(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124242
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】電気化学セルスタックの設計装置、設計システム、設計方法および設計プログラム
(51)【国際特許分類】
C25B 15/00 20060101AFI20240905BHJP
H01M 8/008 20160101ALI20240905BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240905BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20240905BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240905BHJP
C25B 15/02 20210101ALI20240905BHJP
C25B 15/023 20210101ALI20240905BHJP
C25B 9/70 20210101ALI20240905BHJP
【FI】
C25B15/00 302Z
H01M8/008
C25B1/04
C25B1/23
C25B9/23
C25B15/02
C25B15/023
C25B9/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032253
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】水口 浩司
(72)【発明者】
【氏名】村松 武彦
(72)【発明者】
【氏名】尾平 弘道
(72)【発明者】
【氏名】大田 裕之
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021AB25
4K021BA02
4K021EA09
5H126BB06
5H126DD02
5H126DD05
5H126EE03
5H126EE06
5H126EE11
5H126EE22
5H126EE23
5H126EE24
5H126JJ00
(57)【要約】
【課題】使用済みのセルを再利用して低コスト化を図ることができる電気化学セルスタックの設計装置を提供する。
【解決手段】
実施の形態による電気化学セルスタックの設計装置は、使用済みのセルのセル劣化度を識別情報とともに取得する劣化度取得部と、仕様寿命を取得する仕様取得部と、仕様セル枚数とセル劣化度とに基づいて、電気化学セルスタックの寿命が仕様寿命を満足するように電気化学セルスタックに用いる使用済みのセルを選定するとともに電気化学セルスタックの寿命を算出する選定算出部と、を備えている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みのセルを含む複数のセルが積層された電気化学セルスタックの設計装置であって、
識別情報が割り当てられた使用済みのセルのセル劣化度を前記識別情報とともに取得する劣化度取得部と、
前記電気化学セルスタックの仕様寿命を取得する仕様取得部と、
前記電気化学セルスタックの仕様セル枚数と前記セル劣化度とに基づいて、前記電気化学セルスタックの寿命が前記仕様寿命を満足するように前記電気化学セルスタックに用いる前記使用済みのセルを選定するとともに、選定された前記使用済みのセルの前記セル劣化度に基づいて、前記電気化学セルスタックの寿命を算出する選定算出部と、
を備えた、電気化学セルスタックの設計装置。
【請求項2】
前記選定算出部において複数の前記使用済みのセルが選定された場合に、前記使用済みのセルの積層位置を決定する位置決定部を更に備えた、
請求項1に記載の電気化学セルスタックの設計装置。
【請求項3】
前記選定算出部において選定された複数の前記使用済みのセルは、第1の使用済みのセルと、前記第1の使用済みのセルの前記セル劣化度よりも高い前記セル劣化度を有する第2の使用済みのセルと、を含み、
前記位置決定部は、前記第2の使用済みのセルを前記第1の使用済みのセルよりも前記電気化学セルスタックの積層方向における中央側に配置する、
請求項2に記載の電気化学セルスタックの設計装置。
【請求項4】
前記選定算出部において選定された前記使用済みのセルの前記セル劣化度に基づいて、前記電気化学セルスタックの価格を算出する価格算出部を更に備えた、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電気化学セルスタックの設計装置。
【請求項5】
前記使用済みのセルに、前記セル劣化度に基づいて劣化度ランクが割り当てられ、
前記選定算出部は、前記劣化度ランクが有する前記セル劣化度の範囲における最大値を前記セル劣化度とみなす、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電気化学セルスタックの設計装置。
【請求項6】
前記選定算出部は、前記セル劣化度が所定値よりも高い前記使用済みのセルを選定対象から除外する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電気化学セルスタックの設計装置。
【請求項7】
前記選定算出部は、前記使用済みのセルだけでなく、新品のセルも選定可能である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電気化学セルスタックの設計装置。
【請求項8】
前記仕様取得部は、前記電気化学セルスタックの仕様セル枚数を取得し、
前記選定算出部は、前記仕様取得部により取得された前記仕様セル枚数に基づいて、前記使用済みのセルを選定する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電気化学セルスタックの設計装置。
【請求項9】
前記仕様寿命に基づいて、前記電気化学セルスタックの仕様スタック劣化度を算出する仕様算出部を更に備え、
前記選定算出部は、前記仕様算出部により算出された前記仕様スタック劣化度に基づいて、前記使用済みのセルを選定する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電気化学セルスタックの設計装置。
【請求項10】
前記選定算出部により選定された前記使用済みのセルの前記識別情報と、前記寿命とを含む表示情報を作成する表示情報作成部を更に備えた、
請求項9に記載の電気化学セルスタックの設計装置。
【請求項11】
複数の使用済みのセルのセル劣化度を前記識別情報と関連付けて格納するデータベースと、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電気化学セルスタックの設計装置と、を備えた、
電気化学セルスタックの設計システム。
【請求項12】
使用済みのセルを含む複数のセルが積層された電気化学セルスタックの設計方法であって、
識別情報が割り当てられた使用済みのセルのセル劣化度を前記識別情報とともに取得するステップと、
前記電気化学セルスタックの仕様寿命を取得するステップと、
前記電気化学セルスタックの仕様セル枚数と前記セル劣化度とに基づいて、前記電気化学セルスタックの寿命が前記仕様寿命を満たすように前記電気化学セルスタックに用いる前記使用済みのセルを選定するとともに、選定された前記使用済みのセルの前記セル劣化度に基づいて、前記電気化学セルスタックの寿命を算出するステップと、
を備えた、電気化学セルスタックの設計方法。
【請求項13】
使用済みのセルを含む複数のセルが積層された電気化学セルスタックの設計方法をコンピュータに実行させる電気化学セルスタックの設計プログラムであって、
前記設計方法は、
識別情報が割り当てられた使用済みのセルのセル劣化度を前記識別情報とともに取得するステップと、
前記電気化学セルスタックの仕様寿命を取得するステップと、
前記電気化学セルスタックの仕様セル枚数と前記セル劣化度とに基づいて、前記電気化学セルスタックの寿命が前記仕様寿命を満たすように前記電気化学セルスタックに用いる前記使用済みのセルを選定するとともに、選定された前記使用済みのセルの前記セル劣化度に基づいて、前記電気化学セルスタックの寿命を算出するステップと、
を備えた、電気化学セルスタックの設計プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施の形態は、電気化学セルスタックの設計装置、設計システム、設計方法および設計プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、水電解装置および二酸化炭素電解装置等を構成する電気化学セルスタックは、複数のセルを積層することによって構成されている。セルを構成する膜電極接合体は、アノード電極と、カソード電極と、アノード電極とカソード電極との間に介在された電解質膜と、を含んでいる。電気化学セルスタックの使用を継続すると、アノード電極およびカソード電極に含まれる触媒材料が劣化したり、電解質膜が劣化したりする。この場合、電気化学セルスタックの性能が低下し得る。ある程度の性能低下が認められると、使用済みの電気化学セルスタックは廃棄され、新品の電気化学セルスタックに交換される。
