(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124414
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】心臓に安全な抗糖尿病療法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/522 20060101AFI20240905BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61K31/522
A61P3/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024093711
(22)【出願日】2024-06-10
(62)【分割の表示】P 2021501322の分割
【原出願日】2019-07-16
(31)【優先権主張番号】19157007.6
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19157226.2
(32)【優先日】2019-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19177388.6
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】18184034.9
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】18187272.2
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】18197472.6
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】18202843.1
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンセン オッド-エーリク
(57)【要約】
【課題】 心臓に安全な抗糖尿病療法を提供すること。
【解決手段】 糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療における使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンであって、前記患者のリナグリプチンによる治療が、心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)および/または非致死性脳卒中を含むスリーポイント主要有害心血管イベント(3P-MACE)のリスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない、リナグリプチン。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療における使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンであって、前記患者のリナグリプチンによる治療が、心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)および/または非致死性脳卒中を含むスリーポイント主要有害心血管イベント(3P-MACE)のリスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない、リナグリプチン。
【請求項2】
リスクが、明細書中に記載の表1に示す通りであり、例えば、以下のハザード比(HR):
を特徴とする、請求項1に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項3】
糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療における使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンであって、前記患者のリナグリプチンによる治療が、グリメピリドで治療された患者と比較して、有意により多数の患者が、追加の抗糖尿病薬物療法を必要とすることなく、中等度または重度の低血糖症および/またはベースラインから>2%の実質的な体重増加なしに、持続性の血糖コントロール(HbA1c<7%)を達成するという結果をもたらす、リナグリプチン。
【請求項4】
治療継続性が、明細書中に記載の表3に示す通りであり、例えば、以下のオッズ比:
を特徴とする、請求項3に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項5】
糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療における使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンであって、前記患者のリナグリプチンによる治療が、全原因による死亡リスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない、リナグリプチン。
【請求項6】
リスクが、明細書中に記載の表2に示す通りであり、例えば、以下のハザード比(HR):
を特徴とする、請求項5に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項7】
リナグリプチンが、以下:
i)心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)および/または非致死性脳卒中を含む(1つまたは複数の)スリーポイント主要有害心血管イベント(3P-MACE)のリスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない治療、
ii)グリメピリドで治療された患者と比較して、有意により多数の患者が、追加の抗糖尿病薬物療法を必要とすることなく、中等度または重度の低血糖症および/またはベースラインから>2%の実質的な体重増加なしに、持続性の血糖コントロール(HbA1c<7%)を達成するという結果をもたらす治療、
iii)全原因による死亡リスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない治療、
iv)(1つまたは複数の)フォーポイント主要有害心血管イベント(4P-MACE)が心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)、非致死性脳卒中および/または不安定狭心症による入院を含む、(1つまたは複数の)フォーポイント主要有害心血管イベント(4P-MACE)のリスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない治療、
をもたらす、糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療における、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項8】
患者が少なくとも5.86年間、治療に曝露され、且つ/または少なくとも6.25年間、追跡される、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項9】
糖尿病患者が、増大したかまたは高い心血管リスクがある、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項10】
糖尿病患者が、先行CV疾患(例えば、心筋梗塞、冠動脈疾患、経皮的冠動脈インターベンション、冠動脈バイパス術、虚血性または出血性脳卒中、うっ血性心不全、末梢閉塞性動脈疾患から選択される)、血管関連の終末器官損傷(例えば、障害された腎機能、(微量-または顕性)アルブミン尿、網膜症から選択される)、年齢≧70歳、および/または2つ以上のCVリスク因子(例えば、高血圧、喫煙、脂質異常症、>10年のT2DMの罹病期間から選択される)に基づくなどの、増大したかまたは高い心血管(CV)イベントのリスクを有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項11】
糖尿病患者が、以下のA)、B)、C)およびD):
A)心筋梗塞、冠動脈疾患、経皮的冠動脈インターベンション、冠動脈バイパス術、虚血性または出血性脳卒中、うっ血性心不全、および末梢閉塞性動脈疾患から選択されるなどの、血管疾患の既往歴または現病、
B)(中等度に)障害された腎機能、(微量-または顕性)アルブミン尿、および網膜症から選択されるなどの、血管関連の糖尿病終末器官損傷、
C)高齢(例えば、≧70歳)、および
D)- 進行2型糖尿病(例えば、>10年の罹病期間)、
- 高血圧、
- 現在の毎日の喫煙、
- 脂質異常症、
から選択される、少なくとも2つの心血管リスク因子
の1つまたは複数を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項12】
患者が、2型糖尿病および不十分な血糖コントロールを有する、すなわち、未治療であるか、あるいは、メトホルミンおよび/またはα-グルコシダーゼ阻害薬による単剤療法または2剤併用療法にも関わらず、またはメトホルミンまたはα-グルコシダーゼ阻害薬による単剤療法または2剤併用療法におけるスルホニル尿素/グリニドにも関わらず、2型糖尿病および不十分な血糖コントロールを有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項13】
前記患者のリナグリプチンによる治療が、単剤療法または付加療法としてである、請求項1~12のいずれか1項に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項14】
治療が、リナグリプチンによる治療に先立ち、(増大したかまたは高い)心血管リスクがある糖尿病患者を識別すること、特に心血管イベントの、増大したかまたは高いリスクがある糖尿病患者を識別することをさらに含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項15】
リスクが、先行CV疾患(例えば、心筋梗塞、冠動脈疾患、経皮的冠動脈インターベンション、冠動脈バイパス術、虚血性または出血性脳卒中、うっ血性心不全、末梢閉塞性動脈疾患から選択される)、糖尿病関連の血管終末器官損傷(例えば、障害された腎機能、(微量-または顕性)アルブミン尿、網膜症から選択される)、年齢≧70歳、および/または2つ以上のCVリスク因子(例えば、高血圧、喫煙、脂質異常症、>10年のT2DMの罹病期間から選択される)、例えば、請求項11に規定のものなど、に基づく、請求項14に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項16】
特に長期間にわたり、特に、前記治療が、例えば、アテローム動脈硬化性CV疾患、心不全および/または慢性腎疾患のリスクを有するかまたはリスクに置かれているなどの、リスクがある患者におけるものを含む、心血管および腎安全性を特徴とする、2型糖尿病の治療における使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項17】
患者が、初期2型糖尿病および増大したCVリスクまたは確立された合併症を有する患者を含む、請求項16に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項18】
患者が、確立された大血管および/または腎疾患歴によって証明された、高いかまたは増大したCV(心-腎)リスクを有する患者を含む、請求項16に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項19】
リナグリプチンが、以下:
i)心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)および/または非致死性脳卒中を含む(1つまたは複数の)スリーポイント主要有害心血管イベント(3P-MACE)のリスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない治療、
ii)グリメピリドで治療された患者と比較して、有意により多数の患者が、追加の抗糖尿病薬物療法を必要とすることなく、中等度または重度の低血糖症および/またはベースラインから>2%の実質的な体重増加なしに、持続性の血糖コントロール(HbA1c<7%)を達成するという結果をもたらす治療、
iii)全原因による死亡リスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない治療、
iv)(1つまたは複数の)フォーポイント主要有害心血管イベント(4P-MACE)が心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)、非致死性脳卒中および/または不安定狭心症による入院を含む、(1つまたは複数の)フォーポイント主要有害心血管イベント(4P-MACE)のリスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない治療、
をもたらす、請求項16または17に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項20】
リナグリプチンが、以下:
i)心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)および/または非致死性脳卒中を含む(1つまたは複数の)スリーポイント主要有害心血管イベント(3P-MACE)のリスクを、プラセボで治療された患者と比較して増大させない治療、
ii)心不全による入院のリスクを、プラセボで治療された患者と比較して増大させない治療、
iii)(1つまたは複数の)主要な腎アウトカムイベントが、腎死、持続性の末期腎疾患(ESRD)および/または推定糸球体濾過率(eGFR)の40%以上の持続的低下を含む、(1つまたは複数の)主要な腎アウトカムイベントのリスクを、プラセボで治療された患者と比較して増大させない治療、
iv)アルブミン尿進行が、微量アルブミン尿陰性から、微量-または顕性アルブミン尿への変化、および/または微量アルブミン尿から顕性アルブミン尿への変化を含む、アルブミン尿進行のリスクを、プラセボで治療された患者と比較して、防止する、発生を遅らせる、または低減する治療、および/または
v)(1つまたは複数の)微小血管腎および/または眼合併症が、腎死、持続性のESRD、eGFRの≧50%の持続的低下、アルブミン尿進行、網膜光凝固術の使用、糖尿病網膜症、硝子体出血および/または糖尿病関連の失明に対する抗VEGF治療薬の硝子体内注射の使用を含む、(1つまたは複数の)微小血管腎および/または眼合併症のリスクを、プラセボで治療された患者と比較して、防止する、発生を遅らせる、または低減する治療
をもたらす、請求項16または18に記載の使用のための、リナグリプチン。
【請求項21】
患者が、少なくとも5.9年間、治療に曝露され、且つ/または少なくとも6.25年間、追跡される、請求項16、17または19に記載の使用をするための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項22】
患者が、少なくとも1.8年間または少なくとも1.9年間、治療に曝露され、且つ/または少なくとも2.2年間、追跡される、請求項16、18または20に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項23】
患者が、以下のA)、B)、C)およびD):
A)心筋梗塞、冠動脈疾患、経皮的冠動脈インターベンション、冠動脈バイパス術、虚血性または出血性脳卒中、うっ血性心不全、および末梢閉塞性動脈疾患から選択されるなどの、血管疾患の既往歴または現病、
B)(中等度に)障害された腎機能、(微量-または顕性)アルブミン尿、および網膜症から選択されるなどの、血管関連の糖尿病終末器官損傷、
C)高齢(例えば、≧70歳)、および
D)- 進行2型糖尿病(例えば、>10年の罹病期間)、
- 高血圧、
- 現在の毎日の喫煙、
- 脂質異常症、
から選択される、少なくとも2つの心血管リスク因子
の1つまたは複数を有する、請求項16、17、19または21に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項24】
患者が以下:
(i)アルブミン尿(微量または顕性)(例えば、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)≧30mg/gクレアチニンまたは≧30mg/l(尿1リットル当たりミリグラムアルブミン)または≧30μg/分(1分当たりマイクログラムアルブミン)または≧30mg/24時間(24時間当たりミリグラムアルブミン))および
