(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124245
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】NQR装置用の電子サンプル
(51)【国際特許分類】
G01N 24/00 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
G01N24/00 T
G01N24/00 100A
G01N24/00 580E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032257
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】307011510
【氏名又は名称】株式会社熊平製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100163186
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 裕吉
(72)【発明者】
【氏名】太田 剛
(72)【発明者】
【氏名】有澤 翼
(57)【要約】
【課題】核四極共鳴(NQR)装置の動作確認や検査などで使用される経年変化しないサンプルを提供する。
【解決手段】NQR装置の動作確認に使用される電子サンプル100は、NQR装置から目的物質の検知用に出力されるRF励起パルスを受信する受信コイル11と、任意の目的物質の固有のNQR周波数で発振してNQR原信号を発生させる発振器14と、NQR装置の計測シーケンスと同期した信号パターンを生成するパターン生成器15と、NQR原信号と信号パターンとをミキシングしてNQR模擬信号を生成するミキサ16と、NQR模擬信号を送出する送信コイル12とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核四極共鳴(NQR)装置の動作確認に使用される電子サンプルであって、
NQR装置から目的物質の検知用に出力されるRF励起パルスを受信する受信コイルと、
任意の目的物質の固有のNQR周波数で発振してNQR原信号を発生させる発振器と、
NQR装置の計測シーケンスと同期した信号パターンを生成するパターン生成器と、
前記NQR原信号と前記信号パターンとをミキシングしてNQR模擬信号を生成するミキサと、
前記NQR模擬信号を送出する送信コイルと、を備えた
ことを特徴とする電子サンプル。
【請求項2】
前記パターン生成器が前記信号パターンとしてNQR信号の縦緩和時間ごとに論理反転するパターンを生成する、請求項1に記載の電子サンプル。
【請求項3】
前記パターン生成器が前記パターンとしてNQR信号のFID信号のエンベロープを模したパターンを生成する、請求項1に記載の電子サンプル。
【請求項4】
前記パターン生成器が前記パターンとしてNQR信号のエコー信号のエンベロープを模したパターンを生成する、請求項1に記載の電子サンプル。
【請求項5】
前記受信コイルが受信したRF励起パルスから前記発振器、前記パターン生成器、および前記ミキサを駆動する電源を生成する電源生成部を備えた、請求項1ないし4のいずれか一つに記載の電子サンプル。
【請求項6】
前記受信コイルが受信したRF励起パルスを減衰させてA/D変換する励起パルス処理部と、
前記A/D変換された信号を解析して前記RF励起パルスの信号特性を特定し、当該信号特性に応じて前記発振器の発振周波数および前記パターン生成器が生成する前記信号パターンを変更するコントローラと、を備えた、請求項1ないし4のいずれか一つに記載の電子サンプル。
【請求項7】
核四極共鳴(NQR)装置が、目的物質と同じNQR周波数のNQR模擬信号を発生させる電子サンプルに対してRF励起パルスを照射するステップと、
前記電子サンプルが、前記RF励起パルスを受信してNQR模擬信号を送出するステップと、
NQR装置が、前記電子サンプルから送出されたNQR模擬信号を受信するステップと、
NQR装置が、受信したNQR模擬信号を処理するステップと、を備えた
ことを特徴とするNQR装置の動作確認方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核四極共鳴(NQR:Nuclear Quadrupole Resonance)装置の動作確認や検査などで使用される試料(サンプル)に関し、特に、電子デバイスとして構成された電子サンプルに関する。
【背景技術】
【0002】
