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特開2024-124344金プレートの製造方法、金プレート材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124344
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】金プレートの製造方法、金プレート材料
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20240905BHJP
   B22F 1/06 20220101ALI20240905BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240905BHJP
【FI】
B22F9/24 E
B22F1/06
B22F1/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024013236
(22)【出願日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2023030954
(32)【優先日】2023-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】飯島 遥
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 峻平
(72)【発明者】
【氏名】赤池 寛人
(72)【発明者】
【氏名】樋上 晃裕
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017BA02
4K017CA03
4K017CA07
4K017DA09
4K017FB07
4K018BA01
4K018BB01
4K018BB06
4K018BD10
(57)【要約】
【課題】金を含む溶液を用いて、生体に有害な物質が残留することの無い金プレートを低コストで効率よく回収することが可能な金プレートの製造方法、および金プレート材料を提供する。
【解決手段】金イオンを含む溶液に酵母を加えて撹拌して、前記酵母と前記金イオンとを接触させる酵母接触工程と、金イオンと接触させた酵母を静置して金イオンを還元させて金プレートを形成する静置工程と、を有し、前記酵母接触工程では、前記溶液に含まれる金の質量の0.004倍以上、39倍以下の範囲の質量の前記酵母を加え、前記静置工程では、金イオンと接触させた前記酵母を静置させ、前記金プレートは、三角板状または六角板状を成し、厚みに対する長辺の長さのアスペクト比が3倍以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金イオンを含む溶液に酵母を加えて撹拌して、前記酵母と前記金イオンとを接触させる酵母接触工程と、前記金イオンと接触させた前記酵母を静置して前記金イオンを還元させて金プレートを形成する静置工程と、を有し、前記酵母接触工程では、前記溶液に含まれる金の質量の0.004倍以上、39倍以下の範囲の質量の前記酵母を加え、前記静置工程では、前記金イオンと接触させた前記酵母を静置させ、前記金プレートは、三角板状または六角板状を成し、厚みに対する長辺の長さのアスペクト比が3倍以上であること、を特徴とする金プレートの製造方法。
【請求項2】
前記酵母は、サッカロマイセス属、ジゴサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、デバリオマイセス属、カンジタ属のうち、いずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の金プレートの製造方法。
【請求項3】
前記酵母接触工程において加える前記酵母は固形の酵母であり、前記静置工程における静置期間は4日以上60日以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の金プレートの製造方法。
【請求項4】
前記酵母接触工程において加える前記酵母は、水に乾燥酵母を0.5質量%以上10質量%以下の濃度範囲となるように加えて懸濁させた後に静置した上澄みの酵母抽出液であり、前記静置工程における静置期間は1日以上60日以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の金プレートの製造方法。
【請求項5】
前記上澄み液は、吸光光度分析において、波長が250nm~270nmの領域にDNA由来のピークを有することを特徴とする請求項4に記載の金プレートの製造方法。
【請求項6】
三角板状または六角板状を成し、厚みに対する長辺の長さのアスペクト比が3倍以上である金プレートと酵母とを含むことを特徴とする金プレート材料。
【請求項7】
