(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124267
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】抽出方法及び抽出装置
(51)【国際特許分類】
A47J 31/057 20060101AFI20240905BHJP
A23L 2/38 20210101ALN20240905BHJP
【FI】
A47J31/057
A23L2/38 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032300
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000127237
【氏名又は名称】株式会社イズミフードマシナリ
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】杉舩 大亮
(72)【発明者】
【氏名】曾 炳堯
【テーマコード(参考)】
4B104
4B117
【Fターム(参考)】
4B104AA12
4B104BA14
4B104BA39
4B104CA01
4B104CA30
4B104DA11
4B104EA23
4B117LG13
4B117LP01
4B117LT05
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、粉砕麦を抽出原料とした抽出において、作業環境の質を低下させることなく、抽出液を効率的に得ることが可能な抽出方法及び抽出装置を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、粉砕麦を、濾過網を有する抽出器に投入する粉砕麦投入ステップと、抽出器に投入された粉砕麦に対し温水によるシャワーリングを行うシャワーリングステップと、を備え、粉砕麦による濾過網の目詰まり状態が生じる前に、シャワーリングステップを停止する、粉砕麦を抽出原料とした抽出方法及び抽出装置を提供する。
この発明によれば、抽出効率が高い一方で、含まれる澱粉成分によって抽出液の払出が困難となっていた粉砕麦を抽出原料として用いることができる。特に、従来のニーダー方式によらない抽出を可能とする抽出方法及び抽出装置であり、効率的、かつ作業環境の質を低下させない抽出を行うことが可能となる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕麦を抽出原料とした抽出方法であって、
前記粉砕麦を、濾過網を有する抽出器に投入する粉砕麦投入ステップと、
前記抽出器に投入された前記粉砕麦に対し温水によるシャワーリングを行うシャワーリングステップと、を備え、
前記粉砕麦による前記濾過網の目詰まり状態が生じる前に、前記シャワーリングステップを停止することを特徴とする、抽出方法。
【請求項2】
前記濾過網の目詰まり状態を検知する検知ステップを設け、
前記検知ステップは、前記抽出器の水位及び/又は前記抽出器からの払出流量の変動を検知することを特徴とする、請求項1に記載の抽出方法。
【請求項3】
前記抽出器内に温水を供給する温水供給ステップを備え、
前記温水供給ステップは、前記シャワーリングステップよりも先に行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の抽出方法。
【請求項4】
前記粉砕麦の表層を均す粉砕麦均しステップを備え、
前記粉砕麦均しステップは、前記粉砕麦投入ステップの後で、前記シャワーリングステップよりも前に行うことを特徴とする、請求項3に記載の抽出方法。
【請求項5】
前記温水供給ステップは、液面が前記濾過網よりも高い位置になるまで温水の供給を行うことを特徴とする、請求項3に記載の抽出方法。
【請求項6】
抽出原料としてのホール麦を前記抽出器に投入するホール麦投入ステップを備え、
前記ホール麦投入ステップは、前記粉砕麦投入ステップよりも先に行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の抽出方法。
【請求項7】
前記粉砕麦投入ステップで粉砕麦を前記抽出器に投入した後、液中で粉砕麦の撹拌を禁止する撹拌禁止ステップを備えることを特徴とする、請求項1に記載の抽出方法。
【請求項8】
粉砕麦を抽出原料とした抽出装置であって、
濾過網を有する抽出器と、
前記粉砕麦を、前記抽出器に投入する粉砕麦投入手段と、
前記抽出器に投入された前記粉砕麦に対し温水によるシャワーリングを行うシャワーリング手段と、を備え、
前記粉砕麦による前記濾過網の目詰まり状態が生じる前に、前記シャワーリング手段を停止させることを特徴とする、抽出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽出方法及び抽出装置に関するものである。より詳細には、本発明は、粉砕麦を抽出原料とした抽出方法及び抽出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲料製造において、抽出原料から抽出液を得る場合、上部が開放されたタンク内に抽出原料と水(温水)を投入し、タンク内の撹拌を行うことで抽出液を得ること(ニーダー方式)が一般的である。
一方で、ニーダー方式では、抽出原料が撹拌により粉砕され、抽出液の濁りが生じ、雑味が増すことがある。そのため、ニーダー方式によらない抽出方法及び抽出装置についても広く検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、閉鎖型の抽出槽内に抽出原料(茶類等の原料素材)と抽出水とを供給し、抽出液の一部を抽出槽外に取り出して還流させる抽出方法及び抽出装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される抽出方法及び抽出装置は、抽出原料の破砕を抑制するために、抽出液の還流を行うことで抽出槽内に噴流を生じさせて撹拌を行うものである。すなわち、従来のニーダー方式によらず、抽出原料の破砕を抑制しながら抽出を行うこと自体は知られている。
【0006】
