(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124084
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】管状定着部材、定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032012
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江袋 信悟
(72)【発明者】
【氏名】衣田 康彦
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA15
2H033BA11
2H033BA12
2H033BB03
2H033BB04
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB18
2H033BB21
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB33
2H033BE00
(57)【要約】
【課題】表層にしわが発生しにくい管状定着部材の提供。
【解決手段】管状定着部材は、基材と弾性層と中間層と表層とをこの順に積層して有し、弾性層の貯蔵弾性率をE1とし、中間層の貯蔵弾性率をE2としたとき、E1<E2である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と弾性層と中間層と表層とをこの順に積層した管状定着部材であって、
前記弾性層の貯蔵弾性率をE1とし、前記中間層の貯蔵弾性率をE2としたとき、E1<E2である、
管状定着部材。
【請求項2】
前記表層の平均厚が10μm以上20μm以下である、請求項1に記載の管状定着部材。
【請求項3】
前記E2が0.6MPa以上10.0MPa以下である、請求項1に記載の管状定着部材。
【請求項4】
前記弾性層の厚さ方向の熱伝導率をλ1zとし、前記中間層の厚さ方向の熱伝導率をλ2zとしたとき、λ1z<λ2zである、請求項1に記載の管状定着部材。
【請求項5】
前記λ1zが0.8W/m・K以上1.4W/m・K以下である、請求項4に記載の管状定着部材。
【請求項6】
前記λ2zが1.0W/m・K以上1.8W/m・K以下である、請求項4に記載の管状定着部材。
【請求項7】
前記中間層の軸方向、周方向及び厚さ方向の熱伝導率をそれぞれλ2x、λ2y及びλ2zとしたとき、λ2x>λ2z且つλ2y>λ2zである、
請求項1に記載の管状定着部材。
【請求項8】
前記中間層の平均厚が5μm以上200μm以下であり、且つ
前記弾性層の平均厚が前記中間層の平均厚よりも厚い、
請求項1に記載の管状定着部材。
【請求項9】
第1回転体と、前記第1回転体の外面に接触して配置される第2回転体と、を備え、
前記第1回転体及び前記第2回転体の少なくとも一方が、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の管状定着部材であり、
トナー像が表面に形成された記録媒体を前記第1回転体と前記第2回転体との接触部に通して前記トナー像を定着する、
定着装置。
【請求項10】
像保持体と、
前記像保持体の表面を帯電する帯電装置と、
帯電した前記像保持体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成装置と、
トナーを含む現像剤により、前記像保持体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像装置と、
前記トナー像を記録媒体の表面に転写する転写装置と、
前記トナー像を前記記録媒体に定着する、請求項9に記載の定着装置と、を備える、
画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、管状定着部材、定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基材と、平均長さ100μm以上のカーボンナノチューブとカーボンナノチューブ以外の他の充填剤とを総量で50体積%以下含有し且つ熱伝導率が1.6W/m・K以上の弾性層と、表面層とを有する定着部材が開示されている。
【0003】
特許文献2には、基体とシリコーンゴム及びフィラーを含む弾性層とを有し、弾性層の厚み方向の熱伝導率をλnd、周方向の熱伝導率をλtd、幅方向の熱伝導率をλmdとしたとき、λndが1.30W/m・K以上であり、λnd>λmd>λtdである定着部材が開示されている。
【0004】
特許文献3には、基体と離型層とを有し、離型層側の表面から深さ50μmまでの表層領域における熱抵抗が10cm2・sec・℃/cal(2.4cm2・℃/W)以下である定着用回転体が開示されている。
【0005】
特許文献4には、芯材上に複数の弾性層を有し、少なくとも一つの弾性層L1が、表面粗さRzが10μm以上の弾性層L2上に積層されている定着部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-036752号公報
【特許文献2】特開2019-211701号公報
【特許文献3】特開2005-010607号公報
【特許文献4】特開平10-213991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、表層にしわが発生しにくい管状定着部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段には、下記の態様が含まれる。
<1>
基材と弾性層と中間層と表層とをこの順に積層した管状定着部材であって、
前記弾性層の貯蔵弾性率をE1とし、前記中間層の貯蔵弾性率をE2としたとき、E1<E2である、
管状定着部材。
<2>
前記表層の平均厚が10μm以上20μm以下である、<1>に記載の管状定着部材。
<3>
前記E2が0.6MPa以上10.0MPa以下である、<1>又は<2>に記載の管状定着部材。
<4>
前記弾性層の厚さ方向の熱伝導率をλ1zとし、前記中間層の厚さ方向の熱伝導率をλ2zとしたとき、λ1z<λ2zである、<1>~<3>のいずれか1つに記載の管状定着部材。
<5>
前記λ1zが0.8W/m・K以上1.4W/m・K以下である、<4>に記載の管状定着部材。
<6>
前記λ2zが1.0W/m・K以上1.8W/m・K以下である、<4>又は<5>に記載の管状定着部材。
<7>
