(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124124
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】連続鋳造用浸漬ノズル
(51)【国際特許分類】
B22D 11/10 20060101AFI20240905BHJP
B22D 41/50 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B22D11/10 330E
B22D41/50 520
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032081
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】塚口 友一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 広大
(72)【発明者】
【氏名】中野 将
(72)【発明者】
【氏名】岡田 信宏
(72)【発明者】
【氏名】畠中 健
【テーマコード(参考)】
4E004
4E014
【Fターム(参考)】
4E004FB05
4E004NB01
4E014DB04
(57)【要約】
【課題】鋳型内の溶鋼の流動の偏りを抑制することができる浸漬ノズルを提供する。
【解決手段】タンディッシュから供給された溶鋼を鋳型に吐出して、スラブを連続鋳造するためのスラブ連続鋳造用浸漬ノズルであって、浸漬ノズルはタンディッシュから供給された溶鋼を受け取る直胴部と、溶鋼を鋳型に供給する吐出部と、直胴部及び吐出部を接続する接続部とを備えており、吐出部は4つの吐出孔を有しており、吐出部は、幅方向の中央に配置され、タンディッシュから供給された溶鋼を各領域に分配する内部障壁と、各領域の側壁及び内部障壁の間であって、内部障壁によって分配された前記溶鋼である分岐流が流れる分岐流流路と、分岐流流路を通過した分岐流をさらに分配し、少なくとも3つの吐出孔に供給する分配ブロックと、を有する、浸漬ノズルである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンディッシュから供給された溶鋼を鋳型に吐出して、スラブを連続鋳造するためのスラブ連続鋳造用浸漬ノズルであって、
前記浸漬ノズルは前記タンディッシュから供給された前記溶鋼を受け取る直胴部と、前記溶鋼を前記鋳型に供給する吐出部と、前記直胴部及び前記吐出部を接続する接続部とを備えており、
前記浸漬ノズルは軸中心を通る厚さ方向平面で分割された2つの領域を備えており、
前記吐出部は底部と、前記底部の外縁から高さ方向に延びる側壁とを有し、
前記吐出部は4つの吐出孔を有しており、
前記吐出孔は前記吐出部の前記底部であって、各前記領域において幅方向に並んで2つ配置されており、
前記吐出部は、幅方向の中央に配置され、前記タンディッシュから供給された前記溶鋼を各前記領域に分配する内部障壁と、
各前記領域の前記側壁及び前記内部障壁の間であって、前記内部障壁によって分配された前記溶鋼である分岐流が流れる分岐流流路と、
前記内部障壁よりも前記底部側であって、各前記領域において前記分岐流流路を通過した前記分岐流をさらに分配し、少なくとも3つの前記吐出孔に供給する分配ブロックと、を有し、
各前記領域に配置された2つの前記吐出孔のうち、幅方向外側に配置された前記吐出孔を外側吐出孔とし、幅方向内側に配置された前記吐出孔を内側吐出孔としたとき、
前記分岐流流路のうち何れか一方を閉塞させた場合においては、前記分岐流流路が閉塞された前記領域に配置されている前記内側吐出孔から吐出される前記溶鋼の流量が、前記分岐流流路が閉塞されていない前記領域に配置されている前記内側吐出孔から吐出される前記溶鋼の流量よりも大きい特性を有し、
各前記領域において、前記外側吐出孔を形成する壁面の角度から規定される外側吐出角度α1が下向40°~下向75°の間にあり、かつ前記内側吐出孔を形成する壁面の角度から規定される内側吐出角度α2との関係が(1)式を満たし、
-5°≦α2-α1≦15°・・・(1)
前記外側吐出孔から吐出される前記溶鋼の吐出流量Q1と前記内側吐出孔から吐出される前記溶鋼の吐出流量Q2との関係が(2)式を満たし、
0.1≦Q2/Q1≦1.0・・・(2)
前記浸漬ノズルを水平面に投影したときに、前記内部障壁の面積が前記直胴部の流路の面積よりも大きく、かつ、前記内部障壁の前記タンディッシュから供給された前記溶鋼を受ける側の面が凹部を備えていることを特徴とする、
浸漬ノズル。
なお、前記外側吐出角度α1及び前記内側吐出角度α2は、厚さ方向視において、右側の前記領域については幅方向に対して時計回りの角度であり、左側の前記領域については幅方向に対して反時計回りの角度である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は溶鋼の連続鋳造においてタンディッシュからモールドへの給湯に用いる浸漬ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
タンディッシュからモールドへの給湯に用いる浸漬ノズルにおいて、鋳造速度が3m/minを超え5~8m/minに達する高速鋳造条件が薄スラブ連続鋳造などで用いられる。このような高速鋳造条件が適用される場合、モールド内湯面の乱れを防止する観点から下向きの大きな角度で溶鋼を注入する必要がある。加えて、吐出流の持つ運動エネルギーを鋳型内で消散させる観点から、吐出孔を多孔化するなどして吐出孔面積を拡大する必要がある。
【0003】
これらの要求に応じて、従来様々な形状の浸漬ノズルが提案されている。例えば、特許文献1~5に開示されているように、浸漬ノズルの下部に吐出孔が4孔以上配置される多孔ノズルが提案されている。あるいは、特許文献6、7に開示されているように、内部に障壁を設けることによって浸漬ノズル内の下降流の流速を低減したり、下降流を複数の吐出孔に円滑に分配したりする工夫が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004-514562号公報
【特許文献2】特開平8-39208号公報
【特許文献3】特許第3186068号公報
【特許文献4】特許第4580135号公報
【特許文献5】特許第4542631号公報
【特許文献6】特許第3408884号公報
【特許文献7】特許第6666908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは水モデル実験を用いた研究を実施し、その結果、従来技術には以下の課題があることが分かった。
【0006】
浸漬ノズル内の下降流には、タンディッシュから浸漬ノズルへの給湯量を制御するストッパーあるいはスライディングゲートといった流路絞り機構などの影響を受けて、不安定な揺らぎ(流れの偏りや偏り状態の変動)が生じる。その下降流の揺らぎの影響を受けて、多孔吐出孔への流量分配が変動する。その結果、鋳型内流動が不安定に揺らぐ(左右への偏流や状態の変動が生じる)のである。そうすると、製造されるスラブの表面に欠陥が生じる。
【0007】
多孔吐出孔への流量分配を安定させるには、吐出孔面積を縮小し浸漬ノズル内圧を高めればよいが、そうすると多孔化本来の目的である吐出流速の低減効果が損なわれる。このように、多孔吐出孔への流量分配と吐出流速の低減の両立が難しいことが、従来技術の問題点であった。
【0008】
本発明は、かかる技術的課題を克服するべく成されたものであり、浸漬ノズル内部構造の工夫により吐出流分配に対するセルフスタビライジング機能を付加し、鋳型内の溶鋼の
