(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124381
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】集電材
(51)【国際特許分類】
B22F 1/062 20220101AFI20240905BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20240905BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240905BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240905BHJP
H01M 4/75 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B22F1/062
C22C30/00
B22F1/05
H01M4/66 A
H01M4/75 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024029976
(22)【出願日】2024-02-29
(31)【優先権主張番号】P 2023031220
(32)【優先日】2023-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023058489
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹田 裕孝
(72)【発明者】
【氏名】三代 真澄
【テーマコード(参考)】
4K018
5H017
【Fターム(参考)】
4K018BA04
4K018BA13
4K018BB02
4K018BB04
4K018GA04
4K018KA37
5H017AA03
5H017CC18
5H017EE04
5H017EE06
5H017HH01
5H017HH03
(57)【要約】
【課題】表面積が広く、柔軟性を有し、電極加工性およびアルカリ耐性に優れ、負極のみならず正極にも用いることができる集電材を提供する。
【解決手段】
鉄、ニッケルを含有し、鉄とニッケルの合計の含有量が70質量%以上であって、鉄とニッケルの質量比率(鉄/ニッケル)が0.8~1.2であるナノワイヤーを含む集電材、および、さらに、ホウ素を含有し、ホウ素の含有量が1~8質量%であるナノワイヤーを含む前記集電材、および、ナノワイヤーのアスペクト比が50~200である前記集電材、および、ナノワイヤーの平均径が70nm以上である前記集電材、および、リチウムイオン電池の集電材である前記集電材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄、ニッケルを含有し、
鉄とニッケルの合計の含有量が70質量%以上であって、
鉄とニッケルの質量比率(鉄/ニッケル)が0.8~1.2である
ナノワイヤーを含む集電材。
【請求項2】
さらに、ホウ素を含有し、ホウ素の含有量が1~8質量%であるナノワイヤーを含む請求項1に記載の集電材。
【請求項3】
ナノワイヤーのアスペクト比が50~200である請求項1または2に記載の集電材。
【請求項4】
ナノワイヤーの平均径が70nm以上である請求項1または2に記載の集電材。
【請求項5】
リチウムイオン電池の集電材である請求項1または2に記載の集電材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高いことから、スマートホンやノートパソコン等で広く用いられている。通常、リチウムイオン電池の正極と負極は、それぞれ、集電材と活物質とバインダーとから構成され、電解液として、ヘキサフルオロリン酸イオンを含む溶液が用いられている。
【0003】
近年、リチウムイオン電池は、電気自動車やスマートホン等、充填量の向上が求められる分野への利用が増加している。さらなる充電量の向上を図るためには、活物質の高充填化が必要であるが、活物質を高充填し、高圧縮すると、電極自体が破れたりするなど破壊される(電極加工性が悪い)という問題があった。また、正極の集電材によく用いられているアルミ箔は、活物質によく用いられているNMCやNCMのアルカリ成分により腐食を起こす(アルカリ耐性がない)という問題があった。
【0004】
そのため、リチウム電池の集電材に、鉄系のナノワイヤーを用いることが検討されている。ナノワイヤーは、高圧縮に耐える柔軟性を容易に付与することができ、さらにはリチウムイオンの移動と活物質への層間挿入による体積膨張にも耐えることができる広い表面積を有するためである。また、集電材に鉄系を用いることにより、アルカリ耐性が向上するからである。
【0005】
特許文献1には、鉄族であるニッケルの金属ナノワイヤーを不織布状に加工し、二次電池用電極の一部として用いることが開示されている。しかしながら、特許文献1のナノワイヤーを、正極や負極の集電材や集電材の一部として用いる場合、ナノワイヤー表面の酸化により不働態層が形成され内部抵抗が高くなり、安定的に用いることができない(正極耐性や負極耐性を有していない)という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2014/147885号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、表面積が広く、柔軟性を有し、電極加工性およびアルカリ耐性に優れ、負極のみならず正極にも用いることができる集電材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ナノワイヤー中の鉄とニッケルの含有量を特定量以上とし、鉄とニッケルの質量比率を特定比率とすることにより、電解液に含まれるヘキサフルオロリン酸イオンと反応し、ナノワイヤー表面にフッ化物層が形成され、正極に用いた場合であっても、酸化が進行しないことを見出し、本発明に到達した。
【0009】
本発明の要旨は、以下の通りである。
<1>鉄、ニッケルを含有し、鉄とニッケルの合計の含有量が70質量%以上であって、鉄とニッケルの質量比率(鉄/ニッケル)が0.8~1.2であるナノワイヤーを含む集電材。
<2>さらに、ホウ素を含有し、ホウ素の含有量が1~8質量%であるナノワイヤーを含む<1>に記載の集電材。
