(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124061
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 107/02 20060101AFI20240905BHJP
C10M 101/02 20060101ALI20240905BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20240905BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20240905BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240905BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
C10M107/02
C10M101/02
C10N20:02
C10N40:25
C10N30:00 Z
C10N30:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031971
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】小山 成
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104DA02A
4H104EA02A
4H104LA03
4H104LA20
4H104PA41
(57)【要約】
【課題】寿命性能、信頼性能、および効率性能を向上できる潤滑油組成物の提供。
【解決手段】本発明の潤滑油組成物は、(A)潤滑油基油として、100℃における動粘度が5mm2/s以上30mm2/s以下のポリα-オレフィン含有合成系基油、およびグループIII基油と、(B)性能向上添加剤とを含むことを特徴とするものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)潤滑油基油として、100℃における動粘度が5mm2/s以上30mm2/s以下のポリα-オレフィン含有合成系基油、およびグループIII基油と、
(B)性能向上添加剤と、
を含む、潤滑油組成物。
【請求項2】
前記グループIII基油の100℃における動粘度が3.0mm2/s以上9.0mm2/s以下である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記ポリα-オレフィン含有合成系基油と前記グループIII基油の配合比が、10:90~90:10である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が9.3mm2/s以上12.5mm2/s未満である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記潤滑油組成物の粘度指数が、120以上160以下である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
(B)性能向上添加剤が、(B1)金属系清浄剤を含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
(B)性能向上添加剤が、(B2)無灰分散剤を含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
(B)性能向上添加剤が、(B3)酸化防止剤を含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
(B)性能向上添加剤が、(B4)摩耗防止剤を含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
ガスエンジン用である、請求項1~9のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、詳細には、ガスエンジン用の潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスエンジンコージェネレーションシステムは、ガスエンジンによって発電し、排熱をエネルギーとして利用するシステムである。ここでいう「ガス」とは、天然ガス、都市ガスのことを指す。
近年、ガスコージェネレーションシステムは、高効率化(コンパクト化、高出力化)が急務となっている。そのため、ハード側だけでなく使用する潤滑油(エンジン油)側からの対策も多く検討されている。具体的には製品粘度の低減(低粘度化)による粘性抵抗削減(低フリクション化)やトラクション性能の改善(高圧下における低摩擦化)などが挙げられる。
【0003】
特許文献1では、トラクション性能を改善し、燃料効率を向上させるために、2種の異なるベースオイル:100℃で2mm2/秒以上12mm2/秒以下の動粘度を有し、グループI、グループII、グループIII、グループIVもしくはグループVベースオイルからなる群から選択される1種以上の油である第1ベースオイルと、100℃で少なくとも38mm2/秒の動粘度を有するグループIVベースオイルから選択される1種以上の油から選択される第2ベースオイルとの二峰性ブレンドを含むベースオイルであって、第1ベースオイルと第2ベースオイルの間の動粘度の差は、少なくとも30mm2/秒であるものを用いた潤滑油組成物が提案されている。しかし、潤滑油組成物の製品粘度を低粘度化するために、低粘度基油を使用しなければならず、それによりオイル消費増、信頼性低下を招く恐れがあった。
【0004】
また、潤滑油組成物は一定の高温環境にさらされるので、潤滑油の寿命は多くの場合その酸化安定性によって制限される。さらに、潤滑油組成物は、窒素酸化物(NOx)の高排出とともに作動するので、潤滑油組成物の寿命はその耐硝化性によって制限される可能性がある。そのため、寿命性能に優れた潤滑油組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、製品を低粘度化しつつ、寿命性能、信頼性能、および効率性能をバランスよく向上できる潤滑油組成物が求められている。したがって、本発明の目的は、寿命性能、信頼性能、および効率性能をバランスよく向上できる潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、潤滑油組成物において、(A)潤滑油基油として、100℃における動粘度が5mm2/s以上30mm2/s以下のポリα-オレフィン含有合成系基油、およびグループIII基油と、(B)性能向上添加剤とを配合することにより、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] (A)潤滑油基油として、100℃における動粘度が5mm2/s以上30mm2/s以下のポリα-オレフィン含有合成系基油、およびグループIII基油と、