大血管疾患既往歴、例えば以下のa)からf)の1つまたは複数として定義されるものなど:
a)心筋梗塞既往歴、
b)進行冠動脈疾患、
c)高リスク1枝冠動脈疾患、
d)虚血性または出血性脳卒中既往歴、
e)頸動脈疾患の存在、
f)末梢動脈疾患の存在、
および/または
(ii)障害された腎機能(例えば、CV併存疾患を伴うかまたは伴わない)、例えば、以下により定義されるものなど:
- 障害された腎機能(例えば、MDRD式により定義される)で、推定糸球体濾過率(eGFR)15~45mL/分/1.73m2を伴い、任意の尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)を伴う、または
- 障害された腎機能(例えば、MDRD式により定義される)で、推定糸球体濾過率(eGFR)≧45~75mL/分/1.73m2を伴い、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)>200mg/gクレアチニンまたは>200mg/l(尿1リットル当たりミリグラムアルブミン)または>200μg/分(1分当たりマイクログラムアルブミン)または>200mg/24時間(24時間当たりミリグラムアルブミン)を伴う、
を有する、請求項16、18、20または22に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【請求項25】
リナグリプチンが、5mgの経口1日用量で投与される、請求項1~24のいずれか1項に記載の使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増大した心血管リスクがある患者または確立された合併症のある(ヒト)患者などにおける、糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者(特に初期2型糖尿病を有する患者)の心臓に安全な抗糖尿病治療(特に長期間にわたる)に使用するための特定のDPP-4阻害薬、好ましくはリナグリプチン(1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能な)に関する。
【背景技術】
【0002】
心血管疾患(CVD)は、2型糖尿病(T2DM)の十分認識された合併症であり、この集団におけるCVリスクをさらに増大させることのない血糖降下療法に対する臨床的ニーズが存在する。
2型糖尿病を有する人々は、心血管疾患の増大したリスクがあり、治療選択肢における最近の進歩にも関わらず、心血管疾患は依然としてこの集団にとって死亡の主因である。
ごくわずかの長期直接比較試験がCVアウトカムまたはCVサロゲートに対する異なる糖尿病薬剤の効果を比較しており、且つ大多数が不十分な検出力の比較的短期のものであるため、特定の剤が長期心血管(CV)効果に関していかに比較に耐えるかは依然として不明である。
さらに、2007年以来、新たな血糖降下剤は米国食品医薬品局(FDA)から、規制当局の承認の前後に、CV安全性を証明することが求められているが、これらのCVアウトカム試験の大部分は、実対照薬のないプラセボ対照の設定で行われる。したがって、これら試験は、比較有効性の評価を可能にすることはない。
【0003】
現在の診療ガイドラインは、T2DMの個人の治療において、メトホルミンを第一選択療法として推奨しており、メトホルミンの開始から3カ月以内に血糖コントロールが達成されない場合に、いくつかの治療選択肢を第二選択療法として提供している。スルホニル尿素(SU)およびDPP-4阻害薬は両方とも、第二選択肢の可能性(またはメトホルミンが不適切もしくは不適格である場合、第一選択肢の可能性)がある。SUは、第一に利用可能な経口の血糖降下薬剤であり、1950年代後半以後臨床使用されている。臨床診療におけるSUの低コストおよび馴染み深さは、T2DMにおける第一選択療法または付加療法としての引き続いての使用の根本的要因の可能性がある。しかし、広く使用されるスルホニル尿素の心血管安全性は依然として不確実である。
グリメピリドは、他のSUを上回る特定のベネフィットを有し、好ましい第二選択療法として頻繁に推奨される、第二世代のスルホニル尿素である。
グリメピリドと、T2DMに対する他の第一または第二選択治療薬、例えばDPP-4阻害薬、特にリナグリプチンとの比較は、大きな関心の対象となるであろうし、現在の臨床診療に関連するであろう。
したがって、上昇したかまたは高いCVリスクがあり、且つ通常治療を受けている2型糖尿病(T2DM)患者において、リナグリプチン(5mg)による治療の心血管(CV)罹患率および死亡率に対する長期の影響をグリメピリド(1~4mg)と比較して調査するという目的、並びにそうした患者におけるリナグリプチン対グリメピリドの心血管安全性を証明するという目的がある。
【0004】
心血管アウトカム試験(CVOTs)は、欧州連合において臨床使用が承認されている3種のDPP-4阻害薬:サキサグリプチン、アログリプチンおよびシタグリプチン、に関して、各々がプラセボと比較されて報告された。安全性は、3剤全てに関する主要有害CVイベント(MACE)アウトカムに対する中立的効果があり、アテローム動脈硬化性CVアウトカムに関し、クラスにわたって一様に実証された。しかし、心不全リスクに関するこのクラスの安全性は、不確実で、サキサグリプチンによる27%という有意な増加があり、このことはインスリンシグナル伝達を刺激するいくつかの抗糖尿病剤が心不全リスクを上昇させるかもしれないという懸念をさらに大きくしている。非インスリン関連の機序は、いくつかのDPP-4阻害薬による心不全リスクに追加的に寄与することが示唆されている。
【0005】
さらに、長期腎機能は、腎排泄されたリナグリプチンを除き、腎機能の低下に伴い用量調節を必要とするDPP-4阻害薬を用いた治療と特定の臨床的関連性がある;しかし、DPP-4阻害薬CVOTsからの現在までに明らかになっている腎エビデンスは、不完全であり、クラスを通じて一貫していない。サキサグリプチン、アログリプチンおよびシタグリプチンを用いた以前のCVOTsの限界は、試験コホート中の少数の患者のみがベースライン時に腎機能が低下していた(推定糸球体濾過率(eGFR)<60ml/分/1.73m2)ことである。さらに少数の患者で腎機能が著しく低下していた(eGFR<30ml/分/1.73m2)かまたは顕性アルブミン尿であった。実際、T2D患者の推定約50%がCKDに罹患しているが、以前のCVOTで、この集団を含むようデザインされたものはなく、いくつかの事例では腎機能が低下した患者は積極的に排除されていた。したがって、CKDはT2Dの最もよく見られる併存疾患であるにも関わらず、この重要であるが研究が過少で臨床的に治療困難な、腎臓負荷があり、且つ高い心-腎リスクがある患者集団におけるDPP-4阻害薬の長期臨床的安全性プロファイルに関して入手可能な情報は、非常に少ない。
【0006】
ベースライン腎リスクによって階層化した安全性アウトカムの解析は、T2Dに加えてCKDを有する患者が経験した罹患率の増加を明白にしている。心不全リスクは、これらの患者において、血行力学的および神経ホルモン機構を含む、多様な心-腎相互作用によって駆動される心不全とCKDの間の同時罹患のために、格別の懸念でありうる。したがって、T2D患者における障害された腎機能は、CV死およびその他のCVイベントを含む超過死亡および有害アウトカムの主要な予測因子であり、T2Dは、末期腎疾患の最も多く見られる原因である。腎機能は、年齢とともに自然に低下し、且つ糖尿病は生涯にわたる疾患であるため、顕性CKDを伴わない患者であっても、併存疾患の将来的発現のリスクがあり、T2D患者におけるCKDの存在のスクリーニングは、広く推奨される。
【0007】
したがって、DPP-4阻害薬の長期(心血管および腎臓)安全性プロファイルに関して、上昇したCVリスクにある初期2型糖尿病患者を(例えば、実対照薬との比較などで)含み、並びにCVまたは心疾患および/または慢性腎疾患(CKD)の高いリスクがあり、これまで過少代表された患者、例えば確立されたCVおよび/または腎疾患を有する患者を(例えばプラセボ/標準治療との比較などで)含む広範な2型糖尿病患者にわたって、臨床試験を行う必要性がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明の範囲内で、特定のDPP-4阻害薬、好ましくは、リナグリプチンは、本明細書において定義された1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能であり(例えば、単剤療法としてまたは付加療法として)、本発明の目的にとっておよび/または本明細書において言及された必要性または目的の1つまたは複数を満たすことにとって有用となる特性または効果を有することが今般、見出されている。
リナグリプチン(5mgを1日1回、単剤療法としてまたは付加療法として)は、(増大したか、もしくは高い心血管リスクにあるか、または確立された心血管疾患のある2型糖尿病患者においてグリメピリドと比較して心血管安全性を評価する)心血管安全性試験において、長期臨床心血管安全性、並びに特定のベネフィット(例えば、治療継続性)を示す。
試験は、上昇したCVリスクにあるかまたは確立されたCV疾患を有し、且つ初期2型糖尿病を有し、例えば罹病期間の中央値が6.2年で、全く治療を受けたことがないか、または1~2種の血糖降下剤(例えば、メトホルミン)を投与された、成人を含んでいる。
これらの被験者は、医師が典型的に、日常の臨床診療において診察している患者を反映している。
この試験は、DPP-4阻害薬心血管アウトカム試験において、試験および追跡期間の中央値が6年超という、これまで最長の期間にわたり試験されたリナグリプチンの安全性を評価した。
【0009】
心血管安全性試験は、増大したかまたは高いCVリスクがあり、通常治療を受けている2型糖尿病患者において(例えば、安定なバックグラウンド血糖降下薬療法および心血管標準治療に加えて)、リナグリプチン(5mgを1日1回)対グリメピリド(1~4mg)-各々、単剤療法としてかまたは付加療法として-による治療のCV安全性並びにCV罹患率および死亡率に対する長期影響を評価した。
通常治療は、血糖降下剤(メトホルミンおよび/またはα-グルコシダーゼ阻害薬を含む)および心血管薬剤(降圧剤および脂質低下剤を含む)の両方を含む。
この心血管安全性試験(増大したか、もしくは高い心血管リスクにあるか、または確立された心血管疾患のある2型糖尿病患者においてリナグリプチン対グリメピリドの心血管安全性を評価する)の患者は、1日1回の5mgのリナグリプチンにより、持続期間の中央値5.86年の間、治療され、且つ持続期間の中央値6.25年の間、観察された。
【0010】
もう1つの(プラセボ対照)心血管(安全性)および腎アウトカム試験(心臓および/または腎臓疾患に関して高いかまたは非常に高いリスクにある2型糖尿病患者において、心血管安全性および腎臓/腎微小血管アウトカムを評価する)とともに、本(実対照薬)心血管安全性試験は、増大した/上昇した、もしくは高い心血管リスク(特定のリスク因子)にあるか、または確立された合併症(例えば、アテローム動脈硬化性心血管疾患)がある患者、並びに、特に心臓および/または腎臓疾患に関して高いかまたは非常に高い(血管、例えば心腎の)リスクにある(例えば、心血管および/または腎合併症もしくはイベントの高いかまたは非常に高いリスクにある)患者を含む、広範な2型糖尿病の成人において、リナグリプチンの長期の全般的な安全性プロファイルを実証する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1(心血管安全性試験における3P-MACEの初回発生までの期間)は、この心血管安全性試験における、スリーポイント(3P)MACE(3P-MACE、心血管死または非致死性心筋梗塞(MI)または非致死性脳卒中として定義される主要有害心イベント)の初回発生までの期間を示す。
【
図2】
図2(心血管および腎微小血管アウトカム試験における3P-MACEの初回発生までの期間)は、この心血管(安全性)および腎(微小血管)アウトカム試験における、スリーポイント(3P)MACE(3P-MACE、心血管死または非致死性心筋梗塞(MI)または非致死性脳卒中として定義される主要有害心イベント)の初回発生までの期間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
より詳細には、以下の知見が得られた:
心血管安全性試験
初期2型糖尿病および増大したCVリスクかまたは確立された合併症を有する成人患者における心血管リスクに対するリナグリプチンの効果を、多施設共同、国際共同、無作為化、二重盲検並行群間試験である、この心血管安全性試験において評価した。試験は、主要有害心血管イベント(MACE)を経験するリスクを、リナグリプチンとグリメピリドの間で、これらをHbA1cおよびCVリスク因子に関する地域標準に基づき標準治療(メトホルミンによるバックグラウンド療法を含む)に付加した場合に、比較した。試験は、イベントドリブンであり、患者は少なくとも631の主要アウトカムイベントが発生するまで追跡された。
総計6033人の患者が治療を受け(リナグリプチン5mg=3023人、グリメピリド1mg~4mg=3010人)、中央値6.25年の間追跡された(治療期間の中央値5.9年)。試験集団の約73%が白人であり、18%がアジア人であり、5%が黒人であった。平均年齢は64歳であり、60%が男性であった。
【0013】
ベースライン時に、疾患の特徴のバランスが取られた。平均HbA1cは7.15%であり、参加者の2型糖尿病の平均罹病期間は約7.6年であり、さらに20%がその時点で喫煙者であった。試験集団は、年齢≧70歳の患者2030人(34%)、心血管疾患を有する患者2089人(35%)、およびベースライン時にeGFR<60mL/分/1.73m2の、腎障害を有する患者1130人(19%)を含んでいた。全体として、糖尿病薬物療法の使用歴は、治療群全体にわたりバランスが取られ(メトホルミンは83%でバックグラウンド療法として継続され、スルホニル尿素は28%で無作為化前に中止された)、インスリンを使用している患者は除外された。心血管リスクを低減するための薬物の使用もまた、バランスが取られた(アスピリン47%、スタチン65%、ACE阻害薬またはARB74%、β遮断薬39%、およびカルシウムチャネル遮断薬30%)。
【0014】
この心血管安全性試験における主要評価項目は、スリーポイント(3P)MACEの初回発生までの期間であった。主要有害心イベントは、心血管死または非致死性心筋梗塞(MI)または非致死性脳卒中として定義された。統計的解析計画は、3P MACEの発生に関する非劣性を試験した。主要な副次評価項目は、追加の抗糖尿病薬物療法(レスキュー治療薬)を必要とすることなく、いかなる中等度(グルコース値<70mg/dLで症候性の)または重度の(補助を必要とする)低血糖エピソードをも伴わず、且つベースラインから>2%の体重増加なしに、血糖コントロール(HbA1c≦7.0%)を維持している試験治療を受けている患者の割合として定義される、治療継続性の複合を評価した。
【0015】
この心血管安全性試験の主要評価項目の結果を、表1および
図1に示す。リナグリプチンは、標準治療に加えた場合、グリメピリドと比較して、主要有害心血管イベントのリスクを増大させなかった。3P MACEの発生率は、両治療群において同様であった;リナグリプチン(1000患者人年当たり20.7MACE)およびグリメピリド(1000患者人年当たり21.2MACE)。リナグリプチン関連のMACEの推定ハザード比はグリメピリドに対して0.98であった(95%CI;0.84,1.14)。この信頼区間(CI)の上限値の1.14は、事前に規定した1.3より大きいリスクマージンを考慮しなかったものである。結果は、患者のメトホルミン治療の有無に関わらず、一貫していた。
【0016】
【0017】
生命状態(vital status)を、試験における被験者の99.3%から得た。心血管安全性試験の間に、総計644例の死亡が記録された(表2)。これらの死亡のうち、52%が、心血管死と判定された。全原因による死亡リスクは、治療群間で統計的有意差がなかった(HR:0.91;95%CI:0.78,1.06)。
【0018】
【0019】
心血管安全性試験の副次評価項目の結果を表3に示す。初期の用量漸増期間(16週間)後に、グリメピリドによる治療を受けた患者に比べ、リナグリプチンによる治療を受けた患者の有意により多数が、追加の抗糖尿病薬物療法を必要とすることなく、中等度または重度の低血糖症またはベースラインから>2%の実質的な体重増加なしに、持続性の血糖コントロール(HbA1c≦7.0%)を達成した。
【0020】
【0021】
全治療期間(治療期間の中央値5.9年)に関して、中等度または重度の低血糖症は、リナグリプチン治療で6.5%対グリメピリド治療で30.9%であり、重度の低血糖症(補助を必要とする)は、リナグリプチン治療の0.3%に対してグリメピリド治療の2.2%で発生した。
