(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124148
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】金属ナノインク、および金属膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/52 20140101AFI20240905BHJP
C09D 11/037 20140101ALI20240905BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20240905BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240905BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20240905BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240905BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240905BHJP
【FI】
C09D11/52
C09D11/037
C09D5/24
C09D7/61
C09D133/00
C09D7/65
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032121
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】渡部 功治
(72)【発明者】
【氏名】酒井(岩本) 早起
【テーマコード(参考)】
4J038
4J039
【Fターム(参考)】
4J038CD022
4J038CF022
4J038CG141
4J038CH141
4J038HA061
4J038JB04
4J038KA06
4J038MA06
4J038MA10
4J038NA20
4J038PA19
4J038PB09
4J039AD05
4J039AD06
4J039AD09
4J039BA06
4J039BC33
4J039BE12
4J039BE32
4J039CA05
4J039EA24
4J039GA11
(57)【要約】
【課題】本発明は、優れた導電性を有し、さらに保存後の導電性の低下が抑制された金属ナノインクを提供する。
【解決手段】金属微粒子、(メタ)アクリル樹脂、アミン化合物、および、溶媒を含む金属ナノインクであって、前記アミン化合物が、金属イオンに対して2以上の配位座を有し、沸点が120~170℃であり、融点が5℃以下である、金属ナノインク。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子、(メタ)アクリル樹脂、アミン化合物、および、溶媒を含む金属ナノインクであって、
前記アミン化合物が、金属イオンに対して2以上の配位座を有し、沸点が120~170℃であり、融点が5℃以下である、金属ナノインク。
【請求項2】
前記アミン化合物が、分子の中心面に対して非対称である、請求項1に記載の金属ナノインク。
【請求項3】
前記アミン化合物が、N-エチルエチレンジアミンである、請求項1に記載の金属ナノインク。
【請求項4】
さらに、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属ナノインク。
【請求項5】
請求項1または2に記載の金属ナノインクを基材に塗布して塗膜を形成する工程、および
前記塗膜を焼成して金属膜を形成する工程
を含む金属膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノインク、および金属膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な電極や電子回路を形成するために、数nm~数十nm程度の粒径を有する金属微粒子、および(メタ)アクリル樹脂などのバインダー樹脂を含む金属ナノインクが用いられている。金属ナノインクを基板上に塗布した後、熱、光等のエネルギーを付与することによって、金属微粒子同士の焼結と、バインダー樹脂の硬化を誘導し、導電膜を形成できる。金属微粒子は、金属ナノインク中で分散状態にあることが望ましく、分散安定性が損なわれると導電性が低下してしまう。
【0003】
引用文献1~3では、金属微粒子の分散安定性を向上するために、金属微粒子に安定化剤を配位させている。しかし、これらの安定化剤を用いても、金属微粒子の分散安定性が不足しており、導電性が十分ではなかった。また、保存中に、経時的に導電性が低下する傾向があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-265543号公報
【特許文献2】国際公開第2017/204238号
【特許文献3】特開2019-099756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、優れた導電性を有し、さらに保存後の導電性の低下が抑制された金属ナノインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、所定のアミン化合物を含む金属ナノインクが優れた導電性を有し、さらに保存後にも導電性が下がりにくいことを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、金属微粒子、(メタ)アクリル樹脂、アミン化合物、および、溶媒を含む金属ナノインクであって、前記アミン化合物が、金属イオンに対して2以上の配位座を有し、沸点が120~170℃であり、融点が5℃以下である、金属ナノインクに関する。
