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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124308
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】放射性同位体標識診療薬剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 51/08 20060101AFI20240905BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240905BHJP
   C07K 7/64 20060101ALI20240905BHJP
   C07F 5/00 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
A61K51/08 100
A61K51/08 200
A61P35/00
A61P43/00 121
C07K7/64
C07F5/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023170410
(22)【出願日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2023032034
(32)【優先日】2023-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.第17回日本分子イメージング学会 (その1)令和5年6月8日~令和5年6月9日に第17回日本分子イメージング学会が開催され、令和5年6月9日に「アルブミン結合部位含有核医学イメージング用プローブの動態制御」について、ポスターセッションにより発表した。 (その2)令和5年6月8日~令和5年6月9日に第17回日本分子イメージング学会が開催され、令和5年5月2日に「アルブミン結合部位含有核医学イメージング用プローブの動態制御」を掲載した要旨集がウェブサイト(http://www.molecularimaging.jp/,http://jsmi2023.kenkyuukai.jp/)において、電気通信回線を通じて公開された。
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 数馬
(72)【発明者】
【氏名】三代 憲司
(72)【発明者】
【氏名】越後 拓亮
(72)【発明者】
【氏名】淵上 剛志
(72)【発明者】
【氏名】宗兼 将之
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
4H048
【Fターム(参考)】
4C084AA12
4C084MA05
4C084NA03
4C084NA05
4C084NA12
4C084NA13
4C084ZB261
4C084ZC751
4C085HH03
4C085KA29
4C085KB07
4C085KB12
4C085KB15
4C085KB82
4C085LL18
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA13
4H045BA35
4H045BA71
4H045EA28
4H045EA50
4H045EA51
4H048AA03
4H048AB20
4H048VA70
4H048VB10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】腫瘍への集積効率、滞留性に優れたラジオセラノスティクス用薬剤の提供。
【解決手段】下記式(II)で表される化合物を含む、放射性同位体標識診療薬剤。

(Xはハロゲン、Mは金属、XとMとの少なくとも1つは放射性同位体元素。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(I)
【化1】
(式(I)中、Xは放射性同位体ハロゲン元素又はそれの非放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは放射性同位体金属元素又はそれの非放射性同位体金属元素であって、XとMとの少なくとも何れかが放射性同位体元素である。n1は2~4の数である。)で示される放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物を、有することを特徴とする放射性同位体標識診療薬剤。
【請求項2】
前記放射性同位体標識プローブ診断薬化合物と前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物との組み合わせを有するラジオセラノスティクス薬剤であることを特徴とする請求項1に記載の放射性同位体標識診療薬剤。
【請求項3】
前記ラジオセラノスティクス薬剤が、
前記式(I)中、Xは診断用の前記放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは前記非放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ診断薬化合物と、
前記式(I)中、Xは前記非放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは治療用の前記放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物と
の組み合わせ、
前記式(I)中、Xは治療用の前記放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは前記非放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物と、
前記式(I)中、Xは前記非放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは診断用の前記放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ診断薬化合物と
の組み合わせ、
前記式(I)中、Xは診断用の第一の前記放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは前記非放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物と、
前記式(I)中、Xは治療用の第二の前記放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは前記非放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物と
の組み合わせ、若しくは
前記式(I)中、Xは前記非放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは第一の診断用の前記放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物と、
前記式(I)中、Xは前記非放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは第二の治療用の前記放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ診断薬化合物と
の組み合わせ
であることを特徴とする請求項2に記載の放射性同位体標識診療薬剤。
【請求項4】
前記放射性同位体ハロゲン元素又はそれの非放射性同位体ハロゲン元素が、臭素、ヨウ素、及びアスタチンから選ばれ、前記放射性同位体金属元素又はそれの非放射性同位体金属元素が、銅、ガリウム、インジウム、ルテチウム、アクチニウム、ビスマス及び鉛から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の放射性同位体標識診療薬剤。
【請求項5】
前記放射性同位体ハロゲン元素が、76Br及び/又は77Brである前記臭素と、123I、124I、125I及び/又は131Iである前記ヨウ素と、211Atである前記アスタチンとから選ばれる少なくとも何れかであり、前記放射性同位体金属元素が、64Cu及び/又は67Cuである前記銅と、67Ga及び/又は68Gaである前記ガリウムと、111Inである前記インジウムと、177Luである前記ルテチウムと、225Acである前記アクチニウムと、212Bi及び/又は213Biである前記ビスマスと、212Pbである前記鉛とから選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする請求項1に記載の放射性同位体標識診療薬剤。
【請求項6】
