(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123965
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】感光性ペースト
(51)【国際特許分類】
G03F 7/031 20060101AFI20240905BHJP
G03F 7/027 20060101ALI20240905BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20240905BHJP
H05K 1/16 20060101ALI20240905BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
G03F7/031
G03F7/027 502
H05K1/09 D
H05K1/16 B
G03F7/20 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031819
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100188802
【弁理士】
【氏名又は名称】澤内 千絵
(72)【発明者】
【氏名】三宅 敢
【テーマコード(参考)】
2H197
2H225
4E351
【Fターム(参考)】
2H197CA05
2H197CE01
2H197HA10
2H225AC31
2H225AD06
2H225AM92P
2H225AN11P
2H225CA11
2H225CB02
2H225CC01
2H225CC13
4E351AA07
4E351AA13
4E351BB09
4E351BB13
4E351BB24
4E351BB31
4E351BB49
4E351DD04
4E351DD05
4E351DD06
4E351DD10
4E351DD17
4E351DD19
4E351DD20
4E351EE11
4E351EE27
4E351GG20
(57)【要約】
【課題】フォトマスクを介して活性エネルギー線を照射して現像した時に、配線パターンの幅がフォトマスクの幅に近い感光性ペーストを提供する。
【解決手段】感光性ペーストは、無機粉末と、光重合性モノマーと、アルカリ可溶性ポリマーと、ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤と、を含む。
【選択図】
図3B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉末と、
光重合性モノマーと、
アルカリ可溶性ポリマーと、
ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤と、
を含む感光性ペースト。
【請求項2】
前記無機粉末は、導電性粉末を有する、請求項1に記載の感光性ペースト。
【請求項3】
前記無機粉末は、Agを有する、請求項1または2に記載の感光性ペースト。
【請求項4】
前記AgのD50は、5.0μm以下である、請求項3に記載の感光性ペースト。
【請求項5】
前記オキシムエステル系開始剤は、=N-O-CO-R1基を有し、
R1は、炭素数1以上3以下のアルキル基である、請求項1または2に記載の感光性ペースト。
【請求項6】
前記オキシムエステル系開始剤は、式(1):
【化1】
で表される、請求項1または2に記載の感光性ペースト。
[式中:
R
1は、炭素原子数1以上3以下のアルキル基であり;
R
2は、1価の有機基であり;
R
3は、それぞれ独立して、1価の有機基であり;
Xは、それぞれ独立して、2価の有機基であり;
mは、1以上5以下の整数であり;
nは、0以上5以下の整数である。]
【請求項7】
R1は、メチル基であり、
R2は、メチル基であり、
R3は、-O-CH2CH2-OHであり、
Xは、-CO-であり、
mは、1であり、
nは、1である、請求項6に記載の感光性ペースト。
【請求項8】
活性エネルギー線を照射した際の厚みDμmと幅Lμmとの比D/Lは0.6以上であるという特性を有し、
前記幅Lは、請求項1に記載の感光性ペーストより形成された感光性ペースト膜上にフォトマスクを設け、前記活性エネルギー線を照射して現像した際の、前記フォトマスクの開口部の幅と前記感光性ペースト膜の硬化部分の幅との間の差異であり、
前記厚みDは、第1面および前記第1面と反対側の第2面を有する透光性を有する基板の前記第1面上に、請求項1に記載の感光性ペーストを塗布して乾燥することにより形成された感光性ペースト膜に対して、前記透光性を有する基板の前記第1面の法線方向から活性エネルギー線を照射したのち現像して形成された前記感光性ペースト膜の硬化部分の厚みである、請求項1に記載の感光性ペースト。
【請求項9】
さらに有機溶剤を有する、請求項1または2に記載の感光性ペースト。
【請求項10】
請求項2に記載の感光性ペーストを絶縁シート上に塗布して、感光性ペースト膜を形成する工程と、
前記感光性ペースト膜の一部に活性エネルギー線を照射する工程と、
前記感光性ペースト膜の未硬化の部分を除去して配線パターンを形成する工程と、を備える、配線パターンの形成方法。
【請求項11】
請求項2に記載の感光性ペーストを絶縁シート上に塗布して、感光性ペースト膜を形成する工程と、
前記感光性ペースト膜の一部に活性エネルギー線を照射する工程と、
前記感光性ペースト膜の未硬化の部分を除去して、配線パターンを形成する工程と、
前記配線パターン上に絶縁シートを積層する工程と、
前記配線パターンおよび前記絶縁シートを焼成して、複数の前記絶縁シートの焼結体としての複数の絶縁層、および、前記配線パターンの焼結体としての内部配線を得る工程と、を備える、電子部品の製造方法。
【請求項12】
複数の絶縁層を含む素体と、
前記素体の内部に設けられ、硬化した請求項2に記載の感光性ペーストの焼結体としての内部配線と、を備える、電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、感光性ペーストにおいて、高遮蔽系の重合開始剤として、オキシムエステル系の化合物を用いてきた。例えば、特開2017-182901号公報(特許文献1)には、無機粉末と、光重合性モノマーと、アルカリ可溶性ポリマーと、オキシムエステル系開始剤等の感光剤とを含む感光性ペーストが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来技術に記載されているオキシムエステル系開始剤を含む感光性ペーストに、紫外線等の活性エネルギー線を照射して配線パターンを形成すると、特に、厚みの大きな配線パターンを形成する場合に、配線パターンの幅も広くなってしまうことがあった。これは、活性照射方向に活性エネルギー線が広がるだけでなく、照射方向に垂直な方向にも活性エネルギー線が広がり、配線パターンの幅が広くなってしまうためと考えられている。
