(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124114
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】複合半透膜、及びスパイラル型膜エレメント
(51)【国際特許分類】
B01D 69/12 20060101AFI20240905BHJP
B01D 63/10 20060101ALI20240905BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240905BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240905BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B01D69/12
B01D63/10
B01D69/02
B01D69/10
B01D71/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032059
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮部 倫次
(72)【発明者】
【氏名】平原 阿槻
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA62
4D006JA05A
4D006JA06A
4D006JA10A
4D006JA10C
4D006JA13A
4D006JA14A
4D006JA18A
4D006JA19A
4D006JA25A
4D006JB04
4D006MA03
4D006MA09
4D006MB02
4D006MB06
4D006MB20
4D006MC29
4D006MC54
4D006MC55
4D006MC56X
4D006NA41
4D006NA64
4D006PA01
4D006PB03
4D006PB04
4D006PB08
4D006PB70
(57)【要約】
【課題】所望の阻止性能が得られると共に、アルカリ耐久性と透水性とが何れも良好な複合半透膜、及びこれを用いたスパイラル型膜エレメントを提供する。
【解決手段】多孔質樹脂層を有する多孔性支持体と、前記多孔質樹脂層上にポリアミド系樹脂で形成された分離機能層とを備える複合半透膜であって、前記ポリアミド系樹脂は、二価の多官能アミン及び三価以上の多官能酸ハライドに由来する構成成分を含み、二価の多官能アミンに対する三価以上の多官能酸ハライドのモル比率が0.65~1.00の範囲であり、末端カルボキシル基濃度が0.01以下であり、前記複合半透膜は、ATR-IR法により得られる吸収ピークについて、前記多孔質樹脂層の繰り返し単位に由来する吸収ピーク強度に対する、アミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク強度の比率であるアミド強度比が0.60以上である、複合半透膜。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質樹脂層を有する多孔性支持体と、前記多孔質樹脂層上にポリアミド系樹脂で形成された分離機能層とを備える複合半透膜であって、
前記ポリアミド系樹脂は、二価の多官能アミン及び三価以上の多官能酸ハライドに由来する構成成分を含み、二価の多官能アミンに対する三価以上の多官能酸ハライドのモル比率が0.65~1.00の範囲であり、末端カルボキシル基濃度が0.01以下であり、
前記複合半透膜は、ATR-IR法により得られる吸収ピークについて、前記多孔質樹脂層の繰り返し単位に由来する吸収ピーク強度に対する、アミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク強度の比率であるアミド強度比が0.60以上である、複合半透膜。
【請求項2】
前記ポリアミド系樹脂は、m-フェニレンジアミン(MPD)及びトリメシン酸クロライド(TMC)に由来する構成成分を含み、MPDに対するTMCのモル比率(TMC/MPD)が0.65~1.00の範囲である、請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項3】
前記多孔質樹脂層がポリスルホン系樹脂で形成され、前記繰り返し単位に由来する吸収ピーク強度が、O―C―Oの伸縮振動に由来する吸収ピーク強度である、請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項4】
ジェオスミンの阻止率が99.5%以上である、請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項5】
河川水をモデルとした模擬水を用いて評価した際の透水性が9.0LMH/bar以上である、請求項4に記載の複合半透膜。
【請求項6】
請求項1~5いずれか1項に記載の複合半透膜を有する、スパイラル型膜エレメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質樹脂層を有する多孔性支持体と、ポリアミド系樹脂で形成された分離機能層とを備える複合半透膜、及びこれを用いたスパイラル型膜エレメント(以下、「膜エレメント」と略称する場合がある)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に海外において、飲用水の製造に使用する複合半透膜として、除草剤や臭味成分などの有機化合物(例えば、分子量150~250)に対する阻止性能や、これを除去する際の透水性の良好な複合半透膜に対する要求が高まっている。
【0003】