【0008】
前記アミン化合物が、分子の中心面に対して非対称であることが好ましい。
【0009】
前記アミン化合物が、N-エチルエチレンジアミンであることが好ましい。
【0010】
さらに、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体を含むことが好ましい。
【0011】
また、本発明は、前記金属ナノインクを基材に塗布して塗膜を形成する工程、および前記塗膜を焼成して金属膜を形成する工程を含む金属膜の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の金属ナノインクは、優れた導電性を有し、さらに保存後の導電性の低下が抑制されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<<金属ナノインク>>
本発明の金属ナノインクは、金属微粒子、(メタ)アクリル樹脂、アミン化合物、および、溶媒を含む金属ナノインクであって、前記アミン化合物が、金属イオンに対して2以上の配位座を有し、沸点が120~170℃であり、融点が5℃以下であることを特徴とする。
【0014】
<金属微粒子>
金属微粒子は、金属ナノインクに導電性を付与する。金属微粒子の構成材料は特に限定されず、典型金属元素、遷移金属元素などを用いることができる。典型金属としては、Zn、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Biなどが挙げられる。遷移金属としては、Ti、Zr、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Auなどが挙げられる。また、金属材料は金属単体であってもよく、これらの金属元素を2以上含む合金であってもよい。以上で挙げた中でも、Ag、Al、Sn、Ti、Ni、Pt、Cu、Auが好ましく、Ag単体、Ag合金、Cu単体、Cu合金がより好ましく、Ag単体、Ag合金が好ましい。Ag合金としては、AgとCuからなる合金が挙げられる。
【0015】
また、以上で挙げた金属微粒子は単独で使用してもよく、2以上を併用してもよい。このとき、金属微粒子全体における、Agまたはその合金からなる微粒子の割合は、80~99重量%が好ましく、85~99重量%がより好ましい。
【0016】
金属微粒子の平均粒子径は、5~1000nmが好ましく、5~500nmがより好ましく、5~200nmがさらに好ましく、5~100nmが特に好ましい。この範囲の平均粒子径とすることで、金属微粒子同士が接触しやすくなるとともに、比較的低温でも金属微粒子同士が融着するため、金属ナノインクを用いて形成される金属膜の導電性を高めることができる。ここで、金属微粒子の平均粒子径は、体積粒度分布の累積体積50%における粒径(D50)であり、レーザー回折式の粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折散乱法によって測定できる。
【0017】
金属微粒子の形状は特に限定されず、例えば球状、楕円球状、多角柱状、多角錐状、扁平形状が挙げられる。金属微粒子同士の接触を高めるためには、球状、楕円球状、扁平形状、もしくはこれらに類似する形状であることが好ましい。
【0018】
金属微粒子は、市販品を使用してもよく、液相や気相中で化学反応を利用して製造したものを使用してもよい。
【0019】
金属ナノインク中の金属微粒子の含有量は、10~80重量%であることが好ましく、20~60重量%であることがより好ましい。前記範囲のとき、金属ナノインクに十分な導電性を付与することができる。
【0020】
<アミン化合物>
アミン化合物としては、前述した金属イオンに対して2以上の配位座を有し、沸点が120~170℃であり、融点が5℃以下のものを用いる。このアミン化合物を含む金属ナノインクは、導電性に優れ、さらに保存後も導電性が維持されやすい。
【0021】
アミン化合物は、金属イオンに対して2以上の配位座を有する。2以上の配位座を有することにより、キレートによる配位を安定化し、金属微粒子の分散安定性を高められる。配位座の数は2以上であるが、2~3が好ましく、2がより好ましい。金属イオンに対する配位座の具体例としては、アミノ基、水酸基、リン酸基、チオール基が挙げられ、これらの中でもアミノ基が好ましい。金属イオンに対し2以上の配位座を有するアミン化合物としては、ジアミン、トリアミンが好ましい。
【0022】
アミン化合物は、分子の中心面に対して非対称であることが好ましい。ここで、分子の中心面に対して非対称とは、重心に対して180度回転させた化合物同士が重なりうることを意味する。分子の中心面に対して非対称な構造を持つことにより、金属微粒子に配位しやすく、微粒子の分散安定性を高める効果がある。
【0023】
アミン化合物の沸点は、120~170℃であるが、120~140℃がより好ましい。沸点がこの範囲にあることにより、塗膜を焼成して金属膜を形成するときに揮発させ、容易に除去できる。アミン化合物の融点は5℃以下であるが、-5~5℃が好ましく、-2~3℃がより好ましい。融点がこの範囲にあることにより、室温で液体状態となり、金属ナノインクを保管するときの保存安定性に優れる。
【0024】
