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特開2024-124020真空ポンプおよびラジアル磁気軸受装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124020
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】真空ポンプおよびラジアル磁気軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/04 20060101AFI20240905BHJP
   F04D 19/04 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
F16C32/04 A
F04D19/04 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031900
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】川島 敏明
【テーマコード(参考)】
3H131
3J102
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA09
3H131CA13
3J102AA01
3J102BA03
3J102CA13
3J102DA03
3J102DA09
3J102DA16
3J102DA18
3J102DA31
3J102DA39
3J102DB05
3J102DB08
3J102DB10
3J102DB11
3J102FA01
3J102FA04
3J102GA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】円環状電磁石に配置されるボビンの鍔よりもロータ軸に近い部位が剥がれることを抑制できる真空ポンプおよびラジアル磁気軸受装置を提供する。
【解決手段】ラジアル磁気軸受装置210と、ラジアル磁気軸受装置210に密着するモールド部300と、を有する真空ポンプであって、ラジアル磁気軸受装置210は、複数のティースに各々が装着された複数のボビンを有する円環状電磁石230を備え、ボビンは、第1の鍔部を備え、隣り合う第1の鍔部の側端面の少なくとも一方は、第1の鍔部間の周方向の隙間を増加させる連通部を有し、モールド部300は、連通部を径方向へ貫通する貫通モールドと、貫通モールドよりも径方向の外側に配置された外側モールドと、貫通モールドよりも径方向の内側に配置された内側モールドと、を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ軸の径方向の外側に配置されて前記ロータ軸を回転可能に保持するラジアル磁気軸受装置と、少なくとも一部が前記ラジアル磁気軸受装置の前記径方向の内側に配置されて前記ラジアル磁気軸受装置に密着するモールド部と、を有する真空ポンプであって、
前記ラジアル磁気軸受装置は、
内周壁に前記ロータ軸の周方向へ所定の間隔を空けて複数のティースが設けられた円環状ステータコアと、
前記複数のティースに各々が装着された複数のボビンおよび当該複数のボビンに巻かれた複数のコイル線を備えたコイル部と、を有する円環状電磁石を備え、
前記複数のボビンは、
外周に前記コイル線を巻かれ、かつ前記円環状ステータコアの内周側から前記複数のティースに被さって装着される矩形筒状のボビン本体と、
前記ボビン本体の前記ロータ軸と対向する側の端部の外周面から立ち上がり、前記ロータ軸側からの正面視において矩形中空状に形成されている鍔部と、を備え、
前記周方向に隣り合う前記複数のティースに装着された前記複数のボビンの前記周方向に隣り合う前記鍔部の側端面の少なくとも一方は、前記正面視において、前記鍔部間の前記周方向の隙間を増加させる連通部を有し、
前記モールド部は、
前記連通部を前記径方向へ貫通する貫通モールドと、
前記貫通モールドよりも前記径方向の外側に配置されて前記貫通モールドと一体的に形成された外側モールドと、
前記貫通モールドよりも前記径方向の内側に配置されて前記貫通モールドと一体的に形成された内側モールドと、を有することを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記円環状電磁石は、前記周方向に隣り合う一対の前記ティースおよび当該ティースに被さる前記コイル部により形成されるとともに、前記一対のティースの磁極が異なるように配置された複数の電磁石を有し、
前記周方向に隣り合う前記電磁石間に、前記ロータ軸の径方向の変位を検出するラジアル方向変位検出部が配置され、
前記ラジアル方向変位検出部を挟んで前記周方向に隣り合って異なる前記電磁石を形成する2つの前記ティースは、同じ磁極を有するように配置され、
前記連通部は、前記ラジアル方向変位検出部を挟んで前記周方向に隣り合う前記鍔部の前記側端面に形成されず、同じ前記電磁石を形成する2つの前記鍔部の隣り合う前記側端面の少なくとも一方に形成されることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記ロータ軸の軸方向への前記連通部の長さは、前記鍔部間の前記周方向への隙間の最小幅よりも長いことを特徴とする請求項1または2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記ロータ軸の軸方向への前記連通部の長さは、当該連通部が形成される位置における2つの前記鍔部間の周方向への隙間の幅よりも長いことを特徴とする請求項1または2に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記連通部は、前記鍔部の前記側端面に、前記ロータ軸の軸方向へ複数配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
