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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124170
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ダンパの取付構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240905BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240905BHJP
   F16F 7/06 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
E04H9/02 351
F16F15/02 E
F16F7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032157
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 和彦
(72)【発明者】
【氏名】市村 佳大
(72)【発明者】
【氏名】川口 雄暉
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB11
2E139AD03
2E139BA12
2E139BA14
2E139BA19
2E139BA24
2E139BC06
2E139BD32
2E139BD35
3J048AA06
3J048AC01
3J048EA38
3J066CA03
(57)【要約】
【課題】単純な構造のダンパを用いて、横揺れ量の小さい中小地震から横揺れ量の大きい長周期大地震まで広く対応可能なダンパの取付構造を提供する。
【解決手段】ダンパ1を建築物の下面4と設置面5との間に垂直に配置して、その上端部および下端部をそれぞれ建築物の下面4および設置面5に対して傾斜自在となるようにクレビスジョイント2a、2bによりピン接合する。また、クレビスジョイント2bのベース板20bに貫通孔21を設け、貫通孔21より小さな軸径のボルト3bでクレビスジョイント2bを設置面5に固定することにより、クレビスジョイント2bを、貫通孔21の口径とボルト3bの軸径との差分だけ、設置面5に対して水平方向に移動可能とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物とその設置面との間に生じる水平方向の相対変位のエネルギーを抵抗力により吸収して、当該建築物の横揺れを低減するダンパの取付構造であって、
前記建築物の下面と前記設置面との間に垂直に配置された前記ダンパと、
前記ダンパの上端部および下端部に設けられ、前記上端部および前記下端部を、それぞれ、前記建築物の下面および前記設置面に対して傾斜自在となるように、前記建築物の下面および前記設置面に接合する一対の継手と、を備え、
前記一対の継手の少なくとも一方は、
貫通孔を有し、当該貫通孔の口径より小さな軸径のボルトにより接合対象に固定され、当該貫通孔の口径と当該ボルトの軸径との差分だけ、前記接合対象に対して水平方向に移動可能である
ことを特徴とするダンパの取付構造。
【請求項2】
請求項1に記載のダンパの取付構造であって、
前記一対の継手の少なくとも一方は、
前記接合対象と摺動する摺動板を有し、
前記貫通孔は、前記摺動板に設けられている
ことを特徴とするダンパの取付構造。
【請求項3】
請求項2に記載のダンパの取付構造であって、
前記摺動板と前記接合対象との間に配置され、前記摺動板と前記接合対象との間の摩擦力を調整するための摩擦板をさらに有する
ことを特徴とするダンパの取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物とその設置面との間に生じる水平方向の相対変位のエネルギーを抵抗力により吸収するダンパの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物とその設置面との間に生じる水平方向の相対変位のエネルギーを抵抗力により吸収して、地震、風等による建築物の横揺れを低減する免震用ダンパが知られている。
【0003】
特許文献1には、建築物とその設置面との間に垂直に配置された免震用ダンパ(摩擦ダンパ)が開示されている。この免震用ダンパは、建築物とその設置面との間に生じる垂直方向の相対変位のエネルギーを抵抗力により吸収して、垂直方向の振動を低減するためのものであるが、免震用ダンパの上端部および下端部を、それぞれ、ボールジョイントを介して建築物の下面および設置面にピン接合しており、水平方向の相対変位のエネルギーを吸収して、水平方向の振動を低減することができる。
【0004】
