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特開2024-124035ペロブスカイト型結晶およびペロブスカイト太陽電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124035
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ペロブスカイト型結晶およびペロブスカイト太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/368 20060101AFI20240905BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20240905BHJP
   H10K 30/50 20230101ALI20240905BHJP
   C07C 257/12 20060101ALN20240905BHJP
   C07C 239/08 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
H01L21/368 Z
H10K30/40
H10K30/50
C07C257/12
C07C239/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031926
(22)【出願日】2023-03-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2023年第70回応用物理学会 春季学術講演会講演予稿集,第11-197頁
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の新市場創造技術開発/移動体用太陽電池の研究開発(次世代モジュール技術開発)」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健志
(72)【発明者】
【氏名】長澤 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】榎本 健生
(72)【発明者】
【氏名】城戸 淳二
【テーマコード(参考)】
4H006
5F053
5F251
【Fターム(参考)】
4H006AA03
4H006AB92
5F053AA06
5F053DD20
5F053GG02
5F053LL05
5F053RR04
5F251AA11
5F251FA04
5F251FA06
5F251GA03
5F251XA01
5F251XA32
(57)【要約】
【課題】新規ペロブスカイト型結晶と、高い変換効率と光照射時の安定性を備えたペロブスカイト太陽電池を提供する。
【解決手段】FA1-zLAzPbI3(FAはホルムアミジニウムイオンを表し、LAはヒドロキシルアンモニウム系カチオンを表し、0≦z≦0.05である。)またはFA1-x-yxLAyPbI3(FAはホルムアミジニウムイオンを表し、Mは1価のカチオンを表し、LAはヒドロキシルアンモニウム系カチオンを表し、0<x≦0.05および0.01≦y≦0.05である。)で表される結晶構造を有するペロブスカイト型結晶。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FA1-zLAzPbI3(FAはホルムアミジニウムイオンを表し、LAはヒドロキシルアンモニウム系カチオンを表し、0≦z≦0.05である。)で表される結晶構造を有するペロブスカイト型結晶。
【請求項2】
FA1-x-yxLAyPbI3(FAはホルムアミジニウムイオンを表し、Mは1価のカチオンを表し、LAはヒドロキシルアンモニウム系カチオンを表し、0<x≦0.05および0.01≦y≦0.05である。)で表される結晶構造を有するペロブスカイト型結晶。
【請求項3】