アミン化合物としては、室温安定性の点で、有機アミンを用いることが好ましい。有機アミンは、一級アミン、二級アミン、三級アミンのいずれであってもよく、環状アミンおよび鎖状アミンのいずれであってもよいが、一級または二級の鎖状アミンが好ましく、一級または二級の鎖状ジアミン、一級または二級の鎖状トリアミンがより好ましい。アミン化合物の具体例としては、N-エチルエチレンジアミン、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミンが挙げられる。これらの中でもN-エチルエチレンジアミン、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミンが好ましく、N-エチルエチレンジアミン、1,2-プロパンジアミンがより好ましい。
【0025】
金属ナノインク中のアミン化合物の含有量は、金属微粒子100重量部に対し0.001~10重量部であることが好ましく、0.1~0.5重量部であることがより好ましい。前記範囲のとき、金属微粒子の分散安定性を確保することができる。
【0026】
<(メタ)アクリル樹脂>
(メタ)アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル単量体、またはこの単量体が複数連なったオリゴマーを用いることができる。オリゴマーにおける単量体の繰り返し数は、金属ナノインク中で(メタ)アクリル樹脂を分散させやすくするために、2~10が好ましく、2~5がより好ましい。
【0027】
(メタ)アクリル単量体としては、特に限定されないが、金属ナノインク中での金属微粒子の分散を促進する観点で、ポリアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリル単量体、疎水基を有する(メタ)アクリル単量体が好ましい。
【0028】
ポリアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリル単量体において、ポリアルキレングリコール部位のアルキレン構造の繰り返し単位は4~120が好ましく、9~90がより好ましい。この範囲とすることにより、(メタ)アクリル樹脂の、金属微粒子との親和性を高めやすく、金属微粒子の分散性および保存安定性を向上できる。一種の(メタ)アクリル単量体中に、二種以上のポリアルキレングリコール部位を有するときは、アルキレングリコール単位の繰り返し数の合計が、上記の範囲内であることが好ましい。
【0029】
ポリアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリル単量体において、ポリアルキレングリコール部位のアルキレン構造の炭素数は2~8が好ましく、2~4がより好ましい。この範囲では、金属微粒子の分散性および保存安定性を向上できる傾向がある。ポリアルキレングリコール部位の具体例として、ポリエチレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体などが挙げられる。
【0030】
ポリアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリル単量体として、例えば、ポリアルキレングリコールの一方の末端の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基で置換された単量体、ポリアルキレングリコールの一方の末端の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基で置換され、他方の末端の水酸基が-OR(Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基など)で置換された単量体などを用いることもできる。Rとしては、アルキル基(C1-26アルキル基またはC1-20アルキル基など)、脂環式炭化水素基(シクロアルキル基など)、およびアリール基(C6-14アリール基など)などが挙げられる。Rが有する置換基としては、例えば、水酸基、アルコキシ基、および/またはエステル基などが挙げられる。
【0031】
ポリアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリル単量体の具体例として、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリルオキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、水酸基末端ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、「ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール」とは、エチレングリコールとプロピレングリコールとのブロック共重合部位を意味する。
【0032】
疎水基を有する(メタ)アクリル単量体において、疎水基としては、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基などの炭化水素基が挙げられる。
【0033】
脂肪族炭化水素基としては、アルキル基が好ましく、C1-26アルキル基がより好ましく、C1-20アルキル基がさらに好ましい。アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、デシル、ステアリル基などが挙げられる。
【0034】
脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル単量体の具体例として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0035】