また、一般的に、ニーダー方式では、タンク内の抽出液と抽出後の抽出原料(抽出粕)を分離するために、タンクを横倒ししてタンク内の内容物(抽出液と抽出粕の混合物)を排出し、固液分離(粕分離)が行われる。この操作は、開放系で行われるため、周辺環境が高温多湿化し、抽出後のタンク洗浄も作業員による操作が必要となることから、作業環境の質の低下が懸念される。
そして、特許文献1に記載の抽出方法及び抽出装置では、抽出槽が閉鎖型である(抽出器の密閉が可能である)とともに、抽出槽内に設けた濾過板により、抽出槽内で抽出液と抽出粕を分離することができる。そのため、抽出槽の内容物を開放系で系外に排出する必要がないため、従来のニーダー方式とは異なり、作業環境の質の低下を抑制できるという利点がある。
【0007】
ここで、麦茶飲料の製造に当たっては、抽出原料として主にホール麦(未粉砕かつ乾燥状態の粒状の麦)を用いて抽出を行うことが一般的であるが、ホール麦はその形態・性質上、温水が浸透しにくく、液面に浮かびやすいため、抽出効率が低いという問題がある。そのため、抽出原料として粉砕麦を用いることが検討されている。
しかし、粉砕麦を用いた場合、温水が浸透しやすく抽出効率が向上する一方で、原料となる麦自体に含まれる澱粉成分により、抽出後の抽出原料(抽出粕)と抽出液との分離が困難になるという問題が生じる。特に、作業環境の質の低下を抑制するために、開放系ではなく、特許文献1に記載されるような密閉可能な抽出器を用いる場合、抽出器内において抽出液と抽出粕を分離するための構造体(特許文献1に記載の濾過板)上に抽出粕が付着すると、糊化した澱粉成分によって抽出粕が次々と堆積していき、目詰まりを起こすことに加え、液相の粘度も増加することで、抽出液が抽出器から排出(払出)されなくなるという問題が生じる。そのため、これまでの麦茶飲料の製造においては、作業環境の質は低下するが、ニーダー方式を採用せざるを得ないという状況にあった。
【0008】
そこで、本発明の課題は、粉砕麦を抽出原料とした抽出において、作業環境の質を低下させることなく、抽出液を効率的に得ることが可能な抽出方法及び抽出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、粉砕麦を抽出原料とする抽出において、濾過網を有する抽出器を用い、抽出器内に粉砕麦と温水を供給し抽出を行うに当たり、抽出後の粉砕麦(抽出粕)が濾過網に接触する前に抽出を効率的に進行させることで、作業環境の質を低下させることなく、抽出液を効率的に得ることが可能なことを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下を特徴とする抽出方法及び抽出装置である。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の抽出方法は、粉砕麦を抽出原料とした抽出方法であって、粉砕麦を、濾過網を有する抽出器に投入する粉砕麦投入ステップと、抽出器に投入された粉砕麦に対し温水によるシャワーリングを行うシャワーリングステップと、を備え、粉砕麦による濾過網の目詰まり状態が生じる前に、シャワーリングステップを停止することを特徴とする。
この特徴によれば、抽出原料として粉砕麦を用い、この粉砕麦を、濾過網を有する抽出器に投入し、この抽出器内で温水によるシャワーリングを行うことで、抽出器内の粉砕麦全体に対し、抽出に用いる溶媒(以下、「処理液」と呼ぶ)である温水を効率的に接触させることが可能となり、抽出を効率的に進行させることが容易となる。
また、併せて、シャワーリングを停止するタイミングを、粉砕麦(特に抽出後の粉砕麦(抽出粕))による濾過網の目詰まり状態が生じる前とすることで、粉砕麦(抽出粕)が濾過網に付着することで抽出液の払出が困難となる前に、処理液(温水)の供給が停止することになる。このとき、粉砕麦は比重が軽く、抽出器内の処理液上方(液面)近傍に存在し、抽出粕については完全に吸水し沈降するまで濾過網に接触することがない。すなわち、処理液(温水)の供給が停止した時点の液面近傍に、粉砕麦(抽出粕)が存在する状態を維持したままで、抽出液の払出を行うことができる。これにより、粉砕麦(抽出粕)が濾過網に接触する前に、抽出に係る操作(特に抽出液の払出)を効率的に進行させることができる。
したがって、本発明は、抽出効率が高い一方で、含まれる澱粉成分によって抽出液の払出が困難となっていた粉砕麦を抽出原料として用いることができる抽出方法となる。特に、従来のニーダー方式によらない抽出を可能とする抽出方法であることで、効率的、かつ作業環境の質を低下させない抽出を行うことが可能となる。
【0011】
また、本発明の抽出方法の一実施態様としては、濾過網の目詰まり状態を検知する検知ステップを設け、検知ステップは、抽出器の水位及び/又は抽出器からの払出流量の変動を検知することを特徴とする。
この特徴によれば、濾過網の目詰まり状態を的確に把握することが容易となり、抽出液の払出が完全に困難となる前に、適切な対応を図ることが可能となる。これにより、抽出全体としての効率低下を抑制することが可能となる。
【0012】
また、本発明の抽出方法の一実施態様としては、抽出器内に温水を供給する温水供給ステップを備え、温水供給ステップは、シャワーリングステップよりも先に行うことを特徴とする。
この特徴によれば、シャワーリングよりも先に抽出器内に温水を供給することで、抽出器内において粉砕麦が処理液上方(温水液面近傍)に存在する状態を形成した後、シャワーリングによる抽出を行うことが可能となる。これにより、粉砕麦の抽出が処理液上方で進行するため、粉砕麦(抽出粕)が濾過網に接触するまでの時間を一定程度確保することが容易となる。したがって、粉砕麦(抽出粕)が濾過網に接触する前に、抽出を効率的に進行させることがより一層容易となる。
【0013】
また、本発明の抽出方法の一実施態様としては、粉砕麦の表層を均す粉砕麦均しステップを備え、粉砕麦均しステップは、粉砕麦投入ステップの後で、シャワーリングステップよりも前に行うことを特徴とする。
この特徴によれば、抽出器内に投入された粉砕麦の層の厚さを均一化することで一様な抽出を可能とする。また、粉砕麦の層の厚さが薄い箇所が生じると、その箇所では粉砕麦の量に対してシャワーリングによって通過する温水量が他の箇所よりも多くなるため、粉砕麦が吸水して沈降するまでの時間が短くなり、濾過網の目詰まりを起こしやすくなる。そのため、シャワーリングよりも前に、粉砕麦の表面を均し、粉砕麦の層の厚さを均等にすることで、濾過網の目詰まりを抑制し、効率的な抽出液の払出が可能となる。