現在、脱塩処理に使用されるRO膜よりも無機塩類が透過し易い、部分脱塩ルーズ型と呼ばれるNF膜が市販されおり、上記のような飲用水製造の用途への適用が検討されている。しかし、市販されている部分脱塩ルーズ型NF膜は、除草剤や臭味成分などの有機化合物に対する阻止性能が良好でも透水性が不十分であったり、或いは透水性が良好でも当該有機化合物に対する阻止性能が不十分であるという問題があった。
【0004】
特に飲用水製造の用途では、処理量が大きいため、省エネルギー化が重要であるにもかかわらず、阻止性能を維持しながら透水性を高めた複合半透膜が得られにくいというのが現状であった。
【0005】
一方、工業的によく利用される複合半透膜としては、例えば、多官能アミン成分と多官能酸ハライド成分とを反応させてなるポリアミド系樹脂を含むスキン層が、多孔性支持体の多孔質樹脂層の表面に、分離機能層として形成されている複合半透膜が知られている。また、このような複合半透膜について、二価の多官能アミンに対する三価以上の多官能酸ハライドのモル比率を小さくして、架橋構造をルーズにすることで、透水性を向上せる方法が知られている。
【0006】
例えば、特許文献1では、架橋ポリアミドの超薄膜層を微多孔性支持膜上に形成させた複合半透膜であって、X線光電子分光法(ESCA)を用いて分析した超薄膜層中のカルボキシル基濃度が0.02~0.07であり、かつ、操作圧力0.3MPaにおける水の透過量が0.5~3.0m3/m2・dであることを特徴とする複合半透膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討によると、架橋構造をルーズにしてカルボキシル基濃度を大きくすると、薬品洗浄に使用するアルカリに接触した際に膜性能が大きく変化し、薬品洗浄が困難になる場合があることが判明した。また、架橋構造がルーズになると、除草剤や臭味成分などの有機化合物に対する阻止性能が不十分となる場合があることが判明した。
【0009】
そこで、本発明の目的は、所望の阻止性能が得られると共に、アルカリ耐久性と透水性とが何れも良好な複合半透膜、及びこれを用いたスパイラル型膜エレメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、二価の多官能アミンに対する三価以上の多官能酸ハライドのモル比率が0.65~1.00であっても、末端カルボキシル基濃度を低減しつつアミド強度比を大きくすることで、所望の阻止性能を維持しつつアルカリ耐久性と透水性の両立が図れることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下の態様を含むものである。
【0011】
[1] 多孔質樹脂層を有する多孔性支持体と、前記多孔質樹脂層上にポリアミド系樹脂で形成された分離機能層とを備える複合半透膜であって、
前記ポリアミド系樹脂は、二価の多官能アミン及び三価以上の多官能酸ハライドに由来する構成成分を含み、二価の多官能アミンに対する三価以上の多官能酸ハライドのモル比率が0.65~1.00の範囲であり、末端カルボキシル基濃度が0.01以下であり、
前記複合半透膜は、ATR-IR法により得られる吸収ピークについて、前記多孔質樹脂層の繰り返し単位に由来する吸収ピーク強度に対する、アミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク強度の比率であるアミド強度比が0.60以上である、複合半透膜。
【0012】
本発明の複合半透膜によると、所望の阻止性能が得られると共に、アルカリ耐久性と透水性との両立が図れるようになる。その理由の詳細は不明であるが、次のように考えられる。分離機能層を形成するポリアミド系樹脂を構成する二価の多官能アミンに対する三価以上の多官能酸ハライドのモル比率が0.65~1.00の範囲であるため、除草剤や臭味成分などの有機化合物に対する阻止性能を維持しつつ架橋構造をルーズにすることができる。その際、末端カルボキシル基濃度を低減させることで、アルカリ耐久性を向上させることができ、アミド強度比を大きくすることで、表面の微細構造における実質的な膜面積が増加することにより透水性が向上すると考えられる。
【0013】
[2] 前記ポリアミド系樹脂は、m-フェニレンジアミン(MPD)及びトリメシン酸クロライド(TMC)に由来する構成成分を含み、MPDに対するTMCのモル比率(TMC/MPD)が0.65~1.00の範囲である、[1]に記載の複合半透膜。
【0014】
m-フェニレンジアミン(MPD)及びトリメシン酸クロライド(TMC)に由来する構成成分を含み、MPDに対するTMCのモル比率(TMC/MPD)が0.65~1.00の範囲であることで、除草剤や臭味成分などの有機化合物に対する阻止性能をより適切に維持しながら、架橋構造をルーズにすることができると考えられる。
【0015】
[3] 前記多孔質樹脂層がポリスルホン系樹脂で形成され、前記繰り返し単位に由来する吸収ピーク強度が、O―C―Oの伸縮振動の伸縮振動に由来する吸収ピーク強度である、[1]又は[2]に記載の複合半透膜。
【0016】
多孔質樹脂層がポリスルホン系樹脂で形成される場合、O―C―Oの伸縮振動に由来する吸収ピーク強度を基準とすることで、より正確に相対的なアミド基の量を定量できるようになり、微細構造における実質的な膜面積の指標としてより適切なものとなる。
【0017】
[4] ジェオスミンの阻止率が99.5%以上である、[1]~[3]いずれか1項に複合半透膜。
【0018】
このようなジェオスミンの阻止率とすることによって、除草剤や臭味成分などの有機化合物(例えば、分子量150~250)に対する阻止性能を十分なものとすることができる。
【0019】
[5] 河川水をモデルとした模擬水を用いて評価した際の透水性が9.0LMH/bar以上である、[1]~[4]いずれか1項に記載の複合半透膜。
【0020】
当該模擬水に対する透水性がこの範囲であると、トレードオフの関係にある、有機化合物に対する阻止性能と透水性とを、両立させ易くなる。
【0021】
