IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニチカ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-複合ナノワイヤーおよび電波吸収材 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124377
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】複合ナノワイヤーおよび電波吸収材
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/16 20220101AFI20240905BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240905BHJP
   B22F 1/062 20220101ALI20240905BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20240905BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240905BHJP
   H01F 1/14 20060101ALI20240905BHJP
   B22F 1/054 20220101ALI20240905BHJP
【FI】
B22F1/16 100
B22F1/00 W
B22F1/062
B82Y30/00
B82Y40/00
H01F1/14 130
B22F1/054
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024029339
(22)【出願日】2024-02-29
(31)【優先権主張番号】P 2023031217
(32)【優先日】2023-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023058487
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】竹田 裕孝
(72)【発明者】
【氏名】三代 真澄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 菜保
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018BB02
4K018BB04
4K018BB05
4K018BC28
4K018BD01
4K018KA42
5E041AA11
5E041BC01
5E041BD12
5E041CA13
5E041HB14
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】酸化や溶出等による組成変化(特に鉄含有量の変化)が十分に小さい、安定性に優れた、鉄を主成分とする複合ナノワイヤーを提供すること。
【解決手段】粒子連結形状の金属ナノワイヤーの表面に、平均厚みが5~50nmのシリカ被膜を有し、鉄を主成分とする、複合ナノワイヤー。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子連結形状の金属ナノワイヤーの表面に、平均厚みが5~50nmのシリカ被膜を有し、鉄を主成分とする、複合ナノワイヤー。
【請求項2】
鉄の含有率が70質量%以上である、請求項1に記載の複合ナノワイヤー。
【請求項3】
アスペクト比が60以上である、請求項1または2に記載の複合ナノワイヤー。
【請求項4】
平均繊維径が90nm以上である、請求項1または2に記載の複合ナノワイヤー。
【請求項5】
前記金属ナノワイヤーにおける直径の最大値をA(nm)、最小値をB(nm)とし、前記直径の最大値Aが前記金属ナノワイヤーにおいて端から100nm以内の端部ではないところでの直径の最大値である場合に、前記金属ナノワイヤーは1.2~3.0のA/B値を有する、請求項1または2に記載の複合ナノワイヤー。
【請求項6】
体積抵抗率が1×10Ω・cm以上である、請求項1または2に記載の複合ナノワイヤー。
【請求項7】
複合化による飽和磁化の維持率が80%以上である、請求項1または2に記載の複合ナノワイヤー。
【請求項8】
酸化による鉄含有量の低下率が5%以下である、請求項1または2に記載の複合ナノワイヤー。
【請求項9】
水への溶出による鉄含有量の低下率が5%以下である、請求項1または2に記載の複合ナノワイヤー。
【請求項10】
請求項1または2に記載の複合ナノワイヤーを含む、電波吸収材。
【請求項11】
磁界を印加しながら、金属ナノワイヤーを作製する工程;および
前記金属ナノワイヤーの表面にシリカ被膜を形成する工程
を含む、複合ナノワイヤーの製造方法。
【請求項12】
請求項1または2に記載の複合ナノワイヤーを製造する、請求項11に記載の複合ナノワイヤーの製造方法。
【請求項13】
前記複合ナノワイヤーのアスペクト比が60以上である、請求項11に記載の複合ナノワイヤーの製造方法。
