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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124071
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ステアリングハンドル
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/14 20060101AFI20240905BHJP
   B62D 1/04 20060101ALI20240905BHJP
   F16H 25/12 20060101ALI20240905BHJP
   G05G 1/08 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B62D1/14
B62D1/04
F16H25/12 D
G05G1/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031990
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】家田 将旭
(72)【発明者】
【氏名】森田 文平
(72)【発明者】
【氏名】船津 基也
【テーマコード(参考)】
3D030
3J062
3J070
【Fターム(参考)】
3D030DA57
3D030DA78
3D030DA79
3D030DB06
3J062AA01
3J062AB31
3J062AC07
3J062CC16
3J070AA13
3J070BA10
3J070BA13
3J070BA17
3J070CC12
3J070DA01
(57)【要約】
【課題】耐久性の向上を図る。
【解決手段】回転制御機構45は、第2軸線L2を有するスポーク部30上に設けられたカム部材55及びプッシャ67と、プッシャ67をカム部材55側へ付勢するばね85とを備える。カム部材55はカム面59を有し、プッシャ67は接触面72を有する接触部71を備える。カム部材55は、スポーク部30に対し相対回転可能に構成された把持部40に一体回転可能に取り付けられる。プッシャ67は、第2軸線L2の周りでの回転を規制された状態で、スポーク部30に対し、第2軸線L2に沿う方向にスライド可能に取り付けられる。カム面59は、第2軸線L2に直交する仮想面P1に対し、周方向における反対方向へそれぞれ傾斜する平らな一対の傾斜カム面を有する。接触面72は、径方向に延び、かつ直進時に両傾斜カム面に面接触する平らな一対の傾斜接触面を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物に設けられたハンドル支持部に取り付けられるボス部と、前記ボス部から延びる軸線を有し、かつ把持部が設けられたスポーク部と、を備え、前記スポーク部が、前記ボス部及び前記把持部の一方に固定され、他方に対し相対回転可能に構成されたステアリングハンドルであって、
前記軸線から放射状に延びる方向を径方向とし、前記軸線を中心とする円に沿う方向を周方向とし、前記乗物の直進時における前記軸線の周りでの前記把持部の位置を中立位置とした場合、前記直進時に前記把持部を前記中立位置に復帰させる回転制御機構が設けられ、
前記回転制御機構は、前記スポーク部上に設けられたカム部材及びプッシャと、前記プッシャ及び前記カム部材の一方を他方側へ付勢する弾性部材と、を備え、
前記カム部材はカム面を有し、前記プッシャは接触面を有する接触部を備え、
前記カム部材及び前記プッシャの一方は、前記ボス部、前記スポーク部及び前記把持部のうち、前記ハンドル支持部に近い側に隣接する部材に対し回転するものに一体回転可能に取り付けられ、他方は、前記軸線の周りでの回転を規制された状態で、前記スポーク部に対し前記軸線に沿う方向にスライド可能に取り付けられ、
前記カム面は、前記周方向に互いに隣り合い、かつ前記軸線に直交する仮想面に対し、前記周方向における反対方向へそれぞれ傾斜する平らな一対の傾斜カム面を有し、
前記接触面は、前記径方向に延び、かつ前記直進時に両傾斜カム面に面接触する平らな一対の傾斜接触面を有するステアリングハンドル。
【請求項2】
前記ハンドル支持部は、回転軸線を有し、かつ前記回転軸線を中心として正逆両方向へ回転可能に構成されたステアリングシャフトを備え、
前記ボス部は、前記ステアリングシャフトに一体回転可能に取り付けられ、
前記スポーク部、前記把持部及び前記回転制御機構は、一対ずつ設けられ、
前記直進時には、前記一対の前記スポーク部の前記軸線は、前記ボス部から前記乗物の幅方向における反対方向へ延びる請求項1に記載のステアリングハンドル。
【請求項3】
前記カム面には潤滑剤が塗布され、
前記カム面及び前記接触面の少なくとも一方において開口し、かつ前記潤滑剤を溜める凹部が形成されている請求項1に記載のステアリングハンドル。
【請求項4】
前記凹部は、前記一対の前記傾斜接触面のそれぞれにおいて開口され、
前記一対の前記傾斜接触面において開口する前記凹部は、前記径方向に互いに異なる箇所に位置している請求項3に記載のステアリングハンドル。
【請求項5】
前記凹部はドット状をなし、前記カム面において前記周方向に互いに離間した複数箇所で開口されている請求項3に記載のステアリングハンドル。
【請求項6】
前記カム面において前記周方向に隣り合う前記凹部は、前記カム面の前記径方向に互いに異なる箇所で開口されている請求項5に記載のステアリングハンドル。
【請求項7】
複数箇所の前記凹部のうちの一部の前記凹部は、隣り合う前記傾斜カム面に跨がった状態で形成されている請求項5に記載のステアリングハンドル。
【請求項8】
前記凹部は、前記カム面において開口し、かつ前記周方向へ延びる溝により構成されている請求項3に記載のステアリングハンドル。
【請求項9】
前記カム部材及び前記プッシャには、前記軸線に沿う方向に延びる挿通孔がそれぞれ形成され、
前記スポーク部には、前記挿通孔に挿通される軸部が形成され、
前記カム部材及び前記プッシャのうち前記軸部に対する回転を規制されるものは、前記軸線に沿う方向における前記軸部の一部に形成された回転規制部に嵌合され、
前記回転を規制されるものにおける前記挿通孔の内壁面であって、前記周方向における複数箇所には、前記軸線に沿う方向へ延びる内平面部が形成され、
前記回転規制部の外周面において前記内平面部に対向する箇所には、前記軸線に沿う方向へ延びる外平面部が形成されている請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のステアリングハンドル。
【請求項10】
前記回転規制部は正多角柱状をなし、前記挿通孔は、正多角形の開口を有している請求項9に記載のステアリングハンドル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物を操舵する際に運転者によって操作されるステアリングハンドルに関する。
【背景技術】
【0002】
車両等の乗物を操舵する際に運転者によって操作されるステアリングハンドルとして、例えば、特許文献1に記載されたものは、ボス部、一対のスポーク部及び一対の把持部を備えている。ボス部は、乗物の操舵装置におけるステアリングシャフトに一体回転可能に取り付けられる。ステアリングシャフトは回転軸線を有し、かつその回転軸線を中心として正逆両方向へ回転することが可能である。両スポーク部は、乗物の直進時にボス部から互いに乗物の幅方向における反対方向へ延びる軸線を有している。把持部はスポーク部に設けられている。各スポーク部は、ボス部及び各把持部の一方に対し固定され、他方に対し、軸線を中心として相対回転し得るように取り付けられている。
【0003】
上記直進時における軸線の周りでの各把持部の位置を中立位置とした場合、ステアリングハンドルには、上記直進時に各把持部を中立位置に復帰させる回転制御機構が設けられている。
【0004】
各回転制御機構は、カム面を有するカム部材と、カム面に接触する接触部を有するプッシャと、弾性部材と、を備えている。カム部材及びプッシャは、スポーク部上に設けられている。カム面は、上記軸線の周りに形成され、かつ上記軸線に直交する仮想面に対し、それぞれ反対方向に傾斜する一対の傾斜カム面を有している。両傾斜カム面は互いに繋がっている。接触部のカム面に対する接触面は、球面状に形成されている。弾性部材は、カム部材及びプッシャの一方を他方側へ付勢している。そして、上記直進時には、接触面が両傾斜カム面に接触する。
【0005】
上記ステアリングハンドルによれば、これをステアリングシャフトとともに回転軸線の周りで回転させたときに、運転者の手首にかかる負担を軽減できる。また、乗物の直進時に、各把持部を回転制御機構によって中立位置に復帰させることができる。さらに、各把持部を軸線の周りで回転させる際の操舵荷重が、中立位置からの各把持部の回転量に応じて変化するため、操舵感が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-154640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記構成の従来のステアリングハンドルでは、接触面が弾性部材の付勢力によってカム面に対し押し付けられる。この状態で、カム部材及びプッシャが、把持部の回転に伴い、軸線の周りを相対回転させられる。ここで、上記接触部の接触面が球面状をなしているため、接触面はカム面に対し点接触する。カム面及び接触面の間に高い面圧が作用するため、摩耗の懸念がある。従って、上記従来のステアリングハンドルには、耐久性向上の点で改善の余地が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためのステアリングハンドルの各態様を記載する。
[態様1]乗物に設けられたハンドル支持部に取り付けられるボス部と、前記ボス部から延びる軸線を有し、かつ把持部が設けられたスポーク部と、を備え、前記スポーク部が、前記ボス部及び前記把持部の一方に固定され、他方に対し相対回転可能に構成されたステアリングハンドルであって、前記軸線から放射状に延びる方向を径方向とし、前記軸線を中心とする円に沿う方向を周方向とし、前記乗物の直進時における前記軸線の周りでの前記把持部の位置を中立位置とした場合、前記直進時に前記把持部を前記中立位置に復帰させる回転制御機構が設けられ、前記回転制御機構は、前記スポーク部上に設けられたカム部材及びプッシャと、前記プッシャ及び前記カム部材の一方を他方側へ付勢する弾性部材と、を備え、前記カム部材はカム面を有し、前記プッシャは接触面を有する接触部を備え、前記カム部材及び前記プッシャの一方は、前記ボス部、前記スポーク部及び前記把持部のうち、前記ハンドル支持部に近い側に隣接する部材に対し回転するものに一体回転可能に取り付けられ、他方は、前記軸線の周りでの回転を規制された状態で、前記スポーク部に対し前記軸線に沿う方向にスライド可能に取り付けられ、前記カム面は、前記周方向に互いに隣り合い、かつ前記軸線に直交する仮想面に対し、前記周方向における反対方向へそれぞれ傾斜する平らな一対の傾斜カム面を有し、前記接触面は、前記径方向に延び、かつ前記直進時に両傾斜カム面に面接触する平らな一対の傾斜接触面を有するステアリングハンドル。
