて使用し得る。
【0090】
例えば、下記の実施態様が提供される。
[1]ウイルスベクターの製造方法であって、ウイルスベクターのウイルス粒子の産生に必要な核酸およびウイルスベクターにより送達しようとする核酸を含む細胞を、プロテインキナーゼC(PKC)を活性化する条件下で培養することを含み、
ウイルス粒子の産生に必要な核酸が、SP1、CEBP、AP1、NF-κBおよびYY1から選択される少なくとも1つの転写因子の結合部位を含むプロモーターに作動可能に連結している、方法。
[2]ウイルスベクターのウイルス粒子の産生に必要な核酸および/またはウイルスベクターにより送達しようとする核酸を細胞に導入する工程を含む、第1項に記載の方法。
[3]ウイルスベクターを回収する工程を含む、第1項または第2項に記載の方法。
[4]ウイルスベクターが、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターである、第1項~第3項のいずれかに記載の方法。
[5]ウイルスベクターがレトロウイルスベクターである、第1項~第4項のいずれかに記載の方法。
[6]ウイルス粒子の産生に必要な核酸が、Gag、Polおよびエンベロープタンパク質から選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする、第5項に記載の方法。
[7]ウイルスベクターがレンチウイルスベクターである、第1項~第4項のいずれかに記載の方法。
[8]ウイルス粒子の産生に必要な核酸が、Gag、Pol、Tat、Revおよびエンベロープタンパク質から選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする、第7項に記載の方法。
[9]ウイルスベクターがアデノウイルスベクターである、第1項~第4項のいずれかに記載の方法。
[10]ウイルス粒子の産生に必要な核酸が、アデノウイルスゲノムのE1A、E1B、E2A、E2B、E3、E4、L1、L2、L3、L4およびL5領域にコードされるタンパク質から選択される少なくとも1つのタンパク質またはVA RNAをコードする、第9項に記載の方法。
【0091】
[11]ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルスベクターである、第1項~第4項のいずれかに記載の方法。
[12]ウイルス粒子の産生に必要な核酸が、アデノウイルスゲノムのE1A、E1B、E2AおよびE4領域、並びに、アデノ随伴ウイルスゲノムのRepおよびCap領域にコードされるタンパク質から選択される少なくとも1つのタンパク質またはVA RNAをコードする、第11項に記載の方法。
[13]ウイルス粒子の産生に必要な全部の核酸が、当該プロモーターに作動可能に連結している、第1項~第12項のいずれかに記載の方法。
[14]ウイルスベクターにより送達しようとする核酸が、SP1、CEBP、AP1、NF-κBおよびYY1から選択される少なくとも1つの転写因子の結合部位を含むプロモーターに作動可能に連結している、第1項~第13項のいずれかに記載の方法。
[15]プロモーターが、SP1、CEBP、AP1、NF-κBおよびYY1の結合部位を含む、第1項~第14項のいずれかに記載の方法。
[16]プロモーターが、さらにCREBの結合部位を含む、第1項~第15項のいずれかに記載の方法。
[17]プロモーターが、CMVプロモーター、CAGプロモーターまたはEF1プロモーターである、第1項~第16項のいずれかに記載の方法。
[18]プロモーターが、CMVプロモーターまたはEF1プロモーターである、第1項~第17項のいずれかに記載の方法。
[19]プロモーターがCMVプロモーターである、第1項~第18項のいずれかに記載の方法。
[20]プロモーターがウイルス由来のプロモーターである、第1項~第14項のいずれかに記載の方法。
【0092】
[21]ウイルス由来のプロモーターが、アデノウイルスのE1Aプロモーター、E1Bプロモーター、E2Aプロモーター、E2Bプロモーター、E4プロモーター、主要後期プロモーターもしくはIXプロモーター、アデノ随伴ウイルスのp5プロモーター、p19プロモーターもしくはp40プロモーターである、第20項に記載の方法。
[22]PKC活性化剤の存在下で前記細胞を培養することによりPKCを活性化する、第1項~第21項のいずれかに記載の方法。
[23]PKC活性化剤が、式(I)、式(II)または式(III)の化合物またはそのエステル、塩もしくは溶媒和物である、第22項に記載の方法。
[24]PKC活性化剤が、式(I)の化合物またはそのエステル、塩もしくは溶媒和物である、第22項または第23項に記載の方法。
[25]R1が、Hまたは-OC(O)R3であり、R2が、C6-12アルキルまたはC6-12アルケニルであり、R3が、C1-6アルキルまたはC6-14アリールである、第24項に記載の方法。
[26]R1が、Hまたは-OC(O)R3であり、R2が、ノニルまたは1,3-ノナジエニルであり、R3が、メチルまたはフェニルである、第24項または第25項に記載の方法。
[27]PKC活性化剤が、式(II)の化合物またはそのエステル、塩もしくは溶媒和物である、第22項または第23項に記載の方法。
[28]R4が、Hまたは-OC(O)R6であり、R5が、C1-6アルキルまたはC2-6アルケニルであり、R6が、C1-18アルキルである、第27項に記載の方法。
[29]R4が、Hまたは-OC(O)R6であり、R5が、メチル、プロピル、sec-ブチルまたはブテニルであり、R6が、プロピル、ノニルまたはトリデシルである、第25項または第28項に記載の方法。
[30]PKC活性化剤が、式(III)の化合物またはそのエステル、塩もしくは溶媒和物である、第22項または第23項に記載の方法。
【0093】
[31]R7が、Hまたは-C(O)R9であり、R8が、Hまたは-C(O)R9であり、R9が、C1-18アルキルまたはC2-18アルケニルである、第30項に記載の方法。
