(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124196
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】被覆粒子及び被覆粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/28 20170101AFI20240905BHJP
C08F 8/00 20060101ALI20240905BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240905BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20240905BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240905BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C01B32/28
C08F8/00
C08K3/04
C08K9/04
C08L63/00 C
C08L83/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032196
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】渋田 薫
(72)【発明者】
【氏名】スキャリア アビソン
(72)【発明者】
【氏名】石田 浩也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 辰宏
(72)【発明者】
【氏名】後藤 晃哉
(72)【発明者】
【氏名】新田 陸
【テーマコード(参考)】
4G146
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4G146AA04
4G146AB01
4G146AD20
4G146CB23
4G146CB32
4G146CB35
4J002CD001
4J002CP031
4J002DA016
4J002FB266
4J002FB286
4J002FD206
4J002GT00
4J100AQ15P
4J100BA02H
4J100BA03H
4J100BA29H
4J100BA35H
4J100CA01
4J100HC27
(57)【要約】
【課題】樹脂と複合化した際に、粘度が低く、かつ熱伝導率が高くなる被覆粒子を提供する。
【解決手段】ダイヤモンドの表面がポリマーで被覆された被覆粒子であって、前記ポリマーは親水性官能基Xを有し、前記ポリマー主鎖と親水性官能基Xとの間、及び、前記ポリマー主鎖とダイヤモンドとの間には、それぞれアミド結合を有する、被覆粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンドの表面がポリマーで被覆された被覆粒子であって、
前記ポリマーは親水性官能基Xを有し、
前記ポリマー主鎖と親水性官能基Xとの間、及び、前記ポリマー主鎖とダイヤモンドとの間には、それぞれアミド結合を有する、被覆粒子。
【請求項2】
前記ポリマーは以下の式1で示される構造を有する、請求項1に記載の被覆粒子。
【化1】
(式1において、Rは炭素数1~20の有機基であり、Xは親水性官能基であり、m及びnはそれぞれ1以上の整数であり、mに対するnの比(n/m)が1以上40以下であり、*はダイヤモンド表面と結合する結合手を示す)
【請求項3】
前記親水性官能基Xは、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、シアノ基、エポキシ基及びアジリジニル基からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の被覆粒子。
【請求項4】
前記被覆粒子100質量%中において、ポリマー被覆量が、0.05質量%以上1質量%以下である、請求項1又は2に記載の被覆粒子。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の被覆粒子を含む熱伝導性フィラー、母材樹脂、及び前記母材樹脂とは異なる構造を有する分散剤を含む、樹脂組成物。
【請求項6】
2-オキサゾリン系モノマーを必須の構成単位として有するポリマーによってダイヤモンドを被覆する第1の工程、及び
求核性の反応剤により前記ポリマーの開環反応を行う第2の工程、
を有する被覆粒子の製造方法。
【請求項7】
前記求核性の反応剤が、カルボキシル基を有する化合物、フェノール性水酸基を有する化合物、有機マグネシウム化合物、有機リチウム化合物、及び有機スズ化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項6に記載の被覆粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被覆粒子及び被覆粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器においては、集積された電子部品が熱を発生し、故障の原因となるため、電子部品から発生する熱を機器外部に放熱するための放熱部材が設けられることがある。放熱部材は、例えば、電子部品と、筐体やヒートシンクなどの間に配置される。放熱部材は、樹脂に、熱伝導性フィラーが配合された樹脂組成物から形成されることが一般的である。
【0003】
熱伝導性フィラーとして、ダイヤモンドなどの炭素系フィラーが知られている。炭素系フィラーは、金属や金属酸化物のフィラー(例えば、銅、アルミナ、シリカ等)と比べて、表面に存在する活性官能基量が少なく、また活性官能基の種類も限定的であるため、樹脂との複合化が難しい。
そのため、炭素系フィラー表面の官能基の変換、表面への官能基の導入、又は官能基量の増量を行う手法が検討されている。例えば、金属酸化物による被覆(官能基の変換・増量を行う手法)、酸処理(官能基の導入・増量を行う手法)、シランカップリング剤による処理(官能基の変換・導入を行う手法)などが知られている。
【0004】
特許文献1では、特定構造のオルガノポリシロキサンを含有する表面処理剤、及び、該表面処理剤により表面が処理されたフィラー(充填材)を含む樹脂組成物に関する発明が開示されており、フィラーを樹脂に高充填できること、取扱作業性に優れることなど記載されている。
特許文献2では、カーボンナノチューブ被覆砥粒に関する発明が開示されており、砥粒としてダイヤモンド等を使用することや、カーボンナノチューブ被覆砥粒の表面にオキサゾリン基などの官能基を有することが記載されている。そして、該カーボンナノチューブ被覆砥粒は、フェノール樹脂などの樹脂材料に対して複合化しやすくなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2016-534161号公報
【特許文献2】特開2019-006902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の表面処理剤では、フィラーとしてダイヤモンドを使用した場合、フィラー表面への表面処理剤の吸着量が少ないため、フィラーと樹脂との相溶性が低く、その結果、界面抵抗が生じてしまう。界面抵抗が生じると、フォノン散乱の発生に伴い、熱伝導率が低下(放熱性が低下)する。また、樹脂中におけるフィラーの流動性が低くなり、粘度が増大するという問題が発生する。そのため、ダイヤモンドと樹脂との複合化が難しいという現状がある。
特許文献2においては、ダイヤモンドを樹脂と複合化する際に、ダイヤモンド表面の被覆の態様と、複合化のし易さの関係については、詳細な検討はなされていない。
【0007】
そこで本発明は、ダイヤモンドの表面をポリマーで被覆した被覆粒子であって、樹脂と複合し易い被覆粒子を提供すること、より詳細には、樹脂と複合化した際に、樹脂組成物の粘度が低く、かつ熱伝導率が高くなる被覆粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ダイヤモンドの表面がポリマーで被覆された被覆粒子であって、前記ポリマーが特定の構造を備える被覆粒子によって、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記[1]~[7]に関する。
【0009】
[1]ダイヤモンドの表面がポリマーで被覆された被覆粒子であって、前記ポリマーは親水性官能基Xを有し、前記ポリマー主鎖と親水性官能基Xとの間、及び、前記ポリマー主鎖とダイヤモンドとの間には、それぞれアミド結合を有する、被覆粒子。
[2]前記ポリマーは以下の式1で示される構造を有する、上記[1]に記載の被覆粒子。
【化1】
(式1において、Rは炭素数1~20の有機基であり、Xは親水性官能基であり、m及びnはそれぞれ1以上の整数であり、mに対するnの比(n/m)が1以上40以下であり、*はダイヤモンド表面と結合する結合手を示す)
[3]前記親水性官能基Xは、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、シアノ基、エポキシ基及びアジリジニル基からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]又は[2]に記載の被覆粒子。