【0009】
上記の構成によれば、乗物の直進時には、把持部は、軸線を中心とする回転方向における中立位置に位置する。回転制御機構では、弾性部材の付勢力により、プッシャの接触部における平らな一対の傾斜接触面が、カム部材の平らな一対の傾斜カム面に押し付けられる。
【0010】
上述の状態から、乗物を操舵する際には、運転者によって把持部が軸線を中心として回転される。この回転に伴い、カム部材及びプッシャが、軸線を中心として相対回転する。カム面に対する接触面の接触箇所が変化する。
【0011】
接触面が片方の傾斜カム面のみに接触すると、弾性部材を弾性変形(圧縮)させながら、プッシャ及びカム部材の一方を他方から遠ざけようとする力が発生する。この力は、カム部材及びプッシャの相対回転に伴い、接触箇所が両傾斜カム面の境界部から周方向へ遠ざかるに従い増加する。また、上記力は、把持部を軸線の周りで回転させる際の操舵荷重として、把持部を把持した手を通じて運転者に伝わる。
【0012】
上記の状態から、運転者により、把持部に加えられる上記方向の力が弱められると、又は把持部に対し上記直進時の位置に戻そうとする力が加えられると、回転制御機構が上記とは逆の動作をする。カム部材及びプッシャが上記とは逆方向へ相対回転する。カム面に対する接触面の接触箇所が、一対の傾斜カム面の境界部に近づく。これに伴い、弾性部材を弾性変形(圧縮)させながら、プッシャ及びカム部材の一方を他方から遠ざけようとする上記力が減少するとともに、操舵荷重が減少する。
【0013】
このように、把持部を軸線の周りで回転させる際の操舵荷重が、中立位置からの把持部の回転量に応じて変化する。そのため、上記操舵荷重が回転量に拘らず一定である場合よりも操舵感が向上する。
【0014】
ところで、一対の傾斜接触面は、上記直進時には、一対の傾斜カム面に面接触する。しかも、各傾斜接触面は径方向に延びている。そして、カム部材及びプッシャが相対回転すると、片方の傾斜接触面が、対向する傾斜カム面に面接触する。そのため、接触面がカム面に対し点接触する場合に比べ、接触面とカム面との接触面積が増大する。これに伴い、接触面とカム面との間に生ずる面圧が、点接触する場合よりも小さくなるため、接触部及びカム部材の摩耗が抑制される。
【0015】
[態様2]前記ハンドル支持部は、回転軸線を有し、かつ前記回転軸線を中心として正逆両方向へ回転可能に構成されたステアリングシャフトを備え、前記ボス部は、前記ステアリングシャフトに一体回転可能に取り付けられ、前記スポーク部、前記把持部及び前記回転制御機構は、一対ずつ設けられ、前記直進時には、前記一対の前記スポーク部の前記軸線は、前記ボス部から前記乗物の幅方向における反対方向へ延びる[態様1]に記載のステアリングハンドル。
【0016】
上記の構成によれば、乗物の直進時には、一対のスポーク部の軸線が、ボス部から乗物の幅方向における反対方向へ延びた状態となる。一対の把持部は、軸線を中心とする回転方向における中立位置に位置する。一対の把持部は運転者によって把持される。各回転制御機構では、プッシャの接触部における平らな一対の傾斜接触面が、弾性部材の付勢力により、カム部材の平らな一対の傾斜カム面に押し付けられる。
【0017】
上記の状態から、運転者により一対の把持部のそれぞれに対し、回転軸線の周りの正逆いずれかの方向に回転させようとする力が加えられると、その力は、スポーク部及びボス部を介してステアリングシャフトに伝達される。この伝達により、スポーク部、ボス部及びステアリングシャフトが回転軸線の周りを回転する。操舵装置が作動し、乗物の操舵が行なわれ、乗物の進行方向が変更される。上記回転軸線を中心とする各把持部の回転は、同把持部を把持した運転者の手首の構造から、軸線を中心とする各把持部の正逆回転を伴いながら行なわれる。
【0018】
このように、各把持部が軸線の周りで回転するため、回転しないものに比べ、運転者は、各把持部を把持したままで、ステアリングハンドルを回転軸線の周りで大きく回転させることが可能である。
【0019】
[態様3]前記カム面には潤滑剤が塗布され、前記カム面及び前記接触面の少なくとも一方において開口し、かつ前記潤滑剤を溜める凹部が形成されている[態様1]又は[態様2]に記載のステアリングハンドル。
【0020】
上記の構成によれば、接触部がカム部材に対し潤滑剤を介して接触する。この潤滑剤により、カム部材及び接触部の摩耗が抑制される。
ここで、接触面がカム面に対し面接触すると、次の懸念がある。それは、カム面に対し接触面が押し付けられた状態で、カム部材とプッシャとが軸線を中心として相対回転されると、接触部とカム部材とが摺動する。カム面のうち、接触部との摺動に関わる領域に塗布されている潤滑剤は、接触部によって押されて上記領域の外へ出されるおそれがある。上記領域の外へ出される潤滑剤の量は、接触面のカム面に対する接触面積が大きくなるに従い多くなる。
【0021】
一方で、潤滑剤が上記領域の外へ出されると、その分、上記領域における潤滑剤が減少して、摩擦係数が増大する。これに伴い、接触面及びカム面の間に生ずる摩擦力が増大し、接触部及びカム部材が摺動する際の摺動性が低下する。
【0022】
これに対し、上記の構成によるように、カム面及び接触面の少なくとも一方に凹部が開口されていると、この凹部に潤滑剤を溜めることが可能である。そして、凹部に潤滑剤が溜められた状態で、接触部及びカム部材が摺動し、カム面及び接触面のうち、凹部が開口されたものが摩耗すると、凹部内の潤滑剤が摩耗した面に現われる。この潤滑剤が接触面とカム面との間に介在することにより、上記摩擦係数及び摩擦力の増大が抑制され、摺動性が向上する。
【0023】
[態様4]前記凹部は、前記一対の前記傾斜接触面のそれぞれにおいて開口され、前記一対の前記傾斜接触面において開口する前記凹部は、前記径方向に互いに異なる箇所に位置している[態様3]に記載のステアリングハンドル。
【0024】
上記の構成によれば、一対の傾斜接触面のそれぞれにおいて開口する凹部に潤滑剤が溜められる。接触部及びカム部材が摺動し、凹部が開口された傾斜接触面が摩耗すると、凹部内の潤滑剤が、摩耗した傾斜接触面に現われる。この潤滑剤が接触面とカム面との間に介在することにより、上記摩擦係数及び摩擦力の増大が抑制され、摺動性が向上する。
【0025】
特に、上記の構成によるように、一対の傾斜接触面において、上記径方向に互いに異なる箇所で開口された凹部に潤滑剤が溜められると、上記摺動性を向上させる効果が上記径方向に広い領域で得られる。
【0026】
[態様5]前記凹部はドット状をなし、前記カム面において前記周方向に互いに離間した複数箇所で開口されている[態様3]に記載のステアリングハンドル。
上記の構成によれば、カム面において周方向に互いに離間した複数箇所で開口されているドット状の凹部に対し、それぞれ潤滑剤が溜められる。そのため、周方向の広い領域で、潤滑剤が接触面とカム面との間に介在することになる。従って、摩擦係数及び摩擦力の増大を抑制して、摺動性を向上させる上記効果が、カム面の周方向に広い領域で得られる。
【0027】
[態様6]前記カム面において前記周方向に隣り合う前記凹部は、前記カム面の前記径方向に互いに異なる箇所で開口されている[態様5]に記載のステアリングハンドル。
上記の構成によるように、カム面において、周方向に隣り合い、かつ径方向に互いに異なる箇所で開口されている凹部に潤滑剤が溜められると、上記周方向に加え、径方向に広い領域で、潤滑剤が接触面とカム面との間に介在することになる。従って、摩擦係数及び摩擦力の増大を抑制して、摺動性を向上させる上記効果が、カム面の周方向に加え、径方向に広い領域で得られる。
【0028】
[態様7]複数箇所の前記凹部のうちの一部の前記凹部は、隣り合う前記傾斜カム面に跨がった状態で形成されている[態様5]又は[態様6]に記載のステアリングハンドル。
【0029】
上記の構成によるように、隣り合う傾斜カム面に跨がった状態で開口されている凹部に潤滑剤が溜められると、乗物の直進時に、一対の傾斜接触面が一対の傾斜カム面に接触したときに、傾斜カム面とこれに対向する傾斜接触面との間に潤滑剤が介在する。従って、把持部が軸線を中心として、正逆いずれの方向へ回転された場合にも、摺動性が向上する。
【0030】
[態様8]前記凹部は、前記カム面において開口し、かつ前記周方向へ延びる溝により構成されている[態様3]に記載のステアリングハンドル。
上記の構成によるように、カム面において開口する溝からなる凹部に潤滑剤が溜められると、接触部及びカム部材の摺動によりカム面が摩耗すると、凹部内の潤滑剤が、摩耗したカム面に現われる。この潤滑剤が接触面とカム面との間に介在することにより、上記摩擦係数及び摩擦力の増大が抑制され、摺動性が向上する。
【0031】
特に、上記の構成によるように、溝からなる凹部が周方向に延びていると、カム面の周方向に広い領域で、潤滑剤が接触面とカム面との間に介在することになる。従って、摩擦係数及び摩擦力の増大を抑制して、摺動性を向上させる上記効果が、カム面の周方向に広い領域で得られる。
【0032】
[態様9]前記カム部材及び前記プッシャには、前記軸線に沿う方向に延びる挿通孔がそれぞれ形成され、前記スポーク部には、前記挿通孔に挿通される軸部が形成され、前記カム部材及び前記プッシャのうち前記軸部に対する回転を規制されるものは、前記軸線に沿う方向における前記軸部の一部に形成された回転規制部に嵌合され、前記回転を規制されるものにおける前記挿通孔の内壁面であって、前記周方向における複数箇所には、前記軸線に沿う方向へ延びる内平面部が形成され、前記回転規制部の外周面において前記内平面部に対向する箇所には、前記軸線に沿う方向へ延びる外平面部が形成されている[態様1]~[態様8]のいずれか1つに記載のステアリングハンドル。
【0033】
上記の構成によれば、カム部材の挿通孔、及びプッシャの挿通孔には、スポーク部の軸部が挿通される。カム部材及びプッシャのうち、軸部に対する回転を規制されるものは、挿通孔において回転規制部に嵌合される。上記回転を規制されるものでは、挿通孔の内壁面に形成されて、軸線に沿う方向へ延びる内平面部と、回転規制部の外周面に形成されて、軸線に沿う方向へ延びる外平面部とが対向させられる。
【0034】
ここで、カム部材及びプッシャのうち、回転を規制されるものに対し、これを軸線の周りで回転させようとする力が、回転するものから加わると、その力は回転規制部に伝達される。上記力は、上記回転するものから、互いに対向している内平面部及び外平面部を介して、回転規制部に伝達される。この際、内平面部及び外平面部の間では、これらに対し交差(直交)する方向に力が伝達される。
【0035】
