(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124342
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】被災度特定表示システムと被災度特定表示装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/08 20120101AFI20240905BHJP
G01V 1/01 20240101ALI20240905BHJP
【FI】
G06Q50/08
G01V1/01 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024008010
(22)【出願日】2024-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2023032087
(32)【優先日】2023-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中川 太郎
(72)【発明者】
【氏名】馮 徳民
(72)【発明者】
【氏名】小松原 知将
(72)【発明者】
【氏名】川口 澄夫
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE02
2G105MM01
(57)【要約】
【課題】震災後の複数の建物の被災度に応じて、具体的な調査や対処に進むための客観的な優先順位を付けることのできる、被災度特定表示システムと被災度特定表示装置、及びプログラムを提供すること。
【解決手段】被災度特定表示システム70は、被災度特定装置50と被災度表示装置60とを有し、被災度表示装置60は、通信部602、演算部604、表示部606、及び記憶部608を有し、通信部602は被災度特定装置50にて特定されている被災度を取得し、記憶部608には、建物部位項目に関する第1重み付け係数と、状態項目に関する第2重み付け係数が記憶され、演算部604では、建物部位項目ごとに第1重み付け係数と第2重み付け係数と箇所数とを乗じて建物部位別点数が演算され、全ての建物部位項目の建物部位別点数が加算されて建物全体もしくは階ごとの被災度合計値とされ、表示部606では被災度と被災度合計値が表示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
震災後の建物の被災度を特定し、被災度を数値化して表示する、被災度特定表示システムであって、
震災後の建物の被災度を特定する、被災度特定装置と、
前記被災度特定装置にて特定された建物の被災度を表示する、被災度表示装置とを有し、
前記被災度表示装置は、
通信部と、演算部と、表示部と、記憶部とを有し、
前記通信部は、ネットワークを介して前記被災度特定装置にて特定されている被災度を取得し、
床と天井、床と天井を繋ぐ壁もしくは柱である躯体、設備配管、外壁パネル、からなる建物部位項目の中から、少なくとも2種以上を評価対象とし、各建物部位項目の前記被災度に応じた、安全、要点検、危険のいずれかの状態を状態項目とし、
前記記憶部には、それぞれの前記建物部位項目に対して設定されている第1重み付け係数と、前記状態項目に対して設定されている第2重み付け係数とが記憶され、
前記演算部では、評価対象とされている前記建物部位項目とその被災度に対応する、前記第1重み付け係数及び前記第2重み付け係数と、前記建物部位項目の箇所数とを乗じて建物部位別点数が演算され、評価対象の全ての前記建物部位項目の建物部位別点数が加算されて、建物全体もしくは階ごとの被災度合計値とされ、
前記表示部では、少なくとも前記被災度と前記被災度合計値が表示されることを特徴とする、被災度特定表示システム。
【請求項2】
前記記憶部には、被災度の評価対象となる複数の建物の位置情報が記憶され、
それぞれの建物が前記被災度特定装置を備え、前記被災度特定装置にて対応する建物の被災度が特定され、
前記通信部では、ネットワークを介してGISサーバから地図情報が取得され、かつ、それぞれの前記被災度特定装置にて特定された被災度が取得され、
前記演算部では、全ての前記建物の前記被災度合計値が演算され、
前記表示部には、前記地図情報が表示され、前記地図情報には、前記複数の建物の位置情報と各建物の前記被災度合計値が含まれることを特徴とする、請求項1に記載の被災度特定表示システム。
【請求項3】
前記表示部では、
床と天井が幾何学モデルで表され、床と天井を繋ぐ壁もしくは柱が線モデルで表され、前記幾何学モデルと前記線モデルが縦方向に繋がれて串刺しモデルとして表示されており、
前記串刺しモデルでは、前記建物部位項目の被災度に応じて前記幾何学モデルと前記線モデルが色分けされ、かつ、前記建物部位項目の被災度に応じて前記幾何学モデルのモデル種と前記線モデルの線種の双方が異なっていることを特徴とする、請求項2に記載の被災度特定表示システム。
【請求項4】
前記被災度特定装置では、
前記建物に設置されている地震計にて計測された計測データに基づいて、各階の最大加速度が特定され、各階の前記最大加速度に基づいて各階の層間変形角が特定されるようになっており、
前記最大加速度と前記層間変形角の少なくとも一方に基づいて、前記被災度表示装置における前記表示部にて、被災度に応じた前記串刺しモデルが表示されることを特徴とする、請求項3に記載の被災度特定表示システム。
【請求項5】
前記表示部は、前記地図情報とともに該地図情報に含まれる前記建物の基本情報を示す第1レイヤと、該地図情報とともに地震時の被災度を示す第2レイヤとを切替可能に表示し、
前記第1レイヤに表示される前記基本情報には、建物の竣工年、用途、構造、階数、住所、緯度及び経度と、地震履歴一覧クリック部が少なくとも含まれ、
前記第2レイヤには、少なくとも、前記建物の建設地点における震度と、前記被災度合計値に基づいて設定されている、調査及び/又はメンテナンスの優先度を示す優先度数値と、建物被災度クリック部が表示され、該建物被災度クリック部をクリックすることにより、該建物に関する前記串刺しモデルを表示する画面に切り替わることを特徴とする、請求項4に記載の被災度特定表示システム。
【請求項6】
前記地震履歴一覧クリック部をクリックすることにより、前記建物に関する地震履歴一覧を表示する画面に切り替わり、該地震履歴一覧に含まれる各地震には被災度表示クリック部が設けられ、該被災度表示クリック部をクリックすることにより、該地震の際の対象建物の前記串刺しモデルを表示する画面に切り替わることを特徴とする、請求項5に記載の被災度特定表示システム。
【請求項7】
前記第1レイヤには、前記建物に設置されている前記地震計の正常もしくは異常に関する、地震計の動作状況がさらに表示されることを特徴とする、請求項6に記載の被災度特定表示システム。
【請求項8】
前記被災度表示装置は、前記被災度特定装置から取得した、前記地震計による計測データと、気象庁により公表される地震データの中で該計測データと地震発生時刻が近接する地震データが同じ地震によるものか否かを判定する、地震異同判定部をさらに備え、
前記地震異同判定部において、前記地震計による計測データと、気象庁による地震データが同じ地震であると判定された際に、前記第2レイヤでは、表示された前記地図情報の上に該計測データに基づく震度と該地震データに基づく震度の少なくとも一方を表示することを特徴とする、請求項7に記載の被災度特定表示システム。
【請求項9】
震災後の建物の被災度を特定し、被災度を数値化して表示する、被災度特定表示装置であって、
特定部と、演算部と、表示部と、記憶部とを有し、
床と天井、床と天井を繋ぐ壁もしくは柱である躯体、設備配管、外壁パネル、からなる建物部位項目の中から、少なくとも2種以上を評価対象とし、各建物部位項目の前記被災度に応じた、安全、要点検、危険のいずれかの状態を状態項目とし、
前記特定部では、震災後の前記建物部位項目の被災度が特定され、
前記記憶部には、それぞれの前記建物部位項目に対して設定されている第1重み付け係数と、前記状態項目に対して設定されている第2重み付け係数とが記憶され、
前記演算部では、評価対象とされている前記建物部位項目とその被災度に対応する、前記第1重み付け係数及び前記第2重み付け係数と、前記建物部位項目の箇所数とを乗じて建物部位別点数が演算され、評価対象の全ての前記建物部位項目の建物部位別点数が加算されて、建物全体もしくは階ごとの被災度合計値とされ、
前記表示部には、少なくとも前記被災度と前記被災度合計値が表示されることを特徴とする、被災度特定表示装置。
【請求項10】
通信部をさらに有し、
前記通信部は、ネットワークを介してGISサーバから地図情報を取得し、
前記記憶部には、被災度の評価対象となる複数の建物の位置情報が記憶され、
前記特定部では、全ての前記建物の被災度が特定され、
前記演算部では、全ての前記建物の前記被災度合計値が演算され、
