IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社三井ハイテックの特許一覧

特開2024-124134回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置
<>
  • 特開-回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置 図1
  • 特開-回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置 図2
  • 特開-回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置 図3
  • 特開-回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置 図4
  • 特開-回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置 図5
  • 特開-回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置 図6
  • 特開-回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置 図7
  • 特開-回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置 図8
  • 特開-回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置 図9
  • 特開-回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置 図10
  • 特開-回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置 図11
  • 特開-回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置 図12
  • 特開-回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置 図13
  • 特開-回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124134
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20240905BHJP
   H02K 3/34 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
H02K15/02 D
H02K3/34 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032096
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】牧 清久
【テーマコード(参考)】
5H604
5H615
【Fターム(参考)】
5H604AA08
5H604CC01
5H604CC05
5H615AA01
5H615PP01
5H615PP08
5H615SS33
(57)【要約】
【課題】 鉄心本体の塗装対象箇所以外への塗料の接触をマスク体で防止して、鉄心本体への塗装を効率よく行うことができ、絶縁部形成に係る作業効率を向上させられる、回転電機のコア部製造方法を提供する。
【解決手段】 鉄心本体11に対し、マスク体33cを鉄心本体11に接触させ、スロット13の径方向の開口を塞ぐ。こうして鉄心本体11のスロット13に面する表面をスロット13と共に外部から隔離して、スロット13に導入される塗料をスロット13に保持して塗装を行える。これにより、塗装の必要のない箇所への塗料の付着を防止でき、塗料を無駄なく効率的に使用でき、塗料の使用に係るコストを抑えられる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性金属材料製の薄板が複数積層されて形成される鉄心本体に対し、当該鉄心本体の少なくとも一部に絶縁部を配設して、回転電機の回転子又は固定子の一部をなすコア部を製造する、コア部製造方法において、
前記鉄心本体における、径方向の一端面に位置する複数のスロットの開口を、所定のマスク体で閉塞した状態で、前記スロットに塗料を入れ、鉄心本体のスロットに面する表面に前記絶縁部となる塗膜を形成する、塗装工程を少なくとも含み、
前記マスク体が、膨張収縮可能な弾性体とされ、膨張状態で前記鉄心本体の径方向の一端面に接して、前記スロットの開口を閉塞することを
特徴とする回転電機のコア部製造方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載の回転電機のコア部製造方法において、
前記マスク体が、弾性変形可能なシート材で形成され、円筒面状の外周面又は内周面を有するマスク保持部の前記外周面又は内周面に沿って配設され、
前記塗装工程で、前記マスク体を前記鉄心本体の径方向の一端面に対向させ、前記マスク保持部とマスク体との間に流体を圧入されて、前記マスク体を膨張させ、前記鉄心本体の径方向の一端面に前記マスク体を当接させて、前記スロットの開口を閉塞することを
特徴とする回転電機のコア部製造方法。
【請求項3】
前記請求項1に記載の回転電機のコア部製造方法において、
前記マスク体が、前記鉄心本体の径方向の一端面に接触する部分に隣接し、鉄心本体に接触せず前記スロットに面する非接触部を有し、
前記塗装工程で、前記マスク体が前記鉄心本体の径方向の一端面に接触すると共に、マスク体の前記非接触部が前記スロット内に凸状に突出する状態まで、マスク体を膨張させることを
特徴とする回転電機のコア部製造方法。
【請求項4】
前記請求項1に記載の回転電機のコア部製造方法において、
前記マスク体が、前記鉄心本体の薄板積層方向の寸法より大きく形成され、
前記塗装工程で、前記マスク体が、前記鉄心本体に対し薄板積層方向の両側にはみ出した状態で、前記スロットの開口を閉塞することを
特徴とする回転電機のコア部製造方法。
【請求項5】
磁性金属材料製の薄板が複数積層されて形成される鉄心本体に対し、当該鉄心本体の少なくとも一部に絶縁部を配設して、回転電機の回転子又は固定子の一部をなすコア部を製造する、コア部製造装置において、
前記鉄心本体における径方向の一端面に位置する複数のスロットの開口を閉塞可能とするマスク体を備え、
当該マスク体が、膨張収縮可能な弾性体とされ、膨張状態で前記鉄心本体の径方向の一端面に接して、前記スロットの開口を閉塞することを
特徴とする回転電機のコア部製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の固定子又は回転子におけるコア部の製造方法に関し、特に鉄心の一部表面に絶縁部を配設する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機や発電機といった回転電機の固定子又は回転子において、コイルを配設されるコアには、積層鉄心が一般に用いられる。このコアをなす積層鉄心は、通常、環状のヨーク部と、このヨーク部から突出して放射状に配置される複数のティース部とを有しており、コイルは積層鉄心の各ティース部に巻回状態で配設される。
積層鉄心では、防錆や、積層鉄心とコイルとの間の絶縁状態を確実にするなどの目的で、積層鉄心の表面に、絶縁膜を配設するのが一般的であった。
【0003】
こうした従来のコア部をなす積層鉄心に絶縁膜を設ける具体的な方法としては、電着塗装が一つの例として挙げられる。この電着塗装により絶縁膜を設ける方法の例として、特開平5-268738号公報や特開平6-327199号公報に開示されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-268738号公報
【特許文献2】特開平6-327199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の積層鉄心への電着塗装は、前記各特許文献に示される方法でなされており、積層鉄心の表面全体に電着塗装を行い、積層鉄心全体を覆う塗膜を形成するものとなっている。
積層鉄心のコイルに対する絶縁を確実にするために絶縁膜を設ける場合、積層鉄心において絶縁膜を設けるべき箇所は、積層鉄心表面のうち、コイルの通る箇所の周囲である。具体的には、積層鉄心表面のうち、スロットに面するヨーク部の内周面及びティース部の側面であり、本来はこれらの部位にのみ絶縁膜を形成するための電着塗装を行えばほぼ事足りる。
【0006】
しかしながら、従来の方法では、積層鉄心全体に電着塗装を行っていたことから、必要のない部位まで塗膜を付けることになり、電着塗料を無駄に消費してしまう他、場合によっては塗装後に一部の塗膜を除去する手間がかかるという課題を有していた。
【0007】
これに対し、積層鉄心において絶縁膜の配設が必要な箇所にのみ、電着塗料を接触させて電着塗装で塗膜を形成することが考えられる。この場合、塗装を行わない部分をマスク用治具でマスキングする必要がある。ただし、こうしたマスク用治具の積層鉄心への装着は、手間がかかり、生産性を低下させるという新たな問題が生じる。