【0022】
したがって:
本発明は、リナグリプチンが、心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)および/または非致死性脳卒中を含む3ポイント主要有害心血管イベント(3P-MACE)のリスクを、グリメピリドと比較して増大させない治療をもたらす、糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療における使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンに関する。
【0023】
本発明は、リナグリプチンが、HbA1c≦7.0%で、レスキュー治療薬なしに、>2%の体重増加なしに、且つ中等度/重度の低血糖エピソードの有無に関わらず、試験終了時に、試験薬物治療を受けた患者の複合評価項目に関して、継続性奏効者率が、有意により高いことを特徴とするなど、グリメピリドと比較してより持続的に治療をもたらす、糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療における使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンに関する。
本発明は、リナグリプチンが、グリメピリドと比較して、全原因による死亡リスクを増大させない治療をもたらす、糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療における使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンに関する。
【0024】
本発明は、リナグリプチンが、4ポイント主要有害心血管イベント(4P-MACE)が、心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)、非致死性脳卒中および/または不安定狭心症による入院を含む、4ポイント主要有害心血管イベント(4P-MACE)のリスクを、グリメピリドと比較して増大させない治療をもたらす、糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療における使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンに関する。
【0025】
本発明は、糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療における使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンであって、リナグリプチンが、以下:
i)心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)および非致死性脳卒中からなる群から選択される(1つまたは複数の)スリーポイント主要有害心血管イベント(3P-MACE)のリスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない治療、
ii)1つまたは複数のスリーポイント主要有害心血管イベント(3P-MACE)が心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)、非致死性脳卒中および不安定狭心症による入院からなる群から選択される、(1つまたは複数の)フォーポイント主要有害心血管イベント(4P-MACE)のリスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない治療、
iii)全原因による死亡リスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない治療、
iv)グリメピリドで治療された患者と比較して、有意により多数の患者が、追加の抗糖尿病薬物療法を必要とすることなく、中等度または重度の低血糖症および/またはベースラインから>2%の実質的な体重増加なしに、持続性の血糖コントロール(HbA1c≦7%)を達成するという結果をもたらす治療、且つ/または
v)CV死または心不全による入院のリスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない治療
をもたらす(例えば6.25年時に)、リナグリプチンに関する。
【0026】
本発明による患者には、未治療であるか、あるいは、メトホルミンおよび/またはα-グルコシダーゼ阻害薬による単剤療法または2剤併用療法にも関わらず、またはメトホルミンまたはα-グルコシダーゼ阻害薬による単剤療法または2剤併用療法におけるスルホニル尿素/グリニドにも関わらず、T2DMおよび不十分な血糖コントロールを有する患者(例えば、未治療またはメトホルミンおよび/またはα-グルコシダーゼ阻害薬による単剤/2剤併用療法の場合、HbA1c6.5~≦8.5%;メトホルミンまたはα-グルコシダーゼ阻害薬による単剤療法もしくは2剤併用療法におけるスルホニル尿素/グリニドによる治療の場合、HbA1c6.5~≦7.5%)が含まれる。
【0027】
増大したかまたは高い心血管リスクにあるか、あるいは確立された合併症のある、本発明による(特にT2DMを有する)患者は、以下:
- 先行CV疾患(例えば、心筋梗塞、冠動脈疾患、経皮的冠動脈インターベンション、冠動脈バイパス術、虚血性または出血性脳卒中、うっ血性心不全、末梢閉塞性動脈疾患から選択される)
- 血管関連の終末器官損傷(例えば、(中等度に)障害された腎機能、(微量-または顕性)アルブミン尿、網膜症から選択される)、
- 年齢≧70歳、および/または
- 2つ以上のCVリスク因子(例えば、高血圧、喫煙、脂質異常症、>10年のT2DMの罹病期間、から選択される)
の1つまたは複数を有してよい。
【0028】
一実施形態において、糖尿病患者は以下のA)、B)、C)およびD):
A)心筋梗塞、冠動脈疾患、経皮的冠動脈インターベンション、冠動脈バイパス術、虚血性または出血性脳卒中、うっ血性心不全、および末梢閉塞性動脈疾患から選択されるなどの、血管疾患の既往歴または現病、
B)(中等度に)障害された腎機能、(微量-または顕性)アルブミン尿および網膜症から選択されるなどの、血管関連の糖尿病終末器官損傷、
C)高齢(例えば、≧70歳)、および
D)- 進行2型糖尿病(例えば、>10年の罹病期間)
- 高血圧、
- 現在の毎日の喫煙、
- 脂質異常症、
から選択される、少なくとも2つの心血管リスク因子
の1つまたは複数を有する。
【0029】
本発明の目的において、リナグリプチン(好ましくは1日当たり5mg、経口投与、1つまたは複数の他の活性物質、例えば本明細書において記載されたものなどとの併用が可能である)による治療期間は、例えば、少なくとも1~9年、好ましくは少なくとも約5~7年などの、長期間にわたってよい。一実施形態において、治療曝露期間の中央値は、少なくとも約5.86年である。一実施形態において、患者は少なくとも6.25年間、追跡される。
本発明の他の態様は、前述のおよび以下の言及(実施例および特許請求の範囲を含む)から、当業者には明らかになる。
【0030】
発明の詳細な説明
本発明の範囲内で強調される特に好ましいDPP-4阻害薬は、リナグリプチンである。本明細書において使用される用語「リナグリプチン」は、リナグリプチン、あるいは、その水和物および溶媒和物、およびその非晶質または結晶形態を含む医薬的に許容されるその塩を表し、好ましくは、リナグリプチンは、1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンを表す。
好ましくは、リナグリプチンは、5mgの経口1日用量(例えば、2.5mgを1日2回、または、好ましくは、5mgを1日1回)で投与される。
【0031】
さらなる(独立または従属)態様:
心血管(安全性)および腎微小血管アウトカム試験
2型糖尿病を有し、且つ確立された大血管または腎疾患歴によって証明された、増大したかまたは高いかまたは非常に高いCVリスクを有する成人患者における心血管リスクに対するリナグリプチンの効果を、多施設共同、国際共同、無作為化、二重盲検並行群間試験である、心血管および腎微小血管アウトカム試験において評価した。試験は、主要有害心血管イベント(MACE)を経験するリスクを、リナグリプチンとプラセボの間で、これらを糖尿病およびその他の心血管リスク因子に対する標準治療に加えて併用した場合に、比較した。試験は、イベントドリブンであり、患者は少なくとも611の主要アウトカムイベントが発生するまで追跡された。
総計6979人の患者が治療を受け(リナグリプチン5mg=3494人;プラセボ=3485人)且つ、中央値2.2年の間、追跡された(治療期間の中央値1.9年)。試験集団の約80%が白人であり、9%がアジア人であり、6%が黒人であった。平均年齢は66歳であり、63%が男性であった。
【0032】
ベースライン時の平均HbA1cは8.0%であり、参加者の2型糖尿病の平均罹病期間は約15年であり、さらに10%がその時点で喫煙者であった。試験集団は、年齢≧75歳の患者1211人(17.4%)、および腎障害を有する患者4348人(62.3%)を含んでいた。集団の約19%がeGFR45≧~<60mL/分/1.73m2であり、集団の28%がeGFR30≧~<45mL/分/1.73m2であり、15%がeGFR<30mL/分/1.73m2であった。全体として、糖尿病薬物療法の使用は、治療群全体にわたりバランスが取られていた(メトホルミン54%、スルホニル尿素32%、およびインスリン57%)。心血管リスクを低減するための薬物の使用もまた、バランスが取られた(アスピリン62%、スタチン72%、ACE阻害薬またはARB81%、β遮断薬60%、およびカルシウムチャネル遮断薬41%)。
心血管および腎微小血管アウトカム試験における主要評価項目は、スリーポイント(3P)MACEの初回発生までの期間であった。主要有害心イベントは、心血管死または非致死性心筋梗塞(MI)または非致死性脳卒中として定義された。統計的解析計画は、(3P)MACEの発生に関する非劣性を試験した。副次評価項目は、腎死または持続性の末期腎疾患またはeGFRの40%以上の持続的低下として定義される腎複合であった。
【0033】
心血管および腎微小血管アウトカム試験の主要評価項目の結果を、以下の表4および
図2に示す。(3P)MACEの発生率は、両治療群において同様であった;プラセボ(1000患者人年当たり56.3MACE)およびリナグリプチン(1000患者人年当たり57.7MACE)。リナグリプチン関連のMACEの推定ハザード比はプラセボに対して1.02であった(95%CI;0.89,1.17)。この信頼区間の上限値の1.17は、事前に規定したリスクマージン1.3超を超えなかった。
【0034】
心血管および腎微小血管アウトカム試験において、追加の判定されたイベントであった心不全による入院リスクの増加はなかった。リナグリプチン関連の心不全による入院の推定ハザード比は、プラセボに対し0.90(95%CI;0.74,1.08)であった。試験において、リナグリプチンによる治療を受けた209人(6.0%)の患者およびプラセボによる治療を受けた226人(6.5%)の患者が、心不全により入院した。
【0035】
生命状態を、試験における被験者の99.7%から得た。心血管および腎微小血管アウトカム試験の間に、総計740例の死亡が記録された(表5)。これらの死亡のうち、70%が、心血管死と判定された。全原因による死亡リスクは、治療群間で統計的有意差がなかった(HR:0.98;95%CI:0.84,1.13)。
【0036】
【0037】
腎複合の発生率は、両治療群において同様であった(表6);プラセボ(1000患者人年当たり46.6の腎複合)およびリナグリプチン(1000患者人年当たり48.9の腎複合)。リナグリプチン関連の腎複合の推定ハザード比はプラセボに対して1.04であった(95%CI;0.89,1.22)。
【0038】
アルブミン尿進行(微量アルブミン尿陰性から、微量-または顕性アルブミン尿への変化、または微量アルブミン尿から顕性アルブミン尿への変化)の解析において、リナグリプチン対プラセボに関してハザード比0.86(95%CI;0.78,0.95)が観察された。
【0039】
微小血管評価項目は、腎死、持続性のESRD、eGFRの≧50%の持続的低下、アルブミン尿進行、糖尿病網膜症もしくは硝子体出血もしくは糖尿病関連の失明に対する網膜光凝固術または抗VEGF治療薬の硝子体内注射の使用の複合として定義された。複合微小血管評価項目の初回発生までの期間に関する推定ハザード比は、リナグリプチン対プラセボに関して0.86(95%CI;0.78,0.95)であり、主としてアルブミン尿進行により駆動されていた。
さらに、心血管および腎微小血管アウトカム試験に関してより詳細に以下に示す:
心血管および腎微小血管アウトカム試験における患者の約3/4が、ベースライン時に、腎機能低下(eGFR<60mL/分/1.73m2)および/または顕性アルブミン尿(尿中アルブミン/クレアチニン比>300mg/g)として定義される、よく見られるCKDを有していた。
【0040】
KDIGOは、アルブミン尿および腎リスクの組合せに基づき、低、中等度、高および非常に高リスクにより、(有害腎臓イベントに関する)腎予後を分類する。この国際的に認められた基準によれば、心血管および腎微小血管アウトカム試験における患者の44%が、ベースライン時に非常に高いリスクがあり、さらに患者の27%が、高いリスクがあり、7%のみが低いリスクがあった。
【0041】
心血管および腎微小血管アウトカム試験以前のジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害薬の心血管アウトカム試験(CVOT)の限界は、試験コホートにおける少数の患者のみがベースライン時に腎機能低下(推定糸球体濾過率(eGFR)<60ml/分/1.73m2)を有していたことである。さらに少数の患者で腎機能が著しく低下していた(eGFR<30ml/分/1.73m2)かまたは顕性アルブミン尿(尿中アルブミン/クレアチニン比>300mg/g)であった。対照的に、心血管および腎微小血管アウトカム試験における患者の62%および15%が、ベースライン時に腎機能が低下していたかまたは著しく低下しており、且つ顕性アルブミン尿の有病率は39%であり、これはサキサグリプチンのCVOTにおいてベースライン時に顕性アルブミン尿を有した患者が10%であったことに比肩する。シタグリプチンのCVOTに関して顕性アルブミン尿の有病率は、データを得ることができた限られた人数の患者に基づいており、アログリプチンのCVOTに関して、顕性アルブミン尿の有病率は、報告されなかった。
【0042】
心臓と腎臓は、心不全と慢性腎疾患(CKD)との間の同時罹患を駆動する多様な相互作用によって複雑に関連付けられている。心不全による入院(HHF)のリスクは、障害された腎機能(eGFRにより測定して)を呈している患者において上昇する。しかし、リナグリプチンは、ベースラインの腎機能に関わらず、HHFのリスクに影響を及ぼさなかった。
【0043】
慢性腎疾患(CKD)および心血管(CV)疾患を合併する2型糖尿病(T2D)の患者は、再発性CVイベントおよび低血糖症の増大したリスクにある。これらの個人の治療は臨床的に困難であり、特にGFRカテゴリーG3b(eGFR30~44ml/分/1.73m2)、G4(eGFR<30)およびG5(eGFR<15)において血糖降下薬剤の安全性および有効性に関するエビデンス基盤が乏しい。我々は、心血管および腎微小血管アウトカム試験において、ベースラインの特性並びにCVおよび腎アウトカムに対するDPP-4阻害薬リナグリプチン(LINA)対プラセボ(PBO)による効果を、GFRカテゴリー全体にわたって解析した。T2Dおよびi)CV疾患を合併し、UACR>30mg/gであるか、あるいはii)UACRに関わらず、eGFR<45ml/分/1.73m2であるか、またはeGFR≧45~75mL/分/1.73m2およびUACR>200mg/gであるかのいずれかである患者を、二重盲検様式でLINA5mgまたはプラセボ(PBO)を1日1回、に無作為化した。主要アウトカムは、CV死、非致死性心筋梗塞、または非致死性脳卒中(3P-MACE)の初回発生であり、ESKD、腎死、またはeGFRのベースラインからの≧40%の持続的低下の判定された副次複合アウトカムを伴った。その他の判定されたアウトカムは、入院した心不全(hHF)および3P-MACE要素を含んだ。GFRカテゴリー(G≦2、G3a、G3bおよびG≧4)にわたるサブグループ-効果もまた評価した。ベースライン時に、6979人の参加者のうち、15.2%がGFRカテゴリーG≧4、27.8%がG3b、19.3%がG3a、37.7%がG≦2であった。G≧4(平均±SD eGFR23.4±4.2mL/分/1.73m2)またはG3b(eGFR37.2±4.1)の参加者は、G3a(eGFR51.4±4.4)およびG≦2(eGFR81.6±16.7)の参加者と比較して、より多くのアルブミン尿、より長いT2D罹病期間を有し、より頻回にインスリン治療を受けていたが、スルホニル尿素およびメトホルミンによる治療頻度はより低かった。中間値2.2年間にわたり、LINAは、3P-MACEのリスク(HR:1.02[95%CI;0.89,1.17])、副次腎複合アウトカム(1.04[0.89,1.22])、hHF(0.90[0.74,1.08])、またはCV死亡率(0.96[0.81,1.14])に影響を及ぼさなかった。