[32]R7が、Hまたは-C(O)R9であり、R8が、Hまたは-C(O)R9であり、R9が、ペンタデシルまたはブテニルである、第30項または第31項に記載の方法。
[33]PKC活性化剤が、化合物X、化合物#1~#7、TPA、プロストラチン、(-)-インドラクタムV、ホルボール12,13-ジブチラート、インゲノール3-アンゲラートおよび(2S,5S)-(E,E)-8-(5-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-2,4-ペンタジエノイルアミノ)ベンゾラクタムから選択される化合物またはそのエステル、塩もしくは溶媒和物である、第22項に記載の方法。
[34]PKC活性化剤が、化合物Xおよび化合物#1~#7から選択される化合物またはそのエステル、塩もしくは溶媒和物である、第33項に記載の方法。
[35]PKC活性化剤が、化合物Xまたはそのエステル、塩もしくは溶媒和物である、第31項または第34項に記載の方法。
[36]前記細胞が、Pro領域またはRING領域を含むペプチドをコードする核酸をさらに含む、第1項~第35項のいずれかに記載の方法。
[37]ウイルス粒子の産生に必要な核酸が、Pro領域またはRING領域を含むペプチドをコードする核酸と連結されている、第1項~第36項のいずれかに記載の方法。
[38]前記細胞がRING領域を含むペプチドをコードする核酸をさらに含む、第36項または第37項に記載の方法。
[39]RING領域が、
C-X2-C-X9-39-C-X1-3-H-X2-3-C-X2-C-X4-48-C-X2-C
{式中、Cはシステイン残基であり、Hはヒスチジン残基であり、Xは任意のアミノ酸残基である。}
のアミノ酸配列を含む、第38項に記載の方法。
[40]RING領域が、TRIM13、LONRF3、TRIM47、RNF135、TRIM10、TRIM72、TRIM60、TRIM39、TRIM4、TRIM43B、TRIM43、TRIM25、TRIM26、TRIM31、HTLF、BRCA1、TRIM50、TRIM21、SSA1、TRIM5d、TRIM22、KIAA0182、TRIM65、RAG1、BFAR、Pex10、RNF8、RING2、COPI、TRIM2、TRIM3、SH3RF2、PMLまたはTRIM56のRING領域である、第38項に記載の方法。
【0094】
[41]RING領域が、PML、TRIM3、TRIM56、COPI、Pex10、BRCA1またはHTLFのRING領域である、第38項~第40項のいずれかに記載の方法。
[42]RING領域がPMLのRING領域である、第38項~第41項のいずれかに記載の方法。
[43]RING領域が、配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる、第38項~第42項のいずれかに記載の方法。
[44]RING領域が、配列番号12のヌクレオチド配列と、少なくとも90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列によりコードされる、第38項~第43項のいずれかに記載の方法。
[45]前記細胞がPro領域を含むペプチドをコードする核酸をさらに含む、第36項または第37項に記載の方法。
[46]Pro領域が、PML、ARHGEF1、アグリカン-1、RALGDS、DGKK、SPATA21、ラブフィリン-3A、TEAD3、SPPL2BまたはFLJ43093のPro領域である、第45項に記載の方法。
[47]Pro領域がPMLのPro領域である、第45項または第46項に記載の方法。
[48]Pro領域が、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる、第45項~第47項のいずれかに記載の方法。
[49]Pro領域を含むペプチドをコードする核酸が、配列番号11のヌクレオチド配列と、少なくとも90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなる、第45項~第48項のいずれかに記載の方法。
[50]前記細胞がPro領域およびRING領域を含むペプチドをコードする核酸をさらに含む、第36項または第37項に記載の方法。
【0095】
[51]前記細胞が、作動可能に連結されている、プロモーター、ウイルス粒子の産生に必要な核酸、および、Pro領域またはRING領域を含むペプチドをコードする核酸を含む発現コンストラクトを含む、第36項~第50項のいずれかに記載の方法。
[52]プロモーター、ウイルス粒子の産生に必要な核酸、および、Pro領域またはRING領域を含むペプチドをコードする核酸が、この順序で作動可能に連結されている、第51項に記載の方法。
[53]発現コンストラクトがさらに内部リボソーム進入部位または2Aペプチド配列をコードする核酸を含む、第51項または第52項に記載の方法。
[54]プロモーター、ウイルス粒子の産生に必要な核酸、内部リボソーム進入部位または2Aペプチド配列、および、Pro領域またはRING領域を含むペプチドをコードする核酸が、この順序で作動可能に連結されている、第51項~第53項のいずれかに記載の方法。
[55]活性化型PKCを前記細胞に発現させることによりPKCを活性化する、第1項~第21項のいずれかに記載の方法。
[56]前記細胞が、活性化型PKCをコードする核酸を含む発現コンストラクトを含む、第55項に記載の方法。
[57]前記細胞が、作動可能に連結されている、プロモーター、ウイルス粒子の産生に必要な核酸、内部リボソーム進入部位または2Aペプチド配列、および、活性化型PKCをコードする核酸を含む発現コンストラクトを含む、第55項に記載の方法。
[58]プロモーター、ウイルス粒子の産生に必要な核酸、内部リボソーム進入部位または2Aペプチド配列、および、活性化型PKCをコードする核酸が、この順序で作動可能に連結されている、第57項に記載の方法。
