(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123982
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】額当て部及び眼科装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/00 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
A61B3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031840
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 宙
(72)【発明者】
【氏名】鶴巻 猛
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕司
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AB19
4C316FC02
(57)【要約】
【課題】被検者が額当て部に対して額を適切位置に簡単に合わせることができる額当て部、及びこの額当て部を備える眼科装置を提供する。
【解決手段】眼科装置(細隙灯顕微鏡10)に設けられ、被検者Hの額が当てられる額当て部14cにおいて、額に当接する額当て面64と、額当て面64の左右方向(X方向)の両端側に接続して、額当て面64との間で額当て面64の両端側に左右のエッジ部70を形成する左右のエッジ形成面66と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科装置に設けられ、被検者の額が当てられる額当て部において、
前記額に当接する額当て面と、
前記額当て面の左右方向の両端側に接続して、前記額当て面との間で前記額当て面の前記両端側に左右のエッジ部を形成する左右のエッジ形成面と、
を備える額当て部。
【請求項2】
前記額当て面に対して前記額が適切位置にある適切状態では、左右の前記エッジ部が、前記エッジ部を形成する前記額当て面で前記額に当接し、
前記額当て面に対して前記額が前記適切状態から前記左右方向にずれている位置ずれ状態では、左右の前記エッジ部の一方が、前記適切状態よりもエッジを立てた状態で前記額に当接する請求項1に記載の額当て部。
【請求項3】
前記額当て面及び左右の前記エッジ形成面が形成されている額当て部本体を備える請求項1に記載の額当て部。
【請求項4】
前記額当て部本体が、
本体前面と、
前記本体前面の一部から前記本体前面の前方側に突出した突出部であって、上面と側面とを有する突出部と、
を備え、
前記額当て面が前記上面であり、左右の前記エッジ形成面が前記突出部の左右の前記側面である請求項3に記載の額当て部。
【請求項5】
前記額当て部本体が、本体前面と、前記本体前面の一部に凹設された凹設面とを備え、
前記額当て面が前記凹設面であり、
左右の前記エッジ形成面が、前記本体前面の中で前記額当て面の前記両端側の領域である請求項3に記載の額当て部。
【請求項6】
前記額当て面が凹曲面である請求項1から5のいずれか1項に記載の額当て部。
【請求項7】
前記額当て面が、前記額当て面を前記左右方向から見た側面視において、前記額当て面の前方側に前傾している請求項6に記載の額当て部。
【請求項8】
前記額当て面が鏡面仕上げ表面である請求項1から5のいずれか1項に記載の額当て部。
【請求項9】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の額当て部を備える眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の額を支持する額当て部、及びこの額当て部を備える眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科に設置される眼科装置として細隙灯顕微鏡(スリットランプ又はスリットランプマイクロスコープともいう)が知られている。この細隙灯顕微鏡は、細隙光(スリット光とみう)を用いて被検眼の注目部位の光切片を切り取ることによって注目部位の断面を観察可能にしたり、この断面の画像を取得したりする(特許文献1及び2参照)。これにより、検者が被検眼の注目部位を観察することができる。
