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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124246
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】電動弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/04 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
F16K31/04 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032258
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110002608
【氏名又は名称】弁理士法人オーパス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 竜也
(72)【発明者】
【氏名】荒井 裕介
【テーマコード(参考)】
3H062
【Fターム(参考)】
3H062AA02
3H062AA15
3H062BB10
3H062CC02
3H062DD01
3H062EE06
3H062GG06
3H062HH04
3H062HH08
3H062HH09
(57)【要約】
【課題】弁体を移動させるために必要な力を備えつつ電動弁の状態の切替時間が短い電動弁を提供する。
【解決手段】電動弁1は、雄ねじ72cを有する駆動軸70と、雄ねじ72cが螺合される雌ねじ68cを有する案内部材68と、ローター51の回転を減速して駆動軸70に伝える遊星歯車機構60と、を有する。電動弁1は、雄ねじ72cのリードをLとし、遊星歯車機構60の減速比をKとしたとき、以下の式(1)および式(2)を満たす。
(1) 0.04K≦L≦0.10K
(2) 30≦K≦100
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁口を有する弁本体と、前記弁口と向かい合う弁体と、ローターを有するモーターと、雄ねじを有する駆動軸と、前記雄ねじが螺合される雌ねじを有する案内部材と、前記ローターの回転を減速して前記駆動軸に伝える歯車機構と、を有する電動弁であって、
前記駆動軸が回転されると、前記駆動軸が前記弁口に近づく方向または前記弁口から離れる方向に移動し、前記弁体が前記弁口に対して移動され、
前記雄ねじのリードをLとし、前記歯車機構の減速比をKとしたとき、以下の式(1)および式(2)を満たすことを特徴とする電動弁。
(1) 0.04K≦L≦0.10K
(2) 30≦K≦100
【請求項2】
前記雄ねじの外径をdとし、前記雄ねじの谷径をd1とし、前記雄ねじのピッチをpとしたとき、以下の式(3)および式(4)を満たす、請求項1に記載の電動弁。
(3) p≦{4×(2×d-5)}/(5×√3) (ただしd≦35/8のとき)
(4) p≦(24×d)/(35×√3) (ただしd≧35/8のとき)
【請求項3】
前記雄ねじおよび前記雌ねじが、多条ねじである、請求項1または請求項2に記載の電動弁。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動弁に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、従来の電動弁の一例を開示している。特許文献1の電動弁は、弁本体と、弁体と、駆動軸と、案内部材と、歯車機構と、ステッピングモーターと、を有している。弁本体は、弁口を有している。弁体は、開弁ばねによって弁口から離れる方向に押されている。駆動軸は、雄ねじを有している。弁口と弁体と駆動軸とは、一直線上に配置されている。案内部材は、駆動軸の雄ねじが螺合される雌ねじを有している。ステッピングモーターは、ローターと、ステーターと、を有している。ローターの回転は、歯車機構で減速され、駆動軸に伝わる。駆動軸が回転されると、駆動軸はねじ送り作用によって軸方向に移動する。
【0003】