【0005】
そこで、本発明の目的の1つは、フォトマスクを介して活性エネルギー線を照射して現像した時に、配線パターンの幅がフォトマスクの幅に近い感光性ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本開示の一態様によると、
無機粉末と、
光重合性モノマーと、
アルカリ可溶性ポリマーと、
ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤と、
を含む感光性ペーストを提供することにある。
【0007】
上記態様を有することにより、エネルギー線の照射方向に垂直な方向への活性エネルギー線の広がりを低減できつつ、照射方向への活性エネルギー線の広がりが大きいラジカルを形成できる感光性ペーストを提供することができる。
【0008】
本開示の一態様である配線パターンの形成方法は、
導電性を有する上記の感光性ペーストを絶縁シート上に塗布して、感光性ペースト膜を形成する工程と、
前記感光性ペースト膜の一部に活性エネルギー線を照射する工程と、
前記感光性ペースト膜の未硬化の部分を除去して配線パターンを形成する工程と、を備える。
【0009】
前記実施形態によれば、所望の形状を有する配線パターンが得られる。
【0010】
本開示の一態様である電子部品の製造方法は、
導電性を有する上記の感光性ペーストを絶縁シート上に塗布して、感光性ペースト膜を形成する工程と、
前記感光性ペースト膜の一部に活性エネルギー線を照射する工程と、
前記感光性ペースト膜の未硬化の部分を除去して、配線パターンを形成する工程と、
前記配線パターン上に絶縁シートを積層する工程と、
前記配線パターンおよび前記絶縁シートを焼成して、複数の前記絶縁シートの焼結体としての複数の絶縁層、および、前記配線パターンの焼結体としての内部配線を得る工程と、を備える。
【0011】
前記実施形態によれば、高精度の内部配線を有する電子部品が得られる。
【0012】
本開示の一態様である電子部品は、
複数の絶縁層を含む素体と、
前記素体の内部に設けられ、硬化した本開示記載の感光性ペーストの焼結体としての内部配線と、を備える。
【0013】
前記実施形態によれば、性能および信頼性に優れる電子部品が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によると、フォトマスクを介して活性エネルギー線を照射して現像した時に、配線パターンの幅がフォトマスクの幅に近い感光性ペーストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】インダクタ部品を模式的に示す透視斜視図である。
【
図2】インダクタ部品を模式的に示す分解斜視図である。
【
図3A】幅Lμmの測定方法を模式的に示すXZ断面図である。
【
図3B】幅Lμmの測定方法を模式的に示すXZ断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の一態様である感光性ペースト、配線パターンの形成方法、電子部品の製造方法および電子部品を図示の実施の形態により詳細に説明する。なお、図面は一部模式的なものを含み、実際の寸法や比率を反映していない場合がある。
【0017】
以下では、電子部品として、インダクタ部品10について説明する。但し、電子部品は、他の部品、例えば、コンデンサ部品、LC複合部品等の種々の電子部品であってもよい。
【0018】
[第1実施形態]
(インダクタ部品)
図1は、インダクタ部品10を模式的に示す透視斜視図である。
図2は、インダクタ部品10を模式的に示す分解斜視図である。
図1では、素体4は、構造を容易に理解できるよう、透明に描かれているが、半透明や不透明であってもよい。
図1では、構造を容易に理解できるよう、コイル5の記載を省略している。
図2では、見易さを考慮して、外部電極の記載を省略している。
【0019】
図1および
図2に示すように、インダクタ部品10は、素体4と、素体4内に設けられたコイル5と、素体4に設けられた第1外部電極6aおよび第2外部電極6bと、を備える。
【0020】
素体4の形状は特に限定されず、この実施形態では略直方体状である。素体4の外面は、第1端面41と、第1端面41に対向する第2端面42と、第1端面41と第2端面42とを接続する第1側面43と、第1側面43に対向する第2側面44と、第1端面41と第2端面42と第1側面43と第2側面44とを接続する底面45と、底面45に対向し、第1端面41と第2端面42と第1側面43と第2側面44とに接続する天面46と、を有する。第1端面41から第2端面42に向かう方向をX方向とし、第1側面43から第2側面44に向かう方向をY方向とし、底面45から天面46に向かう方向をZ方向とする。本明細書において、Z方向を上側という場合がある。
【0021】
素体4は、複数の絶縁層40を積層して構成される。絶縁層40は、特許請求の範囲に記載の「絶縁シート」の焼結体の一例に相当する。絶縁シートの材料は、特に限定されず、例えば、硼珪酸ガラスを主成分とする材料や、フェライト、樹脂などの材料からなる。絶縁層40の積層方向は、Z方向に平行である。すなわち、絶縁層40は、XY平面に広がった層状である。「平行」とは、厳密な平行関係に限定されず、現実的なばらつきの範囲を考慮し、実質的な平行関係も含む。焼成等により、素体4における複数の絶縁層40同士の界面は、明確となっていない場合がある。
【0022】
コイル5は、軸AX方向に沿って積層された複数のコイル配線2と、軸AX方向に沿って延在して軸AX方向に隣り合うコイル配線2を接続する図示しないビア配線と、を有する。複数のコイル配線2は、それぞれが平面に沿って巻回され、軸AX方向に並んで配置され、電気的に直列に接続されながら螺旋を構成している。コイル配線2は、導電性の感光性ペースト(感光性導電ペースト)を用いて形成される。コイル配線2は、特許請求の範囲に記載の「内部配線」の一例に相当する。コイル配線2および「内部配線」は、特許請求の範囲に記載の「配線パターン」あるいは、硬化した導電性を有する「感光性ペースト」の焼結体の一例に相当する。
【0023】
コイル5は、軸AX方向から見て、矩形状に形成されているが、この形状に限定されない。コイル5の形状は、例えば、円形、楕円形、長方形、その他の多角形等であってもよい。また、コイル5は、軸AX方向がZ方向と平行であり、軸AX方向に沿って巻回されている。コイル5の軸AXは、コイル5の螺旋形状の中心軸を意味する。