【0003】
使用済みの電気化学セルスタックには、セル劣化度の低いセルが含まれる場合がある。一方、新品のセルだけで構成された新品の電気化学セルスタックには、コストがかかるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-069948号公報
【特許文献2】特開2019-160701号公報
【特許文献3】特開2022-137607号公報
【特許文献4】特開2021-046575号公報
【特許文献5】特開2012-214904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実施の形態は、使用済みのセルを再利用して低コスト化を図ることができる電気化学セルスタックの設計装置、設計システム、設計方法および設計プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施の形態による電気化学セルスタックの設計装置は、使用済みのセルを含む複数のセルが積層された電気化学セルスタックの設計装置である。電気化学セルスタックの設計装置は、識別情報が割り当てられた使用済みのセルのセル劣化度を前記識別情報とともに取得する劣化度取得部と、電気化学セルスタックの仕様寿命を取得する仕様取得部と、電気化学セルスタックの仕様セル枚数とセル劣化度とに基づいて、電気化学セルスタックの寿命が仕様寿命を満足するように電気化学セルスタックに用いる使用済みのセルを選定するとともに、選定された使用済みのセルのセル劣化度に基づいて、電気化学セルスタックの寿命を算出する選定算出部と、を備えている。
【0007】
実施の形態による電気化学セルスタックの設計システムは、複数の使用済みのセルのセル劣化度を識別情報と関連付けて格納するデータベースと、上述の電気化学セルスタックの設計装置と、を備えている。
【0008】
実施の形態による電気化学セルスタックの設計方法は、使用済みのセルを含む複数のセルが積層された電気化学セルスタックの設計方法である。電気化学セルスタックの設計方法は、識別情報が割り当てられた使用済みのセルのセル劣化度を識別情報とともに取得するステップと、電気化学セルスタックの仕様寿命を取得するステップと、電気化学セルスタックの仕様セル枚数とセル劣化度とに基づいて、電気化学セルスタックの寿命が仕様寿命を満たすように電気化学セルスタックに用いる使用済みのセルを選定するとともに、選定された使用済みのセルのセル劣化度に基づいて、電気化学セルスタックの寿命を算出するステップと、を備えている。
【0009】
実施の形態による電気化学セルスタックの設計プログラムは、使用済みのセルを含む複数のセルが積層された電気化学セルスタックの設計方法をコンピュータに実行させる電気化学セルスタックの設計プログラムである。設計方法は、識別情報が割り当てられた使用済みのセルのセル劣化度を識別情報とともに取得するステップと、電気化学セルスタックの仕様寿命を取得するステップと、電気化学セルスタックの仕様セル枚数とセル劣化度とに基づいて、電気化学セルスタックの寿命が仕様寿命を満たすように電気化学セルスタックに用いる使用済みのセルを選定するとともに、選定された使用済みのセルのセル劣化度に基づいて、電気化学セルスタックの寿命を算出するステップと、を備えている。
【発明の効果】
【0010】
実施の形態によれば、使用済みのセルを再利用して低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施の形態による電気化学セルスタックの概略構成を示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す電気化学セルスタックのシステム概略構成を示す図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す電気化学セルスタックの商取引を説明するための図である。
【
図5】
図5は、本実施の形態による電気化学セルスタックの設計システムを示す図である。
【
図6】
図6は、
図5に示す第1データベースに格納される情報を説明するための模式図である。
【
図7】
図7は、
図5に示す第2データベースに格納される情報を説明するための模式図である。
【
図8】
図8は、
図5に示すランク割当部によるランクの割り当ての一例を示す図である。
【
図9】
図9は、
図5に示す設計装置の処理の一例を示す模式図である。
【
図10】
図10は、
図5に示す価格算出部が用いるセル劣化度と価格低下率との関係の一例を示す表である。
【
図12】
図12は、セルの電圧電流特性を示す特性データを得るための測定方法を説明するための図である。
【
図15】
図15は、本実施の形態による電気化学セルスタックの設計方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本実施の形態による電気化学セルスタックの設計装置、設計システム、設計方法および設計プログラムについて説明する。ここではまず、本実施の形態による電気化学セルスタックの設計装置の設計対象となる電気化学セルスタックについて説明する。電気化学セルスタックは、二酸化炭素もしくは水などの電気分解装置、または燃料電池などに用いられる。
【0013】
図1に示すように、電気化学セルスタック1は、一対の集電板2と、一対の集電板2の間に積層された複数のセル10と、セル10と交互に積層された複数のセパレータ30と、を備えている。セル10は、膜電極接合体(MEA)10Mと、セル枠20と、を含んでいる。セル10、セパレータ30および集電板2は、一対の締付板3で締め付けられて押圧されている。一対の締付板3は、図示しないボルトおよびナット等を用いて締め付けられている。締付板3と集電板2との間に、絶縁板4が介在されている。
【0014】
膜電極接合体10Mは、カソード電極11と、アノード電極12と、カソード電極11とアノード電極12との間に介在された電解質膜13と、を含んでいる。膜電極接合体10Mは、薄板状に形成されている。膜電極接合体10Mは、電気化学セルスタック1の積層方向Dで見たときに、矩形状に形成されていてもよい。
【0015】
カソード電極11は、カソード触媒層11aと、カソードガス拡散層11bと、を含んでいる。カソード触媒層11aは電解質膜13に接している。カソードガス拡散層11bは、セパレータ30に接しており、後述するカソード流路から供給されたカソード流体を拡散させる。電気化学セルスタック1が電気分解装置に用いられる場合には、カソードガス拡散層11bは、例えば、カーボンペーパまたはチタン不織布で形成されていてもよい。カソードガス拡散層11bは、カソード触媒層11aに接合されている。カソード触媒層11aが、カソード流体を拡散することができれば、カソードガス拡散層11bは設けられていなくてもよい。
【0016】
アノード電極12は、アノード触媒層12aと、アノードガス拡散層12bと、を含んでいる。アノード触媒層12aは電解質膜13に接している。アノード触媒層12aは電解質膜13に接している。アノードガス拡散層12bは、セパレータ30に接しており、後述するアノード流路32から供給されたアノード流体を拡散させる。電気化学セルスタック1が電気分解装置に用いられる場合には、アノードガス拡散層12bは、例えば、カーボンペーパまたはチタン不織布で形成されていてもよい。アノードガス拡散層12bは、アノード触媒層12aに接合されている。アノード触媒層12aが、アノード流体を拡散することができれば、アノードガス拡散層12bは設けられていなくてもよい。
【0017】
電解質膜13は、電解質材料で形成されている。電気化学セルスタック1が電気分解装置に用いられる場合には、電解質膜13の例としては、イオン交換膜または多孔質膜などが挙げられるが、任意である。
【0018】
アノード電極12は、電解質膜13の一方の面に形成されており、カソード電極11は、電解質膜13の他方の面に形成されている。アノード電極12およびカソード電極11は、電解質膜13に接合されている。
【0019】
電気化学セルスタック1が燃料電池として用いられる場合には、電気エネルギを生成する発電反応が行われる。この場合、カソード電極11に、後述するカソード流路31からカソード流体(
図1の符号F1参照)が供給される。カソード流体は、酸素を含有しているガスであり、例えば、空気であってもよい。アノード電極12に、後述するアノード流路32からアノード流体(