ローターが第1方向に回転すると、駆動軸が弁体を押して、駆動軸が弁体を弁口に近づく方向に移動させる。ローターが第2方向に回転すると、駆動軸が弁口から遠ざかり、開弁ばねが弁体を弁口から離れる方向に移動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-173102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動弁は、例えば、自動車用エアコンの冷凍サイクルシステムにおいて冷媒流量を制御するために使用される。エアコンの運転モードの切り替えに応じて、電動弁は、全開状態から全閉状態に切り替わり、全閉状態から全開状態に切り替わることがある。ローターの回転が歯車機構で減速されるため、電動弁の状態の切り替えは時間がかかる。歯車機構の減速比を小さくすることで、弁体の移動速度が速くなり、切替時間を短くすることができる。しかしながら、歯車機構の減速比を小さくすると駆動軸が弁体を移動させるための力が小さくなる。そのため、弁口の大きさが制限され、電動弁のCv値が下がる。
【0006】
そこで、本発明は、弁体を移動させるために必要な力を備えつつ電動弁の状態の切替時間が短い電動弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、歯車機構の減速比および駆動軸の雄ねじのピッチが異なる複数の電動弁において、全開状態から全閉状態に切り替わる時間(切替時間)と駆動軸が弁体を移動させるための力(軸力)との関係について鋭意検討した。
【0008】
図5において、線A1は、減速比と切替時間と軸力との関係を模式的に示す。線A1の太さは、減速比の大きさを表している。図5において、線A2は、ピッチと切替時間と軸力との関係を模式的に示す。線A2の太さは、ピッチの大きさを表している。図5において、線A1と線A2との交点における減速比およびピッチは、基準の電動弁における減速比およびピッチである。
【0009】
線A1は、基準の電動弁においてピッチを変えずに減速比のみ変えたときの切替時間および軸力を示している。減速比が大きいほど切替時間および軸力が大きくなる。
【0010】
線A2は、基準の電動弁において減速比を変えずにピッチのみ変えたときの切替時間および軸力を示している。ピッチが大きいほど切替時間および軸力が小さくなる。
【0011】
図5において、線A3は、基準の電動弁において減速比およびピッチを変えずに雄ねじの条数を変えたときの切替時間および軸力を示している。条数が多いほど切替時間および軸力が小さくなる。雄ねじの条数をnとしたとき、雄ねじのリードはピッチのn倍である。
【0012】
本発明者らは、減速比およびリードの複数の組み合わせにおける切替時間および軸力を調査し、適切な切替時間および軸力を得ることができる減速比およびリードの関係を見出し、本発明に至った。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る電動弁は、弁口を有する弁本体と、前記弁口と向かい合う弁体と、ローターを有するモーターと、雄ねじを有する駆動軸と、前記雄ねじが螺合される雌ねじを有する案内部材と、前記ローターの回転を減速して前記駆動軸に伝える歯車機構と、を有する電動弁であって、前記駆動軸が回転されると、前記駆動軸が前記弁口に近づく方向または前記弁口から離れる方向に移動し、前記弁体が前記弁口に対して移動され、前記雄ねじのリードをLとし、前記歯車機構の減速比をKとしたとき、以下の式(1)および式(2)を満たすことを特徴とする。
(1) 0.04K≦L≦0.10K
(2) 30≦K≦100
【0014】
本発明において、前記雄ねじの外径をdとし、前記雄ねじの谷径をd1とし、前記雄ねじのピッチをpとしたとき、以下の式(3)および式(4)を満たす、ことが好ましい。
(3) p≦{4×(2×d-5)}/(5×√3) (ただしd≦35/8のとき)
(4) p≦(24×d)/(35×√3) (ただしd≧35/8のとき)
【0015】
本発明において、前記雄ねじおよび前記雌ねじが、多条ねじである、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、駆動軸の雄ねじのリードをLとし、歯車機構の減速比をKとしたとき、電動弁が上記式(1)および式(2)を満たす。このようにしたことから、電動弁は、弁体を移動させるために必要な力を備えつつ電動弁の状態の切替時間をより短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施例に係る電動弁の断面図である。
