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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124107
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】培養システム及び培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/04 20060101AFI20240905BHJP
   C12N 5/00 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
C12M1/04
C12N5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032049
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】309005168
【氏名又は名称】株式会社KIT
(71)【出願人】
【識別番号】519175617
【氏名又は名称】株式会社ボスケシリコン
(74)【代理人】
【識別番号】100125450
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 広明
(72)【発明者】
【氏名】山口 義二
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 八州
(72)【発明者】
【氏名】小林 悠輝
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB01
4B029DB15
4B029DB16
4B029DB19
4B029GB07
4B065BC02
4B065BC05
4B065BC50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】水素供給源を備える、安全で極めて簡素な培養システムを提供する。
【解決手段】本発明の1つの培養システム100は、水素発生能を有するシリコン微細粒子を収容可能な収容部10と、収容部10内にpH値が6以上の水含有液82を導入することによってシリコン微細粒子80から発生する水素が通過可能であり、且つ培養対象物90が配置されたときに培養対象物90に水素を接触させるための該培養対象物を保持可能な、収容部10内の空間に接する板状部22又は膜状部を備える培養部20と、培養部20を着脱可能に覆うことができる蓋部30と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素発生能を有するシリコン微細粒子を収容可能な収容部と、
前記収容部内にpH値が6以上の水含有液を導入することによって前記シリコン微細粒子から発生する水素が通過可能であり、且つ培養対象物が配置されたときに該培養対象物に前記水素又は該水素が溶解している前記水含有液(該水含有液の蒸気を含む)を接触させるための該培養対象物を保持可能な、前記収容部内の空間に接する板状部又は膜状部を備える培養部と、
前記培養部を着脱可能に覆うことができる蓋部と、を備える、
培養システム。
【請求項2】
前記収容部が、水素遮断性を有する材料からなり、
前記培養部が、前記収容部に対して気密に配置される、
請求項1に記載の培養システム。
【請求項3】
前記収容部が、水素遮断性を有する材料からなり、
前記培養部が、前記収容部に対して鉛直上方に配置される、
請求項1に記載の培養システム。
【請求項4】
前記収容部が前記水含有液を収容するときに、前記水含有液の前記pH値が、予め単位時間当たりの水素の発生量、及び/又は該水素の発生の持続時間を予測したpH値に調整されている、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の培養システム。
【請求項5】
前記収容部が前記シリコン微細粒子を収容するときに、前記シリコン微細粒子の量が、予め単位時間当たりの水素の発生量、及び/又は該水素の発生の持続時間を予測した量に調整されている、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の培養システム。
【請求項6】
前記収容部が、複数の前記培養部を備える、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の培養システム。
【請求項7】
前記収容部の近傍に、前記収容部内の前記水素の濃度を測定する水素濃度測定器をさらに備える、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の培養システム。
【請求項8】
