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特開2024-124354安水用油水分離剤、油水分離方法、及びタール付着抑制方法
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  • 特開-安水用油水分離剤、油水分離方法、及びタール付着抑制方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124354
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】安水用油水分離剤、油水分離方法、及びタール付着抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C10C 1/02 20060101AFI20240905BHJP
   C10C 1/20 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C10C1/02
C10C1/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024021743
(22)【出願日】2024-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2023031975
(32)【優先日】2023-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄環境株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】竹村 由香
(72)【発明者】
【氏名】小倉 康寛
(72)【発明者】
【氏名】堀 豊文
(72)【発明者】
【氏名】市川 康平
(72)【発明者】
【氏名】道中 敦子
【テーマコード(参考)】
4H058
【Fターム(参考)】
4H058AA01
4H058DA06
4H058DA46
4H058EA23
4H058FA07
4H058GA28
(57)【要約】
【課題】設備へのタールの付着を抑制することが可能であるとともにタールと安水との分離を促進することが可能であり、発泡し難く、水と混和しやすい、安水用油水分離剤を提供しようとするものである。
【解決手段】コークス炉ガスのフラッシングのために循環される安水を含有する対象液に添加される、安水用油水分離剤である。この安水用油水分離剤は、炭素数が10以上の炭化水素基を有する脂肪族第4級アンモニウム化合物を含有する。この脂肪族第4級アンモニウム化合物は、コロイド滴定法により測定される、pH9.5における前記脂肪族第4級アンモニウム化合物1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値が1.0meq/g以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉ガスのフラッシングのために循環される安水を含有する対象液に添加される、安水用油水分離剤であって、
炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基を有する脂肪族第4級アンモニウム化合物を含有し、
前記脂肪族第4級アンモニウム化合物は、コロイド滴定法により測定される、pH9.5における前記脂肪族第4級アンモニウム化合物1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値が、1.0meq/g以上である、安水用油水分離剤。
【請求項2】
さらに水を含有し、
前記安水用油水分離剤の全質量に対する前記脂肪族第4級アンモニウム化合物の含有量が、10質量%以上90質量%以下である請求項1に記載の安水用油水分離剤。
【請求項3】
前記対象液に対する前記脂肪族第4級アンモニウム化合物換算の添加量が、0.1mg/L以上1000mg/L以下である請求項1に記載の安水用油水分離剤。
【請求項4】
前記対象液は、前記コークス炉ガスを安水でフラッシングして得られた前記安水及びタールを含有する液であって、前記安水と前記タールとを分離するための設備に流入してくる前記安水及び前記タールを含有する液である、請求項1に記載の安水用油水分離剤。
【請求項5】
前記対象液は、前記コークス炉ガスを安水でフラッシングして得られた前記安水及びタールを含有する液であって、前記安水と前記タールとを分離するための設備に流入した、当該設備内の前記安水及び前記タールを含有する液である、請求項1に記載の安水用油水分離剤。
【請求項6】
前記対象液は、前記コークス炉ガスを安水でフラッシングして得られた前記安水及びタールを含有する液が、前記安水と前記タールとを分離するための設備に流入して前記タールとは分離された前記安水であって、前記設備から流出して前記フラッシングに向かう途中の前記安水である、請求項1に記載の安水用油水分離剤。
【請求項7】
さらにノニオン性界面活性剤を含有する請求項1に記載の安水用油水分離剤。
【請求項8】
前記安水用油水分離剤の全質量に対する前記ノニオン性界面活性剤の含有量が、5質量%以上65質量%以下である請求項7に記載の安水用油水分離剤。
【請求項9】
前記安水用油水分離剤中の前記脂肪族第4級アンモニウム化合物の含有量(質量%)に対する前記ノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)の比が、0.5以上2.5以下である請求項7に記載の安水用油水分離剤。
【請求項10】
前記ノニオン性界面活性剤が、ソルビタンオレエートを含む請求項7に記載の安水用油水分離剤。
【請求項11】
コークス炉ガスのフラッシングのために循環される安水を含有する対象液に油水分離剤を添加することを含む方法であって、
前記油水分離剤は、炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基を有する脂肪族第4級アンモニウム化合物を含有し、
前記脂肪族第4級アンモニウム化合物は、コロイド滴定法により測定される、pH9.5における前記脂肪族第4級アンモニウム化合物1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値が、1.0meq/g以上であり、
前記対象液に前記油水分離剤を添加することによって、前記フラッシングで得られた前記安水及びタールを含有する液中の前記安水と前記タールとの分離を促進する油水分離方法。
【請求項12】
コークス炉ガスのフラッシングのために循環される安水を含有する対象液に油水分離剤を添加することを含む方法であって、
前記油水分離剤は、炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基を有する脂肪族第4級アンモニウム化合物を含有し、
前記脂肪族第4級アンモニウム化合物は、コロイド滴定法により測定される、pH9.5における前記脂肪族第4級アンモニウム化合物1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値が、1.0meq/g以上であり、