流動の偏りを抑制することができる浸漬ノズルを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するための一つの態様として、タンディッシュから供給された溶鋼を鋳型に吐出して、スラブを連続鋳造するためのスラブ連続鋳造用浸漬ノズルであって、浸漬ノズルはタンディッシュから供給された溶鋼を受け取る直胴部と、溶鋼を鋳型に供給する吐出部と、直胴部及び吐出部を接続する接続部とを備えており、浸漬ノズルは軸中心を通る厚さ方向平面で分割された2つの領域を備えており、吐出部は底部と、底部の外縁から高さ方向に延びる側壁とを有し、吐出部は4つの吐出孔を有しており、吐出孔は吐出部の底部であって、各領域において幅方向に並んで2つ配置されており、吐出部は、幅方向の中央に配置され、タンディッシュから供給された溶鋼を各領域に分配する内部障壁と、各領域の側壁及び内部障壁の間であって、内部障壁によって分配された溶鋼である分岐流が流れる分岐流流路と、内部障壁よりも底部側であって、各領域において分岐流流路を通過した分岐流をさらに分配し、少なくとも3つの吐出孔に供給する分配ブロックと、を有し、各領域に配置された2つの吐出孔のうち、幅方向外側に配置された吐出孔を外側吐出孔とし、幅方向内側に配置された吐出孔を内側吐出孔としたとき、分岐流流路のうち何れか一方を閉塞させた場合においては、分岐流流路が閉塞された領域に配置されている内側吐出孔から吐出される溶鋼の流量が、分岐流流路が閉塞されていない領域に配置されている内側吐出孔から吐出される溶鋼の流量よりも大きい特性を有し、各領域において、外側吐出孔を形成する壁面の角度から規定される外側吐出角度α1が下向40°~下向75°の間にあり、かつ内側吐出孔を形成する壁面の角度から規定される内側吐出角度α2との関係が(1)式を満たし、
-5°≦α2-α1≦15°・・・(1)
外側吐出孔から吐出される溶鋼の吐出流量Q1と内側吐出孔から吐出される溶鋼の吐出流量Q2との関係が(2)式を満たし、
0.1≦Q2/Q1≦1.0・・・(2)
浸漬ノズルを水平面に投影したときに、内部障壁の面積が直胴部の流路の面積よりも大きく、かつ、内部障壁のタンディッシュから供給された溶鋼を受ける側の面が凹部を備えていることを特徴とする、浸漬ノズルを提供する。なお、吐出角度(外側吐出角度α1及び内側吐出角度α2)は、厚さ方向視において、右側の領域については幅方向に対して時計回りの角度であり、左側の領域については幅方向に対して反時計回りの角度である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の連続鋳造用浸漬ノズルによれば、鋳型内における溶鋼の流動の偏りを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一般的なスラブ連続鋳造装置の概略図である。
【
図2】鋳型内の溶鋼流動に偏りが生じた様子を示す概略図である。
【
図3】浸漬ノズル100の軸中心Cを通る幅方向断面図である。
【
図4】浸漬ノズル100を上側から観察した平面図である。
【
図5】浸漬ノズル100を下側から観察した底面図である。
【
図6】浸漬ノズル100を水平面上に投影した投影図であって、流路11及び内部障壁34に着目した図である。
【
図9】実施例Aの浸漬ノズルの幅方向断面図及び底面図である。
【
図10】実施例Bの浸漬ノズルの幅方向断面図及び底面図である。
【
図11】実施例Cの浸漬ノズルの幅方向断面図及び底面図である。
【
図12】比較例Dの浸漬ノズルの幅方向断面図及び底面図である。
【
図13】比較例Eの浸漬ノズルの幅方向断面図及び底面図である。
【
図14】比較例Fの浸漬ノズルの幅方向断面図及び底面図である。
【
図15】比較例Gの浸漬ノズルの幅方向断面図及び底面図である。
【
図16】比較例Hの浸漬ノズルの幅方向断面図及び底面図である。
【
図17】フルスケール水モデル実験の概略図である。
【
図18】フルスケール水モデル実験において、水注入条件を絞りなしで行った場合の結果である。
【
図19】フルスケール水モデル実験において、水注入条件を絞りありで行った場合の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に一般的なスラブ連続鋳造装置の概略図を示した。
図1に示した通り、タンディッシュTに貯留されている溶鋼Sが浸漬ノズルNを介して、鋳型Mに供給される。そして、供給された溶鋼Sは鋳型Mにおいて徐々に冷却されつつ、引き出されることによりスラブが連続鋳造される。
【0013】
タンディッシュTから浸漬ノズルNに供給される溶鋼Sの流量は、スライディングゲートやストッパー等の流路絞り機構によって調整される。一方で、流量が調整されることにより、浸漬ノズルN内の下降流に揺らぎや偏りが生じる。浸漬ノズルNが多吐出孔を備える場合、下降流の揺らぎや偏りにより多孔吐出孔への流量分配が変動し、鋳型内の溶鋼の流動にも偏りが生じる。
【0014】
図2に鋳型内の溶鋼流動に偏りが生じた様子を示す概略図を示した。
図2のように、流路絞り機構によって溶鋼の流路が絞られると、浸漬ノズル内に偏流が生じる。そして、偏流が生じた溶鋼が鋳型内に吐出されると、鋳型内の溶鋼流動にも偏流が生じる。鋳型内に偏流が生じると、例えば湯面乱れや淀みといった問題が生じる。このような流動状態のままスラブを鋳造すると、製造されるスラブに表面欠陥が生じる。従って、鋳型内の溶鋼流動の偏りを抑制する技術が望まれている。鋳型内溶鋼流動の偏り抑制は、安定した鋳造操業にとっても重要である。
【0015】
この問題に対し、本発明者らは実験的検討を進めた結果、下記の2つの要素を組み合わせることにより、多孔吐出孔を有する浸漬ノズルに有効な吐出流分配のセルフスタビライジング機能を付与することができることを見出した。第一の要素は、タンディッシュから流路絞り機構を経た下降流を左右に分配することができる内部障壁を設けることである。第二の要素は、第一段階の流量分配で生じた左右への偏りを補正する機構として、上記内部障壁の下に、第一の分配で流量分配が少なくなった側への分配が多くなるように流量を分配することができる分配ブロックを設けることである。
【0016】
上記発見に基づき、本発明の浸漬ノズルおよび連続鋳造機が発明された。以下、本発明の連続鋳造用浸漬ノズルについて、一実施形態であり連続鋳造用浸漬ノズル100(以下、単に「浸漬ノズル100」ということがある。)を用いて詳しく説明する。
【0017】
図3に一実施形態である浸漬ノズル100の軸中心Cを通る幅方向断面図を示した。ここで、本明細書において、
図3の左右方向を幅方向、上下方向を高さ方向、奥行き方向を厚さ方向という。
【0018】
一実施形態はタンディッシュから供給された溶鋼を鋳型に吐出して、スラブを連続鋳造するためのスラブ連続鋳造用の浸漬ノズル100である。浸漬ノズル100は中空状であり、内部に溶鋼の流路が形成されている。
【0019】
図3に示した通り、浸漬ノズル100はタンディッシュから供給された溶鋼を受け取る直胴部10と、溶鋼を鋳型に供給する吐出部30と、直胴部10及び吐出部30を接続する接続部20とを備えている。直胴部10及び接続部20は任意の部材であるが、通常、浸漬ノズルに備えられている。
【0020】
浸漬ノズル100は軸中心Cを通る厚さ方向平面で分割された2つの領域R1、R2を備えている。領域R1、R2は浸漬ノズル100の説明のために便宜的に定められた領域である。浸漬ノズル100において、領域R1と領域R2とは対称な形状であることが一般的である。
【0021】
「軸中心C」は浸漬ノズル100の幅方向の長さ及び厚さ方向の長さをそれぞれ2等分する平面の交線である。通常、軸中心Cは、直胴部10、接続部20、及び吐出部30の中心を通る。各部材の中心とは、各部材の幅方向の長さ及び厚さ方向の長さをそれぞれ2等分する直線の交点である。
