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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124192
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20240905BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20240905BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240905BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C19/18
F16J15/3232 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032190
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】重岡 和寿
【テーマコード(参考)】
3J006
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE23
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE42
3J006CA01
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA16
3J216CA01
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB13
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC16
3J216CC33
3J216CC41
3J216DA01
3J216GA03
3J216GA09
3J216GA10
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA73
3J701BA78
3J701XB03
3J701XB26
3J701XB31
(57)【要約】
【課題】回転トルクの増加を防止することができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】内周に外側軌道面2c、2dを有する外輪2と、車輪取り付けフランジ3bを有するハブ輪3と、ハブ輪3に連結された内輪4とからなり、ハブ輪3および内輪4に内側軌道面3c、4aが形成された内方部材と、外輪2と内方部材の両軌道面間に収容されたボール列5、6と、外輪2と内方部材によって形成された環状空間15のアウター側の開口端を塞ぐアウター側シール部材10とを備える車輪用軸受装置1であって、アウター側シール部材10は、芯金11とシール部材12とを備え、ハブ輪3は、車輪取り付けフランジ3bの基部に位置し、シール部材12が接触するシールランド部3dを有し、シールランド部3dの算術平均粗さRaは0.2μm以下、かつ0.01μm以上である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジを有するハブ輪と、前記ハブ輪に連結された軌道面形成部材とからなり、前記ハブ輪および前記軌道面形成部材に前記外側軌道溝に対向する内側軌道溝が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、
前記密封装置は、
前記密封装置は、前記外方部材における軸方向一端部に嵌合される芯金と、前記芯金に接合されるシール部材とを備え、
前記ハブ輪は、前記車輪取り付けフランジの基部に位置し、前記シール部材が接触するシールランド部を有し、
前記シールランド部の算術平均粗さRaは0.2μm以下、かつ0.01μm以上である車輪用軸受装置。
【請求項2】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジを有するハブ輪とし、前記ハブ輪に連結された軌道面形成部材とからなり、前記ハブ輪および前記軌道面形成部材に前記外側軌道溝に対向する内側軌道溝が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、
前記密封装置は、
前記密封装置は、前記外方部材における軸方向一端部に嵌合される芯金と、前記芯金に接合されるシール部材とを備え、
前記ハブ輪は、前記車輪取り付けフランジの基部に位置し、前記シール部材が接触するシールランド部を有し、
前記シールランド部の最大高さ粗さRzは2.5μm以下、かつ0.1μm以上である車輪用軸受装置。