【0024】
コイル5は、絶縁層40の積層方向に沿って、螺旋状に巻き回されている。コイル5の第1端5aは、素体4の第1端面41から露出して、第1外部電極6aに接続されている。コイル5の第2端5bは、素体4の第2端面42から露出して、第2外部電極6bに接続されている。
【0025】
コイル配線2は、軸AX方向に直交する絶縁層40の主面(XY平面)上に巻回されて形成される。コイル配線2の巻回数は、1周未満であるが、1周以上であってもよい。ビア配線は、絶縁層40のビアホール3内に設けられ、絶縁層40を厚み方向(Z方向)に貫通する。そして、積層方向に隣り合うコイル配線2は、ビア配線を介して、電気的に直列に接続される。
【0026】
隣り合うコイル配線2の間に位置する絶縁層40には、隣り合うコイル配線2が接続される位置にビアホール3が設けられている。ビアホール3は、絶縁層40を厚み方向(Z方向)に貫通する。
【0027】
第1外部電極6aおよび第2外部電極6bは、例えば、Ag、Cu、Auやこれらを主成分とする合金等の導電性材料から構成される。この実施形態では、第1外部電極6aは、素体4の第1端面41の全面と、第1側面43の第1端面41側の端部と、第2側面44の第1端面41側の端部と、底面45の第1端面41側の端部と、天面46の第1端面41側の端部と、に連続して設けられている。また、第2外部電極6bは、素体4の第2端面42の全面と、第1側面43の第2端面42側の端部と、第2側面44の第2端面42側の端部と、底面45の第2端面42側の端部と、天面46の第2端面42側の端部と、に連続して設けられている。要するに、第1外部電極6aおよび第2外部電極6bの各々は、5面電極である。しかしこれに限定されず、第1外部電極6aは、例えば、第1端面41の一部と底面45の一部とに連続して設けられたL字電極であってもよい。同様に、第2外部電極6bは、例えば、第2端面42の一部と底面45の一部とに連続して設けられたL字電極であってもよい。
【0028】
上記のように、高精度の内部配線を有するインダクタ部品10が得られる。
【0029】
<感光性ペースト>
次に、コイル5の形成に用いられる感光性ペーストの詳細構成について説明する。
【0030】
本開示に係る感光性ペーストは、無機粉末と、ジフェニルスルフィド基(-Ph-S-Ph-基)を有するオキシムエステル系開始剤と、光重合性モノマーと、アルカリ可溶性ポリマーと、を含む。なお、Phはフェニル基を意味する。本開示に係る感光性ペーストは、活性エネルギー線によって重合する光重合性モノマーを含む、ネガ型である。以下、感光性ペーストから無機粉末を除いた成分を、感光性樹脂組成物と称する場合がある。光重合性モノマーと、アルカリ可溶性ポリマーと、ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤と、を含む組成物を、第1組成物と称する場合がある。
【0031】
(無機粉末)
無機粉末は、導電性粉末を有する。なお、無機粉末は、非導電性であってもよく、例えば、ガラス粉末、セラミックス粉末であってもよい。
【0032】
無機粉末としては、例えば、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、鉛(Pd)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0033】
金属粉末は、好ましくはAgを有する。
【0034】
好ましくは、AgのD50は、5.0μm以下である。上記構成を有することにより、感光性ペーストを塗布したときに、Agを充填しやすくなり、Agの密度を大きくできる。その結果、感光性ペーストから形成されるコイル配線層2の抵抗値を下げることができる。AgのD50の下限値は特に限定されないが、例えば、0.4μmである。なお、AgのD50は、4.0μm以下であってもよい。
【0035】
なお、D50とは、体積基準の中央値であり、粒子径分布測定装置(例えば、ベル・マイクロトラック社製、MT3300-EX)を用いて、レーザ回折・散乱法で得られた0.02μm以上1,400μm以下の範囲の粒子径分布から得られる。
【0036】
無機粉末の含有量は、第1組成物に対し、170質量%以上であってよく、300質量%以上であってよい。無機粉末の含有量は、第1組成物に対し、1700質量%以下であってよく、1000質量%以下であってよい。一態様において、無機粉末の含有量は、第1組成物に対し、170質量%以上1700質量%以下であってもよく、300質量%以上1000質量%以下であってもよい。
【0037】
一態様において、無機粉末の含有量は、感光性ペーストに対し、50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよい。無機粉末の含有量は、感光性ペーストに対し、95質量%以下であってよく、90質量%以下であってよい。一態様において、無機粉末の含有量は、感光性ペーストに対し、50質量%以上95質量%以下であってもよく、60質量%以上90質量%以下であってもよい。
【0038】
<第1組成物>
(ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤)
オキシムエステル系開始剤を用いることにより、紫外線等の活性エネルギー線の照射方向へ活性エネルギー線が広がる。これにより、感光性ペーストの硬化力を高めることができる。さらに、感光性ペーストを絶縁層に塗布して形成された感光性ペースト膜において、感光性ペースト膜側から活性エネルギー線を絶縁層に垂直に照射した場合に、照射方向に対し垂直方向への活性エネルギー線の広がりを低減できる。これは、オキシムエステル系開始剤がジフェニルスルフィド基を有することにより、照射方向に垂直な方向への活性エネルギー線の透過率を下げつつ、照射方向への活性エネルギー線の透過率を上げることができるためと考えられる。これにより、感光性ペーストの硬化部分において、活性エネルギー線の照射方向への硬化部分の厚みを確保でき、かつ、活性エネルギー線の照射方向に垂直な方向への硬化部分の幅の広がりを低下できる。言い換えると、ジフェニルスルフィド基は、光退色性を増大させる基であると考えられる。光退色性を有することにより、活性エネルギー線の照射方向の吸光率を下げつつ、照射方向に直交する方向への吸光率を大きくできる。即ち、ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤を用いると、活性エネルギー線が照射方向には透過し、照射方向に直交する方向へは透過しないように制御できる。
