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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124011
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】イオン源
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/08 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
H01J37/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031885
(22)【出願日】2023-03-02
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】安東 靖典
(72)【発明者】
【氏名】松尾 大輔
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA25
5C101BB01
5C101BB02
5C101BB05
5C101BB07
5C101BB09
5C101CC01
5C101CC17
5C101DD03
5C101DD17
5C101DD20
5C101DD23
5C101DD25
5C101DD26
5C101DD27
5C101DD28
5C101DD29
5C101DD31
(57)【要約】
【課題】メンテナンスの周期が長く、メンテナンス時の作用性がよく、さらには装置全体の小型化を図ることができ、製造コストも抑えられるイオン源を提供する。
【解決手段】イオン源ガスが導入される内部空間を有する長尺状をなす容器であり、その長手方向に沿った1つの側壁にイオン引出口が形成されたプラズマ生成容器と、前記イオン源ガスを電離させて前記内部空間にプラズマを生成させるプラズマ生成手段と、プラズマ生成容器の外部に設けられ、前記イオン引出口を通じて前記内部空間からイオンビームを引き出す引出電極系とを備え、前記プラズマ生成手段が、前記プラズマ生成容器の外部において、前記長手方向に沿って設けられたアンテナと、前記アンテナに高周波を印加する高周波電源と、前記プラズマ生成容器の側壁における前記アンテナに臨む位置に形成され、前記アンテナから生じた高周波磁場を前記内部空間に透過させる磁場透過窓とを備えるイオン源である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源ガスが導入される内部空間を有する長尺状をなす容器であり、その長手方向に沿った1つの側壁にイオン引出口が形成されたプラズマ生成容器と、
前記イオン源ガスを電離させて前記内部空間にプラズマを生成させるプラズマ生成手段と、
プラズマ生成容器の外部に設けられ、前記イオン引出口を通じて前記内部空間からイオンビームを引き出す引出電極系とを備え、
前記プラズマ生成手段が、
前記プラズマ生成容器の外部において、前記長手方向に沿って設けられたアンテナと、
前記アンテナに高周波を印加する高周波電源と、
前記プラズマ生成容器の側壁における前記アンテナに臨む位置に形成され、前記アンテナから生じた高周波磁場を前記内部空間に透過させる磁場透過窓とを備えるイオン源。
【請求項2】
前記引出電極系が、前記イオン引出口に臨む位置に設けられた1枚又は複数枚の板状の電極を備えており、当該各電極における前記イオン引出口に対応する位置には、その厚み方向に貫通するスリットが前記長手方向に沿って形成されており、
当該スリットが伸びる方向と前記アンテナが伸びる方向とが一致する請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
前記磁場透過窓が、前記プラズマ生成容器の側壁に形成された開口と、当該開口を塞ぐスリット板と、当該スリット板に形成されたスリットを前記プラズマ生成容器の外側から塞ぐ誘電体板とを備える請求項1に記載のイオン源。
【請求項4】
前記磁場透過窓が、前記スリット板に形成されたスリットを前記プラズマ生成容器の内側から間隙を空けて覆うマスク板を更に備える請求項3に記載のイオン源。
【請求項5】
前記アンテナと前記磁場透過窓との間の距離を部分的に調整する距離調整機構をさらに備える請求項1に記載のイオン源。
【請求項6】
前記距離調整機構が、前記長手方向に沿った前記アンテナの複数箇所の位置を変位させるものである請求項5に記載のイオン源。
【請求項7】
前記プラズマ生成容器には、前記内部空間にイオン源ガスを導入するための複数のガス導入孔が前記長手方向に沿って設けられており、
当該複数のガス導入孔は、前記長手方向に沿った両端部における孔径が中央部における孔径よりも相対的に大きい、又は前記長手方向に沿った両端部における配置間隔が中央部における配置間隔よりも相対的に狭い請求項1に記載のイオン源。
【請求項8】
前記長手方向から視て、前記磁場透過窓が、前記プラズマ生成容器における、前記イオン引出口が形成された側壁に対向する側壁に形成されている請求項1に記載のイオン源。
【請求項9】
前記長手方向から視て、前記磁場透過窓が、前記プラズマ生成容器における、イオン引出口を通って、前記イオンビームの引出方向に伸びるイオン引出軸線を挟んで対向する2つの側壁の一方又は両方に形成されている請求項1に記載のイオン源。
【請求項10】