【請求項3】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジを有するハブ輪と、前記ハブ輪に連結された軌道面形成部材とからなり、前記ハブ輪および前記軌道面形成部材に前記外側軌道溝に対向する内側軌道溝が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、
前記密封装置は、
前記密封装置は、前記外方部材における軸方向一端部に嵌合される芯金と、前記芯金に接合されるシール部材とを備え、
前記ハブ輪は、前記車輪取り付けフランジの基部に位置し、前記シール部材が接触するシールランド部を有し、
前記シールランド部の算術平均粗さRaは0.2μm以下、かつ0.01μm以上であり、前記シールランド部の最大高さ粗さRzは2.5μm以下、かつ0.1μm以上である車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記シール部材は、前記芯金から内径側に延出し、前記シールランド部と接触するグリースリップと、前記グリースリップの外径側において、前記芯金から前記車輪取り付けフランジ側へ延出し、前記シールランド部と接触するサイドリップとを有し、
前記シールランド部は、前記グリースリップが接触する第1部と、前記サイドリップが接触する第2部とを有し、
前記シールランド部における前記第1部の表面粗さは、前記シールランド部における前記第2部の表面粗さよりも大きい請求項1~請求項3の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記シールランド部は、周方向から見て曲率半径が3.0mm以上、かつ6.5mm以下の曲面形状を有する請求項1~請求項3の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置には、外方部材と内方部材とによって形成された環状空間の開口端を塞ぎ、泥水等の異物の入り込みを防止する密閉装置が設けられている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示される密封装置は、外方部材の内周面に嵌合される芯金と、芯金に接合され、内方部材に接触するグリースリップおよび中間リップ等のシールリップを有するシール部材とからなっている。このような密封装置においては、シールリップと、内方部材のシールリップが接触する面とで囲まれた空間が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/012953号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の特許文献1に開示される密封装置においては、回転する車輪用軸受装置の温度上昇によって、シールリップと内方部材とで囲まれた空間内の圧力が上昇するが、内方部材におけるシールリップの接触面の面粗さが大きいと、シールリップと内方部材における接触面との間に隙間が形成され易く、この隙間から前記空間内の空気が抜け出すことがある。
【0006】
前記空間内から空気が抜け出した場合、停止した車輪用軸受装置の温度が低下すると、前記空間内の圧力が低下して、シールリップが内方部材の接触面に吸着し、車輪用軸受装置の回転トルクが増加する要因となっていた。
【0007】
そこで、本発明においては、シールリップと内方部材の接触面とで囲まれる空間の圧力が低下することを抑制して、回転トルクの増加を防止することができる車輪用軸受装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジを有するハブ輪と、前記ハブ輪に連結された軌道面形成部材とからなり、前記ハブ輪および前記軌道面形成部材に前記外側軌道溝に対向する内側軌道溝が形成された内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、前記密封装置は、前記密封装置は、前記外方部材における軸方向一端部に嵌合される芯金と、前記芯金に接合されるシール部材とを備え、前記ハブ輪は、前記車輪取り付けフランジの基部に位置し、前記シール部材が接触するシールランド部を有し、前記シールランド部の算術平均粗さRaは0.2μm以下、かつ0.01μm以上である。
【0009】
また、車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジを有するハブ輪と、前記ハブ輪に連結された軌道面形成部材とからなり、前記ハブ輪および前記軌道面形成部材に前記外側軌道溝に対向する内側軌道溝が形成された内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、前記密封装置は、前記密封装置は、前記外方部材における軸方向一端部に嵌合される芯金と、前記芯金に接合されるシール部材とを備え、前記ハブ輪は、前記車輪取り付けフランジの基部に位置し、前記シール部材が接触するシールランド部を有し、前記シールランド部の最大高さ粗さRzは2.5μm以下、かつ0.1μm以上である。
【0010】