前記対象液に前記油水分離剤を添加することによって、前記フラッシングで得られた前記安水及びタールを含有する液中の前記タールが前記フラッシングのための設備に付着することを抑制する、タール付着抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安水用油水分離剤、油水分離方法、及びタール付着抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄において鉄鉱石に含まれる酸化鉄を還元するために使用されるコークスは、石炭をコークス炉で乾留して製造される。石炭の乾留時に発生するガスは、コークス炉ガスと呼ばれている。コークス炉ガスは、様々な処理により、ガス中の含有成分や熱の分離、回収が行われている。
【0003】
コークス炉ガスの処理の一つとして、コークス炉ガスに安水(アンモニア水)を吹きかけて、コークス炉ガスを冷却すること(フラッシング)が行われている。コークス炉ガスのフラッシングにより、コークス炉ガスに含まれる副産物であるコールタール(以下、単に「タール」と記載する。)が、コークス炉ガスが冷却される際に凝縮され、タールを含む凝縮物が安水とともにタールデカンターに回収されている。
【0004】
タールデカンターでは、滞留、沈降分離により、安水層とタール層に分離される。タールデカンターの上層部の安水は、コークス炉ガスのフラッシングのために循環されて利用されている。また、タールデカンターの底部に堆積したタールは、取り出され、脱水工程を経て種々の工業用原料として使用されている。そのため、安水とタールとを効率よく分離するための種々の検討が行われている。
【0005】
例えば特許文献1には、コールタールに由来する油分を主体とする比重が1以上の重質油と水とがエマルジョンを形成している含水廃油から油水分離するに当り、該含水廃水に所定のアニオン系界面活性剤を添加し、エマルジョンを破壊した後、比重差を利用して水と油とを分離する油水分離法が記載されている。
【0006】
また例えば、特許文献2には、窒素原子数7~200を有するポリアルキレンイミンに対しアルキレンオキシドを付加してなる平均分子量200~600,000のポリエーテル化合物である非イオン性界面活性剤を含有してなる石炭タール水分離用乳化破壊剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭51-96785号公報
【特許文献2】特開2000-230177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したタールデカンターにおいて、安水とタールの分離が不十分となり、安水とタールの混合層が形成されることがある。安水とタールの混合層が形成されると、フラッシングのために循環される安水(循環安水)中にタールが混じることとなって、循環安水中の油分や固形分の上昇によるフラッシングノズルの閉塞等の設備の汚染につながる。また、タールデカンターにおける安水層とタール層の分離が不十分となることから、タール層の水分の上昇につながる。
【0009】
本発明者らは、特許文献1及び2等に開示された事項を参考に、様々な界面活性剤を用いて、フラッシングノズル等の設備へのタールの付着を抑制すること、及びタールと安水との分離を促進してタール中の水分を低減することが可能な油水分離剤を検討した。その結果、設備へのタールの付着を抑制する効果やタール中の水分を低減する効果が十分でない界面活性剤があることがわかった。
【0010】
また、本発明者らは、上記の検討において、コークス炉ガスを循環安水でフラッシングにより処理する実際の現場での使用を考慮して、引火性による安全性をより高める観点、すなわち、引火性をより低くする観点、及び実設備におけるポンプによる送液を容易化し得る観点から、界面活性剤を水と混合して使用した。その結果、設備へのタールの付着を抑制することやタール中の水分を低減することが可能であっても、水と混合すると、水との混和性が低く、水と分離する界面活性剤があることがわかった。さらに、安水を含有する対象液に添加すると、安水の循環阻害や精留の阻害の原因となることが懸念される発泡を顕著に生じる界面活性剤があることもわかった。
【0011】
そこで本発明は、設備へのタールの付着を抑制することが可能であるとともに、タールと安水との分離を促進してタール中の水分を低減することが可能であり、発泡し難く、水と混和しやすい、安水用油水分離剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明によれば、コークス炉ガスのフラッシングのために循環される安水を含有する対象液に添加される、安水用油水分離剤であって、炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基を有する脂肪族第4級アンモニウム化合物を含有し、前記脂肪族第4級アンモニウム化合物は、コロイド滴定法により測定される、pH9.5における前記脂肪族第4級アンモニウム化合物1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値が、1.0meq/g以上である、安水用油水分離剤が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、設備へのタールの付着を抑制することが可能であるとともに、タールと安水との分離を促進してタール中の水分を低減することが可能であり、発泡し難く、水と混和しやすい、安水用油水分離剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】コークス炉ガスの処理プロセスの一例を表す概略図である。
図2】実施例における汚れ抑制効果の評価基準を表す図面代用写真である。
図3】実施例における発泡抑制効果の評価基準を表す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0016】
上述の通り、タールデカンターにおいては、油水分離、すなわち、タールと安水との分離が不十分となって、タールと安水との混合層が形成されることがある。タールと安水との混合層が形成されると、タールデカンターにおけるタール層の水分上昇につながる。また、タールデカンターから流出してフラッシングのために循環される安水(循環安水)中にタールが混じり、循環安水中の油分や固形分の上昇によるフラッシングノズルの閉塞等の設備の汚染につながる。したがって、設備へのタールの付着を抑制しうる効果(以下、「汚れ抑制効果」とも記す。)、及びタールと安水との分離を促進してタール中の水分量を低減しうる効果(以下、「水分低減効果」とも記す。)を有する油水分離剤が求められる。
【0017】
本発明者らは、様々な界面活性剤を用いて、汚れ抑制効果及び水分低減効果を有効に発揮しうる油水分離剤を検討した。また、本発明者らは、コークス炉ガスを循環安水でフラッシングにより処理する実際の現場での使用を考慮して、界面活性剤を水と混合して用いるのが良いと考えた。すなわち、界面活性剤を水と混合することで、引火性をより低くして安全性をより高められること、また、界面活性剤を水で希釈することで、実設備におけるポンプによる送液を容易化し得ることから、水と混和しやすい油水分離剤を求めた。さらに、本発明者らは、安水を含有する対象液に油水分離剤を添加した際に発泡を生じると、安水の循環阻害や精留の阻害の原因となることが懸念されることから、発泡し難い性質(以下、「発泡抑制効果」とも記す。)を有する油水分離剤を追求した。
【0018】
