(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124191
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】暖房便座、これに用いる面状発熱体、および面状発熱体を用いた暖房便座の製造方法
(51)【国際特許分類】
A47K 13/30 20060101AFI20240905BHJP
H05B 3/20 20060101ALI20240905BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A47K13/30 A
H05B3/20 317
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032189
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】390005717
【氏名又は名称】株式会社エコー
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】志田 宜義
(72)【発明者】
【氏名】林 広徳
(72)【発明者】
【氏名】松倉 利夫
【テーマコード(参考)】
2D037
3K034
4F206
【Fターム(参考)】
2D037AA02
2D037AA12
2D037AA13
2D037AD03
2D037AD09
3K034AA05
3K034AA06
3K034AA15
3K034BA08
3K034BA13
3K034BB08
3K034BB13
3K034BC03
3K034BC12
4F206AA11
4F206AD08
4F206AD19
4F206AD20
4F206AD27
4F206AH49
4F206AR12
4F206JA07
4F206JB12
4F206JF05
4F206JL02
(57)【要約】
【課題】熟練した工員の手によらずに製造することができ、面状発熱体が安定に固着され、必要により、待機電力等を要さずに短時間で所定の温度に昇温しうる暖房便座、これに用いる面状発熱体、および面状発熱体を用いた暖房便座の製造方法を提供する。
【解決手段】昇温機能を有する暖房便座であって、便座基材の表面に、第1付着親和層、発熱層、第2付着親和層、樹脂フィルムの順で配置した面状発熱体が、前記第1付着親和層を介して固着されてなり、前記面状発熱体について、立体賦形における曲げ特性として、曲率半径R13mm以下の曲げで発熱層にクラックが生じず、立体賦形における延伸特性において、前記発熱層は15%以上の延伸でクラックが入らない特性を有する暖房便座。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇温機能を有する暖房便座であって、便座基材の表面に、第1付着親和層、発熱層、第2付着親和層、樹脂フィルムの順で配置した面状発熱体が、前記第1付着親和層を介して固着されてなり、
前記面状発熱体について、立体賦形における曲げ特性として、曲率半径R13mm以下の曲げで発熱層にクラックが生じず、
立体賦形における延伸特性において、前記発熱層は15%以上の延伸でクラックが入らない特性を有する暖房便座。
【請求項2】
発熱層がカーボン系素材からなる請求項1に記載の暖房便座。
【請求項3】
第1付着親和層と第2付着親和層は、立体賦形における延伸特性として、15%以上延伸してもクラックが入らない特性を有する請求項1に記載の暖房便座。
【請求項4】
前記樹脂フィルムを構成する樹脂材料が、前記便座基材を構成する樹脂材料と同種の材料である請求項1に記載の暖房便座。
【請求項5】
前記第2付着親和層の材料が前記発熱層と前記樹脂フィルムとの接着性を有し、前記第1付着親和層の材料が前記発熱層と前記便座基材とに対して接着性を有し、前記第1付着親和層および第2付着親和層が立体賦形において延伸性と曲げ性を有する樹脂材料で構成された請求項1に記載の暖房便座。
【請求項6】
前記面状発熱体の厚さが0.01mm以上5mm以下である請求項1に記載の暖房便座。
【請求項7】
昇温機能を有する暖房便座に適用する面状発熱体であって、第1付着親和層、発熱層、第2付着親和層、樹脂フィルムの順で配置されてなり、前記第1付着親和層を介して便座に固着する暖房便座用面状発熱体。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の暖房便座と、便器本体と、蓋体とを具備する洋式便器。
【請求項9】
(A)第1付着親和層と発熱層と第2付着親和層と樹脂フィルムとをこの順で有する面状発熱体を形成し、