【請求項14】
前記複合ナノワイヤーの平均繊維径が90nm以上である、請求項11に記載の複合ナノワイヤーの製造方法。
【請求項15】
前記金属ナノワイヤーにおける直径の最大値をA(nm)、最小値をB(nm)とし、前記直径の最大値Aが前記金属ナノワイヤーにおいて端から100nm以内の端部ではないところでの直径の最大値である場合に、前記金属ナノワイヤーは1.2~3.0のA/B値を有する、請求項11に記載の複合ナノワイヤーの製造方法。
【請求項16】
前記複合ナノワイヤーの体積抵抗率が1×10Ω・cm以上である、請求項11に記載の複合ナノワイヤーの製造方法。
【請求項17】
前記複合ナノワイヤーの複合化による飽和磁化の維持率が80%以上である、請求項11に記載の複合ナノワイヤーの製造方法。
【請求項18】
前記複合ナノワイヤーの酸化による鉄含有量の低下率が5%以下である、請求項11に記載の複合ナノワイヤーの製造方法。
【請求項19】
前記複合ナノワイヤーの水への溶出による鉄含有量の低下率が5%以下である、請求項11に記載の複合ナノワイヤーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノワイヤーの表面にシリカ被膜を有する複合ナノワイヤーおよびそれを含む電波吸収材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄を主成分とするナノワイヤーは電波吸収材などに用いる磁性材料として検討されている(例えば、特許文献1、2)。一般に、鉄は飽和磁化が高く優れた磁性材料であるが、安定な環境条件の領域が狭く、水、酸素、pHの影響で酸化や溶出が起きやすい材料である。特に、ナノワイヤーの形状は、表面積が広くなるため、バルクの形状よりも酸化や溶出が起きやすく、ナノワイヤーの組成が変化しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-100895号公報
【特許文献2】特開2022-159125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、酸化や溶出等による組成変化(特に鉄含有量の変化)が十分に小さい、安定性に優れた、鉄を主成分とする複合ナノワイヤーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は、以下の通りである。
<1> 粒子連結形状の金属ナノワイヤーの表面に、平均厚みが5~50nmのシリカ被膜を有し、鉄を主成分とする、複合ナノワイヤー。
<2> 鉄の含有率が70質量%以上である、<1>に記載の複合ナノワイヤー。
<3> アスペクト比が60以上である、<1>または<2>に記載の複合ナノワイヤー。
<4> 平均繊維径が90nm以上である、<1>~<3>のいずれかに記載の複合ナノワイヤー。
<5> 前記金属ナノワイヤーにおける直径の最大値をA(nm)、最小値をB(nm)とし、前記直径の最大値Aが前記金属ナノワイヤーにおいて端から100nm以内の端部ではないところでの直径の最大値である場合に、前記金属ナノワイヤーは1.2~3.0のA/B値を有する、<1>~<4>のいずれかに記載の複合ナノワイヤー。
<6> 体積抵抗率が1×10Ω・cm以上である、<1>~<5>のいずれかに記載の複合ナノワイヤー。
<7> 複合化による飽和磁化の維持率が80%以上である、<1>~<6>のいずれかに記載の複合ナノワイヤー。
<8> 酸化による鉄含有量の低下率が5%以下である、<1>~<7>のいずれかに記載の複合ナノワイヤー。
<9> 水への溶出による鉄含有量の低下率が5%以下である、<1>~<8>のいずれかに記載の複合ナノワイヤー。
<10> <1>~<9>のいずれかに記載の複合ナノワイヤーを含む、電波吸収材。
<11> 磁界を印加しながら、金属ナノワイヤーを作製する工程;および
前記金属ナノワイヤーの表面にシリカ被膜を形成する工程
を含む、複合ナノワイヤーの製造方法。
<12> <1>~<9>のいずれかに記載の複合ナノワイヤーを製造する、<11>に記載の複合ナノワイヤーの製造方法。
<13> 前記複合ナノワイヤーのアスペクト比が60以上である、<11>または<12>に記載の複合ナノワイヤーの製造方法。
<14> 前記複合ナノワイヤーの平均繊維径が90nm以上である、<11>~<13>のいずれかに記載の複合ナノワイヤーの製造方法。
<15> 前記金属ナノワイヤーにおける直径の最大値をA(nm)、最小値をB(nm)とし、前記直径の最大値Aが前記金属ナノワイヤーにおいて端から100nm以内の端部ではないところでの直径の最大値である場合に、前記金属ナノワイヤーは1.2~3.0のA/B値を有する、<11>~<14>のいずれかに記載の複合ナノワイヤーの製造方法。
<16> 前記複合ナノワイヤーの体積抵抗率が1×10Ω・cm以上である、<11>~<15>のいずれかに記載の複合ナノワイヤーの製造方法。
<17> 前記複合ナノワイヤーの複合化による飽和磁化の維持率が80%以上である、<11>~<16>のいずれかに記載の複合ナノワイヤーの製造方法。
