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特開2024-124350固体表面の濡れ性評価方法、ロールの材質選定方法及び鋼板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124350
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】固体表面の濡れ性評価方法、ロールの材質選定方法及び鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 13/00 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
G01N13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024018306
(22)【出願日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2023030986
(32)【優先日】2023-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】良元 亮介
(72)【発明者】
【氏名】木庭 正貴
(72)【発明者】
【氏名】棚原 健人
(57)【要約】      (修正有)
【課題】透明な液体に対する固体の表面濡れ特性をより簡便かつ定量的に得ることができる手法、更にその手法を用いて、鋼板に表面処理を施す装置におけるロールの材質として選定する方法を見出すことを課題とする。
【解決手段】2個の被評価固体を、被評価固体の評価対象面が一定の距離を隔てて対向させ、かつ、少なくとも2個の被評価固体の下端部全体が同一平面上に存在するように配置して試験材とし、該試験材を着色した評価液体に浸漬し、該試験材の2個の被評価固体間の空隙部に浸入する液面高さと該評価液体の表面の高さの差を測定し、該測定値に基づき該被評価固体の表面の該評価液体に対する濡れ性の評価を行い、濡れ性が既知の基準板に対し着色前の液体と着色後の液体で固体表面の濡れ性評価測定を行い、その差を補正項として算出することで補正を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個の被評価固体を、被評価固体の評価対象面が一定の距離を隔てて対向させ、かつ、少なくとも2個の該被評価固体の下端部全体が同一平面上に存在するように配置して試験材とし、該試験材の下端部全体が該評価液体の表面と平行になるように該試験材を評価液体に浸漬し、該試験材の2個の被評価固体間の空隙部に浸入する液面高さと該評価液体の表面の高さの差を測定し、該測定値に基づき該被評価固体の表面の該評価液体に対する濡れ性の評価を行う固体表面の濡れ性評価方法であって、該評価液体を着色し、あるいはさらに前記評価液体の着色を内長10mmのセルで測定した時の水との透過率の差が5%以上となるように前記評価液体を着色し、あるいはさらに事前に濡れ性が既知の基準板に対し着色前の液体と着色後の液体で固体表面の濡れ性評価測定を行い、その差を補正項として算出することで補正を行うことを特徴とする固体表面の濡れ性評価方法。
【請求項2】
前記被評価固体の濡れ性を、下記式(1)で算出される接触角θで評価することを特徴とする請求項1に記載の固体表面の濡れ性評価方法。
cosθ=whρg/2γ (1)
w:空隙幅〈mm〉、h:液面高さ〈mm〉、ρ:評価液の密度〈g/cm〉、g:重力加速度〈g/s〉、γ:表面張力〈mN/m〉
【請求項3】
請求項2に記載の固体表面の濡れ性評価方法において、前記評価固体の前記接触角θが所定の基準値以内であるか否かを判定し、所定の基準値以内にある場合に、該評価固体を、鋼板を連続的に液体と接触させて前記鋼板に表面処理を施すラインにおけるロールの材質として選定することを特徴とするロールの材質選定方法。
【請求項4】
