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特開2024-124282表面にシリコン被膜を有するナノワイヤーおよびそれを含む電池の負極材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124282
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】表面にシリコン被膜を有するナノワイヤーおよびそれを含む電池の負極材
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/054 20220101AFI20240905BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240905BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240905BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20240905BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240905BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240905BHJP
   B22F 1/062 20220101ALI20240905BHJP
【FI】
B22F1/054
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
B22F1/16
C22C38/00 302Z
B22F1/00 T
B22F1/062
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060950
(22)【出願日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2023031218
(32)【優先日】2023-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹田 裕孝
(72)【発明者】
【氏名】三代 真澄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 菜保
【テーマコード(参考)】
4K018
5H050
【Fターム(参考)】
4K018BA13
4K018BB02
4K018BB05
4K018BC28
4K018KA38
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CB11
5H050FA18
5H050HA01
5H050HA04
(57)【要約】
【課題】高純度のシリコン被膜を表面に有するナノワイヤーを提供する。
【解決手段】平均厚みが20nm以上のシリコン被膜を表面に有し、鉄を主成分とするナノワイヤー、および、さらにホウ素を含有し、その含有量が1~5質量%である前記ナノワイヤー、および、アスペクト比が60以上である前記ナノワイヤー、および、平均繊維径が90nm以上である前記ナノワイヤー、および、前記ナノワイヤーを含む電池の負極材。本発明によれば、高純度のシリコン被膜を表面に有するナノワイヤーを提供することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均厚みが20nm以上のシリコン被膜を表面に有し、鉄を主成分とするナノワイヤー。
【請求項2】
さらにホウ素を含有し、その含有量が1~5質量%である請求項1に記載のナノワイヤー。
【請求項3】
アスペクト比が60以上である請求項1または2に記載のナノワイヤー。
【請求項4】
平均繊維径が90nm以上である請求項1または2に記載のナノワイヤー。
【請求項5】
請求項1または2に記載のナノワイヤーを含む電池の負極材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に高純度のシリコン被膜を有するナノワイヤーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高いことから、スマートホンやノートパソコン等で広く用いられている。近年、用途の拡大にともない、さらなる高容量化が求められている。
【0003】
リチウム電池を高容量化するためにシリコンを負極材に用いることが検討されている。しかし、シリコンを負極材に用いた場合、リチウムイオンのインターカレーションにより、約4倍の体積変化が生じ、負極が破壊されるという問題がある。前記問題を解消するため、ナノワイヤーを用いることが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、シリコンナノワイヤーをリチウム電池の負極材料として用いることが開示され、特許文献2においては、ナノワイヤー不織布の表面にシリコン層を設けたものを負極材に用いることが開示されている。しかしながら、特許文献1のようにシリコンナノワイヤーを負極材に用いた場合、製造コストが非常に高く、電池の電極として使用可能な価格帯で製造することができず、実用化できないという問題があった。また、特許文献2の実施例のように、ニッケルナノワイヤーにゾルゲル法やマグネシウムを用いて還元処理をおこなって表面を被覆した場合、表面はNiSi、SiおよびMgOの混合物になるため、酸処理等によりMgOを除去する必要がありコストがかかるばかりか、酸処理してもMgOを十分に除去することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-041235号公報
【特許文献2】国際公開2014/147885号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高純度のシリコン被膜を表面に有するナノワイヤーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鉄を主成分とする特定のナノワイヤーを用いることにより表面に高純度のシリコン被膜を有するナノワイヤーが作製できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