水素発生能を有するシリコン微細粒子とpH値が6以上の水含有液とが収容された収容部から、前記シリコン微細粒子と前記水含有液との接触によって発生する水素又は該水素が溶解している前記水含有液(該水含有液の蒸気を含む)を、培養対象物に接触させる接触工程を有する、
培養対象物の培養方法。
【請求項9】
請求項1又は請求項2に記載の前記培養システムの前記板状部又は前記膜状部が培養対象物を備える工程と、
請求項1又は請求項2に記載の前記培養システムの前記収容部内に、前記シリコン微細粒子を収容する工程と、
前記収容部内に、前記水含有液を導入する工程と、を含む、
培養対象物の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養システム及び培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、酸素を培養容器内の細胞に接触させる培養システムが提供されている。
【0003】
具体的には、酸素ガス透過性部材からなる培養容器によって細胞を静置状態で培養する場合において、培養中の所望のタイミングにおける培養容器内の細胞の増殖性を検出可能な細胞培養システム、及び細胞の増殖性の検出方法が開示されている。(特許文献7)
【0004】
一方、シリコン微細粒子の水素発生能を利用した水素水の製造、又は該水素発生能を利用した生体に対する水素の応用は、これまでに種々行われている。(例えば、特許文献1~6、非特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5514140号公報
【特許文献2】特開2015-113331号公報
【特許文献3】国際公開WO2017/130709号公報
【特許文献4】国際公開WO2018/037752号公報
【特許文献5】国際公開WO2018/037818号公報
【特許文献6】国際公開WO2018/037819号公報
【特許文献7】特開2022-78431号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】松田他,「シリコンナノ粒子による水の分解と水素濃度」,第62回応用物理学会春季講演予稿集,2015年,12-031
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、上述の特許文献7が開示する細胞培養システムは、酸素ボンベO(酸素供給装置)から酸素ガスが供給され、また、二酸化炭素ボンベC(二酸化炭素供給装置)から二酸化炭素ガスが供給されるシステムを採用する。しかしながら、市販の酸素ボンベ等を採用した場合、システム全体を簡素化することが難しいという問題が生じる。
【0008】
また、仮に、生物又は細胞に対して酸素又は二酸化炭素の代わりに水素を接触させる培養システムにおいては、そのシステムの構築はさらに困難となる。具体的には、市販の水素ボンベ等を採用した場合、システム全体を簡素化することが難しいだけでなく、水素がある一定の濃度範囲(4%~75%)において爆発性があるという特殊性から、その安全性を含めた管理及び取扱いに対して極めて高度な注意を払うことが求められる。
【0009】
一方、シリコン微細粒子の水素発生能を利用した水素の応用は種々行われているが、培養システムに適用した例はない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、生物を水素に接触させ得る、安全で簡素な培養システムの実現に大きく貢献し得るものである。
【0011】
本発明者らは、閉空間(例えば、室内)において水素を取り扱う際には、様々な安全基準を満たすための設備等を準備することが必要となるため、水素を用いた培養システムが広く利用され難い状況にあることを認識した。一方、生物(例えば、細胞)を水素と接触させることによる酸化ストレスの抑制、反応、効果、或いは影響を調査する重要性が高まっている。そこで、本発明者らは、安全性及び取り扱いが困難な水素を採用した場合であっても、簡素であっても確度高く安全を確保し得る培養システムを実現すべく、鋭意研究に取り組んだ。
【0012】
その結果、外気に触れるだけでは実質的に水素を発生させず、ある特定の環境下においてのみ水素を発生するという特徴を備えた、水素発生能を有するシリコン微細粒子を水素の発生源として採用するととともに、水素に接触させる対象物(生物)と該シリコン微細粒子との配置及び構造を工夫することにより、上述の各技術課題が解決し得る培養システムを実現し得ること知得した。本発明は、前述の着想と具体化に基づいて創出された。
【0013】