前記中間層の軸方向、周方向及び厚さ方向の熱伝導率をそれぞれλ2x、λ2y及びλ2zとしたとき、λ2x>λ2z且つλ2y>λ2zである、
<1>~<6>のいずれか1つに記載の管状定着部材。
<8>
前記中間層の平均厚が5μm以上200μm以下であり、且つ
前記弾性層の平均厚が前記中間層の平均厚よりも厚い、
<1>~<7>のいずれか1つに記載の管状定着部材。
<9>
第1回転体と、前記第1回転体の外面に接触して配置される第2回転体と、を備え、
前記第1回転体及び前記第2回転体の少なくとも一方が、<1>~<8>のいずれか1つに記載の管状定着部材であり、
トナー像が表面に形成された記録媒体を前記第1回転体と前記第2回転体との接触部に通して前記トナー像を定着する、
定着装置。
<10>
像保持体と、
前記像保持体の表面を帯電する帯電装置と、
帯電した前記像保持体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成装置と、
トナーを含む現像剤により、前記像保持体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像装置と、
前記トナー像を記録媒体の表面に転写する転写装置と、
前記トナー像を前記記録媒体に定着する、<9>に記載の定着装置と、を備える、
画像形成装置。
【発明の効果】
【0009】
<1>によれば、E1≧E2である場合に比べて、表層にしわが発生しにくい管状定着部材が提供される。
<2>によれば、表層の平均厚が20μm超である場合に比べて、画像の定着性に優れる管状定着部材が提供される。
<3>によれば、E2が0.6MPa未満である場合に比べて、表層にしわが発生しにくい管状定着部材が提供される。
<4>によれば、λ1z≧λ2zである場合に比べて、画像の定着性に優れる管状定着部材が提供される。
<5>によれば、λ1zが0.8W/m・K未満である場合に比べて、画像の定着性に優れる管状定着部材が提供される。
<6>によれば、λ2zが1.0W/m・K未満である場合に比べて、画像の定着性に優れる管状定着部材が提供される。
<7>によれば、λ2x≦λ2z且つλ2y≦λ2zである場合に比べて、定着画像の画質に優れる管状定着部材が提供される。
<8>によれば、中間層の平均厚が5μm未満である場合に比べて、表層にしわが発生しにくい管状定着部材が提供される。
<9>によれば、管状定着部材においてE1≧E2である場合に比べて、表層にしわが発生しにくい管状定着部材を備える定着装置が提供される。
<10>によれば、管状定着部材においてE1≧E2である場合に比べて、表層にしわが発生しにくい管状定着部材を備える画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の管状定着部材の一例を示す模式断面図である。
【
図2】本開示の定着装置の第1実施形態の一例を示す概略構成図である。
【
図3】本開示の定着装置の第2実施形態の一例を示す概略構成図である。
【
図4】本開示の画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示の実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0012】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0013】
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0014】
本開示において実施形態を、図面を参照して説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
【0015】
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
【0016】
本開示において、管状定着部材の「軸方向」とは、管状定着部材の回転軸が延びる方向を意味し、管状定着部材の「周方向」とは、管状定着部材の回転方向を意味する。
【0017】
<管状定着部材>
本開示の管状定着部材は、基材と弾性層と中間層と表層とをこの順に積層した管状定着部材である。
【0018】
図1は、本開示の管状定着部材の層構成の一例を示す概略断面図である。
図1に示す管状定着部材110は、基材110Aと、基材110A上に設けられた弾性層110Bと、弾性層110B上に設けられた中間層110Cと、中間層110C上に設けられた表層110Dとを有する。基材110Aと弾性層110Bとの間、弾性層110Bと中間層110Cとの間、又は中間層110Cと表層110Dとの間には、接着剤層が有ってもよい。
【0019】
本開示の管状定着部材は、弾性層の貯蔵弾性率(MPa)をE1とし、中間層の貯蔵弾性率(MPa)をE2としたとき、E1<E2である。貯蔵弾性率は振動エネルギーに対する硬さを表す指標である。E1<E2であることは、弾性層よりも中間層のほうが振動エネルギーに対して硬いことを意味する。
【0020】
本開示の管状定着部材は、E1<E2であることによって表層にしわが発生することを抑制する。その機序は以下のとおり推測される。
【0021】
画像形成を行うたびに管状定着部材には応力とひずみが生じ、画像形成の繰り返しによって管状定着部材の表層に歪みが蓄積していく。その結果、管状定着部材の表層にしわが発生し、定着画像の画像欠陥に繋がる。管状定着部材の表層は、画像の定着性の観点からは速やかな熱伝導を実現するために薄いことが望ましいが、薄いほどしわの発生が顕著である。
これに対して、管状定着部材の弾性層と表層との間に弾性層よりも硬い中間層が存在すると、表層に歪みが蓄積することが抑制され、その結果、表層にしわが発生することが抑制される。
【0022】
E1とE2との比E2/E1は、表層にしわが発生することをより抑制する観点から、1.2以上5.0以下であることが好ましく、1.4以上3.0以下であることがより好ましく、1.6以上2.5以下であることが更に好ましい。
【0023】
本開示における管状定着部材の弾性層及び中間層の貯蔵弾性率(MPa)の測定方法は以下のとおりである。
弾性層及び中間層をそれぞれ、軸方向20mm且つ周方向4mmの長方形に切り出し、これを測定用試料とする。動的粘弾性測定装置に試料を置き、温度30℃、周波数10Hz、荷重10gf、振幅10μmの条件で動的粘弾性測定を行い、貯蔵弾性率(MPa)を求める。
【0024】
E1<E2であることは、例えば、弾性層の弾性材料の種類と、中間層に含ませるフィラーの種類及び量とによって制御することができる。
【0025】
以下に、本開示の管状定着部材を構成する各層を詳細に説明する。