免震用ダンパの下端部側ボールジョイントの回転中心から上端部側ボールジョイントの回転中心までの高さをL、下端部側ボールジョイントの回転中心から上端部側ボールジョイントの回転中心までの水平方向の距離をxとした場合、この免震用ダンパの長さ方向の変化量ΔLは、下記の数1により表すことができる。
【0005】
【数1】
【0006】
また、免震用ダンパの長さ方向の変化の速度vは、その長さ方向の変化量ΔLの時間による微分値、すなわち下記の数2により表すことができる。
【0007】
【数2】
【0008】
また、この免震用ダンパの垂直方向からの傾き(なす角)をθ、その減衰係数をCとした場合、この免震用ダンパの水平方向の減衰力Fは、下記の数3により表すことができる。
【0009】
【数3】
【0010】
図13は、特許文献1に示す従来の免震用ダンパの取付構造における、建築物の下面と設置面との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係をグラフ化した図である。なお、特許文献1に示す従来の免震用ダンパの取付構造において、建築物の下面と設置面との横ずれ量sは、免震用ダンパの下端部側ボールジョイントの回転中心から上端部側ボールジョイントの回転中心までの水平方向の距離xと一致し、水平方向の減衰力Fは、免震用ダンパの水平方向の減衰力Fと一致する。
【0011】
図示するように、免震用ダンパの水平方向の減衰力Fは、設置面と建築物の下面との横ずれ量sの変化に対して蝶型の軌跡を描く。すなわち、建築物の下面と設置面との横ずれ量sが小さい(免震用ダンパの垂直方向からの傾きθが小さい)ときは、水平方向の減衰力Fが小さくなり、建築物の下面と設置面との横ずれ量sが大きい(免震用ダンパの垂直方向からの傾きθが大きい)ときは、水平方向の減衰力Fが大きくなる。したがって、特許文献1に示す従来の免震用ダンパの取付構造のように、上端部および下端部がそれぞれ建築物の下面および設置面に対して傾斜自在となるようにして、免震用ダンパを建築物の下面と設置面との間に垂直に配置することにより、横揺れ量の小さい中小地震から横揺れ量の大きい長周期大地震まで広く対応することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2019-52454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上端部および下端部がそれぞれ建築物の下面および設置面に対して傾斜自在となるようにして、免震用ダンパを建築物の下面と設置面との間に垂直に配置した場合、図13に示すように、設置面と建築物の下面との横ずれ量sの絶対値が増加から減少に変化する際(符号130、131に示す部分)、免震用ダンパの水平方向の減衰力Fが瞬時に大きく変化(プラス方向の最大値からマイナス方向の最大値に瞬時に変化、あるいは、マイナス方向の最大値からプラス方向の最大値に瞬時に変化)する。このため、この減衰力Fの瞬時かつ大きな変化を生じさせないための複雑な構造を有するダンパが必要となる。また、水平方向の変位に追従するため、大きなストロークのダンパが必要となる。
【0014】
なお、特許文献1には、ボールジョイントを介して建築物に上端部をピン接合し、下端部をリニアスライダに剛接合して、リニアスライダを設置面に対して摺動可能とした免震用ダンパも開示されている。しかし、これでは、建築物とその設置面との間に生じる水平方向の相対変位のエネルギーを抵抗力により吸収して水平方向の揺れを低減することができない。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、例えば摩擦ダンパのように、比較的ストロークが小さく単純な構造のダンパを用いて、横揺れ量の小さい中小地震から横揺れ量の大きい長周期大地震まで広く対応可能なダンパの取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明では、ダンパを建築物の下面と設置面との間に垂直に配置して、その上端部および下端部をそれぞれ建築物の下面および設置面に対して傾斜自在となるように継手により接合する。また、ダンパの上端部および下端部の少なくとも一方の継手に貫通孔を設け、この貫通孔より小さな軸径のボルトでこの継手を接合対象に固定することにより、この継手を、貫通孔の口径とボルトの軸径との差分だけ、接合対象に対して水平方向に移動可能とする。
【0017】
例えば、本発明のダンパの取付構造は、
建築物とその設置面との間に生じる水平方向の相対変位のエネルギーを抵抗力により吸収して、当該建築物の横揺れを低減するダンパの取付構造であって、
前記建築物の下面と前記設置面との間に垂直に配置された前記ダンパと、
前記ダンパの上端部および下端部に設けられ、前記上端部および前記下端部を、それぞれ、前記建築物の下面および前記設置面に対して傾斜自在となるように、前記建築物の下面および前記設置面に接合する一対の継手と、を備え、
前記一対の継手の少なくとも一方は、