本発明の1つの培養システムは、水素発生能を有するシリコン微細粒子を収容可能な収容部と、該収容部内にpH値が6以上の水含有液を導入することによって前述のシリコン微細粒子から発生する水素が通過可能であり、且つ培養対象物が配置されたときに該培養対象物に前述の水素又は該水素が溶解している前述の水含有液(該水含有液の蒸気を含む)を接触させるための該培養対象物を保持可能な、該収容部内の空間に接する板状部又は膜状部を備える培養部と、該培養部を着脱可能に覆うことができる蓋部と、を備える。
【0014】
この培養システムによれば、従来は安全性の確保及び取り扱いが難しかった水素の発生源の役割を、該シリコン微細粒子及び該水含有液を収容したときの上述の収容部が担うことになるため、培養システムを非常に簡素にすることが可能となる。また、該シリコン微細粒子は、外気に触れるだけでは実質的に水素を発生させず、ある特定範囲のpH値の水含有液に接触させたときのみ該培養システムに必要な量の水素を発生するという特徴を備えるため、水素発生源としての確度高い安全性の確保を容易に実現し得る。さらに、シリコン微細粒子が上述の水含有液と反応することによって、持続的に長時間(例えば、24時間以上)水素を発生し得るため、連続的且つ長時間、この培養システムに水素又は該水素が溶解している前述の水含有液(該水含有液の蒸気を含む)を供給し続けることができる。
【0015】
なお、本発明の培養システムによれば、下記の(1)~(3)の各特長により、確度高く水素の取り扱いの容易性を実現し得る。
(1)上述の収容部内に収めるシリコン微細粒子の量によって容易に水素の発生量を変化させることが可能となること。
(2)該収容部内に導入する水含有液のpH値を調節するによって容易に水素の発生速度を変化させることが可能となること。
(3)該シリコン微細粒子から発生する水素の量は、1時間当たり、数mL(ミリ・リットル)/g(グラム)~数百mL/gという比較的少量であり、且つ、水素が連続的且つ長時間発生し得ること。
【0016】
従って、上述の特有の効果を鑑みれば、例えば、本実施形態の培養システムを、小規模の実験用、あるいは試験用、分析用、又は検査用として活用することは好適な一態様である。
【0017】
また、例えば、上述の収容部内に収容される該水含有液の該pH値が、予め単位時間当たりの水素の発生量、及び/又は該水素の発生の持続時間を予測したpH値に調整されていることは、水素発生時間の管理の容易性を高めるとともに、安全性を向上させる観点から、採用し得る好適な一態様である。
【0018】
また、上述の該シリコン微細粒子の該pH値の調整とは別に、又は該シリコン微細粒子の該pH値の調整とともに、例えば、上述の収容部内に収容される該シリコン微細粒子の量が、予め単位時間当たりの水素の発生量、及び/又は該水素の発生の持続時間を予測した量に調整されていることは、該シリコン微細粒子から発生する水素量の管理の容易性を高めるとともに、安全性を向上させる観点から、採用し得る好適な一態様である。
【0019】
また、本発明の1つの培養対象物の培養方法は、水素発生能を有するシリコン微細粒子とpH値が6以上の水含有液とが収容された収容部から、前記シリコン微細粒子と前記水含有液との接触によって発生する水素又は該水素が溶解している前記水含有液(該水含有液の蒸気を含む)を、培養対象物に接触させる接触工程を有する。
【0020】
この培養対象物の培養方法によれば、下記の(1)~(3)の各特長により、確度高く水素の取り扱いの容易性を実現し得る。
(1)上述の収容部内に収めるシリコン微細粒子の量によって容易に水素の発生量を変化させることが可能となること。
(2)該収容部内に導入する水含有液のpH値を調節するによって容易に水素の発生速度を変化させることが可能となること。
(3)該シリコン微細粒子から発生する水素の量は、1時間当たり、数mL(ミリ・リットル)/g(グラム)~数百mL/gという比較的少量であり、且つ、水素が連続的且つ長時間発生し得ること。
【0021】
なお、本願における「培養対象物」は、「生物」、及び細胞死に至っていない「細胞(単細胞及び多細胞を含む)」を含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明の1つの培養システムによれば、該システム全体として簡素であるだけではなく、安全を確度高く確保し得る状況下において生物を水素に接触させることが可能な培養システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1の実施形態の培養システム100の概要を示す断面構成図である。
図2】第1の実施形態の培養システム100の各構成の一例を示す写真である。
図3】第1の実施形態の培養システム100の一例を示す写真である。
図4】シリコン微細粒子80からの水素発生量の時間変化と、該水素発生量のpH値依存性を示すグラフである。
図5】第2の実施形態の培養システム200の概要を示す断面構成図である。
図6】第3の実施形態の培養システム300の概要を示す断面構成図である。