<3>ナノワイヤーのアスペクト比が50~200である<1>または<2>に記載の集電材。
<4>ナノワイヤーの平均径が70nm以上である<1>~<3>いずれかに記載の集電材。
<5>リチウムイオン電池の集電材である<1>~<4>いずれかに記載の集電材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表面積が広く、柔軟性を有し、電極加工性およびアルカリ耐性に優れ、負極のみならず正極にも用いることができる集電材を提供することができる。
本発明の集電材は、リチウムイオン電池に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の両極の集電材は、鉄、ニッケルおよびホウ素を含有することが必要である。本発明においては、ナノワイヤー中の鉄とニッケルの含有量を合計で70質量%以上とすることが必要である。鉄とニッケルの含有量を合計で70質量%以上とすることにより、電解液に含まれるヘキサフルオロリン酸イオンと反応し、表面にフッ化物層が形成され耐酸化性を向上させることができる。鉄とニッケルの含有量が合計で70質量%未満の場合には、正極として用いた場合、酸化が進行し、実用的に正極としては用いることができない。
【0012】
ナノワイヤー中の鉄とニッケルの質量比率(鉄/ニッケル)は、0.8~1.2とすることが必要である。前記質量比率が1.2を超える場合、0.8未満の場合、いずれも、正極として用いた場合、酸化が進行し、実用的に正極としては用いることができない。
【0013】
低い製造コストで鉄とニッケルの含有量を特定の質量比率に制御するには、ホウ素を含有させ、その含有量を、1~8質量%とすることが好ましい。ホウ素の含有量を1質量%未満にするには除去するコストがかかりすぎる場合がある。一方、ホウ素の含有量が8質量%を超えるようにするには添加するコストがかかりすぎる場合がある。
【0014】
本発明に用いるナノワイヤーは、ネットワークを形成し、表面積を広くするため、アスペクト比(平均長/平均径)は、50~200であることが好ましく、100~150であることがより好ましい。アスペクト比が高いほど、加工しやすくなる。
【0015】
本発明に用いるナノワイヤーの平均径は、70nm以上であることが好ましく、90nm以上であることがより好ましい。
【0016】
本発明に用いるナノワイヤーの平均長は、5~30μmであることが好ましく、7~20μmであることがより好ましい。
【0017】
本発明に用いるナノワイヤーは、異方性磁界中で、原料の金属塩を還元剤で還元することにより製造することができる。
【0018】
原料の金属塩としては、例えば、各金属の塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩が挙げられる。金属塩の濃度は、30~70mmol/Lとすることが好ましい。
【0019】
還元剤としてはホウ素を含む還元剤(例えば、水素化ホウ素ナトリウム)を用いることが必要である。ホウ素を含む還元剤を用いることにより、室温付近で金属塩を還元でき、還元反応速度、反応に係る時間がナノワイヤーの形成に適した条件になる。還元剤の濃度を金属塩の濃度より過剰にすることで高い収率でナノワイヤーを得ることができる。
【0020】
還元反応時に印加する磁場は50~160mT(特に50~150mT)とすることが好ましい。磁場が50mT未満の場合、ナノワイヤーが生成されない場合がある。一方、磁場が160mTを超える場合、生成したナノワイヤーが磁場の発生源に吸着し、回収できなくなる場合がある。
【0021】
還元剤を添加してからナノワイヤーが生成するまでの時間は数秒程度である。その後、フィルター等でナノワイヤーを回収し精製すればよい。
【0022】
ナノワイヤーは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やオレフィン樹脂のバインダー等を用いて、不織布状に加工して用いたり、ステンレス箔上に塗布し圧縮加工し積層体にしたりして、負極集電材や正極集電材とすることができる。
【0023】
本発明の集電材は、リチウムイオン電池に好適に用いることができる。
【実施例0024】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0025】
A.各種評価
(1)ナノワイヤーの組成
ナノワイヤーを室温で24時間、真空乾燥した。
真空乾燥したナノワイヤーを希塩酸希硝酸混合溶液に溶解した。得られた溶解液を、ICP-AES法により、ホウ素(B)水溶液、鉄(Fe)水溶液、ニッケル(Ni)水溶液を標準液として用いて検量線法により、B、Fe、Niの含有量を定量した。
【0026】
(2)ナノワイヤーの形状とアスペクト比
(1)で真空乾燥したナノワイヤーを走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影した。任意の10視野について、各視野中における任意の10点において、長軸長さと短軸長さを測定し(合計100点)、それぞれの平均値とアスペクト比を算出した。
【0027】
(3)電極加工性
作製した集電材を、アルミ箔(10μm厚)/作製した集電材(10μm厚)/コバルト粉(40μm厚)/アルミ箔(10μm厚)の順で積層し、20MPaのプレス機で圧縮した。積層体の表と裏に電極を付け、HIOKI社製抵抗計RM3548で電気抵抗を測定した。電気抵抗が10-3Ωを超える場合、積層体が破れて、内部抵抗が高くなり、集電材として用いることができないことを意味する。
〇:10-2Ω以下
×:10-2Ωを超える
【0028】
(4)アルカリ耐性
作製した集電材をpH10の水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬した。1時間後、電解液のFeの含有量をICP-AES法により、鉄(Fe)水溶液を標準液として用いて検量線法により、定量した。検出限定以上の場合、集電材中のFeが水酸化ナトリウム水溶液に溶解していることを意味する。
検出限界以下の場合「有」と判断し、検出された場合「無」と判断した。
【0029】
(5)負極耐性
作製した集電材をヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)1mol/Lを含有したエチレンカーボネート:ジエチレンカーボネート=1:1(質量比率)溶液(電解液)に浸漬し、正極に銀箔を用いて、10分間、1V印加し劣化の有無を評価した。