[59]活性化型PKCが、PKCδ-CAまたはPKCαCA-M489Vである、第55項~第58項のいずれかに記載の方法。
[60]カルモジュリン阻害剤の存在下で前記細胞を培養する、第1項~第59項のいずれかに記載の方法。
【0096】
[61]カルモジュリン阻害剤が、式(IV)の化合物またはそのエステル、塩もしくは溶媒和物である、第60項に記載の方法。
[62]カルモジュリン阻害剤が、SC-9、SC-10またはW-7である、第60項または第61項に記載の方法。
[63]カルモジュリン阻害剤がSC-10である、第60項~第62項のいずれかに記載の方法。
[64]ヒストンデアセチラーゼ阻害剤の存在下で前記細胞を培養する、第1項~第63項のいずれかに記載の方法。
[65]ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が、酪酸ナトリウム、バルプロ酸、トリコスタチンA、ボリノスタット、アピシジン、エンチノスタットまたはタセジナリンである、第64項に記載の方法。
[66]ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が酪酸ナトリウムである、第64項または第65項に記載の方法。
[67]細胞がパッケージング細胞である、第1項~第66項のいずれかに記載の方法。
[68]細胞がPlat-E細胞またはLenti-X293T細胞である、第1項~第67項のいずれかに記載の方法。
[69]プロテインキナーゼC(PKC)活性化剤または活性化型PKCをコードする核酸と、ウイルスベクターのウイルス粒子の産生に必要な核酸とを含む、ウイルスベクターを製造するためのキットであって、
ウイルス粒子の産生に必要な核酸が、SP1、CEBP、AP1、NF-κBおよびYY1から選択される少なくとも1つの転写因子の結合部位を含むプロモーターに作動可能に連結しているものである、キット。
[70]PKC活性化剤または活性化型PKCをコードする核酸を含む、ウイルスベクターの産生を増強するための組成物。
【0097】
本明細書で引用するすべての文献は、出典明示により本明細書の一部とする。
以下、実施例にて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。また、上記の説明は、すべて非限定的なものであり、本発明は添付の特許請求の範囲において定義され、その技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例0098】
コンストラクト
CMVプロモーターによるルシフェラーゼ活性測定用には、pRL-CMV(Promega, #E2261)を使用した。CAGプロモーターはpCAGGSベクター、EF1プロモーターはpEFBOSベクター由来のプロモーターを使用し、pRL-CMVのCMV領域と載せ換えたコンストラクトを作製した。マウスIgG抗体(重鎖、軽鎖)、ヒトプロインスリンおよびヒトレプチン発現コンストラクトはpcDNAベクターのCMVプロモーターの下流にこれらのcDNAを挿入したコンストラクトを作製した。これらのプロモーターにおける転写因子の結合部位を
図42に示す。
【0099】
細胞
HEK293A細胞(ヒト胎児腎細胞)は10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM培地を用いて37℃、5%CO2、湿度90%の条件下で培養した。マウスIgG抗体、ヒトプロインスリン、および、レプチンを恒常的に発現するHEK293A細胞株は、CMVプロモーターの下流にこれらのcDNAを挿入したコンストラクトをトランスフェクションした後、長期培養によって単一クローンを形成させた。その後、各クローンから目的タンパク質の発現をELISA法を用いて確認し、細胞株を樹立した。これらの細胞株も同様の条件で培養した。
【0100】
トランスフェクション
HEK293A細胞を24ウェルプレートに1.0×105細胞/ウェルとなるように播種し、24時間培養した。特記しない限り、1ウェルあたり50ngの発現コンストラクト、1μl-Plus Reagent、1μl-Lipofectamine LTX を50μlのOpti-MEMで調整し、細胞を培養した24ウェルプレートの各ウェルに添加し、37℃で24時間培養することでトランスフェクションを行った。
【0101】
ルシフェラーゼアッセイ
トランスフェクションから24時間後にウェルから培地を除去し、各濃度の化合物を添加した培地を加え、さらに24時間培養した。その後、培地を除去し、500μlPBSで洗浄した後、50μlの1x Glo Lysis buffer(Promega #E2661)で細胞を溶解した。この内、5μlをルシフェラーゼ活性測定に、5μlをタンパク質濃度測定に用いた。ルシフェラーゼ活性はセレンテラジンh(FUJIFILM #035-22991)の発光を検出することでRlucの発現量を定量し、また、タンパク質濃度はBCA法を用いて定量し、各ルシフェラーゼ活性はRluc/BCA値で算出した。なお、発光検出、BCA測定にはマルチラベルリーダー 2030 ARVOTM X(Perkin Elmer)を用いた。
【0102】
ウェスタンブロット
HEK293A細胞を6-ウェルプレートに5.0×105細胞/ウェルとなるように播種し、24時間培養した。その後、培地交換によって各化合物群を処理し、3時間後に細胞を2mlPBSで洗浄したのち、200μlRIPAバッファーを用いて溶解した。溶解した細胞を超音波処理を用いて破砕し、遠心(20,000g、15分、4℃)し、上清を回収し、タンパク質濃度を定量した。それらの溶解液を等量に合わせた後、1xSDSサンプルバッファーを加え、95℃で3分間熱処理した物をSDS-PAGEのサンプルとして用いた(1レーンあたり5μgのタンパク質)。SDS-PAGEのゲルはスーパーセップTMエース5-20%,17ウェル(Wako)のゲルを用い、ゲル1枚あたり