【0026】
[基材]
基材の形状及び大きさは、管状定着部材の形状及び大きさに応じて選択すればよい。基材の形状としては、例えば、円筒状、ベルト状が挙げられる。
【0027】
基材の材質としては、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂等の樹脂;アルミニウム、銅、ステンレス鋼(SUS)、鉄、ニッケル等の金属;などが挙げられる。基材は、屈曲耐久性の観点からは、樹脂製であることが好ましい。
【0028】
樹脂製の基材内には、補強剤(カーボンブラック等)、充填剤(炭酸カルシウム等)、帯電防止剤、剥離剤等の添加剤が含有されていてもよい。
【0029】
基材の平均厚は、耐久性と熱伝導性との観点から、30μm以上200μm以下が好ましく、40μm以上150μm以下がより好ましく、50μm以上100μm以下が更に好ましい。
【0030】
[弾性層]
弾性層の弾性材料として例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム等が挙げられる。弾性層の弾性材料として、シリコーンゴムが好ましい。
【0031】
シリコーンゴムとして、例えば、RTVシリコーンゴム、HTVシリコーンゴム、液状シリコーンゴム等が挙げられる。より具体的には例えば、ポリジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)等が挙げられる。
【0032】
弾性層の弾性材料に占めるシリコーンゴムの割合は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましく、100質量%であってもよい。
【0033】
弾性層は、例えば、補強剤(カーボンブラック等)、充填剤(炭酸カルシウム等)、軟化剤、加工助剤、老化防止剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0034】
弾性層の貯蔵弾性率E1は、表層にしわが発生しにくい観点から、0.1MPa以上5.0MPa以下が好ましく、0.2MPa以上3.0MPa以下がより好ましく、0.3MPa以上1.0MPa以下が更に好ましい。
【0035】
弾性層の厚さ方向の熱伝導率λ1zは、画像の定着性に優れる観点から、0.6W/m・K以上1.4W/m・K以下が好ましく、0.8W/m・K以上1.4W/m・K以下がより好ましく、0.8W/m・K以上1.2W/m・K以下が更に好ましい。
【0036】
弾性層の熱伝導率の求め方は以下のとおりである。
弾性層を軸方向2mm且つ周方向2mmの正方形に切り出し、これを測定用試料とする。熱拡散率測定装置に試料を置き、室温(25℃±3℃)で熱拡散率を測定し、熱拡散率に密度と比熱を掛けることで熱伝導率(W/m・K)を算出する。軸方向、周方向、厚さ方向それぞれの熱伝導率は、熱拡散率測定装置の一対の測定端子に試料を挟む際の試料の向きによって測定し分ける。
【0037】
弾性層の平均厚は、画像の定着性に優れる観点から、300μm以下が好ましく、280μm以下がより好ましく、250μm以下が更に好ましい。
弾性層の平均厚は、管状定着部材の耐久性の観点から、100μm以上が好ましく、150μm以上がより好ましく、180μm以上が更に好ましい。
【0038】
弾性層の平均厚は中間層の平均厚よりも厚いことが好ましい。弾性層の平均厚T1と中間層の平均厚T2との比T1/T2は、画像の定着性と管状定着部材の耐久性の観点とから、1.5以上80以下であることが好ましく、1.8以上60以下であることがより好ましく、2.0以上50以下であることが更に好ましい。
【0039】
弾性層の平均厚は、管状定着部材の軸方向に均等に10か所および周方向に90°刻みの合計40か所において、渦電流膜厚計で層厚を測定し、算術平均した値である。
【0040】
[中間層]
中間層は、金属層であってもよいし、樹脂及び熱伝導性フィラーを含む層であってもよい。中間層は、屈曲耐久性の観点からは、樹脂及び熱伝導性フィラーを含む樹脂層であることが好ましい。
【0041】
中間層が金属層である場合、材料として例えば、アルミニウム、銅、SUS、鉄、錫、亜鉛、ニッケル等の金属、これら金極の合金が挙げられる。
【0042】
中間層が樹脂及び熱伝導性フィラーを含む樹脂層である場合、樹脂は耐熱性を有することが好ましく、耐熱性樹脂として例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、サーモトロピック液晶ポリマー、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム等が挙げられる。中間層の樹脂材料として、シリコーンゴムが好ましい。
【0043】
シリコーンゴムとして、例えば、RTVシリコーンゴム、HTVシリコーンゴム、液状シリコーンゴム等が挙げられる。より具体的には例えば、ポリジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)等が挙げられる。
【0044】
中間層が樹脂及び熱伝導性フィラーを含む樹脂層である場合、熱伝導性フィラーとして例えば、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素材料;酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛等の金属酸化物粒子;ヒュームドシリカ、沈降シリカ、珪藻土、粉砕石英、窒化ホウ素;などが挙げられる。
【0045】
熱伝導性フィラーの形状に制限はなく、球状、立方体状、板状、柱状、針状、棒状、フレーク状などのいずれでもよい。中間層の熱伝導率に異方性を付与する観点からは、板状、柱状、針状、棒状、フレーク状など形状に異方性を有する熱伝導性フィラーが好ましい。
【0046】
中間層が樹脂及び熱伝導性フィラーを含む樹脂層である場合、熱伝導性フィラーの含有量は、中間層の全質量に対して、2質量%以上20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
中間層が樹脂及び熱伝導性フィラーを含む樹脂層である場合、中間層には各種の添加剤が含有されていてもよい。添加剤としては、例えば、軟化剤(パラフィン等)、加工助剤(ステアリン酸等)、老化防止剤(アミン等)、架橋剤等が挙げられる。
【0048】
中間層の貯蔵弾性率E2は、表層にしわが発生しにくい観点から、0.4MPa以上10.0MPa以下が好ましく、0.6MPa以上10.0MPa以下がより好ましく、0.6MPa以上1.0MPa以下が更に好ましい。