【0003】
特許文献1及び2に記載の細隙灯顕微鏡には、検者による被検眼の注目部位の観察中に被検者の顔を固定するための顔支持部が設けられている。この顔支持部は、一般的には被検者の顎を支持する顎受け部と、被検者の額が当てられる額当て部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-259544号公報
【特許文献2】特開2014-23868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載の額当て部に対して被検者が額を当てる場合に、額当て部に対して被検者の額の位置が適切位置から左右方向にずれることがある。このように額の位置が左右方向にずれた状態では、細隙灯顕微鏡の光軸を被検眼に合わせられなかったり、或いは検者による被検眼の注目部位の観察中に被検者の顔が動いたりするおそれがある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、被検者が額当て部に対して額を適切位置に簡単に合わせることができる額当て部、及びこの額当て部を備える眼科装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するための額当て部は、眼科装置に設けられ、被検者の額が当てられる額当て部において、額に当接する額当て面と、額当て面の左右方向の両端側に接続して、額当て面との間で額当て面の両端側に左右のエッジ部を形成する左右のエッジ形成面と、を備える。
【0008】
この額当て部によれば、額当て面に対して被検者の額が適切位置から左右方向にずれている場合には、左右のエッジ部の一方を、エッジを立てた状態で額に当接させることができる。
【0009】
本発明の他の態様に係る額当て部において、額当て面に対して額が適切位置にある適切状態では、左右のエッジ部が、エッジ部を形成する額当て面で額に当接し、額当て面に対して額が適切状態から左右方向にずれている位置ずれ状態では、左右のエッジ部の一方が、適切状態よりもエッジを立てた状態で額に当接する。これにより、被検者は、額の位置が適切位置から左右方向にずれていることを認識可能である。
【0010】
本発明の他の態様に係る額当て部において、額当て面及び左右のエッジ形成面が形成されている額当て部本体を備える。
【0011】
本発明の他の態様に係る額当て部において、額当て部本体が、本体前面と、本体前面の一部から本体前面の前方側に突出した突出部であって、上面と側面とを有する突出部と、を備え、額当て面が上面であり、左右のエッジ形成面が突出部の左右の側面である。
【0012】
本発明の他の態様に係る額当て部において、額当て部本体が、本体前面と、本体前面の一部に凹設された凹設面とを備え、額当て面が凹設面であり、左右のエッジ形成面が、本体前面の中で額当て面の両端側の領域である。
【0013】
本発明の他の態様に係る額当て部において、額当て面が凹曲面である。
【0014】
本発明の他の態様に係る額当て部において、額当て面が、額当て面を左右方向から見た側面視において、額当て面の前方側に前傾している。
【0015】
本発明の他の態様に係る額当て部において、額当て面が鏡面仕上げ表面である。これにより、被検者が額を額当て面に当接させた際に密着具合(密着感)が増すので、被検者は、額が額当て面から離れたことを認知し易くなる。その結果、被検者は額当て面に対する額の左右のずれをより認識し易くなる。また、被検者が額を額当て面に当接する際に肌触りを良くすることもできる。
【0016】
本発明の目的を達成するための眼科装置は、上述の額当て部を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、被検者が額当て部に対して額を適切位置に簡単に合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】顔支持部を被検者側から見た外観斜視図である。
【
図3】額当て部を被検者側から見た外観斜視図である。
【
図4】額当て部のX方向中心位置において、この額当て部をYZ面で切った断面図である。
【