図1の符号F2参照)が供給される。アノード流体は、例えば、水素を含有するガスであってもよい。カソード流体とアノード流体が供給されることにより、膜電極接合体10Mにおいて、電気化学反応が生じる。この結果、電気エネルギを取り出すことができる。
【0020】
電気化学セルスタック1が電気分解装置として用いられる場合には、電気エネルギを用いて電気分解反応が行われる。この場合、カソード流体は、水蒸気または二酸化炭素ガスであってもよく、カソード電極において水蒸気または二酸化炭素ガスが電気分解されてもよい。アノード電極12には、電解溶液が供給されてもよい。電解溶液は、例えば、炭酸水素カルシウム(KHCO3)等の電解質を含む水溶液であってもよい。
【0021】
図2に示すように、セル10には、識別情報を示す識別記号14が付されている。識別情報は、IDコードであってもよい。識別記号14は、カソード電極11のカソード流路31に対向する面、またはアノード電極12のアノード流路32に対向する面に付されていてもよい。識別記号14は、マージン部に付されていてもよい。マージン部は、後述するセル枠20のうちのシール部(図示せず)よりも外側に配置されている。識別記号14は、例えば印刷、レーザまたは手書きなどによって、セル枠20カソード電極アノード電極に付されていてもよい。識別記号14は、英数字でセル枠20に付されていてもよく、あるいは、1次元バーコードまたは2次元バーコードでセル枠20に付されていてもよい。
【0022】
図2に示すように、電気化学セルスタック1の積層方向Dで見たときに、膜電極接合体10Mは、セル枠20によって囲まれている。セル枠20は、プラスチックフィルムで形成されていてもよい。プラスチックフィルムの材質には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリウレタン、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリアミド、メラミン樹脂、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ABS樹脂、ポリエーテルエチルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリ酢酸ビニル、フッ素樹脂などを用いることが可能である。セル枠20は、アノード流体およびカソード流体に対する不透過性を有している。
【0023】
セル枠20は、開口20aを含んでいる。この開口20aに膜電極接合体10Mが挿入されて、接着剤で接着されている。接着剤としては、アクリル、エポキシ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリオレフィン、ウレタン、ポリ酢酸ビニルなどを用いることができる。
【0024】
セル枠20に、カソード流体供給口21、アノード流体供給口22、カソード流体排出口23およびアノード流体排出口24が設けられている。すなわち、本実施の形態による電気化学セルスタック1は、内部マニホールド構造を有している。各流体供給口21、22および各流体排出口23、24は、セル枠20を貫通している。各流体供給口21、22は、膜電極接合体10Mの一側に位置し、各流体排出口23、24は、膜電極接合体10Mの他側に位置している。
【0025】
セパレータ30は、導電性を有しているとともに、ガス不透過性を有している。セパレータ30によって、アノード流体の雰囲気とカソード流体の雰囲気が隔離されている。
【0026】
図1に示すように、セパレータ30は、複数のカソード流路31と、複数のアノード流路32と、を含んでいる。カソード流路31は、セパレータ30のカソード電極11の側の面に形成されており、カソード流路31を流れるカソード流体は、カソード電極11に供給される。カソード流路31は、直線流路構造、サーペンタイン流路構造またはクランク流路構造を有していてもよく、任意である。アノード流路32は、セパレータ30のアノード電極12の側の面に形成されており、アノード流路32を流れるアノード流体は、アノード電極12に供給される。アノード流路32は、直線流路構造、サーペンタイン流路構造またはクランク流路構造を有していてもよく、任意である。
【0027】
上述したセル枠20と同様に、セパレータ30には、カソード流体供給口33(
図12参照)、アノード流体供給口34、カソード流体排出口35およびアノード流体排出口36が形成されている。カソード流体は、カソード流体供給口33からカソード流路31を通ってカソード流体排出口35に流れる。アノード流体は、アノード流体供給口34からアノード流路32を通ってアノード流体排出口36に流れる。セパレータ30は、金属薄膜のプレス加工またはカーボン材料の射出成形で形成されていてもよく、任意である。
【0028】
セパレータ30は、セル10には接合されておらず、
図1に示すように、上述した締付板3による押圧力で、セル10に押圧されている。
【0029】
このように構成された電気化学セルスタック1は、運転後に分解することができる。より具体的には、まず、締付板3を締め付けていたボルトおよびナットが取り外される。そして、電気化学セルスタック1の最上位置に位置する締付板3、絶縁板4および集電板2が取り外される。そして、セパレータ30とセル10とが順次取り外されて、各セル10が分離される。このようにして、膜電極接合体10Mカソード電極アノード電極を備えたセル10を取り出すことができる。
【0030】
図3に、上述した電気化学セルスタック1を備えた電気化学セルスタックシステム100の例が示されている。
図3に示す電気化学セルスタックシステム100は、電気化学セルスタック1と、補機101と、電力変換装置102と、制御装置103と、を備えていてもよい。
【0031】
電気化学セルスタック1は、補機101によって起動されるとともに運転を行うことができる。電気化学セルスタック1が燃料電池として用いられる場合、補機101は、燃料電池に、水素ガスおよび空気を供給する。補機101は、例えばブロアなどによって構成される。燃料電池が運転を行っている間、補機101には動作電力が商用系統から供給される。燃料電池の発電電力は、電力変換装置102によって直流電流から交流電流に変換され、外部負荷に供給される。電気化学セルスタック1が電気分解装置として用いられる場合、補機101は、電気分解装置に、水蒸気または二酸化炭素ガスを供給するとともに電解溶液を供給する。電気分解に用いる電力は、商用系統から電力変換装置102を通って供給される。電力変換装置102は、商用系統からの電力を、交流電流から直流電流に変換して電気分解装置に供給する。補機101および電力変換装置102は、制御装置103によって制御される。
【0032】
次に、本実施の形態による電気化学セルスタック1の設計システム40について説明する。設計システム40は、使用済みのセル10を含む複数のセル10が積層された電気化学セルスタック1の設計を行うためのシステムである。
【0033】
ここで、使用済みのセル10を用いた電気化学セルスタック1の商取引について、
図4を用いて説明する。
図4では、電気化学セルスタック1の製造販売業者をA社としている。A社の電気化学セルスタック1を使用しているユーザを、a社、b社、c社としている。
【0034】
図4に示すように、a社は、新品のセル10だけを用いた電気化学セルスタック1をA社から導入している。a社は、電気化学セルスタック1の運転を行って事業活動を行っている。例えば、電気化学セルスタック1が二酸化炭素電解装置である場合、二酸化炭素を電気化学セルスタック1で電気分解して一酸化炭素を生成する。生成された一酸化炭素はボンベ等に充填し、一酸化炭素を取り扱う事業者(図示せず)に納入する。
【0035】
a社は、運転の継続によって電気化学セルスタック1の性能劣化や故障等が発生したため、電気化学セルスタック1のリプレイスを決定する。このため、a社は、仕様を提示してA社に相談する。A社は、この仕様に基づいて、a社に導入可能な電気化学セルスタック1のラインナップを提示する。この仕様には、セル枚数および仕様寿命などが含まれているため、このラインナップには、新品のセル10だけを用いた電気化学セルスタック1だけではなく、使用済みのセル10を含む電気化学セルスタック1も含まれている。使用済みのセル10を含む電気化学セルスタック1は、新品のセル10だけを用いた同一構成の電気化学セルスタック1よりも低価格になっている。a社は、使用済みのセル10を含む電気化学セルスタック1の購入を決定し、A社に発注する。A社は、a社が購入を決定した電気化学セルスタック1を製造し、a社に納入する。
【0036】
