(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001242
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】周波数シフター型光変調器及びレーザードップラー計測装置
(51)【国際特許分類】
G01S 17/50 20060101AFI20231226BHJP
G01S 7/481 20060101ALI20231226BHJP
G02B 26/06 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G01S17/50
G01S7/481 A
G02B26/06
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023181393
(22)【出願日】2023-10-20
(62)【分割の表示】P 2019064313の分割
【原出願日】2019-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095452
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 博樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕平
(57)【要約】
【課題】小型化、高精度化及び高周波化を実現しやすい周波数シフター型光変調器及びレーザードップラー計測装置を提供すること。
【解決手段】周波数シフター型の光変調器12は、振動子30と、振動子30の変位方向に並設された複数の溝を32含む回折格子34と、を備え、回折格子34が振動子30に設けられている。回折格子34を振動子30に設けたことで、周波数シフター型の光変調器12の小型化及び高精度化の実現を進め易くなる。また、MHz帯の高周波領域への対応、即ち高周波化の実現も進め易くなる。振動子30と回折格子34の組み合わせに基づく効果を効率的に得ることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子と、
前記振動子の変位方向に並設された複数の溝を含む回折格子と、を備え、
前記回折格子が前記振動子に設けられており、
前記回折格子の複数の前記溝は、前記溝の延びる方向が前記振動子の変位方向である振動の方向に対して交差する、
ことを特徴とする周波数シフター型の光変調器。
【請求項2】
請求項1に記載の周波数シフター型の光変調器において、
前記回折格子はブレーズド回折格子である、
ことを特徴とする周波数シフター型の光変調器。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか一項に記載の周波数シフター型の光変調器において、
前記振動子は、MHz帯の高周波領域で厚みすべり振動する水晶AT振動子である、
ことを特徴とする周波数シフター型の変調器。
【請求項4】
所定波長のレーザ光を出力する光源部と、偏光ビームスプリッタと、複数のλ/4板と、検光子と、光を電気信号に変換する受光素子と、請求項1から3のいずれか一項に記載された周波数シフター型の光変調器と、被測定物のセット部と、を備え、
前記光源部から出力される光の光軸上に、前記偏光ビームスプリッタと前記λ/4板と前記セット部とが配置され、
前記偏光ビームスプリッタで反射される光の光軸上に、前記λ/4板と前記周波数シフター型の光変調器とが配置され、
前記偏光ビームスプリッタと前記受光素子の間に検光子が配置され、
前記被測定物から反射されたドップラーシフト光と前記周波数シフター型の光変調器で反射された周波数シフト光とが前記各λ/4板と前記偏光ビームスプリッタと検光子を通って前記受光素子に導かれる、
ことを特徴とするレーザードップラー計測装置。
【請求項5】
請求項4に記載のレーザードップラー計測装置において、
前記周波数シフト光が、±1次回折光である、
ことを特徴とするレーザードップラー計測装置。
【請求項6】
請求項4に記載のレーザードップラー計測装置において、
前記周波数シフト光が、±2次以上のいずれかの回折光である、
ことを特徴とするレーザードップラー計測装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のレーザードップラー計測装置において、
