(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012433
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】タンパク質成形体の製造方法、タンパク質溶液の製造方法及びタンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/14 20060101AFI20240123BHJP
C07K 14/46 20060101ALN20240123BHJP
C07K 14/78 20060101ALN20240123BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240123BHJP
C12P 21/00 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
C07K1/14 ZNA
C07K14/46
C07K14/78
C12N15/12
C12P21/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023186106
(22)【出願日】2023-10-31
(62)【分割の表示】P 2019569582の分割
【原出願日】2019-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2018015931
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】岡田 亮二
(72)【発明者】
【氏名】松坂 直樹
(57)【要約】 (修正有)
【課題】物性を向上させたタンパク質成形体を簡便に製造できるタンパク質成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】タンパク質を40℃以上80℃未満の温度でギ酸に溶解してタンパク質溶液を得る工程と、タンパク質溶液を用いてタンパク質成形体を成形する工程と、を含む、タンパク質成形体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質を40℃以上80℃未満の温度でギ酸を含む溶媒に溶解してタンパク質溶液を得る工程と、
前記タンパク質溶液を用いてタンパク質成形体を成形する工程と、を含む、タンパク質成形体の製造方法。
【請求項2】
前記タンパク質成形体が、タンパク質繊維である、請求項1に記載のタンパク質成形体の製造方法。
【請求項3】
前記タンパク質が構造タンパク質である、請求項1又は2に記載のタンパク質成形体の製造方法。
【請求項4】
前記構造タンパク質がクモ糸フィブロインである、請求項3に記載のタンパク質成形体の製造方法。
【請求項5】
タンパク質を40℃以上80℃未満の温度でギ酸を含む溶媒に溶解してタンパク質溶液を得る工程を含む、タンパク質溶液の製造方法。
【請求項6】
前記タンパク質が構造タンパク質である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記構造タンパク質がクモ糸フィブロインである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
目的タンパク質及び夾雑物を40℃以上80℃未満の温度でギ酸を含む溶媒に溶解して、前記目的タンパク質を含むタンパク質溶液を得る工程と、
前記タンパク質溶液を前記目的タンパク質の貧溶媒で処理し、前記目的タンパク質を凝集させ、前記目的タンパク質を凝集体として得ることを含む、タンパク質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質成形体の製造方法、タンパク質溶液の製造方法及びタンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高分子材料としてタンパク質材料を用いた成形体として繊維、フィルム、多孔体等が知られている(例えば、特許文献1~3)。このようなタンパク質成形体は、例えば繊維であれば、使用目的に応じて、強度等の物性に優れる繊維が求められる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5540166号公報
【特許文献2】特許第5678283号公報
【特許文献3】特許第5796147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、物性を向上させたタンパク質成形体を簡便に製造できるタンパク質成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]タンパク質を40℃以上80℃未満の温度でギ酸を含む溶媒に溶解してタンパク質溶液を得る工程と、タンパク質溶液を用いてタンパク質成形体を成形する工程と、を含む、タンパク質成形体の製造方法。
[2]タンパク質成形体が、タンパク質繊維である、[1]に記載のタンパク質成形体の製造方法。
[3]タンパク質が構造タンパク質である、[1]又は[2]に記載のタンパク質成形体の製造方法。
[4]構造タンパク質がクモ糸フィブロインである、[3]に記載のタンパク質成形体の製造方法。
[5]タンパク質を40℃以上80℃未満の温度でギ酸を含む溶媒に溶解してタンパク質溶液を得る工程を含む、タンパク質溶液の製造方法。
[6]タンパク質が構造タンパク質である、[5]に記載の製造方法。
[7]構造タンパク質がクモ糸フィブロインである、[6]に記載の製造方法。
[8]目的タンパク質及び夾雑物を40℃以上80℃未満の温度でギ酸を含む溶媒に溶解して、目的タンパク質を含むタンパク質溶液を得る工程と、タンパク質溶液を目的タンパク質の貧溶媒で処理し、目的タンパク質を凝集させ、目的タンパク質を凝集体として得ることを含む、タンパク質の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、物性を向上させたタンパク質成形体を簡便に製造できるタンパク質成形体の製造方法を提供することができる。
【0007】
本発明の製造方法によれば、物性の中でも特に強度及び伸度が向上したタンパク質繊維、強度を維持しつつ、より薄肉化したタンパク質フィルム、及び、見かけ密度が低いタンパク質多孔質体をより簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【
図2】フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【
図3】フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【
図4】調製したドープ液の加熱温度と粘度との関係を示すグラフである。
【
図5】製造したタンパク質繊維の物性を評価した結果を示すグラフである。
【
図6】製造したタンパク質繊維の物性を評価した結果を示すグラフである。
【
図7】製造したタンパク質繊維のGPC測定結果を示すグラフである。
【
図8】クモ糸フィブロインPRT799を含む湿菌体を用いて調製したタンパク質溶液を示す写真である。
【
図9】クモ糸フィブロインPRT799を含む湿菌体から精製されたタンパク質のSDS-PAGEの結果を示す図である。
【
図10】クモ糸フィブロインPRT799を含む乾燥菌体を用いて調製したタンパク質溶液を示す写真である。
【
図11】クモ糸フィブロインPRT799を含む乾燥菌体から精製されたタンパク質のSDS-PAGEの結果を示す図である。
【
図12】クモ糸フィブロインPRT799を含む乾燥菌体から精製されたタンパク質のSDS-PAGEの結果を示す図である。
【
図13】クモ糸フィブロインPRT918を含む乾燥菌体を用いて調製したタンパク質溶液を示す写真である。
【
図14】クモ糸フィブロインPRT918を含む乾燥菌体から精製されたタンパク質のSDS-PAGEの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
[タンパク質成形体の製造方法]
本実施形態のタンパク質成形体の製造方法は、タンパク質を40℃以上80℃未満の温度でギ酸を含む溶媒に溶解してタンパク質溶液を得る工程(溶解工程)と、タンパク質溶液を用いてタンパク質成形体を成形する工程(成形工程)と、を含む。
【0011】
本実施形態のタンパク質成形体の製造方法によれば、物性を向上させたタンパク質成形体を簡便に製造できる。溶解工程において得られるタンパク質溶液は、ゲル化が抑制されており、タンパク質繊維を成形する場合のドープ液として好適である。
【0012】
本実施形態の製造方法により、物性を向上させたタンパク質成形体が得られる理由は明らかではないが、本発明者等は、次のように推察している。まず、40℃以上80℃未満の温度で、タンパク質をギ酸を含む溶媒に溶解させることにより、タンパク質の一部が分解して低分子が増加する。低分子が予想に反して、強度等に寄与することにより、結果として物性が向上したタンパク質成形体が得られるものと考えられる。
【0013】
(タンパク質)
タンパク質の種類は特に制限されず、例えば、構造タンパク質であってよい。構造タンパク質とは、生体構造を形成するタンパク質又はそれに由来するタンパク質を示す。すなわち、構造タンパク質は、天然由来の構造タンパク質であってよく、天然由来の構造タンパク質のアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列の一部(例えば、当該アミノ酸配列の10%以下)を改変した改変タンパク質であってもよい。
【0014】
構造タンパク質としては、例えば、フィブロイン、コラ-ゲン、レシリン、エラスチン及びケラチン、並びにこれら由来のタンパク質等を挙げることができる。フィブロインは、例えば、絹フィブロイン、クモ糸フィブロイン、及びホーネットシルクフィブロインからなる群より選択される1種以上であってよい。構造タンパク質は、絹フィブロイン、クモ糸フィブロイン又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0015】
本実施形態に係るフィブロインは、天然由来のフィブロインと改変フィブロインとを含む。本明細書において「天然由来のフィブロイン」とは、天然由来のフィブロインと同一のアミノ酸配列を有するフィブロインを意味し、「改変フィブロイン」とは、天然由来のフィブロインとは異なるアミノ酸配列を有するフィブロインを意味する。
【0016】
本実施形態に係るフィブロインは、クモ糸フィブロインであることが好ましい。クモ糸フィブロインには、天然クモ糸フィブロイン、及び天然クモ糸フィブロインに由来する改変フィブロインが含まれる。天然クモ糸フィブロインとしては、例えば、クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。
【0017】
本実施形態に係るフィブロインは、例えば、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であってもよい。本実施形態に係るフィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