仮に、内平面部及び外平面部の組み合わせが1組であると、上記力が、上記1組の組み合わせにおける内平面部及び外平面部に集中して伝達される。内平面部及び外平面部のうち、周方向における端部が徐々に摩耗するおそれがある。
【0036】
この点、上記の構成によれば、内平面部及び外平面部の組み合わせが回転規制部の周方向に複数設けられている。そのため、上記力は、全ての組み合わせにおける内平面部及び外平面部に分散されて伝達される。組み合わせ毎の内平面部及び外平面部に伝達される力が小さくなる。しかも、上記力の伝達される方向が組み合わせ毎に異なる。内平面部及び外平面部の周方向における端部の摩耗が抑制される。
【0037】
[態様10]前記回転規制部は正多角柱状をなし、前記挿通孔は、正多角形の開口を有している[態様9]に記載のステアリングハンドル。
上記の構成によれば、挿通孔の内壁面が3つ以上の複数の内平面部によって構成される。隣り合う内平面部が互いになす角度は、全ての隣り合う内平面部について同一である。また、回転規制部の外周面は、3つ以上の外平面部によって構成される。隣り合う外平面部が互いになす角度は、全ての隣り合う外平面部について同一である。
【0038】
そのため、カム部材及びプッシャの一方から他方に対し、相対回転させようとする力が加わっても、分散されて小さくされた力が、組み合わせ毎の内平面部及び外平面部に伝達される。
【0039】
しかも、分散された上記力は、周方向に等角度毎に伝達される。内平面部及び外平面部の周方向における端部の摩耗を抑制する効果が、周方向の広い領域で、同方向における位置に関係なく得られる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】一実施形態におけるステアリングハンドルの骨格部分を示す斜視図である。
図2図1のステアリングハンドルにおける右側部分の部分平断面図である。
図3図1のステアリングハンドルにおける右側部分の分解斜視図である。
図4】上記実施形態における把持部及び回転制御機構を分離して示す斜視図である。
図5】上記実施形態における回転部材及びカム部材を分離して示す斜視図である。
図6】上記実施形態におけるカム部材及びプッシャを分離して示す斜視図である。
図7】プッシャの挿通孔に回転規制部が嵌合された状態を示す図であり、(A)は上記実施形態を示す部分断面図であり、(B)は比較例を示す部分断面図である。
図8】上記実施形態におけるカム部材及びプッシャの位置関係を示す図であり、(A)は接触面をカム面に接触させた状態を示す正面図、(B)は接触させる前の状態を示す正面図である。
図9】上記実施形態において把持部が中立位置に位置するときの状態を示す図であり、(A)はカム部材の側面図、(B)は把持部の側面図である。
図10】把持部が中立位置から手前方向へ最大回転角度回転されたときの状態を示す図であり、(A)はカム部材の側面図、(B)は把持部の側面図である。
図11】把持部が中立位置から奥方向へ最大回転角度回転されたときの状態を示す図であり、(A)はカム部材の側面図、(B)は把持部の側面図である。
図12】カム部材における凹部の変更例を示す斜視図である。
図13】カム部材における凹部の別の変更例を示す斜視図である。
図14】カム部材における凹部の別の変更例を示す斜視図である。
図15】カム部材における凹部の別の変更例を示す斜視図である。
図16】カム部材における凹部の別の変更例を示す斜視図である。
図17】カム部材における凹部の別の変更例を示す斜視図である。
図18】カム部材における凹部の別の変更例を示す斜視図である。
図19】カム部材に代えてプッシャに凹部が設けられた変更例において、カム部材及びプッシャを分離して示す斜視図である。
図20】回転制御機構の部品配置に関する変更例を示す図であり、図2に対応する部分平断面図である。
図21】回転制御機構の部品配置に関する別の変更例を示す図であり、図2に対応する部分平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、ステアバイワイヤシステムが適用された車両の操舵装置に用いられるステアリングハンドルに具体化した一実施形態について、図1図11を参照して説明する。
ステアバイワイヤシステムとは、電気信号でアクチュエータを介してステアリング操作を行なうシステムである。このシステムが適用された車両では、ステアリングハンドルを、車輪に対し機械的に連結された従来の一般的なステアリングホイールよりも大きく回転させることがあり得る。
【0043】
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車幅方向(乗物の幅方向)であって、車両の前進時の左右方向と一致するものとする。
【0044】
図1に示すように、車室内の運転席の前方には、車両を操舵する際に運転者(図示略)によって操作される操舵装置10が設けられている。操舵装置10は、第1軸線L1を有するステアリングシャフト11と、ステアリングハンドル12とを備えている。第1軸線L1は、特許請求の範囲における回転軸線に該当し、ステアリングシャフト11は、特許請求の範囲におけるハンドル支持部の少なくとも一部を構成する。ステアリングシャフト11は、第1軸線L1を中心として正逆両方向へ回転可能に構成されている。ステアリングシャフト11は、後方ほど高くなるように、車両の前後方向に対し傾斜した状態で配置されている。ステアバイワイヤシステムでは、ステアリングシャフト11の回転が電気信号に変換され、この電気信号によってアクチュエータが作動させられることで、操舵が行なわれる。
【0045】
なお、図1には、ステアリングハンドル12の骨格部分のみが図示されている。
ステアリングハンドル12は、ボス部20、一対のスポーク部30及び一対の把持部40を備えている。次に、各部材について説明する。
【0046】
<ボス部20>
ボス部20は、筒状部21及びケース部22を備えている。筒状部21は、ステアリングシャフト11の後端部に一体回転可能に取り付けられている。ケース部22は、筒状部21の後端部に固定されている。ケース部22内には、エアバッグ装置(図示略)等が収容されている。ケース部22は、筒状部21よりも後方において、第1軸線L1を挟んだ状態で互いに対向する一対の支持壁部23を備えている。
【0047】
<スポーク部30>
図1及び図2に示すように、一対のスポーク部30は、第2軸線L2を有するシャフトによってそれぞれ構成されている。第2軸線L2は、特許請求の範囲における軸線に該当する。
【0048】
ここで、第2軸線L2を中心として放射状に延びる方向を「径方向」といい、同第2軸線L2を中心とする円に沿う方向を「周方向」というものとする。
両スポーク部30は、ボス部20を挟んで互いに対向する箇所に配置されている。両第2軸線L2は、ボス部20から互いに反対方向へ放射状に延びている。両第2軸線L2は、車両の直進時には、ボス部20から互いに左右方向、すなわち、車幅方向における反対方向へ延びた状態となる。
【0049】
各スポーク部30は、第1軸線L1に近い側の端部において、支持壁部23に対し挿通された状態で固定されている。従って、各スポーク部30は、第2軸線L2を中心とした回転が不能である。
【0050】
なお、ここでの「放射状に延びる状態」には、第1軸線L1に対し直交する面に沿って延びる状態が含まれるほか、第1軸線L1に対し直交に近い状態で交差する面に沿って延びる状態も含まれる。例えば、第1軸線L1から径方向外方へ遠ざかるに従い運転者に近づくように、第1軸線L1に対し直交に近い状態で交差する面に沿って延びる状態が、上記「放射状に延びる状態」に含まれる。
【0051】
一対のスポーク部30は、第1軸線L1を挟んで互いに面対称の関係を有する形状をなしている。そのため、ここでは右方のスポーク部30についてのみ説明する。
図1図3に示すように、スポーク部30のうち、上記支持壁部23に固定された端部に対し、第1軸線L1から遠ざかる側に隣り合う箇所は、円柱状の一般部31によって構成されている。スポーク部30のうち、一般部31よりも第1軸線L1から遠い部分は、それぞれ円柱状をなす第1軸部32及び第2軸部35によって構成されている。第1軸部32及び第2軸部35は、特許請求の範囲における軸部に該当する。
【0052】
第1軸部32は、一般部31よりも小径状に形成されている。第1軸部32の一部、より詳しくは、第2軸部35との境界部分には回転規制部33が形成されている。図7(A)に示すように、回転規制部33の周方向における複数箇所には、第2軸線L2に沿う方向へ延びる外平面部34が形成されている。回転規制部33は、正多角角柱状をなしていることが望ましい。本実施形態では、上記回転規制部33が、正六角柱状をなしている。回転規制部33は周方向に互いに繋がった状態で隣り合う6つの外平面部34を有している。隣り合う外平面部34がなす角度は、全ての隣り合う外平面部34について同一である。
【0053】
図2及び図3に示すように、第2軸部35は、第1軸部32よりも小径に形成されている。第2軸部35のうち、第1軸線L1から遠い側の端部には、その端面において開口し、かつ第2軸線L2に沿って第1軸線L1側へ延びるねじ穴36が形成されている。
【0054】
<把持部40>
図1図3に示すように、一対の把持部40は、運転者の手によって把持される箇所である。両把持部40は、第1軸線L1を挟んで互いに面対称の関係を有する形状をなしている。そのため、ここでは、右方の把持部40についてのみ説明する。図2及び図4に示すように、把持部40は、第1軸線L1に近い側の端面において開口し、かつ第2軸線L2に沿って延びる収容凹部41を有している。収容凹部41は、正六角形に近い開口形状を有している。
【0055】
図2に示すように、収容凹部41に対しては、上記一般部31の一部、第1軸部32の全体、及び第2軸部35の全体が挿入されている。把持部40は、スポーク部30に対し、第2軸線L2を中心として正逆両方向へ回転し得るように構成されている。表現を変えると、把持部40は、第2軸線L2を回転中心として、回転しないスポーク部30の周りを正逆両方向へ回転可能に構成されている。
【0056】
ここで、図2及び図9(B)に示すように、車両の直進時における把持部40の第2軸線L2の周りでの位置を「中立位置」とする。把持部40のうち、図9(B)において第2軸線L2よりも上方部分が、運転者に近づく側へ回転する方向を「手前方向」とする。把持部40のうち、図9(B)において第2軸線L2よりも上方部分が、運転者から遠ざかる側へ回転する方向を「奥方向」とする。
【0057】
図2及び図4に示すように、スポーク部30と把持部40との間には、回転制御機構45が設けられている。回転制御機構45は、収容凹部41内に配置されている。なお、図示はしないが、ボス部20よりも左方のスポーク部30と把持部40との間にも回転制御機構45が設けられている。両回転制御機構45の構造は、第1軸線L1(図1参照)を挟んで互いに面対称の関係を有している。このため、ここでは、右方の回転制御機構45についてのみ説明する。