少なくとも、基板と、透明電極と、正孔選択層と、請求項1または2に記載のペロブスカイト型結晶からなる活性層と、電子輸送層と、電子選択層と、電極とをこの順に有するペロブスカイト太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ペロブスカイトと、高い光電変換効率と光照射時の高い安定性を備えたペロブスカイト太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ペロブスカイト太陽電池の光電変換効率(PCE)は25.2%にまで上昇し、安定性も徐々に向上している。ペロブスカイト層は光吸収体として重要な役割を果たしているが、熱、温度および光の下で非常に反応性が高く、安定したペロブスカイト太陽電池の実現にはペロブスカイト層の安定化が重要である。従来の正孔輸送層にポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)、ペロブスカイト層にはメチルアンモニウムヨウ化鉛(MAPbI3)が使用した逆積層型ペロブスカイト太陽電池では安定性に課題があった。一方、最も安定なペロブスカイト材料の一つとして知られるCs0.05(FA0.85 MA0.150.95Pb(I0.85Br0.153でも、ホルムアミジニウム(FA)とメチルアミン(MA)は熱、湿度および光の下で反応性が高く、またセシウムもレアメタルのため、大規模生産に適さず、ペロブスカイトの品質を向上させるためにはさらなる改良が必要であった。
【0003】
例えば、混合カチオン組成のFA0.83Cs0.17PbI3ペロブスカイトにグアニジニウムイオン(Gu+)ドーパントを添加することで、ペロブスカイトの結晶性が向上して、Planar型太陽電池のエネルギー変換効率ならびに電流、電圧、およびヒステリシスの制御が向上することが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
ヨウ化鉛メチルアンモニウム(MAPbI3)のメチルアンモニウムイオンを有機アンモニウムカチオン(イミダゾリウム、ジメチルアンモニウムまたはグアニジウム)で20~30%置換することで、ハイブリッド有機-無機ペロブスカイトが高い安定性を有し、自触媒分解挙動を示すことが報告されている(非特許文献2)。
【0005】
非特許文献3では、ヨウ化フェニルエチルアンモニウムが(PEAI)がFAPbI3ペロブスカイトに内に入ると、FAPbI3の相空間を安定化して、太陽電池の光電変換効率(PCE)が17.7%を実現する混合カチオン組成のFAxPEA1-xPbI3ペロブスカイトが得られることが報告されている。
【0006】
ペロブスカイト太陽電池の実用化のためには、高効率化に加えて、光照射時の安定性、高温高湿下での耐久性など、各種の信頼性試験をクリアする必要があり、そのためのペロブスカイト太陽電池の組成や製法の開発が非常に重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ngoc Duy Pham et al., Advanced Functional Materials, 2019年、29巻、p. 1806479
【非特許文献2】Christie L. C. Ellis et al., Inorganic Chemistry, 2020年、59巻、p. 12176
【非特許文献3】Nan Li et al., Advanced Energy Materials, 2017年、7巻、p. 1601307
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新規ペロブスカイト型結晶と、高い光電変換効率と光照射時の安定性を備えたペロブスカイト太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の事項からなる。
〔1〕FA1-zLAzPbI3(FAはホルムアミジニウムイオンを表し、LAはヒドロキシルアンモニウム系カチオンを表し、0≦z≦0.05である。)で表される結晶構造を有するペロブスカイト型結晶。
〔2〕FA1-x-yxLAyPbI3(FAはホルムアミジニウムイオンを表し、Mは1価のカチオンを表し、LAはヒドロキシルアンモニウム系カチオンを表し、0<x≦0.05および0.01≦y≦0.05である。)で表される結晶構造を有するペロブスカイト型結晶。