【0018】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)nモチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)nモチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2~27である。(A)nモチーフのアミノ酸残基数は、2~20、4~27、4~20、8~20、10~20、4~16、8~16、又は10~16の整数であってよい。また、(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2~300の整数を示し、10~300の整数であってもよい。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
【0019】
天然由来のフィブロインとしては、例えば、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質を挙げることができる。天然由来のフィブロインの具体例としては、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
【0020】
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、及びスズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
【0021】
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、及びAAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
【0022】
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
【0023】
クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のより具体的な例としては、例えば、fibroin-3(adf-3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin-4(adf-4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin-like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0024】
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
【0025】
(改変フィブロイン)
改変フィブロインは、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
【0026】
改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0027】
改変フィブロインは、例えば、カイコが産生する絹タンパク質に由来する改変フィブロインであってもよく、クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質に由来する改変フィブロインであってもよい。
【0028】
改変フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)、(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)、及びグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)が挙げられる。
【0029】
クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)としては、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。第1の改変フィブロインは、式1中、nは3~20の整数が好ましく、4~20の整数がより好ましく、8~20の整数が更に好ましく、10~20の整数が更により好ましく、4~16の整数が更によりまた好ましく、8~16の整数が特に好ましく、10~16の整数が最も好ましい。第1の改変フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10~200残基であることが好ましく、10~150残基であることがより好ましく、20~100残基であることが更に好ましく、20~75残基であることが更により好ましい。第1の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
【0030】
第1の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列である、ポリペプチドであってもよい。
【0031】
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
【0032】
第1の改変フィブロインのより具体的な例として、(1-i)配列番号4で示されるアミノ酸配列、又は(1-ii)配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0033】
配列番号4で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1~13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と同一である。
【0034】
(1-i)の改変フィブロインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0035】
グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第2の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0036】
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0037】
第2の改変フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
【0038】
第2の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上、40%以上、50%以上又は50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0039】
第2の改変フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。第2の改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、下記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
【0040】
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、
図1に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)
nモチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。
【0041】
第2の改変フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
【0042】
第2の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0043】
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
【0044】
第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2-i)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列、又は(2-ii)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0045】
(2-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号6で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号6で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号11で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端にHisタグが付加されたものである。
【0046】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号6で示されるアミノ酸配列、配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号8で示されるアミノ酸配列、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8~11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.3%である。
【0047】
(2-i)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0048】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0049】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0050】
第2の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0051】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0052】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0053】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
【0054】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
【0055】
タグ配列を含む第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2-iii)配列番号13、配列番号11、配列番号14若しく配列番号15で示されるアミノ酸配列、又は(2-iv)配列番号13、配列番号11、配列番号14若しく配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0056】
配列番号16、配列番号17、配列番号13、配列番号11、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号18、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0057】