【0022】
浸漬ノズル100は軸中心Cを通る幅方向平面で分割された2つの領域R3、R4を備えていてもよい(
図4参照)。浸漬ノズル100において、領域R3と領域R4とは対称な形状であることが一般的である。また、浸漬ノズル100において、領域R1と領域R2とが対称な形状であり、かつ、領域R3と領域R4とが対称な形状であることが一般的である。
【0023】
<直胴部10>
直胴部10はタンディッシュから供給された溶鋼を受け取る部分である。
図4に浸漬ノズル100を上側から観察した平面図を示した。
図4に示されている通り、直胴部10はその内部に溶鋼の下降流が流れる一定形状の流路11が形成されている。直胴部10や流路11の大きさは、目的に応じて適宜設定することができる。
図4に示されている通り、通常、浸漬ノズル100の各部材(直胴部10、接続部20、吐出部30)の厚さ方向の長さは概ね一定であり、内部流路の厚さ方向の長さも概ね一定である。「概ね一定である」とは、製造上の誤差や都合(例えば、規定の長さ±1%以内)を含めることを意味する。例えば、製造上の都合により上端から下端にかけて若干のテーパーを付与することがある。
【0024】
ここで、流路11の幅方向の長さをW11とし、水平面への投影面積をS11とする。
【0025】
直胴部10の軸中心Cに垂直な断面形状は矩形である。ただし、本発明の浸漬ノズルにおいて、直胴部の断面形状は特に限定されず、円形や楕円形、多角形であってもよい。
【0026】
<接続部20>
接続部20は直胴部10及び吐出部30を接続する部分であり、直胴部10から吐出部30まで溶鋼を流す流路を有している。接続部20の形状は特に限定されない。
図3において、接続部20は直胴部10から吐出部30にかけてなだらかな傾斜を有している。
【0027】
<吐出部30>
吐出部30は溶鋼を鋳型に供給する部分であり、厚さ方向視において直胴部10側から底部31側に向かって幅が広くなる略扇形形状を有している。また、吐出部30は、幅方向の長さに対して厚さ方向の長さが短い扁平形状を有している。
【0028】
吐出部30は底部31と、底部31の外縁から延びる側壁32とを有している。
図3に示されている通り、底部31が略扇形形状の弧に相当する領域を形成する部分である。側壁32の一端は底部31の外縁と接続しており、他端は接続部20の外縁と接続している。側壁32は吐出部30の外側を形成する部材であるとともに、溶鋼の流路、例えば後述する外側吐出孔33aa、33ba及び分岐流流路35の形成に寄与する。吐出部30の略扇形形状は内部流路の構成や吐出孔33の角度に応じて適宜設定してよい。
【0029】
図5に浸漬ノズル100を下側から観察した底面図を示した。
図5に示した通り、吐出部30は4つの吐出孔33を有している。吐出孔33の数が4つである理由は、吐出孔面積を増やすことで吐出流速を低減することができるため、吐出孔の数は多いほどよいが、吐出孔の数が多すぎると浸漬ノズル外形寸法の拡大を招きコストや操業上の取り扱いに問題が生じるためである。これらの事項を考慮すると、吐出孔の数は4つがよい。また吐出孔の数は偶数がよい。吐出孔の数が奇数であると左右の対称性を維持する観点から幅中央部の吐出孔は真下を向くことになる。ここからの真下に向いた吐出流は他の吐出孔からの吐出流と干渉し鋳型内流動の不安定さを招くことから奇数の吐出孔数は好ましくない。
【0030】
また、吐出孔33は吐出部30の底部31であって、各領域R1、R2において幅方向に並んで2つ配置されている。
図5のように吐出孔33は幅方向に向かって直線上に並んでいてもよい。
図5では、吐出孔33の形状は底面視の矩形である。ただし、本発明の浸漬ノズルにおいて、吐出孔の形状はこれに限定されず、円形や楕円形、多角形であってもよい。
【0031】
ここで、各領域R1、R2にそれぞれ配置された2つの吐出孔33のうち、幅方向外側に配置された吐出孔33をそれぞれ外側吐出孔33aa、33baとし、幅方向内側に配置された吐出孔33をそれぞれ内側吐出孔33ab、33bbとする。
【0032】
図3に戻って、吐出部30の構成についてさらに説明する。吐出部30は、幅方向の中央に配置され、タンディッシュから供給された溶鋼(下降流)を各領域R1、R2に分配する内部障壁34と、各領域R1、R2の側壁32及び内部障壁34の間であって、内部障壁34によって分配された溶鋼(分岐流)が流れる分岐流流路35と、内部障壁34よりも底部31側であって、各領域R1、R2において分岐流流路35を通過した分岐流をさらに分配し、少なくとも3つの吐出孔33に供給する分配ブロック36と、を有している。
【0033】
内部障壁34は幅方向の中央に配置され、分配ブロック36よりも直胴部10側であり、かつ、直胴部10の下端より下に配置される。内部障壁34は直胴部10から供給される下降流(溶鋼)を各領域R1、R2(幅方向の一方側及び他方側)に分配する役割を有する。すなわち、内部障壁34は溶鋼の1段階目の分配を実施する部材である。
【0034】
分岐流流路35は上述した通り、内部障壁34の側面34cと側壁32との間に形成される。分岐流流路35は、内部障壁34によって分配された分岐流を流す流路である。分岐流は分岐流流路35を通過した後、吐出孔33から鋳型内に吐出される。分岐流はそのまま外側吐出孔33aa、33baから吐出されるものもあるが、一部の分岐流は分配ブロック36に衝突し、少なくとも3つの吐出孔33に分配される。
【0035】
分配ブロック36は、内部障壁34よりも底部31側に配置される。分配ブロック36は各領域R1、R2において分岐流流路35を通過した分岐流をさらに分配し、少なくとも3つの吐出孔33に供給する部材である。すなわち、分配ブロック36は溶鋼の2段階目の分配を実施する部材である。「少なくとも3つの吐出孔33」は、少なくとも内側吐出孔33ab、33bb及びその分配ブロック36が配置されている領域の外側吐出孔を意味する。例えば、領域R1に配置されている分配ブロック36に着目すると、その分配ブロック36が配置されている領域R1の外側吐出孔とは、外側吐出孔33aaである。
【0036】
このように、吐出部30はタンディッシュから供給される溶鋼に対し2段階の分配を実施し、各吐出孔33から吐出する溶鋼の流量を平均化し、偏りを抑制している。すなわち、吐出部30は、内部障壁34を用いた第1段階目の流量分配によって流量の偏りが生じた場合にも、分配ブロック36を用いた第2段階目の流量分配によって、その流量分配の偏りを補正することができる。
【0037】
しかしながら、単に内部障壁34や分配ブロック36を設けただけでは、十分に流量分配機能を発揮できない。そこで、浸漬ノズル100では、次の特徴1~4を全て備えることを要する。これにより、浸漬ノズル100は流量分配機能を十分に発揮することができる。
【0038】
(特徴1)
浸漬ノズル100は、分岐流流路35のうち何れか一方を閉塞させた場合(例えば、領域R1の分岐流流路35を閉塞させた場合。
図3の破線で囲んだ楕円部分。)に、分岐流流路35が閉塞された領域(例えば、領域R1)に配置されている内側吐出孔(例えば、内側吐出孔33ab)から吐出される溶鋼の流量が、分岐流流路35が閉塞されていない領域(例えば、領域R2)に配置されている内側吐出孔(例えば、内側吐出孔33bb)から吐出される溶鋼の流量よりも大きいという特徴1を有している。
【0039】
これは、例えば領域R2に着目したとき、領域R2の分配ブロック36に衝突した分岐流が、領域R2の内側吐出孔33bbよりも領域R1の内側吐出孔33abに主に供給されることを意味する。
【0040】
