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特開2024-124166酸化錫粒子分散液、酸化錫粒子分散液の製造方法、および、酸化錫粒子積層膜の製造方法
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  • 特開-酸化錫粒子分散液、酸化錫粒子分散液の製造方法、および、酸化錫粒子積層膜の製造方法 図1
  • 特開-酸化錫粒子分散液、酸化錫粒子分散液の製造方法、および、酸化錫粒子積層膜の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124166
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】酸化錫粒子分散液、酸化錫粒子分散液の製造方法、および、酸化錫粒子積層膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 19/02 20060101AFI20240905BHJP
   C09C 1/00 20060101ALI20240905BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20240905BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20240905BHJP
   H10K 30/50 20230101ALI20240905BHJP
【FI】
C01G19/02 B
C09C1/00
C09D17/00
C09D1/00
H10K30/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032153
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】野原 彰浩
(72)【発明者】
【氏名】山口 朋彦
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
5F251
【Fターム(参考)】
4J037AA08
4J037DD23
4J037FF11
4J038AA001
4J038HA211
4J038KA06
4J038KA12
4J038MA10
4J038NA20
4J038PB09
5F251AA20
5F251FA04
5F251GA03
5F251XA01
5F251XA54
(57)【要約】
【課題】酸化錫粒子が均一に配置されて導電性に優れた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能な酸化錫粒子分散液、酸化錫粒子分散液の製造方法、および、酸化錫粒子積層膜の製造方法を提供する。
【解決手段】溶媒中に酸化錫粒子が分散された酸化錫粒子分散液であって、等電点が1.0以上3.8以下であることを特徴とする。pHを8.0に調整した際に、前記酸化錫粒子の凝集が生じないことが好ましい。前記酸化錫粒子に異種元素がドープされていてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中に酸化錫粒子が分散された酸化錫粒子分散液であって、
等電点が1.0以上3.8以下の範囲内であることを特徴とする酸化錫粒子分散液。
【請求項2】
pHを8.0に調整した際に、前記酸化錫粒子の凝集が生じないことを特徴とする請求項1に記載の酸化錫粒子分散液。
【請求項3】
前記酸化錫粒子に異種元素がドープされていることを特徴とする請求項1に記載の酸化錫粒子分散液。
【請求項4】
前記異種元素が、アンチモン、フッ素、リンから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項3に記載の酸化錫粒子分散液。
【請求項5】
前記酸化錫粒子の1次粒子径が1.5nm以上100nm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の酸化錫粒子分散液。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の酸化錫粒子分散液の製造方法であって、
錫原料が懸濁された原料懸濁液を生成する原料懸濁液生成工程と、前記原料懸濁液から固形分を除去した原料液を生成する原料液生成工程と、前記原料液を加熱処理する合成工程と、を有し、
前記原料懸濁液生成工程、前記原料液生成工程、前記合成工程を、0℃以上60℃以下の範囲内で実施することを特徴とする酸化錫粒子分散液の製造方法。
【請求項7】
