(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124320
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】モデル生成方法、モデル生成装置及び熱間圧延用工具の寿命判定方法
(51)【国際特許分類】
B21B 17/08 20060101AFI20240905BHJP
B21B 25/00 20060101ALI20240905BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240905BHJP
G06V 10/774 20220101ALI20240905BHJP
【FI】
B21B17/08 B
B21B25/00 Z
B21B25/00 A
G06T7/00 610Z
G06T7/00 350B
G06V10/774
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023186836
(22)【出願日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2023032211
(32)【優先日】2023-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】赤池 淳
(72)【発明者】
【氏名】井上 敦
(72)【発明者】
【氏名】勝村 龍郎
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA02
5L096AA06
5L096BA03
5L096CA04
5L096DA02
5L096EA02
5L096EA03
5L096EA35
5L096FA06
5L096FA32
5L096GA30
5L096GA34
5L096GA38
5L096GA41
5L096HA11
5L096JA01
5L096KA04
5L096MA07
(57)【要約】
【課題】熱間圧延用工具の寿命について短時間で客観的な判定を可能にするモデルを生成できるモデル生成方法、モデル生成装置及び熱間圧延用工具の寿命判定方法が提供される。
【解決手段】モデル生成方法は、熱間圧延用工具の寿命を判定するためのモデルを生成するモデル生成方法であって、熱間圧延用工具の外観を撮影した画像を取得する画像取得工程と、画像において、外観に対して予め定められた複数のラベルのうち少なくとも1つのラベルを付与するラベル指定工程と、少なくとも1つのラベルが付与された画像を用いて、外観を説明変数とし、少なくとも1つのラベルを目的変数とする機械学習によって、学習済モデルを生成する生成工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延用工具の寿命を判定するためのモデルを生成するモデル生成方法であって、
前記熱間圧延用工具の外観を撮影した画像を取得する画像取得工程と、
前記画像において、前記外観に対して予め定められた複数のラベルのうち少なくとも1つのラベルを付与するラベル指定工程と、
前記少なくとも1つのラベルが付与された前記画像を用いて、前記外観を説明変数とし、前記少なくとも1つのラベルを目的変数とする機械学習によって、学習済モデルを生成する生成工程と、を含む、モデル生成方法。
【請求項2】
取得される前記画像は、前記熱間圧延用工具の背景が単色又は5色以下の複数色である、請求項1に記載のモデル生成方法。
【請求項3】
前記ラベル指定工程は、前記少なくとも1つのラベルを付与する前に、前記画像において前記外観を示す部分を抽出する、請求項1又は2に記載のモデル生成方法。
【請求項4】
前記説明変数は、前記画像の前記熱間圧延用工具の使用回数、使用時間及び被圧延材の長さの少なくとも1つをさらに含む、請求項1又は2に記載のモデル生成方法。
【請求項5】
前記熱間圧延用工具は、継目無鋼管の製造で使用されるプラグである、請求項1又は2に記載のモデル生成方法。
【請求項6】
熱間圧延用工具の寿命を判定するためのモデルを生成するモデル生成装置であって、
前記熱間圧延用工具の外観を撮影した画像を取得する画像取得部と、
前記画像において、前記外観に対して予め定められた複数のラベルのうち少なくとも1つのラベルを付与するラベル指定部と、
前記少なくとも1つのラベルが付与された前記画像を用いて、前記外観を説明変数とし、前記少なくとも1つのラベルを目的変数とする機械学習によって、学習済モデルを生成する生成部と、を備える、モデル生成装置。
【請求項7】