<18> 前記複合ナノワイヤーの酸化による鉄含有量の低下率が5%以下である、<11>~<17>のいずれかに記載の複合ナノワイヤーの製造方法。
<19> 前記複合ナノワイヤーの水への溶出による鉄含有量の低下率が5%以下である、<11>~<18>のいずれかに記載の複合ナノワイヤーの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、酸化や溶出等による組成変化(特に鉄含有量の変化)が十分に小さい、安定性に優れた、鉄を主成分とする複合ナノワイヤーを提供することができる。
本発明の複合ナノワイヤーは、被膜を有するにもかかわらず、被膜形成前の金属ナノワイヤーの飽和磁化に対する維持率が比較的高い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の複合ナノワイヤーのTEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[複合ナノワイヤー]
本発明の複合ナノワイヤーは、金属ナノワイヤーおよび当該金属ナノワイヤー表面に配置されるシリカ被膜を含む。金属ナノワイヤーは芯材として配置されてもよい。シリカ被膜は鞘材として配置されてもよい。本発明の複合ナノワイヤーは、金属ナノワイヤーに由来する鉄を主成分として含有し、シリカ被膜に由来するケイ素をさらに含有する。本発明において、複合ナノワイヤーの主成分や含有する元素は、ICP-AESで評価し、最も含有量の多い元素を主成分とする。本発明の複合ナノワイヤーを構成する金属ナノワイヤーは鉄ナノワイヤーと称されてもよい。
【0009】
複合ナノワイヤー中の金属の含有量は、複合ナノワイヤーを希塩酸希硝酸混合溶液に溶解し、ICP-AES法により、各種金属(例えば、鉄、ケイ素、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、銅、銀、金、白金、ルテニウム)の標準液を用いて検量線法により、測定された値を用いている。複合ナノワイヤー中の金属の含有量は複合ナノワイヤーを構成する全原子に対する質量割合で表される。複合ナノワイヤー中のケイ素以外の金属の全ては通常、複合ナノワイヤーを構成する金属ナノワイヤー(または金属ナノワイヤー部)に由来のものである。
【0010】
本発明の効果は安定性の低い鉄に関するものである。鉄の比率が低い場合、本発明の適正がないわけではないが、例えば、安定性の高い元素との合金化などの他の方法を選択することもできる。一方で、飽和磁化などの磁気特性を高くするため、鉄を主成分とした場合、本発明の効果は高くなる。そのため、複合ナノワイヤー中における鉄の含有量は、60質量%以上、特に65質量%以上であることが好ましく、68質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、75質量%以上であることが十分に好ましく、80質量%以上であることがより十分に好ましく、85質量%以上であることがさらに十分に好ましい。一方、ケイ素を含むため、鉄の含有量の上限は95質量%以下、特に90質量%以下であることが好ましい。
【0011】
複合ナノワイヤー中におけるケイ素の含有量は通常、0.1質量%以上であり、鉄の酸化および溶出に対する安定性のさらなる向上の観点から、好ましくは1質量%以上、特に好ましくは1.5質量%以上である。ケイ素の含有量の上限値は特に限定されず、当該含有量は通常、20質量%以下、特に12質量%以下であってもよく、鉄の酸化および溶出に対する安定性のさらなる向上の観点から、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0012】
本発明の複合ナノワイヤーは、本発明の効果を損なわない範囲で、鉄とケイ素以外の金属を含有してもよい。鉄とケイ素以外の金属としては、例えば、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、銅、銀、金、白金、ルテニウムなど、水溶性の塩が得られる金属が挙げられる。鉄とケイ素以外の金属は、好ましくはニッケルである。複合ナノワイヤー中における鉄とケイ素以外の金属の合計含有量は、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。鉄とケイ素以外の金属の合計含有量の下限値は特に限定されず、当該合計含有量は0質量%以上、特に5質量%以上であってもよい。
【0013】
一般的にナノワイヤーは樹脂と混合するなどの加工時に切断が起きやすい材料である。本発明の複合ナノワイヤーは、切断箇所を制御し、切断部の面積を最小とするため、粒子連結形状であり、括れを有することが必要である。芯材の金属ナノワイヤーが粒子連結形状を採ることにより、複合ナノワイヤーが切断しても、応力のかかりやすい括れで切断が起こるので、鉄自体が表面となる断面積を最小とすることができる。
【0014】