図2】電動弁の一部を拡大した断面図である。
図3】電動弁の状態が切り替わる時間(切替時間)と電動弁の駆動軸が弁体を移動させるための力(軸力)との関係を示すグラフである。
図4】駆動軸の外径と駆動軸のピッチとの関係を示すグラフである。
図5】歯車機構の減速比と切替時間と軸力との関係、および、駆動軸の雄ねじのピッチと切替時間と軸力との関係、を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施例に係る電動弁について、図1図4を参照して説明する。本実施例に係る電動弁は、自動車用エアコンの冷凍サイクルシステムにおいて冷媒流量を制御するために使用される。
【0019】
図1は、本発明の一実施例に係る電動弁の断面図である。図2は、電動弁の一部(主に弁体および駆動機構)を拡大した断面図である。図2において、ステーターユニットの記載を省略している。図3は、電動弁の状態が切り替わる時間(切替時間)と電動弁の駆動軸が弁体を移動させるための力(軸力)との関係を示すグラフである。図4は、駆動軸の外径と駆動軸のピッチとの関係を示すグラフである。
【0020】
図1図2に示すように、本実施例に係る電動弁1は、弁本体10と、ホルダー20と、弁体支持部材25と、キャン30と、弁体40と、駆動機構50と、ステーターユニット80と、を有している。
【0021】
弁本体10は、直方体形状を有している。弁本体10は、弁室13と、弁室13に接続された弁口14と、を有している。弁口14は、弁室13において弁座15に囲まれている。弁本体10は、第1通路17と、第2通路18と、を有している。第1通路17は、弁本体10の右側面10aから弁口14まで延びている。第1通路17は、弁口14を介して弁室13と接続されている。第2通路18は、弁本体10の左側面10bから弁室13まで延びている。弁本体10は、取付孔19を有している。取付孔19は、弁本体10の上面10cに配置されている。取付孔19の内周面には、雌ねじが設けられている。取付孔19は、弁室13と接続されている。取付孔19と弁室13との接続箇所には、上方を向く環状平面19aが設けられている。
【0022】
ホルダー20は、円筒形状を有している。ホルダー20の外周面の下部には、雄ねじが設けられている。ホルダー20の雄ねじは、弁本体10の取付孔19の雌ねじに螺合される。ホルダー20は、弁本体10にねじ構造で取り付けられている。
【0023】
弁体支持部材25は、円柱形状を有している。弁体支持部材25は、取付孔19において、弁本体10とホルダー20との間に配置されている。弁体支持部材25の下部は、弁室13に圧入されている。弁体支持部材25の外周面には、下方を向く環状平面25aが設けられている。ホルダー20の環状平面25aは、弁本体10の環状平面19aと接している。弁体支持部材25は、上下方向に延びる支持孔26を有している。支持孔26には、弁体40が挿通される。弁体支持部材25は、弁体40を上下方向(軸線M方向)に移動可能に支持する。
【0024】
キャン30は、円筒形状を有している。キャン30は、上端部が塞がれかつ下端部が開口している。キャン30の下端部は、円環板形状の接続部材35の外周縁に接合されている。接続部材35の内側にはホルダー20の上部20aが配置されている。接続部材35の内周縁は、ホルダー20に接合されている。キャン30は、接続部材35およびホルダー20を介して、弁本体10に固定されている。
【0025】
弁体40は、ステム41と、弁部42と、ばね受け部43と、ボール受け部44と、を有している。
【0026】
ステム41は、円柱形状を有している。ステム41は、弁体支持部材25の支持孔26に配置されている。ステム41は、弁体支持部材25によって上下方向に移動可能に支持されている。
【0027】
弁部42は、円環形状を有している。弁部42は、ステム41と一体的に形成されており、ステム41の下端部に配置されている。弁部42は、ステム41の外周面から径方向外方に突出している。弁部42は、弁口14と上下方向に向かい合う。
【0028】