【0008】
特に、積層鉄心のスロットに面する表面を塗装対象としてマスク用治具を取り付ける場合、スロットを複数方向からそれぞれ閉塞する複数のマスク用治具が必要となる。これらの治具をスロットからの塗料の漏れが生じない状態で適切に配置することは困難であった。
【0009】
また、電着塗装に際しては、流動性の高い電着塗料に積層鉄心が接する状態で行われることから、積層鉄心をなす金属薄板間の微小隙間に電着塗料が浸透して、積層鉄心の積層方向寸法増大や、鉄心の平坦性、真直性の悪化などを招くおそれがあった。
【0010】
一方、このような電着塗料の隙間への浸透を防ぐため、積層鉄心をその積層方向に加圧して薄板間の隙間をなくすような加圧用治具を積層鉄心に装着することも考えられる。しかし、その場合には、積層鉄心の周囲に加圧用治具が加わることで、マスク用治具の配置がさらに困難なものになるという問題が生じる。
【0011】
加えて、電着塗装で得られた塗膜は、一般に加熱によって、硬化した完成状態に到る。加熱の工程で、塗装後の塗膜を安定的に保持するために加圧用治具やマスク用治具を積層鉄心に取り付けたまま加熱を行う場合、こうした加圧用治具やマスク用治具も高温にさらされる。このため、これらの治具には耐熱性が求められることとなり、使用できる材質が限られる分、高コストとなるおそれがある。
【0012】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、鉄心本体の塗装対象箇所以外への塗料の接触をマスク体で防止して、鉄心本体への塗装を効率よく行うことができ、絶縁部形成に係る作業効率を向上させられる、回転電機のコア部製造方法、及び、このコア部製造方法を適用するコア部製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の開示に係る回転電機のコア部製造方法は、磁性金属材料製の薄板が複数積層されて形成される鉄心本体に対し、当該鉄心本体の少なくとも一部に絶縁部を配設して、回転電機の回転子又は固定子の一部をなすコア部を製造する、コア部製造方法において、前記鉄心本体における、径方向の一端面に位置する複数のスロットの開口を、所定のマスク体で閉塞した状態で、前記スロットに塗料を入れ、鉄心本体のスロットに面する表面に前記絶縁部となる塗膜を形成する、塗装工程を少なくとも含み、前記マスク体が、膨張収縮可能な弾性体とされ、膨張状態で前記鉄心本体の径方向の一端面に接して、前記スロットの開口を閉塞するものである。
【0014】
このように本発明の開示によれば、回転電機のコア部をなす鉄心本体に対し、マスク体を鉄心本体に接触させ、スロットの径方向の開口を閉塞する。こうして、絶縁部の配設予定箇所となる鉄心本体のスロットに面する表面をスロットと共に外部から隔離して、スロットに導入される塗料を外に漏らすことなくスロットに保持して塗装が行えることとなる。これにより、塗装の必要のない箇所への塗料の付着を防止でき、塗料を無駄なく効率的に使用でき、塗料の使用に係るコストを抑えられると共に、塗装対象箇所以外への塗料の付着に伴う後処理の手間やメンテナンスコストの増大を阻止できる。また、マスク体により鉄心本体の塗装対象箇所の他からの隔離を容易且つ速やかに実行でき、マスキングの作業の自動化も問題なく行え、生産性向上を図りやすい上、マスク体は繰り返し使用でき、ランニングコストや環境負荷を抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施形態に係るコア部製造装置の概略構成図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係るコア部製造装置の概略断面説明図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係るコア部製造装置の上端面マスク部及び加圧治具取り外し状態の概略平面図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係るコア部製造装置における径方向マスク部の一部切欠側面図である。
図5図5(a)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造装置における径方向マスク部のマスク体膨張前状態説明図であり、図5(b)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造装置における径方向マスク部のマスク体膨張後状態説明図である。
図6】本発明の第1の実施形態に係るコア部製造装置における径方向マスク部によるスロット閉止状態説明図である。
図7】本発明の第1の実施形態に係るコア部製造装置における径方向マスク部のマスク体による鉄心本体内周面の押圧状態拡大説明図である。
図8】本発明の第1の実施形態に係るコア部製造装置における上下端面マスク部の要部断面図である。
図9図9(a)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法で得られたコア部の平面図であり、図9(b)は図9(a)のA部拡大図である。
図10図10(a)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造装置における第1の他例の径方向マスク部によるスロット閉止状態説明図であり、図10(b)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造装置における第1の他例の径方向マスク部のマスク体による鉄心本体内周面の押圧状態拡大説明図である。
図11図11(a)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造装置における第2の他例の径方向マスク部によるスロット閉止状態説明図であり、図11(b)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造装置における第2の他例の径方向マスク部のマスク体による鉄心本体内周面の押圧状態拡大説明図である。
図12】本発明の第2の実施形態に係るコア部製造装置の概略断面説明図である。
図13図13(a)は本発明の第2の実施形態に係るコア部製造装置における径方向マスク部のスロット閉止前状態説明図であり、図13(b)は本発明の第2の実施形態に係るコア部製造装置における径方向マスク部によるスロット閉止状態説明図である。
図14図14(a)は本発明の第2の実施形態に係るコア部製造装置における他の径方向マスク部のスロット閉止前状態説明図であり、図14(b)は本発明の第2の実施形態に係るコア部製造装置における他の径方向マスク部によるスロット閉止状態説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る回転電機のコア部製造方法を図1図8に基づいて説明する。本実施形態においては、回転電機としての電動機における固定子の一部をなすコア部を製造する方法の例について説明する。
【0017】
各図において本実施形態に係るコア部製造方法は、鉄心本体11における絶縁部15の配設予定箇所を、所定のマスク機構30で配設予定箇所以外の部分から隔離した上で、配設予定箇所に対し塗装を行う塗装工程を少なくとも含むものである。この塗装工程では、マスク機構30により鉄心本体11のスロット13を外部から隔離した状態としてから、スロット13に電着塗料を注入する。そして、鉄心本体11を通じた通電により電着塗装を実行し、スロット13に面する配設予定箇所に絶縁部15となる塗膜81を形成することとなる。
【0018】
本実施形態に係るコア部製造方法を適用するコア部製造装置1は、加圧治具20で加圧された状態にある鉄心本体11に対し、絶縁部15の配設予定箇所である鉄心本体11の各スロット13に面する表面への電着塗装を施す塗装工程を実行するものである。詳細には、コア部製造装置1は、加圧治具20を取り付けられて加圧された状態にある鉄心本体11における絶縁部15の配設予定箇所を他から隔離して、この箇所のみへ電着塗料80を導けるようにするマスク機構30を備える構成である。加えて、コア部製造装置1は、電着塗装のために電着塗料80に通電する通電機構40を備える構成である。
【0019】
本実施形態に係るコア部製造方法により製造されるコア部10は、磁性金属材料製の薄板11aを複数積層して形成される鉄心本体11と、この鉄心本体11の一部の表面に設けられる樹脂製の絶縁部15とを備える構成である(図9参照)。このコア部10は、コイルを巻回状態で配設されることで、回転電機(電動機や発電機)の固定子をなす、公知の構造を有するものであり、詳細な説明を省略する。
【0020】
鉄心本体11は、磁性金属材料製の薄板11aを複数積層して形成される積層鉄心である。この鉄心本体11をなす薄板11aは、電磁鋼やアモルファス合金等からなる薄板材から打抜き形成されるものである。
【0021】
鉄心本体11は、環状のヨーク部11bと、このヨーク部11bの内周側から突出して放射状に配置される複数のティース部11cとを備える構成である。鉄心本体11におけるヨーク部11b及び隣り合うティース部11cの間が、薄板積層方向に連続するスロット13とされる。そして、鉄心本体11の中央部には、薄板積層方向に貫通すると共にスロット13に通じる中心孔14が設けられる。