ロータ軸の径方向の外側に配置されて前記ロータ軸を回転可能に保持するラジアル磁気軸受装置であって、
内周壁に前記ロータ軸の周方向へ所定の間隔を空けて複数のティースが設けられた円環状ステータコアと、
前記複数のティースに各々が装着された複数のボビンおよび当該複数のボビンに巻かれた複数のコイル線を備えたコイル部と、を有する円環状電磁石を備え、
前記複数のボビンは、
外周に前記コイル線を巻かれ、かつ前記円環状ステータコアの内周側から前記複数のティースに被さって装着される矩形筒状のボビン本体と、
前記ボビン本体の前記ロータ軸と対向する側の端部の外周面から立ち上がり、前記ロータ軸側からの正面視において矩形中空状に形成されている鍔部と、を備え、
前記周方向に隣り合う前記複数のティースに装着された前記複数のボビンの前記周方向に隣り合う前記鍔部の側端面の少なくとも一方は、前記正面視において、前記鍔部間の前記周方向の隙間を増加させる連通部を有することを特徴とするラジアル磁気軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプおよびラジアル磁気軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置、液晶製造装置、電子顕微鏡、表面分析装置または微細加工装置等は、装置内の環境を高度の真空状態にすることが必要である。これらの装置の内部を高度の真空状態とするために、真空ポンプが用いられている。真空ポンプでは、軸受装置として非接触で回転体を支持する磁気軸受装置が多く用いられている(例えば、特許文献1を参照)。磁気軸受装置には、回転体の径方向の荷重を支持するラジアル磁気軸受装置と、回転体の軸方向の荷重を支持するアキシャル磁気軸受装置とがある。
【0003】
特許文献1には、円環状ステータコアの内周壁から突出する複数のティースの各々に、ボビンにコイル線を巻いたコイル部を被せたラジアル磁気軸受装置が記載されている。各々のティースおよびティースに被さるコイル部は、ロータ軸を磁力で吸引する電磁石を形成する。すなわち、ラジアル磁気軸受装置は、ロータ軸を囲むように周方向に並ぶ複数の電磁石を備えている。
【0004】
ボビンは、コイル線が巻かれる筒状のボビン本体と、ボビン本体のロータ軸に近い側の第1の鍔部と、ボビン本体の回転体から遠い側の第2の鍔部とを有している。
【0005】
ところで、特許文献2には、ラジアル磁気軸受装置や変位センサ等を被覆するように樹脂をモールド成形してモールド部を形成した真空ポンプが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-194115号公報
【特許文献2】特開2000-283161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のラジアル磁気軸受装置を形成する複数のボビンは、ロータ軸を囲むように周方向に並ぶため、ロータ軸に近い側の第1の鍔部同士が近接する。このため、ラジアル磁気軸受装置をモールド部により被覆する場合、モールド部の第1の鍔部よりもロータ軸に近い部位が、薄く形成されるとともに、ロータ軸と遠い側のモールド部とつながる部分が少なってしまうため剥がれやすくなる。モールド部の一部が剥がれると、ラジアル磁気軸受装置等の電子機器や電気機器が排気ガスに含まれる腐食性ガスにより腐食する可能性がある。また、モールド部の一部が剥がれると、剥がれたモールド部が落下しロータ軸とのギャップを狭めたり、ロータ軸に接触したりして、真空ポンプの故障を引き起こす可能性がある。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、ラジアル磁気軸受装置の円環状電磁石に配置されるボビンの鍔よりもロータ軸に近い部位が剥がれることを抑制できる真空ポンプおよびラジアル磁気軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記(1)に記載の発明により達成される。
【0010】
(1) 本発明に係る真空ポンプは、ロータ軸の径方向の外側に配置されて前記ロータ軸を回転可能に保持するラジアル磁気軸受装置と、少なくとも一部が前記ラジアル磁気軸受装置の前記径方向の内側に配置されて前記ラジアル磁気軸受装置に密着するモールド部と、を有する真空ポンプであって、前記ラジアル磁気軸受装置は、内周壁に前記ロータ軸の周方向へ所定の間隔を空けて複数のティースが設けられた円環状ステータコアと、前記複数のティースに各々が装着された複数のボビンおよび当該複数のボビンに巻かれた複数のコイル線を備えたコイル部と、を有する円環状電磁石を備え、前記複数のボビンは、外周に前記コイル線を巻かれ、かつ前記円環状ステータコアの内周側から前記複数のティースに被さって装着される矩形筒状のボビン本体と、前記ボビン本体の前記ロータ軸と対向する側の端部の外周面から立ち上がり、前記ロータ軸側からの正面視において矩形中空状に形成されている鍔部と、を備え、前記周方向に隣り合う前記複数のティースに装着された前記複数のボビンの前記周方向に隣り合う前記鍔部の側端面の少なくとも一方は、前記正面視において、前記鍔部間の前記周方向の隙間を増加させる連通部を有し、前記モールド部は、前記連通部を前記径方向へ貫通する貫通モールドと、前記貫通モールドよりも前記径方向の外側に配置されて前記貫通モールドと一体的に形成された外側モールドと、前記貫通モールドよりも前記径方向の内側に配置されて前記貫通モールドと一体的に形成された内側モールドと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記(1)に記載の真空ポンプは、モールド部の内側モールドが、鍔部に形成される連通部を通る貫通モールドによって外側モールドに強固に連結される。このため、本真空ポンプは、ラジアル磁気軸受装置の円環状電磁石に配置されるボビンの鍔よりもロータ軸に近い部位である内側モールドが剥がれることを抑制できる。