前記放射性同位体標識プローブ診断薬化合物が体内動態検討用であり、前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物が体内放射線治療用であることを特徴とする請求項1に記載の放射性同位体標識診療薬剤。
【請求項7】
前記放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物と、アルブミン阻害剤とを、有することを特徴とする請求項1に記載の放射性同位体標識診療薬剤。
【請求項8】
前記アルブミン阻害剤が、前記放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物に含有され又は組み合わせられていることを特徴とする請求項7に記載の放射性同位体標識診療薬剤。
【請求項9】
前記アルブミン阻害剤が、アルブミン結合サイトIIへの結合化合物であることを特徴とする請求項7に記載の放射性同位体標識診療薬剤。
【請求項10】
前記アルブミン阻害剤が、(X-)(X-)Ph-(O)n2-(CH)n3-CO-OH(但し、X-及びX-は、同一又は異なり、非放射性同位体ハロゲン原子、水素、アミノ基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、アダマンチル基、又は隣り合って縮環を成す基、-Ph-はフェニレン基、n2は0~1の数、n3は1~4の数)で表されるフェニル基含有脂肪酸、ジアゼパム、イブプロフェン、及び7-アリル-1,3-ジメチル-2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン-8-イル-3-チオプロピオン酸、並びにそれらの薬学的に許容される塩から選ばれる前記アルブミン結合サイトIIへの結合化合物であることを特徴とする請求項7に記載の放射性同位体標識診療薬剤。
【請求項11】
前記アルブミン阻害剤が、4-(4-ヨードフェニル)酪酸であることを特徴とする請求項10に記載の放射性同位体標識診療薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核医学診断と核医学治療とを組み合わせて使用するラジオセラノスティクス薬剤に応用可能な放射性同位体標識診療薬剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
核医学診断は、透過性が高いγ線などの診断可能な放射線を放出する放射性同位核種や陽電子(β)を放出するポジトロン核種で標識されたプローブ診断薬化合物を投与して腫瘍原発巣や進行状態を診断するというものである。腫瘍原発巣に産生されるタンパク質などの腫瘍標的受容体に結合する腫瘍標的親和性基とγ線を放出する放射性標識核種又は陽電子を放出するポジトロン核種とを有するプローブ診断薬化合物を投与して、診断可能なγ線や陽電子が電子と結合した際に放出される消滅放射線を検出するディテクターで検知して専用のシンチカメラで画像化するSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography:単光子放出断層撮像法)やPET(Positron Emission Tomography:ポジトロン断層撮影法)として実用化されている。
【0003】
一方、核医学治療は、細胞障害性が高いα線やβ線を放出する放射性同位体核種で標識されたプローブ治療薬化合物を投与して、腫瘍原発巣又は転移病巣を縮小若しくは腫瘍細胞を死滅させて治療するというものである。腫瘍原発巣又は転移病巣で腫瘍細胞から産生されるタンパク質などの腫瘍標的受容体に結合する腫瘍標的親和性基とα線やβ線を放出する放射性核種とを有するプローブ治療薬化合物を投与して、腫瘍原発巣又は転移病巣に集積させ、飛程の短いα線やβ線を体内から腫瘍細胞に選択的に照射して、近隣の正常細胞に殆ど乃至然程ダメージを与えることなく、腫瘍細胞を選択的に減少乃至死滅させ、少ない副作用で、抗腫瘍効果を得るというものである。
【0004】
核医学診断は診断を主眼とし、核医学治療は治療を主眼としている。しかし、核医学治療による腫瘍治療では、治療開始前に、様々な検査や診断を行い、適切な治療法を決定しなければならない。
【0005】
そのため近年、性質の異なる放射性核種を利用して、同一骨格又は類似骨格を有する化合物で診断と治療とを行えるように、核医学診断と核医学治療とを組み合わせたラジオセラノスティクスという診断・治療法が用いられるようになってきた。ラジオセラノスティクスによれば、診断に用いる診断用の放射性核種を含有する化合物によって、先ず患者毎に、治療効果や副作用の予測、用量の設定を行うことができ、一方、治療に用いる同一骨格又は類似骨格を有するもので治療用の別な放射性核種を含有する化合物によって、治療効果が高く副作用が低く、適切な用量を投与して、患者の負担軽減と効果的治療を図った個別化医療を行うことができる。
【0006】
現在、臨床で行われているラジオセラノスティクスでは、神経内分泌腫瘍の診断・治療に対し111In-DTPA-Octreotide(オクトレオスキャン(登録商標))と177Lu-DOTATATE(ルタテラ(登録商標))が、褐色細胞腫の診断・治療に[123I]meta-iodobenzylguanidine(MIBG)(ミオMIBG-I 123(ミオMIBGは登録商標))と[131I]MIBG(ライアットMIBG-I 131)が使用されている。このように、ラジオセラノスティクスに使用できる核種が放射性ハロゲン同士、または放射性金属同士に限定されてしまっている。
【0007】
そこで、本発明者らは、従来技術として非特許文献1において、ジェネレーター産生PET用核種68Gaとα線放出核種211Atを組み合わせたラジオセラノスティクスの可能性を検討した。それには、下記化学式(Com-1)及び(Com-2)
【化1】
で示すように、癌血管新生部位や癌細胞に過剰に発現しているαβインテグリンに対して高い親和性を示すリガンドであるRGDペプチド(Arg-Gly-Asp:アルギニン-グリシン-アスパラギン酸ペプチド)を有し非放射性ヨウ素置換又は放射性ヨウ素置換(123I:半減期=13時間;SPECT用核種、124I:半減期=4.2日;PET用核種、125I:半減期=59日;基礎研究用及びオージェ電子治療用核種、又は131I:半減期=8.0日;β線放出治療用及びSPECT用核種)又は放射性アスタチン(211At:半減期:7.2時間;強い癌細胞傷害性で他のハロゲン元素と類似した性質を有するα線放出ハロゲン元素)置換ベンジル基を有しCyclo(Arg-Gly-Asp-D-Phe-Lys-)骨格にDOTA配位子がリジンを介して結合している化合物について、非放射性ガリウム又は放射性ガリウム(67Ga:半減期=3.3日;SPECT用核種、又は68Ga:半減期=68分;PET用核種)を配位させてラジオセラノスティクスの可能性を評価したことが、開示されている。
【0008】
非特許文献1では、ヒト脳腫瘍細胞株U87MG細胞を担癌したマウスにおける体内分布を検討したところ、図10に示すように、68Gaの代替として放射性同位体標識プローブ診断薬化合物である67Ga標識ALB非含有化合物(Com-1)(同図上段参照)、211Atの代替として放射性同位体標識プローブ治療薬化合物であるである125I標識ALB非含有化合物(Com-2)(同図下段参照)とは何れも同程度に、他の臓器と比較して腫瘍へ有意に集積していた。このことから、これらプローブ診断薬化合物・治療薬化合物は、ラジオセラノスティクスにおける有用性が示唆された。
【0009】
しかし、同図の通り、これら67Ga標識ALB非含有化合物(Com-1)と125I標識ALB非含有化合物(Com-2)とは、腫瘍でも体内分布が高々5%ID/gしかないうえ、24時間経過後の腫瘍への保持の程度がかなり低下していることから、腫瘍への更なる集積と保持時間の増加とが望まれていた。
【0010】