図7】第4の実施形態の培養システム400の概要を示す断面構成図である。
図8】第5の実施形態の培養システム500の概要を示す断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の各要素は必ずしもスケール通りに示されていない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略されうる。
【0025】
<第1の実施形態>
[1]培養システムの構成及びその製造方法
図1は、本実施形態の培養システム100の概要を示す断面構成図である。また、図2は、本実施形態の培養システム100の各構成の一例を示す写真である。また、図3は、本実施形態の培養システム100の一例を示す写真である。
【0026】
図1乃至図3に示すように、本実施形態の培養システム100は、水素発生能を有するシリコン微細粒子80及びpH値が6以上の水含有液82を収容可能な収容部10と、収容部10内の空間に接する板状部又は膜状部を備える培養部20と、培養部20を着脱可能に覆うことができる蓋部30と、を備える。
【0027】
なお、本実施形態の収容部10が有底筒状であるが、収容部10の構造は、図1に示すような平坦の底部を備えた有底筒状に限定されない。例えば、市販の丸底フラスコのような形状を有する収容部も、採用し得る他の一態様である。
【0028】
また、培養部20が収容部10に対して気密に配置されることは、水素の系外へ漏洩を防止し、確度高く安全性を確保する観点から好適な一態様である。より具体的には、該シリコン微細粒子と水含有液82とが接触することによって発生する水素の発生速度が速くなく、気密性が得られることによって空気中に拡散する水素量は実質的に皆無となることから、爆発の危険性がなく取り扱いが簡便となる。
【0029】
加えて、水素が非常に軽いガスであることを考慮し、図1に示すように、培養部20が、収容部10に対して鉛直上方に配置されることも、水素は該水素が溶解している前述の水含有液の蒸気を確度高く培養対象物90に接触させる観点から好適な一態様である。
【0030】
ここで、シリコン微細粒子80及び水含有液82が収容部10内に収容されたときに、シリコン微細粒子80から発生する水素を確度高く培養対象物90に接触させるために、及び安全性をさらに確保するために、本実施形態の培養システム100を構成する主要な各部材間の気密性を高めることは非常に好適な一態様である。
【0031】
具体的には、本実施形態においては、図2に示すように、シリコン微細粒子80を収容部10内に収容し、pH値が6以上の水含有液(図示しない)が収容部10内に導入又は収容された後、シール部62,64を備えた保持部40が収容部10に嵌入される(図2の(1))。なお、シリコン微細粒子80と、水含有液82とが収容部10内に収められるときの順序は問わない。
【0032】
一方、板状部22が培養対象物90(図示しない)を備える工程が行われる。一例として、培養対象物90(図示しない)が板状部22上に配置された培養部20が、蓋部30によって覆われた状態で保持部40内に収められる(図2の(2))。
【0033】
その後、培養部20を覆っている蓋部30を押圧するための押圧部50が、培養部20を収容した保持部40に嵌入される(図2の(3))。なお、本実施形態における培養部20は、例えば、細胞の培養に用いられる公知のシャーレを採用し得る。
【0034】
また、本実施形態においては、収容部10と培養部20との間の気密性をより確度高く向上させるために、保持部40と培養部20との間にシール部64が設けられるとともに、収容部10と保持部40との間にシール部62が設けられている。
【0035】
代表的な例の培養システム100の構造においては、気密性及び安定性を高める観点から、押圧部50は保持部40に対して螺合し、保持部40は収容部10に対して螺合することにより、収容部10、培養部20、蓋部30、保持部40及び押圧部50が一体化する。この構造を採用すれば、培養部20は、収容部10に対して鉛直上方に、且つ収容部10に対して確度高く気密に配置されることになる。
【0036】
なお、保持部40及び押圧部50を備える本実施形態の培養システム100を採用することは、研究又は分析を行う際の利便性を高めることになる。具体的には、例えば、培養対象物90を所望の量の水素に曝露させた後、収容部10を保持部40から離せば、保持部40及び押圧部50によって蓋部30に覆われた培養部20がいわば固定された状態を保持することになるため、顕微鏡等を用いた培養部20の観察が容易になる。
【0037】
