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  • 特開-リンクプレート及びチェーン 図1
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  • 特開-リンクプレート及びチェーン 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123980
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】リンクプレート及びチェーン
(51)【国際特許分類】
   F16G 13/06 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
F16G13/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031838
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100138254
【弁理士】
【氏名又は名称】澤井 容子
(72)【発明者】
【氏名】中尾 太輔
(72)【発明者】
【氏名】小山 雅博
(72)【発明者】
【氏名】宮永 正太
(57)【要約】
【課題】汎用性が高く製造か容易であり、リンクプレートが僅かに傾いた場合でも、案内部材に対する面圧の上昇を緩和して摩耗痕や摩耗粉による悪影響を抑制することが可能なリンクプレート及びチェーンを提供すること。
【解決手段】リンクプレート101の摺動端面120は、板厚方向の両端に両側面に連続するように形成された端面R部121を有し、端面R部121の最小曲率半径をr、リンクプレートの板厚tとすると、16.8≧((r*2/t)+(t-r*2))/r≧11.5の関係となるよう形成されてなること。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結ピンによって屈曲可能に連結されてチェーンを構成し、上下方向の少なくとも一方に案内部材と摺接可能な摺動端面を有するリンクプレートであって、
前記摺動端面は、前記リンクプレートの板厚方向の両端に、両側面に連続するように形成された端面R部を有し、
前記端面R部の最小曲率半径をr、
前記リンクプレートの板厚tとすると、
16.8≧((r*2/t)+(t-r*2))/r≧11.5
の関係となるよう形成されてなることを特徴とするリンクプレート。
【請求項2】
前記リンクプレートの板厚tが、
1.65mm≧t≧0.80mm
であることを特徴とする請求項1に記載のリンクプレート。
【請求項3】
前記摺動端面は、側面から見てチェーンの走行方向に凸R形状であることを特徴とする請求項1に記載のリンクプレート。
【請求項4】
複数の内リンクプレートと外リンクプレートが連結ピンによって屈曲可能に連結されてなるチェーンであって、
前記内リンクプレートが、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のリンクプレートからなることを特徴とするチェーン。
【請求項5】
複数のリンクプレートが連結ピンによって屈曲可能に連結されてなるチェーンであって、
幅方向に4枚を超えない範囲で請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のリンクプレートを含むことを特徴とするチェーン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結ピンによって屈曲可能に連結されてチェーンを構成し、上下方向の少なくとも一方にチェーンガイドと摺接可能な摺動端面を有するリンクプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、産業用機械等の動力伝達機構に用いられるローラチェーン、ブシュチェーン、サイレントチェーン等で、前後に連結孔を備え、案内部材との摺動端面とを有したリンクプレートは周知である。
一般的なチェーンでは、摺動端面を有する側のチェーンの走行方向における前後の連結孔の中心を結ぶ範囲(チェーンピッチ区間)の案内側端面は、全体が平坦面で形成されているため、摺接する案内部材が平坦面、あるいは、大きな曲率半径を有する場合、面圧は低くなるものの摩擦抵抗は大きくなる。
これに対し、案内側端面に凹状の湾曲部を設けたり、左右非対称等の異形状とし、潤滑油をコントロールすることで、摩擦抵抗の低減を図るものが公知である(例えば、特許文献1-4等参照。)。
また、案内側端面を、側面から見てチェーンの走行方向に凸R形状として、摩擦抵抗の低減を図りつつ、連結孔の周囲のプレート強度を確保する形状とすることで、引張りに対する強度を担保したものも公知である(例えば、特許文献5等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-019749号公報
【特許文献2】特開平11-236949号公報
【特許文献3】特開2010-249240号公報