【0058】
<回転制御機構45>
回転制御機構45は、次の機能を有している。
・把持部40の中立位置から手前方向への最大回転角度θ2を規定する(図10(B))。
【0059】
・把持部40の中立位置から奥方向への最大回転角度θ1を規定する(図11(B))。
・車両の直進時に把持部40を中立位置に復帰させる(図9(B))。
【0060】
図2及び図3に示すように、回転制御機構45は、第1軸線L1に対し遠い側から近い側に向かって順に配置される次の複数の部材を備えている。複数の部材とは、回転部材46、カム部材55、プッシャ67、保持部75及び弾性部材である。次に、回転制御機構45を構成する各部材について説明する。
【0061】
[回転部材46]
図2図4及び図5に示すように、回転部材46は、第2軸線L2に沿う方向へ延びている。回転部材46は、上記収容凹部41の内面形状に対応した外形形状、すなわち、六角柱状に近い外形形状を有している。回転部材46は、上記収容凹部41のうち、内底面に近い箇所に嵌合された状態で、把持部40に対し一体回転可能に連結されている。
【0062】
回転部材46における第1軸線L1に近い側の端面には突部47が設けられている。突部47の外周面の周方向における1箇所又は複数箇所には、第2軸線L2に沿う方向へ延びる平面部48が形成されている。本実施形態では、第2軸線L2を挟んで相対向する2箇所に、平面部48が互いに平行な状態で形成されている。
【0063】
回転部材46は、第2軸線L2に沿う方向へ延びる孔49を有している。孔49の一方の端部は、突部47の第1軸線L1に近い側の端面において開口し、他方の端部は、回転部材46において第1軸線L1から遠い側の端面において開口している。第2軸線L2に沿う方向における孔49の両端部は、同孔49の他の箇所よりも大きな孔径を有している。図2及び図3に示すように、孔49の上記両端部には、ベアリング51がそれぞれ配置されている。そして、上記第2軸部35が両ベアリング51に挿通された状態で、上記孔49内に配置されている。回転部材46は、両ベアリング51を介してスポーク部30に対し、正逆両方向への回転可能に支持されている。
【0064】
第2軸部35のねじ穴36には、ワッシャ52を介してボルト53が螺入されている。第1軸線L1から遠い側のベアリング51の内輪は、このワッシャ52によって第1軸線L1側へ押さえ付けられている。この押さえ付けにより、第1軸線L1から遠い側のベアリング51の回転部材46からの脱落が規制されている。
【0065】
[カム部材55]
図5及び図6に示すように、カム部材55は、例えば、ポリアセタール(POM)等の樹脂材料によって形成されている。カム部材55は、第2軸線L2を中心とする円筒面を外周に有している。カム部材55は、第2軸線L2に沿う方向へ延びる円形の挿通孔56を有している。挿通孔56には、第2軸部35が挿通されている(図2参照)。
【0066】
上記挿通により、カム部材55は、第2軸部35に対し、第2軸線L2の周りを正逆両方向へ回転可能である。カム部材55のうち、第1軸線L1から遠い側の端面には、上記突部47の外形形状に対応する形状の嵌合凹部57が形成されている。
【0067】
嵌合凹部57の内壁面には、上記平面部48に対応して、第2軸線L2に沿う方向へ延びる平面部58が形成されている。本実施形態では、第2軸線L2を挟んで相対向する2箇所に、平面部58が互いに平行な状態で形成されている。
【0068】
嵌合凹部57には、平面部58が平面部48に対向するように、突部47が嵌入されている。この嵌入により、回転部材46とカム部材55とが一体回転可能に連結されている。
【0069】
従って、カム部材55及びプッシャ67のうち、カム部材55は、ボス部20、スポーク部30及び把持部40のうち、ハンドル支持部に近い側に隣接する部材(スポーク部30)に対し回転するもの(把持部40)に一体回転可能に取り付けられていることになる。
【0070】
図6及び図9(A)に示すように、カム部材55は、第2軸線L2に沿う方向の両方の面のうち、第1軸線L1に近い面にカム面59を有している。カム面59は、カム部材55の全周にわたって形成されている。
【0071】
カム面59は、傾斜カム面61,62の組み合わせを2組有している。各組における傾斜カム面61,62は、周方向の半分(180度)の領域に形成されている。組毎の傾斜カム面61,62は、第2軸線L2を挟んで対向する箇所において、点対称の関係となるように形成されている。各組における傾斜カム面61,62は、周方向に互いに繋がった状態で隣り合っている。両傾斜カム面61,62が繋がっている部分を、境界部63というものとする。各境界部63は、径方向へ直線状に延びている。
【0072】
図8(A),(B)に示すように、各組における傾斜カム面61,62は、第2軸線L2に直交する仮想面P1に対し、それぞれ周方向における反対方向に傾斜している。傾斜カム面61,62は、上記境界部63が第1軸線L1から最も遠い箇所に位置するように、仮想面P1に対し傾斜している。傾斜カム面61,62が仮想面P1に対しなす角度である傾斜角度は、第2軸線L2の周りの位置に拘らず同一に設定されている。表現を変えると、各傾斜カム面61,62は、仮想面P1に対し単一の角度で傾斜する平らな面によって構成されている。各組における傾斜カム面61,62の傾斜角度は、互いに同一に設定されている。
【0073】
各組における傾斜カム面61は、把持部40が手前方向へ回転されたときに、後述するプッシャ67の傾斜接触面73に対し接触する箇所である。各組における傾斜カム面62は、把持部40が奥方向へ回転されたときに傾斜接触面74に対し接触する箇所である。
【0074】
一方の組における傾斜カム面61と、他方の組における傾斜カム面62とは、周方向に互いに隣り合っている。
さらに、図6及び図9(A)に示すように、カム部材55には、カム面59において開口する凹部65Aが形成されている。凹部65Aはドット状をなし、カム面59において周方向に互いに離間した複数箇所に形成されている。各凹部65Aは、カム面59において円形に開口している。各凹部65Aの内壁面は半球面状に形成されている。また、複数の凹部65Aは、径方向に互いに同一の箇所に形成されている。表現を変えると、複数の凹部65Aは、第2軸線L2を中心とする円上、ここでは、第2軸線L2を中心とし、かつカム部材55の外周面と内周面との中間の箇所を通る円上に形成されている。また、複数の凹部65Aは、周方向に等角度毎に形成されている。
【0075】
さらに、複数箇所の凹部65Aのうちの一部(ここでは、1つ)の凹部65Aは、境界部63上に位置している。この凹部65Aは、傾斜カム面61,62に跨がっている。
上記カム面59には、グリス等の潤滑剤66が塗布されている。複数の凹部65Aのそれぞれには、潤滑剤66が溜められている。
【0076】
[プッシャ67]
図2図6及び図7(A)に示すように、プッシャ67は、例えば、上記POM等の樹脂材料によって形成されている。プッシャ67は、第2軸線L2を中心とする円筒面を外周に有している。プッシャ67は、第2軸線L2に沿う方向へ延びる挿通孔68を有している。挿通孔68の内壁面のうち、周方向であって、上記回転規制部33の外平面部34に対応する複数箇所には、第2軸線L2に沿う方向へ延びる内平面部69が形成されている。挿通孔68は、正多角形の開口を有していることが望ましく、本実施形態では正六角形の開口を有している。挿通孔68は、周方向に互いに繋がった状態で隣り合う6つの内平面部69を有している。隣り合う内平面部69がなす角度は、全ての隣り合う内平面部69について同一である。第2軸線L2に沿う方向における挿通孔68の長さは、同方向における回転規制部33の長さよりも短く設定されている。
【0077】
そして、この正六角形の挿通孔68に対し、上記回転規制部33が嵌合状態で挿通されている。挿通孔68の6つの内平面部69のそれぞれは、回転規制部33のいずれかの外平面部34に対向している。
【0078】
このように、カム部材55及びプッシャ67のうち、プッシャ67は、上記形態の挿通により、スポーク部30に対し、第2軸線L2の周りで回転するのを規制された状態で、回転規制部33に対し第2軸線L2に沿う方向にスライド可能に取り付けられている。
【0079】
図6及び図8(A),(B)に示すように、プッシャ67は、上記カム面59に対し接触する接触部71を有している。本実施形態では、プッシャ67は、第2軸線L2を挟んで対向する2箇所に接触部71を有している。各接触部71は、第2軸線L2に沿ってカム部材55側へ突出している。
【0080】
各接触部71は、第1軸線L1から遠い側の端面に接触面72を有している。接触面72は、上記仮想面P1に対し傾斜する一対の傾斜接触面73,74を有している。接触面72毎の傾斜接触面73,74は、第2軸線L2を挟んで対向する箇所において、点対称の関係となるように形成されている。接触面72毎の両傾斜接触面73,74は、周方向に互いに繋がった状態で隣り合い、かつ径方向に延びている。傾斜接触面73,74の境界部分は、径方向へ直線状に延びている。各接触面72は、傾斜接触面73,74の上記境界部分が第1軸線L1から最も遠い箇所に位置するように、尖った形状をなしている。接触面72毎の傾斜接触面73,74の径方向における寸法M1は、各傾斜カム面61,62の径方向における寸法M2と同程度に設定されている(図6参照)。
【0081】
接触面72毎の傾斜接触面73,74は、上記仮想面P1に対し、それぞれ周方向における反対方向に傾斜する平らな面によって構成されている。傾斜接触面73,74の仮想面P1に対する傾斜角度は、互いに同一であって、上記傾斜カム面61,62の傾斜角度と同一に設定されている。
【0082】
なお、傾斜接触面73,74が傾斜カム面61,62に対し接触する状態は、次の2つの状態を含む。
・傾斜接触面73,74が潤滑剤66を介して傾斜カム面61,62に間接的に接触する状態。
【0083】
・潤滑剤66が切れて、傾斜接触面73,74が傾斜カム面61,62に対し直接接触する状態。
上述したカム部材55及びプッシャ67は、周方向について、次の条件が満たされるように配置されている。
【0084】
・車両の直進時に、接触面72の傾斜接触面73,74がカム面59に対し、両傾斜カム面61,62に跨がった状態で接触すること。すなわち、傾斜接触面73が傾斜カム面61に接触し、かつ傾斜接触面74が傾斜カム面62に接触すること。
【0085】
[保持部75]
図2及び図3に示すように、保持部75は、金属等の硬質の材料によって形成されている。保持部75は、プッシャ67よりも第1軸線L1に近い側に配置されている。
【0086】
保持部75は、第2軸線L2に沿う方向へ延びる円筒状の筒部76と、筒部76の両端部のうち、第1軸線L1から遠い側の端部の外周に設けられた環状のフランジ部77とを備えている。保持部75には、第1軸部32が挿通されている。この挿通により、保持部75は、回転を許容された状態で第1軸部32に対し、第2軸線L2に沿う方向にスライド可能に取り付けられている。