前記ロールが前記液体と接触後の前記鋼板の搬送方向を反転させるデフレクターロールであることを特徴とする請求項3に記載のロールの材質選定方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載のロールの材質選定方法によって選定した材質からなるロールを用いて、鋼板を連続的に液体と接触させて前記鋼板に表面処理を施すことを特徴とする鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体表面の液体に対する濡れ性を、種々の液体に対し定量的に評価可能とする濡れ性評価手法ならびに、該濡れ性評価手法を用いて鋼板に表面処理を施すラインにおけるロールの材質選定方法、更に、該選定方法によって選定した材質からなるロールを用いて、鋼板を連続的に液体と接触させて該鋼板に表面処理を施す方法に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
一般に、液体と固体の濡れ性は接触角により評価される。この接触角とは、固体、液体及び気体の3相の接触点において、液体に引いた接線と固体面とのなす角度の内、液体を含む側の角度をいう。液体と固体の接触角の測定には、例えば、非特許文献1に示されているように、通常、静滴法が用いられる。この方法には、接触角を直接測定する方法と、液滴の輪郭を撮影し、画像解析により角度を測定する方法がある。
【0003】
他の濡れ性評価手法として、メニスコグラフ法による濡れ性評価などがある。メニスコグラフ法では、非特許文献2に記載されているように、試料が液中に浸漬された際、その試料に働く力の時間変化が測定されるようになっている。その試料に働く力がある程度一定になった場合での力(平衡濡れ荷重)が測定され、例えばはんだ付け性等を評価する上で有効なものとなっている。特許文献1では、固体の液体に対する表面濡れ特性を、より簡便に評価可能な手法を提案している。具体的には、二つの被評価固体を対向させてV字体を作成し、これを評価液体に浸漬した際の、該液面からの壁面表面への上昇高さの値を測定し、該測定値で被評価固体の被液体に対する表面濡れ性を評価している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】小野周著「表面張力」、共立出版、1980 、p.82
【非特許文献2】藤間貞行「メニスコグラフによる皮膜のはんだ濡れ性評価」、表面技術、2012、63巻、11号、p.660
【非特許文献3】杉田和之著「プラスチックの表面改質1 高分子材料の界面物性と表面改質」日本印刷学会誌,1998,35巻4号,p.204
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06-148056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載されている方法には、接触角を直接測定する方法と、液滴の輪郭を撮影し、画像解析により角度を測定する方法がある。しかし、前者は主観的な判断によるため精度に問題があり、後者は煩雑な操作を伴う問題がある。また、この方法には接触角が大きくなるほど、測定誤差が大きくなる不都合もある。
【0007】
非特許文献2に記載されている数値比較では、同一条件のもとで評価対象のみを変更しなければならない。具体的には、評価液、液温度、試験片サイズ、浸漬速度、浸漬深さ等の中から、対象としたい条件のみを変更し、相対比較を行うこととなる。そのため、上記濡れ接触角のような絶対パラメータの測定が困難であるという問題がある。
【0008】
さらに、上記いずれの手法も、測定のためには専用の測定設備が必須であり、また熟練を要する。これに対し、特許文献1では、固体の液体に対する表面濡れ特性を、より簡便に評価可能な手法を提案している。具体的には、二つの被評価固体を対向させてV字体を作成し、これを評価液体に浸漬した際の、該液面からの壁面表面への上昇高さの値を測定し、該測定値で被評価固体の被液体に対する表面濡れ性を評価している。しかしながら、特許文献1の技術では、被評価固体の被液体に対する表面濡れ性の相対的比較は可能なものの、表面濡れ性の定量的評価はできないという問題がある。そこで本発明では、液体に対する固体表面の濡れ性(濡れ接触角)を、荷重測定設備を必要とせず、高精度に数値として評価することができる方法を提案することを目的とする。また、測定者による測定値のバラツキが小さい評価液体の濡れ性評価の技術を提供することを目的とする。
【0009】