図5】額当て面に対して被検者の額が適切位置で当接している場合の額に対する左右のエッジ部の接触状態を説明するための説明図である。
【
図6】額当て面に対して被検者の額が適切位置からX方向にずれている場合の額に対する左右のエッジ部の接触状態を説明するための説明図である。
【
図7】左右のエッジ部の最適形状を説明するための説明図である。
【
図8】第2実施形態の細隙灯顕微鏡の額当て部の上面図である。
【
図9】適切状態での被検者の額に対する左右のエッジ部の接触状態を説明するための説明図である。
【
図10】位置ずれ状態での被検者の額に対する左右のエッジ部の接触状態を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
図1は、細隙灯顕微鏡10の側面図である。細隙灯顕微鏡10は、本発明の眼科装置に相当するものであり、被検眼Eの角膜観察、眼底観察及び水晶体観察等の各種観察に用いられる。また、細隙灯顕微鏡10は、被検眼Eの角膜の角膜内皮細胞を直接観察する角膜内皮細胞観察にも用いられる。なお、図中のX方向は被検者(患者)を基準とした左右方向(被検眼Eの眼幅方向)であり、Y方向は上下方向である。また、X方向及びY方向の双方に直交するZ方向は、被検者に近づく前方向と被検者から遠ざかる後方向とに平行な前後方向(作動距離方向)である。
【0020】
図1に示すように、細隙灯顕微鏡10は、公知のZeiss式(Littman式)である。この細隙灯顕微鏡10は、ベース12と、顔支持部14と、可動テーブル18と、操作レバー20と、支持部材22と、顕微鏡支持アーム24と、回動軸26と、照明用支持アーム28と、照明系32と、顕微鏡34と、を備える。
【0021】
ベース12は、不図示の検眼テーブル上に載置されている。このベース12の上面で且つ被検者側(被検眼E側)の前端部には顔支持部14が設けられている。また、ベース12の上面には、可動テーブル18がXZ方向(左右方向及び前後方向)に移動自在に保持されている。
【0022】
図2は、顔支持部14を被検者側から見た外観斜視図である。
図2に示すように、顔支持部14は、ベース12に固定され且つY方向に延びた一対の支柱14aと、一対の支柱14aの中間部に設けられた顎受部14bと、一対の支柱14aの上端部に設けられた額当て部14cと、を有する。被検者が顎受部14bに顎を載せると共に額当て部14cに額を当てることで、被検者の顔が顔支持部14により支持される。これにより、被検眼Eの位置が固定される。
【0023】
図1に戻って、可動テーブル18の上面で且つ後方向側(検者側)の後端部には操作レバー20が設けられている。さらに、可動テーブル18の上面には、支持部材22がY方向に移動可能(昇降可能)に設けられている。
【0024】
操作レバー20は、支持部材22(照明系32及び顕微鏡34)をXYZ方向にそれぞれ手動で移動操作するための操作部材である。例えば、操作レバー20をZ方向又はX方向に移動操作又は傾倒操作することで、可動テーブル18をZ方向又はX方向に手動で移動させられる。また、操作レバー20の軸線周りの回動操作により、不図示の駆動伝達機構を介して支持部材22をY方向に移動させられる。なお、操作レバー20の頂部には、撮影等に用いるスイッチ20aが設けられている。
【0025】
支持部材22の前方向側の端部にはY方向に延びた回動軸26が設けられており、さらにこの回動軸26に顕微鏡支持アーム24及び照明用支持アーム28が取り付けられている。顕微鏡支持アーム24は、略L字状に形成されており、水平アーム部24aと鉛直アーム部24bとを有する。
【0026】
水平アーム部24aの前方向側の端部は、Y方向に延びた回動軸26を介して、支持部材22上に水平回動可能に取り付けられている。また、この水平アーム部24a上には、回動軸26を介して、照明用支持アーム28が水平回動可能に取り付けられている。これにより、顕微鏡支持アーム24及び照明用支持アーム28は、共通の回動軸26に回動可能に取り付けられている。
【0027】
なお、回動軸26を中心とした顕微鏡支持アーム24及び照明用支持アーム28の水平回動は、検者の手動操作で行ったり或いは不図示の電動回動機構を用いて電動で行ったりしてもよい。
【0028】