【0014】
また、本発明の抽出方法の一実施態様としては、温水供給ステップは、液面が濾過網よりも高い位置になるまで温水の供給を行うことを特徴とする。
この特徴によれば、抽出器内において、粉砕麦が濾過網の上方、かつ処理液の上方(温水液面近傍)に存在する状態を形成した後、シャワーリングによる抽出を行うことが可能となる。これにより、粉砕麦(抽出粕)が濾過網に接触するまでの時間を一定程度確保することがより一層容易となる。したがって、粉砕麦(抽出粕)が濾過網に接触する前に、効率的な抽出をより一層確実に進行させることが可能となる。
【0015】
また、本発明の抽出方法の一実施態様としては、抽出原料としてのホール麦を抽出器に投入するホール麦投入ステップを備え、ホール麦投入ステップは、粉砕麦投入ステップよりも先に行うことを特徴とする。
この特徴によれば、粉砕麦と併せてホール麦も抽出原料として使用することができる。そして、ホール麦は粉砕麦と比べて抽出に要する時間が長いため、粉砕麦よりも先に抽出器に投入することでホール麦に係る抽出時間を確保し、効率的な抽出液の払出を図ることが可能となる。
【0016】
また、本発明の抽出方法の一実施態様としては、粉砕麦投入ステップで粉砕麦を抽出器に投入した後、液中で粉砕麦の撹拌を禁止する撹拌禁止ステップを備えることを特徴とする。
粉砕麦は吸水しやすいため、液中で撹拌を行うと吸水が一気に進むことになり、濾過網との接触までの時間が短くなることで、濾過網の目詰まりを起こしやすくなる。また、粉砕麦に含まれる微粉が、撹拌による液の流れに伴って濾過網を通過(流下)し、抽出液に濁りが生じることが懸念される。
この特徴によれば、粉砕麦を抽出器に投入した後に撹拌を禁止することで、粉砕麦の吸水の進行を抑制し、かつ抽出液の払出において抽出液の清澄度低下を抑制することが可能となる。
【0017】
また、上記課題を解決するための本発明の抽出装置は、粉砕麦を抽出原料とした抽出装置であって、濾過網を有する抽出器と、粉砕麦を、抽出器に投入する粉砕麦投入手段と、抽出器に投入された粉砕麦に対し温水によるシャワーリングを行うシャワーリング手段と、を備え、粉砕麦による濾過網の目詰まり状態が生じる前に、シャワーリング手段を停止させることを特徴とする。
この特徴によれば、抽出原料として粉砕麦を用い、この粉砕麦を、濾過網を有する抽出器に投入し、この抽出器内で温水によるシャワーリングを行うことで、抽出器内の粉砕麦全体に対し、処理液である温水を効率的に接触させることが可能となり、抽出を効率的に進行させることが容易となる。
また、併せて、シャワーリングを停止するタイミングを、粉砕麦(特に抽出後の粉砕麦(抽出粕))による濾過網の目詰まり状態が生じる前とすることで、粉砕麦(抽出粕)が濾過網に付着することで抽出液の払出が困難となる前に、処理液(温水)の供給が停止することになる。このとき、粉砕麦は比重が軽く、抽出器内の処理液上方(液面)近傍に存在し、抽出粕については完全に吸水し沈降するまで濾過網に接触することがない。すなわち、処理液(温水)の供給が停止した時点の液面近傍に、粉砕麦(抽出粕)が存在する状態を維持したままで、抽出液の払出を行うことができる。これにより、粉砕麦(抽出粕)が濾過網に接触する前に、抽出に係る操作(特に抽出液の払出)を効率的に進行させることができる。
したがって、本発明は、抽出効率が高い一方で、含まれる澱粉成分によって抽出液の払出が困難となっていた粉砕麦を抽出原料として用いる抽出装置として提供される。特に、従来のニーダー方式によらない抽出を可能とする抽出装置であるため、効率的、かつ作業環境の質を低下させない抽出を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、粉砕麦を抽出原料とした抽出において、作業環境の質を低下させることなく、抽出液を効率的に得ることが可能な抽出方法及び抽出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施態様に係る抽出装置の概略説明図である。
【
図2】本発明の第1の実施態様に係る抽出方法に係るフロー図である。
【
図3】本発明の第2の実施態様に係る抽出方法に係るフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る抽出方法及び抽出装置の実施態様を詳細に説明する。
なお、実施態様に記載する抽出方法及び抽出装置については、本発明に係る抽出方法及び抽出装置を説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明における抽出原料は、抽出液がいわゆる麦茶飲料として提供されるものであり、少なくとも粉砕麦を含むものである。また、本発明における抽出原料は、粉砕麦と併せてホール麦を使用するものとしてもよい。
ここで、本発明におけるホール麦及び粉砕麦は、主に原料麦を公知の方法で焙煎したものを指している。また、粉砕麦とは、丸粒状態の麦(ホール麦)が粉砕(または破砕)され、抽出成分が流出しやすいように加工されたものであればよく、粉砕後の粒径については特に限定されない。
そして、原料麦の種類としては、いわゆる麦茶飲料の原料として公知のものであれば特に限定されない。具体的には、大麦、はだか麦などが挙げられる。
なお、本発明における抽出原料には、粉砕麦(及びホール麦)以外のものを更に含有するものとしてもよい。例えば、ハトムギ、米などの穀物、茶葉、薬草など、飲料に適した抽出成分を含むものを含有してもよい。
【0022】
〔第1の実施態様〕
[抽出装置]
図1は、本発明の第1の実施態様における抽出装置の構造を示す概略説明図である。
本実施態様における抽出装置100は、
図1に示すように、抽出器10と、熱交換器20と、処理液タンク30と、配管L1~L6と、を備える。
また、本実施態様における抽出装置100は、少なくとも粉砕麦を抽出原料Mとして抽出に係る操作を行い、抽出液Wを得るためのものである。なお、