更に、液体を用いて固体表面に何らかの処理を行う技術は工業的に広範に行われている。用いる液体も酸性液体やアルカリ性液体など多岐にわたる。液体を用いて固体表面に何らかの処理を行う技術を工業的に実施しようとすると、何らかの装置・設備が必要となる。例えば、鋼板を連続的に液体と接触させて該鋼板に表面処理を施すラインにおいては、液体と接触後の鋼板と接触するロールが必要となるが、ロールと液体との濡れ性が悪い場合には、ロールが液体をはじくことにより、鋼板表面に処理ムラが発生することがある。そこで、本発明では、事前に、液体に接触するロールとして適切な材料を選定する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、評価面を一定の距離を隔てて対向させた一対の被評価固体を、水平に着色した評価液体に浸漬し、一対の被評価固体内部に浸入する液面高さと評価液面の差を測定し、該測定値に基づき被評価固体の評価液体に対する表面濡れ性を評価できることを見出した。更に、本発明者らは、評価液体に着色し、着色部分と非着色部分を色彩計で測ることで浸漬中の液面高さを精度良く評価できることを見出した。着色剤が濡れ性に及ぼす影響については、事前に濡れ性が既知の基準板に対し着色前の液体と着色後の液体の2つで測定を行い、その差を補正項として算出することで補正を行うことが有効であることを、本発明者らは見出した。該評価液体の着色は、視認できる程度に行えばよいが、JIS K 7361の条件により厚み3mmで内長10mmの板ガラス製セルでの水の透過率と比較して透過率の差が5%以上となるように着色することで、液面高さが視認しやすくなり、測定誤差が大きく低下することを見出した。添加する着色剤によって表面濡れ性への影響があるため、着色は、JIS K 7361の条件により厚み3mmで内長10mmの板ガラス製セルでの水の透過率と比較して透過率の差が30%以下とすることが望ましい。
【0011】
着色剤としては使用する評価液体に溶解するものであれば市販の着色剤を使用可能である。
【0012】
濡れ性の評価方法として接触角測定の有用性は公知であるが、先述のように測定が容易ではない。そこで、濡れ性を評価可能なマクロな現象として「毛細管現象」に着目した。毛細管現象は、細い管状物体の内側の液体が管の中を上昇する物理現象であり、この細い管状物体を評価液に浸した際の管内部の液面高さhから、以下の式を基に接触角を算出できる。
【0013】
h = 2γcosθ/ρgr
ここで、h:液面高さ、γ:表面張力、θ:接触角、ρ:評価液の密度、r:細管の内径を示す。試験材を浸漬した際の力のつり合いは、非特許文献2で述べられているメニスコグラフ法で用いられており、以下の式が成り立つ。
【0014】
F = γcosθ・l ― Vρg
ここで、F:垂直方向の力、γ:表面張力、θ:接触角、l:被評価固体の周囲長さ、V:浸漬部分の体積、ρ:評価液の密度、g:重力加速度に相当する。この関係式を基に、本発明における試験材を使用した時の、液面高さと接触角の関係について説明する。この時の液面高さをh、空隙幅をwとする。ここで、液面停止時は力が釣り合っているため、
γcosθ・l = Vρg
となる。スペーサー間の長さをLと仮定すると、上式は以下のように変換できる。
この時、スペーサー間の長さLは、空隙幅wよりも十分に大きいものとする。
【0015】
γcosθ・(2L) = (w・h・L)ρg
cosθ=whρg/2γ
すなわち、本方法を用いれば、任意板幅における液面高さを測定することで接触角θを導出でき、濡れ性を定量的に評価可能であることが分かる。
【0016】
本方法によれば、濡れ性評価に荷重測定設備を用いずとも、目視による判定が困難な無色液体に対する固体表面の濡れ性を高精度に評価することができる。
【0017】
また、本方法は評価液体が酸性液体やアルカリ性液体の場合にも適用が可能であり、更に、本方法による固体表面の濡れ性評価方法を用いれば、液体を固体表面に接触させて化学反応を起こさせる装置のロールにおいて、固体表面の濡れ性評価方法によって評価した該評価固体の該接触角θが所定の基準値以内であるか否かを判定し、該評価固体を、該液体中におけるロールとして選定することが出来る。特に、該装置が、鋼板を連続的に液体と接触させる装置である場合、該ロールが該鋼板の搬送方向を反転させるデフレクターロールである場合には、ロール選択に特に有効である。