しかも、ラジオセラノスティクスにおいては、腫瘍へ集積と保持とを向上させるだけでなく、これら診断や治療に用いられるもので半減期が数時間から数日程度と短い放射性同位体元素でも導入が速やかかつ高純度で行わなければならない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】K.Ogawa, et al., Molecular Pharmaceutics, 18(9), p3553-3562 (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、4-(4-ヨードフェニル)酪酸などのアルブミンバインダー(Albumin Binder:ALB)が、体内、特に血中のアルブミンに対して親和性を持ちつつ、化学的に結合できることを利用して、そのようなアルブミンバインダーを導入した放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物が、簡便かつ高純度で製造でき、かつ血中半減期を延長させつつ薬物動態を改善させることができ、ラジオセラノスティクスに応用可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、同一骨格又は類似骨格を有する放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物として使用可能で、アルブミンバインダー構造を有することにより、腫瘍への集積効率が格段に優れ、腫瘍への保持時間が格段に長く、放射性同位体による診断性能・治療性能に極めて優れ、簡便かつ高純度で製造できるラジオセラノスティクス薬剤に応用可能な放射性同位体標識診療薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するためになされた本発明の放射性同位体標識診療薬剤は、下記化学式(I)
【化2】
(式(I)中、Xは放射性同位体ハロゲン元素又はそれの非放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは放射性同位体金属元素又はそれの非放射性同位体金属元素であって、XとMとの少なくとも何れかが放射性同位体元素である。n1は2~4の数である。)で示される放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物を、有することを特徴とするものである。
【0015】
この放射性同位体標識診療薬剤は、前記放射性同位体標識プローブ診断薬化合物と前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物との組み合わせを有するラジオセラノスティクス薬剤であることが好ましい。
【0016】
この放射性同位体標識診療薬剤は、前記ラジオセラノスティクス薬剤が、前記式(I)中、Xは診断用の前記放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは前記非放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ診断薬化合物と、前記式(I)中、Xは前記非放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは治療用の前記放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物との組み合わせ、若しくは前記式(I)中、Xは治療用の前記放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは前記非放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物と、前記式(I)中、Xは前記非放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは診断用の前記放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ診断薬化合物との組み合わせ、若しくは前記式(I)中、Xは診断用の第一の前記放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは前記非放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物と、前記式(I)中、Xは治療用の第二の前記放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは前記非放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物との組み合わせ、若しくは前記式(I)中、Xは前記非放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは第一の診断用の前記放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物と、前記式(I)中、Xは前記非放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは第二の治療用の前記放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ診断薬化合物との組み合わせであるというものである。
【0017】
この放射性同位体標識診療薬剤は、例えば前記放射性同位体ハロゲン元素又はそれの非放射性同位体ハロゲン元素が、臭素、ヨウ素、及びアスタチンから選ばれ、前記放射性同位体金属元素又はそれの非放射性同位体金属元素が、銅、ガリウム、インジウム、ルテチウム、アクチニウム、ビスマス及び鉛から選ばれるものである。
【0018】
この放射性同位体標識診療薬剤は、前記放射性同位体ハロゲン元素が、76Br及び/又は77Brである前記臭素と、123I、124I、125I及び/又は131Iである前記ヨウ素と、211Atである前記アスタチンとから選ばれる少なくとも何れかであり、前記放射性同位体金属元素が、64Cu及び/又は67Cuである前記銅と、67Ga及び/又は68Gaである前記ガリウムと、111Inである前記インジウムと、177Luである前記ルテチウムと、225Acである前記アクチニウムと、212Bi及び/又は213Biである前記ビスマスと、212Pbである前記鉛とから選ばれる少なくとも何れかであると好ましい。
【0019】
この放射性同位体標識診療薬剤は、前記放射性同位体標識プローブ診断薬化合物により体内動態検討用として、前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物により体内放射線治療用として用いられるというものである。
【0020】
この放射性同位体標識診療薬剤は、前記放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物と、アルブミン結合阻害剤とを、有するものであることが好ましい。
【0021】
この放射性同位体標識診療薬剤は、例えば、前記アルブミン結合阻害剤が、前記放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物に含有され又は組み合わせられているというものである。
【0022】
この放射性同位体標識診療薬剤は、前記アルブミン結合阻害剤が、アルブミン結合サイトIIへの結合化合物であることが好ましい。
【0023】
この放射性同位体標識診療薬剤は、具体的には前記アルブミン阻害剤が、前記アルブミン阻害剤が、(X-)(X-)Ph-(O)n2-(CH)n3-CO-OH(但し、X-及びX-は、同一又は異なり、非放射性同位体ハロゲン原子、水素、アミノ基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、アダマンチル基、又は隣り合って縮環を成す基、-Ph-はフェニレン基、n2は0~1の数、n3は1~4の数)で表されるフェニル基含有脂肪酸、ジアゼパム、イブプロフェン、及び7-アリル-1,3-ジメチル-2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン-8-イル-3-チオプロピオン酸、並びにそれらの薬学的に許容される塩から選ばれるアルブミン結合サイトIIへの結合化合物であるというものである。
【0024】
この放射性同位体標識診療薬剤は、前記アルブミン結合阻害剤が、4-(4-ヨードフェニル)酪酸であることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の放射性同位体標識診療薬剤によれば、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物が、アルブミンバインダーを有することにより、一次的には血中のアルブミンと結合し血流に乗って全身を循環し、二次的には血流によって臓器の腫瘍原発巣又は転移病巣に到達して集積し、核医学診断や核医学治療を行うことができる。
【0026】
この放射性同位体標識診療薬剤は、放射性同位体アルブミンバインダー構造標識プローブ診断薬化合物と放射性同位体標識プローブ治療薬化合物とが、同一骨格又は類似骨格を有し、ほぼ同等の吸収・分布・代謝・排泄をすることから、予め放射性同位体標識プローブ診断薬化合物を診断用薬剤として投与して放射線治療の有効性予測・用量・用法・臓器特異性・腫瘍原発巣への集積性などを確認してから、次に適量の放射性同位体標識プローブ治療薬化合物を治療用薬剤として投与して放射線治療を行うラジオセラノスティクス薬剤として用いることができる。
【0027】