ばね受け部43は、本体部43aと、フランジ部43bと、を有している。本体部43aは、円柱形状を有している。本体部43aの外径は、ステム41の外径と同じである。本体部43aは、第1孔43a1と、第2孔43a2と、を有している。第1孔43a1は、本体部43aの下端面に配置されている。第1孔43a1には、ステム41の上端部が配置される。本体部43aは、ステム41に同軸に接合されている。第2孔43a2は、本体部43aの上端面に配置されている。フランジ部43bは、円環形状を有している。フランジ部43bは、本体部43aと一体的に形成されており、本体部43aの上端部に配置されている。フランジ部43bは、本体部43aの外周面から径方向外方に突出している。
【0029】
ボール受け部44は、円形の平板部44aと、平板部44aの下面に接続された凸部44bと、を有している。平板部44aの上面には、円すい形状の凹部が設けられている。凸部44bは、ばね受け部43の本体部43aの第2孔43a2に嵌合されている。凸部44bは、ばね受け部43の本体部43aに固定されている。
【0030】
弁体40は、弁部42が弁口14に対して進退することにより、弁口14の開口面積を無段階(実質的に無段階を含む)に変更する。弁口14の開口面積の最小値は0である。なお、最小値は0より大きくてもよい。弁口14の開口面積が最小値のとき、電動弁1は全閉状態である。
【0031】
駆動機構50は、弁体40を上下方向に移動させる。駆動機構50は、ローター51と、永久磁石55と、磁気遮蔽部材56と、遊星歯車機構60と、案内部材68と、駆動軸70と、ボール76と、開弁ばね77と、を有している。
【0032】
ローター51は、円筒形状を有している。ローター51の外径は、キャン30の内径より小さい。ローター51は、キャン30の内側に回転可能に配置されている。ローター51の上端部には、円形の連結板52が接合されている。連結板52は、ローター51の上端部を塞いでいる。連結板52の中央をローター軸53が貫通している。ローター51は、連結板52を介してローター軸53に連結されている。ローター軸53は、ローター51とともに回転する。
【0033】
ローター51は、複数のN極と複数のS極とを有している。複数のN極と複数のS極とは、上下方向に延在している。複数のN極と複数のS極とは、ローター51の外周面に周方向に交互に配置されている。
【0034】
永久磁石55は、キャン30の内側においてローター51の上方に配置されている。永久磁石55は、円板形状を有している。永久磁石55は、ローター軸53の上端部に固定されている。永久磁石55は、ローター51と同軸に配置されており、ローター51とともに回転する。
【0035】
永久磁石55は、1つのN極と1つのS極とを有している。永久磁石55における直径で区画された一方の部分に1つのN極が配置され、他方の部分に1つのS極が配置されている。
【0036】
磁気遮蔽部材56は、円板形状を有している。磁気遮蔽部材56は、ローター51と永久磁石55との間に配置されている。磁気遮蔽部材56は、ケイ素鉄などの透磁率が比較的高い軟磁性体である。磁気遮蔽部材56は、ローター軸53に固定されている。磁気遮蔽部材56は、ローター51が生じる磁束を吸収する。磁気遮蔽部材56は、ローター51が生じる磁界によって永久磁石55が生じる磁界が歪むことを抑制する。
【0037】
遊星歯車機構60は、3K型の遊星歯車機構である。遊星歯車機構60は、例えば、2K-H型の遊星歯車機構でもよい。電動弁1は、遊星歯車機構60に代えて、減速機として機能する歯車機構を採用してもよい。遊星歯車機構60は、ローター51の内側に配置されている。遊星歯車機構60は、歯車ケース61と、固定リング歯車62と、太陽歯車63と、複数の遊星歯車64と、キャリア65と、出力歯車66と、出力軸67と、を有している。
【0038】
歯車ケース61は、円筒形状を有している。歯車ケース61の下端部は、ホルダー20の上部20aに同軸に接合されている。固定リング歯車62は、内歯車である。固定リング歯車62は、歯車ケース61の上端部に固定されている。
【0039】
太陽歯車63は、連結板52と一体的に形成されており、連結板52の下面に同軸に配置されている。太陽歯車63をローター軸53が貫通している。太陽歯車63は、ローター51および連結板52とともに回転する。
【0040】
キャリア65は、円板形状を有している。キャリア65の中央をローター軸53が貫通している。キャリア65は、ローター軸53を中心として回転可能である。キャリア65は、複数の遊星歯車64を回転可能に支持する。複数の遊星歯車64は、固定リング歯車62と太陽歯車63との間に配置されている。