前記周波数シフター型の光変調器は、前記周波数シフター型の光変調器への前記レーザ光の進入方向と前記周波数シフター型の光変調器から反射される前記周波数シフト光の進行方向との成す角度が180度となるように配置されている、
ことを特徴とするレーザードップラー計測装置。
【請求項8】
請求項1に記載の周波数シフター型の変調器において、
前記振動子は、電極を有し、
前記回折格子は、前記電極上に配置される、
ことを特徴とする周波数シフター型の変調器。
【請求項9】
請求項8に記載の周波数シフター型の変調器において、
前記振動子は、前記電極により電位差を加えることにより発振する、
ことを特徴とする周波数シフター型の変調器。
【請求項10】
請求項4に記載のレーザードップラー計測装置において、
前記振動子は、電極を有し、
前記回折格子は、前記電極上に配置される、
ことを特徴とするレーザードップラー計測装置。
【請求項11】
請求項10に記載のレーザードップラー計測装置において、
前記振動子は、前記電極により電位差を加えることにより発振する、
ことを特徴とするレーザードップラー計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動いている物の動きの状態を把握するために用いられる周波数シフター型光変調器及びレーザードップラー計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の周波数シフター型光変調器及びレーザードップラー計測装置の従来技術文献として特開2007-285898号公報がある。この文献には、ヘテロダイン干渉を利用して周波数のシフト量を得ることが記載されている。
具体的には、明細書の段落0028に、「振動素子は、例えば電圧、磁気等を与えると変形する性質を持ち、電圧を変えることで振動周波数が可変となるピエゾ素子を使用することが望ましい。また、振動周波数は、波形の立ち上がりが直線性を示す三角波やのこぎり波でなければならない。のこぎり波印加電圧の立ち上がり時、あるいは、三角波印加電圧立ち上がり及び立下り時にレーザ光が入射されることによる光ドップラシフトを利用する。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般的に水晶振動子やSi振動子などの振動素子は、発振のシャープさを示す値であるQ値が極めて高い単振動駆動を利用しており、そこに記載された駆動方法は精度が出ず現実的ではないという問題がある。また、MHz帯の高周波振動への対応すなわち高周波化の実現については、記載も示唆も全くない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明は、電位を加えることにより面に沿う方向に結晶が歪んで振動するモードを繰り返す板形状の振動子と、前記振動子の表面に設けられ、直線状の複数の溝が周期的に並んで成る回折格子と、を備える、ことを特徴とする周波数シフター型の光変調器である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の実施形態係るレーザードップラー計測装置の概略構成図。
【
図2】同実施形態に係る周波数シフター型の光変調器の概略斜視図。
【
図3】同実施形態の同光変調器における入射光から複数の回折光が発生することを説明する図。
【
図4】同実施形態の同光変調器における入射光と回折光の光路を説明する図。
【
図5】同実施形態に係る光源部、周波数シフター型の光変調器、受光素子を一つの基盤上に実装させた概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
最初に、本発明について概略的に説明する。
上記課題を解決するための本発明の第1の態様の周波数シフター型の光変調器は、振動子と、前記振動子の変位方向に並設された複数の溝を含む回折格子と、を備え、前記回折格子が前記振動子に設けられている、ことを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、前記回折格子を前記振動子に設けたことで、当該周波数シフター型の光変調器の小型化及び高精度化の実現を進め易くなる。また、MHz帯の高周波領域への対応、即ち高周波化の実現も進め易くなる。