(2-iii)の改変フィブロインは、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0058】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0059】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0060】
第2の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0061】
(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第3の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0062】
第3の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインから(A)nモチーフを10~40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0063】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1~3つの(A)nモチーフ毎に1つの(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0064】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)nモチーフの欠失、及び1つの(A)nモチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0065】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0066】
第3の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0067】
x/yの算出方法を
図1を参照しながら更に詳細に説明する。
図1には、フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)
nモチーフ-第1のREP(50アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第2のREP(100アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第3のREP(10アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第4のREP(20アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第5のREP(30アミノ酸残基)-(A)
nモチーフという配列を有する。
【0068】
隣合う2つの[(A)
nモチーフ-REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)
nモチーフ-REP]ユニットが存在してもよい。
図1には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
【0069】
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
【0070】
図1中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの組を実線で示した。以下このような比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの組は破線で示した。
【0071】
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)
nモチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。
図1に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
【0072】
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
【0073】
第3の改変フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9~11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8~3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
【0074】
第3の改変フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
【0075】
第3の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)nモチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)nモチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0076】
第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3-i)配列番号18、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列、又は(3-ii)配列番号18、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0077】
(3-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号18で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号18で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号11で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端にHisタグが付加されたものである。
【0078】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)のギザ比率1:1.8~11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号18で示されるアミノ酸配列、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号8で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.3%である。配列番号10、配列番号18、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
【0079】
(3-i)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0080】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0081】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3(ギザ比率が1:1.8~11.3)となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0082】
第3の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
【0083】
タグ配列を含む第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3-iii)配列番号17、配列番号11、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列、又は(3-iv)配列番号17、配列番号11、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0084】
配列番号16、配列番号17、配列番号13、配列番号11、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号18、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0085】
(3-iii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0086】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0087】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0088】
第3の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0089】
グリシン残基の含有量、及び(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。第4の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、第4の改変フィブロインは、上述したグリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)と、(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)の特徴を併せ持つ改変フィブロインである。具体的な態様等は、第2の改変フィブロイン、及び第3の改変フィブロインで説明したとおりである。
【0090】
第4の改変フィブロインのより具体的な例として、(4-i)配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列、(4-ii)配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
【0091】
局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0092】
局所的に疎水性指標の大きい領域は、連続する2~4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。
【0093】
上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。
【0094】
第5の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0095】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0096】
第5の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
【0097】
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105-132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表1に示すとおりである。
【0098】
【0099】