貫通孔を有し、当該貫通孔の口径より小さな軸径のボルトにより接合対象に固定され、当該貫通孔の口径と当該ボルトの軸径との差分だけ、前記接合対象に対して水平方向に移動可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明において、ダンパの上端部および下端部の少なくとも一方の継手は、この継手が有する貫通孔の口径と、この貫通孔を介してこの継手を接合対象に固定するためのボルトの軸径との差分だけ、接合対象に対して水平方向に移動可能であるので、ダンパの垂直方向からの傾きをこの差分に応じた量だけ小さくすることができ、その分、ダンパの減衰力の急激な変化幅を小さくすることができる。したがって、本発明によれば、例えば摩擦ダンパのように、比較的ストロークの小さく単純な構造のダンパを用いて、横揺れ量の小さい中小地震から横揺れ量の大きい長周期大地震まで広く対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係るダンパ1の取付構造の概略図である。
図2図2は、図1に示すダンパ1の取付構造のA部拡大断面図である。
図3図3は、建築物の下面4が設置面5に対して水平方向(正方向)に移動を開始した場合におけるダンパ1の取付構造の状態を示す図である。
図4図4は、建築物の下面4が設置面5に対して水平方向(正方向)に移動して、ダンパ1の水平方向の減衰力Fがベース板20bと設置面5との間の摩擦力Fに到達した場合におけるダンパ1の取付構造の状態を示す図である。
図5図5は、ベース板20bが設置面5に対して水平方向(正方向)に摺動し、ボルト3bがベース板20bの貫通孔21の中心から移動して貫通孔21の内壁と当接した場合におけるダンパ1の取付構造の状態を示す図である。
図6図6は、建築物の下面4の設置面5に対する水平方向の移動が正方向から負方向に切り替わった場合におけるダンパ1の取付構造の状態を示す図である。
図7図7は、ベース板20bが設置面5に対して水平方向(負方向)に摺動して、ボルト3bがベース板20bの貫通孔21の当接中の内壁から反対側の内壁に移動し当接した場合におけるダンパ1の取付構造の状態を示す図である。
図8図8は、建築物の下面4が設置面5に対して図7に示す状態からさらに水平方向(負方向)に移動した場合におけるダンパ1の取付構造の状態を示す図である。
図9図9は、建築物の下面4の設置面5に対する水平方向の移動が負方向から正方向に切り替わった場合におけるダンパ1の取付構造の状態を示す図である。
図10図10は、ベース板20bが設置面5に対して水平方向(正方向)に摺動して、ボルト3bがベース板20bの貫通孔21の当接中の内壁から反対側の内壁に移動し当接した場合におけるダンパ1の取付構造の状態を示す図である。
図11図11は、本実施の形態に係るダンパ1の取付構造における、建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係(初回ループ時)をグラフ化した図である。
図12図12は、本実施の形態に係るダンパ1の取付構造における、建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係(2回目以降ループ時)をグラフ化した図である。
図13図13は、特許文献1に示す従来の免震用ダンパの取付構造における、建築物の下面と設置面との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係をグラフ化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施の形態について説明する。
【0021】
図1は、本実施の形態に係るダンパ1の取付構造の概略図であり、図2は、図1に示すダンパ1の取付構造のA部拡大断面図である。
【0022】
図示するように、ダンパ1は、建築物の下面4とその設置面5との間に垂直に配置された摩擦ダンパであり、シリンダ10と、シリンダ10内を上下方向に移動可能に配置されたピストン11と、ピストン11の上下方向の移動に対して減衰力(反力)を発生させる減衰力発生体12と、ピストン11に取り付けられたピストンロッド13と、を備えている。減衰力発生体12には、シリンダ10の内周面とピストン11の外周面との間に配置された摩擦材が用いられる。
【0023】
ピストンロッド13の上端部は、クレビスジョイント2aにより建築物の下面4に対して傾斜可能にピン接合されている。クレビスジョイント2aは、ベース板20aを有しており、このベース板20aの四隅には、貫通孔(不図示)が形成されている。ボルト3aがワッシャ30aを介して貫通孔に挿通され、建築物の下面4に形成されたボルト穴(不図示)と螺合することより、クレビスジョイント2aは、建築物の下面4に固定される。なお、ワッシャ30aは、ボルト3aと一体化されていてもよい。
【0024】