また、周波数変調を得る場合、格子ベクトル方向に振動させると回折光はより大きな変調周波数を得ることができる。
本態様によれば、複数の前記溝は、前記溝の延びる方向が前記振動の方向に対して交差するので、前記振動子と前記回折格子の組み合わせに基づく効果を効率的に得ることができ、以って当該周波数シフター型の光変調器の高周波化を容易に実現することができる。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様の周波数シフター型の光変調器において、前記回折格子はブレーズド回折格子である、ことを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、前記回折格子はブレーズド回折格子であるので、光利用効率を高めることができ、以って当該周波数シフター型の光変調器の小型化及び高SNを容易に実現することができる。
【0011】
本発明に係る第3の態様は、第1の態様又は第2の態様の周波数シフター型の光変調器において、前記振動子は、MHz帯の高周波領域で厚みすべり振動する水晶AT振動子である、ことを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、前記振動子は、MHz帯の高周波領域で厚みすべり振動する水晶AT振動子であるので、当該周波数シフター型の光変調器の小型化、高精度化、更に高周波化を容易に実現できる。
【0013】
本発明の第4の態様のレーザードップラー計測装置は、所定波長のレーザ光を出力する光源部と、偏光ビームスプリッタと、複数のλ/4板と、検光子と、光を電気信号に変換する受光素子と、第1の態様から第3の態様のいずれか一つの態様に記載された周波数シフター型の光変調器と、被測定物のセット部と、を備え、前記光源部から出力されるレーザ光の光軸上に、前記偏光ビームスプリッタと前記λ/4板と前記セット部とが配置され、前記偏光ビームスプリッタで反射されるレーザ光の光軸上に、前記λ/4板と前記周波数シフター型の光変調器とが配置され、前記偏向ビームスプリッタと前記受光素子の間に検光子が配置され、前記被測定物から反射されたドップラーシフト光と前記周波数シフター型の光変調器で反射された周波数シフト光とが前記各λ/4板と前記偏光ビームスプリッタと検光子を通って前記受光素子に導かれる、ことを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、レーザードップラー計測装置として、第1の態様から第3の態様のいずれか一つの態様に記載された周波数シフター型の光変調器を備えるので、当該レーザードップラー計測装置の小型化、高精度化、更に高周波化を容易に実現できる。
【0015】
本発明に係る第5の態様は、第4の態様のレーザードップラー計測装置において、前記周波数シフト光が、±1次回折光である、ことを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、前記周波数シフター型の光変調器は、±1次回折光が前記周波数シフト光として利用されるように配置されているので、当該計測装置の小型化と高安定性を実現することができる。
【0017】
本発明に係る第6の態様は、第4の態様のレーザードップラー計測装置において、前記周波数シフト光が、±2次以上のいずれかの回折光である、ことを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、前記周波数シフター型の光変調器は、±2次以上のいずれかの回折光が前記周波数シフト光として利用されるように配置されているので、当該計測装置の小型化と高周波化を実現することができる。
【0019】
本発明に係る第7の態様は、第5の態様又は第6の態様のレーザードップラー計測装置において、前記周波数シフター型の光変調器は、前記周波数シフター型の光変調器への前記レーザー光の進入方向と前記周波数シフター型の光変調器から反射される前記周波数シフト光の進行方向との成す角度が180度となるように配置されている、ことを特徴とする。
ここで、「前記周波数シフター型の光変調器への前記レーザー光の進入方向と前記周波数シフター型の光変調器から反射される前記周波数シフト光の進行方向との成す角度が180度となるように配置」における「角度が180度」は、ミラーによる反射を利用して行う場合と、ミラーを用いないで前記回折格子の作る面を傾斜させて設置することで行う場合が挙げられる。