浸漬ノズル100がこのような特徴1を有することにより、浸漬ノズル100は内部障壁34を用いた第一段階の流量分配によって流量の偏りが生じた場合にも、分配ブロック36を用いた第二段階の流量分配によって、その流量分配の偏りをさらに補正することができる。すなわち、浸漬ノズル100は吐出流分配に対するセルフスタビライジング機能が付与されているといえる。このような特徴を有する浸漬ノズルによれば、鋳型内における溶鋼の流動の偏りをさらに抑制することができる。
【0041】
浸漬ノズル100が特徴1を満たす形態であるかどうかの判断は、実物大の水モデル実験を実施し、分岐流流路のうち何れか一方を閉塞させた場合に、分岐流流路が閉塞された領域に配置されている内側吐出孔から吐出される水の流量が、分岐流流路が閉塞されていない領域に配置されている内側吐出孔から吐出される水の流量よりも大きいことを確認することにより可能である。溶鋼と水の動粘度がほぼ等しいことから、浸漬ノズル内における溶鋼の流れ方と水の流れ方とは同様と見なせるためである。実験条件は、実際の操業条件と同じ流速/流量条件を採用する。例えば、直胴部10を通過する下降流の流速を、実際の操業条件と同じ条件に設定する。また、浸漬ノズル100に水を流す時間は少なくとも1分とする。これにより、特徴1を有するか否かを精度よく確認することができる。
【0042】
水モデル実験における分岐流流路35の閉塞方法は特に限定されないが、例えば分岐流流路35の横断面形状に合わせたゴム栓等を用いて
図3中に破線の楕円で示した領域を閉塞すればよい。
【0043】
分岐流流路35のうち何れか一方を閉塞させた場合に、分岐流流路35が閉塞された領域に配置されている内側吐出孔から吐出される溶鋼の流量が、分岐流流路35が閉塞されていない領域に配置されている内側吐出孔から吐出される溶鋼の流量に対し1.0倍超であってもよく、1.2倍以上であってもよく、1.3倍以上であってもよく、3倍以下であってもよく、2.1倍以下であってもよく、1.5倍以下であってもよい。
【0044】
(特徴2)
浸漬ノズル100は、各領域R1、R2において、外側吐出孔33aa、33baを形成する壁面の角度から規定される外側吐出角度α1が下向40°~下向75°の間にあり、かつ内側吐出孔33ab、33bbを形成する壁面の角度から規定される内側吐出角度α2との関係が、(1)式を満たすという特徴2を有する。下向角度は幅方向に対する角度である(
図3)。なお、吐出角度(外側吐出角度α1及び前記内側吐出角度α2)は、厚さ方向視において、右側の領域R2については幅方向に対して時計回りの角度であり、左側の領域R1については幅方向に対して反時計回りの角度である。
-5°≦α2-α1≦15°・・・(1)
【0045】
外側吐出角度α1、内側吐出角度α2は、軸中心Cを通る幅方向平面で分割された浸漬ノズル100の断面形状から判断する。外側吐出角度α1は、外側吐出孔の対向する壁面の角度が同じ場合はその壁面の角度を採用し、外側吐出孔の対向する壁面の角度が異なる場合は、これらの角度の平均値を採用する。同様に、内側吐出角度α2は、内側吐出孔の対向する壁面の角度が同じ場合はその壁面の角度を採用し、内側吐出孔の対向する壁面の角度が異なる場合は、これらの角度の平均値を採用する。なお、外側吐出孔33aa、33ba、内側吐出孔33ab、33bbは、溶鋼の出入りを容易にするために、孔の入口又は出口にテーパーあるいは曲面を有する場合がある。この場合、テーパーあるいは曲面を除いて、吐出角度を算出する。外側吐出角度α1、内側吐出角度α2は領域R1、R2毎に算出し、いずれの領域も式(1)を満たすことを要する。
【0046】
鋳造速度3m/min以上の高速鋳造を前提としたとき、鋳型内湯面の波立ちを抑制する観点から、外側吐出角度α1を下向40°以上とすることが望ましく、下向45°以上であるとさらに望ましい。一方、過大な吐出角度は鋳型内流動の不安定さを招くので、外側吐出角度α1は下向75°までにとどめることが望ましく、さらに望ましい上限値は下向65°である。
【0047】
加えて、外側吐出角度α1と内側吐出角度α2との関係は(1)式を満たすことが求められる。(1)式の意味は以下である。通常、吐出流を分散させ運動エネルギーを消散させる観点から、内側吐出角度α2は外側吐出角度α1よりも大きく設定される。本発明者らは、実験的ならびに数値解析的検討の結果、両吐出角度の値が近い方が、吐出流が互いに引き付け合い合流する傾向があることがわかった。本発明者らは、分配ブロック36によるセルフスタビライジング機能にとって、外側吐出流と内側吐出流とが合流する傾向が有利に作用することを見出し、内側吐出角度α2と外側吐出角度α1との差は15°以下であることが好ましいとした。同角度の差は10°以下であるとさらに好ましい。一方、両者の差がマイナスすなわち内側吐出角度α2が外側吐出角度α1よりも小さく設定されると、吐出流の分散による運動エネルギー消散に不利となることから、両者の差の最小値は-5°とする。同最小値は0すなわち内側吐出角度α2と外側吐出角度α1とが同じ値にとどめることがより好ましい。
【0048】
(特徴3)
浸漬ノズル100は、外側吐出孔33aa、33baから吐出される溶鋼の吐出流量Q1と内側吐出孔33ab、33bbから吐出される溶鋼の吐出流量Q2との関係が(2)式を満たすという特徴3を有している。
0.1≦Q2/Q1≦1.0・・・(2)
【0049】
ここで、吐出流量Q1は外側吐出孔33aa、33baから吐出される流量の合計であり、吐出流量Q2は内側吐出孔33ab、33bbから吐出される流量の合計である。
【0050】
(2)式の第一の意味は、主要な吐出流は外側吐出孔33aa、33baからのものであることが望ましく、内側吐出孔33ab、33bbからの吐出流量Q2は外側吐出孔33aa、33baからの吐出流量Q1を超えないということである。鋳型内流動の安定性の観点から、吐出流の短辺凝固シェルへの明快な衝突パターンの形成が必要であることから、外側吐出孔33aa、33baからの吐出流が主要であるべきなのである。むろん、同衝突流速が過大であることは、凝固シェルの再溶解を防止する観点から危険であり好ましくないが、流動パターンとしては短辺凝固シェルへ向かう明確なパターンを形成することが、より安定した流動を生む点で好ましいのである。
【0051】
(2)式の第二の意味は、内側吐出孔33ab、33bbからの吐出流量Q2は外側吐出孔33aa、33baからの吐出流量Q1に対して0.1倍以上を確保するということである。このことは、吐出流を内側吐出孔33ab、33bbへ分配し、鋳型内流動を静穏化するという本発明本来の目的に適うものである。
【0052】
鋳型内流動の安定性を向上する観点から、Q2/Q1は0.2以上としてもよく、0.7以下としてもよく、0.5以下としてもよい。
【0053】
吐出流量Q1、Q2は、実物大の水モデル実験を実施し、各吐出孔から吐出される水量を測定することにより、算出することができる。上述した通り、溶鋼と水の動粘度がほぼ等しいことから、浸漬ノズル内における溶鋼の流れ方と水の流れ方とは同様と見なせるためである。実験条件は、実際の操業条件と同じ流速/流量条件を採用する。例えば、直胴部10を通過する下降流の流速を、同じ条件に設定する。また、浸漬ノズル100に水を流す時間は少なくとも1分とする。これにより、特徴3を有するか否かを精度よく確認することができる。
【0054】
(特徴4)
浸漬ノズル100は、水平面に投影したときに、内部障壁34の面積が直胴部10の流路の面積よりも大きく、かつ、内部障壁34のタンディッシュから供給された溶鋼を受ける側の面が凹部を備えているという特徴4を有している。
【0055】
図6に、浸漬ノズル100を水平面(幅方向及び厚さ方向から形成される面)上に投影した投影図であって、流路11及び内部障壁34に着目した図を示した。