物質同定方法の一つに物質に含まれる原子核の核四極共鳴(NQR)を利用した方法がある。スピン量子数が1以上の原子核は核四極子モーメントを持ち、核スピンの固有準位が向きによって異なる。核スピンは、固有準位差に相当するエネルギーの電磁波を照射すると共鳴して電磁波のエネルギーを吸収して向きを変え、電磁波の照射を停止すると吸収したエネルギーを電波の形で放出しながら元の向きに戻る。このとき放出される電波の周波数(NQR周波数)が物質ごとに異なるため、NQRを利用することで物質を同定することができる。特に、爆発物や不正薬物などはスピン量子数が1となる窒素原子核を含んでいることからNQRを利用して検知することができる。
【0003】
従来、目的物質固有のNQR周波数を含むRF(Radio Frequency)励起パルスを検査対象物に照射し、パルス印加後に誘導されるNQR信号を受信することで目的物質の同定を行うNQR装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特にNQR装置はX線検査ができない、例えば人体内に秘匿した不正薬物などを検知するのに有用である。核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)という別タイプの核スピン共鳴を利用した物質同定方法もあるが、NMRは検査対象物に強力な磁場を印加する必要があるのに対して、NQRは磁場を印加する必要がない点で有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
NQR装置の動作確認や検査は目的物質のサンプルを使って行うが、爆発物や不正薬物は入手も保管もできないため、これら物質の検知試験は擬似サンプルの化学物質を使って行われる。このため、実際の爆発物や不正薬物に設定を合わせて最適化したNQR装置の動作確認が困難という問題がある。また、化学物質は長期間保管する間に潮解、固化、変成、分解などが生じて特性が変化するため、環境面や安全面で管理の手間がかかるという問題もある。
【0006】
上記問題に鑑み、本発明は、NQR装置の動作確認や検査などで使用される経年変化しないサンプルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に従うと、核四極共鳴(NQR)装置の動作確認に使用される電子サンプルであって、NQR装置から目的物質の検知用に出力されるRF励起パルスを受信する受信コイルと、任意の目的物質の固有のNQR周波数で発振してNQR原信号を発生させる発振器と、NQR装置の計測シーケンスと同期した信号パターンを生成するパターン生成器と、前記NQR原信号と前記信号パターンとをミキシングしてNQR模擬信号を生成するミキサと、前記NQR模擬信号を送出する送信コイルと、を備えた電子サンプルが提供される。
【0008】
例えば、前記パターン生成器が前記信号パターンとしてNQR信号の縦緩和時間ごとに論理反転するパターンを生成してもよいし、NQR信号のFID信号やエコー信号のエンベロープを模したパターンを生成してもよい。
【0009】
上記電子サンプルが、前記受信コイルが受信したRF励起パルスから前記発振器、前記パターン生成器、および前記ミキサを駆動する電源を生成する電源生成部を備えていてもよい。
【0010】
あるいは、上記電子サンプルが、前記受信コイルが受信したRF励起パルスを減衰させてA/D変換する励起パルス処理部と、前記A/D変換された信号を解析して前記RF励起パルスの信号特性を特定し、当該信号特性に応じて前記発振器の発振周波数および前記パターン生成器が生成する前記信号パターンを変更するコントローラとを備えていてもよい。
【0011】
本発明の別の局面に従うと、核四極共鳴(NQR)装置の動作確認方法であって、NQR装置が、目的物質と同じNQR周波数のNQR模擬信号を発生させる電子サンプルに対してRF励起パルスを照射するステップと、前記電子サンプルが、前記RF励起パルスを受信してNQR模擬信号を送出するステップと、NQR装置が、前記電子サンプルから送出されたNQR模擬信号を受信するステップと、NQR装置が、受信したNQR模擬信号を処理するステップと、を備えたNQR装置の動作確認方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、NQR装置の動作確認や検査などで使用される経年変化しないサンプルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る電子サンプルのブロック図である。
【
図2】NQR模擬信号生成の様子を表す模式図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係る電子サンプルのブロック図である。