図1は、抽出器10内に抽出原料M及び処理液Sが投入され、処理液S上方に粉砕麦の層が存在している状態を示す概略説明図であり、このとき、粉砕麦の層は抽出粕Rに相当し、処理液Sは抽出液Wに相当するものを指している。
以下、各構成の詳細について説明する。
【0023】
<抽出器>
抽出器10は、内部に設けられた収容室10aに抽出原料M(粉砕麦)を収容し、抽出原料Mと処理液Sとを接触させて抽出液Wを得るものである。また、抽出器10は、抽出粕R(抽出後の粉砕麦)と抽出液Wとを分離する濾過網16を備えるものである。
【0024】
本実施態様の抽出器10としては、
図1に示すように、円筒形のタンクからなり、抽出原料投入口11と、下蓋12と、均し羽根13と、回転シャワーノズル14と、スプレーボール15と、濾過網16と、レベル計S1と、を備えるものが挙げられる。
また、本実施態様の抽出器10は、密閉可能とする。これにより、抽出に係る操作時に処理液Sが外部に放出されて作業環境が高温多湿化することがなく、作業環境の質の低下を抑制することが可能となる。
【0025】
抽出原料投入口11は、抽出器10の上部に設けられている。抽出原料投入口11から、抽出器10内部の収容室10aに、抽出原料Mが投入される。なお、抽出器10全体を密閉可能とするために、抽出原料投入口11には密閉可能となる蓋体を設けることが好ましい。
また、抽出原料Mとして少なくとも粉砕麦を用いるため、抽出原料投入口11は、粉砕麦投入ステップを行う粉砕麦投入手段に相当する。さらに、抽出原料Mとして粉砕麦と併せてホール麦を用いる場合、抽出原料投入口11は、ホール麦投入ステップを行うホール麦投入手段も兼ねるものとなる。
【0026】
下蓋12は、抽出器10の下部に設けられている。下蓋12は、
図1に破線で示されるように、下方に開くことが可能である。抽出液Wの生成及び排出が完了した後、下蓋12が開かれて、抽出器10から抽出原料M(抽出粕R)が取り出される。
また、下蓋12は、収容室10aと抽出器10の外部とを連通する排出口12aを備える。そして、排出口12aは、収容室10aに連通し抽出液Wが排出される排出ポートとして機能し、抽出液払出ステップを行う抽出液払出手段に相当する。
【0027】
均し羽根13は、水平方向に延びる板状の部材であって、回転及び昇降自在に支持された垂直回転軸を介して収容室10aの内部に配置されている。均し羽根13は、モータM1によって鉛直軸の周りに回転可能であり、モータM2によって鉛直方向に移動可能である。
また、均し羽根13は、粉砕麦の表層を均す粉砕麦均しステップを行う粉砕麦均し手段に相当する。
【0028】
回転シャワーノズル14は、水平方向に延びる管状の部材であって、均し羽根13と同様に、回転及び昇降自在に支持された垂直回転軸を介して収容室10aの内部に配置されている。回転シャワーノズル14は、配管L2から供給された処理液Sを、水平方向に延びる管から下方へ放出可能なように構成されている。回転シャワーノズル14は、均し羽根13とともに、モータM1によって鉛直軸の周りに回転し、モータM2によって鉛直方向に移動する。
また、回転シャワーノズル14は、収容室10aに連通し処理液Sが供給される流入ポートとして機能し、シャワーリングステップを行うシャワーリング手段に相当する。
【0029】
スプレーボール15は、球状の部材であって、収容室10aの内部に配置されている。スプレーボール15は、配管L3から供給された処理液Sを収容室10a内部に放出可能なように構成されている。
また、スプレーボール15は、収容室10aに連通し処理液Sが供給される流入ポートとして機能し、温水供給ステップを行う温水供給手段に相当する。
【0030】
濾過網16は、所定径の開口部を有する網状の部材であって、下蓋12の上面に張設されている。濾過網16は、抽出粕Rと抽出液Wとを分離可能なように構成されている。
また、濾過網16は、抽出粕Rと抽出液Wの固液分離ステップを行う固液分離手段に相当する。
【0031】
レベル計S1は、収容室10aの内部の液体の液面高さ(抽出器10内の水位)を検知する。例えば、レベル計S1としては、差圧式レベルセンサが挙げられる。レベル計S1は、検知した液面高さに応じた信号を出力する。
また、レベル計S1は、濾過網16の目詰まり状態を検知する検知ステップを行う検知手段の一つに相当する。
【0032】
<熱交換器>
熱交換器20は、配管L1を通流する流体(処理液S)と、配管L6を通流する流体(熱媒体)とを熱交換させるものである。
なお、配管L6を通流する流体は、処理液Sを昇温することができるものであればよく、例えば、スチームや湯水等を用いることが挙げられる。
熱交換器20を介し、配管L1内の処理液Sは抽出原料Mの抽出に適した温度(80~99度)まで昇温され、温水として抽出器10に供給される。
【0033】
<処理液タンク>
処理液タンク30は、抽出器10へ供給される処理液Sを貯留するタンクである。処理液タンク30は、配管L1の上流側の端部と接続されている。処理液タンク30は、送液ポンプP1を介して配管L1へ処理液Sを供給する。
ここで、処理液Sとは抽出原料Mから抽出成分を取り出す(抽出する)ための溶媒として機能し、かつ飲用可能なものであればよく、一般的には水(温水)である。本実施態様の処理液Sとして、具体的には、水道水、イオン交換水、天然水等が挙げられる。また、抽出成分の抽出を阻害しない範囲で、飲料に用いられる各種添加物(pH調整剤、各種調味料など)を添加した調製水を処理液Sとしてもよい。
【0034】
<配管>
以下、抽出器10、熱交換器20、処理液タンク30のうち、少なくともいずれか一つに接続され、各種流体(処理液Sや抽出液W)を移送するための各配管(配管L1~L6)について説明する。
【0035】
配管L1は、上流側の端部が処理液タンク30に接続され、熱交換器20内を通るとともに、熱交換器20よりも下流側が三つの分岐配管(配管L2~L4)と接続されている配管である。
配管L1には、上流側から順に、送液ポンプP1と、流量コントロールバルブV1と、が配置されるものが挙げられる。配管L1は、流量コントロールバルブV1を予め指定された開度で開弁し、抽出操作中は配管L1を通流する流体流量が一定となるように制御するものとしてもよく、抽出操作中に開度を調整し、流体流量の制御を行うものとしてもよい。また、配管L1には、熱交換器20の上流側に流量計S2を、熱交換器20の下流側に温度計S3を配置し、処理液Sの供給量制御や温度管理を行うための情報取得が可能なものとしてもよい。