【0022】
鉄心本体11のスロット13は、コイルを設けるための隙間であり、複数等間隔で設けられ、鉄心本体11中央の回転子の配設位置となる空間である中心孔14に通じている。なお、鉄心本体において、全てのスロットが等間隔で設けられる必要はなく、一部異なる間隔であってもかまわない。
【0023】
こうした各スロット13に面する鉄心本体11の表面、すなわち、スロット13に面する、ヨーク部11bの内周面及びティース部11cの側面が、絶縁部15の配設予定箇所とされて、塗装工程等を経て絶縁部15を配設される。
【0024】
絶縁部15は、電着塗料80の電着塗装により形成された塗膜81を加熱して硬化させた絶縁樹脂膜であり、鉄心本体11の各スロット13に面する表面に密着一体化させて配設されるものである。
【0025】
電着塗料80は、電着塗装用の導電性のある塗料液であって、通電によって一方の電極をなす被塗装物表面に塗膜形成成分を析出させて不溶性の塗膜を形成可能な公知の組成を有するものであり、詳細な説明を省略する。
【0026】
絶縁部15は、スロット13に面するヨーク部11b及びティース部11cの各表面で、鉄心本体11をなす薄板11a間にある凹状部分を全て埋め、薄板11a端部を覆うように配設される。これにより、絶縁部15は、スロット13に面する鉄心本体11の表面の絶縁状態を確保すると共に、積層されて隣り合う薄板11a同士の連結強化に寄与する。また、絶縁部15は、これで覆われる鉄心本体11の表面に対する防錆効果も有することとなる。
【0027】
加圧治具20は、鉄心本体11の薄板積層方向両端面に接してこれを押圧する二つの治具プレート21と、これら治具プレート21を連結する連結部22とを備えるものである。連結部22は、治具プレート21同士を近付ける向きに付勢して、治具プレート21から鉄心本体11の端面への押圧力を生じさせるものである。
加圧治具20は、各治具プレート21を鉄心本体11の薄板積層方向両端面にそれぞれ当接させ、連結部22により付勢された二つの治具プレート21で鉄心本体11を挟持加圧する。これにより、鉄心本体11をなす各薄板11a間から電着塗料80の浸入可能な隙間をなくすことができる。
【0028】
この加圧治具20の治具プレート21には、鉄心本体11に対しマスク機構30による隔離が適切に行えるように、マスク機構30の一部を貫通させて、この一部を鉄心本体11の薄板積層方向の端面に接触可能とするための孔21aが設けられる。
【0029】
コア部製造装置1のマスク機構30は、鉄心本体11における絶縁部15の配設予定箇所としての、鉄心本体11の各スロット13に面する表面を、これら以外の部分から隔離し、配設予定箇所に対してのみ塗装工程による塗装を行えるようにするものである。
【0030】
マスク機構30は、上端面マスク部31と、下端面マスク部32と、径方向マスク部33とを備える構成である。上端面マスク部31は、鉄心本体11の薄板積層方向の上端面に接してスロット13の薄板積層方向の上側開口を閉塞可能とするものである。下端面マスク部32は、鉄心本体11の薄板積層方向の下端面に接してスロット13の薄板積層方向の下側開口を閉塞可能とするものである。径方向マスク部33は、鉄心本体11における径方向の一端面に接してスロット13の径方向の開口を閉塞可能とするものである。
【0031】
また、マスク機構30は、各マスク部の他に、案内部50と、流体給排手段60とを有する構成である。案内部50は、径方向マスク部33に接して、径方向マスク部33が鉄心本体11に対し特定方向にのみ移動するよう案内するものである。流体給排手段60は、径方向マスク部33に接続され、径方向マスク部33に対し所定の流体を出し入れ可能とするものである。
【0032】
マスク機構30をなす上端面マスク部31、下端面マスク部32、及び径方向マスク部33は、鉄心本体11を保持しつつ、各スロット13を外部に対し閉塞してこれらのスロット13に電着塗料80を注入可能とするものである。これにより、絶縁部15の配設予定箇所である鉄心本体11の各スロット13に面する表面のみが電着塗装の対象(被塗装物)となるようにすることができる。そして、通電機構40で電着塗料80に対し通電した際には、鉄心本体11の各スロット13に面する表面のみで電着塗装を進行させられることとなる。
【0033】
上端面マスク部31及び下端面マスク部32は、これら上下の端面マスク部間に搬入された鉄心本体11を、その薄板積層方向両側から挟持しつつ、鉄心本体11におけるスロット13の薄板積層方向の開口を閉塞するものである。
上端面マスク部31及び下端面マスク部32は、鉄心本体11を挟持する状態で鉄心本体11の中心孔14と重なる位置に、鉄心本体11の中心孔14と同じ径の孔を設けられ、この孔に径方向マスク部33を配置可能とされる。
また、上端面マスク部31及び下端面マスク部32により鉄心本体11を挟持する状態で、鉄心本体11の中心孔14の中央にあたる位置には、案内部50が配設され、鉄心本体11の中心孔14に対し挿脱される径方向マスク部33を案内可能とされる。
【0034】
これら上端面マスク部31及び下端面マスク部32による、鉄心本体11の挟持状態で、鉄心本体11の薄板積層方向の上下端面に加わる押圧力は、加圧治具20による加圧力より小さく、鉄心本体11各部を変形させない程度の適切な大きさとする。例えば、後工程のティース部11cへのコイル巻回時に加わる圧力程度、となるようにするのが望ましい。
【0035】
上端面マスク部31は、加圧治具20を取り付けられた状態の鉄心本体11の上方に位置して、下端面マスク部32と共に鉄心本体11を加圧治具20ごと挟持しつつ、鉄心本体11におけるスロット13の上側の開口を塞ぐものである。
この上端面マスク部31は、鉄心本体11の薄板積層方向の上端面に当接する弾性材製のマスク体31aと、このマスク体31aを支える硬質の基板部31bとを備える構成である。また、上端面マスク部31は、鉄心本体11の各スロット13に連通して電着塗料80等を流通させられる液通路31cを設けられる構成である。
【0036】
上端面マスク部31のマスク体31aは、シリコーン樹脂からなる弾性体である。ただし、マスク体31aに、微小な凹凸などへの形状追従性に優れ、且つ耐溶剤性や耐薬品性の高い他の弾性材、例えば、フッ素系樹脂やウレタン系樹脂等を用いる構成としてもかまわない。このマスク体31aには、加圧治具20の孔21aに対し上方から挿入可能な下向きの突出部31dが形成され、このマスク体31aにおける突出部31dが孔21aを通じて鉄心本体11の上端面に接触可能とされる。
【0037】
マスク体31aの突出部31dは、スロット13より幅広形状とされ、スロット13周囲の鉄心本体11の上端面に接しつつ、スロット13の上側の開口を塞ぐことができる。
このマスク体31aは、下向きの突出部31dを含め、その内周部分が鉄心本体11の中心孔14に面する内周面と同じ径となる面とされる。
【0038】
上端面マスク部31の液通路31cは、上端面マスク部31内で複数分岐する通路として設けられる構成である。液通路31cは、その一方の開口を上端面マスク部31の側面に一つ設けられると共に、他方の開口を上端面マスク部31における鉄心本体11の各スロット13に対応する箇所にそれぞれ設けられ、鉄心本体11の各スロット13に連通するようにされる。
【0039】
詳細には、上端面マスク部31と下端面マスク部32とで鉄心本体11が挟持された状態において、マスク体31aの各突出部31dにおけるスロット13に面する部位に、液通路31cの他方の開口が設けられる。上端面マスク部31の側面に設けられる液通路31cの一方の開口は、電着塗料80等のスロット13に流通させる液剤の供給口又は排出口とされる。
【0040】
下端面マスク部32は、上下の端面マスク部間に搬入された鉄心本体11の下方に位置して上端面マスク部31と共に鉄心本体11を挟持しつつスロット13の下側の開口を塞ぐものである。この下端面マスク部32は、鉄心本体11の薄板積層方向の下端面に当接する弾性材製のマスク体32aと、このマスク体32aを支える硬質の基板部32bとを備える構成である。また、下端面マスク部32は、鉄心本体11の各スロット13に連通して電着塗料80等を流通させられる液通路32cを設けられる構成である。
【0041】
下端面マスク部32のマスク体32aは、上側のマスク体31a同様、シリコーン樹脂からなる弾性体であるが、他の弾性材を用いる構成とすることもできる。マスク体32aには、加圧治具20の孔21aに対し下方から挿入可能な上向きの突出部32dが形成され、このマスク体32aにおける突出部32dが孔21aを通じて鉄心本体11の下端面に接触可能とされる。
【0042】
マスク体32aの突出部32dは、スロット13より幅広形状とされ、スロット13周囲の鉄心本体11の下端面に接しつつ、スロット13の下側の開口を塞ぐことができる。
このマスク体32aは、上向きの突出部32dを含め、その内周部分が鉄心本体11の中心孔14に面する内周面と同じ径となる面とされる。
【0043】
下端面マスク部32の液通路32cは、下端面マスク部32内で複数分岐する通路として設けられる構成である。液通路32cは、その一方の開口を下端面マスク部32の側面に一つ設けられると共に、他方の開口を下端面マスク部32における鉄心本体11の各スロット13に対応する箇所にそれぞれ設けられ、鉄心本体11の各スロット13に連通するようにされる。