粒子連結形状とは、詳しくは、複数の粒子が直列かつ連続的に連結されてなる、全体として線状の形状のことである。両端の粒子はそれぞれ隣接する1つの粒子と連結され、その他の各粒子は隣接する両側の2つの粒子と連結されている。このような粒子連結形状においては通常、連結部分(2つの粒子間の境界部分)で凹部(または括れ)を形成し、粒子部分で凸部を形成し、粒子の連結方向(ナノワイヤーの長手方向)において凹部と凸部とが連続的に繰り返されている。ナノワイヤーを構成する各粒子は略球形状を有する。略球形状とは円形断面を有する球形状だけでなく、三角形以上の多角形、楕円形またはそれらの複合形状の断面を有する立体形状を包含して意味するものとする。
【0015】
本発明における鉄の酸化および溶出に対する安定性に関する効果のさらなる向上の観点から、複合ナノワイヤーの金属部分(すなわち金属ナノワイヤー(または金属ナノワイヤー部分))の「直径の最大値A(最大径)/直径の最小値B(最小径)」は、1.2以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。A/B値の下限値は特に限定されず、A/B値は例えば、3.0以下、特に2.5以下であってもよい。
【0016】
粒子連結形状を有する金属ナノワイヤーにおいて直径は、複合ナノワイヤーの長手方向に対する垂直断面における直径を意味する。金属ナノワイヤーのA/B値の評価はTEM(透過電子顕微鏡)で複合ナノワイヤー1本における金属ナノワイヤー部分の最大径と最小径を複数本について計測したそれぞれの平均値から算出したものとする。粒子連結形状を有する金属ナノワイヤーは、金属ナノワイヤーにおいて端部ではないところで直径の最大値(最大径)を提供する。端部とはナノワイヤーの端から100nm以内のところである。
【0017】
粒子連結形状を有する金属ナノワイヤーにおいて、直径の最大値A(平均値)は通常、50~500nm、特に50~400nmであり、鉄の酸化および溶出に対する安定性のさらなる向上の観点から、好ましくは70~300nm、より好ましくは80~200nm、さらに好ましくは90~180nm、最も好ましくは100~150nmである。
【0018】
粒子連結形状を有する金属ナノワイヤーにおいて、直径の最小値B(平均値)は通常、10~200nm、特に20~200nmであり、鉄の酸化および溶出に対する安定性のさらなる向上の観点から、好ましくは30~150nm、より好ましくは30~100nm、さらに好ましくは40~120nm、十分に好ましくは40~90nmである。
【0019】
本発明の複合ナノワイヤーのアスペクト比(平均長/平均径)は、鉄の酸化および溶出に対する安定性のさらなる向上の観点から、60以上であることが好ましく、70以上であることがより好ましい。アスペクト比が大きいほど、本発明の金属ナノワイヤー内部に係る反磁界係数が下がり、電波吸収材やコア材等に使う磁性材料に適した複合ナノワイヤーになる。アスペクト比の上限値は特に限定されず、アスペクト比は通常、150以下、特に100以下であってもよい。
【0020】
本発明の複合ナノワイヤーの平均径(または平均繊維径)は、鉄の酸化および溶出に対する安定性のさらなる向上の観点から、90nm以上であることが好ましく、110nm以上であることがより好ましい。当該平均径の上限値は特に限定されず、当該平均径は通常、300nm以下、特に200nm以下であってよく、好ましくは150nm以下である。
【0021】
本発明の複合ナノワイヤーの平均長は、鉄の酸化および溶出に対する安定性のさらなる向上の観点から、5~30μmであることが好ましく、7~20μmであることがより好ましい。
【0022】
本発明の複合ナノワイヤーの平均径、平均長およびアスペクト比は、シリカ被膜を含む複合ナノワイヤーについての値であり、以下の方法により測定された値を用いている。複合ナノワイヤーを走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影し、任意の100点において、繊維長と繊維径を測定し、それぞれの平均を平均長および平均径とする。それらの値からアスペクト比(平均長/平均径)を算出する。
【0023】
複合ナノワイヤー表面のシリカ被膜の平均厚みは、5~50nmであることが必要であり、鉄の酸化および溶出に対する安定性のさらなる向上の観点から、5~20nmであることが好ましい。平均厚みが5nm未満の場合、シリカ被膜に抜けが発生するため、酸化や溶出の抑制効果が得られないので好ましくない。一方、平均厚みが50nmを超える場合、シリカ成分が多くなりすぎて、複合ナノワイヤー自体の飽和磁化が大きく低下するので好ましくない。
【0024】
複合ナノワイヤーもまた、金属ナノワイヤーに由来する上記粒子連結形状を有する。
【0025】
金属ナノワイヤー(または金属ナノワイヤー部)中における鉄の含有量および鉄とケイ素以外の金属の合計含有量は、複合ナノワイヤー中における鉄の含有量および鉄とケイ素以外の金属の合計含有量が上記した範囲内である限り特に限定されない。複合ナノワイヤー中のケイ素以外の金属の全ては通常、複合ナノワイヤーを構成する金属ナノワイヤー(または金属ナノワイヤー部)に由来のものであるためである。