【0018】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]2個の被評価固体を、被評価固体の評価対象面が一定の距離を隔てて対向させ、かつ、少なくとも2個の該被評価固体の下端部全体が同一平面上に存在するように配置して試験材とし、該試験材の下端部全体が該評価液体の表面と平行になるように該試験材を評価液体に浸漬し、浸漬し、該試験材の2個の被評価固体間の空隙部に浸入する液面高さと該評価液体の表面の高さの差を測定し、該測定値に基づき該被評価固体の表面の該評価液体に対する濡れ性の評価を行う固体表面の濡れ性評価方法であって、該評価液体を着色し、あるいはさらに前記評価液体の着色を内長10mmのセルで測定した時の水との透過率の差が5%以上となるように前記評価液体を着色し、あるいはさらに事前に濡れ性が既知の基準板に対し着色前の液体と着色後の液体で固体表面の濡れ性評価測定を行い、その差を補正項として算出することで補正を行うことを特徴とする固体表面の濡れ性評価方法。
[2]前記被評価固体の濡れ性を、下記式(1)で算出される接触角θで評価することを特徴とする[1]に記載の固体表面の濡れ性評価方法。
cosθ=whρg/2γ (1)
w:空隙幅〈mm〉、h:液面高さ〈mm〉、ρ:評価液の密度〈g/cm〉、
g:重力加速度〈g/s〉、γ:表面張力〈mN/m〉
[3][2]に記載の固体表面の濡れ性評価方法において、前記評価固体の前記接触角θが所定の基準値以内であるか否かを判定し、所定の基準値以内にある場合に、該評価固体を、鋼板を連続的に液体と接触させて前記鋼板に表面処理を施す装置におけるロールの材質として選定することを特徴とするロールの材質選定方法。
[4]前記ロールが前記液体と接触後の前記鋼板の搬送方向を反転させるデフレクターロールであることを特徴とする[3]に記載のロールの材質選定方法。
[5][3]または[4]に記載のロールの材質選定方法によって選定した材質からなるロールを用いて、鋼板を連続的に液体と接触させて前記鋼鈑に表面処理を施すことを特徴とする鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、固体の濡れ性評価において液体を着色することで、液体部と固体部の差異を可視化できるようになった。そのため、無色の液体で濡れた範囲がわかりにくい液体でも精度よく濡れ性を評価できるという効果がある。また、液体に対する固体表面の濡れ性(濡れ接触角)を、荷重測定設備を必要とせず、高精度に評価することができる。本発明は評価液体が酸性液体の場合にも適用が可能であり、更に、本発明による固体表面の濡れ性評価方法を用いれば、酸性液体を固体表面に接触させて化学反応を起こさせる装置において、固体表面の濡れ性評価方法によって評価した該評価固体の該接触角θが所定の基準値以内であるか否かを判定し、所定の基準値以内にある場合に、該評価固体を、該酸性液体中における装置材料として選定することが出来る。
【0020】
ここで、本発明における液体の種類としては特に限定されず、一般に工業生産に用いられるpH0~14の液体に適用可能である。酸の種類としては例えば、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸等の液体が用いられる。アルカリの種類としては例えば、水酸化ナトリウム水溶液等の液体が用いられる。
【0021】
評価固体を、該液体中における装置材料として選定する基準となる接触角θは20°以下であることが必要である。接触角θが20°以下の場合にはロールと液体との濡れ性が良好であるため処理ムラが発生しにくくなる。
【0022】
接触角θが20°を超えると装置材料が液体をはじきやすくなり、処理ムラが発生しやすくなる。好ましくは15°以下である。接触角θは小さいほどよく、0°であってもよい。液体を固体表面に接触させて化学反応を起こさせる装置が、鋼板を連続的に液体と接触させる装置である場合、装置内で鋼板の搬送方向を反転させるデフレクターロールを使用する場合が多い。鋼板の搬送方向を反転させる場合には、デフレクターロール表面は液体が付着した鋼板との接触面積が大きいため、処理ムラへの影響も特に大きくなる。そのようなデフレクターロール材質の選定にあたって、液体との濡れ性が良いことが特に重要であり、本発明により、そのような要求特性に優れたデフレクターロール材質の選定が可能となる。
【0023】
鋼板を連続的に液体と接触させる方法としては、浸漬処理、スプレー処理等が適用される。また、浸漬中に電解処理を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の表面濡れ性評価用試験材を模式的に示す図面である。