【0044】
アルブミン尿カテゴリーの進行(すなわち、微量アルブミン尿陰性から、微量-/顕性アルブミン尿への変化、または微量アルブミン尿から顕性アルブミン尿への変化)は、リナグリプチン群において(763/2162[35.3%])プラセボ群(819/2129[38.5%])よりも低頻度で発生した;HR:0.86(95%CI;0.78,0.95)、p=0.003。
発生率は、腎機能が低下するにつれて高くなり、例えば3P-MACE PBO発生率は、G≧4(100患者人年当たり9.6)において、G≦2(100患者人年当たり4.0)よりも2.4倍高かった一方で、腎複合は9.8倍(100患者人年当たり14.7対1.5)、hHFは4.1倍(100人年当たり6.2対1.5)およびCV死は3.0倍(100患者人年当たり6.8対2.3)、それぞれ高かった。
一貫した中立的効果が全GFRカテゴリーにわたって観察された(交互作用p値:0.84[3P-MACE]、0.36[腎複合]、0.88[hHF]、0.23[CV死亡率])。
アルブミン尿の進行は、リナグリプチン対プラセボで全般的に有意に低減され、全eGFRカテゴリーにわたって一貫した有益な効果が観察された(交互作用p値:0.35)。
有害イベント(AE)は、腎機能が低下するのに伴い増加したが、≧1のAE、または≧1の重篤なAEの割合は、LINAおよびPBO間でGFRカテゴリー全体にわたり、バランスが取れていた。HbA1cは、有意に低減したが、全GFRカテゴリーにわたり、LINA対PBOによる低血糖リスクの増大を伴わなかった。
T2DM並びに高いCVおよび腎リスクを有する成人の中で、中央値2.2年間にわたる、各々通常治療に加えてのリナグリプチンの使用はプラセボと比較して、副次腎アウトカムへの影響なしに、複合CVアウトカムの非劣性リスクをもたらした。
hHFおよびその合併症に関して非常に高リスクにあるこの患者集団において、リナグリプチンは、hHFに関するリスクを増大させることなく使用されうる。
CVおよび腎疾患を合併するT2D患者における大規模な国際的心血管(安全性)および腎微小血管アウトカム試験におけるこれらの知見は、特にGFRカテゴリーG3b(eGFR30~44ml/分/1.73m2)、G4(eGFR<30)およびG5(eGFR<15)において血糖降下薬剤の安全性および有効性に関するエビデンス基盤が乏しい、臨床的に治療が困難な(心腎リスクが高い)患者さえも含む、広範な腎疾患にわたり使用されうるT2D治療薬としてのLINAの安全性および忍容性を裏付ける。
【0045】
この心血管(安全性)および腎微小血管アウトカム試験とのさらなる関連では、その開示が参照により本明細書に組み込まれその一部となる、EP18184034.9、EP18187272.2、EP18197472.6、およびEP18202843.1を参照することができる。
【0046】
特定の態様:
X1.したがって、さらなる態様(態様X1)において、本発明は、特に長期間にわたり、2型糖尿病の治療における使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンであって、特に、前記治療が、例えば、アテローム動脈硬化性CV疾患、心不全および/または慢性腎疾患などのリスクを有するかまたはリスクに置かれているなどの、リスクにある患者(例えば本明細書において開示のものなど)におけるものを含む、心血管および腎安全性(例えば、本明細書において開示のものなど)を特徴とする、リナグリプチンに関する。
X2.患者が、初期2型糖尿病および増大したCVリスクまたは確立された合併症(例えば、本明細書において開示のものなど)の患者を含む、本発明(例えば態様X1など)による使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0047】
X3.患者が、確立された大血管および/または腎疾患歴(例えば本明細書において開示のものなど)によって証明された、増大したかまたは高いCVリスクを有する患者を含む、本発明(例えば態様X1など)による使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0048】
X4.リナグリプチンが、本明細書において開示のように、例えば、以下:
i)心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)および/または非致死性脳卒中を含むスリーポイント主要有害心血管イベント(3P-MACE)のリスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない治療、
ii)グリメピリドで治療された患者と比較して、有意により多数の患者が、追加の抗糖尿病薬物療法を必要とすることなく、中等度または重度の低血糖症および/またはベースラインから>2%の実質的な体重増加なしに、持続性の血糖コントロール(HbA1c<7%)を達成するという結果をもたらす治療、
iii)全原因による死亡リスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない治療、
iv)フォーポイント主要有害心血管イベント(4P-MACE)が心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)、非致死性脳卒中および/または不安定狭心症による入院を含む、フォーポイント主要有害心血管イベント(4P-MACE)のリスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない治療
をもたらす、本発明(例えば態様X1またはX2など)による使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0049】
X5.リナグリプチンが、本明細書において開示のように、例えば、以下:
i)心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)および/または非致死性脳卒中を含むスリーポイント主要有害心血管イベント(3P-MACE)のリスクを、プラセボで治療された患者と比較して増大させない治療、
ii)心不全による入院のリスクを、プラセボで治療された患者と比較して増大させない治療、
iii)主要な腎アウトカムイベントが、腎死、持続性の末期腎疾患(ESRD)および/または推定糸球体濾過率(eGFR)の40%以上の持続的低下を含む、主要な腎アウトカムイベントのリスクを、プラセボで治療された患者と比較して増大させない治療、
iv)アルブミン尿進行が、微量アルブミン尿陰性から、微量-または顕性アルブミン尿への変化、および/または微量アルブミン尿から顕性アルブミン尿への変化を含む、アルブミン尿進行のリスクを、プラセボで治療された患者と比較して、防止する、発生を遅らせる、または低減する治療、および/または
v)微小血管腎および/または眼合併症が腎死、持続性のESRD、eGFRの≧50%の持続的低下、アルブミン尿進行、網膜光凝固術の使用、糖尿病網膜症、硝子体出血および/または糖尿病関連の失明に対する抗VEGF治療薬の硝子体内注射の使用を含む、微小血管腎および/または眼合併症のリスクを、プラセボで治療された患者と比較して、防止する、発生を遅らせる、または低減する治療
をもたらす、本発明(例えば態様X1またはX3など)による使用のためのリナグリプチン。
X6.患者が、少なくとも5.9年間、治療に曝露され、且つ/または少なくとも6.25年間、追跡される、本発明(例えば態様X1、X2またはX4など)による使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0050】
X7.患者が、少なくとも1.8年間または少なくとも1.9年間、治療に曝露され、且つ/または少なくとも2.2年間、追跡される、本発明(例えば態様X1、X3またはX5など)による使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0051】
X8.患者が、以下のA)、B)、C)およびD):
A)心筋梗塞、冠動脈疾患、経皮的冠動脈インターベンション、冠動脈バイパス術、虚血性または出血性脳卒中、うっ血性心不全、および末梢閉塞性動脈疾患から選択されるなどの、血管疾患の既往歴または現病、
B)(中等度に)障害された腎機能、(微量-または顕性)アルブミン尿、および網膜症から選択されるなどの、血管関連の糖尿病終末器官損傷、
C)高齢(例えば、≧70歳)、および
D)- 進行2型糖尿病(例えば、>10年の罹病期間)、
- 高血圧、
- 現在の毎日の喫煙、
- 脂質異常症、
から選択される、少なくとも2つの心血管リスク因子
の1つまたは複数を有する、本発明(例えば態様X1、X2、X4またはX6など)による使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0052】
X9.患者が以下:
(i)アルブミン尿(微量または顕性)(例えば、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)≧30mg/gクレアチニンまたは≧30mg/l(尿1リットル当たりミリグラムアルブミン)または≧30μg/分(1分当たりマイクログラムアルブミン)または≧30mg/24時間(24時間当たりミリグラムアルブミン))
および
大血管疾患既往歴、例えば以下のa)からf)の1つまたは複数として定義されるものなど:
a)心筋梗塞既往歴、
b)進行冠動脈疾患、
c)高リスク1枝冠動脈疾患、
d)虚血性または出血性脳卒中既往歴、
e)頸動脈疾患の存在、
f)末梢動脈疾患の存在、
および/または
(ii)障害された腎機能(例えば、CV併存疾患を伴うかまたは伴わない)、例えば、以下により定義されるものなど:
- 障害された腎機能(例えば、MDRD式により定義される)で、推定糸球体濾過率(eGFR)15~45mL/分/1.73m2を伴い、任意の尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)を伴う、または
- 障害された腎機能(例えば、MDRD式により定義される)で、推定糸球体濾過率(eGFR)≧45~75mL/分/1.73m2を伴い、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)>200mg/gクレアチニンまたは>200mg/l(尿1リットル当たりミリグラムアルブミン)または>200μg/分(1分当たりマイクログラムアルブミン)または>200mg/24時間(24時間当たりミリグラムアルブミン)を伴う、
を有する、本発明(例えば態様X1、X3、X5またはX7など)による使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0053】
さらなる実施形態:
一実施形態において、本明細書で言及する糖尿病患者は、抗糖尿病薬物による治療を以前に受けていない患者(薬物未治療患者)を含んでよい。したがって、一実施形態において、本明細書において記載の治療は、未治療患者において使用されてよい。本発明の治療の特定の実施形態において、DPP-4阻害薬(好ましくはリナグリプチン)は、そうした患者において、単独でまたは1つまたは複数の他の抗糖尿病薬との併用で、使用されてよい。別の実施形態において、本発明の意味の範囲内の糖尿病患者は、通常の抗糖尿病バックグラウンド療法により前治療された患者、例えば、進行または後期2型糖尿病患者(通常の抗糖尿病療法に失敗した患者を含む)など、例えば、本明細書で規定の1つ、2つまたはそれ以上の通常の経口および/または非経口抗糖尿病薬物で血糖コントロールが不良である患者など、例えば、メトホルミン、チアゾリジンジオン(特にピオグリタゾン)、スルホニル尿素、グリニド、GLP-1またはGLP-1アナログ、インスリンまたはインスリンアナログ、またはα-グルコシダーゼ阻害薬による(単剤-)療法にも関わらず、あるいはメトホルミン/スルホニル尿素、メトホルミン/チアゾリジンジオン(特にピオグリタゾン)、スルホニル尿素/α-グルコシダーゼ阻害薬、ピオグリタゾン/スルホニル尿素、メトホルミン/インスリン、ピオグリタゾン/インスリンまたはスルホニル尿素/インスリンによる2剤併用療法にも関わらず血糖コントロールが不十分である患者などを含んでよい。したがって、一実施形態において、本明細書に記載の治療は、例えば、本明細書において言及した通常の経口および/または非経口抗糖尿病薬の単剤-または2剤もしくは3剤併用療法による治療を経験した患者において使用されてよい。本発明の療法の特定の実施形態において、そうした患者において、DPP-4阻害薬(好ましくはリナグリプチン)は、そうした患者が前治療されているかまたは経験している、既存のまたは続行中の通常の経口および/または非経口抗糖尿病薬の単剤-または2剤もしくは3剤併用療法に追加してまたは付加して使用されてよい。
【0054】
例えば、本明細書で言及する糖尿病患者(特に血糖コントロールが不十分である2型糖尿病患者)は、未治療であってよく、あるいは、メトホルミン、チアゾリジンジオン(特にピオグリタゾン)、スルホニル尿素、グリニド、α-グルコシダーゼ阻害薬(例えばアカルボース、ボグリボース)、およびインスリンまたはインスリンアナログから選択される、1つまたは複数の(例えば1つまたは2つの)通常の抗糖尿病薬剤によって前治療されてよく、例えば:
メトホルミン、α-グルコシダーゼ阻害薬、スルホニル尿素またはグリニド単剤療法、またはメトホルミン+α-グルコシダーゼ阻害薬、メトホルミン+スルホニル尿素、メトホルミン+グリニド、α-グルコシダーゼ阻害薬+スルホニル尿素、またはα-グルコシダーゼ阻害薬+グリニドの2剤併用療法により、
前治療または治療を経験しているなどであってよい。
【0055】
そうした未治療患者に関する特定の実施形態において、DPP-4阻害薬(好ましくはリナグリプチン)は、単剤療法として、または例えばメトホルミン、チアゾリジンジオン(好ましくはピオグリタゾン)、スルホニル尿素、グリニド、α-グルコシダーゼ阻害薬(例えばアカルボース、ボグリボース)、GLP-1またはGLP-1アナログ、またはインスリンまたはインスリンアナログなどとの初期併用療法として;好ましくは単剤療法として使用されてよい。
【0056】
1つまたは2つの通常の抗糖尿病薬剤による前治療または治療を経験したそうした患者に関する特定の実施形態において、DPP-4阻害薬(好ましくはリナグリプチン)は、付加併用療法として、すなわち、1つまたは複数の通常の抗糖尿病薬による療法にも関わらず血糖コントロールが不十分である患者における、1つまたは2つの通常の抗糖尿病薬剤による既存のまたはバックグラウンド療法に付加されて、例えば、メトホルミン、チアゾリジンジオン(特にピオグリタゾン)、スルホニル尿素、グリニド、α-グルコシダーゼ阻害薬(例えばアカルボース、ボグリボース)、GLP-1またはGLP-1アナログ、およびインスリンまたはインスリンアナログから選択される1つまたは複数の(例えば1つまたは2つの)通常の抗糖尿病薬への付加治療としてなど、例えば:
メトホルミンへの、α-グルコシダーゼ阻害薬への、スルホニル尿素への、またはグリニドへの付加療法として;
あるいは、メトホルミン+α-グルコシダーゼ阻害薬への、メトホルミン+スルホニル尿素への、メトホルミン+グリニドへの、α-グルコシダーゼ阻害薬+スルホニル尿素への、またはα-グルコシダーゼ阻害薬+グリニドへの付加療法として;
あるいは、メトホルミン、チアゾリジンジオン(特にピオグリタゾン)、スルホニル尿素、グリニドまたはα-グルコシダーゼ阻害薬(例えばアカルボース、ボグリボース)を伴うかまたは伴わない、インスリンへの付加療法として、
使用されてよい。
【0057】
本明細書に記載の糖尿病患者のさらなる一実施形態は、以下を含むメトホルミン療法に対し不適格の患者に関連してよい:
- メトホルミン療法が禁忌となっている患者、例えば、表示に基づきメトホルミン療法に対する1つまたは複数の禁忌を有する患者、例えば以下:
腎疾患、腎障害または腎機能不全(例えば、地域で承認されたメトホルミンの製品情報により明記されたような)、
脱水症、
不安定または急性うっ血性心不全、
急性または慢性代謝性アシドーシス、および
遺伝性ガラクトース不耐症;
から選択される少なくとも1つの禁忌を有する患者など、
並びに
- メトホルミンに起因する1つまたは複数の忍容できない副作用、特にメトホルミンに関連の胃腸管副作用を被る患者、例えば以下:
- 吐気、
- 嘔吐、
- 下痢、
- 腸管内ガス、および
- 重度の腹部不快感、
から選択される少なくとも1つの胃腸管副作用に苦しんでいる患者など。
【0058】
本明細書で言及する糖尿病患者のさらなる一実施形態は、通常のメトホルミン療法が不適切である糖尿病患者、例えば、メトホルミンに対する忍容性が低い、不認容または禁忌のために、あるいは(軽度に)障害された/低下した腎機能(例えば≧60~65歳などの高齢患者を含む)のために、低減用量メトホルミン療法を必要とする糖尿病患者などを、限定されることなく、含んでよい。
【0059】
糖尿病患者のさらなる一実施形態は、例えば、上昇した血清クレアチニンレベル(例えば、患者の年齢に対して正常な上限を超える血清クレアチニンレベル、例えば、≧130~150μmol/l、または男性で、≧1.5mg/dl(≧136μmol/l)、女性で、≧1.4mg/dl(≧124μmol/l)、または異常なクレアチニンクリアランス(例えば、糸球体濾過率(GFR)≦30~60ml/分)によって(別段の注記がない場合)示唆されうるような、腎疾患、腎機能不全、または腎機能の不全もしくは障害(軽度、中等度および/または重度腎障害を含む)を有する患者に言及しうる。
【0060】
これに関連して、さらなる一実施形態において、軽度の腎障害は、50~80ml/分のクレアチニンクリアランス(男性で、≦1.7mg/dL、女性で、≦1.5mg/dLの血清クレアチニンレベルにほぼ相当)によって(別段の注記がない場合)例えば示唆されてよく;中等度の腎障害は、30~50ml/分のクレアチニンクリアランス(男性で、>1.7~≦3.0mg/dL、女性で、>1.5~≦2.5mg/dLの血清クレアチニンレベルにほぼ相当)によって(別段の注記がない場合)例えば示唆されてよく;且つ、重度の腎障害は、<30ml/分のクレアチニンクリアランス(男性で、>3.0mg/dL、女性で、>2.5mg/dLの血清クレアチニンレベルにほぼ相当)によって(別段の注記がない場合)例えば示唆されてよい。末期腎疾患の患者は、透析(例えば、血液透析または腹膜透析)を必要とする。
【0061】
別のさらなる実施形態において、腎疾患、腎機能不全または腎障害の患者は、慢性腎機能低下または障害の患者を含んでよく、(別段の注記がない場合)糸球体濾過率(GFR、ml/分/1.73m2)によって以下の5病期に階層化することができる:正常GFR≧90(持続性のアルブミン尿(例えばUACR≧30mg/g)または既知の器質的もしくは遺伝性腎疾患のいずれかを加えてもよい)を特徴とする第1期;軽度の腎障害を表すGFRの軽度の低下(GFR60~89)を特徴とする第2期;中等度の腎障害を表すGFRの中等度の低下(GFR30~59)を特徴とする第3期[またはより詳細に:軽度-中等度の腎障害を表すGFRの軽度-中等度の低下(GFR45~59)を特徴とする第3a期、中等度-重度の腎障害を表すGFRの中等度-重度の低下(GFR30~44)を特徴とする第3b期];重度の腎障害を表すGFRの重度の低下(GFR15~29)を特徴とする第4期;透析を必要とすることまたは確立された腎不全(末期腎疾患、ESRD)を表すGFR<15を特徴とする終末第5期。
慢性腎疾患およびその病期(CKD1~5)は、したがって、腎障害(アルブミン尿)または障害された推定糸球体濾過率(GFR<60[ml/分/1.73m2]、腎障害の有無に関わらず)のいずれかの存在に基づくなどして、通常、特徴付けられるかまたは分類されてよい。
【0062】
アルブミン尿期は、本明細書において開示のようにおよび/または尿中アルブミン/クレアチニン比(例えば通常、UACR≧30mg/g、場合によっては≧20μg/分アルブミン排泄率)によって、例えば、分類されてよく、例えば、微量アルブミン尿は、UACR30~300mg/g(場合によっては20~200μg/分)によって、あるいは別の実施形態において、UACR30~200mg/gによって例えば、分類されてよく、且つ/または顕性アルブミン尿はUACR>300mg/g(場合によっては>200μg/分)によって、あるいは別の実施形態において、UACR>200mg/gによって例えば、分類されてよい。非常に高いUACR≧2000mg/gは、ネフローゼとして分類されてよい。
糖尿病患者のさらなる一実施形態は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬および/またはアンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)による療法にも関わらず、アルブミン尿コントロールが不良である患者に言及しうる。
【0063】
糖尿病患者のさらなる一実施形態は、微小-(腎-)および/または大-(心血管-)疾患歴および/または薬物治療を経験している患者(好ましくは糖尿病患者、特に2型糖尿病患者)、例えば、CKD/糖尿病性腎症、腎障害および/または(微量-または顕性)アルブミン尿、および/または大血管疾患(例えば、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、脳血管疾患、高血圧)、および/または微小血管疾患(例えば、糖尿病性腎症、神経障害、網膜症)であり、且つ/またはアセチルサリチル酸、降圧剤および/または脂質低下剤薬物療法を、例えば、アセチルサリチル酸、ACE阻害薬、ARB,β-遮断薬、カルシウム拮抗薬または利尿薬、またはそれらの組合せによる(以前のまたは続行中の)療法などを、および/またはフィブラート、ナイアシンまたはスタチン、またはそれらの組合せによる(以前のまたは続行中の)療法を経験している患者に言及しうる。
DPP-4阻害薬は、例えば、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)などのバックグラウンド療法と併用(例えば、追加または付加)で、患者に投与されてよい。
本発明の範囲内で、本発明による、組合せ(combinations)、組成物(compositions)または併用(combined uses)は、活性化合物または活性成分の、同時、逐次または個別投与を想定してよいことが理解されよう。
【0064】
これに関連して、本発明の意味の範囲内で「組合せ(combination)」または「組み合わせた(combined)」は、例えば化合物または成分の、同時、逐次または個別使用などの、固定的および非固定的(例えば、自由な)形態(キットを含む)および使用を、限定されることなく、含んでよい。
本発明の組合せ投与は、活性化合物または活性成分を一緒に投与すること、例えば活性化合物または活性成分を単一のまたは2つの別個の製剤もしくは剤形で、同時に投与することなどにより行われてよい。別法として、投与は活性化合物または活性成分を逐次的に、例えば2つの別個の製剤または剤形で、連続的になどで、投与することにより行われてよい。
【0065】
本発明の併用療法に関して、活性化合物または活性成分は、別個に投与されてもよく(これは、活性化合物または活性成分が別個に製剤化されることを含意する)、あるいは全体として製剤化されてもよい(これは、活性化合物または活性成分が同一の調製物に、または同一の剤形に製剤化されることを含意する)。したがって、本発明の組合せの1つの成分の投与は、組合せの他の成分の投与の前、投与と同時、または投与に続いてであってよい。
【0066】
別段の注記がない限り、併用療法は、第一選択、第二選択または第三選択療法、あるいは初期または付加併用療法または代替療法を表してよい。
別段の注記がない限り、単剤療法は、第一選択療法(例えば、食事制限および運動のみにより血糖コントロールが不十分な患者、例えば、薬物未治療患者、典型的には診断後早期の患者および/または抗糖尿病薬剤による治療歴がない患者、および/または例えば腎障害のためなどで、メトホルミン療法が禁忌であるかまたは、例えば不忍容であるためなどで、メトホルミン療法が不適切である患者などの、メトホルミン療法に不適格な患者の治療)を表してよい。
別段の注記がない限り、付加併用療法は、第二選択または第三選択療法(例えば、(食事制限および運動に加えた)1つまたは2つの通常の抗糖尿病薬剤による治療にも関わらず、血糖コントロールが不十分な患者、典型的には、1つまたは2つの抗糖尿病薬剤による前治療を受けている患者、例えばそうした既存の抗糖尿病バックグラウンド薬物療法を受けている患者など、の治療)を表してよい。
別段の注記がない限り、初期併用療法は、第一選択療法(例えば、食事制限および運動のみにより血糖コントロールが不十分な患者、例えば、薬物未治療患者、典型的には診断後早期の患者および/または抗糖尿病薬剤による治療歴がない患者、の治療)を表してよい。
【0067】
種々の代謝機能障害がしばしば同時に発生するので、いくつかの異なる活性成分を互いに組み合わせるよう指示されることはかなり多い。したがって、診断された機能障害に応じて、DPP-4阻害薬が、他の抗糖尿病物質、特に血糖レベルまたは血中脂質レベルを低下させ、血中HDLレベルを上昇させ、血圧を低下させるか、あるいはアテローム性動脈硬化または肥満症の治療に適応される活性物質、のうちから選択される、1つまたは複数の活性物質などの、各々の障害に慣用される1つまたは複数の活性物質と併用される場合、改善された治療アウトカムが得られることがある。
【0068】
上記のDPP-4阻害薬は、単剤療法におけるそれらの使用に加え、1つまたは複数の他の活性物質と組み合わせて使用されてもよく、それによって改善された治療結果を得ることができる。そうした併用治療は、物質の自由な組合せとして、または固定的な組合せの形態で、例えば錠剤またはカプセルで、与えられてよい。これに必要な併用相手の医薬用製剤は、医薬用組成物として商業的に入手可能であるか、または通常の方法を用いて当業者により製剤化されてもよい。医薬用組成物として商業的に入手可能な活性物質は、先行技術において数多くの場で、例えば、毎年出版される薬物リスト、連邦製薬工業協会(federal association of the pharmaceutical industry)の「Rote Liste(登録商標)」において、または「Physicians’ Desk Reference」の名称で知られる、処方箋薬に関する製造者の情報の毎年更新される編集物において、記載されている。
【0069】
抗糖尿病併用相手の例は、メトホルミン;スルホニル尿素、例えばグリベンクラミド、トルブタミド、グリメピリド、グリピジド、グリキドン、グリボルヌリドおよびグリクラジド;ナテグリニド;レパグリニド;ミチグリニド;チアゾリジンジオン、例えばロシグリタゾンおよびピオグリタゾン;α-グルコシダーゼ遮断薬、例えばアカルボース、ボグリボースおよびミグリトール;インスリンおよびインスリンアナログ、例えばヒトインスリン、インスリンリスプロ、インスリングルシリン、r-DNA-インスリンアスパルト、NPHインスリン、インスリンデテミル、インスリンデグルデク、インスリントレゴピル、インスリン亜鉛懸濁液およびインスリングラルギン;アミリンおよびアミリンアナログ(例えば、プラムリンチドまたはダバリンチド);GLP-1およびGLP-1アナログ、例えばエキセンディン-4(Exendin-4)、例えばエキセナチド、エキセナチドLAR、リラグルチド、タスポグルチド、リキシセナチド(AVE-0010)、LY-2428757(GLP-1のPEG化バージョン)、デュラグルチド(LY-2189265)、セマグルチドまたはアルビグルチド;および/またはSGLT2-阻害薬、例えばダパグリフロジン、セルグリフロジン(KGT-1251)、アチグリフロジン、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、ルセオグリフロジンまたはトホグリフロジンなどである。
【0070】
メトホルミンは通常、1日当たり約500mg~2000mg、最高2500mgまで変化する用量で、約100mg~500mgもしくは200mg~850mg(1日1~3回)、または約300mg~1000mgを1日1回もしくは2回、または遅延放出メトホルミンを約100mg~1000mgもしくは好ましくは500mg~1000mgの用量で1日1回もしくは2回、または約500mg~2000mgを1日1回、の種々の投与レジメンを用いて投与される。特定の用量強度(dosage strength)は、250、500、625、750、850および1000mgのメトホルミン塩酸塩であってよい。
ピオグリタゾンの用量は通常、1日1回、約1~10mg、15mg、30mg、または45mgである。
ロシグリタゾンは通常、1日1回(または2回に分けて)、4~8mgの用量で投与される(典型的な用量強度は2、4および8mgである)。
【0071】
グリベンクラミド(グリブリド)は通常、1日1回(または2回に分けて)2.5~5から20mgの用量で投与される(典型的な用量強度は1.25、2.5および5mgである)か、または微粒子グリベンクラミドが1日1回(または2回に分けて)0.75~3から12mgの用量で投与される(典型的な用量強度は1.5、3、4.5および6mgである)。
グリピジドは通常、2.5から10~20mgを1日1回(または最高40mgまでを2回に分けて)の用量で投与される(典型的な用量強度は5および10mgである)か、または持続放出グリベンクラミドが1日1回、5~10mg(最高20mgまで)の用量で投与される(典型的な用量強度は2.5、5および10mgである)。
グリメピリドは通常、1日1回、1~2から4mg(最高8mgまで)の用量で投与される(典型的な用量強度は1、2および4mgである)。
グリベンクラミド/メトホルミンの2剤併用は通常、1.25/250mgを1日1回から10/1000mgを1日2回の用量で投与される(典型的な用量強度は1.25/250、2.5/500および5/500mgである)。
【0072】
グリピジド/メトホルミンの2剤併用は通常、1日2回、2.5/250~10/1000mgの用量で投与される(典型的な用量強度は2.5/250、2.5/500および5/500mgである)。
グリメピリド/メトホルミンの2剤併用は通常、1日2回、1/250~4/1000mgの用量で投与される。
ロシグリタゾン/グリメピリドの2剤併用は通常、4/1mgを1日1または2回から4/2mgを1日2回の用量で投与される(典型的な用量強度は4/1、4/2、4/4、8/2および8/4mgである)。
ピオグリタゾン/グリメピリドの2剤併用は通常、1日1回、30/2~30/4mgの用量で投与される(典型的な用量強度は30/4および45/4mgである)。
ロシグリタゾン/メトホルミンの2剤併用は通常、1日2回、1/500~4/1000mgの用量で投与される(典型的な用量強度は1/500、2/500、4/500、2/1000および4/1000mgである)。
ピオグリタゾン/メトホルミンの2剤併用は通常、15/500mgを1日1または2回から15/850mgを1日3回の用量で投与される(典型的な用量強度は15/500および15/850mgである)。
【0073】
非スルホニル尿素インスリン分泌促進剤のナテグリニドは通常、60~120mgの用量で食事と共に投与される(最高360mg/日まで、典型的な用量強度は60および120mgである);レパグリニドは通常、0.5~4mgの用量で食事と共に投与される(最高16mg/日まで、典型的な用量強度は0.5、1および2mgである)。レパグリニド/メトホルミンの2剤併用は、1/500および2/850mgの用量強度で利用可能である。
アカルボースは通常、25~100mgの用量で食事と共に投与される。ミグリトールは通常、25~100mgの用量で食事と共に投与される。
【0074】
血中脂質レベルを低下させる併用相手の例は、HMG-CoA-還元酵素阻害薬、例えばシムバスタチン、アトルバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、ピタバスタチンおよびロスバスタチン;フィブラート、例えばベザフィブラート、フェノフィブラート、クロフィブラート、ゲムフィブロジル、エトフィブラートおよびエトフィルリンクロフィブラート;ニコチン酸およびその誘導体、例えばアシピモックス;PPAR-α作動薬;PPAR-δ作動薬;PPAR-α/δ作動薬;アシル補酵素Aの阻害薬:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(ACAT;EC2.3.1.26)の阻害薬、例えばアバシミブ;コレステロール吸収阻害薬、例えばエゼチミブ;胆汁酸に結合する物質、例えばコレスチラミン、コレスチポールおよびコレセベラム;胆汁酸輸送の阻害薬;HDL調節活性物質、例えばD4F、リバースD4F、LXR調節活性物質およびFXR調節活性物質;CETP阻害薬、例えばトルセトラピブ、JTT-705(ダルセトラピブ)またはWO2007/005572の化合物12(アナセトラピブ);LDL受容体修飾薬;MTP阻害薬(例えばロミタピド);およびApoB100アンチセンスRNAである。