脂環族炭化水素基としては、シクロアルキル基(C4-10シクロアルキル基またはC5-8シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル基など)など)、架橋環式炭化水素基(C6-20架橋環式炭化水素基(例えば、ボルニル、イソボルニル基など)など)などが挙げられる。
【0036】
脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル単量体の具体例として、シクロアルキル(メタ)アクリレート(シクロヘキシル(メタ)アクリレートなど)、架橋環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート(イソボルニル(メタ)アクリレートなど)などが挙げられる。
【0037】
芳香族炭化水素基として、アリール基(C6-20アリール基またはC6-14アリール基など)が挙げられる。アリール基の具体例としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0038】
脂肪族炭化水素基(アルキル基など)は、置換基として、脂環族基炭化水素基および/または芳香族炭化水素基を有していてもよい。脂環族炭化水素基および芳香族炭化水素基は、それぞれ、置換基として脂肪族炭化水素基を有していてもよい。置換基としてのこれらの炭化水素基としては、上記例示の炭化水素基から選択され、例えば、C1-4アルキル基、C5-8シクロアルキル基、C6-10アリール基などが挙げられる。
【0039】
以上で挙げた中でも、アルキル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。疎水基がアルキル基であるとき、(メタ)アクリル樹脂が金属微粒子の分散を促進でき、金属微粒子の分散性および保存安定性が高くなる。また、(メタ)アクリル樹脂が、金属微粒子からより容易に脱離しやすくなり、低温での焼成が進行しやすくなる。
【0040】
(メタ)アクリル単量体としては、上記で挙げた以外に、グリシジルメタクリレート、グリセリンモノメタクリレート、N,N,N-トリメチル-N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)-アンモニウムクロライド、ウレタンアクリレートや、複素環を有する(メタ)アクリル単量体を用いることもできる。
【0041】
複素環を有する(メタ)アクリル単量体としては、例えば、複素環を有するヒドロキシ化合物(複素環を有するアルキルアルコールなど)の(メタ)アクリレートなどが挙げられる。複素環としては、酸素含有環(テトラヒドロフラン、ジオキソラン、フラン、テトラヒドロピラン、ジオキサンなど)、窒素含有環(ピロリジン、ピロール、イミダゾリン、ピリミジンなど)、硫黄含有環(テトラヒドロチオフェン、チオフェンなど)、二種以上のヘテロ原子を有する複素環(例えば、オキサゾール、チアゾール、モルホリンなど)などが挙げられる。アルキルアルコールとしては、例えば、C1-10アルキルアルコール(C1-6アルキルアルコールまたはC1-4アルキルアルコールなど)などが挙げられる。アルキルアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、ヘキサノールなどが挙げられる。中でも、酸素含有環を有する(メタ)アクリレート(例えば、フルフリル(メタ)アクリレートなど)は入手も容易で、基材に対する高い密着性が確保し易いため好ましい。
【0042】
(メタ)アクリル樹脂は、上記で挙げた(メタ)アクリル単量体を単独で含んでいてもよく、2以上を組み合わせて含んでいてもよい。ポリアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリル単量体とそれ以外の(メタ)アクリル単量体を組み合わせる場合、ポリアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリル単量体の単位の含有量は、(メタ)アクリル樹脂中、10重量%~50重量%であることが好ましく、15重量%~30重量%であることがより好ましい。
【0043】
(メタ)アクリル樹脂において、疎水基を有する(メタ)アクリル単量体とそれ以外の(メタ)アクリル単量体を組み合わせる場合、疎水基を有する(メタ)アクリル単量体の単位の含有量は、(メタ)アクリル樹脂中、50重量%~90重量%であることが好ましく、70重量%~85重量%であることがより好ましい。この範囲において、(メタ)アクリル樹脂は、金属微粒子の分散性を向上させやすい。
【0044】
(メタ)アクリル樹脂は、主鎖の少なくとも1つの末端に、カルボン酸基またはカルボン酸塩基を有することが好ましい。カルボン酸基またはカルボン酸塩基の数は、特に限定されないが、2以下が好ましく、1がより好ましい。このとき、金属ナノインク中で、(メタ)アクリル樹脂の疎水性を有する部分が空間的により広がりやすくなり、金属微粒子間の距離が適度に保たれやすい。
【0045】
カルボン酸塩基としては、アンモニウム塩、金属塩などが挙げられる。金属塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩など)などが挙げられる。
【0046】
金属ナノインク中の(メタ)アクリル樹脂の含有量は、金属微粒子100重量部に対して0.5~10重量部であることが好ましく、1~5重量部であることがより好ましい。(メタ)アクリル樹脂の含有量が前記範囲のとき、金属微粒子の分散性および保存安定性が高くなる傾向がある。