[6] [1]~[5]いずれか1項に記載の複合半透膜を有する、スパイラル型膜エレメント。
【0022】
本発明のスパイラル型膜エレメントによると、以上のような本発明の複合半透膜を有するため、所望の阻止性能が得られると共に、アルカリ耐久性と透水性とが何れも良好なスパイラル型膜エレメントを提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、除草剤や臭味成分などの有機化合物に対して、所望の阻止性能が得られると共に、アルカリ耐久性と透水性とが何れも良好な複合半透膜、及びこれを用いたスパイラル型膜エレメントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】スパイラル型膜エレメントの一例を示す、一部を切り欠いた斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0026】
(複合半透膜)
本発明の複合半透膜は、多孔質樹脂層を有する多孔性支持体と、前記多孔質樹脂層上にポリアミド系樹脂で形成された分離機能層とを備えるものである。分離機能層を形成するポリアミド系樹脂は、二価の多官能アミン及び三価以上の多官能酸ハライドに由来する構成成分を含んでいる。
【0027】
分離機能層は、ポリアミド系樹脂の界面重合等によって形成することができ、特に、多官能アミン成分と多官能酸ハロゲン成分とを重合して得られるポリアミド系樹脂を含む分離機能層であることが好ましい。
【0028】
多官能アミン成分とは、2以上の反応性アミノ基を有する多官能アミンであり、芳香族、脂肪族及び脂環式の多官能アミンが挙げられる。本発明では、多官能アミン成分として、少なくとも二価の多官能アミンを使用する。
【0029】
芳香族多官能アミンとしては、例えば、m-フェニレンジアミン(MPD)、p-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、N,N’-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミン等が挙げられる。
【0030】
脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、n-フェニル-エチレンジアミン等が挙げられる。
【0031】
脂環式多官能アミンとしては、例えば、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、4-アミノメチルピペラジン等が挙げられる。
【0032】
これらの多官能アミンは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。所望の阻止性能の分離機能層を得るためには、芳香族多官能アミンを用いることが好ましく、m-フェニレンジアミンを用いることがより好ましい。
【0033】
特に、分子量150~250の有機化合物に対する阻止率が一定以上になるように調整し易いという観点から、m-フェニレンジアミンを、多官能アミン成分中に20~100モル%使用することが好ましく、50~100モル%がより好ましく、100モル%が最も好ましい。これにより、m-フェニレンジアミンに由来する構成成分を含むポリアミド系樹脂により、分離機能層を形成することができる。
【0034】
多官能酸ハライド成分とは、反応性カルボニル基を2個以上有する多官能酸ハライドである。多官能酸ハライドとしては、芳香族、脂肪族及び脂環式の多官能酸ハライドが挙げられる。本発明では、多官能酸ハライド成分として、少なくとも三価以上の多官能酸ハライドを使用する。
【0035】
芳香族多官能酸ハライドとしては、例えば、トリメシン酸クロライド(TMC)(トリメシン酸トリクロライド)、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸トリクロライド、ベンゼンジスルホン酸ジクロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。
【0036】
脂肪族多官能酸ハライドとしては、例えば、プロパンジカルボン酸ジクロライド、ブタンジカルボン酸ジクロライド、ペンタンジカルボン酸ジクロライド、プロパントリカルボン酸トリクロライド、ブタントリカルボン酸トリクロライド、ペンタントリカルボン酸トリクロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライド等が挙げられる。
【0037】
脂環式多官能酸ハライドとしては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸トリクロライド、シクロブタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタントリカルボン酸トリクロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。
【0038】
これら多官能酸ハライドは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。高塩阻止性能の分離機能層を得るためには、芳香族多官能酸ハライドを用いることが好ましい。また、多官能酸ハライド成分の少なくとも一部に3価以上の多官能酸ハライドを用いて、架橋構造を形成するのが好ましく、トリメシン酸クロライド(TMC)を用いることがより好ましい。
【0039】
特に、分子量150~250の有機化合物に対する阻止率が一定以上になるように調整し易いという観点から、トリメシン酸クロライド(TMC)を、多官能酸ハライド成分中に20~100モル%使用することが好ましく、50~100モル%がより好ましく、100モル%が最も好ましい。これにより、トリメシン酸クロライドに由来する構成成分を含むポリアミド系樹脂により、分離機能層を形成することができる。
【0040】
