(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012442
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】相乗的がん治療
(51)【国際特許分類】
A61K 47/60 20170101AFI20240123BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20240123BHJP
A61K 31/5025 20060101ALI20240123BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240123BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
A61K47/60
A61K31/4745
A61K31/5025
A61P35/00
A61P43/00 121
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023186470
(22)【出願日】2023-10-31
(62)【分割の表示】P 2020538844の分割
【原出願日】2019-01-11
(31)【優先権主張番号】62/617,095
(32)【優先日】2018-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/674,483
(32)【優先日】2018-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/700,147
(32)【優先日】2018-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/711,421
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/711,423
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/716,788
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/716,796
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】510340997
【氏名又は名称】プロリンクス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】サンティ ダニエル ヴィー.
(72)【発明者】
【氏名】フォンテーヌ ショーン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】腫瘍対象者におけるトポイソメラーゼI阻害剤による改善された治療方法を提供する。
【解決手段】β脱離をin situで受ける結合を介して高分子に連結されたトポイソメラーゼI阻害剤のコンジュゲートは、がん担持対象者において評価された1つまたは複数のDNA損傷応答(DDR)の欠陥、細胞周期チェックポイント阻害剤、および/またはDDR阻害剤との組み合わせで、がん担持対象者のアウトカムを改善する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんの治療が必要な対象者におけるがんの治療方法であって、該対象者は、DNA損傷応
答(DDR)に1つまたは複数の欠陥があると診断されており、該対象者に、有効量の、β脱離機構による切断を受け得るリンカーを介して高分子に結合されたトポイソメラーゼI阻
害剤のコンジュゲートを投与することを含む方法。
【請求項2】
前記対象者に、前記コンジュゲートと組み合わせて、有効量のDDRの阻害剤を投与する
ことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象者に、前記コンジュゲートと組み合わせて、有効量の細胞周期チェックポイント阻害剤を投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記欠陥があるかないかについて前記対象者を診断することをさらに含む、請求項1に
記載の方法。
【請求項5】
前記トポイソメラーゼI阻害剤がSN-38である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記高分子がポリエチレングリコール(PEG)である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記コンジュゲートがPLX038である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記対象者におけるDDRの欠陥が相同的組換え修復(HRR)の欠陥または一本鎖切断修復の欠陥であるか、該欠陥が腫瘍抑制遺伝子にある、請求項1~7のいずれか1つに記載の方
法。