前記長手方向から視て、前記磁場透過窓が形成された2つの側壁は、その内壁面が前記イオン引出口を向くように、前記イオン引出軸線に対して傾斜している請求項9に記載のイオン源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばイオン注入装置等に用いられるイオン源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のイオン源としては、特許文献1に示すように、イオン源ガスが導入される直方体形状をなすプラズマ生成容器と、当該プラズマ生成容器の側面外側に配置され、プラズマ生成容器内部にカスプ磁場を形成する複数の磁石と、プラズマ生成容器の側壁から内部に挿入して設けられた、電子を放出するフィラメントとを有するものがある。このイオン源においては、プラズマ生成容器が陽極を兼ねており、フィラメントから放出される電子をプラズマ生成容器内で放電させて、イオン源ガスを電離させてプラズマが生成される。そして、プラズマ生成容器の1つの側壁に形成されたイオン引出口近傍に設けられた引出電極系を用いて、プラズマからイオンビームを引き出すよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-228044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような、フィラメントをプラズマ生成容器の側壁から内部に挿入したイオン源では、プラズマを生成するのにプラズマ生成容器に負電圧を印加させるので、フィラメントは、正イオンによるスパッタリングを受けて消耗してしまう。特にBF等のハロゲン化物のイオン源ガスを使ってプラズマを発生させる場合には、フィラメントは化学反応を伴うスパッタリングを受け、より一層消耗しやすい。フィラメントの消耗が進むと、これを交換する等のメンテナンスが必要となるため、従来のイオン源においては、フィラメントの寿命が、イオン源のメンテナンス周期を決める主たる要因となっている。
【0005】
また、プラズマ生成容器内に略均一なプラズマを生成するには、多数のフィラメントを設ける必要があり、そして各フィラメントに対して電源を設ける必要があるため、部品点数が増加し、装置が大型化してしまう。また部品点数が増加することでその取り付けに要する加工工数も増大し、さらには電源が増加することで制御点数も比例して増加し、コストが高くなってしまう。さらには、多数のフィラメントを設けることから、フィラメント結線用の高電流用ケーブルの本数も増加し、これにより配線経路が複雑化しメンテナンス時の作業性が悪いという問題もなる。
【0006】
本発明は、かかる問題を一挙に解決するべくなされたものであり、メンテナンスの周期が長く、メンテナンス時の作用性がよく、さらには装置全体の小型化を図ることができ、製造コストも抑えられるイオン源を提供することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係るイオン源は、イオン源ガスが導入される内部空間を有する長尺状をなす容器であり、その長手方向に沿った1つの側壁にイオン引出口が形成されたプラズマ生成容器と、前記イオン源ガスを電離させて前記内部空間にプラズマを生成させるプラズマ生成手段と、プラズマ生成容器の外部に設けられ、前記イオン引出口を通じて前記内部空間からイオンビームを引き出す引出電極系とを備え、前記プラズマ生成手段が、前記プラズマ生成容器の外部において、前記長手方向に沿って設けられたアンテナと、前記アンテナに高周波を印加する高周波電源と、前記プラズマ生成容器の側壁における前記アンテナに臨む位置に形成され、前記アンテナから生じた高周波磁場を前記内部空間に透過させる磁場透過窓とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このように構成した本発明によれば、メンテナンスの周期が長く、メンテナンス時の作用性がよく、さらには装置全体の小型化を図ることができ、製造コストも抑えられるイオン源を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るイオン注入装置の全体構成を示す模式図である。
図2】同実施形態のイオン源の構成を模式的に示す横断面図である。
図3】同実施形態のイオン源の構成を模式的に示す縦断面図である。
図4】同実施形態の窓部材の構成を模式的に示す図であり、(a)横断面図、(b)アンテナ側から視た平面図、(c)内部空間側から視た平面図である。
図5】同実施形態のイオン源を用いた誘導結合プラズマのプラズマ密度分布を示すグラフ。
図6】他の実施形態の窓部材の構成を模式的に示す図であり、(a)横断面図、(b)内部空間側から視た見た平面図である。
図7】他の実施形態のイオン注入装置における電流分布モニタの機能を説明する図である。
図8】他の実施形態のイオン源の構成を模式的に示す横断面図である。
図9】他の実施形態のイオン源の構成を模式的に示す横断面図である。
図10】他の実施形態のイオン源の構成を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のイオン源は、例えば、半導体製造工程やフラッットパネルディスプレイ製造工程で使用されるイオン注入装置やイオンドーピング装置等のイオンビーム照射装置に用いられるものである。以下に、本発明の一実施形態に係るイオン源100を備えるイオン注入装置400について、図面を参照して説明する。
【0011】
本実施形態のイオン注入装置400は、図1に示すように、ターゲットである基板Wに、イオンビームIBを照射してイオン注入をするためのものである。具体的にこのイオン注入装置400は、所定の引出方向にイオンビームIBが引き出されるイオン源100と、イオン源100の下流側に設けられ、イオン源100から引き出されたイオンビームIBの質量分析を行う質量分析部200と、基板Wが設置される処理室300とを備えている。本実施形態のイオン注入装置400では、イオン源100からは図1の紙面の表裏方向である幅が、それに直交する方向の厚さよりも十分に大きいリボン状のイオンビームIBが引き出される。