[4]前記被覆粒子100質量%中において、ポリマー被覆量が、0.05質量%以上1質量%以下である、上記[1]又は[2]に記載の被覆粒子。
[5]上記[1]又は[2]に記載の被覆粒子を含む熱伝導性フィラー、母材樹脂、及び前記母材樹脂とは異なる構造を有する分散剤を含む、樹脂組成物。
[6]2-オキサゾリン系モノマーを必須の構成単位として有するポリマーによってダイヤモンドを被覆する第1の工程、及び求核性の反応剤により前記ポリマーの開環反応を行う第2の工程、を有する被覆粒子の製造方法。
[7]前記求核性の反応剤が、カルボキシル基を有する化合物、フェノール性水酸基を有する化合物、有機マグネシウム化合物、有機リチウム化合物、及び有機スズ化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[6]に記載の被覆粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ダイヤモンドの表面をポリマーで被覆した被覆粒子であって、樹脂と複合化した際に、樹脂組成物の粘度が低く、かつ熱伝導率が高くなる被覆粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の被覆粒子は、ダイヤモンドの表面がポリマーで被覆された被覆粒子であって、前記ポリマーは親水性官能基Xを有し、前記ポリマー主鎖と親水性官能基Xとの間、及び、前記ポリマー主鎖とダイヤモンドとの間には、それぞれアミド結合を有する、被覆粒子である。
【0012】
[被覆粒子]
本発明の被覆粒子は、親水性官能基Xを有しているため、表面の活性が高い。そのため、例えば、シランカップリング剤などの分散剤との反応性が高い。また、ダイヤモンドとポリマー主鎖との間、親水性官能基Xとポリマー主鎖との間には、それぞれアミド結合を有している。被覆粒子がこのような構造を備えることにより、樹脂と複合化した際の樹脂組成物の粘度の上昇を抑制でき、複合化が容易になる。さらには、樹脂組成物の熱伝導率を高めることができ、放熱性を向上させることができる。
【0013】
<ポリマー>
本発明の被覆粒子は、ダイヤモンドの表面がポリマーで被覆された粒子である。上記ポリマーは、親水性官能基Xを有し、ポリマー主鎖と親水性官能基Xの間にアミド結合を有する。
上記親水性官能基Xは、ダイヤモンド表面の活性を高め、分散剤などとの反応性を向上させる観点などから、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、シアノ基、エポキシ基及びアジリジニル基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、親水性官能基Xは、ヒドロキシ基、アミノ基、又はシアノ基であることがより好ましく、ヒドロキシ基であることが特に好ましい。
【0014】
上記ポリマーは、ポリマー主鎖とダイヤモンド表面との間にアミド結合を有する。そのため、ダイヤモンドとポリマー主鎖とは、強固に化学的に連結されているため、例えば、樹脂と複合化する場合などにおいて、ダイヤモンド表面からポリマーが脱落することを抑制することができる。
【0015】
ポリマーの重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは2000以上400000以下であり、より好ましくは7000以上200000以下である。重量平均分子量が上記範囲であると、ダイヤモンドを被覆し易くなる。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した、標準ポリスチレン換算の値である。
【0016】
ポリマーの構造は、上記のとおり親水性官能基Xを有し、ポリマー主鎖と親水性官能基Xとの間、及び、前記ポリマー主鎖とダイヤモンドとの間に、それぞれアミド結合を有する構造であれば、特に制限されないが、樹脂との複合化のし易さの観点から、以下の式1で示される構造を有するポリマーであることが好ましい。
【0017】
【化2】
(式1において、Rは炭素数1~20の有機基であり、Xは親水性官能基であり、m及びnはそれぞれ1以上の整数であり、mに対するnの比(n/m)が1以上40以下であり、*はダイヤモンド表面と結合する結合手を示す)
【0018】
式1において、Rは炭素数1~20の有機基であり、好ましくは炭素数2~10の有機基である。また、該有機基は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子などのヘテロ原子を有してもよく、エステル結合を有することが好ましい。
【0019】
式1におけるXは親水性官能基である。なお、本明細書では、Xのことを親水性官能基Xと記載することもある。
親水性官能基Xについては、上述したとおりであるので、ここでの説明は省略する。
【0020】
なお、本発明の被覆粒子の製造方法の詳細は後述するが、上記式(1)におけるR-Xは、被覆粒子の製造方法において用いる、求核性反応剤により形成される基であることが好ましい。
求核性反応剤は、好ましくは、カルボキシル基を有する化合物、フェノール性水酸基を有する化合物、有機マグネシウム化合物、有機リチウム化合物、及び有機スズ化合物からなる群から選択される少なくとも1種である。中でも、求核性反応剤としては、カルボキシル基を有する化合物又はフェノール性水酸基を有する化合物が好ましく、カルボキシル基を有する化合物がより好ましい。なお、カルボキシル基とフェノール性水酸基の両方を有する場合、カルボキシル基を有する化合物に該当するものとする。
カルボキシル基を有する化合物としては、カルボキシル基及び水酸基を有する化合物、
カルボキシル基及びアミノ基を有する化合物、カルボキシル基及びシアノ基を有する化合物が好ましく、中でも、乳酸、メチル乳酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシ酪酸、シアノ酢酸、グリシンがより好ましい。
【0021】
m及びnはそれぞれ1以上の整数である。mに対するnの比(n/m)は好ましくは1以上40以下であり、より好ましくは10以上20以下である。
上記m及びnは、式1のポリマーにおける括弧内のユニット数を表す。すなわち、mはダイヤモンド表面に結合したユニットの数であり、nは親水性官能基Xを有するユニットの数である。なお、式1のポリマーにおいて、ダイヤモンド表面に結合したユニットと親水性官能基Xを有するユニットの配列は特に限定されず、それぞれのユニットがランダム的に存在してもよいし、ブロック的に存在してもよい。
【0022】
式1における*は、ダイヤモンド表面と結合する結合手を表す。ポリマーは、ダイヤモンド表面の水酸基、カルボキシル基などの官能基と反応することで、ダイヤモンド表面を被覆することが好ましい。中でも、ポリマーは、ダイヤモンド表面のカルボキシル基と反応することで、ダイヤモンド表面を被覆することがより好ましい。
例えば、ダイヤモンド表面のカルボキシル基と、ポリマーとが反応して結合することにより、ポリマーが被覆される場合を模式的に示すと、以下のような構造となる。
【化3】
R、X、m及びnは、式1のものと同義である。
【0023】
被覆粒子100質量%中において、ポリマー被覆量は、好ましくは0.05質量%以上1質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以上1質量%以下である。
ポリマーの被覆量がこれら下限値以上であると、樹脂との複合化を行いやすくなり、これら上限値以下であると、ダイヤモンドの有する熱伝導性が良好に維持される。
ポリマー被覆量は、熱重量分析における重量減少率に基づいて定められる。具体的には、被覆粒子を測定試料として、熱重量分析装置により、窒素条件下において、25℃から700℃まで、10℃/分で昇温させたときの、重量減少率がポリマー被覆量である。該重量減少率は、測定前の測定試料の重量に対する、測定により減少した重量の割合である。
【0024】
<ダイヤモンド>
ダイヤモンドの種類は特に限定されないが、通常は、粒子状の合成ダイヤモンドであり、黒鉛などの炭素原料を、鉄などの金属触媒存在下、高温高圧下で結晶化して合成できる。そのように合成されたダイヤモンドは、一般的に多角形状となる。また、高温高圧下で結晶化して合成されたダイヤモンドを、必要に応じて適宜破砕などすることで破砕形状のダイヤモンド粒子とすることができる。合成されたダイヤモンド粒子は、必要に応じて、酸洗浄、または、水素ガスを使用した還元処理などが行われる。ダイヤモンド粒子は、酸洗浄し、その後未処理とすると、ダイヤモンド粒子表面に水酸基、カルボキシル基などの官能基が僅かに存在する。
【0025】
本発明の被覆粒子は、ダイヤモンドの表面を上記したポリマーで被覆したものである。一般に、ダイヤモンドは表面に存在する官能基が少なく、樹脂との複合化が難しいが、本発明の被覆粒子によれば、樹脂との複合化が容易になる。
【0026】
ダイヤモンドの平均粒径は特に限定されるものではないが、例えば0.1μm以上300μm以下であり、より好ましく0.3μm以上100μm以下であり、さらに好ましくは0.5~50μmである。
平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができ、累積体積が50%であるときの粒子径(d50)を平均粒径とすればよい。
【0027】
[被覆粒子の製造方法]
本発明の被覆粒子を製造する方法は、特に限定されないが、以下説明するとおり、第1の工程及び第2の工程を含む方法により製造することが好ましい。