(B)性能向上添加剤と、
を含む、潤滑油組成物。
[2] 前記グループIII基油の100℃における動粘度が3.0mm2/s以上9.0mm2/s以下である、[1]に記載の潤滑油組成物。
[3] 前記ポリα-オレフィン含有合成系基油と前記グループIII基油の配合比が、10:90~90:10である、[1]または[2]に記載の潤滑油組成物。
[4] 前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が9.3mm2/s以上12.5mm2/s未満である、[1]~[3]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[5] 前記潤滑油組成物の粘度指数が、120以上160以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[6] (B)性能向上添加剤が、(B1)金属系清浄剤を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[7] (B)性能向上添加剤が、(B2)無灰分散剤を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[8] (B)性能向上添加剤が、(B3)酸化防止剤を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[9] (B)性能向上添加剤が、(B4)摩耗防止剤を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[10] ガスエンジン用である、[1]~[9]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明による潤滑油組成物は、寿命性能、信頼性能、および効率性能をバランス良く向上させることができる。このような潤滑油組成物は、これらの性能が要求されるガスエンジン用として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[潤滑油組成物]
本発明による潤滑油組成物は、少なくとも、(A)潤滑油基油と、(B)性能向上添加剤とを含むものであり、その他の添加剤をさらに含んでもよい。本発明による潤滑油組成物は、寿命性能、信頼性能、および効率性能をバランス良く向上させることができる。このような潤滑油組成物は、ガスエンジン用に好適に用いることができる。
【0011】
[潤滑油組成物の物性]
潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは9.3mm2/s以上12.5mm2/s未満であり、より好ましくは9.4mm2/s以上12.0mm2/s以下であり、さらに好ましくは9.5mm2/s以上11.5mm2/s以下である。潤滑油組成物の100℃における動粘度が上記数値範囲内であれば、従来のガスコージェネレーション用潤滑油よりも製品粘度を低粘度することができ、十分な省燃費性が得られる。
なお、本明細書において「100℃における動粘度」とは、JIS K 2283-2010に準拠して測定された100℃での動粘度を意味する。
【0012】
潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは40mm2/s以上100mm2/s以下であり、より好ましくは45mm2/s以上90mm2/s以下であり、さらに好ましくは50mm2/s以上80mm2/s以下である。潤滑油組成物の40℃における動粘度が上記数値範囲内であれば、従来のガスコージェネレーション用潤滑油よりも製品粘度を低粘度することができ、十分な省燃費性が得られる。
なお、本明細書において「40℃における動粘度」とは、JIS K 2283-2010に準拠して測定された40℃での動粘度を意味する。
【0013】
潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは120以上160以下であり、より好ましくは125以上155以下であり、さらに好ましくは130以上150以下である。潤滑油組成物の粘度指数が上記数値範囲内であれば、実使用温度域での粘度を従来のガスコージェネレーション用潤滑油よりも低粘度することができ、十分な省燃費性が得られる。
なお、本明細書において「粘度指数」とは、JIS K 2283-2010に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0014】
以下、本発明による潤滑油組成物を構成する各成分について詳述する。
【0015】
[(A)潤滑油基油]
本発明による潤滑油組成物は、潤滑油基油として、ポリα-オレフィン含有合成系基油と、API基油分類のグループIII基油とを含むものである。
【0016】
(ポリα-オレフィン(PAO)含有合成系基油)
ポリα-オレフィン含有合成系基油としては、典型的には、炭素数2以上32以下、好ましくは炭素数6以上16以下のα-オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー(1-オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンコオリゴマー等)およびそれらの水素化生成物が挙げられる。ポリα-オレフィンの製法は特に制限されないが、例えば、三塩化アルミニウムまたは三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸またはエステルとの錯体を含む触媒のような重合触媒の存在下、α-オレフィンを重合する方法が挙げられる。ポリα-オレフィン(PAO)含有合成系基油は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
