IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニチカ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124380
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】負極集電材
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20240905BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240905BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240905BHJP
   B22F 1/062 20220101ALI20240905BHJP
   H01M 4/75 20060101ALI20240905BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
H01M4/66 A
B22F1/00 S
B22F1/05
B22F1/062
H01M4/75 Z
C22C38/00 302Z
C22C38/00 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024029975
(22)【出願日】2024-02-29
(31)【優先権主張番号】P 2023031216
(32)【優先日】2023-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023058486
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹田 裕孝
(72)【発明者】
【氏名】三代 真澄
【テーマコード(参考)】
4K018
5H017
【Fターム(参考)】
4K018BA13
4K018BB02
4K018BB04
4K018BD10
4K018KA37
5H017AA03
5H017CC18
5H017EE04
5H017EE06
5H017HH01
5H017HH03
(57)【要約】
【課題】表面積が広く、柔軟性を有し、耐酸化性、電極加工性に優れ、負極に用いることができる集電材を提供する。
【解決手段】鉄およびホウ素を含有し、鉄の含有量が80質量%以上であって、ホウ素の含有量が0を超えて10質量%以下であるナノワイヤーを含む負極集電材、および、ナノワイヤーのアスペクト比が50~200である前記負極集電材、および、ナノワイヤーの平均径が70nm以上である前記負極集電材、および、リチウムイオン電池の負極集電材である前記負極集電材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄およびホウ素を含有し、鉄の含有量が80質量%以上であって、ホウ素の含有量が0を超えて10質量%以下であるナノワイヤーを含む負極集電材。
【請求項2】
ナノワイヤーのアスペクト比が50~200である請求項1に記載の負極集電材。
【請求項3】
ナノワイヤーの平均径が70nm以上である請求項1または2に記載の負極集電材。
【請求項4】
リチウムイオン電池の負極集電材である請求項1または2に記載の負極集電材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極集電材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高いことから、スマートホンやノートパソコン等で広く用いられている。通常、リチウムイオン電池の負極は、それぞれ、集電材と活物質とバインダーとから構成されている。
【0003】
近年、リチウムイオン電池は、電気自動車やスマートホン等、充填量の向上が求められる分野への利用が増加している。さらなる充電量の向上を図るためには、活物質の高充填化が必要であるが、活物質を高充填し、高圧縮すると、電極自体が破壊される(電極加工性が悪い)という問題があった。
【0004】
そのため、リチウム電池の集電材に、ナノワイヤーを用いることが検討されている。ナノワイヤーは、高圧縮に耐える柔軟性を容易に付与することができ、さらにはリチウムイオンの移動と活物質への層間挿入による体積膨張にも耐えることができる広い表面積を有するためである。
【0005】
特許文献1には、ニッケルナノワイヤーを不織布状に加工し、二次電池用電極の一部として用いることが開示されている。しかしながら、特許文献1のナノワイヤーを、負極集電材や負極集電材の一部として用いた場合、ナノワイヤー表面が酸化により不働態層が形成され内部抵抗が高くなり、安定的に用いることができない(負極耐性を有していない)という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2014/147885号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、表面積が広く、柔軟性を有し、耐酸化性、電極加工性に優れ、負極に用いることができる集電材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鉄ナノワイヤーにホウ素を含有させることにより、耐酸化性、電極加工性が向上し、負極耐性を有するものとすることができることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