本発明においては、2-オキサゾリン系モノマーを必須の構成単位として有するポリマーによってダイヤモンドを被覆する第1の工程、及び求核性の反応剤により前記ポリマーの開環反応を行う第2の工程を有する被覆粒子の製造方法も提供することができる。
【0028】
<被覆粒子>
被覆粒子の製造方法における第1の工程は、2-オキサゾリン系モノマーを必須の構成単位として有するポリマーによってダイヤモンドを被覆する工程である。
前記2-オキサゾリン系モノマーとしては、2-オキサゾリンの骨格を有し、かつ重合性官能基を有するモノマーが挙げられる。前記重合性官能基としては、例えば、ビニル基、アリル基などの炭素―炭素不飽和結合を有する基が挙げられる。中でも、前記2-オキサゾリン系モノマーとしては、2-ビニル-2-オキサゾリンが好ましい。
2-オキサゾリン系モノマーを必須の構成単位として有するポリマーは、2-オキサゾリン系モノマー以外の構成単位を有してもよい。2-オキサゾリン系モノマー以外の構成単位としては、2-オキサゾリン系モノマーと重合し得るモノマーであれば特に限定されないが、ビニル基、アリル基などの重合性官能基を有するモノマーが挙げられ、例えば、前記重合性官能基を有する含窒素複素環系モノマーや、炭素数2~10のα-オレフィンなどが挙げられる。
【0029】
2-オキサゾリン系モノマーを必須の構成単位として有するポリマーとしては、2-オキサゾリン系モノマーのみを構成単位として有するポリマーが好ましく、中でも2-ビニル-2-オキサゾリンの単独重合体がより好ましい。2-ビニル-2-オキサゾリンの単独重合体は、以下の式1-2で示す構造を有する。
【0030】
【化4】
上記式において、lは、式1のm+nと同義である。
【0031】
第1の工程では、上記した2-オキサゾリン系モノマーを必須の構成単位として有するポリマーと、ダイヤモンドとを溶媒中で混合する。具体的には、2-オキサゾリン系モノマーを必須の構成単位として有するポリマーとダイヤモンドとを、溶媒中で、例えば20~200℃において、加熱攪拌する。前記溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アルコール類、N-メチル-2-ピロリドン、水などを使用することができる。これにより、ポリマーが有するオキサゾリン環が、ダイヤモンド表面のカルボキシル基などと反応し開環し、ポリマー主鎖とダイヤモンドとの間が、アミド結合により連結されることとなる。
【0032】
前記ポリマーとダイヤモンドとの配合量は特に限定されないが、前記ポリマーを過剰量用いるとよい。この場合、未反応のポリマーが残存するため、溶媒を除去して得られた反応残渣を洗浄し、未反応のポリマーを除去するとよい。
未反応のポリマーを除去して得られた第1の工程における反応物を、赤外分光法により分析することで、アミド結合の生成が確認される。
第1の工程において、2-オキサゾリン系モノマーを必須の構成単位として有するポリマーとして、上記した2-ビニル-2-オキサゾリンの単独重合体を用いた場合において得られる反応物の一例を模式的に記載すると以下のとおりである。
【0033】
【0034】
上記した第1の工程の後に、第2の工程を行う。第2の工程では、第1の工程で得られた反応物に対して、求核性の反応剤によりポリマーの開環反応を行う工程である。すなわち、求核性の反応剤により、ポリマーが有するオキサゾリン環の開環反応を行う。
求核性の反応剤は、上記した式1におけるR-Xを形成しうる化合物である。具体的には、求核性の反応剤は、ポリマーが有するオキサゾリン環の開環反応を生じさせるための官能基を有し、かつ上記した親水性官能基Xを有する化合物である。
求核性反応剤は、好ましくは、カルボキシル基を有する化合物、フェノール性水酸基を有する化合物、有機マグネシウム化合物、有機リチウム化合物、及び有機スズ化合物からなる群から選択される少なくとも1種である。中でも、求核性反応剤としては、カルボキシル基を有する化合物又はフェノール性水酸基を有する化合物が好ましく、カルボキシル基を有する化合物がより好ましい。
カルボキシル基を有する化合物としては、カルボキシル基及び水酸基を有する化合物、
カルボキシル基及びアミノ基を有する化合物、及びカルボキシル基及びシアノ基を有する化合物のいずれかが好ましく、中でも、乳酸、メチル乳酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシ酪酸、シアノ酢酸、グリシンがより好ましい。
【0035】
第2の工程では、第1の工程における反応物と、求核性の反応剤を溶媒中で混合することが好ましい。具体的には、第1の工程における反応物と求核性の反応剤とを、溶媒中で、例えば20~200℃において、加熱攪拌する。前記溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アルコール類、N-メチル-2-ピロリドン、水などを使用することができる。これにより、第1の工程における反応物におけるポリマーが開環し、ポリマー主鎖と、求核性の反応剤が有する親水性官能基Xとの間にアミド結合が形成される。
【0036】
前記第1の工程における反応物と、求核性の反応剤との配合量は特に限定されないが、前記求核性の反応剤を過剰量用いるとよい。この場合、未反応の求核性の反応剤が残存するため、溶媒を除去して得られた反応残渣を洗浄し、未反応の求核性の反応剤を除去するとよい。
未反応の求核性の反応剤を除去して得られた第2の工程における反応物を、赤外分光法により分析することで、新たなアミド結合の生成が確認される。
第1の工程において、2-オキサゾリン系モノマーを必須の構成単位として有するポリマーとして、上記した2-ビニル-2-オキサゾリンの単独重合体を用いた場合において、第2の工程により得られる反応物の一例を模式的に記載すると以下のとおりである。
【化6】
R、X、m及びnは、式1のものと同義である。
【0037】
以上のとおり、第1の工程及び第2の工程を行うことで、本発明の被覆粒子を製造することができる。
【0038】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、上記した被覆粒子を含む熱伝導性フィラー、母材樹脂、及び前記母材樹脂とは異なる構造を有する分散剤を含む。
【0039】
<被覆粒子を含む熱伝導性フィラー>
樹脂組成物に含有される熱伝導性フィラーは、上記した被覆粒子を含む。該被覆粒子は、炭素系フィラーであるダイヤモンドを特定のポリマーで被覆したフィラーであるため、分散剤と反応しやすく、そのため、母材樹脂と複合化しやすい。
【0040】
熱伝導性フィラーは、上記した被覆粒子以外のフィラーを含んでいてもよい。被覆粒子以外のフィラーは、本発明の効果を阻害しない範囲で、適宜選択できるが、例えば、酸化物、窒化物、炭化物、炭素系材料、及び金属水酸化物などが挙げられる。
酸化物としては、例えば、酸化鉄、酸化亜鉛、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物、酸化ケイ素(シリカ)などの金属酸化物以外の酸化物が挙げられる。
窒化物としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化クロム、窒化タングステン、窒化マグネシウム、窒化モリブデン、窒化リチウムなどの金属窒化物、窒化ケイ素、窒化ホウ素など金属窒化物以外の窒化物が挙げられる。
炭化物としては、例えば、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化タングステンなどの金属炭化物、炭化ケイ素、炭化ホウ素などの金属炭化物以外の炭化物が挙げられる。
炭素系材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、ダイヤモンドなどが挙げられる。
金属水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。
これら、被覆粒子以外のフィラーは、単独で使用してもよいし、2種類以上併用してもよい。
【0041】
被覆粒子以外のフィラーとしては、例えばダイヤモンドを用いることができる。該ダイヤモンドは、当然ながら、被覆粒子以外のダイヤモンドを意味する。例えば、被覆粒子と、被覆粒子の平均粒径とは異なる平均粒径のダイヤモンドを併用することで、樹脂に対する熱伝導性フィラーの充填率を高めることが可能となる。
【0042】
母材樹脂に対して、ダイヤモンドを特定のポリマーで被覆した本発明の被覆粒子を高充填し、熱伝導性の高い樹脂組成物を得る観点からは、熱伝導性フィラーにおける被覆粒子の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが好ましく、100質量%であってもよい。
【0043】
また、樹脂組成物における熱伝導性フィラーの体積比率は、フィラーを密にして熱伝導率を向上させる観点から、樹脂組成物の全体積に対して、好ましくは20体積%以上であり、より好ましくは30体積%以上であり、さらに好ましくは50体積%以上である。
また、樹脂組成物における熱伝導性フィラーの体積比率は、好ましくは90体積%以下であり、より好ましくは85体積%以下であり、さらに好ましくは80体積%以下である。熱伝導性フィラーの体積比率を一定値以下とすることで、熱伝導性フィラーが容易に母材樹脂に馴染んで、樹脂中に適切に熱伝導性フィラーを分散させることができる。