【0036】
配管L2は、上流側の端部が閉止弁V2を介して配管L1に接続され、下流側の端部が抽出器10の回転シャワーノズル14に接続されている配管である。
【0037】
配管L3は、上流側の端部が閉止弁V3を介して配管L1に接続され、下流側の端部が抽出器10のスプレーボール15に接続されている配管である。
【0038】
配管L4は、上流側の端部が閉止弁V4を介して配管L1に接続され、下流側の端部が逆止弁V5を介して配管L5に接続されている配管である。逆止弁V5は、流体が配管L4から配管L5への向きにのみ流れることができる弁である。
【0039】
配管L5は、上流側の端部が抽出器10の排出口12aに接続され、下流側の端部が抽出液Wを抽出装置100の外部へ払出を行う抽出液出口と接続されている配管である。配管L5には、上流側から順に、閉止弁V6と、払出ポンプP2と、流量計S4と、が配置されている。また、配管L5は、閉止弁6の上流側で配管L4と接続されている。
配管L5には、流量計S4以外に、払出ポンプP2の駆動状態、あるいは抽出液Wの払出量の変動を検知するための各種センサを設けるものとしてもよい。例えば、払出ポンプP2の回転数変動を検知するためのセンサや配管L5を通流する流体量の変動を検知するための圧力計などが挙げられる。なお、これらのセンサは検知ステップを行うための検知手段に相当する。
【0040】
配管L6は、上流側の端部が熱媒体(スチームなど)の供給源と接続され、下流側が熱交換器20内を通過するように接続されている配管である。配管L6は、流量コントロールバルブV7が配置されており、予め指定された開度で開弁し、抽出操作中は配管L6を通流する流体流量が一定となるように制御するものとしてもよく、抽出操作中に開度を調整し、流体流量の制御を行うものとしてもよい。配管L6を通流する流体(熱媒体)は、熱交換器20内で配管L1を通流する流体(処理液S)に熱供給を行い、熱交換器20外に排出される。
【0041】
[抽出装置における抽出に係る操作(抽出方法)]
図2は、本実施態様における抽出方法に係るフロー図である。
以下、
図2を参照しながら、抽出装置100で行われる抽出に係る操作(抽出液Wの抽出方法)に関する各ステップについて説明する。なお、以下の説明においては、抽出原料Mとしては粉砕麦のみを用い、処理液Sが水(熱交換器20通過後は温水)であるものとする。
【0042】
まず、粉砕麦投入ステップを行う。より具体的には、下蓋12が閉の状態であり、全ての閉止弁が閉じた状態で、抽出原料投入口11から所定量の抽出原料M(粉砕麦)が抽出器10の内部に投入される(粉砕麦投入ステップ:S10)。
【0043】
このとき、抽出器10に投入された抽出原料Mに対し、粉砕麦均しステップ(S11)を行うものとしてもよい。より具体的には、モータM2を作動させて、均し羽根13を抽出原料Mの上面近傍に位置させる。そして、モータM1を作動させて、均し羽根13を抽出原料7の上面近傍で回転させると、均し羽根13の回転により、抽出原料Mの上面が均されて平坦となる。抽出原料Mの上面が均された後、モータM1を停止し、モータM2を作動させて、均し羽根13を抽出器10上方に位置させ、モータM2も停止させる。
粉砕麦均しステップにより、抽出器10内に投入された粉砕麦の層の厚さを均一化することで、後段のシャワーリングステップによる一様な抽出を可能とする。また、粉砕麦の層の厚さが薄い箇所が生じると、その箇所では粉砕麦の量に対してシャワーリングによって通過する処理液S(温水)の液量が他の箇所よりも多くなるため、粉砕麦が吸水して沈降するまでの時間が短くなり、濾過網16の目詰まりを起こしやすくなる。そのため、シャワーリングステップよりも前に、粉砕麦の表面を均し、粉砕麦の層の厚さを均等にすることで、濾過網16の目詰まりを抑制し、効率的な抽出液Wの払出が可能となる。
なお、粉砕麦均しステップは実行することが好ましいが、省略してもよい。
【0044】
また、粉砕麦均しステップと併せて、温水供給ステップ(S12)を行うものとしてもよい。温水供給ステップは、抽出器10の収容室10a内に温水を供給することができるものであればよく、抽出器10に対する温水の供給箇所(温水の供給方向)は特に限定されない。
温水供給ステップの具体例の一つについて説明する。閉止弁V3を開き、流量コントロールバルブV1及びV7を予め設定された開度で開弁させる。また、送液ポンプP1を起動させて、予め設定された回転数で回転させる。これにより、処理液タンク30に貯留された処理液Sが、配管L1及び配管L3を通じて、スプレーボール15から抽出器10の内部に供給される。このとき、熱媒体の供給源から供給されたスチームが、配管L6を通じて、熱交換器20に供給される。これにより、配管L1を通流する処理液Sが、熱交換器20にてスチームと熱交換して加熱され、温水として抽出器10内部に供給される。
また、温水供給ステップの別の具体例について説明する。閉止弁V4を開き、流量コントロールバルブV1及びV7を予め設定された開度で開弁させる。また、送液ポンプP1を起動させて、予め設定された回転数で回転させる。これにより、処理液タンク30に貯留され、熱交換器20で加熱された処理液Sが、配管L1及び配管L4、さらに配管L5を通じて、抽出器10底部の排出口12aから抽出器10の内部に供給される。
【0045】
温水供給ステップを行い、シャワーリングよりも先に抽出器10内に温水を供給することで、抽出器10内において粉砕麦が処理液S上方(温水の液面近傍)に存在する状態(濾過網16から離間した状態)を形成した後、シャワーリングによる抽出を行うことが可能となる。これにより、粉砕麦の抽出が処理液S上方で進行するため、粉砕麦(抽出粕R)が濾過網16に接触するまでの時間を一定程度確保することが容易となる。したがって、粉砕麦(抽出粕R)が濾過網16に接触する前に、抽出を効率的に進行させることがより一層容易となる。
【0046】