【0047】
<溶媒>
溶媒は、塗膜を形成してから金属膜を形成するまでの過程で除去されるため、揮発性であることが好ましい。溶媒の沸点は、40~250℃であることが好ましく、100~200℃であることがさらに好ましい。また、金属ナノインクの保存安定性のために、室温では液体であることが好ましい。
【0048】
溶媒としては、アルカノール、エーテル、エステル、ケトン、炭化水素などが挙げられる。アルカノールとしては、例えば、メタノール、エタノールなどのC1-6アルカノールが挙げられる。エーテルとしては、ジエチルエーテルなどの脂肪族エーテル、テトラヒドロフランなどの環状エーテルが挙げられる。
【0049】
エステルとしては、脂肪族エステルが挙げられ、C1-4カルボン酸のエステルが好ましい。エステルの具体例としては、1,4-ブタンジオールジアセテート、1,6-ヘキサンジオールジアセテート、酢酸シクロヘキシル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸ペンチル、ジヒドロターピニルアセテート、ブチルカルビトールアセテートなどが挙げられる。ケトンとしては、アセトン、エチルメチルケトンなどの脂肪族ケトン(炭素数3~6の脂肪族ケトンなど)、シクロヘキサノンなどの脂環族ケトン(C5-6シクロアルカノンなど)などが挙げられる。炭化水素としては、例えば、ヘキサンなどのC6-10アルカン、シクロヘキサンなどのC5-8シクロアルカン、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。
【0050】
金属ナノインク中の溶媒の含有量は25~95重量%であることが好ましく、25~90重量%であることがより好ましい。
【0051】
<任意成分>
金属ナノインクは、金属微粒子、(メタ)アクリル樹脂、アミン化合物、溶媒に加えて、重合反応性化合物、重合開始剤、分散剤、接着剤、硬化促進剤、反応性希釈剤などの任意成分を含んでいてもよい。
【0052】
<重合反応性化合物>
重合反応性化合物は、活性化した重合開始剤の作用により重合(架橋や硬化も含む)して高分子を形成可能であればよく、公知の重合反応性化合物が使用できる。重合反応性化合物としては、高分子の原料、例えば、モノマーまたはモノマーがいくつか連なったオリゴマーなどの前駆体が挙げられ、硬化性樹脂(光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂など)も使用できる。硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ケイ素樹脂、ビニルエステル樹脂、ビニルエーテル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ウレタン系樹脂などが挙げられる。
【0053】
金属ナノインクが重合反応性化合物を含む場合、重合反応性化合物の含有量は、(メタ)アクリル樹脂100重量部に対し1~10重量部であることが好ましく、2~5重量部であることがより好ましい。
【0054】
<重合開始剤>
重合開始剤は、熱および/または光の作用により活性化して(メタ)アクリル樹脂の重合を進行させるものであれば特に限定されず、公知のラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤を使用できる。
【0055】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化物、過硫酸塩、アゾビスイソブチロニトリルなどが挙げられる。カチオン重合開始剤としては、スルホニウム塩系、ヨードニウム塩系の化合物が挙げられる。アニオン重合開始剤としては、3級アミン、アミジン、グアニジンなどの化合物が挙げられる。
【0056】
金属ナノインクが重合開始剤を含む場合、重合開始剤の含有量は金属ナノインク中、0.1~20重量%であることが好ましく、1~7重量%であることがより好ましい。
【0057】
<分散剤>
分散剤は、金属ナノインク中で金属微粒子が凝集することを抑制し、金属微粒子を安定化することができる。分散剤は、金属ナノインクを調製する際に添加してもよく、また、金属微粒子に配位した状態で使用してもよい。分散剤を金属微粒子に配位させる場合、金属微粒子とともに混合し、必要により加熱することで配位させてもよく、金属微粒子の作製過程で分散剤を用いることにより配位させてもよい。
【0058】
分散剤としては、金属微粒子に配位する極性の官能基と、疎水性の有機基とを有する有機化合物が挙げられる。極性の官能基としては、例えば、アミノ基、メルカプト基、ヒドロキシル基(フェノール性ヒドロキシル基を含む)、カルボニル基、エステル基、カルボキシル基などの酸素含有基などが挙げられる。分散剤は、極性の官能基を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。分散剤は、金属膜の形成過程の適当な段階で除去されることが好ましいため、低分子化合物であることが好ましく、分子量が500以下であることがより好ましい。
【0059】