【0044】
<母材樹脂>
母材樹脂は、熱伝導性フィラーを保持する樹脂成分である。母材樹脂としては、硬化性樹脂でもよいし、熱可塑性樹脂などの非硬化性の樹脂であってもよい。また、エラストマー樹脂であってもよい。硬化性樹脂としては、湿気硬化性、熱硬化性、光硬化性のいずれでもよい。母材樹脂としては、液状成分であることが好ましい。液状成分の母材樹脂は、硬化することで固体となるものでもよいし、非硬化性であり、液状のままでもよい。なお、液状成分とは、室温(25℃)かつ常圧(1気圧)下に液状である成分である。
【0045】
硬化性樹脂は、1液硬化型、2液硬化型のいずれでもよい。2液硬化型では、主剤を含む1液と、硬化剤を含む2液とを混合して使用するものである。2液硬化型は、1液と2液を混合することで、例えば室温で硬化するとよい。
なお、2液硬化型において、1液が本発明の樹脂組成物であってもよいし、2液が本発明の樹脂組成物であってもよいし、1液と2液を混合したものが本発明の樹脂組成物であってもよいが、1液、及び2液のいずれもが本発明の樹脂組成物であり、混合後のものも本発明の樹脂組成物であることが好ましい。
【0046】
母材樹脂の具体例としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1-)ブテン樹脂、及びポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)等が挙げられる。
また、母材樹脂は、エラストマー樹脂であってもよく、具体的には、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。エラストマー樹脂は、液状でもよいし、固体状でもよい。
母材樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記した中では、母材樹脂は、好ましくはシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエンゴム、及びポリエステル樹脂から選択される少なくとも1種であり、より好ましくはシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂から選択される少なくとも1種であり、さらに好ましくはシリコーン樹脂である。
【0047】
(シリコーン樹脂)
シリコーン樹脂の具体例としては、硬化型シリコーン樹脂が挙げられる。硬化型シリコーン樹脂としては、縮合硬化型シリコーン樹脂、付加反応硬化型シリコーン樹脂のいずれでもよいが、付加反応硬化型シリコーン樹脂が好ましい。
硬化型シリコーン樹脂は、主剤を構成するシリコーン樹脂と、主剤を硬化させる硬化剤を構成するシリコーン樹脂からなることが好ましい。そして、付加反応硬化型シリコーン樹脂の場合、主剤として使用されるシリコーン樹脂は、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンが好ましい。アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、アルケニル基を2つ以上有することがより好ましい。
アルケニル基としては、特に限定されないが、例えば炭素数2~8のものが挙げられ、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基などが挙げられ、これらの中では合成の容易性、反応性の観点などから、ビニル基が好ましい。また、アルケニル基は、ケイ素原子に直接結合したアルケニル基であるとよい。
アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンとしては、具体的には、ビニル両末端ポリジメチルシロキサン、ビニル両末端ポリフェニルメチルシロキサン、ビニル両末端ジメチルシロキサン-ジフェニルシロキサンコポリマー、ビニル両末端ジメチルシロキサン-フェニルメチルシロキサンコポリマー、ビニル両末端ジメチルシロキサン-ジエチルシロキサンコポリマーなどのビニル両末端オルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0048】
付加反応硬化型シリコーン樹脂に使用される硬化剤としてのシリコーン樹脂は、上記した主剤であるシリコーン樹脂を硬化できるものであれば、特に限定されないが、ヒドロシリル基(SiH)を有するオルガノポリシロキサンである、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが好ましい。オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、ヒドロシリル基を2つ以上有することが好ましい。
樹脂組成物において、主剤としてのシリコーン樹脂のアルケニル基に対するヒドロシリル基の比(モル比)は、好ましくは0.3以上5以下、より好ましくは0.4以上4以下、さらに好ましくは0.6以上4以下である。ダイヤモンドを含有する樹脂組成物では、ダイヤモンドに起因して主剤と硬化剤の反応が進行しないことがあるが、モル比が0.6以上であると、反応が十分に進行して、十分に硬化された放熱部材を得ることが可能になる。なお、上記したアルケニル基に対するヒドロシリル基の比(モル比)は、樹脂組成物が1液硬化型である場合や、樹脂組成物が2液硬化型で1液と2液を混合したものである場合などにおいて樹脂組成物において上記範囲内であるとよい。
【0049】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、ポリメチルヒドロシロキサン、ポリエチルヒドロシロキサン、メチルヒドロシロキサン-フェニルメチルシロキサンコポリマーなどが挙げられる。これらは、末端にヒドロシリル基を含有していてもよいが、含有していなくてもよい。
【0050】
また、シリコーン樹脂としては、例えば、シリコーンオイルでもよい。シリコーンオイルとしては、メチルフェニルシリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル、変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
シリコーンオイルは、配合時に室温かつ常圧下に液状であり、かつ使用時においても液状ないしゲル状の成分である。すなわち、シリコーンオイルは、硬化剤などにより硬化されず、また、硬化されても硬化後も液状ないしゲル状となる実質的に非硬化性のものである。したがって、シリコーンオイルは、樹脂成分として単独で、又は比較的高い配合割合で使用すると、樹脂組成物から形成される放熱部材をペースト状にできる。
【0051】
樹脂組成物に含有されるシリコーン樹脂は、25℃における粘度が、好ましくは5mPa・s以上1000mPa・s以下、より好ましくは30mPa・s以上700mPa・s以下、さらに好ましくは100mPa・s以上600mPa・s以下である。
なお、シリコーン樹脂の粘度は、粘度計(BROOKFIELD回転粘度計DV-E)でスピンドルNo.14の回転子を用い、回転速度5rpm、測定温度25℃で測定するとよい。
シリコーン樹脂の粘度範囲を上記範囲内とすると、樹脂組成物の粘度を所定範囲内として、樹脂組成物の塗工性を良好にしつつ、塗工後に一定の形状に保つことができるため、電子部品などの上に容易に配置できるようになる。また、被覆粒子を適切に分散させたうえで多量に配合しやすくなる。
【0052】
なお、樹脂組成物は、2液硬化型であり、かつ1液又は2液のいずれかを構成する場合、上記の通り主剤となるシリコーン樹脂又は硬化剤となるシリコーン樹脂のいずれかを含有すればよい。より具体的には、樹脂組成物は、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン又はオルガノハイドロジェンポリシロキサンのいずれかを含有することが好ましい。
ただし、2液硬化型の1液又は2液のいずれかを構成する場合であっても、シリコーン樹脂は、硬化が進行しない限り、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン又はオルガノハイドロジェンポリシロキサンに加えて、オルガノハイドロジェンポリシロキサン又はアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンを含有してもよい。
【0053】
また、樹脂組成物は、1液硬化型の場合や、2液硬化型であっても1液と2液を混合したものである場合には、主剤となるシリコーン樹脂及び硬化剤となるシリコーン樹脂の両方を含有してもよい。すなわち、1液硬化型の場合や、2液硬化型であっても1液と2液を混合したものである場合には、樹脂組成物は、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン及びオルガノハイドロジェンポリシロキサンの両方を含有することが好ましい。
【0054】
また、硬化型の樹脂組成物は、シリコーン樹脂として、非硬化性のオルガノポリシロキサンを含有してもよく、例えば上記したアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン又はヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンに加えて、シリコーンオイルなどを含有してもよい。もちろん、樹脂組成物は、非硬化型のシリコーン樹脂組成物であってもよく、そのような場合、シリコーン樹脂としては、例えばシリコーンオイルを単独で使用してもよい。