また、分子量150~250の有機化合物に対する所望の阻止性能が得られ易いという観点から、二価の多官能アミンに対する三価以上の多官能酸ハライドのモル比率は0.65以上であり、0.7以上が好ましく、0.8以上がより好ましい。また、良好な透水性が得られるように調整し易いという観点から、二価の多官能アミンに対する三価以上の多官能酸ハライドのモル比率が1.00以下であり、0.95以下が好ましく、0.9以下がより好ましい。このようなモル比率の調整は、各成分の濃度や使用量を増減させることで調整することができる。
【0041】
二価の多官能アミンに対する三価以上の多官能酸ハライドのモル比率は、複合半透膜から基材と多孔質樹脂層とを除去し、得られた分離機能層を強アルカリ重水溶液にて加水分解し、加水分解後の重水溶液をろ過して1H-NMR測定し、測定で得られたデータを解析し、ピークの面積値から算出することができる。
【0042】
本発明では、分子量150~250の有機化合物に対する所望の阻止性能が得られ易いという観点から、MPDに対するTMCのモル比率(TMC/MPD)は、0.65以上であることが好ましく、0.7以上がより好ましく、0.8以上の範囲が更に好ましい。また、良好な透水性が得られるように調整し易いという観点から、MPDに対するTMCのモル比率(TMC/MPD)は、1.00以下であることが好ましく、0.95以下がより好ましく、0.9以下が更に好ましい。このようなモル比率の調整は、各成分の濃度や使用量を増減させることで調整することができる。
【0043】
二価の多官能アミンに対する三価以上の多官能酸ハライドのモル比率が、1.5未満であると、未反応の末端カルボン酸が存在するようになるが、前記モル比率が、1.0以下であると、架橋構造がルーズになって透水性が向上すると共に、通常、未反応の末端カルボン酸が多く存在することになる。本発明者らは、このように未反応の末端カルボン酸が多く存在すると、アルカリ耐久性が低下する傾向があることを見出した。
【0044】
しかし、本発明では、分離機能層を形成するポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度が0.01以下であるため、アルカリ耐久性を改善することができる。ここで、末端カルボキシル基濃度とは、分離機能層中における、酸ハライド等の反応性カルボニル基に由来する末端カルボキシル基の濃度であり、分離機能層中の全炭素量(モル数)に対するカルボキシル基量(モル数)の割合として計算される。カルボキシル基濃度は、X線光電子分光法(ESCA)を用いて、Journalof Polymer Science Vol.26 559-572(1988)および日本接着学会誌Vol.27No.4(1991)で例示されている気相化学修飾法を用いることにより求めることができる。具体的には、次のようにして測定される値である。
【0045】
試料をラベル化試薬(トリフルオロエタノール)により気相化学修飾を行い、同時に気相化学修飾を行ったポリアクリル酸標準試料のESCAスペクトルからラベル化試薬の反応率(r)および反応残留物の残留率(m)を求める。つぎに試料とラベル化試薬が反応してできたF1sピーク(フッ素の1S軌道のピーク)の面積強度[F1s]を求める。本発明で規定するピーク(炭素の1S軌道のピーク)の面積強度[C1s]を求める。
【0046】
測定条件を以下に示す。アルバックファイ社製QUANTUM 2000を使用し、X線出力:15kV、検出器角度:45°、データ処理は中性炭素(CHx)のC1sピーク位置を285eVに合わせた。
【0047】
上述のようにして求めた面積強度[F1s]、[C1s]を以下に示される式に代入し、カルボキシル基濃度を求めることができる。
COOHモル数/Cモル数[-]=[F1s]/((3kF1s[C1s]-(2+cm)[F1s])r)
式中、COOHモル数/Cモル数:カルボキシル基濃度、[F1s]:フッ素の1S軌道のピークの面積強度、kF1s:フッ素の1S軌道のピークの感度補正値、r:ラベル化試薬の反応率、c:触媒の炭素数、[C1s]:炭素の1S軌道のピークの面積強度、m:反応残留物の残留率を表す。
【0048】
ポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度は、アルカリ耐久性の観点から、0.009以下が好ましいく、0.008以下がより好ましい。ポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度は、少ないほど好ましいが、0.001以上であってもよく、0.002以上であってもよい。
【0049】
ポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度を低減させる方法としては、ポリアミド系樹脂の界面重合を行なう際に、界面調整剤を所定量添加する方法、酸ハライド基と反応し得る一価のアミン成分やアルコール等の末端修飾化合物を所定量添加する方法、重合によって得られたポリアミド系樹脂に対して、前記末端修飾化合物の所定量を反応させる方法、などが挙げられる。なかでもポリアミド系樹脂の界面重合を行なう際に、界面調整剤を所定量添加する方法が好ましい。
【0050】
本発明の複合半透膜は、ポリアミド系樹脂で形成された分離機能層を多孔質樹脂層上に備えるものであるが、ATR-IR法により得られる吸収ピークについて、多孔質樹脂層の繰り返し単位に由来する吸収ピーク強度に対する、アミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク強度(1620cm-1付近)の比率であるアミド強度比が0.60以上であることを特徴とする。
【0051】