500V、40mA、35分間の条件下で電気泳動を行った。その後、ブロッキング装置(ATTO)を用いてゲル1枚あたり500V、100mA、60分間の条件でPVDFメンブレンに転写した。転写後のメンブレンをブロッキング溶液(3%BSA/TBS-T)を用いて室温で30分間浸透し、一次抗体の反応は、ブロッキング溶液に一次抗体(Phospho-PKC Substrate Motif [(R/K)XpSX(R/K)] MultiMabTM Rabbit mAb mix, Cell Signaling Technology #6967))を3000倍希釈の条件下、4℃で一晩で行った。その後、TBS-Tを用いてメンブレンを3回洗浄し、二次抗体反応を、TBS-T中にHRP標識二次抗体(Anti-Rabbit IgG, HRP-Linked Whole Ab Donkey, Cytiva #NA934-1ML)を5000倍希釈の条件下、室温で3時間行った。その後、TBSTを用いてメンブレンを3回洗浄し、Chemi-Lumi One(nacalai #07880-70)と ImageQuant LAS4010 を用いて検出を行った。
【0103】
ELISA法
各分泌タンパク質発現細胞を24ウェルプレートに1.0×104細胞/ウェルとなるように播種し、24時間培養した。その後、1ml/ウェルの条件で培地交換によって各化合物群を処理し、24時間ごとに培地を120μl回収、冷蔵保存した。その後、各ELISAキット(マウスIgG, Betyl Lab #E99-131, ヒトプロインスリン: Mercodia #10-1118-01, ヒトレプチン: Proteintech #KE00095)を用いて培地中の目的タンパク質の濃度を測定した。測定にはマルチラベルリーダー2030 ARVOTM X(Perkin Elmer)を用いた。
【0104】
【0105】
試験1:CMVプロモーターの転写活性を増強する化合物の同定
HEK293T細胞にCMVプロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子を挿入したプラスミドを24-ウェルプレートの1ウェルあたり20ngでトランスフェクションし、24時間後に30μg/mlの植物エキスを含んだ培地に培地交換した。その後、24時間後にルシフェラーゼアッセイを用いて、CMVプロモーター活性を測定した。本研究では約1000種類の植物エキスを用いた。独自の植物(生薬原料)エキスライブラリーから、CMVプロモーターの転写活性を劇的に増強する5種類の植物エキスおよびその活性を担う化合物(下記の8種類)を同定した。
【化6】
【0106】
試験2:化合物の活性はプロテインキナーゼC(PKC)の阻害剤により阻害される
pRL-CMVを恒常的に発現するHEK293A細胞を、
図1に示す濃度で化合物Xまたは化合物#1~#7を含む培地中、PKC阻害剤の存在下または非存在下で24時間培養し、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を
図1に示す。CMVプロモーターの転写活性は、化合物の存在下で増強され、その増強はPKC阻害剤により阻害された。
【0107】
pRL-CMVを恒常的に発現するHEK293A細胞を、化合物X(100ng/ml)を添加した培地中で24時間培養し、ルシフェラーゼ活性を経時的に測定した。結果を
図2に示す。化合物XによるCMVプロモーターの転写活性増強は、化合物X添加の1時間後から観察された。
【0108】
試験3:CMVプロモーターの活性は既知のPKC活性化剤によっても増強される
pRL-CMVを恒常的に発現するHEK293A細胞を、
図3に示す濃度で化合物XまたはPKC活性化剤#1~#4を含む培地中、PKC阻害剤の存在下または非存在下で24時間培養し、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を
図3に示す。CMVプロモーターの転写活性は、既知のPKC活性化剤によっても増強された。
【0109】
化合物X、化合物#1~#7およびPKC活性化剤#1~#4は、テルペンに属し、ジテルペンと総称される化合物である。骨格により以下の3種類に分類される。
【化7】
【0110】
試験4:CMVプロモーターの活性はジテルペン以外のPKC活性化剤によっても増強される
pRL-CMVを恒常的に発現するHEK293A細胞を、
図4に示す濃度で化合物XまたはPKC活性化剤#5~#6を含む培地中、PKC阻害剤(Ro-318425)の存在下または非存在下で24時間培養し、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を
図4に示す。CMVプロモーターの転写活性は、ジテルペン以外のPKC活性化剤によっても増強された。
【0111】
試験5:化合物はCAGプロモーターおよびEF1プロモーターの活性も増強する
HEK293A細胞に、pCAG-Rluc、もしくはpEF1-Rlucをトランスフェクションし、
図5~7に示す濃度で化合物X、化合物#1~#7またはPKC活性化剤#1~#6を含む培地中で培養し、pCAGGSベクター由来のCAGプロモーターおよびpEFBOSベクター由来のEF1プロモーターの転写活性を測定した。結果を
図5~7に示す。CAGプロモーターおよびEF1プロモーターの転写活性は、化合物またはPKC活性化剤の存在下で増強されたが、その増強はPKC阻害剤により阻害された。これらのプロモーターは、SP1、CEBP、AP1、NF-κB、YY1などの転写因子の結合部位を有する。従って、これらの化合物およびPKC活性化剤は、共通の転写因子を介してこれらのプロモーターを活性化することが示唆される。
【0112】
試験6:化合物群はPKCを活性化する
HEK293A細胞を、試験2~5と同様の濃度で化合物X、化合物#1~#7、PKC活性化剤#1~#6、化合物SCまたは酪酸ナトリウム(SB)を含む培地中、PKC阻害剤(3μM)の存在下または非存在下で3時間培養した。細胞を溶解し、PKCによってリン酸化されたタンパク質を特異的に認識する抗体を用いてウェスタンブロットを行った。結果を