(B)前記面状発熱体をその樹脂フィルムをモールドに当接して設置し、便座基材形成用樹脂で射出成形によりインサート成形し、前記面状発熱体が固着された暖房便座を得ることを特徴とする暖房便座の製造方法。
【請求項10】
工程(A)において、面状発熱体を、圧空成形、真空成形、または真空圧空成形により3次元的に賦形することを特徴とする請求項9に記載の暖房便座の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暖房便座、これに用いる面状発熱体、および面状発熱体を用いた暖房便座の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
便座は一般にポリプロピレンなどの樹脂素材で形成されており、使用者が着座した際に冷たさを感じる。そのようなことのないように、近時、ヒータを内蔵した暖房便座が活用されている。しかし多くの暖房便座は、所定の温度まで昇温するのに時間がかかる。そこで、使用時に適温とするために常にヒータを稼働させており、待機電力が消費されている。このような使用態様は、省エネルギーの観点から問題があった。また瞬間的に発熱するヒータを内蔵した便座においても待機電力は必要であり、その上、便座樹脂を通して瞬時に適温まで昇温されるために高電力が必要となる。これも省エネルギーの観点では解決とまでは至っていない。
【0003】
ところで、暖房便座のヒータ貼り工程は、熟練した人力に頼るところが大きく、安定した品質で生産する観点から問題があった。
図15は従来の暖房便座を示す平面図であり、便座基材1に特定の範囲で蛇行させた電熱線26を具備する便座20を示している。この電熱線26は粘着剤の付されたアルミニウムなどの金属シート(図示省略)にあらかじめ固定されており、これを人の手で便座の裏側に押し込みながら貼り付けて設置している。相応の熟練を必要とする工程となっている。また、ばらつきも相応に出てくる。
【0004】
特許文献1に開示の暖房便座では、便座基材の裏面に接着シートを介してカーボングラファイトシートが配設されている。このような便座によると、その裏面に接合して取付けられたカーボングラファイトシートによって構成される面状発熱体によって加温することができる。これにより、取付作業が容易になり、コストの低減にも資するとされている。
【0005】
特許文献2では、導電性カーボン入りのポリテトラフルオロエチレン製の面状発熱体を、インサート成形により本体からなる便座の成形時に挿入する態様が開示されている。具体的に、面状発熱体を表面近くに配置し、面状発熱体と人体との接触面までの間隔は、印加電圧やその間の材質にもよるが、通常1mm前後とされている。
【0006】
特許文献3には、次の手順で製造された暖房便座が開示されている。まず、合成樹脂シートから真空成形により断面逆U字状の便座表面部を成形する。次いで、断面逆U字状の便座表面部の湾曲状の裏面側に沿って面状ヒータを貼り付け、これに電源電線を配線してヒータを配設する。その後で、射出成形により便座裏面部を一体的に形成する。これにより、金型投資を抑えることができ、材料費を削減して安価にできる。さらに便座表面部の全面から均一な発熱を行なうことができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-099244号公報
【特許文献2】特開平11-244198号公報
【特許文献3】特公平7-10250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1で示したカーボングラファイトシートは、そのままでは外観が悪く便座の裏面に適用せざるを得ず汎用性がない。
特許文献2の技術によれば、インサート成形により着座する人の近くに面状発熱体を配設できるかもしれないが、どのように所定の位置に発熱体を配設するのか、その工程や部材の詳細は開示されていない。
特許文献3では、断面逆U字状の便座表面部の湾曲状の裏面側に沿って面状ヒータを貼り付ける工程を要するが、これは従来の電熱線の手貼りと等しく、熟練工の能力によってなされるものである。
【0009】
そこで、本発明は、熟練した工員の手によらずに製造することができ、面状発熱体が安定に固着され、外観が良好であり、必要により、待機電力等を要さずに短時間で所定の温度に昇温しうる暖房便座、これに用いる面状発熱体、および面状発熱体を用いた暖房便座の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の目的に鑑み、鋭意検討を重ね、下記の発明を完成した。
(1)昇温機能を有する暖房便座であって、便座基材の表面に、第1付着親和層、発熱層、第2付着親和層、樹脂フィルムの順で配置した面状発熱体が、前記第1付着親和層を介して固着されてなり、