【0012】
質量分析部200は、質量分析磁石210と分析スリット220とを有している。質量分析磁石210は、イオンビームIBをその厚さ方向に曲げて所望のイオンを選別して導出するものである。分析スリット220は、質量分析磁石210の下流側に設けられており、質量分析磁石210と協働することにより、上記した所望のイオンを選別して通過させるものである。質量分析磁石210の入口には、入射スリットを形成するスリット板211が設けられている。このスリット板211は、質量分析部210に入射する際のイオンビームIBの入射角度とビーム幅とを制限するものであり、これにより分析スリット220を通過するイオンビームの分析性能を向上できる。
【0013】
処理室300において、基板Wはその処理面をイオンビームIBに向けて基板駆動装置310により保持されている。この基板駆動装置310は、基板Wを保持するとともに、基板Wに入射するイオンビームIBの厚さに沿う方向に機械的に往復駆動するよう構成されている。イオン注入装置400は、この基板駆動装置310による基板Wの往復駆動と、リボン状をなすイオンビームIBの照射とによって、基板Wの全面にイオンビームIBを入射させてイオン注入を行うことができる。
【0014】
以下、イオン源100の構成について詳細に説明する。なお、各図では本発明の実施形態のイオン源100の要部のみが記されており、各種の部材を省略して記している。
【0015】
具体的にこのイオン源100は、図2及び図3に示すように、イオン源ガスが導入されてプラズマを生成するためのプラズマ生成容器1と、プラズマ生成容器1の外部に設けられて当該プラズマ生成容器1内に磁場(具体的にはカスプ磁場、より厳密に言えばマルチカスプ磁場。多極磁場ともいう。)を形成する複数の磁石2と、プラズマ生成容器1内にプラズマを形成するプラズマ生成手段3と、プラズマ生成容器1からイオンビームIBを引き出す引出電極系4と、プラズマ生成容器1にイオン源ガスを一定流量で供給するガス源5とを備えている。
【0016】
プラズマ生成容器1は、例えば直方体形状等をなす長尺状の容器である。このプラズマ生成容器1の内壁面により、イオン源ガスが導入されてプラズマを生成するための内部空間1sが形成されている。この内部空間1sはプラズマ生成容器1の長手方向に沿って延びるように形成された概略直方体形状をなす長尺状の空間であり、引出方向に沿って互いに対向する一対の内壁面と、幅方向に沿って互いに対向する一対の内壁面とによって囲まれて形成されている。なお内部区間は図示しない真空排気装置によって真空排気される。
【0017】
長手方向に平行なプラズマ生成容器1の一つの側壁(以下、前側壁11aという)には、内部空間1sからイオンビームIBを引き出すための開口であるイオン引出口1Hが形成されている。イオン引出口1Hは、内部空間1sと同様に、長手方向に沿って延びるように前側壁11aに形成されている。本実施形態においては、この前側壁11aはイオンビームIBの引出方向に直交するように形成されている。以下において、引出方向及び長手方向に直交する方向を幅方向という。なお長尺状とは、引出方向から視て、互いに直交する2つの軸方向において、一方の軸方向の長さ(すなわち長手方向の長さ)が、他方の軸方向の長さ(すなわち幅方向の長さ)よりも長くなるように形成された任意の形状を意味し、直方体形状に限らない。
【0018】
長手方向から視て、イオン引出口1Hを通って引出方向に伸びる軸線(以下、イオン引出軸線L1ともいう)を挟んで対向(幅方向において対向する)する2つの側壁(以下、横側壁11c、dともいう)には、ガス源5に連通し、ガス流量調整器(図示しない)を介して内部空間1sにイオン源ガスを導入するための複数のガス導入孔1gが形成されている。複数のガス導入孔1gは、互いに略同一径であり、横側壁11c、dにおけるイオン引出口1H近傍(すなわち、前側壁11aとの接合部近傍)に、プラズマ生成容器1の長手方向に沿って略等間隔に設けられている。このガス導入孔1gから、BFガスやPHガス等のイオン源ガスが内部空間1sに導入される。
【0019】
なお複数のガス導入孔1gは、2つの横側壁11c、dの一方のみに形成されていてもよく、また横側壁11c、dにおける、前側壁11aと対向する後側壁11bとの接合部近傍(すなわち、後述する磁場透過窓3w近傍)に設けられていてもよい。また複数のガス導入孔1gは、互いに略等間隔に設けるとともに、長手方向に沿った両端部における孔径が、中央部における孔径よりも相対的に大きくなるようにしてもよい。あるいは、複数のガス導入孔1gは、互いに略同一の孔径にするとともに、長手方向に沿った両端部における配置間隔が、中央部における配置間隔よりも相対的に狭くなるようにしてもよい。さらにガス導入孔1gは、プラズマ生成容器1の側壁の内面に開口するように設けられていたが、プラズマ生成容器1内に配置されたガス供給管の管壁に開口するように設けられていてもよい。
【0020】
複数の磁石2は、前側壁11a以外の他の側壁(具体的には横側壁11c、d)の外面に沿って外部に設けられるものであり、横側壁11c、dの内面近傍にカスプ磁場を形成するものである。本実施形態の各磁石2は永久磁石であるが、電磁石を用いてもよい。この複数の磁石2は、イオン引出方向に直交する方向に沿って、極性が互いに異なるように、かつ略等間隔に配列されている。なお、複数の磁石2の配列態様はこれに限らず適宜変更可能である。
【0021】
プラズマ生成手段3は、プラズマ生成容器1の内部空間1sに高周波磁場を供給することでイオン源ガスを電離させてプラズマを生成するものである。
【0022】