前記表示部には、前記地図情報が表示され、前記地図情報には、前記複数の建物の位置情報と各建物の前記被災度合計値が含まれることを特徴とする、請求項9に記載の被災度特定表示装置。
【請求項11】
震災後の建物の被災度を特定し、被災度を数値化して表示する、被災度特定表示装置を構成するコンピュータに以下の処理を実行させるプログラムであって、
床と天井、床と天井を繋ぐ壁もしくは柱である躯体、設備配管、外壁パネル、からなる建物部位項目の中から、少なくとも2種以上を評価対象とし、各建物部位項目の前記被災度に応じた、安全、要点検、危険のいずれかの状態を状態項目とし、
震災後の前記建物部位項目の被災度を特定し、
それぞれの前記建物部位項目に対して設定されている第1重み付け係数と、前記状態項目に対して設定されている第2重み付け係数を参照して、評価対象とされている前記建物部位項目とその前記被災度に対応する、前記第1重み付け係数及び前記第2重み付け係数と、前記建物部位項目の箇所数とを乗じて建物部位別点数を演算し、評価対象の全ての前記建物部位項目の建物部位別点数を加算して、建物全体もしくは階ごとの被災度合計値とし、
前記被災度と前記被災度合計値を表示することを特徴とする、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被災度特定表示システムと被災度特定表示装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、複数の建物を保有している会社や、複数の施工済み建物(物件)を有している建設会社等において、大地震が発生した際の各建物の被災の発生の有無や、被災の程度(被災度)を相対的に比較した上で、具体的な調査や対処に進むための優先順位を客観的に付けることは、限られた人員を効果的に振り分ける上で極めて重要となる。しかしながら、現状、このように、大地震が発生した直後に複数の建物の被災度を特定し、被災度に優先順位をつけて関係者に報知するシステムや装置は存在しない。
【0003】
ここで、特許文献1には、被災度表示システムが提案されている。この被災度表示システムは、複数の建物にそれぞれ取り付けられ、建物に生じた揺れの大きさを計測する複数の計測手段と、計測した揺れの大きさに基づいて、複数の建物が受けた損傷の程度である被災度をそれぞれ判定する被災度判定手段と、計測した揺れの大きさに基づいて、地震発生の有無を判断する地震判断手段と、地震が発生したと判断した場合に、判定した被災度を記録する記録手段と、表示部を有する表示端末に記録手段が記録した被災度を表示させる表示制御手段と、表示端末の利用者が有する閲覧権限を判定する閲覧権限判定手段とを有する。そして、表示制御手段は、判定した閲覧権限に基づいて、記録した複数の被災度のうち、特定の建物の被災度の表示部への表示を規制する情報規制手段を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の被災度表示システムによれば、建物の被災度を適切に通知できるとしているが、このシステムは、個々の建物全体の被災度を通知するものの、各建物の被災度に応じて具体的な調査や対処に進むための客観的な優先順位を付けるものではない。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、震災後の複数の建物の被災度に応じて、具体的な調査や対処に進むための客観的な優先順位を付けることのできる、被災度特定表示システムと被災度特定表示装置、及びプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明による被災度特定表示システムの一態様は、震災後の建物の被災度を特定し、被災度を数値化して表示する、被災度特定表示システムであって、震災後の建物の被災度を特定する、被災度特定装置と、前記被災度特定装置にて特定された建物の被災度を表示する、被災度表示装置とを有し、前記被災度表示装置は、通信部と、演算部と、表示部と、記憶部とを有し、前記通信部は、ネットワークを介して前記被災度特定装置にて特定されている被災度を取得し、床と天井、床と天井を繋ぐ壁もしくは柱である躯体、設備配管、外壁パネル、からなる建物部位項目の中から、少なくとも2種以上を評価対象とし、各建物部位項目の前記被災度に応じた、安全、要点検、危険のいずれかの状態を状態項目とし、前記記憶部には、それぞれの前記建物部位項目に対して設定されている第1重み付け係数と、前記状態項目に対して設定されている第2重み付け係数とが記憶され、前記演算部では、評価対象とされている前記建物部位項目とその被災度に対応する、前記第1重み付け係数及び前記第2重み付け係数と、前記建物部位項目の箇所数とを乗じて建物部位別点数が演算され、評価対象の全ての前記建物部位項目の建物部位別点数が加算されて、建物全体もしくは階ごとの被災度合計値とされ、前記表示部では、少なくとも前記被災度と前記被災度合計値が表示されることを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、被災度表示装置が、被災度特定装置にて特定されている被災度を取得し、各種の建物部位項目に対して設定されている第1重み付け係数と、被災度に応じた安全、要点検、危険といった状態項目に対して設定されている第2重み付け係数と、建物部位項目の箇所数とを乗じて演算された、評価対象の全ての建物部位項目の建物部位別点数を加算して建物全体もしくは階ごとの被災度合計値とすることにより、建物の被災度が数値化されることで客観的な判断指標を提示することができる。そのため、複数の建物全体もしくは階ごとの被災度合計値を比較することにより、具体的な調査や対処に進むための客観的な優先順位を付けることが可能になる。
【0009】
ここで、第1重み付け係数と第2重み付け係数と建物部位項目の箇所数を乗じて演算される建物部位項目の建物部位別点数は、例えば建物が高層建物であって、建物部位項目の箇所数が多ければ、点数も自動的に大きくなる。この場合、高層建物の各階の被災度が低く、それに対して、他の低層(例えば戸建ての建物)の被災度が高い場合でも、高層建物の優先順位が高くなる恐れがある。しかしながら、本態様では、建物全体の被災度合計値に加えて、各階の被災度合計値も演算され、表示されることから、複数階の建物の各階や、戸建て建物の各階の被災度合計値に基づいて適正な優先順位を付けることが保証されている。
【0010】
被災度特定装置では、建物に設置されている地震計にて計測された計測データに基づいて特定される、最大加速度や、各階の最大加速度に基づいて特定される各階の層間変形角等により、被災度を特定する。被災度表示装置では、特定された最大加速度や層間変形角等の被災度の範囲ごとに、安全、要点検、危険といった各状態項目が設定されており、各状態項目に設定されている第2重み付け係数が割り当てられることになる。
【0011】
一方、床と天井、床と天井を繋ぐ壁もしくは柱である躯体、設備配管、外壁パネル、といった各種の建物部位項目に対しては、建物の倒壊や危険度等に応じて第1重み付け係数が設定されている。そのため、これら2種類の重み付け係数が加味された被災度合計値は、被災度に優先順位を付ける上で信頼性の高い数値となり得る。
【0012】
例えば、建設会社の本支店や関連部署に被災度表示装置が設置され、建設会社の有する複数の施工済みのビルやマンション等の管理施設や防災センター等に被災度特定装置が設置され、これらにより被災度特定表示システムが構成されるシステムを一例として挙げることができる。
【0013】
また、本発明による被災度特定表示システムの他の態様において、前記記憶部には、被災度の評価対象となる複数の建物の位置情報が記憶され、それぞれの建物が前記被災度特定装置を備え、前記被災度特定装置にて対応する建物の被災度が特定され、前記通信部では、ネットワークを介してGISサーバから地図情報が取得され、かつ、それぞれの前記被災度特定装置にて特定された被災度が取得され、前記演算部では、全ての前記建物の前記被災度合計値が演算され、前記表示部には、前記地図情報が表示され、前記地図情報には、前記複数の建物の位置情報と各建物の前記被災度合計値が含まれることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、GIS(Geographic Information System)サーバから取得された地図情報に、複数の建物の位置情報と各建物の被災度合計値が含まれて表示部に表示されることにより、具体的な調査や対処に進むための優先順位に則した各建物の位置を、明りょうに視認することができる。
【0015】