【請求項9】
前記DDRの阻害剤が、HRR修復の阻害剤または一本鎖切断修復の阻害剤である、請求項2
に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞周期チェックポイント阻害剤が、CHK1、CHK2またはWee1キナーゼの阻害剤である、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
がんの治療が必要な対象者におけるがんの治療方法であって、該対象者に、有効量の、β脱離機構による切断を受け得るリンカーを介して高分子に結合されたトポイソメラーゼI阻害剤のコンジュゲートを、有効量のDDRの阻害剤と組み合わせて投与することを含む方法。
【請求項12】
前記阻害剤がHRR修復または一本鎖切断修復の阻害剤である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
がんの治療が必要な対象者におけるがんの治療方法であって、該対象者に、有効量の、β脱離機構による切断を受け得るリンカーを介して高分子に結合されたトポイソメラーゼI阻害剤のコンジュゲートを、有効量の細胞周期チェックポイント阻害剤と組み合わせて
投与することを含む方法。
【請求項14】
前記細胞周期チェックポイント阻害剤が、CHK1、CHK2またはWee1キナーゼの阻害剤である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記トポイソメラーゼI阻害剤がSN-38である、請求項11~14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
前記高分子がポリエチレングリコール(PEG)である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記コンジュゲートがPLX038である、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2018年1月12日出願の米国仮出願第62/617,095号、2018年5月21日出願の米国仮出願第62/674,483号、2018年7月27日出願の米国仮出願62/711,421号、2018年8月9日出願の米国仮出願第62/716,788号、2018年8月9日出願の米国仮出願第62/716,796号、2018年7月18日出願の米国仮出願第62/700,147号、および2018年7月27日出願の米国仮出願第62/711,423号からの優先権を主張するものであり、これらの開示内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、がんを治療するための、β脱離(beta elimination)を受ける結合(linkage)を介して高分子に連結されたトポイソメラーゼI阻害剤の使用に関する。より具体的には、本発明は、薬物動態が適切に制御される場合のトポイソメラーゼI阻害剤によるがん
担持対象者の治療に関し、該対象者にはDNA損傷応答(DNA damage response:DDR)の遺
伝的欠陥があり、かつ/または前記治療は、トポイソメラーゼI阻害剤を、DDRの阻害剤と
組み合わせて、または細胞周期チェックポイント阻害剤と組み合わせて、投与することを含む。ある実施形態では、本発明は、DDRに必要な遺伝子の欠陥により、別の遺伝子が細
胞生存に不可欠となる場合の、がん細胞における合成致死的相互作用(synthetic lethal
interactions)の利用を必然的に伴う。
【背景技術】
【0003】
トポイソメラーゼI阻害剤は、様々ながんの治療でよく知られており、トポイソメラー
ゼIにより触媒される必須のライゲーションステップの阻害剤である。トポイソメラーゼIはDNA複製の際のスーパーコイル形成によって生じる張力の緩和が原因で起こる一本鎖DNA損傷を修復する。(DNA複製にはトポイソメラーゼIが必要である。)トポイソメラーゼI阻害剤には、カンプトテシンとその類似体が含まれる。これらの化合物の多くは承認されており、多種多様のがんの治療で化学療法として使用されている。
【0004】
特定の遺伝的欠陥があるがん細胞では、そのような欠陥のないがん細胞と比較して、トポイソメラーゼI阻害剤の投与は増強された効果を示すことが観察されている。例えば、
トポイソメラーゼ阻害剤であるSN-38は、ポリエチレングリコールとのコンジュゲートと
して、乳腺腫瘍があるBRCA1欠損マウスに投与されており、BRCA1欠損症とトポイソメラーゼのSN-38による阻害との組み合わせが効果的であるだけでなく、ABCG2により媒介される化学療法抵抗性をも克服する。例えば、Zander, S.A.L. et al., PLOS One (2012) 7:e45248を参照されたい。さらに、様々なトポイソメラーゼ阻害剤は、DDR阻害剤および/または細胞周期チェックポイント阻害剤である追加の抗がん剤との組み合わせで併用投与されてきた。例えば、Abal, M. et al., Oncol. Gene (2004) 23:1737-1744;Wainberg, Z.A.et al., Targ Oncol. (2017) 12:775-785;Verschraegen, C.F. et al., Cancer (2013)