引出電極系4は、プラズマ生成容器1のイオン引出口1H近傍に設けられ、プラズマ生成容器1との間に電位差を与えることでイオンビームIBを加速して引き出すものである。具体的にこの引出電極系4は、スリット4xが形成された複数枚の板状電極41~44を有しており、より具体的には、図2及び図3に示すように、イオン引出方向に沿ってプラズマ生成容器1から下流に向けて順に配置された、プラズマ電極41、引出電極42、抑制電極43及び接地電極44を有している。これらの各電極はいずれもその中央部に、厚み方向に貫通し、長手方向に沿って伸びる細長形状のスリット4xが形成されている。そして各電極は中央部に形成されたスリット4xが、プラズマ生成容器1のイオン引出口1Hに向かい合うようにして配置されている。なお各電極間は、例えば絶縁物(図示しない)によって互いに電気的に絶縁されている。なおこの引出電極系4は、プラズマ生成容器1に最も近い電極(ここではプラズマ電極41)のスリット幅が可変に構成されているのが好ましい。このようにすれば、プラズマ室内のガス圧力を可変にすることができ、プラズマ生成容器1内の圧力と、引出電極領域の真空度の設定に自由度を付与することができ、これにより電極間に印加する耐電圧に裕度を持たせることができる。
【0023】
しかして本実施形態のイオン源100は、プラズマ生成手段3が、プラズマ生成容器1の内部空間1sに誘導結合型のプラズマを生じさせるよう構成されており、プラズマ生成容器1の外部に設けられたアンテナ31と、アンテナ31に高周波を引加する高周波電源32と、プラズマ生成容器1の側壁におけるアンテナ31に臨む位置に形成され、アンテナ31から生じた高周波磁場を内部空間1sに透過させる磁場透過窓3wとを備えている。かかる構成において、アンテナ31に高周波電源32から高周波を印加することによりアンテナ31には高周波電流が流れて、プラズマ生成容器1内に誘導電界が発生して誘導結合型のプラズマが生成される。
【0024】
アンテナ31は、外観視して長さが数十cm以上の直線状(具体的には円柱状)をなすものである。このアンテナ31は、プラズマ生成容器1の外部において磁場透過窓3wに対して間隙をもって、プラズマ生成容器1の長手方向に沿って真っすぐになるように設けられている。すなわちアンテナ31は、イオン引出口1Hや引出電極系4のスリット4xの長手方向に沿って真っすぐになるように設けられている。そしてイオン引出方向から視て、アンテナ31は、イオン引出口1Hを望む位置に配置されており、より具体的には前記したイオン引出軸線L1上に配置されている。アンテナ31の一端部である給電端部は、整合回路321を介して高周波電源32が接続されている。
【0025】
高周波電源32は、整合回路321を介してアンテナ31に高周波電流を流すことができる。高周波の周波数は例えば一般的な13.56MHzであるが、これに限られるものではなく適宜変更してもよい。
【0026】
磁場透過窓3wは、プラズマ生成容器1における前側壁11aに対向する側壁(後側壁11bという)に形成されている。具体的にこの磁場透過窓3wは、図4(a)~(c)に示すように、プラズマ生成容器1の後側壁11bに設けられた開口1xと、当該開口1xを塞ぐようにプラズマ生成容器1に取付けられた窓部材33とにより形成されている。
【0027】
この開口1xは、イオン引出方向から視て、プラズマ生成容器1の長手方向に沿った長さが幅方向に沿った長さより大きい矩形状をなしている。そしてこの開口1xは、後側壁11bにおいて、アンテナ31とイオン引出口1Hの両方を臨む位置に形成されており、より具体的にはアンテナ31とイオン引出口1Hとを結ぶ線上に位置するように形成されている。
【0028】
窓部材33は、プラズマ生成容器1の後側壁11bに形成された開口1xを外側から塞ぐスリット板331と、スリット板331に形成されたスリット331xをプラズマ生成容器1の外側から塞ぐ誘電体板332とを備えている。
【0029】
スリット板331は、アンテナ31から生じた高周波磁場をプラズマ生成容器1内に透過させるとともに、プラズマ生成容器1の外部からプラズマ生成容器1の内部への電界の入り込みを防ぐものである。具体的にこのスリット板331は、その厚さ方向に貫通してなるスリット331xがアンテナ31の長手方向に沿って複数形成された平板状のものである。このスリット板331は、後述する誘電体板332よりも機械強度が高いことが好ましく、誘電体板332よりも厚み寸法が大きいことが好ましい。そして複数のスリット331xは、厚さ方向から視て、互いに平行であって、且つアンテナ31に交差するように(具体的には直交するように)形成されている。複数のスリット331xはいずれも同形状(具体的には平面視矩形状)である。
【0030】
具体的にこのスリット板331は金属製のものであり、例えばCu、Al、Zn、Ni、Sn、Si、Ti、Fe、Cr、Nb、C、Mo、W又はCoを含む群から選択される1種の金属又はそれらの合金(例えばステンレス合金、アルミニウム合金等)等の金属材料を圧延加工(例えば冷間圧延や熱間圧延)等により製造したものである。
【0031】
このスリット板331は、平面視においてプラズマ生成容器1の開口1xよりも大きいものであり、後側壁11bに支持された状態(すなわち、後側壁11bに載せられた状態)で開口1xを塞いでおり、プラズマ生成容器1と同電位にされている。スリット板331と後側壁11bとの間には、Oリングやガスケット等のシール部材が介在しており、これらの間は真空シールされている。
【0032】
誘電体板332は、スリット板331においてプラズマ生成容器1の外側を向く外向き面(プラズマ生成容器1の内部を向く内向き面の裏面)に載せられて、スリット板331のスリット331xを塞ぐものである。この誘電体板332とスリット板331との間にはシール部材が介在しており、これらの間は真空シールされている。
【0033】