【0041】
出力歯車66は、有底円筒形状を有している。出力歯車66は内歯車である。出力歯車66と太陽歯車63との間に複数の遊星歯車64が配置されている。出力軸67は、円柱形状を有している。出力軸67の上部は、出力歯車66の底部に設けられた孔に圧入されている。出力軸67の下部には、上下方向に延びるスリット67aが設けられている。出力軸67は、出力歯車66とともに回転される。
【0042】
太陽歯車63の回転は、固定リング歯車62、複数の遊星歯車64、キャリア65および出力歯車66によって減速されて、出力軸67に伝達される。遊星歯車機構60は、ローター51の回転を減速する減速機である。太陽歯車63の角速度を出力軸67の角速度で除した値が減速比である。太陽歯車63の角速度は、ローター51の角速度である。
【0043】
案内部材68は、円筒形状を有している。案内部材68は、ホルダー20の上部20aの内側に配置されている。案内部材68は、ホルダー20を介して弁本体10に対して固定されている。案内部材68は、雌ねじ68cを有している。雌ねじ68cは、案内部材68の内周面の下部に配置されている。案内部材68の内側には、出力軸67が配置されている。案内部材68は、出力軸67を回転可能に支持している。
【0044】
駆動軸70は、例えば、円柱形状の金属棒を切削加工することにより形成される。駆動軸70は、第1部分71と、第2部分72と、を有している。
【0045】
第1部分71は、長方形の平板形状を有している。第1部分71の厚さは、出力軸67のスリット67aの幅よりわずかに小さい。第1部分71は、出力軸67のスリット67aの内側に上下方向に移動可能に配置される。スリット67aおよび第1部分71によって、出力軸67の回転を駆動軸70に伝達しつつ、出力軸67に対する駆動軸70の上下方向の移動を可能にしている。
【0046】
第2部分72は、円柱形状を有している。第2部分72は、第1部分71と一体的に形成されており、第1部分71の下端部に接続されている。第2部分72は、雄ねじ72cを有している。雄ねじ72cは、第2部分72の外周面に配置されている。雄ねじ72cは、案内部材68の雌ねじ68cに螺合される。第2部分72の下端面には、円すい形状の凹部が設けられており、凹部にボール76が接合されている。ボール76は、ボール受け部44の平板部44aの凹部に摺動可能に接する。
【0047】
案内部材68の雌ねじ68cおよび駆動軸70の雄ねじ72cは、1条のねじである。雌ねじ68cおよび雄ねじ72cは、多条ねじでもよい。雌ねじ68cおよび雄ねじ72cを多条ねじにすることで、ピッチを変えずにリードを大きくすることができる。
【0048】
開弁ばね77は、弁体支持部材25と弁体40のフランジ部43bとの間に配置されている。開弁ばね77は、圧縮コイルばねである。開弁ばね77は、弁体40を上方(弁口14から離れる方向)に押している。
【0049】
ステーターユニット80は、ケース81と、ステーター82と、基板83と、を有している。ケース81は、合成樹脂製である。ケース81は、箱形状を有している。ケース81は、ステーター82および基板83を収容している。ステーター82および基板83は、ケース81にねじ止めされている。
【0050】
ステーター82は、円筒形状を有している。ステーター82の内側にキャン30が配置される。ステーター82とローター51とは、ステッピングモーター88を構成する。なお、電動弁1は、ステッピングモーター88に代えて、他の種類のモーターを有していてもよい。
【0051】
基板83は、角度センサー84を含む電子部品が実装されている。角度センサー84は、磁気式角度センサーである。角度センサー84は、基板83の下面に実装されている。角度センサー84は、キャン30の上方に配置されている。角度センサー84は、キャン30を介して、永久磁石55と上下方向に向かい合っている。角度センサー84は、角度センサー84を通る磁界の向きおよび大きさを検出する。角度センサー84が出力する電気信号に基づいて、永久磁石55の回転角度を取得することができる。
【0052】
電動弁1において、弁口14、ホルダー20、弁体支持部材25(支持孔26)、キャン30、弁体40、ローター51、連結板52、ローター軸53、永久磁石55、出力軸67、案内部材68、駆動軸70、ボール76、ステーター82は、それぞれの中心軸が軸線Mと一致する。