ATR(Attenuated Total Reflection)-IR法とは、全反射の原理を利用して、サンプルの表面で全反射する光を測定することによって、サンプルの表面の光のもぐり込みに応じた赤外吸収スペクトルを得る方法である。ATR-IR法によると、測定光路長はサンプルの厚さに依存することがないため、多孔質樹脂層の厚みに影響されにくい状態で、分離機能層におけるアミド結合の相対的な量を測定することができる。
【0052】
このようなアミド強度比は、ポリアミド系樹脂におけるアミド結合の相対的な量の指標となり、アミド強度比が大きいことは、多孔質樹脂層の単位面積あたりのポリアミド系樹脂の質量が大きいことを意味している。アミド強度比の増加により、透水性が向上することも考慮すると、アミド強度比の増加によって、微細構造における実質的な膜面積が増加していることが考えられる。
【0053】
つまり、透水性を向上させる観点から、前記アミド強度比は、0.62以上であることが好ましく、0.64以上であることがより好ましい。前記アミド強度比は、大きいほど好ましいが、0.80以下であってもよく、0.70以下であってもよい。
【0054】
前記アミド強度比を増加させる方法としては、ポリアミド系樹脂の界面重合を行なう際に、アルコール化合物、アルカノールアミン化合物、アルキルケトン化合物、アルキルエステル化合物等の界面調整剤を添加する添加する方法、界面重合温度を上昇する方法などが挙げられる。
【0055】
なお、ポリアミド系樹脂を含む分離機能層の性能を向上させるために、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などのポリマー、ソルビトール、グリセリンなどの多価アルコールなどを共重合させてもよい。
【0056】
分離機能層を支持する多孔性支持体は、多孔質樹脂層を有するものであればよく、多孔質樹脂層のみから形成されたものでもよいが、織布、不織布等の基材による裏打ちにて補強されているものが好ましい。多孔質樹脂層を有する多孔性支持体は、その上面に分離機能層を支持しうるものであれば特に限定されず、通常、平均孔径10~500Å程度の限外濾過膜が好ましく用いられる。
【0057】
多孔質樹脂層の形成材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン等のポリスルホン系樹脂、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリフッ化ビニリデンなど種々のものをあげることができるが、特に化学的、機械的、熱的に安定である点からポリスルホン系樹脂が好ましく用いられる。
【0058】
前記アミド強度比は、多孔質樹脂層の繰り返し単位に由来する吸収ピーク強度に対する、アミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク強度の比率であり、対比される多孔質樹脂層の繰り返し単位に由来する吸収ピーク強度としては、複数の吸収ピークのうち、最も吸収ピーク強度の大きいものが選択される。例えば、多孔質樹脂層がポリスルホン系樹脂で形成される場合、繰り返し単位に由来する吸収ピーク強度として、O―C―Oの伸縮振動に由来する吸収ピーク(1245cm-1付近)の強度が採用される。多孔質樹脂層がポリイミド、ポリエーテルイミド、又はポリフッ化ビニリデンで形成される場合、各々イミド基、C-C結合に由来する吸収ピーク(各々1720cm-1及び/若しくは1780cm-1、1180cm-1付近)の強度を採用することができる。
【0059】
多孔質樹脂層を有する多孔性支持体の全体の厚さは、例えば約50~200μm、好ましくは約80~150μmである。また、多孔質樹脂層の厚みは例えば10~50μm、好ましくは20~40μmである。多孔質樹脂層の空隙率は例えば50~80%、好ましくは60~70%である。
【0060】
ポリアミド系樹脂を含む分離機能層を多孔性支持体の表面に形成するための好ましい方法としては、界面縮合法などが挙げられる。界面縮合法とは、具体的に、多官能アミン成分を含有するアミン水溶液と、多官能酸ハライド成分を含有する有機溶液とを接触させて界面重合させることにより分離機能層を形成し、該分離機能層を多孔性支持体上に載置する方法や、多孔性支持体上での前記界面重合によりポリアミド系樹脂の分離機能層を多孔性支持体上に直接形成する方法である。かかる界面縮合法の条件等の詳細は、特開昭58-24303号公報、特開平1-180208号公報等に記載されており、それらの公知技術を適宜採用することができる。
【0061】
特に、多孔性支持体上に、多官能アミン成分を含む溶液Aを被覆する工程、及び多官能酸ハロゲン成分を含む溶液Bを上記溶液A相と接触させる工程を含む手段により、ポリアミド系スキン層(分離機能層)を形成して複合半透膜を製造する方法において、前記溶液Aにアルカノールアミン化合物、アルキルケトン化合物、アルキルエステル化合物等の界面調整剤を添加することが好ましい。
【0062】
アルカノールアミン化合物としては、エタノールアミン、メタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミンなどが挙げられ、モノアルカノールアミン、ジアルカノールアミン、トリアルカノールアミンの何れでもよい。また、アルカノールアミン化合物の窒素原子に結合する水素原子が、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基などで置換されていてもよい。なかでも、トリアルカノールアミンが好ましく、トリエタノールアミン、トリ(t-ブタノール)アミン、トリ(イソプロパノール)アミンがより好ましい。
【0063】
アルキルケトン化合物としてはアセトン、ジイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、アルキルエステル化合物としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
【0064】