5:418-429;およびGray, J. et al., Cancer Biol. and Ther. (2012) 13:614-622;Josse, R e.al, Cancer Res (2014) 74:6968-6978;Ma, C.X., et al, Breast Cancer Res Treat (2013) 137:483-492を参照されたい。また、in vitroの研究では、DNAの複製と修復に重要なタンパク質であるウェルナー症候群ヘリカーゼ(Werner Syndrome helicase:WRN)の発現を阻害することが、がん細胞に対するイリノテカンの効果を高めることも示さ
れている。Futami, K., et al., Biol Pharm Bull (2007) 30:1958-1961を参照されたい
。細胞チェックポイント阻害剤と様々なDNA損傷薬との組み合わせも臨床試験でテストさ
れている。(Visconti, R. et al., J. Exp. Clin. Cancer Res. (2016) 35:153を参照されたい。)
【0005】
さらに、様々な遺伝子およびゲノム位置にわたるDNA損傷応答の欠損症を取り巻く広範
な知識が存在している(Knijnenburg, T.A. et al., Cell Reports (2018) 23:239-254を参照されたい)。
【0006】
SN-38などの、トポイソメラーゼI阻害剤の高分子への結合は、Zhao, H. et al., Bioconjugate Chem. (2008) 19:849-859およびKoizumi, F. et al., Cancer Res. (2006) 66:10048-10056に報告されている。本発明において有用なコンジュゲートの特定のセットは、Santi, D.V. et al., J. Med. Chem. (2014) 57:2303-2314に開示されている。NKTR-102という通称の、PEG化イリノテカンである追加のコンジュゲートも知られている。
【0007】
本発明は、腫瘍対象者におけるトポイソメラーゼI阻害剤による改善された治療方法を
提供する。この方法は、対象者のがん細胞の生殖細胞変異もしくは他の機能障害に関連する対象者の固有のDDR欠陥を利用するか、または合成致死性をもたらす追加の薬剤との併
用治療を利用するか、のいずれかである。
【発明の概要】
【0008】
発明の開示
先に引用した文献から明らかなように、トポイソメラーゼIは、DNA複製に不可欠であって、細胞増殖および複製にとって必須であることが知られている。トポイソメラーゼIの阻害剤、例えば、イリノテカンおよびその活性代謝産物であるSN-38は、良好なDNA複製を阻害することによってがんを治療するために使用されてきた。
【0009】
トポイソメラーゼI阻害剤を、細胞周期チェックポイント阻害剤(複製が良好に達成さ
れているかどうかを細胞が判定するメカニズムを無効にする)または追加のDNA損傷応答
(DDR)の阻害剤のいずれかと組み合わせる試みの報告も存在する。また、トポイソメラ
ーゼI阻害剤を、DDRに欠陥があるとすでに特徴付けられたがんに、投与することも知られている。
【0010】
いくつかのそのような試みには、ポリエチレングリコール(PEG)などの可溶化剤に結
合されたトポイソメラーゼI阻害剤が関係している。しかしながら、これまでに提供され
たそのような阻害剤の薬物動態は、好結果を得るには適切でなかった;また、これらの阻害剤の毒性も問題であった。
【0011】
本発明のプロトコルは、最も重要なことにはヒト対象者において実施されるが、本発明は、疾患治療を試験するための実験室モデルを含めて、他の哺乳動物対象にも適用可能である。これらのプロトコルは、家畜およびペットにも有用である。
【0012】
今回、β脱離によって切断される、高分子への結合を有するトポイソメラーゼI阻害剤
を提供することによって、その薬物動態を調整して、DDRに欠陥のある対象者に、あるい
は細胞周期チェックポイント経路の阻害剤および/またはDDRの阻害剤と組み合わせて、より効果的で許容できる治療を提供できることが見出された。本発明のコンジュゲートはまた、トポイソメラーゼI阻害剤とそのような追加の薬剤との相乗的毒性を軽減する用量で
投与することができる。
【0013】
したがって、第1の態様では、本発明は、がんの治療が必要な対象者におけるがんの治
療方法に関し、ここで、該対象者は、DNA損傷応答(DDR)に1つまたは複数の欠陥がある
と確認された者である。この方法は、有効量の、β脱離機構による切断(decoupling)を受け得るリンカーを介して高分子に結合されたトポイソメラーゼI阻害剤を、対象者に投