シリンダ10の下面は、クレビスジョイント2bにより設置面5に対して傾斜可能にピン接合されている。クレビスジョイント2bは、ベース板(摺動板)20bを有しており、このベース板20bの四隅には、貫通孔21(図2参照)が形成されている。ボルト3bがワッシャ30bを介して貫通孔21に挿通され、設置面5に形成されたボルト穴50と螺合することより、クレビスジョイント2bは、設置面5に固定される。
【0025】
ここで、図2に示すように、ボルト3bは、その軸径d1が貫通孔21の口径d2より小さいものが用いられ、ワッシャ30bは、ボルト3bが貫通孔21の内壁と当接するまで水平方向に移動した場合でも、その縁部が貫通孔21の外側に位置する大きさの外径d3(≧d2+(d2-d1))を有するものが用いられる。このようにすることにより、ベース板20bと設置面5との間に、両者間の摩擦力Fより大きな力が水平方向に加わった場合に、ダンパ1を設置面5に対して、ボルト3bの軸径d1と貫通孔21の口径d2との差分に応じた量だけ水平方向に移動させることができる。また、ベース板20bと設置面5との間の摩擦力Fは、ボルト3bの締め具合で調節することができる。なお、ベース板20bと設置面5との間の摩擦力Fは、少なくとも、ダンパ1が発生し得る水平方向の減衰力Fの最大値より小さい値に設定される。また、ワッシャ30bは、ボルト3bと一体化されていてもよい。
【0026】
図3は、建築物の下面4が設置面5に対して水平方向(正方向)に移動を開始した場合におけるダンパ1の取付構造の状態を示す図である。
【0027】
この場合、ダンパ1は、垂直方向から傾くとともにその長さを増大させ、その長さ方向の変化の速度vおよびその垂直方向からの傾き(なす角)θに応じた水平方向の減衰力(反力)Fを発生(増大)させる。
【0028】
なお、ダンパ1が発生させる水平方向の減衰力Fがベース板20bと設置面5との間の摩擦力Fに到達するまでは、ベース板20bおよび設置面5間の摺動は発生しない。
【0029】
クレビスジョイント2bの回転中心からクレビスジョイント2aの回転中心までの高さをL、クレビスジョイント2bの回転中心からクレビスジョイント2aの回転中心までの水平方向の距離をxとした場合、ダンパ1の長さ方向の変化量ΔLは、上記の数1により表すことができる。このとき、建築物の下面4と設置面5との横ずれ量(両者間に横ずれが発生していないとした場合に互いに一致する下面4の軸Oと設置面5の軸Oとの差分)sは、クレビスジョイント2bの回転中心からクレビスジョイント2aの回転中心までの水平方向の距離xと一致する。
【0030】
また、ダンパ1の長さ方向の変化の速度vは、その長さ方向の変化量ΔLの時間による微分値、すなわち上記の数2により表すことができ、さらに、ダンパ1の垂直方向からの傾き(なす角)をθ、その減衰係数をCとした場合、ダンパ1の水平方向の減衰力Fは、上記の数3により表すことができる。このとき、ダンパ1の取付構造全体の水平方向の減衰力Fは、ダンパ1の水平方向の減衰力Fと一致する。
【0031】
図4は、建築物の下面4が設置面5に対して水平方向(正方向)に移動して、ダンパ1の水平方向の減衰力Fがベース板20bと設置面5との間の摩擦力Fに到達した場合におけるダンパ1の取付構造の状態を示す図である。
【0032】
図示するように、建築物の下面4が設置面5に対して水平方向(正方向)に移動して、ダンパ1の水平方向の減衰力Fがベース板20bと設置面5との間の摩擦力Fに到達すると、ベース板20bが設置面5に対して水平方向(正方向)に摺動を開始する。これにより、ダンパ1は、その長さ方向の変化量ΔLおよび垂直方向からの傾きθを一定に維持したまま(したがって速度v=0)、水平方向(正方向)に移動する。この水平方向(正方向)の移動は、ボルト3bがベース板20bの貫通孔21の中心から移動して貫通孔21の内壁と当接する位置まで、すなわち設置面5の軸Oからの摺動量Δsが貫通孔21の口径d2およびボルト3bの軸径d1の差分の半分(=(d2-d1)/2)となるまで継続する。このとき、ダンパ1の水平方向の減衰力Fはゼロであり(速度v=0であるため)、ダンパ1の取付構造全体の水平方向の減衰力Fは、ベース板20bと設置面5との間の摩擦力Fと一致する。
【0033】
図5は、ベース板20bが設置面5に対して水平方向(正方向)に摺動し、ボルト3bがベース板20bの貫通孔21の中心から内壁に移動し当接した場合におけるダンパ1の取付構造の状態を示す図である。
【0034】
図示するように、ベース板20bが設置面5に対して水平方向(正方向)に摺動して、ボルト3bがベース板20bの貫通孔21の中心から内壁へ移動し当接すると(摺動量Δs=(d2-d1)/2に到達すると)、その後、ダンパ1は、その長さを増大させるとともにその垂直方向からの傾きθを増大させ、図3に示す場合と同様、その長さ方向の変化の速度vおよびその垂直方向からの傾きθに応じた水平方向の減衰力(反力)Fを発生(増大)させる。このとき、ダンパ1の取付構造全体の水平方向の減衰力Fは、ダンパ1の水平方向の減衰力Fと一致する。
【0035】