〔3〕少なくとも、基板と、透明電極と、正孔選択層と、〔1〕または〔2〕に記載のペロブスカイト型結晶からなる活性層と、電子輸送層と、電子選択層と、電極とをこの順に有するペロブスカイト太陽電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、SAM/ペロブスカイト型結晶からなる層構造を導入することにより、発電特性と光安定性とを両立したペロブスカイト太陽電池を提供することができる。具体的には、ホルムアミジニウムイオン(FA)と、ヒドロキシルアンモニウム系カチオン(LA)とのミックスカチオンにより、ペロブスカイト太陽電池の構造が安定化され、光電変換効率17%を示し、大気下での連続光照射による耐久性についても、100時間経過後も初期の光電変換効率の75%を保持することができる。また、カリウムイオンとヒドロキシルアンモニウム系カチオン(LA)とによる結晶構造の相互作用の強化によって、ペロブスカイト型結晶では、結晶構造における相互作用が強化され、電圧掃引方向によるヒステリシスが低減し、ペロブスカイト太陽電池の信頼性が向上する。
【0011】
本発明により、逆積層ペロブスカイト太陽電池の応用先である、建材一体型太陽電池や、車載用有機太陽電池、農業用有機太陽電池等の設計自由度を上げ、光透過性と発電特性を両立させた逆積層ペロブスカイト太陽電池を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明のペロブスカイト太陽電池の一実施形態であるデバイス構造の概略断面図と、実施例1~4で使用したヒドロキシルアンモニウム系カチオン(ラージカチオン)の構造式を示す。
図2図2は、実施例1~4のペロブスカイト型結晶と参考例のペロブスカイト(コントロール)のX線回折(XRD)パターンを示す。
図3図3は、実施例1~4のペロブスカイト型結晶と参考例のペロブスカイト(コントロール)のSEM画像である。
図4図4は、実施例1~4(FA0.960.03LA0.01PbI3)のデバイスと参考例のデバイス(FAPbI3)の電流密度-電圧特性(J-V)を示す図である。図4中、fは順方向、rは逆方向の走査を示す。
図5図5は、実施例1~3(FA0.960.03LA0.01PbI3)のデバイスと参考例のデバイスに連続で光を照射したときの光電変換効率-時間の関係を示す図である。
図6図6は、比較例1~3(FA1-x-yxHoAyPbI3;x=0.03、y=0.01、0.02または0.05)のデバイスに光を照射したときの電流密度-電圧の関係(図6(a))と、比較例4~6(FA1-x-yxMoAyPbI3;x=0.03、y=0.01、0.02または0.05)のデバイスに光を照射したときの電流密度-電圧の関係(図6(b))を示す図である。図6中、fは順方向、rは逆方向の走査を示す。
図7図7は、実施例1(FA0.960.03N-MHoA0.01PbI3)および比較例4(FA0.960.03MoA0.01PbI3)のデバイスに連続で光を照射したときの電流密度-電圧の関係を示す図である。図7中、fは順方向、rは逆方向の走査を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
〔ペロブスカイト型結晶〕
本発明の一実施形態に係るペロブスカイト型結晶は、FA1-zLAzPbI3(FAはホルムアミジニウムイオンを表し、LAはヒドロキシルアンモニウム系カチオンを表し、0≦z≦0.05である。)で表される結晶構造を有する。
本発明の他の実施形態に係るペロブスカイト型結晶は、FA1-x-yxLAyPbI3(FAはホルムアミジニウムイオンを表し、Mは1価のカチオンを表し、LAはヒドロキシルアンモニウム系カチオンを表し、0<x≦0.05および0.01≦y≦0.05である。)で表される結晶構造を有する。
いずれの実施形態に係るペロブスカイト型結晶も、無機骨格(PbI3 -)と有機分子カチオン(FA1-zLAz +またはFA1-x-yxLAy +)とからなる。
【0014】
一実施形態であるFA1-zLAzPbI3において、FAはホルムアミジニウムイオンを表す。ホルムアミジニウムイオンは、例えば、ホルムアミジニウムヨージド(HC(=NH)NH2・HI)やホルムアミジニウムブロミド(HC(=NH)NH2・HBr)から、ヨウ化物イオン(I-)や臭化物イオン(Br-)が脱離したカチオン(H2+(=NH)NH2)である。ホルムアミジニウムイオンはペロブスカイト型結晶の熱安定性に寄与する成分である。
【0015】