ポリα-オレフィン含有合成系基油の100℃における動粘度は、5mm2/s以上30mm2/s以下であり、より好ましくは6mm2/s以上25mm2/s以下であり、さらに好ましくは7mm2/s以上20mm2/s以下である。ポリα-オレフィン含有合成系基油の100℃における動粘度が上記数値範囲内であれば、当該基油使用による低トラクション化と低粘度化を両立することができ、十分な省燃費性が得られる。
【0018】
ポリα-オレフィン含有合成系基油の40℃における動粘度は、好ましくは20mm2/s以上500mm2/s以下であり、より好ましくは30mm2/s以上450mm2/s以下であり、さらに好ましくは40mm2/s以上400mm2/s以下である。ポリα-オレフィン含有合成系基油の40℃における動粘度が上記数値範囲内であれば、当該基油使用による低トラクション化と低粘度化を両立することができ、十分な省燃費性が得られる。
【0019】
ポリα-オレフィン含有合成系基油の粘度指数は、好ましくは100以上であり、より好ましくは110以上であり、さらに好ましくは120以上であり、また、200以下であってもよく、180以下であってもよく、160以下であってもよい。ポリα-オレフィン含有合成系基油の粘度指数が上記数値範囲内であれば、潤滑油組成物の粘度-温度特性が良好となり、当該基油使用による低トラクション化と低粘度化を両立することができ、十分な省燃費性が得られる。
【0020】
(グループIII基油)
API基油分類のグループIII基油とは、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、かつ粘度指数が120以上の鉱油系基油である。本発明において、グループIII基油としては、特に限定されず、従来公知のグループIII基油を用いることができる。グループIII基油は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
グループIIIの鉱油系基油としては、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの1種もしくは2種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られる、パラフィン系またはナフテン系などの鉱油系基油を挙げることができる。APIグループIII基油は、通常、水素化分解プロセスを経て製造される。
【0022】
グループIII基油の100℃における動粘度は、3.0mm2/s以上9.0mm2/s以下であり、より好ましくは3.5mm2/s以上8.5mm2/s以下であり、さらに好ましくは4.0mm2/s以上8.0mm2/s以下である。グループIII基油の100℃における動粘度が上記数値範囲内であれば、従来のガスコージェネレーション用潤滑油よりも製品粘度を低粘度することができ、十分な省燃費性が得られる。
【0023】
グループIII基油の40℃における動粘度は、好ましくは10mm2/s以上100mm2/s以下であり、より好ましくは12mm2/s以上80mm2/s以下であり、さらに好ましくは15mm2/s以上60mm2/s以下である。グループIII基油の40℃における動粘度が上記数値範囲内であれば、従来のガスコージェネレーション用潤滑油よりも製品粘度を低粘度することができ、十分な省燃費性が得られる。
【0024】
グループIII基油の粘度指数は、好ましくは100以上であり、より好ましくは110以上であり、さらに好ましくは120以上であり、また、200以下であってもよく、180以下であってもよく、160以下であってもよい。グループIII基油の粘度指数が上記数値範囲内であれば、潤滑油組成物の粘度-温度特性が良好となり、十分な省燃費性が得られる。
【0025】
上記ポリα-オレフィン含有合成系基油と上記グループIII基油の配合比は、質量基準で、好ましくは10:90~90:10であり、より好ましくは20:80~80:20であり、さらに好ましくは30:70~70:30である。上記配合比が上記数値範囲内であれば、低トラクション化と低粘度化を両立することができ、十分な省燃費性が得られる。
【0026】
潤滑油組成物における潤滑油基油の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、また、好ましくは98質量%以下である。
【0027】
[(B)性能向上添加剤]
性能向上添加剤としては、(B1)金属系清浄剤、(B2)無灰分散剤、(B3)酸化防止剤、(B4)摩耗防止剤等を挙げることができる。これらの性能向上添加剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
潤滑油組成物中の性能向上添加剤の含有量は、潤滑油基油100質量部に対して、好ましくは1質量部以上20質量部以下であり、より好ましくは2質量部以上15質量部以下である。
【0029】
[(B1)金属系清浄剤]
金属系清浄剤としては、アルカリ土類金属系清浄剤を用いることが好ましい。アルカリ土類金属系清浄剤としては、例えば、フェネート系清浄剤、スルホネート系清浄剤、サリシレート系清浄剤を挙げることができる。また、これらの清浄剤は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお本明細書において、「アルカリ土類金属」にはマグネシウムも包含されるものとする。
【0030】
フェネート系清浄剤としては、以下の一般式(1)で示される構造を有する化合物のアルカリ土類金属塩の過塩基性塩を好ましく例示できる。アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウム等が挙げられ、これらの中でもカルシウムまたはマグネシウムが好ましい。
【0031】
【化1】
一般式(1)中、R
1は直鎖もしくは分岐鎖、飽和もしくは不飽和のアルキル基またはアルケニル基を表し、mは重合度であり、Aはスルフィド(-S-)基またはメチレン(-CH
2-)基を表し、xは1以上3以下の整数を表す。なお、R
1は2種以上の異なる基の組み合わせであってもよい。一般式(1)におけるR