【0053】
次に、電動弁1の動作について説明する。
【0054】
電動弁1において、ステーター82に電流を供給して、ローター51を第1方向に回転させる。ローター51の回転は、遊星歯車機構60で減速されて駆動軸70に伝達される。駆動軸70が回転されると、駆動軸70の雄ねじ72cと案内部材68の雌ねじ68cとのねじ送り作用により、駆動軸70が下方に移動し、弁口14に近づく。駆動軸70によって弁体40が下方に押され、弁体40が下方に移動して弁口14の開口面積が小さくなる。弁体40が弁座15に接して弁口14が閉じると、電動弁1は全閉状態になる。
【0055】
電動弁1において、ステーター82に電流を供給して、ローター51を第2方向に回転させる。ローター51の回転は、遊星歯車機構60で減速されて駆動軸70に伝達される。駆動軸70が回転されると、駆動軸70の雄ねじ72cと案内部材68の雌ねじ68cとのねじ送り作用により、駆動軸70が上方に移動し、弁口14から離れる。開弁ばね77によって弁体40が上方に押され、弁体40が上方に移動して弁口14の開口面積が大きくなる。弁体40が弁口14から最も離れると、電動弁1は全開状態になる。電動弁1が全開状態になると、弁口14の開口面積が最大になる。
【0056】
電動弁1の全開状態から全閉状態(または、全閉状態から全開状態)に切り替わる時間である切替時間と、駆動軸70が弁体40を移動させるための力である軸力と、について検討する。
【0057】
電動弁1において、全開状態から全閉状態までの弁体40の移動量をZとし、ステッピングモーターの極数をNとし、ステッピングモーターのパルス信号の速度をVとし、ステッピングモーターの励磁方式をγとし、遊星歯車機構60の減速比をKとし、駆動軸70の雄ねじ72cのリードをLとしたとき、切替時間Tは次の式(a)で表される。
(a) T={(Z×N)/(γ×V)}×(K/L)
【0058】
また、電動弁1において、軸力は、駆動軸70に入力されるトルクおよび雄ねじ72cのリード角と関係を有する。トルクは減速比Kと関係を有し、リード角はリードLと関係を有する。
【0059】
このことから、切替時間および軸力は、減速比KおよびリードLと関係を有する。
【0060】
本発明者らは、遊星歯車機構60の減速比Kおよび駆動軸70の雄ねじ72cのリードLが異なる複数の電動弁1において、切替時間と軸力とを測定した。測定結果を図3に示す。雄ねじ72cは1条のねじであるため、リードはピッチと同じである。
【0061】
図3は、切替時間と軸力との関係を示すグラフである。切替時間の単位は「s」であり、軸力の単位は「N」である。
【0062】
点a1は、減速比Kが30でかつ雄ねじ72cのリードLが0.12Kの電動弁1の測定値である。
点a2は、減速比Kが30でかつ雄ねじ72cのリードLが0.10Kの電動弁1の測定値である。
点a3は、減速比Kが30でかつ雄ねじ72cのリードLが0.067Kの電動弁1の測定値である。
点a4は、減速比Kが30でかつ雄ねじ72cのリードLが0.05Kの電動弁1の測定値である。
点a5は、減速比Kが30でかつ雄ねじ72cのリードLが0.04Kの電動弁1の測定値である。
点a6は、減速比Kが30でかつ雄ねじ72cのリードLが0.03Kの電動弁1の測定値である。
線K30は、点a1~a6を通る線であり、減速比Kが30である電動弁1においてリードLを変化させたときの切替時間と軸力との関係を示す。
【0063】
点b1は、減速比Kが100でかつ雄ねじ72cのリードLが0.12Kの電動弁1の測定値である。
点b2は、減速比Kが100でかつ雄ねじ72cのリードLが0.10Kの電動弁1の測定値である。
点b3は、減速比Kが100でかつ雄ねじ72cのリードLが0.067Kの電動弁1の測定値である。
点b4は、減速比Kが100でかつ雄ねじ72cのリードLが0.05Kの電動弁1の測定値である。
点b5は、減速比Kが100でかつ雄ねじ72cのリードLが0.04Kの電動弁1の測定値である。
点b6は、減速比Kが100でかつ雄ねじ72cのリードLが0.03Kの電動弁1の測定値である。
線K100は、点b1~b6を通る線であり、減速比Kが100である電動弁1においてリードLを変化させたときの切替時間と軸力との関係を示す。
【0064】