【
図4】電子サンプルを使用したNQR装置動作確認のフローチャートである。
【
図5】NQR装置の計測シーケンスと取得されるNQR信号の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本発明を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。また、図面に描かれた各部材の寸法、細部の詳細形状などは実際のものとは異なることがある。
【0015】
(NQR計測シーケンス)
本発明の実施の形態の説明に先だってNQR装置の計測シーケンスについて説明する。
図5は、NQR装置の計測シーケンスと取得されるNQR信号の例を示す模式図である。NQR装置はシーケンスの初めに目的物質固有のNQR周波数のRF励起パルス(図中に表記したようにπ/2パルスともいう。)を検査対象物に所定時間照射して検査対象物中の目的物質の核スピン群を励起する。励起した核スピン群は、特定の軸(信号取得軸)に対して直交方向に傾く。このとき、わずかな時間(FID(Free Induction Decay)緩和時間T2*という。)だけ核スピン群の向きが揃い、印加されたπ/2パルスと同位相で単調減衰するNQR信号(図中に表記したようにFID信号ともいう。)が発生する。ただし、FID信号は強力なπ/2パルスの残留成分にかき消されてS/N比が悪いため、あえて取得しないことがある。
【0016】
NQR装置はπ/2パルス照射終了から適当な時間を置いて、核スピン群の位相を反転させるためのRF励起パルス(図中に表記したようにπパルスともいう。)を検査対象物に所定時間照射する。核スピン群は元の向きに戻る過程でπパルスが印加されることで位相反転し、πパルス印加終了からやや遅れて、初めに印加したπ/2パルスと同位相のNQR信号(図中に表記したようにエコー信号ともいう。)が発生する。エコー信号は増大した後に減衰する信号であり、その信号強度はFID信号よりも弱い。しかし、πパルス印加からやや遅れて発生するためπパルスの残留成分による影響が少ないため、よりS/N比のよい計測が可能になる。
【0017】
πパルスは1シーケンスで複数回照射されることがあり、その都度、信号強度は弱くなるものの複数回エコー信号を取得することできる。初めのπ/2パルス照射終了から一定時間(横緩和時間T2という。)経過後に核スピン群は元の向きへ戻り、エコー信号も発生しなくなる。さらに時間が経過し、初めのπ/2パルス照射終了から一定時間(縦緩和時間T1という。)経過すると、π/2パルスにより励起された核スピン群は基底状態に戻り、これにてNQR計測の1シーケンスが終了する。
【0018】
続くシーケンスで、π/2パルスのみ位相反転し、πパルスの位相はそのままにすれば、前のシーケンスで取得したエコー信号と逆位相のエコー信号が取得できる。こうして取得したエコー信号と前のシーケンスで取得したエコー信号との差分を取ればπパルスの残留成分がキャンセルされるとともにエコー信号を実質的に2倍に増幅することができる。NQR装置の中にはこのようにシーケンスごとにπ/2パルスの位相を反転して複数回のシーケンスを繰り返すフェイズサイクリングを行うものがある。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電子サンプルのブロック図である。本実施形態に係る電子サンプル100は、受信コイル11と、送信コイル12と、電源生成部13と、発振器14と、パターン生成器15と、ミキサ16とを備えている。電源生成部13、発振器14、パターン生成器15、およびミキサ16は制御基板に実装されている。
【0020】
受信コイル11および送信コイル12は、いずれも、同軸ケーブルや軟銅線などをコイル状あるいは渦巻き状に巻いたソレノイドアンテナあるいはループアンテナと呼ばれるアンテナコイルである。NQR計測においてNQR装置から目的物質固有のNQR周波数を含む数キロワットのRF励起パルスが極短時間断続的に出力される。受信コイル11は、NQR装置からそのようなRF励起パルスを受信するアンテナコイルである。送信コイル12は、電子サンプル100によって生成されるNQR模擬信号を送出するアンテナコイルである。NQR模擬信号とは、実際の目的物質から出力されるNQR信号を模擬した信号のことをいう。
【0021】
電源生成部13は、NQR装置からRF励起パルスが照射されたときに受信コイル11に発生する誘導起電力を整流および蓄電して、発振器14、パターン生成器15、およびミキサ16からなる信号発生回路に直流電源(例えばDC3.3V)を供給する回路である。すなわち、電子サンプル100は自己電源を有しておらず、発振器14、パターン生成器15、およびミキサ16は、電源生成部13がRF励起パルスから生成した電源で駆動される。