【0049】
中間層の軸方向、周方向及び厚さ方向の熱伝導率をそれぞれλ2x、λ2y及びλ2zとしたとき、λ2x>λ2z且つλ2y>λ2zであることが好ましい。すなわち、中間層は、厚さ方向よりも面方向に熱伝導しやすいことが好ましい。
上記の関係を満足することによって、弾性層から中間層への熱伝導にムラがあっても、中間層において面方向の温度の均一化が促され、表層の温度ムラが抑制される。その結果、トナーの定着ムラが抑制される。
【0050】
λ2x>λ2z且つλ2y>λ2zであること、すなわち、中間層において厚さ方向よりも面方向に熱伝導しやすい性質は、例えば、形状に異方性を有する熱伝導性フィラーを中間層の面方向に並べることで実現可能である。
【0051】
λ2xは、1.0W/m・K以上2.5W/m・K以下が好ましく、1.2W/m・K以上2.0W/m・K以下がより好ましく、1.3W/m・K以上1.8W/m・K以下が更に好ましい。
【0052】
λ2yは、1.0W/m・K以上2.5W/m・K以下が好ましく、1.2W/m・K以上2.0W/m・K以下がより好ましく、1.3W/m・K以上1.8W/m・K以下が更に好ましい。
【0053】
λ2zは、0.8W/m・K以上2.0W/m・K以下が好ましく、1.0W/m・K以上1.8W/m・K以下がより好ましく、1.1W/m・K以上1.5W/m・K以下が更に好ましい。
【0054】
中間層の熱伝導率の求め方は以下のとおりである。
中間層を軸方向2mm且つ周方向2mmの正方形に切り出し、これを測定用試料とする。熱拡散率測定装置に試料を置き、室温(25℃±3℃)で熱拡散率を測定し、熱拡散率に密度と比熱を掛けることで熱伝導率(W/m・K)を算出する。軸方向、周方向、厚さ方向それぞれの熱伝導率は、熱拡散率測定装置の一対の測定端子に試料を挟む際の試料の向きによって測定し分ける。
【0055】
弾性層の厚さ方向の熱伝導率をλ1zとし、中間層の厚さ方向の熱伝導率をλ2zとしたとき、画像の定着性に優れる観点から、λ1z<λ2zであることが好ましい。
【0056】
λ1zとλ2zとの比λ2z/λ1zは、画像の定着性により優れる観点から、1.1以上2.2以下であることが好ましく、1.2以上2.0以下であることがより好ましく、1.3以上1.8以下であることが更に好ましい。
【0057】
中間層の平均厚は、画像の定着性に優れる観点から、200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、120μm以下が更に好ましい。
中間層の平均厚は、表層にしわが発生しにくい観点から、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、50μm以上が更に好ましい。
【0058】
中間層の平均厚は、管状定着部材の軸方向に均等に10か所および周方向に90°刻みの合計40か所において、渦電流膜厚計で層厚を測定し、算術平均した値である。
【0059】
[表層]
表層は、耐熱性を有する離型材料を含有することが望ましい。耐熱性を有する離型材料としては、例えば、フッ素樹脂が挙げられる。フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリエチレン・テトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロ三フッ化エチレン(PCTFE)、フッ化ビニル(PVF)等が挙げられる。
【0060】
表層には、各種の添加剤が含有されていてもよい。添加剤としては、例えば、充填剤(炭酸カルシウム等)、機能性充填剤(アルミナ等)、軟化剤(パラフィン等)、加工助剤(ステアリン酸等)、老化防止剤(アミン等)、架橋剤等が挙げられる。
【0061】
表層の平均厚は、画像の定着性に優れる観点から、30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下が更に好ましい。
表層の平均厚は、表層にしわが発生しにくい観点から、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、18μm以上が更に好ましい。
【0062】
表層の平均厚は、管状定着部材の軸方向に均等に10か所および周方向に90°刻みの合計40か所において、渦電流膜厚計で層厚を測定し、算術平均した値である。
【0063】
本開示の管状定着部材の実施形態の一例として、樹脂を含有する基材と、シリコーンゴムを含有する弾性層と、耐熱性樹脂及び熱伝導性フィラーを含有する中間層と、フッ素樹脂を含有する表層とをこの順に積層した形態が挙げられる。本形態において中間層に含まれる耐熱性樹脂としては、シリコーンゴムが好ましい。
【0064】
[管状定着部材の製造方法]
本開示の管状定着部材の製造方法としては、例えば、下記の(1)及び(2)が挙げられる。
【0065】
(1)基材の外周面に弾性層形成用液状組成物を塗布し乾燥させて弾性層を形成し、次いで、弾性層の外周面に中間層形成用液状組成物を塗布し乾燥させて中間層を形成し、次いで、中間層の外周面に表層形成用液状組成物を塗布し乾燥させて表層を形成する。
【0066】
(2)上記(1)と同様にして中間層まで形成し、次いで、予め作製した表層となる管状部材を中間層の外周面に被覆して表層を形成する。中間層の外周面に接着剤層を形成し、管状部材を被覆させてもよい。
【0067】
表層となる管状部材としては、フッ素樹脂チューブが好適である。フッ素樹脂チューブの内面には、中間層との密着性を向上させる目的で、液体アンモニア処理、プラズマ放電処理、エキシマレーザー処理などの化学的又は物理的エッチング処理を施してもよい。
【0068】
本開示の管状定着部材は、定着ベルトであってもよいし、定着ロールであってもよい。
本開示の管状定着部材が定着ベルトであれば、加熱ベルト、加圧ベルトのいずれにも適用しうる。本開示の管状定着部材が定着ロールであれば、加熱ロール、加圧ロールのいずれにも適用しうる。
【0069】
<定着装置>
本開示の定着装置は、第1回転体と、第1回転体の外面に接触して配置される第2回転体とを備え、トナー像が表面に形成された記録媒体を第1回転体と第2回転体との接触部に通してトナー像を記録媒体に定着する。第1回転体及び第2回転体の少なくとも一方が本開示の管状定着部材である。
【0070】
本開示の定着装置の実施形態例として、第1実施形態及び第2実施形態を挙げる。
第1実施形態に係る定着装置は、加熱ロールと加圧ベルトとを備え、加熱ロール及び加圧ベルトの少なくとも一方が本開示の管状定着部材である。