【0026】
複合ナノワイヤーを構成するシリカ被膜は通常、ポリシロキサンを含む。ポリシロキサンはシロキサン結合が二次元または三次元的に形成されたポリマーである。シリカ被膜は通常、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシランおよびモノアルコキシシランからなる群から選択される1種以上のアルコキシシラン化合物を用いた縮合反応により形成された被膜である。
【0027】
テトラアルコキシシランとして、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン等の炭素数が1~4程度のアルコキシ基を4つ有するシランが挙げられる。
トリアルコキシシランとして、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等の3官能性アルコキシシランが挙げられる。
ジアルコキシシランとして、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等の2官能性アルコキシシラン
モノアルコキシシランとして、例えば、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等の1官能性アルコキシシランが挙げられる。
【0028】
シリカ被膜の平均厚みは、以下の方法により測定された値を用いている。複合ナノワイヤーを透過型電子顕微鏡(TEM)にて撮影し、任意の10点において、シリカ被膜の厚みを測定し、その平均を平均厚みとする。なお、複合ナノワイヤーのTEM画像において、シリカ被膜は、芯材としての金属ナノワイヤーよりも薄い色で明確に現れる。
【0029】
本発明の複合ナノワイヤーの体積抵抗率は通常、1×10Ω・cm以上(特に1×10~1×1014Ω・cm)であり、絶縁性の向上ならびに鉄の酸化および溶出に対する安定性のさらなる向上の観点から、好ましくは1×10Ω・cm以上(特に1×10~1×1012Ω・cm)である。
【0030】
体積抵抗率は、複合ナノワイヤー1gの錠剤成型体をロレスタMCP-T610による測定に供して得られた値を用いている。
【0031】
本発明の複合ナノワイヤーにおいて、複合化による飽和磁化の維持率は通常、80%以上(特に80~100%)であり、鉄の酸化および溶出に対する安定性のさらなる向上の観点から、好ましくは90%以上(特に90~100%)、より好ましくは98%以上(特に98~100%)である。
【0032】
複合化による飽和磁化の維持率とは、「複合ナノワイヤーの飽和磁化」の「金属ナノワイヤーの飽和磁化」に対する割合のことである。「金属ナノワイヤーの飽和磁化」は、複合化前の金属ナノワイヤー(すなわちシリカ被膜を有さない金属ナノワイヤー)の飽和磁化であり、複合ナノワイヤーから被膜を溶解させることによって得られた金属ナノワイヤーの飽和磁化であってもよい。飽和磁化は、ナノワイヤーを円筒型サンプルホルダーに充填し、パラフィンで封止し、VSM(振動試料型磁力計)で測定された値を用いている。
【0033】
本発明の複合ナノワイヤーの酸化による鉄含有量の低下率は通常、5%以下(特に0~5%)であり、安定性のさらなる向上の観点から、好ましくは4%以下(特に0~4%)である。
【0034】
酸化による鉄含有量の低下率とは、複合ナノワイヤーの圧縮処理(および/または摩擦処理)により酸化される鉄の割合のことである。鉄が酸化されると、酸化鉄が生成するため、鉄の含有量は減少する。鉄含有量の低下率は、処理の前後で、ICP-AES法により、鉄の標準液を用いた検量線法を用いて測定することができる。
【0035】
本発明の複合ナノワイヤーの溶出による鉄含有量の低下率は通常、5%以下(特に0~5%)であり、安定性のさらなる向上の観点から、好ましくは2%以下(特に0~2%)、より好ましくは1%以下(特に0~1%)である。
【0036】
溶出による鉄含有量の低下率とは、複合ナノワイヤーの水への浸漬処理により溶出される鉄の割合のことである。鉄が溶出すると、鉄の含有量は減少する。鉄含有量の低下率は、浸漬処理の前後で、ICP-AES法により、鉄の標準液を用いた検量線法を用いて測定することができる。
【0037】
[複合ナノワイヤーの製造方法]
本発明の複合ナノワイヤーは、磁気回路のような異方性磁界中で金属ナノワイヤーを作製し、その後シリカで被膜することにより製造される。前記作製方法の例を以下に示す。
【0038】
本発明の複合ナノワイヤーの製造方法の一実施態様は、
磁界を印加しながら、金属ナノワイヤーを作製する工程;および
前記金属ナノワイヤーの表面にシリカ被膜を形成する工程
を含む。
【0039】
金属ナノワイヤーの作製工程において、磁界中で金属ナノワイヤーを形成するには、原料の金属塩を還元剤で還元する。例えば磁界を印加しながら、原料の金属塩水溶液に対して、還元剤水溶液を滴下し、金属ナノワイヤーを含む反応液を得る。原料の金属塩としては、例えば、各金属の塩酸塩(例えば塩化物)、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩が挙げられる。金属塩の濃度は、30~100mmol/L、特に30~70mmol/Lであることが好ましい。金属塩の濃度は、金属塩水溶液および還元剤水溶液を含む反応液中での濃度である。複数種の金属を含む金属ナノワイヤーを作製する場合、金属塩の濃度は当該複数種の金属塩の合計濃度である。