ところで、本実施形態においては、培養部20が板状部22とともに、板状部22を一体に成形される筒状部24を備えているが、本実施形態の培養部20は前述の構造に限定されない。例えば、板状部22を気密に挟持し得る、あるいは気密に支持又は保持し得る構造を収容部10の一部である筒状部が備える等の構造が採用されることにより、培養部20は筒状部24を備える必要はない。
【0038】
また、本実施形態の収容部10を構成する材料は水素を保持し得る材料であれば、特に限定されない。なお、水素を系外に漏らさないように、水素遮断性を有する金属材料(例えば、アルミニウム、SUS304等)又は樹脂材料(例えば、特開2018-500400号公報に開示されるポリケトン樹脂組成物等)から収容部10が構成されることは好適な一態様である。
【0039】
加えて、本実施形態の培養部20は、シリコン微細粒子80を収容する収容部10内においてシリコン微細粒子80とpH値が6以上の水含有液82とが接することによって発生する水素が通過可能であり、且つ、培養対象物90が配置されたときに培養対象物90に水素を接触させるための培養対象物90を保持可能な板状部22を備える。板状部22の材質の例は、板状のポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、アクリロニトリルスチレン、又はポリウレタン等の樹脂である。
【0040】
また、本実施形態においては、培養システムの収容部10内に収容される、又は導入される「水含有液」82は水又は水溶液であり、例えば、ヒトの消化管内液又はそれに相当する人工の液体を含む。なお、「消化管内液」の例は、小腸内液並びに大腸内液である。また、「水含有液」82の例が、前述の例に限定されないことは言うまでもない。
【0041】
また、上述のpH値が6以上の水含有液に調整するための「pH調整剤」の例は、pH値を6以上の弱酸性域~アルカリ性域に調整できる材料であれば、特に材料は限定されない。具体的には、上述のpH値が6以上の水含有液82の例は、公知のpH調整剤(例えば、炭酸水、水道水、純水、硬水、軟水、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム)を含む水溶液である。
【0042】
[2]培養システムの収容部10に収容されるシリコン微細粒子及びその製造方法
[シリコン微細粒子]
また、シリコン微細粒子80の好適な一態様は、平均の粒子径(D50)が10nm以上1000μm未満の粒子を主たる粒子とする。また、本願において「シリコン微細粒子」は、各シリコン微細粒子が分散している状態のもののみならず、複数のシリコン微細粒子が凝集してμmオーダー(概ね、0.1μm以上1000μm以下)の大きさの凝集体を構成した状態のものを含む。
【0043】
[シリコン微細粒子の製造方法]
次に、本実施形態のシリコン微細粒子80の製造方法を説明する。
【0044】
本実施形態においては、例えば、シリコン粉末(例えば、粒径300μm以下,純度が4N(すなわち、99.99%)以上、より好適には5N以上(すなわち、99.999%)以上,i型シリコン)を、シリコン微細粒子80の原料の一部として用いる。なお、本実施形態の他の一態様においては、前述の純度よりも高純度、又は低純度のシリコン粉末を採用することができる。なお、本実施形態のシリコン粉末は結晶シリコンの粉末であるが、該シリコン粉末がアモルファスシリコン又はポーラスシリコンであっても、本実施形態の少なくとも一部の効果が奏され得る。
【0045】
<粉砕及び分級工程>
本実施形態の一例は、所定の高い圧力(例えば、数気圧)のガス(例えば、空気)を噴射ノズルから噴出させて形成する高速ジェット気流によって加速された上述のシリコン粉末を、相互衝突させ、及び/又は摩砕させることにより粉砕する、ジェットミル法を採用する。本実施形態の一例においては、該ジェットミル法を用いて上述のシリコン粉末を、例えば、少なくとも5分間連続して粉砕処理を行うとともに、所定の粒子径のシリコン粒子を分級する粉砕及び分級工程が行われる。より具体的には、該粉砕及び分級工程においては、300μm以上の該シリコン粒子の、全てのシリコン粒子に対する割合が、5質量%以下(より好適には3質量%以下、さらに好適には1質量%以下、さらに好適には0.5質量%以下、さらに好適には0.2質量%以下)となるように分級される。
【0046】
なお、特に弱酸性~アルカリ性において水素発生能を有する限り、本実施形態のシリコン微細粒子80の粒子径の上限又は下限は限定されない。同様に、特に弱酸性~アルカリ性において水素発生能を有する限り、シリコン微細粒子80の凝集体の外径の上限は限定されない。従って、本実施形態のシリコン微細粒子80の製造方法においては、必ずしも上述の分級処理を要しない。
【0047】