この放射性同位体標識診療薬剤は、腫瘍原発巣又は転移病巣への集積効率が格段に優れているうえ、腫瘍原発巣又は転移病巣への保持時間が格段に長いため、腫瘍原発巣又は転移病巣に対する放射性同位体による診断性能・治療性能に極めて優れている。
【0028】
この放射性同位体標識診療薬剤は、放射性同位体標識プローブ治療薬化合物を治療用薬剤として用いた時に、腫瘍原発巣又は転移病巣への集積によって効果的に腫瘍細胞を放射線で死滅させることができると共に、正常細胞への悪影響が少なく、少なくともin vivoでの動物実験において体重減少や重篤な副作用が認められない。
【0029】
この放射性同位体標識診療薬剤は、最終工程で放射性同位体元素を導入して、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物や放射性同位体標識プローブ治療薬化合物に誘導することによって、簡便かつ高純度で製造できるものであり、医療現場でのハンドリングに優れている。
【0030】
この放射性同位体標識診療薬剤は、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物が、それのアルブミンバインダー構造に基づく高い血中滞留性により、イメージング時の画像コントラスト不良・治療時の骨髄被ばくが懸念される場合がある。しかし、アルブミン結合阻害剤が、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物に予め混合され、又は放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物の投与後に所定時間経過後投与できるように組み合わされ同時に又は事後的に投与されると、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物の体内動態を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明を適用する放射性同位体標識診療薬剤である125I標識又は211At標識ALB含有化合物、及び非標識ALB含有化合物の高速液体クロマトグラムを示す図である。
図2】本発明を適用する125I標識ALB含有化合物と、本発明を適用外の67Ga標識ALB非含有化合物のU87MG細胞への取り込みを示すグラフである。
図3】本発明を適用する125I標識ALB含有化合物と211At標識ALB含有化合物とのU87MG細胞への取り込みを示すグラフである。
図4】本発明を適用する125I標識ALB含有化合物と本発明を適用外の67Ga標識ALB非含有化合物とのノーマルマウスにおける体内分布を示すグラフである。
図5】本発明を適用する125I標識ALB含有化合物と211At標識ALB含有化合物とのノーマルマウスにおける体内分布を示すグラフである。
図6】本発明を適用する125I標識ALB含有化合物及び211At標識ALB含有化合物と、本発明を適用外の67Ga標識ALB非含有化合物及び125I標識ALB非含有化合物とのU87MG担癌マウスにおける投与後4時間経過時での体内分布を示すグラフである。
図7】本発明を適用する125I標識ALB含有化合物及び211At標識ALB含有化合物と、本発明を適用外の67Ga標識ALB非含有化合物及び125I標識ALB非含有化合物とのU87MG担癌マウスにおける投与後24時間経過時での体内分布を示すグラフである。
図8】本発明を適用する125I標識ALB含有化合物と本発明を適用外の67Ga標識ALB非含有化合物とのU87MG担癌マウスにおける体内分布を示すグラフである。
図9】本発明を適用する211At標識ALB含有化合物をU87MG担癌マウスに投与した後の経時的な腫瘍容量の相対比変化と、体重の相対比変化、及びエンドポイントにおける腫瘍重量とを示すグラフである。
図10】本発明を適用外の従前のラジオセラノスティクス薬剤である67Ga標識体と125I標識体とについて、U87MG細胞を担癌したマウスにおける体内分布を示すグラフである。
図11】本発明を適用する125I標識ALB含有化合物と211At標識ALB含有化合物とについてアルブミン阻害剤存在下又は非存在下でのノーマルマウスにおける体内分布を示すグラフである。
図12】本発明を適用する125I標識ALB含有化合物のアルブミン阻害剤存在下又は非存在下と、本発明を適用外のALB非含有67Ga標識体とについてU87MG担癌マウスにおける体内分布を示すグラフである。
図13】本発明を適用する125I標識ALB含有化合物と211At標識ALB含有化合物とについてアルブミン阻害剤存在下又は非存在下でのU87MG担癌マウスにおける投与4時間後の体内分布を示すグラフである。
図14】本発明を適用する125I標識ALB含有化合物と211At標識ALB含有化合物とについてアルブミン阻害剤存在下又は非存在下でのU87MG担癌マウスにおける投与24時間後の体内分布を示すグラフである。
図15】本発明を適用する67Ga標識ALB含有化合物について、アルブミン阻害剤存在下又は非存在下でのU87MG細胞を担癌したマウスにおける投与3時間後のSPECT/CT撮像の結果を示す写真画像である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
本発明を実施するための好ましい一態様は、前記化学式(I)で表される放射性同位体標識プローブ診断薬化合物と放射性同位体標識プローブ治療薬化合物との組み合わせを、有するもので、ラジオセラノスティクス薬剤として用いられる放射性同位体標識診療薬剤である。これらの化合物の好ましい一例は、下記化学式(II)
【化3】
で表されるもので、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物が、式(II)中、Xを非放射性同位体ハロゲン元素であるIとし、Mを放射性同位体金属元素である67Ga又は68Gaとするものであり、放射性同位体標識プローブ治療薬化合物が、式(II)中、Xを放射性同位体ハロゲン元素である211Atとし、Mを非放射性同位体金属元素であるGaとするものである。
【0034】
この放射性同位体標識診療薬剤中、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物と放射性同位体標識プローブ治療薬化合物とは、4-(4-ヨードフェニル)酪酸アミド基のようなフェニル脂肪酸構造がアルブミンバインダー(Albumin Binder:ALB)基となって、アルブミンに対して親和性を持って可逆的に適合することを利用し、血液からのクリアランスを遅延させ、腫瘍原発巣への集積性と保持性とを高めたものである。
【0035】
これら放射性同位体標識プローブ診断薬化合物と放射性同位体標識プローブ治療薬化合物とは、下記式(III)
【化4】
に示すドラッグデザインに基づいて合成したものである。この放射性同位体標識プローブ診断薬化合物や放射性同位体標識プローブ治療薬化合物になる化合物(1)は、従前の化合物(Com-1’)にアルブミンバインダー構造を組み込みつつ一部構造を変えたものである。化合物(1)は、細胞接着活性配列であるRGDペプチド(アルギニン-グリシン-アスパラギン酸:Arg-Gly-Asp)からのリジン残基のイプシロンアミノ基にさらにリジン残基を結合させてそのα-アミノ基からDOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸)を結合させイプシロンアミノ基にアルブミンバインダー構造として4-(4-ハロゲノフェニル)酪酸を結合するように合成した化合物である。
【0036】
放射性同位体ハロゲン標識プローブ診療薬化合物を合成する場合、そのハロゲノ基を放射性同位体元素例えば123Iや125Iや211Atのような射性同位体ハロゲン元素に置換するために予めトリブチルスズ化しておき、最終工程で放射性同位体ハロゲン元素を導入する。
【0037】
一方、放射性同位体金属標識プローブ診療薬化合物を合成する場合、最終工程でDOTAに放射性同位金属元素例えば68Gaや67Gaなどを配位させる。
【0038】
化学式(1)に示す例で説明したが、化学式(I)中、アルブミンバインダー構造として4-(4-ハロゲノフェニル)酪酸を用いる代わりに、n1を2~4とするハロゲノフェニル脂肪酸とすることができ、アルブミンバインダーとしての効果を発現させるためには、化学式(1)のようにn1は3であることが好ましい。アルブミンバインダー構造は、ハロゲノフェニル脂肪酸がアミド結合しているものであるが、アミドであると合成が容易く、加水分解され難い。X基がフェニル基の4位(パラ位)である化合物の例で示したが、2位(オルト位)又は3位(メタ位)である化合物であってもよい。
【0039】