【0039】
ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤は、=N-O-CO-R1基を有する。ここで、R1は、炭素数1以上3以下のアルキル基である。上記構成を有することにより、=N-O-CO-R1基は、N原子とO原子との間で結合が切断され、その後、-O-CO-R1基から二酸化炭素(CO2)が脱離する。これにより、移動度の高いラジカルR1・を生じさせることができる。
【0040】
ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤は、式(1)で表される。
【0041】
【0042】
式(1)において、R1は、炭素原子数1以上3以下のアルキル基である。R2は、1価の有機基である。R3は、それぞれ独立して、1価の有機基である。Xは、それぞれ独立して、2価の有機基である。mは、1以上5以下の整数である。nは、0以上5以下の整数である。なお、本明細書において、有機基とは、炭素原子を含有する基を意味する。有機基は、特に限定されないが、その末端または分子鎖中に、1つ以上の窒素原子、酸素原子を含んでいてもよい。1価の有機基とは、例えば、炭素原子を含有する1価の基を意味する。2価の有機基は、例えば、炭化水素基からさらに1個の水素原子を脱離させた2価の基やカルボニル基(-CO-基)が挙げられる。「炭化水素基」とは、炭素及び水素を含む基であって、分子から1個の水素原子を脱離させた基を意味する。
【0043】
R1は、好ましくは、メチル基である。
【0044】
R2は、好ましくは、炭素原子数1以上10以下のアルキル基、または、水素原子の少なくとも1つが置換されていてもよいフェニル基であり、より好ましくは、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、o-トリル基、m-トリル基、またはp-トリル基であり、例えば、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、または、o-トリル基である。なお、アルキル基は、直鎖であってもよいし、分岐鎖を有していてもよい。
【0045】
R3は、好ましくは、それぞれ独立して、-NO2、-O-R31、または、-CO-R32である。
【0046】
R31は、1価の有機基であり、好ましくは-Cn1H2n1+1、または、-Cn1H2n1-OHであり、例えば、-Cn1H2n1-OHである。式中、n1は、それぞれ独立して、1以上6以下の整数であり、例えば、2または3、具体的には2である。
【0047】
R32は、1価の有機基であり、好ましくは、芳香族基である。芳香族基の環構造は、炭素原子以外の原子、例えば、酸素原子、硫黄原子を含んでいてもよい。芳香族基の環構造は、1以上の置換基により置換されていてもよい。芳香族基の例は、以下のとおりである。*は結合箇所を示す。
【0048】
【0049】
Xは、好ましくは、単結合、または、-CO-である。
【0050】
mは、好ましくは、1である。
【0051】
nは、好ましくは、1である。
【0052】
ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤は、好ましくは、以下の式で表される。各符号は、上記のとおりである。
【0053】
【0054】
ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤の例は、以下のとおりである。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
好ましくは、R1は、メチル基であり、R2は、メチル基であり、R3は、-O-CH2CH2-OHであり、Xは、-CO-であり、mは、1であり、nは、1である。即ち、好ましくは、ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤は、以下のように表される化合物である。
【0061】
【0062】
ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤の含有量は、感光性樹脂組成物に対し、1質量%以上であってよく、2質量%以上であってよい。ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤の含有量は、感光性樹脂組成物に対し、10質量%以下であってよく、5質量%以下であってよい。一態様において、ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤の含有量は、感光性樹脂組成物に対し、1質量%以上10質量%以下であり、2質量%以上5質量%以下であってもよい。
【0063】
ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤の含有量は、第1組成物に対し、1質量%以上であってよく、3質量%以上であってよい。ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤の含有量は、第1組成物に対し、10質量%以下であってよく、15質量%以下であってよい。一態様において、ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤の含有量は、第1組成物に対し、1質量%以上15質量%以下であってもよく、3質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0064】
ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤の含有量は、光重合性モノマーに対し、5質量%以上であってよく、10質量%以上であってよい。ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤の含有量は、光重合性モノマーに対し、30質量%以下であってよく、40質量%以下であってよい。一態様において、ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤の含有量は、光重合性モノマーに対し、5質量%以上40質量%以下であってもよく、10質量%以上30質量%以下であってもよい。
【0065】
ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤の含有量が少なすぎると、ラジカルの発生が少なくなり、光重合性モノマーの反応が進行しにくくなる。また、活性エネルギー線の照射方向への厚みが小さくなることがある。上記含有量が多すぎると、光重合性モノマーの反応が進行しやすくなり、反応の制御が困難になる。