【0012】
(2) 上記(1)に記載の真空ポンプにおいて、前記円環状電磁石は、前記周方向に隣り合う一対の前記ティースおよび当該ティースに被さる前記コイル部により形成されるとともに、前記一対のティースの磁極が異なるように配置された複数の電磁石を有し、前記周方向に隣り合う前記電磁石間に、前記ロータ軸の径方向の変位を検出するラジアル方向変位検出部が配置され、同じ前記電磁石を形成する2つの前記鍔部の隣り合う側端面の少なくとも一方に前記連通部が形成され、前記ラジアル方向変位検出部を挟んで前記周方向に隣り合って異なる前記電磁石を形成する2つの前記ティースは、同じ磁極を有するように配置され、前記連通部は、前記ラジアル方向変位検出部を挟んで前記周方向に隣り合う前記鍔部の側端面に形成されず、同じ前記電磁石を形成する2つの前記鍔部の隣り合う側端面の少なくとも一方に形成されてもよい。これにより、同じ電磁石を形成して近接して配置される2つの鍔部の間では、剥がれやすくなる内側モールドの剥がれを抑制する連通部による貫通モールドが形成されるが、ラジアル方向変位検出部を挟んで離れて配置される2つの鍔部の間では、内側モールドの剥がれが生じにくいため、連通部が形成されず、連通部を鍔部の両側面端に形成する場合に比べボビンの強度低下を抑制できる。
【0013】
(3) 上記(1)または(2)に記載の真空ポンプにおいて、前記ロータ軸の軸方向への前記連通部の長さは、前記鍔部間の前記周方向への隙間の最小幅よりも長くてもよい。これにより、連通部を貫通する貫通モールドの強度は、連通部が設けられない場合と比較して高くなる。このため、本真空ポンプは、内側モールドが剥がれることを効果的に抑制できる。
【0014】
(4) 上記(1)または(2)に記載の真空ポンプにおいて、前記ロータ軸の軸方向への前記連通部の長さは、当該連通部が形成される位置における2つの前記鍔部間の周方向への隙間の幅よりも長くてもよい。これにより、連通部を貫通する貫通モールドの強度が高くなる。このため、本真空ポンプは、内側モールドが剥がれることを効果的に抑制できる。
【0015】
(5) 上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の真空ポンプにおいて、前記連通部は、前記鍔部の前記側端面に、前記ロータ軸の軸方向へ複数配置されてもよい。これにより、内側モールドは、複数の貫通モールドによって外側モールドに連結されるため、剥がれることを効果的に抑制できる。
【0016】
(6) 本発明に係るラジアル磁気軸受装置は、ロータ軸の径方向の外側に配置されて前記ロータ軸を回転可能に保持するラジアル磁気軸受装置であって、内周壁に前記ロータ軸の周方向へ所定の間隔を空けて複数のティースが設けられた円環状ステータコアと、前記複数のティースに各々が装着された複数のボビンおよび当該複数のボビンに巻かれた複数のコイル線を備えたコイル部と、を有する円環状電磁石を備え、前記複数のボビンは、外周に前記コイル線を巻かれ、かつ前記円環状ステータコアの内周側から前記複数のティースに被さって装着される矩形筒状のボビン本体と、前記ボビン本体の前記ロータ軸と対向する側の端部の外周面から立ち上がり、前記ロータ軸側からの正面視において矩形中空状に形成されている鍔部と、を備え、前記周方向に隣り合う前記複数のティースに装着された前記複数のボビンの前記周方向に隣り合う前記鍔部の側端面の少なくとも一方は、前記正面視において、前記鍔部間の前記周方向の隙間を増加させる連通部を有することを特徴とする。これにより、ラジアル磁気軸受装置は、円環状ステータコアの内側をモールド部により被覆された際に、鍔部よりも内側の内側モールドが、鍔部に形成される連通部を通る貫通モールドによって、鍔部よりも外側の外側モールドに強固に連結される。このため、ラジアル磁気軸受装置は、円環状電磁石に配置されるボビンの鍔よりもロータ軸に近い側に被覆される内側モールドが剥がれることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る真空ポンプの縦断面図である。
図2】アンプ回路の回路図である。
図3】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
図4】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
図5】ステータコラム、電装部およびモールド部を示す縦断面図である。
図6図5のA-A線に沿う横断面図である。
図7図6の一部を拡大して示す横断面図である。
図8図6のB-B線に沿う縦断面図である。
図9】ラジアル磁気軸受装置を示す斜視図である。
図10】ラジアル磁気軸受装置の電磁石の1つを円環状ステータコアの中心側から見た平面図である。
図11】ボビンを示す斜視図である。
図12】第1変形例のステータコラム、電装部およびモールド部を示す横断面図である。
図13】第1変形例のラジアル磁気軸受装置の電磁石の1つを円環状ステータコアの中心側から見た平面図である。
図14】変形例を示す平面図であり、(A)は第2変形例、(B)は第3変形例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法は、説明の都合上、誇張されて実際の寸法とは異なる場合がある。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
本発明の実施形態に係る真空ポンプ100は、高速回転する回転体の回転ブレードが気体分子を弾き飛ばすことによりガスを排気するターボ分子ポンプ100である。ターボ分子ポンプ100は、例えば半導体製造装置等のチャンバからガスを吸引して排気するために使用される。まず、ターボ分子ポンプ100の基本構成について説明する。