また、車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジを有するハブ輪と、前記ハブ輪に連結された軌道面形成部材とからなり、前記ハブ輪および前記軌道面形成部材に前記外側軌道溝に対向する内側軌道溝が形成された内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、前記密封装置は、前記密封装置は、前記外方部材における軸方向一端部に嵌合される芯金と、前記芯金に接合されるシール部材とを備え、前記ハブ輪は、前記車輪取り付けフランジの基部に位置し、前記シール部材が接触するシールランド部を有し、前記シールランド部の算術平均粗さRaは0.2μm以下、かつ0.01μm以上であり、かつ前記シールランド部の最大高さ粗さRzは2.5μm以下、かつ0.1μm以上である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車輪用軸受装置の回転トルクの増加を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
図2】アウター側シール部材およびアウター側シール部材が接触するハブ輪のシールランド部を示す側面断面図である。
図3】車輪用軸受装置における回転数比と回転トルク比との関係を示す図である。
図4】第2実施形態に係る車輪用軸受装置を示す一部側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0014】
[車輪用軸受装置]
図1に示す車輪用軸受装置1は、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態であり、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。
【0015】
以下の説明において、軸方向とは車輪用軸受装置1の回転軸心Xに沿った方向を表す。また、アウター側とは、軸方向の一側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表し、インナー側とは、軸方向の他側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表す。
【0016】
車輪用軸受装置1は第3世代と称呼される構成を備えており、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ輪3および内輪4と、転動列である二列のインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6と、インナー側シール部材9と、アウター側シール部材10とを具備する。内輪4は、ハブ輪に連結された軌道面形成部材の一例である。
【0017】
外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材9が嵌合可能なインナー側開口部2aが形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材10が嵌合可能なアウター側開口部2bが形成されている。
【0018】
インナー側シール部材9がインナー側開口部2aに嵌合されることにより、外輪2と内方部材とによって形成された環状空間15のインナー側の開口端が塞がれている。アウター側シール部材10がアウター側開口部2bに嵌合されることにより、環状空間15のアウター側の開口端が塞がれている。
【0019】
インナー側シール部材9およびアウター側シール部材10は、外方部材である外輪2と内方部材とによって形成された環状空間15の開口端を塞ぐ密封装置である。このように、インナー側シール部材9およびアウター側シール部材10により環状空間15のインナー側およびアウター側の開口端を塞ぐことで、泥水等の異物の車輪用軸受装置1内部への浸入を抑制する密閉機能を発揮している。
【0020】
外輪2の内周面2pには、インナー側の外側軌道面2cと、アウター側の外側軌道面2dとが形成されている。外輪2の外周面2oには、外輪2を車体側部材(ナックル)に取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体的に形成されている。車体取り付けフランジ2eには、車体側の部材と外輪2とを締結する締結部材が挿通されるボルト孔2fが設けられている。
【0021】
ハブ輪3の外周面3oにおけるインナー側端部には、アウター側端部よりも縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、ハブボルト3iが圧入されるボルト孔3fが設けられている。
【0022】
ハブ輪3の外周面3oには、外輪2のアウター側の外側軌道面2dに対向するようにアウター側の内側軌道面3cが設けられている。また、ハブ輪3においては、車輪取り付けフランジ3bの基部側にアウター側シール部材10が接触するシールランド部3dが形成されている。