本発明の要旨は、以下の通りである。
<1>鉄およびホウ素を含有し、鉄の含有量が80質量%以上であって、ホウ素の含有量が0を超えて10質量%以下であるナノワイヤーを含む負極集電材。
<2>ナノワイヤーのアスペクト比が50~200である<1>に記載の負極集電材。
<3>ナノワイヤーの平均径が70nm以上である<1>または<2>に記載の負極集電材。
<4>リチウムイオン電池の負極集電材である<1>~<3>いずれかに記載の負極集電材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表面積が広く、柔軟性を有し、耐酸化性、電極加工性に優れ、負極に用いることができる集電材を提供することができる。
本発明の負極集電材は、リチウムイオン電池に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の負極集電材は、ホウ素を含有する鉄ナノワイヤーを用いることが必要である。集電材としての導電性と負極耐性を有するためには、鉄ナノワイヤー中の鉄の含有量を80質量%以上とすることが必要で、ホウ素の含有量が0を超えて10質量%以下とすることが必要である。鉄の含有量が80質量%未満の場合、鉄としての性能が消失あるいは低下するため負極集電材として用いることができないので好ましくない。ホウ素を含有しない場合、電極加工性や耐酸化性を有さないので好ましくない。本発明のナノワイヤーには、鉄やホウ素以外の金属を含んでいてもよく、例えば、ニッケルを含んでいてもよい。
【0012】
本発明に用いるナノワイヤーは、表面積を広くするため、アスペクト比(平均長/平均径)は、50~200であることが好ましく、100~150であることがより好ましい。アスペクト比が高いほど、加工しやすくなる。
【0013】
本発明に用いるナノワイヤーの平均径は、70nm以上であることが好ましく、90nm以上であることがより好ましい。
【0014】
本発明に用いるナノワイヤーの平均長は、5~30μmであることが好ましく、7~20μmであることがより好ましい。
【0015】
本発明に用いるナノワイヤーは、異方性磁界中で、原料の金属塩を還元剤で還元することにより製造することができる。
【0016】
原料の金属塩としては、例えば、各金属の塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩が挙げられる。金属塩の濃度は、30~70mmol/Lとすることが好ましい。
【0017】
還元剤としてはホウ素を含む還元剤(例えば、水素化ホウ素ナトリウム)を用いることが必要である。ホウ素を含む還元剤を用いることにより、室温付近で金属塩を還元でき、還元反応速度、反応に係る時間がナノワイヤーの形成に適した条件になる。還元剤の濃度を金属塩の濃度より過剰にすることで高い収率でナノワイヤーを得ることができる。
【0018】
還元反応時に印加する磁場は50~160mT(特に50~150mT)とすることが好ましい。磁場が50mT未満の場合、ナノワイヤーが生成されない場合がある。一方、磁場が160mTを超える場合、生成したナノワイヤーが磁場の発生源に吸着し、回収できなくなる場合がある。
【0019】
還元剤を添加してからナノワイヤーが生成するまでの時間は数秒程度である。その後、フィルター等でナノワイヤーを回収し精製すればよい。
【0020】
ナノワイヤーは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やオレフィン樹脂のバインダー等を用いて、不織布状に加工して用いたり、ステンレス箔上に塗布し圧縮加工し積層体にしたりして、負極集電材とすることができる。
【0021】
本発明の負極集電材は、リチウムイオン電池に好適に用いることができる。
【実施例0022】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0023】
A.各種評価
(1)ナノワイヤーの組成
ナノワイヤーを室温で24時間、真空乾燥した。
真空乾燥した希塩酸希硝酸混合溶液に溶解し、得られた溶解液を、ICP-AES法により、ホウ素(B)水溶液、鉄(Fe)水溶液を標準液として用いて検量線法により、B、Feの含有量を定量した。
【0024】
(2)ナノワイヤーの形状とアスペクト比
(1)で真空乾燥したナノワイヤーを走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影した。任意の10視野について、各視野中における任意の10点において、繊維長と繊維径を測定し(合計100点)、それぞれの平均を平均長、平均径とした。それからアスペクト比(平均長/平均径)を算出した。
【0025】
(3)耐酸化性
作製した負極集電材の体積抵抗率を三菱化学アナリテック社製抵抗率計MCP-T610で測定した。体積抵抗率が10Ω・cm以上の場合、負極集電材に加工する工程で酸化劣化するため、体積抵抗率が高すぎて、負極集電材として用いることができないことを意味する。
体積抵抗率は、10Ω・cm未満の場合「〇」と判断し、10Ω・cm以上の場合「×」と判断した。
【0026】
(4)電極加工性
作製した負極集電材を、ステンレス箔(10μm厚)/作製した負極集電材(10μm厚)/カーボンブラック(40μm厚)/ステンレス箔(10μm厚)の順で積層し、20MPaのプレス機で圧縮して積層体を作製した。積層体の表と裏に電極を付け、HIOKI社製抵抗計RM3548で電気抵抗を測定した。電気抵抗が10-2Ωを超える場合、積層体が破れて、内部抵抗が高くなり、負極集電材として用いることができないことを意味する。