図6は、建築物の下面4の設置面5に対する水平方向の移動が正方向から負方向に切り替わった場合におけるダンパ1の取付構造の状態を示す図である。
【0036】
図示するように、建築物の下面4の設置面5に対する水平方向の移動が正方向から負方向に切り替わると、ダンパ1に、これまでとは逆方向の水平方向の減衰力Fが瞬時に発生する。そして、この減衰力Fがベース板20bと設置面5との間の摩擦力Fに到達すると、ベース板20bが設置面5に対してこれまでとは反対方向である水平方向(負方向)に摺動を開始する。これにより、ダンパ1は、その長さ方向の変化量ΔLおよびその垂直方向からの傾きθを一定に維持したまま(したがって速度v=0)、水平方向(負方向)に移動する。この水平方向(負方向)の移動は、ボルト3bがベース板20bの貫通孔21の当接中の内壁から反対側の内壁へ移動して当接する位置まで、すなわち、ベース板20bの現在位置からの摺動量Δsが貫通孔21の口径d2およびボルト3bの軸径d1の差分(=d2-d1)となるまで継続する。このとき、ダンパ1の水平方向の減衰力Fはゼロであり(速度v=0であるため)、ダンパ1の取付構造全体の水平方向の減衰力Fは、ベース板20bと設置面5との間の摩擦力Fと一致する。
【0037】
図7は、ベース板20bが設置面5に対して水平方向(負方向)に摺動して、ボルト3bがベース板20bの貫通孔21の当接中の内壁から反対側の内壁に移動し当接した場合におけるダンパ1の取付構造の状態を示す図である。
【0038】
図示するように、ベース板20bが設置面5に対して水平方向(負方向)に摺動して、ボルト3bがベース板20bの貫通孔21の当接中の内壁から反対側の内壁へ移動し当接すると(摺動量Δs=d2-d1に到達すると)、ダンパ1は、その長さ方向の変化の速度vおよびその垂直方向からの傾きθに応じた水平方向の減衰力Fを瞬時に発生(増大)させる。
【0039】
その後、建築物の下面4が設置面5に対して水平方向(負方向)に移動するにつれて、ダンパ1がその長さを減少させるとともにその垂直方向からの傾きθを減少させ、ダンパ1は、その長さ方向の変化の速度vおよびその垂直方向の傾きθに応じた減衰力Fを発生(減少)させる。そして、ダンパ1が垂直(傾きθ=0)になって元の長さとなると、ダンパ1の水平方向の減衰力Fが0となる。このとき、ダンパ1の取付構造全体の水平方向の減衰力Fは、ダンパ1の水平方向の減衰力Fと一致する。
【0040】
図8は、建築物の下面4が設置面5に対して図7に示す状態からさらに水平方向(負方向)に移動した場合におけるダンパ1の取付構造の状態を示す図である。
【0041】
この場合、ダンパ1が垂直方向からこれまでとは反対方向に傾くとともにその長さを増大させ、ダンパ1は、その長さ方向の変化の速度vおよびその垂直方向からの傾きθに応じた水平方向の減衰力Fを発生(増大)させる。このとき、ダンパ1の取付構造全体の水平方向の減衰力Fは、ダンパ1の水平方向の減衰力Fと一致する。
【0042】
図9は、建築物の下面4の設置面5に対する水平方向の移動が負方向から正方向に切り替わった場合におけるダンパ1の取付構造の状態を示す図である。
【0043】
図示するように、建築物の下面4の設置面5に対する水平方向の移動が負方向から正方向に切り替わると、ダンパ1に、これまでとは逆方向の水平方向の減衰力Fが瞬時に発生する。そして、この減衰力Fがベース板20bと設置面5との間の摩擦力Fに到達すると、ベース板20bが設置面5に対してこれまでとは反対方向である水平方向(正方向)に摺動を開始する。これにより、ダンパ1は、ピストン11の移動量ΔLおよびその垂直方向からの傾きθを一定に維持したまま(したがって速度v=0)、水平方向(正方向)に移動する。この水平方向(正方向)の移動は、ボルト3bがベース板20bの貫通孔21の当接中の内壁から反対側の内壁へ移動して当接する位置まで、すなわち、ベース板20bの現在位置からの摺動量Δsが貫通孔21の口径d2およびボルト3bの軸径d1の差分(=d2-d1)となるまで継続する。このとき、ダンパ1の水平方向の減衰力Fはゼロであり(速度v=0であるため)、ダンパ1の取付構造全体の水平方向の減衰力Fは、ベース板20bと設置面5との間の摩擦力Fと一致する。
【0044】
図10は、ベース板20bが設置面5に対して水平方向(正方向)に摺動して、ボルト3bがベース板20bの貫通孔21の当接中の内壁から反対側の内壁に移動し当接した場合におけるダンパ1の取付構造の状態を示す図である。
【0045】
図示するように、ベース板20bが設置面5に対して水平方向(正方向)に摺動して、ボルト3bがベース板20bの貫通孔21の当接中の内壁から反対側の内壁へ移動し当接すると(摺動量Δs=d2-d1に到達すると)、ダンパ1は、その長さ方向の変化の速度vおよびその垂直方向からの傾きθに応じた水平方向の減衰力Fを瞬時に発生(増大)させる。
【0046】