前記面状発熱体について、立体賦形における曲げ特性として、曲率半径R13mm以下の曲げで発熱層にクラックが生じず、
立体賦形における延伸特性において、前記発熱層は15%以上の延伸でクラックが入らない特性を有する暖房便座。
(2)発熱層が、カーボン系素材からなる(1)に記載の暖房便座。
(3)第1付着親和層と第2付着親和層は、立体賦形における延伸特性として、15%以上延伸してもクラックが入らない特性を有する(1)に記載の暖房便座。
(4)前記樹脂フィルムを構成する樹脂材料が、前記便座基材を構成する樹脂材料と同種の材料である(1)に記載の暖房便座。
(5)前記第2付着親和層の材料が前記発熱層と前記樹脂フィルムとの接着性を有し、前記第1付着親和層の材料が前記発熱層と前記便座基材とに対して接着性を有し、前記第1付着親和層および第2付着親和層が立体賦形において延伸性と曲げ性を有する樹脂材料で構成された(1)に記載の暖房便座。
(6)前記面状発熱体の厚さが0.01mm以上5mm以下である(1)に記載の暖房便座。
(7)昇温機能を有する暖房便座に適用する面状発熱体であって、第1付着親和層、発熱層、第2付着親和層、樹脂フィルムの順で配置されてなり、前記第1付着親和層を介して便座に固着する暖房便座用面状発熱体。
(8)(1)~(6)のいずれかに記載の暖房便座と、便器本体と、蓋体とを具備する洋式便器。
(9)(A)第1付着親和層と発熱層と第2付着親和層と樹脂フィルムとをこの順で有する面状発熱体を形成し、
(B)前記面状発熱体をその樹脂フィルムをモールドに当接して設置し、便座基材形成用樹脂で射出成形によりインサート成形し、前記面状発熱体が固着された暖房便座を得ることを特徴とする暖房便座の製造方法。
(10)工程(A)において、面状発熱体を、圧空成形、真空成形、または真空圧空成形により3次元的に賦形することを特徴とする(9)に記載の暖房便座の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熟練した工員の手によらずに製造することができ、面状発熱体が安定に固着され、外観が良好であり、必要により、待機電力等を要さずに短時間で所定の温度に昇温しうる暖房便座、これに用いる面状発熱体、および面状発熱体を用いた暖房便座の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の好ましい実施形態に係る洋式便器を模式的に示す分解斜視図である。
【
図2】本発明の好ましい実施形態に係る便座を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図2に示した便座のX-X線矢視断面を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図4】
図3に示した便座とは異なる実施形態の便座を模式的に示す断面図である。
【
図5】面状発熱体を立体賦形するための圧空成形を行う装置の正面図であり、(a)がモールドを開いた状態、(b)がモールドを閉じた状態を示す。
【
図6】立体賦形された面状発熱体に対し樹脂を射出して便座基材部分を成形するインサート成形の例を示す装置の断面図である。
【
図7】立体賦形された面状発熱体に対し樹脂を射出して便座基材部分を成形するインサート成形の別の例を示す装置の断面図である。
【
図8】立体賦形された面状発熱体に対し樹脂を射出して便座基材部分を成形するインサート成形のさらに別の例を示す装置の断面図である。
【
図9】立体賦形された面状発熱体に対し樹脂を射出して便座基材部分を成形するインサート成形のさらにまた別の例を示す装置の断面図である。
【
図10】JISK5600-5-6:1999で規定されたクロスカット法による付着性試験の結果の評価指標を示す説明図である。
【
図11】実施例および比較例についてクロスカット法による付着性試験を行った結果を示す図面代用写真である。
【
図12】実施例の面状発熱体における経過時間と昇温温度との関係を示すグラフである。
【
図13】通電後約2秒後のサーモイメージを示す図面代用写真である。
【
図14】面状発熱体を立体賦形した状態を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る便器を模式的に示す分解斜視図である。本実施形態の便器100は、上から蓋体2、便座10、便器本体3で構成されている。図示していないが、さらに貯水槽を組み合わせた便器としてもよい。
図2は、本発明の好ましい実施形態に係る便座10を模式的に示す平面図である。本実施形態の便座10は、便座基材1の表面(座面)と側面に面状発熱体17が設置されている。