鉛直アーム部24bの上端部には顕微鏡34が取り付けられている。また、照明用支持アーム28には照明系32が設けられている。
【0029】
照明系32は、細隙灯44及び偏向光学素子48を備える。細隙灯44は、照明用支持アーム28に取り付けられており、偏向光学素子48に向けて照明光L1を出射する。細隙灯44には、照明光L1を偏向光学素子48に向けて出射するための不図示の光源及び光学系が収納されている。
【0030】
偏向光学素子48は、細隙灯44の上方位置に設けられたプリズム或いはミラーである。この偏向光学素子48は、細隙灯44から出射された照明光L1を被検眼Eに向けて偏向(反射を含む)する。これにより、偏向光学素子48から被検眼Eに対してスリット状の照明光L1(スリット光、或いは細隙光ともいう)が照射される。また、偏向光学素子48は、被検眼Eからの戻り光L2がケラレないような形状に形成されている。これにより、被検眼Eからの戻り光L2は、偏向光学素子48の両脇を通って顕微鏡34に入射する。
【0031】
なお、細隙灯44は
図1に示したものに限定されるものではなく、Zeiss式の細隙灯顕微鏡10で用いられるものであれば、その形状、構造、及び配置は特に限定はされない。
【0032】
照明系32は、回動軸26を中心として照明用支持アーム28と一体に水平回動される。これにより、被検眼Eに対する照明光L1の照射方向を調整することができる。
【0033】
顕微鏡34は、被検眼Eの観察等に用いられる。照明系32から被検眼Eに対して照明光L1を照射している場合には、顕微鏡34には被検眼Eからの戻り光L2が入射する。顕微鏡34の前方向側(Z方向の被検眼E側)の前端部には対物レンズ50が設けられ、且つ後方向側(Z方向の検者側)の後端部には接眼レンズ52が設けられている。また、顕微鏡34の内部には、被検眼Eの観察用の公知の光学系(図示は省略)が収納されている。
【0034】
顕微鏡34は、回動軸26を中心として顕微鏡支持アーム24と一体に水平回動される。これにより、顕微鏡34による被検眼Eの観察方向を調整することができる。また、顕微鏡34には、顕微鏡34の光学系を介して被検眼Eを撮影するデジタルカメラ56が設けられている。
【0035】
図3は、額当て部14cを被検者側から見た外観斜視図である。
図3及び既述の
図2に示すように、額当て部14cは、額当て部本体60と、突出部62と、額当て面64と、左右のエッジ形成面66と、を備える。
【0036】
額当て部本体60は、Y方向側から見た場合に、照明系32及び顕微鏡34等の細隙灯顕微鏡10の本体(眼科装置本体)側であるZ方向後方側に凸となる略湾曲板形状に形成されている。なお、額当て部本体60の形状は特に限定はされず、例えば平板状に形成されていてもよい。
【0037】
額当て部本体60のX方向(左右方向)の両端部には、一対の支柱14aの上端部が取り付けられる取付穴60aが形成されている。また、額当て部本体60は、被検者の額に対向する本体前面60bを有する。この本体前面60bは、被検者の頭部の前面側に沿う略凹曲面形状を有する。そして、本体前面60bの一部であるX方向中央部には、その前方側である被検者側(Z方向前方側)に突出した突出部62が額当て部本体60と一体に形成されている。
【0038】
突出部62は、本体前面60bのX方向中央部において、Z方向前方側に厚みを有し且つ本体前面60bの形状に沿う略湾曲板形状に形成されている。この突出部62のZ方向前方側の上面は、被検者に額に当接する額当て面64である。また、突出部62のX方向の両端側(左右)の側面が、額当て面64のX方向の両端側に接続する左右のエッジ形成面66である。
【0039】
額当て面64は、本体前面60bよりもZ方向前方側の位置に形成されている。この額当て面64は、被検者の額の曲面形状に合う形状であって且つ被検者の顔を支持可能な形状、すなわち凹曲面に形成されている。また、額当て面64は、額に当接するため、生体適合性を有する材料で形成されている。
【0040】
さらに額当て面64は、鏡面仕上げ表面に形成されている。これにより、被検者が額を額当て面64に当接させた際に密着具合(密着感)が増すので、被検者は、額が額当て面64から離れたことを認知し易くなる。その結果、被検者は額当て面64に対する額の左右のずれをより認識し易くなる。また、額を額当て面64に当接する際に肌触りを良くすることができる。なお、額当て面64上にゴム膜或いはシリコン膜が貼り付けられたり、不織布が着脱可能に貼り付けられたりしていてもよい。