これまでa社が保有していた電気化学セルスタック1は、A社に引き取られる。A社は、納入済みの電気化学セルスタック1がリプレイスなどの理由によって不要となった場合に、ユーザから引き取っている。このため、A社には、b社およびc社などからも、リプレイス品納入の際に、電気化学セルスタック1が引き取られている。
【0037】
引き取られた電気化学セルスタック1は、各セル10のセル劣化度を調べるための測定試験を行う。その後、上述のようにして、電気化学セルスタック1を分解して各セル10が取り出される。取り出された各セル10は、電気化学セルスタック1に再利用するために、リペア処理されてもよい。そして、各セル10は、使用済みセル10として保管される。保管された使用済みセル10のセル劣化度は、後述する第1データベース41に、セル10の識別情報が関連づけられた状態で保管される。上述したリペア処理がされた場合には、その処理内容が、セル劣化度と関連づけられて保管されてもよい。
【0038】
A社は、ラインナップの検討時に、a社の仕様に基づいて、使用済みのセル10を含む電気化学セルスタック1の設計を行い、価格を提示する。この際、保管中の使用済みのセル10から、ユーザ仕様を満足する使用済みのセル10を選定し、使用済みのセル10の再利用を図る。この設計に基づいて、A社の組立作業者は、保管場所から選定された使用済みのセル10を取り出して電気化学セルスタック1を組み立てる。組立後の電気化学セルスタック1は、a社に納入される。本実施の形態による電気化学セルスタック1の設計システム40は、このようなA社の設計業務で用いることができる装置である。
【0039】
図5に示すように、本実施の形態による電気化学セルスタック1の設計システム40は、複数のデータベース41、42と、設計装置50と、を備えていてもよい。各データベース41、42および設計装置50は、LAN(Local Area Network)などのネットワークNで接続されている。本実施の形態においては、設計装置50に、第1データベース41および第2データベース42が接続されている。
【0040】
第1データベース41には、複数の使用済みのセル10のセル劣化度が格納されている。第1データベース41には、種々の使用済み電気化学セルスタック1の使用済みのセル10のセル劣化度が格納されている。各使用済みのセル10には識別情報が割り当てられており、各セル10のセル劣化度は、識別情報と関連付けられている。
図6には、使用済みの第1の電気化学セルスタック1aの5つの使用済みのセル10のセル劣化度と、使用済みの第2の電気化学セルスタック1bの5つの使用済みのセル10のセル劣化度が、第1データベース41に格納される例が示されている。セル劣化度の詳細については後述する。各使用済みのセル10のセル劣化度には、その使用済みのセル10の識別情報が関連づけられている。識別情報がIDコードである場合、
図6に示すように、連続するIDコードが各使用済みのセル10に割り当てられてもよい。しかしながら、各使用済みのセル10に割り当てられるIDコードの番号の付け方は、識別機能を有していれば任意である。第1データベース41は、クラウドサーバに記録されていてもよい。セル劣化度は、測定された際にクラウドサーバに記録されることにより、第1データベース41に格納されてもよい。
【0041】
第2データベース42には、ユーザの仕様情報が格納されている。
図7に示すように、仕様情報には、電気化学セルスタック1の仕様寿命の情報が含まれている。セル劣化度および仕様情報の詳細については後述する。第2データベース42は、クラウドサーバに記録されていてもよい。ユーザの仕様情報は、設計装置50とは異なる端末装置43で入力した情報が、第2データベース42に格納されていてもよい。
【0042】
図5に示すように、設計装置50は、使用済みのセル10を用いた電気化学セルスタック1を設計する装置である。設計装置50は、主として、複数の使用済みのセル10から、ユーザの仕様を満足する電気化学セルスタック1を製造するために使用可能な使用済みのセル10を選定するように構成されている。
【0043】
設計装置50は、入力部51と、表示部52と、記憶部53と、通信部54と、演算部60と、を含んでいてもよい。入力部51は、情報を入力するように構成されており、例えば、キーボード、マウスまたはタッチパネルなどで構成されていてもよい。表示部52は、情報を表示するように構成されており、例えば、ディスプレイなどで構成されていてもよい。表示部52は、後述する表示情報作成部68により作成された表示情報を表示してもよい。記憶部53は、情報を記憶するように構成されており、例えば、メモリまたはストレージなどで構成されていてもよい。通信部54は、ネットワークNを介してデータベース41、42が記憶されている外部機器と通信するように構成されていてもよい。例えば、通信部54は、通信インターフェースなどで構成されていてもよい。
【0044】
図5に示すように、演算部60は、劣化度取得部61、ランク割当部62、仕様取得部63、仕様算出部64、選定算出部65、位置決定部66および価格算出部67などの機能ブロックを含んでいてもよい。これらの機能ブロックは、例えば、記憶部53内に格納されたコンピュータプログラムを演算部60により実行することで実現されてもよい。このプログラムは、電気化学セルスタック1の設計プログラムの例であり、記録媒体から設計装置50にインストールされてもよい。あるいは、設計プログラムは、ネットワークN上のサーバなどから設計装置50にダウンロードされてもよい。
【0045】
劣化度取得部61は、使用済みのセル10のセル劣化度を、関連づけられた識別情報とともに、上述した第1データベース41から取得する。劣化度取得部61は、通信部54およびネットワークNを介して、第1データベース41からセル劣化度を取得するように構成されている。
【0046】
使用済みのセル10のセル劣化度は、種々の方法により求めることができる。例えば、電気化学セルスタック1を用いて二酸化炭素電解を行った場合に得られた各セル10の電圧特性を用いて、セル劣化度を算出することができる。あるいは、例えば、電気化学セルスタック1を用いて水電解を行った場合に得られた各セル10の電圧特性を用いて、セル劣化度を算出することができる。セル劣化度の算出方法については後述する。
【0047】
このようにして算出された数値をセル劣化度として後述する各種処理を行ってもよいが、本実施の形態においては、この数値に基づいて設定された劣化度ランクを用いる。一例として、セル劣化度をA~Eの5段階に分けて説明する。なお、セル劣化度0(ゼロ)は、使用前の新品のセル10のセル劣化度に相当する。セル劣化度の数値が大きいほど、セル10の劣化が進んでいることを表す。
【0048】
ランク割当部62は、使用済みのセル10に、上述のように算出されたセル劣化度に基づいて劣化度ランクを割り当てる。劣化度ランクは、セル劣化度の所定の範囲を有している。より具体的には、
図8に示すように、セル劣化度に基づいて、複数の劣化度ランクが設定される。ここでは、A~Eの5つの劣化度ランクが割り当てられる例について説明する。
【0049】
ランクAは、0%よりも大きく、5%以下の範囲にセル劣化度を有する使用済みのセル10に割り当てられる。ランクBは、5%よりも大きく、10%以下の範囲にセル劣化度を有する使用済みのセル10に割り当てられる。ランクCは、10%よりも大きく、15%以下の範囲にセル劣化度を有する使用済みのセル10に割り当てられる。ランクDは、15%よりも大きく、20%以下の範囲にセル劣化度を有する使用済みのセル10に割り当てられる。ランクEは、20%よりも大きい範囲にセル劣化度を有する使用済みのセル10に割り当てられる。ランクEは、セル劣化度が高いため、電気化学セルスタック1の設計には用いられなくてもよい。
【0050】
A~Dの劣化度ランクは、劣化度ランクに対応するセル劣化度の範囲の最大値であるみなしセル劣化度を有している。より具体的には、ランクAのみなしセル劣化度は5%であり、ランクBのみなしセル劣化度は10%である。ランクCのみなしセル劣化度は15%であり、ランクDのみなしセル劣化度は20%である。後述する選定算出部65、位置決定部66および価格算出部67は、みなしセル劣化度をセル劣化度とみなして処理を行う。
【0051】
仕様取得部63は、ユーザの仕様情報としての電気化学セルスタック1の仕様セル枚数と仕様寿命を取得する。仕様取得部63は、通信部54およびネットワークNを介して、第2データベース42から仕様セル枚数と仕様寿命を取得するように構成されている。
【0052】
仕様算出部64は、仕様寿命に基づいて、電気化学セルスタック1の仕様スタック劣化度を算出する。スタック劣化度は、電気化学セルスタック1に使用されるセル10のセル劣化度の合計値であってもよい。
【0053】