誘電体板332は、全体が誘電体物質で構成された平板状をなすものであり、例えばアルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミックス、石英ガラス、無アルカリガラス等の無機材料、フッ素樹脂(例えばテフロン)等の樹脂材料等からなる。
【0034】
かかる構成により、スリット板331及び誘電体板332は、アンテナ31から発生した磁場を透過させる磁場透過窓3wとして機能を担う。すなわち、高周波電源32からアンテナ31に高周波を印加すると、アンテナ31から発生した高周波磁場が、スリット板331及び誘電体板332からなる磁場透過窓3wを透過してプラズマ生成容器1内に形成(供給)される。これにより、プラズマ生成容器1内の空間に誘導電界が発生し、誘導結合型のプラズマが生成される。
【0035】
そして、本実施形態のプラズマ処理装置では、窓部材33はさらに、スリット板331に形成された各スリット331xを、プラズマ生成容器1の内側から間隙を空けて覆うマスク板333をさらに備えている。
【0036】
より具体的に説明すると、マスク板333はその厚さ方向に貫通してなるスリット333xがアンテナ31の長手方向に沿って複数形成された平板状のものである。厚さ方向から視て、この複数のスリット333xは互いに平行であって、かつスリット板331に形成された複数のスリット331xと平行になるように形成されている。ここでは、各スリット333xは、アンテナ31に交差するように(具体的には直交するように)形成されている。複数のスリット333xはいずれも同形状(具体的には平面視矩形状)となるように形成されている。
【0037】
マスク板333における隣り合うスリット333x間には、各スリット333xに平行な梁状領域333zが形成されている。この梁状領域333zは、スリット板331に形成された複数のスリット331xに対応するように複数形成されており、各梁状領域333zによりスリット板331の各スリット331xが覆われている。ここでは、アンテナ31の長手方向に沿った梁状領域333zの長さ(幅)は、スリット板331のスリット331xの幅と略同一であり、各梁状領域333zがスリット板331の各スリット331xの略全部を覆っている。各梁状領域333zは、各スリット331xの一部のみを覆うように形成されてもよい。なおマスク板333は、スリット板331の内向き面に接続され、同電位とされている。
【0038】
具体的にマスク板333は、例えばCu、Al、Zn、Ni、Sn、Si、Ti、Fe、Cr、Nb、C、Mo、W又はCoを含む群から選択される1種の金属又はそれらの合金(例えばステンレス合金、アルミニウム合金等)等の金属材料により構成されている。マスク板333の厚みは、スリット板331の厚みより小さいことが好ましい。
【0039】
またこの実施形態では、スリット板331には水等の冷却媒体が流れる流路331rが形成されている。この流路331rは、スリット板331におけるマスク板333の接続領域の近傍にアンテナ31の長手方向に沿って形成されている。ここでは、流路331rは、スリット板331の厚み方向に沿って接続領域の直上に位置するように形成されている。
【0040】
また本実施形態のイオン源100では、引出電極系4におけるプラズマ生成容器1に最も近い電極(プラズマ電極41)は、プラズマを生成した際における、プラズマ密度のピークとなる位置近傍~プラズマ密度がピークの半分となる位置近傍に設けられるのが好ましい。プラズマ密度分布のピーク位置の変化は、供給するイオン源ガスの圧力や、印加する高周波電力の密度に対して小さく、そのためプラズマ密度のピークとなる位置近傍にプラズマ電極41を設置することはイオン電流の効率的な引出の点で好ましいためである。一方で、このピーク位置近傍は、強い高周波磁場が生じている領域であるため、誘導電流による過熱を生じることがある。そのため、誘導電流による過熱を抑える観点からは、プラズマ電極41は、プラズマ密度がピークの半分となる位置近傍までの間のプラズマの拡散領域に設置されるのが好ましい。
【0041】
図5に示すように、本実施形態にかかるイオン源100を用いて、磁場透過窓3wを通して高周波プラズマを点灯させた結果、プラズマ密度分布は約45mmの位置でピークを示し、約140mmの位置で半減することが確認できた。また、供給するイオン源ガスの圧力や、印加する高周波電力の密度の変化に対して、プラズマ密度のピーク位置の変化が小さいことを確認できた。このため、磁場透過窓3wにおける内向き面(具体的にはスリット板331の内向き面)と、引出電極系4におけるプラズマ生成容器1に最も近い電極の表面との間の距離が、約45mm~約140mmの範囲に設定されているのが好ましい。
【0042】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態のイオン源100によれば、プラズマ生成容器1の内部空間1sに突出するフィラメントを用いることなく、プラズマ生成容器1の外部に設けたアンテナ31により内部空間1sにプラズマを発生させるようにしているので、プラズマ生成容器1内においてスパッタリングによる消耗を受ける部品を低減することができ、メンテナンスの周期を長くすることができる。しかも、プラズマ生成容器1の長手方向に沿ってアンテナ31を設けるようにしているので、イオン引出口1Hに沿って延びる1本のアンテナ31と1台の高周波電源32により内部空間1sに略均一なプラズマを発生させることができ、部品点数を大幅に低減でき、装置を小型化するとともに、取付けに要する加工工数や電源の制御点数を低減でき、製造コストを抑えることができる。さらには、電源数を少なくすることで、電力供給の線材及び機器の制御線の大幅な削減が可能であり、組立時の配線作業やメンテナンス時の脱着作業を簡単にでき、作業性を向上できる。