また、温水供給ステップは、液面が濾過網16よりも高い位置になるまで温水の供給を行うことがより好ましい。これにより、抽出器10内において、粉砕麦が濾過網16の上方、かつ処理液Sの上方(温水液面近傍)に存在する状態を形成した後、シャワーリングによる抽出を行うことが可能となる。これにより、粉砕麦(抽出粕R)が濾過網16に接触するまでの時間を一定程度確保することがより一層容易となる。したがって、粉砕麦(抽出粕R)が濾過網16に接触する前に、効率的な抽出をより一層確実に進行させることが可能となる。
【0047】
なお、粉砕麦均しステップと同様、温水供給ステップについても実行することが好ましいが、省略してもよい。
また、粉砕麦均しステップと温水供給ステップは、いずれもシャワーリングステップよりも先に行われるものであればよく、粉砕麦均しステップと温水供給ステップの順番は特に限定されない。
【0048】
さらに、温水供給ステップと粉砕麦投入ステップの順番についても特に限定されない。
粉砕麦投入ステップを先に行う場合には、温水供給ステップとしては閉止弁V4を開き、配管L1、L4及びL5を通じて、抽出器10底部の排出口12aから抽出器10の内部に温水を供給することが好ましい。これにより、粉砕麦均しステップを容易に行うことができるとともに、粉砕麦を処理液Sの上方(温水液面近傍)に安定して存在させることが可能となる。
一方、温水供給ステップを先に行う場合には、温水供給ステップとしては閉止弁V3を開き、配管L1及び配管L3を通じて、スプレーボール15から抽出器10の内部に温水を供給することが好ましい。これにより、抽出器10内部に対し必要量の温水供給を速やかに行うことができるとともに、粉砕麦を処理液Sの上方(温水液面近傍)に存在させることが容易となる。
【0049】
次に、シャワーリングステップを行う。より具体的には、閉止弁V2を開き、流量コントロールバルブV1及びV7を予め設定された開度で開弁させる。また、送液ポンプP1を起動させて、予め設定された回転数で回転させる。そして、モータM1を起動させる。なお、温水供給ステップを行う場合、モータM1は温水供給ステップから継続して駆動させるものでもよい。これにより、処理液タンク30に貯留された処理液Sが、配管L1及び配管L2を通じて、回転する回転シャワーノズル14から抽出器10の内部に供給される(シャワーリングステップ開始:S13)。このとき、熱媒体の供給源から供給されたスチームが、配管L6を通じて、熱交換器20に供給される。これにより、配管L1を通流する処理液Sが、熱交換器20にてスチームと熱交換して加熱され、温水として抽出器10内部に供給される。
【0050】
なお、温水供給ステップ及びシャワーリングステップにおいては、温度計S3から取得した信号に基づいて、該信号が示す配管L1の処理液Sの温度が予め設定された温度範囲となるよう、流量コントロールバルブV7の開度を制御してもよい。例えば、処理液Sの温度が所定の温度範囲より低い場合は、流量コントロールバルブV7の開度を大きくして、熱交換器20に供給されるスチームの流量を大きくし、処理液Sの温度を上昇させる。処理液Sの温度が所定の温度範囲より高い場合は、流量コントロールバルブV7の開度を小さくして、熱交換器20に供給されるスチームの流量を小さくし、処理液Sの温度を下降させる。
【0051】
シャワーリングステップでは、処理液Sが、配管L1及びL2を通じて、流入ポートである回転シャワーノズル14へ供給される。これにより、粉砕麦投入ステップで投入された粉砕麦に対し、温水によるシャワーリングが行われ、粉砕麦に含まれる抽出成分の抽出が開始される。ここで、抽出原料Mとして、ホール麦と比べて抽出効率が高い粉砕麦を使用しているため、シャワーリングステップを開始することで、抽出器内の粉砕麦全体に対し、処理液S(温水)を効率的に接触させることが可能となるとともに、抽出を効率的に進行させることが容易となり、速やかに抽出液Wを得ることが可能となる。
【0052】
そして、シャワーリングステップの開始と同時、あるいは所定時間経過した後、閉止弁を開き、抽出器10内部の抽出液Wの排出(払出)を行う(抽出液払出ステップ開始:S14)。
【0053】
抽出液払出ステップは、抽出器10へ処理液Sを供給するシャワーリングステップを行いながら、抽出器10から抽出液Wの排出を行う。
【0054】
シャワーリングステップ及び抽出液払出ステップを同時に行う場合について、具体的な操作の一例を示す。なお、シャワーリングステップの説明については、上述した内容と一部重複する。
まず、閉止弁V2を開き、閉止弁V6も開く。また、流量コントロールバルブV1及びV7を、予め設定された開度で開弁させる。そして、送液ポンプP1及び払出ポンプP2を起動させて、予め設定された回転数で駆動させる。このとき、モータM1を起動させる。
【0055】
処理液タンク30に貯留された処理液Sが、配管L1及び配管L2を通じて、回転する回転シャワーノズル14から抽出器10の内部に供給される。また、このとき熱交換器20によって処理液Sは加熱されている。
さらに、抽出器10の内部の抽出液Wが、配管L5へ流入し、抽出液出口から抽出装置100の外部へ払い出される。
【0056】
そして、シャワーリングステップは、濾過網16の目詰まり状態が生じる前に停止され、以降は抽出器10内にある抽出液W(収容室10aにある残りの抽出液W)の排出を行う。
具体的には、濾過網16の目詰まりが生じる兆候が表れる前に、所定量の処理液Sの供給が行われ、処理液Sの供給を完了させる。このとき、流量コントロールバルブV1及びV7の開度や送液ポンプP1の回転数について予め設定することや、各種センサS1~S4から取得した情報に基づき処理液Sの供給量制御(調整)を行うことが挙げられる。
【0057】
ここで、濾過網16の目詰まり状態については、濾過網16と粉砕麦(特に抽出粕R)が接触し、粉砕麦が濾過網16上に堆積することで生じるものである。また、濾過網16の目詰まりが起きてしまうと、抽出器10内の抽出液Wが濾過網16を通過できず、抽出液Wの払出を行うことができなくなる。したがって、粉砕麦が濾過網16上に付着して堆積する前に、抽出液払出ステップによる抽出液Wの払出が完了すればよいこととなる。