アトルバスタチンの用量は通常、1日1回、1mg~40mgまたは10mg~80mgである。
【0075】
血圧を低下させる併用相手の例は、β-遮断薬、例えばアテノロール、ビソプロロール、セリプロロール、メトプロロールおよびカルベジロール;利尿薬、例えばヒドロクロロチアジド、クロルタリドン、キシパミド、フロセミド、ピレタニド、トラセミド、スピロノラクトン、エプレレノン、アミロリドおよびトリアムテレン;カルシウムチャネル遮断薬、例えばアムロジピン、ニフェジピン、ニトレンジピン、ニソルジピン、ニカルジピン、フェロジピン、ラシジピン、レルカニジピン(lercanipidine)、マニジピン、イスラジピン、ニルバジピン、ベラパミル、ガロパミルおよびジルチアゼム;ACE阻害薬、例えばラミプリル、リシノプリル、シラザプリル、キナプリル、カプトプリル、エナラプリル、ベナゼプリル、ペリンドプリル、ホシノプリルおよびトランドラプリル;並びにアンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、例えばテルミサルタン、カンデサルタン、バルサルタン、ロサルタン、イルベサルタン、オルメサルタン、アジルサルタンおよびエプロサルタンである。
テルミサルタンの用量は通常、1日当たり20mg~320mgまたは40mg~160mgである。
血中HDLレベルを上昇させる併用相手の例は、コレステリルエステル転送タンパク質(CETP)阻害薬;内皮リパーゼの阻害薬;ABC1の調節薬;LXRα拮抗薬;LXRβ作動薬;PPAR-δ作動薬;LXRα/β調節薬、およびアポリポタンパク質A-Iの発現および/または血漿濃度を上昇させる物質である。
【0076】
肥満症の治療のための併用相手の例は、シブトラミン;テトラヒドロリプスタチン(オルリスタット);アリザイム(セチリスタット);デクスフェンフルラミン;アキソキン(axokine);カンナビノイド受容体1拮抗薬、例えばCB1拮抗薬リモナバン(rimonobant);MCH-1受容体拮抗薬;MC4受容体作動薬;NPY5およびNPY2拮抗薬(例えばベルネペリット);β3-AR作動薬、例えばSB-418790およびAD-9677;5HT2c受容体作動薬、例えばAPD356(ロルカセリン);ミオスタチン阻害薬;Acrp30およびアディポネクチン;ステロイルCoAデサチュラーゼ(SCD1)阻害薬;脂肪酸合成酵素(FAS)阻害薬;CCK受容体作動薬;グレリン受容体修飾薬;Pyy3-36;オレキシン受容体拮抗薬;およびテソフェンシン;並びに2剤併用のブプロピオン/ナルトレキソン、ブプロピオン/ゾニサミド、トピラマート/フェンテルミンおよびプラムリンチド/メトレレプチンである。
【0077】
アテローム性動脈硬化の治療のための併用相手の例は、ホスホリパーゼA2阻害薬;チロシンキナーゼの阻害薬(50mg~600mg)、例えばPDGF-受容体-キナーゼ(EP-A-564409、WO98/35958、US5093330、WO2004/005281、およびWO2006/041976を参照);oxLDL抗体およびoxLDLワクチン;apoA-1 Milano;ASA;およびVCAM-1阻害薬である。
【0078】
さらに、本発明の特定のDPP-4阻害薬は、GLP-1以外であってよいDPP-4の基質と(特に、DPP-4の抗炎症性基質と)併用されてよく、本発明の目的において、そうしたDPP-4の基質は、例えば、限定されることなく、以下のうちの1つまたは複数を含む:
インクレチン:
グルカゴン様ペプチド(GLP)-1
グルコース依存性インスリン分泌刺激ペプチド(GIP)
向神経活性:
サブスタンスP
ニューロペプチドY(NPY)
ペプチドYY
エネルギー恒常性:
GLP-2
プロラクチン
脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド(PACAP)
その他のホルモン:
PACAP27
ヒト絨毛性ゴナドトロピンα鎖
成長ホルモン放出因子(GHRF)
黄体ホルモンα鎖
インスリン様成長因子(IGF-1)
CCL8/エオタキシン
CCL22/マクロファージ由来ケモカイン
CXCL9/インターフェロンγ誘導モノカイン
ケモカイン:
CXCL10/インターフェロンγ誘導タンパク質-10
CXCL11/インターフェロン誘導性T細胞走化性因子
CCL3L1/マクロファージ炎症性タンパク質1αアイソフォーム
LD78β
CXCL12/ストロマ細胞由来因子1αおよびβ
その他:
エンケファリン、ガストリン放出ペプチド、バソスタチン-1、
ペプチドヒスチジンメチオニン、サイロトロピンα。
さらにまたは加えて、本発明の特定のDPP-4阻害薬は、利尿薬、ACE阻害薬および/またはARBから選択されるなどの、腎症の治療に適応される1つまたは複数の活性物質と併用されてよい。
さらにまたは加えて、本発明の特定のDPP-4阻害薬は、心血管疾患またはイベント(例えば主要心血管イベント)の治療または予防に適応される1つまたは複数の活性物質と併用されてよい。
【0079】
さらに、任意選択で加えて、本発明の特定のDPP-4阻害薬は、1つまたは複数の抗血小板薬、例えば(低用量)アスピリン(アセチルサリチル酸)、選択的COX-2もしくは非選択的COX-1/COX-2阻害薬、またはADP受容体阻害薬、例えばチエノピリジン(例えばクロピドグレルまたはプラスグレル)、エリノグレルまたはチカグレロル、またはトロンビン受容体拮抗薬、例えばボラパクサールと併用されてよい。
【0080】
その上さらに、任意選択で加えて、本発明の特定のDPP-4阻害薬は、1つまたは複数の抗凝固薬、例えばヘパリン、クマリン(例えばワルファリンまたはフェンプロクモン)、第Xa因子の五糖阻害薬(例えばフォンダパリヌクス)、または直接トロンビン阻害薬(例えばダビガトランなど)、または第Xa因子阻害薬(例えばリバーロキサバンまたはアピキサバンまたはエドキサバンまたはオタミキサバンなど)と併用されてよい。
なおその上さらに、任意選択で加えて、本発明の特定のDPP-4阻害薬は、心不全の治療のための1つまたは複数の剤(例えばWO2007/128761において言及されたものなど)と併用されてよい。
【0081】
本発明は、本明細書に記載の具体的実施形態によりその範囲が限定されるべきでない。本明細書に記載の実施形態に加えて本発明の種々の変更形態が、当業者には、本開示から明らかになりうる。そうした変更形態は、添付の特許請求の範囲内に入ることが意図されている。
本明細書において引用した全ての特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【実施例0082】
本発明がより十分に理解されるように、本明細書で与えられた実施例を明記する。本発明のさらなる実施形態、特徴、効果、特性または態様は実施例から明らかになりうる。実施例は、例として、本発明を限定することなく、本発明の原理を例証するのに役立つ。
【0083】
2型糖尿病におけるリナグリプチン対グリメピリドの心血管アウトカム試験-
初期2型糖尿病および増大している心血管リスクまたは確立された合併症を有する患者においてリナグリプチン対スルホニル尿素であるグリメピリドの長期の心血管影響を評価する。
増大したかまたは高い心血管リスクにある2型糖尿病患者の治療
2型糖尿病患者の適切な集団におけるリナグリプチンによる治療の、心血管罹患率および死亡率および関連する有効性パラメータ(例えばHbA1c、空腹時血漿グルコース、治療継続性)に対する長期影響を、以下のように調査する:
【0084】
血糖コントロールが不十分(未治療あるいは現在、例えば、メトホルミンおよび/またはα-グルコシダーゼ阻害薬による(単剤または2剤併用療法で)治療を受けている(例えばHbA1c6.5~8.5%を有する)か、あるいは、メトホルミンまたはα-グルコシダーゼ阻害薬の有無に関わらず、例えば、スルホニル尿素またはグリニドによる(単剤または2剤併用療法で)治療を現在、受けている(例えばHbA1c6.5~7.5%を有する))で、且つ、例えば、以下に示すリスク因子A)、B)、C)およびD)の1つまたは複数として定義される、心血管イベントのリスクが増大したかまたは高い、2型糖尿病患者を無作為化*して、長期間にわたり(例えば432週まで)、リナグリプチン(5mg、1日1回、1つまたは複数の他の活性物質、例えば、既存の抗糖尿病バックグラウンドに付加されたものなどとの併用が可能)により治療し、スルホニル尿素であるグリメピリド(14mg、1日1回)により治療した患者と比較する。
*無作為化時に、患者がSUまたはグリニドによる治療を受けている場合、この分泌促進物質療法を中止して、試験薬物療法に置き換える。分泌促進物質による治療を受けていない患者に対しては、既存のレジメンに試験薬物療法を付加する。
【0085】
評価のための有効性基準
主要評価項目
主要複合評価項目の以下の判定された要素のいずれかの初回発生までの期間:
CV死(致死性脳卒中および致死性MIを含む)、非致死性脳卒中、または非致死性MI(無症候性MIを除く)(「初回3-ポイント主要有害心血管イベント[3P-MACE]までの期間」とも称される)。
主要な副次評価項目
1)複合評価項目の以下の判定された要素のいずれかの初回発生までの期間:CV死(致死性脳卒中および致死性MIを含む)、非致死性脳卒中、非致死性MI(無症候性MIを除く)、または不安定狭心症による入院(「初回4P-MACEまでの期間」とも称される)。
2)治療継続性の複合評価項目:(用量漸増期終了時の第6回の来所と最終来所との間に)レスキュー治療薬の必要なしに、(第6回の来所と最終来所との間に)>2%の体重増加なしに、且つ(第6回の来所と最終来所との間に)中等度/重度の低血糖エピソードなしに、最終来所時に血糖コントロールを維持していた(HbA1c≦7.0%)、試験終了時の試験薬物療法を受けた患者の割合。
3)治療継続性の複合評価項目:(第6回の来所と最終来所との間に)レスキュー治療薬の必要なしに、且つ(第6回の来所と最終来所との間に)>2%の体重増加なしに、最終来所時に血糖コントロールを維持していた(HbA1c≦7.0%)、試験終了時の試験薬物療法を受けた患者の割合。
【0086】
副次評価項目
副次CV評価項目:
以下の判定された要素、CV死(致死性脳卒中および致死性MIを含む)、非致死性MI(無症候性MIを除く)、および非致死性脳卒中、の少なくとも1つの発生(「3P-MACEの発生」とも称される)。
以下の判定された要素、CV死(致死性脳卒中および致死性MIを含む)、非致死性MI(無症候性MIを除く)、非致死性脳卒中、および不安定狭心症による入院、の少なくとも1つの発生(「4P-MACEの発生」とも称される)。
全ての判定されたイベントの複合評価項目の以下の要素:CV死(致死性脳卒中および致死性MIを含む)、非致死性MI、非致死性脳卒中、不安定狭心症による入院、一過性脳虚血発作(TIA)、心不全による入院、冠動脈血管再生術(CABG、PCI)のための入院、のいずれかの発生および初回発生までの期間。
【0087】
副次糖尿病関連評価項目
以下の実験室パラメータ:HbA1c、空腹時血漿グルコース(FPG)、総コレステロール、低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール、高密度リポタンパク質(HDL)コレステロール、トリグリセリド、クレアチニン、推定糸球体濾過率(eGFR、MDRD式)、尿中アルブミン、におけるベースラインから最終来所時までの変化。
尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)に基づくアルブミン尿カテゴリーにおける何らかの移行。
【0088】
心血管イベントのリスク因子A)、B)、C)およびD):
A)(心)血管疾患既往歴(例えば、年齢40~85歳):
- 心筋梗塞(例えば、≧6週間)、
- 冠動脈疾患(例えば、血管造影図で、左主冠動脈のまたは少なくとも2本の主冠動脈における内腔径の狭窄が≧50%)、
- 経皮的冠動脈インターベンション(例えば、≧6週間)、
- 冠動脈バイパス術(例えば、≧4年または手術後の再発性狭心症を伴う)、
- 虚血性または出血性脳卒中(例えば、≧3カ月)、
- 末梢閉塞性動脈疾患(例えば、肢バイパス術歴または経皮的経管血管形成術歴;循環機能不全による肢または足切断歴;血管造影上または超音波で検出された主肢動脈(総腸骨動脈、内腸骨動脈、外腸骨動脈、大腿動脈、膝窩動脈)の顕著な血管狭窄(>50%):少なくとも片側での足関節:上腕血圧比<0.90を伴う、間欠性跛行歴)、
B)血管関連の糖尿病終末器官損傷(例えば、年齢40~85歳):
- 障害された腎機能(例えば、eGFRF30~59mL/分/1.73m2で、MDRD式で定義された中等度に障害された腎機能)、
- 微量-または顕性アルブミン尿(例えば、微量アルブミン尿、またはランダムスポット尿中アルブミン/クレアチニン比≧30μg/mg)、
- 網膜症(例えば、増殖性網膜症、または網膜管新生または網膜レーザー凝固療法歴)、
C)高齢(例えば、年齢≧70歳)、
D)以下の心血管リスク因子の少なくとも2つ(例えば、年齢40~85歳):
- 進行2型糖尿病(例えば、>10年の罹病期間)、
- 高血圧(例えば、収縮期血圧>140mmHgまたは、少なくとも1つの血圧降下治療、例えば≦6カ月間)、
- 現在の毎日の喫煙、
- (アテローム生成性)脂質異常症または高LDLコレステロール血中レベル(例えば、LDLコレステロール≧135mg/dL)または脂質異常に対する少なくとも1つの治療(例えば≦6カ月間)。
【0089】
結果
概略の結論
試験患者および試験プロトコールの遵守:
素因
総計6077人の患者を無作為化し、6068人を治療した。1施設の患者からのデータは解析データセットから除外された;したがって、TSは6033人の患者から成っていた。全体として、試験の早期中止の頻度は低く、2群間でバランスが取れていた(リナグリプチン:4.1%、グリメピリド:3.8%)。1%未満の患者が、生命状態の追跡から離脱した(リナグリプチン:0.8%、グリメピリド:0.7%)。試験薬物療法の早期中止は、治療群間で同等であり(リナグリプチン:37.3%、グリメピリド:39.1%)、有害イベントによるものが最も高頻度であり(AE:リナグリプチン:15.1%、グリメピリド:17.4%)あるいはAEのために患者が試験薬物療法を継続して受けるのを拒んだことによるもの(リナグリプチン:10.2%、グリメピリド:10.9%)であった。
【0090】
人口統計
試験の集団は意図された通りであり、患者はCVイベントの増大したリスクを有したという選択基準に従っていた。人口統計学的特性は、治療群全体にわたり十分にバランスが取れていた。主要なベースライン特性(平均および標準偏差[SD]または患者の割合)は、以下の通りであった:
患者は、64.0歳(9.5歳)であった。
患者の60.0%が男性、40.0%が女性であった。
患者は、大部分が白人(73.0%)であり、あるいはアジア人(17.6%)であった;17.1%がヒスパニック系またはラテン系であった。
診断からの期間は、7.6年(6.1年)であった。
患者は、30.08kg/m2(5.1kg/m2)のBMIを有していた。
患者は、7.15%(0.57%)のHbA1cレベルを有していた。
患者は、140.0mg/dL(30.5mg/dL)の空腹時血漿グルコース(FPG)レベルを有していた。
患者は、76.8mL/分/1.73m2(19.8mL/分/1.73m2)のeGFR(MDRD式)を有していた。
UACR<30mg/gの患者の割合は、74.0%であった。
曝露
試験における期間の中央値は、両治療群において6.25年であり、試験薬物療法への曝露期間の中央値は両治療群において5.86年であった。
【0091】
有効性の結果
3P-MACEおよび4P-MACE(主要および第一の主要な副次評価項目)および要素
主要評価項目は満たされ、リナグリプチンは3P-MACEまでの期間に関して、95.47%CIの上限が1.3未満(片側p<0.0001)であったので、グリメピリドに対して非劣性であることが証明された。全体で、リナグリプチン群の356人の患者(11.8%)およびグリメピリド群の362人の患者(12.0%)が、3P-MACEイベントを経験したことが報告された(HR=0.98;95.47%CI:0.84,1.14)。95.47%CIの上限は、1.0超で、試験階層の次の段階であったので、リナグリプチンの優越性に関する主要評価項目の解析は、満たされなかった(片側p=0.3813)。3PMACEに寄与する各イベントタイプを有した患者の割合は、全般的に治療群間でバランスが取れていた(CV死:リナグリプチン4.3%、グリメピリド4.2%;非致死性MI:4.7%対4.6%;非致死性脳卒中:2.8%対3.4%)。
試験階層は達成されなかったため、さらなる解析は全て、探索的であるとみなされた。