【0043】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0044】
例えば他の実施形態のイオン源100は、図6(a)に示すように、アンテナ31と磁場透過窓3wとの間の距離を調整する距離調整機構6を備えていてもよい。この距離調整機構6は、アンテナ31の複数箇所の位置を調整することにより、アンテナ31と磁場透過窓3wとの間の距離を部分的に調整するよう構成されたものであり、具体的にはアンテナ31の長手方向に沿った一部分又は複数部分の位置を調整可能に構成されている。
【0045】
より具体的に説明すると、距離調整機構6は、窓部材33の上面に設けられて、アンテナ31の両端部を支持するアンテナ支持部材61と、アンテナ31の複数箇所を把持するとともに、当該把持した部位を磁場透過窓3w(具体的には誘電体板332)に対して変位させる複数の把持部62と、これらの把持部62を独立して移動させるモータ等の図示しない駆動源とを備えている。
【0046】
複数の把持部62は、アンテナ31とは電気的に絶縁された絶縁物である。これらの把持部62のうちの1つは、プラズマ生成容器1の開口1xの中央部の直上に配置されており、この把持部62に対してアンテナ31の長手方向に沿った対称的な位置に別の把持部62が設けられている。また本実施形態では、複数の把持部62が等間隔に配置されており、これらは何れも、プラズマ生成容器1の開口1xに直交する方向から視て、開口1xの内側に設けられている。
【0047】
具体的にこの把持部62は、アンテナ31の側面を窓部材33側に押圧する押し治具621と、アンテナ31と窓部材33との間に突っ張るように設けられたギャップ調整治具622とを備えている。この押し治具621は、例えばバネ材等を用いることで、アンテナ31を常に窓部材33側へ押し込むように構成されたものである。ギャップ調整治具622は、窓部材33の厚み方向に沿った長さを調整可能に構成されたものである。ここではギャップ調整治具622は、断面が楕円形状をなす治具であり、回転することにより厚み方向に沿った長さが変更され、アンテナ31と窓部材33との間の距離を調整するよう構成されている。
【0048】
また前記実施形態のイオン源100では、マスク板333は複数のスリット333xが形成され、この複数のスリット333x間に形成される梁状領域333zによりスリット板331のスリット331xを覆うものであったが、これに限らない。他の実施形態のマスク板333は、図6(b)に示すように、短冊状をなす金属板により構成されていてもよい。この場合、マスク板333は、スリット板331に形成された複数のスリット331xのそれぞれに臨む位置に1枚又は複数枚設けられてよい。1つのスリット331xに対して複数枚のマスク板333を設ける場合、これらを厚み方向において互いに段違いとなるように配置するのが好ましい。
【0049】
また他の実施形態のイオン注入装置400は、引き出したイオンビームIBの電流値に応じて、アンテナ31と磁場透過窓3wの間の距離や、高周波電源32の出力を調整するように構成されてもよい。具体的にイオン注入装置400は、図7に示すように、質量分析磁石210の後段に、長手方向に沿ったイオンビームIBの電流分布をモニタリングする電流分布モニタを備えており、モニタリングしたイオンビームIBの電流分布と、平均電流密度や均一性の目標値とを比較演算器により比較し、その比較結果に応じてアンテナ31と磁場透過窓3wの間の距離や、高周波電源32の出力を調整するように構成されてもよい。
【0050】
また前記実施形態では、磁場透過窓3wはプラズマ生成容器1の後側壁11bに形成されていたがこれに限らない。例えば他の実施形態では、磁場透過窓3wは、長手方向から視て、イオン引出軸線L1を挟んで対向する2つの側壁(横側壁11c、d)の一方又は両方に形成されていてもよい。この場合、プラズマ生成容器1の横側壁11c、dは、図8に示すようにその内壁面がイオン引出口1Hを向くように傾斜していてもよく、図9に示すように引出方向に沿って真っすぐとなっていてもよい。
【0051】
図8のように、傾斜した横側壁11c、dに磁場透過窓3wを設ける場合、アンテナ31と磁場透過窓3wの中心(開口1xの中心)とを結ぶ軸線(以下、磁場透過軸線L2ともいう)が、イオン引出口1H近傍を通るように構成するのが好ましい。また2つの磁場透過窓3wのそれぞれの磁場透過軸線L2が、イオン引出軸線L1上で交わるようにするのが好ましい。また磁場透過軸線L2と、引出電極系を構成する板状の電極の電極面とのなす角度が、約20°以上約45°以下であるのが好ましい。
【0052】
またこの場合、イオン引出口1Hに正対する後側壁11bの外壁側に、冷却流路1cが形成されているのが好ましい。この冷却流路1cは、イオン引出軸線L1を通り、かつプラズマ生成容器1の長手方向に沿って延びるように形成されているのが好ましい。このようにイオン引出軸線L1条に冷却流路を設けることで、逆流電子による加熱を効率的に冷却することができる。またこの実施形態では、長手方向から視て磁石2は、各横側壁11c、11dの外面において、磁場透過窓3wを両側から挟むように設けられているのが好ましい。
【0053】
図9のように、プラズマ生成容器1の横側壁11c、dを引出方向に沿って真っすぐとなるようにした場合、プラズマ密度のピーク位置を考慮することなく、引出電極系4(具体的にはプラズマ電極41)をイオン引出口1Hに近付けることができるようになる。すなわち、図2図8に示すものでは、イオン引出口1Hに対向するように磁場透過窓3wが設置されているため、イオン引出口1H近傍における磁場が強くなり、誘導電流による過熱を考慮してプラズマ電極41を設置する必要がある。これに対して図9に示すものでは、磁場透過窓3wがイオン引出口1Hに対向しておらず、イオン引出口1Hにおける磁場が図2図8のものに比べて弱くなるため、誘導電流による過熱を考慮することなくプラズマ電極41を設置することができる。