本実施態様の抽出方法は、シャワーリングステップを停止するタイミングを、粉砕麦(特に抽出粕R)による濾過網16の目詰まり状態が生じる前とするものである。これにより、粉砕麦(抽出粕R)が濾過網16に付着することによって抽出液Wの払出が困難となる前に、処理液S(温水)の供給が停止(完了)することになる。このとき、粉砕麦は比重が軽く、抽出器10内の処理液S上方(液面)近傍に存在し、抽出粕Rについては完全に吸水し沈降するまで濾過網16に接触することがない。すなわち、処理液S(温水)の供給が停止した時点の液面近傍に、粉砕麦(抽出粕R)が存在する状態を維持したまま、抽出液Wの払出を行うことができる。これにより、粉砕麦(抽出粕R)が濾過網16に接触する前に、抽出に係る操作(特に抽出液Wの払出)を効率的に進行させることができる。
【0058】
また、本実施態様の抽出方法としては、濾過網16の目詰まり状態を検知する検知ステップ(S15)を設けるものとしてもよい。このとき、検知ステップは、抽出器10の水位及び/又は抽出器10からの払出流量の変動を検知するものである。
検知ステップを設けることで、濾過網16の目詰まり状態を的確に把握することが容易となり、抽出液Wの払出が完全に困難となる前に、適切な対応を図ることが可能となる。これにより、抽出全体としての効率低下を抑制することが可能となる。
なお、検知ステップについては省略してもよい。
【0059】
濾過網16の目詰まり状態とは、換言すれば、抽出器10内における処理液Sの供給量と抽出液Wの払出量のバランスが偏ることである。したがって、抽出器10の水位が所定範囲を外れる場合や、払出流量が所定値から変動する場合は、濾過網16の目詰まりが生じる兆候が表れていると言える。
例えば、検知ステップの一例としては、抽出器10に設けられるレベル計S1や、配管L5上に設けられる流量計S4による情報取得のほか、払出ポンプP2の駆動状態に係る情報取得が挙げられる。
【0060】
検知ステップにより、濾過網16の目詰まり状態が生じていることが検知されなければ(S15:NO)、そのまま抽出操作(シャワーリングステップ及び抽出液払出ステップ)を継続し、次のステップに進む。一方、濾過網16の目詰まり(あるいはその兆候)が検知された場合(S15:YES)は、抽出液Wの払出が完全にできなくなる前に、濾過網の目詰まりを解消する対応(濾過網の目詰まり解消ステップ:S15-1)を行い、対応後、抽出操作(シャワーリングステップ及び抽出液払出ステップ)を継続し、次のステップに進む。
【0061】
このとき、濾過網の目詰まり解消ステップ(S15-1)の一例としては、検知ステップ(S15)で検知した結果に基づき、シャワーリングステップ及び/又は抽出液払出ステップに係る操作を制御することが挙げられる。
例えば、抽出器10のレベル計S1から取得した信号に基づいて、該信号が示す抽出器10の内部の液体の液面高さが予め設定された設定高さで一定となるよう、払出ポンプP2の回転数を制御する。例えば、液面高さが設定高さよりも低い場合には、払出ポンプP2の回転数を減少させて抽出器10からの抽出液Wの単位時間当たりの排出量を減少させる。液面高さが設定高さよりも高い場合には、払出ポンプP2の回転数を増加させて抽出器10からの抽出液Sの単位時間当たりの排出量を増加させる。なお、液面高さが設定高さで一定となっているときは、配管L2を通じた抽出器10への処理液Sの単位時間当たりの供給量が、配管L5を通じた抽出器10からの抽出液Wの単位時間当たりの排出量と等しくなっているため、濾過網16の目詰まりは解消されたと判断し、再度検知ステップ(S15)に戻る。
【0062】
抽出器10の液面高さを一定とする制御は、レベル計S1からの信号に代えて、配管L5の流量計S4及び配管L1の流量計S2からの信号に基づいて行われてもよい。
例えば、流量計S4から取得した信号が示す配管L5の抽出液Wの瞬時流量が、流量計S2から取得した信号が示す配管L1の処理液Sの瞬時流量と等しくなるよう、払出ポンプP2の回転数を制御する。また、配管L5の抽出液Wの瞬時流量が、配管L1の処理液Sの瞬時流量よりも小さい場合には、払出ポンプP2の回転数を増加させて配管L5の抽出液Wの瞬時流量を増加させる。配管L5の抽出液Wの瞬時流量が、配管L1の処理液Sの瞬時流量よりも大きい場合には、払出ポンプP2の回転数を減少させて配管L5の抽出液Wの瞬時流量を減少させる。なお、流量計S4から取得した信号が示す配管L5の抽出液Wの瞬時流量が、流量計S2から取得した信号が示す配管L1の処理液Sの瞬時流量と等しいとき、配管L2を通じた抽出器10への処理液Sの単位時間当たりの供給量が、配管L5を通じた抽出器10からの抽出液Wの単位時間当たりの排出量と等しくなっているため、濾過網16の目詰まりは解消されたと判断し、再度検知ステップ(S15)に戻る。
【0063】
所定量の処理液Sが粉砕麦にシャワーリングされた後、閉止弁V2を閉じ、流量コントロールバルブV1及びV7を閉弁させる。そして、送液ポンプP1及びモータM1を停止させることで、シャワーリングステップによる抽出器10への処理液Sの供給が停止(完了)する(シャワーリングステップ停止:S16)。
なお、これ以降は抽出液Wの排出のみが行われることになるため、抽出器10内部の液体の液面高さは低くなっていくことになる。このとき、上述したように、処理液Sよりも比重が軽い粉砕麦は、抽出器10内の処理液S上方(液面)近傍に存在し、抽出粕Rについては完全に吸水し沈降するまで濾過網16に接触することがない。すなわち、処理液S(温水)の供給が停止した時点の液面近傍に、粉砕麦(抽出粕R)が存在する状態を維持したまま、抽出液Wの払出を行うことができる。
【0064】
抽出器10のレベル計S1から取得した信号に基づいて、該信号が示す抽出器10内部の液体の液面高さを監視する。そして、液面高さがゼロになったと判断したことに応じて、抽出液払出ステップを終了する(S17)。具体的には、閉止弁V6を閉じ、払出ポンプP2を停止させる。
【0065】
なお、抽出液払出ステップの終了に係る制御は、レベル計S1からの信号に代えて、配管L5の流量計S4からの信号に基づいて行われてもよい。例えば、配管L5の流量計S4から取得した信号に基づいて、該信号が示す配管L5の抽出液Wの瞬時流量を監視する。そして、瞬時流量がゼロになったと判断したことに応じて、抽出液払出ステップを終了する。具体的には、閉止弁V6を閉じ、払出ポンプP2を停止させる。
【0066】