主要評価項目と一致して、初回4P-MACEまでの期間に関して治療差は認められなかった(HR=0.99;95.47%CI:0.86,1.14;片側p=0.4334)。リナグリプチン群の398人の患者(13.2%)およびグリメピリド群の401人の患者(13.3%)が、4P-MACEイベントを経験した。4P-MACEに寄与する各イベントタイプを有した患者の割合は、全般的に治療群間でバランスが取れていた(CV死:リナグリプチン4.1%、グリメピリド4.1%;非致死性MI:4.4%対4.3%;非致死性脳卒中:2.8%対3.3%;不安定狭心症による入院:1.9%対1.8%)。
主要評価項目および主要な副次評価項目の感度解析は、種々の解析セットおよび打ち切りアプローチを使用し、結果は、主要な解析と一致していた。同様に、一貫した結果が概ねサブグループ全体にわたって、観察された。
【0092】
さらなる解析は、全原因死亡率に関して有意な治療差はなかったことを示した(リナグリプチン群患者の10.2%、1000リスク人年当たりの発生率16.8;グリメピリド群12.3%、18.4;ハザード比0.91、95%CI:0.78,1.06、p=0.2263)、CV死(両群5.6%、9.2;HR1.00、95%CI:0.81,1.24、p=0.9863)、および非CV死(リナグリプチン群患者の4.6%、1000リスク人年当たりの発生率7.6;グリメピリド群5.6%、9.2;ハザード比0.82、95%CI:0.66,1.03、p=0.0839)。
さらに、心不全アウトカムを解析した。心不全のみによる入院に関して、有意な治療差はなかった:リナグリプチン群患者の3.7%、1000リスク人年当たりの発生率6.4;グリメピリド群3.1%、5.3;ハザード比1.21、95%CI:0.92,1.59、p=0.1761、またはCV死と組み合わせて解析した場合(両群7.8%、13.4;HR1.00、95%CI:0.84,1.20、p=0.9671)。同様に、治験担当者が報告した心不全AEに関して、有意な治療差はなかった(リナグリプチン5.5%、9.5;グリメピリド5.2%、9.0;HR1.06、95%CI:0.85,1.32、p=0.5844)。
【0093】
治療継続性(第二および第三の主要な副次評価項目)および要素
第二および第三の主要な副次評価項目は両方とも一致して、リナグリプチンがグリメピリドと比較してより高い治療継続性を有したことを示した;リナグリプチン群において、グリメピリド群と比較してより高い奏効者率が得られた。第二の主要な副次評価項目に関して、リナグリプチン群患者の16.0%およびグリメピリド群患者の10.2%が奏効者であった(OR=1.68;95.47%CI:1.43,1.96;p<0.0001)。第三の主要な副次評価項目に関して、リナグリプチン群患者の17.4%およびグリメピリド群患者の14.1%が奏効者であった(OR=1.29;95.47%CI:1.11,1.48;p=0.0004)。感度およびサブグループ解析は、全般的に主要解析と一致していた。
【0094】
治療継続性評価項目の要素のさらなる解析は、用量漸増期終了時の第6回の来所と最終来所との間に中等度/重度の低血糖エピソードを有した患者の割合は、リナグリプチン群において、グリメピリド群と比較して、有意に低かった(リナグリプチン群:患者の5.6%、グリメピリド群:27.5%;オッズ比0.16;95%CI:0.13,0.19;p<0.0001)。
さらに、グリメピリド群は初期の数値的体重増加を示したが、リナグリプチン群は、時間経過と共に、グリメピリド群と比較して、有意且つ継続性の差のある、適度の体重減少を示した(調整平均差-1.61kg;95%CI:-1.92,-1.29;p<0.0001)。
リナグリプチン群の患者は、レスキュー治療薬の初回摂取までの期間が有意に短かった(1000リスク人年当たりの発生率:リナグリプチン128.6、グリメピリド115.5;p=0.0035)が、レスキュー治療薬を使用した患者の割合は、両治療群間で同等であった(リナグリプチン:49.3%、グリメピリド:47.1%)。これは、用量漸増期終了時のグリメピリド群におけるHbA1cのより大きな初期低下と一致している。
試験の経過中に、治療群間のHbA1c差は減少して、勾配が交差し、両治療群において同等な経時的HbA1cコントロール/経時的にグリメピリドに比べてより持続的なリナグリプチンのHbA1c低下効果を示した(ベースラインから最終来所時までの変化に関する表7を参照)。
【0095】
判定により確認された何らかのイベント(副次CV評価項目)
何らかの判定されたイベントの発生および発生までの期間において、リナグリプチン群とグリメピリド群との間に差はなかった(リナグリプチン群:患者の17.1%、グリメピリド群:17.8%;HR0.96;95%CI:0.85,1.09)。
副次糖尿病関連評価項目
ベースラインから最終来所時までの変化は、全般的にリナグリプチンおよびグリメピリド治療群で同等であった(表7)。いくつかの結果は、統計的に有意な治療差を示したが、これらは小さく、且つ臨床的に妥当であるとはみなされなかった。ベースラインから最終来所時までのUACRカテゴリーにおける移行は、治療群間で同等であった;最終来所時に、リナグリプチン群の患者の58.4%が依然として正常UACR(<30mg/g)を有し、14.1%が微量アルブミン尿(≧30~≦300mg/g)を有し、1.4%の患者が顕性アルブミン尿(>300mg/g)を有した。グリメピリド群において、患者の57.7%がベースライン時および最終来所時に正常UACRを有し、16.0%の患者が微量アルブミン尿を有し、1.4%の患者が顕性アルブミン尿を有した。
【0096】
【0097】
結論:
この試験は、上昇した心血管リスクがあり、標準治療(主としてメトホルミンバックグラウンド治療)を受けている2型糖尿病患者における、心血管死、非致死性心筋梗塞、または非致死性脳卒中(3-ポイントMACE)の初回発生までの期間に関するリナグリプチンのグリメピリドに対する非劣性を証明した。リナグリプチンのグリメピリドに対する優越性は、3-ポイントMACE評価項目に関しては、達成されなかった。同様に、初回4-ポイントMACE(3-ポイントMACE要素に不安定狭心症による入院を加えたもの)までの期間に関して、治療差は認められなかった。全原因死亡率、心血管死、および心不全アウトカムに関して、有意な治療差はなかった。
リナグリプチン治療の効果はグリメピリドと比較して、より継続した;継続性奏効者率は、試験薬物療法を受けている患者の試験終了時における複合評価項目に関して、有意に高く、HbA1c≦7.0%で、レスキュー治療薬なしで、>2%の体重増加なく、且つ中等度/重度の低血糖エピソードを伴うかまたは伴わなかった。さらなる治療継続性評価項目の結果は、この観察結果を裏付けた。
有意且つ一貫した低血糖症のリスクの低下が、全ての低血糖症解析にわたり、グリメピリド群と比較して、リナグリプチン群において観察された。リナグリプチン群の患者は、グリメピリド群と比較して、経時的に継続し、且つ有意な差を伴い、体重の適度の減少を示した。HbA1cコントロールは、治療の最初の数週以内でのグリメピリド群における一過性の低HbA1cレベルを除き、両治療群において経時的に同様であった。同様な割合の患者が試験終了時までに、レスキュー治療薬を使用した;初回使用までの期間は、グリメピリド群における初期のより低いHbA1cレベルのために、異なった。全原因死亡率の解析は、両群において同等の結果を示した。
この試験集団において、リナグリプチンの安全性プロファイルは、この薬剤の既知の安全性プロファイルと一致していた;リナグリプチンに関する新たな安全性シグナルは、認められなかった。
さらに:
リナグリプチンを支持する非有意な推定が、非心血管死に関して認められた(HR0.82(95%CI:0.66,1.03[p=0.08])。
【0098】
特定の実施形態
A)リナグリプチン心血管安全性試験
この心血管安全性試験は、HbA1cおよびCVリスク因子に関する地域標準を目標として、標準治療(患者の83%でのメトホルミンによるバックグラウンド療法を含む)に加えたリナグリプチン5mg(3023人)またはグリメピリド1~4mg(3010人)により治療された初期2型糖尿病および増大したCVリスクまたは確立された合併症を有する6033人の患者における無作為化試験であった。試験集団の平均年齢は64歳であり、年齢≧70歳の患者2030人(34%)を含んだ。試験集団は、心血管疾患のある患者2089人(35%)およびベースライン時にeGFR<60ml/分/1.73m2で腎障害のある患者1130人(19%)を含んだ。ベースライン時の平均HbA1cは、7.15%であった。
試験は、心血管死または非致死性心筋梗塞(MI)または非致死性脳卒中(3P-MACE)の初回発生の複合である、主要心血管評価項目に関する非劣性を証明するようデザインされた。
中間値6.25年の追跡(治療期間の中央値5.86年)の後、リナグリプチンは主要有害心血管イベントのリスクを、グリメピリドと比較して増大しなかった(表8)。結果は、患者のメトホルミン治療の有無に関わらず、一貫していた。
【0099】
【0100】
主要な副次評価項目である治療継続性の複合は、追加の抗糖尿病薬物療法(レスキュー治療薬)の必要なしに、いかなる中等度(グルコース値≦70mg/dLで症候性の)または重度(補助を必要とする)の低血糖エピソードもなしに、且つ>2%の体重増加なしに、最終来所時に血糖コントロールを維持していた(HbA1c≦7.0%)、初期の用量漸増期間(16週間)後に、試験治療を受けた患者の割合として定義された。リナグリプチン治療を受けた患者のより多数(481人、16.0%)が、グリメピリド(305人、10.2%)と比較して、この主要な副次評価項目を達成した。
全治療期間(治療期間の中央値5.9年)に関して、中等度または重度の低血糖症の患者の割合は、リナグリプチン治療で6.5%対グリメピリド治療で30.9%であり、重度の低血糖症は、リナグリプチン治療を受けた患者の0.3%に対してグリメピリド治療の患者の2.2%で発生した。
【0101】
したがって:
A1.糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療における使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンであって、前記患者のリナグリプチンによる治療が、スリーポイント主要有害心血管イベント(3P-MACE)のリスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大せず、3P-MACEは、心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)および/または非致死性脳卒中を含む、リナグリプチン。
【0102】
A2.リスクが、明細書中に記載の表1に示す通りであり、例えば、以下のハザード比(HR):
を特徴とする、実施形態A1に従って使用するための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0103】
A3.糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療における使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンであって、前記患者のリナグリプチンによる治療が、グリメピリドで治療された患者と比較して、有意により多数の患者が、追加の抗糖尿病薬物療法を必要とすることなく、中等度または重度の低血糖症および/またはベースラインから>2%の実質的な体重増加なしに、持続性の血糖コントロール(HbA1c<7%)を達成するという結果をもたらす、リナグリプチン。
A4.治療継続性が、明細書中に記載の表3に示す通りであり、例えば、以下のオッズ比:
を特徴とする、実施形態A3に従って使用するための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0104】
A5.リナグリプチンが、以下:
i)心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)および/または非致死性脳卒中を含むスリーポイント主要有害心血管イベント(3P-MACE)のリスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない治療、
ii)グリメピリドで治療された患者と比較して、患者の有意により多数が、追加の抗糖尿病薬物療法を必要とすることなく、中等度または重度の低血糖症および/またはベースラインから>2%の実質的な体重増加なしに、持続性の血糖コントロール(HbA1c<7%)を達成するという結果をもたらす治療
をもたらす、実施形態A1~A4のいずれか1つに従って、糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療において使用するための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
A6.患者が少なくとも5.86年間、治療に曝露され、且つ/または少なくとも6.25年間、追跡される、実施形態A1~A5のいずれか1つによる使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
A7.糖尿病患者が、増大したかまたは高い心血管リスクがある、実施形態A1~A6のいずれか1つによる使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0105】
A8.糖尿病患者が、先行CV疾患(例えば、心筋梗塞、冠動脈疾患、経皮的冠動脈インターベンション、冠動脈バイパス術、虚血性または出血性脳卒中、うっ血性心不全、末梢閉塞性動脈疾患から選択される)、血管関連の終末器官損傷(例えば、障害された腎機能、(微量-または顕性)アルブミン尿、網膜症から選択される)、年齢≧70歳、および/または2つ以上のCVリスク因子(例えば、高血圧、喫煙、脂質異常症、>10年のT2DMの罹病期間から選択される)に基づくなどの、増大したかまたは高いCVイベントのリスクを有する、実施形態A1~A7のいずれか1つによる使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0106】
A9.糖尿病患者が、以下のA)、B)、C)およびD):
A)心筋梗塞、冠動脈疾患、経皮的冠動脈インターベンション、冠動脈バイパス術、虚血性または出血性脳卒中、うっ血性心不全、および末梢閉塞性動脈疾患から選択されるなどの、血管疾患の既往歴または現病、
B)(中等度に)障害された腎機能、(微量-または顕性)アルブミン尿、および網膜症から選択されるなどの、血管関連の糖尿病終末器官損傷、
C)高齢(例えば、≧70歳)、および
D)- 進行2型糖尿病(例えば、>10年の罹病期間)、
- 高血圧、
- 現在の毎日の喫煙、
- 脂質異常症、
から選択される、少なくとも2つの心血管リスク因子
の1つまたは複数を有する、実施形態A1~A8のいずれか1つによる使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0107】
A10.患者が、2型糖尿病および不十分な血糖コントロールを有する、すなわち、未治療であるか、あるいは、メトホルミンおよび/またはα-グルコシダーゼ阻害薬による単剤療法または2剤併用療法にも関わらず、またはメトホルミンまたはα-グルコシダーゼ阻害薬による単剤療法または2剤併用療法におけるスルホニル尿素/グリニドにも関わらず、2型糖尿病および不十分な血糖コントロールを有する、実施形態A1~A9のいずれか1つによる使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
A11.前記患者のリナグリプチンによる治療が、単剤療法または付加療法としてである、実施形態A1~A10のいずれか1つによる使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0108】
A12.治療が、リナグリプチンによる治療に先立ち、心血管リスクがある(例えば、CVリスク因子を有する)糖尿病患者を識別するステップ、特に心血管イベントの、増大したかまたは高いリスクがある糖尿病患者を識別するステップをさらに含む、実施形態A1~A11のいずれか1つによる使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0109】
A13.リスクが、先行CV疾患(例えば、心筋梗塞、冠動脈疾患、経皮的冠動脈インターベンション、冠動脈バイパス術、虚血性または出血性脳卒中、うっ血性心不全、末梢閉塞性動脈疾患から選択される)、糖尿病関連の血管終末器官損傷(例えば、障害された腎機能、(微量-または顕性)アルブミン尿、網膜症から選択される)、年齢≧70歳、および/または2つ以上のCVリスク因子(例えば、高血圧、喫煙、脂質異常症、>10年のT2DMの罹病期間から選択される)、例えば、実施形態A9に規定のものなど、に基づく、実施形態A12に従って使用するための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0110】