請求項6に記載のモデル生成装置によって生成された学習済モデルを用いて、前記熱間圧延用工具の寿命を判定する、熱間圧延用工具の寿命判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モデル生成方法、モデル生成装置及び熱間圧延用工具の寿命判定方法に関する。本開示は、特に熱間圧延用工具の寿命を判定するためのモデルを生成するモデル生成方法、モデル生成装置及び熱間圧延用工具の寿命判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
継目無鋼管の製造方法の一つに例えばプラグミル圧延法がある。この方法では、断面が丸又は角状の鋼鋳片を加熱炉で所定温度に加熱し、例えばピアサで穿孔し、エロンゲータで拡孔して素管を形成する。素管はプラグミルで肉厚を薄くしながら延ばされて、リーラで内外表面を滑らかにされて、サイザ又はホット・ストレッチ・レデューサで目標寸法に仕上げられる。例えば特許文献1は、供給されたプラグの軸が自発的にプラグ置き台上で水平になるように構成されたプラグを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、継目無鋼管の製造で使用されるプラグのような熱間圧延用工具の寿命は、使用回数が上限に達することによって、又は、人の目視によって判定されることが一般的である。使用回数に基づく熱間圧延用工具の寿命判定は、上限回数が少なく設定される傾向があり、実際には使用可能な熱間圧延用工具が廃却されることが多くある。また、人の目視による寿命判定は、判定する人の経験則に基づいており、経験年数の違いなどによって判定結果にばらつきが生じる。また、同じ人であっても日によって判定結果が変わる可能性があり、再現性及び客観的な判定が難しい。
【0005】
一般に、定量評価のために使用中の工具の形状を2次元計測器又は3次元計測器を用いて測定し、基準となる形状との誤差が閾値を超えると寿命と判定する画像解析手法が知られている。しかし、熱間圧延の工場内では蒸気が発生しており、非接触計測器で検出する光又は赤外線が吸収されたり、光路が曲げられたりするため、精度よく測定することが難しい。また、接触型の計測器を用いる場合に、測定に時間がかかるだけでなく、工具表面の温度が高温(例えば100℃以上)であるため測定自体が難しい。また、熱間圧延用工具は使用中に熱膨張しており、測定時の温度に応じて補正する必要がある。さらに偏熱がある場合、測定位置に応じて補正値を変更する必要があり、精度よく測定することは難しい。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、熱間圧延用工具の寿命について短時間で客観的な判定を可能にするモデルを生成できるモデル生成方法、モデル生成装置及び熱間圧延用工具の寿命判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示の一実施形態に係るモデル生成方法は、
熱間圧延用工具の寿命を判定するためのモデルを生成するモデル生成方法であって、
前記熱間圧延用工具の外観を撮影した画像を取得する画像取得工程と、
前記画像において、前記外観に対して予め定められた複数のラベルのうち少なくとも1つのラベルを付与するラベル指定工程と、
前記少なくとも1つのラベルが付与された前記画像を用いて、前記外観を説明変数とし、前記少なくとも1つのラベルを目的変数とする機械学習によって、学習済モデルを生成する生成工程と、を含む。
【0008】
(2)本開示の一実施形態として、(1)において、
取得される前記画像は、前記熱間圧延用工具の背景が単色又は5色以下の複数色である。
【0009】
(3)本開示の一実施形態として、(1)又は(2)において、
前記ラベル指定工程は、前記少なくとも1つのラベルを付与する前に、前記画像において前記外観を示す部分を抽出する。
【0010】
(4)本開示の一実施形態として、(1)から(3)のいずれかにおいて、
前記説明変数は、前記画像の前記熱間圧延用工具、使用時間及び被圧延材の長さの少なくとも1つをさらに含む。
【0011】
(5)本開示の一実施形態として、(1)から(4)のいずれかにおいて、
前記熱間圧延用工具は、継目無鋼管の製造で使用されるプラグである。
【0012】
(6)本開示の一実施形態に係るモデル生成装置は、
熱間圧延用工具の寿命を判定するためのモデルを生成するモデル生成装置であって、
前記熱間圧延用工具の外観を撮影した画像を取得する画像取得部と、
前記画像において、前記外観に対して予め定められた複数のラベルのうち少なくとも1つのラベルを付与するラベル指定部と、
前記少なくとも1つのラベルが付与された前記画像を用いて、前記外観を説明変数とし、前記少なくとも1つのラベルを目的変数とする機械学習によって、学習済モデルを生成する生成部と、を備える。