自動車用エアコンにおいて運転モードをより速く切り替えることが求められている。そのため、電動弁1は、必要な軸力を備えつつ切替時間を短くすることが要求される。図3において、線D1は切替時間8sに対応し、線D2は、軸力の下限値(140N)に対応する。図3において線D1より左側でかつ線D2より上側の領域に含まれる測定値(点a2~a5、点b1~b5)を有する電動弁1は、必要な軸力を備えつつ切替時間をより短くすることができる。
【0065】
このことから、電動弁1は、次の式(1)および式(2)を満たすことで、必要な軸力を備えつつ切替時間をより短くすることができる。
(1) 0.04K≦L≦0.10K
(2) 30≦K≦100
【0066】
また、電動弁1は、次の式(1A)および式(2)を満たすことが好ましい。図3において、線D3は切替時間5sに対応する。図3において線D3より左側でかつ線D2より上側の領域に含まれる測定値(点a2、a3、点b1~b3)を有する電動弁1は、必要な軸力を備えつつ切替時間をさらに短くすることができる。
(1A) 0.067K≦L≦0.10K
(2) 30≦K≦100
【0067】
図4は、駆動軸70の雄ねじ72cの外径と雄ねじ72cのピッチとの関係を示すグラフである。外径の単位は「mm」であり、ピッチの単位は「mm」である。
【0068】
雄ねじ72cの外径(雄ねじ外径の基準寸法:JISB0205-4)をdとし、雄ねじ72cの谷径(雄ねじ谷の径の基準寸法:JISB0205-4)をd1とし、雄ねじ72cのピッチをpとし、雄ねじ72cのとがり山の高さをHとする。
【0069】
とがり山の高さHとピッチpとの関係、および、とがり山の高さHと外径dと谷径d1との関係を次の式(i)および式(ii)に示す。
(i) H=(√3×p)/2
(ii) d1=d-2×(5/8)×H
【0070】
これら式から、ピッチpを示す次の式(iii)が得られる。
(iii)p={8×(d-d1)}/(5×√3)
【0071】
駆動軸70において、雄ねじ72cのピッチpを大きくすると、谷径d1が小さくなる。谷径d1が小さくなると、駆動軸70の剛性が下がる。駆動軸70が必要な剛性を備えるようにするため、実績に基づき、谷径d1は次の式(iv)および式(v)で規定されている。
(iv) d1≧2.5 (ただしd≦35/8のとき)
(v) d/d1≦1.75 (ただしd≧35/8のとき)
【0072】
式(iii)および式(iv)から次の式(3)が得られる。
(3) p≦{4×(2×d-5)}/(5×√3) (ただしd≦35/8のとき)
【0073】
式(iii)および式(v)から次の式(4)が得られる。
(4) p≦(24×d)/(35×√3) (ただしd≧35/8のとき)
【0074】
図4において、線J3は式(3)に対応し、線J4は式(4)に対応し、線D4は外径35/8(4.375)mmに対応する。雄ねじ72cの外径が35/8mm以下のときピッチpを線J3以下にし、雄ねじ72cの外径が35/8mm以上のときピッチpを線J4以下にすることで、駆動軸70が必要な剛性を備えることができる。
【0075】
以上説明したように、電動弁1は、弁口14を有する弁本体10と、弁口14と向かい合う弁体40と、ローター51を有するステッピングモーター88と、雄ねじ72cを有する駆動軸70と、雄ねじ72cが螺合される雌ねじ68cを有する案内部材68と、ローター51の回転を減速して駆動軸70に伝える遊星歯車機構60と、を有する。駆動軸70が回転されると、駆動軸70が弁口14に近づく方向または弁口14から離れる方向に移動し、弁体40が弁口14に対して移動される。そして、雄ねじ72cのリードをLとし、遊星歯車機構60の減速比をKとしたとき、上記式(1)および式(2)を満たす。このようにしたことから、電動弁1は、必要な軸力を備えつつ当該電動弁1の状態の切替時間をより短くすることができる。
【0076】
また、雄ねじ72cの外径をdとし、雄ねじ72cの谷径をd1とし、雄ねじ72cのピッチをpとしたとき、上記式(3)および式(4)を満たす。このようにすることで、駆動軸70が、必要な剛性を備えることができる。
【0077】
本明細書において、「円筒」や「円柱」、「直方体」等の形状を示す各用語は、実質的にその用語の形状を有する部材や部材の部分にも用いられている。例えば、「円筒形状の部材」は、円筒形状の部材と実質的に円筒形状の部材とを含む。
【0078】