第2実施形態に係る定着装置は、加熱ベルトと加熱ロールとを備え、加熱ベルト及び加圧ロールの少なくとも一方が本開示の管状定着部材である。
【0071】
[第1実施形態]
図2は、第1実施形態に係る定着装置60を示す概略図である。
定着装置60は、加熱ロール61(第1回転体の一例)と、加圧ベルト62(第2回転体の一例)とを備える。
【0072】
加熱ロール61の内部には、ハロゲンランプ66(加熱手段の一例)が配置されている。加熱ロール61の表面には、感温素子69が接触して配置されている。感温素子69による温度計測値に基づいて、ハロゲンランプ66の点灯が制御され、加熱ロール61の表面温度が目的とする設定温度(例えば150℃)に維持される。
【0073】
加圧ベルト62は、内部に配置された押圧パッド64とベルト走行ガイド63とによって回転自在に支持されている。
【0074】
押圧パッド64は、加圧ベルト62を加熱ロール61に押圧している。加圧ベルト62が押圧パッド64により加熱ロール61に対して押圧され、挟込領域N(ニップ部)が形成されている。
【0075】
押圧パッド64は、挟込部材64aと挟込部材64bとを備える。挟込部材64aは、幅の広い挟込領域Nを確保するために、挟込領域Nの入口側に配置されている。挟込部材64bは、加熱ロール61に歪みを与え記録媒体の剥離を容易にするために、挟込領域Nの出口側に配置されている。
【0076】
押圧パッド64と加圧ベルト62との間には、加圧ベルト62の内周面と押圧パッド64との摺動抵抗を小さくするために、シート状の摺動部材68が配置されている。押圧パッド64と摺動部材68とは、金属製の保持部材65に保持されている。保持部材65にベルト走行ガイド63が取り付けられている。ベルト走行ガイド63には、加圧ベルト62の内周面に潤滑剤(オイル)を供給する手段である潤滑剤供給装置67が取り付けられている。
【0077】
剥離部材70は、記録媒体を定着装置60から剥離する補助手段であり、挟込領域Nの下流側に配置されている。剥離部材70は、剥離爪71と保持部材72とを備える。剥離爪71は、加熱ロール61と近接する位置に保持部材72によって保持されている。
【0078】
加熱ロール61は、駆動モータ(不図示)によって回転駆動する。加熱ロール61は駆動モータにより矢印S方向に回転し、この回転に従動して加圧ベルト62は矢印R方向に回転する。未定着のトナー像を有する紙K(記録媒体の一例)は、ガイド56に導かれて挟込領域Nに搬送され、挟込領域Nを通過する際に、紙K上のトナー像が圧力と熱とによって定着する。
【0079】
[第2実施形態]
図3は、第2実施形態に係る定着装置定着装置80を示す概略図である。
定着装置80は、加熱ベルト84(第1回転体の一例)を備える定着ベルトモジュール86と、加熱ベルト84(定着ベルトモジュール86)に押圧して配置された加圧ロール88(第2回転体の一例)とを備える。
【0080】
加熱ベルト84(定着ベルトモジュール86)と加圧ロール88との接触部には挟込領域N(ニップ部)が形成されている。
【0081】
定着ベルトモジュール86は、加熱ベルト84と、加熱押圧ロール89と、支持ロール90と、支持ロール92と、姿勢矯正ロール94と、支持ロール98とを備える。加熱ベルト84は、加熱押圧ロール89と支持ロール90とに巻き掛けられている。加熱押圧ロール89は、駆動モータ(不図示)によって回転駆動すると共に、加熱ベルト84をその内周面から加圧ロール88側へ押し付ける。支持ロール92は、加熱ベルト84の外側に配置されており、加熱ベルト84の周回経路を規定する。姿勢矯正ロール94は、支持ロール90から加熱押圧ロール89までの加熱ベルト84の姿勢を矯正し、加熱ベルト84の蛇行を抑制する。支持ロール98は、挟込領域Nの下流側において加熱ベルト84に内周面から張力を付与する。
【0082】
加熱ベルト84と加熱押圧ロール89との間には、加熱ベルト84の内周面と加熱押圧ロール89との摺動抵抗を小さくするために、シート状の摺動部材82が配置されている。摺動部材82は、その両端が支持部材96により支持された状態で配置されている。
【0083】
加熱押圧ロール89の内部には、ハロゲンヒータ89A(加熱手段の一例)が配置されており、加熱ベルト84を内周面側から加熱する。
支持ロール90の内部には、ハロゲンヒータ90A(加熱手段の一例)が配置されており、加熱ベルト84を内周面側から加熱する。
支持ロール92の内部には、ハロゲンヒータ92A(加熱手段の一例)が配置されており、加熱ベルト84を外周面側から加熱する。
【0084】
加圧ロール88は、回転自在に支持されると共に、付勢手段(不図示)によって加熱ベルト84が加熱押圧ロール89に巻き回された部位に押圧されて設けられている。加熱押圧ロール89の回転駆動によって加熱ベルト84が矢印S方向へ回転移動し、この回転移動に従動して加圧ロール88が矢印R方向に回転移動する。
【0085】
未定着のトナー像を有する紙K(記録媒体の一例)は、矢印P方向に搬送され、定着装置80の挟込領域Nに導かれる。紙Kが挟込領域Nを通過する際に、紙K上のトナー像が圧力と熱とによって定着する。
【0086】
<画像形成装置>
本開示の画像形成装置は、像保持体と、像保持体の表面を帯電する帯電装置と、帯電した像保持体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成装置と、トナーを含む現像剤により、像保持体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像装置と、トナー像を記録媒体の表面に転写する転写装置と、トナー像を記録媒体に定着する、本開示の定着装置と、を備える。定着装置は、画像形成装置に着脱可能なカートリッジでもよい。
【0087】
図4は、本実施形態に係る画像形成装置100の構成を示す概略図である。画像形成装置100は、先述の第1実施形態に係る定着装置60を備える。画像形成装置100は、定着装置60に替えて、先述の第2実施形態に係る定着装置80を備えてもよい。
【0088】
画像形成装置100は、一般にタンデム型と呼ばれる中間転写方式の画像形成装置である。画像形成装置100は、電子写真方式により各色のトナー像が形成される画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kと、各色のトナー像を中間転写ベルト15に順次転写(一次転写)する一次転写部10と、中間転写ベルト15上に転写された重畳トナー像を記録媒体である紙Kに一括転写(二次転写)する二次転写部20と、二次転写された画像を紙K上に定着させる定着装置60と、各装置(各部)の動作を制御する制御部40と、を備える。