【0020】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を図1に示す。図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成したロータ103が備えられている。このロータ103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。ロータ103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0021】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定されたロータ103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0022】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0023】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0024】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0025】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0026】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0027】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0028】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0029】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0030】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0031】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0032】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ溝スぺーサ131(固定部材)が配設される。ネジ溝スぺーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、ロータ103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。ロータ103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ溝スぺーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ溝スぺーサ131の内周面と所定のギャップ量を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0033】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0034】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0035】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0036】
なお、上記では、ネジ溝スぺーサ131はロータ103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ溝スぺーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0037】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0038】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0039】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0040】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0041】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiClが使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ溝スぺーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0042】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0043】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を図2に示す。
【0044】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0045】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0046】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0047】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0048】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0049】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0050】
なお、ロータ103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力でのロータ103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0051】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0052】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0053】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0054】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0055】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0056】
<本実施形態>
次に、本実施形態に係る真空ポンプ100について説明する。真空ポンプ100は、図1および5に示すように、ロータ軸113の径方向(ラジアル方向)の外側に配置されて、ロータ軸113を回転可能に保持する2つのラジアル磁気軸受装置210を有する。真空ポンプ100は、ステータコラム122の内部に、電気機器および電子機器を含む電装部220と、電装部220を排気ガスに含まれる腐食性ガスから保護するモールド部300とを有する。
【0057】
ラジアル磁気軸受装置210の1つは、円環状電磁石230である上側径方向電磁石104を有してロータ軸113の上部を回転可能に支持し、ラジアル磁気軸受装置210の他の1つは、円環状電磁石230である下側径方向電磁石105を有してロータ軸113の下部を回転可能に支持している。なお、真空ポンプ100に設けられるラジアル磁気軸受装置210は、1つのみであってもよい。
【0058】
円環状電磁石230の各々は、図6~10に示すように、円環状ステータコア240と、円環状ステータコア240に装着される複数のコイル部250とを備える。
【0059】
円環状ステータコア240は、同形状の複数の電磁鋼板241(例えば珪素鋼板)を軸方向Zに積層して形成されている。円環状ステータコア240は、円環状の円環部242と、円環部242の内周壁243から円環状ステータコア240の中心O(ロータ軸113の中心Oでもある)へ向かって突出した複数のティース244とを有している。複数のティース244は、所定の間隔を空けて円環状ステータコア240の周方向C(ロータ軸113の周方向Cでもある)に並んで配置されている。ティース244の突出方向と垂直な断面の形状は、矩形である。各々のティース244には、コイル部250が装着される。
【0060】
コイル部250の各々は、ボビン251と、ボビン251の外周に複数回巻かれたコイル線252とを有する。
【0061】
ボビン251は、図7~11に示すように、コイル線252を巻かれるボビン本体253と、第1の鍔部254と、第2の鍔部255とを有している。ボビン251は、樹脂等の絶縁材により形成される。
【0062】
ボビン本体253は、ティース244を挿入可能な貫通孔256が形成された筒状体である。ボビン本体253は、貫通孔256の貫通方向と直交する断面形状が、ティース244の断面形状に対応して矩形状である。すなわち、ボビン本体253は、矩形筒状体(角筒)である。ボビン本体253の外周面には、コイル線252が複数回巻き付けられている。
【0063】
第1の鍔部(鍔部)254は、ボビン本体253の、円環状ステータコア240の中心O側に位置する端部に、ボビン本体253の外周面から外側(貫通孔256の軸心から離れる方向)へ向かって略直角に張り出すように突出して、平板状に形成されている。第1の鍔部254は、円環状ステータコア240の中心O側(ロータ軸113側)からの正面視で、貫通孔256が中心部で開口する矩形中空状に形成されている。この第1の鍔部254および第2の鍔部255は、巻かれたコイル線252を保持する役割を果たすため、平板状に形成された突出部分を大きくした方がコイル線252の巻き付け量を多くすることができる。
【0064】
第1の鍔部254は、周方向Cの両端に、側端面257が形成される。側端面257の各々は、ロータ軸113の軸方向Zに沿って延在する近接部258と、切り欠かれた2つの連通部259とを有している。なお、1つの側端面257に、1つの連通部259のみが形成されてもよく、または3つ以上が形成されてもよい。連通部259は、近接部258から所定の深さで切り欠かれて形成されている。ロータ軸113の周方向Cに並ぶ任意の2つのボビン251において、各々の第1の鍔部254の側端面257が、周方向Cへ隙間を有して隣接する。円環状ステータコア240の中心O側から見た正面視において、図10に示すように、隣接する2つの側端面257は、近接部258にて第1の隙間260を形成し、連通部259にて第2の隙間261を形成する。各々の円環状電磁石230は、円環状ステータコア240の内周壁243側からティース244に被せられるが、全てのティース244は、円環状ステータコア240の中心Oに向かって突出している。このため、隣り合う複数のティース244の各々にコイル部250を被せるためには、複数のコイル部250が干渉しないように配置される必要がある。そして、複数のコイル部250を干渉しないようにするために、周方向Cに隣り合う複数のボビン251は、第1の鍔部254が接触せずに離れていることが好ましい。しかしながら、周方向Cに隣り合う複数のボビン251の第1の鍔部254の間隔を広げるために第1の鍔部254の周方向Cの寸法を小さくしてしまうと、コイル線252の巻き付け量が少なくなってしまい、電磁石270としての性能(吸引力)が低下する可能性がある。
【0065】
よって、電磁石270としての性能を低下させないようにするためには、周方向Cに隣り合う複数のボビン251の第1の鍔部254は、干渉しない範囲で、なるべく寸法を大きくするように設定されることが好ましい。