アルブミンバインダー構造はアルブミン、特に血中アルブミンと結合し、その結果、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物は、血流によって効果的に輸送される。これらの化合物は、血流によって全身を巡るが、腫瘍原発巣・腫瘍細胞に選択的に集積する。血液と共に、全身を巡るので、各臓器にも到達するが、特にアルブミン阻害剤を有しない場合、正常細胞には悪影響を及ぼしていないか影響があっても僅かである。
【0040】
放射性同位体標識プローブ診断薬化合物が、式(I)中、Xを非放射性同位体ハロゲン元素であるIとし、Mを診断用の放射性同位体金属元素である67Ga又は68Gaとするものであり、放射性同位体標識プローブ治療薬化合物が、式(I)中、Xを放射性同位体ハロゲン元素である211Atとし、Mを非放射性同位体金属元素であるGaとするものを例示したが、前記式(I)中、Xは治療用の前記放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは前記非放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物と、前記式(I)中、Xは前記非放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは診断用の前記放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ診断薬化合物との組み合わせであってもよく、前記式(I)中、Xは診断用の第一の前記放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは前記非放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物と、前記式(I)中、Xは治療用の第二の前記放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは前記非放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物との組み合わせ、であってもよく、前記式(I)中、Xは前記非放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは第一の診断用の前記放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ治療薬化合物と、前記式(I)中、Xは前記非放射性同位体ハロゲン元素であり、Mは第二の治療用の前記放射性同位体金属元素である前記放射性同位体標識プローブ診断薬化合物との組み合わせであってもよい。
その際、診断用の放射性同位体金属元素として、64Cu、67Cu、67Ga、68Ga、111Inが挙げられ、治療用の放射性同位体金属元素として、64Cu、67Cu、177Lu、212Bi、213Bi、212Pb、225Acが挙げられる。
診断用の放射性同位体ハロゲン元素として、76Br、123I、124Iが挙げられ、治療用の放射性同位体ハロゲン元素として、77Br(オージェ電子)、125I(オージェ電子)、131I、211Atが挙げられる。
【0041】
放射性同位体標識プローブ診断薬化合物と放射性同位体標識プローブ治療薬化合物とは、放射性/非放射性同位体の差異があるが基本骨格が共通又は類似しているから、同様な薬物動態を示す。
【0042】
そのため、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物を予め投与することによって、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物を診断用薬剤として投与して放射線治療の有効性予測・用量・用法・臓器特異性・腫瘍原発巣又は転移病巣への集積性などの特性を確認することができる。
【0043】
放射性同位体標識プローブ診断薬化合物を生理食塩水へ溶解又は懸濁した液にして、患者へ静脈内注射し、注射後5分間~3時間後、好ましくは1~3時間後に、SPECTもしくはPETカメラを用いて放射能分布を測定することにより、これら特性を確認することができる。
【0044】
放射性同位体標識プローブ診断薬化合物の投与・検出により、放射性同位体標識プローブ治療薬化合物の用量・用法・腫瘍集積性などを予測する。
【0045】
それによって、放射性同位体標識プローブ治療薬化合物の放射線治療の有効性予測・臓器特異的に腫瘍原発巣への集積性の予測に応じて、用量・用法を適宜調整して、最適な放射線量となるように放射性同位体標識プローブ治療薬化合物を使用して腫瘍原発巣・腫瘍細胞を縮小乃至死滅させることができる。
【0046】
この放射性同位体標識診療薬剤は、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物が、それのアルブミンバインダー構造に基づき、血中のアルブミンと結合し血流に乗って全身を循環し、血流によって臓器の腫瘍原発巣又は転移病巣に到達して集積するというものであるため、高い血中滞留性があるというものである。そのため、この放射性同位体標識診療薬剤で核医学診断や核医学治療を行う際に、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物が、血流に乗って全身を廻るため、イメージング時に所望部位例えば腫瘍組織のみを撮像したいのに画像コントラスト不良を惹き起こしたり、治療時に所望部位例えば腫瘍組織のみに細胞障害を起こしたいのに骨髄被ばくが懸念されたりする場合がある。
【0047】
そこで、所望部位例えば腫瘍組織には、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物が、アルブミンバインダー構造によって血液からのクリアランスを遅延させる結果、到達し易くて到達後は残留し易く、その他の正常臓器には血流に乗って到達しても速やかに血中クリアランスで代謝・排出されるように、体内動態の制御をされていることが望ましい。そのため、この放射性同位体標識診療薬剤は、イメージング時や治療時に所望部位へ到達後に放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物と速やかに代謝・排泄を促し血中クリアランスによって取り除くように、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物と血中アルブミンとの結合を阻害するように、アルブミン阻害剤が用いられてもよい。
【0048】
このようなアルブミン阻害剤は、例えばアルブミンバインダーとして作用するもので、とりわけアルブミン結合サイトIIへの結合化合物が好ましいというものである。具体的には(X-)(X-)Ph-(O)n2-(CH)n3-CO-OH(但し、X-及びX-は、同一又は異なり、非放射性同位体ハロゲン原子、水素、アミノ基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、アダマンチル基、又は隣り合って縮環を成す基、-Ph-はフェニレン基、n2は0~1の数、n3は1~4の数)で表されるフェニル基含有脂肪酸、中でも下記化学式で示される(A)群、ジアゼパム、イブプロフェン((2RS)-2[-4(-2-Methylpropyl)phenyl]propanoic acid及び光学異性体)であって下記化学式で示される(B)群、及び7-アリル-1,3-ジメチル-2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン-8-イル-3-チオプロピオン酸であって下記化学式で示される(C)群、並びにそれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。アルブミン阻害剤は、中でも4-(4-ヨードフェニル)酪酸、又はそれの薬学的に許容される塩であることが好ましく、とりわけ4-(4-ヨードフェニル)酪酸ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩であると一層好ましい。
【0049】
【化5】
【0050】
アルブミン結合阻害剤が、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物に予め混合されていてもよい。その場合、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物のアルブミンバインダー構造とアルブミン結合阻害剤とが拮抗してしまうので、アルブミン阻害剤を徐放性にすることが好ましい。放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物を静脈投与し、同時期又は事後的にアルブミン阻害剤を経口投与して、経口後吸収され血中で廻るまでの時間を調整するというものであってもよい。