与することを含んでなる。
【0014】
第2の態様では、本発明は、β脱離機構による切断を受け得るリンカーを介して高分子
に結合された有効量のトポイソメラーゼI阻害剤を、有効量の追加のDDR阻害剤と組み合わせて、対象者に投与することを含んでなる、対象者におけるがんの治療方法に関する。
【0015】
第3の態様では、本発明は、β脱離機構による切断を受け得るリンカーを介して高分子
に結合された有効量のトポイソメラーゼI阻害剤を、有効量の細胞周期チェックポイント
経路の阻害剤と組み合わせて、対象者に投与することを含んでなる、対象者におけるがんの治療方法に関する。
【0016】
本発明の第1の態様において、前記方法はまた、該欠陥の存在について対象者を診断す
る手順を含むことができる;2種以上の薬剤(本発明のコンジュゲートを含む)が投与さ
れる実施形態では、2種以上の薬剤の共投与は、同時であってもよいし、該薬剤のいずれ
かの順序で連続的であってもよい。共投与される薬剤の投与時間の差は、数日にも及ぶことがある。2種以上の薬剤はまた、同じ組成物で投与されてもよい。
【0017】
前述のアプローチの組み合わせも本発明に含まれる;したがって、もともとDDRに欠陥
がある対象者に、β脱離機構による切断を受け得るリンカーを介して高分子に結合されたトポイソメラーゼI阻害剤のコンジュゲートを、追加のDDR阻害剤またはチェックポイント経路阻害剤のいずれか一方または両方と組み合わせて、供給することができる。独立して、対象者がDDRに固有の欠陥を示すかどうかに関係なく、本発明のトポイソメラーゼI阻害剤コンジュゲートと、追加のDDR阻害剤および細胞周期チェックポイント阻害剤のいずれか一方または両方との組み合わせは、本発明の範囲内に含まれる。さらに、トポイソメラーゼI阻害剤コンジュゲートと組み合わせた、2種以上のDDR阻害剤および/または2種以上の細胞周期チェックポイント阻害剤の使用も、本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明のアプローチの概略図を示し、トポイソメラーゼI阻害剤による単一治療は、パネルAのように、様々な修復または細胞周期チェックポイントにより相殺される可能性がある。対象者に固有のDDR欠陥がある場合、例えばパネルBのようにBRCA遺伝子に変異がある場合、トポイソメラーゼI阻害の効果は強化され、これはさらに、パネルCのように、PARP阻害剤などのDNA損傷修復の阻害剤によってさらに強化される(PARPはポリADPリボースポリメラーゼである)。
【
図2】
図2は、様々な遺伝子に関連する生殖細胞系列と非生殖細胞系列の両方のDDRに関して、様々なDDR欠陥のトポイソメラーゼI阻害剤に対する感受性についての最新情報を示す。
【
図3】
図3A~3Cは、腫瘍成長およびイベントフリー生存率(event free survival)に対する、本発明のSN-38コンジュゲートとPARP阻害剤との相乗効果を示す。
【
図4】
図4A~4Cは、マウスの腫瘍を治療する際のSN-38コンジュゲートの有効性に対するBRCA 1またはBRCA 2欠損症の影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、良好な複製に影響を及ぼすためにがん細胞に備わっている可能性があるDNA
損傷応答に対する相乗的攻撃を利用する。DNA損傷を引き起こすトポイソメラーゼI阻害剤コンジュゲートは、DDRの阻害剤またはDNA損傷の修復もしくは複製を妨げる他の阻害剤と組み合わせることができる。DDRは、DNAを元の状態に戻す多様なメカニズムが関与する非常に複雑なプロセスであり、突然変異によってまたは複製プロセス自体のエラーによって発生するエラーを修正する。この応答の一部は細胞周期チェックポイントを含む制御メカニズムでもあり、この制御メカニズムは、細胞分裂の前にDNAが適切に修復または複製されることを確実にするか、あるいはエラーを起こしたDNAが娘細胞に伝達されないようにアポトーシスを引き起こす。本発明は、特定のDDR阻害剤-トポイソメラーゼI阻害剤と、他のDDRの阻害剤および細胞周期チェックポイント経路の阻害剤などの、良好な複製に対する他の妨害物(がん細胞自体がDNA損傷に応答する能力に欠けている場合を含む)との組み合わせを採用する。
【0020】
本発明は、β脱離機構による切断を受け得るリンカーを介して高分子に結合されたトポイソメラーゼI阻害剤のコンジュゲートを利用する。適切なトポイソメラーゼI阻害剤は、一般的に、カンプトテシンおよび類似体、例えば、イリノテカン(CPT-11の別名でも知られる)およびその活性代謝産物であるSN-38、ならびにトポテカン、9-アミノ-カンプトテシン、および水溶性類似体、例えばGI 147211、GI 149893などである。
【0021】
ある実施形態では、前記高分子は、直鎖状または分枝鎖状またはマルチアーム状(multi-armed)のポリエチレングリコールである。