【0020】
本態様によれば、ミラーを用いて前記「角度が180度」を行う場合は、変調光はドップラーシフトを2回受けることになり、一層の高周波変調を実現することができる。また、ミラーを用いないで前記「角度が180度」を行う場合は、ミラーが不要になるので、一層の小型化を実現することができる。
【0021】
続いて、本発明の実施形態に係る周波数シフター型の光変調器及びレーザードップラー計測装置について、
図1から
図5を参照しつつ説明する。各図において、同一部分には同一符号を付し、各図毎の個別の説明は省略する。
【0022】
[実施形態]
<レーザードップラー計測装置>
図1に基づいて、本発明の実施形態に係るレーザードップラー計測装置1の構成を説明する。
本実施形態に係るレーザードップラー計測装置1は、所定波長のレーザー光を出力する光源部2と、偏光ビームスプリッタ4と、2つのλ/4板6、8と、検光子9と光を電気信号に変換する受光素子10と、周波数シフター型の光変調器12と、被測定物14のセット部16と、を備えている。光源部2から出力される光の光軸18上に、偏光ビームスプリッタ4と一つのλ/4板6とセット部16とがこの順番で配置されている。一方、偏光ビームスプリッタ4で反射される光の光軸20上に、λ/4板8と周波数シフター型の光変調器12とがこの順番で配置されている。前記偏光ビームスプリッタ4と前記受光素子10の間に検光子9が配置されている。
そして、被測定物14から反射されたドップラーシフト光22と周波数シフター型の光変調器12で反射された周波数シフト光24とが各λ/4板6、8と偏光ビームスプリッタ4と検光子9を通って受光素子10に導かれるように構成されている。
また偏光ビームスプリッターを無偏光ビームスプリッターとして使用してもよい。この場合、λ/4は不要となり部品点数が減ってより小型化することができる。尚、干渉の安定性は劣化する場合は、それを踏まえて設計することが好ましい。
【0023】
<光源部>
光源部2は、可干渉性が必要なので線幅の細い、MHz帯のレーザー光源が使われる。具体的には、HeNeレーザーに代表されるガスレーザーや、小型化がし易い半導体レーザーであるDFB-LDやVCSELが挙げられる。
<偏光ビームスプリッタ>
偏光ビームスプリッタ4は、本実施形態では、P偏向透過及びS偏向反射で構成されている。光源部2から出たレーザー光はP偏向とS偏向が50%の割合で光軸18上に在る偏光ビームスプリッタ4の中心に入射する。P偏向は偏光ビームスプリッタ4を透過して光軸18上のλ/4板6に向かう。一方、S偏向は偏光ビームスプリッタ4で反射されて光軸20上のλ/4板8に向かう。
<λ/4板>
P偏向はλ/4板6を通過して円偏向に変換され、動いている被測定物14に照射される。その動いている被測定物14に照射されたレーザー光はfd(Hz)だけドップラーシフトされたドップラーシフト光22となって反射され、再びλ/4板6を通過してS偏向になる。
一方、偏光ビームスプリッタ4で反射されて光軸20上のλ/4板8に向かったS偏向は、λ/4板8を通過して円偏向に変換され、周波数シフター型の光変調器12に入射する。光変調器12に入射したレーザー光は周波数シフトfmを受けた周波数シフト光24となって反射され、再びλ/4板8を通過してP偏向になる。
<検光子>
直交した偏光は互いに独立した状態なので、単純に重ね合わせしただけでは干渉が現れない。そこで合成した光波を両偏光に対して45度に傾けた検光子9に通過させた後、この光を受光素子10で検出する。そうすることで、互いに共通した成分同士の状態となり、干渉現象を発生させることができる。
<受光素子>
動いている被測定物14によってドップラーシフトされたドップラーシフト光22と、周波数シフター型の光変調器12によって周波数シフトを受けた周波数シフト光24は、偏光ビームスプリッタ4と検光子9を介して受光素子10に導かれる。受光素子10で、ドップラーシフト光22と、周波数シフト光24が干渉(光ヘテロダイン干渉)し、fm-fdの周波数を持つ光が生成される。このfm-fdの周波数を持つ光に基づいて、被測定物14の動き、即ち速度や振動を求めることができる。受光素子10はフォトダイオード等が使える。
【0024】