【0023】
ハブ輪3の小径段部3aには、内輪4が設けられている。内輪4の外周面4oには、外輪2のインナー側の外側軌道面2cと対向するようにインナー側の内側軌道面4aが設けられている。
【0024】
転動列であるインナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、転動体である複数のボール7が保持器8によって保持されることにより構成されている。インナー側ボール列5は、内輪4の内側軌道面4aと、外輪2のインナー側の外側軌道面2cとの間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列6は、ハブ輪3の内側軌道面3cと、外輪2のアウター側の外側軌道面2dとの間に転動自在に挟まれている。
【0025】
車輪用軸受装置1においては、外輪2と、ハブ輪3および内輪4と、インナー側ボール列5と、アウター側ボール列6とによって複列アンギュラ玉軸受が構成されている。
【0026】
[アウター側シール部材]
図2に示すように、アウター側シール部材10は、外輪2におけるアウター側端部の内周に嵌合される芯金11と、芯金11に一体的に接合されるシール部材12とを備えている。
【0027】
芯金11は、例えば鋼板により構成されており、外輪2のアウター側開口部2bの内周に嵌合される円筒状の嵌合部111と、嵌合部111のアウター側端部から内径側へ延びる内側部112とを有している。
【0028】
シール部材12は、例えば合成ゴム等の弾性部材によって形成されており、芯金11に加硫接着によって接合されている。シール部材12は、グリースリップ12aと、第1サイドリップ12bと、第2サイドリップ12cとを有している。
【0029】
グリースリップ12aは、芯金11の内側部112から、内径側かつインナー側へ向けて延出しており、シールランド部3dに接触している。
【0030】
第1サイドリップ12bは、グリースリップ12aの外径側において、芯金11の内側部112から、車輪取り付けフランジ3b側となるアウター側かつ外径側へ向けて延出している。第1サイドリップ12bは、シールランド部3dに接触している。第1サイドリップ12bは、サイドリップの一例である。
【0031】
第2サイドリップ12cは、第1サイドリップ12bよりも外径側において、芯金11における内側部112から、車輪取り付けフランジ3b側となるアウター側かつ外径側へ向けて延出している。第2サイドリップ12cは、シールランド部3dに接触している。第2サイドリップ12cは、サイドリップの一例である。
【0032】
アウター側シール部材10においては、グリースリップ12aと、第1サイドリップ12bと、グリースリップ12aおよび第1サイドリップ12bが接触するシールランド部3dとで囲まれた第1空間S1、ならびに第1サイドリップ12bと、第2サイドリップ12cと、第1サイドリップ12bおよび第2サイドリップ12cが接触するシールランド部3dとで囲まれた第2空間S2が存在している。
【0033】
ハブ輪3のシールランド部3dは、グリースリップ12aが接触する第1部3d1と、第1サイドリップ12bおよび第2サイドリップ12cが接触する第2部3d2とを有している。
【0034】
[シールランド部の表面粗さ]
シールランド部3dの表面粗さは、算術平均粗さRaが0.2μm以下、かつ0.01μm以上となる小さな表面粗さに形成されている。また、シールランド部3dの表面粗さは、最大高さ粗さRzが2.5μm以下、かつ0.1μm以上となる小さな表面粗さに形成することもできる。さらに、シールランド部3dの表面粗さは、算術平均粗さRaが0.2μm以下、かつ0.01μm以上となり、最大高さ粗さRzが2.5μm以下、かつ0.1μm以上となる小さな表面粗さに形成することもできる。
【0035】
算術平均粗さRaは、測定した粗さ曲線の一部を基準長さで抜き出し、この抜き出した部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値である。また、最大高さ粗さRzは、測定した粗さ曲線の一部を基準長さで抜き出し、この抜き出した部分の最大山高さRpと、最大谷深さRvとの和の値である。
【0036】
車輪用軸受装置1が回転すると、外輪2とハブ輪3および内輪4との間の摩擦等により車輪用軸受装置1の温度が上昇し、車輪用軸受装置1の温度が上昇すると、第1空間S1内の圧力および第2空間S2内の圧力が上昇する。
【0037】
この場合、シールランド部3dの表面粗さが大きいと、第1サイドリップ12bとシールランド部3dとの間、および第2サイドリップ12cとシールランド部3dとの間に隙間が生じて、生じた隙間から第1空間S1内の空気および第2空間S2内の空気が抜け出すことがある。
【0038】