上記検討の結果、カチオン性界面活性剤である特定の脂肪族第4級アンモニウム化合物を含有する油水分離剤が、汚れ抑制効果、水分低減効果、発泡抑制効果、及び水との混和性を有することを見出した。上記特定の脂肪族第4級アンモニウム化合物としては、炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基を有するとともに、コロイド滴定法により測定される、pH9.5における脂肪族第4級アンモニウム化合物1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値が1.0meq/g以上であるものを用いる。この特定の脂肪族第4級アンモニウム化合物によって、汚れ抑制効果及び水分低減効果が得られることについて、本発明者らは、次のように推測している。
【0019】
本発明者らは、タールと安水との分離が不十分である油水分離不良が発生している設備と、油水分離不良が発生していない設備との安水とタールの性状の違いに着目して検討を行った。その結果、油水分離不良の発生は、アンモニウムイオン(NH )とフェノールが関与している可能性があると考えた。遊離アンモニウムは、弱酸と結合しているアンモニア(カチオン性)であり、フェノールは、酸解離定数(pKa)が10程度の弱酸であることが知られている。また、安水のpHは9.5程度(9~10の範囲)であり、このpH領域では、フェノールは平衡理論上25%程度プロトン解離したフェノキシドイオン(アニオン)となっていると推測される。すなわち、安水中の正の電荷をもつ遊離アンモニウムと、タール中の負の電荷をもつフェノキシドイオンとがタール-安水境界面で静電的に結合を形成することにより、安水とタール間の境界面が揺らぎ、タールと安水との混合層(油水分離不良層)が発生すると考えられる。このような現象に対し、カチオン性界面活性剤の一種である特定の脂肪族第4級アンモニウム化合物を含有する油水分離剤を添加することで、混合層でイオン交換され、タールと安水との分離を促進し、その結果、汚れ抑制効果及び水分低減効果が得られると推測される。
【0020】
本発明の一実施形態の安水用油水分離剤(本明細書において、単に「油水分離剤」と記載することがある。)は、コークス炉ガスのフラッシングのために循環される安水を含有する対象液(以下、単に「対象液」と記載することがある。)に添加される。この油水分離剤が添加される対象液については後述し、まず、油水分離剤の成分及び特性等について説明する。
【0021】
油水分離剤は、炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基を有する脂肪族第4級アンモニウム化合物(以下、単に「脂肪族第4級アンモニウム化合物」と記載することがある。)を含有する。また、この脂肪族第4級アンモニウム化合物は、コロイド滴定法により測定される、pH9.5における当該脂肪族第4級アンモニウム化合物1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値が、1.0meq/g以上である。
【0022】
油水分離剤は、上記の構成を有する特定の脂肪族第4級アンモニウム化合物を含有するため、コークス炉ガスのフラッシングのために循環される安水を含有する対象液に添加されることで、設備へのタールの付着を抑制すること、及びタールと安水との分離を促進することが可能である。すなわち、油水分離剤は、フラッシングノズル及び配管等の設備への汚れ抑制効果、及びタール中の水分低減効果を奏し得る。また、油水分離剤は、上記対象液に添加されても発泡し難く、水と混合した際に水と混和しやすいという性質を有し得る。
【0023】
脂肪族第4級アンモニウム化合物は、コロイド滴定法により測定される、pH9.5における当該脂肪族第4級アンモニウム化合物1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値(以下、「コロイド滴定法により測定される値」と略記することがある。)が、1.0meq/g以上である。これにより、油水分離剤は、汚れ抑制効果と水分低減効果を併有することができる。上記のコロイド滴定法により測定される値は、脂肪族第4級アンモニウム化合物のカチオン性の程度を表し、値が高いほど、カチオン性が強いことを表す。油水分離剤が添加される対象液に含まれる安水のpH範囲を考慮して、コロイド滴定法により測定される値は、pH9.5において測定される値をとる。
【0024】
水分低減効果をより高める観点から、コロイド滴定法により測定される、pH9.5における脂肪族第4級アンモニウム化合物1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値は、1.5meq/g以上であることが好ましく、2.0meq/g以上であることがさらに好ましい。一方、上記のコロイド滴定法により測定される値が大きすぎる場合には、カチオン性基に対する脂肪族炭化水素基の割合が小さすぎる、つまり親水的に過ぎるという観点から、上記値は、5meq/g以下であることが好ましい。
【0025】
脂肪族第4級アンモニウム化合物1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値は、pH9.5の条件にて、コロイド滴定法によって測定される。コロイド滴定法は、正負反対荷電をもつコロイドイオンを混合すると、定量的に凝集沈殿を起こすことを利用して、濃度未知のコロイドイオンAを濃度既知の反対荷電イオンBで滴定する方法である。反応終結の指示薬としては、Bイオンが過剰になると、これと結合して変色する色素を用いる。上記のコロイド滴定法によって測定される値は、具体的には、pH9.5に調整した脂肪族第4級アンモニウム化合物水溶液を試験液とし、標準ポリアニオンとしてのポリビニル硫酸カリウム溶液を滴定液として用いた、コロイド滴定法により測定及び算出される値をとることができる。指示薬としては、例えば、トルイジンブルー等を用いることができる。より詳細には、後述する実施例で説明するコロイド滴定法によって測定及び算出される値をとることができる。後述する実施例で説明するコロイド滴定法による測定方法は、公益社団法人日本下水道協会,「下水試験方法 上巻 -2012年版-」,p737-739に記載の試験方法に準じ、試験液のpHを9.5に変更した試験方法である。
【0026】
ここで、カチオン性界面活性剤のカチオン性の程度を表す指標として、カチオン性界面活性剤のカチオン性基数を、当該カチオン性界面活性剤の分子量で除した理論値がある。本開示では、理論値ではなく、コロイド滴定法により測定される、脂肪族第4級アンモニウム化合物1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値を用いる。この理由として、本発明者らは次のように考えている。カチオン性界面活性剤は疎水基を有しているため、疎水基同士の疎水性相互作用がコロイド滴定法により測定される値の測定結果を左右すると考えられる。コロイド滴定法は、カチオン性界面活性剤中のカチオン性基を、これと対となるアニオン性基(測定で用いるポリビニル硫酸カリウム中のアニオン性基)を徐々に添加していくことで中和し、中和が完了した際に共存させていた指示薬の色が変わる(アニオン性基が余るようになると明瞭な色を発する)原理を用いる方法である。カチオン性界面活性剤のなかでも、疎水性が高いものなどは、水中では疎水性相互作用によって分子集合体を形成しうると考えられる。カチオン性基が中和されると親水性が低下するため、一定程度親水性が低下したカチオン性界面活性剤は不溶化すると考えられる。この際、カチオン性基が中和されきっていないカチオン性界面活性剤をも巻き込んで不溶化するということが起こると予想される。そうすると、不溶化したカチオン性界面活性剤はもはやポリビニル硫酸カリウムと反応することはなく、その結果、全カチオン性基を中和しきるのには足りない量のポリビニル硫酸カリウムの添加でもカチオン性基が中和されきったように見える現象が起こると考えられる。このように、疎水性相互作用の存在も考慮に含めるため、コロイド滴定法により測定される値を用いる。