図8に示す。化合物X、化合物#1~#7およびPKC活性化剤#1~#6は、PKCを活性化した。化合物SCおよび酪酸ナトリウムによるPKC活性化は確認されなかった。
【0113】
試験7:新たなCMVプロモーター活性化剤の同定
pRL-CMVを恒常的に発現するHEK293A細胞を、
図9に示す濃度で化合物Xおよび/または化合物SCを含む培地中、PKC阻害剤の存在下または非存在下で24時間培養し、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を
図9に示す。CMVプロモーターの転写活性は、化合物SCによっても増強されたが、この増強はPKC阻害剤により阻害されなかった。化合物Xと化合物SCを併用すると転写活性はさらに増強された。
【0114】
試験8:PKC活性化剤、化合物SCおよびヒストンデアセチラーゼ阻害剤の併用によりCMVプロモーターの転写活性はさらに増強される
pRL-CMVを恒常的に発現するHEK293A細胞を、
図10に示す濃度で化合物X、化合物SCおよび/または酪酸ナトリウム(SB)を含む培地中で24時間培養し、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を
図10に示す。CMVプロモーターの転写活性は、化合物X、化合物SCおよび酪酸ナトリウムを併用すると最も高かった。同様の結果が化合物#1~#7およびPKC活性化剤#1~#6でも得られた(
図11および12)。酪酸ナトリウムの代わりにヒストンデアセチラーゼ阻害剤のバルプロ酸、トリコスタチンA(TSA)、ボリノスタット(SAHA)、アピシジン、エンチノスタット(MS-275)またはタセジナリン(CI994)を用いても、同様の結果が得られた(
図13)。
【0115】
試験9:PKC活性化剤によるタンパク質生産の増加
pcDNAベクターのCMVプロモーターの下流にマウスIgG抗体重鎖、マウスIgG抗体軽鎖、ヒトプロインスリンまたはヒトレプチンのcDNAを挿入し、発現コンストラクトを作製した。マウスIgG抗体およびヒトレプチンのコンストラクトをそれぞれHEK293A細胞にトランスフェクションした。ヒトプロインスリンのコンストラクトをHEK293A細胞にトランスフェクションし、ヒトプロインスリンを恒常的に発現するHEK293A細胞を作製した。
図14~17に示す濃度で化合物X、化合物#1~#7、PKC活性化剤#1~#6を含む培地中、化合物SCまたは化合物SC+酪酸ナトリウム(SB)の存在下または非存在下で細胞を24時間培養し、培地中の各タンパク質の濃度をELISA法により測定した。結果を
図14~17に示す。さらに、化合物Xについて、マウスIgG抗体重鎖および軽鎖、ヒトプロインスリンまたはヒトレプチンを恒常的に発現するHEK293A細胞を用い、酪酸ナトリウム(SB)の存在下または非存在下で、24時間毎に4日間にわたりタンパク質濃度を測定した。結果を
図18に示す。IgG抗体、プロインスリンおよびレプチンの生産はこれらの化合物により増強された。IgG抗体およびプロインスリンの生産は、これらの化合物と化合物SCおよび酪酸ナトリウムを併用するとさらに増強された。レプチンの生産は、これらの化合物と化合物SCを併用した場合に最も増強され、SBの存在下では減少したが、いずれの物質も含まない培地で培養した場合よりは多かった。
【0116】
試験10:遺伝子工学的PKC活性化によるCMVプロモーターの活性化
遺伝子工学的にPKCを活性化して、CMVプロモーターの転写活性を調べた。CMVプロモーターの下流に、タンパク質のcDNA(XXX)、IRESおよび活性化型PKCのcDNAを連結した発現コンストラクトを使用した。活性化型PKCとして、ヒトPKCδの334-695アミノ酸領域(PKCδ-CA)、ヒトPKCαの326-672アミノ酸領域の489番目のメチオニンをバリンに変えた恒常的活性化体(PKCαCA-M489V)を使用した。またXXXにはRluc、マウスIgG抗体(重鎖、軽鎖)、およびヒトレプチン遺伝子を挿入した。これらのコンストラクトの模式図を
図19に示す。
【0117】
pcDNAベクターのCMVプロモーターの下流に、RlucのcDNA、IRES、および、PKCδ-CAまたはPKCαCA-M489VのcDNAを挿入し、発現コンストラクトを作製した。PKCを欠く対照のコンストラクトも作製した。これらのコンストラクトを6.25~200ng/ウェルの濃度でHEK293A細胞にトランスフェクションし、24時間培養し、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を
図20に示す。PKC群では、ルシフェラーゼ活性が高かった。この結果は、CMVプロモーターの転写活性がポジティブフィードバックにより増強されることを示す。IRESの代わりに2A自己切断ペプチド配列であるP2Aペプチド配列を用いた発現コンストラクトでも、同様の結果が得られた(
図21)。
【0118】
pcDNAベクターのCMVプロモーターの下流に、マウスIgG抗体重鎖または軽鎖のcDNA、IRES、および、PKCδ-CAまたはPKCαCA-M489VのcDNAを挿入し、発現コンストラクトを作製した。PKCを欠く対照のコンストラクトも作製した。IgG抗体重鎖および軽鎖のコンストラクトを組み合わせて、100ng/ウェルの濃度でHEK293A細胞にトランスフェクションし、24時間培養し、培地中のIgG抗体の濃度をELISA法により24時間毎に4日間にわたって測定した。結果を
図22に示す。PKC群では、IgG抗体の生産が増強された。この結果は、遺伝子工学的PKC活性化により、CMVプロモーターを活性化し、タンパク質生産を増強できることを示す。
【0119】