【0087】
[弾性部材]
上記筒部76の外周であり、かつフランジ部77に隣接する箇所には、ばね受け部材78が配置されている。
【0088】
第1軸部32の外周であり、かつ一般部31との境界部分には、ワッシャ81が配置されている。ワッシャ81は、第2軸線L2に沿う方向へ延びる円筒状の筒部82と、筒部82の両端部のうち、第1軸線L1に近い側の端部の外周に設けられた環状のフランジ部83とを備えている。ワッシャ81の筒部82は、上記保持部75の筒部76から第1軸線L1側へ離間している。筒部82の外周にはばね受け部材84が配置されている。
【0089】
第1軸部32及び各筒部76,82のそれぞれの外周であり、両ばね受け部材78,84の間には、プッシャ67をカム部材55側へ付勢する弾性部材が圧縮された状態で配置されている。本実施形態では、弾性部材として、圧縮コイルばね等のばね85が用いられている。
【0090】
回転制御機構45は、さらに、中立位置に位置する把持部40の正逆各方向への最大回転角度θ1,θ2を規定する規制部を備えている。規制部は、第1規制部87及び第2規制部89からなる。
【0091】
[第1規制部87]
図2に示すように、第1規制部87は、把持部40が中立位置から奥方向へ回転されたときの最大回転角度θ1(図11(B)参照)を規定する機能を有している。第1規制部87は、プッシャ67のスライドを規制することで、上記機能を実現している。
【0092】
第1規制部87は、保持部75の筒部76と、ワッシャ81の筒部82とによって構成されている。第1規制部87は、第2軸線L2に沿う方向のうち、第1軸線L1に近づく方向へのプッシャ67のスライドに伴い、筒部76が筒部82に接触することにより、同方向へのスライドを規制する。第1規制部87は、このスライドの規制により、把持部40が最大回転角度θ1を越えて奥方向へ回転するのを規制する。
【0093】
[第2規制部89]
図8(A),(B)及び図10(A),(B)に示すように、第2規制部89は、把持部40が中立位置から手前方向へ回転されたときの最大回転角度θ2を規定する機能を有している。第2規制部89は、カム部材55の手前方向の回転を規制することによって、上記機能を実現している。
【0094】
第2規制部89は、カム部材55において第2軸線L2に沿う方向へ延びるように形成された平らな2つの規制壁面64を備えている。各規制壁面64は、各組の傾斜カム面61のうち、境界部63とは反対側の端縁を起点とし、第2軸線L2に沿って第1軸線L1に近づく側へ延びている。一対の傾斜カム面61,62の組み合わせが2組設けられ、一方の組の傾斜カム面61と他方の組の傾斜カム面62とが隣り合っている本実施形態では、規制壁面64は、傾斜カム面61と、隣の組の傾斜カム面62との間の面によって構成されている。
【0095】
第2規制部89は、カム部材55の回転に伴い、図10(A)に示すように、各規制壁面64が、対応する接触部71に接触することにより、把持部40が最大回転角度θ2を越えて手前方向へ回転するのを規制する。
【0096】
さらに、図10(B)及び図11(B)に示すように、第1規制部87によって規制される奥方向の最大回転角度θ1は、第2規制部89によって規制される手前方向の最大回転角度θ2よりも大きく設定されている。従って、第2軸線L2の周りにおける各傾斜カム面61,62の長さを周長とすると、傾斜カム面62の周長は傾斜カム面61の周長よりも長く設定されている。
【0097】
図2に示すように、上記の構成を有する回転制御機構45のうち、少なくともばね85、プッシャ67及びカム部材55によって、回転トルク発生機構部91が構成されている。回転トルク発生機構部91は、把持部40が第2軸線L2の周りで回転されたときに回転トルクをそれぞれ発生して把持部40に作用させる機能を担っている。
【0098】
回転トルク発生機構部91は、図9(A),(B)に示すように、把持部40が中立位置に位置するとき、すなわち、両傾斜接触面73,74が両傾斜カム面61,62に接触するときに回転トルクを最小にする。
【0099】
回転トルク発生機構部91は、把持部40が奥方向へ回転されたとき、中立位置からの回転角度が大きくなるに従い、すなわち、傾斜カム面62の接触部71との接触箇所が境界部63から遠ざかるに従い、回転トルクを徐々に増大させる。そして、図11(A),(B)に示すように、回転トルク発生機構部91は、把持部40が奥方向へ最大回転角度θ1回転されたとき、すなわち、第1規制部87によって回転が規制されたときに回転トルクを最大にする。
【0100】
回転トルク発生機構部91は、把持部40が手前方向へ回転されたとき、中立位置からの回転角度が大きくなるに従い、すなわち、傾斜カム面61の接触部71との接触箇所が境界部63から遠ざかるに従い、回転トルクを徐々に増大させる。そして、回転トルク発生機構部91は、図10(A),(B)に示すように、把持部40が手前方向へ最大回転角度θ2回転されたとき、すなわち、第2規制部89によって回転が規制されたときに回転トルクを最大にする。
【0101】
なお、上記回転トルクは、把持部40が手前方向へ回転されたときにも奥方向へ回転されたときにも、回転角度の増加とともに、0.1[N・m]~1.5[N・m]の範囲で増加する特性となるように設定されることが望ましい。回転トルクが上記の範囲にあると、把持部40が少しの力で回転することが起こりにくい。そのため、把持部40を安定して回転させることが可能である。また、把持部40を回転させるのに過大な力を加えなくてもよい。そのため、手首に過大な負荷がかかるのを抑制可能である。
【0102】
次に、上記のように構成された本実施形態の作用について説明する。
図1及び図2に示すように、車両の直進時には、各スポーク部30及び各把持部40が、ボス部20の左右両側方に位置する。また、図9(A),(B)に示すように、各把持部40は、第2軸線L2を中心とする回転方向には、中立位置に位置する。各回転制御機構45では、プッシャ67の傾斜接触面73,74が、カム面59における傾斜カム面61,62に対し、押圧状態で接触する(図8(A)、図9(A)参照)。傾斜カム面61が傾斜接触面73に面接触し、傾斜カム面62が傾斜接触面74に面接触する。
【0103】
このときには、各把持部40に作用する回転トルクは最小となる。この回転トルクは、各把持部40を第2軸線L2の周りで回転させる際の操舵荷重として、各把持部40を把持した手を通じて運転者に伝わる。運転者が感ずる操舵荷重は最小となる。
【0104】
上記の状態から、運転者により両把持部40に対し、第1軸線L1の周りの正逆いずれかの方向に回転させようとする力が加えられると、各回転制御機構45が次のように作用する。正逆方向とは、時計回り方向及び反時計回り方向である。
【0105】
図1に示すように、運転者が各把持部40に加えた上記力は、各スポーク部30、ボス部20を介してステアリングシャフト11に伝達される。この伝達により、両把持部40、両スポーク部30、ボス部20及びステアリングシャフト11が第1軸線L1の周りを回転する。ステアリングシャフト11の回転が電気信号に変換され、同電気信号によりアクチュエータが作動させられる。車両の操舵が行なわれ、車両の進行方向が変更される。上記第1軸線L1を中心とする各把持部40の回転は、同把持部40を把持した運転者の手首の構造から、第2軸線L2を中心とする各把持部40の正逆両回転を伴いながら行なわれる。
【0106】
このように、各把持部40が第2軸線L2の周りで回転するため、回転しないものに比べ、運転者は、各把持部40を把持したままで、ステアリングハンドル12を第1軸線L1の周りで大きく(90度以上)回転させることが可能である。
【0107】
ここで、例えば、右側の把持部40について着目すると、同把持部40が第1軸線L1の周りを反時計回り方向へ回転されると、図10(A),(B)に示すように、同把持部40が上記回転トルクに抗して手前方向へ回転される。
【0108】
回転制御機構45では、カム部材55が把持部40と一体となって、スポーク部30に対し手前方向へ回転する。傾斜カム面61において、傾斜接触面73に接触する箇所が変化する。傾斜カム面62は傾斜接触面74から周方向へ遠ざかる。傾斜接触面74は、傾斜カム面61とは反対側に傾斜しているため、いずれの傾斜カム面61,62にも接触しなくなる。傾斜カム面61のうち、境界部63とは異なる箇所が傾斜接触面73に接触することにより、ばね85を弾性変形(圧縮)させながらプッシャ67を第1軸線L1側へ押し返す力が発生する。この力により、プッシャ67が第2軸線L2に沿って第1軸線L1側へスライドする。
【0109】
上記力は、カム部材55の回転に伴い、傾斜カム面61の傾斜接触面73との接触箇所が、境界部63から周方向へ遠ざかるに従い増加する。また、カム部材55の回転に伴い、ばね85の圧縮量が増加し、回転トルクが増加する。従って、回転トルクは、把持部40の回転角度に応じて変化する特性となる。操舵荷重は、中立位置から手前方向への把持部40の回転角度が大きくなるに従い増加する。
【0110】
把持部40の上記手前方向への回転に伴い、カム部材55が最大回転角度θ2回転すると、図10(A)に示すように、各規制壁面64が、対応する接触部71に接触する。これらの接触により、カム部材55がそれ以上手前方向へ回転することを規制される。これに伴い、把持部40が最大回転角度θ2を越えて手前方向へ回転することを規制される。また、このときには、ばね85の圧縮量が最大となるため、回転トルク及び操舵荷重が最大となる。なお、保持部75の筒部76は、ワッシャ81の筒部82から離れている。
【0111】
これに対し、図1における右側の把持部40が第1軸線L1の周りを時計回り方向へ回転されると、把持部40が、上記回転トルクに抗して奥方向へ回転する。
回転制御機構45では、カム部材55が把持部40と一体となって、スポーク部30に対し、奥方向へ回転する。傾斜カム面62において、傾斜接触面74に接触する箇所が変化する。傾斜カム面61は傾斜接触面73から周方向へ遠ざかる。傾斜接触面73は、傾斜カム面62とは反対側に傾斜しているため、いずれの傾斜カム面61,62にも接触しなくなる。傾斜カム面62のうち、境界部63とは異なる箇所が傾斜接触面74に接触することにより、ばね85を弾性変形(圧縮)させながらプッシャ67を第1軸線L1側へ押し返す力が発生する。この力により、プッシャ67が第2軸線L2に沿って第1軸線L1側へスライドする。
【0112】
上記力は、カム部材55の回転に伴い、傾斜カム面62の傾斜接触面74との接触箇所が、境界部63から周方向へ遠ざかるに従い増加する。また、カム部材55の回転に伴い、ばね85の圧縮量が増加し、回転トルクが増加する。従って、回転トルクは、把持部40の回転角度に応じて変化する特性となる。操舵荷重は、中立位置から奥方向への把持部40の回転角度が大きくなるに従い増加する。
【0113】