【0013】
(7)本開示の一実施形態に係る熱間圧延用工具の寿命判定方法は、
(6)のモデル生成装置によって生成された学習済モデルを用いて、前記熱間圧延用工具の寿命を判定する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、熱間圧延用工具の寿命について短時間で客観的な判定を可能にするモデルを生成できるモデル生成方法、モデル生成装置及び熱間圧延用工具の寿命判定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るモデル生成装置の概略的な構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、学習済モデルを用いて熱間圧延用工具の寿命を判定する方法の処理を示す図である。
【
図3】
図3は、ラベルの付与を説明するための図である。
【
図4】
図4は、背景が単色である画像を例示する図である。
【
図5】
図5は、外観を示す部分の抽出を説明するための図である。
【
図6】
図6は、出力された判定結果の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、出力された判定結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係るモデル生成方法、モデル生成装置及び熱間圧延用工具の寿命判定方法が説明される。本実施形態に係るモデル生成方法及びモデル生成装置は、熱間圧延用工具の寿命を判定するためのモデルを生成する。また、生成されたモデルを用いて、熱間圧延用工具の寿命判定方法が実行される。本実施形態において、熱間圧延用工具がプラグであるとして説明するが、熱間圧延用工具はプラグに限定されない。詳細について後述するが、本実施形態においては、プラグ寿命を判定する上で重要となるプラグの外観についての機械学習によってモデルが生成される。
【0017】
図1は、本実施形態に係るモデル生成装置20の概略的な構成を示すブロック図である。プラグ寿命の学習システム1は、
図1に示すように、上位コンピュータ10と、モデル生成装置20と、記憶装置30と、を備える。上位コンピュータ10は、モデル生成装置20及び記憶装置30を管理する。上位コンピュータ10は、記憶装置30に蓄積された画像などのデータを取得して、モデル生成装置20に出力する。モデル生成装置20は、上位コンピュータ10から得られたデータを用いて機械学習を行い、学習済モデル31を生成する。本実施形態において、学習済モデル31はプラグ寿命を判定するモデルである。記憶装置30は、上位コンピュータ10及びモデル生成装置20からアクセス可能であり、例えばメモリ又はハードディスクドライブ(HDD)などであってよい。記憶装置30は、プラグ寿命の学習システム1が実行する処理で用いられるデータを記憶する。記憶装置30は、少なくとも学習済モデル31及びプラグの外観を撮影した画像を記憶する。
【0018】
上位コンピュータ10は、モデル生成装置20に対して、プラグの外観を撮影した画像(以下「プラグ外観画像」)を出力する。つまり、モデル生成装置20にとって、上位コンピュータ10は入力装置として機能する。プラグ外観画像は、デジタルカメラ、ビデオカメラ又は監視カメラなどの公知の撮影装置によって撮影されて、記憶装置30に蓄積される。ここで、撮影装置はカメラなどのいわゆるマクロ撮影に使用される機器に限定されない。例えば撮影装置として、デジタルマイクロスコープ、光学顕微鏡などのミクロ画像を撮影する機器が用いられてよい。この場合に、プラグの全体が分かる画像となるように、複数の画像が2次元又は3次元に合成されてよい。そして、合成画像が、プラグ外観画像として用いられてよい。
【0019】
モデル生成装置20は、画像取得工程を実行する画像取得部21と、ラベル指定工程を実行するラベル指定部22と、生成工程を実行する生成部23と、を備える。画像取得工程は、熱間圧延用工具の外観を撮影した画像(本実施形態においてプラグ外観画像)を取得する工程である。ラベル指定工程は、画像取得工程で取得された画像において、プラグの外観に対して予め定められた複数のラベルのうち少なくとも1つのラベルを付与する工程である。また、生成工程は、ラベル指定工程で少なくとも1つのラベルが付与された画像を用いて、機械学習によって、学習済モデル31を生成する工程である。
図1のモデル生成装置20内の矢印で示すように、本実施形態において、モデル生成装置20はモデル生成方法として、画像取得工程、ラベル指定工程及び生成工程をこの順に実行する。
【0020】