また、本発明による被災度特定表示システムの他の態様において、前記表示部では、床と天井が幾何学モデルで表され、床と天井を繋ぐ壁もしくは柱が線モデルで表され、前記幾何学モデルと前記線モデルが縦方向に繋がれて串刺しモデルとして表示されており、前記串刺しモデルでは、前記建物部位項目の被災度に応じて前記幾何学モデルと前記線モデルが色分けされ、かつ、前記建物部位項目の被災度に応じて前記幾何学モデルのモデル種と前記線モデルの線種の双方が異なっていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、被災度表示装置の表示部において、建物部位項目における床と天井が幾何学モデルで表され、床と天井を繋ぐ壁や柱が線モデルで表され、各階の幾何学モデルと線モデルが縦方向に繋がれた串刺しモデルとして表示され、建物部位項目の被災度に応じて幾何学モデルと線モデルが色分けされていることにより、各階の建物部位項目である、壁や柱といった躯体、床や天井、設備配管の被災度が、各建物部位項目に固有の幾何学モデルや線モデルに着色された色分けで分かり易く表示される。また、全階を一つの串刺しモデルで表示していることから、2、3階程度の低層建物から数十階程度の高層、超高層建物までの様々な高さの建物の被災度を一つの画面で表示することができる。さらに、各階の各建物部位項目の被災度に応じて、幾何学モデルのモデル種と線モデルの線種の双方が異なっていることにより、例えば、表示画面を白黒でプリントアウトした際に、色分けのみでは各階の各部位の被災度が十分に判別し難い場合でも、幾何学モデルのモデル種と線モデルの線種にて被災度を明確に特定することが可能になる。
【0017】
ここで、幾何学モデルのモデル種としては、丸(○)や三角(△)、四角(□)等が含まれ、危険状態を三角(△)、要点検状態を四角(□)、安全状態を丸(○)で表示する例を挙げることができる。また、線モデルの線種としては、実線や点線、一点鎖線等の線種の他に、線の太さを変化させることが含まれ、危険状態を点線、要点検状態を細い実線、安全状態を太い実線で表示する例を挙げることができる。さらに、被災度に応じた色分けとは、危険状態を赤色、要点検状態を黄色、安全状態を緑色等に着色するものであり、線モデルや幾何学モデルの色を見れば、各階の各建物部位項目の安全度や危険度を短時間で容易に理解することができる。
【0018】
また、例えば、建物の躯体や設備配管等ごとに固有の串刺しモデルが作成され、コンピュータの一つの画面に全ての串刺しモデルが表示されることにより、各階における様々な建物部位項目に関する被災度情報を短時間で理解することが可能になる。
【0019】
また、本発明による被災度特定表示システムの他の態様において、前記被災度特定装置では、前記建物に設置されている地震計にて計測された計測データに基づいて、各階の最大加速度が特定され、各階の前記最大加速度に基づいて各階の層間変形角が特定されるようになっており、前記最大加速度と前記層間変形角の少なくとも一方に基づいて、前記被災度表示装置における前記表示部にて、被災度に応じた前記串刺しモデルが表示されることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、被災度特定装置が地震時における各階の被災度を特定することにより、建物に設置されている例えば複数の地震計にて計測された計測データに基づいて、各階の最大加速度を特定し、各階の最大加速度に基づいて各階の層間変形角を特定し、特定されたそれらの値に基づいて、被災度表示装置の表示部にて被災度に応じた串刺しモデルが作成され、表示されることによって、信頼性の高い被災度を特定することができる。
【0021】
ここで、複数階の建物の全階に地震計が設置されていてもよいし、任意階(5階建てである場合に、例えば、1階と3階と5階等)に設置されていてもよい。例えば、後者のように任意階の地震計による計測データを用いて全階の最大加速度を特定する場合は、上下階の最大加速度からその途中階の最大加速度を内挿したり、例えば下階の最大加速度からそれよりも上階の最大加速度を外挿することにより、全階の最大加速度を特定できる。
【0022】
地震計により測定された加速度データを2回積分することにより、変位データが算定される。上下階の各最大変位データと、階高とに基づいて、上下階の層間変形角が算定される。従って、「各階の最大加速度に基づいて各階の層間変形角を特定し、」には、「各階の最大加速度に基づいて各階の最大変位を特定し、各階の最大変位に基づいて層間変形角を特定し、」が含まれている。このこととの関連で、「各階の最大加速度と層間変形角の少なくとも一方に基づいて、」には、「各階の最大加速度と最大変位と層間変形角の少なくとも一方に基づいて、」が含まれている。
【0023】
地震計からは、計測データが通信にて被災度特定装置に送信されてもよいし、管理者等が地震計から計測データを取得し、取得した計測データを被災度特定装置に入力してもよい。
【0024】
また、本発明による被災度特定表示システムの他の態様において、前記表示部は、前記地図情報とともに該地図情報に含まれる前記建物の基本情報を示す第1レイヤと、該地図情報とともに地震時の被災度を示す第2レイヤとを切替可能に表示し、前記第1レイヤに表示される前記基本情報には、建物の竣工年、用途、構造、階数、住所、緯度及び経度と、地震履歴一覧クリック部が少なくとも含まれ、前記第2レイヤには、少なくとも、前記建物の建設地点における震度と、前記被災度合計値に基づいて設定されている、調査及び/又はメンテナンスの優先度を示す優先度数値と、建物被災度クリック部が表示され、該建物被災度クリック部をクリックすることにより、該建物に関する前記串刺しモデルを表示する画面に切り替わることを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、表示部が、地図情報とともに当該地図情報に含まれる建物の基本情報を示す第1レイヤと、当該地図情報とともに地震時の被災度を示す第2レイヤとを切替可能に表示することにより、双方の情報を1つの表示部にて視認し易くできる。
【0026】
また、第1レイヤに表示される基本情報に、建物の竣工年、用途、構造、階数、住所、緯度及び経度が含まれ、第2レイヤにおいて、建物の建設地点における震度と、被災度合計値に基づいて設定されている、調査及び/又はメンテナンスの優先度を示す優先度数値が表示されることにより、例えば第2レイヤにおける地図情報上で比較的近接する位置にある2つの建物の被災度合計値が大きく相違する際に、第1レイヤに切り替えて2つの建物の基本情報における竣工年や構造等を比較することにより、設計が旧耐震基準と新耐震基準による相違や、RC(Reinforced Concrete)造やS(Steel)造、SRC(Steel Reinforced Concrete)造、木造等の構造の相違等、被災度の相違の原因を高精度に分析することができる。
【0027】
さらに、第1レイヤに表示される基本情報に地震履歴一覧クリック部が設けられていることにより、地図情報上に表示される各建物の地震履歴を確認することができる。また、第2レイヤにおいて、各建物の被災度合計値に基づいて設定されている、調査及び/又はメンテナンスの優先度を示す優先度数値が表示されることにより、複数の建物の中で調査等を行う優先度(順序)を明りょうかつ速やかに視認することができる。また、第2レイヤに建物被災度クリック部が表示され、建物被災度クリック部をクリックした際に当該建物に関する上記する串刺しモデルを表示する画面に切り替わることにより、当該建物の各階の被災度を明りょうかつ速やかに視認することができる。
【0028】
また、本発明による被災度特定表示システムの他の態様において、前記地震履歴一覧クリック部をクリックすることにより、前記建物に関する地震履歴一覧を表示する画面に切り替わり、該地震履歴一覧に含まれる各地震には被災度表示クリック部が設けられ、該被災度表示クリック部をクリックすることにより、該地震の際の対象建物の前記串刺しモデルを表示する画面に切り替わることを特徴とする。
【0029】
本態様によれば、地震履歴一覧クリック部をクリックした際に建物に関する地震履歴一覧が表示され、地震履歴一覧に含まれる地震ごとに設けられている被災度表示クリック部をクリックした際に当該建物の串刺しモデルが表示されることにより、地図情報上に表示される各建物の地震履歴と各地震の際の当該建物の各階の被災度を明りょうかつ速やかに視認することができる。
【0030】
また、本発明による被災度特定表示システムの他の態様において、前記第1レイヤには、前記建物に設置されている前記地震計の正常もしくは異常に関する、地震計の動作状況がさらに表示されることを特徴とする。
【0031】
本態様によれば、第1レイヤにおいて建物に設置されている地震計の正常もしくは異常に関する地震計の動作状況がさらに表示されることにより、動作状況が異常な地震計を速やかに検知し、当該地震計のメンテナンスや取り替えを行うことができる。例えば、複数階の建物において、複数の階に複数の地震計が設置されている場合は、全ての地震計の動作状況が表示されることになる。