把持部40の上記奥方向への回転に伴ってカム部材55が回転すると、プッシャ67がカム部材55によって押されるため、保持部75がワッシャ81に接近する。カム部材55が図11(A),(B)に示すように、最大回転角度θ1回転すると、図2において保持部75の筒部76がワッシャ81の筒部82に接触する。この接触により、プッシャ67がそれ以上第1軸線L1側へスライドすることを規制される。これに伴い、把持部40が最大回転角度θ1を越えて奥方向へ回転することを規制される。また、このときには、ばね85の圧縮量が最大となるため、回転トルク及び操舵荷重が最大となる。
【0114】
このように、各把持部40が中立位置に位置するときには、回転トルク(操舵荷重)が最小となる。各把持部40が中立位置から正逆いずれの方向へ回転したときにも、その回転角度に拘わらず、回転トルク(操舵荷重)が中立位置での回転トルク(操舵荷重)よりも大きくなる。そのため、回転トルク(操舵荷重)が把持部40の回転量(回転角度)に拘わらず一定である場合に比べ、操舵感が向上する。
【0115】
また、回転角度が最大になると、回転トルク(操舵荷重)が最大となる。このように、回転トルク(操舵荷重)が、第2軸線L2の周りにおける各把持部40の回転角度に対応したものとなるため、操舵感がさらに向上する。
【0116】
さらに、上記回転トルク(操舵荷重)は、中立位置からの各把持部40の回転角度が大きくなるに従い徐々に増加する特性となる。各把持部40を第2軸線L2の周りで大きく回転させていることが、各把持部40を把持した手を通じて運転者に直感的に伝わる。そのため、操舵感がより一層向上する。
【0117】
ここで、上述したように、運転者が、中立位置に位置する各把持部40を第1軸線L1の周りで回転させる際、各把持部40を奥方向へ回転させた場合には、手首の構造上、手前方向へ回転させた場合よりも多く回転させることが可能である。
【0118】
この点、本実施形態では、奥方向への最大回転角度θ1が、手前方向への最大回転角度θ2よりも大きく規定されている。そのため、各把持部40が第1軸線L1の周りで大きく回転された場合に、各把持部40を手前方向よりも奥方向へ多く回転させることが可能となる。
【0119】
また、各第2軸線L2の周りにおける各把持部40の回転により、同把持部40を把持した運転者の手首にかかる負荷が軽減されるため、両把持部40の操作性が向上する。また、各把持部40を奥方向へ多く回転させる途中で回転が規制されることが起こりにくく、回転規制に起因する底付きの発生が抑制される。そのため、各把持部40を、第2軸線L2の周りでスムーズに回転させ、ひいては、ステアリングハンドル12を第1軸線L1の周りでスムーズに回転させることが可能となる。
【0120】
上記の状態から、運転者により、各把持部40に加えられる上記方向の力が弱められると、両把持部40、両スポーク部30、ボス部20及びステアリングシャフト11が第1軸線L1の周りを上記とは逆方向へ回転する。各把持部40に対し、上記直進時の位置に戻そうとする力が加えられた場合も同様である。車両の進行方向が直進方向に戻される。上記第1軸線L1を中心とする各把持部40の回転は、各第2軸線L2を中心とする各把持部40の上記とは逆方向の回転を伴いながら行なわれる。
【0121】
各回転制御機構45では、各カム部材55が各把持部40と一体となって上記とは逆方向へ回転する。各カム部材55の回転に伴いカム面59が第2軸線L2の周りを上記とは逆方向へ回転する。各カム面59において、プッシャ67の接触面72に接触する箇所が変化し、境界部63が、対応する接触面72に近づく。これに伴い、ばね85を弾性変形(圧縮)させながらプッシャ67を第1軸線L1側へ押し返す力が減少する。図8(A)及び図9(A)に示すように、この力は、カム面59毎の両傾斜カム面61,62が、対応する傾斜接触面73,74に接触したときに最小となる。
【0122】
このように、各把持部40を各第2軸線L2の周りで回転させる際の回転トルク(操舵荷重)が、中立位置に近づくに従い減少する。そのため、上記回転トルク(操舵荷重)が各把持部40の回転量に拘らず一定である場合に比べ、両把持部40の操舵感が向上する。
【0123】
また、車両の進行方向を直進方向に戻すために、各把持部40が、ボス部20の左右両側方となる箇所まで、第1軸線L1の周りで回転されると、傾斜カム面61が傾斜接触面73に接触し、かつ傾斜カム面62が傾斜接触面74に接触する。境界部63が、傾斜接触面73,74の境界部分に接触する。
【0124】
従って、運転者は、各把持部40を第1軸線L1の周りで回転させるだけでよい。各把持部40を第1軸線L1の周りで回転させる操作とは別に、各把持部40を中立位置に復帰させる操作を行なわなくて済み、この点でも両把持部40の操作性が向上する。
【0125】
ところで、車両の直進時には、傾斜接触面73が傾斜カム面61に対し面接触し、傾斜接触面74が傾斜カム面62に対し面接触する。そして、把持部40が奥方向へ回転されると、傾斜カム面61が傾斜接触面73から周方向へ離れ、傾斜カム面62が傾斜接触面74に面接触し続ける。また、把持部40が手前側へ回転されると、傾斜カム面62が傾斜接触面74から周方向へ離れ、傾斜カム面61が傾斜接触面73に面接触し続ける。
【0126】
そのため、接触面がカム面に対し点接触する場合に比べ、接触面72とカム面59との接触面積が増大する。これに伴い、接触面72とカム面59との間に生ずる面圧が小さくなる。接触部71及びカム部材55の摩耗が抑制される。
【0127】
また、接触面72はカム面59に対し潤滑剤66を介して接触する。この潤滑剤66により、カム部材55及び接触部71の摩耗が抑制される。
ここで、接触面72がカム面59に対し、潤滑剤66を介して面接触すると、次の懸念がある。それは、カム面59に対し接触面72が押し付けられた状態で、カム部材55が第2軸線L2を中心として回転されると、接触部71とカム部材55とが摺動する。カム面59のうち、接触部71との摺動に関わる領域に塗布されている潤滑剤66が、接触部71によって押されて上記領域の外へ出されるおそれがある。上記領域の外へ出される潤滑剤66の量は、接触面72のカム面59に対する接触面積が大きくなるに従い多くなる。
【0128】
一方で、潤滑剤66が上記領域の外へ出されると、その分、上記領域における潤滑剤66が減少して、摩擦係数が増大する。これに伴い、接触部71及びカム部材55が摺動する際に、接触面72及びカム面59の間に生ずる摩擦力が増大し、摺動性が低下する。
【0129】
この点、本実施形態では、接触部71及びカム部材55の摺動により、カム面59が摩耗すると、凹部65A内の潤滑剤66が、摩耗したカム面59に現われる。この潤滑剤66が接触面72とカム面59との間に介在することにより、上記摩擦係数及び摩擦力の増大が、カム面59の周方向に広い領域で抑制される。
【0130】
ところで、回転制御機構45では、図7(A)に示すように、挿通孔68の内平面部69と、回転規制部33の外平面部34とが対向している。そのため、カム部材55が回転すると、プッシャ67に対し、これを第2軸線L2の周りで回転させようとする力が加わる。この力は、内平面部69及び外平面部34を介して回転規制部33に伝達される。この際、内平面部69及び外平面部34に対し交差(直交)する方向に力F1が伝達される。
【0131】
仮に、図7(B)に示すように、内平面部69及び外平面部34の組み合わせが1組であると、上記力F1が、上記1組の組み合わせにおける内平面部69及び外平面部34に集中して伝達される。内平面部69及び外平面部34のうち、周方向における端部が徐々に摩耗し、プッシャ67の回転を規制する性能が低下するおそれがある。
【0132】
この点、本実施形態では、図7(A)に示すように、内平面部69及び外平面部34の組み合わせが、回転規制部33の周方向に複数設けられている。そのため、上記力は、全ての組み合わせにおける内平面部69及び外平面部34に分散されて伝達される。各組み合わせにおける内平面部69及び外平面部34に伝達される力F1は小さくなる。しかも、上記力F1の伝達される方向が組み合わせ毎に異なる。内平面部69及び外平面部34の周方向における端部の摩耗が抑制される。
【0133】
特に、本実施形態では、挿通孔68が正六角形の開口を有しているため、内壁面が6つの内平面部69によって構成される。隣り合う内平面部69が互いになす角度は、全ての隣り合う内平面部69について同一である。また、回転規制部33が正六角柱状をなしているため、回転規制部33の外周面は、6つの外平面部34によって構成される。隣り合う外平面部34が互いになす角度は、全ての隣り合う外平面部34について同一である。
【0134】
そのため、カム部材55からプッシャ67に対し、これを回転させようとする力が加わった場合、その力は、内平面部69及び外平面部34の組み合わせ毎に分散される。組み合わせ毎の内平面部69及び外平面部34を介して力F1が回転規制部33に伝達される。組み合わせ毎の内平面部69及び外平面部34に伝達される上記力F1が小さくなる。しかも、分散された上記力F1は、周方向に等角度毎に伝達される。
【0135】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)図6及び図8(A),(B)に示すように、本実施形態では、接触面72として、周方向に隣り合い、かつ仮想面P1に対し、周方向における反対方向へそれぞれ傾斜した状態で径方向へ延びる平らな一対の傾斜接触面73,74を形成している。傾斜カム面61及び傾斜接触面73の仮想面P1に対する各傾斜角度を互いに同一に設定している。傾斜カム面62及び傾斜接触面74の仮想面P1に対する各傾斜角度を互いに同一に設定している。
【0136】
そのため、各傾斜接触面73,74を、対応する傾斜カム面61,62に対し面接触させることができる。従って、接触面がカム面に対し点接触する場合に比べ、接触面72とカム面59との接触面積を増大させて、面圧を小さくすることができる。接触部71及びカム部材55の摩耗を抑制し、回転制御機構45ひいてはステアリングハンドル12の耐久性の向上を図ることができる。
【0137】
特に、本実施形態では、各傾斜接触面73,74の径方向における寸法M1を、各傾斜カム面61,62の径方向における寸法M2と同程度に設定している。そのため、接触面72とカム面59との接触面積をより大きくし、面圧をより小さくして、上記耐久性向上の効果を高めることができる。
【0138】
(2)図6及び図8(A),(B)に示すように、本実施形態では、カム面59において開口し、かつ潤滑剤66を溜める凹部65Aをカム部材55に形成している。そのため、カム面59に塗布されている潤滑剤66が、面接触する接触部71によって押されて、接触部71との摺動に関わる領域の外へ出されても、凹部65A内の潤滑剤66によって摩擦係数及び摩擦力の増大を抑制できる。その結果、摺動性の向上を図ることができる。
【0139】