界面調整剤の濃度としては、アミド強度比を増大させて透水性を向上させる観点から、前記溶液A中に0.1~10.0質量%が好ましく、1.0~5.0質量%がより好ましい。
【0065】
アミド強度比は、前記溶液Aと溶液Bの溶解度パラメーターの差や、前記溶液A及び/又は溶液Bに添加する化合物の溶解度パラメーターによっても調整することができる。上記のようなアミド強度比を有する複合半透膜を製造する場合、前記溶液A、溶液B及び微多孔性支持体から選ばれる少なくとも一つに、溶解度パラメーターが8~17(cal/cm3)1/2の化合物を存在させることが好ましい。
【0066】
溶解度パラメーター調整剤としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールのアルコール、エチルアミン、トリエチルアミン、n-ブチルアミン等の窒素化合物等が挙げられる。また、使用する多官能アミン成分や多官能酸ハロゲン成分の種類や濃度によっても、溶解度パラメーターを調整することが可能である。
【0067】
なお、複合半透膜の塩阻止性、水透過性、及び耐酸化剤性等を向上させるために、従来公知の各種処理を施してもよい。
【0068】
本発明の複合半透膜は、後述する実施例の測定方法において、ジェオスミンの阻止率が99.5%以上であることが好ましい。また、実施例の測定方法において、河川水をモデルとした模擬水を用いて評価した際の透水性が8.0LMH/bar以上であることが好ましく、9.0LMH/bar以上であることがより好ましい。
【0069】
(スパイラル型膜エレメント)
本発明のスパイラル型膜エレメントは、以上で説明したような複合半透膜を有することを特徴とするものであり、複合半透膜以外の部分については、従来の膜エレメントの構成を何れも採用することができる。
【0070】
本発明のスパイラル型膜エレメントは、例えば、
図1に示すように、有孔の中心管5と、その中心管5に巻回され分離膜1を含む巻回体Rと、を備えるものである。
【0071】
図1に示す例では、対向する分離膜1の間に透過側流路材3が介在する複数の膜リーフLと、膜リーフL同士の間に介在する供給側流路材2と、膜リーフL及び供給側流路材2を巻回した有孔の中心管5と、供給側流路と透過側流路との混合を防止する封止部12と、を備えている。この場合、膜リーフL内の透過側流路は、透過側流路材3(透過側スペーサともいう)によって形成することができる。
【0072】
分離膜1の表面に凹凸又は溝などを設けて、供給側流路及び/又は透過側流路を分離膜1自体に形成することも可能であり、その場合、供給側流路材2及び/又は透過側流路材3を省略することが可能である。
【0073】
図1には、封止部が両端封止部と外周側封止部12とを含む例を示している。封止部のうち、両端封止部は、膜リーフLの軸心方向A1の両側における二辺端部を接着剤で封止したものである。外周側封止部12は、膜リーフLの外周側先端の端部を接着剤で封止したものである。対向する分離膜1と両端封止部と外周側封止部12とで囲まれた領域が透過側流路となり、これが中心管5の開孔5aと連通する構造となっている。
【0074】
また、有孔の中心管5と膜リーフLの両端封止部の基端側とを接着剤で封止した中央側封止部を有することが好ましい。このような中央側封止部を介して、膜リーフL及び供給側流路材2が中心管5に巻回された巻回体Rを有している。なお、接着剤としては、特に限定されるものではなく、例えばウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤等、従来公知のいずれの接着剤も使用することができる。
【0075】
膜エレメントの巻回体Rの上流側には、シールキャリア等の機能を有する第1端部部材10を設けてもよく、下流側にはアンチテレスコープ材等の機能を有する第2端部部材20を設けてもよい。
【0076】
一般的な8インチ径のスパイラル型膜エレメントにおいては、膜リーフLは15~30組程度巻回される。膜エレメントを使用する際は、圧力容器(ベッセル)内に収容され、供給液7は膜エレメントの一方の端面側から供給される。供給された供給液7は、供給側流路材2に沿って中心管5の軸心方向A1に平行な方向に流れ、膜エレメントの他方の端面側から濃縮液9として排出される。また、供給液7が供給側流路材2に沿って流れる過程で分離膜1を透過した透過液8は、透過側流路材3に沿って流動した後に、開孔5aから中心管5の内部に流れ込み、この中心管5の端部から排出される。
【0077】
供給側流路材2は一般に、膜面に流体を満遍なく供給するための間隙を確保する役割を有する。このような供給側流路材2は、例えばネット、編み物、凹凸加工シートなどを用いることができ、最大厚さが0.1~3mm程度のものを適宜必要に応じて用いることができる。また、流路材を分離膜1の両面に設置する場合、供給液側には供給側流路材2、透過液側には透過側流路材3として、異なる流路材を用いることが一般的である。供給側流路材2では目が粗く厚いネット状の流路材を用いる一方で、透過側流路材3では目の細かい織物や編物の流路材を用いることが好ましい。
【0078】
透過側流路材3は、海水淡水化や排水処理等の用途において、RO膜やNF膜を用いる場合に、膜リーフLにおいて対向する分離膜1の間に介在するように設けられる。この透過側流路材3には膜にかかる圧力を膜背面から支えるとともに、透過液8の流路を確保することが求められる。
【0079】
このような機能を確保するために、トリコット編物により透過側流路材3が形成されていることが好ましく、編物形成後に樹脂含浸補強又は融着処理されたトリコット編物であることがより好ましい。
【0080】