前記酵母は、サッカロマイセス属、ジゴサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、デバリオマイセス属、カンジタ属のうち、いずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項6に記載の金プレート材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金イオンを含む溶液から金プレートを製造する金プレートの製造方法、および金プレート材料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、金を含む廃棄物(原料)から金を回収する金のリサイクルが行われている。例えば、廃棄されたスマートホンやパソコンの回路基板には、配線などに金が用いられており、これらの単位重量当たりの含有量は、天然鉱石に含まれる含有量よりも多いこともある。近年、貴金属価格の高騰により、こうした金を含む廃棄物から金を効率的に取り出す方法が複数提案されている。
【0003】
一方、粒子形状が板状を成すミクロンサイズの金プレートが知られている。こうした金プレートは、例えば、長辺が1μm~100μm程度の六角形や三角形の板状粒子である。金プレートは、水などの溶媒に分散させることにより、プラズモン共鳴に由来する吸収で鮮明な青色を呈する。こうした作用を利用して、金プレートと抗体とを結合させることで、抗原を検出する診断薬として用いることができる。
【0004】
また、金プレートは、生体を透過しやすい近赤外光を吸収することによって発熱の効果が得られるため、患部以外の生体部分へ余分な負担を掛けることなく、がんの光温熱療法など、医療分野への応用も期待されている。
【0005】
従来、廃棄物から取り出した金を含む溶液から金の微粒子を製造する方法として、例えば、特許文献1では、鉄還元細菌を用いたバイオミネラリゼーション(微生物が持つ還元作用)によって、金属粒子を還元生成する方法が開示されている。
また、特許文献2では、金を含有する溶液に酵母を作用させることによって、金粒子を析出させる貴金属の回収方法が開示されている。
さらに、非特許文献1では、酵母を培養して得られた培養液を精製して用いて、金プレート、金粒子、金ロッドなどを作製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5090697号公報
【特許文献2】特開2018-35413号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Z. Yang, et. Al., “ Controllable Biosynthesis and Properties of Gold Nanoplates Using Yeast Extract”, Nano-Micro Lett., 9(1) (2017) No.5.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、一般的に行われている、廃棄物由来の金を含む溶液を用いて、無機還元剤などを用いて金を還元析出させる方法では、得られた金に生体細胞に対して有害な物質が残留する懸念があり、ヒト抗体などを検出する診断薬や、医療用の薬剤に適用することが難しかった。
【0009】
また、特許文献1に開示された貴金属の回収方法は、金の析出に酵母を用いているものの、得られる金がプレート状の粒子であることが開示されておらず、金プレートを用いた診断薬などに適用可能な金を得ることができるか不明である。
【0010】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、金を含む溶液を用いて、生体に有害な物質が残留することの無い金プレートを低コストで効率よく回収することが可能な金プレートの製造方法、および金プレート材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態の金プレートの製造方法、金プレート材料は、以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1の金プレートの製造方法は、金イオンを含む溶液に酵母を加えて撹拌して、前記酵母と前記金イオンとを接触させる酵母接触工程と、金イオンと接触させた酵母を静置して金イオンを還元させて金プレートを形成する静置工程と、を有し、前記酵母接触工程では、前記溶液に含まれる金の質量の0.004倍以上、39倍以下の範囲の質量の前記酵母を加え、前記静置工程では、金イオンと接触させた前記酵母を静置させ、前記金プレートは、三角板状または六角板状を成し、厚みに対する長辺の長さのアスペクト比が3倍以上であること、を特徴とする。
【0012】
(2)本発明の態様2は、態様1の金プレートの製造方法において、前記酵母は、サッカロマイセス属、ジゴサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、デバリオマイセス属、カンジタ属のうち、いずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする。
【0013】
(3)本発明の態様3は、態様1または態様2の金プレートの製造方法において、前記酵母接触工程において加える前記酵母は固形の酵母であり、前記静置工程における静置期間は4日以上60日以下であることを特徴とする。
【0014】
(4)本発明の態様4は、態様1または態様2の金プレートの製造方法において、前記酵母接触工程において加える前記酵母は、水に乾燥酵母を0.5質量%以上10質量%以下の濃度範囲となるように加えて懸濁させた後に静置した上澄みの酵母抽出液であり、前記静置工程における静置期間は1日以上60日以下であることを特徴とする。