図2】本発明の表面濡れ性評価用試験材を評価液中に浸漬した時の評価面に垂直な方向での断面模式図面である。
図3】非特許文献2で述べられているメニスコグラフ法を説明する図である。
図4】液面濡れが良好であった場合の濡れ上がり模式図である。
図5】本発明での被評価固体の侵入液高さの測定例である。
図6】本発明でのデフレクターロール装置例である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の手法を図1及び図2に概略で示す。図1に示すように、まずは被評価固体の評価対象面が内側になるようスペーサーを用いて試験材を作製する。この時、2個の被評価固体を、被評価固体の評価対象面が一定の距離を隔てて対向させ、被評価固体とスペーサーも必要に応じて固定する。この固定方法に制限はなく、溶接やネジ止め等を使用して良い。スペーサーは、被評価固体と同等のもので作成して良く、あるいは内部可視化のため、ガラス板等を使用しても良い。評価対象面の表面の濡れ性評価のためには、少なくとも2個の被評価固体の下端部全体が同一水平面上に存在するように配置して試験材とする必要がある。続いて、図2に示すように該試験材を評価液に下端部全体が評価液体表面と平行になるように浸漬し、試験材の2個の被評価固体間の空隙部に浸入する液面高さ(以下、「浸入液高さ」と記すことがある。)と評価液面の高さの差を測定することで、濡れ性の評価を行うことができる。
【0026】
被評価固体の寸法は採取できる試験材の寸法や浸漬する評価液体の量等により決定するが、浸入液高さと評価液面の差を測定するためには高さ(評価液面との直交方向):10~1000mm、より好ましくは50~200mm、幅(スペーサー間の距離に相当):10~1000mm、より好ましくは30~150mm程度の寸法が望ましい。被評価固体間の空隙は濡れ性の違いによる浸入液高さと評価液面の差を明瞭にする観点から2mm以下が望ましい。より好ましくは1.5mm以下である。一方で、空隙が狭すぎると被評価固体の形状影響が大きくなり、精度を損なう恐れがある。そのため、空隙は0.2mm以上が望ましい。
【0027】
評価液体は着色する。評価液体の着色は着色剤の添加等で行うことが出来る。評価液体の着色は内長10mmのセルで測定した時の水との透過率の差が5%以上となるようにするか、あるいはさらに事前に濡れ性が既知の基準板に対し着色前の液体と着色後の液体で固体表面の濡れ性評価測定を行い、その差を補正項として算出して補正を行うことでより正確な測定が可能となる。
【0028】
また、上記のように、被評価固体の濡れ性はメニスコグラフ法から、下記式(1)で算出される接触角θで評価することが可能である。
【0029】
cosθ=whρg/2γ (1)
w:空隙幅〈mm〉、h:液面高さ〈mm〉、ρ:評価液の密度〈g/cm〉、
g:重力加速度〈g/s〉、γ:表面張力〈mN/m〉
評価液体が酸性液体やアルカリ性液体である場合にも、被評価固体の濡れ性は上記式(1)で算出される接触角θで評価することが可能である。
【0030】
更に、鋼板に表面処理を施すライン内のロールにおいて、上記の固体表面の濡れ性評価方法によって評価した該評価固体の該接触角θが所定の基準値以内である場合には、該評価固体は該液体中におけるロールとして好適であると判定でき、ロールの選定方法として有効である。
【0031】
ここで、鋼板に施す表面処理とは、鋼板を酸性液体やアルカリ性液体に浸漬処理する、鋼板にスプレー処理を施す等である。
【0032】
上記ロールの選定方法は、該装置が、鋼板を連続的に液体と接触させる装置である場合には好適に用いることが可能である。
【0033】
本発明でのデフレクターロール装置例を図6に示したが、該ロールが該鋼板の搬送方向を反転させるデフレクターロールである場合には、上記ロールの選定方法は更に好適に用いることが出来る。これは、上記デフレクターロールは上記ライン内では特に接触面積が大きく、ロールによる液体のはじきにより発生する処理ムラの低減に有効なためである。
【0034】
上記のデフレクターロールの接触角θが所定の基準値以内であるデフレクターロールを用いて、鋼板を連続的に液体と接触させる鋼板の製造方法を用いれば、より長時間の製造が可能となり、製造コストが低減できる。
【実施例0035】