本発明の要旨は、以下の通りである。
<1>平均厚みが20nm以上のシリコン被膜を表面に有し、鉄を主成分とするナノワイヤー。
<2>さらにホウ素を含有し、その含有量が1~5質量%である<1>に記載のナノワイヤー。
<3>アスペクト比が60以上である<1>または<2>に記載のナノワイヤー。
<4>平均繊維径が90nm以上である<1>または<2>に記載のナノワイヤー。
<5><1>または<2>に記載のナノワイヤーを含む電池の負極材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高純度のシリコン被膜を表面に有するナノワイヤーを提供することができる。
【0010】
本発明のナノワイヤーは、電池の負極材、特にシリコンリチウムイオン電池の負極材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のナノワイヤーは、鉄を主成分とする。本発明において、主成分とはナノワイヤーに含まれる元素のうち、ICP-AESで最も含有量の多いものを指す。具体的には、ナノワイヤー中の鉄の含有量は、60質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。鉄を主成分とするナノワイヤーを用いることにより、表面に高純度のシリコン被膜を形成することができる。ナノワイヤー中の鉄の含有量は、多いほど表面に高純度のシリコン層を形成しやすいが、多くなりすぎるとシリコンの含有量が低下するので、90質量%以下とすることが好ましい。
【0012】
本発明のナノワイヤーは、加工時の酸化劣化および機械応力による破壊を抑制するため、ホウ素を含ませ、その含有量を1~5質量%とすることが好ましい。ホウ素の含有量が1質量%未満の場合、シリコン層形成過程でナノワイヤーが酸化し、シリコン層の欠陥につながる場合がある。一方、ホウ素の含有量が5質量%を超えるとナノワイヤーが脆くなるため、シリコン層形成、負極および電池への加工時にナノワイヤーが破壊され、期待する負極構造ができない場合がある。
【0013】
本発明のナノワイヤーは、ネットワークを形成し、表面積を拡げ、負極材として活用しやすくするため、アスペクト比(平均長/平均径)は、50~200であることが好ましく、100~150であることがより好ましい。アスペクト比が高いほど、加工しやすくなる。
【0014】
本発明のナノワイヤーの平均径は、90nm以上であることが好ましく、110nm以上であることがより好ましい。平均径が細い場合、負極が、リチウムイオンのインターカレーションにより体積膨張した際、破壊される場合がある。一方、平均径が太い場合、ナノワイヤーの表面積は狭くなるため、電解液との接触面積が小さくなり、負極として用いるのが困難になる場合がある。
【0015】
本発明のナノワイヤーの平均長は、5~30μmであることが好ましく、7~20μmであることがより好ましい。
【0016】
ナノワイヤー表面のシリコン被膜の平均厚みは、20nm以上とすることが必要である。前記平均厚みが20nm未満の場合、シリコン層が薄過ぎるため、リチウムイオンをインターカレーション可能な容量が減少し、負極材として使用しにくくなる。また、シリコン被膜が厚過ぎる場合、ナノワイヤーの表面積は狭くなるため、負極として電解液との接触に関して不利になる。
【0017】
本発明のナノワイヤーは、異方性磁界中でナノワイヤーを作製し、その後シリコンで被膜する。前記作製方法の具体例を以下に示す。
【0018】
磁界中でナノワイヤーを形成するには、原料の金属塩を還元剤で還元する。原料の金属塩としては、例えば、各金属の塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩が挙げられる。金属塩の濃度は、30~70mmol/Lとすることが好ましい。
【0019】
還元剤としてはホウ素を含む還元剤(例えば、水素化ホウ素ナトリウム)を用いることが必要である。ホウ素を含む還元剤を用いることにより、室温付近で金属塩を還元でき、還元反応速度、反応に係る時間がナノワイヤーの形成に適した条件になる。また、反応に用いるホウ素を含む還元剤の濃度は、金属塩の濃度より過剰にすることにより高い収率でナノワイヤーを得ることができる。
【0020】
還元反応時に印加する磁場は50~160mT(特に50~150mT)とすることが好ましい。磁場が50mT未満の場合、ナノワイヤーが生成できない場合がある。一方、磁場が160mTを超える場合、生成したナノワイヤーが磁場の発生源に吸着し、回収できなくなる場合がある。
【0021】
還元剤を添加してからナノワイヤーが生成するまでの時間は数秒程度である。その後、フィルター等でナノワイヤーを回収し精製すればよい。
【0022】
回収したナノワイヤーをテトラエトキシシランとアルカリで処理することによりシリカ被膜を有するナノワイヤーとすることができる。被膜の厚みは、処理時間により制御することができる。処理時間は、1時間以上とすることが好ましい。
【0023】
ナノワイヤー表面にシリカ被膜を有するナノワイヤーを、100℃で24時間処理し、さらに還元ガス下1500℃で熱処理をおこなうことにより、高純度のシリコン被膜を有するナノワイヤーとすることができる。還元ガスとしては、例えば、水素ガスが挙げられる。ナノワイヤー中の鉄の含有比率が低い場合、熱処理中にナノワイヤーが溶融し、ナノワイヤーの形状を保持できず、塊状になる。
【0024】
本発明のナノワイヤーはバインダー等を用いて加工することにより負極材として用いることができる。
【0025】
本発明の負極材は、リチウム電池、特にシリコンリチウムイオン電池の負極材に好適に用いることができる。
【実施例0026】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
A.各種評価
(1)ナノワイヤーの組成、シリコン被膜の純度
ナノワイヤーを室温で24時間、真空乾燥した。
【0027】
真空乾燥したナノワイヤーを希塩酸希硝酸混合溶液に溶解した。得られた溶解液を、ICP-AES法により、ホウ素(B)水溶液、鉄(Fe)水溶液、ニッケル(Ni)水溶液、シリカ(Si)水溶液を標準液として用いて検量線法により、B、Fe、Ni、Siの含有率を定量した。
(2)シリコン被膜の純度