学習済モデル31は、判定対象のプラグについてのプラグ外観画像を入力することで、そのプラグの寿命を判定するモデルである。学習済モデル31は、寿命の判定が行われる前に、上記のようにプラグの外観を説明変数とし、少なくとも1つのラベルを目的変数とする機械学習によって生成される。生成された学習済モデル31は、記憶装置30に記憶される。
【0021】
ここで、本実施形態において、予め定められた複数のラベルは、プラグが寿命ではないこと、すなわち継続使用が可能であることを示す「OK」と、プラグが寿命限界であることを示す「NG」と、を含む。また、予め定められた複数のラベルは2つに限定されるものではなく、3つ以上であってよい。例えば多くのプラグの状態を示すプラグ外観画像が取得可能であれば、複数のラベルとして、各状態を示す3つ以上のラベルが定められてよい。3つ以上のラベルの具体例については後述する。
【0022】
本実施形態において、上位コンピュータ10は、対象のプラグについて寿命判定を行う判定装置としても機能する。つまり、本実施形態において、上位コンピュータ10が熱間圧延用工具の寿命判定方法を実行する。モデル生成装置20によって学習済モデル31が生成されて、生成された学習済モデル31が記憶装置30に記憶された後に、上位コンピュータ10は例えば
図2のフローに従って対象のプラグの寿命を判定する。
図2は、「OK」又は「NG」を判定する学習済モデル31を用いるプラグ寿命の判定方法の処理を示す。上位コンピュータ10は、判定対象のプラグのプラグ外観画像と学習済モデル31を取得する(ステップS1)。上位コンピュータ10は取得したプラグ外観画像を学習済モデル31に入力して、判定を実行する(ステップS2)。学習済モデル31の出力が「OK」である場合に、上位コンピュータ10は、熱間圧延の作業を行うオペレータなどに対して、使用継続が可能であることを示す(ステップS3)。学習済モデル31の出力が「NG」である場合に、上位コンピュータ10は、熱間圧延の作業を行うオペレータなどに対して、使用不可であることを示す(ステップS4)。この場合に、判定対象のプラグは廃却となるため、オペレータにプラグ交換を促すメッセージが示されてよい。
【0023】
ここで、モデル生成装置20による機械学習において、学習用データとして用いられるプラグ外観画像は十分に用意される必要がある。モデル生成装置20は、ラベル指定工程の後に、プラグ外観画像のN増し(サンプル数を増やすこと)を目的とする画像処理を実行してよい。このような画像処理は、ラベル指定部22によって実行されてよいし、別の機能ブロック(例えば画像処理部)によって実行されてよい。N増しを目的とする画像処理は、画像学習で使用される一般的な手法が用いられてよい。例えば輝度変更、色調変更、回転、コントラスト変更、拡大、縮小、ぼかし、ノイズ付与、切り取り、上下反転及び左右反転などが挙げられる。これらの手法を1つ又は組み合わせて使用することによって、N増しを実行して、画像取得部21によって取得される画像が少ない場合でも、学習済モデル31の生成に十分な枚数のプラグ外観画像を用意することができる。ただし、実際にはあり得ない画像を生成する画像処理は避けることが好ましい。例えば、実際の画像で色調が変化することがあり得ない場合に、色調変更の画像処理でプラグ外観画像を増加させると、判定精度が低下した学習済モデル31が生成され得る。
【0024】
図3は、ラベルの付与を説明するための図である。
図3には、異なるプラグの外観300を撮影した2つの画像が示されている。上図のプラグは寿命が十分に残っており、使用可能なプラグであるため、OKラベル301が付与される。下図のプラグは先端に被圧延材などの凝着がある寿命限界のプラグであるため、NGラベル302が付与される。ここで、寿命限界は一般的な判断基準が用いられてよい。例えば、被圧延材の内面にプラグ外表面の凹凸が転写される、最後まで被圧延材を圧延できないなどの状態のプラグは、寿命限界であるとされてよい。
【0025】
ここで、ラベル指定部22がさらに細分化したラベルを付与して、学習済モデル31が生成されることで、判定結果に基づいてそれぞれの寿命対策の検討をすることが可能である。例えば、ラベル指定部22で画一的な「NG」のラベルでなく、例えば先端部のNG、胴体部のNGと分けることによって、NGの理由が細分化されてよい。この場合に、判定結果が先端部のNGであれば、プラグ先端部の入熱によるプラグの変形と考えられるため、オペレータは高温強度を上げる成分を検討することができる。また、判定結果が胴体部のNGであれば、胴体部に形成させている酸化スケールの剥離が原因と推測されるため、オペレータは酸化スケール付けの熱処理の最適化又は圧延方法の最適化を検討することができる。このようにラベルの細分化と、それに応じた学習済モデル31の生成によって、さらに詳細な対策検討が可能になる。
