(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124375
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】磁性発泡樹脂およびそれを含むセンサー
(51)【国際特許分類】
H01F 1/147 20060101AFI20240905BHJP
G01L 1/12 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
H01F1/147 108
G01L1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028736
(22)【出願日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2023031219
(32)【優先日】2023-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023058488
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹田 裕孝
(72)【発明者】
【氏名】三代 真澄
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA06
5E041AA07
5E041BB03
5E041BD12
5E041CA01
5E041HB08
(57)【要約】
【課題】柔軟性に優れつつも、透磁率が高く、樹脂中の透磁率が均一である磁性発泡樹脂を提供する。
【解決手段】ナノワイヤー(A)と発泡樹脂(B)を含み、前記ナノワイヤー(A)が、鉄またはニッケルを主成分とし、平均長が5μm以上、アスペクト比が60~1000である、磁性発泡樹脂、および、ナノワイヤー(A)が、鉄を主成分とする前記磁性発泡樹脂、および、前記磁性発泡樹脂を含むセンサー。本発明によれば、柔軟性に優れつつも、透磁率が高く、樹脂中の透磁率が均一である磁性発泡樹脂を提供することができる。本発明の磁性発泡樹脂は、センサー等に好適に用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノワイヤー(A)と発泡樹脂(B)を含み、
前記ナノワイヤー(A)が、鉄またはニッケルを主成分とし、平均長が5μm以上、アスペクト比が60~1000である、磁性発泡樹脂。
【請求項2】
ナノワイヤー(A)が、鉄を主成分とする請求項1に記載の磁性発泡樹脂。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁性発泡樹脂を含むセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性発泡樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁性フィラーを含む発泡樹脂は、感圧センサーの歪検出部に用いることが検討されている。前記発泡樹脂には、歪を検出するため、高い柔軟性が求められ、検出感度を向上させるため高い透磁率が求められている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一般的に、磁性フィラーは球状またはそれを圧延したものはフレーク状である。球状またはフレーク状の磁性フィラーは、内部に反磁界が発生するため、その反磁界を抑制し透磁率を向上させるためには、磁性フィラーを高充填し、特許文献1のように、磁界内で成型し磁性フィラーを配列させる必要がある。しかしながら、磁性フィラーを配列させると、磁性フィラーが偏在したり、相分離が生じたりと、品質が安定しないという加工上の問題があった。また、一方向以外の透磁率が低くなるため、高度なセンシングを目的としたセンサーには使用しにくいという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、柔軟性に優れつつも、透磁率が高く、樹脂中の透磁率が均一である磁性発泡樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、磁性を有するナノワイヤーと発泡樹脂からなる磁性発泡樹脂において、特定のナノワイヤーを用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
本発明の要旨は、以下の通りである。
<1>ナノワイヤー(A)と発泡樹脂(B)を含み、
前記ナノワイヤー(A)が、鉄またはニッケルを主成分とし、平均長が5μm以上、アスペクト比が60~1000である、磁性発泡樹脂。
<2>ナノワイヤー(A)が、鉄を主成分とする<1>に記載の磁性発泡樹脂。
<3><1>または<2>に記載の磁性発泡樹脂を含むセンサー。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、柔軟性に優れつつも、透磁率が高く、樹脂中の透磁率が均一である磁性発泡樹脂を提供することができる。
本発明の磁性発泡樹脂は、センサー等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の磁性発泡樹脂は、ナノワイヤー(A)と発泡樹脂(B)とから構成される。
【0010】