〇:10-2Ω以下
×:10-2Ωを超える
【0027】
(5)負極耐性
作製した負極集電材を、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)1モル/Lを含有したエチレンカーボネート:ジエチレンカーボネート=1:1(質量比率)溶液(電解液)に浸漬し、正極に銀箔を用いて、10分間、1V印加した。10分後、電解液をICP-AES法により、鉄(Fe)水溶液を標準液として用いて検量線法により、Feの含有量を定量した。
検出限界以下の場合「有」と判断し、検出された場合「無」と判断した。
検出された場合、集電材中のFeが電解液に溶解していることを意味する。
【0028】
実施例1
塩化鉄(II)四水和物12g(60mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を15分かけて滴下した。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成したナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、メタノールでそれぞれ3回ずつ洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
得られたナノワイヤーとPVDFを97:3(質量比率)になるように混合し、100℃で乾燥しシート(10μm厚)を作製し、負極集電材を作製した。
【0029】
実施例2
塩化鉄(II)四水和物12g(60mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム7.6g(200mmol)を水400gに溶解した水溶液を15分かけて滴下した。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成したナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、メタノールでそれぞれ3回ずつ洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
得られたナノワイヤーとPVDFを97:3(質量比率)になるように混合し、100℃で乾燥しシート(10μm厚)を作製し、負極集電材を作製した。
【0030】
実施例3
塩化鉄(II)四水和物11g(55mmol)、塩化ニッケル六水和物1.2g(5.0mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を15分かけて滴下した。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成したナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、メタノールでそれぞれ3回ずつ洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
得られたナノワイヤーとPVDFを97:3(質量比率)になるように混合し、100℃で乾燥しシート(10μm厚)を作製し、負極集電材を作製した。
【0031】
比較例1
塩化ニッケル六水和物14g(60mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を15分かけて滴下した。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置したが、ナノワイヤーを得ることができなかった。
【0032】
比較例2
塩化ニッケル六水和物10.0g(42mmol)をエチレングリコールに溶かして200gに調製、クエン酸三ナトリウム二水和物0.94g(3.2mmol)をエチレングリコールに溶かして200gに調製、水酸化ナトリウム2.5g(125mmol)をエチレングリコールに溶かして200gに調製、3種の溶液を90から95℃に加熱して、中心磁場が130mTの磁気回路内で混合する。混合後100℃に加熱し、アンモニア水50g、ヒドラジン一水和物2.5gの順で投入し、30分間反応させた。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、生成したナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、メタノールでそれぞれ3回ずつ洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
得られたナノワイヤーとPVDFを97:3(質量比率)になるように混合し、100℃で乾燥しシート(10μm厚)を作製し、集電材を作製した。
【0033】
得られたナノワイヤーおよびそのナノワイヤーから作製した負極集電材の評価を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例1~3の負極集電材は、用いたナノワイヤーの鉄の含有量が80質量%以上であって、ホウ素の含有量が0を超えて10質量%以下であったため、耐酸化性や電極加工性に優れており、負極耐性を有していた。
【0036】
比較例1は、ニッケルイオンを、ホウ素を含む還元剤で還元しようとしたため、ナノワイヤーを作製できず、負極集電材を得ることができなかった。
比較例2は鉄、ホウ素を含まないナノワイヤーであったため、耐酸化性、電極加工性が劣っていた。