LAはヒドロキシルアンモニウム系カチオンを表す。ヒドロキシルアンモニウム系カチオンはペロブスカイト型結晶の光安定性に寄与する成分である。LAは、原子スケールより大きく、LAとペロブスカイト型結晶とが接触する界面の構造を変化させる作用を有することから、ラージカチオンとも呼ばれる。なお、ヒドロキシルアンモニウム系カチオン(LA)は、ホルムアミジニウムイオン(FA)より大きなイオン半径を有し、カリウムイオンドープによるカリウムイオンより大きなイオン半径を有する。ヒドロキシルアンモニウム系カチオン(LA)は、ペロブスカイト型結晶においてカチオンとして作用する。
【0016】
ヒドロキシルアンモニウム系カチオンの具体例としては、下記構造式を有するヒドロキシルアミン化合物のRが水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、フェニル基、ベンジル基、ピロリル基、ピリジル基、フラニル基、チオフェニル基、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、ヒドロキシ基、シアノ基、スルホ基(-SO3H)、メルカプト基(-SH)、アミノ基(-NH2)、オキサホスホリンオキシド基(-PO2)、ホルミル基(-C(=O)H)、アセチル基(-C(=O)CH3)、メトキシカルボニル基(-C(=O)OCH3)、またはカルボキシ基(-CO2H)であり、かつ、アミノ基がプロトン化したものが挙げられる。
【化1】
【0017】
前記ヒドロキシルアミン化合物のうち、下記構造式を有する化合物がより好ましい。
【化2】
【0018】
これらのうち、特にN-メチルヒドロキシルアミン(N-MHoA)、N-イソプロピルヒドロキシルアミン(N-IpHoA)、N-(tert-ブチル)ヒドロキシルアミン(N-tBHoA)およびN-ベンジルヒドロキシルアミン(N-BzHoA)が好ましい。これらの化合物の構造式を以下に示す。
【化3】
【0019】
PbI3 -は大きな負電荷を持つ無機骨格である。ペロブスカイト型結晶中、PbI3 -が変形することで、熱による構造変化に起因する電荷の局在化が緩和される。
【0020】
一の実施形態に係るペロブスカイト型結晶の具体例は、FAPbI3、FA0.99N-MHoA0.01PbI3、FA0.99N-tBHoA0.01PbI3、FA0.99N-BzHoA0.01PbI3およびFA0.99N-IpHoA0.01PbI3等である。
【0021】
他の実施形態であるFA1-x-yxLAyPbI3において、Mは1価のカチオンを表す。
1価のカチオンは、カリウムイオン、ルビジウムイオン、およびセシウムイオンなどである。
FAおよびLAは、前記一の実施形態であるFA1-zLAzPbI3中のFAおよびLAと同じである。
他の実施形態に係るペロブスカイト型結晶は、FA1-x-yxLAyPbI3において、ホルムアミジニウムヨウ化鉛ペロブスカイト(FAPbI3)にヒドロキシルアンモニウム系カチオン(LA)が付加し、さらに1価のカチオン(M)がドープされた構造を有する。
【0022】
本発明の好ましいペロブスカイト型結晶は、ホルムアミジニウムイオン(FA)、カリウムイオン、ヒドロキシルアンモニウム系カチオン(LA)、およびPbI3からなる。特に、FA0.960.03N-MHoA0.01PbI3、FA0.960.03N-IpHoA0.01PbI3、FA0.960.03N-tBHoA0.01PbI3およびFA0.960.03N-BzHoA0.01PbI3が好ましい。
【0023】
本発明のペロブスカイト型結晶は、公知の方法により合成することができる。例えば、FA0.960.03N-MHoA0.01PbI3は、ホルムアミジンヨウ化水素酸塩(HC(=NH)NH2・HI)とメチルヒドロキシルアミン塩酸塩(CH3NH2OH・HCl)を反応させた前駆体に、ヨウ化鉛(II)(PbI2)を添加し、さらにヨウ化カリウム(KI)を添加することにより合成することができる。
【0024】
なお、ヒドロキシルアンモニウム系カチオン(LA)の出発物質には、ヒドロキシルアミン化合物のハロゲン化水素酸塩が用いられる。ハロゲン化水素酸塩は塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩などである。ヒドロキシルアミン化合物のハロゲン化水素酸塩の具体例は、N-メチルヒドロキシルアミン塩酸塩(N-MHoA・HCl)、N-イソプロピルヒドロキシルアミン塩酸塩(N-IpHoA・HCl)、N-(tert-ブチル)ヒドロキシルアミン塩酸塩(N-tBHoA・HCl)、およびN-ベンジルヒドロキシルアミン塩酸塩(N-BzHoA・HCl)などである。