【0032】
また、本発明による被災度特定表示システムの他の態様において、前記被災度表示装置は、前記被災度特定装置から取得した、前記地震計による計測データと、気象庁により公表される地震データの中で該計測データと地震発生時刻が近接する地震データが同じ地震によるものか否かを判定する、地震異同判定部をさらに備え、前記地震異同判定部において、前記地震計による計測データと、気象庁による地震データが同じ地震であると判定された際に、前記第2レイヤでは、表示された前記地図情報の上に該計測データに基づく震度と該地震データに基づく震度の少なくとも一方を表示することを特徴とする。
【0033】
本態様によれば、被災度表示装置が、各建物に設置されている地震計による計測データと、気象庁により公表される地震データの中で当該計測データと地震発生時刻が近接する地震データが同じ地震によるものか否かを判定する、地震異同判定部をさらに備えていることにより、全国各地に多数設置されている気象庁により公表される地震データを、建物の地震計による計測データに関連付けることができ、一般に公表される地震データと各建物の被災度を関連付けることができる。
【0034】
ここで、本明細書では、建物に設置されている地震計によって計測されるデータ(加速度波形等)を「計測データ」とし、気象庁の地震計によって計測されるデータ(加速度波形等)を「地震データ」として双方を区別することにする。
【0035】
例えば、地図情報上に表示される複数の建物の中で、近接した位置に気象庁の地震計が設置されている建物を基準建物として予め設定しておき、基準建物に設置されている地震計による計測データと、近接位置にある気象庁の地震計による地震データの開始時刻(地震到達時刻)の差分値に閾値を設けておき、地震異同判定部が差分値と閾値を比較して差分値が閾値未満等の際に、地震計による計測データと気象庁による地震データが同じ地震であると判定することができる。
【0036】
また、建物に設置されている地震計による計測データと、気象庁による地震データが同じ地震であると判定された際に、表示された地図情報上に計測データに基づく震度と地震データに基づく震度の少なくとも一方を表示することにより、地図情報に表示されるエリアに複数の震度情報を表示することができ、各建物の建設地点ごとの震度の相違とこれに起因する各建物の被災度の相違を比較し、分析することができる。
【0037】
ここで、「少なくとも一方を表示する」とは、双方の震度を表示することと、いずれか一方の震度を表示することを含んでいる。例えば、双方のデータに基づく震度を表示することにより、地図情報上に可及的に多くの震度情報を表示することができ、この中に表示される各建物の被災度を各地点の震度と比較することで、対象地震における地図情報上の被災度の分布を高精度に特定することができる。
【0038】
また、本発明による被災度特定表示装置の一態様は、震災後の建物の被災度を特定し、被災度を数値化して表示する、被災度特定表示装置であって、特定部と、演算部と、表示部と、記憶部とを有し、床と天井、床と天井を繋ぐ壁もしくは柱である躯体、設備配管、外壁パネル、からなる建物部位項目の中から、少なくとも2種以上を評価対象とし、各建物部位項目の前記被災度に応じた、安全、要点検、危険のいずれかの状態を状態項目とし、前記特定部では、震災後の前記建物部位項目の被災度が特定され、前記記憶部には、それぞれの前記建物部位項目に対して設定されている第1重み付け係数と、前記状態項目に対して設定されている第2重み付け係数とが記憶され、前記演算部では、評価対象とされている前記建物部位項目とその被災度に対応する、前記第1重み付け係数及び前記第2重み付け係数と、前記建物部位項目の箇所数とを乗じて建物部位別点数が演算され、評価対象の全ての前記建物部位項目の建物部位別点数が加算されて、建物全体もしくは階ごとの被災度合計値とされ、前記表示部には、少なくとも前記被災度と前記被災度合計値が表示されることを特徴とする。
【0039】
本態様によれば、1つのコンピュータである被災度特定表示装置にて、特定部にて被災度を特定し、各種の建物部位項目に対して設定されている第1重み付け係数と、被災度に応じた安全、要点検、危険といった状態項目に対して設定されている第2重み付け係数と、建物部位項目の箇所数とを乗じて演算された、評価対象の全ての建物部位項目の建物部位別点数を加算して建物全体もしくは階ごとの被災度合計値とすることにより、建物の被災度の数値化に基づく客観的な判断指標を提示することができる。例えば、各建物が本態様の被災度特定表示装置を備えていて、各建物にて演算された被災度合計値が、建設会社の本支店や関連部署に設置されるコンピュータに送信され、コンピュータにて各建物の被災度合計値を表示し、具体的な調査や対処に進むための客観的な優先順位を付けることができる。
【0040】
また、本発明による被災度特定表示装置の他の態様は、通信部をさらに有し、前記通信部は、ネットワークを介してGISサーバから地図情報を取得し、前記記憶部には、被災度の評価対象となる複数の建物の位置情報が記憶され、前記特定部では、全ての前記建物の被災度が特定され、前記演算部では、全ての前記建物の前記被災度合計値が演算され、前記表示部には、前記地図情報が表示され、前記地図情報には、前記複数の建物の位置情報と各建物の前記被災度合計値が含まれることを特徴とする。
【0041】
本態様によれば、GISサーバから取得された地図情報に、複数の建物の位置情報と各建物の被災度合計値が含まれて表示部に表示されることにより、具体的な調査や対処に進むための優先順位を明りょうに視認することができる。
【0042】
また、本発明によるプログラムの一態様は、震災後の建物の被災度を特定し、被災度を数値化して表示する、被災度特定表示装置を構成するコンピュータに以下の処理を実行させるプログラムであって、床と天井、床と天井を繋ぐ壁もしくは柱である躯体、設備配管、外壁パネル、からなる建物部位項目の中から、少なくとも2種以上を評価対象とし、各建物部位項目の前記被災度に応じた、安全、要点検、危険のいずれかの状態を状態項目とし、震災後の前記建物部位項目の被災度を特定し、それぞれの前記建物部位項目に対して設定されている第1重み付け係数と、前記状態項目に対して設定されている第2重み付け係数を参照して、評価対象とされている前記建物部位項目とその前記被災度に対応する、前記第1重み付け係数及び前記第2重み付け係数と、前記建物部位項目の箇所数とを乗じて建物部位別点数を演算し、評価対象の全ての前記建物部位項目の建物部位別点数を加算して、建物全体もしくは階ごとの被災度合計値とし、前記被災度と前記被災度合計値を表示することを特徴とする。
【0043】
本態様によれば、震災後の建物の被災度を特定し、被災度を数値化して表示する、被災度特定表示装置を構成するコンピュータに対して、震災後の各種の建物部位項目の被災度を取得し、各種の建物部位項目に対して設定されている第1重み付け係数と、被災度に応じた安全、要点検、危険といった状態項目に対して設定されている第2重み付け係数と、建物部位項目の箇所数とを乗じて建物部位別点数を演算し、評価対象の全ての建物部位項目の建物部位別点数を加算して建物全体もしくは階ごとの被災度合計値とすることにより、建物の被災度が数値化されることで客観的な判断指標を提示することができる。
【発明の効果】
【0044】
以上の説明から理解できるように、本発明の被災度特定表示システムと被災度特定表示装置、及びプログラムによれば、震災後の複数の建物の被災度に応じて、具体的な調査や対処に進むための客観的な優先順位を付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】実施形態に係る被災度特定表示システムの一例の全体構成を示す図である。
【
図2】実施形態に係る被災度特定表示システムを構成する、被災度表示装置と被災度特定装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】被災度表示装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図4】被災度特定装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図5】被災度表示装置の表示部における表示例を示す図である。
【
図6】被災度表示装置の表示部における他の表示例を示す図である。
【
図7】被災度表示装置の表示部におけるさらに他の表示例を示す図である。
【
図8A】被災度表示装置の表示部におけるさらに他の表示例を示す図である。
【
図8B】被災度表示装置の表示部におけるさらに他の表示例を示す図である。
【
図9】実施形態に係る被災度特定表示装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図10】被災度表示装置の表示部に表示される、第1レイヤの表示例を示す図である。