<周波数シフター型の光変調器>
図2に基づいて、本発明の実施形態に係る周波数シフター型の光変調器12の構成を説明する。
周波数シフター型の光変調器12は、電位を加えることにより面に沿う方向に結晶が歪んで振動するモードを繰り返す板形状の振動子30と、振動子30の表面に設けられ、直線状の複数の溝32が周期的に並んで成る回折格子34とを備える。
図2において、符号31は振動子が取り付けられる基板であり、基板31にはパッド33が設けられ、更にパッド35が基板31の裏面に設けられている。
本実施形態では、基板31の寸法及び形状は、1辺が1.6mmの正方形で厚みは0.35mmである。振動子30は1辺が1mmの正方形で厚みは0.07mmであり、24MHzで発振する。なお、ここでは基本発振周波数24MHzの振動子の例を示したが、振動子の厚みを変えることで基本発振周波数は1MHzから300MHzまで調整することができる。回折格子34は、ピッチが1μm、ブレーズド角は25度であり、振動子30の表面の全面に設けられている。尚、回折格子34は振動子30の表面の全面ではなく一部にだけ設けてもよい。
【0025】
本実施形態では、振動子30は、MHz帯の高周波領域で厚みすべり振動する水晶AT振動子である。そして、回折格子34は、ブレーズド回折格子である。ブレーズド回折格子は回折格子の断面形状が階段状になっているものをいう。
図2に表したように、回折格子34の直線状の溝32は、前記直線の方向が振動子30の振動の方向36に対して直交する向きに設けられている。
【0026】
<回折格子の形成方法>
回折格子34の形成方法としては、機械刻線式(ルーリングエンジン)を用いた方法で先ず型を作り、ナノインプリントで水晶AT振動子のチップの電極上に形成する方法が挙げられる。ここでは電極上としたのは、AT振動子の場合は原理上電極上で高品質な厚みすべり振動を発生させることができるためである。電極上に限定されず、非電極部の材料の表面上に形成することもできる。また、静電駆動型Si振動子やSAWデバイスなどは、非電極部の材料の表面上でも高品質な面内振動を発生させることも可能なため、適宜形成場所を選択することが可能である。また、露光とエッチングによる方法、電子線描画リソグラフィーや集束イオンビーム加工(FIB)などで形成することもできる。
また、前記水晶AT振動子のチップ上に形成されたレジスト回折格子に、金属膜や誘電体多層膜によるミラー膜を設けてもよい。金属膜やミラー膜が設けられた回折格子34は反射率が上がるからである。
前記レジスト回折格子が設けられた前記チップ又はウエハーをドライエッチングにより加工し、前記レジストを除去した後、前記ミラー膜を設けてもよい。これによりレジストによる吸湿などの影響がなくなるため、回折格子34の安定性を増すことができる。また、ミラー膜をAuやAlなどの金属にすることで、振動子の発振電極の役割も果たすことができる。或いは、陽極酸化アルミナ(ポーラスアルミナ)のような構造でもよい。
【0027】
<厚みすべり振動素子を用いた場合の変調周波数fm>
変調光はドップラーシフトを受けて周波数が変調する。
図3に表したように、レーザードップラーの原理に従って、周波数シフター型の光変調器12の回折格子30へ入射した入射光Kiから複数の回折光Knsが発生する。ここで、nは回折光の次数であり、n=0、±1、±2、…である。
尚、
図3では、回折格子34は、
図2のブレーズド回折格子ではなく、凹凸の繰り返しによる回折格子が示されている。実際の製造においては、回折光の次数nを適宜選択して使うことができる。
図3は、入射光Kiが振動子30の面に垂直な方向から入射した場合を示したが、この垂直な入射角に限定されず、斜めに入射してもよい、即ち入射角は適宜設定してよい。斜め入射にした場合は、回折光の方向も対応して変わる。
【0028】
回折格子の設計において、│n│≧2の高次の光は出現しないことがある。そこで、安定して変調信号を得るために、│n│=1に設定するのが望ましい。即ち、
図1のレーザードップラー計測装置1において、周波数シフター型の光変調器12は、±1次回折光が周波数シフト光24として利用されるように配置されることが好ましい。
この配置により、レーザードップラー計測装置1の小型化と高安定性を実現することができる。
【0029】
また、回折格子34が│n│≧2の高次の光を出現している場合には、周波数シフター型の光変調器12は、