【0055】
(エポキシ樹脂)
樹脂成分として使用されるエポキシ樹脂としては、エポキシ基を少なくとも1つ、好ましくは2つ以上有するエポキシ化合物を使用するとよい。エポキシ化合物は、硬化性樹脂であり、また、通常は熱硬化性樹脂である。
エポキシ化合物としては、例えばビスフェノール型、ノボラック型、ナフタレン型、トリフェノールアルカン型、ビフェニル型、環状脂肪族型、これらのハロゲン化物、これらの水素添加物等が挙げられる。
また、エポキシ樹脂としては、エポキシ化合物単独で使用されてもよいが、エポキシ樹脂は、上記エポキシ化合物を主剤とし、さらに硬化剤が加えられたものが使用される。硬化剤としては、重付加型又は触媒型のものが用いられる。重付加型の硬化剤としては、例えば、ポリアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリフェノール系硬化剤、ポリメルカプタン、ジシアンジアミド等が挙げられる。また、上記触媒型の硬化剤としては、例えば、3級アミン、イミダゾール類、ルイス酸錯体等が例示される。これは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、エポキシ樹脂を使用する場合、樹脂組成物は、2液硬化型が好ましく、主剤を含む1液と、硬化剤を含む2液とを混合することで、硬化するものが好ましい。
【0056】
なお、樹脂組成物は、2液硬化型であり、かつ1液又は2液のいずれかを構成する場合、主剤を構成するエポキシ化合物又は硬化剤のいずれかを含有すればよい。
ただし、2液型の場合であっても、エポキシ樹脂は、硬化が進行しない限り、エポキシ化合物又は硬化剤に加えて、硬化剤又はエポキシ化合物を含有してもよい。
また、樹脂組成物は、1液硬化型の場合や、2液硬化型であっても1液と2液を混合したものである場合には、主剤となるエポキシ化合物及び硬化剤の両方を含有するとよい。
【0057】
(アクリル樹脂)
樹脂成分として使用されるアクリル樹脂としては、例えば光硬化性を有するものが使用される。アクリル樹脂としては、硬化されることでアクリル系ポリマーを構成する成分であればよく、例えば、アルキル(メタ)アクレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド類、ウレタン(メタ)アクリレートなどの各種のアクリル系化合物が挙げられる。また、上記アクリル系化合物と共重合可能なビニルモノマーなどを含んでもよい。
【0058】
母材樹脂の体積比率は、樹脂組成物の全体積に対して、好ましくは3体積%以上50体積%以下、より好ましくは5体積%以上30体積%以下である。母材樹脂の体積比率がこれら下限値以上であると、母材樹脂に分散された熱伝導性フィラーを、母材樹脂に適切に分散させて保持できる。また、これら上限値以下とすることで、熱伝導性フィラーを一定量以上樹脂組成物に配合できる。
【0059】
<分散剤>
本発明の樹脂組成物は、前記母材樹脂とは異なる構造を有する分散剤を含む。分散剤を含有することで、熱伝導性フィラーに含まれる被覆粒子の濡れ性が改善して、被覆粒子を母材樹脂に分散させ易くなる。そのため、樹脂組成物の粘度を低く維持でき、熱伝導率を向上させることができる。
分散剤としては、末端に極性基を有するシリコーン化合物が挙げられる。ここで、極性基としては、例えば、アルコキシ基、ヒドロキシル基などが挙げられ、好ましくはアルコキシ基である。極性基は、Si原子に結合することが好ましく、したがって、極性基は、シラノール基、アルコキシシリル基等の加水分解性シリル基であることが好ましく、アルコキシシリル基がより好ましい。
末端に極性基を有するシリコーン化合物は、母材樹脂がシリコーン樹脂である場合に使用されることが好ましい。
【0060】
樹脂組成物は、分散剤として末端に極性基を有するシリコーン化合物を含有することで、分散剤の極性基が、被覆粒子が有する親水性官能基Xと結合又は相互作用して、母材樹脂に被覆粒子を分散させ易くすることができる。特に、アルコキシ基は加水分解して親水性官能基Xと反応することが容易であり、被覆粒子の分散性を向上させやすい。
また、分散剤としてシリコーン化合物を使用することで、母材樹脂としてシリコーン樹脂を使用する際に被覆粒子が母材樹脂に特に馴染みやすくなり、樹脂組成物における被覆粒子の体積比率を増加させやすくなる。
【0061】
末端に極性基を有するシリコーン化合物は、分子鎖末端に加水分解性シリル基を有するオルガノポリシロキサン(以下、オルガノポリシロキサン(X)ともいう)が好ましい。オルガノポリシロキサン(X)は、直鎖状でも分岐状でもよいし、直鎖状と分岐状の混合物でもよいが、直鎖状であることが好ましい。また、オルガノポリシロキサン(X)としては、分子鎖末端に少なくとも1つの加水分解性シリル基を有するオルガノポリシロキサンが好ましく、片末端のみに少なくとも1つの加水分解性シリル基を有するオルガノポリシロキサンがより好ましく、片末端に3つの加水分解性シリル基を有するオルガノポリシロキサンがさらに好ましい。ここで、加水分解性シリル基は、より好ましくはアルコキシシリル基であり、さらに好ましくは、メトキシシリル基である。
オルガノポリシロキサン(X)は、末端に加水分解性シリル基を有することで、被覆粒子の表面に存在する官能基と反応ないし相互作用しやすくなる。また、ポリシロキサン構造を備えることも相まって、被覆粒子の分散性も良好になる。
【0062】
オルガノポリシロキサン(X)は、具体的には以下の式(2)で表される化合物が好ましい。
【化7】
【0063】
式(2)において、R1はそれぞれ独立に炭素原子数が1~20のアルキル基、炭素原子数が1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数6~20のアリール基、及び炭素原子数7~20のアラルキル基のいずれであり、複数のR1はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R2はそれぞれ独立に炭素原子数1~4のアルキル基であり、R2が複数の場合は、該複数のR2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R3はそれぞれ独立に炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数2~4のアルコキシアルキル基、及び炭素原子数2~4のアシル基のいずれかであり、R3が複数の場合は、該複数のR3は同一であっても異なっていてもよい。R4は炭素原子数1~8のアルキル基である。R6は、酸素原子、又は炭素原子数1~40の二価の有機基である。mは3~315の整数である。式(2)において、aは0~2の整数である。
【0064】
上記式(2)において、R1におけるアルキル基は直鎖であっても分岐鎖であってもよく、環状構造を有してもよい。より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、イソブチル基、2-メチルウンデシル基、1-ヘキシルヘプチル基等の分岐鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基等の環状アルキル基が挙げられる。
ハロゲン化アルキル基としては、クロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基等などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、2-(2,4,6-トリメチルフェニル)プロピル基等が挙げられる。
これらの中でもR1は、炭素原子数1~20のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数1~4のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが更に好ましい。式(2)の化合物において、R1の80%以上がメチル基であることが好ましく、90%以上がメチル基であることがより好ましく、R1の全てがメチル基であることがさらに好ましい。
【0065】
上記式(2)において、R2は炭素原子数1~4のアルキル基であり、R2が複数の場合(すなわち、aが2の場合)は、該複数のR2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、該アルキル基は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。中でもR2は、炭素原子数1~2のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。また、aは0~2の整数であり、aは0又は1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0066】
上記式(2)において、R3は炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数2~4のアルコキシアルキル基、炭素原子数2~4のアシル基であり、R3が複数の場合(すなわち、aが0又は1の場合)は、該複数のR3は同一であっても異なっていてもよい。また、R3におけるアルキル基、アルコキシアルキル基、及びアシル基は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。これらの中でもR3は、炭素原子数1~4のアルキル基であることが好ましく、中でもメチル基であることがより好ましい。