各含有率を用いて、以下の式により純度を求めた。
【0028】
純度=(100-Bの含有率-Feの含有量-Niの含有量)]/(Siの含有量)×100
1500℃で熱処理することにより、ナノワイヤー中の酸素等の不純物やシリコン被膜中の酸素は取り除かれる。そのため、上記式により求めた値が100%に近いほど純度が高いことを意味する。
【0029】
純度は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
(3)ナノワイヤーの形状とアスペクト比
(1)で真空乾燥したナノワイヤーを走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影した。任意の10視野について、各視野中における任意の10点において、繊維長と繊維径を測定し(合計100点)、それぞれの平均を平均長、平均径とした。それからアスペクト比(平均長/平均径)を算出した。
(4)シリコン被膜の平均厚み
(1)で真空乾燥したナノワイヤーを透過型電子顕微鏡(TEM)にて撮影した。任意の10点におけるシリコンの膜厚を測定し、その平均値を平均厚みとした。
実施例1
塩化鉄(II)四水和物12g(60mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を15分かけて滴下した。
【0030】
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成したナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロパノールで洗浄した。
【0031】
洗浄したナノワイヤーをイソプロパノール:水:テトラエトキシシラン:アンモニア水=65:16:2:0.7の質量比の溶液に室温下で72時間浸漬した。
【0032】
浸漬後、T100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロパノールで洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
【0033】
得られたナノワイヤーを24時間100℃で処理した後、水素ガス下1500℃で48時間処理し、温度が室温まで低下させた後、ナノワイヤーを回収した。
実施例2
塩化鉄(II)四水和物10g(50mmol)、塩化ニッケル(II)六水和物2.4g(10mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を15分かけて滴下した。
【0034】
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成したナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロパノールで洗浄した。
【0035】
洗浄したナノワイヤーをイソプロパノール:水:テトラエトキシシラン:アンモニア水=65:16:2:0.7の質量比の溶液に室温下で72時間浸漬した。
【0036】
浸漬後、T100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロパノールで洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
【0037】
得られたナノワイヤーを24時間100℃で処理した後、水素ガス下1500℃で48時間処理し、温度が室温まで低下させた後、ナノワイヤーを回収した。
比較例1
塩化ニッケル六水和物10.0g(42mmol)をエチレングリコールに溶かして200gに調製、クエン酸三ナトリウム二水和物0.94g(3.2mmol)をエチレングリコールに溶かして200gに調製、水酸化ナトリウム2.5g(125mmol)をエチレングリコールに溶かして200gに調製、3種の溶液を90~95℃に加熱して、中心磁場が130mTの磁気回路内で混合した。混合後100℃に加熱し、アンモニア水50g、ヒドラジン一水和物2.5gの順で投入し、30分間反応させた。
【0038】
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、生成したナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロパノールで洗浄した。
【0039】
洗浄したナノワイヤーをイソプロパノール:水:テトラエトキシシラン:アンモニア水=65:16:2:0.7の質量比の溶液に室温下で1時間浸漬した。浸漬後、T100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロパノールで洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
【0040】
得られたナノワイヤーを24時間100℃で処理した後、水素ガス下1500℃で48時間処理したところ、ナノワイヤーが溶解し、塊状になっていた。
比較例2
比較例1で、24時間100℃で処理して得られたナノワイヤーを、水素ガス下1000℃で48時間処理し、温度が室温まで低下させた後、ナノワイヤーを回収した。
比較例3
塩化ニッケル六水和物14g(60mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を15分かけて滴下した。
【0041】
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置したが、ナノワイヤーが得られなかった。
【0042】
得られたナノワイヤーの評価を表1、2に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
実施例1、2のナノワイヤーは、鉄が主成分であったため、被膜のシリコンの純度がほぼ100%で、高純度のシリコン被膜を有していた。
【0046】
比較例1のナノワイヤーは、鉄が主成分ではなく、ニッケルを主成分とするナノワイヤーであったため、水素ガス下1500℃で処理した際、溶解し、塊状になった。
【0047】
比較例2は、水素ガス下1000℃で処理したため、シリコン被膜の純度が低かった。
【0048】
比較例3は、ニッケルイオンを、ホウ素を含む還元剤で還元しようとしたため、ナノワイヤーが作製できなかった。