【0089】
画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kは、中間転写ベルト15の上流側から、1Y(イエロー用ユニット)、1M(マゼンタ用ユニット)、1C(シアン用ユニット)、1K(ブラック用ユニット)の順に、略直線状に配置されている。
画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kはそれぞれ、感光体11(像保持体の一例)を備える。感光体11は、矢印Aの方向に回転する。
【0090】
感光体11の周囲には、帯電器12(帯電装置の一例)と、レーザー露光器13(静電潜像形成装置の一例)と、現像器14(現像装置の一例)と、一次転写ロール16と、感光体クリーナ17とが、感光体11の回転方向に沿って順次配設されている。
【0091】
帯電器12は、感光体11の表面を帯電させる。
レーザー露光器13は、露光ビームBmを発して、感光体11上に静電潜像を形成する。
現像器14は、各色のトナーを収容しており、感光体11上の静電潜像をトナーにより可視像化する。
一次転写ロール16は、感光体11上に形成されたトナー像を、一次転写部10において、中間転写ベルト15に転写する。
感光体クリーナ17は、感光体11上の残留トナーを除去する。
【0092】
中間転写ベルト15は、ポリイミド又はポリアミド等の樹脂にカーボンブラック等の帯電防止剤を添加した材料からなるベルトである。中間転写ベルト15は、体積抵抗率が例えば1×106Ω・cm以上1×1014Ω・cm以下であり、厚さが例えば0.1mmである。
【0093】
中間転写ベルト15は、駆動ロール31、支持ロール32、張力付与ロール33、背面ロール25、及びクリーニング背面ロール34によって支持され、駆動ロール31の回転に従って矢印Bの方向に循環駆動(回転)される。
駆動ロール31は、定速性に優れたモータ(不図示)により駆動されて中間転写ベルト15を回転させる。
支持ロール32は、4個の感光体11の配列方向に沿って略直線状に延びる中間転写ベルト15を、駆動ロール31と共に支持する。
張力付与ロール33は、中間転写ベルト15に一定の張力を与えると共に、中間転写ベルト15の蛇行を抑制する補正ロールとして機能する。
背面ロール25は、二次転写部20に設けられ、クリーニング背面ロール34は、中間転写ベルト15上の残留トナーを掻き取るクリーニング部に設けられる。
【0094】
一次転写ロール16は、中間転写ベルト15を挟んで感光体11に圧接配置されて、一次転写部10を形成する。
一次転写ロール16には、トナーの帯電極性(マイナス極性とする。以下同じ。)と逆極性の電圧(一次転写バイアス)が印加される。これにより、各感光体11上のトナー像が中間転写ベルト15に順次、静電吸引され、中間転写ベルト15上に重畳されたトナー像が形成される。
一次転写ロール16は、シャフト(例えば鉄、SUS等の金属の円柱棒)と、シャフトの周囲に固着した弾性層(例えば、カーボンブラック等の導電剤を配合したブレンドゴムのスポンジ層)とで構成された円筒ロールである。一次転写ロール16は、体積抵抗率が例えば1×107.5Ω・cm以上1×108.5Ω・cm以下である。
【0095】
二次転写ロール22は、中間転写ベルト15を挟んで背面ロール25に圧接配置されて、二次転写部20を形成する。
二次転写ロール22は、背面ロール25との間に二次転写バイアスを形成し、二次転写部20に搬送される紙K(記録媒体)上にトナー像を二次転写する。
二次転写ロール22は、シャフト(例えば鉄、SUS等の金属の円柱棒)と、シャフトの周囲に固着した弾性層(例えば、カーボンブラック等の導電剤を配合したブレンドゴムのスポンジ層)とで構成された円筒ロールである。二次転写ロール22は、体積抵抗率が例えば1×107.5Ω・cm以上1×108.5Ω・cm以下である。
【0096】
背面ロール25は、中間転写ベルト15の裏面側に配置されて二次転写ロール22の対向電極を構成し、二次転写ロール22との間に転写電界を形成する。
背面ロール25は、例えば、ゴム基材をカーボンを分散したブレンドゴムのチューブで被覆して構成される。背面ロール25は、表面抵抗率が例えば1×107Ω/□以上1×1010Ω/□以下であり、硬度が例えば70°(アスカーC:高分子計器社製、以下同じ。)である。
背面ロール25には、金属製の給電ロール26が接触配置されている。給電ロール26は、トナーの帯電極性(マイナス極性)と同極性の電圧(二次転写バイアス)を印加し、二次転写ロール22と背面ロール25との間に転写電界を形成させる。
【0097】
中間転写ベルト15の二次転写部20の下流側には、中間転写ベルトクリーナ35が、中間転写ベルト15に対し接離自在に設けられている。中間転写ベルトクリーナ35は、二次転写後の中間転写ベルト15上の残留トナーや紙粉を除去する。
【0098】
画像形成ユニット1Yの上流側には、基準センサ(ホームポジションセンサ)42が配設されている。基準センサ42は、各画像形成ユニットにおける画像形成タイミングをとるための基準となる基準信号を発生する。基準センサ42は、中間転写ベルト15の裏側に設けられたマークを認識して基準信号を発生し、この基準信号を認識した制御部40からの指示により、画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kは画像形成を開始する。
画像形成ユニット1Kの下流側には、画質調整を行うための画像濃度センサ43が配設されている。
【0099】
画像形成装置100は、紙Kを搬送する搬送手段として、用紙収容部50と、給紙ロール51と、搬送ロール52と、搬送ガイド53と、搬送ベルト55と、定着入口ガイド56とを備える。
用紙収容部50は、画像形成前の紙Kを収容する。
給紙ロール51は、用紙収容部50に収容されていた紙Kを取り出す。
搬送ロール52は、給紙ロール51により取り出された紙Kを搬送する。
搬送ガイド53は、搬送ロール52により搬送された紙Kを二次転写部20へ送り込む。
搬送ベルト55は、二次転写部20で画像が転写された紙Kを定着装置60へ搬送する。
定着入口ガイド56は、紙Kを定着装置60に導く。
【0100】
画像形成装置100による画像形成方法について説明する。