【0044】
詳細には、上端面マスク部31と下端面マスク部32とで鉄心本体11が挟持された状態において、マスク体32aの各突出部32dにおけるスロット13に面する部位に、液通路32cの他方の開口が設けられる。下端面マスク部32の側面に設けられる液通路32cの一方の開口は、電着塗料80等のスロット13に流通させる液剤の排出口又は供給口とされる。
【0045】
上下の端面マスク部には、必要に応じて、側面に設けられた凸部又は凹部とそれぞれ係合して、各端面マスク部における鉄心本体11の薄板積層方向以外の向きへの動きを拘束する位置決め体34が設けられる。位置決め体34の拘束により、一方の端面マスク部の他方の端面マスク部に対する横方向へのずれなどの不要な動きを防止することができる。
【0046】
径方向マスク部33は、鉄心本体11が上端面マスク部31と下端面マスク部32により挟持された状態で、鉄心本体11の中心孔14に挿入されて、スロット13の径方向の開口、すなわち、スロット13の中心孔側の開口を閉塞可能とするものである。
【0047】
径方向マスク部33は、詳細には、円筒面状の外周面を有して、鉄心本体11に対し相対移動可能に設けられるマスク保持部33aと、弾性変形可能な弾性体で形成され、マスク保持部33aの外周面に沿って配設されるマスク体33cとを備える構成である。
そして、径方向マスク部33は、これに接続された流体給排手段60により、マスク保持部33aとマスク体33cとの間に、所定の流体を出し入れして、マスク体33cを変形可能とする構成である。
径方向マスク部33に対し、流体給排手段60によって出し入れされる流体は、空気等の気体や、油等の液体を用いることができるが、マスク保持部33a及びマスク体33cの材質に与える影響や仮に漏れた場合の問題の少なさから、空気を用いるのが好ましい。
【0048】
マスク保持部33aは、容易に変形しない硬質の材質、例えば金属製とされ、鉄心本体11の中心孔14に挿入可能な大きさの、円筒面状の外周面を有する円柱体として形成される構成である。
また、マスク保持部33aは、上端面マスク部31と下端面マスク部32により挟持された状態にある鉄心本体11に対し、鉄心本体11の中心孔14に挿脱可能となるように配設される構成である。詳細には、マスク保持部33aは、このマスク保持部33aをなす円柱体の中心軸方向を鉄心本体11の薄板積層方向に対し平行とする向きで、鉄心本体11に対しその薄板積層方向に移動可能として配設される。
【0049】
そして、マスク保持部33aは、このマスク保持部33aをなす円柱体の中心軸方向の大きさを、鉄心本体11の薄板積層方向の厚さより大きくされる構成である。このため、塗装工程で径方向マスク部33を鉄心本体11の中心孔14に挿入し、径方向マスク部33によりスロット13の中心孔側の開口を閉塞する際に、マスク保持部33aは、鉄心本体11に対しその薄板積層方向の両側にはみ出す状態となる。
【0050】
マスク保持部33aは、上端面マスク部31と下端面マスク部32間に挟持された状態の鉄心本体11における中心孔14内に位置する円柱状の案内部50を通す孔33bを設けられる。マスク保持部33aは、孔33bに面する内周面を案内部50の外周面に接するようにして孔33bに案内部50を挿通しつつ移動して、鉄心本体11の中心孔14に対し挿脱されることとなる。
【0051】
マスク保持部33aは、案内部50に対し摺動して案内部50に案内される状態となることで、鉄心本体11に対しその中心孔14内で鉄心本体11の薄板積層方向のみに移動し、鉄心本体11の径方向への位置ずれを抑えられる仕組みである。すなわち、径方向マスク部33が、鉄心本体11の中心孔14に対する挿脱に係る移動を行っても、周囲の鉄心本体11に接触しない状態を維持しやすく、マスク体33cや鉄心本体11の損傷抑制が図れることとなる。
【0052】
一方、マスク保持部33aは、その内部に連続する別の孔33eを設けられる構成である。この孔33eは、一方の開口をマスク保持部33aの外周面に設けられており、孔33eを通じて、マスク保持部33aの外周面と、この外周面に沿って配設されるマスク体33cとの間に、流体を流通させられる仕組みである。
また、マスク保持部33aの外周面には、孔33eを通じての、マスク保持部33aの外周面とマスク体33cとの間に対する流体の流入出を促すための溝33gが、所定の向き、例えば、マスク保持部33aの周方向や長手方向、に連続させて一又は複数設けられる。
そして、マスク保持部33aには、マスク保持部33aの孔33eと通じるように流体給排手段60が接続される。
【0053】
マスク保持部33aは、その外周面と孔33bとの間の内部を中実とされて形成される構成としているが、内部を中空とされる構成としてもよい。また、マスク保持部33aにおける流体を流通させるための孔33eは、一つに限らず、複数設けてもよい。さらに、マスク保持部自体を多孔質材で形成し、マスク保持部におけるマスク体のある外周面以外の箇所での流体の漏れを防ぎつつ、マスク保持部の外周面とマスク体との間に対し、流体をマスク保持部の内部及び外周面の任意の箇所を通じて流入出させる構成とすることもできる。
【0054】
なお、マスク保持部33aは、マスク体33cを支持でき、且つマスク保持部33aの外周面とマスク体33cとの間に流体を出し入れする際の流体の圧力が加わっても変形しない程度の強度を確保できれば、金属以外の任意の材質を用いてもかまわない。
【0055】
マスク体33cは、弾性材からなるシート状の円筒体として形成され、マスク保持部33aの外周面に沿って配設される構成である。マスク体33cは、マスク保持部33aにおける外周面の両端部又はマスク保持部33aの両端面に、外側からの締め付け等により容易に外れない状態として取り付けられる。マスク体33cは、塗装工程で、弾性変形して鉄心本体11の径方向の一端面としての内周面に接触し、スロット13の径方向の開口を閉塞可能とするものである。
【0056】
具体的には、マスク体33cは、塗装工程で、鉄心本体11における中心孔14に面する内周面に対向した状態において、流体給排手段60によりマスク保持部33aとマスク体33cとの間に流体を圧入される。これに伴い、マスク体33cは、マスク保持部33aの外周面に沿う当初位置から鉄心本体11の内周面に近付く向きに膨張する。この膨張により、マスク体33cは、鉄心本体11における中心孔14に面する内周面、すなわち、スロット13を挟むティース部11cの先端となる内周面、に接触し、スロット13の中心孔側の開口を閉塞可能とされる。
【0057】
一方、マスク体33cは、マスク保持部33aとマスク体33cとの間に流体を圧入されず膨張していない初期形状の状態では、鉄心本体11の内径より小さい外径となるように形成される。例えば、このマスク体33cの外径は、鉄心本体11の内径より1ないし数mm程度小さくされる。これにより、径方向マスク部33の鉄心本体11の中心孔14に対する挿入及び取り出し時には、膨張していないマスク体33cと鉄心本体11の内周面との間に十分な隙間を確保でき、接触を防止できる。
【0058】
さらに、必要に応じて、マスク保持部33aの孔33eを通じて流体の吸引を行って、マスク体33cをマスク保持部33aの外周面に密着させるようにしてもよい。例えば、径方向マスク部33の挿入及び取り出しの際に同時に吸引を行うようにすれば、マスク体33cをマスク保持部33aの外周面に密着させた状態で保持でき、マスク体33cが意図せずに動いて鉄心本体11に接触することを防げる。
この他、スロット13の開口の閉塞状態においては、流体給排手段60で、マスク保持部33aとマスク体33cとの間から、流体を吸引して流出させると、マスク体33cが鉄心本体11の内周面に対し離れる向きに収縮する。これにより、マスク体33cを鉄心本体11の内周面から離隔させ、スロット13の中心孔側の開口を開放できる仕組みである。
【0059】
また、マスク体33cは、このマスク体33cをなす円筒体の中心軸方向の大きさを、マスク保持部33aの場合と同様に、鉄心本体11の薄板積層方向の寸法より大きく形成される構成である。これに伴い、塗装工程でスロット13の中心孔側の開口を閉塞する際に、マスク体33cは、鉄心本体11の内周面に接しつつ、鉄心本体11に対しマスク保持部33aと共に薄板積層方向の両側にはみ出す状態となる。
【0060】
このため、仮に鉄心本体の積層厚さにばらつきがあり、通常より若干厚い鉄心本体がマスク機構30に導入された場合でも、鉄心本体の内周面に対しその薄板積層方向の全域にわたってマスク体33cを接触させられ、スロット13の閉塞状態を確保できる。
また、マスク体33cが鉄心本体11の薄板積層方向に十分な長さを有することで、マスク体33cの膨張時に、鉄心本体11と接触可能な範囲で略円筒状の均一な膨張状態が得られる。これにより、マスク体33cを鉄心本体11の内周面にむらなく密着させられ、スロット13の確実な閉塞が図れることとなる。
こうしたマスク保持部33a及びマスク体33cの大きさは、鉄心本体11の薄板積層方向の寸法より大きくする一方、鉄心本体11を挟持する上端面マスク部31と下端面マスク部32からははみ出さないように設定することが望ましい。
【0061】