分離膜1としては、前述した本発明の複合半透膜が用いられる。即ち、本発明のスパイラル型膜エレメントは、多孔質樹脂層を有する多孔性支持体と、前記多孔質樹脂層上にポリアミド系樹脂で形成された分離機能層とを備える複合半透膜であって、前記ポリアミド系樹脂は、二価の多官能アミン及び三価以上の多官能酸ハライドに由来する構成成分を含み、二価の多官能アミンに対する三価以上の多官能酸ハライドのモル比率が0.65~1.00の範囲であり、末端カルボキシル基濃度が0.01以下であり、前記複合半透膜は、ATR-IR法により得られる吸収ピークについて、前記多孔質樹脂層の繰り返し単位に由来する吸収ピーク強度に対する、アミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク強度の比率であるアミド強度比が0.60以上である、複合半透膜を有することを特徴とする。
【0081】
一般的なスパイラル型膜エレメントの場合、巻回体Rの外周には、外装材15を備えている。外装材15としては、特に限定されず、各種シート、フィルム、テープ等が挙げられ、必要に応じて、補強のために繊維補強樹脂(FRP)などが使用される。繊維補強樹脂の形成方法としては、繊維に硬化性樹脂を含浸させたロービングを使用して、これを巻回体Rの外周に巻き付ける方法が好ましい。
【0082】
(用途)
本発明の複合半透膜は、近年、海外において要求が高まっている、飲用水の製造に使用され、除草剤や臭味成分などの有機化合物(例えば、分子量150~250)に対する阻止性能や、これを除去する際の透水性の良好な複合半透膜として特に有効である。
【0083】
スパイラル型分離膜エレメントとしての用途も同様であり、飲用水の製造に使用され、除草剤や臭味成分などの有機化合物(例えば、分子量150~250)に対する阻止性能や、これを除去する際の透水性の良好なスパイラル型分離膜エレメントとして特に有効である。
【実施例0084】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。なお、実施例等では、以下の方法により、物性等を測定し、又は評価した。本発明における物性値等は、具体的には以下の方法で測定される値である。
【0085】
(1)モル比率(TMC/MPD)
作製した複合半透膜をシクロヘキサノンに浸し、スキン層のポリアミド系樹脂を回収した後、ステンレス管に採取し、メタノール及びアルカリを加えて240℃で1時間加熱してポリアミド系樹脂の分解を実施した。その後、室温まで放冷した後、分解液を回収して1H-NMR測定(測定条件:装置BRUKER Biospin,AVANCEIII-600、測定溶媒:DMSO-d6、化学シフト基準:2.50ppm(重DMSO)、積算64回、化学シフト:メタフェニレンジアミン(7.56ppm)、トリメシン酸クロライド(8.60ppm)を行った。測定で得られたデータを解析し、ピークの面積値からm-フェニレンジアミン(MPD)に対するトリメシン酸クロライド(TMC)のモル比率(TMC/MPD)を算出した。
【0086】
(2)末端カルボキシル基濃度
複合半透膜を平膜評価用のクロスフローテストシステムのセル(有効膜表面積:44.2cm2)にセットし、RO水で1.5MPaで30分加圧通水洗浄した。その後、複合半透膜を室温で12時間乾燥して測定用サンプルを作製した。
【0087】
試料をラベル化試薬(トリフルオロエタノール)により気相化学修飾を行い、同時に気相化学修飾を行ったポリアクリル酸標準試料のESCAスペクトルからラベル化試薬の反応率(r)および反応残留物の残留率(m)を求める。つぎに試料とラベル化試薬が反応してできたF1sピーク(フッ素の1S軌道のピーク)の面積強度[F1s]を求める。本発明で規定するピーク(炭素の1S軌道のピーク)の面積強度[C1s]を求める。
【0088】
測定条件を以下に示す。アルバックファイ社製QUANTUM 2000を使用し、X線出力:15kV、検出器角度:45°、データ処理は中性炭素(CHx)のC1sピーク位置を285eVに合わせた。
上述のようにして求めた面積強度[F1s]、[C1s]を以下に示される式に代入し、カルボキシル基濃度を求めることができる。
末端カルボキシル基濃度[-]=COOHモル数/Cモル数[-]
=[F1s]/((3kF1s[C1s]-(2+cm)[F1s])r)
式中、[F1s]:フッ素の1S軌道のピークの面積強度、kF1s:フッ素の1S軌道のピークの感度補正値、r:ラベル化試薬の反応率、c:触媒の炭素数、[C1s]:炭素の1S軌道のピークの面積強度、m:反応残留物の残留率を表す。
【0089】
(3)アミド強度比
複合半透膜を平膜評価用のクロスフローテストシステムのセル(有効膜表面積:44.2cm2)にセットし、RO水で1.5MPaで30分加圧通水洗浄した。その後、複合半透膜を室温で12時間乾燥して測定用サンプルを作製した。そして、フーリエ変換赤外分光光度計(PerkinElmer社製、Spectrum TWO)に測定用サンプルを取り付けて、全反射測定用のアクセサリーとしてゲルマニウム製のATRクリスタルを用いて、入射角45°、反射回数25回の条件でATR-IR法により700~4000cm-1の範囲でスキャンし、分離機能層の形成材料であるポリアミド系樹脂のアミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク強度(1620cm-1付近)と、多孔質樹脂層の形成材料であるポリスルホン系樹脂のO-C-Oの伸縮振動に由来する吸収ピーク強度(1245cm-1付近)とを測定した(スキャン回数16回)。これらの結果から下記式によりアミド強度比を算出した。
アミド強度比(-)=吸収ピーク強度(1620cm-1付近)/吸収ピーク強度(1245cm-1付近)
【0090】
(4)ジェオスミン阻止率の評価
平膜状の複合半透膜を所定の形状、サイズに切断し、平膜評価用のクロスフローテストシステムのセル(有効膜表面積:44.2cm2)にセットした。そして、操作圧力0.5MPa、温度25℃、及びpH6.5にて、複合半透膜に濃度1ppmのジェオスミン水溶液を30分間透過させた後、ジェオスミン阻止率を測定した。ジェオスミン阻止率は、GC/MS分析装置(Agilent社製、Agilent5975MSD)にて供給液及び透過液の濃度測定を行い、その測定結果から下記式により算出した。