その結果、一例として、平均の粒子径(D50)が3μm未満の該シリコン微細粒子及び該シリコン微細粒子の凝集体の、全ての該シリコン粒子、該シリコン微細粒子及びそれらの該凝集体に対する割合が、5質量%以下(より好適には3質量%以下、さらに好適には1質量%以下、さらに好適には0.5質量%以下、さらに好適には0.2質量%以下)のシリコン微細粒子80及びシリコン微細粒子80の凝集体が得られる。また、他の一態様においては、1μm以上60μm以下(より好適には、3μm以上300μm未満)の結晶子径のシリコン微細粒子80及びシリコン微細粒子80の凝集体が得られる。
【0048】
上述の工程を経ることにより、シリコン微細粒子80が得られる。なお、上述のとおり、シリコン微細粒子80の平均の粒子径(D50)を一定の範囲内(例えば、3μm以上300μm未満、又は1μm以上500μm以下、あるいは1μm以上1000μm以下)に収めておくことは、単位時間当たりの水素の発生量、及び/又は該水素の発生の持続時間を予測しやすくする観点から好適な一態様である。
【0049】
[3]培養システム100のその他の例(1)
本実施形態の培養システム100において、収容部10内に導入される水含有液82のpH値が、予め単位時間当たりの水素の発生量、及び/又は該水素の発生の持続時間を予測したpH値となるように調整されることは、シリコン微細粒子80から発生する水素量の管理の容易性を高めるとともに、安全性を向上させるため、好適な一態様である。
【0050】
図4は、シリコン微細粒子80からの水素発生量の時間変化と、該水素発生量のpH値依存性を示すグラフである。図4に示すように、シリコン微細粒子80の量が一定であっても、pH値を変動させることによって、単位時間当たりの水素の発生量、及び/又は該水素の発生の持続時間が変化することが分かる。
【0051】
従って、培養システム100の利用者は、例えば、図4に示すデータに基づいて、単位時間当たりの水素の発生量、及び/又は該水素の発生の持続時間を予測することが可能となる。その結果、予め、所望の単位時間当たりの水素の発生量、及び/又は該水素の発生の持続時間となるように調整したpH値の水含有液82を収容部10内に導入又は収容することによって、水素量の管理の容易性を高めるとともに、安全性を向上させることが可能となる。さらに、不要な水素発生を防止することを実現し得る。
【0052】
[4]培養システム100のその他の例(2)
上述の培養システム100のその他の例(1)に代えて、又は上述の培養システム100のその他の例(1)とともに、本実施形態の培養システム100において、収容部10内に収容されるシリコン微細粒子80の量を、予め単位時間当たりの水素の発生量、及び/又は該水素の発生の持続時間を予測した量に調整することは、シリコン微細粒子80から発生する水素量の管理の容易性を高めるとともに、安全性を向上させるため、好適な一態様である。
【0053】
なお、水含有液のpH値を一定にしたとき、水素発生量は、シリコン微細粒子80の量に略比例する関係が成立する。従って、シリコン微細粒子80の量の変化にともなって、単位時間当たりの水素の発生量、及び/又は該水素の発生の持続時間が変化することとなる。
【0054】
従って、培養システム100の利用者は、所望の単位時間当たりの水素の発生量、及び/又は該水素の発生の持続時間を、水含有液のpHとシリコン微細粒子の量を調整することにより実現し得る。その結果、予め、所望の単位時間当たりの水素の発生量、及び/又は該水素の発生の持続時間となるように調整したpH値とシリコン微細粒子80の量を収容部10内に収容することによって、水素の発生量、及び/又は該水素の発生の持続時間の管理の容易性を高めるとともに、安全性を向上させることが可能となる。
【0055】
[5]培養システム100のその他の例(3)
また、爆発性のある水素の確度高い管理を実現する観点から、シリコン微細粒子80が収容部10内に収容されたときの培養システム100の利用時において、安全性を高める観点から、収容部10の近傍に水素の濃度を測定する、例えば市販の水素濃度測定器(少なくとも水素の検出部)を備えることは、好適な一態様である。一方、安全性を確保する観点から、例えば、押圧部50及び/又は保持部40の外面(一例として、蓋部30の近傍の面、及び/又は収容部10外面の近傍の面)の一部が該水素濃度測定器を備えることによって水素の漏れを測定することも採用し得る他の一態様である。
【0056】
なお、上述のその他の例(1)及び(2)における水含有液82の温度条件は限定されない。上述のとおり、水素発生量は水含有液82のpH値及び/又はシリコン微細粒子80の量に依存し得るが、例えば、水含有液82の温度を80℃以下の一定の範囲(例えば、所望の温度に対して±5℃以内、より狭義には±3℃以内)の温度環境を保てば、本実施形態の培養システムにとっての少なくとも一部の効果を損なわない適切な水素量を発生させることができる。なお、水含有液82の温度の上限は、本来、限定されるものではない。一方、温度が高くなるほど培養システム100の各構成に高い耐熱性が求められるという問題、温度に関する管理上の対策が別途必要になるという問題、及び/又は水素の溶解度が減少するという問題が生じ得るため、水含有液82を50℃未満(より好適には、約36℃~約38℃)で使用することが好ましい。