その後、建築物の下面4が設置面5に対して水平方向(正方向)に移動するにつれて、ダンパ1は、その長さを減少させるとともにその垂直方向からの傾きθを減少させ、その長さ方向の変化の速度vおよびその垂直方向の傾きθに応じた減衰力Fを発生(減少)させる。そして、ダンパ1が垂直(傾きθ=0)になって元の長さとなると、ダンパ1の水平方向の減衰力Fが0となる。このとき、ダンパ1の取付構造全体の水平方向の減衰力Fは、ダンパ1の水平方向の減衰力Fと一致する。
【0047】
図11は、本実施の形態に係る免震用ダンパ1の取付構造における、建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係(初回ループ時)をグラフ化した図である。
【0048】
この図において、符号70は、図3を用いて説明したダンパ1の取付構造の状態における建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係を示しており、符号71は、図4を用いて説明したダンパ1の取付構造の状態における建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係を示しており、符号72は、図5を用いて説明したダンパ1の取付構造の状態における建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係を示しており、符号73-1、73-2は、図6を用いて説明したダンパ1の取付構造の状態における建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係を示しており、符号74-1、74-2は、図7を用いて説明したダンパ1の取付構造の状態における建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係を示しており、符号75は、図8を用いて説明したダンパ1の取付構造の状態における建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係を示しており、符号76-1、76-2は、図9を用いて説明したダンパ1の取付構造の状態における建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係を示しており、そして、符号77-1、77-2は、図10を用いて説明したダンパ1の取付構造の状態における建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係を示している。
【0049】
図12は、本実施の形態に係る免震用ダンパ1の取付構造における、建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係(2回目以降ループ時)をグラフ化した図である。
【0050】
この図において、符号78は、図5を用いて説明したダンパ1の取付構造の状態における建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係を示しており、符号79-1、79-2は、図6を用いて説明したダンパ1の取付構造の状態における建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係を示しており、符号80-1、80-2は、図7を用いて説明したダンパ1の取付構造の状態における建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係を示しており、符号81は、図8を用いて説明したダンパ1の取付構造の状態における建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係を示しており、符号82-1、82-2は、図9を用いて説明したダンパ1の取付構造の状態における建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係を示しており、そして、符号83-1、83-2は、図10を用いて説明したダンパ1の取付構造の状態における建築物の下面4と設置面5との横ずれ量sと水平方向の減衰力Fとの関係を示している。
【0051】
図11に示す初回ループ時および図12に示す2回目以降のループ時のいずれにおいても、ダンパ1の取付構造の水平方向の減衰力Fが瞬時に大きく変化する際の変化幅(図11では、符号73-1、74-1、76-1、77-1に示す部分、図12では、符号79-1、80-1、84-1、85-1に示す部分)を、図13に示す従来の免震用ダンパの取付構造の場合(符号130、131に示す部分)に比べて小さくすることができる。
【0052】
以上、本発明の一実施の形態について説明した。
【0053】