図6では、内部障壁34の投影図の上に流路11の投影図を重ねている。
図6に示した通り、内部障壁34の面積S34は流路11の面積S11より大きく設定する。
【0056】
内部障壁34は下降流を各領域R1、R2(幅方向の一方側及び他方側)に適切に分配する観点から、厚さ方向において内部障壁34と側壁32との間が完全に閉塞されていてよい。言い換えると、内部障壁34が吐出部30の厚さ方向に亘って形成されていてよい。この場合、
図6に示した通り、内部障壁34の幅方向長さが流路11の幅方向長さより長ければ、面積S34は面積S11より大きくなる。
【0057】
このように、内部障壁34の面積S34を流路11の面積S11より大きく設定することにより、下降流の各領域R1、R2への分配の偏りを効果的に抑制することができる。より効果的に抑制する観点から、内部障壁34の面積S34は流路11の面積S11の1.1倍以上としてよく、1.3倍以上としてもよく、2倍以下としてもよく、1.5倍以下としてもよい。
【0058】
また、内部障壁34は、内部障壁34のタンディッシュから供給された溶鋼を受ける側の面(上面34a)が凹部34aaを備えている(
図7参照)。内部障壁34の上面34aが凹部34aaを備えることにより、分配される分岐流の流量の偏りを抑制することができる。すなわち、セルフスタビライジング機能を十分に高めることができる。例えば、内部障壁の上面が凹部を備えておらず例えば平坦であると、セルフスタビライジング機能は不十分となる。
【0059】
本発明者らは凹部34aaによる効果について、次のメカニズムを推定している。すなわち、内部障壁34に下降流が衝突し、下降流が各領域R1、R2に分岐流として分配される際に分岐流の流量に偏りが発生した場合、凹部34aaの側面部34acから底面部34abに渡る面に沿って流量の多い分岐流の一部が跳ね返され、跳ね返された溶鋼が流量の少ない分岐流に加わることにより、分岐流の流量の偏りを抑制することができると推定している。
【0060】
凹部34aaは上面34a全体に配置されていてもよく、上面34aの一部に配置されていてもよい。上面34aの一部に凹部34aaが配置されている場合、凹部34aaは幅方向の中央に配置されることが好ましい。
【0061】
<浸漬ノズル100の具体的形態>
浸漬ノズル100は上記特徴1~4を有するように、各部材の形態が適宜設定される。特徴1~4を有する浸漬ノズルの形態は、各部材の形態(形状やサイズ等)を厳密に調整することにより達成されるものであるが、その形態は多岐に渡り、全ての形態を説明することは困難である。以下、浸漬ノズル100の各部材について具体的に説明するが、これらは単なる一例である。本発明の浸漬ノズルは上記特徴1~4を有していればよく、その具体的な形態は特に限定されるものではない。
【0062】
まず、内部障壁34の具体的な形態について説明する。
図7に内部障壁34の拡大図を示した。内部障壁34は直胴部10側の上面34aと、底部31側の下面34bと、上面34a及び下面34bを接続する側面34cを有している。
【0063】
上面34aは、上述の通り、内部障壁34のタンディッシュ(直胴部10)から供給された溶鋼(下降流)を受け止める側の面であり、上面34aは凹部34aaを有している。凹部34aaは底面部34ab、底面部34abの両端部から延びる側面部34ac、直胴部10側に開口している開口部34adを有する。
【0064】
凹部34aaと流路11とは次の関係を有していてもよい。すなわち、水平面上に投影した凹部34aaの面積S34aa(開口部34adの面積)は、流路11の面積S11に対してある割合以上の大きさを確保するのがよい。これにより、十分に分岐流の流量の偏りを抑制する効果を得ることができる。例えば、凹部34aaの面積S34aaは流路11の面積S11の0.7倍以上としてよく、0.9倍以上としてよく、1.5倍以下としてよく、1.2倍以下としてよい。凹部34aaの面積S34aaが過剰に大きくなるとノズル全体が無用に大きくなるので好ましくない。
【0065】
凹部34aaの深さ(底面部34abから開口部34adまでの高さ方向の長さ)H34aaは特に限定されないが、10mm以上でもよく、15mm以上でもよく、30mm以下でもよく、20mm以下でもよい。凹部34aaの深さH34aaが10mm未満であると、分岐流の流量の偏りを抑制する効果が低減する。凹部34aaの深さH34aaが30mmを超えると、ノズル外形寸法が無用に大きくなる虞がある。
【0066】
底面部34abの面積S34abは特に限定されないが、凹部34aaの面積S34aa(開口部34adの面積)以下としてもよい。例えば、底面部34abの面積S34abは凹部34aaの面積S34aaの0.9倍以下であってもよく、0.8倍以下であってもよく、0.5倍以上であってもよく、0.6倍以上であってもよい。
【0067】
側面部34acは、底面34abに対して垂直に形成されていてもよく、傾斜を有していてもよい。側面34acが傾斜を有する場合、その傾斜は直線状であってもよく、曲線状であってもよい。
【0068】
上面34aの一部に凹部34aaが配置されている場合、上面34aの端部と凹部34aaとの間に端面34aeが配置される。端面34aeは水平であってもよく、傾斜を有していてもよい。端面34aeの傾斜は、内側に向かって高さが低くなってもよく、高くなってもよい。あるいは端面34aeは、曲面であってもよい。
【0069】
下面34bは幅方向内側に向かって高さが低くなる傾斜部34baを有していてよい。後述の分配流路36bを形成するために、傾斜部34baは分配ブロック36の上面36aに対向する位置に配置されていてよい。
図3、
図7では、下面34bの幅方向の両端部に傾斜部34baが配置されている。下面34bは、傾斜部34baの下端高さを規定する水平面34bbを有していてもよい。あるいは、下面34bは全て水平面34bbであってもよい。例えば、分配ブロック36の上面36aから下面34bの距離が大きいときには、傾斜部34baがなく下面全てが水平面34bbであっても構わない。下面34bが全て水平面34bbである場合、水平面34bbと分配ブロック36の上面36aとから分配流路36bが形成される。
【0070】
側面34cは側壁32と共に分岐流流路35を形成する役割を有する。側面34cの形状は特に限定されず、平面であってもよく、垂直な面であってもよく、傾斜した面であってもよく、曲面であってもよく、これらを組み合わせた形状であってもよい。また、側面34cは幅方向の外側に向かって高さが低くなるよう傾斜していてもよい。これにより、分岐流を円滑に流すことができる。
【0071】
次に、分岐流流路35について説明する。分岐流流路35は、上述した通り、内部障壁34の側面34cと側壁32との間に形成される。分岐流流路35の断面積S35は特に限定されないが、直胴部10の流路の面積S11の0.5倍以上であってもよく、0.6倍以上であってもよく、0.8倍以上としてもよく、2倍以下としてもよく、1.2倍以下としてもよい。分岐流流路35の断面積S35とは、分岐流流路35の最小断面積を指す。
【0072】
分岐流流路35の流路断面積は一定であってもよいが、分岐流流路35はその流路断面形状が一定でない形態であってもよい。例えば、分岐流流路35が先すぼまりの形態であってもよい。この場合であっても、分岐流流路35の断面積S35(最小断面積)は上記の範囲を満たすようにしてよい。このような分岐流流路35は、側面34c及び/又は側壁32の傾斜角度を調整することにより形成することができる。
【0073】
続いて、分配ブロック36について説明する。分配ブロック36は、内部障壁34よりも底部31側であって、各領域R1、R2において分岐流流路35を通過した分岐流をさらに分配し、各吐出孔33に供給する部材である。