さらなる態様または実施形態:
B)リナグリプチン心血管(安全性)および腎微小血管アウトカム試験
この心血管および腎微小血管安全性/アウトカム試験は、HbA1c、CVリスク因子および腎疾患に関する地域標準を目標とする標準治療に加えたリナグリプチン5mg(3494人)またはプラセボ(3485人)で治療された、2型糖尿病を有し、確立された大血管/心血管または腎疾患歴によって証明された、増大したかまたは高いかまたはさらには非常に高いCVリスクを有する6979人の患者における無作為化試験であった。試験集団は、年齢≧75歳の患者1211人(17.4%)および腎障害のある患者4348人(62.3%)を含んだ。集団の約19%がeGFR≧45~<60mL/分/1.73m2を有し、集団の28%がeGFR≧30~<45mL/分/1.73m2を有し、且つ15%がeGFR<30mL/分/1.73m2を有した。ベースライン時の平均HbA1cは、8.0%であった。
試験は、心血管死または非致死性心筋梗塞(MI)または非致死性脳卒中(3P-MACE)の初回発生の複合である、主要心血管評価項目に関する非劣性を証明するようデザインされた。腎複合評価項目は、腎死または持続性の末期腎疾患またはeGFRの40%以上の持続的低下として定義された。
【0111】
中間値2.2年の追跡(治療期間の中央値1.9年)の後、リナグリプチンは、標準治療に加えた場合、主要有害心血管イベントまたは腎アウトカムイベントのリスクを増大しなかった(表9および
図2)。2型糖尿病の患者においてリナグリプチンなしの標準治療と比較して観察された追加の判定された評価項目である心不全による入院のリスクの増大はなかった(表10)。
【0112】
【0113】
アルブミン尿進行(微量アルブミン尿陰性から、微量-または顕性アルブミン尿への変化、または微量アルブミン尿から顕性アルブミン尿への変化)の解析において、リナグリプチン対プラセボに関して推定ハザード比は、0.86(95%CI;0.78,0.95)であった。微小血管評価項目は、腎死、持続性のESRD、eGFRの≧50%の持続的低下、アルブミン尿進行;糖尿病網膜症もしくは硝子体出血もしくは糖尿病関連の失明に対する網膜光凝固術または抗VEGF治療薬の硝子体内注射の使用の複合として定義された。複合微小血管評価項目の初回発生までの期間についての推定ハザード比は、リナグリプチン対プラセボに関して0.86(95%CI;0.78,0.95)であり、主としてアルブミン尿進行により駆動されていた。
【0114】
したがって:
B1.前記(特定の)実施形態(例えばA1~A13)のいずれか1つに従って糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療において使用するための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンであって、前記患者のリナグリプチンによる治療が、心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)および/または非致死性脳卒中を含むスリーポイント主要有害心血管イベント(3P-MACE)のリスクを、プラセボで治療された患者と比較して増大させない、リナグリプチン。
B2.リスクが以下のハザード比(HR):
を特徴とする、実施形態B1に従って使用するための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0115】
B3.前記実施形態のいずれか1つに従って、糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療において使用するための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンであって、前記患者のリナグリプチンによる治療が、プラセボで治療された患者と比較して、心不全による入院のリスクを増大させない、リナグリプチン。
B4.リスクがハザード比(HR)0.90(95%CI;0.74,1.08)を特徴とする、実施形態B3に従って使用するための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0116】
B5.前記(特定の)実施形態のいずれか1つに従って糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療において使用するための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンであって、前記患者のリナグリプチンによる治療が、主要な腎アウトカムイベントが、腎死、持続性の末期腎疾患(ESRD)および/または推定糸球体濾過率(eGFR)の40%以上の持続的低下を含む、主要な腎アウトカムイベントのリスクを、プラセボで治療された患者と比較して増大させない、リナグリプチン。
B6.リスクが以下のハザード比(HR):
を特徴とする、実施形態B5に従って使用するための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0117】
B7.前記(特定の)実施形態のいずれか1つに従って糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療において使用するための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンであって、前記患者のリナグリプチンによる治療が、アルブミン尿進行が、微量アルブミン尿陰性から、微量-または顕性アルブミン尿への変化、および/または微量アルブミン尿から顕性アルブミン尿への変化を含む、アルブミン尿進行のリスクを、プラセボで治療された患者と比較して、防止する、発生を遅らせる、または低減する、リナグリプチン。
【0118】
B8.前記(特定の)実施形態のいずれか1つに従って糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療において使用するための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンであって、前記患者のリナグリプチンによる治療が、微小血管腎および/または眼合併症が腎死、持続性のESRD、eGFRの≧50%の持続的低下、アルブミン尿進行、網膜光凝固術の使用、糖尿病網膜症、硝子体出血および/または糖尿病関連の失明に対する抗VEGF治療薬の硝子体内注射の使用を含む、微小血管腎および/または眼合併症のリスクを、プラセボで治療された患者と比較して、防止する、発生を遅らせる、または低減する、リナグリプチン。
【0119】
B9.リナグリプチンが、以下:
i)心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)および/または非致死性脳卒中を含むスリーポイント主要有害心血管イベント(3P-MACE)のリスクを増大させることがない治療、
ii)心不全による入院のリスクを増大させることがない治療、
iii)主要な腎アウトカムイベントが、腎死、持続性の末期腎疾患(ESRD)および/または推定糸球体濾過率(eGFR)の40%以上の持続的低下を含む、主要な腎アウトカムイベントのリスクを、増大させることがない治療、
iv)アルブミン尿進行が、微量アルブミン尿陰性から、微量-または顕性アルブミン尿への変化、および/または微量アルブミン尿から顕性アルブミン尿への変化を含む、アルブミン尿進行のリスクを防止する、発生を遅らせる、または低減する治療、および/または
v)微小血管腎および/または眼合併症が、腎死、持続性のESRD、eGFRの≧50%の持続的低下、アルブミン尿進行、網膜光凝固術の使用、糖尿病網膜症、硝子体出血および/または糖尿病関連の失明に対する抗VEGF治療薬の硝子体内注射の使用を含む、微小血管腎および/または眼合併症のリスクを防止する、発生を遅らせる、または低減する治療
をもたらす、実施形態B1~B8のいずれか1つに従って糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療において使用するための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
B10.患者が、少なくとも1.8年間または少なくとも1.9年間、治療に曝露され、且つ/または少なくとも2.2年間、追跡される、実施形態B1~B9のいずれか1つによる使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
B11.糖尿病患者が、高いかまたは(非常に)増大した血管リスクがある、例えば、心臓および腎臓疾患に関して高いかまたは非常に高い(血管)リスクがある、特に心血管および/または腎合併症またはイベントの高いかまたは非常に高い(血管)リスクがある、実施形態B1~B10のいずれか1つによる使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0120】
B12.患者が、確立された大血管疾患および/または腎疾患(例えば、アルブミン尿および/または障害された腎機能)に基づくなどの心血管および/または腎イベントの高リスクなどの、心臓および腎臓疾患に関して高いかまたは非常に高いリスクを有する;例えば、糖尿病患者が、大血管(心血管)疾患を伴うかまたは伴わずに、i)アルブミン尿および大血管疾患既往歴および/またはii)事前に規定した尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)である障害された腎機能により定義されるような、よく見られる腎疾患または腎機能障害のエビデンスを有するなどの、実施形態B1~B11のいずれか1つによる使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0121】
B13.糖尿病患者が以下:
(i)アルブミン尿(微量または顕性)(例えば、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)≧30mg/gクレアチニンまたは≧30mg/l(尿1リットル当たりミリグラムアルブミン)または≧30μg/分(1分当たりマイクログラムアルブミン)または≧30mg/24時間(24時間当たりミリグラムアルブミン))および
大血管疾患既往歴、例えば以下のa)からf)の1つまたは複数として定義されるものなど:
a)心筋梗塞既往歴、
b)進行冠動脈疾患、
c)高リスク1枝冠動脈疾患、
d)虚血性または出血性脳卒中既往歴、
e)頸動脈疾患の存在、
f)末梢動脈疾患の存在、
および/または
(ii)障害された腎機能(例えば、CV併存疾患を伴うかまたは伴わない)、例えば、以下により定義されるものなど:
- 障害された腎機能(例えば、MDRD式により定義される)で、推定糸球体濾過率(eGFR)15~45mL/分/1.73m2を伴い、任意の尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)を伴う、または
- 障害された腎機能(例えば、MDRD式により定義される)で、推定糸球体濾過率(eGFR)≧45~75mL/分/1.73m2を伴い、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)>200mg/gクレアチニンまたは>200mg/l(尿1リットル当たりミリグラムアルブミン)または>200μg/分(1分当たりマイクログラムアルブミン)または>200mg/24時間(24時間当たりミリグラムアルブミン)を伴う、
を有する、実施形態B1~B12のいずれか1つによる使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0122】
B14.患者が、2型糖尿病および不十分な血糖コントロールを有する、すなわち、未治療であるか、あるいは、何らかの抗糖尿病バックグラウンド療法(例えば、メトホルミン、スルホニル尿素、グリニド、インスリン、α-グルコシダーゼ阻害薬および/またはチアゾリジンジオンを含む)により前治療されている、実施形態B1~B13のいずれか1つによる使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
B15.前記患者のリナグリプチンによる治療が、単剤療法または付加療法としてである、実施形態B1~B14のいずれか1つによる使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0123】
B16.治療が、リナグリプチンによる治療に先立ち、血管リスクがある糖尿病患者を識別するステップ、特に心血管および/または腎イベントの高いリスクがある糖尿病患者を識別するステップをさらに含む、実施形態B1~B15のいずれか1つによる使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
B17.治療が、リナグリプチンによる治療に先立ち、心不全のリスクがある糖尿病患者を識別するステップをさらに含む、実施形態B1~B16のいずれか1つによる使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0124】
B18.リスクが、確立された大血管疾患および/または腎疾患(例えば、アルブミン尿および/または障害された腎機能)、例えば、i)アルブミン尿および大血管疾患既往歴および/またはii)事前に規定した尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)である障害された腎機能により定義されるような、例えば、実施形態B13において定義されるものなど、に基づく、実施形態B16またはB17に従って使用するための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0125】
B19.患者が、アルブミン尿、例えば、微量アルブミン尿(UACR30~300mg/g)または顕性アルブミン尿(UACR>300mg/g)、
および/または
障害された腎機能、例えば、軽度(eGFR≧60~<90mL/分/1.73m2)、中等度(eGFR≧45~<60mL/分/1.73m2)、中等度/重度(eGFR≧30~<45mL/分/1.73m2)または重度(eGFR<30mL/分/1.73m2)の腎障害を有する、実施形態B1~B18のいずれか1つによる使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチン。
【0126】
したがって、広範な2型糖尿病患者にわたるリナグリプチンの長期(心血管および腎)安全性プロファイルは、
A)例えば実施形態A1~A11のいずれか1つによるなどの、増大したCVリスクがある患者(初期2型糖尿病、≦5年の罹病期間、HbA1c:6.5~8%、上記の態様Aを参照)、および
B)例えば実施形態B1~B19のいずれか1つによるなどの、CVまたは心疾患および/または慢性腎疾患(CKD)の高リスクがある患者(確立されたCVおよび/または腎疾患、HbA1c:6.5~10%、上記の態様Bを参照)、
を含む、2本の独自の心血管アウトカム試験A(心血管(安全性)および腎微小血管アウトカム試験)およびB(心血管安全性試験)において確立されている。
【0127】
本発明は、例えば、アテローム動脈硬化性CV疾患、心不全および/または慢性腎疾患などのリスクを有するかまたはリスクに置かれているなどの、リスクがある患者(例えば本明細書に記載の、特に上記の態様Aおよび/またはBによる)におけるものを含む、2型糖尿病の治療(特に心血管および腎安全性を特徴とし、特に長期治療期間にわたる)に使用するための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンをさらに提供する。
【0128】
本発明は、例えば、アテローム動脈硬化性CV疾患、心不全および/または慢性腎疾患などのリスクを有するかまたはリスクに置かれているなどの、リスクがある患者(例えば本明細書に記載の、特に上記の態様Aおよび/またはBによる)におけるものを含む、2型糖尿病患者におけるアルブミン尿の治療(特に心血管および腎安全性を特徴とし、特に長期治療期間にわたる)に使用するための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンをさらに提供する。
糖尿病(好ましくは2型糖尿病)患者の治療における使用のための1つまたは複数の他の活性薬剤との併用が可能なリナグリプチンであって、前記患者のリナグリプチンによる治療が、心血管死、非致死性心筋梗塞(MI)および/または非致死性脳卒中を含むスリーポイント主要有害心血管イベント(3P-MACE)のリスクを、グリメピリドで治療された患者と比較して増大させない、リナグリプチン。