抽出液払出ステップが終了した後、抽出器10の下蓋12を開き、濾過網16上に堆積した抽出粕Rを除去し、洗浄する(S18)。これにより、抽出に係る一連の操作は完了する。また、本実施態様における抽出装置100では、抽出粕Rの除去及び抽出器10の洗浄が、従来のニーダー方式と比べ簡便に行うことができ、速やかに次の抽出に備えることができる。
【0067】
そして、本実施態様における抽出方法においては、粉砕麦投入ステップ(S10)で粉砕麦を抽出器10に投入した後、液中で粉砕麦の撹拌を禁止する撹拌禁止ステップを実行することが好ましい。
粉砕麦は吸水しやすいため、液中で撹拌を行うと吸水が一気に進むことになり、濾過網16との接触までの時間が短くなることで、濾過網16の目詰まりを起こしやすくなる。また、粉砕麦に含まれる微粉が、撹拌による液の流れに伴って濾過網16を通過(流下)し、抽出液Wに濁りが生じることが懸念される。
したがって、粉砕麦投入ステップ(S10)以降の各ステップにおいては、撹拌禁止ステップを実行し、液中の粉砕麦の撹拌禁止を継続することで、粉砕麦の吸水の進行を抑制し、かつ抽出液Wの払出において抽出液Wの清澄度低下を抑制することが可能となる。
【0068】
上述したように、本実施態様における抽出方法及び抽出装置は、抽出効率が高い一方で、含まれる澱粉成分によって抽出液の払出が困難となっていた粉砕麦を抽出原料として用いることができる。特に、従来のニーダー方式によらない抽出を可能とすることで、効率的、かつ作業環境の質を低下させない抽出を行うことが可能となる。
【0069】
なお、本実施態様の抽出装置を用いた抽出に係る操作(抽出方法)は、抽出装置100の動作を制御する制御部を設けて実行するものとしてもよい。制御部は、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)によって実現されてもよいし、ハードウェア回路によって実現されてもよいし、これらの組み合わせであってもよい。例えば、制御部としては、ユーザからの操作入力を受け付ける操作部を有する制御盤(図示なし)に設けられることが挙げられる。
【0070】
より具体的には、制御部は、各種センサ(レベル計S1、流量計S2及びS4、温度計S3など)から出力される各種信号を取得する。また制御部は、取得した各種信号に基づいて、送液ポンプP1、払出ポンプP2、流量コントロールバルブV1及びV7、閉止弁V2~V4及びV6、モータM1及びモータM2を制御して、上述した各ステップを実行する。
【0071】
〔第2の実施態様〕
図3は、本発明の第2の実施態様における抽出方法に係るフロー図である。
本実施態様における抽出方法は、上述した抽出装置100を用い、抽出原料Mとして、粉砕麦に加え、ホール麦を使用するものである。すなわち、上述した第1の実施態様における抽出方法に加え、抽出器10内にホール麦を投入するホール麦投入ステップ(S20)を備えるものであり、このホール麦投入ステップは、粉砕麦投入ステップ(S10)よりも先に行うものである。ここで、第1の実施態様と同じものについては、説明を省略する。
【0072】
本実施態様に係る抽出装置100を用いた抽出に係る操作(抽出方法)は、ホール麦投入ステップを備えることで、粉砕麦と併せてホール麦も抽出原料として使用することができる。そして、ホール麦は粉砕麦と比べて抽出に要する時間が長いため、粉砕麦よりも先に抽出器10に投入することでホール麦に係る抽出時間を確保し、効率的な抽出液Wの払出を図ることが可能となる。
【0073】
また、本実施態様に係る抽出に係る操作(抽出方法)は、ホール麦からの抽出効率を高めるため、操作(ステップ)の追加、あるいは操作(ステップ)の順番を規定してもよい。
具体的には、例えば、
図3に示すように、ホール麦投入ステップ(S20)を最初に行い、その後、温水供給ステップ(S12)、粉砕麦投入ステップ(S10)、粉砕麦均しステップ(S11)、シャワーリングステップ(S13)及び抽出液払出ステップ(S14)の順に行い、以後、第1の実施態様における抽出方法と同様のステップ(S15~S18)を行うものが挙げられる。また、このとき、温水供給ステップ後に所定時間を確保し、ホール麦からの抽出を一定程度進行させた後に、粉砕麦投入ステップを行うことが好ましい。
【0074】
また、別の例としては、ホール麦投入ステップ(S20)と温水供給ステップ(S12)とを行った後、撹拌を行う撹拌ステップを設け、撹拌ステップを所定時間継続した後、撹拌を停止し、粉砕麦投入ステップ(S10)、粉砕麦均しステップ(S11)、シャワーリングステップ(S13)及び抽出液払出ステップ(S14)の順に行い、以後、第1の実施態様における抽出方法と同様のステップ(S15~S18)を行うものが挙げられる。
これにより、ホール麦に係る抽出時間を十分確保することができ、粉砕麦からの抽出と併せて、効率的な抽出液の払出を図ることが可能となる。
なお、本実施態様における抽出方法においても、粉砕麦を投入した後(
図3中のS10以降)は、撹拌禁止ステップを実行することが望ましい。
【0075】
上述した実施態様は、本発明の抽出方法及び抽出装置の一例を示すものである。本発明に係る抽出方法及び抽出装置は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る抽出方法及び抽出装置を変形してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の抽出方法及び抽出装置は、粉砕麦を抽出原料とする抽出において好適に利用される。より具体的には、麦茶飲料の製造に係る抽出方法及び抽出装置として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0077】
100…抽出装置、10…抽出器、11…抽出原料投入口、12…下蓋、12a…排出口、13…均し羽根、14…回転シャワーノズル、15…スプレーボール、16…濾過網、20…熱交換器、30…処理液タンク、M…抽出原料、R…抽出粕、S…処理液、W…抽出液、L1~L6…配管、M1,M2…モータ、P1…送液ポンプ、P2…払出ポンプ、S1…レベル計、S2,S4…流量計、S3…温度計、V1,V7…流量コントロールバルブ、V2~V4,V6…閉止弁、V5…逆止弁