ナノワイヤー(A)は、鉄またはニッケルを主成分とすることが好ましく、鉄を主成分とすることがより好ましい。本発明において、主成分とはナノワイヤーに含まれる元素のうち、ICP-AESで最も含有量の多いものを指す。センサーに用いる場合、透磁率が高い方が、感度が高くなることから、鉄とニッケルの合計の含有量は多いほどよい。
【0011】
本発明に用いるナノワイヤー(A)のアスペクト比(平均長/平均径)は、60~1000であることが必要で、100~1000であることがより好ましい。アスペクト比が60~1000であるナノワイヤーを用いることにより、長さ方向の反磁界係数を下げることができる。アスペクト比が60未満の場合、ナノワイヤー内部に生じる反磁界を抑制することができず、透磁率が低い磁性フィラーとなるので好ましくない。一方、アスペクト比が1000を超える場合、発泡樹脂と混合できなくなるので好ましくない。
【0012】
ナノワイヤー(A)の平均径は、50~200nmであることが好ましく、60~150nmであることがより好ましい。平均径が50nm未満のナノワイヤーは、結晶の磁気異方性を制御できず、下記に例示する製造方法で作製しにくい場合がある。一方、平均径が200nmを超えると比重の高いナノワイヤーが沈降しやすくなり、発泡樹脂中に分散および分散維持ができなくなる場合がある。
【0013】
ナノワイヤー(A)の平均長は、3μm以上であることが必要で、5~30μmであることが好ましく、5~20μmであることがさらに好ましい。平均長が30μmを超える場合、ナノワイヤーが発泡樹脂に分散できなくなる等の加工上の問題が発生するので好ましくない。一方、平均長が3μm未満の場合、上記のアスペクト比に満たないナノワイヤーになるので好ましくない。
【0014】
本発明に用いるナノワイヤー(A)は、異方性磁界中で原料の金属塩を還元剤で還元することにより製造することができる。異方性磁界中で作製することにより、ナノワイヤーの形状と結晶の磁気異方性を制御することができ、透磁率の優れたナノワイヤーとすることができる。
【0015】
原料の金属塩としては、例えば、各金属の塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩が挙げられる。金属の濃度は、30~50mmol/Lとすることが好ましい。
【0016】
還元剤としては、ホウ素を含む還元剤(例えば、水素化ホウ素ナトリウム)を用いることが好ましい。水素化ホウ素ナトリウムを用いることで、室温付近で金属塩を還元すること可能となり、還元反応速度、反応に係る時間がナノワイヤーの形成に適した条件になる。また、反応に用いる水素化ホウ素ナトリウムの濃度は、金属塩の濃度より過剰にすることで高い収率でナノワイヤーを得ることができる。
【0017】
還元反応時に印加する磁場は50~160mT(特に50~150mT)とすることが好ましい。磁場が50mT未満の場合、ナノワイヤーが生成されない場合がある。一方、磁場が160mTを超える場合、生成したナノワイヤーが磁場の発生源に吸着し、回収できなくなる場合がある。
【0018】
還元剤を添加してからナノワイヤーが生成するまでの時間は数秒程度である。その後、フィルター等でナノワイヤーを回収し精製すればよい。
【0019】
発泡樹脂(B)は、ナノワイヤー(A)と混合できれば特に限定されず、用途に適したものを選択すればよい。発泡樹脂(A)の発泡倍率としては、1.2~10倍とすることが好ましく、2~5倍とすることがより好ましい。発泡倍率が1.2倍未満の場合、体積あたりのナノワイヤー(A)の含有比率が下がるため、磁性材料として用いることが困難となる場合がある。一方、発泡倍率が10倍を超えるものとするのは工業的には難しい。
【0020】
発泡樹脂(B)としては、例えば、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)が挙げられる。中でも、柔軟性が高いことから、ウレタン樹脂が好ましい。
【0021】
ナノワイヤー(A)と発泡樹脂(B)の質量比率は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよい。ナノワイヤー(A)の質量比率が高いほど、透磁率が高くなるので好ましい。
【0022】
ナノワイヤー(A)と発泡樹脂(B)の混合方法は、発泡樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、発泡樹脂としてウレタン樹脂と用いる場合、ナノワイヤー(A)と硬化剤を混合し、さらに主剤と混ぜることにより発泡樹脂とすることができる。また主剤と混ぜた後、鋳型に流し込みことにより成型も可能である。
【0023】
本発明の磁性発泡樹脂は、本発明の効果を損なわない限りで、難燃剤、UV吸収剤、酸化防止剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0024】
本発明の磁性発泡樹脂は、感圧センサー等のセンサー、吸音材、振動吸収材、電波吸収材、磁歪素子に好適に用いることができる。
【実施例0025】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0026】
A.各種評価
(1)ナノワイヤーの金属種の定性および定量
ナノワイヤーを室温で24時間、真空乾燥した。
真空乾燥したナノワイヤーを希塩酸希硝酸混合溶液に溶解した。得られた溶解液を、ICP-AES法により、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)水溶液を標準液として用いて検量線法により、Fe、Niの含有量を定量した。