1の炭素数は、6以上21以下であり、好ましくは9以上18以下であり、より好ましくは9以上15以下である。R
1の炭素数が上記数値範囲内であることにより、溶解性や耐熱性を高めることができる。また、一般式(1)における重合度mは、1以上10以下の整数であり、好ましくは1以上4以下である。重合度mが上記数値範囲内であることにより、耐熱性を高めることができる。
【0032】
スルホネート系清浄剤としては、アルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩またはその塩基性塩もしくは過塩基性塩、即ち以下の一般式(2)で示される構造を有する化合物の塩基性塩もしくは過塩基性塩を好ましく例示できる。アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウム等が挙げられ、これらの中でもカルシウムまたはマグネシウムが好ましい。
【0033】
【化2】
上記一般式(2)中、R
2はそれぞれ独立に炭素数23以上102以下のアルキル基またはアルケニル基を表し、Mはアルカリ土類金属を表す。アルキル芳香族化合物の重量平均分子量は好ましくは400以上1500以下であり、より好ましくは700以上1300以下である。
【0034】
アルキル芳香族スルホン酸としては、例えば、いわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸が挙げられる。石油スルホン酸としては、鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものや、ホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が挙げられる。また、合成スルホン酸の一例としては、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントにおける副生成物を回収すること、もしくは、ベンゼンをポリオレフィンでアルキル化することにより得られる、直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したものを挙げることができる。合成スルホン酸の他の一例としては、ジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したものを挙げることができる。また、これらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては、特に制限はなく、例えば発煙硫酸や無水硫酸を用いることができる。
【0035】
サリシレート系清浄剤としては、アルカリ土類金属サリシレートまたはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を好ましく例示できる。アルカリ土類金属サリシレートとしては、以下の一般式(3)で表される化合物を好ましく例示できる。アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウム等が挙げられ、これらの中でもカルシウムまたはマグネシウムが好ましい。
【0036】
【化3】
上記一般式(3)中、R
3はそれぞれ独立に炭素数14以上30以下のアルキル基またはアルケニル基を表し、Mはアルカリ土類金属を表す。
【0037】
アルカリ土類金属サリシレートの製造方法は特に制限されるものではなく、公知のモノアルキルサリシレートの製造方法等を用いることができる。例えば、フェノールを出発原料として、オレフィンを用いてアルキレーションし、次いで炭酸ガス等でカルボキシレーションして得たモノアルキルサリチル酸、あるいは、サリチル酸を出発原料として、当量の上記オレフィンを用いてアルキレーションして得られたモノアルキルサリチル酸等に、アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属の塩基を反応させること、または、これらのモノアルキルサリチル酸等を一旦ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と金属交換させること等により、アルカリ土類金属サリシレートを得ることができる。
【0038】
アルカリ土類金属系清浄剤は、アルカリ土類金属の炭酸塩で過塩基化されていてもよく、アルカリ土類金属のホウ酸塩で過塩基化されていてもよい。
【0039】
アルカリ土類金属の炭酸塩で過塩基化されたアルカリ土類金属系清浄剤を得る方法は特に限定されるものではないが、例えば、炭酸ガスの存在下で、アルカリ土類金属系清浄剤(アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属サリシレート等)の中性塩をアルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の水酸化物、酸化物等)と反応させることにより得ることができる。
【0040】
アルカリ土類金属のホウ酸塩で過塩基化されたアルカリ土類金属系清浄剤を得る方法は特に限定されるものではないが、ホウ酸もしくは無水ホウ酸またはホウ酸塩の存在下で、アルカリ土類金属系清浄剤(アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属サリシレート等)の中性塩をアルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の水酸化物、酸化物等)と反応させることにより得ることができる。
【0041】
アルカリ土類金属系清浄剤としては、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属サリシレート、またはこれらの組み合わせを用いることができ、アルカリ土類金属スルホネートを用いることが好ましい。
【0042】
アルカリ土類金属系清浄剤の全塩基価は、特に限定されず、0であっても良いが、好ましくは10mgKOH/g以上500mgKOH/g以下であり、より好ましくは50mgKOH/g以上500mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは100mgKOH/g以上500mgKOH/g以下である。アルカリ土類金属系清浄剤の全塩基価が上記数値範囲内であれば、潤滑油に必要な酸中和性を保つことができ、耐摩耗性および耐焼付き性をさらに向上させることができる。なお、2種以上のアルカリ土類金属系清浄剤を混合して使用する場合は、混合して得られた塩基価が前記範囲内となることが好ましい。なお、全塩基価は、ASTM D2896により測定される値である。