【0066】
一方、周方向Cに隣り合う複数のボビン251の第1鍔部254の間隔を狭くした場合に、コイル部250をモールド部300で被覆する際、第1鍔部254の隙間を貫通する貫通モールド301の強度を十分に確保できず、第1鍔部254よりも内側の内側モールド303と第1鍔部254よりも外側の外側モールド302との連結が不十分となり、内側モールド303が剥がれてしまう虞がある。この課題を解決するために、連通部259が存在する。
【0067】
第1の隙間260は、周方向Cに隣り合う2つの第1の鍔部254の間で、最も狭い幅W1で形成される。軸方向Zの異なる位置に配置される第1の隙間260の各々の幅W1は、本実施形態では一致するが、異なってもよい。
【0068】
第2の隙間261は、周方向Cに隣り合う2つの第1の鍔部254の間で、第1の隙間260の周方向Cへの幅W1よりも広い幅W2で形成される。第2の隙間261の各々は、軸方向Zにおいて、2つの第1の隙間260に挟まれて形成される。すなわち、周方向Cに隣り合う複数の第1の鍔部254は、連通部259よりも上流側および下流側の両方に、第2の隙間261よりも狭い幅W1で形成された部位を有している。軸方向Zの異なる位置に配置される第2の隙間261の各々の幅W2は、本実施形態では一致するが、異なってもよい。
【0069】
第2の隙間261の軸方向Zへの長さL2は、第1の隙間260の周方向Cへの幅W1よりも長く、さらには、第2の隙間261の周方向Cへの幅W2よりも長い。第2の隙間261の軸方向Zへの長さL2が小さすぎる場合、後述する樹脂製のモールド部300が径方向へ貫通する連通部259を十分に確保することが困難である。これに対し、第2の隙間261の軸方向Zへの長さL2が第1の隙間260の周方向Cへの幅W1よりも長く、さらには第2の隙間261の周方向Cへの幅W2よりも長いことで、モールド部300が貫通する連通部259を十分に広く確保できる。その結果、連通部259を径方向へ貫通するモールド部300の強度を向上でき、かつモールド部300をモールド成形する前の溶融した樹脂の連通部259への通過性を向上できる。本実施形態では、第1の鍔部254の2つの側端面257は、面対称で形成されるが、面対称で形成されなくてもよい。
【0070】
1つの側端面257に形成される全ての第2の隙間261の軸方向Zへの長さL2の合計は、この側端面257の軸方向Zへの長さL1の半分以上であってもよいが、半分未満であってもよい。半分以上であれば、連通部259を径方向へ貫通するモールド部300の強度を向上でき、かつモールド部300をモールド成形する前の溶融した樹脂の連通部259への通過性を向上できる。また、連通部259は、軸方向Zにおける側端面257の中央付近に配置されることが好ましい。
【0071】
そして、図6~10に示すように、円環状電磁石230は、周方向Cに90度の間隔で均等に並ぶ4個の電磁石270を有している。4個の電磁石270は、図6に示すように、軸方向Zと垂直な面で直交するX軸およびY軸のぞれぞれで対をなすように配置されている。すなわち、対をなす2個の電磁石270は、X軸上の円環状電磁石230の中心Oを挟んで両側に配置される。そして、対をなす他の2個の電磁石270は、Y軸上の円環状電磁石230の中心Oを挟んで両側に配置される。なお、電磁石270の数は、4個でなくてもよい。
【0072】
各々の電磁石270は、同一の構造を有している。各々の電磁石270は、周方向Cに隣接する第1の電磁石271および第2の電磁石272を有する。第1の電磁石271および第2の電磁石272は、角度αで対称に形成される一軸の電磁石270である。図6~10に示すように、第1の電磁石271および第2の電磁石272の各々は、1つのティース244およびティース244に被さる1つのコイル部250により形成される。対をなす第1の電磁石271および第2の電磁石272は、異なる極性を有している。このような構成となるように、1つの電磁石270を構成するために隣り合う第1の電磁石271および第2の電磁石272の各々のコイル線252は、ティース244に対して逆方向に巻かれている。
【0073】
周方向Cに隣り合う異なる電磁石270間で隣り合う第1の電磁石271および第2の電磁石272は、同じ極性を有している。すなわち、周方向Cに隣り合う異なる電磁石270の境界に隣接する第1の電磁石271および第2の電磁石272は、同じ極性を有している。このような構成となるために、同じ極性を有して隣り合う第1の電磁石271および第2の電磁石272のコイル線252は、ティース244に対して同方向に巻かれている。これにより、隣り合う電磁石270から生じる磁束は相殺され、周方向Cに隣り合う異なる電磁石270の間では、磁束が低下する。
【0074】
モールド部300は、図5~8に示すように、ステータコラム122の内部で、電装部220の腐食性ガスに対する耐腐食性を向上せるためにモールド成形により形成される。モールド部300は、電装部220を被覆し、電装部220の隙間に充填されている。電装部220は、電気機器および電子機器を含む部位であり、本実施形態では、上側径方向センサ107(ラジアル方向変位検出部280)、上側径方向電磁石104(円環状電磁石230)、モータ121、下側径方向電磁石105(円環状電磁石230)および下側径方向センサ108(ラジアル方向変位検出部280)を含んでいる。モールド部300を成形する際には、モールド部300を充填する前に、ステータコラム122の内部に、ステータコラム122の下側の開口側から円柱状の入れ子(図示せず)を挿入する。次に、例えば熱硬化性エポキシ樹脂材を充填し、電装部220を被覆するとともに、ステータコラム122の内部に樹脂モールドの円筒状内周面を形成する。モールド成形作業の終了後、成形された樹脂モールドの円筒状内周面を切削加工して、上側径方向センサ107、上側径方向電磁石104、モータ121、下側径方向電磁石105および下側径方向センサ108の磁極を露出させる。なお、モールド部300の材料は、モールド成形できるのであれば、特に限定されない。