【
図11】
図10に示す第1レイヤにおける、特定の建物の基本情報の一例の表示例を示す図である。
【
図12】
図11に示す基本情報に含まれる、地震履歴一覧クリック部をクリックした際に切り替わって表示される、特定の建物の地震履歴一覧の表示例を示す図である。
【
図13】被災度表示装置の表示部に表示される、第2レイヤの表示例を示す図である。
【
図14】被災度表示装置における震度の区分けの一例、気象庁における震度の区分けの一例、及び調査等の優先度数値の区分けの一例を説明する図である。
【
図15】
図13に示す第2レイヤにおける、特定の地震の際の特定の建物における地震情報と建物震度の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、実施形態に係る被災度特定表示システムと被災度特定表示装置の一例について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0047】
[実施形態に係る被災度特定表示システム]
はじめに、
図1乃至
図15を参照して、実施形態に係る被災度特定表示システムの一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る被災度特定表示システムの一例の全体構成を示す図であり、
図2は、実施形態に係る被災度特定表示システムを構成する、被災度表示装置と被災度特定装置のハードウェア構成の一例を示す図である。また、
図3と
図4はそれぞれ、被災度表示装置と被災度特定装置の機能構成の一例を示す図である。
【0048】
被災度特定表示システム70は、大地震が発生し、震災後の複数の建物10の被災度を特定し、被災度を数値化して表示するとともに、数値化された被災度に基づいて、複数の建物10に関して具体的な調査や対処に進むための客観的な優先順位を付けることを可能にしたシステムである。
【0049】
大地震が発生した後、建設会社は、自身の施工した各種建物の一部もしくは全部の被災度を調査し、調査結果に応じた対処(修復、建替え等の計画と実行)を可及的速やかに行うことになるが、この調査や対処を限られた人員で行うには、被災度に応じて調査等を行うための優先順位を付ける必要がある。この優先順位を付けるに当たり、被災度特定表示システム70は、各建物10の被災度を数値化して客観的な指標として表示することで、信頼度の高い優先順位の下で、関係者の具体的かつ速やかな調査等に繋げるものである。
【0050】
被災度特定表示システム70は、複数の複数階建てのビルやマンション等の建物10A,10B等にある管理施設や防災センター等に設置されている被災度特定装置50A,50B等と、各建物10を施工した建設会社20の本支店や関連部署に設置されている被災度表示装置60とを有し、被災度特定装置50の有する第2通信部502(
図4参照)と、被災度表示装置60の有する第1通信部602(
図3参照)がネットワーク40を介してデータを送受信可能に接続されることにより形成されている。
【0051】
また、ネットワーク40には、被災度表示装置60の第1通信部602に対して、地図情報を送信するGISサーバ30が接続されている。GISサーバ30は、例えばクラウドサーバである。被災度表示装置60がGISサーバ30から取得した地図情報に対して、複数の建物10の位置情報等が含まれた状態で表示されることにより、具体的な調査や対処に進むための優先順位に則した各建物10の位置を、明りょうに視認することができる。
【0052】
図示例の建物10Aは7階建て建物であり、1階と3階と5階と屋上階(RF)にそれぞれ地震計15A、15B,15C,15Dが設置され、地盤G内を伝播してきた地震動Eにより建物10Aが振動し、その際に各階における地震計15にて計測された計測データ(加速度データで、例えば、X軸、Y軸、及びZ軸の加速度データ)が、被災度特定装置50Aに送信されるようになっている。ここで、建物10の全ての階に地震計15が設置されていてもよい。
【0053】
また、他の建物10Bは2階建て建物であり、1階に地震計15Eが設置され、地震動Eにより建物10Bが振動した際に地震計15Eにて計測された計測データが、被災度特定装置50Bに送信されるようになっている。
【0054】
各被災度特定装置50では、受信した計測データに基づいて、建物10の各階の最大加速度を算定及び特定し、各階の最大加速度を二回積分することにより各階の最大変位を算定し、各階の最大変位と階高に基づいて各階の層間変形角を算定し、これらが被災度データとなる。
【0055】
被災度特定装置50にて算定された被災度データは、ネットワーク40を介して被災度表示装置60に送信される。また、被災度特定装置50にて特定され、被災度表示装置60にて受信された被災度データは、メールにて複数の関連部署へ送信(通知)されてもよい。ここで、被災度表示装置60は、各被災度特定装置50から受信した被災度データに基づいて、各建物10の全体もしくは階ごとの被災度合計値を演算し、被災度と被災度合計値を表示し、各建物10の被災度の優先順位を表示する。ここで、被災度表示装置60にて表示された、各建物10の被災度と被災度合計値、各建物10の被災度の優先順位等も、メールにて複数の関連部署へ送信(通知)されてよい。
【0056】
被災度特定装置50と被災度表示装置60は、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)やワークステーション(WS:Work Station)、タブレット等の情報処理装置からなり、いずれもコンピュータにより構成される。
【0057】
ネットワーク40には、インターネット等の公衆ネットワーク、携帯電話網等の無線ネットワーク、VPN(Virtual Private Network)等の専用ネットワーク、LAN(Local Area Network)等が含まれる。
【0058】
次に、
図2を参照して、被災度表示装置60と被災度特定装置50のハードウェア構成の一例を説明するとともに、
図3及び
図4を参照して、被災度表示装置60と被災度特定装置50の機能構成の一例を説明する。
【0059】
図2に示すように、被災度表示装置60と被災度特定装置50はいずれも、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)等の情報処理装置(コンピュータ)により構成される。以下、被災度表示装置60を取り上げて説明するが、被災度特定装置50も実質的に同様の構成を有する。
【0060】
被災度表示装置60を構成するコンピュータは、接続バス66により相互に接続されているCPU(Central Processing Unit)61、主記憶装置62、補助記憶装置63、通信IF(interface)64、及び入出力IF65を備えている。主記憶装置62と補助記憶装置63は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0061】
CPU61は、MPU(Microprocessor)やプロセッサとも呼ばれ、CPU61は、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサであってもよい。CPU61は、コンピュータからなる被災度表示装置60の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU61は、例えば、補助記憶装置63に記憶されたプログラムを主記憶装置62の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。
【0062】
主記憶装置62は、CPU61が実行するコンピュータプログラムや、CPU61が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置62は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置63は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置63には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF64を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。被災度表示装置60に対する外部装置等には、各建物10に設置されている被災度特定装置50やGISサーバ30等が含まれる。
【0063】