【0043】
金属系清浄剤の含有量は、潤滑油基油100質量部に対して、好ましくは1質量部以上10質量部以下であり、より好ましくは2質量部以上9質量部以下であり、さらに好ましくは3質量部以上8質量部以下である。金属系清浄剤の含有量が上記数値範囲内であれば、十分な塩基価維持性能とエンジン燃焼室内清浄効果を得ることができる。
【0044】
[(B2)無灰分散剤]
無灰分散剤(以下、「(B2)成分」ということがある。)は、特に限定されず、例えば、以下の(B2-1)~(B2-3)から選ばれる1種以上の化合物を用いることができる。
(B2-1)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドまたはその誘導体(以下において「成分(B2-1)」ということがある。)、
(B2-2)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミンまたはその誘導体(以下において「成分(B2-2)」ということがある。)、
(B2-3)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミンまたはその誘導体(以下において「成分(B2-3)」ということがある。)。
【0045】
(B2)成分としては、成分(B2-1)を特に好ましく用いることができる。
成分(B2-1)のうち、アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドとしては、下記一般式(4)または一般式(5)で表される化合物を例示できる。
【0046】
【化4】
【化5】
一般式(4)中、R
4はアルキル基またはアルケニル基を示し、hは1以上5以下、好ましくは2以上4以下の整数を示す。R
4の炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0047】
一般式(5)中、R5およびR6は、それぞれ独立にアルキル基またはアルケニル基を示し、異なる基の組み合わせであってもよい。R5およびR6は特に好ましくはポリブテニル基である。また、iは0以上4以下、好ましくは1以上3以下の整数を示す。R5およびR6の炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0048】
一般式(4)、一般式(5)におけるR4~R6の炭素数が上記下限値以上であることにより、潤滑油基油に対する良好な溶解性を得ることができる。一方、R4~R6の炭素数が上記上限値以下であることにより、潤滑油組成物の低温流動性を高めることができる。
【0049】
一般式(4)および一般式(5)におけるアルキル基またはアルケニル基(R4~R6)は直鎖状でも分枝状でもよく、好ましくは、例えば、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィンのオリゴマーや、エチレンとプロピレンとのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基を挙げることができる。なかでも慣用的にポリイソブチレンと呼ばれるイソブテンのオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基またはアルケニル基や、ポリブテニル基が最も好ましい。
【0050】
一般式(4)および一般式(5)におけるアルキル基またはアルケニル基(R4~R6)の数平均分子量は、好ましくは800以上3500以下である。
【0051】
アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドには、ポリアミン鎖の一方の末端のみに無水コハク酸が付加した、一般式(4)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミン鎖の両末端に無水コハク酸が付加した、一般式(5)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが包含される。本発明の潤滑油組成物には、モノタイプのコハク酸イミドおよびビスタイプのコハク酸イミドのいずれが含まれていてもよく、それらの両方が混合物として含まれていてもよい。
【0052】
アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドの製法は、特に制限されるものではなく、例えば、炭素数40以上400以下のアルキル基またはアルケニル基を有する化合物を無水マレイン酸と100℃以上200℃以下で反応させて得たアルキルコハク酸またはアルケニルコハク酸を、ポリアミンと反応させることにより得ることができる。ここで、ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、およびペンタエチレンヘキサミンを例示できる。
【0053】
成分(B2-2)のうち、アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミンとしては、下記一般式(6)で表される化合物を例示できる。
【0054】
【化6】
一般式(6)中、R
7は炭素数40以上400以下のアルキル基またはアルケニル基を表し、jは1以上5以下、好ましくは2以上4以下の整数を表す。R
7の炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0055】
成分(B2-2)の製法は特に制限されるものではない。例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、またはエチレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィンを、フェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドと、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンとをマンニッヒ反応により反応させる方法が挙げられる。