10分後、電解液をICP-AES法により、鉄(Fe)水溶液を標準液として用いて検量線法により、Feの含有量を定量した。
検出限界以下の場合「有」と判断し、検出された場合「無」と判断した。
検出された場合、集電材中のFeが電解液に溶解していることを意味する。
【0030】
(6)正極耐性
作製した集電材をLiPF6 1mol/Lを含有したエチレンカーボネート:ジエチレンカーボネート=1:1(質量比率)溶液(電解液)に浸漬し、負極に銀箔を用いて、10分間、3.5V印加し劣化の有無を評価した。
10分後、電解液をICP-AES法により、鉄(Fe)水溶液を標準液として用いて検量線法により、Feの含有量を定量した。
検出限界以下の場合「有」と判断し、検出された場合「無」と判断した。
検出された場合、集電材中のFeが電解液に溶解していることを意味する。
【0031】
実施例1
塩化鉄(II)四水和物6.0g(30mmol)、塩化ニッケル六水和物7.1g(30mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を15分かけて滴下した。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成したナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、メタノールでそれぞれ3回ずつ洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
得られたナノワイヤーとPVDFを97:3(質量比率)になるように混合し、100℃で乾燥しシートを作製し、集電材(10μm厚)を作製した。
【0032】
実施例2
塩化鉄(II)四水和物5.5g(27mmol)、塩化ニッケル六水和物7.7g(33mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を15分かけて滴下した。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成したナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、メタノールでそれぞれ3回ずつ洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
得られたナノワイヤーとPVDFを97:3(質量比率)になるように混合し、100℃で乾燥しシートを作製し、集電材(10μm厚)を作製した。
【0033】
実施例3
塩化鉄(II)四水和物6.4g(32mmol)、塩化ニッケル六水和物6.6g(28mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を15分かけて滴下した。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成したナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、メタノールでそれぞれ3回ずつ洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
得られたナノワイヤーとPVDFを97:3(質量比率)になるように混合し、100℃で乾燥しシートを作製し、集電材を作製した。
【0034】
比較例1
塩化鉄(II)四水和物12g(60mmol)を水400gに溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、水素化ホウ素ナトリウム3.8g(100mmol)を水400gに溶解した水溶液を15分かけて滴下した。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。30分静置した後、生成したナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、メタノールでそれぞれ3回ずつ洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
得られたナノワイヤーとPVDFを97:3(質量比率)になるように混合し、100℃で乾燥しシートを作製し、集電材(10μm厚)を作製した。
【0035】
比較例2
塩化ニッケル六水和物10.0g(42mmol)をエチレングリコールに溶かして200gに調製、クエン酸三ナトリウム二水和物0.94g(3.2mmol)をエチレングリコールに溶かして200gに調製、水酸化ナトリウム2.5g(125mmol)をエチレングリコールに溶かして200gに調製、3種の溶液を90から95℃に加熱して、中心磁場が130mTの磁気回路内で混合する。混合後100℃に加熱し、アンモニア水50g、ヒドラジン一水和物2.5gの順で投入し、30分間反応させた。
その後、磁気回路から反応済み溶液を取り出し、生成したナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、メタノールでそれぞれ3回ずつ洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
得られたナノワイヤーとPVDFを97:3(質量比率)になるように混合し、100℃で乾燥しシートを作製し、集電材(10μm厚)を作製した。
【0036】
得られたナノワイヤーおよび前記ナノワイヤーから作製した集電材の評価を表1、2に示す。
【0037】
【0038】
【0039】
実施例1~3の集電材は、用いたナノワイヤーの鉄とニッケルの合計含有量が70質量%以上であって、鉄とニッケルの質量比率(鉄/ニッケル)が0.8~1.2であったため、電極加工性に優れていた。また、アルカリ耐性があり、負極、正極いずれに用いた場合であっても電解液に対して耐性があった。
【0040】
比較例1の集電材は、用いたナノワイヤーの鉄とニッケルの質量比率(鉄/ニッケル)が0.8~1.2でなかったため、アルカリ耐性がなく、正極集電材として用いた場合、電解液に対して劣化があり、正極耐性がなかった。
比較例2の集電材は、用いたナノワイヤーの鉄とニッケルの質量比率(鉄/ニッケル)が0.8~1.2でなかったため、電極加工性に劣っていた。また、アルカリ耐性がなく、正極集電材として用いた場合、電解液に対して劣化があり、正極耐性がなかった。