選定算出部65は、仕様セル枚数と仕様スタック劣化度とに基づいて、電気化学セルスタック1に用いる使用済みのセル10を選定する。本実施の形態においては、上述したランク割当部62によって、使用済みのセル10に劣化度ランクが割り当てられている。このため、選定算出部65は、各劣化度ランクの上述したみなしセル劣化度を、各使用済みのセル10のセル劣化度とみなして、以下の処理を行う。
【0054】
選定算出部65は、上述のようにして算出された仕様スタック劣化度を満足するように、電気化学セルスタック1に用いる使用済みのセル10を選定する。例えば、使用済みのセル10のセル劣化度の合計値が、仕様スタック劣化度以下となる使用済みのセル10の組み合わせを決定する。例えば、セル劣化度(みなしセル劣化度)をα
k、セル劣化度がα
kである使用済みのセル10の個数をβ
kとしたとき、以下の式を満たすような、使用済みのセル10の組み合わせが選定される。nは、セル10の枚数である。γは、仕様スタック劣化度である。
【数1】
【0055】
この際、電気化学セルスタック1の低コスト化を図ることができるように、仕様スタック劣化度を満足する使用済みのセル10の組み合わせを決定してもよい。本実施の形態による選定算出部65は、電気化学セルスタック1を構成する全てのセル10に、使用済みのセル10を割り当てる。
【0056】
選定算出部65は、選定された使用済みのセル10のセル劣化度に基づいて、電気化学セルスタック1の寿命を算出する。より具体的には、選定算出部65は、選定された使用済みのセル10のセル劣化度の合計値であるスタック劣化度を算出する。例えば、スタック劣化度は、上述の式(1)の左辺によって算出される。そして、スタック劣化度から寿命を算出する。
図9に示す例では、便宜上、仕様寿命5年に対して、寿命が5年になるような使用済みセル10が選定されている。しかしながら、上述の式(1)にも示されているように、仕様寿命5年よりも寿命が短くならないように使用済みセル10が選定されてもよい。
【0057】
選定算出部65は、セル劣化度が所定値よりも高い使用済みのセル10を選定対象から除外してもよい。例えば、ランク劣化度がランクDである使用済みのセル10は、選定対象から除外する。選定対象から除外する使用済みのセル10の劣化度ランクは、ランクDであることに限られることはない。ユーザの仕様等に応じて、選定対象から除外する劣化度ランクが設定されてもよい。
【0058】
選定算出部65の具体的な処理について
図9を用いて説明する。
図9に示す例では、劣化度取得部61が、
図6に示す第1データベース41に格納されている10個の使用済みのセル10のセル劣化度を取得している。ランク割当部62が、
図8に示すセル劣化度に基づいて劣化度ランクを各使用済みのセル10に割り当てている。仕様取得部63が、
図7に示す第2データベース42に格納されているユーザの仕様情報として、電気化学セルスタック1の仕様セル枚数と仕様寿命とを取得している。仕様算出部64は、ユーザの仕様寿命から算出した仕様スタック劣化度を「10%」と算出している。この場合、選定算出部65は、5つの使用済みのセル10の組み合わせとして、セル劣化度の合計値が「10%」となる使用済みのセル10の組み合わせを選定する。その一例が
図9に示されている。
【0059】
セル劣化度が同一の複数の使用済みのセル10から1つの使用済みのセル10を選定する方法は任意である。例えば、IDコードが示す数字が最も小さい使用済みのセル10を選定してもよい。あるいは、使用済みのセル10の識別情報から製造日の情報を取得できる場合には、最も製造日が早い使用済みのセル10を選定してもよい。選定算出部65は、
図9に示すように選定された5つの使用済みのセル10のセル劣化度の合計値(スタック劣化度)を算出する。ここでは、スタック劣化度が「10%」となる。そして、選定算出部65は、スタック劣化度から電気化学セルスタック1の寿命を算出する。
【0060】
位置決定部66は、複数の使用済みのセル10が選定された場合に、使用済みのセル10の積層位置を決定する。位置決定部66は、選定算出部65と同様に、各劣化度ランクの上述したみなしセル劣化度を、各使用済みのセル10のセル劣化度とみなして積層位置を決定してもよい。
【0061】
位置決定部66は、任意の方法で、使用済みのセル10の積層位置を決定してもよい。例えば、位置決定部66は、セル劣化度が高い使用済みのセル10を電気化学セルスタック1の積層方向Dにおける中央側に配置してもよい。
【0062】
より具体的には、選定算出部65において選定された複数の使用済みのセル10が、第1の使用済みのセル10a(
図9参照)と、第2の使用済みのセル10bと、を含んでいてもよい。第2の使用済みのセル10bは、第1の使用済みのセル10aのセル劣化度よりも高いセル劣化度を有している。この場合、位置決定部66は、第2の使用済みのセル10bを第1の使用済みのセル10aよりも電気化学セルスタック1の積層方向Dにおける中央側に配置する。
図9に示す例では、第2の使用済みのセル10bとしてのID004(ランクB)が、第1の使用済みのセル10aとしてのID003(ランクA)よりも積層方向Dにおける中央側に配置されている。また、第2の使用済みのセル10bとしてのID001(ランクC)が、第1の使用済みのセル10aとしてのID004(ランクB)よりも積層方向Dにおける中央側に配置されている。
【0063】
価格算出部67は、選定算出部65において選定された使用済みのセル10のセル劣化度に基づいて、電気化学セルスタック1の価格を算出する。価格算出部67は、選定算出部65と同様に、各劣化度ランクの上述したみなしセル劣化度を、各使用済みのセル10のセル劣化度とみなして価格を算出してもよい。例えば、
図10に示すように、セル劣化度に応じて使用済みのセル10の価格低下率を設定してもよい。価格低下率は、新品のセル10の価格に対する低下率を示している。電気化学セルスタック1の価格は、価格低下率と使用済みのセル10の個数を乗算した値に、新品の電気化学セルスタック1の価格を乗算することにより算出されてもよい。例えば、セル劣化度がα
kである使用済みのセル10の価格低下率をδ
k、セル劣化度がα
kである使用済みのセル10の個数をβ
kとしたとき、以下の式により、電気化学セルスタック1の価格ε
1が算出されてもよい。ε
0は、新品のセル10だけを用いた電気化学セルスタック1の価格である。
【数2】
【0064】
上述した選定算出部65、位置決定部66および価格算出部67は、人工知能(AI)を用いて処理を行うようにしてもよい。
【0065】
表示情報作成部68は、選定された使用済みのセル10の識別情報と、寿命とを含む表示情報を作成する。例えば、
図11に示すように、使用済みのセル10の識別情報と寿命とを含む表示情報が作成されてもよい。
図11に示すように、使用済みのセル10のセル劣化度が表示情報として作成されてもよく、電気化学セルスタック1の価格ε
1が表示情報として作成されてもよい。使用済みのセル10は、積層位置の順番で並ぶように表示されてもよい。表示情報作成部68により作成された表示情報は、上述した表示部52で表示されてもよい。
【0066】
次に、第1データベース41に格納されたセル劣化度についてより詳細に説明する。ここでは、
図1に示す電気化学セルスタック1が二酸化炭素電解装置を構成する場合を例にとって説明する。
【0067】
まず、一例として、
図12および
図13を用いて、電気化学セルスタック1のセル10の電圧電流特性を用いてセル劣化度を算出する方法について説明する。
【0068】
この場合、セル10の電圧電流特性を示す第1特性データに基づいて第1対象電圧値が算出され、新品時のセル10の電圧電流特性を示す第2特性データに基づいて第2対象電圧値が算出される。第1対象電圧値および第2対象電圧値に基づいて、セル劣化度が算出される。第1特性データは、電気化学セルスタック1を備えた二酸化炭素電解装置において、水電解を行った場合に得られる電圧電流特性を示すデータである。第2特性データは、新品時の電気化学セルスタック1を用いて水電解を行った場合に得られた電圧電流特性を示すデータである。以下に、第1特性データおよび第2特性データに基づいて、セル劣化度を算出する方法について説明する。
【0069】
図12に示すように、セル10に印加される電圧とセル10に流れる電流を測定するために、電気化学セルスタック1には、複数の測定ピン70が取り付けられている。カソード電極11用の測定ピン70は、セパレータ30のカソード電極11に対向する面に形成されたカソード側凹部37に挿入されていてもよい。カソード側凹部37は、
図12において表面に形成されているカソード流路31とは異なる位置に形成されている。便宜上、
図12においてカソード流路31は簡略化して図示している。カソード側凹部37に挿入された測定ピン70は、カソード電極11に電気的に接触することができる。アノード電極12用の測定ピン70は、セパレータ30のアノード電極12に対向する面に形成されたアノード側凹部38に挿入されていてもよい。アノード側凹部38は、