【0067】
上記式(2)において、R4は炭素原子数1~8のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数2~6のアルキル基であり、より好ましくはブチル基である。
上記式(2)において、R6は以下の式(3)で示される基、酸素原子、又は炭素原子数1~20の二価の炭化水素基であることが好ましく、以下の式(3)で示される基、又は炭素数1~20の二価の炭化水素基であることがより好ましい。ここで、炭素数1~20の二価の炭化水素基は、好ましくはアルキレン基であり、該アルキレン基は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。炭素数1~20の二価の炭化水素基は、炭素原子数2~10のアルキレン基が好ましく、炭素原子数2~8のアルキレン基がより好ましく、炭素原子数2~4のアルキレン基がさらに好ましく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、メチルエチレン基などが挙げられ、中でもエチレン基が好ましい。
【0068】
【化8】
式(3)において、R
5は炭素原子数が1~20の二価の炭化水素基であり、複数のR
5はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。*は、R
1-Si-R
1におけるケイ素原子との結合位置であり、**は、SiR
2
a(OR
3)
3-aにおけるケイ素原子との結合位置である。
R
5における二価の炭化水素基は、好ましくはアルキレン基であり、該アルキレン基は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。R
5は炭素原子数2~10のアルキレン基が好ましく、炭素原子数2~8のアルキレン基がより好ましく、炭素原子数2~4のアルキレン基がさらに好ましく、-CH
2-CH
2-CH
2-、又は-CH(CH
3)-CH
2-で表されるアルキレン基が更に好ましい。
【0069】
式(2)におけるmは繰り返し数を表し、3~315の整数であり、好ましくは4~280の整数であり、より好ましくは5~220の整数、更に好ましくは5~100の整数である。
【0070】
分散剤としては、シリコーン化合物以外も使用でき、シリコーン化合物以外の高分子系分散剤が使用できる。使用される高分子系分散剤としては、官能基を有する高分子化合物が挙げられる。高分子化合物としては、例えば、アクリル系、ビニル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、エポキシ系、ポリスチレン系、アミノ系等が挙げられる。また、官能基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、カルボン酸エステル基、リン酸エステル基、スルホン酸エステル基、ヒドロキシル基、アミノ基、四級アンモニウム塩基、アミド基等が挙げられ、リン酸エステル基が好ましい。
シリコーン化合物以外の高分子系分散剤は、母材樹脂が例えばエポキシ樹脂やアクリル樹脂などのシリコーン樹脂以外を含むときに使用されることが好ましい。
【0071】
上記した高分子系分散剤は、上記官能基が、被覆粒子の有する親水性官能基Xに結合又は相互作用して、母材樹脂に被覆粒子を分散させやすくしたりする。また、シリコーン化合物以外の高分子化合物であることで、母材樹脂としてシリコーン樹脂以外の樹脂成分(例えば、エポキシ樹脂又はアクリル樹脂)を使用する際に被覆粒子が母材樹脂に特に馴染みやすくなり、樹脂組成物における被覆粒子の体積比率を増加させやすくなる。
【0072】
また、分散剤としては、高分子系分散剤以外も使用可能であり、例えば、アルコキシシラン化合物も使用できる。アルコキシシラン化合物は、ケイ素原子(Si)が持つ4個の結合のうち、1~3個がアルコキシ基と結合し、残余の結合が有機置換基と結合した構造を有する化合物である。アルコキシシラン化合物の有するアルコキシ基は、加水分解性基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロトキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、及びヘキサトキシ基が挙げられ、これらの中では、メトキシ基又はエトキシ基を有するアルコキシシラン化合物が好ましい。
アルコキシシラン化合物の有するアルコキシ基の数は、被覆粒子などのフィラーとの親和性を高めるという観点から、3であることが好ましい。したがって、アルコキシシラン化合物は、トリメトキシシラン化合物及びトリエトキシシラン化合物から選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。
【0073】
アルコキシシラン化合物の有する有機置換基に含まれる官能基としては、例えば、アクリロイル基、アルキル基、カルボキシル基、ビニル基、メタクリル基、芳香族基、アミノ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、エポキシ基、ヒドロキシル基、及びメルカプト基などが挙げられる。
【0074】
アルコキシシラン化合物は、シリコーン樹脂と馴染みやすくなって、被覆粒子を含む熱伝導性フィラーの分散性を高める観点から、ケイ素原子に結合したアルキル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物が好ましい。ケイ素原子に結合したアルキル基の炭素数は、4以上であることが好ましい。また、ケイ素原子に結合したアルキル基の炭素数は、アルコキシシラン化合物自体の粘度が比較的低く、樹脂組成物の粘度を低く抑えるという観点から、16以下であることが好ましい。
【0075】
好ましいアルキルアルコキシシラン化合物としては、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、及びn-デシルトリメトキシシランが挙げられる。
また、アルキルアルコキシシラン化合物以外のアルコキシシラン化合物としては、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
分散剤としては、上記したものを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0076】
樹脂組成物における分散剤の体積比率は、樹脂組成物の全体積に対して、0.1体積%以上20体積%以下が好ましく、0.5体積%以上15体積%以下がより好ましく、1体積%以上10体積%以下がさらに好ましい。含有量をこれら下限値以上とすると、被覆粒子を含む熱伝導性フィラーを樹脂組成物に適切に分散させることができ、複合化が容易になる。また、上限値以下とすることで、含有量に見合った分散性を付与できる。
【0077】
(その他の添加剤)
樹脂組成物は、硬化型である場合、硬化触媒を適宜含有してもよい。例えば、付加反応硬化型シリコーン樹脂が使用される場合、硬化触媒としては、白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などが挙げられる。これら硬化触媒は、主剤となるシリコーン樹脂と硬化剤となるシリコーン樹脂とを硬化させるための触媒である。硬化触媒の配合量は、シリコーン樹脂に対して質量基準で、通常0.1~200ppm、好ましくは0.5~100ppmである。硬化触媒は、2液硬化型である場合には、主剤を含む1液に配合されることが好ましいが、硬化剤を含む2液に含有されてもよい。
【0078】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤等の放熱部材に一般的に使用する添加剤を含有してもよい。また、樹脂組成物は、熱硬化性樹脂などの硬化性樹脂を使用する場合には、反応抑制剤を含有してもよい。反応性抑制剤を含有させて硬化触媒の触媒活性などを抑制することで、樹脂組成物のシェルフライフ、ポットライフを延長させるができる。また、樹脂組成物は、光硬化性樹脂を使用する場合には、光重合開始剤を含有してもよい。
【0079】
(樹脂組成物の物性)
本発明の樹脂組成物の熱伝導率は、例えば2.6W/(m・K)以上であるが、好ましくは2.8W/(m・K)以上、より好ましくは3W/(m・K)以上、更に好ましくは5W/(m・K)以上である。また、樹脂組成物の熱伝導率は、高ければ高いほど放熱性が優れるが、例えば25W/(m・K)以下であるとよい。
【0080】
また、本発明の樹脂組成物は、室温(23℃)における粘度が一定値以下であるとよい。粘度を一定値以下とすることで、塗工性、成形性などを良好にしやすくなる。具体的には、樹脂組成物の25℃における粘度は、例えば250mPa・s未満であればよいが、230mPa・s未満とすることが好ましく、200mPa・s未満とすることがより好ましい。
樹脂組成物の23℃における粘度は、特に限定されないが、液だれ等が生じることを防止するために、15mPa・s以上であることが好ましく、50mPa・s以上がより好ましく、100mPa・s以上がさらに好ましい。