【0027】
脂肪族第4級アンモニウム化合物を含有する油水分離剤から、その油水分離剤中の脂肪族第4級アンモニウム化合物1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値を確認する方法としては、例えば、次の方法をとることができる。すなわち、油水分離剤から脂肪族第4級アンモニウム化合物を取り出し、取り出した脂肪族第4級アンモニウム化合物を用いて、上述のコロイド滴定法による測定を行うことで確認することができる。油水分離剤から脂肪族第4級アンモニウム化合物を取り出す方法としては、有機溶媒を用いた液-液抽出法や、陰イオン交換樹脂に脂肪族第4級アンモニウム化合物を吸着させた後にこれを溶出させる方法、活性炭や樹脂等の疎水性の固体状化合物に脂肪族第4級アンモニウム化合物を吸着させた後にこれを溶出させる方法、半透膜を用いる方法、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、塩析、凝析等の方法を挙げることができる。
【0028】
脂肪族第4級アンモニウム化合物は、カチオン性界面活性剤の一種であり、その分子構造中に第4級アンモニウムカチオンを有する。また、本実施形態の油水分離剤の有効成分である脂肪族第4級アンモニウム化合物は、炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基を有する。すなわち、この脂肪族第4級アンモニウム化合物は、炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基を含む第4級アンモニウムカチオンを有する。
【0029】
脂肪族第4級アンモニウム化合物は、第4級アンモニウムの構造を有する点で、第1級乃至第3級アミンの構造を有するカチオン性界面活性剤に比べて、水との混和性が高まりやすい。また、脂肪族第4級アンモニウム化合物は、炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基を有することで、それを有しない他のカチオン性界面活性剤に比べて、安水を含有する対象液に添加された際に発泡し難い。
【0030】
脂肪族第4級アンモニウム化合物は、炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基を1分子中に少なくとも1つ有していればよく、炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基に加えて、炭素数が10未満のアルキル基等の脂肪族炭化水素基を有していてもよい。炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基は、直鎖状の脂肪族炭化水素基、及び分岐鎖を有する脂肪族炭化水素基のいずれでもよい。また、炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基は、二重結合や三重結合を含まない飽和脂肪族炭化水素基でもよいし、二重結合又は三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基でもよい。脂肪族炭化水素基の炭素数は12以上であることが好ましく、20以下であることが好ましい。
【0031】
脂肪族第4級アンモニウム化合物としては、例えば、デシルトリメチルアンモニウム塩、ドデシルトリメチルアンモニウム塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、オクタデシルトリメチルアンモニウム塩、ジデシルジメチルアンモニウム塩、ジドデシルジメチルアンモニウム塩、デシルイソノニルジメチルアンモニウム塩、ジメチルジオクタデシルアンモニウム塩、ジオレイルジメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、ジデシルメチルポリオキシエチルアンモニウム塩等を挙げることができる。第4級アンモニウム塩における対イオン(アニオン)としては、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、プロピオン酸イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、及びメチル硫酸イオン等を挙げることができる。
【0032】
油水分離剤は、上記の脂肪族第4級アンモニウム化合物の1種又は2種以上を含有することができる。上記の脂肪族第4級アンモニウム化合物の具体例のなかでも、ジデシルジメチルアンモニウム塩、ジオレイルジメチルアンモニウム塩、及びジデシルメチルポリオキシエチルアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。
【0033】
油水分離剤の全質量に対する脂肪族第4級アンモニウム化合物の含有量は、10質量%以上90質量%以下であることが好ましい。油水分離剤の有効成分である脂肪族第4級アンモニウム化合物による効果を奏しやすいように、油水分離剤の全質量に対する脂肪族第4級アンモニウム化合物の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。油水分離剤の全質量に対する脂肪族第4級アンモニウム化合物の含有量は、100質量%でもよい。以下に述べる通り、油水分離剤は水を含有することが好ましいため、脂肪族第4級アンモニウム化合物の上記含有量は、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
コークス炉ガスを循環安水でフラッシングにより処理する実際の現場での使用を考慮して、引火性をより低くして安全性をより高める観点、及び実設備におけるポンプによる送液を容易化し得る観点から、油水分離剤は、水を含有することが好ましい。また、油水分離剤は、水及び水溶性有機溶剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶剤を含有することも好ましい。油水分離剤の全質量に対する溶剤(水及び水溶性有機溶剤の合計)の含有量は、5質量%以上90質量%以下であることが好ましい。油水分離剤が水等の溶剤を含有することで、油水分離剤の粘度を調整しやすく、取り扱いやすくなる。それらの観点から、油水分離剤の全質量に対する溶剤の含有量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。一方、油水分離剤の有効成分である脂肪族第4級アンモニウム化合物の含有量を確保する観点から、油水分離剤の全質量に対する溶剤の含有量は、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