【0025】
ペロブスカイト型結晶を構成するヨウ化物イオン(I-)の室温での拡散障壁は0.45eVである。一方、ホルムアミジニウムイオン(FA)およびヒドロキシルアンモニウム系カチオン(LA)ともその拡散障壁は0.57~0.61eV程度であるから、ペロブスカイト構造内の空孔を介して、ヨウ化物イオン(I-)だけでなく、ホルムアミジニウムイオン(FA)およびヒドロキシルアンモニウム系カチオン(LA)が容易に拡散される。これらのカチオンは、ペロブスカイト構造のカチオンサイト内で回転したり、空孔を介して隣りのカチオンサイトに移動したりし、発電時に電場の誘起を促進すると考えられる。つまり、ペロブスカイト型結晶を構成するFALA、Iの各サイトのイオンを混合することで高いエネルギー変換効率が得られる。よって、本発明のペロブスカイト型結晶は、ペロブスカイト太陽電池の光電変換層となる活性層5の材料として好適である。ペロブスカイト型結晶を活性層5の材料として使用することで、ペロブスカイト太陽電池の耐久性および安定性が向上する。
【0026】
[ペロブスカイト太陽電池]
本発明のペロブスカイト太陽電池は、少なくとも、基板と、透明電極と、正孔選択層と、ペロブスカイト型結晶からなる活性層と、電子輸送層と、電子選択層と、対電極とをこの順に有する。
前記ペロブスカイト太陽電池1は、基板2の上に透明電極3、正孔選択層4、ペロブスカイト型結晶からなる活性層5、電子輸送層6、電子選択層7および対電極8が積層されている。図1は、本発明のペロブスカイト太陽電池の一実施形態である。
【0027】
ペロブスカイト太陽電池1に光が照射されると、ペロブスカイト型結晶からなる活性層5(以下単に「活性層5」という。)が光を吸収し、励起された電子と正孔とを発生させる。活性層5で生じた正孔は、前記透明電極3に移動する。一方、励起された電子は、前記対電極8に移動する。これにより、ペロブスカイト太陽電池1は正極としての透明電極3と、負極としての対電極8とから、電流を取り出すことができる。なお、前記ペロブスカイト太陽電池1は、極めて安定性が高く、長時間の使用に耐えうる逆積層型である。
【0028】
基板2は、ペロブスカイト太陽電池において、光が入射される側に配置される。光電変換効率の観点から、基板2は、ガラス、樹脂、または有機系物質などでできた絶縁性の透明基板であることが好ましい。なお、透明基板とは透光性のある電極である。「透明」とは、JISK 7361-1:1997の規格に準拠した光透過率が50%以上であるものをいう。
【0029】
基板2の表面には、正極となる透明電極3が設けられる。透明電極3には、例えば、フッ素添加酸化スズ(FTO)、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、アルミニウム添加酸化亜鉛(AZO)、ガリウム添加酸化亜鉛(GZO)および酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO)などの透明電極材料が用いられる。これらのうち、FTOおよびITOなどは、導電性を有するとともに、基板2の透明性を阻害しない点で好ましい。
【0030】
透明電極3は、スパッタリング法、熱蒸着法、メッキ法またはスプレー熱分解法などによって成膜する。必要に応じて、透明電極を所望の形状にパターニング(エッチング)してもよい。
【0031】
基板2の上に設けられた透明電極3の表面には、正孔選択層4が設けられる。
正孔選択層4は、自己組織化単分子膜(SAM)であることが好ましい。SAMは、吸着基を有する有機化合物と無機材料とからなり、有機化合物が吸着基を介して無機材料に吸着する機構において、単分子の層のみが自己組織化された層である。
具体的には、[2-(3,6-ジメトキシ-9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸(MeO-2PACz)、[2-(9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸(2PACz)、[2-(3,6-ジブロモ-9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸(Br-2PACz)、[2-(3,6-ジメチル-9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸(Me-2PACz)、[4-(9H-カルバゾール-9-イル)ブチル]ホスホン酸(4PACz)および[4-(3,6-ジメチル-9H-カルバゾール-9-イル)ブチル]ホスホン酸(Me-4PACz)などが挙げられる。