【0066】
なお、開始剤は、ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤のみであってもよく、ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤と、ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤以外の光重合開始剤と、であってもよい。
【0067】
(光重合性モノマー)
光重合性モノマーは、光重合開始剤と反応してモノマーラジカルを生成する。モノマーラジカルは重合して、ポリマーを生成する。
【0068】
光重合性モノマーは、ラジカル反応する反応基を少なくとも1つ有している限り限定されない。ラジカル反応基としては、例えば、アクリルアミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、ビニル基、スチリル基およびメルカプト基よりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。光重合性モノマーは、ラジカル反応基として、少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有していてよい。「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基を表わす。
【0069】
(メタ)アクリロイル基を有する光重合性モノマーとしては、ステアリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェノール(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレートモノマー;トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレートモノマー;グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールトリ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能(メタ)アクリレートモノマー;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の4官能(メタ)アクリレートモノマー;ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート等の5官能(メタ)アクリレートモノマー;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の6官能(メタ)アクリレートモノマー;トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート等の7官能以上の(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
【0070】
光重合性モノマーの含有量は、感光性樹脂組成物に対し、5質量%以上であってよく、10質量%以上であってよい。光重合性モノマーの含有量は、感光性樹脂組成物に対し、35質量%以下であってよく、25質量%以下であってよい。一態様において、光重合性モノマーの含有量は、感光性樹脂組成物に対し、5質量%以上35質量%以下であってもよく、10質量%以上25質量%以下であってもよい。
【0071】
光重合性モノマーの含有量は、第1組成物に対し、10質量%以上であってよく、20質量%以上であってよい。光重合性モノマーの含有量は、第1組成物に対し、40質量%以下であってよく、50質量%以下であってよい。一態様において、光重合性モノマーの含有量は、第1組成物に対し、10質量%以上50質量%以下であってもよく、20質量%以上40質量%以下であってもよい。
【0072】
光重合性モノマーの含有量が少なくなりすぎると、光重合性モノマーの反応が進行しにくくなる。また、活性エネルギー線の照射方向への厚みが小さくなることがある。光重合性モノマーの含有量が多すぎると、ラジカル反応が進行しやすくなり、反応の制御が困難になる。
【0073】
(アルカリ可溶性ポリマー)
活性エネルギー線によって光重合性モノマーが重合する場合、その近傍に存在しているアルカリ可溶性ポリマーは、光重合性モノマーの重合物と共に膜を形成し、配線パターンの一部を形成する。これにより、配線パターンの絶縁シートに対する密着性が向上し得る。一方で、アルカリ可溶性ポリマーは、塩基性化合物で中和されて、可溶化するポリマーである。アルカリ可溶性ポリマーは、例えば、塩基性の薬剤を用いた現像処理の際に、未硬化の光重合性モノマーおよび無機粉末等とともに除去される。
【0074】
アルカリ可溶性ポリマーは、側鎖に少なくとも1つの酸基を有する。酸基として、典型的にはカルボキシ基が挙げられる。アルカリ可溶性ポリマーは、主鎖として、例えば、炭素-炭素結合、エーテル結合、ウレア結合、エステル結合、ウレタン結合の少なくとも1つを有するポリマー鎖を含む。透明性の観点から、アルカリ可溶性ポリマーの主鎖は、炭素-炭素結合を有するポリマー鎖を含んでいてよい。
【0075】
側鎖に少なくとも1つのカルボキシ基を有し、主鎖として炭素-炭素結合を有するポリマー鎖を含むアルカリ可溶性ポリマーは、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸とエチレン性不飽和化合物との共重合により得られる。アルカリ可溶性ポリマーとして、典型的には、カルボキシ基含有アクリル系重合体が挙げられる。
【0076】
エチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ビニル酢酸、およびこれらの二量体や無水物が挙げられる。
【0077】
エチレン性不飽和化合物としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸イソボロニル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸イソボロニル等のメタクリル酸エステル;フマル酸モノエチル等のフマル酸エステル;スチレンが挙げられる。
【0078】
アルカリ可溶性ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、10,000以上50,000以下であってよい。アルカリ可溶性ポリマーの酸価は、30以上150以下であってよい。