【0040】
還元剤としては、ホウ素を含む還元剤(例えば、水素化ホウ素ナトリウム)を用いることが好ましい。水素化ホウ素ナトリウムを用いることにより、室温付近で金属塩を還元することが可能となり、還元反応速度、反応に係る時間が金属ナノワイヤーの形成に適した条件になる。また、反応に用いる水素化ホウ素ナトリウムの濃度は、金属塩の濃度より過剰にすることで高い収率で金属ナノワイヤーを得ることができる。還元剤の濃度は、50~200mmol/L、特に80~150mmol/Lであることが好ましい。還元剤の濃度は、金属塩水溶液および還元剤水溶液を含む反応液中での濃度である。
【0041】
還元反応時に印加する磁場は50~160mT(特に50~150mT)とすることが好ましい。磁場が50mT未満の低い場合、金属ナノワイヤーが生成されない場合がある。一方、磁場が160mTを超える場合、生成した金属ナノワイヤーが磁場の発生源に吸着し、回収できなくなる場合がある。還元温度(または反応温度)は特に限定されず、例えば5~40℃、特に10~30℃であってもよい。
【0042】
還元剤を添加してから金属ナノワイヤーが生成するまでの時間は数秒程度である。その後、フィルター等で金属ナノワイヤーを回収し精製すればよい。
【0043】
シリカ被膜の形成工程においては、金属ナノワイヤーをアルコキシシランおよびアルカリ性物質で処理する。アルコキシシランとしては、上記したアルコキシシラン化合物を使用することができる。アルカリ性物質としては、アルコキシシランからシリカ被膜への縮合反応をアルカリ性雰囲気で行うことができれば特に限定されない。アルカリ性物質の具体例として、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。一例として、金属ナノワイヤーを、例えば、テトラエトキシシランとアルカリ(例えばアンモニア水)に浸漬処理することでシリカ被膜を形成することができる。被膜の膜厚は、処理時間により制御することができる。処理時間は特に限定されず、例えば、0.5~100時間であってもよく、1時間以上(特に1~24時間)とすることが好ましい。処理温度は特に限定されず、例えば5~40℃、特に10~30℃であってもよい。
【0044】
金属ナノワイヤー表面にシリカ被膜を形成した後は、ろ過および洗浄後、乾燥してもよい。
【0045】
[複合ナノワイヤーの用途]
本発明の複合ナノワイヤーは、磁性材料として使用し、特に電気を通さずコアロス(鉄損)の少ない材料が好まれるトランスやモーターのコア材などの用途に適している。そのため、ナノワイヤー及び複数のナノワイヤーから成る成型体は絶縁であることが好ましく、体積抵抗率が1×10Ω・cm以上であることが好ましい。
【0046】
本発明の複合ナノワイヤーは樹脂等と混合し、成形することにより、電波吸収材やコア材等を作製可能である。成形方法としては特に限定されず、プレス成型、押出成形等の公知の方法が挙げられる。樹脂としては、特に限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および光硬化性樹脂からなる群から選択されてもよい。
【実施例0047】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0048】
A.各種評価
(1)複合ナノワイヤー(比較例1及び2は金属ナノワイヤー)の組成
複合ナノワイヤー(比較例1及び2は金属ナノワイヤー)を室温で24時間、真空乾燥した。
真空乾燥した複合ナノワイヤー(比較例1及び2は金属ナノワイヤー)を希塩酸希硝酸混合溶液に溶解した。得られた溶解液を、ICP-AES法により、鉄(Fe)水溶液、ケイ素(Si)水溶液、その他元素の水溶液を標準液として用いて検量線法により、Fe、Si、その他の含有量(0.1%以上の含有量)を定量した。
【0049】
(2)複合ナノワイヤー(比較例1及び2は金属ナノワイヤー)の平均径、平均長、アスペクト比および形状
(1)と同様に十分に真空乾燥した複合ナノワイヤー(比較例1及び2は金属ナノワイヤー)を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影した。任意の10視野について、各視野中における任意の10点において、繊維長と繊維径を測定し(合計100点)、それぞれの平均を平均長、平均径とした。それからアスペクト比(平均長/平均径)を算出した。また、撮影した写真を見て、形状を判断した。
【0050】
(3)金属ナノワイヤーの括れ評価
測定用のグリット上で複合ナノワイヤー(比較例1及び2は金属ナノワイヤー)をTEMで撮影した(例えば図1参照)。色の濃い金属ナノワイヤー部分1本の直径について最大値と最小値を任意の100本について測長した。それらの値の平均値からナノワイヤーのA値(平均最大値)、B値(平均最小値)およびA/B値を算出した。