【0022】
式(I)のコンジュゲートが特に好ましい:
【化1】
式中、
PEGは、直鎖状または分枝鎖状、qが2~8である場合はマルチアーム状の、ポリエチレングリコールである;
Xは、(CH
2)
mであり、ここでm=1~6;
Lは、(CH
2CH
2O)
p(CH
2)
rであり、ここでr=1~10およびp=0~10;
R
1は、CNまたはSO
2NR
2
2であり、ここで各R
2は、独立して、アルキル、アリール、ヘテ
ロアリール、アルキルアルケニル、アルキルアリール、またはアルキルヘテロアリールであるか、2個のR
2は一緒になって環を形成できる;
Yは、COR
3またはSO
2R
3であり、ここでR
3=OH、アルコキシ、またはNR
4
2、ここで各R
4は、独立して、アルキル、置換アルキルであるか、2個のR
4は一緒になって環を形成できる;および
qは、1~8である。
【0023】
特に、このコンジュゲートは、平均分子量が30,000~50,000DaのPEGを有し、かつ/またはq=4であり、かつ/またはR1=CNまたはSO2NR2
2(ここで各R2はアルキル)である。
【0024】
前記コンジュゲートは、次式のものであり得る:
【化2】
式中、m=1~6およびn=200~250である。
【0025】
特に、前記コンジュゲートはPLX038であり得、これは、mが1で、nが約225である上記の式のものである。
【0026】
本発明において有用なコンジュゲートは、一般に、1種以上の薬学的に許容される賦形
剤と組み合わせた標準的な医薬製剤として提供され、場合によっては、そのpHは4.0~6.0である。標準的な製剤は、例えば、Remington Pharmaceutical Sciences(最新版, Mack Publishing Company, Easton, ペンシルベニア州)に見い出すことができる。
【0027】
本発明は、内因性のDDR欠陥との組み合わせ、または細胞周期チェックポイント阻害剤
もしくはDDR阻害剤である共投与される化合物との組み合わせ、のいずれかに適した薬物
動態を有するコンジュゲートの有利な特性に基づいている。
【0028】
ある実施形態では、前記コンジュゲートは、対象者に投与したとき、トポイソメラーゼI阻害剤への持続的な低用量曝露をもたらし、この場合、遊離の阻害剤の濃度は、週に1回もしくは2回の投与の間、または例えば2週間ごとに1回の投与のプロトコルで、15~5nMを維持することができる。いずれの場合でも、該コンジュゲートは活性薬物への一貫した低用量曝露をもたらす。
【0029】
共投与されるDDR阻害剤および/または細胞周期チェックポイント阻害剤の正体(identity)に関しては、例えば、上記の背景技術の説明において記載したように、多くが当技術分野で知られている。
【0030】
細胞周期チェックポイントには、G1-S、S、およびG2/Mが含まれる。これらはいずれも
、トポイソメラーゼI阻害剤コンジュゲートとの組み合わせで、および/または良好なチェックポイント移行に必要とされる成分を標的化する追加の薬剤との組み合わせで、標的化され得る。これは、細胞周期チェックポイントの制御における内因性の欠陥を背景にすることもできる。
【0031】
適切な細胞周期チェックポイント標的には、チェックポイントキナーゼ1または2(CHK1またはCHK2)、毛細血管拡張性運動失調症変異(ataxia telangiectasia mutated:ATM)キナーゼ、毛細血管拡張性運動失調症・Rad3関連(ATR)キナーゼ、Wee1キナーゼ、およびp53が含まれる。これらの標的の阻害剤の広範なリストは、WO2012/074754に見い出せる。
【0032】
適切なDDR阻害剤には、相同的組換え(HR)を標的とするもの、例えば、ポリ(ADP-リ
ボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害剤、および/またはHEJ、HR、alt-NHEJ/MMEJ、SSA、ICL、SSB、BER、TLS、NER、MMRを含めて、他のDDR経路を標的とするものが含まれる。これ
らの標的に対処するために多数の薬剤が開発中であり、そうすることが知られている数種の薬剤が臨床現場で現在使用されている。
【0033】
引用された全ての文書は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
以下の実施例は、本発明を説明することを意図しており、本発明を限定するものではない。
【実施例0035】
実施例1
PLX038AとPARP阻害剤タラゾパリブ(Talazoparib;別名BMN673またはTLZ)の相乗効果
マウスMX-1異種移植片の準備:
MX-1細胞株をCharles River Labs(Frederick, メリーランド州)から入手した1。細胞をRPMI-1640、10%FBS、および1%2mM L-グルタミン中37℃で95%空気/5%CO2の雰囲気にて培養した。