第1空間S1内および第2空間S2内から空気が抜け出した場合、停止した車輪用軸受装置1の温度が低下すると、第1空間S1内および第2空間S2内の圧力が低下して、第1サイドリップ12bおよび第2サイドリップ12cがシールランド部3dに吸着し、車輪用軸受装置1の回転トルクが増加する要因となるおそれがある。
【0039】
しかし、車輪用軸受装置1においては、シールランド部3dの表面粗さを、算術平均粗さRaが0.2μm以下、かつ0.01μm以上となるように小さく形成しているため、シールランド部3dと第1サイドリップ12bおよび第2サイドリップ12cとの間に隙間が形成されにくくなっている。
【0040】
従って、シールランド部3dと第1サイドリップ12bおよび第2サイドリップ12cとの間から、第1空間S1内の空気および第2空間S2内の空気が抜け出すことが抑制され、第1サイドリップ12bおよび第2サイドリップ12cがシールランド部3dに吸着することを防ぐことができる。
【0041】
これにより、車輪用軸受装置1の回転トルクの増加を防止して、車輪用軸受装置1が装着される車両の燃費が悪化することを防ぐことが可能となる。
【0042】
なお、シールランド部3dを機械加工する場合、シールランド部3dの算術平均粗さRaが0.01μmよりも小さくなるように、または最大高さ粗さRzが0.1μmよりも小さくなるように加工しようとすると、加工時間および加工コストが大幅に増大することとなる。従って、本実施形態においては、シールランド部3dの加工時間および加工コストが大幅に増大することを抑制するために、シールランド部3dの算術平均粗さRaの下限値を0.01μmと規定し、最大高さ粗さRzの下限値を0.1μmと規定している。
【0043】
また、シールランド部3dの表面粗さが小さくなるほどシールランド部3dの表面は平滑になり、第1サイドリップ12bおよび第2サイドリップ12cとシールランド部3dとの密着度合いは大きくなるが、シールランド部3dの算術平均粗さRaが0.01μm未満、または最大高さ粗さRzが0.1μm未満になると、第1サイドリップ12bおよび第2サイドリップ12cとシールランド部3dとの密着度合いが大きくなりすぎて、車輪用軸受装置1の回転トルクが増加するおそれがある。従って、本実施形態においては、シールランド部3dの算術平均粗さRaの下限値を0.01μmと規定し、最大高さ粗さRzの下限値を0.1μmと規定することで、車輪用軸受装置1の回転トルクが増加することを抑制している。
【0044】
図3には、シールランド部3dの表面粗さを算術平均粗さRaが0.2μmとなるように小さく形成した場合の、車輪用軸受装置1における回転数比と回転トルク比との関係、およびシールランド部3dの表面粗さを算術平均粗さRaが0.3μmとなるように大きく形成した場合の、車輪用軸受装置1における回転数比と回転トルク比との関係を示している。
【0045】
図3における回転数比は、車輪用軸受装置1の実際の回転数を所定の数値で除した値であり、回転トルク比は、シールランド部3dの算術平均粗さRaが0.3μm、かつ回転数比が100であるときの回転トルクを基準(100%)として表した値である。
【0046】
シールランド部3dの算術平均粗さRaが0.3μmである場合は、車輪用軸受装置1の回転数比の上昇に伴って回転トルク比が上昇しており、回転数比が100~500の範囲内では、回転トルク比は100%~130%程度の範囲の値を示している。
【0047】
一方、シールランド部3dの算術平均粗さRaが0.2μmである場合は、回転数比の上昇に伴う回転トルク比の上昇度合いは、算術平均粗さRaが0.3μmである場合に比べて全体的に穏やかである。また、回転数比が100~500の範囲内では、回転トルク比は60%程度の低い値に抑えられている。
【0048】
従って、シールランド部3dの表面粗さを算術平均粗さRaが0.2μm以下となるように小さく形成することで、車輪用軸受装置1の回転トルクが増加することを抑制可能である。
【0049】
算術平均粗さRaの0.2μmは、最大高さ粗さRzの2.5μmに相当するものであって、算術平均粗さRaの0.3μmは、最大高さ粗さRz3.5に相当するものである。
【0050】
従って、シールランド部3dの表面粗さを最大高さ粗さRzが2.5μmとなるように形成した場合においても、車輪用軸受装置1の回転トルク比を、シールランド部3dの表面粗さを最大高さ粗さRzが3.5μmとなるように形成した場合よりも低く抑えることができる。
【0051】
さらに、シールランド部3dの表面粗さを、算術平均粗さRaが0.2μmとなり、かつ最大高さ粗さRzが2.5μmとなるように形成した場合においても、車輪用軸受装置1の回転トルク比を、シールランド部3dの表面粗さを、算術平均粗さRaが0.3μmとなり、かつ最大高さ粗さRzが3.5μmとなるように形成した場合よりも低く抑えることができる。
【0052】