補助記憶装置63は、例えば、主記憶装置62を補助する記憶領域として使用され、CPU61が実行するコンピュータプログラムや、CPU61が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置63は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置63として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示され、着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0064】
入出力IF65は、被災度表示装置60に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF65には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。被災度表示装置60は、入出力IF65を介して、入力デバイスを操作する操作者からの操作指示等を受け付ける。
【0065】
また、入出力IF65には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続される。被災度表示装置60では、例えば、一つの画面上において、建物の各階における床と天井が幾何学モデルで表され、床と天井を繋ぐ壁や柱が線モデルで表され、各階の幾何学モデルと線モデルが縦方向に繋がれた串刺しモデルが表示される。また、建物の全体や各階の被災度に関して、建物部位別点数と被災度合計値が表示される。さらに、地図情報に複数の建物の位置情報と各建物の被災度合計値、被災度合計値に基づく複数の建物の優先順位が表示される。尚、この表示画面の例は以下で詳説する。
【0066】
通信IF64は、被災度表示装置60が接続するネットワーク40とのインターフェイスである。通信IF64は、上記するインターネット等の公衆ネットワークをはじめとする様々なネットワーク40を介して、被災度表示装置60から各建物の被災度合計値や優先順位等のデータを、複数の関連部署等へ送信(通知)する。
【0067】
図3に示すように、被災度表示装置60は、CPU61によるプログラムの実行により、少なくとも、第1通信部602(通信部の一例)、第1演算部604(演算部の一例)、第1表示部606(表示部の一例)、及び第1記憶部608(記憶部の一例)の各種機能を提供する。また、
図4に示すように、被災度特定装置50は、CPUによるプログラムの実行により、少なくとも、第2通信部502、第2特定部504(特定部の一例)、第2表示部506、及び第2記憶部508の各種機能を提供する。ここで、上記処理機能の少なくとも一部が、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよく、同様に、上記処理機能の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、画像処理プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)やその他のデジタル回路等であってもよい。
【0068】
まず、
図4に示す被災度特定装置50における機能構成の一例を説明する。
【0069】
第2通信部502は、地震発生後に、各地震計15から送信された計測データを一定時間受信し、第2記憶部508に随時記憶(格納)する。
【0070】
第2特定部504は、計測データに基づいて、各階の最大加速度を特定もしくは算定する。図示例の建物10Aは、1階、3階等、任意階に地震計15が設置されていることから、各地震計15による加速度の時刻歴波形に基づいて、地震計15の設置階における最大加速度を特定するとともに、地震計15が設置されていない階の最大加速度は、特定されている他の階の最大加速度を内挿もしくは外挿することにより、算定する。このように、第2特定部504では、地震計15の設置階と設置されてない階で、最大加速度の特定と算定が個別に実行される。
【0071】
第2特定部504は、特定もしくは算定された、各階の最大加速度を2回積分することにより、各階の最大変位を算定する。さらに、各階の最大変位と階高に基づいて、各階の層間変形角を算定する。
【0072】
第2記憶部508に格納されている計測データや、第2特定部504にて特定された各階の最大加速度や層間変形角は、第2表示部506に表示される。
【0073】
次に、
図3に示す被災度表示装置60における機能構成の一例を説明する。
【0074】
第1通信部602は、被災度特定装置50から送信された被災度データ(各階の最大加速度、各階の最大変位、各階の層間変形角等)を受信し、第1記憶部608に記憶(格納)する。
【0075】
第1表示部606は、コンピュータにおける一つの画面上で、建物10の各階(図示例は全7階)における具体的な部位の被災度を個別に表示する。
【0076】
ここで、
図5を参照して、第1表示部606における被災度の表示例を説明する。
【0077】
図5に示す表示例は、一つの画面の左側領域に、被災度判定の根拠となる、各階の最大加速度分布と、各階の最大変位分布(層間変形角に対応)を示すとともに、地震計15の設置階である、1階、3階、5階、及び屋上階の震度を表示している。
【0078】
一方、画面の右側領域に、躯体、設備配管、天井(照明器具を含む)、及び外壁パネルといった各建物部位項目に関する串刺しモデルM1,M2,M3,M4を表示している。
【0079】
各串刺しモデルでは、各階の各建物部位項目の被災度に応じて、幾何学モデルのモデル種と線モデルの線種の双方が異なっている。
【0080】
危険状態を示す幾何学モデルは三角(△)で線モデルは点線であり、要点検状態を示す幾何学モデルは四角(□)で線モデルは細い実線であり、安全状態を示す幾何学モデルは丸(○)で線モデルは太い実線であり、着色は、危険状態を赤色、要点検状態を黄色、安全状態を緑色としている。ここで、被災度に応じた、安全、要点検、危険のいずれかの状態は、状態項目と称することができる。
【0081】
このように、各階の各建物部位項目の被災度に応じて、幾何学モデルのモデル種と線モデルの線種の双方が異なっていることにより、例えば、表示画面を白黒でプリントアウトした際に、色分けのみでは各階の各建物部位項目の被災度が十分に判別し難い場合でも、幾何学モデルのモデル種と線モデルの線種にて被災度を明確に特定することができる。
【0082】
被災度表示装置60は、複数の建物10の全体もしくは階ごとの被災度を数値化し、定量値に基づいて具体的な調査や対処に進むための客観的な優先順位を付けることを実現する装置である。そこで、被災度を数値化するべく、第1記憶部608には、それぞれの建物部位項目に対して設定されている第1重み付け係数と、状態項目に対して設定されている第2重み付け係数が記憶されている。
【0083】
ここでは、建物部位項目に含まれる、躯体、設備配管、天井、及び外壁パネルの各第1重み付け係数がそれぞれ、「1.0」、「0.8」、「0.3」、及び「0.7」に設定される。この設定は、建物の倒壊危険性への影響度、復旧困難性等、様々な要素を加味して設定される。
【0084】
一方、状態項目に含まれる、危険、要点検、及び安全の各第2重み付け係数がそれぞれ、「1.0」、「0.7」、及び「0.1」に設定される。
【0085】
第1演算部604では、各建物部位項目とその被災度に対応する、第1重み付け係数及び第2重み付け係数と、各建物部位項目の箇所数とを乗じて建物部位別点数を演算する。次に、評価対象の全ての建物部位項目の建物部位別点数を加算することにより、建物全体もしくは階ごとの被災度合計値を演算する。
【0086】
例えば、
図5の右図における設備配管を取り上げて演算内容を説明すると、0.8(第1重み付け係数)×(1.0(危険)×5箇所+0.7(要点検)×7箇所+0.1(安全)×3箇所)=9.16となるが、設備配管は床と層間の双方にあることから、点数を1/2倍して、4.08と演算される(
図6参照)。
【0087】
同様に、天井の場合は、0.3(第1重み付け係数)×(1.0(危険)×3箇所+0.7(要点検)×2箇所+0.1(安全)×2箇所)=1.38と演算される(
図6参照)。
【0088】
図6に示すように、建物部位項目である、躯体、設備配管、天井、及び外壁パネルの各建物部位別点数はそれぞれ、1.9、4.08、1.38、及び1.75となり、各建物部位別点数が加算された、建物全体の被災度合計値は、9.11と演算される。
【0089】
第1通信部602では、ネットワーク40を介してGISサーバ30から地図情報が取得され、第1表示部606では、
図7の左図に示すように、取得された地図情報が表示される。
【0090】
一方、第1記憶部608には、被災度の評価対象となる複数の建物10の位置情報が記憶されており、地図情報において、それぞれの建物10が位置情報に基づいてプロットされる。
【0091】
地図情報における各建物10には、演算された各建物10の被災度合計値が紐付けられている。例えば、