【0041】
図4は、額当て部14cのX方向中心位置において、この額当て部14cをYZ面で切った断面図である。なお、図中の符号Hは被検者を示す。
図4に示すように、額当て面64は、X方向(左右方向)から見た側面視において、略直線形状であり、被検者Hの額に沿うようにZ方向前方側に前傾している。ここで額当て面64の上端のX方向中心位置を通るY方向に平行な直線を「K」とした場合において、額当て面64の直線Kに対する傾き角度θは例えばθ=18°である。
【0042】
図2及び
図3に戻って、左右のエッジ形成面66は、額当て面64のX方向両端側と本体前面60bとを接続する傾斜面であり、額当て面64に対してZ方向後方側に後傾している。これら額当て面64と左右のエッジ形成面66とによって、額当て面64のX方向両端側に左右のエッジ部70が形成される。
【0043】
図5は、額当て面64に対して被検者Hの額が適切位置で当接している場合の額に対する左右のエッジ部70の接触状態を説明するための説明図である。
図6は、額当て面64に対して被検者Hの額が適切位置からX方向にずれている場合の額に対する左右のエッジ部70の接触状態を説明するための説明図である。
【0044】
図5に示すように、額当て面64に対して被検者Hの額が適切位置で当接している適切状態(以下、適切状態と略す)では、左右のエッジ部70がそれぞれエッジ部70を構成する額当て面64のみで額に面接触する。すなわち、左右のエッジ部70がエッジを寝かせた状態で額に当接する。これにより、被検者Hは額が左右のエッジ部70に当接したことを認識し難くなるので、被検者Hに対して額が額当て面64の適切位置に収まっている感触を与えることができる。
【0045】
一方、
図6に示すように、額当て面64に対して被検者Hの額が
図5に示した適切状態からX方向(左右方向)にずれている位置ずれ状態(以下、位置ずれ状態と略す)では、左右のエッジ部70の一方(ずれ方向側のエッジ部70)が、適切状態よりもエッジを立てた状態で額に当接する(引き出し線A1参照)。これにより、被検者Hは、エッジ部70との当接を認識することで、その額の位置が適切状態よりもX方向の一方向側にずれていることを認識可能である。
【0046】
図7は、左右のエッジ部70(額当て面64)の最適形状を説明するための説明図である。
図7に示すように、本発明者は様々な被検者Hの額を想定して実験及びシミュレーションを繰り返し実行した結果、適切状態では左右のエッジ部70への当接を被検者Hに認識させず、位置ずれ状態では左右のエッジ部70の一方への当接を被検者Hに認識させることが可能な左右のエッジ部70の形状を見出した。具体的には左右のエッジ部70のX方向幅W(左右方向幅)、すなわち額当て面64のX方向幅Wを70mmに設定した。また、左右のエッジ部70を構成する額当て面64の曲率半径Rを100mmに設定した。
【0047】
以上のように第1実施形態の細隙灯顕微鏡10では、適切状態では被検者Hの額に対してエッジを寝かせた状態で当接して、位置ずれ状態では額に対してエッジを立てた状態で当接する左右のエッジ部70を額当て面64のX方向両端に設けることで、被検者Hが額当て面64に対する額の位置が適切か否かを容易に判断可能になる。これにより、位置ずれ状態が発生した場合には、被検者Hに対して額の位置を適切位置に修正するように促すことができる。その結果、被検者Hが額を額当て面64の適切位置に簡単に合わせることができる。
【0048】
また、額当て部14cの額当て面64のX方向両端に左右のエッジ部70を設けるだけで良いので、低コストに実現可能である。
[第2実施形態]
図8は、第2実施形態の細隙灯顕微鏡10の額当て部14cの上面図である。上記第1実施形態の額当て部14cでは、額当て部本体60の本体前面60bに突出部62を突設することで、額当て面64、左右のエッジ形成面66及び左右のエッジ部70を形成している。これに対して第2実施形態の額当て部14cでは、本体前面60bに額当て面80を凹設することで左右のエッジ部82を形成する。
【0049】