p/qの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1~4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がpである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がqである。
【0100】
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、pは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(p=2×4-1=7。「-1」は重複分の控除である。)。例えば、
図2に示したドメイン配列の場合、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が重複せずに7つ存在するため、pは7×4=28となる。また、例えば、
図2に示したドメイン配列の場合、qは4+50+4+40+4+10+4+20+4+30=170である(C末端側の最後に存在する(A)
nモチーフは含めない)。次に、pをqで除すことによって、p/q(%)を算出することができる。
図2の場合28/170=16.47%となる。
【0101】
第5の改変フィブロインにおいて、p/qは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。p/qの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
【0102】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインのアミノ酸配列を、上記のp/qの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記のp/qの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
【0103】
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
【0104】
第5の改変フィブロインの具体的な例として、(5-i)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列、又は(5-ii)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0105】
(5-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号22で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインの(A)nモチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つになるよう欠失したものである。配列番号19で示されるアミノ酸配列は、配列番号22で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、かつ配列番号22で示されるアミノ酸配列の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号23で示されるアミノ酸配列は、配列番号22で示されるアミノ酸配列に対し、各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつ配列番号22で示されるアミノ酸配列の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号20で示されるアミノ酸配列は、配列番号23で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号21で示されるアミノ酸配列は、配列番号23で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
【0106】
(5-i)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0107】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0108】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0109】
第5の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。
【0110】
タグ配列を含む第5の改変フィブロインのより具体的な例として、(5-iii)配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列、又は(5-iv)配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0111】
配列番号24、配列番号25及び配列番号26で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号19、配列番号20及び配列番号21で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0112】
(5-iii)の改変フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0113】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0114】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0115】
第5の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0116】
グルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)は、天然由来のフィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。
【0117】
第6の改変フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフから選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。
【0118】
第6の改変フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
【0119】
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
【0120】
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
【0121】
図3は、フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。
図3を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、
図3に示したフィブロインのドメイン配列(「[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(
図3中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、sを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、sは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(
図3中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数tは50+40+10+20+30=150である。次に、sをtで除すことによって、s/t(%)を算出することができ、
図3のフィブロインの場合21/150=14.0%となる。
【0122】
第6の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。
【0123】
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)
nモチーフ-REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(
図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0124】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0125】
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標は表1に示すとおりである。
【0126】
表1に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
【0127】
第6の改変フィブロインは、REPの疎水性度が、-0.8以上であることが好ましく、-0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
【0128】
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)
nモチーフ-REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(
図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0129】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0130】
第6の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
【0131】
第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6-i)配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32若しくは配列番号33で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(6-ii)配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32若しくは配列番号33で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0132】
(6-i)の改変フィブロインについて説明する。
【0133】
配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)は、天然由来のフィブロインであるNephila clavipes(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、(A)nモチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つにする等の生産性を向上させるためのアミノ酸の改変を行ったものである。一方、Met-PRT410は、グルタミン残基(Q)の改変は行っていないため、グルタミン残基含有率は、天然由来のフィブロインのグルタミン残基含有率と同程度である。