図3は、
図2に示した便座10のX-X線矢視断面を拡大して模式的に示す断面図である。本図で示したとおり、面状発熱体17は便座基材1の表面(座面)Sから側面Tにかけて配置されている。面状発熱体17は、便座基材1側から見て、第1付着親和層11、発熱層12、第2付着親和層14、樹脂フィルム13の順に配置されたシート状の部材である。ここで、面状発熱体17は、外側の第1付着親和層11を介して便座基材1に当接する形で固着されている。本実施形態では、面状発熱体17を、第1付着親和層11、発熱層12、第2付着親和層14、無延伸樹脂フィルム13の層構成の面状発熱体を示したが、本発明においてはこの順序が保たれれば上記の層構成に限定されず、各層の間あるいは樹脂フィルム13の表面に機能性の層を適用したものであってもよい。あるいは、第1付着親和層11と便座基材1との間に所定の塗布層やフィルム層等が介在していてもよい。なお、本発明において、「表面」とは狭義には座面側表面Sを意味するが、広義には側面Tの表面、裏面Rの表面を含めた意味に用いる。特に断らない限り、広義の意味で用いる。
【0014】
図4は、
図3に示した便座とは異なる実施形態の便座を模式的に示す断面図である。本実施形態においては、面状発熱体17が便座基材1の裏面Rに配置されている。面状発熱体17の各層の関係を言うと、便座基材1側から、第1付着親和層11、発熱層12、第2付着親和層14、樹脂フィルム13の順で構成されている。すなわち、面状発熱体17が第1付着親和層11を介して便座基材1に接着され固定されている。この点は、
図3の実施形態の便座と同様である。
【0015】
面状発熱体17は、曲げ性と延伸性を備えていることが求められる。具体的に本発明では、面状発熱体を構成する発熱層が、立体賦形において曲率半径R13mm以下の曲げでクラックが生じない。また、延伸性においても発熱層は15%以上の延伸でクラックが入らない。本発明の実施形態に係る面状発熱体は、これを構成する各層が所定の曲げ性と延伸性を備えることで、便座の断面の逆U字状の輪郭に沿った配設が実現され、優れた密着性、高耐久性、および良好な外観を実現することができる。
【0016】
面状発熱体17の厚さは特に限定されないが、0.01mm以上5mm以下であることが好ましい。面状発熱体17が上記上限値以下の厚さであることにより、発熱層12で発せられた熱が瞬時に表面に伝わる点で好ましい。面状発熱体17が上記下限値以上の厚さであることにより、面状発熱体17の形態が安定するため好ましい。
【0017】
面状発熱体17の発熱層12は、延伸性と曲げ性を備えているカーボン系の素材で構成されていることが好ましい。カーボン系の素材としては、カーボングラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラックなどから選ばれる、少なくとも1種以上を含む素材などを利用することができる。また、カーボン系の素材としては、特許第5866073号明細書に記載のグラファイトとカーボンナノチューブとを含む材料を参照することができる。
【0018】
発熱層12の厚さは特に限定されないが、0.001mm以上であることが好ましく、0.01mm以上であることがより好ましい。上限値としては、0.5mm以下であることが好ましい。発熱層12が上記上限値以下の厚さであることにより、面状発熱体17が十分な発熱量を発揮することができるため好ましい。面状発熱体17が上記下限値以上の厚さであることにより、均一な発熱を発揮しやすくなり好ましい。
発熱層12はフィルムまたはシート状の成形体であっても、液体やペースト等による塗布膜であってもよい。塗布膜はスプレー法によっても印刷法などによっても形成することができる。なお、本実施形態の発熱層12には対になる電極(図示せず)が配設されており、これらを介して発熱層12に電圧が印加され発熱する。
【0019】
第1付着親和層11は上記のとおり立体賦形において良好な曲げ性と延伸性を備えており、発熱層12(例えば、カーボン系材料)と便座基材1(例えば、ポリプロピレン)との間に介在され、両者に対する良好な接着を実現する機能を有する。また、本実施形態の便座10においては、発熱層12(例えば、カーボン系材料)と樹脂フィルム13との間にも第2付着親和層14が配置されている。ここでも、第2付着親和層14は、立体賦形において良好な曲げ性と延伸性を備え、発熱層12と樹脂フィルム13(例えば、ポリプロピレン)との接着力を発揮し、良好な接着状態を維持することができる。
【0020】