【0015】
(5)本発明の態様5は、態様4の金プレートの製造方法において、前記上澄み液は、吸光光度分析において、波長が250nm~270nmの領域にDNA由来のピークを有することを特徴とする。
【0016】
(6)本発明の態様6の金プレート材料は、三角板状または六角板状を成し、厚みに対する長辺の長さのアスペクト比が3倍以上である金プレートと酵母とを含むことを特徴とする。
【0017】
(7)本発明の態様7は、態様6の金プレート材料において、前記酵母は、サッカロマイセス属、ジゴサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、デバリオマイセス属、カンジタ属のうち、いずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金を含む溶液を用いて、生体に有害な物質が残留することの無い金プレートを低コストで効率よく回収することが可能な金プレートの製造方法、および金プレート材料を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る金プレートの製造方法を段階的に示したフローチャートである。
図2】金プレートの一例を示す模式図である。
図3】本発明例1で形成した金プレートの様子を示すSEM写真である。
図4】比較例1で形成した金粒子の様子を示すTEM写真である。
図5】本発明例2の吸光度測定によるピークを示す図である。
図6】本発明例2で得られた金プレートの一例を示すSEM写真である。
図7】本発明例3で得られた金プレートのX線回折によるピークを示す図である。
図8】比較例4で生じた金ナノ粒子の様子を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した一実施形態である貴金属の製造方法について図面を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る金プレートの製造方法を段階的に示したフローチャートである。
本実施形態の金プレートの製造方法では、まず、金イオンを含む溶液(以下、金溶液と称する)を用意する。こうした金溶液は、例えば、はんだ付け箇所や配線に金などの貴金属が用いられている電子機器の回路基板を塩酸および過酸化水素水で処理した後、王水で溶解することにより得ることができる。特に廃回路基板などのリサイクル原料を用いることで、低コストで金溶液を得ることができる。
【0022】
このようにして得られた金溶液に、酵母を加えて攪拌し、金溶液に含まれる金イオンを酵母に吸着(接触)させる(酵母接触工程S1)。酵母接触工程S1では、例えば、金溶液に含まれる金の質量の0.004倍以上、39倍以下の範囲の質量の酵母を加えて撹拌すればよい。この酵母接触工程S1では、金溶液に含まれる金イオンと酵母とが接触することにより、金イオンが酵母に吸着される。
【0023】
酵母接触工程S1における酵母の添加量は、金溶液に含まれる金の質量の0.004倍以上、39倍以下の範囲にすればよい。金溶液に含まれる金の質量は、ICP発光分光分析装置や吸光光度計などを用いて予め測定しておけばよい。
【0024】
酵母接触工程S1で用いられる酵母は、金イオンを還元、吸着できる酵母であればいずれの酵母でもよい。本実施形態で適用可能な酵母は、例えば、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、カンジダ属(Candida)、トルロプシス属(Torulopsis)、ジゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、ピチア属(Pichia)、ヤロウィア属(Yarrowia)、ハンセヌラ属(Hansenula)、クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)、デバリオマイセス属(Debaryomyces)、ゲオトリクム属(Geotrichum)、ウィッケルハミア属(Wickerhamia)、フェロマイセス属(Fellomyces)、スポロボロマイセス属(Sporobolomyces)の酵母であり、この中でも特にサッカロマイセス属、カンジダ属、ジゴサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属やデバリオマイセス属に属する酵母が好ましい。
【0025】
サッカロマイセス属の酵母は出芽酵母の代表的な酵母であって、例えば、S. bayanusであり、S. boulardiiであり、S. bulderiであり、S. cariocanusであり、S. cariocusであり、S. cerevisiaeであり、S. chevalieriであり、S. dairenensisであり、S. ellipsoideusであり、S. florentinusであり、S. kluyveriであり、S. martiniaeであり、S. monacensisであり、S. norbensisであり、S. paradoxusであり、S. pastorianusであり、S. spencerorumであり、S. turicensisであり、S. unisporusであり、S. uvarumであり、S. zonatusであり得る。
【0026】