【0051】
或いは、アルブミン阻害剤が、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物の投与後に所定時間経過後投与できるように組み合わされていてもよい。例えば、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物を静脈投与し、所定時間経過後にアルブミン結合阻害剤を静脈投与するものであってもよい。
【0052】
アルブミン結合阻害剤の投与量は、血中のアルブミン濃度の2~10当量であることが好ましい。好ましくは、アルブミン阻害剤を生理食塩水へ溶解又は懸濁した液にして、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物の投与後、1~6時間経過後に、患者へ静脈内注射し、注射後5分間~3時間後、好ましくは1~3時間後に、SPECTもしくはPETカメラを用いて放射能分布を測定することにより、これら特性を確認することができる。
【0053】
このように、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物と放射性同位体標識プローブ治療薬化合物とを組み合わせたラジオセラノスティクス薬剤とした放射性同位体標識診療薬剤によれば、個々の患者の腫瘍の種類や原発巣の位置・範囲・進行程度に応じたオーダーメイドの診療をすることが可能となる。常に、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物と放射性同位体標識プローブ治療薬化合物とを併用する必要はなく、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物で普遍的な有効性予測・臓器特異的に腫瘍原発巣への集積性の予測ができるようになれば、放射性同位体標識プローブ治療薬化合物を投与するだけでもよい。
【実施例0054】
以下に、本発明を適用する放射性同位体標識診療薬剤を、ラジオセラノスティクス薬剤として用いられる例について示す。この放射性同位体標識診療薬剤について、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物と放射性同位体標識プローブ治療薬化合物とを組み合わせて用いた実施例を例にして詳細に説明する。併せて本発明を適用外の比較例についても説明する。
【0055】
[実施例1・比較例1]
(合成例1:非放射性同位体標識化合物の合成)
放射性同位体標識プローブ診断薬化合物と放射性同位体標識プローブ治療薬化合物を合成できるか検討するため、下記化学式(IV)
【化6】
に示すように、非放射性同位体標識化合物として放射性同位体非置換ALB含有化合物(1a)を合成した。その合成の詳細は以下の通りである。
【0056】
先ず、Fmoc固相合成法により、化合物(2)を合成した。次いで化合物(2)中のリジンのイプシロンアミノ基にFmoc-Lys(Boc)-OH(3)を導入し、化合物(4)を合成した後、Fmoc基を脱保護することにより、化合物(5)を合成した。(tBuO)-DOTA(6)を化合物(5)中のリンカーのリジンのアルファアミノ基に導入して化合物(7)を合成し、保護器を脱保護することにより、化合物(8)を得た。化合物(8)のDOTAに非放射性ガリウムを配位させ化合物(9)を合成後、化合物(10)のカルボキシ基を活性エステル化した化合物(11)を化合物(9)中のリンカーのリジンのイプシロンアミノ基に導入して放射性同位体非置換ALB含有化合物(1a)を得た。質量分析結果が、理論値C5987GaIN1516 [M+2H]2+: m/z = 728.7373、実測値728.7380であったことから、この構造を支持する。
【0057】
(合成例2:放射性同位体標識化合物の合成)
次に、放射性同位体標識プローブ治療薬化合物として67Ga標識ALB含有化合物(1b)を、下記化学式(V)
【化7】
に示すようにして、合成した。その合成の詳細は以下の通りである。
【0058】
化合物(8)中のリンカーのリジンのイプシロンアミノ基に化合物(11)を導入し、化合物(12)を合成した。次いで、67Ga標識し、67Ga標識ALB含有化合物(1b)を得た。化合物(12)の質量分析結果が、理論値C5990IN1516[M+2H]2+:m/z=695.7862、実測値695.7857であることから、この構造を支持する。
【0059】
(合成例3:放射性同位体標識化合物の合成)
次に、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物として125I又は211At標識したALB含有化合物(1c:125I標識体、及び1d:211At標識体)を、下記化学式(VI)
【化8】
に示すようにして、合成した。その合成の詳細は以下の通りである。
【0060】
化合物(10)のカルボキシ基をメチルエステル化することで化合物(13)を合成、ヨウ素をトリブチルスズ基に置換して化合物(14)を合成後、メチルエステルを加水分解することで化合物(15)を合成した。次いで、化合物(15)のカルボキシ基を活性エステル化して化合物(16)を合成し、化合物(9)のリンカーのリジンのイプシロンアミノ基に導入することで、125I及び211At標識前駆体である化合物(18)を合成した。化合物(18)を125I又は211At標識することにより、125I又は211At標識したALB含有化合物(1c又は1d)を得た。化合物(18)の質量分析結果が、理論値C71113GaIN1516Sn[M+H]:m/z=1620.6768、実測値1620.6778であることから、これらの構造を支持する。
【0061】
(化合物1a・1c・1dの高速液体クロマトグラフィー分析)
得られた放射性同位体非置換ALB含有化合物(1a)と、125I又は211At標識したALB含有化合物(1c及び1d)とについて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を行った。分析条件は、カラム:COSMOSIL 5C18-AR-II 4.6ID × 150 mm(ナカライテスク株式会社製;商品名)、流速:1.0 mL/min、温度:40℃、移動相:A) 0.1% TFA in H2O 及びB) 0.1% TFA in MeOH、A液/B液混合:50/50 → 30/70 (20 min)である。そのクロマトグラムを図1に示す。
なお、125I標識ALB含有化合物(1c;X125I)の放射化学収量(Radiochemical yield)はHPLCで分画し、ガンマカウンターで測定したところ68%で放射化学純度(Radiochemical purity)は97%であり、211At標識ALB含有化合物(1d;X211At)の放射化学収量は同じく53%で放射化学純度(Radiochemical purity)は同じく96%であった。
【0062】
図1から明らかな通り、放射活性(Radioactivity)を指標にした高速液体クロマトグラムが放射性同位体非置換ALB含有化合物(1a)と125I・211At標識したALB含有化合物(1c及び1d)との保持時間(Retention Time:リテンションタイム)が略同じでピークが単一であったことと、一般的に構造が共通するヨウ素置換体とアスタチン置換体との高速液体クロマトグラムが略一致することと、放射性同位体非置換ALB含有化合物(1a)が質量分析(MS)で同定されていることと、125I・211At標識したALB含有化合物(1c及び1d)の夫々の前駆化合物(18)が質量分析(MS)で同定されていることと、Gaの配位及びトリブチルスズ基からのヨウ素・アスタチン置換が定量的に反応することとから、これら化合物の構造が支持される。
【0063】
(in vitroバイオ特性評価(その1-1):U87MG細胞への取り込みI)
アルブミンバインダー構造を有する125I標識ALB含有化合物(1c)と、その前駆体でアルブミンバインダー構造を有しない化合物(8)に67Gaをキレートさせた67Ga標識ALB非含有化合物(8’)とについて、ヒト脳腫瘍細胞株U87MG細胞への取り込みについて測定した。その測定方法は、以下の通りである。
化合物(1c)と化合物(8’)の各々3.7kBqを0.00125%ウシ血清アルブミン入りメディウムに溶解し、細胞に暴露した。インキュベート後、メディウム及び0.2Mグリシン緩衝液(pH3.0)で洗浄し、細胞を1M水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、放射能をガンマカウンターで測定後、タンパク定量を行った。
その結果を図2に示す。コントロールはこれら化合物を加えて曝露した場合を示し、ブロッキング(Blocking)はこれら化合物と共に過剰量のRGDペプチドを加え曝露した場合を示す。