樹脂組成物の粘度は、23℃における粘度であり、実施例に記載の方法により測定される。
なお、樹脂組成物の粘度とは、硬化性である場合には硬化前の樹脂組成物の粘度である。例えば、樹脂組成物が、2液硬化型であり、かつ1液と2液を混合したものである場合、1液と2液の混合直後の粘度である。
【0081】
(樹脂組成物の調製)
本発明の樹脂組成物は、母材樹脂、被覆粒子を含む熱伝導性フィラー、前記母材樹脂とは異なる構造を有する分散剤、及び必要に応じて配合される添加剤を混合して調製するとよい。これら成分を混合する方法は、特に限定されないが、例えば、母材樹脂に、熱伝導性フィラー、分散剤、及び必要に応じて配合される添加剤などを添加し、その後攪拌ないし混練などすることで調整するとよい。
【0082】
また、熱伝導性フィラーは、分散剤によって表面処理された上で、母材樹脂と混合してもよい。熱伝導性フィラーは、分散剤によって予め表面処理されることで、予め分散剤によって表面修飾されることになる。そして、予め表面修飾された熱伝導性フィラーを母材樹脂に混合させて、樹脂組成物を調製するとよい。
分散剤を用いて予め表面処理をする方法は、特に制限はなく、公知の方法で行えばよく、例えば、湿式処理法、乾式処理法などを用いることができる。湿式処理法では、例えば、分散剤を溶媒に分散又は溶解した処理液中に、熱伝導性フィラーを加えて混合し、その後、乾燥、加熱処理、洗浄などすることで、熱伝導性フィラーの表面に分散剤を結合ないし付着させるとよい。
また、乾式処理法は、溶媒を使用せずに表面処理する方法であり、具体的には、熱伝導性フィラーに分散剤を混合しミキサー等で攪拌し、その後、加熱処理することで、熱伝導性フィラーの表面に分散剤を結合ないし付着させる方法である。
【0083】
[放熱部材]
本発明の放熱部材は、上記した樹脂組成物により形成されるものである。放熱部材は、例えば、母材樹脂が硬化性樹脂を含む場合には、上記樹脂組成物を所定の形状にした後、適宜加熱などして硬化させることで所定の形状に成形された放熱部材を得ることが可能になる。また、光硬化性樹脂を使用する場合には、樹脂組成物を所定の形状にした後、紫外線などの光を照射することにより硬化させるとよい。また、母材樹脂が硬化性樹脂を含む場合以外でも、樹脂組成物を所定の形状にしたり、また、不定形にしたりして放熱部材とすればよい。樹脂組成物を所定の形状などにする方法としては、特に限定されず、塗工、キャスティング、ポッティング、押出成形などにより、薄膜状、シート状、ブロック状などにしてもよいし、不定形状などにしてもよい。塗工は、例えばディスペンサーを用いて行ってもよい。本発明の樹脂組成物は、流動性が良好であるので、塗工、キャスティング、ポッティング、押出成形などが容易にできるようになり、ディスペンサーからの吐出性も良好となる。
また、2液硬化型の場合には、1液と2液を混合した得られた混合物を所定の形状にした後、硬化させることで所定の形状に成形された放熱部材を得ることが可能になる。
【0084】
本発明の放熱部材は、例えば電子機器において使用される。すなわち、本発明は、放熱部材を備える電子機器も提供する。本発明の放熱部材は、熱伝導率が高いことから、電子機器内部で使用すると高い放熱性を確保できる。より具体的には、放熱部材は、電子部品の上に配置されて、電子部品で発生した熱を放熱するために使用される。また、本発明の放熱部材は、2つの対向する部材の間の隙間を埋めるように配置されて使用されることが好ましい。2つの対向する部材は、例えば、一方が電子部品で、他方が電子部品から熱を逃がすためのヒートシンク、電子機器の筐体、基板などのいずれかであるとよい。
【実施例0085】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0086】
各実施例、比較例で作製した樹脂組成物の評価方法は以下のとおりである。
【0087】
[被覆量]
被覆粒子20mgを測定試料として、熱重量分析装置(RIGAKU社製「Thermo plus evo2」)により、窒素条件下において、25℃から700℃まで、10℃/分で昇温させたときの、重量減少率をポリマーの被覆量とした。該重量減少率は、測定前の測定試料の重量に対する、測定により減少した重量の割合である。
【0088】
[粘度]
粘度は、23℃において、ブルックフィールドB型粘度計により測定した。測定装置としては、英弘精機社製「HB DVE」により測定した。回転速度10rpmに設定し、回転を始めて3分後の値を粘度とした。以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:200mPa・s未満
〇:200mPa・s以上250mPa・s未満
×:250mPa・s以上
【0089】
[熱伝導率]
熱伝導率は、23℃において、ASTM D5470に従って測定した。測定装置としてはCtherm社の「TCi」により測定した。以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:3.0W/m以上
〇:2.6W/m以上3.0W/m未満
×:2.6W/m未満
【0090】
各実施例、比較例で用いた各成分は以下のとおりである。
<オキサゾリンポリマー(Oxポリマー)>
ダイヤモンドを被覆するためのポリマーとして、以下のようにしてオキサゾリンポリマーを製造した。
原料モノマーとして、2-ビニル-2-オキサゾリンを用いた。原料モノマー10gとラジカル重合性開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル0.0338gとを混合し、攪拌することで滴下用溶液を調製した。溶媒(1-メトキシ-2-プロパノール)23.33gを90℃窒素条件下、オイルバス中で加熱攪拌し、そこに、滴下用溶液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに90℃で2時間攪拌することで、反応溶液を得た。その後、ヘキサンを用いて再沈殿を行い、沈殿物を回収した後、真空乾燥を40℃6時間行うことで、ポリ-2-ビニルオキサゾリン固形物(オキサゾリンポリマー)を得た。
得られたオキサゾリンポリマーは、明細書中の式1-2で示されるポリマーであり、式1-2におけるlが1200であった。
【0091】
<ダイヤモンド>
トーメイダイヤ社製「CMM1-2」 平均粒径1μm
トーメイダイヤ社製「CMM4-8」 平均粒径4μm
トーメイダイヤ社製「CMM10-20」 平均粒径10μm
トーメイダイヤ社製「CMM40-60」 平均粒径40μm
【0092】
<母材樹脂>
・シリコーン樹脂 信越化学工業社製「KF96」、100cst
・エポキシ樹脂 ナガセケムテックス社製「EX-991L」
【0093】
<分散剤>
・シリコーン化合物:ポリオルガノシロキサン(X) (以下、wetterとも記載する)。以下の構造のシリコーン化合物である。
【化9】
n=10~15
・高分子系分散剤:リン酸エステル系 ビックケミー・ジャパン株式会社「DISPERBYK-145」
【0094】
[実施例1]
<被覆粒子の製造>
(第1の工程)
平均粒径10μmのダイヤモンド50gと、オキサゾリンポリマー50gとを溶媒(1-メトキシ-2-プロパノール)中で、100℃において3時間攪拌した。次いで、反応後の容器を静置し、上澄みを除去後、得られた反応残渣をメタノールにより洗浄し、未反応のオキサゾリンポリマーを除去して、第1の工程における反応物を得た。該第1の工程における反応物を赤外分光法により分析することで、ダイヤモンドとポリマー主鎖との間のアミド結合の生成を確認した。
(第2の工程)
上記第1の工程における反応物25gと、求核性の反応剤であるL-乳酸5gとを溶媒(2-n-ブトキシエタノール)中で、100℃において3時間攪拌した。次いで、反応後の容器を静置し上澄みを除去後、得られた反応残渣をメタノールにより洗浄し、未反応の求核性の反応剤を除去して、第2の工程における反応物(本発明の被覆粒子)を得た。該第2の工程における反応物を赤外分光法により分析することで、親水性官能基Xとポリマー主鎖との間のアミド結合の生成を確認した。
上記第1の工程及び第2の工程を行うことで、ポリマー主鎖と親水性官能基Xとの間、及び、前記ポリマー主鎖とダイヤモンドとの間に、それぞれアミド結合を有する本発明の被覆粒子を得た。
<樹脂組成物>
母材樹脂としてシリコーン樹脂、熱伝導性フィラー、及び分散剤(シリコーン化合物:weter)を混合して、樹脂組成物を調製した。熱伝導性フィラーとして、被覆粒子(平均粒径10μmのポリマー被覆ダイヤモンド粒子)の他、平均粒径1μmのダイヤモンド、平均粒子4μmのダイヤモンド、平均粒径40μmのダイヤモンドを用いた。
該樹脂組成物に対して、粘度と熱伝導率の評価を行った。
樹脂組成物の各成分の配合量の詳細は、以下のとおりである。
・シリコーン樹脂 25.5体積%
・平均粒径1μmのダイヤモンド 10.4体積%
・平均粒径4μmのダイヤモンド 19.3体積%
・平均粒径10μmのダイヤモンド(被覆粒子) 35.8体積%
・平均粒径40μmのダイヤモンド 4.5体積%
・分散剤(シリコーン化合物:weter) 4.5体積%
【0095】
[実施例2]
求核性の反応剤として、L-乳酸の代わりに4-ヒドロキシ安息香酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。樹脂組成物の各成分の配合量は実施例1と同様である。該樹脂組成物に対して、粘度と熱伝導率の評価を行った。