【0075】
モールド部300は、円環状電磁石230である上側径方向電磁石104および下側径方向電磁石105の各々の近傍に、周方向Cへ隣り合う2つの第1の鍔部254の間を径方向へ貫通する貫通モールド301および狭モールド304と、貫通モールド301および狭モールド304の径方向の外側に配置される外側モールド302と、貫通モールド301および狭モールド304の径方向の内側に配置される内側モールド303とを有する。
【0076】
狭モールド304は、狭い第1の隙間260を形成する近接部258を、ロータ軸113の径方向へ貫通している。貫通モールド301は、広い第2の隙間261を形成する連通部259を、ロータ軸113の径方向へ貫通している。
【0077】
内側モールド303は、図6~8に示すように、貫通モールド301および狭モールド304と一体的に形成されており、第1の鍔部254のロータ軸113に向かう面(円環状電磁石230の中心Oに向かう面)と、ティース244の第1の鍔部254よりも径方向の内側へ突出している部位の外周面とに密着している。
【0078】
外側モールド302は、貫通モールド301および狭モールド304と一体的に形成されており、第1の鍔部254の径方向外側の面と、コイル線252と、第2の鍔部255と、円環部242の内周壁243とに密着している。
【0079】
次に、本実施形態に係る真空ポンプ100の作用を説明する。
【0080】
本実施形態において、外側モールド302および内側モールド303は、隙間の狭い第1の隙間260を貫通する狭モールド304および隙間の広い第2の隙間261を貫通する貫通モールド301により一体的に成形されている。このため、内側モールド303は、貫通モールド301により外側モールド302に強固に連結されて、外側モールド302から剥がれにくい。また、モールド部300を成形する際に、周方向Cに隣り合う第1の鍔部254の間に広い第2の隙間261が形成されるために、第1の鍔部254の間に狭い第1の隙間260が形成されても、樹脂が狭い領域まで満遍なく充填されやすい。このため、モールド部300に充填不良が生じにくい。したがって、本真空ポンプ100は、モールド部300の強度の低下を抑制でき、かつ電装部220の耐腐食性の低下を抑制できる。
【0081】
以上のように、本実施形態に係る真空ポンプ100は、ロータ軸113の径方向の外側に配置されてロータ軸113を回転可能に保持するラジアル磁気軸受装置210と、少なくとも一部がラジアル磁気軸受装置210の径方向の内側に配置されてラジアル磁気軸受装置210に密着するモールド部300と、を有する真空ポンプ100であって、ラジアル磁気軸受装置210は、内周壁243にロータ軸113の周方向Cへ所定の間隔を空けて複数のティース244が設けられた円環状ステータコア240と、複数のティース244に各々が装着された複数のボビン251および当該ボビン251に巻かれた複数のコイル線252を備えたコイル部250と、を有する円環状電磁石230と、を備え、複数のボビン251は、外周にコイル線252を巻かれ、かつ円環状ステータコア240の内周側から複数のティース244に被さって装着される矩形筒状のボビン本体253と、ボビン本体253のロータ軸113と対向する側の端部の外周面から立ち上がり、ロータ軸113側からの正面視において矩形中空状に形成されている第1の鍔部254と、を備え、周方向Cに隣り合う複数のティース244に装着された複数のボビン251の周方向Cに隣り合う第1の鍔部254の側端面257の少なくとも一方は、正面視において、第1の鍔部254間の周方向Cの隙間を増加させる連通部259を有し、モールド部300は、連通部259を径方向へ貫通する貫通モールド301と、貫通モールド301よりも径方向の外側に配置されて貫通モールド301と一体的に形成された外側モールド302と、貫通モールド301よりも径方向の内側に配置されて貫通モールド301と一体的に形成された内側モールド303と、を有する。これにより、本実施形態に係る真空ポンプ100は、モールド部300の内側モールド303が、第1の鍔部254に形成される連通部259を通る貫通モールド301によって外側モールド302に強固に連結される。このため、本真空ポンプ100は、ラジアル磁気軸受装置210の円環状電磁石230に配置されるボビン251の第1の鍔254よりもロータ軸113に近い部位である内側モールド303が剥がれることを抑制できる。
【0082】
ロータ軸113の軸方向Zへの連通部259の長さL2は、第1の鍔部254間の周方向Cへの隙間の最小幅W1よりも長い。これにより、連通部259を貫通する貫通モールド301の強度は、連通部259が設けられない場合と比較して高くなる。このため、本真空ポンプ100は、内側モールド303が剥がれることを効果的に抑制できる。
【0083】
ロータ軸113の軸方向Zへの連通部259の長さL2は、当該連通部259が形成される位置における2つの第1の鍔部254間の周方向Cへの隙間の幅W2よりも長い。これにより、連通部259を貫通する貫通モールド301の強度が高くなる。このため、本真空ポンプ100は、内側モールド303が剥がれることを効果的に抑制できる。
【0084】
連通部259は、第1の鍔部254の側端面257に、ロータ軸113の軸方向Zへ複数配置される。これにより、内側モールド303は、複数の貫通モールド301によって外側モールド302に連結されるため、剥がれることを効果的に抑制できる。
【0085】