酸化錫粒子積層膜の製造方法であって、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の酸化錫粒子分散液を塗工する塗工工程を備えていることを特徴とする酸化錫粒子積層膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば導電膜等を成膜する際に適用可能な酸化錫粒子分散液、酸化錫粒子分散液の製造方法、この酸化錫粒子分散液を用いた酸化錫粒子積層膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化錫は比較的良好な導電性を有することから、各種デバイスにおける導電層等の導電性材料として、酸化錫粒子が積層された構造の酸化錫粒子積層膜が用いられている。なお、酸化錫粒子積層膜に対して特定の特性を向上させるために、各種元素を酸化錫にドープした材料も提案されている。
上述の酸化錫粒子積層膜は、酸化錫粒子が分散された酸化錫粒子分散液を塗工して乾燥することよって形成される。
【0003】
ところで、上述の酸化錫粒子積層膜においては、酸化錫粒子間の接点数が導電性に影響する。このため、酸化錫粒子が均一に配置された酸化錫粒子積層膜を成膜することが求められている。
そこで、例えば、特許文献1においては、ガスフローの中でスピンコートによって成膜する技術が提案されている。この特許文献1においては、成膜時に蒸気圧を制御して分散液の乾燥速度を調整することで、均一な酸化錫粒子積層膜の成膜を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭64-027667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近では、上述の酸化錫粒子積層膜は、例えばペロブスカイト太陽電池の電子輸送層として適用することが検討されている。ペロブスカイト太陽電池の電子輸送層においては、膜厚がナノオーダーと非常に薄く、均一で導電性に優れた膜を成膜することはさらに困難であった。
なお、その他のデバイスにおいても、小型化および薄膜化が進んでおり、導電層となる酸化錫粒子積層膜を薄く、かつ、均一に形成することが求められている。
【0006】
酸化錫粒子積層膜を均一に成膜するためには、酸化錫粒子分散液を用いて成膜する過程において、酸化錫粒子が凝集することなく分散していることが求められる。
ここで、塗工した酸化錫粒子分散液を加熱した際には、酸化錫粒子分散液に含有されていた分散剤が揮発し、酸化錫粒子が凝集するおそれがあった。なお、不揮発性の分散剤を添加した場合には、酸化錫粒子間に不揮発性の分散剤が存在し、酸化錫粒子同士の接点数が減少してしまい、導電性が低下するおそれがあった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、酸化錫粒子が均一に配置されて導電性に優れた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能な酸化錫粒子分散液、酸化錫粒子分散液の製造方法、および、酸化錫粒子積層膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、酸化錫粒子分散液において、等電点を低く抑えることにより、酸化錫粒子の凝集が抑制され、酸化錫粒子が均一に配置され、導電性に優れた酸化錫粒子積層膜を成膜可能となるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の態様1の酸化錫粒子分散液は、溶媒中に酸化錫粒子が分散された酸化錫粒子分散液であって、等電点が1.0以上3.8以下であることを特徴としている。
【0010】
本発明の態様1の酸化錫粒子分散液によれば、等電点が1.0以上3.8以下と低く抑えられているので、この酸化錫粒子分散液の塗工膜を加熱処理した際に分散剤が揮発しても、酸化錫粒子の凝集が抑制され、酸化錫粒子が均一に配置される。また、非揮発性の分散剤を添加する必要がなく、酸化錫粒子の間に不揮発性の分散剤が存在することを抑制できる。
よって、酸化錫粒子同士の接点数が確保され、導電性に優れた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能となる。
【0011】
本発明の態様2は、態様1の酸化錫粒子分散液において、pHを8.0に調整した際に、前記酸化錫粒子の凝集が生じないことを特徴としている。
本発明の態様2の酸化錫粒子分散液によれば、pHを8.0としても凝集が生じないことから、この酸化錫粒子分散液の塗工膜を加熱処理した際に分散剤が揮発しても、酸化錫粒子の凝集が確実に抑制され、酸化錫粒子が均一に配置され、導電性に優れた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能となる。