1 Ovejera AA et al. Chemotherapy of human tumor xenografts in genetically athymic mice. Ann Clin Lab Sci 8: 50-6, 1978.
【0036】
Taconic Bioscience社(Cambridge City, インディアナ州)からの雌NCrヌードマウス
(N CrTac:NCr-Foxn1nu;約6~7週齢)をUCSF Preclinical Therapeutics Coreビバリウム(San Francisco, カリフォルニア州)で飼育した。全ての動物実験は、UCSF動物実験
委員会(UCSF Institutional Animal Care and Use Committee)に従って実施された。腫瘍異種移植片は、MX-1腫瘍細胞(マトリゲル(Matrigel)と1:1で混合した無血清培地100μl中の2×106個の細胞)を雌NCrヌードマウスの右脇腹に皮下注入することによって確立した。腫瘍異種移植片がドナーマウスで1000~1500mm3に達したとき、それらを切除し、等サイズの断片(約2.5×2.5×2.5mmサイズ)に切断し、マトリゲルに埋め込み、レシーバーマウスに皮下トロカール(trocar)移植により再移植した2。
2 Morton CL, Houghton PJ. Establishment of human tumor xenografts in immunodeficient mice. Nat Protoc. 2007;2(2):247-50.
【0037】
投与および腫瘍体積の測定:
PLX038A(1.02mM SN38;0.26mM PLX038Aコンジュゲート)の溶液をpH5の等張酢酸中に
調製し、使用前に滅菌ろ過(0.2μm)した。BMN673(52μM)の溶液を10%ジメチルアセ
トアミド/5%Solutol HS15/85%1X PBS中に調製し、使用前に滅菌ろ過(0.2μm)した。
【0038】
グループ(N=4~5/グループ)の平均腫瘍サイズが100~200mm
3に達したとき、グルー
プに投薬した。マウスには、ビヒクル、1回量のPLX038A(14.7mL/kg腹腔内、15μmol/kg
)、1日量のBMN673(7.72mL/kg経口、0.4μmol/kg)、または同じ用量のPLX038AとBMN673の組み合わせを投与した。該組み合わせを受け取ったグループでは、毎日のBMN673の投与をPLX038Aの投与と同日に(
図3A)、またはPLX038Aを投与してから4日遅れて(
図3B)開始した。腫瘍体積(キャリパー測定:0.5×(長さ×幅
2))および体重を週2回測定した。ビヒクル対照腫瘍のサイズが約3000mm
3に達したとき、1回量のPLX038A(15μmol/kg)と毎日のBMN673(0.4μmol/kg)の組み合わせで、投与間の遅れなしに(
図3A)、マウスを治療した。
【0039】
図3Aおよび3Bに示すように、MX-1腫瘍を担持するマウスに15μmol/kgのPLX038Aを0.4μmol/kgのタラゾパリブの1日の用量と組み合わせて投与すると、これらの薬剤のいずれか単独と比較して相乗効果が得られる。このことは、TLZによる毎日の投与をPLX038Aと同時に開始した場合でも、4日遅れて開始した場合でも同じであった。単一の組み合わせを対照に投与すると、腫瘍体積が即座に減少した(
図3A)。
【0040】
図3Cに示すように、イベントフリー生存率は、PLX038AおよびTLZの個別投与に対して前記組み合わせで相乗的に向上した。
【0041】
実施例2
PLX038Aと腫瘍細胞欠陥の相乗作用
MX-1細胞はBRCA 1欠損であり、CAPAN-1細胞はBRCA 2欠損(-/-)または欠損なし(+/+)として供給される。これらの細胞株の腫瘍を担持するマウスを用いて、実施例1の一般
的なプロトコルを行った。MX-1腫瘍があるマウスの場合、投与量は、137μg/kgのイリノ
テカンまたは4、40もしくは120μg/kgのPLX038Aの単回の腹腔内注入であった。CAPAN-1異種移植片を持つマウスの場合、投与量は、137μg/kgのイリノテカンまたは15、40もしくは120μg/kgのPLX038Aの単回の腹腔内注入であった。
図4A~4Cは、週2回測定された腫瘍体積に対するこれらの投与量の結果を示す。
【0042】
図4Aに示すように、PLX038Aの全ての投与量において、腫瘍体積を減少させる上でイリ
ノテカンよりも効果があり、投与量が40または120μg/kgの場合には腫瘍の成長が本質的
に止まった。また、対照腫瘍が2000mm
3に達したときに120μg/kgのPLX038Aを1回投与した場合の劇的な結果も示される。
【0043】
図4Bと4Cの比較は、イリノテカンまたはPLX038Aによる治療の有効性に対するBRCA 2欠損症の影響を示す-PLX038Aの最高用量のみが、BRCA 2欠損細胞と非欠損細胞の両方に同等に効果的であった。他の全ての投与量レベルの有効性は、BRCA 2欠損細胞において増強された。