【0074】
具体的には、内部障壁34による第一段階の分配を経た分岐流のうち、領域R1に流れる分岐流に着目したとき、分配ブロック36はさらに分岐流を外側吐出孔33aa側と内側吐出孔33ab側とに分配する部材である。外側吐出孔33aa側に分配された分岐流は外部吐出孔33aaを通って外部に吐出されるが、内側吐出孔33ab側に分配された分岐流は、さらに内側吐出孔33abと内部吐出孔33bbに分配され、それぞれの内側吐出孔を通って外部に吐出される。
【0075】
分岐流の分配率は分配ブロック36の形状によりコントロールすることができる。分配率をコントロールすることにより、流量分配の偏りを抑制することができる。以下、分配ブロック36の形状について説明する。
【0076】
図8に吐出部30の底部31側の拡大図を示した。
図8に示した通り、分配ブロック36は各領域R1、R2にそれぞれ配置されており、外側吐出孔と内側吐出孔とを分離する隔壁であり、底部31の一部である。また、底部31は2つの内側吐出孔33ab、33bbを分離する中央ブロック37を有している。
【0077】
分配ブロック36は分岐流を分配する役割を有するため、分岐流と衝突する上面36aに特徴を有している。分配ブロック36の側面及び下面は吐出孔の形状に応じて適宜設定してよい。
図8では分配ブロック36の断面形状は四角形である。
【0078】
分配ブロック36の上面36aは、部分36aa、36abからなる。ただし、分配ブロック36の形状はこれに限定されず、部分36abのみを有する形状であってもよいし、角度の異なる多くの平面を組み合わせて構成してもよいし、複雑な曲面から形成されていてもよい。
【0079】
部分36aa、36abは、例えば、次のように規定することができる。分配ブロック36の上面36aの外側端部A及び内側端部B結ぶA-B線分と、内部障壁34の側壁34cの延長線Lとが交わる点Dを規定したとき、部分36aaは内側端部Bと交点Dとの間の範囲であり、部分36abは外側端部Aと交点Dとの間の範囲である。ただし、実際には、内部障壁の側壁34cの形状や流路35の形状によっては、上記規定は成立しない場合があり、分配ブロック36の上面が曲面である場合にも上記規定は成立しない場合がある。そのような意味では、部分36aaと部分36abの範囲を幾何学的に厳密に定義することは難しいのであるが、ここでは説明の便宜上、上記規定を用いて説明する。
【0080】
部分36aaは、内側吐出孔側に分配される分岐流の流路(分配流路36b)の形成に主に寄与する。分配流路36bは内部障壁34の下面34b(傾斜部34ba)と分配ブロック36の上面36aとの間に形成され、分岐流を2つの内側吐出孔33ab、33bbに供給する。この際、例えば領域R1側の分配流路36bに着目したとき、内側吐出孔33abよりも内側吐出孔33bbに分配される分岐流の割合を大きくするように、分配流路36bの形状、内部障壁34の下面34bの形状、及び中央ブロック37の上面形状を設定する。これにより、流量分配の偏りを補正することができる。
【0081】
このような効果を奏する分配流路36bは、例えば、分配流路36b流路を通る溶鋼の流れ(流線F)を、同じ領域の内側吐出孔33abの上を素通りして他の領域の内側吐出孔33bbへ向かうように、内部障壁34、分配ブロック36ならびに中央ブロック37の形状を設定することで実現することができる。流線Fは、水モデル実験において流れを可視化するトレーサー(例えば微細気泡や墨汁)を流して主流の方向として確認できる。
図8においては、内部障壁34の傾斜部34baと分配ブロックの上面36aとの中線に近い流線を便宜的に描いているが、流線は幾何学的に求めるよりも実験的に求める性質のものである。
【0082】
分配流路36bの断面積S36bは特に限定されないが、流路の面積S11の0.3倍以上であってもよく、0.4倍以上としてもよく、1倍以下としてもよく、0.6倍以下としてもよい。分配流路36bの断面積S36bとは、分配流路36bの最小断面積を指す。
【0083】
部分36abは内部障壁34によって分配された分岐流をさらに外側吐出孔側と内側吐出孔側に分配するときの分配率に寄与する。
【0084】
上面36aの長さL36a(点A-B間)は特に限定されないが、例えば流路11の幅方向の長さW11の0.2倍以上でもよく、0.5倍以上でもよく、1.5倍以下でもよく、1.0倍以下でもよい。部分36aaの長さL36aa(点D-点B間)と部分36abの長さL36ab(点A-点D間)との比L36aa:L36abは特に限定されないが、例えば1:4~3:2の間である。
【0085】
上面36aの角度γ2(点A、Bを通る直線と幅方向に沿った直線とがなす角度)は特に限定されず、流線Fに応じて適宜設定してよい。例えば、通常の設計では下向20°から下向60°の範囲になる。
【0086】
なお、
図8では分配ブロック36の上面36aが平坦である形態を示したが、本発明はこれに限定されず、分配ブロックの上面36aは異なる角度を有する複数の平面の組み合わせであってもよいし曲面であってもよい。あるいは凹部を有していてもよく、凸部を有していてもよい。また、
図8では分配ブロック36が吐出部30の底部31と一体化している形態を示したが、分配ブロック36は吐出部30の底部31から分離し底部31の上方に独立して存在する構成となっていても構わない。
【0087】
以上より、本発明の浸漬ノズルについて一実施形態を用いて説明した。本発明の浸漬ノズルは、内部障壁を用いた第一段階の流量分配によって流量の偏りが生じた場合にも、分配ブロックを用いた第二段階の流量分配によって、吐出孔から吐出する溶鋼の流量分配の偏りが補正される。また、特徴1~4を備えることにより、当該流量分配の偏りを顕著に補正し、鋳型内における溶鋼の流動の偏りを抑制することができる。
【実施例0088】
以下に実施例を用いて、本発明の浸漬ノズルについてさらに説明する。
【0089】
実施例A~C及び比較例D~Hの浸漬ノズルを
図9~
図16に示した。
図9~
図16は、各試験例の浸漬ノズルの幅方向縦断面図及び底面図を示している。また、実施例B~C及び比較例D~Gの浸漬ノズルは直胴部の下部から下端までの拡大図を示している(
図10~
図15)。これらの浸漬ノズルを用いて、次の実験を行った。なお、図中の長さおよび角度を表1にまとめて示す。これらの値は厚さ方向視における値である。凹部を有する内部障壁の端面34aeの幅方向の長さはいずれも2mmとした。W2は上述したW11と同義である。W4は上述したH34aaと同義である。
【0090】
【0091】
[実験1]
<実施例A>
実施例Aは77×31mmの矩形状断面を有する直胴部の流路の下に、最大幅90.6mmであって、凹部を有する内部障壁(凹部の幅73mm、深さ10mm)と、内部障壁に当たって左右に分かれた分岐流のそれぞれをさらに内側吐出孔(内側吐出角度65°)及び外側吐出孔(外側吐出角度55°)に分配する分配ブロックとを有する浸漬ノズルである。
【0092】
ここで、実施例Aの浸漬ノズルを水平面に投影したときの、内部障壁の面積は直胴部の流路の面積の1.18倍である。また、直胴部の流路の水平投影面積に対する分岐流流路の断面積及び分配流路の断面積の倍率はそれぞれ0.55倍、0.38倍である。
【0093】
実施例Aの浸漬ノズルを用い、内部障壁の左側の破線楕円で示した領域(
図9)を完全に閉塞した状態で水モデル実験を実施した。直胴部の流路内における下降流の流速が1.3m/sとなる条件で水を浸漬ノズルに供給し、左右の内側吐出孔から吐出される水の流量を測定した。その結果、左側の内側吐出孔から吐出された水の流量が右側の内側吐出孔から吐出された水の流量に対して1.5倍であった。