【0051】
(4)シリカ被膜の平均厚み
(3)と同様のサンプルをTEMにて撮影した(例えば図1参照)。任意の10点における色の薄いシリカの膜の膜厚を測定し、その平均値をシリカ被膜の平均厚みとした。
【0052】
(5)体積抵抗率
作製した複合ナノワイヤー(比較例1及び2は金属ナノワイヤー)1gを、ハンドプレス機で0.2MPaの圧力にて錠剤に成型し、ロレスタMCP-T610で体積抵抗率を測定した。
◎:1×10Ω・cm以上(最良);
○:1×10Ω・cm以上、1×10Ω・cm未満(優良);
×:1×10Ω・cm未満(不合格)。
【0053】
(6)飽和磁化
作製した複合化前の金属ナノワイヤーまたは複合ナノワイヤーを円筒型サンプルホルダーに充填し、パラフィンで封止し、VSM(振動試料型磁力計)で飽和磁化を測定した。複合化による飽和磁化の低下は小さいことが好ましく、式:「(複合化後の複合ナノワイヤーの飽和磁化)/(複合化前の金属ナノワイヤーの飽和磁化)×100」(%)で表される維持率を算出した。維持率は大きいほど好ましい。
維持率は、以下の基準で評価した。
◎:90.0%以上(最良);
○:80.0%以上、90.0%未満(優良);
×:80.0%未満(不合格)。
【0054】
(7)酸化
作製した複合ナノワイヤー(比較例1及び2は金属ナノワイヤー)を、温度センサーを底に配した直径5cm×高さ3cmのアルミ皿に100g入れた。その後、スパチュラでナノワイヤー押すことを10回繰り返す(押したあと、引くことで1回とした)処理をおこない、発熱の有無を下記の基準で評価した。
◎:50℃以上の発熱なし(最良);
×:50℃以上の発熱あり(不合格)。
また、ICP-AES法により、複合ナノワイヤー(比較例1及び2は金属ナノワイヤー)中の鉄の含有量の処理前後の低下率を以下の基準で評価した。
◎:4%以下(最良);
○:4%超、5%以下(優良);
×:5%を超える(不合格)。
【0055】
(8)溶出
作製した複合ナノワイヤー(比較例1及び2は金属ナノワイヤー)を、水に48時間浸漬し、室温にて減圧乾燥する処理をおこなった後、ICP-AES法により、複合ナノワイヤー(比較例1及び2は金属ナノワイヤー)中の鉄の含有量の処理前後の低下率を以下の基準で評価した。
◎:1%以下(最良);
○:1%超、5%以下(優良);
×:5%を超える(不合格)。
【0056】
実施例1
塩化鉄(II)四水和物12g(60mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を室温(20℃)下、15分かけて滴下した。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成した金属ナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロパノールで洗浄した。
洗浄した金属ナノワイヤーをイソプロパノール:水:テトラエトキシシラン:アンモニア水=65:16:2:0.7(質量比率)の溶液に室温(20℃)下で72時間浸漬した。
浸漬後、T100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロパノールで洗浄し、室温で24時間真空乾燥して複合ナノワイヤーを得た。
【0057】
実施例2
塩化鉄(II)四水和物12g(60mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を室温(20℃)下、15分かけて滴下した。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成した金属ナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロパノールで洗浄した。
洗浄した金属ナノワイヤーをイソプロパノール:水:テトラエトキシシラン:アンモニア水=65:16:2:0.7(質量比率)の溶液に室温(20℃)下で1時間浸漬した。
浸漬後、T100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロパノールで洗浄し、室温で24時間真空乾燥して複合ナノワイヤーを得た。
【0058】
実施例3
塩化鉄(II)四水和物9.5g(48mmol)、塩化ニッケル六水和物2.9g(12mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を室温(20℃)下、15分かけて滴下した。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成した金属ナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロパノールで洗浄した。
洗浄した金属ナノワイヤーをイソプロパノール:水:テトラエトキシシラン:アンモニア水=65:16:2:0.7(質量比率)の溶液に室温(20℃)下で1時間浸漬した。