画像形成装置100では、画像読取装置(不図示)やコンピュータ(不図示)等から出力された画像データが画像処理装置(不図示)により画像処理され、画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kによって作像作業が実行される。
【0101】
画像処理装置では、入力された反射率データに対して、シェーディング補正、位置ズレ補正、明度/色空間変換、ガンマ補正、枠消しや色編集、移動編集等の画像処理が施される。画像処理が施された画像データは、Y、M、C、Kの4色の色材階調データに変換され、レーザー露光器13に出力される。
【0102】
レーザー露光器13は、入力された色材階調データに応じて、露光ビームBmを画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kの各感光体11に照射する。
画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kの各感光体11は、帯電器12によって表面が帯電された後、レーザー露光器13によって表面が走査露光され、静電潜像が形成される。各感光体11上に形成された静電潜像は、各画像形成ユニットによって各色のトナー像として現像される。
【0103】
画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kの各感光体11上に形成されたトナー像は、各感光体11と中間転写ベルト15とが接触する一次転写部10において、中間転写ベルト15上に転写される。一次転写部10では、一次転写ロール16により中間転写ベルト15にトナーの帯電極性(マイナス極性)と逆極性の電圧(一次転写バイアス)が印加され、トナー像が中間転写ベルト15上に順次重ねて転写される。
【0104】
中間転写ベルト15上に一次転写されたトナー像は、中間転写ベルト15が移動することによって、二次転写部20に搬送される。
トナー像が二次転写部20に到達するタイミングに合わせ、用紙収容部50に収容されていた紙Kが、給紙ロール51、搬送ロール52及び搬送ガイド53によって搬送され、二次転写部20に供給され、中間転写ベルト15と二次転写ロール22との間に挟み込まれる。
そして、転写電界が形成されている二次転写部20において、中間転写ベルト15上のトナー像が、紙K上に静電転写(二次転写)される。
【0105】
トナー像が静電転写された紙Kは、二次転写ロール22によって中間転写ベルト15から剥離され、搬送ベルト55によって定着装置60まで搬送される。
定着装置60に搬送された紙Kは、定着装置60によって加熱・加圧され、未定着トナー像が定着する。
以上の工程を経て、画像形成装置100によって記録媒体上に画像が形成される。
【実施例0106】
以下、実施例により本開示の管状定着部材を詳細に説明するが、本開示の管状定着部材は、これら実施例に何ら限定されるものではない。
以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
以下の説明において、調製、処理、製造などは、特に断りのない限り、室温(25℃±3℃)で行った。
【0107】
<定着ベルトの製造>
[実施例1]
-基材の形成-
ポリイミドワニス(TX-HMM、ユニチカ社製)100部にカーボンブラック(SB-4、デグサ社製)30部を分散し、基材用塗布液を調製した。基材用塗布液を、ブレードコート法で直径30mmのアルミニウム製金型に塗布した後、温度130℃で20分間乾燥し、温度200℃で20分間及び温度380℃で20分間、焼成した。焼成後、金型から樹脂層を脱型し、平均厚80μm、幅420mmの基材を得た。
【0108】
-弾性層の形成-
基材を円筒状の内型に被せた。基材上に液状シリコーンゴム(2液型、X-34-2826-A/B、信越化学工業)をブレードコート法で塗布した後、温度115℃で15分間乾燥し、温度200℃で2時間焼成して、平均厚200μm、幅400mmの弾性層を形成した。
【0109】
-中間層の形成-
弾性層の形成に使用したのと同じ液状シリコーンゴム100部に窒化ホウ素粉末(MGP、デンカ社製)8部を添加し、攪拌混合して塗布液を調製した。塗布液を弾性層上にブレードコート法で塗布した。塗布層を均すブレード押圧によって、板状の窒化ホウ素粉末を塗布層の面方向に配向させた。塗布層を温度115℃で15分間乾燥して、平均厚100μmの中間層を形成した。
【0110】
-表層の形成-
内径29.3mm、幅460mm、平均厚20μmであり、内面が液体アンモニア処理で改質されたPFAチューブを準備した。中間層まで形成した積層体にPFAチューブを被覆した。被覆後、温度200℃で2時間焼成して接着させた後、内型から脱型して幅380mmにカットした。こうして、定着ベルト(本開示の管状定着部材)を得た。
【0111】
[実施例2]
実施例1と同様にして、ただし、表層の平均厚を表1に記載のとおりに変更して、定着ベルトを製造した。
【0112】
[実施例3~4]
実施例1と同様にして、ただし、中間層の平均厚を表1に記載のとおりに変更して、定着ベルトを製造した。
【0113】
[実施例5]
実施例1と同様にして、ただし、弾性層の形成において、液状シリコーンゴム(2液型、X-34-2826-A/B、信越化学工業)100部と、液状シリコーンゴム(2液型、X-34-1053-A/B、信越化学工業)10部とを混合した材料を用いて弾性層を形成し、定着ベルトを製造した。
【0114】
[実施例6]
実施例1と同様にして、ただし、中間層の形成において、塗布層を均す操作を行わずに中間層を形成し、定着ベルトを製造した。
【0115】
[比較例1]
実施例1と同様にして、ただし、中間層を形成しないで、定着ベルトを製造した。
【0116】
[比較例2]
実施例1と同様にして、ただし、中間層の形成において、塗布液を、弾性層の形成に使用したのと同じ液状シリコーンゴムのみとして(すなわち、窒化ホウ素粉末を添加しないで)中間層を形成し、定着ベルトを製造した。つまり比較例2は、弾性層と中間層を同じ材料で形成した。
【0117】
[比較例3]
実施例1と同様にして、ただし、弾性層の形成において、実施例1の中間層に使用した液状シリコーンゴム(窒化ホウ素粉末を8部添加した、X-34-2826-A/B、信越化学工業)の2液の配合比を変更して弾性層を形成し、中間層の形成において、塗布液を、実施例1の弾性層の形成に使用したのと同じ液状シリコーンゴムのみとして(すなわち、窒化ホウ素粉末を添加しないで)中間層を形成し、定着ベルトを製造した。
【0118】
<定着ベルトの物性測定及び性能評価>
[貯蔵弾性率]