鉄心本体11の薄板積層方向寸法より大きくされたマスク体33cは、スロット13の中心孔側の開口を閉塞する状態で、上端面マスク部31の内周と下端面マスク部32の内周にもそれぞれ面する。そして、マスク体33cは、膨張状態で上下端面マスク部31、32における各マスク体31a、32aの内周面に当接することとなる。
なお、これらマスク体33cにおけるこの鉄心本体11の薄板積層方向にはみ出す部分に対し、加圧治具20の治具プレート21の最も内側となる部位は、鉄心本体11の中心孔14に面する内周面と同じ径とされる。ただし、これらの部位は、マスク体33cとは接触しない配置とされており、マスク体33cの上下端面マスク部31、32における各マスク体31a、32aへ接触しようとする動きを妨げることはない。
【0062】
マスク体33cは、上下端面マスク部の各マスク体31a、32a同様、シリコーン樹脂からなる弾性体である。ただし、マスク体33cに、微小な凹凸などへの形状追従性に優れ、且つ耐溶剤性や耐薬品性の高い他の弾性材、例えば、フッ素系樹脂やウレタン系樹脂等を用いる構成としてもかまわない。
また、マスク体33cは、その機械的特性として、鉄心本体11の内周面に対する形状追従性や膨張変形のし易さ、当初形状への復元性を優れたものとする適度な硬さと、膨張変形時に破裂を起こさない十分な耐引裂き性を有することが望ましい。
こうしたマスク体33cの硬さは、例えば、硬さ(デュロメータA)20~50となるようにするのが望ましい。
【0063】
マスク体33cをなす弾性体は、上下の端面マスク部のマスク体31a、32aとは弾性変形し易さの度合いを異ならせたものとされる。例えば、マスク体33cは、マスク体31a、32aより弾性変形しやすい材質の弾性体とされる。この場合、マスク体33cとマスク体31a、32aとが接すると、マスク体33cに各マスク体31a、32aが相対的に食い込むようにそれぞれ弾性変形することとなる。なお、マスク体33cを、マスク体31a、32aと弾性変形し易さの度合いが同じとなるものにすることもできる。
【0064】
マスク体33cがスロット13の中心孔側の開口を閉塞する状態で、鉄心本体11の内周面に加わる押圧力は、鉄心本体11内部に残留応力を生じさせない程度の大きさとなるように設定される。この押圧力が加わる状態で、鉄心本体11の内周面に接するマスク体33cは、内周面をなす各薄板11a端部の形状の不揃いにより生じている、内周面の細かな凹凸を、隙間なく埋められる程度の十分な弾性変形性能を有するものとされる。
【0065】
マスク体33cがスロット13を閉塞する場合、マスク体33cの膨張は、鉄心本体11の内周面としての各ティース部11cの先端に接触するだけでなく、マスク体33cのスロット13に面する部分がスロット13側に凸状にはみ出す膨出状態となるまで行われる。また、変形性能に優れるマスク体33cの各部に均等に流体の圧力が加わることで、マスク体33cは鉄心本体内周面各部ごとの形状の差異に問題なく追随できる。
【0066】
このため、仮にティース部11cの先端位置のばらつきや、鉄心本体内周面の真直度などの幾何公差に基づく形状のばらつきがある場合でも、それらをマスク体33cの膨張に係る変形で吸収することができる。結果として、鉄心本体内周面各部の位置関係によるマスク体33cの接触圧力の強弱の差はほとんど発生せず、マスク体33cを各ティース部11cの先端に漏れなく当接、密着させられる。この密着させたマスク体33cにより確実なスロット閉塞状態が得られ、電着塗料等の液剤がスロット13から漏出することを防止できる。これにより、スロット13以外の鉄心本体他部位への塗料付着や液剤による変色等の影響を抑えられ、鉄心本体においてコア部として必要な品質を確保できる。
【0067】
また、鉄心本体11の内周面に接するマスク体33cが単一の部材とされることで、スロットを閉塞するマスク機構としての構造を簡略化でき、設備のコストを抑えられる。また、マスク機構を用いた塗装工程を多数回繰り返すと、マスク体の消耗等に伴い、マスク体を交換する必要が生じるが、一部材からなるマスク体の交換作業のみで済ませられ、保守性に優れる。すなわち、各ティース部ごとなどにマスクを行うような複数部材を交換する必要がなく、交換作業に手間がかからない上、多数の交換用部材を用意せずに済み、交換に係るコストを抑えられる。
【0068】
なお、径方向マスク部はこうした構成に限定されるものではなく、スロット13の中心孔側の開口に対する閉塞状態と開放状態を切替可能な他の構成としてもかまわない。
マスク体についても、例えば、マスク体をなす円筒状弾性材の位置ごとにおける膨張変形の起こりやすさの差異に対応して、鉄心本体の薄板積層方向でマスク体の厚さを異ならせる構成とすることもできる。具体的には、他部位より膨張変形度合いが大きくなりがちな、マスク体における薄板積層方向の中央部位で、マスク体の厚さを大として膨張変形を抑える一方、薄板積層方向の端の部位で厚さを小として膨張変形しやすくする構成とする。これにより、マスク体外面が円筒面状となる均一な膨張状態を得ることができ、鉄心本体内周面の薄板積層方向の各部で均一な接触状態を得やすく、好ましい。
【0069】
案内部50は、円柱状に形成され、上端面マスク部31と下端面マスク部32により挟持された状態にある鉄心本体11に対し、鉄心本体11の中心孔14の中央で鉄心本体11の薄板積層方向に起立する配置となるようにして設けられる構成である。
案内部50は、径方向マスク部33が鉄心本体11の中心孔14に挿入される際に、径方向マスク部33のマスク保持部33aにおける孔33bに相対的に挿入されて、外周面をマスク保持部33aにおける孔33b周囲の内周面と接触させる。これにより、案内部50は、鉄心本体11の中心孔14内で径方向マスク部33を鉄心本体11の薄板積層方向にのみ移動するよう案内及び拘束することができる。
【0070】
流体給排手段60は、径方向マスク部33のマスク保持部33aに接続され、マスク保持部33aの孔33eを通じて、マスク保持部33aとマスク体33cとの間に所定の流体を出し入れ可能とするものである。この流体給排手段60は、接続先の径方向マスク部33に向けて流体を送給する作動状態と、径方向マスク部33から流体を吸引する作動状態とを切替可能な公知の装置(例えば、吸排方向切換弁付きポンプや、逆転可能なポンプなど)であり、説明を省略する。
【0071】
通電機構40は、上端面マスク部31及び下端面マスク部32で挟持された状態の鉄心本体11の側面に接して電気的に接続される接続端子部41と、下端面マスク部32の液通路32c内に配設される電極部42とを備える構成である。電極部42は、下端面マスク部32の液通路32cを流通する電着塗料80に接してこれに通電可能とするものである。
【0072】
通電機構40をなす接続端子部41と電極部42は、外部の電源とそれぞれ接続されて、接続端子部41と導通する鉄心本体11と電着塗料80内の電極部42との間で通電状態とするものである。これにより、電着塗料80の接する塗装対象である、スロット13に面する鉄心本体表面への電着塗装を実行可能とする。
【0073】
次に、本実施形態に係るコア部製造方法による塗装工程について説明する。
前提として、あらかじめ、公知の製法により、薄板材から打抜いた複数の薄板11aを積層した鉄心本体11が得られているものとする。そして、鉄心本体11は、所定の移送機構によりコア部製造に係る各工程に移送されるものとする。
【0074】
鉄心本体11は、まず、加圧治具装着工程として、所定の加圧治具装着機構(図示を省略)により加圧治具20を取り付けられる。鉄心本体11は、この加圧治具20における二つの治具プレート21により薄板積層方向の両端面に押圧力を受けることで、薄板積層方向の両側から加圧され、鉄心本体11をなす薄板11a同士が隙間なく密着した状態とされる。
【0075】
この加圧治具20を取り付けられる際、鉄心本体11をなす各薄板11aについて周方向の位置決めがなされる。位置決めは、治具側の位置決め用のピン等の部材に対し、鉄心本体11をなす各薄板11aに設けられているボルト孔や切欠きなどの位置決め基準となる箇所を合わせるようにして行われる。薄板11a側の位置決め基準としては、スロットを用いるようにしてもよく、また、薄板同士の仮カシメを行う場合には、カシメが施されて後から除去される突出部、又はこの突出部を除去した後に生じる凹部など、を用いるようにしてもかまわない。
こうして加圧治具装着工程で加圧治具20を取り付けられた鉄心本体11は、加圧治具20ごと次の脱脂洗浄工程へ移送される。
【0076】
脱脂洗浄工程では、鉄心本体11は各スロット13に液状の洗浄剤を注入されて、スロット13に面する表面を脱脂洗浄される。脱脂洗浄が十分進んだら、洗浄剤をスロット13から排出し、乾燥させる。洗浄剤の種類によっては、排出後、水洗を実行して洗浄剤を確実に除去し、さらに必要に応じて空気を送り込んで水分も除去する。
【0077】
脱脂洗浄工程の後、下処理工程として、中和剤をスロット13に注入し、脱脂洗浄で用いられた洗浄剤による鉄心本体表面への影響を中和する。そして、中和剤のスロット13からの排出後、水洗を実行して、中和剤を除去すると共に、鉄心本体表面を電着塗装が適切に行える状態に整える。
【0078】