【0079】
アルカリ可溶性ポリマーの含有量は、感光性樹脂組成物に対し、0.5質量%以上であってよく、2質量%以上であってよい。アルカリ可溶性ポリマーの含有量は、感光性樹脂組成物に対し、50質量%以下であってよく、40質量%以下であってよい。一態様において、アルカリ可溶性ポリマーの含有量は、感光性樹脂組成物に対し、0.5質量%以上50質量%以下であってもよく、2質量%以上40質量%以下であってもよい。
【0080】
アルカリ可溶性ポリマーの含有量は、第1組成物に対し、40質量%以上であってよく、50質量%以上であってよい。アルカリ可溶性ポリマーの含有量は、第1組成物に対し、80質量%以下であってよく、70質量%以下であってよい。一態様において、アルカリ可溶性ポリマーの含有量は、第1組成物に対し、40質量%以上80質量%以下であってもよく、50質量%以上70質量%以下であってもよい。
【0081】
<第2組成物>
溶剤およびその他の添加剤を第2組成物と称することがある。
【0082】
(溶剤)
本開示に係る感光性ペーストは、溶剤を含んでよい。溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコール系有機溶剤が挙げられる。溶剤を含むことにより、感光性ペーストの取り扱いが容易になる。
【0083】
溶剤の含有量は、無機粉末と第1組成物との合計量に対し、3質量%以上であってよく、6質量%以上であってよい。溶剤の含有量は、無機粉末と第1組成物との合計量に対し、20質量%以下であってよく、15質量%以下であってよい。一態様において、溶剤の含有量は、無機粉末と第1組成物との合計量に対し、3質量%以上20質量%以下であってもよく、6質量%以上15質量%以下であってもよい。
【0084】
(その他の添加剤)
本開示に係る感光性ペーストは、種々の添加剤を含んでよい。添加剤としては、例えば、金属レジネート、ラジカル捕捉剤、増感剤、消泡剤、分散剤、沈降防止剤が挙げられる。
【0085】
本開示の感光性ペーストは、活性エネルギー線を照射した際の厚みD(μm)と幅L(μm)との比D/Lは0.6以上であるという特性を有する。比D/Lが高い値であることにより、厚みが大きく幅の小さな配線パターンも形成できる。このような配線パターンを用いると超小型のインダクタ部品を製造でき、微細化等に好適に用いることができる。ここで、幅Lは、本開示の感光性ペーストより形成された感光性ペースト膜21A上にフォトマスク50を設け、活性エネルギー線を照射して現像した際の、前記フォトマスク50の開口部50aの幅と感光性ペースト膜21Aの硬化部分21Bの幅との間の差異である。厚みDは、第1面および前記第1面と反対側の第2面を有する透光性を有する基板の第1面上に、本開示の感光性ペーストを塗布して乾燥することにより形成された感光性ペースト膜に対して、前記透光性を有する基板の第1面の法線方向から活性エネルギー線を照射したのち現像して形成された前記感光性ペースト膜の硬化部分の厚みである。
【0086】
特に、超小型のインダクタ部品、例えば、インダクタ部品10の幅、高さ、長さの少なくとも1つの長さが300μm以下のインダクタ部品では、配線の微細化、高アスペクト比の配線の形成、配線パターンと配線パターンとの間の残渣発生の低減という課題がある。発明者は、感光性ポリマーの比D/Lが0.6以上であるという特性を有することにより、上記課題を解決できることを初めて見出した。本発明の感光性ポリマーは、ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤を有し、この開始剤を有することにより、劇的に上記課題を解決できる。発明者は、ジフェニルスルフィド基が光退色性を増大させる基であり、活性エネルギー線の照射方向に直交する方向における散乱光が生じにくくなると考えている。即ち、発明者は、ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤を用いることにより、オキシムエステル基により、照射方向の活性エネルギー線の吸光率を低下でき(即ち、透過率を大きくでき)、かつ、ジフェニルスルフィド基により照射方向に直交する方向における活性エネルギー線の吸光率を大きくできる(即ち、透過率を小さくできる)と考えている。
【0087】
幅Lについて具体的に記載する。
図3Aに示すように、具体的には、第1面40aと第1面40aの反対側の第2面40bとを有するアルミナ基板等の絶縁層40Aにおいて、第1面40a上に、感光性ペーストを塗布する。その後、感光性ペーストを乾燥させ、感光性ペースト膜21Aを設ける。感光性ペースト膜21Aの絶縁層40Aと反対側の面に開口部50aを有するフォトマスク50を設ける。フォトマスク50の感光性ペースト膜21Aと反対側の面に直交するように、活性エネルギー線Q1を照射する。その後、溶剤を用いて、感光性ペースト膜21Aの未硬化部分を除去し、
図3Bに示すように、硬化部分21Bを得る。感光性ペースト膜21Aの延在方向に直交する断面において、硬化部分21Bの幅をL1μm、開口部50aの幅をL2μmとし、幅Lは、L1とL2との差異である。即ち、幅Lは、硬化部分として予定していた幅L2μmに対して、線太りした幅である。なお、L1は感光性ペースト膜21Aの延在方向に直交する断面における、硬化部分21Bの幅の最大値である。
【0088】
厚みDについて具体的に記載する。具体的には、基板(例えば、ガラス、シリコン、石英、アルミナなど)の第1面上に、本開示の感光性ペーストを塗布する。感光性ペーストを乾燥させ、厚みD1の感光性ペースト膜を設ける。厚みD1は、例えば、40μmである。第1面の法線方向から活性エネルギー線を照射する。その後、現像液を用いて、感光性ペーストの未硬化部分を除去し、厚みDの硬化部分を得る。厚みDは、硬化力を表すものであり、厚みDが大きいほど硬化力は大きい。
【0089】
(配線パターンの形成方法)
次に、配線パターンの形成方法を説明する。
配線パターンは、上記の感光性ペーストを絶縁シート上に塗布して、感光性ペースト膜を形成する工程と、感光性ペースト膜の一部に活性エネルギー線を照射する工程と、感光性ペースト膜の未硬化部分を除去して配線パターンを形成する工程と、を備える方法により形成される。
【0090】
(1)絶縁シートの作製
まず、絶縁シートを準備する。絶縁シートは、例えば以下のようにして作製される。絶縁性のペースト(以下、絶縁ペーストと称する。)をポリエチレンテレフタレートフィルム等の支持フィルム上の全面にスクリーン印刷し、乾燥する。必要に応じて、この印刷および乾燥のサイクルを数回繰り返す。このようにして、所定の厚み(例えば、約100μm)を有する絶縁シートが得られる。