油水分離剤は、上記溶剤として、さらに水溶性有機溶剤を含有してもよい。水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール類、アルキレングリコール類、アルキレングリコールモノアルキルエーテル類、及びアルキレングリコールジアルキルエーテル類等を挙げることができる。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、及びt-ブチルアルコール等を挙げることができる。アルキレングリコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、及び1,3-ブチレングリコール等を挙げることができる。アルキレングリコールモノアルキルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテル等を挙げることができる。アルキレングリコールジアルキルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、及びトリエチレングリコールジメチルエーテル等を挙げることができる。油水分離剤は、上記の水溶性有機溶剤の1種又は2種以上を含有することができる。
【0036】
油水分離剤は、その一態様において、さらにノニオン性界面活性剤を含有することが好ましい。上述の脂肪族第4級アンモニウム化合物に加えて、さらにノニオン性(非イオン性)界面活性剤を含有する油水分離剤は、安水を含有する対象液に添加された際に生じる発泡をさらに効果的に抑えられる。
【0037】
ノニオン性界面活性剤をさらに含有する場合の油水分離剤中の脂肪族第4級アンモニウム化合物の含有量は、当該油水分離剤の全質量に対して、10質量%以上70質量%以下であることが好ましく、15質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。また、ノニオン性界面活性剤をさらに含有する場合の油水分離剤中の溶剤(水及び水溶性有機溶剤の合計)の含有量は、当該油水分離剤の全質量に対して、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、5質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
油水分離剤がさらにノニオン性界面活性剤を含有する場合、油水分離剤の全質量に対するノニオン性界面活性剤の含有量は、5質量%以上65質量%以下であることが好ましい。上記の発泡を抑えやすい観点から、油水分離剤の全質量に対するノニオン性界面活性剤の含有量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、40質量%以上であることが特に好ましい。一方、水との混和性の観点から、油水分離剤の全質量に対するノニオン性界面活性剤の含有量は、65質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。また、油水分離剤中の上述の脂肪族第4級アンモニウム化合物の含有量(質量%)に対するノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)の比は、0.5以上2.5以下であることが好ましく、0.7以上2.4以下であることがより好ましく、0.9以上2.2以下であることがさらに好ましい。
【0039】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリエチレングリコールジオレエート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル(ポリオキシエチレン脂肪酸エステルとも称される。);ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、及びポリオキシエチレンソルビタントリイソステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンセスキオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル;テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等のポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンジオレイルエーテル、及びポリオキシエチレンジステアリルエーテル等)、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシプロピレン2-エチルヘキシルエーテル、及びポリオキシプロピレンステアリルエーテル等)、及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、及びポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレン誘導体;等を挙げることができる。油水分離剤は、上記のノニオン性界面活性剤の1種又は2種以上を含有することができる。
【0040】
上記のノニオン性界面活性剤のなかでも、対象液に添加した際の発泡をより抑制しやすく、水と混合した際に水とより混和しやすい油水分離剤を得られやすいことから、ソルビタン脂肪酸エステルが好ましい。そのなかでも、脂肪酸がオレイン酸であるソルビタン脂肪酸エステル、すなわち、ソルビタンモノオレエート、及びソルビタントリオレエート等のソルビタンオレエート(オレイン酸ソルビタン)がさらに好ましい。
【0041】
油水分離剤は、上述した成分以外にも必要に応じて添加剤(その他の成分)の1種又は2種以上を含有してもよい。添加剤としては、例えば、上述したもの以外の界面活性剤、凝集剤、防腐剤、酸化防止剤、着色剤、及び消泡剤等を挙げることができる。
【0042】
油水分離剤は、コークス炉ガスのフラッシングのために循環される安水を含有する対象液に添加されれば、その使用態様は特に限定されない。安水には、一般的に、アンモニア、アンモニウム塩、及びフェノール等が溶解して含有されている。上記対象液への油水分離剤の添加量としては、対象液に対する脂肪族第4級アンモニウム化合物換算の添加量が0.1mg/L以上1000mg/L以下であることが好ましく、0.1mg/L以上500mg/L以下であることがより好ましい。油水分離剤による効果をより奏しやすい観点から、脂肪族第4級アンモニウム化合物換算の上記添加量は、0.2mg/L以上であることがより好ましく、0.5mg/L以上であることがさらに好ましい。
【0043】
対象液としては、コークス炉ガスを安水でフラッシングして得られた安水及びタールを含有する液であって、安水とタールとを分離するための設備に流入してくる安水及びタールを含有する液を挙げることができる。また、対象液としては、コークス炉ガスを安水でフラッシングして得られた安水及びタールを含有する液であって、安水とタールとを分離するための設備に流入した、当該設備内の安水及びタールを含有する液を挙げることもできる。上記設備に流入する前の安水及びタールを含有する対象液や、上記設備内の安水及びタールを含有する対象液に、油水分離剤を添加することによって、当該対象液中の安水とタールとの分離を促進することが可能である。よって、上記設備内のタール層の水分を低減することができる。また、上記設備内の安水層中の油分や固形分の低減にもつながり、それにより、上記設備から流出してフラッシングに向かう安水(循環安水)中の油分や固形分の低減にもつながることから、フラッシング設備へのタールの付着も抑制し得る。
【0044】