【0134】
配列番号27で示されるアミノ酸配列(M_PRT888)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てVLに置換したものである。
【0135】
配列番号28で示されるアミノ酸配列(M_PRT965)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。
【0136】
配列番号29で示されるアミノ酸配列(M_PRT889)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0137】
配列番号30で示されるアミノ酸配列(M_PRT916)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。
【0138】
配列番号31で示されるアミノ酸配列(M_PRT918)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0139】
配列番号34で示されるアミノ酸配列(M_PRT525)は、Met-PRT410(配列番号7)に対し、アラニン残基が連続する領域(A5)に2つのアラニン残基を挿入し、Met-PRT410の分子量とほぼ同じになるよう、C末端側のドメイン配列2つを欠失させ、かつグルタミン残基(Q)13箇所をセリン残基(S)又はプロリン残基(P)に置換したものである。
【0140】
配列番号32で示されるアミノ酸配列(M_PRT699)は、M_PRT525(配列番号34)中のQQを全てVLに置換したものである。
【0141】
配列番号33で示されるアミノ酸配列(M_PRT698)は、M_PRT525(配列番号34)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0142】
配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32及び配列番号33で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率は9%以下である(表2)。
【0143】
【0144】
(6-i)の改変フィブロインは、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32又は配列番号33で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0145】
(6-ii)の改変フィブロインは、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32又は配列番号33で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0146】
(6-ii)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-ii)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0147】
第6の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0148】
タグ配列を含む第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6-iii)配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40若しくは配列番号41で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(6-iv)配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40若しくは配列番号41で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0149】
配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40及び配列番号41で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32及び配列番号33で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40及び配列番号41で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表3)。
【0150】
【0151】
(6-iii)の改変フィブロインは、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40又は配列番号41で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0152】
(6-iv)の改変フィブロインは、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40又は配列番号41で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0153】
(6-iv)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-iv)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0154】
第6の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0155】
本実施形態に係る改変フィブロインは、第1の改変フィブロイン、第2の改変フィブロイン、第3の改変フィブロイン、第4の改変フィブロイン、第5の改変フィブロイン、及び第6の改変フィブロインが有する特徴のうち、少なくとも2つ以上の特徴を併せ持つ改変フィブロインであってもよい。
【0156】
コラーゲン由来のタンパク質として、例えば、式3:[REP2]pで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式3中、pは5~300の整数を示す。REP2は、Gly-X-Yから構成されるアミノ酸配列を示し、X及びYはGly以外の任意のアミノ酸残基を示す。複数存在するREP2は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号42で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号42で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したヒトのコラーゲンタイプ4の部分的な配列(NCBIのGenBankのアクセッション番号:CAA56335.1、GI:3702452)のリピート部分及びモチーフに該当する301残基目から540残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0157】
レシリン由来のタンパク質として、例えば、式4:[REP3]qで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式4中、qは4~300の整数を示す。REP3はSer-J-J-Tyr-Gly-U-Proから構成されるアミノ酸配列を示す。Jは任意アミノ酸残基を示し、特にAsp、Ser及びThrからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。Uは任意のアミノ酸残基を示し、特にPro、Ala、Thr及びSerからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。複数存在するREP4は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号43で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号43で示されるアミノ酸配列は、レシリン(NCBIのGenBankのアクセッション番号NP 611157、Gl:24654243)のアミノ酸配列において、87残基目のThrをSerに置換し、かつ95残基目のAsnをAspに置換した配列の19残基目から321残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0158】
エラスチン由来のタンパク質として、例えば、NCBIのGenBankのアクセッション番号AAC98395(ヒト)、I47076(ヒツジ)、NP786966(ウシ)等のアミノ酸配列を有するタンパク質を挙げることができる。具体的には、配列番号44で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号44で示されるアミノ酸配列は、NCBIのGenBankのアクセッション番号AAC98395のアミノ酸配列の121残基目から390残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0159】
ケラチン由来のタンパク質として、例えば、カプラ・ヒルクス(Capra hircus)のタイプIケラチン等を挙げることができる。具体的には、配列番号45で示されるアミノ酸配列(NCBIのGenBankのアクセッション番号ACY30466のアミノ酸配列)を含むタンパク質を挙げることができる。
【0160】
上述した構造タンパク質及び当該構造タンパク質に由来する改変構造タンパク質は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0161】
(タンパク質の製造方法)
タンパク質は、例えば、当該タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
【0162】
タンパク質をコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然のフィブロイン等のタンパク質をコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングし、必要に応じて遺伝子工学的手法により改変する方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手したタンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、タンパク質の精製及び/又は確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸を合成してもよい。
【0163】
調節配列は、宿主におけるタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、タンパク質を発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
【0164】
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、タンパク質をコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0165】