【0064】
U87MG細胞は、RGDペプチドの標的であるαβ3インテグリン分子を発現しているものである。図2から明らかな通り、U87MG細胞でのこれら化合物の取り込みは、非放射性Gaを有し放射性125I標識アルブミンバインダー構造を有する125I標識ALB含有化合物(1c)と、放射性67Gaを含有しアルブミンバインダー構造を有しない67Ga標識ALB非含有化合物(8’)とはコントロールの通り、何れも時間経過と共に、U87MG細胞に高く同等に取り込まれることが示された。一方、過剰量のRGDペプチドで曝露した場合、コントロールに比べ、時間経過とともに有意に低下していた。このことから、U87MG細胞への取り込みがインテグリンを介して行われていることが確認でき、アルブミンバインダー構造自体はU87MG細胞への取り込みに影響がないことが示された。
【0065】
(in vitroバイオ特性評価(その1-2):U87MG細胞への取り込みII)
125I・211At標識ALB含有化合物(1c及び1d)の各々3.7kBqについて、同様にして両化合物を同時に測定可能なダブルトレース実験にてU87MG細胞への取り込みについて、in vitroバイオ物性評価(その1-1):U87MG細胞への取り込みIと同様にして測定した。その結果を図3に示す。
【0066】
図3から明らかな通り、125I・211At標識ALB含有化合物(1c及び1d)の何れであっても、U87MG細胞への取り込みについて、同様のプロファイルを示した。このことから、ハロゲン元素の違いはU87MG細胞への取り込みに殆ど影響しないことが分かった。
【0067】
(in vivoバイオ特性評価(その1-1):ノーマルマウスによる体内分布試験I)
非放射性Gaを有し放射性125I標識アルブミンバインダー(ALB)構造を有する放射性同位体標識化合物(1c)と、放射性67Gaを含有しアルブミンバインダー構造を有しない化合物(8’)について、ノーマルマウスによる体内分布について測定した。測定方法は、以下の通りである。
化合物(1c)と化合物(8’)各々37kBqを1%Tween-80入り生理食塩水に溶解させ、尾静脈投与によりマウスに投与後、各タイムポイントでマウスをと殺し、各臓器を摘出後、臓器の重量及びガンマカウンターで放射能を測定するダブルトレースにより、ノーマルマウスの各臓器の体内分布を測定した。その結果を図4に示す。
【0068】
図4から明らかなように、非放射性Ga含有・放射性125I標識ALB含有化合物(1c)は、アルブミンバインダー構造によって血液からのクリアランスが著しく遅延しており、顕著に血中アルブミンに結合し血液から排出され難くなっていることが示唆された。さらに、放射性67Ga含有・放射性125I非標識ALB含有化合物(8’)は、血中に然程分布していないことに起因して血液循環しても各臓器に然程分布していないのに対し、非放射性Ga含有・放射性125I標識ALB含有化合物(1c)は、血液からのクリアランスの遅延により、血液循環して各臓器にも多く分布している。それと同様に腫瘍原発巣への集積が増加し、治療効果が向上することが示唆された。なお、後述のようにマウスの体重が経時的に減少していないことから、各臓器に顕著な悪影響を及ぼしていないものと示唆される。
【0069】
(in vivoバイオ特性評価(その1-2):ノーマルマウスによる体内分布試験II)
非放射性Ga含有・放射性125I標識ALB含有化合物(1c)と非放射性Ga含有・放射性211At標識ALB含有化合物(1d)との各々37kBqについて、同様にノーマルマウスによる体内分布を測定した。その結果を図5に示す。
【0070】
図5から明らかな通り、同一の基本骨格を有する4位125I標識フェニル酪酸アミド基含有ALB含有化合物(1c)と4位211At標識フェニル酪酸アミド基含有ALB含有化合物(1d)とは、略同様な体内動態を示した。但し、211At標識ALB含有化合物(1d)の方が血液のクリアランスが若干遅くなっていることから、より強く機能していることが示唆された。一般的にアスタチンはベンゼン環に直接結合すると必ずしも安定でないと言われていたが、この211At標識ALB含有化合物(1d)ではそのような現象は認められていない。なお、一般的に遊離のアスタチンは甲状腺と胃に集積することから、甲状腺と胃への集積が脱アスタチンの指標となることが知られているが、211At標識ALB含有化合物(1d)は首や胃で特段影響を受けていないから、脱アスタチンを起こしていないことが示唆される。
【0071】
(in vivoバイオ特性評価(その1-3):U87MG細胞を担癌したマウスにおける体内分布試験I)
本発明を適用外の放射性同位体標識診療薬剤であるラジオセラノスティクス薬剤であって非特許文献1で得られたもので前記化学式(COM-1)で表される68Ga標識非ALB含有化合物に代えて化学式(COM-1’)で表される67Ga標識ALB非含有化合物、及び前記化学式(COM-2)で表される211At標識非ALB含有化合物に代えて化学式(COM-2’)で表される125I標識ALB非含有化合物と、本発明を適用する放射性同位体標識診療薬剤であるラジオセラノスティクス薬剤であって前記化学式(1c)で表される125I標識ALB含有化合物、及び前記化学式(8’)で表される67Ga標識ALB非含有化合物又は前記化学式(1d)で表される211At標識ALB含有化合物とについて、U87MG細胞を担癌したマウスにおける体内分布について測定した。測定方法は、以下の通りである。
ヌードマウス(免疫不全モデルマウス:BALB/cSlc-nu/nu;日本エスエルシー株式会社製の商品名)にU87MG細胞を5×10/匹皮下移植し、担癌マウスを作製した。その10日後に、化合物(COM-1’)と化合物(COM-2’)を生理食塩水に溶解、又は化合物(1c)と化合物(1d)の夫々37 kBqを1%Tween-80入り生理食塩水に溶解させ、それぞれ尾静脈投与によりマウスに投与後、各タイムポイントでマウスをと殺し、各臓器を摘出後、臓器の重量及びガンマカウンターで放射能を測定するダブルトレースにより、U87MG細胞担癌マウスの各臓器の体内分布を測定した。
その4時間後の結果を図6に、24時間後の結果を図7に、夫々示す。
【0072】
図6及び7から明らかな通り、67Ga標識ALB含有化合物(COM-1’)及び125I標識ALB非含有化合物(COM-2’)とは、アルブミンバインダー構造を有しないから血中の分布が少ないことに起因して、投与後4時間・24時間経過時の何れでも血液循環しても各臓器に然程分布していない。それに対し、125I標識ALB含有化合物(1c)と211At標識ALB含有化合物(1d)とは、血液からのクリアランスの遅延により、投与後4時間・24時間経過時の何れでも血液循環して各臓器にも多く分布している。特に血中及び腫瘍に有意に集積しており、投与後24時間経過時でも腫瘍へ集積したままであるので、診療効果が高いことが示唆された。従って、123I標識ALB含有化合物(1c)で放射線診療を行い、体内吸収・分布・代謝・排出などの動態を検知するとともに、用量、効果などの確認、特に腫瘍原発巣への集積の確認を行うことができ、一方、同等の体内動態を示す211At標識ALB含有化合物(1d)によって腫瘍原発巣に対する放射線治療を行うことができる。
【0073】
(in vivoバイオ特性評価(その1-4):U87MG細胞を担癌したマウスにおける体内分布試験II)
本発明を適用する放射性同位体標識診療薬剤であるラジオセラノスティクス薬剤であって前記化学式(1c)で表される125I標識ALB含有化合物、及び本発明を適用外の前記化学式(8’)で表される67Ga標識ALB非含有化合物について、U87MG細胞を担癌したマウスにおける体内分布について測定した。測定方法は、(in vivoバイオ特性評価(その1-3):U87MG細胞を担癌したマウスにおける体内分布試験I)に準じた。
その結果を図8に示す。図8から、明らかな通り、図6図7と同様な結果が得られた。
【0074】
(in vivoバイオ特性評価(その1-5):U87MG細胞を担癌したマウスにおける治療効果確認試験I)
211At標識ALB含有化合物(1d)について、U87MG細胞担癌マウスにおける治療効果確認試験を、試験方法は、以下の通りである。
体内分布実験と同様の方法でU87MG細胞担癌マウスを作製した。211At標識ALB含有化合物(1d)を370 kBq及び925 kBqの量となるように調製してから、尾静脈投与し、腫瘍原発巣容量、並びにマウス体重を経時的に測定し、エンドポイントでと殺後、腫瘍原発巣重量を測定した。その結果を図9に示す。
【0075】