さらに、対象液としては、コークス炉ガスを安水でフラッシングして得られた安水及びタールを含有する液が、安水とタールとを分離するための設備に流入してタールとは分離された安水であって、設備から流出してフラッシングに向かう途中の安水(循環安水)を挙げることもできる。上記設備から出てフラッシングに向かう途中の循環安水(対象液)に油水分離剤を添加することにより、フラッシングで得られた安水及びタールを含有する液中のタールが循環安水に含まれてフラッシングのための設備に付着することを抑制することができる。
【0045】
次に、油水分離剤の具体的な使用態様について、本発明の一実施形態の油水分離方法、及びタール付着抑制方法を交えて、図1を参照しながら説明する。本発明の一実施形態の油水分離方法は、対象液に油水分離剤を添加することを含む方法であって、対象液に油水分離剤を添加することによって、フラッシングで生じる安水及びタールを含有する液中の安水とタールとの分離を促進する方法である。また、本発明の一実施形態のタール付着抑制方法は、対象液に油水分離剤を添加することを含む方法であって、対象液に油水分離剤を添加することによって、フラッシングで生じる安水及びタールを含有する液中のタールがフラッシングのための設備に付着することを抑制する方法である。
【0046】
図1は、コークス炉ガスの処理プロセスの一例を表す概略フロー図である。図1中の実線矢印は、コークス炉ガスのフラッシングのために循環される安水を含有する対象液の流れを主に表す。図1中の破線矢印は、安水とは分離されたタールの流れを主に表し、一点鎖線矢印は、タールとは分離された安水(余剰安水)の流れを主に表す。
【0047】
コークス炉1で発生した高温(500~600℃程度)のガス(コークス炉ガス)は、ドライメーン等の配管設備2でコークス炉ガスに安水を散布すること、つまり、安水を用いたフラッシングにより、80~85℃程度に冷却される。このとき、コークス炉ガスに塩素及び硫化水素等が含まれている場合、塩素は塩化アンモニウムとして、硫化水素は硫化アンモニウムとして捕集され、コークス炉ガスが洗浄される。また、冷却の際に、コークス炉ガス中のタールは凝縮され、その凝縮物と安水がタールデカンター3に送られる。
【0048】
タールデカンター3に送られた安水及びタールは静置されて、タールデカンター3内の安水中にてタールが静置状態で沈降分離が行われ、上澄みの安水層L1と底部側のタール層L2とに分離される。タールデカンター3内の安水層L1からは、一部の安水が循環されてフラッシングのために送られ、一部が余剰安水として安水タンク4に送られる。また、タールデカンター3内のタール層L2からは、底部に堆積したタールが取り出されて次工程に送られる。次工程では、スラッジ沈降槽5やスーパーデカンター(遠心分離機)6により、タール中の水分及びスラッジが除去され、得られたタールが製品タールとしてタールタンク7に送られる。
【0049】
本発明の一実施形態の方法では、上記のタールデカンター3に流入してくる安水及びタールを含有する液W1や、タールデカンター3に流入したタールデカンター3内の安水及びタールを含有する液に、油水分離剤を添加することができる。それらの液(対象液)に油水分離剤を添加することによって、当該対象液中の安水とタールとの分離を促進することが可能である。よって、タールデカンター3において、安水層L1とタール層L2とを十分に分離することが可能となり、タールデカンター3内のタール層L2の水分を低減することができる。そのため、タールデカンター3において、水分が低減されたタールをその後の次工程(スラッジ沈降槽5やスーパーデカンター6)に送ることができ、当該次工程において、タール中の水分をより効果的に除去することができる。また、タールデカンター3から流出してフラッシングに向かう安水(循環安水)W2中に混じるタールの含有量の低減にもつながることから、フラッシングノズル等の設備へのタールの付着も抑制することが可能となる。
【0050】
さらに、本発明の一実施形態の方法では、タールデカンター3に流入してタールとは分離された安水であって、タールデカンター3から流出してフラッシングに向かう途中の安水(循環安水)W2に、油水分離剤を添加することができる。フラッシングに向かう循環安水W2中にタールが含まれていたとしても、循環安水W2に油水分離剤を添加することによって、循環安水W2中のタールがフラッシングノズル等の設備に付着することを抑制することができる。そのため、フラッシングノズルの閉塞を抑制することが可能である。
【0051】
タールデカンター3に流入してくる安水及びタールを含有する液W1に油水分離剤を添加する場合、タールデカンター3への流入配管P1に油水分離剤を添加するための装置及び機構等を設けることができる。また、タールデカンター3から流出してフラッシングに向かう途中の安水(循環安水)W2に油水分離剤を添加する場合、タールデカンター3からの流出配管P2に油水分離剤を添加するための装置及び機構等を設けることができる。さらに、タールデカンター3内の安水及びタールを含有する液に、油水分離剤を添加する場合、タールデカンター3に油水分離剤を添加するための装置及び機構等を設けることができる。
【0052】
以上詳述した通り、本発明の一実施形態の油水分離剤は、炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基を有する脂肪族第4級アンモニウム化合物を含有する。そして、この脂肪族第4級アンモニウム化合物は、コロイド滴定法により測定される、pH9.5における脂肪族第4級アンモニウム化合物1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値が、1.0meq/g以上である。そのため、この油水分離剤を、コークス炉ガスのフラッシングのために循環される安水を含有する対象液に添加することにより、フラッシングノズル等の設備へのタールの付着を抑制でき、かつ、タールと安水との分離を促進してタール中の水分を低減できる。また、対象液に消泡剤を添加したり、油水分離剤に消泡剤を含有させたりすることを要せずとも、対象液に油水分離剤を添加した際の発泡を抑制することができる。さらに、この油水分離剤は、水との混和性が良好であることから、油水分離剤に水を含有させたり、油水分離剤を水と混合して使用したりすることで、引火性をより低くして安全性をより高めることができ、なおかつ、実設備におけるポンプによる送液を容易化し得る。
【0053】
なお、本発明の一実施形態は、以下の構成を採ることが可能である。
[1]コークス炉ガスのフラッシングのために循環される安水を含有する対象液に添加される、安水用油水分離剤であって、
炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基を有する脂肪族第4級アンモニウム化合物を含有し、
前記脂肪族第4級アンモニウム化合物は、コロイド滴定法により測定される、pH9.5における前記脂肪族第4級アンモニウム化合物1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値が、1.0meq/g以上である安水用油水分離剤。
[2]さらに水を含有し、
前記安水用油水分離剤の全質量に対する前記脂肪族第4級アンモニウム化合物の含有量が、10質量%以上90質量%以下である上記[1]に記載の安水用油水分離剤。