これら脱脂洗浄工程、及び、下処理工程は、使用する洗浄剤や中和剤等を塗装対象箇所に面するスロット13に注入して各工程を進める点を除いて、公知の電着塗装における被塗装物表面に対しなされる各工程と同様のものであり、詳細な説明を省略する。
【0079】
こうして下処理工程を経た鉄心本体11に対し、塗装工程が実行される。
塗装工程では、まず、鉄心本体11を、加圧治具20ごと、マスク機構30の上端面マスク部31と下端面マスク部32との間に配置する。
【0080】
上下の端面マスク部間に配置された鉄心本体11に対し、上端面マスク部31におけるマスク体31aの突出部31dを、加圧治具20の上側の治具プレート21の孔21aから挿入して、鉄心本体11の上端面におけるスロット13周りの露出部分に当接させる。また、下端面マスク部32におけるマスク体32aの突出部32dを、加圧治具20の下側の治具プレート21の孔21aから挿入して、鉄心本体11の下端面におけるスロット13周りの露出部分に当接させる。これにより、上端面マスク部31と下端面マスク部32とで鉄心本体11が挟持され、合わせて鉄心本体11のスロット13における薄板積層方向の開口を全て閉塞できる。こうして鉄心本体11を上端面マスク部31と下端面マスク部32との間に配置すると、同時に鉄心本体11の中心孔14に案内部50が相対的に挿入された状態となる。案内部50は、下端面マスク部32側に支持され、鉄心本体11の中心孔14に対し、下から挿入される形となるが、これに限られるものではない。例えば、上端面マスク部側に案内部を位置させ、鉄心本体11の中心孔14に対し、案内部を相対的に上から挿入する構成とすることもできる。
【0081】
鉄心本体11が、この鉄心本体11を加圧する加圧治具20ごと、上端面マスク部31と下端面マスク部32の間に配置され、これら上下の端面マスク部で挟持されたら、鉄心本体11の中心孔14に径方向マスク部33を上から挿入する。径方向マスク部33は、鉄心本体11の中心孔14に挿入されつつ、中心の孔33bに柱状の案内部50を相対的に挿入されて、この案内部50により挿入方向以外に動かないよう案内される。
鉄心本体11の中心孔14に挿入された径方向マスク部33が、鉄心本体11に対し適切な位置に達したら、径方向マスク部33を停止させ、鉄心本体11に対し位置決めされた固定状態とする。
【0082】
続いて、鉄心本体11の中心孔14で固定状態とされた径方向マスク部33に対し、流体給排手段60で、マスク保持部33aとマスク体33cとの間に流体を圧入し、マスク体33cを膨張させる。こうして、マスク体33cの外周面を鉄心本体11の中心孔14に面する内周面に近付ける向きにマスク体33cを膨張変形させることで、マスク体33cは鉄心本体11の内周面に当接し、スロット13の中心孔側の開口を閉塞する。
【0083】
この時、径方向マスク部33のマスク体33cのうち、鉄心本体11の薄板積層方向の両側にはみ出した部分も、上端面マスク部31のマスク体31a内周面と、下端面マスク部32のマスク体32a内周面とに接して、弾性変形を伴って隙間なく密着する。なお、径方向マスク部33のマスク体33cと、上端面マスク部31のマスク体31a及び下端面マスク部32のマスク体32aとの弾性変形し易さの度合いは異なっている。このため、マスク体33cに各マスク体31a、32aが相対的に食い込むようにそれぞれ弾性変形する状態が得られ、マスク体同士の密着状態を確保して、スロット13から外部に通じる隙間の発生を防止できる。
【0084】
こうして、マスク機構30の各マスク部がスロット13を閉塞した状態で、径方向マスク部33のマスク体33cの膨張は、鉄心本体11の内周面、すなわち、スロット13を挟む各ティース部11cの先端に接触する程度に留まらない。具体的には、マスク体33cのうち、鉄心本体11の内周面ではなくスロット13に面する部分(非接触部33f)が、スロット13側にはみ出す状態となるまで膨張させられることとなる。これにより、膨張したマスク体33cは、鉄心本体11の内周面をなす各ティース部11cの先端に、確実に到達する状態となる。仮にティース部11cの先端位置にばらつきがある場合でも、マスク体33cはいずれのティース部11cの先端にも十分に密着でき、スロット13を確実に閉塞できる。
【0085】
図6及び図8に示すように、マスク機構30で鉄心本体の各スロット13を閉塞状態とした後、マスク機構30の上端面マスク部31と下端面マスク部32と、径方向マスク部33とで閉じられた空間、すなわち、スロット13に、電着塗料80を注入する。
【0086】
この電着塗料80の注入には、マスク機構30の外部に設けられ、液通路31cの上端面マスク部31側面の開口に接続された、電着塗料供給部(図示を省略)を用いる。電着塗料供給部に収容された電着塗料80を、この電着塗料供給部の塗料出口を開放状態とすることで、電着塗料供給部から上端面マスク部31の液通路31cを通じて、電着塗料80が鉄心本体11のスロット13に流入する。
【0087】
この時、下端面マスク部32の液通路32cを通じてスロット13内の空気を吸引するなどして、スロット13への上端面マスク部31の液通路31cを通じた電着塗料80の流入、及び、電着塗料80の液通路32cへの到達を促すようにしてもよい。
【0088】
この電着塗料80の注入は、電着塗料80の自然流下に基づくものの他に、電着塗料供給部内に収容された電着塗料80を、強制的に外部へ向けて押出し、上端面マスク部31の液通路31cを通じて、スロット13に圧入するようにして行うこともできる。
【0089】
電着塗料80の注入に際して、加圧治具20により、鉄心本体11に対しその薄板積層方向に所定荷重を加えていることで、鉄心本体11をなす各薄板11aの間に電着塗料80が漏れ出すことはない。
【0090】
また、スロット13を閉塞する各マスク部のマスク体31a、32a、33cには、これらを弾性変形させつつ鉄心本体11表面に密着させる押圧力が付与されている。よって、鉄心本体11と各マスク体31a、32a、33cとの間が開いて電着塗料80が漏れ出すこともない。
【0091】
絶縁部15の配設予定箇所となる、鉄心本体11表面に面するスロット13は、注入される電着塗料80の流通において十分大きな空間となっている。このため、電着塗料80の流動性が損なわれることはなく、スロット13全域に電着塗料80を無理なく均一に行き渡らせることができる。
【0092】
スロット13が電着塗料80で満たされると共に、電着塗料80が電極部42のある下端面マスク部32の液通路32cに達すると、電着塗料80の注入完了となる。この後、通電機構40の接続端子部41と電極部42に電圧を印加して、スロット13の電着塗料80に通電し、電着塗装を実行する。
【0093】
電着塗装では、電着塗料80への通電により、一方の電極をなす鉄心本体11のスロット13に面する表面に、帯電した塗料粒子(顔料、樹脂成分)が析出し、不溶性の塗膜81が形成される。
【0094】
マスク機構の各マスク部でスロット13を閉塞した状態において、径方向マスク部33のマスク体33cでは、鉄心本体11の内周面に接触する部分に隣接して、内周面に接触せずスロット13に面する非接触部33fが生じている。このマスク体33cの非接触部33fは、スロット13側に凸状にはみ出す状態となっている。これに伴い、電着塗装で生じる塗膜81の端部は、このマスク体33cにおける非接触部33fの形状に倣った略面取り形状となる(図7参照)。
【0095】
こうした電着塗装で、絶縁部15となる塗膜81が十分に形成されたら、スロット13に残った電着塗料80を下端面マスク部32の液通路32cを通じて流出させる。電着塗料80を排出してから、スロット13に水を注入して水洗を行い、余分な塗料を落とす。スロット13から除去した電着塗料の残りについては、必要に応じて塗料成分や水の分離、回収等の後処理が施される。
【0096】
なお、マスク機構30において、鉄心本体11の中心孔14に対し、径方向マスク部33が上から挿入される構成としているが、これに限られるものではない。例えば、上端面マスク部側に案内部や各マスク部及び鉄心本体の支持機構を位置させ、鉄心本体11の中心孔14に対し、径方向マスク部を下から挿入する構成とすることもできる。また、電着塗料80の注入方向についても、上からの注入に限らず、鉄心本体11のスロット13に対し下側から電着塗料80を注入してもかまわない。
【0097】
スロット13の水洗後、径方向マスク部33に対し、流体給排手段60で、マスク保持部33aとマスク体33cとの間から流体を吸引して抜き取り、マスク体33cを鉄心本体11の内周面から離れる方向に収縮変形させる。収縮変形により、マスク体33cを鉄心本体内周面から離すことで、スロット13を開放状態とする。そして、径方向マスク部33を中心孔14から抜き取って外れた状態とする。
さらに、上端面マスク部31を上昇させるか下端面マスク部32を下降させるかして、上端面マスク部31と下端面マスク部32による薄板積層方向における閉塞からもスロット13を開放状態とすると、塗装工程終了となる。塗膜81を設けた鉄心本体11は、上下の端面マスク部から離し、中心孔14から案内部50を相対的に抜いた上で、加圧治具20ごと上下の端面マスク部間から搬出され、次の加熱硬化工程に移送される。
【0098】
加熱硬化工程では、鉄心本体11を加熱された炉内に所定時間保持して、塗膜81を硬化させる。
