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特開2024-124065カンジダ・アウリス又はクリプトコッカス・ネオフォルマンスのアゾール系抗真菌剤耐性真菌症の治療薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124065
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】カンジダ・アウリス又はクリプトコッカス・ネオフォルマンスのアゾール系抗真菌剤耐性真菌症の治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/365 20060101AFI20240905BHJP
   A61K 31/4196 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240905BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61K31/365
A61K31/4196
A61K31/496
A61K31/506
A61P31/10
A61P43/00 121
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031979
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】加納 塁
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛
【テーマコード(参考)】
4B063
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ07
4B063QR68
4B063QR69
4B063QX01
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC60
4C086CA03
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA12
4C086GA16
4C086GA17
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB35
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】アゾール系抗真菌剤に対する耐性を獲得したカンジダ・アウリス又はクリプトコッカス・ネオフォルマンスによる真菌症に対する新規の治療薬を提供すると共に、前記治療薬による治療に先駆けて実施する耐性真菌株の鑑別方法を提供する。
【解決手段】前記治療薬は、有効成分としてアゾール系抗真菌剤とミルベマイシン類とを組み合わせたことを特徴とする。前記鑑別方法は、アゾール系抗真菌剤添加かつミルベマイシン類添加の真菌分離培地と、アゾール系抗真菌剤添加かつミルベマイシン類非添加の真菌分離培地とを用いることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてアゾール系抗真菌剤とミルベマイシン類とを組み合わせたことを特徴とするアゾール系抗真菌剤耐性真菌症の治療薬であって、前記真菌が、カンジダ・アウリス(Candida auris)及びクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)からなる群から選んだ真菌である、前記治療薬。
【請求項2】
アゾール系抗真菌剤添加かつミルベマイシン類非添加の真菌分離培地と、アゾール系抗真菌剤添加かつミルベマイシン類添加の真菌分離培地とを用いることを特徴とするアゾール系抗真菌剤耐性真菌株の鑑別方法であって、前記真菌が、カンジダ・アウリス(Candida auris)及びクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)からなる群から選んだ真菌である、前記鑑別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンジダ・アウリス(Candida auris)又はクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)のアゾール系抗真菌剤耐性真菌症の治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
カンジダ・アウリス及びクリプトコッカス・ネオフォルマンスは、2022年10月に世界保健機関(WHO)が初めて公表した真菌優先病原菌リスト(Fungal Priority Pathogen List; FPPL)の三段階の分類(Critical, High, and Medium)の内、最も優先度の高いCriticalに分類された4種類の真菌に含まれている(非特許文献1)。
カンジダ・アウリス及びクリプトコッカス・ネオフォルマンスによる真菌症の治療には、主にアゾール系抗真菌剤が使用されているが、近年、世界各地でアゾール系抗真菌剤に対する耐性菌の分離が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】WHO fungal priority pathogens list to guide research, development and public health action. https://www.who.int/publications/i/item/9789240060241.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、アゾール系抗真菌剤に対する耐性を獲得したカンジダ・アウリス又はクリプトコッカス・ネオフォルマンスによる真菌症に対する新規の治療薬を提供すると共に、前記治療薬による治療に先駆けて実施する耐性真菌株の鑑別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題は、以下の本発明により解決することができる:
[1]有効成分としてアゾール系抗真菌剤とミルベマイシン類とを組み合わせたことを特徴とするアゾール系抗真菌剤耐性真菌症の治療薬であって、前記真菌が、カンジダ・アウリス(Candida auris)及びクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)からなる群から選んだ真菌である、前記治療薬。
[2]アゾール系抗真菌剤添加かつミルベマイシン類添加の真菌分離培地と、アゾール系抗真菌剤添加かつミルベマイシン類非添加の真菌分離培地とを用いることを特徴とするアゾール系抗真菌剤耐性真菌株の鑑別方法であって、前記真菌が、カンジダ・アウリス(Candida auris)及びクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)からなる群から選んだ真菌である、前記鑑別方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の治療薬によれば、アゾール系抗真菌剤に対する耐性を獲得したカンジダ・アウリス又はクリプトコッカス・ネオフォルマンスによるアゾール系抗真菌剤耐性真菌症であっても、アゾール系抗真菌剤による治療を行うことができる。
また、本発明の鑑別方法によれば、前記治療に先駆けて実施することにより、アゾール系抗真菌剤耐性真菌株であるか否かを決定することができ、本発明の治療薬により適切な治療を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(本発明の治療薬)
本発明の治療薬の治療対象は、カンジダ・アウリスのアゾール系抗真菌剤耐性真菌株による真菌症(例えば、カンジダ症)、又はクリプトコッカス・ネオフォルマンスのアゾール系抗真菌剤耐性真菌株による真菌症(例えば、クリプトコッカス症)である。
【0008】
本発明の治療薬は、有効成分として、アゾール系抗真菌剤及びミルベマイシン類を含有する。
前記アゾール系抗真菌剤としては、例えば、フルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、ホスラブコナゾール、エフィナコナゾール、ルリコナゾール、ラブコナゾール、ポサコナゾール、イサブコナゾールなどを挙げることができる。
前記ミルベマイシン類としては、例えば、ミルベマイシンオキシム及びその誘導体(例えば、ミルベメクチン、モキシデクチン、ネマデクチンなど)などを挙げることができる。
【0009】
本発明の治療薬は、有効成分であるアゾール系抗真菌剤及びミルベマイシン類を一製剤中に含有する医薬組成物として提供することもできるし、あるいは、アゾール系抗真菌剤を含む医薬と、ミルベマイシン類を含む医薬との組合せ(すなわち、二製剤)として提供することもできる。また、本発明の治療薬は、有効成分単独で、あるいは、好ましくは製剤学的に許容することのできる担体又は希釈剤と共に、対象(例えば、動物、好ましくは哺乳動物、特にはヒト)に有効な量で投与することができるし、飲食物の形状で提供することもできる。
【0010】
本発明の治療薬を医薬として提供する場合には、経口剤または非経口剤として投与することができ、好ましくは経口剤である。前記経口剤としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤などの固形製剤、あるいは、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤などの液剤を挙げることができる。前記非経口剤としては、例えば、注射剤、外用剤などを挙げることができる。
【0011】
製剤学的に許容することのできる担体又は希釈剤としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、矯味剤、発泡剤、甘味剤、香料、滑沢剤、緩衝剤、抗酸化剤、界面活性剤、流動化剤などを挙げることができる。
【0012】
本発明の治療薬を医薬として提供する場合、各有効成分の投与量は、症状、投与対象の年齢、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定されるが、1日当たり、アゾール系抗真菌剤は通常、10~1000mg、好ましくは100~400mgであり、ミルベマイシン類は通常、1~50mg、好ましくは10~15mgである。これらを1回で、あるいは2~4回に分けて投与することができる。
【0013】
(本発明の鑑別方法)
本発明の鑑別方法によれば、本発明の治療薬により治療可能なアゾール系抗真菌剤耐性真菌株と、本発明の治療薬では治療できない真菌とを鑑別することができる。なお、前記真菌は、カンジダ・アウリス又はクリプトコッカス・ネオフォルマンスである。
【0014】
本発明の鑑別方法では、アゾール系抗真菌剤添加かつミルベマイシン類非添加の真菌分離培地(以下、M非添加培地)と、アゾール系抗真菌剤添加かつミルベマイシン類添加の真菌分離培地(以下、M添加培地)とを用いる。真菌分類培地としては、カンジダ・アウリス又はクリプトコッカス・ネオフォルマンス用の従来公知の培地を用いることができ、例えば、RPMI(Roswell Park Memorial Institute)1640培地を挙げることができる。アゾール系抗真菌剤及びミルベマイシン類としては、本発明の治療剤に関する説明で先述したものを使用することができる。ミルベマイシン類の添加濃度は、真菌の成長を阻害しない濃度で、例えば、1μg/mLの濃度で培地に添加することができる。