【0056】
成分(B2-3)のうちアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミンとしては、下記式(7)で表される化合物を例示できる。
【0057】
【化7】
一般式(7)中、R
8は炭素数40以上400以下のアルキル基またはアルケニル基を表し、kは1以上5以下、好ましくは2以上4以下の整数を表す。R
8の炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0058】
成分(B2-3)の製法は特に制限されるものではない。例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテンまたはエチレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させる方法が挙げられる。
【0059】
成分(B2-1)~成分(B2-3)における誘導体としては、例えば、(i)上述のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、ベンジルアミンまたはポリアミン(以下「上述の含窒素化合物」という。)に、脂肪酸等の炭素数1以上30以下のモノカルボン酸、炭素数2以上30以下のポリカルボン酸(例えばシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等。)、これらの無水物もしくはエステル化合物、炭素数2以上6以下のアルキレンオキサイド、またはヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートを作用させたことにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部または全部が中和またはアミド化されている、含酸素有機化合物による変性化合物;(ii)上述の含窒素化合物にホウ酸を作用させることにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部または全部が中和またはアミド化されている、ホウ素変性化合物;(iii)上述の含窒素化合物にリン酸を作用させることにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部または全部が中和またはアミド化されている、リン酸変性化合物;(iv)上述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させることにより得られる、硫黄変性化合物;および、(v)上述の含窒素化合物に含酸素有機化合物による変性、ホウ素変性、リン酸変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせて施すことにより得られる変性化合物が挙げられる。これら(i)~(v)の誘導体の中でも、アルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性化合物を用いることにより、電気絶縁性をさらに向上させることができる。
【0060】
(B2)成分の分子量には特に制限は無いが、(B2-1)成分の重量平均分子量は、好ましくは1000以上20000以下であり、より好ましくは2000以上10000以下である。
【0061】
無灰分散剤の含有量は、潤滑油基油100質量部に対して、好ましくは1質量部以上10質量部以下であり、より好ましくは2質量部以上9質量部以下であり、さらに好ましくは3質量部以上8質量部以下である。無灰分散剤の含有量が上記数値範囲内であれば、十分なスラッジ分散効果を得ることができる。
【0062】
[(B3)酸化防止剤]
酸化防止剤は、特に限定されず、潤滑油用の酸化防止剤として通常用いられている化合物を用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤が挙げらる。アミン系酸化防止剤としては、例えば、アルキル化ジフェニルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン等の公知のアミン系酸化防止剤を用いることができる。フェノール系酸化防止剤としては例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(DBPC)、4,4'-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)等の公知のフェノール系酸化防止剤を用いることができる。
【0063】
酸化防止剤の含有量は、潤滑油基油100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上5質量部以下であり、より好ましくは0.1質量部以上3質量部以下である。酸化防止剤の含有量が上記数値範囲内であれば、十分な酸化防止効果を得ることができる。
【0064】
[(B4)摩耗防止剤]
摩耗防止剤は、特に限定されず、潤滑油用の摩耗防止剤として通常用いられている化合物を用いることができる。摩耗防止剤としては、例えば、硫黄系、リン系、硫黄-リン系の摩耗防止剤等が使用できる。具体的には、摩耗防止剤としては、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。
【0065】
これらの摩耗防止剤の中でも、リン系摩耗防止剤が好ましく、特に、下記式(8)で示されるジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)が好ましい。
【化8】
【0066】
式(8)中、R9~R12は、それぞれ独立に炭素数1以上24以下の直鎖状又は分枝状のアルキル基を表し、異なる基の組み合わせであってもよい。また、R9~R12の炭素数は好ましくは3以上であり、また好ましくは12以下であり、より好ましくは8以下である。また、R9~R12は、第1級アルキル基、第2級アルキル基、及び第3級アルキル基のいずれであってもよいが、第1級アルキル基もしくは第2級アルキル基またはそれらの組み合わせであることが好ましく、さらに第1級アルキル基と第2級アルキル基とのモル比(第1級アルキル基:第2級アルキル基)が、0:100~30:70であることが好ましい。この比は分子内のアルキル鎖の組み合わせ比であっても良く、第1級アルキル基のみを有するZnDTPと第2級アルキル基のみを有するZnDTPとの混合比であっても良い。第2級アルキル基が主であることにより、省燃費性を向上させることができる。