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0166】
原核生物の宿主の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
【0167】
原核生物を宿主とする場合、タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002-238569号公報)等を挙げることができる。
【0168】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
【0169】
真核生物を宿主とする場合、タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEp13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
【0170】
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
【0171】
タンパク質は、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該タンパク質を生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0172】
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0173】
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0174】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0175】
また、培養中、必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0176】
発現させたタンパク質の単離、精製は通常用いられている方法で行うことができる。例えば、当該タンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0177】
また、タンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分としてタンパク質の不溶体を回収する。回収したタンパク質の不溶体は、タンパク質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法によりタンパク質の精製標品を得ることができる。当該タンパク質が細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該タンパク質を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、その培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0178】
以下、本実施形態に係るタンパク質成形体の製造方法の各工程について詳述する。
【0179】
[溶解工程]
溶解工程は、タンパク質を40℃以上80℃未満の温度でギ酸を含む溶媒に溶解してタンパク質溶液を得る工程である。
【0180】
溶解工程では、溶解させるタンパク質(以下、「以下、目的タンパク質」ともいう。)として、精製されたタンパク質を用いてもよく、タンパク質(組換えタンパク質)を発現した宿主細胞中のタンパク質を用いてもよい。精製されたタンパク質は、タンパク質を発現した宿主細胞から精製されたタンパク質であってよい。宿主細胞中のタンパク質を目的タンパク質として溶解させる場合、宿主細胞とギ酸を含む溶媒とを接触させて、当該宿主細胞中のタンパク質をギ酸を含む溶媒に溶解させる。宿主細胞は、目的タンパク質を発現したものであればよく、例えば、無傷の細胞であってもよく、破壊処理等の処理を行った後の細胞であってもよい。また、既に簡単な精製処理を行った細胞であってもよい。
【0181】
タンパク質を発現した宿主細胞からタンパク質を精製する方法としては、特に限定されないが、例えば、特許第6077570号公報及び特許第6077569号公報に記載されている方法等を用いることができる。
【0182】
ギ酸を含む溶媒は、ギ酸のみからなる溶媒であってもよく、ギ酸に加えて、他の溶媒を含む混合溶媒であってもよい。ギ酸は、市販品を使用することができる。市販のギ酸としては、(和光純薬工業製社製)が挙げられる。他の溶媒は水であってよい。
【0183】
ギ酸を含む溶媒において、ギ酸の濃度は、溶媒全質量を基準として、30質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよく、60質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。ギ酸を含む溶媒において、ギ酸の濃度は、溶媒全質量を基準として、99質量%以下であってよく、95質量%以下であってもよく、90質量%以上であってもよく、80質量%以下であってもよく、70質量%以下であってもよく、50質量%以下であってもよい。
【0184】
溶解工程における温度(加熱温度)は、40℃以上80℃未満であり、40℃以上75℃以下、50℃以上75℃以下、又は60℃以上75℃以下であってよい。加熱温度は、80℃未満、75℃以下、70℃以下、60℃以下、50℃以下又は40℃以下であってよく、40℃以上、50℃以上、60℃以上又は65℃以上であってよい。溶解工程における加熱温度が、高い場合(40℃以上である場合)、タンパク質、及びタンパク質に含まれ得る夾雑物等をより分解させることができるため、タンパク質成形体の物性が高くなる。
【0185】
溶解工程では、上記の加熱温度に保持して、タンパク質をギ酸を含む溶媒に溶解させればよい。加熱温度の保持時間は、特に限定されないが、10分以上であってよく、工業的生産を考慮すると、10~120分が好ましく、10~60分がより好ましく、10~30分がさらに好ましい。加熱温度の保持時間は、タンパク質が十分に溶解し、かつ夾雑物(目的とするタンパク質以外のもの)の溶解が少ない条件で、適宜設定してよい。
【0186】
タンパク質を溶解するために添加するギ酸を含む溶媒の添加量は、タンパク質を溶解できる量であれば特に限定されない。
【0187】
精製されたタンパク質を溶解する場合、ギ酸を含む溶媒の添加量は、タンパク質(タンパク質を含む乾燥粉末)の重量(g)に対するギ酸を含む溶媒の体積(mL)の比(体積(mL)/重量(g))として、1~100倍であってよく、1~50倍であってよく、1~25倍であってよく、1~10倍であってよく、1~5倍であってよい。
【0188】
タンパク質を発現した宿主細胞中のタンパク質を溶解する場合、ギ酸を含む溶媒の添加量は、宿主細胞の重量(g)に対する、ギ酸(mL)を含む溶媒の比(体積(mL)/重量(g))として、1~100倍であってよく、1~50倍であってよく、1~25倍であってよく、1~10倍であってよく、1~5倍であってよい。
【0189】
ギ酸を含む溶媒は、無機塩を含んでいてよい。ギ酸を含む溶媒に無機塩を添加することにより、タンパク質の溶解性を高めることが可能である。
【0190】
ギ酸を含む溶媒に添加し得る無機塩としては、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属硝酸塩、チオシアン酸塩、過塩素酸塩等を挙げることができる。
【0191】
アルカリ金属ハロゲン化物としては、例えば、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウム等を挙げることができる。
【0192】
アルカリ土類金属ハロゲン化物としては、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム等を挙げることができる。
【0193】
アルカリ土類金属硝酸塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム等を挙げることができる。
【0194】
チオシアン酸塩としては、例えばチオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム、グアニジニウムチオシアナート等を挙げることができる。
【0195】
過塩素酸塩としては、例えば過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸カルシウム、過塩素酸銀、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸マグネシウム等を挙げることができる。
【0196】
これらの無機塩は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0197】
好適な無機塩として、アルカリ金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ハロゲン化物が挙げられる。好適な無機塩の具体例としては、塩化リチウム、塩化カルシウム等を挙げることができる。
【0198】
無機塩の添加量(含有量)は、ギ酸を含む溶媒の全質量に対して、0.5質量%以上10質量%以下、又は0.5質量%以上5質量%以下であってよい。
【0199】
タンパク質溶液は、必要により、不溶物を除去されてよい。つまり、本実施形態のタンパク質成形体の製造方法は、溶解工程後に、必要に応じて、タンパク質溶液から不溶物を除去する工程を含んでいてよい。タンパク質溶液から、不溶物を除去する方法としては、遠心分離、ドラムフィルター、プレスフィルター等のフィルターろ過等、一般的な方法が挙げられる。フィルターろ過による場合、セライト、珪藻土等のろ過助剤及びプリコート剤等を併用することにより、タンパク質溶液から不溶物をより効率的に除去することができる。
【0200】
タンパク質溶液は、タンパク質とこれを溶解しているギ酸を含む溶媒(溶解用溶媒)とを含んでいる。タンパク質溶液は、溶解工程において、タンパク質と共に含まれていた夾雑物を含み得る。タンパク質溶液は、タンパク質成形体の成形用溶液であってよい。
【0201】
タンパク質溶液中のタンパク質の含有量は、タンパク質溶液全量に対して、5質量%以上35質量%以下、又は5質量%以上50質量%以下であってよい。
【0202】
本発明の一実施形態として、上述の溶解工程を含む、タンパク質溶液の製造方法が提供される。すなわち、本実施形態のタンパク質溶液の製造方法は、タンパク質を40℃以上80℃未満の温度でギ酸を含む溶媒に溶解してタンパク質溶液を得る工程を含む。
【0203】
[成形工程]
成形工程は、タンパク質溶液を用いて、タンパク質成形体を成形する工程である。タンパク質成形体の形状としては、特に限定されないが、例えば、繊維、フィルム、多孔質体等を挙げることができる。
【0204】
タンパク質溶液は、成形するタンパク質成形体によってタンパク質の濃度及び粘度を調整することが好ましい。
【0205】
タンパク質溶液中のタンパク質の濃度を調整する方法としては、特に限定されないが、例えば、蒸留によりギ酸を含む溶媒を揮発させることにより、タンパク質濃度を高める方法、溶解工程でタンパク質濃度の高いものを使用する方法、又は、ギ酸を含む溶媒の添加量をタンパク質の量に対し、少なくする方法等が挙げられる。