弾性層及び中間層をそれぞれ、軸方向20mm且つ周方向4mmの長方形に切り出し、これを測定用試料とした。動的粘弾性測定装置(RHEOVIBRON DDV-01FP、オリエンテック社製)に試料を置き、温度30℃、周波数10Hz、荷重10gf、振幅10μmの条件で動的粘弾性測定を行い、貯蔵弾性率(MPa)を求めた。試料3個に測定を行い、3個の測定値の算術平均を代表値とした。
【0119】
[熱伝導率]
弾性層及び中間層をそれぞれ、軸方向2mm且つ周方向2mmの正方形に切り出し、これを測定用試料とした。熱拡散率測定装置(ai-Phase Mobile M3 type1、アイフェイズ社製)に試料を置き、室温で熱拡散率を測定し、熱拡散率に密度と比熱を掛けることで熱伝導率(W/m・K)を算出した。軸方向、周方向、厚さ方向それぞれの熱伝導率は、熱拡散率測定装置の一対の測定端子に試料を挟む際の試料の向きによって測定し分けた。試料3個に測定を行い、3個の測定値の算術平均を代表値とした。
【0120】
[表層のしわ]
定着ベルトを画像形成装置ApeosC7070(富士フイルムビジネスイノベーション社製)の定着装置に装着した。A4紙を30万枚通紙後、定着ベルト表面を目視で観察し、しわの発生状況を下記のとおり分類した。結果を表1に示す。
G0:しわをまったく確認できない。
G1:微小なしわを数個程度確認できる。
G2:しわを明確に確認できる。
G3:G2よりしわが顕著で、大量に確認できる。
【0121】
[画像の濃度ムラ]
定着ベルトを画像形成装置ApeosC7070(富士フイルムビジネスイノベーション社製)の定着装置に装着した。OSコート紙(坪量127g/m2)A4サイズに、黒色ハーフトーン画像(画像濃度50%)を出力した。画像を目視で観察し、濃度ムラを下記のとおり分類した。結果を表1に示す。
G0:濃度ムラが確認できない。
G1:多少の濃度ムラが確認できる。
G2:G1よりも容易に濃度ムラを確認できる。
G3:濃度ムラが明確に確認できる。
【0122】
[画像の定着性]
定着ベルトを画像形成装置ApeosC7070(富士フイルムビジネスイノベーション社製)の定着装置に装着した。OSコート紙(坪量127g/m2)A4サイズに、黒色ベタ画像(画像濃度100%)を出力した。画像部を内側にして紙を折り、約300gfの力で折り目をつけた。折った紙を開き、折り目を目視で観察し、画像のはがれを下記のとおり分類した。結果を表1に示す。
G0:はがれなし。
G1:注視すると僅かにはがれがある。
G2:少しはがれがあるが許容範囲内。
G3:許容できないはがれがある。
【0123】
【0124】
本開示の管状定着部材、定着装置及び画像形成装置には、下記の態様が含まれる。
(((1)))
基材と弾性層と中間層と表層とをこの順に積層した管状定着部材であって、
前記弾性層の貯蔵弾性率をE1とし、前記中間層の貯蔵弾性率をE2としたとき、E1<E2である、
管状定着部材。
(((2)))
前記表層の平均厚が10μm以上20μm以下である、(((1)))に記載の管状定着部材。
(((3)))
前記E2が0.6MPa以上10.0MPa以下である、(((1)))又は(((2)))に記載の管状定着部材。
(((4)))
前記弾性層の厚さ方向の熱伝導率をλ1zとし、前記中間層の厚さ方向の熱伝導率をλ2zとしたとき、λ1z<λ2zである、(((1)))~(((3)))のいずれか1つに記載の管状定着部材。
(((5)))
前記λ1zが0.8W/m・K以上1.4W/m・K以下である、(((4)))に記載の管状定着部材。
(((6)))
前記λ2zが1.0W/m・K以上1.8W/m・K以下である、(((4)))又は(((5)))に記載の管状定着部材。
(((7)))
前記中間層の軸方向、周方向及び厚さ方向の熱伝導率をそれぞれλ2x、λ2y及びλ2zとしたとき、λ2x>λ2z且つλ2y>λ2zである、
(((1)))~(((6)))のいずれか1つに記載の管状定着部材。
(((8)))
前記中間層の平均厚が5μm以上200μm以下であり、且つ
前記弾性層の平均厚が前記中間層の平均厚よりも厚い、
(((1)))~(((7)))のいずれか1つに記載の管状定着部材。
(((9)))
第1回転体と、前記第1回転体の外面に接触して配置される第2回転体と、を備え、
前記第1回転体及び前記第2回転体の少なくとも一方が、(((1)))~(((8)))のいずれか1つに記載の管状定着部材であり、
トナー像が表面に形成された記録媒体を前記第1回転体と前記第2回転体との接触部に通して前記トナー像を定着する、
定着装置。
(((10)))
像保持体と、
前記像保持体の表面を帯電する帯電手段と、
帯電した前記像保持体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、
トナーを含む現像剤により、前記像保持体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、
前記トナー像を記録媒体の表面に転写する転写手段と、
前記トナー像を前記記録媒体に定着する、(((9)))に記載の定着装置から構成される定着手段と、を備える、
画像形成装置。
【0125】
(((1)))によれば、E1≧E2である場合に比べて、表層にしわが発生しにくい管状定着部材が提供される。
(((2)))によれば、表層の平均厚が20μm超である場合に比べて、画像の定着性に優れる管状定着部材が提供される。
(((3)))によれば、E2が0.6MPa未満である場合に比べて、表層にしわが発生しにくい管状定着部材が提供される。
(((4)))によれば、λ1z≧λ2zである場合に比べて、画像の定着性に優れる管状定着部材が提供される。
(((5)))によれば、λ1zが0.8W/m・K未満である場合に比べて、画像の定着性に優れる管状定着部材が提供される。
(((6)))によれば、λ2zが1.0W/m・K未満である場合に比べて、画像の定着性に優れる管状定着部材が提供される。
(((7)))によれば、λ2x≦λ2z且つλ2y≦λ2zである場合に比べて、定着画像の画質に優れる管状定着部材が提供される。
(((8)))によれば、中間層の平均厚が5μm未満である場合に比べて、表層にしわが発生しにくい管状定着部材が提供される。
(((9)))によれば、管状定着部材においてE1≧E2である場合に比べて、表層にしわが発生しにくい管状定着部材を備える定着装置が提供される。
(((10)))によれば、管状定着部材においてE1≧E2である場合に比べて、表層にしわが発生しにくい管状定着部材を備える画像形成装置が提供される。