カンジダ属の酵母としては、カンジダ属(Candida)の非病原性酵母であって、例えば、Candida utilis、Candida boidinii、Candida etchellsii、Candida versatilis、Candida stellata等が挙げられる。
【0027】
ジゴサッカロマイセス属は耐塩性の酵母であって、味噌や醤油などから分離される酵母であり、例えばZ. rouxiiであり得る。シゾサッカロマイセス属の酵母は分裂酵母であり、例えばS. cryophilusであり、S. japonicusであり、S. octosporusであり、S. pombeであり得る。また、好ましい酵母として受託番号NITE BP-01780(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター)で寄託されたデバリオマイセス属の酵母(Debaryomyces hansenii)も例示できる。
【0028】
酵母接触工程S1で用いられる酵母は、生菌でもよく、また金イオンの還元機能が発揮される限り死菌であってもよい。
【0029】
金溶液に酵母を加えた液体のpHや温度は特に限定されるものではない。例えば、pHは-3以上、7以下の強酸性~中性であればよい。また、温度は10℃以上、45℃以下、好ましくは20℃以上、35℃以下である。
【0030】
次に、酵母を加えた金溶液を濾過等で固液分離した後、固相(金イオンが付着した酵母)をイオン交換水や純水で洗浄する。
【0031】
そして、固液分離後の金イオンが付着した酵母(金イオンと接触させた酵母)を、4日以上60日以下の範囲で静置させる(静置工程S2)。このように、金イオンが付着した酵母を静置することで、三角板状や六角板状の金プレートが形成される。酵母の静置期間が3日以下では、十分に金プレートが生成されない懸念がある。また、60日以上静置しても、それ以上金プレートの生成量が増加することが無く、製造コストが増加する。
静置工程S2では、酵母の静置をデシケータなどを用いて、定温、定湿環境で行うことも好ましい。
【0032】
このように、静置工程S2を経た酵母の表面には、金プレートが形成される。形成された金プレートは、図2に示すように、三角板状または六角板状を成し、厚みDに対する長辺の長さLのアスペクト比が3倍以上である。なお、ここでいう長辺とは、三角形の3辺のうち最大辺、六角形の6辺のうち最大辺である。また、厚みDは、金プレートの面内で厚みに変動がある場合、最も厚い部分の厚みである。金プレートの長辺の長さLは、例えば、20nm以上、100μm以下である。
【0033】
本実施形態の金プレート材料は、上述したような構成の金プレートが、酵母に付着したものである。こうした金プレート材料は、酵母が影響を及ぼさない用途に、そのまま用いることができる。こうした用途では、無機還元剤などを用いて形成した金微粒子のように、生体細胞に対して有害な物質が残留することがなく、生体細胞に影響を及ぼさない酵母に金プレートが付着した形態であるため、例えば、金プレートによる各種の細胞の検出や微生物の検出に用いることができる。
【0034】
なお、酵母から金プレートを分離する必要がある場合には、例えば、酵素を用いて酵母を分解除去すればよい。一例として、金プレートが形成された酵母に水を加えて分散させて酵母の分散液を生成し、この分散液に酵素を添加して酵母を溶解し、酵母の表面に形成されている金プレートを分離すればよい。ここで用いる酵素としては、例えば、ザイモリアーゼなどが挙げられる。こうした酵素は、酵母の細胞壁を溶解し、酵母の表面に形成された金プレートを遊離させる。
【0035】
このようにして酵母から分離して得られた金プレートは、図2に示すように、三角板状または六角板状を成し、厚みDに対する長辺の長さLのアスペクト比が3倍以上である。
【0036】
なお、酵母接触工程S1で加える酵母は、固形の酵母以外にも、例えば、水に乾燥酵母を、例えば0.5質量%以上10質量%以下の濃度範囲となるように加えて懸濁させた後に静置した静置液の上澄み部分である上澄み液(酵母抽出液)であればよい。
こうした上澄み液(酵母抽出液)を酵母として用いる場合、静置工程S2は1日以上60日以下の範囲で静置させればよい。
【0037】
上述したような酵母抽出液は、酵母のうち、金属還元作用のある成分が水に溶解したものであり、酵母接触工程S1で加える酵母として、こうした酵母抽出液を用いることで、酵母から金プレートを分離する工程、即ち、高コストな酵素を用いて酵母を溶解するといった工程が不要になり、より低コストに酵母を用いた金プレートの製造を行うことができる。
【0038】
以上、本発明の実施形態を説明したが、こうした実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0039】
本発明の効果を検証した。
[検証例1]
(本発明例1)
濃度100ppmの金イオンを含む金溶液を用意し、この金溶液中に含まれる金の質量に対して、質量比が20倍の質量のパン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を加え、10分間撹拌した。そして、遠心分離によって固液分離を行い、固相の酵母をイオン交換水で洗浄した。そして、この酵母を室温で9日間静置した。
【0040】