【0206】
紡糸に適した粘度は一般に10~50,000cP(センチポイズ)であり、粘度は、例えば京都電子工業社製の商品名“EMS粘度計”を使用して測定できる。タンパク質溶液の粘度が、10~10,000cP(センチポイズ)の範囲内にない場合には紡糸できる粘度にタンパク質溶液の粘度を調整してもよい。粘度の調整には、上述した方法等を用いることができる。ギ酸を含む溶媒は、上記例示した好適な無機塩を含んでいてもよい。
【0207】
上記成形するタンパク質成形体がタンパク質繊維である場合、必要により、タンパク質溶液中のタンパク質含有量(濃度)を、紡糸が可能な濃度及び粘度に調整してよい。タンパク質の濃度及び粘度を調整する方法は特に限定されない。また、紡糸方法としては、湿式紡糸等が挙げられる。紡糸に適した濃度及び粘度に調整されたタンパク質溶液をドープ液として、凝固液に付与すると、タンパク質が凝固する。この際、タンパク質溶液を糸状の液体として凝固液に付与することで、タンパク質が糸状に凝固し、糸(未延伸糸)が形成できる。未延伸糸の形成は、例えば特許第5584932号公報に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0208】
湿式紡糸-延伸
(a)湿式紡糸
凝固液は、脱溶媒できる溶液であればよい。凝固液はメタノール、エタノール、2-プロパノール等の炭素数1~5の低級アルコール又はアセトンを使用するのが好ましい。凝固液は、水を含んでいてもよい。凝固液の温度は、紡糸の安定性の観点から、5~30℃が好ましい。
【0209】
タンパク質溶液を糸状の液体として付与する方法は、特に限定されないが、例えば紡糸用の口金から脱溶媒槽の凝固液に押し出す方法が挙げられる。タンパク質が凝固することにより未延伸糸が得られる。タンパク質溶液を凝固液に押し出す場合の押出し速度は、口金の直径及びタンパク質溶液の粘度等に応じて適宜設定できるが、例えば、直径0.1~0.6mmのノズルを有するシリンジポンプの場合、紡糸の安定性の観点から、押し出し速度は1ホール当たり、0.2~6.0mL/hが好ましく、1ホール当たり、1.4~4.0mL/hがより好ましい。凝固液を入れる脱溶媒槽(凝固液槽)の長さは特に限定されないが、例えば長さは200~500mmであってよい。タンパク質の凝固により形成された未延伸糸の引き取り速度は例えば1~14m/min、滞留時間は例えば0.01~0.15minであってよい。未延伸糸の引き取り速度は、脱溶媒の効率の観点から、1~3m/minが好ましい。タンパク質の凝固により形成された未延伸糸は、さらに凝固液において延伸(前延伸)をしてもよいが、凝固液に用いる低級アルコールの蒸発を抑える観点から、凝固液を低温に維持し、未延伸糸の状態で凝固液から引き取るのが好ましい。
【0210】
(b)延伸
上述する方法で得られた未延伸糸を、さらに延伸する工程を含むこともできる。延伸は一段延伸でもよいし、2段以上の多段延伸でもよい。多段で延伸すると、分子を多段で配向させ、トータル延伸倍率も高くすることができるため、タフネスの高い繊維の製造に適している。
【0211】
タンパク質成形体がフィルム(タンパク質フィルム)である場合は、必要により、タンパク質溶液をフィルム化が可能な濃度及び粘度に調整してよい。タンパク質をフィルム化する方法としては、特に限定されないが、タンパク質溶液をギ酸を含む溶媒に耐性のある平板に所定の厚さに塗布して、塗膜を形成させ、塗膜からギ酸を含む溶媒を除去することで、所定の厚さのフィルムを得る方法等が挙げられる。
【0212】
所定の厚さのフィルムを形成する方法としては、例えばキャスト法が挙げられる。キャスト法によりフィルムを形成する場合には、平板に、タンパク質溶液をドクターコート、ナイフコーター等の冶具を用いて数ミクロン以上の厚さにキャストしてキャスト膜を形成し、その後減圧乾燥又は脱溶媒槽への浸漬により溶媒を脱離することによりタンパク質フィルム(ポリペプチドフィルム)を得ることができる。タンパク質フィルムの形成は、特許第5678283号公報に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0213】
タンパク質成形体が多孔質体(タンパク質多孔質体)である場合、必要により、多孔質化が可能な濃度及び粘度に調整してよい。タンパク質多孔質体を形成する方法は、特に限定されない。例えば、多孔質化に好適な濃度及び粘度に調整されたタンパク質溶液に発泡剤を適量添加し、ギ酸を含む溶媒を除去することで多孔質体を得る方法、又は特許第5796147号に記載されている方法に準じて行うこと等が挙げられる。
【0214】
〔タンパク質の製造方法〕
本発明の一実施形態として、目的タンパク質及び夾雑物を40℃以上80℃未満の温度でギ酸を含む溶媒に溶解して、目的タンパク質を含むタンパク質溶液を得る工程と、タンパク質溶液を目的タンパク質の貧溶媒で処理し、目的タンパク質を凝集させ、目的タンパク質を凝集体として得ることを含む、タンパク質の製造方法が提供される。本実施形態に係るタンパク質の製造方法において、目的タンパク質を含むタンパク質溶液を得る工程は、上述した溶解工程と同様の条件で実施してよい。目的タンパク質は、上述したタンパク質であってよい。
【0215】
本実施形態に係るタンパク質の製造方法によれば、精製すべき目的タンパク質と、目的タンパク質以外の夾雑物とを含む粗原料から、夾雑物の大部分を除去して、精製された目的タンパク質を回収することができる。
【0216】
目的タンパク質及び夾雑物は、遺伝子組み換え技術によって目的タンパク質を産生した宿主細胞を含む培養物から取り出されたものであってもよい。目的タンパク質及び夾雑物は、宿主細胞を含む培養物から取り出されたものに、遠心分離、フィルターろ過等の処理がなされたものであってもよい。言い換えると、一実施形態に係るタンパク質の製造方法は、培養物中で宿主細胞に目的タンパク質を産生させる工程と、培養物から目的タンパク質及び夾雑物を含む粗原料を得る工程と、粗原料とギ酸を含む溶媒とを40℃以上80℃未満の温度で混合して、タンパク質溶液を得る工程とを含んでいてもよい。
【0217】
目的タンパク質の貧溶媒としては、目的タンパク質がタンパク質溶液に含まれる溶媒に溶解しにくくなるような溶媒が好ましい。目的タンパク質の貧溶媒としては、例えば、非プロトン性極性溶媒、プロトン性極性溶媒を挙げることができる。
【0218】
プロトン性極性溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、ブタノール、tert-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等であってよい。
【0219】
非プロトン性極性溶媒としては、例えば、後述するケトン類及びニトリル類、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン(DMI)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、プロピレンカーボネート、ヘキサメチルフォスフォラミド、N-エチルピロリドン、ニトロベンゼン、フルフラール、γ-ブチロラクトン、エチレンスルファイト、スルホラン、並びに、エチレンカーボネートを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0220】
ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン及びメチルイソブチルケトンを挙げることができる。
【0221】
ニトリル類としては、飽和又は不飽和のものであってもよいが、飽和のものが好ましい。ニトリル類の炭素数は、2~8であってよく、好ましくは2~6であり、より好ましくは2~4である。ニトリル類として、具体的には、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、ブチロニトリル及びイソブチロニトリル等を挙げることができる。
【0222】
目的タンパク質の貧溶媒の添加量は、目的タンパク質に応じて、目的タンパク質が沈殿するよう適宜決めればよい。目的タンパク質の貧溶媒は、通常、タンパク質溶液と同量を添加すればよい。目的タンパク質の凝集の状況及び夾雑物の混入の存在等に応じて添加量を適宜調整すればよい。
【0223】
目的タンパク質の貧溶媒は、目的タンパク質の純度をより向上させる観点、及び回収量をより高くする観点から、プロトン性極性溶媒であってよく、メタノールであってよい。
【0224】
凝集させた目的タンパク質を凝集体として回収する方法としては、遠心分離、ドラムフィルター、プレスフィルター等のフィルターろ過等の一般的な方法が挙げられる。フィルターろ過による場合、セライト、珪藻土等のろ過助剤及びプリコート剤等を併用することにより、より効率的に目的とする目的タンパク質を凝集体として回収することができる。
【実施例0225】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0226】
〔(1)目的とするタンパク質発現株(組換え細胞)の作製〕
配列番号46で示されるアミノ酸配列を有するクモ糸フィブロイン(PRT775)をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト及び終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。各タンパク質のハイドロパシーインデックス及び分子量は表4に示した通りである。
【0227】
【0228】
上記同様にして、配列番号15で示されるアミノ酸配列を有するクモ糸フィブロイン(PRT799)をコードする核酸、及び、配列番号39で示されるアミノ酸配列を有するクモ糸フィブロイン(PRT918)をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト及び終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。
【0229】
上記核酸をそれぞれクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。当該核酸をそれぞれ組換えたpET-22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換して、目的とするタンパク質を発現する形質転換大腸菌(組換え細胞)を得た。
【0230】
〔(2)目的とするタンパク質の発現〕
上記形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表5)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【0231】
【0232】
500mLの生産培地(表6)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように当該シード培養液を添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。
【0233】