pcDNAベクターのCMVプロモーターの下流に、ヒトレプチンのcDNA、IRES、および、PKCαCA-M489VのcDNAを挿入し、発現コンストラクトを作製した。PKCを欠く対照のコンストラクトも作製した。これらのコンストラクトを100ng/ウェルの濃度でHEK293A細胞にトランスフェクションし、24時間培養し、培地中のレプチンの濃度をELISA法により4日間にわたって測定した。結果を
図23に示す。PKC群では、レプチンの生産が増強された。この結果は、遺伝子工学的PKC活性化により、CMVプロモーターを活性化し、タンパク質生産を増強できることを示す。
【0120】
試験11:化合物SCの標的タンパク質の探索
化合物SCを含む下記の構造を有するナフタレンスルホンアミド誘導体について、化合物Xとの相乗効果を調べた。
【表2】
【0121】
pRL-CMVを恒常的に発現するHEK293A細胞を、いずれかのナフタレンスルホンアミド誘導体を
図24に示す濃度で含む培地中、化合物X(100ng/ml)の存在下または非存在下で24時間培養し、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を
図24に示す。CMVプロモーターの転写活性は、ナフタレンスルホンアミド誘導体のみでは変化しなかったが、ナフタレンスルホンアミド誘導体を化合物Xと併用すると増強された。ナフタレンスルホンアミド誘導体W-7はカルモジュリン阻害剤として利用されており、化合物SCおよびSC-9もカルモジュリン阻害剤として作用し、化合物Xとの相乗効果を示していると考えられる。
【0122】
試験12:PKC活性化剤および遺伝子工学的PML発現によりCMVプロモーターの転写活性は増強される
pcDNAベクターのCMVプロモーターの下流に、RlucのcDNA、IRES、および、野生型PMLまたは欠損変異型PML(PMLΔ1~10またはPML-Ring)のcDNAを挿入し、発現コンストラクトを作製した(
図25)。野生型PMLおよびPMLΔ1~10のコンストラクトをHEK293A細胞にトランスフェクションし、化合物Xの存在下または非存在下で24時間培養し、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を
図26に示す。野生型PML、PMLΔ1およびPMLΔ6~10を導入された細胞では、対照(-)の細胞と比較して、化合物X存在下のルシフェラーゼ活性が高かった。この結果は、PMLが化合物Xにより増強されるCMVプロモーターの転写活性をさらに増強し、PMLの第1位~第46位を含むPro領域がその活性を担うことを示唆する。また、野生型PML、PMLΔ1およびPMLΔ6~10を導入された細胞では、化合物Xの非存在下でも、ルシフェラーゼ活性が対照(-)の細胞と比較して高かった。
【0123】
また、PMLΔ9またはPML-Ringを含むコンストラクトをHEK293A細胞にトランスフェクションし、化合物X、SB、化合物SCまたはこれらの組合せの存在下または非存在下で24時間培養し、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を
図27に示す。PMLΔ9またはPML-Ringを導入された細胞では、対照(Mock)の細胞と比較して、いずれの条件でもルシフェラーゼ活性が高かった。この結果は、PMLの第47位~第106位を含むRING領域も、化合物Xにより増強されるCMVプロモーターの転写活性をさらに増強することを示唆する。また、PMLΔ9またはPML-Ringを導入された細胞では、化合物Xの非存在下でも、ルシフェラーゼ活性が対照(-)の細胞と比較して高かった。
【0124】
試験13:PKC活性化剤およびRING領域を含むペプチドの遺伝子工学的発現によりCMVプロモーターの転写活性は増強される
RING領域は、各種のタンパク質間で共通の配列を有する。PMLのRING領域のアミノ酸配列をBLAST解析し、類似の配列を有するタンパク質として
図28に示すタンパク質を同定した。これらのタンパク質のRING領域において、いくつかのシステイン残基およびヒスチジン残基に高い保存性が見られた。PMLのRING領域との類似性の程度が異なるタンパク質をいくつか選択し、以下の解析に用いた。
【0125】
pcDNAベクターのCMVプロモーターの下流に、RlucのcDNA、IRES、および、PML、TRIM3、TRIM56、COPI、Pex10、BRCA1またはHTLFのRING領域のcDNAを挿入し、発現コンストラクトを作製した(
図29)。これらの発現コンストラクトをHEK293A細胞にトランスフェクションし、化合物Xの存在下または非存在下で24時間培養し、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を
図30に示す。RING領域を導入された細胞では、対照(-)の細胞と比較して、化合物X存在下のルシフェラーゼ活性が高かった。この結果は、各種タンパク質のRING領域が、化合物Xにより増強されるCMVプロモーターの転写活性をさらに増強することを示唆する。また、RING領域を導入された細胞では、化合物Xの非存在下でも、対照(-)の細胞と比較してルシフェラーゼ活性が高かった。
【0126】
試験14:PMLによるCMVプロモーターの転写活性増強はmRNAの発現に依存する
pcDNAベクターのCMVプロモーターの下流に、RlucのcDNA、IRES、および、野生型PMLまたは欠損変異型PML(PMLΔ9、第2位に停止コドンが導入されたPMLΔ9、または、第7位に停止コドンが導入されたPMLΔ9)のcDNAを挿入し、発現コンストラクトを作製した(
図31左)。また、pcDNAベクターのCMVプロモーターの下流に、RlucのcDNA、および、野生型PMLまたは欠損変異型PML(PMLΔ9、PMLΔ10またはPML-RING)のcDNAを挿入し、発現コンストラクトを作製した(