【0096】
[実施例3]
求核性の反応剤として、L-乳酸の代わりに2-メチル乳酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。樹脂組成物の各成分の配合量は実施例1と同様である。該樹脂組成物に対して、粘度と熱伝導率の評価を行った。
【0097】
[実施例4]
求核性の反応剤として、L-乳酸の代わりにヒドロキシ酪酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。樹脂組成物の各成分の配合量は実施例1と同様である。該樹脂組成物に対して、粘度と熱伝導率の評価を行った。
【0098】
[実施例5]
求核性の反応剤として、L-乳酸の代わりにグリシンを用いた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。樹脂組成物の各成分の配合量は実施例1と同様である。該樹脂組成物に対して、粘度と熱伝導率の評価を行った。
【0099】
[実施例6]
求核性の反応剤として、L-乳酸の代わりにシアノ酢酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。樹脂組成物の各成分の配合量は実施例1と同様である。該樹脂組成物に対して、粘度と熱伝導率の評価を行った。
【0100】
[実施例7]
実施例1に第1の工程において、平均粒径10μmのダイヤモンドの代わりに、平均粒径40μmのダイヤモンドを用いた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。該樹脂組成物に対して、粘度と熱伝導率の評価を行った。
樹脂組成物の各成分の配合量は、以下のとおりである。
・シリコーン樹脂 25.5体積%
・平均粒径1μmのダイヤモンド 10.4体積%
・平均粒径4μmのダイヤモンド 19.3体積%
・平均粒径10μmのダイヤモンド 35.8体積%
・平均粒径40μmのダイヤモンド(被覆粒子) 4.5体積%
・分散剤(シリコーン化合物:weter) 4.5体積%
【0101】
[実施例8]
実施例1に第1の工程において、平均粒径10μmのダイヤモンドの代わりに、平均粒径1μmのダイヤモンドを用いた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。該樹脂組成物に対して、粘度と熱伝導率の評価を行った。
樹脂組成物の各成分の配合量は、以下のとおりである。
・シリコーン樹脂 25.5体積%
・平均粒径1μmのダイヤモンド(被覆粒子) 10.4体積%
・平均粒径4μmのダイヤモンド 19.3体積%
・平均粒径10μmのダイヤモンド 35.8体積%
・平均粒径40μmのダイヤモンド 4.5体積%
・分散剤(シリコーン化合物:weter) 4.5体積%
【0102】
[実施例9]
実施例1において、母材樹脂としてシリコーン樹脂の代わりにエポキシ樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。該樹脂組成物に対して、粘度と熱伝導率の評価を行った。
樹脂組成物の各成分の配合量は、以下のとおりである。
・エポキシ樹脂 27.0体積%
・平均粒径1μmのダイヤモンド 10.4体積%
・平均粒径4μmのダイヤモンド 19.3体積%
・平均粒径10μmのダイヤモンド(被覆粒子) 35.8体積%
・平均粒径40μmのダイヤモンド 4.5体積%
・分散剤(シリコーン化合物:weter) 3.0体積%
【0103】
[比較例1]
実施例1において、第2の工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。すなわち、比較例1は、第1の工程における反応物を、実施例1の被覆粒子の代わりに用いた例である。樹脂組成物の各成分の配合量は実施例1と同様である。該樹脂組成物に対して、粘度と熱伝導率の評価を行った。
【0104】
[比較例2]
実施例1の第2の工程において、L-乳酸の代わりに酢酸を用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。樹脂組成物の各成分の配合量は実施例1と同様である。該樹脂組成物に対して、粘度と熱伝導率の評価を行った。
【0105】
[比較例3]
平均粒径10μmのダイヤモンド10gとポリビニルアルコール(PVA)10gとをTHF溶媒中70℃で2時間攪拌した後、フィルタリング濾過で溶媒を除き、100℃に熱した真空オーブンで12時間乾燥させ、PVAにより被覆されたダイヤモンドを得た。
次いで、該PVAにより被覆されたダイヤモンドを実施例1における被覆粒子の代わりに用いて、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。樹脂組成物の各成分の配合量は実施例1と同様である。該樹脂組成物に対して、粘度と熱伝導率の評価を行った。
【0106】
[比較例4]
平均粒径10μmのダイヤモンド10gとアミノシランカップリング剤(信越化学工業社製「KBM903」)10gとをTHF溶媒中70℃で2時間攪拌した後、フィルター濾過で溶媒を除き、100℃に熱した真空オーブンで12時間乾燥させ、シランカップリング剤により被覆されたダイヤモンドを得た。
次いで、該シランカップリング剤により被覆されたダイヤモンドを実施例1における被覆粒子の代わりに用いて、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。樹脂組成物の各成分の配合量は実施例1と同様である。該樹脂組成物に対して、粘度と熱伝導率の評価を行った。
【0107】
[比較例5]
平均粒径10μmのダイヤモンド10gとシランカップリング剤(デシルトリメトキシシラン:C10)10gとをTHF溶媒中70℃で2時間攪拌した後、フィルター濾過で溶媒を除き、100℃に熱した真空オーブンで12時間乾燥させ、シランカップリング剤により被覆されたダイヤモンドを得た。
次いで、該シランカップリング剤により被覆されたダイヤモンドを実施例1における被覆粒子の代わりに用いて、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。樹脂組成物の各成分の配合量は実施例1と同様である。該樹脂組成物に対して、粘度と熱伝導率の評価を行った。
【0108】
[比較例6]
平均粒径10μmのダイヤモンド10gとシランカップリング剤(オクタデシルトリメトキシシラン:C18)10gとをTHF溶媒中70℃で2時間攪拌した後、フィルター濾過で溶媒を除き、100℃に熱した真空オーブンで12時間乾燥させ、シランカップリング剤により被覆されたダイヤモンドを得た。
次いで、該シランカップリング剤により被覆されたダイヤモンドを実施例1における被覆粒子の代わりに用いて、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。樹脂組成物の各成分の配合量は実施例1と同様である。該樹脂組成物に対して、粘度と熱伝導率の評価を行った。
【0109】
[比較例7]
平均粒径10μmのダイヤモンド100gにイオン交換水を添加することにより全量を1Lとし、そのスラリー液に酒石酸ナトリウム濃度が8g/Lとなるように酒石酸ナトリウムを添加し、60℃に昇温させた。この混合液に、145g/L濃度の次亜リン酸ナトリウムと60g/L濃度の水酸化ナトリウムとを含む還元液120mLと、100g/L濃度の硫酸ニッケル水溶液120mLとを、それぞれ3mL/分の速度で滴下した。還元液と硫酸ニッケル水溶液との滴下終了後、ニッケルイオンの還元に伴って発生する水素の発泡が収まるまで攪拌を続けた。発泡が収まった後、ダイヤモンド粒子を濾別し、水で洗浄後、100℃の真空乾燥機中で乾燥し、ニッケル及びニッケル酸化物により被覆されたダイヤモンドを得た。
次いで、該ニッケル及びニッケル酸化物により被覆されたダイヤモンドを実施例1における被覆粒子の代わりに用いて、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。樹脂組成物の各成分の配合量は実施例1と同様である。該樹脂組成物に対して、粘度と熱伝導率の評価を行った。
【0110】
[比較例8]
平均粒径10μmのダイヤモンド100gにイオン交換水を添加し、全量を500mLとし、そのスラリーに96%濃度の硫酸を500mL滴下した。この混合液を100℃で12時間加熱しながら攪拌した。攪拌終了後、ダイヤモンド粒子を濾別し、水で洗浄後、100℃の真空乾燥機中で乾燥し、表面が強酸で処理されたダイヤモンドを得た。
次いで、該強酸で処理されたダイヤモンドを実施例1における被覆粒子の代わりに用いて、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。樹脂組成物の各成分の配合量は実施例1と同様である。該樹脂組成物に対して、粘度と熱伝導率の評価を行った。
【0111】
【0112】
【0113】
本発明の要件を満足する各実施例の被覆粒子(ダイヤモンド)は、樹脂と複合化した際に、粘度が低く、かつ熱伝導率が高くなることが分かった。すなわち、本発明の被覆粒子は、樹脂と複合し易い被覆粒子であった。
これに対して、本発明の要件を満足しない各比較例のダイヤモンドは、樹脂と複合化した際に、粘度が高くなるか、あるいは熱伝導率が低くなることが分かった。