【0091】
絶縁ペーストは、通常、絶縁性の無機粉末を含有する。絶縁性の無機粉末として、典型的には、ガラス粉末やセラミックス粉末が挙げられる。絶縁ペーストに含有されるガラス粉末は、SiO2、K2OおよびB2O3を所定の割合で含む、SiO2-K2O-B2O3系ガラスであってよい。2種以上のガラス粉末が用いられてもよい。ガラス粉末の平均粒径は特に限定されず、例えば、0.5μm以上4.0μm以下である。
【0092】
絶縁ペーストに含有されるセラミック粉末は、金属酸化物であってよく、酸化アルミニウムであってよい。2種以上のセラミックス粉末が用いられてもよい。セラミックス粉末の平均粒径は特に限定されず、例えば、0.1μm以上5.0μm以下であってよい。
【0093】
絶縁シートは、予めシート状に成形されたグリーンシートを積層することによって作製されてもよい。
【0094】
(2)感光性ペースト膜の形成
絶縁シート上に、本開示の感光性ペーストをスクリーン印刷し、乾燥する。これにより、感光性ペースト膜が得られる。感光性ペースト膜の厚みは特に限定されず、例えば、5μm以上10μm以下であってよい。
【0095】
(3)活性エネルギー線の照射
感光性ペースト膜上に、フォトマスクを設ける。フォトマスクの感光性ペースト膜と反対側の面に直交するように、活性エネルギー線を照射する。フォトマスクによって、活性エネルギー線が部分的に遮断される。活性エネルギー線としては、例えば、可視光、紫外線、赤外線、X線、α線、β線、γ線、電子線が挙げられる。なかでも、活性エネルギー線は、紫外線であってよく、350nmから420nmの間にピーク波長を有する紫外線であってよい。
【0096】
活性エネルギー線の積算光量は、光重合性モノマーの種類や量、ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤の量、感光性ペースト膜の厚み等に応じて適宜設定される。活性エネルギー線の積算光量は、例えば、100mJ/cm2以上2000mJ/cm2以下であってよい。
【0097】
(4)感光性ペースト膜の未硬化の部分の除去
最後に、感光性ペースト膜の未硬化の部分を、例えば、塩基性化合物を含む溶液を用いて除去する。これにより、硬化した感光性ペーストからなる配線パターンが形成される。上記構成を有することにより、所望の形状を有する配線パターンを形成することができる。また、上記配線パターンは、解像性に優れる。
【0098】
(インダクタ部品の製造方法)
次に、インダクタ部品10の製造方法を説明する。
インダクタ部品10は、上記の感光性ペーストを絶縁シート上に塗布して、感光性ペースト膜を形成する工程と、感光性ペースト膜の一部に活性エネルギー線を照射する工程と、感光性ペースト膜の未硬化の部分を除去して、配線パターンを形成する工程と、配線パターン上に絶縁シートを積層する工程と、配線パターンおよび絶縁シートを焼成して、複数の絶縁シートの焼結体としての複数の絶縁層40、および、配線パターン(硬化した感光性ペースト)の焼結体としてのコイル配線2を得る工程と、を備える方法により製造される。
【0099】
配線パターンの形成までの工程は、上記した(1)絶縁シートの作製、(2)感光性ペースト膜の形成、(3)活性エネルギー線の照射、および(4)感光性ペースト膜の未硬化の部分の除去と同様にして行われる。インダクタ部品10の製造方法において、この配線パターンを形成するまでの一連の工程(1)~(4)は、複数サイクル行われる。
【0100】
2サイクル目において、支持フィルム上ではなく、1サイクル目で形成された配線パターン上に、上記のようにして(1)絶縁シートの作製が行われる。これにより2層目の絶縁シートが積層される。この2層目の絶縁シートの所定の箇所に、レーザ光照射によりビアホール3が形成される。
【0101】
次いで、再び、(2)感光性ペースト膜の形成、(3)活性エネルギー線の照射、および(4)感光性ペースト膜の未硬化の部分の除去が行われて、2層目の配線パターンが形成される。
【0102】
(1)絶縁シートの作製、ビアホール3の形成、(2)感光性ペースト膜の形成、(3)活性エネルギー線の照射、および(4)感光性ペースト膜の未硬化の部分の除去は、所望の層数が得られるまで繰り返される。
【0103】
最後に、(1)絶縁シートの作製が必要回数繰り返されて、最上層の配線パターン上に絶縁シートが形成される。これにより、複数層の絶縁シートと配線パターンとを備え、配線パターン同士がビアホール3を介してビア配線により層間接続された、積層構造体が得られる。
【0104】
得られた積層構造体は、ダイサーによりチップ形状に分割される。その後、1層目の絶縁シートの作製に用いられた支持フィルムが剥離される。
【0105】
(5)焼成
続いて、チップ状の積層構造体を焼成する。この焼成により、複数の配線パターンが焼結されて、複数のコイル配線2が形成され、同時にこれら複数のコイル配線2が電気的に接続されたコイル5が形成される。また、複数の絶縁シートが焼結されて、複数の絶縁層40を含む素体4が形成される。焼成温度は特に限定されず、使用する材料の種類等を考慮して、適宜設定すればよい。上記構成を有することにより、高精度の内部配線を有するインダクタ部品を得ることができる。
【0106】
焼成後、素体4の外部に第1外部電極6aおよび第2外部電極6bを形成する。以上により、
図1に示すインダクタ部品10が得られる。
【0107】
さらに、電解めっき法や無電解めっき法等によって、第1外部電極6aおよび第2外部電極6bの外面に単層あるいは積層構造を有するめっき層を設けてもよい。
【0108】
なお、感光性ペーストにおける無機粉末と、光重合性モノマーと、アルカリ可溶性ポリマーと、ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤と、硬化部分における無機粉末と、光重合性モノマーと、アルカリ可溶性ポリマーと、ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤との組成比は同じである。
【0109】
なお、本開示は上述の実施形態に限定されず、本開示の要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。
【実施例0110】
本発明について、以下の実施例を通じてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0111】
(実施例1)
以下の無機粉末と感光性樹脂組成物とを3本ロールで十分に混合し、感光性ペーストを形成した。