【0012】
本発明の態様3は、態様1または態様2の酸化錫粒子分散液において、前記酸化錫粒子に異種元素がドープされていることを特徴としている。
本発明の態様3の酸化錫粒子分散液によれば、前記酸化錫粒子に異種元素がドープされていることから、酸化錫粒子の特性を調整することができ、要求特性に応じた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能となる。
【0013】
本発明の態様4は、態様3の酸化錫粒子分散液において、前記異種元素が、アンチモン、フッ素、リンから選択される1種又は2種以上であることを特徴としている。
本発明の態様4の酸化錫粒子分散液によれば、前記異種元素が、アンチモン、フッ素、リンから選択される1種又は2種以上とされているので、酸化錫粒子の特性を調整することができ、要求特性に応じた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能となる。
【0014】
本発明の態様5は、態様1から態様4のいずれかひとつの酸化錫粒子分散液において、前記酸化錫粒子の1次粒子径が1.5nm以上100nm以下の範囲内とされていることを特徴としている。
本発明の態様5の酸化錫粒子分散液によれば、前記酸化錫粒子の1次粒子径が1.5nm以上100nm以下の範囲内とされているので、ナノオーダーの膜厚の酸化錫粒子積層膜を安定して成膜することができる。
【0015】
本発明の態様6の酸化錫粒子分散液の製造方法は、態様1から態様5のいずれかひとつの酸化錫粒子分散液を製造する酸化錫粒子分散液の製造方法であって、錫原料が懸濁された原料懸濁液を生成する原料懸濁液生成工程と、前記原料懸濁液から固形分を除去した原料液を生成する原料液生成工程と、前記原料液を加熱処理する合成工程と、を有し、前記原料懸濁液生成工程、前記原料液生成工程、前記合成工程を、0℃以上60℃以下の範囲内で実施することを特徴としている。
本発明の態様6の酸化錫粒子分散液の製造方法によれば、前記原料懸濁液生成工程、前記原料液生成工程、前記合成工程を、0℃以上60℃以下の比較的低い温度条件で実施していることから、等電点を低く抑えることができる。
【0016】
本発明の態様7の酸化錫粒子積層膜の製造方法は、態様1から態様5のいずれかひとつの酸化錫粒子分散液を塗工する塗工工程を備えていること特徴としている。
本発明の態様7の酸化錫粒子積層膜の製造方法によれば、態様1から態様5のいずれかひとつの酸化錫粒子分散液を塗工する塗工工程を備えているので、酸化錫粒子が均一に配置され、導電性に優れた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、酸化錫粒子が均一に配置されて導電性に優れた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能な酸化錫粒子分散液、酸化錫粒子分散液の製造方法、および、酸化錫粒子積層膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態である酸化錫粒子積層膜を備えたペロブスカイト太陽電池の概略説明図である。
図2】本発明の実施形態である酸化錫粒子分散液の製造方法の一例を示すフロー図である。
図3】本発明の実施形態である酸化錫粒子積層膜の製造方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態である酸化錫粒子分散液、酸化錫粒子分散液の製造方法、および、酸化錫粒子積層膜の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0020】
本発明の実施形態である酸化錫粒子分散液は、例えば導電層として使用される酸化錫粒子積層膜を成膜する際に用いられるものである。
そして、本発明の実施形態である酸化錫粒子積層膜は、例えば、図1に示すペロブスカイト太陽電池の電子輸送層として使用される。ペロブスカイト太陽電池10は、例えば図1に示すように、ガラス基板11の表面に、ITO膜12,電子輸送層13,ペロブスカイト層14,正孔輸送層15,裏面電極16が積層された構造とされている。
【0021】
電子輸送層13を構成する酸化錫粒子積層膜においては、その膜厚が10nm以上100nm以下の範囲内とされている。
このため、本実施形態である酸化錫粒子分散液においては、酸化錫粒子積層膜を薄くかつ精密に成膜することが求められている。また、酸化錫粒子積層膜には、導電性材料として、導電性に優れていることが求められている。