また、プラズマ生成容器1の内壁において、イオン引出口1Hに対向する箇所は、プラズマ内の電子の逆流による加熱を受けやすいが、図9のように、イオン引出口1Hに対向しない位置に磁場透過窓3wを形成することで、イオン引出口1Hに対向する位置に磁場透過窓3wを形成した図2図8に比べて、窓部材33(特に誘電体板332)の汚れを軽減でき、磁場の透過率の低下を抑えて動作を安定させることができる。また誘電体板332自体が発熱や破損する等といった問題を回避することもできる。
【0054】
また図9に示す実施形態においても、図8の実施形態と同様に、イオン引出口1Hに正対する後側壁11bの外壁側におけるイオン引出軸線L1上に冷却流路1cが形成されていてもよい。このようにすることで、逆流電子による加熱を効果的に冷却することができる。
【0055】
また前記実施形態のイオン源100は、高周波電源32と整合回路321が高電圧部に設置されていたがこれに限らない。他の実施形態のイオン源100は、図10に示すように、高周波電源32と整合回路321を接地電位に設置してもよい。このようにすることで、高電圧部に電力供給するための絶縁トランスの容量低減に寄与し、さらにはシステム全体の小型化、低コスト化及び高電圧による放電トラブル時の機器故障回避に寄与し得る。
【0056】
またアンテナ31は、内部に冷却液が流通可能な流路が形成されている中空構造のものであってよい。またアンテナ31は、少なくとも2つの導体要素と、互いに隣り合う導体要素と電気的に直列接続された定量素子であるコンデンサとを備える、いわゆるLCアンテナ31であってもよい。例えばアンテナ31は、3つの導体要素と2つのコンデンサとを備えており、各導体要素は、内部に冷却液が流れる直線状の流路が形成された直管状(具体的には円管状)をなす同一形状のものであってもよい。各導体要素の材質は、例えば、銅、アルミニウム、これらの合金又はステンレス等の金属等であってよい。
【0057】
アンテナ31をこのように構成することによって、アンテナ31の合成リアクタンスは、簡単に言えば、誘導性リアクタンスから容量性リアクタンスを引いた形になるので、アンテナ31のインピーダンスを低減させることができる。その結果、アンテナ31を長くする場合でもそのインピーダンスの増大を抑えることができ、アンテナ31に高周波電流が流れやすくなり、内部空間1sに誘導結合型のプラズマを効率良く発生させることができる。
【0058】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【0059】
さらに本明細書の開示は、以下の態様1-10を含み得る。
【0060】
(態様1)イオン源ガスが導入される内部空間を有する長尺状をなす容器であり、その長手方向に沿った1つの側壁にイオン引出口が形成されたプラズマ生成容器と、前記イオン源ガスを電離させて前記内部空間にプラズマを生成させるプラズマ生成手段と、プラズマ生成容器の外部に設けられ、前記イオン引出口を通じて前記内部空間からイオンビームを引き出す引出電極系とを備え、前記プラズマ生成手段が、前記プラズマ生成容器の外部において、前記長手方向に沿って設けられたアンテナと、前記アンテナに高周波を印加する高周波電源と、前記プラズマ生成容器の側壁における前記アンテナに臨む位置に形成され、前記アンテナから生じた高周波磁場を前記内部空間に透過させる磁場透過窓とを備えるイオン源。
【0061】
このような態様であれば、プラズマ生成容器の内部空間に突出するフィラメントを用いることなく、プラズマ生成容器の外部に設けたアンテナにより内部空間にプラズマを発生させるようにしているので、プラズマ生成容器内においてスパッタリングによる消耗を受ける部品を低減することができ、メンテナンスの周期を長くすることができる。
しかも、プラズマ生成容器の長手方向に沿ってアンテナを設けるようにしているので、イオン引出方向口に沿って延びる1本のアンテナと1台の高周波電源により内部空間に略均一なプラズマを発生させることができ、部品点数を大幅に低減でき、装置を小型化するとともに、取付けに要する加工工数や電源の制御点数を低減でき、製造コストを抑えることができる。さらには、電源数を少なくすることで、電力供給の線材及び機器の制御線の大幅な削減が可能であり、組立時の配線作業やメンテナンス時の脱着作業を簡単にでき、作業性を向上できる。
【0062】
(態様2)前記引出電極系が、前記イオン引出口に臨む位置に設けられた1枚又は複数枚の板状の電極を備えており、当該各電極における前記イオン引出口に対応する位置には、その厚み方向に貫通するスリットが前記長手方向に沿って形成されており、当該スリットが伸びる方向と前記アンテナが伸びる方向とが一致する態様1に記載のイオン源。
このような態様であれば、引出電極を構成する電極に形成されたスリットと、アンテナとの延びる方向が一致しているので、長手方向に沿って略均一な電流密度のイオンビームを引き出すことができるようになる。
【0063】
(態様3)前記磁場透過窓が、前記プラズマ生成容器の側壁に形成された開口と、当該開口を塞ぐスリット板と、当該スリット板に形成されたスリットを前記プラズマ生成容器の外側から塞ぐ誘電体板とを備える態様1又は2に記載のイオン源。