【0094】
また、分岐流流路を閉塞させずに上記と同じ流量条件で試験した結果、外側吐出孔からの吐出流量Q1に対する内側吐出孔からの吐出流量Q2の比Q2/Q1は0.2であった。
【0095】
<実施例B>
実施例Bは、56×31mmの矩形状断面を有する直胴部の流路の下に、最大幅72.8mmであって、凹部を有する内部障壁(凹部の幅52mm、深さ10mm)と、内部障壁に当たって左右に分かれた分岐流のそれぞれをさらに内側吐出孔(内側吐出角度65°)及び外側吐出孔(外側吐出角度60°)に分配する分配ブロックとを有する浸漬ノズルである。
【0096】
ここで、実施例Bの浸漬ノズルを水平面に投影したときの、内部障壁の面積は直胴部の流路の面積の1.30倍である。直胴部の流路の水平投影面積に対する分岐流流路の断面積及び分配流路の断面積の倍率はそれぞれ0.64倍、0.54倍である。
【0097】
実施例Bの浸漬ノズルを用い、内部障壁の左側の破線楕円で示した領域(
図10)を完全に閉塞した状態で水モデル実験を実施した。直胴部の流路内における下降流の流速が2m/sとなる条件で水を浸漬ノズルに供給し、左右の内側吐出孔から吐出される水の流量を測定した。その結果、左側の内側吐出孔から吐出された水の流量が右側の内側吐出孔から吐出された水の流量に対して1.3倍であった。
【0098】
また、分岐流流路を閉塞させずに上記と同じ流量条件で試験した結果、外側吐出孔からの吐出流量Q1に対する内側吐出孔からの吐出流量Q2の比Q2/Q1は0.5であった。
【0099】
<実施例C>
実施例Cは、77×31mmの矩形状断面を有する直胴部の流路の下に、最大幅88.3mであって凹部を有する内部障壁(凹部の幅73mm、深さ10mm)と、内部障壁に当たって左右に分かれた分岐流のそれぞれをさらに内側吐出孔(内側吐出角度65°)及び外側吐出孔(外側吐出角度55°)に分配する分配ブロックとを有する浸漬ノズルである。
【0100】
ここで、実施例Cの浸漬ノズルを水平面に投影したときの、内部障壁の面積は直胴部の流路の面積の1.15倍である。直胴部の流路の水平投影面積に対する分岐流流路の断面積及び分配流路の断面積の倍率はそれぞれ0.50倍、0.44倍である。
【0101】
実施例Cの浸漬ノズルを用い、内部障壁の左側の破線楕円で示した領域(
図11)を完全に閉塞した状態で水モデル実験を実施した。直胴部の流路内における下降流の流速が1.8m/sとなる条件で水を浸漬ノズルに供給し、左右の内側吐出孔から吐出される水の流量を測定した。その結果、左側の内側吐出孔から吐出された水の流量が右側の内側吐出孔から吐出された水の流量に対して2.1倍であった。実施例Cの分配ブロック上面には2段階の角度が付与されており、右側の内側吐出孔から吐出された水の流量に対する左側の内側吐出孔から吐出された水の流量の比率が他の実施例に比べて高まる設計である。
【0102】
また、分岐流流路を閉塞させずに上記と同じ流量条件で試験した結果、外側吐出孔からの吐出流量Q1に対する内側吐出孔からの吐出流量Q2の比Q2/Q1は0.3であった。
【0103】
<比較例D>
比較例Dは、77×31mmの矩形状断面を有する直胴部の流路の下に、最大幅90.6mmである内部障壁と、内部障壁に当たって左右に分かれた分岐流のそれぞれをさらに内側吐出孔(内側吐出角度65°)及び外側吐出孔(外側吐出角度55°)に分配する分配ブロックとを有する浸漬ノズルである。比較例Dは実施例Aに対し内部障壁の凹部を無くした仕様である。
【0104】
ここで、比較例Dの浸漬ノズルを水平面に投影したときの、内部障壁の面積は直胴部の流路の面積の1.18倍である。また、直胴部の流路の水平投影面積に対する分岐流流路の断面積及び分配流路の断面積の倍率はそれぞれ0.55倍、0.38倍である。
【0105】
比較例Dの浸漬ノズルを用い、内部障壁の左側の破線楕円で示した領域(
図12)を完全に閉塞した状態で水モデル実験を実施した。直胴部の流路内における下降流の流速が1.3m/sとなる条件で水を浸漬ノズルに供給し、左右の内側吐出孔から吐出される水の流量を測定した。その結果、左側の内側吐出孔から吐出された水の流量が右側の内側吐出孔から吐出された水の流量に対して1.5倍であった。
【0106】
また、分岐流流路を閉塞させずに上記と同じ流量条件で試験した結果、外側吐出孔からの吐出流量Q1に対する内側吐出孔からの吐出流量Q2の比Q2/Q1は0.3であった。
【0107】
<比較例E>
比較例Eは、56×31mmの矩形状断面を有する直胴部の流路の下に、最大幅54mmであって、凹部を有する内部障壁(凹部の幅44mm、深さ10mm)と、内部障壁に当たって左右に分かれた分岐流のそれぞれをさらに内側吐出孔(内側吐出角度65°)及び外側吐出孔(外側吐出角度60°)に分配する分配ブロックとを有する浸漬ノズルである。すなわち比較例Eは、実施例Bの内部障壁が小さい形態である。
【0108】
ここで、比較例Eの浸漬ノズルを水平面に投影したときの、内部障壁の面積は直胴部の流路の面積の0.96倍である。直胴部の流路の水平投影面積に対する分岐流流路の断面積及び分配流路の断面積の倍率はそれぞれ0.72倍、0.68倍である。
【0109】
比較例Eの浸漬ノズルを用い、内部障壁の左側の破線楕円で示した領域(
図13)を完全に閉塞した状態で水モデル実験を実施した。直胴部の流路内における下降流の流速が2.5m/sとなる条件で水を浸漬ノズルに供給し、左右の内側吐出孔から吐出される水の流量を測定した。その結果、左側の内側吐出孔から吐出された水の流量が右側の内側吐出孔から吐出された水の流量に対して1.1倍であった。
【0110】
また、分岐流流路を閉塞させずに上記と同じ流量条件で試験した結果、外側吐出孔からの吐出流量Q1に対する内側吐出孔からの吐出流量Q2の比Q2/Q1は0.8であった。
【0111】
<比較例F>
比較例Fは、56×31mmの矩形状断面を有する直胴部の流路の下に、最大幅72.8mmであって、凹部を有する内部障壁(凹部の幅52mm、深さ10mm)と、内部障壁に当たって左右に分かれた分岐流のそれぞれをさらに内側吐出孔(内側吐出角度80°)及び外側吐出孔(外側吐出角度60°)に分配する分配ブロックとを有する浸漬ノズルである。
【0112】
ここで、比較例Fの浸漬ノズルを水平面に投影したときの、内部障壁の面積は直胴部の流路の面積の1.30倍である。直胴部の流路の水平投影面積に対する分岐流流路の断面積及び分配流路の断面積の倍率はそれぞれ0.64倍、0.54倍である。
【0113】
比較例Fの浸漬ノズルを用い、内部障壁の左側の破線楕円で示した領域(
図14)を完全に閉塞した状態で水モデル実験を実施した。直胴部の流路内における下降流の流速が2m/sとなる条件で水を浸漬ノズルに供給し、左右の内側吐出孔から吐出される水の流量を測定した。その結果、左側の内側吐出孔から吐出された水の流量が右側の内側吐出孔から吐出された水の流量に対して1.5倍であった。
【0114】
また、分岐流流路を閉塞させずに上記と同じ流量条件で試験した結果、外側吐出孔からの吐出流量Q1に対する内側吐出孔からの吐出流量Q2の比Q2/Q1は0.6であった。
【0115】
<比較例G>
比較例Gは、56×31mmの矩形状断面を有する直胴部の流路の下に、最大幅72.8mmである内部障壁を有する。一方、比較例Gは、外側吐出孔と内側吐出孔との間に隔壁を有しているが、この隔壁を含む流路の構成は本発明に規定する吐出流量分配機能を有していない。その詳細は後述する。
【0116】
ここで、比較例Gの浸漬ノズルを水平面に投影したときの、内部障壁の面積は直胴部の流路の面積の1.30倍である。直胴部の流路の水平投影面積に対する分岐流流路の断面積及び分配流路の断面積の倍率はそれぞれ0.64倍、0.55倍である。