【0234】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、酵母エキス 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持しながら、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、目的のタンパク質を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、湿菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体(湿菌体)を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とするタンパク質サイズのバンドの出現により、目的とするタンパク質が不溶体として発現されていることを確認した。回収した湿菌体を乾燥させて、クモ糸フィブロインを発現する大腸菌の乾燥菌体を得た。以上の操作によって、クモ糸フィブロインPRT775、PRT799及びPRT918それぞれを発現する湿菌体及び乾燥菌体を得た。
【0235】
〔(3)タンパク質(PRT775)の精製〕
IPTGを添加してから2時間後に回収したPRT775を発現する菌体を20mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mMTris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mMTris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8Mグアニジン塩酸塩、10mMリン酸二水素ナトリウム、20mMNaCl、1mMTris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥した粉末状のタンパク質(PRT775)を回収した。
【0236】
〔(4)ドープ液の調製〕
1.パイレックス(登録商標)ガラス製のスクリュー管瓶に所定量のギ酸を秤量した。
2.精製された目的タンパク質(PRT775)を、タンパク質含有量が溶解時に25質量%となるように秤量し、スクリュー管瓶に入れた。
3.2で得られた目的タンパク質とギ酸とを含むサンプル(1~6)を所定の温度で、スターラーを用いて3時間以上撹拌した(サンプル1~6の加熱温度は、それぞれ、室温(RT、25℃)、70℃、40℃、50℃、60℃、80℃とした)。
4.各サンプルについて、あわとり練太郎(ARE-500)で30分以上脱泡し、ドープ液を得た。
5.粘度測定用の試験管に4で得られた各ドープ液を分取し、粘度の測定を実施した。
表7は、溶解判定の評価結果及び粘度の測定結果を示す。
図4は、各加熱温度における粘度の測定結果を示す。溶解性は、目視により、評価した。溶解判定において、「B」は、不溶であることを示し、「A」は、溶解していることを示す。粘度は、京都電子工業社製の商品名“EMS粘度計”を使用して測定した。
【0237】
【0238】
〔(5)タンパク質繊維の成形〕
公知の紡糸装置を使用し、ギアポンプで各ドープ液(ドープ液中のタンパク質濃度:25質量%)を、凝固液(メタノール)へ吐出させた。紡糸条件は下記に示すとおりとした。これにより、タンパク質成形体として、タンパク質繊維(フィブロイン繊維)を得た。
(紡糸条件)
ドープ液温度:25℃
ホットローラー(HR)温度:60℃
総延伸倍率:4倍(サンプル1)、5倍(サンプル2~5)、1倍(サンプル6)
【0239】
〔(6)タンパク質繊維の引張試験〕
タンパク質繊維をつかみ治具間距離20mmの試験紙片に接着剤で固定し、温度20℃、相対湿度65%の条件で、インストロン社製引張試験機3342を用いて引張速度10cm/分で応力(強度)及び伸度測定を行った。ロードセル容量10N、つかみ冶具はクリップ式とした。
【0240】
結果を
図5~6及び表8に示す。表8は、強度(MPa)、及び伸度(%)の値を示す(サンプル数n=10の平均値)。
図7は、各サンプル(1~6)のGPCの測定結果を示す。
図7中、実線(細)は加熱あり(70℃)、二点鎖線は加熱あり(60℃)、破線は加熱なし(25℃)、一点鎖線は加熱あり(80℃)、実線(太)は加熱あり(40℃)、点線は加熱あり(50℃)を示す。
【0241】
【0242】
〔試験例1:湿菌体を用いた目的タンパク質PRT799の製造〕
クモ糸フィブロインPRT799を含む湿菌体を500μL分注し、2,500g、10分間の条件で遠心分離を行った。遠心分離後に得られたサンプルの上清を抜き取り、これにギ酸、又は、ギ酸及び水(逆浸透膜(RO)水)の混合溶媒(ギ酸水溶液)を抜き取った上清と等量添加した。ギ酸水溶液中のギ酸の濃度は、ギ酸水溶液全量に対して、75質量%又は50質量%であった。上記溶媒を添加したサンプルを40℃に加熱した状態で1,500rpmの条件で1時間攪拌し、タンパク質溶液を得た。得られたタンパク質溶液の写真を
図8に示す。
図8Aは、湿菌体にギ酸を添加して得られたタンパク質溶液を示し、
図8Bは、湿菌体に、75質量%のギ酸水溶液を添加して得られたタンパク質溶液を示し、
図8Cは、湿菌体に50質量%のギ酸水溶液を添加して得られたタンパク質溶液を示す。
【0243】
各タンパク質溶液に対して、2,500gの条件で10分間遠心分離を行った。遠心分離後に得た上清を1.5倍量のメタノールに添加し、2時間静置した。2時間静置後、2,500gの条件で、10分間遠心分離を行ってから上清を抜き取り、等量のRO水による洗浄を2回行った。洗浄終了後、沈殿物を凍結乾燥し、タンパク質を含む粉末状サンプルを回収した。
【0244】
得られたサンプル中の総タンパク質量及びフィブロイン量の測定を実施した。総タンパク質量は、BCA法により測定した。フィブロイン量は、Niセファロースを用いて測定した。フィブロイン純度は、総タンパク質量(mg/mL)に対するフィブロイン量(mg/mL)の比率(フィブロイン量/総タンパク質量×100)である。フィブロイン純度及び回収量の結果を下表に示す。
【0245】
【0246】
(SDS-PAGEによる解析)
各サンプルについて、SDS-PAGEによる解析を行った。解析結果は、
図9のレーンNo.1(ギ酸)、レーンNo.2(75質量%のギ酸水溶液)、及びレーンNo.3(50質量%のギ酸水溶液)に示す。
【0247】
クモ糸フィブロインを含む粉末について、BCA法による測定から得られた結果を基に、タンパク質濃度が10mg/mLになるようにSDS-PAGE用サンプルを調製した。Mini-PROTEAN(登録商標) Tetra SystemにMini-PROTEAN(登録商標)
【0248】
TGX(登録商標) Gelsをセットし、調製した各SDS-PAGE用サンプルをロードし、電気泳動を行った。電気泳動終了後、Gel DOC(登録商標) EZ Imagerで解析を行った。結果を
図9に示す。
【0249】
図9の左の写真は、電気泳動後、全てのタンパク質を染色可能なOriole(商標)蛍光ゲルステイン(Bio-Rad社製)で染色したもの、
図1の右の写真は、電気泳動後、PRT799のHisタグ領域に反応するInVision(商標)Hisタグ付きゲル内染色試薬(Thermo Fisher Scientific社製)で染色したものである。PRT799(理論分子量:211.4kDa)は、250kDaの分子量マーカの付近にバンドとして検出された。
【0250】
〔試験例2:乾燥菌体を用いた目的タンパク質(PRT799)の製造(1)〕
クモ糸フィブロインPRT799を含む乾燥菌体50mgに、ギ酸、又は、ギ酸及び水(逆浸透膜(RO)水)の混合溶媒(ギ酸水溶液)を500μL添加した。ギ酸水溶液中のギ酸の濃度は、ギ酸水溶液全量に対して、75質量%又は50質量%であった。上記溶媒を添加したサンプルを40℃に加熱した状態で1,500rpmの条件で1時間攪拌し、タンパク質溶液を得た。得られたタンパク質溶液の写真を
図10に示す。
図10Aは、乾燥菌体にギ酸を添加して得られたタンパク質溶液を示し、
図10Bは、乾燥菌体に、75質量%のギ酸水溶液を添加して得られたタンパク質溶液を示し、
図10Cは、乾燥菌体に50質量%のギ酸水溶液を添加して得られたタンパク質溶液を示す。
【0251】
得られたタンパク質溶液を用い、試験例1と同様操作を実施して、粉末状サンプルを得た。得られたサンプル中の総タンパク質量及びフィブロイン量は、試験例1と同様にして測定した。フィブロイン純度及び回収量の結果を下表に示す。
【0252】
【0253】
(SDS-PAGEによる解析)
得られたクモフィブロインを含むサンプルついて、上記「SDS-PAGEによる解析」と同様の方法により解析を行った。解析結果は
図10レーンNo.1(ギ酸)、レーンNo.2(75質量%のギ酸水溶液)、及びレーンNo.3(50質量%のギ酸水溶液)に示す。
【0254】
〔試験例3:乾燥菌体を用いた目的タンパク質PRT799の製造(2)〕
クモ糸フィブロインPRT799を含む乾燥菌体10gに、ギ酸及び水(逆浸透膜(RO)水)の混合溶媒(ギ酸水溶液)を100mL添加した。ギ酸水溶液中のギ酸の濃度は、ギ酸水溶液全量に対して、50質量%であった。上記溶媒を添加したサンプルを40℃に加熱した状態で1,500rpmの条件で1時間攪拌し、タンパク質溶液を得た。タンパク質溶液に濾過助剤を10g添加し、濾過助剤でプレコートしたディスポーザブルボトルトプフィルターを用いて、吸引ろ過を行った。吸引ろ過終了後、上清を1.5倍量のメタノールに添加し、2時間静置した。2時間静置後、2,500gの条件で、10分間遠心分離を行ってから上清を抜き取り、等量のRO水による洗浄を2回行った。洗浄終了後、沈殿物を凍結乾燥し、タンパク質を含む粉末状サンプルを回収した。
【0255】
(SDS-PAGEによる解析)
得られたサンプルついて、上記「SDS-PAGEによる解析」と同様の方法により解析を行った。解析結果は
図12レーンNo.1に示す。
【0256】
〔試験例4:乾燥菌体を用いた目的タンパク質PRT918の製造〕
クモ糸フィブロインPRT918を含む乾燥菌体50mgに、ギ酸、又は、ギ酸及び水(逆浸透膜(RO)水)の混合溶媒(ギ酸水溶液)を500μL添加した。ギ酸水溶液中のギ酸の濃度は、ギ酸水溶液全量に対して、75質量%又は50質量%であった。上記溶媒を添加したサンプルを40℃に加熱した状態で1,500rpmの条件で1時間攪拌し、タンパク質溶液を得た。得られたタンパク質溶液の写真を
図13に示す。
図13Aは、乾燥菌体にギ酸を添加して得られたタンパク質溶液を示し、
図13Bは、乾燥菌体に、75質量%のギ酸水溶液を添加して得られたタンパク質溶液を示し、
図13Cは、乾燥菌体に50質量%のギ酸水溶液を添加して得られたタンパク質溶液を示す。
【0257】
各タンパク質溶液に対して、2,500gの条件で10分間遠心分離を行った。遠心分離後に得た上清を2倍量のRO水に添加し、2時間静置した。2時間静置後、2,500gの条件で、10分間遠心分離を行ってから上清を抜き取り、等量のRO水による洗浄を2回行った。洗浄終了後、沈殿物を凍結乾燥し、タンパク質を含む粉末状サンプルを回収した。
【0258】
(SDS-PAGEによる解析)
得られたクモフィブロインを含むサンプルついて、上記「SDS-PAGEによる解析」と同様の方法により解析を行った。解析結果は
図14レーンNo.1(ギ酸)、レーンNo.2(75質量%のギ酸水溶液)、及びレーンNo.3(50質量%のギ酸水溶液)に示す。