塗膜81が硬化して絶縁部15が得られたら、鉄心本体11の各スロット13に面する表面に絶縁部15を一体化したコア部10として完成状態となる。
【0099】
加熱硬化工程の後、コア部10及び加圧治具20が、取り扱い可能な程度に温度を十分に低下させたら、コア部10から加圧治具20を外す。
加圧治具20を外されたコア部10は、コイルの配設等の後工程に供給される。
【0100】
続いて、本実施形態に係るコア部製造方法により得られるコア部について説明する。
コア部10は、塗装工程における電着塗装で鉄心本体11のスロット13に面する表面に絶縁部15を形成されている。このコア部10を構成する鉄心本体11は、塗装工程で、加圧治具20により、鉄心本体11の薄板積層方向に加圧され、積層された薄板11a間に隙間のない状態とされることから、スロット13に電着塗料80を導入しても、鉄心本体11をなす各薄板11aの間に電着塗料80が漏れ出すことはなく、薄板11aの間に塗膜は形成されない。
【0101】
このため、塗膜81を硬化させて絶縁部15を得た状態でも、薄板11aの間に塗膜の硬化したものは生じておらず、コア部10において薄板積層方向寸法の増大や、鉄心本体11の平坦性、真直性の悪化などを避けることができる。
【0102】
このように、本実施形態に係る回転電機のコア部製造方法は、鉄心本体11に対し、マスク機構30をなす上下の端面マスク部31、32と径方向マスク部33の各マスク体31a、32a、33cを鉄心本体11に接触させ、スロット13の各方向の開口を塞ぐ。加えて、上下の端面マスク部31、32の各マスク体31a、32aと径方向マスク部33のマスク体33cとを接触させて、各マスク体31a、32a、33cの間にスロット13に通じる隙間が生じない状態として、スロット13を完全に閉塞する。こうして、絶縁部15の配設予定箇所となる鉄心本体11のスロット13に面する表面をスロット13と共に外部から隔離して、スロット13に導入される電着塗料80を外に漏らすことなくスロット13に保持して電着塗装が行えるようにする。これにより、塗装の必要のない箇所への電着塗料80の付着を防止でき、電着塗料80を無駄なく効率的に使用でき、電着塗料80の使用に係るコストを抑えられる。そして、塗装対象箇所以外への塗料の付着に伴う後処理の手間やメンテナンスコストの増大を阻止できる。また、マスク機構30により鉄心本体11の塗装対象箇所の他からの隔離を容易且つ速やかに実行でき、マスキングの作業の自動化も問題なく行え、生産性向上を図りやすい上、マスク機構30は繰り返し使用でき、ランニングコストや環境負荷を抑えられる。
【0103】
なお、本実施形態に係る回転電機のコア部製造方法においては、マスク機構30を塗装工程におけるマスキングにのみ用いている。しかし、これに限らず、塗装工程の前の脱脂洗浄工程や下処理工程等における液剤の所望箇所のみへの導入用にマスク機構を用いることもできる。この場合、脱脂洗浄、水洗浄、電着塗装、の各工程のそれぞれで別個のマスク機構を用いて塗装対象箇所にのみ工程に係る処理を実行するようにしてもよく、あるいは、一つのマスク機構で液剤を入れ替えて各工程を実行するようにしてもよい。
【0104】
また、本実施形態に係る回転電機のコア部製造方法において、薄板材から打抜いた複数の薄板11aを積層して得られた鉄心本体11に対し、加圧治具装着工程で加圧治具20を取り付けるまでの、鉄心本体11の取り扱いについて特に示していない。この点に関しては、鉄心本体をなす各薄板同士を、薄板の鉄心本体をなす本体部分から突出させた複数の突出部においてカシメを行うことで連結する、いわゆる仮カシメにより連結し、鉄心本体として一体に取り扱える状態としてもよい。複数の薄板を一体に取り扱えることで、加圧治具装着工程に容易に供給することができる。
【0105】
この場合、加圧治具装着工程で鉄心本体に加圧治具を取り付けられた後に、鉄心本体から各突出部を切り離して除去すればよく、鉄心本体にはカシメによる変形の影響が残ることはない。なお、こうした鉄心本体からの各突出部の除去は、塗装工程の後に行うこともできるが、仮カシメで連結される薄板の積層に係る精度を高くすることが難しい。このため、塗装工程を経て塗膜により薄板の積層状態が固定されてしまうと、望ましくない積層状態のまま固定された鉄心本体となるおそれがある。よって、鉄心本体からの各突出部の除去は、加圧治具装着工程で鉄心本体に加圧治具を取り付けた後に行うのが望ましい。
【0106】
また、本実施形態に係る回転電機のコア部製造方法において、マスク機構30の径方向マスク部33でスロット13を閉塞した状態では、マスク体33cのうち、スロット13に面する非接触部33fが、スロット13側に凸状にはみ出す。これに伴い、電着塗装で生じる塗膜81におけるティース部11cの先端側の端部は、このマスク体33cの非接触部33fの形状に倣った略面取り形状となるが、これに限られるものではない。
【0107】
例えば、図10に示すように、マスク体33hにおけるティース部11cの先端に接触可能な部位に対し、スロット13に面する非接触部33iが、スロット13から遠ざかる向きに後退して凹部となるようにすることもできる。この場合、マスク体33hのティース部11cに接触する部分は、ティース部11cの先端と同じ幅となり、電着塗装の際にティース部11cの側面における塗膜形成に影響を与えない。よって、電着塗装で生じる塗膜81は、ティース部11cの側面の端まで均一な塗膜厚さとして形成されることとなる。
この例は、塗膜81におけるティース部11cの先端側の端部を略面取り形状とした場合などの、塗膜81の端部における塗膜厚さが薄くなる構造では、コア部として使用する際などに支障がある、と予想される状況で、対応策として採用するのが好ましい。
【0108】
この他、図11に示すように、径方向マスク部33のマスク体33jにおいて、塗装工程で鉄心本体11の内周面としてのティース部11c先端に接触する部分を、ティース部11c先端の幅より小さくする構成とすることもできる。この場合、マスク体33jにおいては、スロット13に面する部位に加え、ティース部11cの先端に面する部位の一部も、非接触部33kとして、スロット13やティース部11cから遠ざかる向きに後退した凹部となるようにされる。そして、ティース部11c先端のうち、スロット13に面する角部の近傍部分にはマスク体33jが接触しないことで、電着塗装の際にはこうしたマスク体33jの接触しないティース部11c先端の一部に電着塗料80が到達可能となる。
【0109】
塗装工程では、ティース部11c先端のうち、マスク体33jと接触しない部位に電着塗料80が付着して、電着塗装の塗膜81が、その端部をティース部11cの側面から先端に回り込ませて形成された状態となる。
こうして、ティース部11cのスロット13に面する側面から先端まで連続して塗膜81を形成することができる。そして、塗膜81を硬化させて得られる絶縁膜もそのまま同様の形状となって、ティース部11cのより広い範囲を絶縁膜で覆うことができ、ティース部11cの絶縁の強化が図れる。
【0110】
これら図10図11に示した例のように、マスク体33h、33jのスロット13に面する部位(非接触部)が、単純な円筒面の一部とならず凹部など特別な形状とされる場合、径方向マスク部33を鉄心本体11に対し位置決めする機構を用いる。すなわち、マスク体の特別な形状部分が鉄心本体11の各スロット13の位置に確実に一致するように、径方向マスク部33を鉄心本体11に対し定められた位置関係とする位置決め機構が設けられる。
【0111】
例えば、径方向マスク部33を案内してその移動方向を拘束する案内部50は、鉄心本体11に対し中心孔14内で静止状態を維持している。これを利用して、案内部50に対し径方向マスク部33を相対回転しないよう位置決めすれば、同時に鉄心本体11の各スロット13に対しても位置決めした状態が得られる。具体的には、案内部50に対する径方向マスク部33の回り止め機構(例えば、スプラインやセレーション、滑りキーなど)を設けて、マスク体の特別な形状部分が鉄心本体11の各スロット13に対応する位置からずれないようにすればよい。
【0112】
また、図10図11に示した例のように、マスク体33h、33jのスロット13に面する部位(非接触部)が凹部とされた場合、こうした凹部は、スロット13の径方向の開口の外側に生じた空隙部分となる。こうした凹部などの空隙部分では、鉄心本体11の薄板積層方向への電着塗料80の移動が生じ得る状態にあることから、鉄心本体11の薄板積層方向の両側でこれら空隙部分を塞いで、電着塗料80が漏れないようにする必要がある。
【0113】
具体的には、径方向マスク部33のマスク体33h、33jにおける、鉄心本体11の薄板積層方向の上側にはみ出した部分に対向する、上端面マスク部31のマスク体31a内周面に、マスク体33h、33jの非接触部をなす凹部に嵌まる凸部を設ける。同様に、マスク体33h、33jにおける、鉄心本体11の薄板積層方向の下側にはみ出した部分に対向する、下端面マスク部32のマスク体32a内周面に、マスク体33h、33jの非接触部をなす凹部に嵌まる凸部を設ける。
こうして上端面マスク部31のマスク体31aに設けた凸部と、下端面マスク部32のマスク体32aに設けた凸部を、マスク体33h、33jの非接触部をなす凹部に嵌合させ、マスク体同士を隙間なく密着させる。これにより、マスク体の凹部を通じてスロット13から外部に電着塗料80が漏れることを防止できる。