図31右)。これらのコンストラクトを細胞に導入すると、PMLのmRNAは転写されるが、タンパク質には翻訳されない。これらのコンストラクトをHEK293A細胞にトランスフェクションし、化合物Xの存在下または非存在下で24時間培養し、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を
図32に示す。いずれのコンストラクトでも、化合物Xの存在下および非存在下で、対照よりも高いルシフェラーゼ活性が見られた。この結果は、PMLによるCMVプロモーターの転写活性増強は、PMLのタンパク質ではなく、PMLのPro領域またはRING領域をコードするmRNAの発現に依存することを示唆する。
【0127】
試験15:ウイルスベクターの製造
材料と方法
コンストラクト
レトロウイルスベクターには、pQCXINベクター(TaKaRa #631514)のマルチクローニングサイトにGFP遺伝子を挿入したコンストラクトを作製した。また、エンベロープタンパク質を発現するベクターとしてpcDNA-VSV-G(水疱性口内炎ウイルスのG糖タンパク質)を用いた。
レンチウイルスベクターには、pLVSIN-CMV Purベクター(TaKaRa #6183)のマルチクローニングサイトにGFP遺伝子を挿入したコンストラクトを作製した。また、エンベロープタンパク質を発現するベクターとしてpcDNA-VSV-Gを、ウイルス産生に必要な構造遺伝子(gag,pol)を発現するベクターとしてpsPAX2(Addgene #12260)を用いた。
アデノウイルスベクターには、pAd/DEST/CMV/V5-DEST Gatewayベクター(Invitrogen #V49320)にGFPを挿入したベクターを作製し、制限酵素PacIで酵素処理したものを精製した後に用いた。
アデノ随伴ウイルスベクターには、pAAV-CMV-PI-EGFP-WPRE-bGH(Addgene #105530)とpAAV-2/9n(Addgene #112865)、pAdDeltaF6(Addgene #112867)を用いた。
【0128】
各コンストラクトのプロモーターを下表および
図43~45に示す。
【表1】
*Ad5(ΔE1,ΔE3)は、アデノウイルスゲノムのE2A、E2B、E4、L1、L2、L3、L4およびL5領域を含む。
【0129】
細胞
Plat-E細胞株(コスモバイオ #RV-101)、Lenti-X293T細胞株(TaKaRa #Z2180N)は10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM培地を用いて37℃、5%CO2、湿度90%の条件下で培養した。
【0130】
トランスフェクション
Plat-E細胞、もしくはLenti-X293T細胞を6ウェルプレートに2.0×106細胞/ウェルとなるように播種し、24時間培養した。1ウェルあたり2~5μgのコンストラクト、12μl-PEI-Maxを100μlのDMEMで調整し、細胞を培養した6ウェルプレートの各ウェルに添加し、37℃で24時間培養することでトランスフェクションを行った。
【0131】
ウイルス液の回収および調整
トランスフェクションから24時間後にウェルから培地を除去し、各濃度の化合物を添加した培地を加え、さらに48時間培養した。その後、培地を回収し、シリンジフィルター(孔径0.45μm)を通した後、レトロウイルスとアデノ随伴ウイルスの培地にはRetro-X Concentrator(TaKaRa #631455)を、レンチウイルスとアデノウイルスの培地にはLenti-X Concentrator(TaKaRa #631231)を適量加え、4℃で一晩静置した。その後、遠心処理(1,500g、45分、4℃)を行い、沈殿画分をウイルス培地に懸濁し濃縮したウイルス溶液とした。
【0132】
ウイルス感染細胞数の計測
HEK293A細胞を24-ウェルプレートに1.0×105細胞/ウェルとなるように播種し、24時間培養した。その後、培地交換によって濃縮したウイルス液を処理し、48時間、ウイルスの感染をおこなった。その後、培地交換時に Hoechst 33258(Wako #343-07961)を処理することで核DNAの染色を行った。CO2インキュベーター内で30分以上静置した後、オールインワン蛍光顕微鏡(キーエンス BZ-X810)を用いてGFPとHoechst 33258像の写真を撮影し、その後、(GFP陽性細胞数/Hoechst 33258陽性細胞数)を用いて、ウイルス感染細胞数の割合を計測した。
【0133】
結果
(1)CMVプロモーター活性化化合物によるレトロウイルスベクター産生増強
6ウェルプレートにPlat-E細胞を2.0×106細胞/ウェルとなるように播種し、24時間培養した後、pQCXINベクターのマルチクローニングサイトにGFP遺伝子を挿入したコンストラクトを1ウェルあたり1.5μg、pcDNA-VSV-Gを0.4μg、トランスフェクションを行った。その後、24時間後に培地交換を行い、各化合物(化合物X:100ng/ml、ソジウムブチレイト(SB):2mM、化合物SC:5μg/ml)を添加し、48時間培養した。その後、培地からウイルスを回収・濃縮し、400μlの10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM培地へと懸濁した。その懸濁液を原液でHEK293A細胞へと感染させ、48時間後にHoechst 33258を処理することで核DNAを染色し、写真撮影を行なった。(GFP陽性細胞数/Hoechst 33258陽性細胞数)を計測することで、ウイルス感染細胞数の割合を計測した。化合物X処理、または化合物XとSB、化合物XとSBと化合物SCの処理により、GFP陽性細胞数(ウイルス感染細胞数)の劇的な増加が確認された(
図33)。
【0134】
(2)PKC活性化剤によるレンチウイルスベクター産生増強