【0022】
発振器14は、任意の目的物質の固有のNQR周波数で発振してNQR原信号を発生させる発振器である。具体的には、発振器14は、水晶発振器、リングオシレータ、PLL(Phase Locked Loop)回路などで構成することができる。NQR周波数は目的物質によって異なるが、おおよそ数百k~数MHzの範囲にある。発振器14の発振周波数を何Hzに設定するかはNQR装置の検査対象物質による。例えば、NQR装置でNQR周波数が1MHzの目的物質の検知を行うのであれば、発振器14の発振周波数もその周波数で発振するように設定すればよい。発振器14の発振周波数を切り替えできるようにしておけば、電子サンプル100はさまざまな目的物質のNQR信号を模擬することができる。
【0023】
パターン生成器15は、NQR装置の計測シーケンスと同期した信号パターンを生成する回路である。例えば、NQR装置が上記のフェイズサイクリングを行う場合、パターン生成器15は、縦緩和時間T1ごとに論理反転する信号パターンを生成する。この場合の信号パターンは、デューティ比50%のクロック信号である。パターン生成器15は計測シーケンスの初めに電源生成部13がπ/2パルスから電源を生成することにより動作し始めることから、パターン生成器15が生成する信号パターンは自ずとNQR装置の計測シーケンスと同期したものとなる。縦緩和時間T1はNQR装置あるいは目的物質によって異なるが、おおよそ数十ミリ秒である。信号パターンの1サイクル長を何秒に設定するかはNQR装置の仕様およびNQR装置の検査対象物質による。パターン生成器15において信号パターンの1サイクル長を切り替えできるようにしておけば、電子サンプル100はさまざまな目的物質およびさまざまなNQR装置の計測シーケンスに対応することができる。
【0024】
パターン生成器15を使用することにより、位相反転にとどまらず、NQR信号波形をさらに正確に再現することも可能である。NQR信号が励起パルスに同期して発生した後、一定の横緩和時間T2に従って強度が低下し消滅する場合、パターン生成器15によって信号パターンの1サイクル長ごとに生成して横緩和時間T2に従って減衰し一定時間後消滅する波形を生成することにより、NQR装置の計測シーケンスに対応することに加えて、NQR信号の時間波形そのものも模擬した擬似NQR信号を生成する電子サンプル100を構成できる。模擬するNQR信号波形は、FID信号であってもエコー信号であってもよく、またsteady―state free precession信号など、その他の計測シーケンスに由来する波形であってもよい。
【0025】
ミキサ16は、発振器14から発生するNQR原信号とパターン生成器15が生成する信号パターンとをミキシングしてNQR模擬信号を生成する回路である。具体的には、ミキサ16は、NQR原信号と信号パターンとの排他的論理和を演算することでNQR模擬信号を生成する。ミキサ16により生成されたNQR模擬信号は送信コイル12から送出される。
【0026】
図2は、NQR模擬信号生成の様子を表す模式図である。例えば、発振器14から1MHzのNQR原信号が発生し、パターン生成器15によりクロックサイクル100msでデューティ比50%の信号パターンが生成される場合、それらがミキサ16でミキシングされて周波数が1MHzで50msごとに位相反転するNQR模擬信号が生成される。NQR装置は、送信コイル12から送出されるこのようなNQR模擬信号を受信することで、NQR周波数が1MHzの実際の目的物質を検知したときと同じ動きをする。
【0027】
以上のように、本実施形態によるとNQR装置の動作確認用のサンプルが電子デバイスで構成される。電子サンプル100は、化学物質と違って経年変化しないため、保管も管理も容易である。また、本実施形態に係る電子サンプル100はNQR装置から照射されるRF励起パルスを電気エネルギーに変換して動作するため自己電源が不要であり、使用時の電池切れの心配がない。
【0028】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態に係る電子サンプルのブロック図である。本実施形態に係る電子サンプル200は、受信コイル11と、送信コイル12と、発振器14と、パターン生成器15と、ミキサ16と、励起パルス処理部17と、コントローラ18と、を備えている。発振器14、パターン生成器15、ミキサ16、励起パルス処理部17、およびコントローラ18は制御基板に実装されて図略の自己電源により駆動される。発振器14、パターン生成器15、およびミキサ16は第1の実施形態で説明したとおりであるため繰り返しの説明を省略する。