【0117】
比較例Gの浸漬ノズルを用い、内部障壁の左側の破線楕円で示した領域(
図15)を完全に閉塞した状態で水モデル実験を実施した。直胴部の流路内における下降流の流速が1.8m/sとなる条件で水を浸漬ノズルに供給し、左右の内側吐出孔から吐出される水の流量を測定した。その結果、左側の内側吐出孔から吐出された水の流量が右側の内側吐出孔から吐出された水の流量に対して0.8倍であった。
【0118】
また、分岐流流路を閉塞させずに上記と同じ流量条件で試験した結果、外側吐出孔からの吐出流量Q1に対する内側吐出孔からの吐出流量Q2の比Q2/Q1は0.9であった。
【0119】
実施例A~Cおよび比較例D~Fは、内部障壁の左側領域を完全に閉塞した状態での実験結果において、左側の内側吐出孔から吐出された水の流量が右側の内側吐出孔から吐出された水の流量よりも大きかった。それに対し、比較例Gは左側の内側吐出孔から吐出された水の流量が右側の内側吐出孔から吐出された水の流量よりも小さかった。すなわち、比較例Gは分配ブロックを含む流路構造が、本発明に規定する吐出流量分配機能を有していない。
【0120】
<比較例H>
図16に示した比較例Hは、内部障壁を有さない浸漬ノズルである。比較例Hの形態は実施例Aから内部障壁を除いたものであるが、内部障壁が無い結果として、分配ブロックと呼べる機能を有する部位も存在しない。比較例Hには内部障壁が無いことから、内部障壁の左右片側の流路を閉塞する上述の実験は行っていない。比較例Hは本発明の内部障壁や分配ブロックが生む各吐出孔への流量分配機能(セルフスタビライジング機能)を有していないので、ノズル上部の下降流が左右どちらかに偏った場合に、4つの吐出孔への分配比も直ちに片側へ偏る傾向があることが容易に推定できる。
【0121】
[実験2]
次に、実施例A~C及び比較例D~Hの浸漬ノズルを用いて、フルスケール水モデル実験を実施し、鋳型内流動の安定状況を評価した。
図17にフルスケール水モデル実験の概略図を示した。また、表2に実験条件を示した。
【0122】
【0123】
まず、絞りなしの水を注入するフルスケール水モデル実験を実施した。水の注入条件が絞りなしの場合、左右対称の下降流がノズル内に入ることから、左右への偏流は時間平均的にはほとんど生じない。一方、絞りなしの場合であっても、数10秒から数分周期での左右への自励振動的な偏流のゆらぎ現象が生じる。従って、その揺らぎの程度を流速測定点における水平方向流速の変動の標準偏差を平均流速で除した値をパラメータに用いて評価した。このパラメータを流動安定指数とし、左右の流速測定点それぞれで計算した値の平均値を用いて評価した。流速測定時間は1条件あたり15分とした。結果を
図18に示した。
【0124】
図18より、実験1において良好な結果が得られた実施例A~Cは比較例D~Hに比べて流動安定指数が小さく、鋳型内の流動が安定していることが分かった。これは、浸漬ノズルが本発明に規定する機能を有する内部障壁及び分配ブロックおよびそれらを含む流路構造を備えることにより、浸漬ノズル内の流動の揺らぎに起因する一時的な偏流を抑制する効果が発揮され、その結果、鋳型内流動の揺らぎをも抑制しうることを示している。すなわち、本発明の浸漬ノズルは、吐出流分配に対するセルフスタビライジング機能を有し、流れの揺らぎに起因する一時的な偏流現象を抑制する効果を発揮することがわかる。
【0125】
ここで、実施例Aと比較例Dを比較すると、内部障壁が凹部を有する効果が明らかとなる。
図18より、実施例Aは比較例Dに比べて結果が優れている。このことから、内部障壁が凹部を有することによりセルフスタビライジング機能がさらに向上すると言える。
【0126】
実施例Bと比較例Eとを比較すると、これらの違いは、主に水平面に投影した上部流路の面積に対し、水平面に投影した内部障壁の面積がどの程度大きいかの違いである。
図18より、実施例Bは比較例Eよりも結果が優れていた。このことから、水平面に投影した内部障壁の面積が水平面に投影した上部流路の面積に対して大きいことが、セルフスタビライジング機能を高める点で重要であることがわかる。
【0127】
実施例Bと比較例Fとを比較すると、これらの違いは、主に外側吐出孔と内側吐出孔の吐出角度差の違いである。
図18より、実施例Bは比較例Fよりも結果が優れていた。このことから、吐出角度の差が小さい本発明の実施例Bにおいては、各外側吐出流量に差異が生じ、その差異を各内側吐出孔からの吐出流量で補償するセルフスタビライジング機能が生じた際に、各内側吐出孔からの吐出流が直ちに各外側吐出孔からの吐出流に合流することによって、上記セルフスタビライジング機能が鋳型内流動の安定化に強く寄与することができると考えられる。
【0128】
本発明のセルフスタビライジング機能を全く有さない比較例Hは、最も不安定な鋳型内流動を形成した。
【0129】
次に、水の注入条件が左右非対称であり、ノズルの入口において左側1/2を閉止し、右側1/2のみを通って水がノズル内に流入する条件においてフルスケール水モデル実験を実施した。左右非対称の下降流は左右への偏流を引き起こすため、その偏流の流速測定点における水平方向流速の左右差の絶対値を水平方向流速の左右平均値で除した値をパラメータに用いて評価した。このパラメータを偏流指数とした。流速測定時間は1条件あたり15分とした。結果を
図19に示した。
【0130】
図19より、実験1において良好な結果が得られた実施例A~Cは比較例D~Hに比べ
偏流指数が小さく、鋳型内の流動が安定していることが分かった。これは、浸漬ノズルが本発明に規定する機能を有する内部障壁及び分配ブロックおよびそれらを含む流路構造を備えることにより、浸漬ノズル上部下降流の偏りに起因する時間平均的な偏流を抑制する効果が発揮され、その結果、鋳型内流動の偏りをも抑制しうることを示している。すなわち、本発明の浸漬ノズルは、吐出流分配に対するセルフスタビライジング機能を有し、外乱に起因する時間平均的な偏流現象を抑制する効果を発揮することがわかる。
【0131】
ここで、実施例Aと比較例Dを比較すると、これらは内部障壁が凹部を有するか否かの違いである。
図19より、実施例Aは比較例Dに比べて結果が優れている。このことから、内部障壁が凹部を有することによりセルフスタビライジング機能が向上すると考えられる。
【0132】
実施例Bと比較例Eとを比較すると、これらの違いは、水平面に投影した上部流路の面積に対し水平面に投影した内部障壁の面積がどの程度大きいかの違いである。
図19より、実施例Bは比較例Eよりも結果が優れており、水平面に投影した内部障壁の面積が水平面に投影した上部流路の面積に対して大きい場合、セルフスタビライジング機能が向上すると考えられる。
【0133】
実施例Bと比較例Fとを比較すると、これらの違いは、主に外側吐出孔と内側吐出孔の吐出角度差の違いである。
図19より、実施例Bは比較例Fよりも結果が優れていた。このことから、吐出角度の差が小さい本発明の実施例Bにおいては、各外側吐出流量に差異が生じ、その差異を各内側吐出孔からの吐出流量で補償するセルフスタビライジング機能が生じた際に、各内側吐出孔からの吐出流が直ちに各外側吐出孔からの吐出流に合流することによって、上記セルフスタビライジング機能が鋳型内流動の左右バランスの維持に強く寄与することができると考えられる。
【0134】
本発明のセルフスタビライジング機能を全く有さない比較例Hは、最も左右不均等な鋳型内流動を形成した。
【0135】
以上の実験1、2で示された通り、本発明の浸漬ノズルは外乱による時間平均的な偏流現象、及び流れの揺らぎによって生じる自励振動的な偏流現象の両方に対し、セルフスタビライジング効果を発揮し、安定した鋳型内流動を維持することができる。