【0032】
正孔選択層4は、SAMのみで形成されていてもよいし、正孔選択層4と活性層5との間に、SAMと他の材料からなる層とで形成されていてもよい。
他の材料は、例えば、モリブデン、タングステン、バナジウム、ニッケルおよびレニウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属の酸化物;PEDOT:PSS;ならびにトリフェニルアミンまたはカルバゾールなどのアリールアミン骨格を有する導電性有機化合物などである。
【0033】
正孔選択層4がSAMを含むことにより、正孔選択層4を形成する材料界面の電位障壁が小さくなり、HOMOへの正孔注入が容易となるため、連続的な光照射によっても正孔選択層4と活性層5との界面での大きな準位のミスマッチを低減することができる。その結果、短絡電流密度(JSC)の減衰が抑制され、ペロブスカイト太陽電池1の耐久性が向上する。
【0034】
正孔選択層4の厚みは、通常は1~2000nm、好ましくは1~1000nm、より好ましくは1~500nmである。正孔選択層4の厚みが前記範囲内であれば、正孔輸送の際に抵抗になり難く、光電変換効率が高くなる。
【0035】
活性層5は光電変換層ともいう。本発明に係る活性層5はペロブスカイト型結晶からなる。ペロブスカイト型結晶に光が吸収されると、励起子が発生し、正孔と電子とに電荷分離する。
【0036】
正孔選択層4において、SAM、例えば、MeO-2PACzを用いた場合、ヒドロキシルアンモニウム系カチオン(LA)はMeO-2PACzの分解を抑え、安定化する働きをする。正孔選択層4の機能が安定化すると、ペロブスカイト太陽電池1の光照射時の安定性が大幅に向上する。また、MeO-2PACzが安定化することで、活性層5を形成するペロブスカイト型結晶の正八面体構造が安定化される。ヒドロキシルアンモニウム系カチオン(LA)によるペロブスカイト太陽電池1の信頼性向上は顕著であるから、ヒドロキシルアンモニウム系カチオン(LA)がSAMおよびペロブスカイト型結晶の表面の不活性化に寄与しているといえる。
【0037】
活性層5は、例えば、ホルムアミジンヨウ化水素酸塩(HC(=NH)NH2・HI)、ヨウ化カリウム(KI)およびヒドロキシルアミン化合物をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)およびジメチルスルホキシド(DMSO)の混合溶媒に溶かした溶液をスピンコートすることにより形成することができる。
【0038】
ペロブスカイト型結晶を形成するカリウムイオン、ヒドロキシルアンモニウム系カチオン(LA)、およびPbI3の比率は、モル比で、カリウムイオン:ヒドロキシルアンモニウム系カチオン(LA):PbI3=1~15:1~15:80~98、好ましくは1~3:1~5:93~96である。
【0039】
活性層5を形成するペロブスカイト型結晶の膜質は、X線回折(XRD)による構造解析、UV-vis吸収スペクトル測定、および、走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)を用いた観察により評価する。
カリウムイオン、ヒドロキシルアンモニウム系カチオン(LA)、およびPbI3を前記した比率で有するペロブスカイト型結晶を活性層5に用いることで、ペロブスカイト太陽電池1の光電変換効率を向上させることができる。
【0040】
活性層5の厚みは、通常は50~1000nm、好ましくは300~600nmである。活性層5の厚みが前記範囲内であれば、正孔輸送の際に抵抗になり難く、光電変換効率が高くなる。
【0041】
電子輸送層6および電子選択層7に用いる材料としては、バソキュプロイン(BCP)などのフェナントロリン誘導体、フラーレン(C60)、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、およびペリレンテトラカルボン酸ジイミドなどのn型半導体材料;アミン系シランカップリング剤のようなアミン化合物;ならびに酸化チタン(TiOx)、酸化亜鉛(ZnO)、および酸化ガリウム(III)(Ga23)などのn型無機酸化物である。