なお、第2実施形態の細隙灯顕微鏡10は、額当て部14cに額当て面80及び左右のエッジ部82が形成されている点を除けば上記第1実施形態の細隙灯顕微鏡10と基本的に同じ構成である。このため、上記第1実施形態と機能又は構成上同一のものについては、同一符号を付してその説明は省略する。
【0050】
額当て面80は、本体前面60bのX方向中央部をZ方向後方側に凹ませて形成した凹設面である。この額当て面80は、上記第1実施形態の額当て面64と同様の形状(凹曲面、鏡面仕上げ形状、X方向幅W、曲率半径R)に形成されている。これにより、額当て面80により被検者Hの額を支持することができる。
【0051】
第2実施形態の本体前面60bの中で額当て面80のX方向両端側に位置する領域は、額当て面80のX方向両端部に接続しており、さらに額当て面80のX方向両端部に対して相対的にZ方向後方側に傾いている。このため、額当て面80と本体前面60bとにより、額当て面80のX方向両端側に左右のエッジ部82が形成される。
【0052】
図9は、適切状態での被検者Hの額に対する左右のエッジ部82の接触状態を説明するための説明図である。
図10は、位置ずれ状態での被検者Hの額に対する左右のエッジ部82の接触状態を説明するための説明図である。
【0053】
図9に示すように、適切状態では、左右のエッジ部82がそれぞれエッジ部82を構成する額当て面80のみで額に面接触する。すなわち、左右のエッジ部82がエッジを寝かせた状態で額に当接する。これにより、上記第1実施形態と同様に、被検者Hに対して額が額当て面80の適切位置に収まっている感触を与えることができる。
【0054】
一方、
図10に示すように、位置ずれ状態では、左右のエッジ部82の一方(ずれ方向側のエッジ部82)が、適切状態よりもエッジを立てた状態で被検者Hの額に当接する(引き出し線A2参照)。これにより、上記第1実施形態と同様に、被検者Hは、額の位置が適切状態よりもX方向の一方側にずれていることを認識可能である。
【0055】
以上のように第2実施形態の細隙灯顕微鏡10においても、適切状態では被検者Hの額に対して左右のエッジ部82がエッジを寝かせた状態で当接して、位置ずれ状態では額に対して左右のエッジ部82がエッジを立てた状態で当接するので、被検者Hが額当て面80に対する額の位置が適切か否かを容易に判断可能になる。その結果、上記第1実施形態で説明した効果と同様の効果が得られる。
【0056】
[その他]
上記各実施形態では、額当て部14cが一対の支柱14aの上端部に跨るように設けられているが、例えば、額当て部14cの背面側に棒状の支持部材を接続してもよい(例えば特開2022-64300号公報参照)。
【0057】
上記各実施形態では照明系32の細隙灯44(光源)が偏向光学素子48の下方に設けられているZeiss式(Littman式)の細隙灯顕微鏡10を例に挙げて説明したが、細隙灯44が偏向光学素子48の上方に設けられているHaag式(Goldmann式)の細隙灯顕微鏡10にも本発明を適用可能である。
【0058】
上記各実施形態では細隙灯顕微鏡10の額当て部14cを例に挙げて説明したが、被検眼Eの観察、各種の眼特性の取得及び手術等に用いられる各種の眼科装置(手術装置を含む)に設けられている額当て部14cに本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0059】
10…細隙灯顕微鏡
12…ベース
14…顔支持部
14a…支柱
14b…顎受部
14c…額当て部
16…電動駆動部
18…可動テーブル
20…操作レバー
20a…スイッチ
22…支持部材
24…顕微鏡支持アーム
24a…水平アーム部
24b…鉛直アーム部
26…回動軸
28…照明用支持アーム28
32…照明系
34…顕微鏡
38…手元操作部
44…細隙灯
48…偏向光学素子
50…対物レンズ
52…接眼レンズ
56…デジタルカメラ
60…額当て部本体
60a…取付穴
60b…本体前面
62…突出部
64…額当て面
64a…法線
66…エッジ形成面
70…エッジ部
80…額当て面
82…エッジ部
A1…引き出し線
A2…引き出し線
E…被検眼
H…被検者
K…直線
L1…照明光
L2…戻り光
R…曲率半径
W…X方向幅
θ…傾き角度