【0057】
<第2の実施形態>
本実施形態の培養システム200は、第1の実施形態の培養部20の板状部22の一部又は全部の代わりに膜状部70を備える培養部220を採用した点を除いて、第1の実施形態の培養システム100と同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0058】
図5は、本実施形態の培養システム200の概要を示す断面構成図である。
【0059】
図5に示すように、培養システム200における培養部220は、収容部10内においてシリコン微細粒子80と水含有液82とが接することによって発生する水素が通過可能な膜状部70を備える。また、膜状部70は、培養対象物90が配置されたときに培養対象物90に水素を接触させるための培養対象物90を保持可能又は支持可能な強度を有することは、好適な一態様であるが、必ずしも膜状部70が培養対象物90を保持可能又は支持可能である必要はない。培養対象物90は培養部220内であれば、膜状部70上とは異なる場所(例えば、板状部22の残部)が培養対象物90を保持又は支持することも採用し得る一態様である。膜状部70の材質の例は、膜状のポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、アクリロニトリルスチレン、又はポリウレタン等の樹脂である。
【0060】
本実施形態の培養システム200を採用した場合であっても、第1の実施形態の培養システム100の効果の少なくとも一部の効果、又は培養システム100の効果と同様の効果が奏され得る。
【0061】
<第3の実施形態>
本実施形態の培養システム300は、第1の実施形態の培養部20の板状部22の一部が貫通孔22hを備える培養部320を採用した点を除いて、第1の実施形態の培養システム100と同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0062】
図6は、本実施形態の培養システム300の概要を示す断面構成図である。
【0063】
図6に示すように、培養システム300における培養部320は、収容部10内においてシリコン微細粒子80と水含有液82とが接することによって発生する水素又は該水素が溶解している水含有液(該水含有液の蒸気を含む)が通過可能な貫通孔22hを備える板状部22aが採用される。従って、培養システム300においては板状部22aの材質自身が水素透過性を有していない場合であっても、貫通孔22hを利用して水素又は該水素が溶解している前述の水含有液(該水含有液の蒸気を含む)が培養対象物90に接触し得る。そのため、本実施形態においては、板状部22aの材質は、第1の実施形態の板状部22の例として挙げた材料に限定されない。換言すれば、本実施形態の板状部22aは、必ずしも水素透過性を有することを求められない。従って、本実施形態の板状部22aの材質の例は、水素が通過可能な板状のポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、アクリロニトリルスチレン、又はポリウレタン等の樹脂以外にも、殆ど又は全く水素を通過させない材質である、ステンレス鋼を採用し得る。
【0064】
本実施形態の培養システム300は、気体状の水素に限らず、該水素が溶解している水含有液、あるいは上述の水含有液の蒸気を培養対象物90に接触させ得る構成を備えている。従って、気体状の水素のみならず、上述の水含有液中の、又は該水含有液の蒸気中の溶存水素を培養対象物90に接触させることにより、培養対象物90である生物又は細胞を培養することができる。
【0065】
なお、貫通孔22hの位置及び数、並びに貫通孔22hの径の大きさは、板状部22aが培養対象物90を保持可能又は支持可能である限り、培養対象物90の場所及び量に応じて適宜変更され得る。
【0066】
本実施形態の培養システム300を採用した場合であっても、第1の実施形態の培養システム100の効果の少なくとも一部の効果、又は培養システム100の効果と同様の効果が奏され得る。
【0067】
<第4の実施形態>
本実施形態の培養システム400は、第2の実施形態の培養部220の膜状部70の一部が貫通孔70hを備える培養部420を採用した点を除いて、第1の実施形態の培養システム100又は第2の実施形態の培養システム200と同じである。従って、第1の実施形態乃至第3の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0068】