【0042】
電子輸送層6および電子選択層7の厚さは、通常5~5000nmである。漏電防止の観点からは、5~1000nmが好ましく、高透過率および低抵抗を維持する観点からは、5~150nmがより好ましい。
【0043】
正孔選択層4、活性層5、電子輸送層6および電子選択層7の形成には、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、および分子線エピタキシー法などのドライプロセス;スピンコート法、ディップ法、およびラングミュア-ブロジェット法(LB法)などのウェットプロセスが用いられる。成膜の容易性の点から、スピンコート法などのウェットプロセスが好ましい。
【0044】
対電極8は負極である。対電極8には、亜鉛、白金、金、銀、銅およびアルミニウムなどの金属、ならびに酸化スズ(IV)(SnO2)、酸化カドミウム(CdO)およびZnOなどの金属酸化物が用いられる。
【0045】
対電極8は、例えば、貼り合わせ、スパッタリング法、化学蒸着法(CVD)法、スプレー熱分解堆積法(SPD)および塗布法(例えば、ディッピングおよびスピンコートなど)により形成される。
【実施例0046】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0047】
[実施例1~4]
ITO/ガラス基板をイソプロパノール、アセトン、純水中で1時間超音波洗浄した後、窒素フローで乾燥させ、紫外線で30分間処理した。次いで、ITO/ガラス基板上に、3000rpmで30秒間、スピンコートによりMeO-2PACzを成膜し、100℃で10分間加熱した。
ヨウ化鉛(II)(PbI2)(1.48M)とホルムアミジンヨウ化水素酸塩(HC(=NH)NH2・HI)(1.48M)をDMFおよびDMSOの混合溶剤(DMF:DMSO=4:1、vol/vol)に溶解し、さらにヒドロキシルアミン系化合物の塩酸塩(1.48M)1~10μlおよびヨウ化カリウム(KI)(1.48M)1~10μlを添加した。この混合溶液をMeO-2PACz上に1000rpmで10秒間スピンコートした後、6000rpmで30秒間スピンコートした。スピンコート開始から15秒後、クロロベンゼンを150μl滴下し、その後、基板を150℃で30分間加熱し、暗色のペロブスカイト型結晶を成膜した。
【0048】
ヒドロキシルアミン系化合物の塩酸塩としては、N-メチルヒドロキシルアミン(N-MHoA)塩酸塩(実施例1)、N-イソプロピルヒドロキシルアミン(N-IpHoA)塩酸塩(実施例2)、N-(tert-ブチル)ヒドロキシルアミン(N-tBHoA)塩酸塩(実施例3)、およびN-ベンジルヒドロキシルアミン(N-BzHoA)塩酸塩(実施例4)を用いた。
【0049】
図2に、実施例1~4のペロブスカイト型結晶のX線回折(XRD)パターンを示す。いずれも、FAPbI3(コントロール)と同様、光起電力的に活性な黒色相(α相)が14°に観察された。太陽電池特性には好ましくない11.8°の黄色相(δ相)への変換は認められなかった。
【0050】
次いで、20nmのC60、8nmのBCP、および70nmのAg電極を高真空下で順次蒸着した。
得られたペロブスカイト太陽電池のデバイス構造(基板2 / 透明電極3 / 正孔選択層4 / 活性層5 / 電子輸送層6/ 電子選択層7 / 対電極8)は以下のとおりである。
ガラス / ITO / MeO-2PACz/ FA0.960.03LA0.01PbI3 / C60(20nm)/ BCP(8nm) / Ag(70nm)
なお、FA0.960.03LA0.01PbI3 中、FAはホルムアミジニウムイオン、LAはN-MHoA+(実施例1)、N-IpHoA+(実施例2)、N-tBHoA+(実施例3)またはN-BzHoA+(実施例4)を表す。かっこ内の数値(nm)は層の厚みを表す。
【0051】
ペロブスカイト太陽電池断面のSEM像を図3に示す。実施例1~4のペロブスカイト型結晶からなる活性層5では、膜厚方向に、粒径400μm程度の比較的揃った結晶粒塊からなる構造が形成されていた。
【0052】