【0029】
励起パルス処理部17は、受信コイル11が受信したRF励起パルスを減衰させてA/D変換する回路である。RF励起パルスは、照射時間は極短時間であるものの信号強度は1kW前後と非常に強力なため十分に減衰させた上でA/D変換する必要がある。
【0030】
コントローラ18は、励起パルス処理部17によりA/D変換された信号を解析して、受信コイル11が受信したRF励起パルスの周波数、照射パターン、照射時間などの信号特性を特定する。これにより、NQR装置が検知しようとしている目的物質が何であるか、どのような計測シーケンスが実施されているか、フェイズサイクリングが行われているかなどが特定できる。
【0031】
さらに、コントローラ18は、特定したRF励起パルスの信号特性に応じて発振器14の発振周波数およびパターン生成器15が生成する信号パターンを変更する。例えば、RF励起パルスの周波数が1MHzということが特定されれば、コントローラ18は、その周波数で発振するように発振器14を制御する。また、RF励起パルスが100msごとに位相反転していることが特定されれば、コントローラ18は、RF励起パルスに同期して50msごとに位相反転する信号パターンを生成するようにパターン生成器15を制御する。
【0032】
以上のように、本実施形態によると、NQR装置が検知しようとしている目的物質や計測シーケンスを自動判別してそれに対応したNQR模擬信号を生成することができる。このため、さまざまなNQR装置および幅広い目的物質に対応することができる。
【0033】
(NQR装置の動作確認フロー)
次に、電子サンプルを使用したNQR装置の動作確認手順について説明する。
図4は、電子サンプルを使用したNQR装置動作確認のフローチャートである。計測シーケンスが開始されると、NQR装置は電子サンプルに対してRF励起パルスを照射する(S11)。電子サンプルはRF励起パルスを受信するとNQR模擬信号を生成し、NQR装置に送出する(S21)。NQR装置は電子サンプルからNQR模擬信号を受信すると(S12)、実際の目的物質からのNQR信号を受信したときと同じようにFFT処理や積算などの各種信号処理を行う(S13)。そして、NQR装置は計測シーケンスが終わるまで(S14でNO)、電子サンプルに対するRF励起パルスの照射を繰り返す(S11)。
【0034】
擬似サンプルの化学物質を用いてNQR装置の動作確認を行う場合においてNQR装置が目的物質を検知できなかったとき、NQR装置側の異常なのか、あるいは擬似サンプルの変質によるものか判断つきかねることがある。一方、電子サンプルを用いたNQR装置の動作確認だと、もしステップS13でNQR装置が目的物質を検知できなければ、電子サンプルは目的物質と同じNQR周波数の信号を出力しているのであるから電子サンプル側に問題はないはずでNQR装置側に異常があると判断することができる。このように、電子サンプルを用いることで、入手や保持ができないような爆発物や不正薬物に設定を合わせて最適化したNQR装置の動作確認を行うことができる。
【0035】
≪変形例≫
図1に示した電子サンプル100において、電源生成部13に代えて自己電源を設けるようにしてもよい。ただし、その場合、パターン生成器15が生成する信号パターンをRF励起パルスと同期させるために、第2の実施形態で説明したような励起パルス処理部17を設けて、RF励起パルスのタイミングをパターン生成器15に与える必要がある。
【0036】
NQR装置がフェイズサイクリングを行わないのであれば、NQR模擬信号は
図2に示したように縦緩和時間ごとに位相反転する必要はなく、パターン発生器15が常時ハイレベルの信号パターンを生成するようにしてNQR原信号がそのまま出力されるようにしてもよい。あるいは、
図5に示したようなエコー信号の波形まで模擬する必要があれば、パターン発生器15がエコー信号のエンベロープを模した信号パターンを生成するようにすればよい。そうすると、本物のNQR信号と周波数だけでなく信号波形も同じNQR模擬信号を生成することができる。
【0037】
以上のように、本発明における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。また、上述の実施の形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【符号の説明】
【0038】
100,200 電子サンプル
11 受信コイル
12 送信コイル
13 電源生成部
14 発振器
15 パターン生成器
16 ミキサ
17 励起パルス処理部
18 コントローラ