(3)図9(A)に示すように、本実施形態では、それぞれドット状をなす凹部65Aを、カム面59において周方向に互いに離間した複数箇所に形成している。そのため、周方向に広い領域で、潤滑剤66を接触面72とカム面59との間に介在させることができる。摺動性を向上させる上記(2)の効果を、周方向に広い領域で得ることができる。
【0140】
また、凹部65Aがドット状をなしているため、その内部の潤滑剤66を、摩耗したカム面59に少しずつ現出させることができる。
(4)図6及び図9(A)に示すように、本実施形態では、複数箇所の凹部65Aの一部(1つ)を境界部63上に形成している。そのため、車両の直進時に、傾斜カム面61が傾斜接触面73に接触し、かつ傾斜カム面62が傾斜接触面74に接触したときに、両傾斜カム面61,62と両傾斜接触面73,74との間に潤滑剤66を介在させることができる。従って、把持部40が第2軸線L2を中心として正逆いずれの方向へ回転された場合にも、摺動性を向上できる。
【0141】
(5)本実施形態では、傾斜接触面73,74の境界部分が第1軸線L1から最も遠い箇所に位置するように、接触面72が尖った形状に形成されている。そのため、車両の直進時に、上記境界部分が傾斜カム面61,62の境界部63に対向するように、周方向の位置を合わせやすい。
【0142】
(6)図7(A)に示すように、本実施形態では、プッシャ67の挿通孔68の内壁面であって、周方向における複数箇所に、第2軸線L2に沿う方向へ延びる内平面部69を形成している。また、回転規制部33の外周面であり、かつ上記内平面部69に対向する箇所に、第2軸線L2に沿う方向へ延びる外平面部34を形成している。
【0143】
そのため、カム部材55からプッシャ67に対し、これを回転させようとする力が加わっても、その力を分散することで、組み合わせ毎の内平面部69及び外平面部34に伝達される力F1を小さくすることができる。その結果、上記力F1により、内平面部69及び外平面部34の周方向における端部が摩耗するのを抑制できる。プッシャ67の回転を規制する性能の低下を抑制できる。
【0144】
(7)図7(A)に示すように、本実施形態では、回転規制部33を正多角柱状に形成し、かつ挿通孔68の開口を正多角形に形成することで、内平面部69及び外平面部34の組み合わせの数を多くしている。そのため、分散されて小さくされた力F1を、周方向に等角度毎に伝達することができる。内平面部69及び外平面部34の周方向における端部の摩耗を抑制する上記(6)の効果を、周方向における広い領域で、同方向における位置に関係なく得ることができる。
【0145】
(8)図1に示すように、本実施形態では、把持部40を回転させてもスポーク部30は回転されない。従って、スポーク部30に対し、配線が必要なスイッチ、センサ等の部品を取り付けることが容易である。
【0146】
(9)図2に示すように、本実施形態では、回転制御機構45を把持部40内に配置している。そのため、回転制御機構45を外部から見えにくくすることができる。また、回転制御機構45をボス部20に配置する場合に比べ、ボス部20の意匠自由度を高めることができる。
【0147】
(10)周方向における各把持部40の回転トルクは、ばね85の圧縮量と対応する。圧縮量が多くなるに従い回転トルクが増加する。
従って、例えば、図2におけるばね85を、ばね定数の異なるばねに変えることによって、圧縮量を変更できる。また、図8(A),(B)において、仮想面P1に対する傾斜カム面61,62の傾斜角度を変えることによって、圧縮量を変更することができる。
【0148】
そのため、ばね定数及び傾斜角度の少なくとも一方を変えることで、ばね85の圧縮量を変え、各第2軸線L2の周りでの各把持部40の回転角度と回転トルクとの関係(特性)を低コストで変更できる。
【0149】
(11)図6に示すように、本実施形態では、プッシャ67毎に2つの接触部71を設けている。また、傾斜カム面61,62の組み合わせを2組設けている。そのため、プッシャ67に接触部71が1つのみ設けられ、傾斜カム面61,62の組み合わせがカム部材55に1組のみ設けられる場合に比べ、接触面72をカム面59に安定した状態で押し付けることができる。
【0150】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変更例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0151】
<スポーク部30に関する事項>
図7(A)において、外平面部34は、回転規制部33の外周面であり、かつ周方向における複数箇所であることを条件に、上記実施形態とは異なる箇所に形成されてもよい。この場合、隣り合う外平面部34は、周方向に繋がっていてもよいし、離れていてもよい。回転規制部33の外周面の全面が複数の外平面部34のみによって構成される場合、外平面部34の数は、3,4,5又は7以上であってもよい。その場合、隣り合う外平面部34が互いになす角度は、全ての隣り合う外平面部34について同一であってもよいし、異なってもよい。
【0152】
なお、上記変更がなされた場合、プッシャ67における挿通孔68の内壁面における内平面部69の位置が、上記外平面部34に対向する箇所に変更される。
<カム部材55に関する事項>
図8(A),(B)において、カム面59における各組の傾斜カム面61,62が、仮想面P1に対しそれぞれなす傾斜角度が、互いに異なる値に設定されてもよい。このようにすると、各把持部40を、第1軸線L1及び第2軸線L2の周りで回転させる際、回転の方向に応じて操作荷重及び操舵感を異ならせることができる。
【0153】
<プッシャ67に関する事項>
・プッシャ67における接触部71の数が1又は3以上に変更されてもよい。この場合、カム面59における傾斜カム面61,62の組み合わせの数が、接触部71の数と同じ数となるように変更される。
【0154】
・接触面72における傾斜接触面73,74の境界部分が尖らず、丸みを帯びていてもよい。
<凹部について>
・凹部が、ドット状をなし、かつカム面59において円形に開口していることを条件に、同凹部の配置態様や大きさが、上記実施形態とは異なるものに変更されてもよい。図12図14は、変更例の一例を示している。
【0155】
図12の変更例では、上記実施形態と同様の形状を有するドット状の凹部65Bが、カム面59の周方向に互いに離間した複数箇所で開口されている。ただし、周方向に隣り合う凹部は、カム面59の径方向に互いに異なる箇所で開口されている。
【0156】
図13の変更例では、上記実施形態よりも小さいドット状の凹部65Cが、カム面59の周方向に互いに離間した複数箇所に開口されている。周方向に隣り合う凹部65Cが、径方向に互いに異なる箇所で開口されている点は、上記図12の変更例と同様である。ただし、凹部65Cは、上記図12の変更例の凹部65Bよりも多くの箇所で開口されている。
【0157】
上記図12及び図13の変更例によると、上記周方向に加え、径方向に広い領域で、潤滑剤66が接触面72とカム面59との間に介在することになる。従って、摩擦係数及び摩擦力の増大を抑制して、摺動性を向上させる上記(2)の効果が、カム面59の周方向に加え、径方向に広い領域で得られる。
【0158】
図14の変更例では、上記実施形態よりも小さいドット状の凹部65Dが、カム面59の周方向に互いに離間した複数箇所で開口されている。これらの凹部65Dは、径方向における同じ箇所に配置されている。この変更例でも、上記実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0159】
ここで、カム面59における凹部65A,65B,65C,65Dの開口が大きくなるに従い、潤滑剤66による潤滑性向上効果が大きくなる反面、接触面72とカム面59との接触面積が小さくなり、面圧が高くなる。従って、これら潤滑性及び面圧の両面を考慮して、凹部65A,65B,65C,65Dの大きさや数を決定することが望ましい。
【0160】
なお、各凹部65A,65B,65C,65Dが、上記実施形態、図12図14の変更例のように円形の開口を有する場合、それらは、深さ方向におけるどの箇所でも開口部分と同じ形状(円形)をなしていてもよいし、円錐形状をなしていてもよい。
【0161】
・凹部の形状が、ドット状とは異なる形状に変更されてもよい。図15及び図16は、変更例の一例を示している。
図15及び図16の変更例では、凹部65E,65Fがカム面59において開口し、かつ周方向へ延びる溝により構成されている。いずれの変更例においても、凹部65E,65Fは、傾斜カム面61,62の組み合わせ毎に1つずつ形成されている。いずれの変更例においても、凹部65E,65Fは半円状の断面形状を有している。いずれの変更例の凹部65E,65Fも、境界部63を介して隣り合う両傾斜カム面61,62に跨がった状態で開口されている。
【0162】
カム面59における凹部65E,65Fの開口部分のうち、径方向における寸法を「溝幅」とすると、開口部分の溝幅は、図15の変更例における凹部65Eに比べ、図16の変更例における凹部65Fの方が狭く設定されている。
【0163】
上記図15及び図16の変更例によると、凹部65E,65Fに潤滑剤66が溜められると、接触部71及びカム部材55の摺動によりカム面59が摩耗した場合、凹部65E,65F内の潤滑剤66が、摩耗したカム面59に現われる。この潤滑剤66が接触面72とカム面59との間に介在することにより、上記摩擦係数及び摩擦力の増大が抑制され、摺動性が向上する。
【0164】
特に、図15及び図16の変更例によるように、溝からなる凹部65E,65Fが周方向に延びていると、カム面59の周方向に広い領域で、潤滑剤66が接触面72とカム面59との間に介在することになる。従って、摩擦係数及び摩擦力の増大を抑制して、摺動性を向上させる上記効果が、カム面59の周方向に広い領域で得られる。
【0165】
ここで、凹部65E,65Fの溝幅が広くなるに従い、潤滑剤66による潤滑性向上効果が大きくなる。反面、接触面72とカム面59との接触面積が小さくなり、面圧が高くなる。従って、これら潤滑性及び面圧の両面を考慮して、溝幅を設定することが望ましい。
【0166】
なお、上記のように溝によって凹部65E,65Fが構成される場合、断面形状が半円形とは異なる形状に変更されてもよい。例えば、幅幅が深さ方向に一定の断面形状であってもよい。また、傾斜カム面61,62の組み合わせ毎に、複数の凹部65E,65Fが形成されてもよい。
【0167】
・凹部が、ドット状をなすことを条件に、半球面状の内面を有する形状とは異なる形状に変更されてもよい。凹部がカム面59の周方向に互いに離間した複数箇所に形成される点は、上記実施形態と同様である。図17及び図18は、変更例の一例を示している。
【0168】