・無機粉末:Ag粉末(D50:4μm)、75質量部
・第1樹脂組成物および第2組成物:25質量部
【0112】
【0113】
【0114】
(比較例1)
ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤の代わりに、以下の化合物2を用いた以外は、実施例1と同様に行い、感光性ペーストを形成した。
(化合物2)
【0115】
【0116】
(比較例2)
ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤の代わりに、以下の化合物3を用いた以外は、実施例1と同様に行い、感光性ペーストを形成した。
(化合物3)
【0117】
【0118】
(幅Lの測定)
感光性ペーストを絶縁層である厚さ1mmのアルミナ基板である絶縁層40A上にスクリーン印刷した。その後、60℃で30分間乾燥して、膜厚8μmの感光性ペースト膜21Aを形成した。感光性ペースト膜21A上に、フォトマスク50を設けた。フォトマスク50は、幅15μmの直線状開口50aを有し、直線状開口部50a同士の間隔は45μmであった。フォトマスク50の、感光性ペースト膜21Aと反対側の面に直交するように、活性エネルギー線Q1(波長365~405nm、光源:ウシオ電機社製の超高圧水銀灯)を、積算光量250mJ/cm2の条件で照射した。最後に、トリエタノールアミン水溶液を用いて感光性ペースト膜21Aの未硬化の部分を除去し、硬化部分21Bを得た。硬化部分21Bの幅をL1μm、開口部50aの幅15μmをL2μmとし、L1とL2との差異である幅Lを求めた。
【0119】
(厚みDの測定)
感光性ペーストを絶縁層である厚さ1mmの石英基板である透光性を有する絶縁層の第1面上にスクリーン印刷した。その後、60℃で30分間乾燥して、厚みD1が30μmの感光性ペースト膜を形成した。感光性ペースト膜の形成後、絶縁層の第1面の法線方向から活性エネルギー線(波長365~405nm、光源:ウシオ電機社製の超高圧水銀灯)を、積算光量250mJ/cm2の条件で照射した。最後に、トリエタノールアミン水溶液を用いて感光性ペースト膜の未硬化部分を除去し、感光性ペースト膜の硬化部分を得た。この硬化部分の厚みDをOptelics(レーザーテック社製)で測定した。
【0120】
上記厚みDμmおよび幅Lμmから、比D/Lを求めた。結果を表2に示す。
【0121】
【0122】
表2に示すように、実施例1ではジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤を用いており、得られた比D/Lは0.6以上となった。これに対し、比較例1ではカルバゾール基を有しており、得られた比D/Lは0.25となった。比較例2ではカルバゾール基を有しており、得られた比D/Lは0.44となった。即ち、ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤を用いると、活性エネルギー線の照射方向に垂直な方向への活性エネルギー線の広がりを低減でき、さらに、活性エネルギー線の照射方向への活性エネルギー線の広がりの大きいラジカルを形成できた。
【0123】
本開示は、下記の態様を含む。
<1>
無機粉末と、
光重合性モノマーと、
アルカリ可溶性ポリマーと、
ジフェニルスルフィド基を有するオキシムエステル系開始剤と、
を含む感光性ペースト。
<2>
前記無機粉末は、導電性粉末を有する、<1>に記載の感光性ペースト。
<3>
前記無機粉末は、Agを有する、<1>または<2>に記載の感光性ペースト。
<4>
前記AgのD50は、5.0μm以下である、<3>に記載の感光性ペースト。
<5>
前記オキシムエステル系開始剤は、=N-O-CO-R1基を有し、
R1は、炭素数1以上3以下のアルキル基である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の感光性ペースト。
<6>
前記オキシムエステル系開始剤は、式(1):
【0124】
【化13】
で表される、<1>から<5>のいずれか1つに記載の感光性ペースト。
[式中:
R
1は、炭素原子数1以上3以下のアルキル基であり;
R
2は、1価の有機基であり;
R
3は、それぞれ独立して、1価の有機基であり;
Xは、それぞれ独立して、2価の有機基であり;
mは、1以上5以下の整数であり;
nは、0以上5以下の整数である。]
<7>
R
1は、メチル基であり、
R
2は、メチル基であり、
R
3は、-O-CH
2CH
2-OHであり、
Xは、-CO-であり、
mは、1であり、
nは、1である、<6>に記載の感光性ペースト。
<8>
活性エネルギー線を照射した際の厚みDμmと幅Lμmとの比D/Lは0.6以上であるという特性を有し、
前記幅Lは、<1>に記載の感光性ペーストより形成された感光性ペースト膜上にフォトマスクを設け、前記活性エネルギー線を照射して現像した際の、前記フォトマスクの開口部の幅と前記感光性ペースト膜の硬化部分の幅との間の差異であり、
前記厚みDは、第1面および前記第1面と反対側の第2面を有する透光性を有する基板の前記第1面上に、請求項1に記載の感光性ペーストを塗布して乾燥することにより形成された感光性ペースト膜に対して、前記透光性を有する基板の前記第1面の法線方向から活性エネルギー線を照射したのち現像して形成された前記感光性ペースト膜の硬化部分の厚みである、<1>から<8>のいずれか1つに記載の感光性ペースト。
<9>
さらに有機溶剤を有する、<1>から<8>のいずれか1つに記載の感光性ペースト。
<10>
<2>~<9>のいずれか1つに記載の感光性ペーストを絶縁シート上に塗布して、感光性ペースト膜を形成する工程と、
前記感光性ペースト膜の一部に活性エネルギー線を照射する工程と、
前記感光性ペースト膜の未硬化の部分を除去して配線パターンを形成する工程と、を備える、配線パターンの形成方法。
<11>
<2>~<9>のいずれか1つに記載の感光性ペーストを絶縁シート上に塗布して、感光性ペースト膜を形成する工程と、
前記感光性ペースト膜の一部に活性エネルギー線を照射する工程と、
前記感光性ペースト膜の未硬化の部分を除去して、配線パターンを形成する工程と、
前記配線パターン上に絶縁シートを積層する工程と、
前記配線パターンおよび前記絶縁シートを焼成して、複数の前記絶縁シートの焼結体としての複数の絶縁層、および、前記配線パターンの焼結体としての内部配線を得る工程と、を備える、電子部品の製造方法。
<12>
複数の絶縁層を含む素体と、
前記素体の内部に設けられ、硬化した<2>~<9>のいずれか1つに記載の感光性ペーストの焼結体としての内部配線と、を備える、電子部品。