【0022】
酸化錫粒子積層膜の導電性には、酸化錫粒子積層膜における酸化錫粒子同士の接点数が大きく影響する。よって、導電性を向上させるためには、酸化錫粒子が均一に配置されるように、酸化錫粒子積層膜を成膜する必要がある。
そこで、本実施形態である酸化錫粒子分散液においては、等電点を1.0以上3.8以下の範囲内に設定している。
さらに、本実施形態の酸化錫粒子分散液においては、pHを8.0に調整した際に、前記酸化錫粒子の凝集が生じないことが好ましい。
【0023】
ここで、等電点について説明する。酸化錫等の金属酸化物は、水に分散した分散液中では表面電位を持つことになる。この金属酸化物の水分散液において、金属酸化物粒子の周囲に形成されるイオン固定層とイオン拡散層とからなる電気二重層中の、液体流動が起こり始めるすべり面の電位は、ゼータ電位と呼ばれている。
このゼータ電位の大きさは、金属酸化物の表面状態と溶液のpHに依存しており、ゼータ電位が0となるpHが等電点である。
【0024】
酸化錫を水に分散した分散液においては、通常、等電点は4.0程度である。これに対して、本実施形態である酸化錫粒子分散液においては、上述のように、等電点が1.0以上3.8以下の範囲内と、比較的低くなるように構成されている。
このように、等電点を低く設定することにより、pHが8以下となっても酸化錫粒子の分散状態が維持される傾向にある。よって、塗工した酸化錫粒子分散液を加熱する過程で分散剤が揮発して液性が中性に近づいても、不揮発性の分散剤を用いなくても酸化錫粒子が凝集せず、均一な膜塗工が可能となる。
【0025】
また、本実施形態である酸化錫粒子分散液においては、酸化錫粒子の1次粒子径が1.5nm以上100nm以下の範囲内であることが好ましい。
なお、酸化錫粒子の1次粒子径は、1.8nm以上であることがより好ましく、2.0nm以上であることがさらに好ましい。また、酸化錫粒子の1次粒子径は、50nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。
【0026】
さらに、本実施形態である酸化錫粒子分散液においては、酸化錫粒子は、Sn、O以外の異種元素がドープされたものであってもよい。なお、異種元素の含有量は、10000massppm上100000massppm以下の範囲内とすることが好ましい。
また、ドープされる異種元素として、アンチモン、フッ素、リンから選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0027】
次に、本実施形態である酸化錫粒子分散液の製造方法の一例について、図2のフロー図を用いて説明する。
【0028】
(原料懸濁液生成工程S01)
錫原料(例えば、塩化錫水溶液)に、混合物(例えば、炭酸水素ナトリウム水溶液)を滴下し、発泡が収まるまで静置し、原料懸濁液を生成する。
この原料懸濁液生成工程S01においては、滴下速度を0.5 mL/min以上10 mL/min以下の範囲内とすることが好ましい。
【0029】
(原料液生成工程S02)
次に、原料懸濁液からデカンテーションにより固形分を分離するとともに、アンモニア水を加えて、原料液を生成する。
この原料液生成工程S02においては、加えるアンモニア水におけるアンモニア濃度を0.1mass%以上8.0 mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0030】
(合成工程S03)
次に、上述の原料液を密閉容器に入れて加熱処理することにより、酸化錫粒子分散液を生成する。
ここで、合成工程S03における合成温度Tを0℃以上150℃以下の範囲内、反応時間Hを1時間以上12時間以下の範囲内、合成温度Tと合成時間Hとの積T×Hを0以上1800以下の範囲内とする。
【0031】
上述の各工程により、本実施形態である酸化錫粒子分散液が形成される。この酸化錫粒子分散液においては、等電点が1.0以上3.8以下となる。
【0032】
なお、錫原料と混合物との組み合わせにより、等電点が制御することが可能である。例えば、塩化錫原料とアンモニウム塩またはアミンの組み合わせで等電点が低くなる傾向にあり、錫酸塩原料を用いると等電点が低くなる傾向にある。これに対して、塩化錫原料と強塩基の組み合わせは等電点が高くなる傾向にある。
また、酸化錫粒子分散液の製造プロセスの温度条件を低くすると、等電点が小さくなる傾向にある。このため、原料懸濁液生成工程S01、原料液生成工程S02、合成工程S03を、0℃以上60℃以下の範囲内で実施することが好ましい。
【0033】
次に、本実施形態である酸化錫粒子分散液を用いた酸化錫粒子積層膜の製造方法の一例について、図3のフロー図を用いて説明する。