図7に示すように、各建物10の位置には、演算済みの被災度合計値が表示されており、被災度合計値が9.11の建物10の位置にカーソルを位置合わせすると、
図5と
図6を参照して既に説明した、串刺しモデルM1,M2,M3,M4や建物部位別点数の算定結果一覧が表示される。
【0092】
そして、
図7の右図に示すように、各建物10の被災度合計値の多い順に優先順位がテーブル表示される。この優先順位に基づき、関係者は、具体的な調査や対処に進むための順序を決定する。
【0093】
ここで、これまでに説明した各建物部位別点数や被災度合計値は、第1重み付け係数と第2重み付け係数、及び箇所数を計算要素とするものであるが、その他、建物や顧客の重要度等も優先順位を決定する要素としてもよく、その場合は、例えば演算された建物の被災度合計値に対して、建物重要度等に応じて設定されている第3重み付け係数等を乗じて最終的な被災度合計値としてもよい。
【0094】
ところで、
図7に示す例から明らかなように、建物部位別点数の算定においては、箇所数が算定要素となることから、建物の階数の大小が被災度合計値に影響する。そのため、高層建物であって各階の被災度が低い場合と、1,2階程度の低層建物(戸建てを含む)であって被災度が高い場合を比較した際に、前者の被災度合計値が上回り、本来の優先順位を反映しない可能性も生じ得る。
【0095】
そこで、被災度表示装置60では、建物10の全体の被災度合計値を演算することに加えて、各階の被災度平均値を演算することとし、全ての建物10の各階ごとの被災度平均値に関しても優先順位を付けるようにしている。
【0096】
具体的には、
図8Aにおいて、
図6に示す7階建て建物10のうち、建物部位の代表例として躯体に関する演算テーブルを示しており、
図8Bには、各建物部位別点数の他に、各階の点数を表示している。尚、「被災度平均値」は、「被災度合計値」を階数で除して平均した値であることから、本明細書では、「被災度平均値」は「被災度合計値」に含まれるものとするが、
図8Aと
図8Bで示す例は、平均値で各階の被災度を評価している。
【0097】
全ての建物10において、
図7に示すように建物10の全体の被災度合計値で優先順位を付けることに加えて、全ての建物10の各階の被災度平均値で優先順位を付けることにより、低層でも被災度の高い建物の優先順位を適正な順位とすることが可能になり、被災状況に即した優先順位付けを実現することができる。
【0098】
被災度特定表示システム70によれば、被災度表示装置60が、被災度特定装置50にて特定されている被災度を取得し、各種の建物部位項目に対して設定されている第1重み付け係数と、被災度に応じた安全、要点検、危険といった状態項目に対して設定されている第2重み付け係数と、建物部位項目の箇所数とを乗じて演算された、評価対象の全ての建物部位項目の建物部位別点数を加算して建物全体もしくは階ごとの被災度合計値とすることにより、建物10の被災度が数値化されることで客観的な判断指標を提示することができる。そのため、複数の建物10の全体もしくは階ごとの被災度合計値を比較することにより、具体的な調査や対処に進むための客観的な優先順位を付けることが可能になる。
【0099】
[実施形態に係る被災度特定表示装置]
次に、
図9を参照して、実施形態に係る被災度特定表示装置について説明する。ここで、
図9は、実施形態に係る被災度特定表示装置の機能構成の一例を示す図である。
【0100】
被災度特定表示装置80は、
図3に示す被災度表示装置60の機能と、
図4に示す被災度特定装置50の機能を実質的に備えている装置であり、各建物10が、図示例の被災度特定表示装置80を備えることができる。
【0101】
第3通信部802は、建物10に設置されている地震計15から計測データを受信し、第3特定部804では、計測データに基づいて各階の最大加速度の特定や層間変形角の算定を行って被災度を特定する。
【0102】
第3演算部806では、第3記憶部810に記憶されている、第1重み付け係数と第2重み付け係数を用いて、評価対象の全ての建物部位項目の建物部位別点数を演算し、建物全体もしくは階ごとの被災度合計値を演算する。
【0103】
第3表示部808では、GISサーバ30から受信した地図情報を表示し、表示した地図情報に対して対象建物の位置情報をプロットとする。
【0104】
各建物10の被災度特定表示装置80にて作成された、建物10の全体もしくは階ごとの被災度合計値を含む地図情報が、建設会社の関連部署にあるホストコンピュータ等に送信され、ホストコンピュータにおいて、
図7に示す表示例のように、各建物の被災度合計値が共通の地図情報にまとめられ、優先順位が付けられてもよい。
【0105】
ここで、被災度特定表示装置80は、コンピュータに以下の処理を実行させるプログラムがインストール等されることにより、各処理が実行される。すなわち、このプログラムに基づく処理は、震災後の建物部位項目の被災度を特定し、それぞれの建物部位項目に対して設定されている第1重み付け係数と、状態項目に対して設定されている第2重み付け係数を参照して、評価対象とされている建物部位項目とその被災度に対応する、第1重み付け係数及び第2重み付け係数と、建物部位項目の箇所数とを乗じて建物部位別点数を演算し、評価対象の全ての建物部位項目の建物部位別点数を加算して、建物全体もしくは階ごとの被災度合計値とし、被災度と被災度合計値を表示する処理である。
【0106】
[被災度表示装置の表示部におけるレイヤ切替例]
次に、
図10乃至
図15を参照して、被災度表示装置の表示部におけるレイヤ切替例について説明する。ここで、
図10は、被災度表示装置の表示部に表示される、第1レイヤの表示例を示す図であり、
図11は、
図10に示す第1レイヤにおける、特定の建物の基本情報の一例の表示例を示す図であり、
図12は、
図11に示す基本情報に含まれる、地震履歴一覧クリック部をクリックした際に切り替わって表示される、特定の建物の地震履歴一覧の表示例を示す図である。また、
図13は、被災度表示装置の表示部に表示される、第2レイヤの表示例を示す図であり、
図14は、被災度表示装置における震度の区分けの一例、気象庁における震度の区分けの一例、及び調査等の優先度数値の区分けの一例を説明する図であり、
図15は、
図13に示す第2レイヤにおける、特定の地震の際の特定の建物における地震情報と建物震度の表示例を示す図である。尚、図示例は、被災度表示装置60の表示部606におけるレイヤの切替態様を示すが、被災度特定表示装置80の第3表示部808においても同様のレイヤの切替が行われてよい。
【0107】
図10に示すように、被災度表示装置60の表示部606では、第1レイヤとして、GISサーバ30から取得された特定エリア(様々なエリアが表示可能)に関する地図情報が表示される。この地図情報には、上記するように、例えば建設会社が施工し、管理対象となっているビルやマンション等の複数の建物T1~T3が含まれており、地震が発生していない際の地図情報を示すレイヤである。
【0108】
複数の建物T1~T3のうち、例えば建物T1をクリックすることにより、
図11に示すように、建物T1に関する基本情報が第1レイヤに表示される。ここで、図示例の基本情報には、建設会社に各建物に割り当てられている建物管理コードの他、建物情報として竣工年や用途、構造、階数、建設地点の住所と経度及び緯度、地震計の設置階、地震履歴一覧クリック部C1、さらには、各所定階に設置される各地震計(機器)の動作状況が含まれる。
【0109】
他の建物T2,T3をそれぞれクリックすることにより、各建物T2,T3に固有の基本情報が表示される。ここで、地図情報に含まれる全ての建物の基本情報は、個別に表示することができる他、同一画面に同時に表示することもできる。
【0110】
図11では、地震計設置階として、1.1階、2.3階、3.8階、4.12階のうち、1,2,4が正常に動作し、3が異常である旨を表示している。管理者等は、この表示に基づき、8階にある地震計を速やかに点検し、メンテナンスや取り替え等を行うことができる。
【0111】
また、
図10では、異常のある地震計を有する建物T1を三角(△)の赤塗り表示とし、全ての地震計が正常に作動している建物T2,T3は丸(○)の緑塗り表示としており、このように表示の形状と色で異常作動の地震計の有無を視認できるようにしている。
【0112】
基本情報における地震履歴一覧クリック部C1をクリックすることにより、
図12に示すように、建物T1において直近の数ヶ月、1年、もしくは数年の間に計測されている地震履歴一覧が表示される。そして、地震履歴一覧に含まれる各地震には、上記する被災度特定装置50にて特定された震度も付記されている。例えば、震度1の地震が発生するたびに、自動的に地震履歴一覧に地震記録が追加されるようになっている。
【0113】