太陽電池特性および連続光照射下(1 Sun)での経時変化を測定した。デバイスに連続で光照射したときの光電変換効率-時間の関係を図5に示す。図5に示すように、ペロブスカイト層にヒドロキシルアンモニウム系カチオン(LA)を含む実施例1~3の組成では、16~17%を超える光電変換効率が得られた。連続光照射下(1Sun)での経時変化を測定したところ、約100時間経過後でも、初期変換効率の70%を保持しており、安定性が大きく向上していた。
図4にデバイスの電流密度-電圧特性(J-V)の関係を示す。カリウムイオンとヒドロキシルアンモニウム系カチオン(LA)の添加により、実施例1~4では、短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、曲線因子(FF)のばらつきが少なく、発電特性の再現性に優れることが分かった。特に実施例4のFA0.960.03N-BzHoA0.01PbI3に関して、J-V曲線において順方向および逆方向の電圧掃引から見積もられたPCEはそれぞれ17.37%(順方向)、17.49%(逆方向)であり、このときのヒステリシスインデックス(H-index)は0.68%であった。
【0053】
[参考例]
FAPbI3を用いた対照デバイス(コントロール)を作製した。
図3のSEM像は、FAPbI3を用いた対照デバイスの活性層は、大小様々の混粒状態にあることを示していた。
【0054】
図4にデバイスの電流密度-電圧の関係を示す。参考例のデバイスは、順方向と逆方向の掃引で異なるヒステリシスを生じ、実施例1~4に比べて、再現性に劣っていた。
【0055】
実施例1~4および参考例のペロブスカイト太陽電池の出力特性(Jsc、Voc、FF、PCEおよびH-index)を表1に示す。
【表1】
【0056】
表1が示すように、実施例1~4のように、ホルムアミジニウムイオンとヒドロキシルアンモニウム系カチオンとの両方のカチオンを含むカリウム添加ペロブスカイトを使用したデバイスでは、参考例の対照デバイス(control)と比較して、光電変換効率が向上した。例えば、ヒドロキシルアンモニウム系カチオンとして、N-ベンジルヒドロキシルアンモニウムイオン(N-BzHoA+)を使用した実施例4のデバイスでは、良好な光電変換効率(17~18%)を示した。ヒドロキシルアンモニウム系カチオンによって、ペロブスカイト構造内での相互作用が強化され、大気下での光に対する安定性が向上することが分かった。その結果、従来のようにメチルアンモニウムやセシウムといった材料を使用せず、ペロブスカイト膜の安定性や光照射に対するデバイスの安定性を向上させ、発電特性と光安定性とを両立したペロブスカイト太陽電池を提供できることが分かった。
【0057】
[比較例1~6]
比較例1としてFA0.960.03HoA0.01PbI3、比較例2としてFA0.950.03HoA0.02PbI3、比較例3としてFA0.920.03HoA0.05PbI3を用いてデバイスを作製した。比較例1~3のデバイスの電流密度-電圧の関係(I-V特性)を図6(a)に示す。
比較例4としてFA0.960.03MoA0.01PbI3、比較例5としてFA0.950.03MoA0.02PbI3、比較例6としてFA0.920.03MoA0.05PbI3を用いてデバイスを作製した。比較例4~6のデバイスのI-V測定の結果を図6(b)に示す。
【0058】
実施例1(FA0.960.03N-MHoA0.01PbI3)のデバイスおよび比較例4(FA0.960.03MoA0.01PbI3)のデバイスに連続で光を照射したときのI-V測定の結果を図7に示す。
実施例1のデバイスでは高い変換効率を示していたのに対して、比較例4のデバイスではヒステリシスを伴うI-V特性を示していた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のペロブスカイト太陽電池は、光透過性と発電特性とを両立するため、建材一体型太陽電池、車載用有機太陽電池、または農業用有機太陽電池などに好適に利用される。
【符号の説明】
【0060】
1 ペロブスカイト太陽電池
2 基板
3 透明電極
4 正孔選択層
5 ペロブスカイト型結晶からなる活性層
6 電子輸送層
7 電子選択層
8 対電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7