図1のレーザードップラー計測装置1において、±2次以上のいずれかの回折光が周波数シフト光24として利用されるように配置してもよい。
これにより、高次の回折光が利用できるので、レーザードップラー計測装置1の高周波化と小型化を実現することができる。
【0030】
本実施形態では、周波数シフター型の光変調器12は、周波数シフター型の光変調器12への前記レーザー光の進入方向と周波数シフター型の光変調器12から反射される周波数シフト光24の進行方向との成す角度が180度となるように配置されている。
図4の上に位置する図は、前記180度を実現するために、ミラー37を利用した場合である。
図4の中央に位置する図は、前記180度を実現するために、振動子30を傾斜させて設置することで対応した場合である。
図4の下に位置する図は、回折格子34はブレーズド回折格子であり、前記180度を実現するために、ブレーズド角θ
Bを利用した場合である。ブレーズド角θ
Bと入射光Kiの入射角βの組み合わせで、前記180度を実現している。
【0031】
これにより、ミラー37を用いて前記「角度が180度」を実現する場合は、変調光はドップラーシフトを2回受けることになり、一層の高周波変調を実現することができる。
また、ミラーを用いないで振動子30を傾斜させて前記「角度が180度」を実現する場合は、ミラーが不要になるので、一層の小型化を実現することができる。
回折格子34がブレーズド回折格子である場合は、ブレーズド角θBと入射光Kiの入射角βの組み合わせで、前記180度を実現するので、小型化及び高周波化を一層実現することができる。
【0032】
<レーザードップラー計測装置の実装構造>
図5は、光源部2、周波数シフター型の光変調器12、受光素子10を一つの基盤39上に実装させた概略構成図である。この
図5では光源部2が中央、周波数シフター型の光変調器12が下位、受光素子10が上位の各位置で基盤39上に実装されているが、この配置に限定されないことは勿論である。
光源部2、周波数シフター型の光変調器12、受光素子10を基盤39上に実装させたことで、光軸20上にプリズム40、42が設けられている。更に光源部2と偏光ビームスプリッタ4との間に凸レンズ44が配置され、光源部2から出た光を有効に利用するように構成されている。
図5に実装構造では、受光素子10は0.1mm角サイズのフォトダイオード、光源部2は10μm角サイズのVCSEL光源、周波数シフター型の光変調器12は1mm角サイズである。このように数mm角サイズまでモジュールを小型化することができる。
【0033】
<実施形態の効果の説明>
本実施形態によれば、回折格子34を振動子30に設けたことで、周波数シフター型の光変調器12の小型化及び高精度化の実現を進めることができる。また、MHz帯の高周波領域への対応、即ち高周波化の実現も進めることができる。
【0034】
また、回折格子34の直線状の溝32は、前記直線の方向が振動子30の振動の方向36に対して交差する構成にすることで、振動子30と回折格子34の組み合わせに基づく効果を効率的に得ることができ、以って周波数シフター型の光変調器12の高周波化を容易に実現することができる。
また、本実施形態では、回折格子34はブレーズド回折格子であるので、光利用効率を高めることができ、以って周波数シフター型の光変調器12の小型化及び高SNを容易に実現することができる。
また、本実施形態では、振動子30は、MHz帯の高周波領域で厚みすべり振動する水晶AT振動子である。これにより、周波数シフター型の光変調器12の小型化、高精度化、更に高周波化を容易に実現できる。
【0035】
また、本実施形態のレーザードップラー計測装置は、本実施形態に係る周波数シフター型の光変調器12を備えるので、当該レーザードップラー計測装置1の小型化、高精度化、更に高周波化を容易に実現できる。
【0036】
[他の実施形態]
本発明に係る周波数シフター型光変調器及びレーザードップラー計測装置は、以上述べたような構成を有することを基本とするものであるが、本願発明の要旨を逸脱しない範囲内での部分的構成の変更や省略等を行うことも勿論可能である。
【0037】