【特許文献4】特開2011-231822号公報
【特許文献5】特開2012-255523号公報
【特許文献6】特開2020-200863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1-4等で公知のリンクプレートは、面圧や摩擦抵抗を最適化することは可能ではあるが、潤滑油の粘度、温度、案内部材の表面状態による変化が大きいため、使用環境に応じて異なる設計とする必要があり、また、設計通りに精度良く作製する必要があるため、汎用性が低く、製造コストが高くなるという問題があった。
特許文献5で公知のリンクプレートは、摩擦抵抗の低減効果は高いものの、案内部材に対する面圧が上昇し、摩耗痕や摩耗粉による悪影響を排除するために別途対策が必要であった。
また、連結孔の周囲のプレート強度を向上するために、リンクプレートの最大高さを必要以上に大きくしなければならないという問題があった。
【0005】
これらの問題を解決するものとして、特許文献5で公知の出願人はリンクプレートを提案した。
しかしながら、これら公知のリンクプレートは、チェーンとして組み立てる際に円滑な屈曲を実現するために僅かなクリアランスをもって組付けられることから、振動等の影響でリンクプレートが僅かに傾くことがある。
その場合、摺動端面の板厚方向の両端のみが強く当たることとなり案内部材に対する面圧が上昇し、摩耗痕や摩耗粉による悪影響が生じる虞があるが、公知のリンクプレートにおいては何ら対策はなされていなかった。
【0006】
本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、汎用性が高く製造が容易であり、経時的な案内部材の摩耗量を低減し、リンクプレートが僅かに傾いた場合でも、案内部材に対する面圧の上昇を緩和して摩耗痕や摩耗粉による悪影響を抑制することが可能なリンクプレート及びチェーンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るリンクプレートは、連結ピンによって屈曲可能に連結されてチェーンを構成し、上下方向の少なくとも一方にチェーンガイドと摺接可能な摺動端面を有するリンクプレートであって、前記摺動端面は、前記リンクプレートの板厚方向の両端に、両側面に連続するように形成された端面R部を有し、前記端面R部の最小曲率半径をr、前記リンクプレートの板厚tとすると、
16.8≧((r*2/t)+(t-r*2))/r≧11.5
の関係となるよう形成されてなることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0008】
本請求項1に係るリンクプレートによれば、端面R部の最小曲率半径をr、リンクプレートの板厚tとすると、
16.8≧((r*2/t)+(t-r*2))/r≧11.5
の関係となるよう形成されてなることにより、汎用性が高く製造が容易であり、経時的な案内部材の摩耗量を低減し、リンクプレートが僅かに傾いた場合でも、案内部材に対する面圧の上昇を緩和して摩耗痕や摩耗粉による悪影響を抑制することが可能となる。
((r*2/t)+(t-r*2))/rが11.5より小さい場合、両側方の端面R部の間隔が相対的に狭くなり、案内部材との接触面積が減少することで面圧が上昇し、経時的な案内部材の摩耗量が増大する虞がある。
また、((r*2/t)+(t-r*2))/rが16.8より大きい場合、両側方の端面R部の間隔が相対的に広くなり、案内部材との接触面積が増大することによる摺動抵抗の増加の虞がある。
また、端面R部の半径が相対的に小さくなり、傾いた際の面圧の上昇が大きく、摩耗痕や摩耗粉による悪影響を十分に抑制することができない虞がある。
【0009】
本請求項2に記載の構成によれば、効果的に経時的な案内部材の摩耗量を低減し、摩耗痕や摩耗粉による悪影響を抑制することができる。
tが1.65mmより大きい場合、振動等によるリンクプレートの傾きが小さく、案内部材に対する面圧の上昇の影響が小さい。
tが0.80mmより小さい場合、チェーン張力の小さなシステムで用いられるため、相対的に案内部材の耐摩耗性、耐衝撃性が保たれており、案内部材に対する面圧の上昇の影響が小さい。
本請求項3に記載の構成によれば、接触部への潤滑油の流入が促進されることで、経時的な案内部材の摩耗量をさらに低減し、摩耗痕や摩耗粉による悪影響をさらに抑制することができる。
【0010】
本請求項4に係るチェーンによれば、内リンクプレートのみ案内部材と接触する構成とすることで、端面R部を加工するリンクプレートの枚数を減らすことができ、よりチェーン全体の製造が容易となる。
本請求項5に係るチェーンによれば、幅方向に多数のリンクプレートが同時に案内部材と接する場合、全体の面圧が低くなることから、端面R部を加工するリンクプレートの枚数を減らすことができ、よりチェーン全体の製造が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態であるチェーンの一部の斜視図。
図2図1の内リンクプレートの側面図。
図3図1のチェーンの断面図。