【0034】
(固形分濃度調整工程S11)
まず、本実施形態である酸化錫粒子分散液を準備し、イオン交換水を用いて、酸化錫粒子分散液における固形分濃度が2mass%以上20mass%以下の範囲内になるように調整する。
なお、酸化錫粒子分散液における固形分濃度は5mass%以上であることが好ましく、8mass%以上とすることがより好ましい。また、酸化錫粒子分散液における固形分濃度は18mass%以下であることが好ましく、15mass%以下であることがより好ましい。
【0035】
(塗工工程S12)
次に、固形分濃度を調整した酸化錫粒子分散液を、スピンコート装置によって基板上に塗工する。
この塗工工程S12におけるスピンコートの条件は、回転数500rpm以上3000rpm以下の範囲内、塗工時間を5秒以上60秒以下の範囲内とすることが好ましい。また、塗工膜の厚さは、20nm以上100nm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0036】
(加熱工程S13)
次に、塗工膜(塗工した酸化錫粒子分散液)を加熱することにより、溶媒を除去し、酸化錫粒子積層膜を形成する。
この加熱工程S13における加熱条件は、加熱温度を100℃以上400℃以下の範囲内、加熱時間を1分以上10分以下の範囲内とすることが好ましい。
【0037】
上述の各工程により、本実施形態である酸化錫粒子積層膜が成膜される。
ここで、本実施形態である酸化錫粒子積層膜においては、膜厚の平均値が10nm以上100nm以下の範囲内、膜厚の標準偏差が3nm以上40nm以下の範囲内、膜厚の変動係数CVが50%以下とされている。
【0038】
以上のような構成とされた本実施形態である酸化錫粒子分散液によれば、等電点が1.0以上3.8以下と低く抑えられているので、この酸化錫粒子分散液の塗工膜を加熱処理した際に分散剤が揮発しても、酸化錫粒子の凝集が抑制され、酸化錫粒子が均一に配置される。また、非揮発性の分散剤を添加する必要がなく、酸化錫粒子の間に不揮発性の分散剤が存在することを抑制できる。よって、酸化錫粒子同士の接点数が確保され、導電性に優れた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能となる。
【0039】
ここで、本実施形態である酸化錫粒子分散液において、pHを8.0に調整した際に、前記酸化錫粒子の凝集が生じない場合には、この酸化錫粒子分散液の塗工膜を加熱処理した際に分散剤が揮発しても、酸化錫粒子の凝集が確実に抑制され、酸化錫粒子が均一に配置され、導電性に優れた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能となる。
【0040】
また、本実施形態である酸化錫粒子分散液において、酸化錫粒子に異種元素がドープされている場合には、ドープする異種元素の種類および含有量により、求特性に応じた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能となる。
ここで、異種元素が、アンチモン、フッ素、リンから選択される1種又は2種以上である場合には、特に導電性に優れた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能となる。
【0041】
さらに、本実施形態である酸化錫粒子分散液において、酸化錫粒子の1次粒子径が1.5nm以上100nm以下の範囲内とされている場合には、酸化錫粒子積層膜をナノオーダーの膜厚で成膜した場合であっても、酸化錫粒子が均一に分散することになり、膜厚が均一な酸化錫粒子積層膜を安定して成膜することが可能となる。
【0042】
本実施形態である酸化錫粒子分散液の製造方法によれば、原料懸濁液生成工程S01、原料液生成工程S02、合成工程S03を、0℃以上60℃以下の比較的低い温度条件で実施していることから、等電点を低く抑えることができる。
【0043】
本実施形態である酸化錫粒子積層膜の製造方法によれば、本実施形態である酸化錫粒子分散液を塗工する塗工工程S12を備えているので、酸化錫粒子が均一に配置され、導電性に優れた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能となる。
【0044】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、酸化錫粒子積層膜が、図1に示すペロブスカイト太陽電池の電子輸送層を構成するものとして説明したが、これに限定される他の用途で使用されるものであってもよい。
【実施例0045】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