図9から明らかな通り、未投与群のコントロールに比べ、211At標識ALB含有化合物(1d)投与群において、腫瘍原発巣重量及び容量は、放射線量が多いほど顕著に抑制しており、またマウスの体重は殆ど減少していなかった。このことから、腫瘍治療効果に優れていることが示された。
【0076】
[実施例2]
(in vivoバイオ特性評価(その2-1):ノーマルマウスによる体内分布試験I)
前記のようにして得た非放射性Gaを有し放射性125I標識アルブミンバインダー(ALB)構造を有する放射性同位体標識化合物(1c)と、放射性211At標識アルブミンバインダー(ALB)構造を有する放射性同位体標識化合物(1d)について、アルブミン阻害剤として4-(4-ヨードフェニル)酪酸ナトリウムを事後投与せず又は投与したときのノーマルマウス(アウトブレットマウス:Slc:ddY;日本エスエルシー株式会社製の商品名)による体内分布について測定した。測定方法は、以下の通りである。
化合物(1c)と化合物(1d)の各々37kBqを1%Tween-80入り生理食塩水に溶解させ、尾静脈投与によりマウスに夫々投与した。同社のホームページhttps://www.jslc.co.jp/pdf/mouse/2020/001_slc_ddy.pdfのノーマルマウスのデータを基にして、予めマウスの体重から全血液量を算出後、血中アルブミン濃度を用いて、血中の全アルブミン量を算出した。その全アルブミン量に対して2,5,10当量となるように、4-(4-ヨードフェニル)酪酸ナトリウム溶液であるアルブミン阻害剤を調製した。化合物(1c)と化合物(1d)を投与してから1時間経過後に血中アルブミンの2,5,10当量のアルブミン阻害剤を夫々投与し、その3時間後にマウスをと殺し、各臓器を摘出後、臓器の重量及びガンマカウンターで放射能を測定するダブルトレースにより、ノーマルマウスの各臓器の体内分布を測定した。なお、アルブミン阻害剤を投与しないこと以外は同様にした例をコントロール群とした。また、化合物(1d)に対しては10当量のアルブミン阻害剤を投与した。その結果を図11に示す。
【0077】
図11から明らかな通り、放射性125I標識アルブミンバインダー構造を有する放射性同位体標識化合物(1c)は、腎臓を除き、血液中を含む全臓器中で、アルブミン阻害剤投与量に依存して分布量が減少していた。一方、腎臓中では減少傾向が認められなかった。放射性211At標識アルブミンバインダー構造を有する放射性同位体標識化合物(1d)についても同様な傾向が認められた。既に実施例1で、アルブミン阻害剤を用いていない場合に化合物(1c)のクリアランスが遅延していることが認められたが、アルブミン阻害剤の事後投与により、化合物(1c)及び(1d)のクリアランスがその後に促進され、体外に排出されることが示された。
【0078】
(in vivoバイオ特性評価(その2-2):担癌マウスによる体内分布試験I)
非放射性Gaを有し放射性125I標識アルブミンバインダー構造を有する放射性同位体標識化合物(1c)と、その前駆体でアルブミンバインダー構造を有しない化合物(8)に67Gaをキレートさせた67Ga標識ALB非含有化合物(8’)とについて、前記のような87MG細胞を担癌したヌードマウス(免疫不全モデルマウス:BALB/cSlc-nu;日本エスエルシー株式会社製の商品名)における体内分布について測定した。同社のホームページhttp://www.jslc.co.jp/pdf/mouse/2020/016_BALB_cSlc_nu.pdfのヌードマウスのデータを基にして予めマウスの体重から全血液量を算出後、血中アルブミン濃度を用いて、血中の全アルブミン量を算出したことと、測定方法は、化合物(1c)と化合物(8’)との標識体を用いたことと、その標識体投与1時間後に前記(in vivoバイオ特性評価(その2-2):ノーマルマウスによる体内分布試験I)と同様にして調製したアルブミン阻害剤を血中アルブミンの10当量投与し又は投与せず、その3、23時間後に屠殺して担癌マウスの各臓器の体内分布を測定したこと以外は、実施例1中の(in vivoバイオ特性評価(その1-3):U87MG細胞を担癌したマウスにおける体内分布試験I)に準じた。その結果を図12に示す。
【0079】
図12から明らかな通り、放射性125I標識アルブミンバインダー構造を有する放射性同位体標識化合物(1c)は、アルブミン阻害剤を事後投与していないと、血中濃度のクリアランスが遅延していることに起因して、4時間経過後も24時間経過後も腫瘍組織と共に全臓器で残留していた。それに対し、化合物(1c)は、アルブミン阻害剤を事後投与していると、4時間経過後も24時間経過後も血中でも腎臓を除く全臓器でもクリアランスが促進され、腎臓ではクリアランスに応じていたが、腫瘍組織ではクリアランスされずに滞留していた。一方、67Ga標識ALB非含有化合物(8’)は、アルブミンバインダー構造を有しないために、4時間経過後も24時間経過後も腎臓を除く全臓器でクリアランスされ、腫瘍細胞でも幾分かクリアランスされて、体外へ排出が速やかであることが示された。
【0080】
(in vivoバイオ特性評価(その2-3):担癌マウスによる体内分布試験II)
非放射性Gaを有し放射性125I標識アルブミンバインダー構造を有する放射性同位体標識化合物(1c)と放射性211At標識アルブミンバインダー構造を有する放射性同位体標識化合物(1d)とについて、U87MG細胞を担癌したマウスにおける体内分布について測定した。測定方法は、化合物(1c)と化合物(1d)との標識体を用いたことと、その標識体投与1時間後に前記(in vivoバイオ特性評価(その2-2):ノーマルマウスによる体内分布試験I)と同様にして調製したアルブミン阻害剤を血中アルブミンの10当量投与し又は投与せず、その3時間後及び23時間後に屠殺して担癌マウスの各臓器の体内分布を測定したこと以外は、実施例1中の(in vivoバイオ特性評価(その1-3):U87MG細胞を担癌したマウスにおける体内分布試験I)に準じた。その結果を図13及び図14に示す。
【0081】
図13及び図14から明らかな通り、非放射性Gaを有し放射性125I標識アルブミンバインダー構造を有する放射性同位体標識化合物(1c)と放射性211At標識アルブミンバインダー構造を有する放射性同位体標識化合物(1d)は何れも、アルブミン阻害剤を事後投与していないと、血中濃度のクリアランスが遅延していることに起因して、4時間経過後も24時間経過後も腫瘍組織と共に全臓器で残留していた。それに対し、化合物(1c)及び化合物(1d)は、アルブミン阻害剤を事後投与していると、4時間経過後も24時間経過後も血中でも腎臓を除く全臓器でもクリアランスが促進され、腎臓ではクリアランスに応じていたが、腫瘍組織ではクリアランスされずに滞留していた。一方、いずれの場合もアルブミン阻害剤を事後投与した方が、尿中及び糞便中の放射能分布が増大しておりこの結果を裏付けている。
【0082】
(in vivoバイオ特性評価(その2-4):担癌マウスによる体内分布試験III)
前記のようにして得た67Ga標識ALB含有化合物(1b)について、前記のようなU87MG細胞を担癌したマウスにおけるSPECT/CT撮像を行った。
撮像方法は、化合物(1b)の標識体を用いたことと、その標識体投与1時間後に前記(in vivoバイオ特性評価(その2-2):ノーマルマウスによる体内分布試験I)と同様にして調製したアルブミン阻害剤を血中アルブミンの10当量投与し又は投与せず、その2時間後に屠殺してSPECT/CT撮像したこと以外は、実施例1中の(in vivoバイオ特性評価(その1-3):U87MG細胞を担癌したマウスにおける体内分布試験I)に準じた。その結果を図15に示す。
【0083】
図15から明らかな通り、アルブミン阻害剤を投与していない場合、矢印で示す腫瘍組織にも集積し滞留し、しかも全身の臓器にも集積し滞留していた。それに対し、アルブミン阻害剤を投与した場合には、腫瘍組織にも集積し滞留したままその他の臓器からクリアランスが促進されることによって、全身組織への副作用を惹起させずに腫瘍組織のみに211Atからのα線で照射して、近隣の正常細胞に殆ど乃至然程ダメージを与えることなく、腫瘍細胞を選択的に減少乃至死滅させ、少ない副作用で、抗腫瘍効果を得ることができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の放射性同位体標識診療薬剤は、放射性同位体標識プローブ診断薬化合物及び/又は放射性同位体標識プローブ治療薬化合物を含有する診療薬剤として、とりわけ核医学診断と核医学治療とを組み合わせて使用するラジオセラノスティクス薬剤として、各種腫瘍原発巣への診療に用いて、腫瘍を内科的手段によって縮小乃至根治するのに利用できる。
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