図12において裏面に形成されているアノード流路32とは異なる位置に形成されている。アノード側凹部38に挿入された測定ピン70は、アノード電極12に電気的に接触することができる。
図12では、代表的に、1つのセル10についての測定状態が示されているが、電気化学セルスタック1を構成する各セル10について電圧値と電流値を測定するために、各セパレータ30のカソード側凹部37およびアノード側凹部38に、測定ピン70が挿入されている。すなわち、1つのセル10に対して2つの測定ピン70を用いて測定が行われてもよい。
【0070】
カソード電極11用の各測定ピン70と、アノード電極12用の各測定ピン70は、電気線71を介して測定装置72に接続されている。電気線71は、測定ピン70と測定装置72とを電気的に接続している。電気化学セルスタック1が内部マニホールド構造を有している場合、図示しないシール材などを用いて、測定ピン70が気密にセパレータ30に取り付けられる。このことにより、カソード流体およびアノード流体などの流体が、漏洩することを防止している。電気線71は、図示しないハウジングを貫通して、外部に配置された測定装置72に接続されている。
【0071】
測定装置72は、各セル10の電圧値と電流値を測定する。測定装置72は、図示しないデータベースにネットワークNを介して接続されている。測定装置72が測定した電圧値と電流値は、対応するセル10の識別情報と関連付けられて、データベースに格納される。データベースには、各セル10に対応して複数の第1特性データが格納される。各第1特性データは、対応するセル10の識別情報と関連付けられる。
【0072】
第1特性データは、電気化学セルスタック1を備えた二酸化炭素電解装置において、二酸化炭素電解ではなく、水電解を行った場合に得られた電圧電流特性を示すデータであってもよい。水電解時には、
図1に示すカソード流体F1としての水がカソード電極11に供給され、アノード流体F2としての電解溶液(炭酸水素カルシムなど)がアノード電極12に供給される。膜電極接合体10Mにおいて水電解が行われ、カソード電極11において水素ガスが生成されてカソード電極11から排出される。アノード電極12において酸素ガスが生成されてアノード電極12から排出される。
【0073】
第1特性データを作成するための測定は、水電解を行いながら行われる。水電解反応が定常状態に達した後、電圧値および電流値の一方を変化させながら、電圧値および電流値が測定される。各セル10について測定された電圧値と電流値は、複数の第1特性データとしてデータベースに格納される。このようにして、
図13に実線で示すような、電圧電流特性を示す第1特性データが得られる。すなわち、第1特性データは、電気化学セルスタック1を分解することなく、得ることができる。データベースに格納された各第1特性データには、識別情報が割り当てられており、各第1特性データは、識別情報と関連付けられている。
【0074】
第1特性データは、運転後の電気化学セルスタック1のセル10について電圧値および電流値を測定することにより得られてもよい。例えば、第1特性データを得るための測定は、
図4に示すa社からA社に引き取られた後に、A社によって行われてもよい。
【0075】
第2特性データは、新品時の電気化学セルスタック1を用いて水電解を行った場合に得られた電圧電流特性を示すデータであってもよい。すなわち、電気化学セルスタック1の出荷時または納入時などの運転を行う前に、上述した第1特性データと同様にして、電圧値と電流値を測定する。電圧値と電流値は、第2特性データとして図示しないデータベースに格納される。このようにして、
図13に破線で示すような、電圧電流特性を示す第2特性データが得られる。
【0076】
上述の第1特性データに基づいて第1対象電圧値V1(
図13参照)が算出される。第1対象電圧値V1は、第1特性データにおいて基準電流値に対応する電圧値である。第1特性データを構成する電流値と電圧値で
図13に示すような第1特性曲線を算出して、この第1特性曲線で基準電流値に対応する電圧値を第1対象電圧値としてもよい。第1特性曲線の例が、
図13に実線で示されている。
【0077】
上述の第2特性データに基づいて第2対象電圧値V2(
図13参照)が算出される。第2対象電圧値V2は、第2特性データにおいて基準電流値に対応する電圧値である。第2特性データを構成する電流値と電圧値で
図13に示すような第2特性曲線を算出して、この第2特性曲線で基準電流値に対応する電圧値を第2対象電圧値としてもよい。第2特性曲線の例が、
図13に破線で示されている。
【0078】
基準電流値は、第1特性データから電圧値がゼロであるときの電流値(零点電流値I0)よりも大きい電流値を基準電流値ISに設定してもよく、第1特性データの電流値に対する電圧値の変化率(ΔV/ΔI)が変化率閾値以下になる最小の電流値を基準電流値ISに設定してもよい。この場合、電流値の増大に伴う電圧値の変化が小さくなった電流値を基準電流値に設定することができる。上述した電流値に対する電圧値の変化率が小さくなると、この変化率の変動が抑制され、第1対象電圧値および第2対象電圧値の精度を向上できる。このため、変化率閾値は、セル劣化度を精度よく算出することができる値に設定されていてもよい。
【0079】
第1対象電圧値と第2対象電圧値に基づいて、セル劣化度が算出される。例えば、第2対象電圧値から第1対象電圧値を引いた差分を第2対象電圧値で除算することによりセル劣化度が算出されてもよい。すなわち、第1対象電圧値をV
1、第2対象電圧値をV
2とすると、以下の式(1)に従って、セル劣化度α
1が算出されてもよい。
【数3】
【0080】
他の一例として、
図14を用いて、電気化学セルスタック1のセル10の電圧時間特性を用いてセル劣化度を算出する方法について説明する。
【0081】
この場合、二酸化炭素電解停止後のセル10の電圧時間特性を示す第3特性データに基づいて第3対象電圧値を算出し、水電解停止後のセル10の電圧時間特性を示す第4特性データに基づいて第4対象電圧値が算出される。第3対象電圧値および第4対象電圧値に基づいて、セル劣化度が算出される。以下に、第3特性データおよび第4特性データに基づいて、セル劣化度を算出する方法について説明する。
【0082】
各セル10に印加される電圧値を測定するために、上述した測定ピン70(
図12参照)および測定装置72などが用いられてもよい。
【0083】
第3特性データは、電気化学セルスタック1を備えた二酸化炭素電解装置において、二酸化炭素電解停止後のセル10の電圧時間特性を示すデータであってもよい。二酸化炭素電解時には、
図1に示すカソード流体F1としての二酸化炭素ガスがカソード電極11に供給され、アノード流体F2としての電解溶液(炭酸水素カルシムなど)がアノード電極12に供給される。膜電極接合体10Mにおいて二酸化炭素電解が行われ、カソード電極11において一酸化炭素が生成されてカソード電極11から排出される。アノード電極12において酸素ガスが生成されてアノード電極12から排出される。
【0084】
第3特性データを作成するための測定は、二酸化炭素電解を行ってから停止した後に行われる。停止後、電圧値を測定時間とともに測定する。このことにより、
図14に実線で示すような、二酸化炭素電解停止後の電圧時間特性を示す第3特性データが得られる。すなわち、第3特性データは、電気化学セルスタック1を分解することなく、得ることができる。図示しないデータベースに格納された各第3特性データには、識別情報が割り当てられており、各第3特性データは、識別情報と関連付けられている。第3特性データを得るための測定は、
図4に示すa社からA社に引き取られた後に、A社によって行われてもよい。
【0085】
第4特性データは、電気化学セルスタック1を備えた二酸化炭素電解装置において、水電解停止後のセル10の電圧時間特性を示すデータであってもよい。水電解時には、
図1に示すカソード流体F1としての水がカソード電極11に供給され、アノード流体F2としての電解溶液(炭酸水素カルシムなど)がアノード電極12に供給される。膜電極接合体10Mにおいて水電解が行われ、カソード電極11において水素ガスが生成されてカソード電極11から排出される。アノード電極12において酸素ガスが生成されてアノード電極12から排出される。
【0086】
第4特性データを作成するための測定は、水電解を行ってから停止した後に行われる。水電解は、第3特性データを作成後に行われてもよく、第3特性データを作成する前に行われてもよい。停止後、電圧値を測定時間とともに測定する。このことにより、