上記実施形態において、回折格子34は、水晶AT振動子を用いた場合を説明したが、厚みすべり振動を始め面内振動をする素子であれば適宜使用することができる。例えば、厚みすべり振動素子以外では、静電駆動型のSi―MEMS振動子、ピエゾ等の圧電素子を利用した振動子が挙げられる。また、表面弾性波(SAWデバイス)の振動子も使用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1…レーザードップラー計測装置、2…光源部、4…偏光ビームスプリッタ、
6…λ/4板、8…λ/4板、9…検光子、10…受光素子、
12…周波数シフター型の光変調器、14…被測定物、16…セット部、
18…光軸、20…光軸、22…ドップラーシフト光、24…周波数シフト光、
30…振動子、31…基板、32…溝、33…パッド、34…回折格子、
35…パッド、36…振動子の振動方向、37…ミラー、39…基盤、
40…プリズム、42…プリズム、44…凸レンズ、
θB…ブレーズド角、Ki…入射光
【手続補正書】
【提出日】2023-11-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の第1面に設けられる第1電極と、
前記基板の前記第1面とは反対側の第2面に設けられる第2電極と、
前記第1面に設けられ、前記第1電極に接続される第1パッドと、
前記第2面に設けられ、前記第2電極に接続される第2パッドと、
前記第1電極上に配置される回折格子と、を備え、
前記第1面と直交する方向からの平面視において、前記第1電極と前記第2電極は、前記基板を挟んで重なるように配置され、
前記第1面と直交する方向からの平面視において、前記第1パッドと前記第2パッドは、前記基板を挟んで重ならないように配置される、
ことを特徴とする周波数シフター型の光変調器。
【請求項2】
請求項1に記載の周波数シフター型の光変調器において、
前記回折格子は、並設された複数の溝を有し、
前記第1面と直交する方向からの平面視において、前記第1電極と前記第2電極が重なる部分を振動子とするとき、前記複数の溝の延伸方向は、前記振動子の変位方向と交差する、
ことを特徴とする周波数シフター型の光変調器。
【請求項3】
請求項1に記載の周波数シフター型の光変調器において、
前記第1パッドは、前記第1面において、前記第1電極の周囲に配置され、
前記第2パッドは、前記第2面において、前記第2電極の周囲に配置される、
ことを特徴とする周波数シフター型の光変調器。
【請求項4】
請求項1に記載の周波数シフター型の光変調器において、
前記回折格子はブレーズド回折格子である、
ことを特徴とする周波数シフター型の光変調器。
【請求項5】
請求項2に記載の周波数シフター型の光変調器において、
前記振動子は、水晶振動子である、
ことを特徴とする周波数シフター型の変調器。
【請求項6】
所定波長のレーザ光を出力する光源部と、偏光ビームスプリッタと、複数のλ/4板と、検光子と、光を電気信号に変換する受光素子と、請求項1から5のいずれか一項に記載された周波数シフター型の光変調器と、被測定物のセット部と、を備え、
前記光源部から出力される光の光軸上に、前記偏光ビームスプリッタと前記λ/4板と前記セット部が配置され、
前記偏光ビームスプリッタで反射される光の光軸上に、前記λ/4板と前記周波数シフター型の光変調器と配置され、
前記偏光ビームスプリッタと前記受光素子の間に検光子が配置され、
前記被測定物から反射されたドップラーシフト光と前記周波数シフター型の光変調器で反射された周波数シフト光が前記各λ/4板と前記偏光ビームスプリッタと検光子を通って前記受光素子に導かれる、
ことを特徴とするレーザードップラー計測装置。
【請求項7】
請求項6に記載のレーザードップラー計測装置において、
前記周波数シフト光が、±1次回折光である、
ことを特徴とするレーザードップラー計測装置。
【請求項8】
請求項6に記載のレーザードップラー計測装置において、
前記周波数シフト光が、±2次以上のいずれかの回折光である、
ことを特徴とするレーザードップラー計測装置。
【請求項9】
請求項6に記載のレーザードップラー計測装置において、
前記周波数シフター型の光変調器は、前記周波数シフター型の光変調器への前記レーザ光の進入方向と前記周波数シフター型の光変調器から反射される前記周波数シフト光の進行方向との成す角度が180度となるように配置されている、
ことを特徴とするレーザードップラー計測装置。