本実施の形態において、ダンパ1のシリンダ10の下面にピン接合されたクレビスジョイント2bは、ベース板20bを有しており、このベース板20bの四隅に設けられた貫通孔21の口径d2とこの貫通孔21を介してクレビスジョイント2bを設置面5に固定するためのボルト3bの軸径d1との差分だけ、設置面5に対して水平方向に移動可能である。このため、ダンパ1の垂直方向からの傾きθをこの差分に応じた量だけ小さくすることができ、その分、図11および図12に示すように、ダンパ1の水平方向の減衰力Fの急激な変化幅を小さくすることができる。したがって、本実施の形態によれば、例えば摩擦ダンパのように、比較的ストロークが小さく単純な構造のダンパ1を用いて、横揺れ量の小さい中小地震から横揺れ量の大きい長周期大地震まで広く対応することができる。
【0054】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0055】
例えば、上記の実施の形態において、クレビスジョイント2bの下面にゴム板、縞鋼板等の摩擦板を取り付けてもよい。摩擦板の素材を変更することにより、クレビスジョイント2bと設置面5との間の摩擦力Fを所望の値となるように調節することができる。例えば、摩擦力Fを高めに設定することにより、クレビスジョイント2bと設置面5とのガタつきを低減することができる。
【0056】
また、上記の実施の形態では、ダンパ1のシリンダ10の下面にピン接合されたクレビスジョイント2bを、このクレビスジョイント2bのベース板20bに設けられた貫通孔21の口径d2とこの貫通孔21を介してクレビスジョイント2bを設置面5に固定するためのボルト3bの軸径d1との差分だけ、設置面5に対して水平方向に移動可能している。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0057】
クレビスジョイント2bに代えて、あるいは、クレビスジョイント2bとともに、ピストンロッド13の上端部にピン接合されたクレビスジョイント2aのベース板20aに設けられた貫通孔の口径をボルト3aの軸径より大きくすることにより、このクレビスジョイント2aを、このクレビスジョイント2aのベース板20aに設けられた貫通孔の口径とこの貫通孔を介してクレビスジョイント2aを建築物の下面4に固定するためのボルト3aの軸径との差分だけ、建築物の下面4に対して水平方向に移動可能してもよい。
【0058】
また、上記の実施の形態では、クレビスジョイント2a、2bにそれぞれベース板20a、20bを設けているが、本発明はこれに限定されない。例えば、クレビスジョイント2a、2bの本体に、貫通孔を備えたボルト保持部を設け、このボルト保持部の貫通孔にボルト3a、3bを挿通して、建築物の下面4および設置面5に形成されたボルト穴と螺合させることより、クレビスジョイント2a、2bをそれぞれ建築物の下面4および設置面5に固定してもよい。この場合でも、クレビスジョイント2a、2bの本体に設けられたボルト保持部の貫通孔の口径を、この貫通孔を挿通するボルト3a、3bの軸径より大きくすることにより、クレビスジョイント2a、2bを、建築物の下面4および設置面5に対して水平方向に移動可能とすることができる。
【0059】
また、上記の実施の形態では、ピストンロッド13の上端部を、クレビスジョイント2aにより建築物の下面4に対して傾斜可能にピン接合しているが、本発明はこれに限定されない。本発明は、ダンパ1の上端部が建築物の下面4に対して傾斜可能に接合されていればよく、例えば、ボールジョイントによりダンパ1の上端部をピン接合してもよい。同様に、シリンダ10の下端部を、クレビスジョイント2bにより設置面5に対して傾斜可能にピン接合しているが、本発明はこれに限定されない。本発明は、ダンパ1の下端部が設置面5に対して傾斜可能に接合されていればよく、例えば、ボールジョイントによりダンパ1の下端部をピン接合してもよい。
【0060】
また、上記の実施の形態では、ダンパ1として、シリンダ10と、シリンダ10内を上下方向に移動可能に配置されたピストン11と、ピストン11の上下方向の移動に対して減衰力(反力)を発生させる減衰力発生体12と、ピストン11に取り付けられたピストンロッド13と、を備えた摩擦ダンパ1を例にとり説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明のダンパは、その長さの変化の速度に応じた減衰力を発生させるものであれば、どのようなものであってもよく、例えば上記構成以外の摩擦ダンパやオイルダンパ、粘性ダンパ、あるいはこれらとばね部材との組合せであってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1:ダンパ 2a、2b:クレビスジョイント
3a、3b:ボルト 10:シリンダ
11:ピストン 12:減衰力発生体
13:ピストンロッド 20a、20b:ベース板
21:貫通孔 30a、30b:ワッシャ 50:ボルト穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
図11
図12
図13