図14に破線で示すような、水電解停止後の電圧時間特性を示す第3特性データが得られる。すなわち、第3特性データは、電気化学セルスタック1を分解することなく、得ることができる。図示しないデータベースに格納された各第4特性データには、識別情報が割り当てられており、各第4特性データは、識別情報と関連付けられている。第4特性データを得るための測定は、
図4に示すa社からA社に引き取られた後に、A社によって行われてもよい。
【0087】
上述の第3特性データに基づいて第3対象電圧値V3(
図14参照)が算出される。
【0088】
図14に実線で示すように、第3特性データは、電気化学セルスタック1を備えた二酸化炭素電解装置において、二酸化炭素電解を行って停止した後に得られた電圧時間特性を示すデータであってもよい。
図14においては、時間t
0まで二酸化炭素電解が行われ、時間t
0において二酸化炭素電解を停止している。時間4t
0以降では、二酸化炭素電解の停止が継続され、セル10の電圧値が減少している様子が示されている。
【0089】
二酸化炭素電解停止後の電圧時間特性は、
図14実線で示すように、電圧値の低下率が増加する第1時間帯T
1と、第1時間帯の後に電圧値の低下率が減少する第2時間帯T
2と、を有している。第3対象電圧値V3は、第3特性データの第2時間帯T
2を経過した後に電圧値の低下率が第1閾値に達したときの電圧値である。第2時間帯においては、電圧値の低下率は徐々に減少し、その後電圧値はほぼ一定になる。第1閾値は、電圧値が一定とみなすことができる電圧値の低下率として設定されていてもよい。第3特性データを構成する時間と電圧値で
図14に示すような第3特性曲線が算出されて、この第3特性曲線で電圧値の低下率が第1閾値となる電圧値を第3対象電圧値としてもよい。第3特性曲線の例が、
図14に実線で示されている。
【0090】
上述の第4特性データに基づいて第4対象電圧値V4(
図14参照)が算出される。
【0091】
図14に破線で示すように、第4特性データは、電気化学セルスタック1を備えた二酸化炭素電解装置において、水電解を行って停止した後に得られた電圧時間特性を示すデータであってもよい。
図14においては、時間t
0まで水電解が行われ、時間t
0において水電解を停止している。時間t
0以降では、水電解の停止が継続され、セル10の電圧値が減少している様子が示されている。
【0092】
水電解停止後の電圧時間特性は、
図14に破線で示すように、電圧値の低下率が増加する第3時間帯T
3と、第3時間帯の後に電圧値の低下率が減少する第4時間帯T
4と、を有している。第4対象電圧値は、第4特性データの第4時間帯T
4を経過した後に電圧値の低下率が第2閾値に達したときの電圧値である。第4時間帯においては、電圧値の低下率は徐々に減少し、その後電圧値はほぼ一定になる。第2閾値は、電圧値が一定とみなすことができる電圧値の低下率として設定されていてもよい。第4特性データを構成する時間と電圧値で
図14に示すような第4特性曲線が算出されて、この第4特性曲線で電圧値の低下率が第2閾値となる電圧値を第4対象電圧値としてもよい。第4特性曲線の例が、
図14に破線で示されている。
【0093】
第3対象電圧値および第4対象電圧値に基づいてセル劣化度が算出される。例えば、第3対象電圧値から第4対象電圧値を引いた差分を第3対象電圧値で除算することによりセル劣化度が算出されてもよい。すなわち、第3対象電圧値をV3、第4対象電圧値をV4とすると、以下の式(1)に従って、セル劣化度α
2が算出されてもよい。
【数4】
【0094】
このようにして、電気化学セルスタック1のセル10の電圧時間特性を用いて、複数のセル10についてセル劣化度α2を算出することができる。
【0095】
このように算出されたセル劣化度α1、α2は、第1データベース41に格納される。
【0096】
例えば、各セル10についての上述したセル劣化度α1が、識別情報と関連付けられて第1データベース41に格納されてもよく、この場合、上述したセル劣化度α2は格納されていなくてもよい。あるいは、各セル10についての上述したセル劣化度α2が、識別情報と関連付けられて第1データベース41に格納されてもよく、この場合、上述したセル劣化度α1は格納されていなくてもよい。
【0097】
あるいは、各セル10についての上述したセル劣化度α1およびα2に基づいて算出されたセル劣化度が第1データベース41に格納されていなくてもよい。例えば、以下の式に示すように算出された数値をセル劣化度として第1データベース41に格納してもよい。
セル劣化度α1×膜劣化寄与率+セル劣化度α2×触媒劣化寄与率
セル劣化度α1は、主として膜劣化を起因としたセル劣化度を示しており、セル劣化度α2は、主として触媒劣化を起因としたセル劣化度を示している。このため、膜劣化寄与率および触媒劣化寄与率を、ユーザ仕様に応じて調整することにより、ユーザの要望に応じたセル劣化度を算出することができる。例えば、膜劣化寄与率および触媒劣化寄与率をいずれも0.5としてもよい。しかしながら、膜劣化寄与率を触媒劣化寄与率よりも大きくしてもよく、または小さくしてもよい。
【0098】
次に、本実施の形態による電気化学セルスタック1の設計方法について
図15を用いて説明する。
【0099】
まず、ステップS1として、劣化度取得部61が、使用済みのセル10のセル劣化度を、識別情報とともに第1データベース41から取得する。例えば、
図9に示すように、10個の使用済みのセル10のセル劣化度が取得される。10個の使用済みのセル10の識別情報を示すIDコードは、ID001~ID010になっている。
【0100】
ステップS1の後、ステップS2として、ランク割当部62が、第1データベース41から取得した使用済みのセル10に劣化度ランクを割り当てる。例えば、
図8に示す劣化度ランクが
図9に示すように使用済みのセル10に割り当てられる。
【0101】
ステップS3として、仕様取得部63が、電気化学セルスタック1の仕様セル枚数と仕様寿命を第2データベース42から取得する。例えば、
図9に示す例では、仕様取得部63が、セル枚数が5枚であるとともに仕様寿命が5年であるという仕様情報を取得する。ステップS3は、ステップS1およびステップS2の後に行われてもよい。しかしながら、ステップS3は、ステップS1またはステップS2の前に行われてもよく、ステップS1またはステップS2と同時に行われてもよい。
【0102】
ステップS3の後、ステップS4として、仕様算出部64が、電気化学セルスタック1の仕様スタック劣化度を算出する。
図9に示す例では、仕様寿命が5年である場合に、仕様スタック劣化度は10%であると算出されている。
【0103】
ステップS2およびステップS4の後、ステップS5として、選定算出部65は、電気化学セルスタック1に用いる使用済みのセル10を選定するとともに、電気化学セルスタック1の寿命を算出する。選定算出部65は、上述したみなしセル劣化度を、使用済みのセル10のセル劣化度とみなして処理を行う。
図9に示す例では、仕様スタック劣化度を満たすような5つの使用済み電気化学セルスタック1として、ID001、ID003、ID004、ID007およびID009が選定される。この場合、各使用済み電気化学セルスタック1のセル劣化度の合計値であるスタック劣化度は「10%」となり、5年という寿命が算出される。
【0104】
ステップS5の後、ステップS6として、位置決定部66は、使用済みのセル10の積層位置を決定する。位置決定部66は、上述したみなしセル劣化度を、使用済みのセル10のセル劣化度とみなして処理を行う。セル劣化度が高い使用済みのセル10が、電気化学セルスタック1の積層方向Dにおける中央側に配置されるように、各使用済みのセル10の積層位置が決定される。
図9に示す例では、積層方向Dにおける中央に、ランクCの使用済みのセル10が配置される。ランクAの使用済みのセル10が最上位置および最下位置に配置される。
【0105】
ステップS7として、価格算出部67は、電気化学セルスタック1の価格を算出する。電気化学セルスタック1の価格は、例えば、
図10に示す使用済みのセル10の価格低下率に基づいて算出される。価格算出部67は、上述したみなしセル劣化度を、使用済みのセル10のセル劣化度とみなして処理を行う。ステップS7は、ステップS6の後に行われてもよい。しかしながら、ステップS7は、ステップS5の後であってステップS6の前に行われてもよく、ステップS6と同時に行われてもよい。
【0106】
ステップS7の後、ステップS8として、表示情報作成部68は、使用済みのセル10の識別情報と、電気化学セルスタック1の寿命および価格と、を含む表示情報を作成する。表示情報作成部68により作成された表示情報は、例えば、
図11に示す例のような情報であってもよい。作成された表示情報は、表示部52で表示される。
【0107】