付着親和層(第1付着親和層11および第2付着親和層14の総称、両付着親和層と称することもある)の厚さは特に限定されないが、0.001mm以上であることが好ましい。上限値としては、1mm以下であることが好ましい。付着親和層が上記上限値以下の厚さであることにより、面状発熱体17が厚くなりすぎない点で好ましい。付着親和層が上記下限値以上の厚さであることにより、発熱層(例えば、カーボン系材料)と樹脂(例えば、ポリプロピレン)との接着力を十分に発揮しうる点で好ましい。
両付着親和層は、立体賦形における延伸特性として、15%延伸してもクラックが入らないことが好ましく、50%延伸してもクラックが入らないことがより好ましく、100%以上延伸してもクラックが入らない特性を有することがさらに好ましい。
【0021】
付着親和層にはカーボン系発熱材料やプラスチック製品の接着に用いられるものであることが好ましく、前記発熱層と前記樹脂フィルムとの接着性(第2付着親和層)、あるいは前記発熱層と前記便座基材と接着性(第1付着親和層)を有し、かつ、立体賦形において曲げ性と延伸性とを兼ね備えた材料を用いることができる。とくに本発明においては、便座基材1および面状発熱体17の樹脂フィルム13が同種の樹脂製(例えば、「結晶性樹脂」といったレベルで一致していればよく、より具体的には「ポリプロピレン系」などの樹脂材料の構造分類として一致していればよい)であることが好ましい。両付着親和層は、この樹脂材料(例えば、ポリプロピレン系材料)と発熱層とに対して十分な接着性を発揮する材料であることが好ましい。具体的に、両付着親和層の材料としては、例えば、立体賦形において延伸性と曲げ性を有するシリコーン系、スチレン系、ウレタン系、エステル系、オレフィン系、塩化ビニル系、アミド系、及びフッ素系などのエラストマー、並びにプロピレン系アイオノマー、エチレン系アイオノマー、ウレタン系アイオノマー、スチレン系アイオノマー、及びマレイン酸変性ポリプロピレン、並びに熱変形温度が比較的低い(例えば、150℃以下が好ましく、110℃以下がさらに好ましい)ポリアクリル系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリエチレンテレフタレート系、ポリ塩化ビニリデン系、及びポリブチレンテレフタレート系の樹脂から選ばれる少なくとも1種を含む材料などが挙げられる。なお、熱変形温度は、荷重たわみ温度のことであり、試料に規定の荷重を与えた状態で、一定速度で昇温させ、規定のたわみに達した時の温度で確認することができる。具体的な求め方としては、JISK7191などがある。
付着親和層はシートまたはフィルム状の成形体であっても、液体やペースト等による塗布膜であってもよい。
さらに第1付着親和層と発熱層とが一体となった付着性発熱層、第2親和層と発熱層とが一体となった付着性発熱層、またはその両方が一体化した付着性発熱層であってもよい。このとき、面状発熱体は、樹脂フィルムと付着性発熱層の2層構造となっていてもよい。
【0022】
面状発熱体17の樹脂フィルム13は、立体賦形時に均一な熱特性を得る為に、無延伸法(例えば、キャスト法など)で作製された無延伸性素材、または低延伸性素材であることが好ましい。また樹脂フィルム13の材料は、ポリプロピレン系のフィルムであることが好ましい。ポリプロピレンフィルムを採用することにより、便座基材1がポリプロピレン系であるときに、表面の外観や質感の連続性が良くなる。ただし便座の材料に合わせて、樹脂フィルム13は、ポリプロピレン系材料に限らず、ポリエチレン系材料、ポリエステル系材料(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)等の結晶性材料を用いることも可能である。
樹脂フィルム13の厚さは特に限定されないが、0.01mm以上であることが好ましい。上限値としては、5mm以下であることが好ましい。樹脂フィルム13が上記上限値以下の厚さであることにより、発熱層12から発せられる熱をよりすみやかに便座表面Sに伝えることができる点で好ましい。樹脂フィルム13が上記下限値以上の厚さであることにより、面状発熱体17の形態を好適に維持し、下記の圧空成形、真空成形、ないし真空圧空成形における成形性に優れる点で好ましい。
【0023】
本発明の好ましい実施形態に係る便座基材1の素材は特に限定されず、常用されているものを好適に採用することができる。一般的にはポリプロピレン系材料のものが挙げられる。便座基材1の材料はポリプロピレン系材料に限らず、ポリエチレン系材料、ポリエステル材料(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート系材料)などの結晶性樹脂等を好適に使用することができる。
【0024】