【0026】
上記のように、プラグ外観画像は例えば監視カメラなどでも撮影可能である。例えばオペレータが監視カメラの画面でプラグを観察する場合に、その画面が記憶装置30に蓄積されて、画像取得工程でプラグ外観画像として取得されてよい。ここで、取得されるプラグ外観画像では、プラグの背景が単色又は5色以下の複数色であることが好ましい。背景の色を制限することによって、プラグの輪郭を明確にすることができる。また、取得される全ての画像は、定められた画角及び解像度を有することが好ましい。すなわち、対象のプラグについて寿命判定を行う場合の入力画像についても、機械学習で用いられるプラグ外観画像と画角及び解像度が統一されていることが好ましい。
【0027】
図4は、背景が単色である画像の一例である。プラグを背景から明確に区別できるほど、生成される学習済モデル31の判定精度が向上する。いくつかの実験によれば、背景が5色を超えると情報量が多くなり、学習済モデル31の判定精度が低下する。また、背景に工場の配線などがある場合にも、情報量が多くなり、学習済モデル31の判定精度が低下する。背景は、単色であることが好ましい。単色の背景色がプラグの色と大きく異なる(例えば補色である)ことがさらに好ましい。
【0028】
また、ラベル指定工程では、ラベルを付与する前に、画像においてプラグの外観300を示す部分を抽出する処理が行われてよい。すなわち、画像中からプラグの部分が切り取られたり、プラグのみがトリミングされたりしてよい。不要な背景の情報が除かれるため、学習済モデル31の判定精度を向上させることができる。例えば
図5のようにプラグのみが抽出された画像は、プラグ以外の外乱を削除できるため、プラグ外観画像として好ましい。また、判定したい箇所のみ(プラグの一部)を抽出した画像が用いられてよい。
【0029】
生成部23のアルゴリズムは特定のものに限定されない。生成部23は一般的に画像学習で使用されるアルゴリズムを用いればよい。例えば、画像分類で使用されるGoogLeNetが使用されてよい。
【0030】
従来の目視によるプラグの寿命判定においても、オペレータが寿命判定要因を逐一データとして残すことは可能であるが、作業負担が増加し、生産性を落とす可能性があるため現実的でない。本実施形態において、上位コンピュータ10は対象のプラグについて寿命判定を行う場合に、判定結果とともに寿命判定要因を記憶装置30などに残すことができる。オペレータの負担を増加させることなく、プラグの開発などで過去の判定結果及び寿命判定要因を利用することが可能になる。
【0031】
ここで、モデル生成装置20は、例えば上位コンピュータ10と異なるコンピュータで構成されてよい。コンピュータの構成は、特に限定されるものでなく、例えばメモリ、CPU(処理装置)、ネットワークに接続する通信部、表示装置及び入力装置を備えるものであってよい。ここで、メモリに記憶された1つ以上のプログラムがコンピュータのCPUによって読み込まれると、CPUを画像取得部21、ラベル指定部22及び生成部23として機能させてよい。また、上位コンピュータ10が判定対象のプラグについて寿命判定を行う判定装置として機能する場合も同様である。つまり、上位コンピュータ10において、プログラムがCPUによって読み込まれると、CPUを
図2の各処理を実行させる処理部として機能させてよい。
【0032】
以上のように、本実施形態に係るモデル生成方法及びモデル生成装置20は、プラグなどの熱間圧延用工具の寿命について短時間で客観的な判定を可能にするモデルを生成できる。生成された学習済モデル31を用いた熱間圧延用工具の寿命判定方法は、従来の目視による方法と異なり、寿命判定結果に再現性があり、特別な測定機器を必要とせずに短時間で判定可能である。
【0033】
(実施例)
以下、本開示の効果を実施例に基づいて具体的に説明するが、本開示は実施例の内容に限定されるものでない。
【0034】
本実施例では、継目無鋼管の製造において、熱間穿孔圧延(ピアサー圧延)プロセスで使用される内面工具(ピアサープラグ)の寿命判定モデルを構築した。
【0035】
本実施例のプラグ外観画像は熱間圧延後、ピアサープラグのみを取り出し、単色の背景で撮影した画像を使用した。プラグ外観画像を得るためのツールとしてIBM製の「Visual Insights」が用いられた。生成部23で使用される画像分類アルゴリズムにはGoogLeNetを使用した。ラベル指定部22は、再利用が可能なプラグに付される「OK」と、使用不可のプラグに付される「NG」の2種類のラベルを用いた。機械学習で用いられるプラグ外観画像として、「OK」が付される50枚の画像と「NG」が付される50枚の画像の合計で100枚が用意された。