図4】リンクプレートの傾きと面圧の関係を示す試験グラフ。
図5】リンクプレートの端面R部の最小曲率半径rと案内部材の摩耗量の関係を示す試験グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態であるリンクプレートをローラチェーンの内リンクプレート101として用いたチェーン100を図1に示す。
左右一対の内リンクプレート101と、この内リンクプレート101のブシュ孔に両端部を圧入嵌着する円筒状のブシュ103と、内リンクプレート101の両外側に配置する左右一対の外リンクプレート102と、ブシュ103に回転自在に嵌挿されて外リンクプレート102のピン孔に両端部を圧入嵌着する連結ピン104とを有し、内リンクプレート101と外リンクプレート102とを交互に連結ピン104でチェーン長手方向に多数連結して構成されている。
【0013】
内リンクプレート101は、図1、2、3に示すように、上下、左右対称の形状であり、上下に前後のブシュ孔111の中心を結ぶ直線と平行方向に延び案内部材と摺接可能な摺動端面120を有している。
摺動端面120は、内リンクプレート101の板厚方向の両端に、両側面に連続するように形成された端面R部121を有している。
また、本実施形態では、摺動端面120は、側面から見てチェーンの走行方向に凸R形状に構成されている。
【0014】
図3に示すように、端面R部121の最小曲率半径をr、内リンクプレートの板厚tとすると、
16.8≧((r*2/t)+(t-r*2))/r≧11.5
の関係となるよう形成されている。
【0015】
以上のように構成されたチェーン100の内リンクプレート101の端面R部121の最小曲率半径rの違いによる傾き角と面圧の関係の実験データを図4に示す。
なお、内リンクプレート101の板厚tは1.5mmとした。
図4からわかる通り、端面R部121の最小曲率半径rが0.05mmと小さいと、両側方の端面R部の間が広いことから、傾き角0°の時は面圧が低い状態であるが、傾き角が大きくなるに従い面圧が大きくなる。
また、端面R部121の最小曲率半径rが0.20mmと大きいと、両側方の端面R部の間が狭いことから、傾き角0°の時の面圧が大きくなり、傾き角が大きくなるに従い面圧の増加率は小さいものの、傾き角0°の面圧が大きいことから傾き角0。5°の時の面圧は、端面R部121の最小曲率半径rが0.05mmとほぼ変わらない。
これに対し、端面R部121の最小曲率半径rが0.1mm、((r*2/t)+(t-r*2))/r=13.89の場合、端面R部121の最小曲率半径rが0.05mmの場合とほぼ同等であり、面圧の増加率が傾き角0.2°より大きく傾いた際に低下する。
【0016】
また、チェーン100の内リンクプレート101の端面R部121の最小曲率半径rとチェーン100を長時間稼働した際の案内部材の摩耗量の関係の実験データを図5に示す。
端面R部121の最小曲率半径rが0.05mmと小さいと、傾斜時の面圧の高さによる摩耗が激しく、全体の摩耗量が多くなり、端面R部121の最小曲率半径rが0.20mmと大きいと、傾き角が小さき場合でも面圧が高いことにより長時間高い面圧が持続することによって全体の摩耗量が多くなると考えられる。
【0017】
これらの関係は、板厚tと端面R部121の最小曲率半径rの関係を規定することで最適化されると考えられるが、板厚tと端面R部の最小曲率半径rの影響による潤滑油の流動状態の変化も変動要素として加味する必要がある。
各種実験の結果、板厚tと端面R部の最小曲率半径rの関係として、両側方の端面R部の間の主要な接触部分の長さ(t-r*2)と端面R部の最小曲率半径rの比率、
(t-r*2))/r
が最適であり、さらに、板厚tと端面R部の最小曲率半径rの影響による潤滑油の流動状態の変化の補正項、
(r*2/t)/r
の値を加算したもの、
((r*2/t)+(t-r*2))/r
の値が、長時間稼働時の案内部材の摩耗と極めて相関が高いことを見出した。
そして、その数値範囲について、実験の結果、
16.8≧((r*2/t)+(t-r*2))/r≧11.5
が最適であるとの結論を見出した。
【0018】
なお、上述した実施形態では、内リンクプレート101に利用されるものとしたが、外リンクプレート102も同様の構成として案内部材に摺接させてもよい。
また、図2の側面視で、上下、左右対称な形状としたが、例えばサイレントチェーンのリンクプレートとして利用する場合等、一方のみに案内部材との摺動端面を有するように上下非対称としてもよい。
さらに、走行方向が特定される場合や、走行方向によって特性が異なるようにするため、チェーン走行方向で非対称としてもよい。
【符号の説明】
【0019】
100 ・・・ チェーン
101 ・・・ 内リンクプレート
102 ・・・ 外リンクプレート
103 ・・・ ブシュ
104 ・・・ 連結ピン
111 ・・・ ブシュ孔
120 ・・・ 摺動端面
121 ・・・ 端面R部
r ・・・ 端面R部121の最小曲率半径
t ・・・ リンクプレートの板厚

図1
図2
図3
図4
図5