図17及び図18の変更例では、凹部65G,65Hのカム面59における開口形状がいずれも四角形をなしている。いずれの変更例における開口形状も正方形をなしている。各凹部65G,65Hは、深さ方向におけるどの箇所でも、開口部分と同じ形状をなしているが、角錐形状をなしていてもよい。いずれの変更例においても、一部の凹部65G,65Hが、境界部63上に位置し、隣り合う両傾斜カム面61,62に跨がった状態で開口されている。
【0169】
ただし、図18の変更例における凹部65Hの開口形状は、図17の変更例における凹部65Gの開口形状よりも小さな四角形に形成されている。また、図18の変更例における凹部65Hの深さは、図17の変更例における凹部65Gの深さよりも浅く設定されている。従って、図18の変更例における凹部65Hの容積は、図17の変更例における凹部65Gの容積よりも小さいため、溜めることのできる潤滑剤66の量が少ない。
【0170】
なお、上記図12図14の変更例と同様、カム面59における凹部65G,65Hの開口が大きくなるに従い、潤滑剤66による潤滑性向上効果が大きくなる反面、接触面72とカム面59との接触面積が小さくなり、面圧が高くなる。従って、これら潤滑性及び面圧の両面を考慮して、凹部65G,65Hの大きさや数を決定することが望ましい。また、凹部65G,65Hの開口形状が正方形とは異なる四角形に変更されてもよい。
【0171】
・凹部は、カム面59に代えて、接触面72に形成されてもよい。
図19はその一例を示している。この変更例では、凹部65Iとして、ドット状をなすものが、接触部71毎の一対の傾斜接触面73,74のそれぞれに形成されている。一対の傾斜接触面73,74の凹部65Iは、径方向に互いに異なる箇所に形成されている。
【0172】
各凹部65Iに潤滑剤66を溜めるタイミングはいつでもよい。例えば、プッシャ67がステアリングハンドル12に組み付けられる前の部品の段階で、凹部65Iに潤滑剤66が溜められてもよい。また、プッシャ67のステアリングハンドル12への組み付け時に、接触面72が、潤滑剤66の塗布されたカム面59に押し付けられることにより、同カム面59上の潤滑剤66の一部を凹部65Iに入り込ませてもよい。さらに、接触部71及びカム部材55の摺動時に、カム面59上の潤滑剤66が接触部71によって押されて凹部65Iに溜められてもよい。
【0173】
この変更例によると、カム部材55及びプッシャ67の相対回転に伴い、接触部71及びカム部材55が摺動し、凹部65Iの形成された傾斜接触面73,74が摩耗すると、凹部65I内の潤滑剤66が、摩耗した傾斜接触面73,74に現われる。この潤滑剤66が接触面72とカム面59との間に介在することにより、上記摩擦係数及び摩擦力の増大を抑制でき、摺動性を向上できる。
【0174】
特に、上記変更例では、一対の傾斜接触面73,74において、上記径方向に互いに異なる箇所に形成された凹部65Iに潤滑剤66が溜められる。そのため、上記径方向に広い領域で上記摺動性を向上させることができる。
【0175】
なお、凹部65Iの開口形状は、上記実施形態のように円形であってもよいし、図17及び図18の変更例のように四角形であってもよいし、それ以外の形状であってもよい。この場合、凹部65Iは、深さ方向におけるどの箇所でも開口部分と同じ形状をなしていてもよいし、錐形状をなしていてもよい。
【0176】
・図示はしないが、凹部は、カム面59及び接触面72の両方に形成されてもよい。また、カム面59及び接触面72のいずれからも、凹部が省略されてもよい。
<弾性部材に関する事項>
・ばね85として、圧縮コイルばねとは異なる種類のばねが用いられてもよい。
【0177】
・弾性部材として、プッシャ67及びカム部材55の一方を他方側へ付勢できるものであることを条件として、ばねとは異なる部材が用いられてもよい。
<回転制御機構45の部品配置について>
・各スポーク部30がボス部20に固定され、かつ同スポーク部30が把持部40に対し相対回転可能に構成されたステアリングハンドル12において、回転制御機構45の少なくとも一部の構成部材の第2軸線L2に沿う方向における配置状態が変更されてもよい。
【0178】
図20及び図21は変更例の一例を示している。なお、図20及び図21において、上記実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号が付されている。
図20の変更例では、プッシャ67及びカム部材55が、上記実施形態とは逆の位置関係となるように配置されている。
【0179】
プッシャ67は、回転部材46を介して把持部40に対し、一体回転可能に取り付けられている。従って、プッシャ67は、ボス部20、スポーク部30及び把持部40のうち、ハンドル支持部に近い側に隣接する部材(スポーク部30)に対し回転するもの(把持部40)に一体回転可能に取り付けられていることになる。
【0180】
カム部材55は、プッシャ67に対し第1軸線L1に近い側に隣接した状態で配置されている。カム部材55は、第2軸線L2の周りでの回転を規制された状態で、スポーク部30に対し第2軸線L2に沿う方向にスライド可能に取り付けられている。カム部材55におけるカム面59は、上記実施形態とは反対側の面、すなわち、第1軸線L1から遠い側の面に形成される。ばね85は、カム部材55をプッシャ67側へ付勢している。
【0181】
この変更例では、第2軸線L2を中心とする把持部40の回転に伴い、カム部材55及びプッシャ67が互いに接触した状態で第2軸線L2の周りを相対回転する点で、上記実施形態と共通する。そのため、この変更例でも上記実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0182】
図21の変更例では、回転制御機構45における多くの構成部材が、第2軸線L2に沿う方向に、上記実施形態とは逆の位置関係となるように配置されている。すなわち、第1軸線L1に近い側から遠い側に向けて順に、回転部材46、カム部材55、プッシャ67、保持部75及びばね85が配置されている。
【0183】
カム部材55は、回転部材46を介して把持部40に一体回転可能に取り付けられている。従って、カム部材55は、ボス部20、スポーク部30及び把持部40のうち、ハンドル支持部に近い側に隣接する部材(スポーク部30)に対し回転するもの(把持部40)に一体回転可能に取り付けられていることになる。カム部材55におけるカム面59は、上記実施形態とは反対側の面、すなわち、第1軸線L1から遠い側の面に形成される。プッシャ67は、第2軸線L2の周りでの回転を規制された状態で、スポーク部30に対し第2軸線L2に沿う方向にスライド可能に取り付けられている。ばね85は、プッシャ67をカム部材55側(第1軸線L1に近づく側)へ付勢している。
【0184】
この変更例では、第2軸線L2を中心とする把持部40の回転に伴い、カム部材55及びプッシャ67が互いに接触した状態で第2軸線L2の周りを相対回転する点で、上記実施形態と共通する。そのため、この変更例でも上記実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0185】
・回転制御機構45の構成部材のうち、保持部75、ばね受け部材78,84及びワッシャ81については、適宜省略可能である。
・上記実施形態において、ばね85の一部がプッシャ67の内部に配置されてもよい。
【0186】
<その他の事項>
・上記実施形態では、回転軸線(第1軸線L1)を中心としてステアリングシャフト11を回転させることで操舵を行なう場合について説明した。この場合、ステアリングシャフト11がハンドル支持部の少なくとも一部とされ、このステアリングシャフト11に対し、ステアリングハンドル12がボス部20において取り付けられる。
【0187】
上記ステアリングハンドル12は、ステアリングシャフト11(軸)を備えるステアバイワイヤシステムが適用された車両の操舵装置にも、ステアバイワイヤシステムが適用されていない車両の操舵装置にも適用可能である。
【0188】
また、ステアリングハンドル12は、ステアリングシャフト11を回転させずに操舵を行なう場合にも適用可能である。例えば、ステアリングハンドル12は、ステアバイワイヤシステムが適用された車両の操舵装置において、第2軸線L2を中心として把持部40を回転させることのみによって操舵を行なう場合にも適用可能である。操舵は、把持部40の回転が電気信号に変換され、この電気信号によってアクチュエータが作動させられることで行なわれる。この場合、ステアリングハンドル12は、車両に設けられたハンドル支持部に対し、ボス部20において取り付けられることとなる。ハンドル支持部は、単にステアリングハンドル12を支える部分として機能する。なお、ハンドル支持部は、回転されなくてもよいし、回転されてもよい。また、ステアリングハンドル12は、スポーク部30、把持部40及び回転制御機構45の組み合わせを、1つ又は3つ以上備えてもよい。
【0189】
・ステアリングハンドル12では、図示はしないが、上記特許文献1と同様に、スポーク部30が把持部40に固定され、かつ同スポーク部30がボス部20に対し相対回転可能に構成されてもよい。
【0190】
この場合、カム部材55及びプッシャ67の一方は、ボス部20、スポーク部30及び把持部40のうち、ハンドル支持部に近い側に隣接する部材(ボス部20)に対し回転するもの(スポーク部30)に一体回転可能に取り付けられる。他方は、第2軸線L2の周りでの回転を規制された状態で、スポーク部30に対し第2軸線L2に沿う方向にスライド可能に取り付けられる。
【0191】
・回転制御機構45は、中立位置に位置する把持部40の手前方向の最大回転角度θ2を規定するために、第2軸線L2の周りでのカム部材55の回転を直接規制する代わりに、プッシャ67のスライドを規制してもよい。
【0192】
・回転制御機構45は、中立位置に位置する把持部40の奥方向の最大回転角度θ1を規定するために、プッシャ67のスライドを規制する代わりに、第2軸線L2の周りでのカム部材55の回転を直接規制してもよい。
【0193】
・ステアリングハンドル12は、車両以外の乗物、例えば、航空機、船舶等における操舵装置のステアリングハンドルに適用されてもよい。
【符号の説明】
【0194】
11…ステアリングシャフト(ハンドル支持部)
12…ステアリングハンドル
20…ボス部
30…スポーク部
32…第1軸部(軸部)
33…回転規制部
34…外平面部
35…第2軸部(軸部)
40…把持部
45…回転制御機構
55…カム部材
56,68…挿通孔
59…カム面
61,62…傾斜カム面
65A,65B,65C,65D,65E,65F,65G,65H,65I…凹部
66…潤滑剤
67…プッシャ
69…内平面部
71…接触部
72…接触面
73,74…傾斜接触面
85…ばね(弾性部材)
L1…第1軸線(回転軸線)
L2…第2軸線(軸線)
P1…仮想面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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