[3]前記対象液に対する前記脂肪族第4級アンモニウム化合物換算の添加量が、0.1mg/L以上1000mg/L以下である上記[1]又は[2]に記載の安水用油水分離剤。
[4]前記対象液は、前記コークス炉ガスを安水でフラッシングして得られた前記安水及びタールを含有する液であって、前記安水と前記タールとを分離するための設備に流入してくる前記安水及び前記タールを含有する液である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の安水用油水分離剤。
[5]前記対象液は、前記コークス炉ガスを安水でフラッシングして得られた前記安水及びタールを含有する液であって、前記安水と前記タールとを分離するための設備に流入した、当該設備内の前記安水及び前記タールを含有する液である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の安水用油水分離剤。
[6]前記対象液は、前記コークス炉ガスを安水でフラッシングして得られた前記安水及びタールを含有する液が、前記安水と前記タールとを分離するための設備に流入して前記タールとは分離された前記安水であって、前記設備から流出して前記フラッシングに向かう途中の前記安水である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の安水用油水分離剤。
[7]さらにノニオン性界面活性剤を含有する上記[1]~[6]のいずれかに記載の安水用油水分離剤。
[8]前記安水用油水分離剤の全質量に対する前記ノニオン性界面活性剤の含有量が、5質量%以上65質量%以下である上記[7]に記載の安水用油水分離剤。
[9]前記安水用油水分離剤中の前記脂肪族第4級アンモニウム化合物の含有量(質量%)に対する前記ノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)の比が、0.5以上2.5以下である上記[7]又は[8]に記載の安水用油水分離剤。
[10]前記ノニオン性界面活性剤が、ソルビタンオレエートを含む上記[7]~[9]のいずれかに記載の安水用油水分離剤。
[11]コークス炉ガスのフラッシングのために循環される安水を含有する対象液に油水分離剤を添加することを含む方法であって、
前記油水分離剤は、炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基を有する脂肪族第4級アンモニウム化合物を含有し、
前記脂肪族第4級アンモニウム化合物は、コロイド滴定法により測定される、pH9.5における前記脂肪族第4級アンモニウム化合物1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値が、1.0meq/g以上であり、
前記対象液に前記油水分離剤を添加することによって、前記フラッシングで得られた前記安水及びタールを含有する液中の前記安水と前記タールとの分離を促進する油水分離方法。
[12]コークス炉ガスのフラッシングのために循環される安水を含有する対象液に油水分離剤を添加することを含む方法であって、
前記油水分離剤は、炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基を有する脂肪族第4級アンモニウム化合物を含有し、
前記脂肪族第4級アンモニウム化合物は、コロイド滴定法により測定される、pH9.5における前記脂肪族第4級アンモニウム化合物1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値が、1.0meq/g以上であり、
前記対象液に前記油水分離剤を添加することによって、前記フラッシングで得られた前記安水及びタールを含有する液中の前記タールが前記フラッシングのための設備に付着することを抑制する、タール付着抑制方法。
【実施例0054】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
<イオン性(カチオン性、アニオン性、又は両性)界面活性剤>
イオン性を有する界面活性剤として、負コロイドイオンが結合し得るカチオン性界面活性剤、正コロイドイオンが結合し得るアニオン性界面活性剤、負コロイドイオンと正コロイドイオンの両方が結合し得る両性界面活性剤の3種を用いた。具体的には、表1に示すカチオン性界面活性剤製品C1~C6、両性界面活性剤製品AM1及びAM2、並びにアニオン性界面活性剤製品A1及びA2を使用した。表1中の炭素数は、カチオン性界面活性剤製品C1~C6において、主成分である化合物が有する脂肪族炭化水素基のうちの炭素数が最も多い脂肪族炭化水素基の炭素数である。カチオン性界面活性剤製品C1~C3は、炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基を有する脂肪族第4級アンモニウム化合物を主成分として含有するものである。表1に示す「負コロイドイオン結合当量数(meq/g)」は、コロイド滴定法により測定される、pH9.5におけるカチオン性又は両性界面活性剤(カチオン性又は両性界面活性剤製品の主成分)1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値であり、以下の測定方法によって測定した。
【0056】
(カチオン性又は両性界面活性剤1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値の測定)
純水100mLにカチオン性又は両性界面活性剤製品を加え、カチオン性又は両性界面活性剤水溶液とした。このとき使用したカチオン性又は両性界面活性剤(カチオン性又は両性界面活性剤製品の主成分)換算の質量をs(g;目安0.1g前後)とする。300mL容量の三角フラスコに純水90mLとカチオン性又は両性界面活性剤水溶液10mLを入れ、撹拌した後、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9.5に調整したカチオン性又は両性界面活性剤水溶液を試験液とした。試験液にトルイジンブルー指示薬溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製の「トルイジンブルー指示薬溶液」(コロイド滴定用))を数滴加えて青色にし、マグネティックスターラーで撹拌しながら、滴定液として、標準ポリアニオンである2.5mmol/Lポリビニル硫酸カリウム溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製の「N/400 PVSK溶液」(コロイド滴定用)、ファクター:1.00)を滴下した。試験液が青色から赤紫色に変色した後、赤紫色が約10秒以上保持する点を終点とした。これに要した2.5mmol/Lポリビニル硫酸カリウム溶液の量a(mL)を求めた。これとは別に試験液に代えて純水100mLについて同様の操作(空試験)を行い、同様の終点を示すまでに要した2.5mmol/Lポリビニル硫酸カリウム溶液の量b(mL)を求めた。下記式(1)により、カチオン性又は両性界面活性剤1g当たりの負コロイドイオン結合当量数の値(meq/g)を算出した。
【0057】
a:試験液への2.5mmol/Lポリビニル硫酸カリウム滴定量(mL)
b:空試験の水への2.5mmol/Lポリビニル硫酸カリウム滴定量(mL)
s:カチオン性又は両性界面活性剤の量(g)
F:2.5mmol/Lポリビニル硫酸カリウム溶液のファクター
【0058】
【0059】
<ノニオン性界面活性剤>