また、本実施形態におけるラジアル磁気軸受装置210は、ロータ軸113の径方向の外側に配置されてロータ軸113を回転可能に保持するラジアル磁気軸受装置210であって、内周壁243にロータ軸113の周方向Cへ所定の間隔を空けて複数のティース244が設けられた円環状ステータコア240と、複数のティース244に各々が装着された複数のボビン251および当該ボビン251に巻かれた複数のコイル線252を備えたコイル部250と、を有する円環状電磁石230を備え、複数のボビン251は、外周にコイル線252を巻かれ、かつ円環状ステータコア240の内周側から複数のティース244に被さって装着される矩形筒状のボビン本体253と、ボビン本体253のロータ軸113と対向する側の端部の外周面から立ち上がり、ロータ軸113側からの正面視において矩形中空状に形成されている第1の鍔部254と、を備え、周方向Cに隣り合う複数のティース244に装着された複数のボビン251の周方向Cに隣り合う第1の鍔部254の側端面257の少なくとも一方は、正面視において、第1の鍔部254間の周方向Cの隙間を増加させる連通部259を有する。これにより、ラジアル磁気軸受装置210は、円環状ステータコア240の内側をモールド部300により被覆された際に、第1の鍔部254よりも内側の内側モールド303が、第1の鍔部254に形成される連通部259を通る貫通モールド301によって、第1の鍔部254よりも外側の外側モールド302に強固に連結される。このため、ラジアル磁気軸受装置210は、円環状電磁石230に配置されるボビン251の第1の鍔254よりもロータ軸113に近い側に被覆される内側モールド303が剥がれることを抑制できる。
【0086】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更や組合せが可能である。例えば、図12および13に示す第1変形例のように、周方向Cに隣り合う電磁石270の間に、ロータ軸113の径方向の変位を検出するラジアル方向変位検出部280が配置されてもよい。第1変形例では、軸方向Zにおいてラジアル方向変位検出部280を電磁石270と同じ位置に配置できるため、真空ポンプ100の軸方向Zの寸法を削減できる。ラジアル方向変位検出部280は、公知の変位センサであり、例えば、インダクタンス型変位センサ等である。ラジアル方向変位検出部280の各々は、円環状ステータコア240の内周壁243から突出する2つの爪部281にセンサ用コイル282を巻いて形成された一対の磁極283、283を備えている。一対の磁極283、283は、センサ用コイル282が逆向きとなるように巻かれることで、異なる極性を有している。
【0087】
周方向Cに隣り合う電磁石270間で隣り合う第1の電磁石271および第2の電磁石272は、ロータ軸113側で同じ極性を有している。したがって、ラジアル方向変位検出部280の各々は、周方向Cに隣り合う同じ極性を有する第1の電磁石271および第2の電磁石272の間に配置される。これにより、ラジアル方向変位検出部280が配置される領域では、隣り合う電磁石270から生じる磁束が相殺されるため、ラジアル方向変位検出部280への電磁石270の磁束の影響が低減される。
【0088】
第1変形例では、ラジアル方向変位検出部280が軸方向Zにおいて電磁石270と同じ位置に配置されるため、同じ電磁石270を形成している第1の電磁石271および第2の電磁石272の周方向Cに隣り合う2つの第1の鍔部254の間の隙間を広く確保することが困難である。しかしながら、第1変形例では、隙間を広く確保することが困難な、周方向Cに隣り合う2つの第1の鍔部254の少なくとも一方の側端面257に連通部259が形成されるため、内側モールド303を貫通モールド301によって外側モールド302に強固に連結し、内側モールド303が剥がれることを抑制できる。また、モールド部300を成形する際に、隙間を広く確保することが困難な隣り合う2つの第1の鍔部254の間に広い流路を確保でき、樹脂を所望の範囲まで満遍なく充填させやすい。また、ラジアル方向変位検出部280を挟んで離れて配置される2つの第1の鍔部254の間では、十分な隙間を確保できるため、内側モールド303の剥がれが生じにくい。このため、ラジアル方向変位検出部280を挟む2つの第1の鍔部254に連通部259を形成する必要がなく、第1の鍔部254に連通部259を形成することによるボビン251の強度低下を防止できる。
【0089】
また、第1の鍔部254の連通部259は、第1の隙間260を広げることができれば構成は限定されない。したがって、例えば図14(A)に示す第2変形例のように、第1の鍔部254の連通部259は、円環状ステータコア240の中心O側から見て直線的な体ではなく、円弧状の体を有してもよい。すなわち、連通部259により形成される第2の隙間261の周方向Cへの幅は、軸方向Zに沿って変化してもよい。また、図14(B)に示す第3変形例のように、連通部259は、凹部ではなく段差により形成されてもよい。
【符号の説明】
【0090】
100 真空ポンプ
104 上側径方向電磁石(円環状電磁石)
105 下側径方向電磁石(円環状電磁石)
113 ロータ軸
122 ステータコラム
210 ラジアル磁気軸受装置
220 電装部
230 円環状電磁石
240 円環状ステータコア
241 電磁鋼板
242 円環部
243 内周壁
244 ティース
250 コイル部
251 ボビン
252 コイル線
253 ボビン本体
254 第1の鍔部(鍔部)
255 第2の鍔部
256 貫通孔
257 側端面
258 近接部
259 連通部
260 第1の隙間
261 第2の隙間
270 電磁石
271 第1の電磁石
272 第2の電磁石
280 ラジアル方向変位検出部
300 モールド部
301 貫通モールド
302 外側モールド
303 内側モールド
304 狭モールド
C 周方向
Z 軸方向
図1
図2
図3
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