本発明の暖房便座10においては、面状発熱体17を便座基材1の座面側の表面Sに配置しても、その裏面R側に配置してもよい。本発明においては、なかでも、面状発熱体17が座面S側に配置され固着されていることが好ましい。これにより、人体と接触する座面側の表面Sのごく近傍に発熱層12が配置される。そのため、便座10の裏面Rに熱源があるものに比し、便座基材1の厚みを越えて伝熱する必要がなく、座面側の表面Sを所望の温度にまで瞬時に昇温することができる。これにより、待機電力の問題点等を解決することができる。なお、本実施形態の便座10においては、その裏面Rを覆うように底板15が配設され、裏面Rが露出しない形態としている(
図3、
図4)が、底板15は配設されていなくてもよい。
【0025】
次いで、面状発熱体17の賦形方法について説明する。本発明の好ましい実施形態においては、面状発熱体17の基材である樹脂フィルム13は無延伸フィルムにより形成される。無延伸法としては、例えば、キャスト法が挙げられる。
図5は、上記面状発熱体素材17aを立体賦形するための圧空成形を行う装置の正面図である。加熱して柔らかくした面状発熱体素材17aをモールド下型32の上方に設置する(工程(a))。その状態で、モールド上型31を下ろし、モールド下型32と当接させる(工程(b))と共に、モールド下型32の送風口33から圧空35を付与する。一定時間後に成形物を取り出す。これにより、第1付着親和層11と発熱層12と第2付着親和層14と樹脂フィルム13とをこの順で有し、所定の形態に立体賦形された面状発熱体17を得ることができる。なお、本実施形態では圧空成形により面状発熱体17を立体賦形する例を示したが、モールドから空気を吸引する真空成形や、両者を組み合わせた真空圧空成形によって成形してもよい。
【0026】
図6、
図7は、座面側表面Sに面状発熱体17が固着された便座を成形するための装置であり、立体賦形された面状発熱体17に対し便座基材部分を成形するインサート成形を行う装置の断面図である。
図6はモールド設備の一態様を模式的に示すものであり、
図7は別の態様を模式的に示すものである。本工程で使用される装置は、少なくとも、モールド21、ダイ22、ノズル23で構成されている。
図5の工程で得られた面状発熱体17を、その樹脂フィルム13側を凸形状にしてモールド21側に当接して設置し、本体形成用樹脂で射出成形によりインサート成形し、便座基材1の座面側表面に前記面状発熱体17を固着した便座10が形成される。このとき、便座基材1を構成する樹脂(例えば、PP)を、ノズル23からダイ22を介して射出する。そのまま、射出を継続し便座基材1の形態が得られた時点で、便座基材1の座面側表面Sに面状発熱体17が固着された便座10が得られる(
図2、
図3)。
【0027】
図8、
図9は、裏面側表面Rに面状発熱体17が固着された便座を成形するための装置であり、立体賦形された面状発熱体17に対し樹脂を射出して便座基材部分を成形するインサート成形の別の例を示す装置の断面図である。
図8はモールド設備の一態様を模式的に示すものであり、
図9は別の態様を模式的に示すものである。本実施形態においては、面状発熱体17が
図6、7のときと逆に湾曲するように成形されている。つまり、樹脂フィルム13側が凹形状の内側となるように成形されている。
図8および
図9の製造工程では、前記で製造された面状発熱体17を、その樹脂フィルム13側をモールド21側に当接して設置し、本体形成用樹脂で射出成形によりインサート成形し、便座基材1の裏面Rの表面に前記面状発熱体17を固着した便座(
図4)が形成される。詳述すると、面状発熱体17の樹脂フィルム13側が凹形状となりモールドと当接する形で設置されている。そこへ、ダイ22を介してノズル23から樹脂が射出され、モールド内に充満し所望の形状を有する便座基材1が形成される。これにより、便座基材1の裏面Rに面状発熱体17が固着された便座(
図4)が得られる。
【0028】
本発明の好ましい実施形態に係る便座10(座面S側の表面に面状発熱体17が固着されている態様、
図3)によれば、人が着座してから加熱のための通電をしても、わずか数秒で所望の温度(例えば40℃)に到達する。また、便座基材1と発熱層12との良好な接着性ないし樹脂フィルム13と発熱層12との良好な接着性が実現されている。さらに、熟練工に頼らずに、一般的な機械装置で製造が可能であり、生産性の向上や製造コストの低減に資するものである。さらに、人の手によるものではないので、製造のばらつきも回避することができ、品質の良化にもつながる。
【実施例0029】