これにより、シールランド部3dの表面粗さを最大高さ粗さRzが2.5μm以下、かつ0.1μm以上となるように小さく形成した場合、およびシールランド部3dの表面粗さを、算術平均粗さRaが0.2μm以下、かつ0.01μm以上となり、最大高さ粗さRzが2.5μm以下、かつ0.01μm以上となるように形成した場合においても、車輪用軸受装置1の回転トルクが増加することを抑制可能である。
【0053】
車輪用軸受装置1においては、グリースリップ12aよりも軸方向内側となるアウター側ボール列6側に位置する環状空間15内の圧力は、大気圧よりも高い圧力となっており、第1空間S1内の空気はグリースリップ12aとシールランド部3dとの間から環状空間15内へ抜けにくくなっている。
【0054】
従って、車輪用軸受装置1においては、グリースリップ12aが接触するシールランド部3dの第1部3d1の表面粗さを、第1サイドリップ12bおよび第2サイドリップ12cが接触するシールランド部3dの第2部3d2の表面粗さよりも大きく形成しても、第1空間S1内の空気が環状空間15内へ抜け出ることを抑制することが可能である。
【0055】
このように、シールランド部3dの第1部3d1の表面粗さを、第2部3d2の表面粗さよりも大きく形成した場合、第2部3d2の表面粗さを小さくするための加工に要する手間を、第1部3d1の表面粗さを小さくするための加工に要する手間よりも少なくすることができ、シールランド部3dの表面加工に要する手間を全体的に低減することができる。
【0056】
[シールランド部の形状]
車輪用軸受装置1においては、ハブ輪3における車輪取り付けフランジ3bの基部に位置するシールランド部3dは、周方向から見た際の形状が円弧形状となる曲面形状を有している。この曲面形状の周方向から見た際の曲率半径Rは、3.0mm以上、かつ6.5mm以下の範囲に設定されている。つまり、シールランド部3dは、周方向から見て曲率半径Rが3.0mm以上、かつ6.5mm以下の曲面形状を有している。
【0057】
仮に、シールランド部3dの曲面形状における曲率半径Rが6.5mmよりも大きいと、シールランド部3dとシール部材12との間の空間が小さくなって、シール部材12における第1サイドリップ12bおよび第2サイドリップ12cのシールランド部3dに対する吸着が発生し易くなるため好ましくない。
【0058】
また、仮に、シールランド部3dの曲面形状における曲率半径Rが3.0mmよりも小さいと、車輪取り付けフランジ3bの基部におけるハブ輪3の肉厚が小さくなって、ハブ輪3の強度に懸念が生じる。
【0059】
このため、シールランド部3dが有する曲面形状の曲率半径Rを3.0mm以上、かつ6.5mm以下の範囲に設定して、ハブ輪3の強度を十分に確保しつつ、第1サイドリップ12bおよび第2サイドリップ12cのシールランド部3dに対する吸着を抑制している。
【0060】
[車輪用軸受装置の第2実施形態]
車輪用軸受装置1は、図4に示す車輪用軸受装置1Aのように構成することもできる。車輪用軸受装置1Aは、ハブ輪3Aに連結される等速自在継手20を備えており、内輪4を備えていない。等速自在継手20は、ハブ輪に連結された軌道面形成部材の一例である。
【0061】
等速自在継手20は、駆動源からの駆動力が入力されるシャフトを支持するマウス部22と、マウス部22からアウター側へ向けて延びるステム部23とを備えている。ハブ輪3Aは、軸方向に貫通する貫通孔3eを有しており、貫通孔3eとステム部23とはスプライン嵌合している。
【0062】
マウス部22におけるアウター側端部の外周面には、外輪2のインナー側の外側軌道溝2cに対向する内側軌道溝28が形成されている。インナー側ボール列5は、外輪2のインナー側の外側軌道溝2cと、等速自在継手20におけるマウス部22の内側軌道溝28との間に転動自在に挟まれている。
【0063】
つまり、車輪用軸受装置1Aにおいては、外輪2の外側軌道溝2cに対向する内側軌道溝28を有する等速自在継手20が、内輪を兼ねる構成となっている。
【0064】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0065】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
2a インナー側開口部
2b アウター側開口部
2c (インナー側の)外側軌道面
2d (アウター側の)外側軌道面
3 ハブ輪
3a 小径段部
3b 車輪取り付けフランジ
3c (アウター側の)内側軌道面
3d シールランド部
3d1 第1部
3d2 第2部
4 内輪
4a (インナー側の)内側軌道面
5 インナー側ボール列
6 アウター側ボール列
7 ボール
8 保持器
10 アウター側シール部材
11 芯金
12 シール部材
12a グリースリップ
12b 第1サイドリップ
12c 第2サイドリップ
15 環状空間
20 等速自在継手
28 内側軌道溝
R 曲率半径
図1
図2
図3
図4