このようにして、本実施の形態による電気化学セルスタック1の設計方法が完了する。
【0108】
表示部52による表示に基づいて、電気化学セルスタック1の組立作業者は、該当する識別情報を示す識別記号14(
図2参照)が付された使用済みのセル10を保管場所から取り出してもよい。そして、組立作業者は、表示部52に表示された使用済みのセル10の積層位置に従って、電気化学セルスタック1を組み立ててもよい。
【0109】
このように本実施の形態によれば、使用済みのセル10のセル劣化度が識別情報とともに第1データベース41から取得されるとともに、電気化学セルスタック1の仕様寿命が取得される。電気化学セルスタック1の仕様セル枚数とセル劣化度とに基づいて、電気化学セルスタック1の寿命が仕様寿命を満足するように電気化学セルスタック1に用いる使用済みのセル10が選定されるとともに、選定された使用済みのセル10のセル劣化度に基づいて、電気化学セルスタック1の寿命が算出される。このことにより、ユーザの仕様寿命を満たすように、使用済みのセル10のセル劣化度に基づいて、電気化学セルスタックに用いる使用済みのセル10を選定することができる。このため、使用済みのセル10を再利用して低コスト化を図ることができる。
【0110】
また、本実施の形態によれば、選定算出部65において複数の使用済みのセル10が選定された場合、使用済みのセル10の積層位置が決定される。このことにより、セル劣化度に応じて使用済みのセル10を適切な位置に配置することができる。このため、使用済みのセル10を用いた電気化学セルスタック1の寿命を向上させることができ、信頼性を向上させることができる。また、使用済みのセル10を有効利用することができる。
【0111】
また、本実施の形態によれば、第1の使用済みのセル10aと、第1の使用済みのセル10aのセル劣化度よりも高いセル劣化度を有する第2の使用済みのセル10bとが選定された場合、第2の使用済みのセル10bが、第1の使用済みのセル10aよりも電気化学セルスタック1の積層方向Dにおける中央側に配置される。このことにより、セル劣化度が高い使用済みのセル10を、積層方向Dにおける中央側に配置することができる。このため、使用済みのセル10を用いた電気化学セルスタック1の寿命を向上させることができ、信頼性を向上させることができる。
【0112】
また、本実施の形態によれば、選定算出部65において選定された使用済みのセル10のセル劣化度に基づいて、電気化学セルスタック1の価格が算出される。このことにより、使用済みのセル10を用いた電気化学セルスタック1の設計を行いながら、電気化学セルスタック1の価格をタイムリーに知ることができる。このため、電気化学セルスタック1の設計の利便性を向上させることができる。
【0113】
また、本実施の形態によれば、使用済みのセル10に、セル劣化度に基づいて劣化度ランクが割り当てられ、選定算出部65は、劣化度ランクが有するセル劣化度の範囲における最大値をセル劣化度とみなす。このことにより、選定算出部65による使用済みのセル10の選定処理を簡素化することができる。
【0114】
また、本実施の形態によれば、セル劣化度が所定値よりも高い使用済みのセル10が選定対象から除外される。このことにより、使用済みのセル10を用いた電気化学セルスタック1の寿命を向上させることができ、信頼性を向上させることができる。
【0115】
なお、上述した本実施の形態においては、選定算出部65は、電気化学セルスタック1を構成する全てのセル10に、使用済みのセル10を割り当てている例について説明した。しかしながら、実施の形態は、このことに限られることはない。例えば、選定算出部65は、電気化学セルスタック1を構成する一部のセル10に、新品のセル10を割り当ててもよい。この場合、使用済みのセル10を用いた電気化学セルスタック1の寿命を向上させることができ、信頼性を向上させることができる。
【0116】
また、上述した本実施の形態においては、選定算出部65が、劣化度ランクに対応するセル劣化度の範囲の最大値であるみなしセル劣化度を、使用済みのセル10のセル劣化度とみなして処理を行う例について説明した。しかしながら、実施の形態は、このことに限られることはない。例えば、選定算出部65は、第1データベース41から取得した各使用済みのセル10のセル劣化度を用いて、使用済みのセル10の選定を行うとともに電気化学セルスタックの寿命を算出してもよい。
【0117】
また、上述した本実施の形態においては、位置決定部66が、劣化度ランクに対応するセル劣化度の範囲の最大値であるみなしセル劣化度を、使用済みのセル10のセル劣化度とみなして処理を行う例について説明した。しかしながら、実施の形態は、このことに限られることはない。例えば、位置決定部66は、第1データベース41から取得した各使用済みのセル10のセル劣化度を用いて、使用済みのセル10の積層位置を決定してもよい。
【0118】
また、上述した本実施の形態においては、価格算出部67が、劣化度ランクに対応するセル劣化度の範囲の最大値であるみなしセル劣化度を、使用済みのセル10のセル劣化度とみなして処理を行う例について説明した。しかしながら、実施の形態は、このことに限られることはない。例えば、価格算出部67は、第1データベース41から取得した各使用済みのセル10のセル劣化度を用いて、電気化学セルスタック1の価格を算出してもよい。
【0119】
また、上述した本実施の形態においては、演算部60がランク割当部62を含んでいる例について説明した。しかしながら、実施の形態は、このことに限られることはない。例えば、演算部60は、ランク割当部62を含んでいなくてもよい。この場合、使用済みのセル10が、劣化度ランクを割り当てられることなく、設計が行われてもよい。また、演算部60がランク割当部62を含んでいない場合、第1データベース41に格納されている使用済みのセル10がすでに劣化度ランクが割り当てられていてもよい。この場合、設計装置50による各種処理で、みなしセル劣化度が、セル劣化度と見なされて処理が行われる。
【0120】
また、上述した本実施の形態においては、電気化学セルスタック1が内部マニホールド構造を有している例について説明した。しかしながら、実施の形態は、このことに限られることはない。例えば、電気化学セルスタック1は外部マニホールド構造を有していてもよい。この場合、セル枠20は用いられることはなく、膜電極接合体10Mとセパレータ30が積層された積層体の外側面に、各ガスの流路を形成するマニホールドが設けられる。
【0121】
また、上述した本実施の形態においては、2つのセル10の間に、カソード流路31とアノード流路32とを含む1つのセパレータ30が介在されている例について説明した。しかしながら、実施の形態は、このことに限られることはない。例えば、2つのセル10の間に、カソード流路を含むカソード側セパレータと、アノード流路を含むアノード側セパレータが介在されていてもよい。カソード側セパレータとアノード側セパレータとの間に、図示しない冷却水流路が形成されていてもよい。
【0122】
また、上述した本実施の形態においては、仕様算出部64が、仕様寿命に基づいて、電気化学セルスタック1の仕様スタック劣化度を算出し、選定算出部65が、仕様スタック劣化度に基づいて使用済みのセル10を選定する例について説明した。しかしながら、実施の形態は、このことに限られることはない。例えば、選定算出部65が、仕様スタック劣化度を用いることなく、電気化学セルスタック1の寿命が仕様寿命を満足するように使用済みのセル10を選定してもよい。
【0123】
また、上述した本実施の形態においては、仕様取得部63が、電気化学セルスタック1の仕様寿命とともに仕様セル枚数を取得する例について説明した。しかしながら、実施の形態は、このことに限られることはない。例えば、仕様セル枚数がユーザ仕様によらずに固定値である場合、仕様取得部63は、仕様寿命を取得することなく、仕様セル枚数を取得してもよい。選定算出部65は、固定値である仕様セル枚数に基づいて、使用済みのセル10を選定してもよい。
【0124】
以上述べた実施の形態によれば、使用済みのセル10を再利用して低コスト化を図ることができる。
【0125】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、当然のことながら、本発明の要旨の範囲内で、これらの実施の形態を、部分的に適宜組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0126】
1:電気化学セルスタック、10:セル、14:識別記号、40:設計システム、41:第1データベース、42:第2データベース、50:設計装置、61:劣化度取得部、62:ランク割当部、63:仕様取得部、64:仕様算出部、65:選定算出部、66:位置決定部、67:価格算出部、68:表示情報作成部