ポリプロピレン製の樹脂フィルム(厚さ0.35mm)の片面に、第2付着親和層として立体賦形において100%以上の延伸でクラックが入らず、曲率半径R4mm以下の曲げでクラックが入らない特徴を有する厚さ0.01-0.02mmのアクリル系素材を固着した。その上に、発熱層として、15%以上の延伸でクラックが入らず、曲率半径R13mm以下の曲げでクラックが入らない特徴を有する厚さ0.06-0.07mmのカーボン系発熱材料を固着した。さらに、その上に厚さ0.01-0.02mmであり第2付着親和層と同じ材料の第1付着親和層を配設して固着した。結果として、第1付着親和層/発熱層/第2付着親和層/ポリプロピレンフィルムの層構成を有する実施例の面状発熱体試験体Aを作製した。
【0030】
・曲げ性:
付着親和層については、曲率半径R4mmまで曲げてもクラックが生じないことを確認した。発熱層については、曲率半径R13mmの曲げでクラックが生じないことを確認した。具体的には、立体賦形において、面状発熱体素材を曲率半径R13、R6、R4mmでの曲げ性の評価を行い、クラック等が生じるか否かを確認した。手順としては、下記の各層(a~d)の曲げ性について評価を行い、各層での状況を確認した。なおクラックの有無は、塗布側の外観的観測により行った。
<評価サンプル>
a) PPシート単体
b) PPシートに付着親和層を塗布
c) PPシートに付着親和層+発熱層を塗布
d) PPシートに付着親和層+発熱層+付着親和層を塗布
【0031】
・延伸性:
発熱層は、立体賦形において15%程度の延伸ではクラックが入らないことを確認した。両付着親和層は、立体賦形において100%以上延伸してもクラック入らないことを確認した。具体的には、確認評価サンプルは上記曲げ性と同じ構成であり、ポリプロピレンシートの表面に、油性マジックで碁盤目状にマス目を描いた。これにより、立体賦形後のマス目の伸びを測定することで、どの程度伸びたのかを測定した。その際、塗布側にクラックがない場所での測定とすることで、塗布材料の伸びとして評価した。
【0032】
(1)付着性の評価
本発明の実施例としては、上記の面状発熱体試験体Aを採用した。比較のための発熱シートとして、付着親和層を使用しない発熱層/ポリプロピレンフィルムで構成された面状発熱体試験体Bを準備した。両者をインサート成形により、それぞれポリプロピレンのプレート(厚さ2mm)に付着親和層または発熱層を介して貼付して試験体を準備した。これらに対して、JISK5600-5-6:1999のクロスカット剥離試験を行った。その結果を、上記のJIS規格に従って、
図10の0~5の評点で採点した。結果を
図11に示した。結果として、本発明の面状発熱体試験体A(写真左側、付着力up対策あり)は「0」であり、比較のための面状発熱体試験体B(写真右側、付着力up対策なし)は「5」となった。
【0033】
(2)ヒートショックおよび極低温処理後の付着性
上記の面状発熱体試験体Aをポリプロピレンプレートにインサート成形した試験体に対し、温度約―15°の室内と温度約60℃の室内との間を往復させる処理を、往復の1サイクルにかかる時間を約6分、往復のサイクル数を1000回として行い、当該処理後の試験体について、JISK5600-5-6:1999のクロスカット剥離試験を行った。その結果、「0」の結果であった。
一方、面状発熱体試験体Aをポリプロピレンシートに貼付した試験体を液体窒素に1時間以上浸漬した。その後、面状発熱体試験体Aに剥離等はみられず、ポリプロピレンシートが破壊されるほどの条件で、良好な付着状態が維持されていた。
【0034】
(3)絶縁評価
・絶縁抵抗試験
面状発熱体試験体Aについて、発熱層12と樹脂フィルム13の間に直流電圧500Vを空気中で印加し、抵抗値を測定した。その結果、100MΩ以上の絶縁性があることを確認した。
・絶縁耐力試験
面状発熱体試験体Aについて、発熱層12と樹脂フィルム13の間に交流電圧1500Vを空気中で1分間印加した。その結果、リーク電流は1mA未満であり、絶縁性があることを確認した。
【0035】
(4)昇温特性
面状発熱体試験体Aをポリプロピレンのプレートに貼付したサンプルを用い、発熱層のカーボン系発熱材料に交流電圧100Vを印加した。ポリプロピレンフィルム表面の温度を測定した結果を
図10に示した。結果として、通電して2秒以内に室温から40℃に昇温できた。温度の分布も均一なものであることを確認した(
図13:白い部分が発熱した領域を示している。面状発熱体Aとほぼ同一の輪郭の発熱領域であった。)。
【0036】
(5)立体賦形の確認
面状発熱体Aを
図14の形態となる金型にて加熱下で圧空成形を行った。その結果、延伸性で15%程度、曲率半径でR13mm程度において、それぞれ割れやひび入りのない良好な立体賦形が可能であることを確認した。