このような態様であれば、例えば金属製のスリット板に形成されたスリットと、その上に配置された誘電体板とによって、アンテナから発生する高周波磁場を内部空間に透過させる磁場透過窓を形成することで、磁場透過窓を形成する部材の一部をセラミックス等の誘電体材料よりも靭性が大きい金属材料で構成できるので、誘電体材料だけで磁場透過窓を構成する場合に比べて磁場透過窓の厚みを小さくすることができる。また、誘電体板が金属板に接触して支持されているので、真空処理時における誘電体板の変形を軽減し、誘電体板内に発生する曲げ応力を低減できる。そのため誘電体板自体の厚みを小さくすることができる。これにより、アンテナから内部空間までの距離を短くすることができ、アンテナから生じた高周波磁場をプラズマ生成容器内に効率よく供給することができる。
【0064】
(態様4)前記磁場透過窓が、前記スリット板に形成されたスリットを前記プラズマ生成容器の内側から間隙を空けて覆うマスク板を更に備える態様3に記載のイオン源。
このような態様であれば、高周波電力が投入されたアンテナがマスク板で光学的及び電気的に遮蔽されることにより、アンテナの高周波電圧を遮蔽することができ、生成したプラズマ中のイオンエネルギーとそのエネルギー幅を小さくできる。これによりイオン源から引き出されたイオンイオンの質量分離への影響を小さくできる。このような効果は、低エネルギーのイオンを引き出す場合に特に有効である。
またイオン源では、引出電極によりプラズマからイオンが引き出される一方で、引出電極側からプラズマ生成容器内に向かって電子が逆流するが、磁場透過窓をマスク板で遮蔽した構造にすることで、磁場透過窓を構成する誘電体板への電子流の入射を防止できる。これにより加熱・帯電・放電による誘電体板の破損の可能性を低減できる。さらにこの部分に高融点金属を使用すれば、熱変形を低減することができ、安定動作を可能にできる。
さらに、プラズマ生成による導電性被膜がスリットを通って誘電体板に付着して堆積すると、高周波磁場の透過率が低下し、プラズマ生成効率の低下を招くとともに、堆積被膜の発熱により磁場透過窓を構成する部材を破損させるそれがあるが、スリットを覆うマスク板を設けることで、誘電体板への導電性被膜の付着を防止することができる。
【0065】
(態様5)前記アンテナと前記磁場透過窓との間の距離を部分的に調整する距離調整機構をさらに備える態様1~4のいずれかに記載のイオン源。
このような態様であれば、距離調整機構が、アンテナと磁場透過窓との間の距離を部分的に調整することで、1個の高周波電源の出力調整のみでアンテナの長手方向に沿ったプラズマ密度分布を細やかに調整することができるので、長手方向に沿ったイオンビームの平均電流密度の調整を簡易な構成で実現できる。
【0066】
(態様6)前記距離調整機構が、前記長手方向に沿った前記アンテナの複数箇所の位置を変位させるものである態様5に記載のイオン源。
このような態様であれば、アンテナの長手方向に沿ったプラズマ密度分布をより細やかに調整できる。
【0067】
(態様7)前記プラズマ生成容器には、前記内部空間にイオン源ガスを導入するための複数のガス導入孔が前記長手方向に沿って設けられており、当該複数のガス導入孔は、前記長手方向に沿った両端部における孔径が中央部における孔径よりも相対的に大きい、又は前記長手方向に沿った両端部における配置間隔が中央部における配置間隔よりも相対的に狭い態様1~6のいずれかに記載のイオン源。
外部アンテナによりプラズマを生成する場合、内部空間におけるアンテナの長手方向に沿った両端部では、中央部に比べてプラズマ密度が相対的に低下する傾向がある。そこで、イオン源ガスを導入する複数のガス導入孔を、長手方向に沿った両端部における孔径を中央部における孔径よりも大きくしたり、長手方向に沿った両端部における配置間隔を中央部における配置間隔よりも狭くして、長手方向の両端領域におけるイオン源ガスの圧力を増加させることで、当該両端領域におけるプラズマ密度を増加させるようにすることで、均一性がよいイオンビームを引き出すことができるようになる。そしてこのような状態で、例えばアンテナと磁場透過窓との間の距離を調整することで、平均電流密度を増加させたイオンビームを引き出すことができるようにもなる。
【0068】
(態様8)前記長手方向から視て、前記磁場透過窓が、前記プラズマ生成容器における、前記イオン引出口が形成された側壁に対向する側壁に形成されている態様1~7のいずれかに記載のイオン源。
このような態様であれば、前記長手方向とイオンの引出方向に直交する幅方向において、イオン引出口近傍にプラズマ分布のピークを生じさせることができ、イオン引出口近傍に効率よくプラズマを生成することができ、平均電流密度を増加させたイオンビームを引き出すことができるようになる。
【0069】
(態様9)前記長手方向から視て、前記磁場透過窓が、前記プラズマ生成容器における、イオン引出口を通って、前記イオンビームの引出方向に伸びるイオン引出軸線を挟んで対向する2つの側壁の一方又は両方に形成されている態様1~7のいずれかに記載のイオン源。
このような態様であれば、引出電極側からプラズマ生成容器内に流れ込む逆流電子の磁場透過窓への入射を防止でき、プラズマ生成動作を安定化できる。また2つの側壁の両方に磁場透過窓を設ければ、イオン引出口近傍におけるプラズマ密度を高くすることもできる。
【0070】
(態様10)前記長手方向から視て、前記磁場透過窓が形成された2つの側壁は、その内壁面が前記イオン引出口を向くように、前記イオン引出軸線に対して傾斜している態様9に記載のイオン源。
このような態様であれば、イオン引出口近傍におけるプラズマ密度をより一層高くすることができる。
【符号の説明】
【0071】
100・・・イオン源
1 ・・・プラズマ生成容器
1s ・・・内部空間
11a・・・側壁(前側壁)
1H ・・・イオン引出口
3 ・・・プラズマ生成手段
31 ・・・アンテナ
32 ・・・高周波電源
3w ・・・磁場透過窓
4 ・・・引出電極系
W ・・・基板
IB ・・・イオンビーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10