【0036】
機械学習に使用したプラグ外観画像と異なる画像を入力画像として、上位コンピュータ10によって生成された学習済モデル31の精度検証が実施された。
図6及び
図7はそれぞれ判定結果の一例を示す。
【0037】
図6の例では、入力画像として寿命限界であるプラグのプラグ外観画像が用いられた。入力画像の画角は、機械学習で使用されたプラグ外観画像と同じである。
図6に示すように、判定結果は99.9%の信頼性で「NG」とされており、正しく寿命限界であると判定されている。
【0038】
図7の例では、機械学習で使用されたプラグ外観画像と大きく画角が異なる入力画像が用いられた。
図7に示すように、判定結果は「Uncategorized」(分類されない)であった。学習に用いていない画像が入力されたような場合に「Uncategorized」と判定させることによって、「OK」及び「NG」と異なる判定結果の画像を蓄積することができる。蓄積された「Uncategorized」の画像を用いて再学習させることによって、さらに寿命判定モデルの精度を向上させることが可能である。
【0039】
図6及び
図7の例においてどちらも数秒で判定結果が示されており、寿命判定として十分な実用性を有する。また、検証用の画像を10回繰り返して判定したが、結果は全て同じであり、再現性が高いことが確認された。
【0040】
さらに寿命判定モデルの精度を向上させるために、画像データ(プラグ外観)に加えて、モデルの使用状態を示す時間を説明変数として用いることが有効である。例えば説明変数は、画像のプラグ(熱間圧延用工具)の使用回数、使用時間(圧延時間)及び被圧延材の長さ(圧延距離)の少なくとも1つをさらに含んでよい。使用時間は、例えばプラグが使用された累積時間であって、使用回数と同様に、プラグの使用状態を示す。また、被圧延材の長さは、例えばプラグを用いて圧延された被圧延材の累積の長さであって、使用回数と同様に、プラグの使用状態を示す。機械学習における説明変数に、外観に加えて、プラグの使用状態を示す他の要素も含めることによって、判定結果の再現性をさらに向上することができる。また、上記のように、ラベル指定部22がさらに細分化したラベルを付与して、学習済モデル31が生成されることで、判定結果に基づいてそれぞれの寿命対策の検討をすることが可能になる。例えば寿命までの平均値を境界とし、プラグ外観画像に基づく判定結果から決定木を用いてさらに判定結果を場合分けするように、寿命判定モデルが生成されてよい。
【0041】
ここで、学習用データの数を増やすために、上記のようにプラグ外観画像のN増しが実行され得るが、N増しの方法によって寿命判定モデルの精度が低下することがある。表1は、N増しのために適用された画像処理と、学習用データの数と、寿命判定モデルの精度(モデル精度)の評価結果の対応を例示する。番号1では、オリジナルの画像のみを使用して機械学習によって寿命判定モデルが生成された。番号2~番号5では、いくつかの画像処理を適用し(表1で適用された画像処理がYesで示されている)、N増しが行われた。そして、N増しによって数が増えた学習用データを用いて寿命判定モデルが生成された。実際の画像(もともとの撮像画像)で想定しにくい変化を生じさせる画像処理(回転又は反転)を適用した番号3~番号5では、モデル精度が低下している。学習データに不自然な画像データが含まれたため、モデル精度が低下したと考えられる。表1の例によれば、N増しを、実際の画像でも想定される変化に対応する画像処理(ぼかし、コントラスト変更、切り取り及びノイズ付与の範囲内)を用いて行い、寿命判定モデルを生成することが好ましい。番号2では、このようなN増しによってモデル精度が3%も向上している。ここで、色調変更の適用は、モデルの精度にあまり影響を与えない。例えば晴れの日と雨の日などで明暗が変化し、色調も変化することが実際の画像でもあり得るため、色調変更の処理が行われたプラグ外観画像は不自然でないため、と推定される。よって、実際の画像でも想定される変化に対応する画像処理に色調変更も含めることが可能である。ただし、表1の例において、色調変更を含めることによって、モデルの精度は少し低下している。
【0042】
【0043】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップ(工程)などを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【符号の説明】
【0044】
1 学習システム
10 上位コンピュータ
20 モデル生成装置
21 画像取得部
22 ラベル指定部
23 生成部
30 記憶装置
31 学習済モデル
300 外観
301 OKラベル
302 NGラベル