【0046】
(本発明例1~6)
錫原料として塩化錫(IV)五水和物1.80gをイオン交換水5.2gに溶解してA液を得た。また、混合物として炭酸アンモニウム1.05gをイオン交換水11.06gに溶解してB液を得た。B液をA液に1mL/minの速度で滴下し、発泡がおさまるまで静置して原料懸濁液とした。
原料懸濁液に1.4mass%アンモニア水7.0gを加えて原料液とした。
この原料液を密閉容器内に装入し、表1に示す合成条件で加熱処理することにより、酸化錫粒子分散液を得た。
【0047】
なお、本発明例4においては、A液に塩化アンチモン(III)を0.180g添加し、その後、B液をA液に滴下することで、Sbをドープした。
また、本発明例5においては、A液に三塩化リンを0.108g添加し、その後、B液をA液に滴下することで、Pをドープした。
さらに、本発明例6においては、A液にフッ化錫(IV)を0.025g添加し、その後、B液をA液に滴下することで、Fをドープした。
【0048】
(本発明例7~10)
錫原料として塩化錫(IV)五水和物1.80gをイオン交換水5.2gに溶解してA液を得た。また、混合物としてカルバミン酸アンモニウム1.70gをイオン交換水11.06gに溶解してB液を得た。B液をA液に1mL/minの速度で滴下し、原料懸濁液とした。
原料懸濁液に1.4mass%アンモニア水7.0gを加えて原料液とした。
この原料液を密閉容器内に装入し、表1に示す合成条件で加熱処理することにより、酸化錫粒子分散液を得た。
なお、本発明例10においては、A液に塩化アンチモン(III)を0.180g添加し、その後、B液をA液に滴下することで、Sbをドープした。
【0049】
(本発明例11,12)
錫原料として塩化錫(IV)五水和物1.80gをイオン交換水5.2gに溶解してA液を得た。また、混合物として炭酸水素アンモニウム1.79gをイオン交換水11.06gに溶解してB液を得た。B液をA液に1mL/minの速度で滴下し、発泡がおさまるまで静置して原料懸濁液とした。
原料懸濁液に1.4mass%アンモニア水7.0gを加えて原料液とした。
この原料液を密閉容器内に装入し、表1に示す合成条件で加熱処理することにより、酸化錫粒子分散液を得た。
【0050】
(本発明例13)
錫原料として塩化錫(IV)五水和物1.80gをイオン交換水5.2gに溶解してA液を得た。また、混合物としてモノエタノールアミン1.33gをB液とした。B液をA液に1mL/minの速度で滴下し、原料懸濁液とした。
原料懸濁液に1.4mass%アンモニア水7.0gを加えて原料液とした。
この原料液を密閉容器内に装入し、表1に示す合成条件で加熱処理することにより、酸化錫粒子分散液を得た。
【0051】
(本発明例14,15)
錫原料として錫酸カリウム三水和物1.99gをイオン交換水10.0gに溶解してA液を得た。また、混合物である1mol/L塩酸10gをB液とした。B液をA液に1mL/minの速度で滴下し、原料懸濁液とした。
原料懸濁液に1.4mass%アンモニア水7.0gを加えて原料液とした。
この原料液を密閉容器内に装入し、表1に示す合成条件で加熱処理することにより、酸化錫粒子分散液を得た。
なお、本発明例15においては、A液に塩化アンチモン(III)を0.180g添加し、その後、B液をA液に滴下することで、Sbをドープした。
【0052】
(本発明例16,17)
錫原料として錫酸カリウム三水和物1.99gをイオン交換水10.0gに溶解してA液を得た。また、混合物である酢酸2.0gをB液とした。B液をA液に1mL/minの速度で滴下し、原料懸濁液とした。
原料懸濁液に1.4mass%アンモニア水7.0gを加えて原料液とした。
この原料液を密閉容器内に装入し、表1に示す合成条件で加熱処理することにより、酸化錫粒子分散液を得た。
なお、本発明例17においては、A液に塩化アンチモン(III)を0.180g添加し、その後、B液をA液に滴下することで、Sbをドープした。
【0053】
(本発明例18)
錫原料として錫酸ナトリウム三水和物1.72gをイオン交換水10.0gに溶解してA液を得た。また、混合物である1mol/L塩酸10gをB液とした。B液をA液に1mL/minの速度で滴下し、原料懸濁液とした。
原料懸濁液に1.4mass%アンモニア水7.0gを加えて原料液とした。
この原料液を密閉容器内に装入し、表1に示す合成条件で加熱処理することにより、酸化錫粒子分散液を得た。
【0054】
(本発明例19,20)
錫原料として錫酸ナトリウム三水和物1.72gをイオン交換水10.0gに溶解してA液を得た。また、混合物である酢酸2.0gをB液とした。B液をA液に1mL/minの速度で滴下し、原料懸濁液とした。