分散剤としては、金属微粒子の種類にもよるが、室温安定性の観点からは、一級アミンが好ましく、一級の鎖状モノアミンがより好ましい。分散安定性が高く、金属膜の作製過程で除去し易いため、C6-14アルキルアミンが好ましく、C8-12アルキルアミンがより好ましく、C8-10アルキルアミンがさらに好ましい。分散剤の具体例としては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ミリスチルアミンなどが挙げられる。これらの炭素数が少ないアミンは反応性が高いため、低温焼成などにより、温和な条件下で重合反応を行うことができる。なお、炭素数の少ないアミンは、反応性が高いため、単独で使用すると金属微粒子の保存安定性が低下する傾向があるが、バインダーとして(メタ)アクリル樹脂を用いると、分散剤として炭素数が少ないアミンを用いても金属微粒子に高い保存安定性を確保できる。
【0060】
金属ナノインクが分散剤を含む場合、分散剤の含有量は、金属微粒子100重量部に対して、0.1~10重量部が好ましく、0.5~5重量部がより好ましい。この範囲では、金属微粒子を安定化し易く、分散剤の除去も容易である。
【0061】
<接着剤>
接着剤は、金属ナノインクの基材への付着性を高める。接着剤としては、熱可塑性樹脂が好ましく、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリオレフィン、ビニルアルコール、アクリル酸エステルがより好ましく、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体が特に好ましい。これらの接着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
接着剤として用いられる熱可塑性樹脂は、数平均分子量が10000~50000であることが好ましく、10000~30000であることがより好ましい。また、ガラス転移温度が50~90℃であることが好ましく、60~80℃であることがより好ましい。
【0063】
金属ナノインクが接着剤を含む場合、接着剤の含有量は、金属ナノ粒子の100重量部に対して0.5~10重量部であることが好ましく、1~5重量部であることがより好ましい。
【0064】
<金属ナノインクの物性および製造方法>
金属ナノインクの室温(25℃)での粘度は、2~10000mPa・sであることが好ましく、4~100mPs・sであることがより好ましい。
【0065】
金属ナノインクは、金属微粒子、(メタ)アクリル樹脂 、アミン化合物、溶媒、および必要により任意成分を、公知の攪拌機、ミキサーなどを用いて混合することにより、得ることができる。
【0066】
各成分の混合順序は特に制限されず、例えば、一部の成分を予め混合し、残りの成分を添加してさらに混合してもよい。各成分は、一度に添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。金属微粒子は固体であるため、予め溶媒中に分散させておくことが好ましい。金属微粒子に予めアミン化合物を配位させ、溶媒に分散させた分散液を調製し、その後、(メタ)アクリル樹脂を添加、混合してもよい。また、任意成分である分散剤を使用する場合、まず、溶媒中で金属微粒子と分散剤を混合して、金属微粒子の予備分散液を調整し、次にアミン化合物を配位させた分散液を調製し、その後、(メタ)アクリル樹脂を添加、混合してもよい。
【0067】
<<金属膜の製造方法>>
本発明の金属膜の製造方法は、上記の金属ナノインクを基材に塗布して塗膜を形成する工程、および前記塗膜を焼成して金属膜を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0068】
塗膜形成工程では、基材の表面に金属ナノインクを塗布する。金属ナノインクの塗布は、スピンコート、スプレーコート、ブレードコート、スクリーン印刷、インクジェットなどの公知の塗布方法により行うことができる。また塗膜は、ベタ膜に限らず、配線や穴埋めといったパターン膜であってよい。基材の材質としては、例えば、ガラス、シリコン、プラスチックなどが挙げられる。
【0069】
塗膜形成工程で得られた塗膜を有する基材は、焼成工程に先立って、必要に応じて乾燥してもよい。乾燥条件は、金属ナノインクの構成成分に応じて適宜決定できる。乾燥工程では、溶媒を除去することが好ましい。乾燥温度は、溶媒を除去でき、後述の焼成温度よりも低い温度であることが好ましく、室温~80℃がより好ましい。
【0070】
焼成工程では、塗膜形成工程で得られた塗膜を有する基材を焼成する。焼成により、塗膜内に含まれる金属微粒子同士が融着して、得られる金属膜の抵抗を大幅に低減することができる。金属微粒子のナノサイズ効果により、金属の融点よりも低い温度で融着するため、比較的低温での焼成により十分に金属膜の抵抗を低減する効果が得られる。焼成温度は、金属微粒子の種類に応じて適宜選択できるが、50~250℃が好ましく、100~210℃がより好ましく、100~150℃がさらに好ましい。焼成時間は5~120分が好ましい。焼成は、還元剤の存在下で行なってもよい。また、焼成は、不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、大気中で行ってもよい。
【0071】
重合開始剤として、熱の作用により活性化するものを用いる場合には、乾燥工程および/または焼成工程で加えられる熱により活性化させ、(メタ)アクリル樹脂の重合を進行させてもよい。乾燥工程および/または焼成工程において、(メタ)アクリル樹脂が重合し、高分子のバインダーとなる。
【0072】