【0114】
(本発明の第2の実施形態)
第1の実施形態に係るコア部製造方法において、製造されるコア部10は、鉄心本体11中央の中心孔14を回転子の配設位置とするインナーロータ構造における、固定子の一部とされる構成としている。しかし、これに限られるものではなく、アウターロータ構造における固定子の一部とすることもできる。加えて、コア部は固定子だけでなく、巻線タイプのロータのコアを対象とする構成とすることもできる。
このうち、アウターロータ構造における固定子の一部とされるコア部を製造する場合を、第2の実施形態に係るコア部製造方法として、図12及び図13に基づいて説明する。
【0115】
本実施形態に係るコア部製造方法は、コア部をなす鉄心本体12の、ティース部12cが外向きに突出し、鉄心本体12の径方向におけるスロット16の開口が鉄心本体12の径方向の外向きに設けられる構成に対応するものである。すなわち、塗装工程においてマスク機構35の径方向マスク部38を、鉄心本体12における径方向の一端面としての外周面に接触させることで、スロット16を外部から隔離し、電着塗装を行えるようにするものである。
【0116】
本実施形態に係るコア部製造方法を適用するコア部製造装置1は、第1の実施形態と同様に、上端面マスク部36と、下端面マスク部37と、径方向マスク部38とを有するマスク機構35を備えるものである。一方、異なる点として、マスク機構35の径方向マスク部38が、鉄心本体12に対しその径方向の外側に配置される構成を有するものである。加えて、マスク機構35において径方向マスク部38を案内する案内部55が、径方向マスク部38の配置に対応して、径方向マスク部38をその外側から案内する構成を有するものである。
【0117】
径方向マスク部38は、円筒面状の内周面を有し、鉄心本体12に対し相対移動可能に設けられる環状のマスク保持部38aと、弾性変形可能なシート体で形成され、マスク保持部38aの内周面に沿って配設されるマスク体38cとを備える構成である。
この径方向マスク部38は、第1の実施形態同様、流体給排手段60と接続され、この流体給排手段60により、マスク保持部38aとマスク体38cとの間に、所定の流体(例えば、空気)を出し入れ可能とされる。
【0118】
マスク保持部38aは、容易に変形しない硬質の材質、例えば金属製とされ、円筒面状の内周面を有する環状体として形成される構成である。
また、マスク保持部38aは、上端面マスク部36と下端面マスク部37により挟持された状態にある鉄心本体12に対し、鉄心本体12の薄板積層方向に移動可能に設けられて、鉄心本体12の外周を取り囲むように配置される。
【0119】
一方、マスク保持部38aは、上端面マスク部31と下端面マスク部32間に挟持された状態の鉄心本体12を取り囲む配置として設けられる筒状の案内部55に対し、この案内部55の内側に配設される。マスク保持部38aは、外周面を案内部55の内周面に摺接させるようにして、この案内部55に案内されつつ移動し、鉄心本体12を内側に相対的に挿脱させて、鉄心本体12に対し適切に配置されることとなる。
【0120】
マスク体38cは、弾性体からなるシート状の円筒体として形成され、マスク保持部38aに対し容易に外れない状態として取り付けられ、マスク保持部38aの内周面に沿う位置から内方へ弾性変形可能とされる構成である。マスク体38cは、弾性変形して鉄心本体12の径方向の一端面としての外周面に接触し、スロット16の径方向の開口を閉塞可能とするものである。
マスク体38cの内周側は凹凸のある形状とされており、その凸部分が鉄心本体12における、スロット16を挟むティース部12cの先端に接触可能な配置とされる。
【0121】
具体的には、マスク体38cは、鉄心本体12における外周面に対向した状態において、流体給排手段60によりマスク保持部38aとマスク体38cとの間に流体を圧入されることで、鉄心本体12の外周面に近付く向きに膨張する。この膨張に伴い、マスク体38cは、その内周側の凸部分で、鉄心本体12における外周面、すなわち、スロット16を挟むティース部12cの先端となる外周面、に接触し、スロット16の径方向の開口を閉塞可能とされる。
マスク体38cの内周側を凹凸形状とすることで、縮径方向に膨張変形することに伴い生じる余肉分を凹部分の変形で吸収でき、凸部分を鉄心本体の外周に沿う膨張状態に維持して、鉄心本体の外周面に隙間なく密着させることができる(図13参照)。
【0122】
径方向マスク部38のマスク保持部38a及びマスク体38cは、第1の実施形態と同様に、鉄心本体12の薄板積層方向の寸法より大きくされる。塗装工程で径方向マスク部38によりスロット16の径方向の開口を閉塞する際に、マスク体38cは鉄心本体12に対しその薄板積層方向の両側にはみ出した状態となる。
【0123】
次に、本実施形態に係るコア部製造方法による塗装工程について説明する。ただし、塗装工程の前後の各工程や、塗装工程における、鉄心本体12の周囲に径方向マスク部38を配置する以外の工程については、第1の実施形態と共通するものであり、説明を省略する。
【0124】
塗装工程では、鉄心本体12を上端面マスク部36と下端面マスク部37で加圧治具20ごと挟持したら、鉄心本体12の周りを取り囲む位置に径方向マスク部38を移動させる。
そして、径方向マスク部38に対し、流体給排手段60で、マスク保持部38aとマスク体38cとの間に流体を圧入し、マスク体38cを膨張させる。
マスク体38cの内周面を鉄心本体12の外周面に近付ける向きにマスク体38cを膨張変形させることで、マスク体38cは鉄心本体12の外周面に当接し、スロット16の径方向の開口を閉塞する。
【0125】
この場合、上端面マスク部36及び下端面マスク部37は、外周部分を鉄心本体12の外周面と同じ径とされている。このため、径方向マスク部38のマスク体38cのうち、鉄心本体12の薄板積層方向の両側にはみ出した部分は、上端面マスク部36の外周面と、下端面マスク部37の外周面とに接する。そして、上端面マスク部36と下端面マスク部37に対しても、マスク体38cは弾性変形を伴って隙間なく密着した状態となり、第1の実施形態と同様に、スロット16から外部に通じる隙間の発生を防止できる。
【0126】
マスク機構35で鉄心本体12の各スロット16を閉塞状態とした後、閉じられたスロット16に対し、電着塗料80の注入以降の各工程が第1の実施形態と同様に実行されることとなる。
【0127】
なお、本実施形態に係るコア部製造方法において、径方向マスク部38におけるマスク体38cの内周側を凹凸のある形状とし、このうち凸部分が鉄心本体12の外周面に接してスロット16の径方向の開口を閉塞可能な構成としている。ただし、これに限られるものではなく、他の構造、例えば、図14に示すように、マスク保持部38aの内周面に沿うマスク体38dが、流体を出し入れされて膨縮変形する閉領域を周方向に複数並べた配置形状とされる構成とすることもできる。この場合、内方の鉄心本体12に向けてマスク体38dの各閉領域が突出するように膨張した状態が得られ、膨張部分を鉄心本体12の外周面に隙間なく密着させ、スロット16の径方向の開口を漏れなく閉塞することができる。
【0128】
マスク体38dは、図14に示すように、マスク保持部38aの外側にスロット16ごとに膨縮変形する閉領域を一つずつ設けるようにしているが、これに限られるものではない。膨縮変形する閉領域の数を少なくし、一つの閉領域で複数のスロット16に対応させることで、径方向マスク部38の構成を簡略化することもできる。ただし、マスク体38dにおける膨縮変形する閉領域の数を多くして、一つの閉領域で対応するスロット16の数を少なくするほど、マスク体38dを、スロット16を挟む鉄心本体12の外周面に対しより高精度に密着させられ、マスク体38dでスロット16をより適切に閉塞できる。
【0129】
また、本発明の第1及び第2の実施形態に係るコア部製造方法において、塗装工程では電着塗料を用いて電着塗装を実施する例を示しているが、これに限られるものではない。すなわち、電着塗装以外の塗装も適用でき、塗料もスロットに導入可能な程度に適度な流動性を有し、且つ形成される塗膜が十分な絶縁性を備えるものであれば、任意の塗料を用いてもかまわない。
【符号の説明】
【0130】
1 コア部製造装置
10 コア部
11、12 鉄心本体
11a 薄板
11b ヨーク部
11c、12c ティース部
13、16 スロット
14 中心孔
15 絶縁部
20 加圧治具
21 治具プレート
21a 孔
22 連結部
30、35 マスク機構
31、36 上端面マスク部
31a、32a マスク体
31b、32b 基板部
31c、32c 液通路
31d、32d 突出部
32、37 下端面マスク部
33、38 径方向マスク部
33a、38a マスク保持部
33b 孔
33c、38c マスク体
33e 孔
33f 非接触部
33g 溝
33h、33j マスク体
33i、33k 非接触部
34 位置決め体
38d マスク体
40 通電機構
41 接続端子部
42 電極部
50、55 案内部
60 流体給排手段
80 電着塗料
81 塗膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14