【0067】
上記ジアルキルジチオリン酸亜鉛の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、R9~R12に対応するアルキル基を有するアルコールを五硫化二リンと反応させてジチオリン酸を合成し、これを酸化亜鉛で中和することにより合成することができる。
【0068】
摩耗防止剤の含有量は、潤滑油基油100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上5質量部以下であり、より好ましくは0.1質量部以上3質量部以下である。摩耗防止剤の含有量が上記数値範囲内であれば、十分な摩耗防止効果を得ることができる。
【0069】
[その他の成分]
潤滑油組成物は、上記の(A)および(B)成分以外にも、潤滑油組成物に通常使用される、増粘剤、防錆剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の他の成分をさらに含んでもよい。
【0070】
増粘剤としては、潤滑油において用いられる公知の増粘剤を特に制限なく用いることができる。例えば、ポリメタクリレート、エチレン-α-オレフィン共重合体およびその水素化物、α-オレフィンと重合性不飽和結合を有するエステル単量体との共重合体、ポリイソブチレンおよびその水素化物、スチレン-ジエン共重合体の水素化物、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体、並びに、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。これらの中でもポリメタクリレート、もしくは、エチレン-α-オレフィン共重合体もしくはその水素化物、またはそれらの組み合わせを好ましく用いることができる。増粘剤は分散型であってもよく、非分散型であってもよい。増粘剤の重量平均分子量は例えば2000以上30000以下であり得る。潤滑油組成物は増粘剤を含有しなくても良いが、潤滑油が増粘剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油基油100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上10質量部以下であり、より好ましくは0.05質量部以上5質量部以下である。
【0071】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、および多価アルコールエステル等が挙げられる。潤滑油組成物は防錆剤を含有しなくてもよいが、潤滑油組成物が防錆剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油基油100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上1質量部以下であり、より好ましくは0.05質量部以上0.5質量部以下である。
【0072】
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等が使用できる。潤滑油組成物は流動点降下剤を含有しなくてもよいが、潤滑油組成物が流動点降下剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油基油100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上1質量部以下であり、より好ましくは0.05質量部以上0.5質量部以下である。
【0073】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、およびポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。潤滑油組成物は抗乳化剤を含有しなくてもよいが、潤滑油組成物が抗乳化剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油基油100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上5質量部以下であり、より好ましくは0.05質量部以上3質量部以下である。
【0074】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、1,3,4-チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4-チアジアゾリル-2,5-ビスジアルキルジチオカーバメート、2-(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、β-(o-カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。潤滑油組成物は金属不活性化剤を含有しなくてもよいが、潤滑油組成物が金属不活性化剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油基油100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上1質量部以下であり、より好ましくは0.05質量部以上0.5質量部以下である。
【0075】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1,000mm2/s以上1,000,000mm2/s以下のシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸とのエステル、メチルサリチレート、および、o-ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。潤滑油組成物は消泡剤を含有しなくてもよいが、潤滑油組成物が消泡剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油基油100質量部に対して、好ましくは0.0001質量部以上0.5質量部以下であり、より好ましくは0.0005質量部以上0.1質量部以下である。