重合開始剤として、光の作用により活性化するものを用いる場合には、塗膜形成後から焼成工程までの適当な段階で塗膜に光を照射してもよく、乾燥工程および/または焼成工程を、光照射下で行ってもよい。照射する光の波長や照射量は、重合開始剤の種類に応じて適宜決定できる。このように、適当な段階で塗膜を光に暴露することで、(メタ)アクリル樹脂が重合し、高分子のバインダーとなる。本発明の方法で製造される金属膜には、(メタ)アクリル樹脂の重合物が生成しているため、基材と金属膜との高い密着性を確保できる。
【実施例0073】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。以下、「部」又は「%」は特記ない限り、それぞれ「重量部」又は「重量%」を意味する。なお、実施例および比較例で使用した材料は以下の通りである。
【0074】
(1)使用材料
(1-1)金属微粒子
製造例3で製造したものを用いた。
【0075】
(1-2)アミン化合物
1,2-プロパンジアミン((品番163-18832)、富士フイルム和光純薬(株)社製)
N-エチルエチレンジアミン((品番059-04752)、富士フイルム和光純薬(株)社製)
1,3-プロパンジアミン((品番160-14143)、富士フイルム和光純薬(株)社製)
N,N-ジエチルエチレンジアミン((品番 D0505)、東京化成工業(株)社製)
エチレンジアミン((品番059-00933)、富士フイルム和光純薬(株)社製)
ヘキサメチレンジアミン((品番082-00323)、富士フイルム和光純薬(株)社製)
ヘキシルアミン((品番084-03323)、富士フイルム和光純薬(株)社製)
オクチルアミン((品番150-00173)、富士フイルム和光純薬(株)社製)
・なお、アミン化合物の官能基数、融点、および沸点は表2にまとめて記載した。
【0076】
(1-3)(メタ)アクリル樹脂
製造例1で製造したものを用いた。
【0077】
(1-4)接着成分
塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体(製造例2で製造したものを用いた。)
【0078】
(1-5)溶媒
1,4-ブタンジオールジアセテート((株)ダイセル社製、沸点232℃)
酢酸シクロヘキシル((株)井上香料製造所社製、沸点173℃)
【0079】
(2)アクリル樹脂の合成(製造例1)
攪拌機、冷却器、温度計、湯浴および窒素ガス導入口を備えた1Lセパラプルフラスコに、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(モノマーA、商品名「ライトエステル0 41MA」、共栄社化学(株)製、オキシエチレンの繰り返し数=30)22質量%、イソブチルメタクリレート(IBMA、モノマーB)78質量%を含有するモノマー混合物100質量部、3-メルカプトプロピオン酸(連鎖移動剤)1質量部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(溶媒)100質量部を混合し、重合液を得た。
【0080】
重合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら80℃まで昇温した。次いで、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、重合開始剤)0.5質量部をジエチレングリコールモノブチルエーテルで希釈した溶液を重合液中に加えた。重合開始から15時間後、反応液を室温まで冷却して重合を終了させ、アクリル樹脂のジエチレングリコールモノブチルエーテル溶液を得た。得られた溶液に2,000質量部の水を加え、攪拌後、ろ過して乾燥することで、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを除去した。
【0081】
得られたアクリル樹脂について、次の手順で評価を行った。得られたアクリル樹脂について、カラム(製品名「GPCKF-802」、昭和電工(株)製)を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析を行った。ポリスチレン換算による重量平均分子量は、15,000であった。また、アクリル樹脂が、式(1):
【0082】
【0083】
に示す構造を有することを、核磁気共鳴装置(1H-NMR、400MHz、日本電子(株)製)による測定と、酸価の測定によって確認した。式(1)は、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートと、イソブチルメタクリレートとが、ランダム共重合していることを示す。式(1)中、nは30である。酸価は8mg/gであった。
【0084】
酸化は、アクリル樹脂1gをイソプロパノール100gに溶解させ、得られる溶液に対してフェノールフタレインを指示薬に用いて、0.1N水酸化カリウム水溶液で中和滴定を行い、アクリル樹脂1gを中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg)を測定することにより求めた。
【0085】
(3)塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体の作製(製造例2)
塩化ビニルおよび酢酸ビニルを、イオン交換水とメタノールの混合溶媒中で重合開始剤のビス(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ビス(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイドと一緒に、窒素置換した重合器内で60℃で撹拌し懸濁重合を行った。生成したスラリーをろ過、乾燥し、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体(組成比83:18、平均重合度260)を得た。