上記に本発明の実施例を説明したが、本発明は実施例の構成に限定されるものではない。前述の実施例に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、実施例の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の趣旨に反しない限り、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0079】
1…電動弁、10…弁本体、10a…右側面、10b…左側面、10c…上面、13…弁室、14…弁口、15…弁座、17…第1通路、18…第2通路、19…取付孔、19a…環状平面、20…ホルダー、20a…上部、25…弁体支持部材、25a…環状平面、26…支持孔、30…キャン、35…接続部材、40…弁体、41…ステム、42…弁部、43…ばね受け部、43a…本体部、43a1…第1孔、43a2…第2孔、43b…フランジ部、44…ボール受け部、44a…平板部、44b…凸部、50…駆動機構、51…ローター、52…連結板、53…ローター軸、55…永久磁石、56…磁気遮蔽部材、60…遊星歯車機構、61…歯車ケース、62…固定リング歯車、63…太陽歯車、64…遊星歯車、65…キャリア、66…出力歯車、67…出力軸、67a…スリット、68…案内部材、68c…雌ねじ、70…駆動軸、71…第1部分、72…第2部分、72c…雄ねじ、76…ボール、77…開弁ばね、80…ステーターユニット、81…ケース、82…ステーター、83…基板、84…角度センサー、88…ステッピングモーター、M…軸線

図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-08-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
弁体支持部材25は、円柱形状を有している。弁体支持部材25は、取付孔19において、弁本体10とホルダー20との間に配置されている。弁体支持部材25の下部は、弁室13に圧入されている。弁体支持部材25の外周面には、下方を向く環状平面25aが設けられている。環状平面25aは、弁本体10の環状平面19aと接している。弁体支持部材25は、上下方向に延びる支持孔26を有している。支持孔26には、弁体40が挿通される。弁体支持部材25は、弁体40を上下方向(軸線M方向)に移動可能に支持する。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁口を有する弁本体と、前記弁口と向かい合う弁体と、ローターを有するモーターと、雄ねじを有する駆動軸と、前記雄ねじが螺合される雌ねじを有する案内部材と、前記ローターの回転を減速して前記駆動軸に伝える歯車機構と、を有する電動弁であって、
前記駆動軸が回転されると、前記駆動軸が前記弁口に近づく方向または前記弁口から離れる方向に移動し、前記弁体が前記弁口に対して移動され、
前記雄ねじのリードをLとし、前記歯車機構の減速比をKとしたとき、以下の式(1)および式(2)を満たすことを特徴とする電動弁。
(1) 0.04K≦L≦0.10K
(2) 30≦K≦100
【請求項2】
前記雄ねじの外径をdとし、前記雄ねじのピッチをpとしたとき、以下の式(3)および式(4)を満たす、請求項1に記載の電動弁。
(3) p≦{4×(2×d-5)}/(5×√3) (ただしd≦35/8のとき)
(4) p≦(24×d)/(35×√3) (ただしd≧35/8のとき)
【請求項3】
前記雄ねじおよび前記雌ねじが、多条ねじである、請求項1または請求項2に記載の電動弁。
【請求項4】
以下の式(2A)をさらに満たす、請求項1に記載の電動弁。
(2A) K=30
【請求項5】
前記モーターが、ステッピングモーターであり、
前記弁体が前記弁口から最も離れた全開状態から前記弁口が閉じた全閉状態までの前記弁体の移動量をZとし、前記ステッピングモーターの極数をNとし、前記ステッピングモーターのパルス信号の速度をVとし、前記ステッピングモーターの励磁方式をγとしたとき、以下の式(a1)をさらに満たす、請求項1または請求項4に記載の電動弁。
(a1) {(Z×N)/(γ×V)}×(K/L)<8
【請求項6】
以下の式(1A)および式(a2)をさらに満たす、請求項5に記載の電動弁。
(1A) 0.067K≦L≦0.10K
(a2) {(Z×N)/(γ×V)}×(K/L)<5