<ジェオスミン阻止率>
阻止率(%)=(1-(膜透過液中のジェオスミン濃度/供給液中のジェオスミン濃度))×100
【0091】
(5)模擬水を用いた透水性の評価
平膜状の複合半透膜を所定の形状、サイズに切断し、平膜評価用のクロスフローテストシステムのセル(有効膜表面積:44.2cm2)にセットした。そして、透水量が25LMH(Lm-2h-1)になるように圧力を調整し、温度25℃、及びpH6.5にて、複合半透膜に濃度500ppmの以下組成の河川水をモデルとした模擬水を30分間透過させた。その際の30分経過時の圧力(30分経過後の圧力)を用いて、下記の式により透水性を求めた。
<透水性>
透水性(LMH/bar)=25LMH/(25LMHを出すのに要した圧力)
<河川水をモデルとした模擬水の組成>
50Lの純水中に、塩化ナトリウム(NaCl)2.50g、硝酸ナトリウム(NaNO3)0.27g、ケイ酸ナトリウム(SiO2Na2O)0.73g、硫酸ナトリウム(Na2SO4)9.10g、塩化マグネシウム六水和物(MgCl2・6H2O)5.33g、硫酸マグネシウム七水和物(MgSO4・7H2O)5.83g、塩化カルシウム(CaCl2)7.33g、塩化カリウム(KCl)0.33gを含む、濃度500ppmの組成物。
【0092】
(6)アルカリ耐久性の評価
平膜状の複合半透膜を所定の形状、サイズに切断し、平膜評価用のクロスフローテストシステムのセル(有効膜表面積:44.2cm2)にセットした。そして、圧力4.8bar、温度25℃、及びpH6.5にて、複合半透膜に濃度500ppmのNaCl溶液を30分間透過させた。その際の30分経過時の透水量を初期の透過流束(Flux、単位:m3/m2/d)として算出した。また、作製した平膜状の複合半透膜を同じ形状、サイズに切断した後、水酸化ナトリウム水溶液(pH13、25℃)500mLに7日間浸漬したものを用いて、同様にアルカリ接触後の透過流束(Flux、単位:m3/m2/d)を測定した。Flux変化率は、下記式により算出した。
Flux変化率(-)=アルカリ接触後Flux/初期Flux
【0093】
(実施例1)
m-フェニレンジアミン(MPD)2.5質量%、ドデシル硫酸ナトリウム0.1質量%、トリエチルアミン2.6質量%、界面調整剤としてのトリエタノールアミン1.7質量%、水酸化ナトリウム0.03質量%、カンファースルホン酸6質量%、硝酸マグネシウム1.5質量%及びイソプロピルアルコール4質量%を含有するアミン水溶液を、ポリエステル不織布上に形成されたポリスルホン多孔質樹脂層(厚み約130μm、空隙率約60%)の表面に塗布し、その後、余分なアミン水溶液を除去することにより水溶液被覆層を形成した。
【0094】
次に、水溶液被覆層の表面を、トリメシン酸クロライド(TMC)0.2質量%、及び2-メチルー2-ブタノール0.2質量%をナフテン系溶媒(エクソンモービル社製、Exxsol D40)に溶解させた酸クロライド溶液中に7秒間浸した。その後、水溶液被覆層表面の余分な溶液を除去し、20秒間風乾し、さらに140℃の熱風乾燥機中で3分間保持して、多孔性のポリスルホン支持層の上にポリアミド樹脂を含む分離機能層を形成し、不織布基材、ポリスルホン多孔性支持体、及びポリアミド分離機能層がこの順に配置されてなる複合半透膜を作製した。その評価結果を表1に示す。
【0095】
(実施例2)
実施例1において、界面調整剤としてのトリエタノールアミンをトリ(t-ブタノール)アミンに変更した以外は、実施例1と同じ条件で複合半透膜を作製した。その評価結果を表1に示す。
【0096】
(実施例3)
実施例1において、界面調整剤としてのトリエタノールアミンをトリ(イソプロパノール)アミンに変更した以外は、実施例1と同じ条件で複合半透膜を作製した。その評価結果を表1に示す。
【0097】
(実施例4)
実施例1において、界面調整剤としてのトリエタノールアミンの含有量を2.0質量%に変更した以外は、実施例1と同じ条件複合半透膜を作製した。その評価結果を表1に示す。
【0098】
(比較例1)
実施例1において、界面調整剤としてのトリエタノールアミンを使用せずに他の成分は同じ濃度になるようにアミン水溶液を調製した以外は、実施例1と同じ条件で複合半透膜を作製した。その評価結果を表1に示す。
【0099】
(比較例2)
市販のNF膜エレメント(Dupont社製、NF90―400)を分解して取り出した複合半透膜を使用した。その評価結果を表1に示す。
【0100】
(比較例3)
市販のNF膜エレメント(Dupont社製、NF270―400)を分解して取り出した複合半透膜を使用した。その評価結果を表1に示す。
【0101】
【0102】
表1の結果が示すように、実施例1~4では、ジェオスミン阻止率を99.5%以上としつつ、アルカリ耐久性と透水性とが何れも良好であった。
【0103】
これに対して、末端カルボキシル基濃度が多くアミド強度比が小さい比較例1では、アルカリ耐久性と透水性とが何れも低下していた。また、市販品を用いた比較例2では、アミド強度比が小さなり、ジェオスミンの阻止率と透水性が不十分となり、比較例3では、ジェオスミンの阻止率が大幅に低下した。
本発明によると、所望の阻止性能が得られると共に、アルカリ耐久性と透水性とが何れも良好な複合半透膜、及びこれを用いたスパイラル型膜エレメントを提供することができる。
特に、近年、海外において、飲用水の製造に使用する複合半透膜として、除草剤や臭味成分などの有機化合物(例えば、分子量150~250)に対する阻止性能や、これを除去する際の透水性の良好な複合半透膜に対する要求が高まっており、本発明の複合半透膜は、このような有機化合物を除去する用途の分離膜として特に有効である。