本発明例1の静置後の酵母は、金のプラズモン吸収により酵母の紫色への呈色が確認された。また、酵母表面には、厚み100nm程度、最長辺が500nm~10μm程度の三角板状、六角板状の金プレートが生成していることが確認された。こうした本発明例1の金プレートのSEM写真を図3に示す。
【0041】
(比較例1)
金イオンに対する酵母の質量比を40倍にしたこと以外、本発明例1と同様の条件で操作を行った。この結果、静置して18日後に金のプラズモン吸収が確認された。しかしながら、酵母に形成された金粒子はプレート状にならず、直径が20nm~50nm程度の球状の金粒子が生成されていた。
【0042】
形成された金粒子がプレート状にならなかったのは、金溶液中の金イオンに対して、添加する酵母の質量が相対的に増加すると、反応場である酵母表面上の金イオンが減り、プレートに成長するほど凝集しないためである。こうした比較例1の金粒子のTEM写真を図4に示す。
【0043】
(比較例2)
金イオンに対する酵母の質量比を180倍にしたこと以外、本発明例1と同様の条件で操作を行った。この結果、18日間静置しても金のプラズモン吸収が確認されず、酵母の表面には金粒子が全く形成されていなかった。
【0044】
(比較例3)
固液分離後の固相の酵母の静置期間を3日としたこと以外は、本発明例1と同様の条件で操作を行った。この結果、3日間静置後に金のプラズモン吸収が確認されず、酵母の表面には金粒子が全く形成されていなかった。
【0045】
以上の結果から、金イオンを含む溶液に含まれる金の質量の0.004倍以上、39倍以下の範囲の質量の酵母を加えて金を析出させ、金を析出させた酵母を3日間以上60日以下の範囲で静置させることで、三角板状または六角板状を成し、厚みに対する長辺のアスペクト比が3倍以上である金プレートを形成できることが確認できた。
【0046】
[検証例2]
(本発明例2)
乾燥パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を濃度が1質量%になるようイオン交換水に懸濁させて、静置後の上澄み液を分離して酵母抽出液を得た。この酵母抽出液を吸光光度計(UV-1900i:島津製作所株式会社製)を用いて吸光度測定を行った。その結果、図5に示すように、波長260nm付近に、酵母のDNA由来のピークが確認された。
【0047】
次に、金イオンの濃度1000ppmの溶液1mLに対して、酵母抽出液5mLとイオン交換水4mLを加えて静置させた。最終的な金イオン濃度は100ppmである。これを1日静置後、液中で金イオンの還元が確認され、図6に示すような、厚み100nm、プレートの一辺が600nm~20μmの三角形や六角形の金プレートが得られた。
【0048】
(本発明例3)
金イオンの濃度100ppmの溶液5mLに対して、酵母抽出液5mLを加えたこと以外、本発明例2と同様の操作を行った。最終的な金イオン濃度は50ppmである。これを7日静置後、液中で金イオンの還元が確認され、三角形や六角形の金プレートが得られた。この金プレートをX線回折装置(Empyrean:Malvern Panalytical株式会社製)を用いてX線回折を行った。その結果、図7に示すように、(111)配向のピークが観察された。金粒子であればFm-3m(立方晶)で特定できるが、顕著な配向を示していることからAuプレートが生成していることが示唆された。
【0049】
(比較例4)
金イオンの濃度1000ppmの溶液1mLに対して、酵母抽出液1mLとイオン交換水8mLを加えて静置させたこと以外、本発明例2と同様の操作を行った。7日後に図8に示すような、粒径が1~3μm程度の金ナノ粒子の凝集が確認され、金プレートは得られなかった。
【0050】
(比較例5)
金イオンの濃度100ppmの溶液に酵母抽出液を加えずに、7日間静置させた。その結果、金イオンは還元されず、金プレートは得られなかった。
【0051】
以上の様な、検証例2の結果を以下の表1に纏めて示す。
【表1】
【0052】
表1に示す結果によれば、溶液に含まれる金の質量の0.004倍以上、39倍以下の範囲の質量となるように酵母抽出液を用いた本発明例2、3では、それぞれ1日後、7日後に金プレートが生成された。一方、溶液に含まれる金の質量の0.004倍未満の質量となるように酵母抽出液を用いた比較例4や、酵母抽出液を用いない比較例5では、金プレートが生成されることは無かった。よって、本発明の効果が確認された。
【0053】
なお、それぞれの本発明例、比較例の金プレート、金粒子のサイズは、走査型電子顕微鏡(S-3400N:株式会社日立ハイテク製)、および透過型電子顕微鏡(JEM-2010F:日本電子株式会社製)による観察で測定した。
【0054】
また、図2に示す金プレートの厚みDに対する長辺の長さLのアスペクト比の測定方法としては、例えば、電子顕微鏡(SEM)を用いた観察による同一視野内での厚みの確認できる金プレートと、長辺の長さが測定できる金プレートとを無作為に3個選択し、厚みおよび長さのそれぞれの平均値の比から算出した。例えば、金プレートの長辺が5μm以上のものはSEMで1800倍、5μmより小さいものは12000倍の倍率で観察を行った。金粒子はTEMを用いて40万倍の倍率で観察した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8