表2に示すノニオン性界面活性剤製品N1~N6を使用した。表2中のHLB欄には、ノニオン性界面活性剤のグリフィン法によるHLB値を示した。
【0060】
【0061】
<評価用油水分離剤溶液>
実施例1~6及び比較例1~13では、後記表3-1、表3-3、及び表3-4の上段上部に示す界面活性剤製品(カチオン性、両性、アニオン性、又はノニオン性界面活性剤製品)をそのまま、各評価用油水分離剤溶液として用いた。また、実施例7~13では、後記表3-2に示すように、カチオン性界面活性剤製品(C1、C2、又はC3)とノニオン性界面活性剤製品(N1又はN2)とを所定比率(質量比)で混合した混合物を評価用油水分離剤溶液として用いた。後記表3(表3-1~3-4)の上段下部には、各評価用油水分離剤溶液中のイオン性(カチオン性、両性、又はアニオン性)界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及び溶剤(水及び水溶性有機溶剤の合計)の各含有量(質量%)を示した。
【0062】
<評価方法>
コークス炉ガスの処理を行う実設備から生じるタール及び安水を考慮して、市販のコールタール(Alfa Aeser製)の水分量を純水で15質量%に調整した模擬タールサンプル(水分量15質量%、コールタール85質量%)を、タールとして使用した。また、25℃におけるpHを9.5、フェノール濃度を1600mg/L、アンモニウムイオン(NH )濃度を2200mg/L、塩化物イオン(Cl)濃度を1900mg/L、硫酸イオン(SO 2-)濃度を370mg/Lに調製した模擬安水サンプルを、安水として使用した。そして、上述した各評価用油水分離剤溶液を用いて、以下に述べる方法によって、各評価用油水分離剤溶液が、汚れ抑制効果、水分低減効果、発泡抑制効果、及び水との混和性を有するか確認する試験を行った。各評価項目の評価基準において、「A」及び「B」は効果を有するレベルを表し、「C」は効果を有しないレベルを表す。結果を表3の下段に示す。
【0063】
(汚れ抑制効果)
安水とタールを70℃に保温した後、50mL容量のバイアル瓶に安水40mL、タール0.5mL、評価用油水分離剤溶液を所定量入れた。評価用油水分離剤溶液の添加量は、安水及びタールを含む対象液に対する界面活性剤(有効成分)換算の添加量(mg/L)が表3中段の「Z1(mg/L)」に示す値となる量とした。安水、タール、及び評価用油水分離剤溶液を入れたバイアル瓶を約30秒で上下に30回転倒撹拌を行った後、70℃のウォーターバスに30分間静置させた。次いで、ウォーターバスから取り出したバイアル瓶の内壁面へのタールの付着具合を目視にて確認し、以下の評価基準にしたがって、各評価用油水分離剤溶液の汚れ抑制効果を評価した。図2に、汚れ抑制効果の評価基準を表す外観の写真を示す。
A:バイアル瓶の内壁面へのタールの目立った付着は確認されない。
B:バイアル瓶の内壁面へのタールの斑な付着が確認される。
C:バイアル瓶の内壁面に全体的にタールの付着が確認される。
【0064】
(水分低減効果)
500mL容量の分液漏斗に、タール50gと安水50gを加え、30分間振盪させ、タールデカンター内に流入する模擬対象液を調製した。その模擬対象液に、上述の評価用油水分離剤溶液を所定量添加し、1分間振盪させて混合した後、5分間静置させた。評価用油水分離剤溶液の添加量は、模擬対象液に対する界面活性剤(有効成分)換算の添加量(mg/kg、mg/L)が表3中段の「Z2(mg/kg)、(mg/L)」に示す値となる量とした。分液漏斗内の下層に分離したタール層を分取し、カールフィッシャー水分計(製品名「MKH 700」、京都電子工業株式会社製)にて、タール中の水分量(試験後のタール中の水分量)を測定した。また、評価用油水分離剤溶液を添加せずに、上記模擬対象液についても上記と同様の操作にてタール中の水分量(ブランク試験のタール中の水分量)を測定した。そして、下記式に示す水分減少量(質量%)を算出した。
【0065】
【0066】
得られた水分減少量(質量%)の値に基づいて、以下の評価基準にしたがって、各評価用油水分離剤溶液の水分低減効果を評価した。
A:水分減少量が20質量%以上である。
B:水分減少量が10質量%以上20質量%未満である。
C:水分減少量が10質量%未満である。
【0067】
(発泡抑制効果)
50mL容量のバイアル瓶に、安水20mL、及び評価用油水分離剤溶液を所定量入れた。評価用油水分離剤溶液の添加量は、安水を含む対象液に対する界面活性剤(有効成分)換算の添加量(mg/L)が表3中段の「Z3(mg/L)」に示す値となる量とした。安水、及び評価用油水分離剤溶液を入れたバイアル瓶を約10秒で上下に20回転倒撹拌した。撹拌後、発泡の状況を目視にて観察することにより、以下の評価基準にしたがって、各評価用油水分離剤溶液の発泡抑制効果を評価した。図3に、発泡抑制効果の評価基準を表す外観の写真を示す。
A:発泡がほとんど確認されない。
B:泡の高さが1mm以上5mm未満確認される。
C:泡の高さが5mm以上確認される。
【0068】
(水との混和性)
15mL容量の遠沈管に、評価用油水分離剤溶液、及び純水を所定量入れた。評価用油水分離剤溶液の添加量は、遠沈管に入れた評価用油水分離剤溶液及び純水の合計量に対する界面活性剤(有効成分)換算の割合が、表3中段の「Z4(質量%)」に示す値となる量とした。純水、及び評価用油水分離剤溶液を入れた遠沈管を約15秒ボルテックスミキサーにより撹拌を行った後、純水と評価用油水分離剤溶液との混合具合を目視にて確認し、以下の評価基準にしたがって、各評価用油水分離剤溶液の水との混和性を評価した。
A:白濁、及びゲル化が確認されない。
B:ゲル化はないが、白濁が確認される。
C:白濁、及びゲル化が確認される。
【0069】
なお、上記の「水との混和性」の評価は、コークス炉ガスを循環安水でフラッシングにより処理する実際の現場において、評価用油水分離剤溶液を製品として使用することを想定した場合に、引火性をより低くして安全性をより高めるために、また、実設備におけるポンプでの送液を行いやすいように、評価用油水分離剤溶液を水で希釈したときに問題なく混ざるかを確認した項目である。こうした観点から、実施例1~3、7~9及び11~13、並びに比較例1~13では、評価用油水分離剤溶液を油水分離剤製品としてみて、その製品(評価用油水分離剤溶液)と水とを9:1の質量比で混合する条件に揃えて評価を行った。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
以上の結果より、実施例1~13の評価用油水分離剤溶液は、汚れ抑制効果、水分低減効果、発泡抑制効果、及び水との混和性のいずれの性質も有することが確認され、安水用油水分離剤として有用であることが確認された。したがって、炭素数が10以上の脂肪族炭化水素基を有するとともに、コロイド滴定法により測定される、pH9.5における負コロイドイオン結合当量数の値が1.0meq/g以上である脂肪族第4級アンモニウム化合物を用いることによって、設備へのタールの付着を抑制することが可能であるとともにタールと安水との分離を促進することが可能であり、発泡し難く、水と混和しやすい、安水用油水分離剤を提供することができることが認められた。
【符号の説明】
【0075】
1 コークス炉
2 ドライメーン
3 タールデカンター
4 安水タンク
5 スラッジ沈降槽
6 スーパーデカンター
7 タールタンク
図1
図2
図3