事前に着色剤が濡れ性に及ぼす影響を評価するため、濡れ性が既知の基準板としてナイロンを用意した。容器には合成樹脂を板体とする透明な容器を使用した。被評価固体については2個の被評価固体を、被評価固体の評価対象面が一定の距離を隔てて、空隙部を0.5mmとなるように対向させた。2個の該被評価固体の下端部全体が同一平面上に存在するように配置した試験材を評価液体に該試験材の下端部全体が該評価液体の表面と平行になるように浸漬させ、透明な容器側面から浴面との高さを測定した。このとき浴面よりも2個の被評価固体間の空隙部に浸入する液面高さが低い場合には、濡れた高さの値を負の値として算出した。非特許文献4によるとナイロンと純水の接触角は70°である。本手法で着色前の純水と基準板について接触角を測定したところ、71°となった。着色剤として市販の絵具(株式会社サクラクレパス製/サクラマット水彩 青色 品番:MWPシャープ36)を使用した。溶媒となる純水100mlに対して着色剤0.1mlを添加した後、溶液全体の色が均一となるようにガラス棒で攪拌させた。着色剤について、今回使用した絵具の主成分は、顔料、水溶性糊料、安定剤であるが、顔料の代わりに染料を用いた場合でも、同様に着色可能であり本手法を適用できると考えられる。着色後、ナイロンと着色液との接触角を測定した結果、接触角は68°であった。接触角θについては式(1)から
cosθ=whρg/2γ
であるが、ρを一定と仮定すると着色後の液面高さhは着色前に比べて1.15倍となる。そこで着色後の液面高さについては1/1.15倍することで着色前の液体に対する補正を行った。
【0036】
被評価固体としてウレタン、ポリエチレンゴム、鉄板(SS400 ♯600研磨)を使用した。評価液体として、純水と、純水に着色剤として上記の市販の絵具を0.1ml/100ml添加して均一溶解させた着色液とを用いた。評価液体として、純水を用いた場合には液面の認定が測定者により大きく異なり、測定値の変動幅は2.0%であった。一方で、評価液体として純水に着色剤を所定量添加した着色液では、測定者による測定値の差は少なく測定値の変動幅は0.2%であった。
【0037】
各評価固体の濡れ性として、侵入液高さを図5に示した。図5によると、ウレタンの侵入液高さが最も高く、最も濡れ性が良く、鉄板の侵入液高さが最も低く、濡れ性が最も悪いことがわかる。上記の様に、cosθ=whρg/2γの関係から、接触角θを求めると、ウレタン、ポリエチレンゴム、鉄板の接触角は、それぞれ12°、23°、44°となった。非特許文献3によると、一般に金属がその表面を酸化物層でおおわれている場合、水に対して20~50°の接触角を持つことが報告されているが、上記のように、鉄板の接触角は44°となり傾向としては一致した。
【実施例0038】
実施例1の方法で、酸性溶液(成分:リン酸1.0g/l、pH:3.2)を用いて、ウレタン、ポリエチレンゴム、溶射鉄の接触角θを求めた。接触角θはウレタンが11°、ポリエチレンゴムが21°、溶射鉄が43°となった。
【0039】
酸性液体処理装置におけるロールとして選定する基準となる接触角θは20°以下であることが必要であるが、上記材料ではウレタンの接触角が20°以下の範囲であった。これに対して、ポリエチレンゴム、溶射鉄はいずれも20°以下の範囲外であった。図6に示した実際の工業生産装置を用いて、ウレタン、ポリエチレンゴム、溶射鉄を表面に被覆したデフレクターロールを使用して、鋼板を連続的に酸性液体と接触させる処理をおこなった結果、ウレタンの場合は処理ムラが発生しなかった。これに対して、ポリエチレンゴムと溶射鉄の場合は鋼板表面に処理ムラが発生した。
【0040】
以上、本発明を用いれば、任意の液体に対する固体の表面濡れ性を、より簡便かつ測定者による測定差が少ない数値として得ることができる。更に、ロールによる液体のはじきにより発生する処理ムラの発生程度の予測が可能となり、事前に、処理液体に接触するロールに対する該処理液体の影響を知るための評価方法の確立が可能となった。
【符号の説明】
【0041】
1 被評価固体
2 スペーサー
3 空隙部
4 評価液
5 侵入液高さ
6 評価液面
F 垂直方向の力
γ 表面張力
l 被評価固体の周囲長さ
V 浸漬部分の体積
θ 接触角
h 液面高さ
w 空隙幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6