図7は、本実施形態の培養システム400の概要を示す断面構成図である。
【0069】
図7に示すように、培養システム400における培養部420は、収容部10内においてシリコン微細粒子80と水含有液82とが接することによって発生する水素又は該水素が溶解している水含有液(該水含有液の蒸気を含む)が通過可能な貫通孔70hを備える膜状部70が採用される。従って、培養システム400においては膜状部70の材質自身が水素透過性を有していない場合であっても、貫通孔70hを利用して水素又は該水素が溶解している前述の水含有液(該水含有液の蒸気を含む)が培養対象物90に接触し得る。そのため、本実施形態においては、膜状部70の材質は、第2の実施形態の膜状部70の例として挙げた材料に限定されない。換言すれば、本実施形態の膜状部70は、必ずしも水素透過性を有することを求められない。従って、本実施形態の膜状部70の材質の例は、水素が通過可能な膜状のポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、アクリロニトリルスチレン、又はポリウレタン等の樹脂以外にも、殆ど又は全く水素を通過させない材質である、ステンレス鋼を採用し得る。
【0070】
なお、貫通孔70hの位置及び数、並びに貫通孔70hの径の大きさは、膜状部70が培養対象物90を保持可能又は支持可能である限り、培養対象物90の場所及び量に応じて適宜変更され得る。
【0071】
本実施形態の培養システム400においても、第3の実施形態と同様に、気体状の水素に限らず、該水素が溶解している水含有液、あるいは上述の水含有液の蒸気を培養対象物90に接触させ得る構成を備えている。従って、気体状の水素のみならず、上述の水含有液中の、又は該水含有液の蒸気中の溶存水素を培養対象物90に接触させることにより、培養対象物90である生物又は細胞を培養することができる。
【0072】
本実施形態の培養システム400を採用した場合であっても、第1の実施形態の培養システム100又は第2の実施形態の培養システム200の効果の少なくとも一部の効果、又は培養システム100の効果と同様の効果が奏され得る。
【0073】
<第5の実施形態>
本実施形態の培養システム500は、複数の培養部20への水素の供給を1つの収容部10が担う構成を備えている点を除いて、第1の実施形態の培養システム100と同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0074】
図8は、本実施形態の培養システム500のうち、収容部10が連通し、且つ2つの培養部20を備えた培養システム500の例の概要を示す断面構成図である。
【0075】
図8に示すように、培養システム500は、複数の培養部20を備えているため、同時に、2つの同種の、又は互いに異なる2種の培養対象物90に対する、収容部10から供給される水素による反応、効果、或いは影響を調査することが可能となる。なお、収容部10内においてシリコン微細粒子80と水含有液82とが接することによって発生する水素の、収容部10内における濃度の局在化を防止する観点から、シリコン微細粒子80の収容部10内の存在箇所を局在化させないようにすることは好適な一態様である。他方、水素が局在化することによる、培養対象物90への影響を調べたい場合は、図8に示すように収容部10内におけるシリコン微細粒子80の配置を局在化させることが採用され得る他の一態様である。
【0076】
なお、本実施形態の培養システム500は、培養部20、蓋部30、保持部40及び押圧部50を2つずつ備えており収容部10のみが共通する構成を採用しているが、培養部20、蓋部30、保持部40及び押圧部50を3つ以上備えることも、採用し得る他の一態様である。
【0077】
上述の実施形態の開示は、該実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、上述の実施形態における他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の培養システムは、安全かつ簡素に水素を生物又は細胞に接触させることを実現する培養システムとして、種々の産業において広く利用され得る。
【符号の説明】
【0079】
10 収容部
20,220,320,420 培養部
22,22a 板状部
22h 貫通孔
24 筒状部
30 蓋部
40 保持部
50 押圧部
62,64 シール部
70 膜状部
70h 貫通孔
80 シリコン微細粒子
82 水含有液
90 培養対象物
100,200,300,400,500 培養システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8