原料懸濁液に1.4mass%アンモニア水7.0gを加えて原料液とした。
この原料液を密閉容器内に装入し、表1に示す合成条件で加熱処理することにより、酸化錫粒子分散液を得た。
なお、本発明例20においては、A液に塩化アンチモン(III)を0.180g添加し、その後、B液をA液に滴下することで、Sbをドープした。
【0055】
(比較例1,2)
錫原料として塩化錫(IV)五水和物1.80gをイオン交換水5.2gに溶解してA液を得た。また、混合物である1mol/L水酸化ナトリウム水溶液22gをB液とした。B液をA液に1mL/minの速度で滴下し、原料懸濁液とした。
原料懸濁液に1.4mass%アンモニア水7.0gを加えて原料液とした。
この原料液を密閉容器内に装入し、表1に示す合成条件で加熱処理することにより、酸化錫粒子分散液を得た。
【0056】
上述の酸化錫粒子分散液に対して、イオン交換水を添加して固形分濃度8mass%に希釈した。
希釈した酸化錫粒子分散液をスピンコーター(三笠株式会社 型式名:MS-A150)にて、500rpm、60秒の条件で、50mm×50mmのガラス基板上にスピンコートし、塗工膜を形成した。
塗工膜を形成したガラス基板を、ホットプレート上で、100℃、3分加熱することにより、酸化錫粒子積層膜を成膜した。
【0057】
上述のようにして得られた酸化錫粒子分散液、酸化錫粒子積層膜について、以下のような手法によって各項目を評価した。評価結果を表2に示す。
【0058】
(等電点)
酸化錫分散液を1.0mass%までイオン交換水で希釈して、粒度分布測定装置(Malvern社製Zetasizer nano)にてゼータ電位測定を行った。
0.5mol/Lの塩酸にて、pH10から2までの範囲でpHを0.5ずつ変化させながらゼータ電位を測定した。pHに対してゼータ電位をプロットし、ゼータ電位の正負が反転する前後の2プロットを直前近似することで等電点(ゼータ電位が0となるpHを算出した。
【0059】
(酸化錫粒子の1次粒子径)
溶媒中に分散した酸化錫粒子について、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社 型式名:JEM-2010F)を用いて、倍率200,000倍で撮影した。
撮影した像を、ソフトウェア(品名:Image J)により、100個の粒子の粒子径を測定し、その平均を算出することで求めた。
【0060】
(酸化錫粒子の凝集の有無)
上述のように透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社 型式名:JEM-2010F)を用いて測定した粒子径を、幾何学的粒子径とした。
また、酸化錫分散液を0.5mass%まで分散媒と同じ溶媒で希釈した後に、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液または1mol/L塩酸でpH=8.0に調整した。粒度分布測定装置(Malvern社製Zetasizer nano)を用いて、動的光散乱法にて粒子直径の個数分布を測定した。個数分布から平均値を算出し、流体力学的粒子径の値を得た。
上記流体力学的粒子径を上記幾何学的粒子径で除した値が2.5を超えたものを「凝集あり」とし、2.5以下のものを「凝集なし」と評価した。
【0061】
(酸化錫粒子積層膜の導電性)
上述のようにして得られた酸化錫粒子積層膜について、表面抵抗測定器(品番:ロレスタAP MCP-T400 プローブ:ASPプローブ(四針)、三菱化学社製)にて抵抗測定した。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
比較例1においては、等電点が4.50とされており、酸化錫粒子の凝集が発生し、酸化錫粒子積層膜の電気抵抗値が2.112×10Ωと高い値を示しており、導電性に劣っていた。
比較例2においては、等電点が4.11とされており、酸化錫粒子の凝集が発生し、酸化錫粒子積層膜の電気抵抗値が1.439×10Ωと高い値を示しており、導電性に劣っていた。
【0065】
これに対して、本発明例1~20においては、等電点が4.00未満であり、酸化錫粒子の凝集は発生せず、酸化錫粒子積層膜の電気抵抗値が6.719×10Ω以下と低い値を示しており、導電性に優れていた。
【0066】
以上のように、本発明によれば、酸化錫粒子が均一に配置されて導電性に優れた酸化錫粒子積層膜を成膜することが可能な酸化錫粒子分散液、酸化錫粒子分散液の製造方法、および、酸化錫粒子積層膜の製造方法を提供可能であることが確認された。
図1
図2
図3