【実施例0076】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
[(A)潤滑油基油]
下記表1に示すベースオイルA~Jを準備した。下記表1中、動粘度(100℃、40℃)は、JIS K 2283-2010に準拠して測定した値であり、粘度指数は、JIS K 2283-2010に準拠して測定した値である。
【表1】
【0078】
[(B)性能向上添加剤]
下記表1に示す(B1)~(B4)の各種添加剤を準備した。
(B1)金属系清浄剤:カルシウムサリシレート
(B2)無灰分散剤:ポリアルケニルコハク酸イミド
(B3)酸化防止剤:ジフェニルアミン+ヒンダードフェノール
(B4)摩耗防止剤:ZnDTP(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)((一般式(8)で表される化合物の混合物)
【0079】
比較例用に下記添加剤を準備した。
粘度指数向上剤:オレフィンコポリマー(平均分子量:約13万)
【0080】
[潤滑油組成物の調製]
上記で準備した潤滑油基油および各種添加剤を用いて、表2に記載の配合で、本発明の潤滑油組成物(実施例1~5)および比較用の潤滑油組成物(比較例1~4)をそれぞれ調製した。表2中、各成分の配合量は質量部である。
【0081】
[潤滑油組成物の物性]
実施例1~5および比較例1~4の各潤滑油組成物について、下記の通り各種物性を測定した。潤滑油組成物の測定結果を表2に示した。
・動粘度(100℃、40℃):JIS K 2283-2010に準拠して測定した値である。
・粘度指数:JIS K 2283-2010に準拠して測定した値である。
【0082】
[潤滑油組成物の性能評価]
実施例1~5および比較例1~4の各潤滑油組成物について、下記の性能評価を行った。評価結果を表2に示した。
【0083】
[寿命特性]
(NOx吹き込み試験)
各潤滑油組成物について、NOx吹き込み試験を行った。当該試験は、オイルサンプルが入った耐熱ガラス容器をオイルバスで加熱し、ガラス容器内に酸素とNOx(NO+NO2)を吹き込むことでエンジン燃焼室内でのオイル劣化を模擬した加速酸化劣化試験である。試験条件を以下に示す。試験後、JIS K2501に準拠して、各潤滑油組成物の塩酸法による残存塩基価、酸価増加量を測定した。残存塩基価の値が大きい程、寿命性能に優れることを意味し、酸価増加量の値が小さい程、寿命性能に優れることを意味する。特に、残存塩基価の値が0.70以上であり、酸価増加量の値が1.00以下であると、寿命性能に優れていると言える。
<試験条件>
混合ガス:酸素(85%)、NO2(1000ppm)及び窒素(残部)の混合ガス
試験温度:140℃
試験時間:48時間
【0084】
[信頼性能]
(摩耗痕径)
各潤滑油組成物を用いてASTM D417-82(シェル高速四球摩耗試験)に準拠し、294N、1800rpm、80゜C、30minの条件で試験を行い、摩耗痕径を測定した。摩耗痕径の値が小さい程、信頼性に優れることを意味する。特に、摩耗痕径の値が0.50以下であれば、信頼性に優れていると言える。
【0085】
(オイル消費量:NOACK蒸発量)
各潤滑油組成物について、ASTM D5800に準拠して試験を行った。すなわち、250℃において1時間加熱した熱劣化後の質量の減少率(質量%)を測定した。質量の減少率の値が小さい程、オイル消費が少なく、燃焼室内のスラッジ生成抑制性能に優れることを意味する。特に、質量の減量率の値が6.0以下であれば、長寿命性能を求められるガスコージェネレーション用潤滑油として優れた性能を有していると言える。
【0086】
[効率性能]
(金属間摩擦係数)
各潤滑油組成物について、往復動摩擦試験機(SRV; Schwingungs Reihungund Verschleiss試験機 @Optimol Instruments社製)を用いて摩擦試験を行い、金属間摩擦係数を測定した。試験条件を以下に示す。摺動条件としてはシリンダオンディスク式(試験片材質:鋼鉄製(ASTM D5706準拠)、試験時間は30分とし、25~30分の間の平均値を摩擦係数データとした。本試験においては、金属間摩擦係数の値が小さい程、摩擦特性に優れる、すなわち、省燃費性に優れることを意味する。特に、金属間摩擦係数の値が0.140以下であれば、省燃費性に優れていると言える。
<試験条件>
荷重:170N
振動数:50Hz
試験温度:80℃
試験時間:30分間
【0087】
(トラクション係数)
各潤滑油組成物について、EHD油膜厚さ試験機(PCS Instruments社製)にてトラクション係数を評価した。試験条件は、室温、荷重20N(面圧0.44GPa/平均ヘルツ圧(スチールボールvs.ガラスディスク))、周速0.5m/s、すべり率を変化(2~5%)させてトラクション係数を測定し、すべり率3%(n=2平均値)での値をトラクションデータとして採用した。トラクション係数の値が小さい程、トラクション性能に優れることを意味する。特に、トラクション性能の値が0.015以下であれば、トラクション性能に優れていると言える。
【0088】
【0089】
実施例1~5の潤滑油組成物は、寿命性能、信頼性能、および効率性能において良好な結果を示した。
一方で、(A)潤滑油基油として、100℃における動粘度が5mm2/s以上30mm2/s以下のポリα-オレフィン含有合成系基油およびグループIII基油をいずれも用いていない比較例1の潤滑油組成物は、寿命性能およびトラクション係数において劣った結果を示した。
(A)潤滑油基油として、100℃における動粘度が5mm2/s以上30mm2/s以下のポリα-オレフィン含有合成系基油を用いていない比較例2の潤滑油組成物は、寿命性能、信頼性能、およびトラクション係数において劣った結果を示した。
(A)潤滑油基油として、100℃における動粘度が高過ぎるポリα-オレフィン含有合成系基油を用いた比較例3、4の潤滑油組成物は、オイル消費量および金属間摩擦係数において劣った結果を示した。