【0027】
(2)ナノワイヤーの形状とアスペクト比
(1)で得られた真空乾燥したナノワイヤーを走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影した。任意の10視野について、各視野中における任意の10点において、繊維長と繊維径を測定し(合計100点)、それぞれの平均を平均長、平均径とした。それからアスペクト比(平均長/平均径)を算出した。
【0028】
(3)柔軟性
得られた磁性発泡樹脂を0.02MPaの圧力で1秒圧縮し、圧縮前後での厚みの変化量と割れを評価した。
○:変化量が5%未満であって、割れが発生しなかった
×:変化量が5%以上であるか、または、割れが発生した
【0029】
(4)透磁率(磁性発泡樹脂)
得られた磁性発泡樹脂の3か所から1cm角のシートを3枚切り出し、VSM(振動試料型磁力計)にて(初期)透磁率を測定した。
◎:70以上
○:40以上70未満
×:40未満
3箇所の透磁率の均一性を以下の式により求めた。
透磁率の均一度(%)=(透磁率の最大値-透磁率の最小値)/透磁率の平均値×100
透磁率の均一度は、0%に近いほど均一度が高いことを意味し、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0030】
B.原料
B-1.ナノワイヤーまたは粒子
(1)FeNW
塩化鉄(II)四水和物12g(60mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を15分かけて滴下した。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成したナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、メタノールでそれぞれ3回ずつ洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
【0031】
(2)Fe20Ni80NW
塩化鉄(II)四水和物2.4g(12mmol)、塩化ニッケル六水和物11.4g(48mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を15分かけて滴下した。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成したナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、メタノールでそれぞれ3回ずつ洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
【0032】
(3)Fe40Ni20Co20NW
塩化鉄(II)四水和物8.0g(40mmol)、塩化ニッケル六水和物4.8g(20mmol)、塩化コバルト六水和物4.8g(20mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を15分かけて滴下した。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成したナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、メタノールでそれぞれ3回ずつ洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
【0033】
(4)FeP
富士フィルム和光製の鉄粉
【0034】
ナノワイヤーおよび粒子ならびにそれらを含む磁性発泡樹脂の特性値を表1に示す。
【0035】
【0036】
実施例1
エポック社のウレタン樹脂K-11-001(B液:硬化剤)20gとFeNW3gを混合し、さらにエポック社のウレタン樹脂K-11-001(A液:主剤)50gを混合した。調製したペーストをすぐにテフロン(登録商標)シート上に塗布し、厚み5mmの発泡樹脂を作製した。
【0037】
実施例2、3、比較例1
表2に記載のナノワイヤーに変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこなって磁性発泡樹脂を作製した。
【0038】
比較例2
エポック社のウレタン樹脂K-11-001(B液:硬化剤)20gとFeP3gを混合し、さらにエポック社のウレタン樹脂K-11-001(A液:主剤)50gを混合した。調製したペーストをすぐにテフロン(登録商標)シート上に塗布し、作製する発泡樹脂の厚みが5mmになるように上下を磁石で挟み成型した。
【0039】
得られたナノワイヤーおよび前記ナノワイヤーから作製した磁性発泡樹脂の評価を表2に示す。
【0040】
【0041】
実施例1~3の磁性発泡樹脂は、用いたナノワイヤーが、平均長が5μm以上であって、アスペクト比が60~1000であったため、柔軟性に優れつつも、透磁率が高く、樹脂中の透磁率が均一であった。
実施例1と実施例2を対比すると、実施例1は、用いたナノワイヤーが、鉄を主成分とするものであったため、透磁率が高かった。
【0042】
比較例1の磁性発泡樹脂は、用いたナノワイヤーが、アスペクト比が60未満であったため、透磁率が低かった。
比較例2の磁性発泡樹脂は、粒子を磁界中で成型したため、樹脂中の透磁率が不均一であった。