6ウェルプレートにLenti-X293T細胞を2.0×106細胞/ウェルとなるように播種し、24時間培養した後、pLVSIN-CMVPurベクターのマルチクローニングサイトにGFPを挿入したコンストラクトを1ウェルあたり2μg、pcDNA-VSV-Gを0.6μg、psPAN2を1.6μg、トランスフェクションを行った。その後、24時間後に培地交換を行い、各化合物(化合物X:100ng/ml、ソジウムブチレイト(SB):2mM、化合物SC:5μg/ml)を添加し、48時間培養した。その後、培地からウイルスを回収・濃縮し、400μlの10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM培地へと懸濁した。その懸濁液を100倍希釈した後にHEK293A細胞へと感染させ、48時間後にHoechst 33258を処理することで核DNAを染色し、写真撮影を行なった。(GFP陽性細胞数/Hoechst 33258陽性細胞数)を計測することで、ウイルス感染細胞数の割合を計測した。化合物X処理、または化合物XとSB、化合物XとSBと化合物SCの処理により、GFP陽性細胞数(ウイルス感染細胞数)の増加が確認された(
図34)。
【0135】
(3)CMVプロモーター活性化化合物によるアデノウイルスベクター産生増強
6ウェルプレートにLenti-X293T細胞を2.0×106細胞/ウェルとなるように播種し、24時間培養した後、PacI処理したpAd/DEST/CMV/V5-DEST GatewayベクターにGFPを挿入したベクターを1ウェルあたり2μg、トランスフェクションを行った。その後、24時間後に培地交換を行い、各化合物(化合物X:100ng/ml、ソジウムブチレイト(SB):2mM、化合物SC:5μg/ml)を添加し、48時間培養した。その後、培地からウイルスを回収・濃縮し、400μlの10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM培地へと懸濁した。その懸濁液を3倍希釈した後にHEK293A細胞へと感染させ、48時間後にHoechst 33258を処理することで核DNAを染色し、写真撮影を行なった。(GFP陽性細胞数/Hoechst 33258陽性細胞数)を計測することで、ウイルス感染細胞数の割合を計測した。化合物X処理、または化合物XとSB、化合物XとSBと化合物SCの処理により、GFP陽性細胞数(ウイルス感染細胞数)の増加が確認された(
図35)。
【0136】
(4)CMVプロモーター活性化化合物によるアデノ随伴ウイルスベクター産生増強
6ウェルプレートにLenti-X293T細胞を2.0×106細胞/ウェルとなるように播種し、24時間培養した後、pAAV-CMV-PI-EGFP-WPRE-bGHを1ウェルあたり1.5μg、pAAV-2/9nを1.5μg、pAdDeltaF6を1.5μg、トランスフェクションを行った。その後、24時間後に培地交換を行い、各化合物(化合物X:100ng/ml、ソジウムブチレイト(SB):2mM、化合物SC:5μg/ml)を添加し、48時間培養した。その後、培地からウイルスを回収・濃縮し、400μlの10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM培地へと懸濁した。その懸濁液を3倍希釈した後にHEK293A細胞へと感染させ、48時間後にHoechst 33258を処理することで核DNAを染色し、写真撮影を行なった。(GFP陽性細胞数/Hoechst 33258陽性細胞数)を計測することで、ウイルス感染細胞数の割合を計測した。化合物X処理、または化合物XとSB、化合物XとSBと化合物SCの処理により、GFP陽性細胞数(ウイルス感染細胞数)の増加が確認された(
図36)。
【0137】
(5)CMVプロモーター活性化化合物とPKC阻害剤によるレトロウイルスベクター産生増強の変化
(1)と同様にPlat-E細胞を用いてレトロウイルスベクターをトランスフェクションし、24時間後に培地交換を行い、その際にPKC阻害剤Ro-318425、3μM有無の条件下で各活性化合物を添加し、48時間培養した。その後、培地からウイルスを回収・濃縮し、400μlの10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM培地へと懸濁した。その懸濁液を原液でHEK293A細胞へと感染させ、48時間後にHoechst 33258を処理することで核DNAを染色し、写真撮影を行なった。(GFP陽性細胞数/Hoechst 33258陽性細胞数)を計測することで、ウイルス感染細胞数の割合を計測した。活性化化合物群によるGFP陽性細胞数(ウイルス感染細胞数)の劇的な増加と、PKC阻害剤による抑制が確認された(
図37)。
【0138】
(6)CMVプロモーター活性化化合物とPKC阻害剤によるウイルスベクター産生増強の変化
(5)と同様にPlat-E細胞を用いてレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターをトランスフェクションし、24時間後に培地交換を行い、その際にPKC阻害剤Ro-318425、3μM有無の条件下で各活性化合物を添加し、48時間培養した。その後、培地からウイルスを回収・濃縮し、400μlの10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM培地へと懸濁した。その懸濁液をレトロウイルスは原液で、レンチウイルスは100倍希釈した後、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクターは3倍希釈した後、HEK293A細胞へと感染させ、48時間後にHoechst 33258を処理することで核DNAを染色し、写真撮影を行なった。(GFP陽性細胞数/Hoechst 33258陽性細胞数)を計測することで、ウイルス感染細胞数の割合を計測した。活性化化合物群によるGFP陽性細胞数(ウイルス感染細胞数)の劇的な増加と、PKC阻害剤による抑制が確認された(
図38~
図41)。