浸漬後、T100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロパノールで洗浄し、室温で24時間真空乾燥して複合ナノワイヤーを得た。
【0059】
比較例1
塩化鉄(II)四水和物12g(60mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を室温(20℃)下、15分かけて滴下した。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成した金属ナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロパノールで洗浄し、室温(20℃)で24時間真空乾燥して金属ナノワイヤーを得た。
【0060】
比較例2
塩化鉄(II)四水和物9.5g(48mmol)、塩化ニッケル六水和物2.9g(12mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を室温(20℃)下、15分かけて滴下した。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成した金属ナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロパノールで洗浄し、室温(20℃)で24時間真空乾燥して金属ナノワイヤーを得た。
【0061】
比較例3
塩化鉄(II)四水和物12g(60mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を室温(20℃)下、15分かけて滴下した。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成した金属ナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロパノールで洗浄した。
洗浄した金属ナノワイヤーをイソプロパノール:水:テトラエトキシシラン:アンモニア水=65:16:2:0.7(質量比率)の溶液に室温(20℃)下で5分間浸漬した。
浸漬後、T100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロパノールで洗浄し、室温で24時間真空乾燥して複合ナノワイヤーを得た。
【0062】
比較例4
アルミニウム基板の脱脂処理と電解研磨処理を行い、陽極酸化を0.3Mシュウ酸、70V、温度30℃で3時間処理した。処理後、アルミニウム基板を電極として、5質量%の硫酸鉄、2.5質量%のほう酸、0.1質量%アスコルビン酸、0.2質量%のグリセロールの水溶液に30V、5分間で電解析出を行った。
3質量%の塩酸でアルミニウム基板を溶かして、金属ナノワイヤーを取り出し、イソプロパノールで洗浄した。
洗浄した金属ナノワイヤーをイソプロパノール:水:テトラエトキシシラン:アンモニア水=65:16:2:0.7の質量比の溶液に室温(20℃)下で1時間浸漬した。
浸漬後、T100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロパノールで洗浄し、室温で24時間真空乾燥して複合ナノワイヤーを得た。
【0063】
得られた複合ナノワイヤー及び金属ナノワイヤーの評価を表1、2に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
実施例1~3の複合ナノワイヤーは、5~50nmのシリカ被膜を有する、鉄を主成分とする粒子連結形状であったため、酸化と溶出が抑制できていた。
【0067】
比較例1、2の金属ナノワイヤーは、シリカ被膜を有していなかったため、スパチュラで押すことを繰り返した場合、50℃以上に発熱した。また、酸化により組成変化が生じたため、鉄の含有量が処理前後で5%を超えて低下した。また、水に浸漬し乾燥した場合、鉄がイオンとなり溶出し、乾燥後に水酸化鉄を形成したため、鉄の含有量が処理前後で5%を超えて低下した。
比較例3の複合ナノワイヤーは、シリカ被膜の処理時間が短く、シリカ被膜が5nm未満であったため、スパチュラで押すことを繰り返した場合、50℃以上に発熱した。また、酸化により組成変化が生じたため、鉄の含有量が処理前後で5%を超えて低下した。また、水に浸漬し乾燥した場合、鉄がイオンとなり溶出し、乾燥後に水酸化鉄を形成したため、鉄の含有量が処理前後で5%を超えて低下した。
比較例4の複合ナノワイヤーは、陽極酸化ポーラスアルミナを使用して作製した金属ナノワイヤーで粒子連結形状ではなかったため、破壊されやすく、スパチュラで押すことを繰り返した場合、50℃以上に発熱した。また、酸化により組成変化が生じたため、鉄の含有量が処理前後で5%を超えて低下した。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の複合ナノワイヤーは、電子機器等の電波吸収材、ならびにトランスやモーター等のコア材として好適に用いることができる。
図1