【0086】
(4)金属微粒子分散体の作製(製造例3)
硝酸銀20g、イソブタノール100g、オクチルアミン(分散剤)80gを混合した。得られた混合物を、温度が100℃になるまで加熱し、5時間還流した。得られた混合物中の固形分を遠心分離で沈降させて回収した。回収した固形分を、メタノールで3回洗浄したのち、遠心分離することにより、オクチルアミンが配位した銀ナノ粒子を回収した。回収した銀ナノ粒子を、ジエチレングリコールモノブチルエーテル中に、3本ロールを用いて分散させることにより、分散ペーストを調製した。銀ナノ粒子と銀ナノ粒子に配位したオクチルアミンとの質量比は、100:3
【0087】
得られた分散ペーストをスピンコートで基材に塗布し、銀ナノ粒子のSEM写真を撮影した。この撮影画像において、銀ナノ粒子の平均粒子径を算出したところ、約40nmであった。
【0088】
(5)金属ナノインクの調整(実施例1~10、比較例1~5)
製造例3で得られた金属微粒子の分散ペーストに、銀ナノ粒子100重量部(固形分)に対して、製造例1のアクリル樹脂、製造例2の塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、アミン化合物、溶媒をそれぞれ表1に記載の重量部で混合し、超音波分散装置を用いて分散させた後、金属固形分濃度が35%前後、粘度が6~10mPa・sになるように調整した。目開き0.45μmを用いてろ過し、金属ナノインクを調整した。得られた金属ナノインク、および焼成前後の塗膜の性能を後述の方法で評価し、結果を表1に示した。
【0089】
(6)評価方法
(6-1)金属ナノインクの粘度
得られた金属ナノインクの25℃における粘度を、E型粘度計(東機産業(株)製、TVE-25)を用いて測定し、100rpm回転数時の数値を読み取った。
【0090】
(6-2)金属ナノインクのフィルター通液性
金属ナノインクを2kgの圧力で目開き0.45μm、直径25mmのPTFEメンブレンフィルターに通液させたとき、10mL以上通液したものを〇、通液量が10mL以下だったものを×として評価した。
【0091】
(6-3)塗膜状態
得られた金属ナノインクを52.0mm×40.0mmのガラス基板上に、スピンコーターを用いて膜厚が0.4μmになるように回転数を設定して塗布した。1か月後に基板上で金属ナノインクの塗膜の状態を目視で確認し、濡れ性および再結晶化を下記の基準で評価した。
・濡れ性:ガラス基板の露出部分(ハジキ)がみられなかったものを〇、ガラス基板上への金属ナノインクの濡れ性が悪く、ガラス基板の露出部分(ハジキ)がみられたものを×として評価した。
・再結晶化:再結晶化がみられなかったものを〇、再結晶化がみられたものを×として評価した。
【0092】
(6-4)焼成膜の体積抵抗
製造後、表1に記載の期間、5℃で保存した金属ナノインクを、直径5インチ(≒12.7cm)の円盤状のシリコン基板上に、スピンコーターを用いて、膜厚が0.4μmになるように回転数を調整しながら塗布した。塗膜が形成された基板を、ホットプレート上に置き、基板の温度が120℃となるようにして10分間または60分間加熱することにより焼成した。抵抗率計((株)三菱化学アナリテック製、ロレスタGP)を用いて、基板上の焼成膜の体積抵抗値Ri(μΩ・cm)を4端子法により測定した。
【0093】
(6-5)焼成膜の基材に対する密着性
上記(6-3)と同様にして、焼成温度120℃で基板上に焼成膜を形成した。JIS K5600に準拠し、焼成膜に1mm幅で碁盤目様に6本の切り込みを入れでできた25マス上に、粘着テープを貼り圧着させた後、90°の角度で引き剥がした。粘着テープを剥がす際の焼成膜の剥がれの程度を目視で観察した。焼成膜が全く剥がれなかった場合を〇、一部剥がれた場合を△、完全に剥がれた場合を×として評価した。
【0094】
【0095】
実施例および比較例で用いたアミン化合物の官能基数、融点、および沸点を表2に示す。
【表2】
【0096】
(7)考察
表1に示すように、比較例1ではアミン化合物を使用しておらず、比較例2~5ではアミン化合物が所定の要件を充足しないため、焼成膜の初期抵抗値が大きく、さらに、保存後には焼成膜の抵抗値が増大した。これに対し、実施例1~10では、焼成膜の初期抵抗値が小さく、かつ、金属ナノインクを一定期間保存後に形成した焼成膜の抵抗値は、初期抵抗値よりさらに小さかった。
【0097】
本開示(1)は金属微粒子、(メタ)アクリル樹脂、アミン化合物、および、溶媒を含む金属ナノインクであって、前記アミン化合物が、金属イオンに対して2以上の配位座を有し、沸点が120~170℃であり、融点が5℃以下である、金属ナノインクである。
【0098】
本開示(2)は前記アミン化合物が、分子の中心面に対して非対称である、本開示(1)に記載の金属ナノインクである。
【0099】
本開示(3)は前記アミン化合物が、N-エチルエチレンジアミンである、本開示(1)または(2)に記載の金属ナノインクである。
【0100】
本開示(4)はさらに、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体を含む、本開示(1)~(3)のいずれかに記載の金属ナノインクである。
【0101】
本開示(5)は本開示(1)~(4)のいずれかに記載の金属ナノインクを基材に塗布して塗膜を形成する工程、および前記塗膜を焼成して金属膜を形成する工程を含む金属膜の製造方法である。