また、図示例では、震度3以上の地震に対して被災度表示クリック部C2が設定されており、各地震の被災度表示クリック部C2をクリックすることにより、対象地震の際の建物T1の被災度に関する、
図5に示す被災度判定結果を表示する。ここで、被災度表示クリック部C2が設定される震度は、図示例の3以外にも、震度1や震度2等であってよい。
【0114】
表示部606に表示される第1レイヤを利用することにより、地図情報上に表示される管理対象の各建物の基本情報や地震履歴に加えて、比較的大きな震度の地震における詳細な被災度を速やかに確認することができる。
【0115】
一方、
図13に示すように、被災度表示装置60の表示部606では、第2レイヤとして、地図情報上に、地震発生後の各建物の建設地点における震度と、被災度合計値に基づいて設定されている調査等の優先度を示す優先度数値が表示される。この第2レイヤは、例えば震度1以上の地震の際に、表示部606において第1レイヤから切替自在に自動生成される。
【0116】
図13には、建物に設置されている地震計により計測されたデータ(計測データ)に基づく震度を、丸(○)の中の数値で示しており、対して、気象庁の地震計K1,K2により計測されたデータ(地震データ)に基づく震度を、四角(□)の中の数値で示している。
【0117】
図13では、3つの建物T1~T3に設置されている地震計により計測された計測データに基づく震度がそれぞれ、「5+」、「4」,「6-」と表示されており、気象庁の地震計K1,K2により計測された地震データに基づく震度がそれぞれ、「5-」、「6-」と表示されている。さらに、各建物T1~T3の調査等の優先度を示す優先度数値がそれぞれ、「73」,「0」,「48」と表示されている。
【0118】
ここで、被災度表示装置の震度の区分けと、気象庁の震度の区分け、さらに優先度数値の区分けは、例えば
図14に示す例のように設定できる。
図13を参照して既に説明した通り、被災度表示装置の震度は丸(○)で表示し、気象庁の震度は四角(□)で表示し、各震度の色は同じとしている。例えば、震度7は紫塗り表示とし、震度6弱(6-)は赤塗り表示とし、震度5弱(5-)は黄色塗り表示とし、震度1は白塗り表示とする等により、双方を関連付けつつ区分けする。一方、優先度数値は、優先度大の51~99までは赤表示とし、優先度中の1~50までは橙色表示とし、優先度小の0は緑表示とする。
【0119】
ここで、調査やメンテナンス等の優先度を示す優先度数値の区分けに関して、各建物の被災度の合計値は、
図6に示すように「9.11」等となる。この合計値の最大の被災度に対する割合を100倍し、さらに小数点以下を切り捨てる等して整数化することにより、
図14に示す0~99までの整数にて表示することとし、優先度数値の大小を分かり易くできる。
【0120】
図13に示す例では、建物T1の震度は建物T3の震度よりも小さいものの、点検等の優先度数値が高いことから、建物T1の点検等を優先させるとの判断指標となる。尚、建物T2は、震度が4であるものの、優先度数値はゼロであり、建物が被災していないことから点検等の必要なしとの判断指標となる。
【0121】
ここで、
図13に示す例では、各建物T1~T3に設置されている地震計により計測された計測データと、気象庁の各地震計K1,K2により計測された地震データが同一地震であることを前提として表示されている。
【0122】
このことに関し、図示を省略するが、被災度表示装置60は、被災度特定装置50から取得した、各建物T1~T3の地震計による計測データと、気象庁から公表される各地震計K1,K2における複数の地震データの中で、計測データと地震発生時刻が近接する地震データが同じ地震によるものか否かを判定する、地震異同判定部をさらに備えている。そして、地震異同判定部において、地震計による計測データと、気象庁による地震データが同じ地震であると判定された際に、
図13に示すように、第2レイヤにおいて、表示された地図情報の上に計測データに基づく震度と地震データに基づく震度の双方を表示する。この地震異同判定部も、CPUによるプログラムの実行により提供される機能である。
【0123】
例えば、地図情報上に表示される複数の建物T1~T3の中で、近接した位置に気象庁の地震計K1,K2が設置されている建物として例えば建物T2を基準建物として予め設定しておき、基準建物に設置されている地震計による計測データと、近接位置にある気象庁の地震計K2による地震データの開始時刻(地震到達時刻)の差分値に閾値(例えば2分)を設けておき、地震異同判定部が差分値と閾値を比較して差分値が閾値未満等の際に、地震計による計測データと気象庁による地震データが同じ地震であると判定することができる。
【0124】
ここで、気象庁は、発生地震に関する情報をホームページにて公表しており、被災度表示装置60はその第1通信部602を介して当該ホームページにアクセスし、地震計K1,K2のエリアにおける震度情報(例えばcsvファイル)を取り込み、表示部606の第2レイヤに表示する。
【0125】
尚、第2レイヤにおいては、建物T1~T3に設置されている地震計による計測データに基づく震度と、気象庁により公表される震度の双方を表示することの他に、いずれか一方のみを表示することもでき、好ましい表示方法を選択してよい。
【0126】
図13に示す第2レイヤにおいて、例えば建物T1をクリックすることにより、
図15に示すように、対象地震の発生時刻や建物T1に関する建物震度、被災度表示クリック部C3,気象庁震度表示クリック部C4が表示される。被災度表示クリック部C3をクリックすることにより、対象地震の際の建物T1の被災度に関する、
図5に示す被災度判定結果を表示する。一方、気象庁震度表示クリック部C4をクリックすることにより、地図情報上に、気象庁のホームページから取り込まれ、地震異同判定部にて同一地震であると判定された地震計K1,K2における震度情報が表示される。
【0127】
このように、表示部606が、地図情報とともに当該地図情報に含まれる建物の基本情報を示す第1レイヤと、当該地図情報とともに地震時の被災度を示す第2レイヤとを切替可能に表示することにより、双方の情報を1つの表示部606にて視認し易くできる。
【0128】
また、第1レイヤに表示される基本情報に、建物の竣工年等の各種情報が含まれ、第2レイヤにおいて、建物の建設地点における震度と、被災度合計値に基づいて設定されている、調査及び/又はメンテナンスの優先度を示す優先度数値が表示されることにより、地図情報上にある各建物の被災度合計値と基本情報を合わせて比較し、設計が旧耐震基準と新耐震基準による相違や、各種構造の相違等、被災度の相違の原因を高精度に分析することができる。
【0129】
また、第1レイヤに表示される基本情報に地震履歴一覧クリック部C1が設けられていることにより、地図情報上に表示される各建物の地震履歴を確認することができ、第2レイヤにおいて、各建物の被災度合計値に基づいて設定されている、調査等の優先度を示す優先度数値が表示されることにより、複数の建物の中で調査等を行う優先度を明りょうかつ速やかに視認することができ、さらに、第2レイヤに建物被災度クリック部C3が表示され、建物被災度クリック部C3をクリックした際に当該建物に関する上記する串刺しモデルを表示する画面に切り替わることにより、当該建物の各階の被災度を明りょうかつ速やかに視認することができる。
【0130】
さらに、建物の建設地点に気象庁の地震計が設置されている場合に、建物に設置される計測データに基づく震度と気象庁の地震計の地震データに基づく震度の双方が表示されることで、地図情報上に可及的に多くの震度情報を表示することができ、この中に表示される各建物の被災度を各地点の震度と比較することで、対象地震における地図情報上の被災度の分布を高精度に特定することができる。
【0131】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0132】
10,10A,10B:建物
15,15A,15B,15C,15D,15E:地震計
20:建設会社
30:GISサーバ
40:ネットワーク
50,50A,50B:被災度特定装置
60:被災度表示装置
70:被災度特定表示システム
80:被災度特定表示装置
502:第2通信部 (通信部)
504:第2特定部(特定部)
506:第2表示部(表示部)
508:第2記憶部(記憶部)
602:第1通信部(通信部)
604:第1演算部(演算部)
606:第1表示部(表示部、表示画面)
608:第1記憶部(記憶部)
802:第3通信部(通信部)
804:第3特定部(特定部)
806:第3演算部(演算部)
808:第3表示部(表示部)
810:第3記憶部(記憶部)
G:地盤
E:地震
M,M1、M2、M3,M4:串刺しモデル
T1,T2,T3:建物
K1,K2:気象庁の地震計
C1:地震履歴一覧クリック部
C2,C3:被災度表示クリック部
C4:気象庁震度表示クリック部