【0015】
本発明の鑑別方法では、常法、例えば、微量液体希釈法により、アゾール系抗真菌剤に対する最小発育阻止濃度(MIC)を算出する。M非添加培地においてアゾール系抗真菌剤に対して耐性を示す真菌(アゾール系抗真菌剤感受性株よりも高値の最小発育阻止濃度を示す)が、M添加培地においてアゾール系抗真菌剤に対して感受性を示す(M非添加培地よりも最小発育阻止濃度が低値を示す)場合、この真菌株はアゾール系抗真菌剤耐性真菌株であって、この真菌株による真菌症は本発明の治療薬により治療可能であると判定することができる。
なお、最小発育阻止濃度(MIC)を算出する代わりに、目視などにより、真菌の成長を比較することにより、感受性を判定することもできる。
【0016】
真菌症の治療に先駆けて本発明の鑑別方法を用いることにより、本発明の治療薬を用いることにより治療効果が期待できる真菌症であるか、本発明の治療薬では治療できない真菌症であるかを判断することができ、治療を行う前に、より適切な治療を選択することができる。
【実施例0017】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0018】
《実施例1》
本実施例では、表1に記載のカンジダ・アウリス(Candida auris)及びクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)のアゾール系抗真菌剤耐性株を使用し、臨床・検査標準協会(Clinical and Laboratory Standards Institute; CLSI)M27及びM38ガイドライン(非特許文献2,3)に基づく微量液体希釈法(broth microdilution assay)により最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration; MIC)を算出することによってアゾール系抗真菌剤に対する感受性を評価した。
培地として、1μg/mLミルベマイシンオキシム(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation, Osaka, Japan)含有のRPMI(Roswell Park Memorial Institute)1640培地(Cytiva, Tokyo, Japan)を使用し、アゾール系抗真菌剤として、フルコナゾール(FLCZ)、イトラコナゾール(ITCZ)、ボリコナゾール(VRCZ)を使用した。
【0019】
(非特許文献2)Clinical Laboratory Standards Institute. 2017. Reference method for broth dilution antifungal susceptibility testing of yeasts: 4th edn. CLSI document M27. 2017. Clinical and Laboratory Standards Institute, Wayne, PA.
(非特許文献3)Clinical Laboratory Standards Institute. 2017. Reference method for broth dilution antifungal susceptibility testing of filamentous fungi, 3rd Edition: 3rd edn. CLSI document M38. 2017. Clinical and Laboratory Standards Institute, Wayne, PA.
【0020】
結果を表1に示す。なお、表1の「+M」はミルベマイシンオキシム添加培地であることを示す。
アゾール系抗真菌剤に耐性の株は、カンジダ・アウリス及びクリプトコッカス・ネオフォルマンスのいずれにおいても、ミルベマイシンオキシムの添加により感受性が上昇した。なお、耐性を獲得していない真菌剤に対しては(例えば、カンジダ・アウリスJCM15448株におけるイトラコナゾール、ボリコナゾール)、ミルベマイシンオキシムの添加の有無による感受性の変化は見られない傾向があった。
【0021】
【表1】
【0022】
《参考例1》
本参考例では、実施例1に記載の方法に従って、表2に記載のアスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)のアゾール系抗真菌剤耐性株におけるミルベマイシンオキシムの効果を検討した。アスペルギルス・フミガタスも、世界保健機関(WHO)が初めて公表した真菌優先病原菌リスト(Fungal Priority Pathogen List; FPPL)において、最も優先度の高いCriticalに分類された4種類の真菌の内の一つである(非特許文献1)。
【0023】
結果を表2に示す。アスペルギルス・フミガタスでは、ミルベマイシンオキシムの添加の有無による感受性の変化は見られなかった。
【0024】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の治療薬は、カンジダ・アウリス又はクリプトコッカス・ネオフォルマンスによるアゾール系抗真菌剤耐性真菌症の治療に用いることができる。また、本発明の鑑別方法は、前記治療に先駆けて実施することにより、適切な治療を行うことができる。